2009年度租税法(EX410)


講義ノート終わりまで(word/zip)

 配布資料は、「学生がノートを書く負担を減らして、話を聞くことに集中できるようにしているが、レジュメを見ただけでは理解しにくく、講義を耳で聞いて理解が深まる」というレベルを目指して作成しています。私自身の学生時代の経験から、耳で講義を聞いていた方が懸命に教科書を読んだだけというよりも理解が深まっている、と感じています。
 黄色のマーカー部分は訂正箇所です。
 青色マーカー部分は講義でとばした箇所であり、期末試験の対象外となります。

2009年度 立教大学法学部 後期末・学年末試験問題
科目名:EX410 租税法 担当者:浅妻章如
試験実施日:2010年01月25日(月) 1時限
試験時間:80分 備考:持込不可
______学科__年__組 学生番号______氏名__________
解答の順序は問わないが、解答に際してはどの問いについてのものであるか明示せよ。

第一問(25点) A国ではこれまで付加価値税がなかったが、このたび10%の付加価値税が導入されることになった。課税がなかった時にA国においてBという商品が1個300円の価格で1年あたり100億個販売されていたので、A国の財務大臣・C氏はB商品販売に関連して一年あたり300円×10%×100億個=3000億円の付加価値税収が得られると見込んでいる。財務官僚・D氏は、C氏の見込みは楽観的すぎると考えた。需要曲線と供給曲線を含む図を描きつつ、D氏の考えを説明せよ。また、説明にあたり死荷重を図示せよ。

【解説】 講義ノート5.3.のグラフで、付加価値税導入後のBの税込価格は330円までは上がらず300〜330円の間であろうこと、販売数量も100億個よりは若干減るであろうこと、死荷重が発生することを説明する。
【採点基準】 供給曲線・需要曲線のグラフが描けている10点 価格が330円まで上がらない(グラフでもOK)(300円330円両方の場合の経済的負担者を検討でもOK。片方だけなら不充分)5点 販売数量が100億個より減る(グラフでもOK)5点 死荷重を図示できている5点

第二問(10点) E氏は減価償却資産である甲及び乙を第0年度末にそれぞれ7000で購入した。減価償却の方法は10年間にわたる1年毎の定額法とし、10年後に無価値になるものとする。購入直後、追加的に甲乙それぞれ3000ずつの関連出費が生じたが、甲については当該関連出費3000が第0年度の費用として認められなかった一方で、乙については当該関連出費3000が第0年度の費用として認められた。第2年度の減価償却直後にEは甲をFに7500で売却した。第3年度の減価償却直後にEは乙をGに5500で売却した。甲乙それぞれについて幾らの譲渡損益がEに生じるか。なお、譲渡所得の特別控除は無視する。

【解説】 講義ノート2.4.14.及び2.6.7.を参照。甲についての関連出費3000の即時費用化が認められていないので資産に計上され、甲の第0年度末の取得費10000として減価償却計算をすることになる。1回の減価償却費は1000であり、2回目の減価償却を済ませた直後は甲の取得費は8000になっており、実際には7500で売られたので500の譲渡損が生じる。乙については関連出費3000の即時費用化が認められているので、乙の第0年度末の取得費7000のままで減価償却計算をすることになる。1回の減価償却費は700であり、3回目の減価償却を済ませた後の乙の取得費は4900になっており、実際には5500で売られたので600の譲渡益が生じる。
【採点基準】 甲500譲渡損5点 乙600譲渡益5点 500/600の譲渡損益−2点 答えはあっているが計算過程がおかしい−2点

第三問(15点) 日米租税条約10条1項及び2項を下に抜粋している。仮に1項に相当する条項が日米租税条約になかったとしたら、日本法人H社から、H社の親会社であってアメリカ法人たるI社及びH社株式(議決権あり)の15%を所有する個人であってアメリカ居住者たるJ氏に支払われる配当について、日本及びアメリカはどこまで課税することが条約の下で可能であるか、説明せよ。
[抜粋] 1 一方の締約国の居住者である法人が他方の締約国の居住者に支払う配当に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。
2 1の配当に対しては、これを支払う法人が居住者とされる締約国においても、当該締約国の法令に従って租税を課することができる。その租税の額は、当該配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合には、4及び5に定める場合を除くほか、次の額を超えないものとする。
(a) 当該配当の受益者が、当該配当の支払を受ける者が特定される日に、当該配当を支払う法人の議決権のある株式の十パーセント以上を直接又は間接に所有する法人である場合には、当該配当の額の五パーセント
(b) その他のすべての場合には、当該配当の額の十パーセント
この2の規定は、当該配当を支払う法人のその配当に充てられる利得に対する課税に影響を及ぼすものではない。 [3項以下は元々ないものとする]

