2010年度国際租税法 於上智大学


講義ノート52頁・完(doc/zipで圧縮)

 配布資料は、「学生がノートを書く負担を減らして、話を聞くことに集中できるようにしているが、レジュメを見ただけでは理解しにくく、講義を耳で聞いて理解が深まる」というレベルを目指して作成しています。私自身の学生時代の経験から、耳で講義を聞いていた方が懸命に教科書を読んだだけというよりも理解が深まっている、と感じています。
 黄色のマーカー部分は訂正箇所です。
 青色マーカー部分は講義でとばした箇所であり、期末試験の対象外となります。


試験について…白紙A4二枚またはA3一枚に自筆で書いたもの(表裏使用可)のみ持ち込み可。答案はペンまたはボールペンで書いたもののみ有効(鉛筆・シャーペン不可)。


解答の順序は任意だが、解答に際して問題番号を分かりやすく示しなさい。

第一問(20点) 所得税率=t(0<t<1)の比例税率、年税引前収益率=r(0<r)とする。A氏は第1年度初に1を投資し、第1年度末に課税された後の元利合計を第2年度初に再投資する。B氏は第1年度初に1を出資して非課税法人C社を設立し、C社が課税を受けないまま1を第1年度初から年複利で投資し、第2年度末にC社が解散してC社の残余財産をB氏が全て受け取る。第2年度末の税引後の消費可能額について、A氏とB氏とどちらが有利か。また、幾ら有利であるかをt及びrを用いた式で分かりやすく示しなさい。

【解説】 講義ノート10.2.1参照。B氏が有利。B氏の消費可能額は1+{(1+r)2−1}(1−t)、A氏のは{1+r(1−t)}2だから、その差は1+{(1+r)2−1}(1−t)−{1+r(1−t)}2 計算すると1+2r+r2−2rt−r2t−1−2r+2rt−r2+2r2t−r2t2=r2t(1−t)
例えばt=30%、r=10%の場合、B氏は1+(1.12−1)×0.7=1.147、A氏は1.072=1.1449、差は0.0021。r2t(1−t)の式に代入しても0.1×0.1×0.3×0.7=0.0021

第二問(20点) D国の付加価値税率=t(0<t)、E国の付加価値税率=2t、付加価値税の負担は全て消費者に転嫁されるとする。
(1)D国居住者からE国居住者に税抜価格pの棚卸資産が売却される場合の、D国及びE国における付加価値税の課税関係を、t及びpを用いて説明しなさい。
(2)D国居住者からE国居住者に税抜価格qの役務が提供される場合の、D国及びE国における付加価値税の課税関係を、t及びqを用いて説明しなさい。

【解説】 講義ノート11.1参照。
(1)D国:輸出免税のためpのまま輸出。E国で輸入課税のため2tpの税が課せられる。商品価格はp(1+2t)となる。
(2)D国:輸出免税が適用されないのでp(1+t)で輸出し、役務提供者にptの付加価値税が課せられる。E国で輸入課税が適用されないため、役務の価格はp(1+t)のまま。

第三問 日本とF国との間でOECDモデル租税条約と同じ租税条約(23条については(B)税額控除方式)が締結されており、また、F国の国内租税法規は日本のそれと同様であるとする。F国法人たるG社は日本にH支店を開設しており、また日本法人たるI社の株式をG社が全て保有している。
(1)G社がI社から受け取る配当につき、F国で日本の法人税法23条の2(外国子会社配当益金不算入)に相当する規定が、親子会社間における所得への経済的二重課税を防いでいる。仮にこうした規定がないとして(この仮定は(1)だけのものとする)、親子会社間における所得への経済的二重課税を防ぐための立法論として、他にどのような方法が考えられるか、説明しなさい。また、この方法は現実には多くの国で採用されていない。なぜか、説明しなさい。(15点)
(2)I社はG社に対し支払う配当の額と比してとても大きな額の利子もG社に対し支払っている。仮に日本に租税特別措置法66条の5(国外支配株主等に係る負債の利子の課税の特例)の規定がないとして(この仮定は(2)だけのものとする)、I社がG社に支払う利子に関しI社の損金算入を防ごうと日本の課税当局が考えるとすれば、どのような法律構成で損金算入を否定しようとするであろうか、説明しなさい。(10点)
(3)H支店またはI社が、G社本店から資金調達をして、G社と資本関係のない日本法人J社に対し金銭貸付をし利子を稼ぐ場面における課税関係を念頭に置きつつ、なぜ多くの金融機関が外国に子会社形態ではなく支店形態で進出するのか、数値例を自作しつつ、説明しなさい。(20点)
(4)日本人K氏は日本に支店を有さないF国法人L社に雇われているF国居住のサッカー選手であり、サッカーW杯での活躍により知名度を上げた。K氏は日本のテレビ局たるM社のテレビ番組に出演し、テレビ番組の企画の中でK氏は趣味のカメラの腕を披露した。K氏の撮った写真はすぐさま写真集として日本国内で刷られ発売された。番組出演料は写真撮影に係る報酬に含められるものとして一括金としてM社が支払ったが、M社の支払先はL社であり、K氏はL社から臨時ボーナスを受けた。租税条約の規定に照らし、M社がL社に支払った一括金に係る所得につき、日本が課税できるとする法律構成及び日本が課税できないとする法律構成を考え、それぞれ説明しなさい。(15点)

