2014年度国際租税法 於上智大学


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期末試験解説 上智大学LAW63000国際租税法 浅妻章如 2014.7.25金曜2限
備考:A3一枚またはA4二枚に自筆で書き込み(表裏使用可)をした紙のみ持ち込み可。

解答の順序は任意だが、解答に際して問題番号を分かりやすく示しなさい。「数値を自作し」という問題について自作の数値が含まれない解答は加点対象としない。配点は時間配分の目安であり、租税法学上有意な記述であれば配点を超える加点も考える。[試験問題に添付していたOECDモデル租税条約抜粋は、ホームページでは割愛しています]

第一問(30点) 日本の付加価値税率を10%とし、A国の付加価値税率を20%とし、B国の付加価値税率を15%とする。A国・B国の税制は、税率以外は日本のそれと同じであるとする。A国事業者Cが小麦を作り、日本に輸出し、日本の事業者Dが当該小麦を輸入する。Dは、当該小麦を使ってお菓子を作り、B国に輸出し、B国事業者Eが当該お菓子を輸入する。Eは、当該お菓子をB国消費者Fに販売する。数値を自作しつつ、以下の設問に答えよ。
(1) A国での付加価値税制上の扱いを説明せよ。
(2) 日本での付加価値税制上の扱いを説明せよ。
(3) B国での付加価値税制上の扱いを説明せよ。

【解説】教科書213-215頁。
(1)税抜き価格2000の小麦をA国事業者Cが作って売る場合、付加価値税のある世界では、税込み価格は通常2400円であるが、輸出に際し輸出免税の適用を受けるので、付加価値税が課せられないまま2000で小麦を輸出する。
(2)税抜き価格2000の小麦を仕入れ税抜き価格6000のお菓子を売る日本の事業者Dは、付加価値税のある世界では、輸入時に2000の10%の200の税を納め、輸出する際には輸出免税の適用を受けるため、仕入れにかかっている200の税を還付してもらい、税抜き価格6000で輸出する。
(3)税抜き価格6000のお菓子を仕入れ税抜き価格9000で消費者Fに売るB国事業者Eは、付加価値税のある世界では、輸入時に6000の15%の900の税を納め、消費者Fには9000×1.15=10350で売却し、10350×15/115=1350の納税義務から仕入税額900を控除した450の税を納める。

第二問(30点) (1) 課税繰延が納税者にとって有利となる場面を、数値を自作しつつ説明せよ。
(2) (1)と逆に、課税繰延が納税者にとって不利となる場面を、数値を自作しつつ説明せよ。
(3) (2)の場面において、その不利を避けるために合理的な納税者は何をするか、数値を自作しつつ説明せよ。

【解説】教科書102頁。税率を40%とし、利子率・割引率を年複利計算で10%と仮定する。
(1)第1年度に1000の所得が発生し400の納税義務が発生することと、第2年度に1000の所得が発生し400の納税義務が発生することとを比較すると、第1年度の400の税額の第2年度における経済実質的な負担は440であるから、第2年度時点換算で前者より後者の課税繰延の方が税負担が40軽くなっている。
(2)含み損1000が潜在的に生じている資産を第1年度に売却すると1000の譲渡損が生じ、他の所得にかかる税額が400減る。第2年度に売却すると第2年度に他の所得にかかる税額が400減る。第2年度換算で課税繰延の方が40不利である。(第1年度の税率が40%であるが第2年度の税率が50%であるなどのように税率が変わる場合の設例でも可。第1年度なら損益通算ができるが第2年度は損益通算ができない、などの設例でも可)
(3)(2)のような状況下では第1年度に売却して1000の含み損を一旦実現させて、当該年度の別の所得に係る税額を400減らし、同時に当該資産を買い戻してしまえばよい。

