2015年度租税法2(EX412)




租税法期末試験2016年1月25日月曜日2限実施
 解答の順序は任意だが、解答に際し問題番号を示せ。配点は時間配分の目安にとどまり、租税法学上意味のある記述には配点を超える加点をする。答えが誤りでも、途中までの計算過程が適切であれば加点要素とするので、計算過程を分かりやすく記すよう努めよ。解答の決まりごとを守らない答案(ペン・ボールペン以外で書かれた答案等)は零点とする。

 日本法人A社はスポーツ大会を開催することで利益を稼いでいる。A社は或るスポーツ大会(以下、B大会と呼ぶ)のために日本法人C社にロゴの作成を発注した。C社の取締役であるD氏は著名なデザイナーである。D氏がB大会のためにロゴ(以下、Eロゴと呼ぶ)を作成した。Eロゴの著作権は原始的にC社に帰属することになっていた。A社はC社に金員を支払い、Eロゴに関する権利を買い取った。
 F国法人G社はHロゴについての権利を有する。G社は「EロゴはHロゴの模倣であり、G社の著作権を侵害して作成されたものである」と主張し、A社に対し損害賠償請求をした。A社はI弁護士と相談した。I弁護士は日本の著作権に詳しかったが、F国の著作権には詳しくなかったので、F国弁護士たるJ弁護士と相談した。I弁護士はA社に対し「判例に照らし、EロゴがG社の著作権を侵害していると裁判所が判断することは、日本でもF国でもないだろう」と答えた。しかし、A社はトラブルの長期化を恐れ、G社に金員を支払うことでG社を黙らせることにした。
 A社は、B大会の入場料にまつわる事務を、A社の完全子会社たる日本法人K社に委託した。Eロゴが著作権侵害によるものではないとはいえ、世間のEロゴに対する評価が悪化し、B大会の人気も振るわず、K社の財務状況が悪化した。A社は、過去のスポーツ大会ではK社に対しロゴ使用料を請求してきたが、B大会についてはEロゴ問題に関し事前にA社が調査を十分に尽くさなかったことがB大会の不振の一因であると考え、A社はB大会につきK社にロゴ使用料を請求しなかった。
 日本とF国はOECDモデル租税条約とほぼ同内容(ただし12条については下記参照。23条については23B条の外国税額控除と同内容)の租税条約を締結しているとする。日本の付加価値税率を10%とし、地方消費税は無いものとする。本問では同族会社の行為計算の否認規定はないものとする。本問の法人は全て営利法人であるとする。本問の事象は全て2015年のうちに起きたとする。(1)(5)について税込価格は問題文の状況から推測せよ。

 (1)(10点)C社がA社にEロゴに関する権利を提供する際の税抜価格は3億円であった。C社がD氏にロゴ作成手当として支払った額は2億円であり、C社がEロゴを作成するにあたり他にかかった費用は税抜価格で6000万円であった。付加価値税についてC社はどのような計算をし幾ら納税すべきか、説明せよ。
 (2)(15点)C社がD氏に支払った金員のC社における法人税法上の可能な限りの扱いについて説明せよ。
 (3)(30点)日本・F国租税条約12条は知的財産使用料につき源泉地国に10%までの課税権を認めており、知的財産使用料の定義には、知的財産権侵害の損害賠償金も含まれる、と規定されている。A社のG社に対する金員支払につき、日本・F国租税条約に照らし、日本とF国でどのような課税がなされるか、12条にとどまらず検討し、説明せよ。その際、G社が日本に支店を有する場合と有さない場合とを意識せよ。
 (4)(10点)「A社はG社に金員を支払う法的義務はない」とA社は考えているにもかかわらず、A社はG社に金員を支払っている。この金員は法人税法37条にいう寄附金に当たるであろうか、当たるとしたらA社の課税所得計算上どのような効果が生じるか、説明せよ。
 (5)(15点)I弁護士は日本で役務提供をしているので、日本の付加価値税が課せられ、J弁護士は日本で役務提供をしていないので、日本の付加価値税が課せられない。A社がI弁護士に法律相談料として税抜価格4000万円の支払いをし、I弁護士がJ弁護士に法律相談料として税抜価格2000万円の支払いをするパターンを第1パターンと呼ぶとする。A社がI弁護士及びJ弁護士にそれぞれ税抜価格2000万円ずつの支払をするパターンを第2パターンと呼ぶとする。第1パターンと第2パターンとで、A社の主張できる仕入税額控除の額は変わるか、変わるとしたらそれは日本の国庫にとって問題があるのか、説明せよ。
 (6)(20点)A社がK社に対しB大会に関するロゴ使用料を請求しないことについて、L税務署長はA社に対し課税処分を打ってきた。L税務署長はどういう法律構成でA社に課税しようとしているのか、また、A社の立場ならばどのように反駁するか、説明せよ。
 (条文抜粋は省略)

