2014年度租税法1(EX411)


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租税法期末試験2014年7月28日月曜日3限実施
 解答の順序は問わないが番号を示せ。解答の決まりごとを守らない答案(ペン・ボールペン以外で書かれた答案等)は零点とする。地方税法・租税特別措置法は無視する。租税法学上意味のある記述には配点を超える加点をする。額や多い・少ないを解答させる問題で答えだけが記されていても加点しない一方、答えが間違っていても途中までの計算や推論が正しければ加点要素とするので、計算や推論の過程を記せ。[試験問題に添付していた条文抜粋は、ホームページでは割愛している]
 本問の登場人物は全て日本居住者または日本法人である。A社に勤務するBは、STAF細胞なる発明をした。当該発明に係る「特許を受ける権利」は原始的にBに帰属し、BからAに移転され、Aが特許権者となった。「特許を受ける権利」のBA間の移転に際し、特許法35条にいう「相当の対価」をAがBに支払わねばならない。「相当の対価」として、当該特許権について「2015年以降Aが他社から受けるライセンス料の10%を毎年末にAがBに支払う」ことを、2014年12月31日にAB間で約定した。その日の[夕方 に訂正]、Bは事故死した。C及びD(ともにBの実子)がBを相続した。Bには当該「相当の対価」請求権以外に資産・負債はなかった。CとDの遺産分割協議で、Cが4割、Dが6割を相続することとなった。2015年中に、当該特許権のライセンス契約がAとE社との間で締結された。EはAに2015年以降3年間毎年12.5億円のライセンス料を支払う(特許権の存続期間は出願日から原則20年間であるが、本件では当該発明の事業上の有用性が3年間であったということ)。2015年〜2017年の毎年末に、Aは、Cに5000万円、Dに7500万円を支払う。本問では年複利計算の利子率・割引率が25%であるとする。
 (1)2015年12月31日の1億2500万円の2014年12月31日時点での割引現在価値を求めよ。
 (2)2014年12月31日のAB間の「相当の対価」の約定により、Bに「相当の対価」に係る収入金額が生じるとしたならば、更に「2015年以降Aが他社から受けるライセンス料」が当時予見できるとしたならば、当該収入金額は幾らか、求めよ。
 (3)2014年にBに「相当の対価」に係る所得税法36条にいう収入金額が生じるか否か、論じよ。
 (4)仮に(3)の答が是であるならば、その所得分類は何か、複数の考え方を論じよ(あなたがどの説を支持するかは書かなくてよい)。余力があれば、Bが生存して2015年末に1億2500万円を受け取った場合の所得分類も論じよ。
 (5)仮に(3)の答が否であるならば、更に「2015年以降Aが他社から受けるライセンス料」が相続開始時に予見できるとしたならば、相続税法15条〜17条に従いDの納めるべき相続税額は幾らか、求めよ。
 (6)本問と関係ないFが死亡し、GとH(ともにFの実子)が均分相続した結果、Gが納めるべき相続税額は(5)と同じであった。Gが受けた遺産額はDと比べて多いか少ないか、推論せよ。
 (7)(6)に関連して、遺産額の異なるDとGの納めるべき相続税額が同じであることは差別であるとして憲法14条1項に違反することになるか、租税立法違憲審査基準に関する先行判例を踏まえつつ、論じよ。
 (8)遺産分割をした後、DがAから「相当の対価」の支払いを受ける前にDが「相当の対価」請求権を全て放棄したならば、Dに所得税法59条1項1号が適用されるか、論じよ。
 (9)生命保険年金二重課税事件・最判平成22年7月6日民集64巻5号1277頁の判示内容を(余力があれば、一審判決・二審判決との違いも踏まえつつ)説明せよ。
 (10)2015年12月31日にAがCに払った「相当の対価」5000万円について、Cは所得課税を受けるか、受けるとすれば所得金額はどう算定されるべきか、(9)との関係を踏まえつつ、論じよ。(3)の答がどうであるか、B死亡時に「2015年以降Aが他社から受けるライセンス料」を予見できるか否か、など、様々なパターンに応じて論点は多数想定しうるため、はっきりいって(10)は鬼畜レベルで難しいが、あなたの議論の前提となる場合分けをきちんと提示した上で論じてほしい。

【解説】(採点を経て採点基準を少し修正)
 (1)教科書84頁。1億2500万/1.25=1億2500万×0.8=1億円。10点。/1.25が書いてあるのに計算ミスがある場合は5点。計算過程抜きで答しか書いていない場合は0点。
