2017年度国際租税法 於上智大学


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期末試験解説 上智大学LAW63000国際租税法 浅妻章如 2017.7.28金曜1限
備考:A3一枚またはA4二枚に自筆で書き込み(表裏使用可)をした紙のみ持ち込み可。

 「数値を自作し」という問題について自作の数値が含まれない解答は加点対象としない。配点は時間配分の目安であるにすぎず、問題に関し租税法学上有意な記述であれば配点を超える加点をする可能性がある。計算結果が間違っていても計算過程が正しければ加点をする可能性がある。
 日本とX国との間でOECDモデル租税条約と同内容の租税条約が締結されている。23条については23B条が採用されている。日本とY国との間で租税条約は締結されていない。X国及びY国の税制は日本の税制と税率以外同じである。ただし地方税は無いものとする。X国及びY国の通貨単位は日本と同様、円である。日本の所得税率・法人税率はともに30%であり、X国の所得税率・法人税率はともに40%であるとする。日本の消費税率(付加価値税率)は8%であり、X国の消費税率(付加価値税率)は10%であるとする。
 日本法人たる甲社と、X国法人たる乙社との間で、以下のような契約交渉がなされた。「甲:K組成物を倒す武器を売ってほしい」「乙:Kだって?Hの後に愛がくるジョシコウセイとLoveをMakeし…」「甲:そのKは関係ない」「乙:只の冗談だ。怒りなさるな。この重力子放射線射出装置(以下「重放」という)なら3年戦えるだろう。これはX国法人たる丙社から仕入れたものでね。税抜価格??円で売ろう」「甲:承諾した」。K組成物やら重放やらが説明されてないが、以下の解答に支障は生じない。
 こうして第0年度において甲乙間で重放の売買契約が成立し履行された。ところで、甲は重放を用いK組成物討伐事業に従事することで年500万円程の収益を稼ぐことを見込んでいるが、甲は重放を購入するための資金が不足していたので、第0年度において甲乙間の取引をする直前にX国法人たる丁銀行から600万円を借り、翌第1年度に元利合計額を一括で返済した。利子率・割引率は年25%であるとし、年複利計算とし、月日の調整は不要とする。

 (1)(10点)第2年度の500万円の第0年度における割引現在価値を算出せよ。次に、第1年度から第3年度までの3年間にわたり、毎年500万円ずつの収益が発生する(第0年度は無収益であることに留意)と見込まれる場合の、その将来収益の第0年度における割引現在価値を算出せよ。(1)では無税の世界での計算をするとする。
 (2)(20点)(1)とは将来収益等の見積もりが異なり、甲乙間の重放の取引における税抜価格が900万円であったとする。乙は消費税法9条による年間売上高千万円以下の小規模事業者の要件を満たしているとする。小規模事業者は「消費税を納める義務を免除」される。しかし小規模事業者でも課税事業者になることを選択する場合がある。乙の第0年度の取引は、この重放の丙(消費税法上の課税事業者)からの仕入れと甲への売却のみである。乙の仕入額(税抜価格・税込価格)の数値を自作し、乙が課税事業者を選択していた場合と選択していなかった場合とを比較して乙の損得を説明せよ。また、甲が日本で税抜価格900万円の重放を輸入するに際し支払わねばならない消費税額を算出せよ。
 (3)(10点)甲が丁銀行本店から借り入れていた場合、OECDモデル租税条約に照らし、第1年度において甲が丁銀行本店に返済をする際、幾らの源泉徴収税額を日本に納付しなければならないか、OECDモデル租税条約の適用条文を挙げつつ、算出せよ。
 (4)(10点)(3)の場合で、かつ、丁銀行本店が甲との取引で当該利子を稼得するにあたり50万円の費用がかかっていた(当該費用の計上年度が第1年度であることについては争いがない)場合、丁銀行本店は甲から受ける返済に関し、幾らの法人税額をX国に納付しなければならないか、OECDモデル租税条約の適用条文を挙げつつ、算出せよ。
 (5)(20点)(3)(4)と異なり、甲が丁銀行日本支店(以下「戊支店」と呼ぶ)から借り入れており、戊支店が甲との取引で当該利子を稼得するにあたり50万円の費用がかかっていた(当該費用の計上年度が第1年度であることについては争いがないとする)場合、丁銀行は、日本とX国にそれぞれ幾らずつの法人税額を納付しなければならないか、OECDモデル租税条約の適用条文を挙げつつ、算出せよ。
 (6)(20点)甲乙間の重放の税抜価格900万円での取引について、日本又はX国又は両国の移転価格税制の適用要件が満たされていたとする。独立企業間価格(arm’s length price)の数値を自作し、誰が誰に対して移転価格税制に基づく課税処分をどのような内容でするか、説明せよ。余裕があれば、日本とX国との間でarm’s length priceをめぐり争いがある場合、どのような解決方法があるか、説明せよ。
 (7)(10点)甲が完全子会社たる己社をY国に設立していたとする。甲己間の取引等に関する数値及びY国の法人税率に関する数値を自作し、過少資本税制又はtax haven対策税制(CFC税制、外国子会社合算税制ともいう)又は両税制の適用について説明せよ。[試験問題に添付していたOECDモデル租税条約抜粋、消費税法抜粋は割愛]


