2011年度租税法(EX410)


講義ノートとsozeihou.htmlはchorusにアップすることにしました。
前期に28頁まで配布しました。後期は33頁から配布します。HTMLファイルをPDFファイルに変換する際の設定が変わってしまったためか(←10/17原因判明しましたが対処すると更にややこしくなるので対処しません)、頁がズレてしまっています。29〜32頁は、講義中配布していない(存在していない)ことをご了解ください。

 配布資料は、「学生がノートを書く負担を減らして、話を聞くことに集中できるようにしているが、講義ノートを見ただけでは理解しにくく、講義を耳で聞いて理解が深まる」というレベルを目指して作成しています。私自身の学生時代の経験から、耳で講義を聞いていた方が懸命に教科書を読んだだけというよりも理解が深まっている、と感じています。
 訂正箇所は緑色の文字で示します。講義で飛ばした箇所をどう表示するかは未定です。

租税法期末試験2012年1月30日1限実施
解答の順序は問わないが、解答に際してはどの問いについてのものであるか明示せよ。解答の決まりごとを守らない答案(例えばペンまたはボールペン以外で書き込む答案、氏名等を書いていない答案)は零点とする。配点は時間配分の目安としてほしいが、租税法学上意味のある記述については配点を超える加点も考慮する。

第一問(50点) A大学受験のためにBは猛勉強した。BがA大学に合格したら、Bの親であるCが所有している法人D社から、バイオリン(かつてD社が200万円で購入したものである)をプレゼントしてもらえるという約束であった。しかしBは自力でA大学に合格する自信を持つには至らなかった。Bの友人Eは、性根は極悪であるが試験勉強だけは良くできる奴であった。EはBに「俺特製のA大学合格のためのカンニングペーパーを、100万円で買わないか」ともちかけた。Bは100万円をEに支払い、E特製のカンニングペーパーを購入した。Bは首尾よくA大学に合格し、D社からバイオリンをプレゼントしてもらった。プレゼント時点での当該バイオリンの時価は300万円であった。本問について同族会社等の行為又は計算の否認の規定及び租税特別措置法・地方税法の適用は考えないものとする。
(1) Eは「自分は違法なことをやって100万円を得たものであり、この100万円の授受は民法90条の公序良俗に反するから、私法に照らして自分には所得がない」と主張しているが、Eは課税されるか、論じよ、また、あなたの結論が課税されるというものであれそうでないというものであれ、仮に課税されるとしたならば所得分類はどうなるか、論じよ。
(2) Bは課税されるか、論じよ、また、あなたの結論が課税されるというものであれそうでないというものであれ、仮に課税されるとして所得分類や控除額についてどうなるか、論じよ。
(3) D社がBにプレゼントしたことについて、D社の課税所得の計算に関しどのような問題が生じるか、論じよ。
(4) Bがもらったバイオリンは、かつてCが200万円で購入したものであり、当該バイオリンがD社からではなくCからBにプレゼントされ、プレゼント時点での当該バイオリンの時価が300万円であり、プレゼントの翌年にBが当該バイオリンを450万円でFに売却したとすると、C及びBの課税関係はどうなるか、思いつく限り論じよ。

