2010年度全カリ現代社会と法


講義ノート44頁・完(word/zip)

 配布資料は、「学生がノートを書く負担を減らして、話を聞くことに集中できるようにしているが、レジュメを見ただけでは理解しにくく、講義を耳で聞いて理解が深まる」というレベルを目指して作成しています。私自身の学生時代の経験から、耳で講義を聞いていた方が懸命に教科書を読んだだけというよりも理解が深まっている、と感じています。
 黄色のマーカー部分は訂正箇所です。
 青色マーカー部分は講義でとばした箇所であり、期末試験の対象外となります。


定期試験 2010年7月27日(火)1限実施
解答の順序は任意だが、解答に際し問題番号を分かりやすく示せ。法学の答案なので結論だけでなく理由も含めて論述せよ。計算問題については、計算結果が間違っていても計算過程が正しい場合に部分点をつける可能性がある。

第一問(10点) 美男美女は人生で色々得しているから生まれつき美形の男女には通常の所得課税に追加して毎年10万円の税額の「美形税」を課す、という法案が審議されている。医師は稼ぎが多いから医師には通常の所得課税に追加して毎年10万円の税額の「医師税」を課す、という法案と比べつつ、美形税の長所と短所を論じなさい。

【解説】 講義ノート4.3.4参照。医師税と比べ美形税は人々の行動を歪めないという長所があるが、医師であるか否かの確認と比べ、美形であるか否かの確認が難しいという短所もある。

第二問(25点) 所得税法28条3項は次のように規定している。
「前項に規定する給与所得控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
一  前項に規定する収入金額が百八十万円以下である場合 当該収入金額の百分の四十に相当する金額(当該金額が六十五万円に満たない場合には、六十五万円)
二  前項に規定する収入金額が百八十万円を超え三百六十万円以下である場合 七十二万円と当該収入金額から百八十万円を控除した金額の百分の三十に相当する金額との合計額
三  前項に規定する収入金額が三百六十万円を超え六百六十万円以下である場合 百二十六万円と当該収入金額から三百六十万円を控除した金額の百分の二十に相当する金額との合計額
四  前項に規定する収入金額が六百六十万円を超え千万円以下である場合 百八十六万円と当該収入金額から六百六十万円を控除した金額の百分の十に相当する金額との合計額
五  前項に規定する収入金額が千万円を超える場合 二百二十万円と当該収入金額から千万円を控除した金額の百分の五に相当する金額との合計額」
(1) サラリーマンAは800万円の給与収入を得た。Aの給与所得は幾らか。
(2) 利子率年10%(割引率も同じとする)、所得税率一律20%(給与所得控除以外の所得控除はないとする)の世界において、Aの給与収入800万円が発生した時期が2010年度か2011年度かで税務署と争いになった。Aに他に所得や損失はないものとして、Aにとってどちらの年度の給与収入とされることが有利か、そして幾ら有利か。
(3) 自営業者Bが、給与所得と事業所得との扱いが違いすぎていて不公平であり、違憲であるとして、裁判を起こした。Bはどのような不公平があると不満を抱いていると推測されるか、説明せよ。また、裁判所はどのように応答すると予想されるか、説明せよ。

【解説】 
(1)講義ノート5.3.6参照。四号により、186+(800−660)×0.1=200(万円)が給与所得控除。従って給与所得は600万円。
(2)講義ノート5.2.3参照。2010年度に600万円の所得ありとして課税されると税負担は120万円。この負担の2011年度換算の価値は120×1.1=132(万円)。従ってAにとっては2011年度の給与収入とされることが有利であり、2011年度換算で12万円(2010年度換算で10.9万円)有利である。
(3)講義ノート4.1の大嶋訴訟参照。Bは給与所得控除が実際の必要経費より多めなので給与収入を得る者が事業所得を得る者よりも不当に税負担が低くなるという不公平があると不満を抱いていると推測される。裁判所は、租税法における扱いの違いについては、著しく不合理であることが明らかでない限り違憲としないという判例に照らし、本件でも違憲に当たらないとしてBの請求を棄却(却下ではない)すると予想される。

