2014年度租税法2(EX412)


講義ノートはコーラスにアップロードしています。
単位下さい、という嘆願文は、嘆願者に不利に作用する可能性があります。教員は採点に際し答案の文章を正解に近いものとして何とか善解しようと努めています。その時に、嘆願文があると、【学生自身がきちんと答案を書けていないことを認識しているから嘆願文を書いたわけであろうから、善解できない】という判断に傾く可能性があります。


租税法期末試験2015年1月26日月曜日3限実施
 解答の順序は任意だが、解答に際し問題番号を分かりやすく示せ。配点は時間配分の目安としてほしいが、租税法学上意味のある記述には配点を超える加点をする。「数値例を自作した上で」という指示のある問題について、答えが誤りであったとしても、途中までの計算過程が適切であれば加点要素とするので、計算過程を分かりやすく記すよう努めよ。解答の決まりごとを守らない答案(ペン・ボールペン以外で書かれた答案等)は零点とする。[参照条文割愛]

 第1年度:日本法人A新聞社に勤務する取締役兼記者の日本居住者B氏は、「従軍慰安婦の闇」という記事を書いた。更にBは、C国法人D社(Aの完全子会社である)の招聘を受け、C国で講演等の活動をした。日本とC国との間にはOECDモデル租税条約と同じ内容の租税条約が締結されている。DはAにB招聘謝金を支払った。Bの記事は諸外国にも広まり、【日本を訪れた外国人女性はレイプされる】という誤解が広まり、そのために日本を訪れる旅行客が減り、ホテル業を営む日本法人E社は大打撃を受けた。
 第2年度:Bの記事の検証がなされ、きちんとした証拠に基づいていないなど捏造に近い誤った記事であったことが明らかになった。Bの記事が誤りであるとの検証記事が公表されてから、日本を訪れる旅行客の数も回復した。Eは、旅行客数回復前の売上減少に関し、Aに損害賠償請求をした。
 第3年度:EのAに対する損害賠償請求の認容判決が確定した。Bは第3年度末に退職予定であるが、AはBに対し求償するか考えている。

 (1)(10点) Aは、どのように付加価値税額を計算し納税するか、付加価値税率を10%とし(国税・地方税の違いは無視してよい)、売上額・仕入額等の数値例を自作した上で説明せよ。
 (2)(10点) 新聞に係る付加価値税を非課税とする場合、及び0税率とする場合について、Aの付加価値税の負担はどう変わるか、(1)の数値例に沿って説明せよ。
 (3)(10点) AがDから受け取る謝金((3)(4)において謝金は適正額であるとする)についてC国が法人税を課すことの可否を論じよ。その際、AがC国に支店を有する場合と有さない場合について、論じよ。
 (4)(10点) (3)に関しC国の課税が可能であると仮定して、AがDから受け取る謝金についての日本の法人税の課税がどうなるか、数値例を自作した上で説明せよ。なお、講義でタックスヘイヴン対策税制(租税特別措置法66条の6)を説明していないので、タックスヘイヴン対策税制は無視する(Dは租税特別措置法66条の6にいう特定外国子会社等に当たらない)。
 (5)(10点) DがAに支払う謝金が無料の場合並びに過大及び過小である場合、どちらの国がどのような課税処分を打つと予想されるか、数値例を自作した上で説明せよ。
 (6)(10点) EがAから受領した損害賠償金はEの法人税法上の益金を構成するか、Bの記事がなかった場合との比較を想起しつつ、論じよ。
 (7)(15点) (6)に関し損害賠償金がEの益金を構成すると仮定して、益金算入時期はいつか、論じよ(思いつく限りの複数の可能性とその論拠を述べよ)。
 (8)(10点) AがBに対し求償した場合の求償債権について、Aの法人税法上の益金・損金の扱いはどうなるか、AがEに支払った損害賠償金の損金該当性と合わせて、論じよ(Bの求償債務に関する支払い能力について場合分けして論じれば加点要素とする)。
 (9)(15点) AがBに対し求償しない代わりにBの退職金を零にするとした場合、Aにおける益金・損金の扱いはどうなるか、論じよ(関連しうる法人税法の条文は複数あるので、思いつく限りの複数の可能性とその論拠を述べよ)。本講義では個人所得税は対象外なので、Bの課税関係について解答する必要はないが、Bの課税関係について適切に論じていたらそれも加点要素とする。