【解説】 (1)講義ノート5.2.1.参照。仮にカンニングペーパーの売買契約が民法90条・公序良俗違反であるとしても、現実に収受した金員については、課税対象となる可能性が高いであろう。利息制限法違反利息事件・最判昭和46年11月9日民集25巻8号1120頁参照。なお、仮に課税されるとした場合の所得分類については、対価性があるので雑所得にある可能性が高いであろう。もしもEがBのみならず多数の人にカンニングペーパーを売ることを事業と呼べる程度に反復的継続的に行なっているのであれば、雑所得ではなく事業所得に当たる可能性もある。弁護士顧問料事件・最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁及び会社取締役商品先物取引事件・名古屋地判昭和60年4月26日行集36巻4号589頁参照。
(2)講義ノート5.5.9.&5.2.1.参照。法人Dから300万円相当の物品を贈与してもらったので、一時所得に当たる可能性が高い。さて、一時所得であるとして、所得税法34条2項にいう「収入を得るために支出した金額」に、BがEに支払った100万円が含まれるかという問題がある。この100万円がけしからない支出であるとはいえ、「収入を得るために支出した金額」に当たる可能性はあろう。あとは、違法な支出が控除額に算入されるかについての問題となるが、高松市塩田宅地分譲事件・高松地判昭和48年6月28日行集24巻6=7号511頁参照。余談ながら所得税法34条2項に関して最判平成24年1月13日平成21年(行ヒ)404号・最判平成24年1月16日平成23年(行ヒ)104号が租税回避を狙った取引を潰す興味深い判示をした。本問と直接には関係しないが、来年以降の講義では扱いたい。
(3)講義ノート6.2.2.1.b.及び6.2.3.5.c.参照。南西通商株式会社事件・最判平成7年12月19日民集49巻10号3121頁及び清水惣事件・大阪高判昭和53年3月30日高裁民集31巻1号63頁参照。法人税法22条2項により、無償取引からも益金が発生する。時価300万円のバイオリンがDから移転するので、Dは300万円の益金を計上し、購入価額200万円を損金算入する。次に、Dからのバイオリンの贈与は、法人税法37条にいう寄附金に当たる可能性がある。そうすると、300万円のうちD社の寄附金損金算入限度額(法人税法施行令73条参照)の範囲で損金算入することができる。無償移転を機に含み益計上と寄附金の問題が生ずることが理解できているかが(3)の鍵となる。
(4)講義ノート5.5.3.5.〜5.5.3.6.参照。所得税・贈与税の関係と、租税属性の引継ぎを理解しているかが問われる。Cが200万円で購入したバイオリンを法人ではないBに贈与しても、所得税法59条1項みなし譲渡課税は適用されない。Bの受贈は非課税所得(所得税法9条1項16号)に当たり、300万円相当の受贈益について相続税法により贈与税がBに課される。BがFに450万円で売った時に、所得税法60条1項1号による租税属性の引継ぎのため、Bの取得費は200万円という前提で譲渡所得が計算される。なお、バイオリンについて減価償却資産として減価償却の額を計算し、取得費が200万よりも低い筈である、といったことが論じられていたら、加点要素として考慮する。Cがバイオリンを購入した時点からBがFに譲渡する時点まで5年超経過していれば、所得税法33条3項2号にいう長期譲渡所得として軽課税となる(所得税法22条2項2号)。

第二問(10点) 日本の消費税法は付加価値税の仕組みを採用しているとされるが、簡易課税制度の下で益税が発生すると言われる。或る事業者について、みなし控除率を80%とし、消費税込みの売上を4200万円とし、その他の数値を自作しながら説明せよ。但し消費税率は5%とし地方消費税は無視する。

【解説】講義ノート7.2.4.2.c.参照。簡易課税制度が適用されると、仕入れが4200万円×0.8=3360万円とみなされ、仕入税額控除の額は3360万円×5/105=160万円となり、納税額は200万円−160万円=40万円となる。実際の仕入れが1050万円であったとすると、本来の仕入税額控除の額は50万円であり、本来の納税額は200万円−50万=150万円であったはずであるので、簡易課税制度の適用により110万円の益税が生ずることとなる。

第三問(10点) Kが死亡し、相続税の課税対象となる財産約10億円相当が遺った。Kの相続人が複数いる中で、Lが遺産の大部分を相続することとし、その他大勢の相続人の一人であるMが相続した財産の価額はLが相続した財産の価額の5分の1だけであった。各相続人の実際の税負担の割合について比較すると、すなわち《Lの税額÷Lの相続財産価額》と《Mの税額÷Mの相続財産価額》とを比較すると、どちらが重くなるか、相続税法15条〜17条に照らして説明せよ(六法がないので条文番号や条文の文言を挙げる必要はない)。なお、相続税法18条以下の規定(非近親者に対する相続税額の加算、配偶者に対する相続税額の軽減、相次相続控除等)は適用されていないものとする。

【解説】講義ノート8.1.4.1.参照。法定相続分課税方式の理解が問われる。具体的にどのように遺産分割がなされたかに関係なく、民法所定の法定相続分通りに相続がなされたという仮定の下で総税額を計算し、その総税額を実際の遺産分割により取得する財産額に応じて按分するので、《Lの税額÷Lの相続財産価額》と《Mの税額÷Mの相続財産価額》は、相続税法18条以下の特例を考えない限り(そして問題文でも考慮すべきは相続税法15条〜17条だけとなっている)、同じである。

第四問(15点) いわゆる二分二乗訴訟(最大判昭和36年9月6日民集15巻8号2047頁)に関する二分二乗方式とは何かについて論じよ、また、二分二乗方式の欠点についてオルドマン・テンプルの法則に即して論じよ。

