2026年度租税法1(EX411)
期末試験解説 2026年7月27日(月)1時限実施
『租税法概説5版』掲載裁決・裁判が解答に関係する場合、裁決・裁判年月日を記せ。配点は時間配分の目安であり、問題に関し租税法学上意味のある記述には配点を超える加点の可能性がある。抜粋されてない条文も関係しうる。抜粋されている条文が関係するとは限らない。抜粋されている条文が解答に関係する場合、条項号を記せ。登場人物は日本居住者であり原則として日本の現行法令が適用される範囲の問題であるとするが、消費税・震災復興増税・地方税・租税特別措置法は無いとし、計算の便宜のため、年単位の計算とし(月日の考慮は無し)、利子率・割引率は10%(年複利)であるとし、所得税率・相続税率・贈与税率は1000万円以下が20%、1000万円超が40%の超過累進税率構造であり、変動所得・臨時所得の規定は無いとし、万円未満四捨五入とする。計算誤りでも過程に加点することがある。単純累進税率の答案は、授業を聴いてない証であるので、配点に関係なく不可(D)とする。
酒寄彩葉(以下「I氏」という)は帝アキラ(以下「A氏」という)と法律婚の関係にある。A氏はツクヨミ(以下「T」という)というネトゲでA氏名義(詞・曲とも)の歌を提供し稼いでいた。A氏は実は作曲能力だけが優れ、I氏が詞をA氏に提供していた。詞も曲も同程度に人気があり、作詞家と作曲家が独立の関係であれば歌曲の収益を折半していたであろうことから、A氏は歌の稼得の半分をI氏に渡していた。I氏は独立自営研究者として稼いでいた。第1年度の、A氏の歌の収入金額(必要経費は零。I氏に半分を渡す前)も[この「も」は「は」に訂正すべきだが意味が変わらないので訂正しなかった]1000万円、I氏の研究の収入金額(必要経費は零)は1100万円であり、両氏に他の収入は無かった。
I氏はかぐや(以下「K氏」)と浮気をしていた。第2年度にI氏はA氏に離婚を申し入れたが、A氏は作詞ができず離婚を嫌がった。I氏はA氏に「裸一貫、やり直したい。私の全財産である別荘(以下「B」という)を財産分与としてA氏に渡す。別居して離婚しようとしても5年以上かかる。そこまで待つのが辛い。すぐ離婚してK氏と結婚したい」と懇願した。A氏はI氏との離婚に合意した。A氏もI氏も浪費家のため夫婦共通財産は零であり、狭義の財産分与は零であった。また、浮気で離婚に至る際の慰謝料の相場は300万円とする。財産分与としてBがI氏からA氏に移転した。BはI氏が婚姻前に400万円で購入した特有財産であり、離婚時の時価は2000万円であった。
第3年度に、I氏はK氏と法律婚をした。同年、I氏はTを面白くする発明をした。Tを運営する月見ヤチヨ(以下「Y氏」という)は、当該発明に係る特許を受ける権利(以下、この権利を「H」という)を譲渡してほしいとI氏に申し込んだ。Tの運営期間には制限があり、第6年度末にTの運営は終了する予定であった。交渉の結果、第3年度末にI氏がHをY氏に譲渡する、Y氏は第4年度末・第5年度末・第6年度末にそれぞれ1000万円ずつ(名目値合計3000万円)の対価をI氏に支払う(この支払に係るI氏の債権を以下「S」という)という内容の契約が合意された。第4年末にI氏がY氏から1000万円の支払を受けた直後にI氏は死亡し、唯一の相続人であるK氏が相続した。
(1)(15点)I氏は第1年度の事業所得1100万円のみがある内容の申告をしたが、課税庁は、A氏名義の歌の所得1000万円の半分はI氏が享受しているから、I氏の所得に加算されると主張した。課税庁主張の税額を算出した上で、当否を論じよ。計算の便宜のため所得税法72〜88条の控除額は百万円であるとする。
(2)(25点)財産分与に関するI氏の総所得金額について説明せよ。場合分けを要することに留意せよ。金子宏の説の本件への当てはめから説明し、判例も説明せよ。第2年度のI氏の事業所得が不明なので所得税額の算出は不要とする。
(3)(35点)財産分与に関するA氏の課税関係について4つの可能性を説明せよ。税額を算出できる場合は算出せよ。第2年度のA氏の事業所得は不明とする。
(4)(5点)第3年度末のSの割引現在価値を算出せよ。なお所得税法132条(延払条件付譲渡に係る所得税額の延納)は無いとする。
(5)(10点)第4年度のI氏のSに係る所得を、真の経済的減価償却に基づいて算出せよ。I氏の他の所得が不明なので税額算出は不要とする。
(6)(10点)I氏の死亡に係る相続税の課税関係について説明せよ。
[条文等抜粋は省略]
【解説】
(1)税額計算について教科書103-104頁参照。課税庁主張の通りであるとするとI氏の事業所得は1100万円+500万円=1600万円である。所得税法72〜88条の所得控除の額が百万円であると設定されているので課税所得は1500万円であり、1000万円までが20%、1000万円超の部分、1500万円−1000万円=500万円が40%で課税されるので、1000×20%+(1500−1000)×40%=400(万円)と算出される。