【解説】 
(1)講義ノート2.3.3参照。支払配当損金算入方式を採用すれば親子会社間における所得への経済的二重課税を防ぐことができる。現実に採用されていないのは、子会社所在地国の税収がなくなってしまうためであると考えられる。
(2)講義ノート10.1参照。移転価格税制(租税特別措置法66条の4)を適用し、I社の支払利子のうち独立企業間価格を超える部分についてI社の損金算入を否定する。
(3)講義ノート7.5.1〜7.5.2参照。H支店が年9%の利子率で借りた資金1000をJ社に年10%の利子率で貸し付けると、100の利子収入と90の利子費用が生じる。支店課税において費用控除が認められるので、課税所得は10であり、仮に税率が40%でも税負担は04で済む。I社が同様に年9%の利子率で借りた資金1000をJ社に年10%の利子率で貸し付けると、100の利子収入と90の利子費用が生じる。I社の課税所得は10であり、ここまではH支店の場合と同じである。しかし、H支店がG社本店に対して負担する90の利子費用は法形式上は利子支払ではないため、源泉徴収課税の問題とならない。他方、I社がG社本店に支払う90の利子はG社の課税所得としてI社が例えば10%などの税率で源泉徴収する必要があり、この場合9の租税を納める必要がある。こうした考慮から支店形態で外国に進出する例が多いものと考えられる。
(4)講義ノート7.3.2及び8.5参照。日本が課税できるとする法律構成:「写真撮影に係る報酬」という名目であっても事実経過に照らしその内容は「番組出演料」が主たる部分であるので、租税条約17条2項(法人が受け取る場合)により、源泉地国である日本が課税することが許される。/日本が課税できないとする法律構成:「写真撮影に係る報酬」は租税条約12条にいう使用料(写真の著作権の利用許諾の対価)に当たり、日本が課税することは許されない。K氏の日本における役務提供の対価としての「番組出演料」はなく、全て使用料として支払われている、という法律構成になる。

【講評】
第一問 B氏が有利という答案が幾つかありましたが、数式は全滅でした。抽象化が苦手なのでしょうか。

第二問 輸出免税、輸入課税が理解できているものが幾つかありました。

第三問
(1)間接外国税額控除の説明をする答案もOKです。この場合、「多くの国で採用されていない」理由は、手続き的に非常に煩瑣である、といったこととなるでしょうが、採用されにくい理由までうまく説明できている答案はありませんでした。定式配賦で課税すればいいという答案は面白いと思いましたが、説明がうまくできていないので部分点としました。
(2)移転価格に言及するのは一通のみでした。残念。過小資本税制が使えないという状況設定なのに貸付が資本の3倍以上といったことを議論しようとする答案が多いのは残念です。
(3)PE課税について費用控除が認められることに言及する答案が幾つかありました。そこを理解してもらえたのは嬉しいですが、しかし子会社でも費用控除が認められるので、そこは決定的な理由とはなりません。
(4)芸能人条項に言及した答案は幾つかありましたが、写真集に関して著作権の使用料という所得分類に気付いた答案がなかったのは残念です。

全体 持込可ということで少し難しくしましたが、思ったより難しくしすぎたようです。

全体平均16.7 最低5 最高30
第一問 1.5
第二問 6
第三問1 3.8
第三問2 1.5
第三問3 1.5
第四問4 2.4

B3 C2 D4 F1
学年が上の方が好成績が多いです。これまでの勉強の積み重ねの成果といえましょうか。

表紙へ