 (2)1億2500万/1.25+1億2500万/1.252+1億2500万/1.253=1億2500万×0.8+1億2500万×0.82+1億2500万×0.83=1億+8000万+6400万=2億4400万円。10点。1億2500万/1.25+1億2500万/1.252+1億2500万/1.253が書いてあって計算ミスをしている場合は9点。1億2500万/1.252など、複利計算での割引が分かっているようであれば5点。計算過程抜きで答しか書いていない場合は0点。
 (3)教科書100頁。所得税法36条1項「収入すべき金額」が権利確定主義の表れであることを踏まえつつ、2014年中に権利確定があったといえるかどうかを論じていれば5点加点。|結論はどちらでもよい。契約をし更にBは労務の提供を終えておりなすべきことを全てやったあとなのだから権利が確定している、という筋の答案でもよいし、契約が2014年であっても「2015年以降Aが他社から受けるライセンス料」が2014年に確定できるとは限らない以上2014年に確定はしていない、という筋の答案でもよい。どちらの結論であっても権利確定主義と関係あるように(現金主義とは違うということを意識して)論述できていれば5点加点。両説を見比べて詳細に検討した結果自分なりの答を説得的に論じていれば10点加点。2014年に何ももらってないから2014年の収入金額でない、など、現金主義との区別が明らかでない答案は0点。
 (4)教科書122頁。「特許を受ける権利」という「資産」の譲渡による所得であるとして、譲渡所得の可能性がある。次に、「資産の譲渡」であるかどうかよりも、AB間の雇用関係を重視し、労務の対価であることから給与所得である可能性がある(佐藤英明説。浅妻も佐藤説支持)。資産の譲渡と譲渡所得との関係を論じていれば5点加点。雇用関係と給与所得との関係を論じていれば5点加点。|あなたがどの説を支持するかは書かなくてよい。|なお、所基通23〜35共-1(1)は、一時払は譲渡所得、随時払は雑所得であるとしている(が、浅妻は、給与所得説をひとまず措くとしても、一時払か随時払かで所得の性質が変わるというのは論理的におかしいのではないかという疑問を抱いているが、随時払の場合、本件でいえば2014年中に所得の実現がないという前提なのであろう)。もしも一時払と随時払とで場合分けして譲渡所得と雑所得との関係を論じていれば5点加点。|余力がある場合。2014年に1億円の収入金額がたつとして(この点は通達の前提と異なる)、2015年にBが生存していて1億2500万円を受け取った場合、金利相当の2500万円の所得が生じたと考えられるので、2500万円の雑所得というべきであろう。金利相当だから雑所得であることを理解していれば10点加点。2014年に1億円の収入金額がたつかどうかと2015年末の1億2500万円との関係に無頓着なまま論じていれば、一時払と随時払との違いへの着目と同レベルとして5点加点。
 (5)教科書241頁。(2)で計算したように相続財産の時価は2億4400万円である。基礎控除は5000万+1000万×2人=7000万円である。基礎控除の計算ができていて5点加点。|2億4400万−7000万=1億7400万円を二人で法定相続分に従って半々ずつ相続したと仮定すると、8700万円ずつ相続したと仮定することになる。8700万円の部分が間違っていても、均分相続の仮定が計算過程から読み取れれば5点加点。|税率を当てはめると、1000×0.1+(3000-10000)×0.15+(5000-3000)×0.2+(8700-5000)×0.3=100+300+400+1110=1910(速算のための控除額を使って8700×0.3−700=1910でも可)であるから、二人分である3820万円が相続税額総額となる。計算が間違っていても、相続税額総額を算出する際の超過累進税率の当てはめが読み取れれるような計算過程であれば5点加点。|Dの遺産割合は6割なので3820×0.6=2292万円がDの相続税額である。6割按分が分かって5点加点。|計算結果があっていれば5点加点。
 (6)教科書241頁。仮にG(及びH)がDと同じ遺産額を受け取っていたら、G及びHの合計の遺産額はC及びDのそれの1.2倍であるから、超過累進税率の下では、G及びHの遺産額に占める相続税額の割合は、C及びDのそれよりも高くなる筈であり、Gの相続税額はDの相続税額よりも多くなる。しかし設問ではGとDの相続税額が同じであるので、GはDより少ない遺産額を受け取っていたと推論できる。|Gの遺産額をg万円とおくと、Fの遺産合計が2gであり、(2g−7000)/2に累進税率を適用するので、100+300+400+(g−3500−5000)×0.3=2292となる。これを変形してg=(2292−800)/0.3+8500=13473よりGの受取遺産額は1億3473万円(万未満は省略)。Dは24400×0.6=14640より1億4640万円。|10点。答だけで推論過程が書いてなければ0点。CD間の遺産分割割合とGH間の遺産分割割合が違うことを意識しかつ法定相続分課税方式との関係を意識した推論過程が書いてあれば、答が「Gの方が多い」であっても5点。