次に課税庁主張の当否を検討する。教科書137頁にある通り、所得税法56条は、A氏がI氏に払った対価について所得の帰属がA氏からI氏に変わることはないとするみなし規定である。このため、A氏がI氏に500万円払ったという事実は所得税制に関して無視される。そのため課税庁主張の当否は否である。所得税法56条は所得税法12条の特則であるので、所得税法12条に関する考察がどうであれ、所得税法56条の特則が優先的に適用される。
所得税法56条に思い至らない答案は、本問の説例について、夫婦財産契約による所得の夫婦折半を認めなかった東京地判昭和63年5月16日(教科書136頁)を想起し、本問がその射程内であるか否かを検討するかもしれない。東京地判昭和63年5月16日では、本問のA氏が外部との関係で所得を稼得したことだけが所得税法上意味を持ち、夫婦折半は所得税法上意味を持たない、と判示したので、本問でもA氏がI氏に500万円払ったという事実は所得税制に関して無視される。そのため課税庁主張の当否は否である。
しかし、前段落の記述は、東京地判昭和63年5月16日と本問の説例との重要な違いを見落としている。東京地判昭和63年5月16日では主に家事をしていた妻に半分の所得が帰属することが認められなかったという事案である一方、本問のI氏はarm’s lengthの関係であったなら半分の所得の帰属が認められるであろう貢献をしていた、という違いがある。この違いを重視すると、東京地判昭和63年5月16日の射程に本問は入らず、所得税法12条に関しては本問でA氏がI氏に500万円払ったという事実は所得税制に関して無視されない、という答案になりうる。すると課税庁主張の当否は当ということになりそうである。しかし、それでも前々段落に書いたように所得税法56条が所得税法12条より優先的に適用されるので、結論としては誤りである。
(2)金子宏の説によれば、離婚の財産分与は、夫婦共通財産の精算の場合、共有地の分割と同様に、分与者にとっての「譲渡」(所得税法33条1項)として扱うべきではないことになる(教科書111頁)。しかし、本問ではI氏はBを婚姻前に購入しているので、I氏の特有財産であり夫婦共通財産の精算には当てはまらないので、金子宏の説によったとしても、本問の財産分与はI氏にとって所得税法33条1項の譲渡である。
名古屋医師財産分与事件・最判昭和50年5月27日(教科書111頁)が判示したところによれば、所得税法33条1項の「譲渡」は有償無償を問わない一切の移転をいうので離婚の財産分与もI氏にとっての譲渡である。なお、離婚の財産分与は有償であるとも判示されている。結局、本問では金子宏の説によるか判例によるかで譲渡に当たるか否かの結論は変わらない。
譲渡総収入金額は、分与義務消滅の価値で測られる。そしてそれはBの譲渡時の時価である。よって2000万円である。取得費(所得税法33条3項、38条1項)は400万円であると設定されているので、譲渡益(所得税法33条3項)は2000−400=1600(万円)である。
譲渡益に関して総所得金額に算入される額を計算するに際し場合分けを要する。I氏が離婚の5年超前にBを購入したのであれば、所得税法33条3項2号の長期譲渡所得であるから、所得税法33条4項の控除額である50万円を控除した残額である1550万円の半分(所得税法22条2項2号)である775万円が総所得金額に算入される。
I氏が離婚の前5年以内にBを購入したのであれば所得税法33条3項1号の短期譲渡所得であるから、1550万円が総所得金額に算入される。
(3)第一に、相基通9-8にある通り、本問の財産分与が「その分与に係る財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお過当であると認められ」ない場合、つまり、離婚の慰謝料として過当ではないと認められる場合、A氏の受贈として扱われず、A氏に課税関係は生じないという可能性が考えられる。不貞の慰謝料の相場が300万円であるからといって、A氏が300万円で離婚に応じなければならないということを意味するわけではなく、離婚したくないA氏が仕方なく離婚を承諾するためには300万円より多少上乗せされた額が支払われたとしても直ちに「過当」には当たらない、と考えることになる。
