2009年度国際租税法 於上智大学


講義ノート52頁(word/zipで圧縮)

 配布資料は、「学生がノートを書く負担を減らして、話を聞くことに集中できるようにしているが、レジュメを見ただけでは理解しにくく、講義を耳で聞いて理解が深まる」というレベルを目指して作成しています。私自身の学生時代の経験から、耳で講義を聞いていた方が懸命に教科書を読んだだけというよりも理解が深まっている、と感じています。
 黄色のマーカー部分は訂正箇所です。
 青色マーカー部分は講義でとばした箇所であり、期末試験の対象外となります。
 シラバス


試験について…講義配布資料(講義ノート含む)及び自筆のノート持ち込み可の予定。講義を休んでしまった等で資料がない人は友達にコピーさせてもらってください。「友達がいない」と言われてもそれは教員の責任ではありません。

解答の順序は任意だが、解答に際して問題番号を分かりやすく示しなさい。時間60分

第一問 日本の消費税法9条によると、年間売上高千万円以下の小規模事業者は「消費税を納める義務を免除」される。しかし小規模事業者でも課税事業者になることを選択する場合がある。消費税の税率を5%とし(本問では地方税を無視する)、仕入額、売上額の数値を自分で設定した上で、非課税事業者よりも課税事業者を選択した方が有利になる場面を説明せよ。(20点)
【解説】
講義ノート2.4.3.及び11.1.参照。仕入額が525万円、売上額が800万円であるとする。非課税事業者の場合、仕入税額控除を利用できないので、儲けは275万円である。しかし課税事業者を選択し売上が全て輸出免税の対象になるとすると、仕入税額控除を利用して25万円の還付を受けることができるので、儲けは300万円となり、非課税事業者でいる場合よりも25万円有利となる。
【講評】
何通かはできていました。

第二問 P国居住の投資家がP国内に投資した場合の税引前収益率をpとし、Q国に投資した場合の税引前収益率をqとする。Q国の税率はt(0<t<0.5)であり、P国の税率はQ国の税率の2倍であり、P国は外国税額所得控除(外国税額損金算入)方式を採用している。この投資家がP国よりQ国に投資した方が税引後利益が高くなる場合のpとqとの関係を、p、q及びtを使った式で示せ。(10点)
【解説】
講義ノート9.1.参照。q(1−t)(1−2t)>p(1−2t) より q(1−t)>p
【講評】
理解している答案が一通だけありましたが、「p、q及びtを使った式」という指示を無視して、勝手に数値を代入するのはやめましょう。

第三問 外国子会社配当益金不算入制度(法人税法23条の2)は、ロック・イン効果対策の一種であると言われることもある。
(1) 外国子会社配当益金不算入制度導入前において、外国子会社から日本親会社への配当支払についてロック・イン効果が働くと、納税者の行動にどのような歪みが生じてしまうのか、説明せよ。(10点)
(2) (1)で説明したロック・イン効果を除去する方法として、外国子会社配当益金不算入の他に、どのような税制が考えられるか、説明せよ。(10点)
【解説】
(1) 講義ノート2.2.7.及び9.5.参照。ロック・イン効果が働くと一般に所得を実現しないようにする歪みが生ずる。ここでは、外国子会社からの配当をしないで外国子会社に利益を留保し続ける方が有利であるという歪みが生ずる。
(2) ロック・イン効果対策としては、所得が実現しても認識しないという方法の他に、毎年時価主義で課税するという方法がある。 外国子会社の留保利益についても、配当するか否かにかかわらず毎年日本親会社の所得に算入して課税すれば、ロック・イン効果を除去することができる。
【講評】
(1)について、幾つかの答案はできていました。外国子会社への出資に係る受け取り配当が国内子会社へのそれより不利に扱われるので外国子会社への出資を控える、という答案が複数ありました。これはロック・イン効果の問題ではないので、中間点のみとしました。

