2013年度国際租税法 於上智大学


講義ノートPDF(44頁)

 配布資料は、「学生がノートを書く負担を減らして、話を聞くことに集中できるようにするが、レジュメを見ただけでは理解しにくく、講義を耳で聞いて理解が深まる」というレベルを目指して作成しています。私自身の学生時代の経験から、耳で講義を聞いていた方が懸命に教科書を読んだだけというよりも理解が深まっている、と感じています。
 将来黄色のマーカー部分がつくとしたら、そこは訂正箇所です。
 将来青色のマーカー部分がつくとしたら、そこは講義でとばした箇所であり、期末試験の対象外となります。


期末試験解説 上智大学LAW63000国際租税法 浅妻章如 2013.7.25木曜2限
備考:A4紙2枚(表裏使用可)に自筆で書き込んだもののみ持ち込み可

解答の順序は任意だが、解答に際して問題番号を分かりやすく示しなさい。「数値を自作し」という問題について自作の数値が含まれない解答は加点対象としない。配点は時間配分の目安であり、租税法学上有意な記述であれば配点を超える加点も考える。

第一問(40点) (1) 税率を40%とし、その他の数値を自作して、法人・株主の二重課税が資金調達方法の選択に与える歪みについて説明せよ。
(2) 税率を40%とし、その他の数値を自作して、過少資本税制について説明せよ。
(3) 法人・株主の二重課税排除方法として、支払配当損金算入方式を立法する場合の、問題点について説明せよ。
(4) 外国子会社が日本法人たる親会社に配当を支払った際の、日本の法人税法上の法人・株主の二重課税排除方法を、説明せよ。そして、同様の排除方法を、外国法人が日本居住個人株主に配当を支払う場合にも適用するような立法をすることの、問題点について説明せよ。

【解説】(1)講義ノート9頁。資本より負債での資金調達が有利になるという歪みがある。法人が税引前利益100を稼ぎ、40の法人税を納め、株主に60の配当を払うとすると、株主段階でも24の追加的租税負担が発生し、合計の租税負担は64となる。法人が税引前(かつ利子控除前)利益100を稼ぎ、債権者に100の利子を払うとすると、法人税は0となり、債権者の100の所得について40の租税負担が発生し、合計の租税負担は40にとどまる。◇支払配当損金不算入◇支払利子損金算入◇資本負債の違い
(2)講義ノート42頁。国外支配株主が内国法人に対し出資している額が100であり貸付額が1000であるとする。内国法人が国外支配株主に100利子を支払うとしても、全額が損金算入されるのではなく、出資の何倍か(日本法ならば3倍)の貸付額(300)を超える部分に対応する利子(ここでは70)の損金算入が否定される。◇資本負債比率◇負債利子控除制限
(3)講義ノート10頁。外国に居住する株主に配当を支払う場合に、法人所在地国の法人税の課税ベースが失われてしまうので、資本輸入国にとって支払配当損金算入方式は税収減をもたらすという問題点がある。◇外国株主◇法人所在地国課税ベース喪失
(4)講義ノート35頁、10頁。法人税法23条の2により外国子会社が日本の親会社に支払う配当は、日本の親会社の益金に算入されない。同様の二重課税排除方法を日本居住個人株主にもするとなると、外国法人から受け取る配当について当該個人株主の累進税率が適用されず、累進税制を通じた納税者間での租税負担配分の公平が犠牲になる、という問題点がある。◇日本親会社益金不算入◇個人株主の累進機能不全◇個人投資家の外国会社投資促進でも可。

第二問(30点) 日本の法人税率を30%とする。日本とA国との間ではOECDモデル租税条約と同じ内容の租税条約が締結されている。A国法人B社が、日本に支店を設立せず、日本法人C社に金銭貸付けをし、C社はB社に100の利子を支払った。A国法人D社が日本にE支店(恒久的施設に該当する)を設立し、E支店が日本法人F社に金銭貸付けをし、F社はE支店に100の利子を支払った。B社が前述の利子について日本に納付する税額と比べ、状況次第で、D社が前述の利子について日本に納付する税額は大きくなることも小さくなることもあることを、その他の数値を自作しつつ、説明せよ。

