2009年度全カリ現代社会と法


講義ノート37頁(word/zip)

 配布資料は、「学生がノートを書く負担を減らして、話を聞くことに集中できるようにしているが、レジュメを見ただけでは理解しにくく、講義を耳で聞いて理解が深まる」というレベルを目指して作成しています。私自身の学生時代の経験から、耳で講義を聞いていた方が懸命に教科書を読んだだけというよりも理解が深まっている、と感じています。
 黄色のマーカー部分は訂正箇所です。
 青色マーカー部分は講義でとばした箇所であり、期末試験の対象外となります。
 シラバス


試験について 最終授業日に筆記試験70分を実施予定。
すべて持込可(講義ノートを貰い損ねている人は上からダウンロードし、あとは友達に見せてもらってください。友達作りは自己責任でお願いします。友達には「情けは人のためならず」の精神で見せてあげるようにしてほしいと思います)。
電卓持込可(計算機能付き腕時計やインターネット機能の付いていない携帯電話で計算機能付きのもの等も可)。


2009年度前期 全カリ 現代社会と法 FB161 担当:浅妻章如 2009年7月14日一限70分間 解説
解答の順序は任意だが、問題番号を分かりやすく明示せよ。法学の答案なので結論だけでなく理由も含めて論述すべし。

第一問 学生Aが「ドラゴン食え」というゲームソフト(店頭販売価格8000円)に興味を持っているのを知った同級生BがAに「中古品でよければ少し時間かかるけど君に5000円で売ってあげよう」ともちかけたところ、Aは承諾した。ところが、Aは同級生Cから「ゲーマーの間で『ドラゴン食えはつまらない』という評判が定着しているから、ネット・オークションでの相場は2500円位なのに、5000円で買うのは勿体ない。それにB自身はドラゴン食えを持っていないよ。Bはネット・オークションで中古品を買って、それをAに売るつもりだろう。だから『少し時間かかる』なんだ」と聞かされた。Aは怒りを覚えた。
 ところで、Aは学業優秀であり、Aのノートは分かりやすくて試験勉強に役立つ、ということが同級生の間で知られていた。Aはノートを快く同級生に見せてあげるのが常であったが、今後の試験に向けてBにはノートを見せてあげずBを仲間外れにしようとAは決心した。以下の問いに答えなさい。なお、著作権は講義で扱っていないので本問では無視してよい。
(1) Bが自分では所有していない物品の取引をAに申し込み、ゲームの評判に言及せずネット・オークションの相場の倍の値段で売りつけようとすることについて、刑事・民事の観点からどのような問題があるか、論じなさい。
(2) Cは義憤を感じ、「Aが自分で中古品を買うよう私がAにアドバイスするから、BがAに5000円で売りつける契約は破棄されるべきだ」と裁判所に提訴した。裁判所はどう応答するか、論じなさい。
(3) Aは「ノートの内容をBに見せてはいけない」という条件でノートを同級生Dに貸した。Dは条件をつけずそのノートの内容を同級生Eに写させてあげた。Eは、AがBを仲間外れにしようとしているということを知らず、Dから写させてもらった内容をBに見せてしまった。元のノートの所有権を持つAは、B・D・Eに対して法的にどのような権利を有するか、論じなさい。
(4) 税抜価格8000円のゲームソフトについて、個別消費税として50%のゲーム税が課され、更に10%の付加価値税が課されている。税込価格は幾らか。また、付加価値税率が20%に上げられるとして、ソフトの税込価格が付加価値税率10%の時と同じになるようにするためにはゲーム税を何%にすべきか。なお、租税負担は全て消費者に転嫁されると仮定する。