【解説】 講義ノート6.3.2.及び6.5.1.及び6.6.9.参照。10条1項に相当する条項がない場合、アメリカの課税権について条約で規定されていないということであるので、(10条1項がある場合と同様に)アメリカはアメリカの国内法に従ってアメリカ法人・アメリカ居住者の得た所得に対して課税することが認められる。アメリカ法人I社が受け取る配当に関し、日本の課税権は10条2項(a)により源泉徴収税率が5%まで抑えられる(追記:現実の日米租税条約では10条3項により親会社の得る配当に対して源泉地国たる日本の課税権が否定されているが、本問では便宜的に3項以下はないものとしている。但し問題文が稚拙であったことは否めないので、仮に10条3項を元にしていると見られる答案があれば配慮する…そういう答案はやはりなかったが)。アメリカ居住者J氏が受け取る配当に関し、10条2項(a)の要件を満たさない(J氏は法人ではない)ので、同項(b)により日本の源泉徴収税率が10%まで抑えられる。
【採点基準】 アメリカ課税できる5点 日米ともに課税できる−2点 日本I社5%5点 日本J氏10%5点

第四問(50点) 本問では所得分類毎の特別控除、及び所得税法86条の基礎控除を無視する。
 音楽家P氏は1曲作曲する毎に100万円の収入を得ていた。曲がヒットしてもしなくてもPの受け取る額は1曲100万円で固定されていた。Pは私用パソコンを使って作曲していたので、第0年度までは作曲に関し必要経費を計上していなかった。しかしP氏は第1年度初から作曲に行き詰まり、丙という違法薬物(1グラム10万円で取引されている)によって日常の憂さを忘れて、何とか作曲をすることができる、という状況になった。
 第1年度において、Pの薬物依存は軽度であったので、Pは丙1グラムがあれば1曲作曲することができた。しかし薬物依存が進行し、第2年度以降においてはPは1曲作曲するのに丙2グラムを必要とするようになっていた。Pは第1年度に10曲作曲し、第2年度に8曲作曲した。Pは第1年度に丙を20グラム購入し、第2年度中頃に丙を50グラム購入した。第2年度末に、Pはうっかり丙30グラムを落としてしまった。
 第3年度初、Q氏とR氏が一緒に歩いている際に丙30グラムが落ちているのを発見した。善良でない両氏は警察に届け出ず、Q氏が丙10グラムを、R氏が丙20グラムを持ち帰った。Q氏は第3年度内に丙10グラムを全て使った。Q氏は第3年度内に丙に手をつけず、第4年度に丙20グラムを売却した。
(1) 第1年度及び第2年度について、Pに最も有利になるような論理構成をしつつ、Pの課税所得を計算せよ。
(2) 第1年度及び第2年度について、Pに最も不利になるような論理構成をしつつ、Pの課税所得を計算せよ。
(3) 第3年度のQの所得分類と所得金額がどうなるか、論理構成を説明しつつ示せ。
(4) 第3年度及び第4年度のRの所得分類と所得金額がどうなるか、論理構成を説明しつつ示せ。