 (7)教科書18頁、242頁。大島訴訟・最判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁が、租税立法違憲審査基準に関するリーディングケースである。租税立法には国政全般からの総合的な政策判断が要求されること及び専門技術的な考慮が要求されることに鑑みて、憲法14条1項平等原則違反に当たるかを判断するに際し、租税法上の差別が「著しく不合理」であることが「明らか」でない限り、裁判所は違憲と判断しない、という緩やかな合理性の基準(合憲性の推定)がとられている。|遺産額の少ないGがDと同じ相続税額が課されることが「著しく不合理」であることが「明らか」であるかを考えるに際し、現行相続税法の法定相続分課税方式の合理性があるかを考えてみると、長男が殆どの遺産を受け取る場合などに相続税負担が過重になることを防ぐといった合理性が認められ、本問のようなGとDの扱いが「著しく不合理」であることが「明らか」であるとは言い難く、憲法14条1項違反とは言い難いであろう(但し講義でも述べたように立法論としては法定相続分課税方式に対する異論も根強い。浅妻は法定相続分課税方式がおかしいとは思ってないけれども)。|「著しく不合理」「明らか」という基準とか、緩やかな合理性の基準ということを示していれば5点加点。|緩やかな合理性の基準の理由が、租税立法における総合的な政策判断の必要性だとか専門技術性だとかにあることを示していれば5点加点。|法定相続分課税方式により遺産額の少ないGと遺産額の多いDの相続税額が同じであるということは、遺産額に対する税負担についてGとDとの間で差別がある、という問題(遺産額に応じた課税をよしとする考え方、すなわち遺産取得税方式にのっとった課税をよしとする考え方から見た問題)があるということになる。法定相続分課税方式の立法理由としての合理性を説明していれば5点加点。|法定相続分課税方式の合理性が、最判昭和60年3月27日の「著しく不合理」「明らか」基準に照らして判断する過程を説明していれば、結論がどちらであっても5点加点。
 (8)教科書115頁。所得税法59条1項は、個人が法人に資産の贈与(著しく低額な譲渡を含む)をした場合に、個人が時価で譲渡したと擬制して資産の含み損益を強制的に実現させる規定である。59条1項が時価譲渡擬制であることを示して5点加点。59条1項の趣旨が無限の課税繰延防止であることを述べているにとどまる場合でも5点加点。|本問では、請求権放棄がDからA社への贈与に当たるかをとりあえず論述していれば5点加点(誰から誰への資産の移転であるかが分からないような記述なら0点)、説得的に(以下に述べるように結論はどちらでもよい)論述していれば10点加点。|所得税法59条1項が適用されるという筋を考えるならば、「相当の対価」請求権という「資産」を贈与したと構成することとなろう。Dの相続開始時点での遺産の時価は2億4400万円×0.6=1億4640万円であるところ、2015年12月31日にDが「相当の対価」の支払を受ける直前のDの請求権の時価は1億4640万×1.25=1億8300万円であり、1億8300万−1億4640万=3660万円の譲渡所得がDに発生する、ということになる。|所得税法59条1項が適用されないという筋を考えるならば、請求権放棄は「資産」の贈与には当たらないという構成を論述することになろう。また、所得税法59条1項は資産の含み損益の課税繰延を防止するための規定であるところ、本問では課税繰延を懸念すべき資産の含み損益はないといえるのではないか、という経済実質的な考慮も働かせることができるかもしれない。|「資産」に金銭・金銭債権は含まないから本件でも59条1項1号は適用されない、という筋でも10点。金銭・金銭債権だからという説明はないが譲渡益が発生しないから59条1項が適用されない、などの説明になっている場合は5点。(浅妻は、本件で2014年末時点の時価と2015年末時点の時価との差額としての含み益部分が観念できるため、金銭債権だから59条1項の対象外であるという理屈に賛同しないが、答案としては認める)
