2011年度全カリ現代社会と法(現代社会における法と租税の役割)



 配布資料は、CHORUSで配布します。「学生がノートを書く負担を減らして、話を聞くことに集中できるようにしているが、レジュメを見ただけでは理解しにくく、講義を耳で聞いて理解が深まる」というレベルを目指して作成しています。私自身の学生時代の経験から、耳で講義を聞いていた方が懸命に教科書を読んだだけというよりも理解が深まっている、と感じています。
 黄色のマーカー部分は訂正箇所です。
 青色マーカー部分は講義でとばした箇所であり、期末試験の対象外となります。


期末試験 FB166 2012年1月25日1限実施
解答の順序は任意だが、解答に際し問題番号を分かりやすく示せ。法学の答案なので結論だけでなく理由も含めて論述せよ。計算問題については、計算結果が間違っていても計算過程が正しい場合に部分点を考慮する。原則として各問につき10点を配分しているが、意味のある記述であれば配点を超える加点も考慮する。

1.原告適格について触れながら、或る立法の違憲性を裁判で主張することの困難さを説明しなさい。

2.著作権侵害は親告罪である。Aが作ったとされる曲を聞いたBが、「この曲はCが作った曲のパクリだ!」と憤慨したが、Cは自分の曲と似た曲が世の中でどう扱われようと興味を持たなかった。BはCの熱烈なファンだった。親告罪について説明しつつ、BがAの刑事上の責任を追及することの可否を論じなさい。

3.DがEを殴ったので、Eは「緊急避難だ」と言いながらDの衣服を破った。Eが器物損壊の罪に問われたところ、Eは「緊急避難だと思って反撃したので、器物損壊の罪を犯す故意がなかった、故意犯でないから器物損壊の罪には問われない」と主張した。Eの主張について刑法の観点から論評しなさい。

4.Fが吸っている煙草の煙がGの鼻腔を刺激し、Gは満足に歌うことができなくなって、歌手としてのGの営業に支障が生じた。GはFに、営業できなかったことについての賠償を請求した。Fは「日本では煙草を吸うことは犯罪ではないので、FはGに対して何ら責任を負わない」と主張した。Fの主張について論評しなさい。

5.Hが土地をIに売る契約をした。翌日、同じ土地についてHがJに売る契約をした。Jによる土地の所有権取得が有効であるか無効であるかの問題と、Jがその土地を使用できるかの問題との関係について、論じなさい。

6.国防サービス以外で、非競合性の例、及び非排除性の例をそれぞれ挙げて説明しなさい。

7.サラリーマンに対する所得課税は不当に軽いという主張がある。この主張の根拠を推測し、説明しなさい。

8.法人の所得に課税する際に法人が株主に支払う配当が控除されないことにより、二重課税が発生し、非中立性が発生するとされる。どのような選択についての非中立であるか、説明しなさい。

9.日本の消費税法は付加価値税の仕組みを採用しているとされるが、仮に消費税率が5%から10%に上がっても、実際の小売価格は1050円から1100円に値上がりするとは限らないと言われている。どういうことか、説明しなさい。

10.日本の相続税・贈与税の税率構造の下で、親から子などへ一度に多額の贈与を行うことは難しいので、相続時精算課税制度が作られたとされる。相続時精算課税制度が適用されない場合の、贈与による財産移転に課せられる租税負担を、相続の場合と比較しつつ、説明しなさい。

【解説】
1.講義ノート2.2.参照。日本は付随的違憲審査制度を採用しているので、具体的な請求内容を作らないと違憲性を裁判で主張できない。自分について具体的な利益侵害がない場合には、訴訟を提起しても審議されず原告適格なしとして却下されてしまう。

2.講義ノート2.7.2.参照。親告罪とは、被害者の告訴があって初めて刑事裁判の対象となる犯罪のことであり、この場合、被害者である可能性があるのはCであるので、Cと無関係のBがAによる著作権侵害を告発しても、刑事手続は進まない。

3.講義ノート2.7.3.&2.7.6.参照。緊急避難とは現在の危難を避けるための行為であって、殴られたことに対する報復行為の違法性を阻却せしめるものではない。また、故意の認定において、或る行為の違法性の認識までは要求されないので、Eが違法性がないと誤解していても器物損壊の構成要件該当行為をすることの認識されあれば、故意はあるとされる。

4.講義ノート2.7.7.参照。刑事罰の対象とならない行為が、常に民事の損害賠償請求の対象とならないとは限らない。

5.講義ノート2.8.5.参照。HとJとの契約は有効に成立し、Jが所有権を取得するという効果も有効に成立する。しかしそれはIも同じである。そして有効要件の他に、IとJのどちらが勝つかという対抗問題があり、土地については登記を得ることが対抗要件となっている。

6.講義ノート3.1.参照。国防以外で、非競合性・非排除性を満たす財・サービス(国防以外)を考えて下さい。

7.講義ノート5.3.6.参照。給与所得控除(所得税法28条3項)の規定により、実際にかかるであろう経費の額よりも多めの額が自動的に控除されるので、給与所得を得る人に対する租税負担は軽くなる。

8.講義ノート6.2.参照。法人段階で支払配当が損金算入されず課税される一方、金銭貸付等に係る利子支払は損金算入されるので、資金調達手段として自己資本よりも借入の方が有利であるという非中立性がある。また、法人・株主間で二重課税がある一方、個人事業や組合を通じた事業では二重課税がないので、組織形態の選択において法人を利用することが不利であるという非中立性がある。

9.講義ノート7.2.参照。単純に1100円に値下げすると、需要が足りなくなり、売れ残りが生ずるので、何らかの形で値下げして需要と供給が一致するまで価格は下がると考えられる。

10.講義ノート8.3.参照。贈与税の基礎控除額は110万円しかなく、また1000万円で最高税率50%に到達する一方、相続税の基礎控除額は5000万円+1000万円×相続人数と大きな額であって相続税が課されない範囲が広く、しかも相続税が課される場合でも最高税率50%に到達するのは3億円なので贈与税よりも税率が低いことが多い。

受験人数が少ないので講評はありません。

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