2017年度租税法2(EX412)




期末試験解説 2018.1.29月曜日1限 EX412 租税法 法学部浅妻章如担当

 ペン・ボールペン以外で書かれた答案は零点とする。配点は時間配分の目安である。問題に関し租税法学上意味のある記述には配点を超える加点の可能性がある。計算結果が間違いでも計算過程の加点の可能性がある。震災復興増税・地方税法は無いものとする。同族会社の行為計算の否認規定(法人税法132条、所得税法157条等)、消費税法の「電気通信利用役務の提供」関連規定は、講義で扱ってないので、無いものとする。租税特別措置法のうち、講義で扱った租税特別措置法66条の4〜66条の6以外は、無いものとする。日本の法人税率は30%であるとする。日本の消費税率(付加価値税率)は10%であるとし、地方消費税は無いものとする。X国の法人税率は15%であるとする。X国の付加価値税率は25%であるとする。税率以外、日本とX国の租税法令は同内容であるとする。日本とX国はOECDモデル租税条約と同内容(23条については23条B:税額控除方式)の租税条約を締結している。下記条文抜粋は解答の参考になるかもしれないが、抜粋されてない条文も関係する。日本及びX国の通貨単位は共通の円である。「数値を自作し」とある問題では、税抜価格や売上や費用等の数値を自作して示せ。
 宇治北吹奏楽社(日本法人。以下「U社」と略す)は「新月の舞」(以下「S」と略す)の演奏を計画した。Sは堀川奈美恵(X国居住者。以下「H氏」と略す)が作曲した曲である。U社及びH氏は消費税法(日本X国で同内容)2条1項4号の「事業者」であり、9条の小規模事業者でない。U社はH氏にSの演奏許諾を求めた。H氏は「Sの日本における著作権」をU社に譲渡することを申し込んだ。U社は承諾した。U社の取締役兼指揮者である滝昇(日本居住者。以下「T氏」と略す)は、Sのソロ・パート奏者として高坂麗奈(日本居住者。以下「K氏」と略す)を選んだ。吉川優子は「K氏が実力でソロ・パート奏者の座を勝ち取ったのではなく、K氏がU社の大株主の娘であることをT氏が忖度したからである」と疑っている。K氏はソロ・パート奏者として人気を博し、テレビ出演等でもお金を稼ぐようになった。
 (1)(10点)H氏からU社への譲渡に関し、H氏はX国で消費税法上どのように扱われるか、数値を自作し、説明せよ。
 (2)(10点)H氏からU社への譲渡に関し、及び、U社の日本におけるSの演奏や録音販売の収益に関し、日本で消費税法上どのように扱われるか、数値を自作し、説明せよ。
 (3)(10点)もし消費税法施行令6条1項7号が特許権と同様に「著作権[等] これらの権利の所在地」であったら、(2)はどう変わるか、説明せよ。
 (4)(10点)H氏がU社から受ける譲渡対価に関し、日本及びX国の所得税の扱いを説明せよ。
 (5)(10点)もし日本・X国間で租税条約が締結されていなかったら、(4)はどう変わるか、説明せよ。
 (6)(30点)U社のSに関する権利は「日本における」権利だけなので、U社は、Sの録音をX国で販売することの許諾を改めてH氏から受け、U社は許諾料をH氏に支払った。U社はX国に完全子会社たる虹音社(以下「N社」と略す)を設立した。U社のSの録音を、N社がインターネット等を通じてX国の顧客向けに販売している。日本はU社に対し移転価格税制(租税特別措置法66条の4)とTax Haven対策税制(租税特別措置法66条の6)の適用を検討している。数値を自作し、余力があれば場合分けもしつつ、租税特別措置法66条の4及び66条の6の適用の可否を論じよ。
 (7)(20点)K氏のソロ・パート奏者の座が演奏の実力によるものではなく、中世古香織がソロ・パート奏者であったならばU社の利益はもっと増えていた筈だ、ということが裁判で立証されると仮定する。U社が損害賠償請求権を行使した場合、或いは行使しない場合に、U社の法人税法上の益金・損金の額がどう変化する可能性があるか、配当、役員給与、寄附金等の規定にも触れつつ、論じよ。