【解説】
 (1)500/1.25=400。500/1.252=320。500/1.25+500/1.252+500/1.253=400+320+256=976。
 (2)乙は丙から税抜価格500万円、税込価格550万円で仕入れていたとする。乙が課税事業者を選択していた場合、甲に税抜価格900万円で輸出し、輸出免税により輸出の際の価格に付加価値税額を上乗せする必要はなく、更に仕入税額(550×10/110=)50万円について仕入税額控除を受けることができるので、乙の手元には900−550+50=400が残る。乙が課税事業者を選択しなかった場合、輸出価格は税抜価格900万円のままであるが、仕入税額控除を主張できないので、乙の手元には900−550=350が残る。乙は課税事業者を選択した場合の方が得である。甲は、税抜価格900万円で輸入する際、日本の付加価値税額(900×8%=)72万円を税関に納める。
 (3)600万円の借入れ、25%の利子なので、甲が丁に支払うべき利子の額は600×25%=150万円であり、OECDモデル租税条約11条2項は源泉地国たる日本に利子の10%までの課税権を認めているので、甲は150×10%=15万円の源泉徴収税額を日本に納付しなければならない。
 (4)丁銀行本店は利子収入150万円を得る一方で50万円の費用がかかっているので150−50=100万円の純所得である。丁は日本で15万円の源泉徴収税額がとられているので、OECDモデル租税条約23B条1項a)によりX国で外国税額控除を主張することができる。丁のX国での暫定の法人税額は100×40%=40万円であるから、外国税額控除を適用し、40−15=25万円の法人税額を丁はX国に納付しなければならない。
 (5)戊支店はOECDモデル租税条約7条1項にいう恒久的施設に該当することが前提の問題であると考えられる。日本は戊支店に帰属する利得(純所得)に対してのみ日本の他の法人と差別なく課税することになるので、利得(150−50=)100万円について30%たる30蔓延の法人税を戊支店は日本に納付する。丁銀行は日本で30万円の法人税を納めているので、OECD23B条1項a)による外国税額控除を主張することができ、40−30=10万円の法人税を丁銀行はX国に納付する。
 (6)arm's length priceが1100万円であったとすると、X国が乙に対して移転価格税制に基づき乙の所得は200万円上乗せされるべきであるとする内容の増額更正の処分をすることになる。なおこの場合日本では移転価格税制の要件が満たされない。日本課税庁から見てarm's length priceが1100万円ではなく800万円である場合は、日本が甲に対して移転価格税制に基づき甲の費用は100万円少ない(所得が100万円上乗せされる)べきであるとする内容の増額更正処分をすることになる。このようにX国課税庁が考えるarm's length priceと日本課税庁が考えるarm's length priceが食い違っている場合、放置しておくと1100−800=300万円の部分について乙・甲合わせて経済的に見て二重課税が生じてしまうので、二重課税を解消するために、OECDモデル租税条約25条に基づきX国と日本の権限のある当局が協議(これを相互協議という)して、両国が納得できるarm's length priceを探ることになる。しかし、相互協議が2年以内にまとまらない場合、OECDモデル25条5項により仲裁(arbitration)手続きにかけることを納税者側が要求できる。2年以内に相互協議がまとまらなければ仲裁で強引に価格が決められてしまうという圧力を背景として、2年以内に相互協議がまとまるよう両国が努力することが期待されている。
 (7)過小資本税制の場合:甲が己に100を出資する他に、その3倍(100×3=300)を超える貸付を行っている場合、例えば500の貸し付けを行っている場合、3倍を超える部分(すなわち500−300=200)の貸付に係る利子支払い(本問では利子率25%が想定されているので200×25%=50)について、Y国は己の支払利子損金算入を認めない。Y国の法人税率が40%である場合、50×40%=20の分だけ己のY国に納付すべき法人税額が増えることとなる。
 tax haven対策税制の場合:Y国の法人税率が10%であり、甲が債券を保有するのではなく己が債券を保有する法形式を作出しており、己の主たる事業が債券保有業である場合、己に私法上帰属すると作出されている所得が200であるとすると、日本は当該200が甲の益金に算入されるとして日本の法人税を課す。但し外国税額控除は認められるので、己がY国に200×10%=20の法人税を納付し、甲は日本に200×30%−20=40を納付する。


【講評】
(1)2.50点。「計算結果が間違っていても計算過程が正しければ加点」と書かれていても、答案に計算過程書かない人っているんですねー。チャレンジャーだなあ(棒)。
(2)4.06点。乙が課税事業者を選択するか否かで乙の仕入れの税込価格が変わるという答案が多かったです。
(3)3.00点。まあまあです。
(4)0.00点。……
(5)0.28点。……
(6)1.61点。相互協議についても書いている答案がありました。
(7)3.06点。過小資本税制についてよく書けていました。持ち込み可だからでしょう。減点していませんが、この世界では「利子率・割引率は年25%」と仮定しているのに、勝手に甲己間の貸付金の利子率を10%に変更しないでほしいところです。あと、手書きの乙と己が見分けにくいので、会社名をもっと考えればよかったと後悔しました。

全体平均14.5点、標準偏差11.47、最高40点、最低0点。受講登録していたけれども試験を受験しなかった人もFが付くので、F率が半分近くになっていると思いますが、期末試験受験してFの人と受験しないでFの人とを区別できるようにしてもらえませんかね。受験者総数に占めるABCDFの割合に関する上智大学法学部成績割合の申し合わせについては守っています。A5.6%、B22.2%、C22.2%、D33.3%、F16.7%……この分母は受験者数です。



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