 (9)教科書126頁。一審は、相続課税の対象となった年金受給権と、その後受け取る年金は、法的には別の財産であっても、所得税法9条1項16号の趣旨すなわち二重課税防止という趣旨に照らし、年金に所得税を課してはならないと判断した。5点加点。|二審は、法的に別の財産である以上、年金に所得税を課しても、所得税法9条1項16号が禁ずる二重課税には当たらないと判断した。5点加点。|最高裁は、所得税法9条1項16号の趣旨は、相続税の課税対象となった所得についての二重課税を防止するものであると解した上で、将来の年金の相続開始時点での割引現在価値と同額の部分については年金受領時に所得税が課せられないと判断したが、この判断を裏から読むと、相続開始時点での割引現在価値を越える部分の年金受給については所得税が課せられると判断したものと理解されている。相続税と所得税の二重課税について論述しているだけならば5点加点(単に二重課税と書いている場合は、生命保険と年金との二重課税という意味不明なことを考えている場合と区別できないため、0点)、元本部分と運用益とを最高裁が区別したことまで含めて論述しているならば10点加点(単に運用益に言及しているだけで二重課税の中身を論述してなければ5点)。|本問と関係ないが最判平成22年7月6日の意義として生命保険会社による源泉徴収が適法であるので生命保険年金受領者が直接国に還付請求できることを論じていたならば5点加点。
 (10)(9)の判例を「先行判例」と呼ぶ。本件が先行判例の射程内であるとすれば、Cが2015年末に受け取る5000万円の2014年末時点での割引現在価値4000万円が相続税の課税対象となり、差額の1000万円が2015年のGの課税所得に算入される。ここまでが標準的な要求であり、論述できていれば10点加点。相続税課税と所得税課税の二重課税の調整の有無が論点であることが書いていれば1000万円という数値が導かれてなくても、5点加点。本件が先行判例の射程内であるとは限らないので、二重課税の調整の有無が論点であることが書いてあり、かつ、二重課税の調整をすべきでないと論じた上で2015年の課税所得が5000万円と論じているならば、10点加点。
 しかし設問にヒントとして書いた通り、幾つかの考え方の可能性がある。本当に難しい問題である。通常の学部生に以下のような論述をすることまで要求するつもりではないが、他方で、果敢に挑戦する学生がいるかもしれないので、念のため解説する。租税法専門家の間でも本件が先行判例の射程内であるかについて意見が分かれよう。租税法上意味のある記述であれば書けば書くだけ加点する。
 本件が先行判例の射程内であるか、本件でB死亡時に「2015年以降Aが他社から受けるライセンス料」を予見できるとして「相当の対価」が2014年のBの課税所得に算入されるといえるか否かがCの所得課税に影響を及ぼすか、という二つの軸がある。
 本件が先行判例の射程内であるか。先行判例は有期定額の金銭給付についての問題であったが、「相当の対価」は有期定額の金銭給付であるとは限らず、先行判例の射程内であるとは言い切れない。たまたま本件のCへの支払が有期定額の金銭給付となったからといって、年金と「相当の対価」との違いに鑑みれば、直ちに先行判例の射程内にあるとは言い切れない。しかし他方で、Cが受け取るのは「相当の対価」そのものではなく、BがAと契約したことに基づく金銭給付であり、結果として有期定額金銭給付となったのであるから、「相当の対価」が一般的に先行判例の射程内にあるとはいえないとしてもなお、本件の事実関係に照らせば本件が先行判例の射程内であるとの理解も成り立ちうる。どちらが適切か、これは専門家内でも意見が分かれよう。
 以下、先行判例の射程内であるか否か、Bの2014年の課税所得に算入されたか否かで4通りの場合分けをしてみよう。
 (あ)先行判例の射程内でありBの2014年の課税所得に算入されることを前提とした場合。
 2015年末にCが受け取る5000万円の2014年末の割引現在価値4000万円がBの課税所得に算入され、4000万円がCの相続税の課税対象となり(ただしその際にはBの所得税納税義務が相続税の計算上債務控除される)、更にCの2015年末の5000万円の受取についても所得税を課すべきであろうか。Bの所得課税とCの相続課税との二重課税は元々予定されている二重課税であるからこれに異論を唱えることは難しい。他方、Bの所得課税とCの2015年末の所得課税との二重課税の調整については、別論であるとの立論の可能性がある。この点について、先行判例は、Bの課税所得算入の有無と切り離してCの相続課税・所得課税の二重課税を防ぐ、という論理に基づいているため、Bへの所得課税とCへの所得課税とを調整する必要はなく、あくまでCの相続課税とCの所得課税とを調整すれば足りる、というのが先行判例に忠実な解決方法である。