【解説】講義ノート29頁。C社→B社の100について条約11条2項によりB社は日本に10の租税を納付する(実際には源泉徴収によりC社が日本の税務署に10を支払い、C社はB社に源泉徴収後の90を支払う)。F社→E支店の利子100については、条約11条2項ではなく条約7条によって課税される(条約11条4項)。E支店が40の費用をかけているとすると、E支店の事業利得は60であるから、D社は日本に18の租税を納付することとなり、B社の納付税額より大きい。他方、E支店が90の費用をかけているとするとE支店の事業利得は10であるから、D社は日本に3の租税を納付するだけで済み、B社の納付税額より小さい。
 ◇C→B利子100源泉徴収税額10◇F→E条約7条純所得課税(費用控除数値なしは減点)◇F→E費用が大きい(67以上)なら税額10以下

第三問(20点) 日本の付加価値税率を10%とし、P国の付加価値税率を20%とし、Q国は付加価値税がないとする。P国事業者が日本の消費者に物品を輸出販売する際の、付加価値税の課税について、その他の数値を自作しつつ、説明せよ。また、Q国事業者が日本に何ら物理的拠点を置かず日本の消費者にデジタル財をインターネットで有償提供する際の、付加価値税の課税について、その他の数値を自作しつつ、説明せよ。

【解説】講義ノート43〜44頁。P国事業者が税抜価格100で仕入れ、200で売るとすると、税込価格はそれぞれ120、240となる。しかし輸出時に免税となるので、20がPの国庫から還付され、日本には200で輸出し、日本の消費者が輸入物品を受け取る際に20の付加価値税を納付する。結局日本の消費者の負担額は税込で220となる。
 Q国事業者が税抜価格200のデジタル財を日本の消費者にデジタル財をインターネットで有償提供する場合、役務提供が日本国外で行なわれたと判定されるため日本の付加価値税が課されず、Q国の付加価値税も課されないため、200のままである。日本の消費者が同様の役務を提供する場合に日本の付加価値税が課せられることと比べると、Q国の事業者は競争上有利である。
 ◇物品輸出免税◇輸出事業者還付◇物品輸入課税◇物品競争条件同じ◇役務輸入非課税◇役務競争条件違う

第四問(10点) 利子率・割引率を年25%とし、税率を30%とし、その他の数値を自作しつつ、課税繰延が納税者にとって利益となることを説明せよ。

【解説】講義ノート8頁。100の税額の納付を1年繰り延べると1年後の100の割引現在価値は100÷1.25=80なので、課税繰延は納税者にとって20(割引現在価値)の利益となる。(税率30%は使っても使わなくても良い)◇時価主義→(1+0.25×0.7)^2=1.175^2=1.380625 実現主義→(1.25^2−1)×0.7+1=1.39375のような、時価主義・実現主義の比較でも、設定から課税繰延の説明に結びつきえれば、(計算が面倒になるが)正しければ加点する。

【講評】
第一問…(1)が第一問の出発点ですがあまりできていませんでした。(2)ができれば必然的に(1)もできる筈ですが、(2)ができても(1)ができない答案(つまり断片的な理解にとどまり体系的理解ができていない答案)が少なからずありました。逆に(1)ができた答案は他の問題も良く解けていました。
第二問…難しい問題なのでまあ仕方ないです。
第三問…よくできていました。
第四問…計算しやすくするため利子率割引率年25%の仮定を置いて計算させる(割引く時は0.8を掛ける)問題にしたつもりですが、優(易)しくしようとする配慮のために却って面倒になってしまったようです。セオリー通り年10%にしとけばと後悔しました。

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