2013年度FB161全カリ現代社会と法(現代社会における法と租税の役割)



 講義ノートPDF(1-58頁・完)(2014/01/22)
 「学生がノートを書く負担を減らして、話を聞くことに集中できるようにしているが、レジュメを見ただけでは理解しにくく、講義を耳で聞いて理解が深まる」というレベルを目指して作成しています。私自身の学生時代の経験から、耳で講義を聞いていた方が懸命に教科書を読んだだけというよりも理解が深まっている、と感じています。
 黄色のマーカー部分は訂正箇所です。


期末試験2014年1月29日水曜日1限実施
解答の順序は任意だが、解答に際し問題番号を分かりやすく示せ。計算問題については、計算結果が間違っていても計算過程が正しい場合に部分点を考慮する。原則として各問につき10点を配分しているが、意味のある記述であれば配点を超える加点も考慮する。
1.自衛隊イラク派兵差止等請求控訴事件・名古屋高判平成20年4月17日判時2056号74頁において、原告は、@自衛隊派遣の差し止め、A自衛隊派遣の違憲確認、B精神的損害についての賠償を請求していた。仮に原告がBを請求せず、@Aだけを請求していたならば、判決文はどのようになっていたか、説明せよ。
2.最大決平成25年9月4日は、「父母が婚姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許され」ない、等と述べて、非嫡出子の相続分を嫡出子の半分とする民法900条4号但書の規定を違憲とした。「被相続人の一親等の血族(略)及び配偶者以外の者」が財産を遺贈により取得した場合(例えばお金持ちの人が自分の子ではなく隣に住む子に財産を遺贈した場合)に相続税法18条1項により相続税負担が2割加算されることとなっているところ、浅妻は「子が親を選べないという状況は民法900条4号但書の差別の状況と同様であるから、相続税法18条1項も違憲であると裁判所は判断すべきである」と考えている。この浅妻の考えを法学的に批判せよ。
3.最判昭和49年9月20日民集28巻6号1202頁は、被相続人に対する債権者が、相続放棄について詐害行為取消権を行使することはできないと判断した。他方、最判平成11年6月11日民集53巻5号898頁は、相続人に対する債権者が、遺産分割について詐害行為取消権を行使することはできると判断した。相続人に対する債権者が、相続放棄について詐害行為取消権を行使することができるか否かについて、最高裁の判断は未だないが、あなたの意見を法学的に述べよ。
4.豊島区では条例により路上喫煙が禁止されているが罰則は規定されていない。Aが豊島区内の道端で煙草を吸っていたところ、通りがかりのBが煙草の煙を不快に思い、BはAに「煙草の火を消せ」と言った。Aは「煙草は法律で禁止されてない」と言い返した。立腹したBは、Aを殴って煙草の火を消させた。民事法、刑事法の観点から、A・Bに法的にどのような問題が生じるか説明せよ。
5.満員電車内でCは臀部を触られた。Cは、「痴漢!やめろ」と叫びながら背後のDの腕を掴んだ。Dは痴漢犯人であることを否認した。その後、Cの衣服等に付着した汗・垢等を調査した結果、真犯人がDではなく別人のEであることが判明した。Dは、Cを虚偽告訴罪で告訴した。Cの虚偽告訴罪の成否について論じよ。
6.公共財の例(但し講義ノートに書かれてないもの)を挙げ、どのような性質を以って公共財の例として挙げたのか説明せよ。
7.所得税法28条3項3号は給与所得控除額を「前項に規定する収入金額が360万円を超え660万円以下である場合 126万円と当該収入金額から360万円を控除した金額の100分の20に相当する金額との合計額」と規定する。Fの2013年の給与収入が480万円であり、他にFに所得はなかったとする。この他に、100万円の所得控除がFに適用されると仮定する。所得税法89条は、195万円まで5%、195万〜330万円について10%、330万〜695万円について20%の税率を定めている。Fの給与所得控除額と所得税額を算出せよ。(所得税法以外の税は無視する)
8.移転価格の数値例(但し講義ノートのとは異なる数値例)を自作して、移転価格(対策立法の適用を受けない場合)が納税者にとってどのように有利であるかを説明せよ。
9.付加価値税率が10%であるとする(付加価値税以外の税は無視する)。政府は食料品にかかる付加価値税負担をなくすために軽減税率を検討しはじめた。しかし財政学者達は「軽減税率よりも、一定の給付金を配る救貧政策を採用すべきだ」と政府にアドバイスしている。仮に、最低限の生活に必要な食料品消費額(税込価格)を調べると一人あたり253,000円と算出されたとすると、一人あたり幾らの給付金を配れば、最低限の生活に必要な食料品消費にかかる付加価値税負担がないことと同じになるか、また、どうして給付金の方が軽減税率よりも優れた救貧方法であると考えられているのか、説明せよ。
10.相続税法16条・17条が採用している課税方式は法定相続分課税方式と呼ばれる。他の相続人が多くの遺産を受け取ったか少しの遺産を受け取ったかにより、相続税額が変わる仕組みであることから、遺産取得税の理念に沿わないとして法定相続分課税方式を批判する説がある。法定相続分課税方式の合理性を説明せよ。