すると、Cの相続課税対象額たる4000万円と2015年末の5000万円の受取額との差額である1000万円がCの課税所得となる。しかし、先行判例が出た後の通達は、Bの出捐をCの課税所得計算上按分的に控除することを認めている。通達による扱いとのバランスを重視するならば、Bの課税所得に算入された4000万円を、Cが受け取った5000万円のうちの4000万円と1000万円とに按分して、1000−4000×1000/5000=200(万円)がCの課税所得に算入されることとなる。この通達の扱いは先行判例の理論に沿わないと浅妻は考えているが、もしも通達に沿った計算を書く答案があればそれなりの加点はする。
 (い)先行判例の射程内でありBの2014年の課税所得に算入されないことを前提とした場合。
 (あ)で述べた通り、先行判例を前提とすると、Bの2014年の課税所得算入・不算入は、Cの課税所得計算に影響を及ぼさない筈である。但し、(あ)で通達による扱いとのバランスを重視するならば、(あ)との対比で(い)ならば按分控除の計算は不要であり、Gの2015年末の課税所得算入額は1000万円のままであることになる。
 (う)先行判例の射程外でありBの2014年の課税所得に算入されることを前提とした場合。
 2015年末の5000万円の2014年末における割引現在価値4000万円がCの相続課税の対象財産に含められたことは、Cの2015年の所得計算において考慮されない。これは、例えば、土地を相続した者が、相続税の課税の如何に関係なく、当該土地の賃貸から得られる賃料について全額(但し不動産所得計算上の必要経費があれば必要経費控除が当然に認められることは別論である)課税所得に算入されることと、同様であるといえる。しかし、先行判例の射程外であるということは、Bの課税との調整という問題が別途生じうる。2015年末の5000万円の2014年末における割引現在価値4000万がBの課税所得に算入されたならば、所得税法60条1項を類推解釈して、Cの2015年末の受領額5000万円のうち4000万円を取得費に相当する控除項目として扱うべきである、と考える余地がある。Cが2015年末に受け取る5000万円は譲渡所得に係る収入金額ではないため所得税法60条1項の類推は難しいにしても、Cが2015年末に受け取る5000万円は雑所得であると考えられるため、年金に関する所得税法施行令183条〜186条の考え方を類推して、Cの2015年末の5000万円のうちBの手許で課税所得に算入されるべき4000万円を控除し、Cの2015年末の課税所得算入額は1000万円にとどまる、という解決をすべきである、といった立論が考えられようか。
 (え)先行判例の射程外でありBの2014年の課税所得に算入されないことを前提とした場合。
 Cの相続税の課税対象とCの2015年末の所得との調整は不要である。これは、(う)で挙げたように、土地を相続した者の当該土地から生ずる賃料の扱いと同様である。また、Bの課税所得にも含められていないとすれば、Cが2015年末に受け取る5000万円がそのまま全額Gの課税所得に算入されるべきということになろう。


【講評】
 (1)平均4.37点。半分以上正解してほしかったのですが残念です。|【就職活動が忙しかった……云々】といったことを書く時間があるなら「計算や推論の過程を記せ」という注意事項くらい読んだ方がよかろうにと思うのですけれど、単位を落とすことになってでも【教員が勝手に作った枠に、はまってたまるものか】といった生き様の美学を追求しているのでしょうか、格好よすぎます。
 (2)平均0.51点。(1)と(2)はサービス問題のつもりで、あえて(1)で割引現在価値を計算させてヒントを出したのですが、その出題意図に気付いてもらえず、(2)が壊滅的だったのは、ショックです。
 (3)平均4.52点。現金主義との区別がついていない答案は0点にしています。現金主義とは違うことがうかがわれる答案の中では、権利確定があるという答案とないという答案は、拮抗していたかな(前述の通り結論がどちらであっても論述がしっかりしていれば加点しています)、という印象です。後者の中ではとりわけ【2014年のうちにAが他社から得るライセンス料が確定していないので、Bにとって確定とはいえない】という筋の答案が目立ちました。
 (4)平均4.13点。当初予定していた正解は譲渡所得と給与所得ですが、弁護士顧問料事件・最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁を念頭に置いて事業所得に該当する可能性を論じた答案も目立ちました。従業員発明の「相当の対価」が事業所得に当たる可能性は極めて低いですが、これは学部の試験であって講義内容をきちんと勉強した証であると思い、事業所得に該当するという筋の答案であってもBがA社から独立していることをきちんと論じていれば加点しました。