【解説】
(1) 講義ノート2.5.例2参照。刑事上の問題としては、ゲームソフトをAに引き渡すつもりがないのにBが契約を結んで代金だけもらってしまおうと思っていたならば【詐欺】罪の問題となりうるが、本問ではBはゲームソフトを第三者から入手するつもりであろうから、詐欺罪とはならないであろう。
 民事上、Bが自分では所有していない物品の取引をすることは問題がなく、BとAとの間で契約は有効に成立する。ネット・オークションの相場の倍の値段で売ることについても、5000円で買うということにAが一旦は合意したのであるから、民事上、Aはその契約に拘束される。
(2) 講義ノート2.3.参照。Cは契約当事者ではないので【訴えの利益】がないとして【原告適格】が認められず、裁判所は訴えを【却下】するであろう。(棄却ではなく却下であるということがポイント。)
(3) 講義ノート2.7.2.参照。Aはノートを条件付で見せてあげるという契約をDとしただけであり、この契約の【債権的効力】はDにしか及ばない。従って、契約当事者でないB及びEについて、Aは債権的権利を何ら有してない。また、ノートそのものについての所有権という【物権的効力】はノート自体についてしか及ばず、ノートの内容を写すということについてノートの所有権の効力は及ばないので、やはりB及びEは物権的効力とも無関係である。Dは契約当事者であるからAは債権的権利を持つと考えられるが、Dが条件をつけずにEにノートの内容を見せてあげてしまったことについて、Dが「Bには見せるなよ」と条件をつけることを怠った責任を負うと考えるか、或いは、AがDに見せる際に「DがBに見せてはいけないだけでなく、第三者経由でもBに見せることが内容に気をつけろ」という条件をつけるのを怠った責任を負うと考えるか、がポイントとなる。
(4) 講義ノート7.3.4.参照。(8000×1.5)×1.1=13200より、税込価格は13200円。付加価値税率が20%に上げられても税込価格13200円で据え置くには、{8000×(1+t)}×1.2=13200(但しtはゲーム税の税率)の式から、t=37.5%となる。(補足:8000×1.375=11000そして11000×1.2=13200)

【講評】
(1)「刑事・民事の観点から」という問題文の指示を無視する答案が複数ありました。オークション相場の倍の値段で売りつけることが詐欺にあたるとする答案が複数ありましたが、その程度のことで詐欺罪としてしまうのは危険でしょう。
(2)提訴しているのはCであるのに、Cに何ら言及しない答案が複数ありました。
(3)ノートの所有権に言及したことはひっかけですが、物権と契約に基づく債権との区別はまだまだ難しいようです。
(4)第二問と同じような計算問題ですが、概ねできていました。


第二問 サラリーマンMは沢山稼いでいるので、所得税についてはいつも最高の税率(40%)が適用されている。Mの老親Nは所得が少ないので、いつも低い税率(10%)が適用されている。Mは、Nの税率を利用することを企て、第0年度末に税引後の100万円をNに贈与した(相続・受贈に所得税は課せられないし、1年間の受贈が110万円以内ならば贈与税も課せられない)。NがNの名義でその100万円を税引前利子率年8%で運用する。Nが死んだらNの唯一の相続人であるMがNの資産を相続するが、Nには他に財産がなく、相続財産が6000万円以下ならば相続税は課されないため、NからMへの相続に対し相続税は課せられない見込みである。以下の問いに答え、計算過程も分かるように記しなさい。なお、所得分類・地方税は講義で扱っていないので本問では無視する。
(1) 第1年度末に税引後の資金をNの名義で税引前利子率年8%で運用する。第2年度末の税引後の資金は幾らか。
(2) 同じことを10年間続ける。第10年度末にNが課税され、その直後Nは死亡し、Mが相続した。相続額は幾らか。
(3) MがNを利用せず第0年度末に税引後の100万円を用意してM自身の名義で税引前利子率年8%で上と同様に運用していった場合、第10年度末の税引後の額は幾らか。 
(4) (1)(2)の計画を知った政府は、第9年度に所得税法を改正し、相続財産のうち相続税が課されない部分について所得税を課すとする新法を第10年度から施行した。第0年度末からMが計画していた租税回避を潰すために法改正し、第10年度末以降のMの相続に対して新法を適用することについて、憲法上の問題があるか、論じなさい。

【解説】
(1) 講義ノート6.2.参照。1000000×{1+0.08×(1−0.1)}2=1000000×1.0722=1149184より114万9184円。
(2) 1000000×1.07210=2004231より200万4231円。(補足:相続に所得税は課せられないし、相続税も課せられないという想定が設問中にある)
(3) 1000000×{1+0.08×(1−0.4)}10=1000000×1.04810=1598133より159万8133円。
(4) 講義ノート4.2.5.参照。第9年度に法改正、第10年度から施行されている法律を、第10年度末以降の相続に適用することについて、そもそも【遡及適用】ではないため違憲とならないであろう。

【講評】
(2)で2004231円と答えられているのに、(1)で1072000円と答えてしまった人は、問題文を落ち着いて読みましょう。
第二問は出来不出来の差が大きく、簡単に満点を取る答案がある一方で、はなから解答を諦めている答案も幾つかありました。計算が苦手ということかもしれませんが、租税法が専門である私にとっては残念です。