【解説】
 (1)教科書217〜220頁。輸出免税。H氏の仕入額についての数値も自作することが望ましい。税抜き価格でH氏の仕入が100万円、H氏が受ける譲渡対価が300万円の場合、H氏は仕入時に125万を支払っているが、輸出時に0%税率が適用され(消費税法7条)、25万円の仕入税額が還付される。
 (2)教科書221頁。取引対象である「Sの日本における著作権」が日本国内の資産であるか。消費税法施行令6条7号「七 著作権[等] 著作権等の譲渡又は貸付けを行う者の住所地」を当てはめればH氏の住所地たるX国所在の資産であることになるので、「国内において事業者が行った資産の譲渡等」(消費税法4条1項及び3項1号)に当たらず、税抜価格でU社がH氏に300万円の支払いをしていたとすると、日本の消費税はかからない。次に、「U社の日本におけるSの演奏や録音販売の収益」が税抜価格1000万円であるとすると、消費税額は100万円であり、「Sの日本における著作権」の輸入に関する仕入税額控除はない。
 (3)教科書292〜302頁。税抜価格でU社がH氏に300万円の支払いをしていたとすると、日本の消費税として30万円をH氏が日本に納めねばならないので、税込価格でU社はH氏に330万円を支払う。次に、「U社の日本におけるSの演奏や録音販売の収益」が税抜価格1000万円であるとすると、消費税額は100万円であり、仕入税額控除を適用して100万円−30万円=70万円をU社は日本に納める。
 (4)租税条約12条1項により日本は課税できない。設例よりH氏が日本にPEを有しているとも考えにくいので、租税条約12条4項→租税条約7条によるPE課税もなされない。X国のみがH氏の所得に課税する。日本で課税されないので外国税額控除も適用されない。
 (5)教科書292〜303頁。所得税法161条11号により著作権の譲渡対価の所得源泉は日本国にあり、20%の源泉徴収税率が適用される。H氏がX国に所得税を納める際に、日本に納められた税額について外国税額控除を適用する。
 (6)SのX国における権利を侵害する主体はU社ではなくN社であるので、本来、N社がH氏から許諾を受けねばならない。しかし設例ではU社がH氏に許諾料を支払った。そうすると、N社が支払うべき債務(例えば400万円とする)をU社が肩代わりした第三者弁済という法律構成、或いは、U社がN社に再許諾(sublicense)したという法律構成となる。どちらの法律構成であれ、租税特別措置法66条の4により、N社からU社への400万円の支払いを擬制することになる。
 次に、N社がX国でえている収益(例えば900万円とする)について、租税特別措置法66条の6によるTax Haven対策税制の適用を問題とすることになる。まず、前段落で述べた通り移転価格税制の適用の結果、N社がU社に400万円の支払いをしたことを擬制するので、N社の収益は900万円ではなく500万円であるべきである。X国が日本での移転価格税制の適用に納得していたならば、X国はN社に500万円×15%=75万円の法人税を課すであろう。15%という税率は租税特別措置法66条の6の適用条件を満たす低税率である。そして、N社の収益が著作権のsublicenseによるものであるとすれば、U社に対するTax Haven対策税制の適用は免れないであろう。しかし、「N社がインターネット等を通じてX国の顧客向けに販売している」という設例から、N社の収益が著作権のsublicenseによるものではなく、Tax Haven対策税制の適用対象外である事業収益であると見る余地もある。
 (7)U社の損害賠償請求権は、行使した場合も行使しない場合も、権利確定主義により、U社の法人税法22条2項にいう益金に算入されねばならない。  U社の損害賠償請求権が誰に対してのものか、設例では書かれてない。K氏がT氏からの指名に従っただけであるとすると、K氏に損害賠償義務を負わせるのは酷であろう。そうすると損害賠償義務者の第一候補はT氏であると考えるべきである。U社がT氏に損害賠償請求権を行使した場合は、単にU社の益金に算入されて終わりである。行使しなかった場合、損害賠償相当額のU社からT氏への法人税法34条にいう役員給与と構成する余地がある。役員給与の損金算入の法人税法34条の要件を設例が満たしているとは到底考えられないので、U社の損害賠償請求権が益金に算入される一方、役員給与相当額について損金算入は認められない。
 次に、T氏が大株主(K氏の父または母。以下「O氏」とする)の指示に従っただけであるとすると、T氏に損害賠償義務を負わせるのは酷であり、O氏が損害賠償義務を負うということが考えられる。しかし、U社がO氏のみによって保有されているとしたら、U社の損害はO氏の意向に沿ったものであるから損害であるとはいえないという事になる可能性もある。しかし、他にも少数株主がいるとすれば、O氏の我儘でU社の少数株主が損害を被ることになるのであるから、U社のO氏に対する損害賠償請求権は肯定されるべきであろう。U社がO氏に損害賠償請求権を行使した場合は、単にU社の益金に算入されて終わりである。行使しなかった場合、U社のO氏に対する配当といえるであろうか。もし配当であるとすると、U社の損金に算入できない(法人税法22条3項3号、5項)、ということになる。鈴や金融事件・最判昭和35年10月7日民集14巻12号2420頁の「本件の株主優待金なるものは、損益計算上利益の有無にかかわらず支払われるものであり株金額の出資に対する利益金として支払われるものとのみは断定」できないという基準を当てはめれば、U社のO氏に対する損害賠償請求権不行使は「損益計算上利益の有無にかかわら」ないものであるから、配当ではないということになる。配当でないとすれば寄附金(次段落に譲る)であろう。他方、東光商事株式会社事件・最大判昭和43年11月13日民集22巻12号2449頁の「会社から株主たる地位にある者に対し株主たる地位に基づいてなされる金銭的給付は、たとえ、Xに利益がなく、かつ、株主総会の決議を経ていない違法があるとしても、法人税法上、その性質は配当以外のものではあり得ず、これをXの損金に算入することは許されない」という基準を当てはめれば、U社のO氏に対する損害賠償請求権不行使は配当に当たるであろうか。「株主たる地位に基づいて」いるかどうかが鍵であるところ、一概に答えは出てこない。配当であるという答案も正解になりうるし配当ないという答案も正解になりうるであろう。
 次に、配当でないとしたら、U社のO氏に対する損害賠償請求権不行使はU社のO氏に対する寄附金(法人税法37条)であるという法律構成が素直である。この場合、寄附金損金算入限度額(法人税法37条1項、法人税法施行令73条)まで損金算入ができ、超過部分は損金算入できないことになる。