【解説】
 (1)教科書211頁参照。税込仕入額2200、税込売上額3300なら、300−200=100を納税する。
 (2)教科書220-221頁。非課税の場合、売上額3300に係る300の納税義務が発生しない代わりに、200の仕入税額控除を主張できない。0税率の場合、税抜売上3000に係る付加価値税額が0である上に、2200の仕入に係る200の仕入税額控除を主張できる。
 (3)教科書266頁以下。AがC国にPEを有していない場合、C国はAの得る事業利得について課税できないし、PEを有している場合でもPEに帰属する利得でなければ課税できない。AがC国に支店を有していない場合、他にAがC国にPEを有していると認定されそうな事情は問題文からうかがえないため、C国は課税できない。AがC国に支店を有している場合であっても、Dから受け取る謝金が当該支店に帰属する事業利得であると認定するための事情を問題文からは導きがたいので、やはりC国は課税できない。AがC国に支店を有している場合でC国が課税できるというためには、当該支店に帰属する何らかの特殊事情を想定して答案にその旨を書かねばならない。
 (4)教科書286頁。仮にC国で課税することができるのであれば、C国はAのPEに対して課税する。事業利得を100、C国税率を30%、日本の税率を35%とすると、C国は30の課税をし、日本は外国税額控除を適用して35−30=5の課税をする。(作問時に想定していなかったが、外国税額損金算入の筋で説明していても、破綻していなければそれなりに加点。)
 (5)教科書頁293頁以下。謝金が無料または過小という場合、Aの所得が過少となり日本の税額が減るので、日本が【AがDからarm's lengthの謝金を受け取ったものとみなしてAの益金の額を計算し直す」という課税処分を打つと予想される。謝金が過大という場合、Dの所得が過少となりC国の税額が減るので、C国が【DがAにarm's lengthの謝金のを支払ったものとみなしてDの損金の額を計算し直す」という課税処分を打つと予想される。(無料または過小の場合をひとまとめにせず、区別して、無料の場合に法人税法37条の寄附金の説明をしている場合は、加点。)
 (6)教科書146頁。所得税法と異なり法人税法上は損害賠償金の受領もEの益金を構成する。もしBの記事がなかったらEに100の収益が生じたはずであるところ、Bの記事により客が減り収益が40に減っていたとして、EがAから60の損害賠償金を受け取ったならば、40+60=100として損害賠償金を益金に算入することが、Bの記事なかりし場合のEの課税所得と均衡がとれる。
 (7)教科書151頁以下。益金の計上時期は「権利確定主義」によることが、法文上明確ではないものの、判例通説によって認められている。損害賠償金請求権がいつ確定したかについては複数の可能性がある。第1の可能性として、第1年度に【Bがおかしな記事を書く】という不法行為が存在し、Eの収益が減るという損害も発生しているので、第1年度にEの損害賠償金請求権は発生していた、と考える余地がある。第2の可能性として、第1年度に不法行為が存在していたと後知恵で分かったとしても、第1年度においてBの記事が不法行為を構成するかはっきりしない、という場合もありうる。第1年度においてEがAに損害賠償金を請求できるとの認識が通常生じえないのであれば、第1年度に損害賠償金請求権も発生していない、しかし第2年度にBの記事がおかしいという不法行為が認識できるようになったのであるから、第2年度において損害賠償請求権が発生したと考えられる。逆にいうと、第1年度においてEの益金算入を肯定するためには、第1年度においてEが損害賠償請求することが可能であった、という問題文からははっきりしない事態を想定しなければならない。だから、第1の可能性と第2の可能性について場合分けして論ずる必要がある。第3の可能性として、(春期に勉強した仙台家賃増額請求事件・最判昭和53年2月24日民集32巻1号43頁のように)損害賠償請求することができるというだけでは権利の確定があるとはいえず、損害賠償請求の認容判決が確定した第3年度こそがEの益金の計上時期である、と考える可能性もある。この筋は、Eが第1年度において損害賠償請求をすることができたか否かという、第1の可能性と第2の可能性とを分ける考慮要素と、無関係に、裁判の確定をもって権利確定基準にいうところの確定があるとするものである。(損害賠償請求をすることができる時点で権利確定があるというべきか、裁判の確定をもって権利確定があるというべきかについて、悩んでほしいからこそ、「思いつく限りの複数の可能性とその論拠を述べよ」という問題を作った。従来の判例によれば、損害賠償することができる時点で権利確定がある、という第1または第2の可能性を支持するであろう。なお、本問において仮執行はないので、前掲最判昭和53年2月24日をもってしても、本問で管理支配基準を当てはめるのは難しい。第3年度の判決確定ではなく現金主義で説明している場合は加点なし)