【解説】講義ノート5.4.1.参照。二分二乗方式とは、夫婦の所得を合算した上で、二分割し、それぞれに累進税率表を当てはめて税額を計算し、その二倍が夫婦合計の納税額となる、という方式である。オルドマン・テンプルの法則に照らすと、片稼ぎの夫婦は、同じ所得の共稼ぎの夫婦よりも、税負担が重くなるべきと考えられており、その理由は片稼ぎ夫婦の方が家事役務による帰属所得(いわゆる内助の功)の分だけ豊かであるから、とされている。しかし二分二乗方式が適用されると、片稼ぎの夫婦は、同じ所得の共稼ぎの夫婦と比べて同じ税額を負担することとなり、帰属所得を無視する結果となるので、片稼ぎ夫婦の租税負担が、オルドマン・テンプルの法則に照らして不当に軽くなってしまう、という欠点がある。

第五問(15点) 組合を通じて事業を行なって得た収益については、組合段階で課税されず組合員段階でのみ課税される。一方、法人を通じて事業を行なって得た収益については、法人段階でも株主段階でも課税されるという二重課税が存在する。それにもかかわらず日本では法人を通じて事業を行なうことについて課税上のメリットがあるとされる。課税上のメリットについて、課税繰延以外の観点から、論じよ。但し、課税繰延の観点から自作の数値に基づく正確な説明ができていれば(自作の数値に基づかず単に課税繰延の利益があると論じるような答案は加点要素なし)、その部分も加点要素とする。

【解説】講義ノート6.1.1.参照。課税繰延以外の第一のメリットとして、法人を経由した所得分割が容易になることが上げられる。個人で事業を営む者が家族の役務提供等に対して賃金などを支払っても所得税法56条により必要経費に算入することが認められず、一人の事業主宰者に所得の帰属が集中するので、高い累進税率が適用される可能性がある。しかし法人が事業を営み、複数人の家族が労働に従事して賃金を受け取る形態であるとすれば、法人は支払賃金を損金算入することができる上に、家族内で合法的に所得を分割することができ、高い累進税率の適用を回避することができる。
第二のメリットは所得税法28条3項・給与所得控除の利用であり、一般に給与所得控除が実額経費に比べて高くなりがちであるので、家族従業員が法人から受け取った賃金について給与所得として扱ってもらえれば、個人事業者が事業所得を得て実額の経費を控除する場合よりも、控除額が大きくなる可能性がある。
第三に、説明する必要はないが余力があったら説明せよとされている課税繰延については、
I[1+r(1−tp)]n=[1+0.1×(1−0.7)]20=1.0320=1.8061 と
I([1+r(1−tc)]n−{[1+r(1−tc)]n−1}tp)=I{[1+r(1−tc)]n(1−tp)+tp}=1.0820−(1.0820−1)×0.7=1.0820×0.3+0.7=2.0983
(当初投資額I=1、年税引前収益率r=10%、個人所得税率tp=70%、法人税率tc=20%、投資年数n=20の場合)
の比較となる。

【講評】
一(1) 平均点は高いですがこれは加点をとっている人がいるためで、思っていたほど違法所得の議論(或いは権利確定主義と管理支配基準)ができていませんでした。
一(2) (1)の違法所得との対比で(2)で違法支出の必要経費該当性を問うつもりでしたが殆ど反応してもらえず、D社の200万円の購入費の控除可能性を論ずるものが目立ちました。
一(3) 寄附金の損金算入限度額の問題であるということを意識している答案は幾つかありましたが、法人税法22条2項による含み益の実現の方はあまり意識されていませんでした。
一(4) 所得税法60条1項1号による租税属性の引継ぎについて作問意図通りに意識している答案が幾つかありました。しかし、「思いつく限り」としてここでガンガン加点するつもりで作問したのですが、贈与税とか所得税法59条1項非適用とかいったことにはあまり意識がいっていませんでした。
二 ほぼ壊滅でした。こちらは講義で数値例を示してはいたのですが。
三 ほぼ壊滅でした。法定相続分課税方式について、一人に遺産を集中させた場合の数値例でどうなるか示さないといけない、と感じました。
四 作問時に「これは難しいかも」と思っていたのですが、意外なことによくできていました。オルドマン・テンプルの法則は記憶に残りやすいのでしょうか。
五 給与所得控除が概ね意識されていました。所得分割まで論じている答案は相対的に少数でした。解答不要とした課税繰延について、頑張って3年繰延モデルで説明しようとしていた答案があり、こちらも計算してみたところ、そのモデルでは3年では足りなかったので、部分点としました。収益率=50%とするというのは、課税繰延の効果を大きく見せる点で効果的な着眼点だったのですが。

最高71点 最低3点 平均24.7点 S1 A4 B2 C6 D4
一(1) 5.76点
一(2) 2点
一(3) 2.65点
一(4) 3.88点
二 1.18点
三 0.76点
四 5.59点
五 2.59点


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