2016年度租税法2(EX412)




租税法期末試験2017年1月30日月曜日1限実施
 解答の決まりごとを守らない答案(ペン・ボールペン以外で書かれた答案等)は零点とする。租税法学上意味のある記述には配点を超える加点をする。原則として現行法令に依拠するが、地方税法・租税特別措置法は無いものとする。日本とA国はOECDモデル租税条約と同内容の租税条約を締結しているとする。日本とA国の通貨単位は円であるとする。断りなき限りA国の租税法令は日本の租税法令と同様であるとする。

 「君の縄を買いたい」と、A国居住者のB氏が日本居住者の甲氏に述べた。なお、B氏はA国法人たるC社の取締役であり、甲氏は日本法人たる乙社の取締役である。C社も乙社も課税年度は暦年と同じである。甲氏は「縄ではなくて組紐なのですが」と述べた。B氏は「細かいことはいいではありませんか。ではその組紐を買いたい」と述べた。こうして商談がまとまった。
 乙社は、日本で組紐の製造販売業を営んでいる。乙社の例年の売上高は700万円程であり、2015年までは消費税法9条にいう小規模事業者特例(課税売上高1000万円が境目)のため付加価値税の納税義務が課せられていなかった。2016年において、乙社は製造した組紐を全てA国法人C社に販売した。乙社は日本法人たる丙社から組紐の原材料を仕入れている。丙社は乙社以外とも幅広く商売を手掛けているので、丙社は消費税法9条にいう小規模事業者特例の適用対象ではない。
 2016年における乙社の組紐の税抜仕入額は200万円であり、税抜売上額は800万円であった。C社は、乙社から税抜仕入額800万円で仕入れた組紐を、A国内で商魂逞しく消費者に高値で売りさばくことに成功し、2016年のC社の組紐の税抜売上額は2000万円であった。

 (1)(20点)乙社が丙社に税込仕入額として幾ら支払うかに注意しつつ、乙社が課税事業者となることを選択した場合と選択しなかった場合とで場合分けをして、2016年の乙社の付加価値税の納税義務の計算過程を説明せよ。なお、計算の便宜のため、日本の付加価値税としての消費税率は10%であるとし、地方消費税は無いものとする。
 (2)(10点) 2016年のC社の組紐売買に関する付加価値税の納税義務の計算過程を説明せよ。なお、A国の付加価値税率は20%であり、付加価値税の税率以外の点についてA国の法令は日本の法令と同じであるとする。簡易課税制度は説明しなくてよいが、説明したければ適切な答案である場合に加点する。
 (3)(30点)A国課税庁は、乙社がC社に組紐を販売して生じた所得について、法人税の課税を試みている。A国課税庁が、C社の乙社に対する800万円の支払いに着目して課税してきた場合と、A国課税庁が乙社の所得に着目して課税してきた場合とを想定し、恒久的施設の存否・状況について補いながら、A国の課税処分に対して日本A国租税条約の規定に基づいて複数の段階で甲氏はどのように反駁すべきか、説明せよ。
 (4)(10点)(3)に関し乙社に対するA国の課税は一部許されていたと仮定する。乙社への日本法人税法の適用に際し、甲氏はA国法人税額についてどのような注意を払うべきか、説明せよ。なお、日本A国租税条約がOECDモデル租税条約の23A条に沿っているか23B条に沿っているかについては、解答者が好きに仮定してよい。23A条・23B条と言われてもどちらがどっちであったか思い出せないかもしれないが、23A条・23B条について正反対の理解に基づいていると思しき答案であったとしても減点事由とはしないので、その点は安心されたい。
 (5)(20点)(3)に関し乙社に対するA国の課税は一切許されていなかったと仮定する。(1)に関し乙社は課税事業者を選択していたと仮定する。乙社には800万円−200万円=600万円の粗利益(給与、利子、配当等支払い前の利益)が生じている。給与・利子・配当の額について解答者が数値例を仮定し、何が益金となり何が損金となるかに注意しつつ、乙社の法人税額の計算過程を説明せよ。なお、法人税率は30%であるとし、地方税は無いものとする。また、給与・利子・配当・法人税額のいずれも0となってはいけないものとする。
 (6)(10点)乙社の甲氏への給与支払いについて、日本課税庁は、実質は配当であるのに給与であると仮装したものである、という理由で課税処分をうってきた。納税者側が租税負担の軽減を図って様々な法形式を駆使しようとすることに対し、課税庁側の処分が成功する場合とはどういう場合か、また、課税庁側の処分が成功する範囲にはどのような限定があるか、説明せよ。配点は10点であるが、幾らでも長く書ける論点であるので、答案の内容が充実していればその充実度合いに応じて加点する。もちろん、ただ長ければよいというものではない。