 (8)所得税法45条と異なりAがEに払った損害賠償金の損金算入を制限する規定は法人税法(55条)にないので(本問で法人税法34条:役員給与や法人税法37条:寄附金を当てはめるのは難しい)、損金に算入される。それとの見合いで、AのBに対する求償債権はAの益金に算入される(EのAに対する損害賠償請求ではEの債権額がEの提訴時には明確でないという問題があるかもしれないが、AのBに対する求償ではAの債権額が明確でないという問題はあまりないので、)AのBに対する求償が可能となった時点でAの益金に算入しなければならない。しかし、請求してもBの資力が乏しく求償請求権が満足されない可能性がある。この場合、貸倒損失と同様に(教科書171頁、興銀事件・最判平成16年12月24日民集58巻9号2637頁)、金銭債権の回収不能が客観的に明らかな時点になって初めて回収不能分をAの損金に計上できるようになる。
 (9)教科書177頁以下。第1の可能性として、AのBに対する求償債権とBのAに対する退職金請求権とを相殺したと考えるとすると、AのBに対する経済的便益の供与が法人税法34条にいう役員給与に当たり、損金算入制限の対象となる可能性がある。(8)で見たように、AはBに対する求償債権を益金に計上しなければならず、他方で債権放棄について法人税法34条により損金算入ができなくなる可能性がある、ということである。しかし、AがBに退職金を払っていたならばAの損金に算入されていたはずなのに、AのBに対する求償債権とBのAに対する退職金請求権とを相殺したら、Aが損金に算入できなくなる、という結果はアンバランスであるという問題もある。この点に苦悩して答案を書いてほしい。更に、求償額が退職金額を超える場合に、当該超える部分の金額の損金算入の可否はどうなるかという問題もある。更に、求償額が、退職金を受け取っていた場合のBの責任財産額を超える場合、どのみちAはBから求償金を満足に受け取ることができないはずであるから、当該超える部分の金額はいずれの法律構成であろうともAの損金算入を認めなければおかしいのではないか、という問題もある。第2の可能性として、AのBに対する債権の放棄が、無償の利益供与として、法人税法37条にいう寄附金に当たり、寄附金損金算入限度を超える部分の損金算入が否定される可能性がある。この場合も、第1の可能性についてと同様に、求償額が退職金額を超える場合にどう考えるか、及び、求償額がBの責任財産額を超える場合にどう考えるかという問題がある。法人税法基本通達9-7-16(2)によれば、求償権をいったん債権として益金に計上し、法人税法基本通達9-7-17によれば、回収不能部分については貸し倒れと同様に扱うが、回収可能部分については給与扱い。もちろん通達まで読み込んでいることまでは前提としていないが。
 おまけ問題:Bの課税関係についてであるが、第1の可能性としてAのBに対する求償債権とBのAに対する退職金請求権とを相殺したと考えるとすると、Bは退職金を受け取ったものとして所得課税を受けるべきであろう。かつ、所得税法45条1項7号により損害賠償金の必要経費算入は禁じられるので(もともと退職金について必要経費を考える余地はないが)、退職控除を超える控除はないといことになる。第2の可能性として、AのBに対する債権の放棄が、無償の利益供与であるとすると、Bは法人からの無償の利益供与を受けたことになるから一時所得を得たものとして所得課税を受けねばならず、やはり一時所得に係る特別控除額を超える控除は所得税法45条1項7号により認められないということになろう。[現実社会においても、会社の従業員・取締役等に対する求償の不請求と、退職金の不支給、という事態は珍しくないと思われるが、(9)で述べたような苛烈な課税がなされているとは聞いていない。課税当局はそれなりの温情を示しているのであろうか。]

