2012年度租税法(EX410)


講義ノートPDFとsozeihou.html、hontai.html、chu.htmlはchorusにアップすることにしました。
chorusにアクセスできない人のために講義ノートPDFPDF(1-94頁・完)をこちらにもアップしました。


租税法期末試験2013年1月28日月曜日1限実施
解答の順序は問わないが、解答に際してはどの問いについてのものであるか明示せよ。解答の決まりごとを守らない答案(例えばペンまたはボールペン以外で書き込む答案、氏名等を書いていない答案)は零点とする。配点は時間配分の目安としてほしいが、租税法学上意味のある記述については配点を超える加点も考慮する。

第一問(50点) AはBをいじめていた。Aの暴力によりBは怪我をした。更に、Aの暴力によりBが自室に飾っていた絵画に傷がついてしまった。この絵画は、Bの亡き父Cが生前1000万円で買ったものであるが、昨年父が死亡した後の遺産分割で、Bがその絵画を貰い受けていた。Cの遺産はあまり多くなかったので、Bを含めた相続人は相続税を納めていなかった。C死亡時の絵画の時価は1100万円であったが、Aが絵画に傷を付ける直前の時価は800万円である。Aは怪我の損害賠償としてBに100万円(治療費及び精神的損害の賠償)を支払った。また、AはBから絵画を800万円で買い取ることとした。Aは、買い取った絵画を中古業者Dに売った。傷がついていたので中古業者DはAに1万円を対価として支払った。
(1) AがBに払った怪我の損害賠償金100万円について、A及びBは所得税法上どう扱われるか、論じよ。
(2) 絵画の傷について、仮にAがBに絵画の損害賠償金として799万円を支払っていたならば、Bは所得税法上どう扱われるか、論じよ。
(3) 絵画の傷について、絵画をAに買い取らせたことにより、Bは所得税法上どう扱われるか、論じよ。
(4) (2)と(3)と比較し、Bにとって所得税法上はどちらがどのように有利か、論じよ。
(5) AがDに絵画を売ったことにより、Aは所得税法上どのような主張をすることが予測されるか、論じよ。また、税務署長がAの主張を否定するとすれば、どのような主張をすることが予測されるか、論じよ。

【解説】 以下の解説では根拠条文を掲記しているものの、期末試験では六法が貸与されていないため、根拠条文不掲記自体を減点事由とはしない。
(1) 租税法概説98頁及び講義ノート4.1.2.4.参照。損害賠償金を支払ったAは、必要経費に算入できない(所得税法45条1好7号)。損害賠償金を受け取ったBは、課税所得に算入しなくてよい(所得税法9条1項17号)。
(2) (1)と同様、損害賠償金を受け取ったBは、799万円について課税所得に算入しなくてよい。(2)では本文の設例と異なりBが絵画をAに譲渡していないので、Bが絵画をDに1万円で譲渡することができる。しかし799万円を課税所得に算入しなくてよいこととの見合いで、Bが絵画をDに1万円で譲渡しても、999万円(父Cの取得費を引き継ぐと仮定した場合)の譲渡損を計上することはできないのではなかろうか。
(3) 租税法概説116頁参照。所得税法60条1項により、Aが1000万円で購入したという租税属性をBが引き継ぎ、Bは200万円の譲渡損失を計上する。
(4) 租税法概説91頁参照。(2)と比べると、(3)は譲渡損失を計上できるので、他の課税所得との損益通算(所得税法69条)を通じて課税所得を減らすことができる。従って、200万円×税率分、(3)の方が有利である。
(5) 租税法概説112頁参照。Aは800万円で購入した資産を1万円で譲渡したので、799万円の譲渡損失を計上する、とAは主張すると予測される。しかし課税庁側は、絵画に傷がついた後でAがBから800万円で購入したという経緯に鑑みて、Aは時価1万円の絵画をBから買ったのであるから、800万円は所得税法38条にいう「取得費」に該当しないと主張することが予測される。或いは、課税庁は、時価1万円の絵画の譲渡損失は「生活に通常必要な動産」の譲渡損失であるとして、課税上無視されるべきである(所得税法9条2項1号)(サラリーマンマイカー訴訟の一審神戸地判昭和61年9月24日判時1213号34頁参照。租税法概説92頁参照)とも主張することが予測される。