 (5)平均5.36点。正解は一人だけです。正解した人、周囲に【百人以上受験して自分だけ正解した】と自慢してください。|法定相続分課税方式を理解するのは難しいであろうと思い、計算過程で加点ポイントを設けたので、平均点は高いですが、出来はとても悪いです。|1・2年次対象の現代企業法では超過累進税率がそこそこ理解されていたのですが、私の講義がどんなに下手であろうと教科書を読めば超過累進税率は理解できてよい筈のところ、3・4年次になっても単純累進税率で計算するなんて、馬鹿なんですか?馬鹿なんですか?馬鹿なんですか?(分かりにくいので訂正)馬鹿じゃないの?馬鹿じゃないの?馬鹿じゃないの?(多華宮霞 CV:茅野愛衣)
 (6)平均1.67点。Gの方が多いとする答案の方が圧倒的に多かったのは不思議です。ひっかけ問題のつもりではなかったのですが。|Gの方が少ないという結論だけ合っていても、推論過程が理不尽であれば、加点していません。
 (7)平均1.23点。大島訴訟が先行判例であることは何割かの答案が気付いていましたが、「著しく不合理」であることが「明らか」であるかという判断基準については、あまり書けていませんでした。
 (8)平均0.75点。所得税法59条については念入りに講義したつもりだったのですが、それでも59条の趣旨はあまり理解されていないようでした。59条は所得税制を理解する重大な鍵なのですが、難しいのでしょうね。
 (9)平均1.51点。【生命保険年金】という一つの商品についての課税問題なのですが、生命保険と年金の二重課税とかいった意味不明な答案が散見されました。きっと復習が第12講まで進まなかったのでしょう。
 (10)平均0.56点。これは難しいのでしゃーない。
 全体平均24.6点。標準偏差18.8。最高85点。最低0点。素点のままだと7人しか合格しないので、補正しています。S11.1%、A11.9%、B11.1%、C46.8%、D19.0%。
 上智の国際租税法(しかも、あちらは持ち込み可)よりは平均点が高いので、とりあえず立教法学部生は上智法学部生より優秀であるということができます。(勿論【問題が違うから単純比較はおかしいだろ】という突込みもありましょうが)(ところで、なぜ立教法学部で持ち込み可の試験にしないのかと疑問に思われるかもしれません。私は自筆ペーパー持ち込み可にしたいのですが、許可してもらえません。学生が持ち込み可の試験を望んでくれるならば、ですが、教授会と教務に学生から圧力かけてもらえないものでしょうか。)
 月曜1限から3限に変わり、受験者数が例年の4倍くらいに増えたので、平均点が相当下がるだろうなと覚悟していましたが、覚悟していた中の悪い予想よりはマシでほっとしています。ただし、3年次生の平均27.7点に対し4年次生の平均が19.5点で、3割も平均点が違っています。4年次生の中にはダメもとで受験している人もいるのでしょうけれど。
 標準偏差は大きめです。つまり出来不出来の差が激しいということです。昨年と同水準で線引きしましたが、昨年よりDの割合が多い反面SAの割合も多いです。
 「租税法学上意味のある記述には配点を超える加点をする。」が誤読されたのか、問題と関係ないことを延々書いている答案もありましたが、問題と関係ないことには加点できません。小問一つあたり10点という配点を超える加点をするための根拠となる文言であるにすぎません。
 私が学生の時は試験時間120分で、それでも試験時間終了ギリギリまで書き込まなければならないのが通例でした。立教では試験時間が80分しかないので書く時間が足りなくなる筈ですが(途中退室する余裕などありえません)、一点でも多く得ようというガリガリ答案に書き込むという貪欲さが立教生には欠けているように見受けられます。そうはいっても、答案に無駄なことが書かれていても加点要素にしておりませんが(なお、【単位ください】みたいな余事記載は、不勉強の自白であるとして答案の解釈において学生に不利に作用する可能性がある、と、以前どこかの偉い教授が書いておりました)、記述があっさりしすぎて加点要素を漏らしているのではないかと見受けられる答案が少なからずあります。私が学生の時よりも今の方が大卒に求められる要求水準は高まっていると見受けられますので、私は講義内容の質を下げるつもりはありません。



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