【解説】 (1)(2) 講義ノート2.3.11.及び2.4.8.参照。違法薬物を買うことは違法支出の一つといえるが、これが必要経費に算入されるか、そもそも薬物(違法であれ合法であれ)購入費について事業遂行に必要な経費といえるのかが問われる。(1)では是、(2)では非と論ずることになる。ケースブック§231.03 高松市塩田宅地分譲事件、§323.03 株式会社エス・ヴイ・シー事件参照。更に、仮に必要経費性が認められるとして、費用収益対応の原則の結果として各年度の収入に対応する費用はどこまで認められるか、が問われる。第1年度の丙に関する支出は10万円×20グラム=200万円であるが、第1年度の収入に関連する部分は100万円までであろう。第2年度も、160万円までしか費用といえないであろう。
(3) 講義ノート2.3.11.及び2.6.9.参照。違法薬物を所持していることも違法であるし、薬物が合法であるか違法であるかに関わらず遺失物横領であるのでQが適法に所有権を得たとは言えず、違法な所得の一つといえるが、これも所得課税の対象となろう。ケースブック§211.02 利息制限法違反利息事件参照。所得分類は一時所得であろう。当然ながら消費してしまったことは所得減算項目とならない。難しいのは、Q氏とR氏が一緒に丙を発見したのに、Qが持ち帰ったのが15グラムでなく10グラムだけであるという点である。QからRへの5グラムの贈与があったのではないか、そうであるとすると、Qの一時所得は100万円でなく150万円であって、Rに贈与した50万円相当の丙についてQの所得減算項目とならない、という説明になるのではないか、という点である。無論、一旦贈与の可能性を疑った上で、贈与に当たらないという論理構成も考えられる。多分あまり論じられないと思うが、論じられていたらボーナス加点をしたい(やはりこの点を論ずる答案はなかったが)。
(4) 講義ノート2.3.11.及び2.6.3.参照。第3年度に関してはQと同様R氏についても一時所得があるとされよう。難しいのは第4年度の所得計算である。資産を売って所得を得たのであるから譲渡所得を得たことになりそうであるが、譲渡収入金額が200万円であるのに対して取得費がいくらになるか。第一説:既に第3年度に課税されたのであるから取得費も200万円であるというならば、結局第4年度の所得は0円ということになる。第二説:取得費は取得に要した費用のことであって第3年度に課税されたことを以って取得費がその時の時価に上がるという根拠はないから、取得費は0円であるというならば、結局第4年度の所得も200万円ということになる。第一説だと、第3年度に一時所得という形で半分しか課税されていないのに、取得費を200万円まで上げてしまってよいのか?という疑問が生ずる。第二説だと、第3年度に課税したのに第4年度にも課税するという二重課税が生ずる。第一説・第二説どちらにも難点があるが、難点を指摘しつつどちらかの筋できちんと論じてくれればよい。
【採点基準】 (1)(2) ○違法支出でも必要経費に算入できるかの是非 △事業との関連性の有無 □費用収益対応の原則に関する認定の違い 一要素10点 二要素16点 三要素20点 一要素(1)だけ5点
第2年度の丙紛失の雑損失0点 ☆有害的余事記載−5点 第2年度必要経費80万円−2点 ☆☆(1)の方が所得が大きい場合0点
(3)所得種類 対価性がないから一時所得5点 単に一時所得3点 一時所得か○○所得2点 
所得実現 違法所得であっても所得実現5点 包括的所得概念の筋3点 100万円だけなら加点なし
(4)第3年度5点 第3年度違法収益指摘のみ3点 第3年度200万円だけで所得分類なしor所得分類間違い2点 300万円−1点
第4年度は譲渡所得5点 + 取得費5点 + 第一説・第二説の難点の認識5点| 譲渡所得200万円なら取得費も考慮済みとして10点 第4年度は二重課税となるから課税しない10点

【講評】
第一問 価格を横軸、量を縦軸にするグラフの描き方が流行っているのでしょうか? それだけでは間違いではありませんので加点した答案もありますが。やはり授業中にグラフを自分の手で描かせるべきでした。
 量が100億個から減ることの指摘は多かったのですが、価格が330円まで上がらない(1個あたりの税収が30円に届かない)ということの指摘は少なかったです。
 付加価値税10%がかかると310円になるという答案も目立ったのですが、そういう人は税率5%の日本で税込315円の商品について税抜価格は幾らだと思っているのでしょう?

第二問 大変難しかったようで、平均点はとても低いです(下記)。しかし満点も一人だけいます。おめでとうございます。
 甲1900の譲渡益、乙1500の譲渡損、という反対の計算が目立ちます。

第三問 問題文が読みにくかったようです。J氏の受取配当だけ論ずる答案が散見されました(確かにJ氏だけと読めなくもないですが)。
 10条1項の「当該他方の締約国」が日本(源泉地国)なのかアメリカ(居住地国)なのか、講義で強調したつもりだったのですが、まだ混乱している答案が多かったのが残念です。
 日本がJ氏に10%だけの課税をする(法人ではないから)というところは比較的理解されていました。