第二問(10点) 取引高税はカスケード効果が発生するが、付加価値税(日本の消費税も)はカスケード効果が発生しない、と説明される。どういうことか、数値例を自作しながら説明せよ。但し税率は10%とする。

【解説】 租税法概説211頁参照。2段階以上の取引を示し、取引高税は仕入税額控除がない上にtax on taxのカスケード効果が発生すること、付加価値税ではtax on taxがないことを示せばよい。

第三問(10点) タックス・ヘイヴン対策税制の制度趣旨は、軽課税国子会社を利用した課税繰延を防止するためであるという説(課税繰延防止説)と、軽課税国子会社を利用した租税回避を防止するためであるという説(租税回避防止説)がある。現行法(租税特別措置法66条の6)はどちらを採用したものか、また、そのように現行法の趣旨を解する理由は何か、論じよ。

【解説】 租税法概説309頁・313頁参照。適用除外規定(租税特別措置法66条の6第3項)が、activeな事業活動を行う外国子会社の所得を合算しないとしているが、activeな事業活動を行う外国子会社であっても当該会社が外国で軽課税を受けていれば課税繰延の効果は発生するので、activeな事業活動を行っていることを以って適用除外とすることは課税繰延防止説では説明がつかない。このため、現行法は租税回避防止説に基づいているものと考えられる。

第四問(15点) いわゆるパチンコ球遊器事件・最判昭和33年3月28日民集12巻4号624頁は、昭和26年通達改正によりパチンコ球遊器が物品税の課税対象の一つである遊戯具に含まれるとして課税が始まったことにつき、課税処分を適法とした判例である。「通達は法源ではないから通達課税はけしからん」という言説を批判しつつ、この判例の法律上の争点は何であったかを論じよ。

【解説】 講義ノート2.1.3.1.及び租税法概説25頁。本件は通達を契機として課税が始まった事例ではないため、「通達は法源ではないから通達課税はけしからん」という言説は形式的には本件に当てはまらない。しかし、パチンコ球遊器に課税しないという慣習が行政先例法となっていたならば、通達にのっとった課税がたとい正しい法解釈に基づく課税であるとしてもなお、行政先例法違反として違法性を帯びる可能性がある。従って本件の法律上の争点は行政先例法が確立していたか否かであった。

第五問(15点) P社が保有するQ社株式を、P社はP社の取締役であり株主でもあるRに時価より低額で譲渡した。あなたが税務署長になったつもりで、P及びRに対し、どのような法律構成で課税処分を打つことが考えられるか、論じよ。法律構成の可能性は複数あり、多くの論点を適切に論じたら、加点する。

【解説】 租税法概説177頁以下参照。Q株の時価との差額部分についてP社がRに役員給与を支払っているという法律構成が先ず考えられる。この場合、P社が法人税法34条の損金算入の要件を満たしていないであろうから、P社は時価で譲渡したという前提で益金を計上した上で、時価と実際の売価との差額について損金算入することは難しくなるであろう。Rは差額相当分の給与所得を得たものとして課税所得に算入され、当該差額部分についてP社は源泉徴収義務を負うこととなる。
 租税法概説175頁以下参照。Q株の時価との差額部分についてP社からRへの寄附であるという法律構成も考えられる。やはり、P社は時価で譲渡したという前提で益金を計上した上で、時価と実際の売価との差額について、寄附金の損金算入限度額に収まる部分のみ損金算入することが可能となる。Rは差額相当分の一時所得を得たものとして課税所得に算入される。

【講評】
受験人数が少ないので詳しいことは書きません。
第一問(1)で「A及びB」と問題にあるのにAを無視している答案が目立ちました。
第一問(4)は壊滅的にできていませんでした。譲渡所得については念入りに講義したつもりだったのですが。
第二問は最もよくできていました。
第三問は壊滅的にできていませんでした。タックスヘイヴン対策税制は最終日に講義したので試験に出ないと思われたのでしょうか。
第四問の出来は良くもなく悪くもなくでした。
第五問について、小数ながら、多数の論点を論じて加点されている答案があります。
全体の平均点は27点。昨年度よりは若干上がりましたが、まだまだ私をへこませる点数です。最高点は60点、最低点は5点です。

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