第四問 日本とA国はOECDモデル租税条約と同じ内容の租税条約を締結しており、日本とB国との間に租税条約はない。日本法人C社は、A国法人D社若しくはD社の関連企業から、出資を受け若しくは金銭を借り入れている。D社は日本に支店(E支店)と子会社(F社)を有し、B国に子会社(G社)を有している。またG社は日本に支店(H支店)と子会社(I社)を有している。E支店・H支店はともに日本で恒久的施設に該当すると認定されている。
(1) 日本・A国間の租税条約が改定され、OECDモデル租税条約10条1項に相当する条文が削除されたとする(これは(1)についてだけの想定であり、(2)以下では削除されていないものとする)。D社本店がC社から受けていた配当についてA国の課税権にいかなる影響があるか、条約と国内法との関係にも触れつつ、説明しなさい。(10点)
(2) D社本店がC社の株式の51%を保有している場合と、F社がC社の株式の51%を保有している場合とで、C社からの配当支払に関する関係国の課税がどう変わってくるか、配布資料(講義ノート及びOECDモデル租税条約)の範囲でどの条文が適用されるかを摘示しながら、説明しなさい。(10点)
(3) D社本店・G社本店がそれぞれ別個にC社に対して金銭貸付をしているとする。C社からの利子支払に関して、日本国内の恒久的施設の課税所得がどう変わるか、説明しなさい。(10点)
(4) I社は日本国内で問屋(といや)営業をしているほか、D社が日本国内の顧客に売る商品を保管している。日本国内の顧客はI社に「○○の商品を買いたい」という契約の申し込みをしたつもりでいるが、F社は問屋としてD社のために「物品ノ販売又ハ買入ヲ為ス」(商法551条)だけである。I社はD社のためだけでなく他企業のための問屋営業もしているが、他企業のための問屋営業とは異なる特別な便宜をD社のための問屋営業に関してだけ提供している。しかしD社はI社に対しそうした特別な便宜に対する充分な対価を支払ってはいないようである。こうした状況下で、日本の課税当局が日本の税収を増やそうと考える場合、誰に対しどのような法律構成で課税処分を試みるべきであろうか、また、納税者側としてはどのような反論が可能であろうか、説明しなさい。攻撃防御方法が複数ありうるので、多数の論点を適切に論じれば配点以上のボーナス点を考える。(20点)
【解説】
(1) 講義ノート7.1.2.及び8.9.2.参照。OECDモデル租税条約10条1項はA国の課税権を許容しているが、国内法による課税は条約によって制限される場合に制限されるというだけであり、この条文がなかったとしたら条約によるA国の課税権への制約がないということであるから、A国の課税権に影響はない。
(2) 講義ノート7.1.2.及び2.3.4.参照。D社本店がC社の株式の51%を保有している場合、保有割合が25%以上なので、C社からD社本店に対して支払われる配当について租税条約10条2項(a)により日本の税率は5%以下に制限される。D社本店が受け取る配当所得についてA国も課税することができる。F社がC社の株式の51%を保有している場合、F社は日本法人であるから租税条約は関係なく法人税法23条が適用され、受け取り配当は全額F社の益金に算入されない。F社が配当を受け取っただけの段階では原則としてA国の課税はない。(A国がF社の利益を親会社たるD社の課税所得に算入しても構わないが、日本所在の子会社についてタックスヘイヴン対策税制を適用しようとする国は通常なかろう)
(3) 講義ノート6.7.参照。D社本店がC社に金銭貸付をしている場合、租税条約7条が帰属所得主義を採っているので、C社からD社本店に対して支払われる利子は恒久的施設たるE支店の所得に含められない。G社本店がC社に金銭貸付けをしている場合、日本の国内法が全所得主義を採っているので、C社からG社本店に対して支払われる利子は恒久的施設たるH支店の所得に含められる。
(4) 講義ノート10.1.及び6.3.及び6.4.参照。
 日本の課税当局が先ず考えるのは移転価格税制であり、D社のI社に対する対価支払がI社のしている事業内容に照らして不充分である場合、D社からI社に対して独立企業間価格での対価支払があったものと税務上見なして、I社の課税所得を増やそうとする。納税者側の反論としては、I社がD社のためにしている「特別な便宜」が大したものではないなどと主張して、D社からI社への対価支払は独立当事者間原則に則っている、などと主張するであろう。
 次に、I社がD社の商品を保管していることをもって、D社の恒久的施設がある、と日本課税当局は考えるであろう。納税者側の反論としては、租税条約5条4項にいう準備的・補助的な活動に当たるので、恒久的施設に当たらない、と主張するであろう。
 他に、I社が問屋であるとはいっても「他企業のための問屋営業とは異なる特別な便宜をD社のための問屋営業に関してだけ提供している」という部分を以って租税条約5条6項にいう「事業の通常の方法」の要件を満たさず、I社がD社の代理人PEに当たる、と日本課税当局は考えるであろう。納税者側の反論としては、仮にI社が租税条約5条6項の「事業の通常の方法」の要件を満たさないとしても、そもそもI社は問屋であって契約締結権限を持たないから租税条約5条5項の要件を満たさず、代理人PEに該当しえない、と主張するであろう。
【講評】
(1) 条約に規定がなければ国内法が適用されるだけ、ということはくどく説明したつもりでしたが、あまりできていませんでした。
(2) 日本から見てD社が外国法人、F社が内国法人、という違いがわからないようです。C社がD社の外国関係会社である、という筋の答案が幾つかありましたが、よほどのことがない限り日本の会社がタックスヘイヴン対策税制の対象となることはないでしょう。
(3) 帰属所得主義・全所得主義の理解は難しいようです。
(4) 幾つかの答案が移転価格の問題に言及してくれました。アマゾンの問題(2009年7月5日朝日新聞等における報道)についてPEの要件がどう絡むかの説明をした答案はありませんでした。

【全体の講評】
試験時間60分は短いですが、それにしても多くの答案について字数が少なすぎると感じます。
持込可にしても点数は上がらないということが分かりました。来年以降の作問の参考にします。
成績は相対評価ですので、問題が難しいことによる学生の不利益はないはずです。

平均点17.73点 最高点40点


表紙へ