第三問(15点)
(1) 或る国の付加価値全てに一律20%の所得税を課して財源とすることと、一律○○%の消費税(付加価値税)を課して財源とすることは、計算上等しい。「○○%」とは何%か。
(2) 日本の中小企業の多くは赤字であるため法人税を負担していないが、赤字企業でも「売上−仕入」がマイナスでない限り消費税(付加価値税)の増税は中小企業に重い負担となってしまい、倒産を増やしかねない、という議論がある。消費税(付加価値税)は企業の負担とならないという議論と企業の負担となるという議論を説明せよ。

【解説】 
(1)講義ノート7.1参照。25%。(20÷100=25÷125)
(2)講義ノート7.1及び7.2参照。消費税の負担は消費者に転嫁されることが制度上予定されているので、消費税は企業の負担とならないという議論が考えられる。しかし、経済的には、供給曲線の傾きが極端に緩やか(供給の価格弾力性が極端に高い)でない限り、消費税分の何割かを値下げするなどの形で実質的に消費税も企業の負担となっていると考えられる。

第四問(50点) Cは力士Eのファンであり、Dは力士Fのファンである。「次の▽▽場所におけるEとFの対戦で、Eが勝ったらDはCに一万円を支払わなければならない。Fが勝ったらCはDにFのサイン入り色紙を引渡さなければならない。負傷等による不戦勝の時も同じとする。」という賭博契約をCとDとの間で締結した。ところが、▽▽場所前にEが卓球賭博をしていたことが明るみになり、Eは▽▽場所を欠場することとなった。結局Fは▽▽場所においてE以外の15人の力士と対戦した。
 本問(1)に関し、CとDは賭博を禁じていない国(民法は日本民法と同じであるとする)に住む国民であって当該国の法律が適用されると仮定する。本問(2)〜(5)に関し、日本法が適用されると仮定する。
(1) DはCに色紙の引渡しを請求しており、CはDに引渡す理由はないとして拒んでいる。法律論としてCとDのどちらが説得的か、賭博契約中のどの文言が鍵になるかに触れつつ、論じなさい。
(2) Dが色紙の引渡しを求めて提訴した場合、裁判所はどのように応答すると予想されるか、説明せよ。また、Fは自分がEより優れた力士であると自負しているため、CからDへの色紙の引渡しを求めて提訴したという場合、裁判所はどのように応答すると予想されるか、説明せよ。
(3) CとDは賭博罪(刑法185条「賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。」)で起訴された。CとDは次のような主張をした。「一万円程度の賭け事を犯罪として咎め立てすることはおかしい、と我々は確信している。刑法には『疑わしきは被告人の利益に』にという原則がある。百万円程度の賭け事が犯罪であることについて疑いの余地はなくとも、本件につき犯罪であるかどうかについて疑いの余地がある以上、被告人である我々に有利になるように、裁判所は判断しなければならない。我々は『犯罪ではない』と確信していたのだから、賭博の罪を犯す故意もないというべきであり、更に刑法典で過失賭博は罪とされていない。」CとDは少し法学を勉強したことがあるようだが、「疑わしきは被告人の利益に」とか「故意」とかいった言葉について勘違いをしているようである。CとDの主張がどのように間違っているか、「疑わしきは被告人の利益に」及び「故意」の説明もまじえつつ、論じなさい。
(4) CとDは次のような主張もした。「我々は賭博と相撲が好きだ。相撲賭博を通じて我々は自分らの幸福を追求しようとしている。憲法13条(「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」)に照らし、我々の賭博を違法とすることは違憲である。」ところで、日本の裁判所は憲法判断を避ける傾向があるといわれる。「憲法判断の回避」と呼ばれる原則の内容と根拠を説明した上で、裁判所はCとDのかような主張につき憲法判断を回避すべきか、論じなさい。
(5) CとDとの間で、賭博契約はなかったものとすることに合意し、新たにCがDにFのサイン入り色紙を一万円で売るという契約を2010年7月27日に締結した。同日にDがCに一万円を支払い、一週間後CがDに色紙を引渡すという約束であったが、同年7月29日、Cはその色紙を弟のGに手渡しで贈与し、CはDとの約束を破ってそのまま雲隠れしてしまった。DがCから色紙の引渡しを受けるという売買契約は有効であるか、そしてDはGに対し色紙を自分に寄越せと主張できるか、説明せよ。