【講評】
 (1)平均8点。減点しませんでしたが、売上額・仕入額は税込額なのか税抜額なのか分かるように書いてほしかったです。
 (2)平均2.8点。一名のみが正答でした。そもそも「非課税」と「0税率」が違うということすら伝わっていないようで、非課税または0税率の場合、という前提で解答している答案が多数ありました。がっかりです。偏差値60程の立教で非課税と0税率の違いが伝わらないということは、一般国民に消費税法の仕組みを理解してもらうのは無理かもしれない、という危惧を抱きつつあります。
 (3)平均3.8点。支店が存在する場合にPEに【帰属】する利得のみがC国で課税対象となる、と書けていたのは一名のみでした。書けた人、おめでとうございます。
 (4)平均2.6点。外国税額控除の質問だということが伝わっていないようでした。
 (5)平均3.2点。移転価格の質問だということが伝わっているのが2割程度でした。現代企業法で移転価格の問題を出した時の正解率はもっと高いのですけれども、事例問題で尋ねられると途端に見えにくくなるようです。半分以上が寄附金の筋で解答していて、それはそれで加点してはおりますが。
 (6)平均6点。Bの記事がなかったら【売上げ減少という損害が発生しなかったであろう】ではなく【損害賠償請求できなかったであろう】という筋に脱線した答案が複数見受けられました。どうしてそっちに行くかなあ?
 (7)平均5.8点。概ね予想通りの出来でした。しかし、予想していたとはいえ、春期から何度も現金主義はいかんと強調してきたつもりなのに、現金主義で書く答案が後を絶たないことについて、教育者として徒労感が募ります。何を言えば現金主義的発想から改めてもらえますかね。講義を聴いてない人もいるのでしょうから無理でしょうかね。
 (8)平均4.8点。興銀事件・最判平成16年12月24日との関連を意識した答案が思っていたよりもあって、嬉しく思いました。
 (9)平均2.6点。時間も足りないしそもそも難しいので、仕方ないと思います。
 全体平均39.6点。標準偏差15.1。最高65点。最低5点。 16%、A24%、B44%、C12%、D4%。
 平均点が春期より15点も上昇し、良い出来であったと感じました。標準偏差もさほど大きくなく、全体的によく出来ていたと感じました。春期は標準偏差が大きかったのでSA比率もD比率も高めでしたが(と言ってもD比率は19%なので現代企業法等と比べると甘々なのですが)、今期は更にSA比率が高くなった一方で、D比率は例年にない低さとなりました(過去5%を下回ったのは記憶にありません)。租税法は2005年度〜2013年度通年科目でしたが、4単位分の内容を試験勉強で復習するのは無理があるであろうと思い、2014年度から2単位ずつに分割した、という経緯があります。この分割は上手くいったと思います。
 四年次生に限ると平均42.5点でした。四年次生の卒業をかけた粘りが功を奏したのだと思われます。尤も受験者数8/登録数46=17.4%なので、春期の試験問題の難しさを見て浅妻は絶対甘い点数をつけないだろうと考え四年次生が受け控えした、ということなのかもしれませんけれども。
 念のためですが、こんな問題を作っておきながら言っても説得力ないかもしれませんが、私はいわゆるネトウヨではないつもりです。



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