【講評】
 (1)2.35点。(1)〜(3)についてOECDモデル租税条約云々という答案が散見されました。関係ないよ。
 (2)1.09点。「住所地」が日本であるという想定の答案が散見されましたが、まさかまさか、「譲渡又は貸付けを行う者」がU社であると思っていたのでしょうか。
 (3)2.39点。「Sの日本における著作権」というこれ以上のヒントは考え難い設例で、所在地をX国とする答案が複数あるのですが、どうすれば解答しやすい問題になるのか、頭を抱えます。
 (4)4.13点。日本を居住地国、X国を源泉地国と想定している答案が散見されました。
 (5)1.96点。日本を居住地国以下同文。
 (6)2.17点。なぜか過小資本税制の解説をしている答案が散見されました。Tax Haven対策税制の適用要件に関しX国の付加価値税率は関係ないです。(6)に限らず、消費税(付加価値税)と法人税・所得税との区別がついていない答案が散見されました。
 (7)3.26点。損害賠償請求権を行使しようがしまいが益金に計上しなければならない、ということが分かってない(権利確定主義が分かってない)ようです。損害賠償請求権を行使しても回収不能である場合の興銀事件の判旨を絡めた答案は、よく勉強できていると思いました。

 全体平均17.3点。標準偏差14.1。最高50点、最低0点。「何ですか、これ?皆さんが普段若さにかまけてドブに捨てている時間をかき集めれば、この程度の勉強量は余裕でしょう。」(CV:櫻井孝宏)成績評価には手心を加えていますが手心を加えても救いようのない答案(つまり0点答案)が多数あったので撃墜率(D率)は高めです。S8.7% A17.4% B34.8% C13.0% D26.1%


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