第三問(40点) 日本とX国との間でOECDモデル租税条約と同じ内容の租税条約が締結されているとする。日本の法人税率を35%、X国の法人税率を30%とし、X国の税制は税率以外は日本のと同じであるとする。
(1) 日本税制下の国内取引で法人が負債に係る利子を支払った場合と資本に係る配当を支払った場合の支払い法人の税制上の扱いの違いを、説明せよ。次に、日本法人Y社がX国法人たる親会社Z社に対し負債に係る利子を支払う際に、国内取引と異なる税制上の扱いを受ける可能性があることを、数値を自作しつつ説明せよ。
(2) 日本法人Y社が直接にX国法人たる親会社Z社に金員1万を利子率20%で貸し付けた。Z社は、当該1万を元手として事業活動をし、当該1万を2万に増やした後、Y社に元利合計を返済した。Y社・Z社の所得に対するX国の課税と、Y社の所得に対する日本の課税を説明せよ。なお(2)において移転価格税制の適用はないとする。
(3) (2)の取引についてX国が移転価格税制を適用し、日本はX国の移転価格税制の適用が妥当であると認めたとする。数値を自作しつつ、Y社・Z社の所得に対するX国の課税と、Y社の所得に対する日本の課税を説明せよ。
(4) (2)にかわり、日本法人Y社のX国支店が、貸し付けの主体であったとする。Y社・Z社の所得に対するX国の課税と、Y社の所得に対する日本の課税を説明せよ。

【解説】
(1)教科書180-183頁、317-320頁。国内の負債利子支払は支払法人の所得計算上損金に算入される一方、配当支払は損金に算入されない。
次に、Y社がZ社に利子を支払う場合、過小資本税制により、支払利子の損金算入が認められないことがある。例えば、Z社がY社に100の出資と900の貸付をしており、当該貸付にかかる利子率が10%である場合、私法上Y社がZ社に支払う利子は90であるが、過小資本税制により資本の3倍を超える負債にかかる利子支払の損金算入が制限されるため、支払利子のうち60は損金算入が認められない。
(2)教科書282-286頁。Z社のY社に対する利子支払は2000であるため、Z社の課税所得は8000であり、X国はZ社に8000×30%=2400の税を課す。また、Y社が得る2000の利子所得に対し、OECDモデル租税条約11条2項により源泉地国たるX国は10%まで課税をすることができるため、X国は2000×10%=200の源泉徴収税をZ社から納付してもらう。Y社は2000の利子所得を得ており、日本での納税義務は2000×35%=700であるが、既にX国で200の税が納められているため、外国税額控除を適用し、日本はY社に500の税を課す。
(3)教科書293頁。移転価格税制の適用により独立企業間取引としての利子率が20%ではなく10%であったと仮定する。Z社の課税所得は8000ではなく10000−10000×10%=9000に増え、X国はZ社に9000×30%=2700の税を課す。Y社が受け取る利子は1000になり、その10%である100の源泉徴収税をZ社からX国に納付する。Y社の利子所得は1000となり、350の納税義務から100の外国税額を控除して、日本はY社に250の税を課す。
(4)教科書281-281頁。Z社が2000の利子を支払うことは変わらないとすると、Z社の課税所得は8000のままであり、(2)と同様にX国はZ社に8000×30%=2400の税を課す。OECDモデル租税条約7条に従い、X国は、Y社のX国支店(PE)が得た2000の利子所得に対し、30%の税率を適用し、もしもX国支店が費用を計上していなければ、X国はY社PEに対し00の税を課す。日本ではY社の2000の利子所得に対し700の納税義務が発生するが、600の外国税額を控除し、日本はY社に700−600=100の税を課す。


【講評】
一(1)4.58点、(2)3.75点、(3)1.88点。
二(1)4.79点、(2)0.63点、(3)0点。
三(1)5.83点、(2)1.38点、(3)0点、(4)0.63点。
全体平均23.5点、標準偏差18.0、最高65点、最低0点。A12.5%、B12.5%、C12.5%、D37.5%、F25%。
持込不可の立教法学部での試験の平均点より、持込可のこちらの試験の平均点の方が低いのですから、上智法学部生は立教法学部生より劣っているということになります。10人弱くらいしか受講していませんでしたから(受講していようがいまいが法学部では筆記試験だけで成績評価すべきと考えておりますが)、筆記試験の結果も芳しくない以上、合格も10人弱程度でよかろうと考えかけましたが、上智は相対評価なので思いとどまりました。


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