【解説】 
(1)講義ノート参照箇所は特になし。本件ではFがEに勝っていない。賭博契約中の「Fが勝ったら」「負傷等による不戦勝」などの文言に関し、Eの欠場も含むのかが問題となる。CとDのどちらが法律論として勝つべきかについては、ご自由に。
(2)講義ノート11頁及び8頁参照。賭博契約は公序良俗違反であるため、裁判所は請求を棄却(却下ではない)すると予想される。Fの訴えについて、Fには訴えの利益がないとして、裁判所は請求を却下すると予想される。
(3)講義ノート9頁参照。「疑わしきは被告人の利益に」は事実認定に関しての原則であり、或る行為が刑法違反に当たるかという解釈の領域において意味を持つ原則ではない。また、CとDが幾ら合法であると信じていても、客観的には違法である行為をする「故意」はあると言わざるをえず、合法であると思ったとしても「故意」があることは否定されず「過失賭博」には当たらない。以上の二点についてCとDは誤っている。
(4)講義ノート6頁参照。「憲法判断の回避」とは、事案の解決にあたって憲法判断をする必要がない場合には、裁判所は或る規定が合憲か違憲かを判断することを避けるという内容である。裁判所は国民の代表ではないので、国民の代表たる国会議員が決めたことに裁判所があまり口出しすべきではない、ということが根拠とされる。本件において、刑法185条が合憲か違憲かを判断しなければCやDに対し刑法185条を適用することができないため、裁判所は憲法判断を回避すべきではない。
(5)講義ノート2.7.5〜2.7.6参照。DとCとの間の売買契約は依然有効である。しかし、Dは色紙の引渡しを受けていないのでGとの関係において対抗要件を満たしていない。寧ろCから色紙の引渡しを受けたGこそが対抗要件を満たしている。そのためDはGに対し色紙を寄越せと主張することはできない。

【講評】
第一問 美人は一定数いるので税収が安定する、という答案の解釈に迷いましたが、非中立性の説明を半分程度していると理解しました。

第二問 (1)の計算はよくできていました。(2)の計算は一人だけできていました。おめでとうございます。金銭の時間的価値は気合入れて説明したつもりですが難しいんですかね。(3)については少し書けている答案がありました。

第三問 消費税(付加価値税)は今後重要になっていく税金だと思うのですが、なかなか理解しにくい税金なのでしょうか。(1)(20÷100=25÷125)の計算は誰もできませんでした。体重50キロからメタボになって50%増えると75キロになり、1/3ダイエットすると50キロになる、という説明が某所では通じたらしいのですが、ここでは難しいんですかね。(2)については少し書けている答案がありました。

第四問
(1)全員がDを勝たせていたのは意外でした。Fが「E以外の15人の力士として15敗した」という説例にしておけば、また変わってくるのでしょうか?
(2)公序良俗に触れていた答案が少なかったのは残念ですが、棄却と却下の違いは理解できていたようです。
(3)法学部以外の学生にとってかなり難しい問題だと思ったのですが、最も正答率が高く、びっくりです。みなさん、刑法の説明は好きなんですね。
(4)「憲法判断の回避」を「統治行為論」と混同している答案がほとんどでした。また、憲法判断を回避すべきでないとした答案は一人だけでした。第三問(2)といい、憲法問題は難しいようです。
(5)契約の有効無効と目的物の取得可能性についての違いは理解できていたようですが、Gの善意悪意等に触れる答案が多く、対抗要件の問題であるということが理解できていなかったようです。

全体の講評
 概ね予想通りにできたという感触です。極端にできの悪い答案がなかったのは嬉しいです。極端にできの良い答案もありませんでしたが。租税法部分よりも憲法民法刑法の方ができがよくて(昨年もそうでした)、租税法研究者としては少し残念です。

平均44.8 最低21 最高70
S9% A27% B36% C27% D0%
第一問 4.8/10
第二問 9.4/25
第三問 2.8/15
第四問1 5.8/10
第四問2 6.0/10
第四問3 7.5/10
第四問4 1.2/10
第四問5 7.3/10

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