【解説】
1.講義ノート2.4参照。Bがないと裁判所は原告の訴えについて原告適格なしとして棄却ではなく却下したであろう。
2.講義ノート5参照。浅妻は相続税法18条1項が差別的でありけしからんと考えているものの、裁判所は、「合理的理由のない差別的取扱いに当たるか」という観点から検討するであろう。そして、隣の子に財産を遺贈することが日本社会で多く見られる現象でないことからすると、親ではない者から財産を遺贈により取得することは破格の幸運であり、通常の相続による財産の取得と比べて、多く課税することが合理的理由のない差別に当たるとまではいえない、と裁判所は判断するのではなかろうか。正解のない問題であるが、あなたの勝手な考えを書くのではなく、最高裁の判断枠組みに従って、浅妻の考えを批判することが本問では求められている。
3.講義ノート6.6〜6.7参照。相続人の債権者が、被相続人の財産をあてにするという期待が法的保護に値するか否か、とか、借金している相続人が相続により財産取得を拒む自由はなくて債権者保護が優先されるべきと考えるか否か、とかいった点を論じることになる。
4.講義ノート7.2及び4.3参照。煙草の煙が迷惑であってかつ条例で禁止されているといっても、BがAを殴ってまで煙草の火を消すことまでは正当化されない。仮に正当防衛の話を持ち出すにしても、殴るのは過剰防衛である。従って刑事法上はBが暴行罪または傷害罪に問われることになるだろう。他方、Aは条例違反であるものの、罰則等が規定されていないため、刑事法上の問題は生じないであろう。民事法上は、BがAを殴ったことについてBが損害賠償責任を負う。AがBに煙草で迷惑をかけたことについてもAが損害賠償責任を負う可能性があるが、微額であろう。
5.講義ノート7.8参照。虚偽告訴の過失犯を処罰する規定はないので、虚偽告訴罪が成立するためには、Cが故意にDを貶めようとしたという立証が必要である。Cが、「Dは真犯人でない」と知っていたかどうかが鍵となろう。
6.講義ノート9.1参照。法律とか裁判システムとか。非競合性・非排除性を説明できているかが鍵となる。
7.講義ノート12.8及び12.2参照。給与所得控除額は126+(480−360)×20%=150(万円)。その他に100万円の所得控除があるから、課税所得は480−150−100=230(万円)。所得税額は195×5%+(230−195)×10%=13万2500円。
8.講義ノート13.5参照。
9.講義ノート14.7参照。税込価格253,000円ということは税抜価格は230,000円であり、付加価値税率が10%であるということは23,000円が付加価値税負担であるから、一人あたり23,000円を配ればよい。軽減税率だとどの品目を軽減税率の対象とするかで政治的闘争が激化するし、お金持ちが沢山消費した分まで含めて軽減税率の恩恵にあずからせるのは救貧策として無駄である。
10.講義ノート15.5参照。遺産が相続人間でどのように分割されても、全体としての相続税額が変わらないので、長子単独相続のように一人が集中的に遺産を受け取る場合でも相続税額が増えることもなければ、実体とかけ離れた遺産分割をして相続税額を減らそうという動機付けがそもそもなくなる、といった合理性がある。

【講評】
1.大変よくできました。棄却と却下との区別は法学を勉強していない人には馴染みのないものですが、説明すると伝わるのだなと安心しました。
2.ほとんど手が付けられていませんでした。合理的裁量の範囲ないかを論じてほしかったのですが、合理的裁量について殆ど論じられていませんでした。浅妻の説を批判せよという問題であるのに浅妻の説に賛同する答案がありました。
3.半分くらいできていました。相続人と被相続人との区別がついていない答案や、遺産分割と相続放棄との区別がついていない答案がありました。
4.概ね、民事法上の損害賠償請求の問題と、刑事法上のBの傷害罪または暴行罪の問題について、触れられていました。残念だったのが、BがAに損害賠償を支払わなければならないかもしれないことについて言及する答案が少なかったことです。
5.Cの故意の立証が難しいであろうことを概ね適切に論じていました。立証の対象がきちんと論じられていないものは減点しました。
6.道路や公園を挙げる答案が目立ちました。概ね非競合性と非排除性が鍵になることを論じることができていました。
7.思っていたより出来が悪かったです。9.にも共通する話ですが、単純な計算問題が苦手なのでしょうか。
8.全く手付かずのものも目立ちましたが、説明しようとしている答案の多くはきちんと説明できていました。
9.とても出来が悪かったです。
10.回答時間が短かったためか手付かずの答案も多かったのですが、説明しようとしている答案は概ね、均分相続を仮装することが無意味になる点、及び、単独相続などの場合でも相続税負担が過重にならない点を、論じることができていました。
S11%、A16%、B32%、C37%、D5%。平均54.4、最高85、最低25、標準偏差15.2。


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