第四問 (1)(2) 課税所得計算が多い方が有利だと思っている人は根本的に取り違えています。
 Pは個人なので公正妥当な会計処理の基準を持ち出すのは厳しいです。
 Pは危険を負担していないから(有利な構成を考えるならば)給与所得だ、という答案がありました。面白い視点ですが、本問では所得分類ごとの控除を無視するとしてますので、給与所得と認定しても給与所得控除が無視されますから、給与所得という認定は有利でもなんでもないですね。
(3) 一時所得または雑所得、という答案は減点しました。
 私は以前ホームランボールを拾ったらどういう課税を受けるかという論文を書いたことがありますが、それと少し変えて本問では遺失物横領罪も絡めました(ホームランボールを拾うことは多分合法でしょう)。横領を指摘する答案が幾つかあって、嬉しいです。
(4) 第3年度一時所得200万、第4年度譲渡所得200万だと二重課税が生ずる(から第4年度の所得は0)とする答案があって、嬉しいです。また、取得費0円という筋の答案もあって、嬉しいです。どちらの筋を実務が採用するかは謎です。素直に所得税法を解釈適用すると第一説で第4年度の譲渡所得は200万円でしょうが、もしかしたら日本の裁判所は温情を見せて第二説を採ってくれるかもしれません(裁判所は時々納税者に温情的な結論を出してくれることがあります)。

全体平均30.6点 最高61点 最低0点
第一問 9.44点/25点 得点率37.76%
第二問 0.78点/10点 得点率7.8%
第三問 2.26点/15点 得点率15.07%
第四問 18.05点/50点 得点率36.1%

S2 A6 B6 C8 D5
3年生法学科の成績がよく(平均38.5点)、その他(3年生政治国際ビジネスと4年生)が悪かったという印象です。


シラバスより転載
EX410 租税法 通年 4単位
■授業の目標
租税法の仕組みの概要を知る。特に,所得の操作ということについて,イメージできるようになる。法律と政策論との関わりを理解する。

■授業の内容
租税法を勉強する意義は,大きく言ってふたつあります。実学の側面と公平の側面です。第一に,民法・商法等で幾つかの法形式を教わったことと思いますが,その法形式の選択次第では税負担が重くなったり軽くなったりすることがあります。納税者の立場からは,どのようにすれば余計な税負担を負わないようにすることができるかを,課税する方の立場からは納税者が租税を免れようとする時に何を考えているのかを,学ぶ必要があります。この実学の側面は,主に解釈・運用の場面に関わります。
第二に,税負担の配分は,どのようにするのが公平に適うかという哲学的な問いをも,租税法は含んでいます。何が公平かについて生の価値判断を述べることは法律家のよくするところではありませんが,公平について議論する際の考慮事項は,今後皆さんが主権者として政策決定に関わる際に知っておくべき事柄です。公平の側面は,主に立法論・政策論に関わります。

■授業計画
 教科書には所得税・法人税・相続税しかありませんが,その他に消費税も取り上げます。地方税・個別消費税・流通税・関税等については,時間に余裕があれば言及します(が余裕のある時はあまりありません)。また,国際租税法についても若干扱います。教科書に指定したものは,必ずしも教科書として書かれた物ではありませんので,必要に応じて講義ノートを配布して補います(教科書にない消費税・国際租税法については講義ノートが中心となります)。昨年の講義ノートはhttp://www.rikkyo.ne.jp/~asatsuma/08sozeihou.html
http://www.rikkyo.ne.jp/web/asatsuma/08sozeihou.htmlからダウンロードできます。  法人税の回数が少なく見えますが,所得計算に関わる部分は所得税の中であわせて論じますので,その分所得税が多く,法人税が少なく見えるだけです。  概ね,以下のスケジュールを予定しています。 1.租税法序論(3回)
2.所得税(12回)
3.法人税(4回)
4.相続税・贈与税(2回)
5.消費税(3回)
6.国際租税法(時間ある限り)

■成績評価方法・基準
筆記試験。

■テキスト
金子宏他『ケースブック租税法第2版』(弘文堂)。他,講義ノートを配付。

■参考文献
金子宏『租税法』(弘文堂),岡村忠生他『ベーシック税法』(有斐閣アルマ)

■その他(HP等)
民法の法人論及び会社法を受講済み,もしくは並行して受講していることが望ましいです。


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