2012年度全カリ現代社会と法(現代社会における法と租税の役割)



 配布資料はCHORUSで配布します。「学生がノートを書く負担を減らして、話を聞くことに集中できるようにしているが、レジュメを見ただけでは理解しにくく、講義を耳で聞いて理解が深まる」というレベルを目指して作成しています。私自身の学生時代の経験から、耳で講義を聞いていた方が懸命に教科書を読んだだけというよりも理解が深まっている、と感じています。
 黄色のマーカー部分は訂正箇所です。
 青色マーカー部分は講義でとばした箇所であり、期末試験の対象外となります。


期末試験 FB166 2013年1月30日水曜日1限実施
解答の順序は任意だが、解答に際し問題番号を分かりやすく示せ。法学の答案なので結論だけでなく理由も含めて論述せよ。計算問題については、計算結果が間違っていても計算過程が正しい場合に部分点を考慮する。原則として各問につき10点を配分しているが、意味のある記述であれば配点を超える加点も考慮する。

1.東京都がオリンピックを招致しようとしていることについて、或る仙台市民は「東京ばっかり、おかしい、不公平だ」と考え、東京都のオリンピック招致活動の違憲性を理由に差止を請求しようとしている。裁判所はこの請求に対しどう応答すると予想されるか、「棄却」「却下」の違いに触れつつ、説明しなさい。

2.Aが飼っている犬(B)が、Cが飼っている犬(D)に噛み付き、Dは怪我した。怒ったCは、被害者Dを原告とし、加害者Bを相手方として、損害賠償請求をしようとしている。あなたが弁護士であると仮定し、Cにどのようにアドバイスすべきか、説明しなさい。

3.ある科目の試験に関し、Eが自作のカンニングペーパーをFに10万円で売った。売買代金の支払には、Fが当該科目で単位を取得したことが確認された時という条件が付されていた。Fは単位を取得したが、Eに対して「カンニングペーパーなんか貰ってないよ、言いがかりはやめてほしい」とすっとぼけている。Eは、友人のGがEF間のカンニングペーパーのやり取りを撮影していた動画を、証拠として持っている。EのFに対する10万円の代金請求は認められるか、論じなさい。

4.刑事訴訟法213条は「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。」と規定している。HはIを痴漢犯人であるとして現行犯逮捕した。Iは「濡れ衣だ。Hを虚偽告訴罪で現行犯逮捕する。」と言った。IがHを現行犯逮捕することは刑事訴訟法上可能か、論じなさい。

5.或る教師Jは、体罰は教育のために必須であるという信念を持って、生徒を指導していた。警察が、Jの体罰について暴行罪を適用しようとした。Jは、「教育のための体罰は刑法35条の正当行為として不可罰となると考えていたので、私には暴行罪を犯す故意がなく、過失傷害罪の規定はあっても過失暴行罪の規定はないから、仮に私が刑法35条により不可罰とならなくともせいぜい過失暴行罪にとどまるため、刑罰は科されない」と主張した。Jは故意について勘違いしているようである。勘違いについて説明しなさい。

6.比較優位について、数値例を自作して(講義ノートに書いてある数値例のままならば零点とする)説明しなさい。

7.利子率・割引率が年25%(年複利計算)であるとする。2年後の10000の割引現在価値は K であり、2年後の L の割引現在価値は10000である。K、Lに当てはまる数値を答えなさい。

8.二分二乗制度の方が個人単位主義よりも有利であると考えている夫婦がいる。数値例を自作して有利さを説明しなさい。

9.消費税法の簡易課税制度が適用される事業者Mは、みなし控除率70%が適用される事業を行っているとする。益税が発生する場面と発生しない場面を、数値例を自作して説明しなさい。但し消費税率は5%とし地方消費税は無視する。

10.Nが死亡した。Nの遺産は現金1億7000万円であった。相続人はNの子であるO及びPだけであった。O・Pが均分相続した場合をケース1とし、Oが全て相続した場合をケース2とする。ケース1とケース2の相続税額を比較し、有利不利について説明せよ。

【解説】
1.講義ノート3.2.参照。棄却とは、請求内容の実体に踏み入って裁判所が判断し、請求を斥けるものである。却下とは、請求内容の実体に踏み入らず、請求すること自体が不適切であるとして、請求を斥けるものである。東京都のオリンピック招致活動について仙台市民は直接の利害関係を有さず、原告適格が認められないため、裁判所は請求を却下すると予想される。

2.講義ノート5.1.クマ号事件参照。民法上の権利能力は人に認められ、犬には認められないので、DもBも原告適格・被告適格がないとアドバイスする。Bの管理者であるAを被告とし、Dの治療費を負担したりDの怪我により心理的損害を被ったりしたCを原告として、損害賠償請求を提起すべきであるとアドバイスする。

3.講義ノート7.2.参照。カンニングペーパーの販売契約は、民法90条の公序良俗違反であるとして、契約の有効性が否定される。

4.講義ノート8.8.参照。「現行犯人は、何人でも」逮捕できるはずであり、虚偽告訴罪の現行犯人を現行犯逮捕の範疇から除く根拠もなさそうなので、法理論的には、IがHを現行犯逮捕することも可能なはずであろう。しかし、Hが本気で自分が被害者でありIが加害者であると信じていたならば、Hは現行犯とはならない。そうすると、IがHを現行犯逮捕するためには、「【Iが真の加害者でないことをHが知っていてIを痴漢犯人にしたてあげようとしている】とIが信じている」ことが必要となるであろう。(痴漢犯人であると疑われたIが被害者を自称するHを現行犯逮捕した例は聞いたことがない。なぜだろう。)

5.講義ノート9.4.参照。刑法38条3項が「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。」と規定し、法の不知は恕せず、という法原理を定めているので、Jが自分の行為が暴行罪ではないと思っていても、Jの行為が暴行罪に該当する行為であると裁判官が判断するのであれば、Jがその行為をする意思がある限り、Jの故意はないことにならない。

6.講義ノート11.2.2.参照。

7.講義ノート14.1参照。K×1.25×1.25=10000であるから、10000×1/1.25×1/1.25=10000×0.8×0.8=6400である。L=10000×1.25×1.25=15625である。

8.講義ノート14.3.参照。所得300万円を二人で半々ずつ申告することが認められるならば、150×5%×2=15(万円)だけが納税額となる。300万円を一人で申告するとなれば、195×5%+105×10%=20.25(万円)が納税額となる。このように二分二乗制度下では高い累進税率の適用を回避できる場合があるので、二分二乗制度の方が個人単位主義よりも有利であると考える夫婦が登場しうる。

9.講義ノート16.3.参照。6300円で仕入れて10500円で売る場合、500円の納税義務について70%のみなし控除率を適用すると350円の税額控除が認められるので、実額の300円の税額控除より有利であり、50円の益税が発生する。8400円で仕入れて10500円で売る場合、500円の納税義務について70%のみなし控除率を適用すると350円の税額控除が認められるので、実額の400円の税額控除より不利であり、だれもみなし控除率を適用せず、益税は発生しない。

10.講義ノート17.5.参照。7000万円の基礎控除が適用され、1億円をO及びPが均分相続した前提で全体の相続税額を計算する。一人あたりの相続税額は1000×0.1+2000×0.15+2000×0.2=800(万円)であり、全体の相続税額は1600万円となる。ケース1では、O及びPが1600万円の半々ずつの税額を負担する。ケース2では、Oが1600万円の税額を負担する。全体の相続税額は変わらないので、ケース1とケース2を比べて有利不利はない。

受験人数が少ないため講評は省略します。
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