【解説】
 (1)教科書215頁。C社のD氏に対する支払いが仕入税額控除の対象とならず、「他にかかった費用は税抜価格で6000万円」だけが仕入税額控除対象となる、という区別ができるかを問うている。税抜価格3億円に関する付加価値税額は3000万円、仕入税抜価格6000万円に関する付加価値税額は600万円なので、C社は3000−600=2400(万円)の付加価値税を納税することになる。
 (2)教科書178-182頁。法人の費用は原則として損金算入されるが、損金算入が否定されることがある。代表的な条文は、法人税法34条の役員給与と37条の寄附金(2億円という額が不相当に高いとすれば)である。法人税法132条(同族会社の行為計算否認)も重要であるが本問では無視することとしている。37条については条文を掲げているので気付いてほしい。34条については条文を掲げてないので、34条の役員給与として損金算入が否定される可能性に気付けたかがポイントとなる。
 (3)日本国が何所得として課税することができるか(または課税できないか)ということと、F国での外国税額控除についてを問うている。
 前半について教科書292*301頁。講義では扱っていないがシルバー精工事件・最判平成16年6月24日判時1872号46頁というものがある。アメリカ法人が日本法人に対し特許権侵害を理由とする損害賠償請求をしたが、日本法人はアメリカ法人の特許権が無効であろうと考えていた、しかし紛争長期化を怖れ、日本法人はアメリカ法人に金員を支払ったというものである。残念ながら当該金員が知的財産権使用料に該当するのかについて裁判所は判断してない。しかし、本問のように「トラブルの長期化を恐れ、G社に金員を支払うことでG社を黙らせることにした」という類の金員が使用料に該当するかはかなり難しい問題である。例えばヤクザのみかじめ料も、使用料なのか、という問題に発展しうるからである。G社が日本に恒久的施設(PE)を有してないことを前提とする。使用料であるならば、次にそれは日本源泉所得なのかが問題となる。使用料でないならば、租税条約において何所得となるであろうか。G社がヤクザと同様に因縁をつけているだけだとすると事業利得(OECDモデル租税条約7条)にも当たらないかもしれず、そうするとその他所得(OECDモデル租税条約21条)ということになるかもしれない。この場合、日本では10%の源泉徴収税を課すことはできない。
 なおG社が日本にPEを有していたら、所得の種類が何であれ、PEに帰属する所得である限り、日本で通常の法人税率で課税されるであろう。尤も、G社本店がHロゴを開発したものと仮定し、Hロゴに関する収益だから全額がG社本店に帰属し、日本のPEに帰属する所得は無い、という考え方もありえないではない。この場合は前段落のように租税条約12条の適用の有無を考えることになる。
 後半について教科書303頁。仮にF国の税率を25%としておくと、日本で10%課税されていたならば、外国税額控除の適用の結果として、G社はF国で25%−10%=15%分の納税をすることになる。日本でPEを有しているということで日本の通常の法人税率(例えば30%としよう)で課税されていたならば、原則として外国税額控除の適用の結果として、G社はF国で追加的に納税する必要はないであろう。
 (4)教科書178-180頁。寄附金に当たるならば損金算入額が限定される、ということの理解が示されていることを前提として、寄附金に当たるという説でも当たらないという説でも論述がしっかりしていれば加点する。なお、租税特別措置法61条の4(交際費、教科書180頁)に関し、オリエンタルランドの右翼団体への支払が交際費に当たるとして損金算入が否定された例がある(オリエンタルランド清掃委託料・東京高判平成22年3月24日訟月58巻2号346頁)。
 (5)教科書215頁、221頁。第1パターン:A社がI弁護士に税込価格4400万円を支払う。A社は400万円の仕入税額控除の権利を得る。I弁護士は400万円の付加価値税納税義務を負う。I弁護士のJ弁護士に対する支払いについて、J弁護士は日本で付加価値税の納税義務を負わないため、I弁護士は税抜価格2000万円のままJ弁護士に支払い、I弁護士はJ弁護士への支払について仕入税額控除の権利を得ない。J弁護士が非課税であるので、I弁護士が仕入税額控除を主張できない、というところがポイント。
 第2パターン:A社はI弁護士に税込価格2200万円を支払う。A社は200万円の仕入税額控除の権利を得る。I弁護士は200万円の付加価値税義務を負う。A社はJ弁護士に税抜価格2000万円のままで支払い、A社は仕入税額控除の権利を得ず、J弁護士は日本で付加価値税納税義務を負わない。
 第1パターンであっても第2パターンであっても、A社が仕入税額控除を主張するのと同額だけ、I弁護士が付加価値税納税義務を負うので、J弁護士が日本で非課税であったという事実は、日本の国庫に影響を与えない。A社やI弁護士が日本で付加価値税納税義務を負うため、J弁護士非課税は日本の国庫に影響を与えないということを理解できているかがポイント。
 (6)教科書150頁の清水惣事件・大阪高判昭和53年3月30日判時925号51頁の理解を問うている。法律上請求できるはずのロゴ使用料を請求しないということは、無償の役務提供であり、A社は法人税法22条2項の問題として本来の使用料額を益金に算入しなければならないのではないかという問題がある。更に、役務の無償提供であれば、寄附金相当額について法人税法37条の適用も論じなければならない。逆にA社の立場からすると、ロゴ使用料不請求について合理的な事業上の理由があれば、役務の無償提供に当たらないとして、益金算入が要請されなくなる、という方向で論述することとなる。例えば子会社に対する無利息融資でも寄附金に当たらないとする場合があることの説明として、法基通9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)が参考となる。