【解説】
 (1)教科書225-228頁参照。課税事業者となることを選択した場合。税込仕入額は220万円であり、輸出免税を適用するので輸出の税込売上額は800万円であり、売上税額が0円、仕入税額が20万円なので、20万円の還付請求をする(敢えて納税義務の額を計算すれば-20万円)。課税事業者となることを選択しなかった場合、やはり税込仕入額は220万円、輸出免税適用なしの税込売上額は800万円であるが、売上税額0円に対し、仕入税額20万円について仕入税額控除の権利がないので、納税義務の額は0円。
 (2)教科書215頁以下参照。C社は輸入時に税抜価格800万円で仕入れ、20%すなわち160万円を納税する。C社の税込売上額は2400万円であり、売上税額は400万円であり、仕入税額控除160万円を主張して、240万円を納税する。合計で400万円の納税義務が課される。なお、簡易課税制度が適用されると原則として売上額の60%が仕入額であるとなるので、400万円×0.4=160万円の納税義務となる。
 (3)教科書277頁以下参照。@「C社の乙社に対する800万円の支払いに着目して課税してきた場合」というのは源泉徴収課税を試みている場合であると思われるところ、乙社がA国にPEを有していようがいまいが、本問では事業所得であるので源泉徴収課税は許されない。A次に、「A国課税庁が乙社の所得に着目して課税してきた場合」に、乙社がA国にPEを有していなければ租税条約7条1項の「PEなければ課税なし」ルールによりA国の課税は許されない。B乙社がA国にPEを有している場合でも、A国の乙社所得に対する課税は当該PEに帰属する所得への課税に限定されるため、乙社の所得全額に対しA国が課税できるわけではない。本問から乙社がA国にPEを有しているとうかがわれる事情は見出し難いが、仮にPEを有していても当該PEに帰属すべき所得は少額であろう。
 (4)教科書302頁以下参照。租税条約がOECDモデル租税条約23B条の外国税額控除に沿った内容であったとする。乙社がA国で所得課税を受けた場合、当該税額を乙社の日本に納めるべき法人税額から控除する。なお、OECDモデル租税条約23A条の国外所得免税に沿った内容であることを前提にした答案でもよいが、国外所得免税は講義であまり触れてないので難しいと思われる。国外所得免税の場合、乙社のA国PEに帰属する所得としてA国で課税を受けた部分を、乙社の日本への納税義務の計算において、課税所得から控除することになる。
 (5)教科書第5章第2節。給与250万円、利子100万円、配当150万円とする。乙社の益金は売上げたる800万円であり、損金算入額は、仕入の200万円、給与の250万円、利子の100万円であり、配当は損金不算入であるから、乙社の課税所得は800−(200+250+100)=250(万円)と計算される。法人税額は75万円である。
 (6)教科書46頁以下。課税は、私法によって秩序付けられている経済効果を前提としてなされるものであり、当事者が、課税の軽くなるような私法上の法形式を選ぶことがある。同様の経済効果を達成しつつ課税が軽くなるような私法上の法形式を選ぶことを租税回避と呼ぶことがあるが、課税庁は明文の否認規定なしに租税回避を否認することは許されないと考えられている(通説)。この点につき判例は無いとされているが、今や、課税庁側からも否認規定なき否認を主張することはないので、否認規定なき否認は許されないということは実務上確立していると考えられる。但し、否認規定なき否認が許されないという前提の下でも、「納税者側が租税負担の軽減を図って様々な法形式を駆使しようとすること」が常に納税者側の思惑通りの結果をもたらすとは限らない。課税庁側が勝つ可能性として、第一に、事実認定・私法上の法律構成による「否認」として、否認そのものではないが、納税者側の主張する私法上の法形式を裁判所が私法上その通りであると認定しないことにより、結果的に否認と似た結果が生じることがある。本問では、納税者側が給与と主張しているものの、私法上は配当であると裁判所が認定するのであれば、課税庁の主張が認められることになる。しかし、これは私法上給与であるとは認められない場合に限られるので、課税庁側の処分が常に奏功する訳ではない。第二に、課税減免規定の限定解釈として課税庁側の処分が認められる可能性がある。しかし、本問では、給与の損金算入が課税減免規定の限定解釈として覆される余地は、あまりないであろう。


【講評】
 (1)平均9.3点。輸出免税を指摘できている答案はごく少数でした。
 (2)平均3.2点。輸入課税を指摘できている答案は皆無でした。(1)と合わせて考えると、付加価値税の輸出免税輸入課税という原則は立教生レベルをもってしてもなかなか理解されないのだなー、まして今アメリカで話題のDBCFT(destination-based cash flow tax仕向地主義キャッシュフロー税)がWTO違反に当たるか、とかいう論点は、ごく少数にしか理解されないのだろうなー、と暗澹たる気持ちになりました。私はアメリカの件に関してはWTOのこれまでの積み重ねがおかしいと思っていますが、本試験の講評から話が逸れてしまいますのでこの辺で。
 (3)平均6.1点。PEなければ課税なし、PEがある場合でもPE帰属利得のみ課税される、ということは理解されているようでした。源泉徴収課税については全く分からなかったようです。問題文に源泉徴収課税と明記してしまえばよかったかもしれません。
 (4)平均1.3点。外国税額控除と書いてあっても内容が国外所得免税のものがちらほらありました。
 (5)平均10.8点。ボーナスステージ。の筈なのですが、利子と配当を同額に設定して、どちらを損金に算入しているのか読み取れない答案が幾つかあり、加点ポイントをとりのがしています。もったいない。問題文の中に、「給与、利子、配当の額は何れも同額であってはならない」という条件も付ければよかったかもしれません。給与は損金算入可能という前提で作問しましたが、役員給与ならば原則として損金算入できないという前提で答案を書いていても加点しています。
 (6)平均2.6点。出来は程々。
 平均点33.3点(2年次25.4点、3年次41.8点、4年次26.1点)。春学期よりは良くなったという感触があります。3年次生が優秀ですね。流石に酒税法の問題は出題できませんでした。「君の名は。」は何故か映画鑑賞玄人にはさほど受けてないようですが、素人の私にとっては2016年に映画館で観た映画の中で3番目くらいに面白かったという感想です。「君の名は。」を見た大学生の若人よ!次は「秒速5センチメートル」だ!きっと胸にくるものがあるはずです
(良い意味でとは言ってない)。  S14.3% A17.9% B42.9% C14.3% D10.7%平均点が高かったので、春学期と同様の基準で成績を付けたところSAがかなり増えましたが、残念ながら落単率はさほど低くなりませんでした。


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