第三問 以下の小問のうち2つを選んで答えなさい。
(1) 教授Pの講義のシラバスには「講義の録音禁止」と記載されている。教授Pは、受講生に興味を持ってもらうため「ここだけの話」として政府関係者等から得た情報を話すことがあり、記録に残るようであると講義中に面白い話をすることができなくなってしまうため、講義の録音を禁じている。学生Qは、受講中に眠ってしまう悪癖があり、このままでは講義を理解できずに試験に臨むことになってしまうと焦り、こっそりPの講義を録音し、録音したものを自宅で聞いて復習していた。その頃、Pの失脚を企む政府関係者Rが、Pの講義を録音していた者がいるらしいという噂を聞き、Qに接触しようとしている。Qは刑事上どのような責任を負うか、論じなさい。(参照:刑法235条「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」)
(2) 政治家Xが、「ニートだのネトゲ廃人だの、近頃の若者のたるみっぷりは嘆かわしい。日本国憲法が人権ばっかり規定して国民の義務については少ししか書かずバランスが取れていないから、国民がつけあがってしまったためだ。憲法にバランスよく国民の義務について規定し、日本の歴史・伝統を若者に叩き込んで、日本人としての誇りを取り戻すべきだ」と演説している。法学的観点から、実質的意味の憲法の意義にも触れつつ、Xの主張について論評しなさい。
(3) 東京都千代田区の特定地区内では条例(安全で快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例)により路上禁煙とされており、違反者は2万円以下の過料に処せられる(条例第24条)。千代田区で路上喫煙をしていたYは「煙草は国の法律で合法であり、私はその条例を見たことがなく、路上禁煙であると知らなかった。条例違反の行為をしたのは条例を知らないという過失に基づくものであり、その条例には過失犯を処罰する規定がないから、過失犯である私は過料に処せられない。」と主張した。法学的観点から、故意犯・過失犯の意味にも触れつつ、Yの主張について論評しなさい。

【解説】
(1) 講義ノート2.1.参照。情報は刑法235条の「財物」に当たらないため、Qは刑事上【窃盗】罪の責任を負わない。Qは、Pとの講義聴講契約における「講義の録音禁止」という債務に違反しているだけであり、契約違反が何かの刑事上の責任に直結するわけではない。(補足:本問で著作権の問題に言及する必要はないが、仮に著作権侵害という刑事上の責任を問おうとしても、Qは私的利用にとどまっているので著作権侵害の責任を負わない。)
(2) 講義ノート2.1.参照。実質的意味の憲法は、主権者の政府に対する命令であって、政府ができることを縛ることに憲法の意義がある。国民の義務を重視する政治家Xは憲法の意義を理解していないと評することができる。
(3) 講義ノート2.6.2.参照。故意犯とは、構成要件該当行為をする認識があってその行為をする人のことであり、過失犯とは、構成要件該当行為をする認識がなかったがうっかりその行為をしてしまった人のことである。条例の規定を知らなくても、路上で喫煙するという構成要件該当行為をすることについての認識がYになかったとは考えられず、過失犯であるとはいえない。また、刑法38条3項により、法律を知らなかったということで故意が阻却されることはない(いわゆる【法の不知は恕せず】)。(補足:刑法38条3項を指摘しただけだと、問題文の「故意犯・過失犯の意味にも触れつつ」に応答したことにはならず、不充分。)


【講評】
(1)「財物」性に言及する答案が思ったよりも少なかったです。
(2)概ねよく書けていました。思想の自由に反する、というユニークな答案がありましたが、憲法の規定が憲法に違反するということは絶対とまでは言いませんがあまり考えられませんから(例えば仮に憲法に徴兵に関する規定が置かれても憲法違反ということにはならないでしょうから)、ちょっと無理筋でしょう。
(3)構成要件該当行為というキーワードに言及した答案が少しあったのでほっとしています。

【全体の講評】
 沢山書けば10点という配点を超えるボーナス点を考えるとは言いましたが、第三問について小問3つ全てを解答してよいという趣旨ではありませんので、第三問については前から2つだけ採点しています。その他にも、問題文の指示(「刑事・民事の観点から〜論じなさい」とか「B・D・Eに対して法的にどのような権利を有するか、論じなさい」とか)に従わない答案が多かったことを残念に思います。
 講義では租税法部分とそれ以外とで半々ずつの時間を使ったので試験でも半々ずつの配点にしましたが、租税法部分(第一問(4)〜第二問(4))の合計が17.2点、それ以外が30.9点でした。租税負担軽減をどう企むかの初歩を問題文中で理解してもらいたかったのですが、そうした租税回避の醍醐味を理解するのはなかなか難しいようです。

平均点48.1点 最低点10点 最高点95点
S 10%
A 21%
B 28%
C 31%
D 10%

第一問(1) 6.38
第一問(2) 4.48
第一問(3) 7.24
第一問(4) 6.45
第二問(1) 3.38
第二問(2) 2.34
第二問(3) 2.28
第二問(4) 2.76
第三問(1) 5.63
第三問(2) 7.94
第三問(3) 6.59


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