【講評】
 (1)平均5.41点。殆どが400万円と答えていました。C社のD氏に対する支払いについても仕入税額控除可という暗黙の前提があるようです。へんてこな数値の答えが一つありましたが、C社のD氏に対する支払いは仕入税額控除の対象にならないなど、計算過程はしっかりしていて計算ミスによってへんてこな数値の答えとなっていたものであり、計算過程の部分については加点しました。
 (2)平均5.47点。役員給与の話であることは思っていたよりも理解されていました。喜ばしいです。漢字のミスは減点対象としていませんが、「賞与」「給与」という言葉を用いていて、役員賞与・役員給与の事を指しているのか読み取れない答案については加点しませんでした。
 (3)平均5.88点。最も配点の高い小問でしたが、惨憺たる出来でした。そもそも、12条の適用対象としてふさわしいかどうか論じてほしいという出題意図は誰にも通じていませんでした。12条該当の是非だけ別問題として独立させるべきでした。
 (4)平均6.47点。まあまあ書けておりましたが、この小問に限らず、寄附金に当たる/当たらない、などについて結論だけで理由が書かれてないものは加点対象としておりません。
 (5)平均1.47点。「A社の主張できる仕入税額控除の額」について論ぜよと書いている問題文を過半数の答案が無視していました。私の講義が下手であるとか試験問題が難しいとか、学生の皆さんにも不満があるでしょうけれども、私が如何にまずい教員であろうとも、問題文で尋ねられていることが何かきちんと確認するという姿勢は身に着けましょうよ。
 (6)平均6.41点。二段階説がよく理解されていました。
 全体平均31.1点。標準偏差18.2。最高69点。最低5点。平均点は春学期より少し高いですが、4年次生がダメダメでした。3年次生平均42.4点に対し4年次生平均21.1点。ダブルスコアでした。十年程前は4年次生の平均点が低いことが多かった一方で、近年は4年次生の成績が目立って悪いということでもなかったのですが、今回の3年次生と4年次生との差の大きさは、過去記憶にないほどです。しかも、現代企業法に関しては、2012年度(現4年次生)の方が2013年度(現3年次生)よりずっと優秀だったので、現4年次生がどこで悪化したのかというのは深刻な問題であるかもしれません。就活の影響でしょうか。現4年次生について、他の年度と比べ特に学年内下位の学生が受験している割合が高いだけ、ということであれば良いのですが。なお、標準偏差が大きいのはいつものことですが、今回はAが少なく、標準偏差の数値以上に上と下にばらけたという印象です。 S17.6%、A5.88%、B29.4%、C35.3%、D11.8%。
 



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