第二に、相基通9-8にある通り、本問の財産分与が「その分与に係る財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお過当であると認められる」場合における当該過当である部分」がA氏にとっての受贈に当たり、A氏は贈与税を納税する義務が生じる。確かにA氏が300万円で離婚に応じなければならないというわけではないが、300万円を超える部分が過当でないということを意味するわけでもなく、1700万円の受贈として扱うことが考えられる。1700万円の受贈から、60万円の基礎控除(相続税法21条の5。本問では租税特別措置法の適用はないと仮定されていることに留意)を引いた1640万円が課税対象となる金額であり、1000×20%+(1640−1000)×40%=456(万円)の贈与税額となる。なお、受贈であるとしたならば所得税法9条1項17号によりA氏の課税所得には算入されない。
第三に、1700万円の部分が過当であるとしても、それが贈与であるかについては疑問の余地がある。A氏は離婚したくなかったのであり、離婚をいやいやながら承諾するための上乗せ額が1700万円であったということであるとすると、1700万円の部分は無償のI氏からA氏への移転ではなく、離婚の承諾の対価であったと考えることができる。マンション建設承諾料事件・大阪地判昭和54年5月31日(教科書126頁)は、正に、承諾の対価の部分が一時所得に当たるとしているため、本問でもA氏にとって1700万円の部分が一時所得に当たる、という可能性がある。A氏の事業所得の額が分からないので所得税額は算出できない。
第四に、大阪地判昭和54年5月31日は確かに一時所得であるとしたが、一時所得の定義を定める所得税法34条1項は「対価としての性質を有しないもの」という要件を掲げている。承諾の対価もここでいう「対価」に当たると考えるとすると、一時所得には当たらない、と考えることとなる。すると所得税法35条の雑所得に当たることとなる、という可能性が考えられる。やはり所得税額は算出できない。
(4)1000/(1+10%)^1+1000/(1+10%)^2+1000/(1+10%)^3=2487(万円。万円未満四捨五入)。個別に計算すると909+826+751=2486(万円)と算出されるかもしれない。これも正答とする。
(5)第4年度末(1000万円を受け取った直後)のSの割引現在価値は1000/(1+10%)^1+1000/(1+10%)^2=1735(万円)であるから、真の経済的減価償却の額は2487−1735=752(万円)である。収益が1000万円であるから、Sに係る所得は1000−752=248(万円)である。(249万円でも正答とする)
(6)相続税法19条の2は、法定相続分または1億6000万円のうちの何れか大きい方の額までを、配偶者が相続で受け取る場合は非課税としている。本問ではK氏が法定相続分通りに相続しているので相続税は非課税である。
【講評】
(1)平均5.82点/15。百万円の所得控除を税額控除で計算している答案が散見されました。歯科医院親子共同経営事件・東京高判平成3年6月6日に基づき、A氏が歌の経営主体だから所得分割は認められない、とする答案がありました。想定していなかった回答ですが加点に値すると考え加点しました。
(2)平均7.86点/25。「裁決・裁判年月日を記せ」という指示にもかかわらず、「名古屋医師財産分与事件」など事件通称名だけ書く答案が散見されました。仕方ないので部分点としました。
(3)平均0.82点/35。講義で熱弁したつもりだったのですが白紙に近い答案が続出しました(あの日、受講していた人数少なかったし)。相基通9-8を問題用紙に掲記したにもかかわらず相基通9-8に言及した答案ですら僅かでした。
(4)平均1.73点/5。1000+1000/1.1+1000/1.1^2≒2735 or 2736(万円)とする答案が散見されました。年金払い生命保険金二重課税事件・最判平成22年7月6日の説明で230/1.1372^0+230/1.1372^1+230/1.1372^2+……+230/1.1372^9=1380の計算式を強調したせいですね。
1000/1.25+1000/1.25^2+1000/1.25^3=1952(万円)とする答案も散見されました。確かに過去問では割引率25%にしていたのですが問題文の指示を落ち着いて読んでください。
(5)平均0.45点/10。講義で熱弁したつもりですが難しい。そりゃそう。
(6)平均2.73点/10。相続財産の価値が基礎控除3600万円以下だから非課税という答案も正解としました。
超かぐや姫!、面白いですね。と言いつつ、作問時にハマっていたのはゾンビランドサガでした。が、ゾンビに相続税法を適用するとどうなるか分からなかったので、超かぐや姫!にしました。
単純累進税率で計算した答案は不可としました。どうしたら単純累進税率で計算する答案を撲滅できるか、知恵が思い浮かびません。
今回、私が担当する法学部の試験で初めて紙媒体持込可としました(全カリや他大学では経験済み)。予想はしていましたが、全カリや他大学で実施してみた経験と同様に、あまり答案が改善された感触はありませんでした(問題の難易度が違うということもあるでしょうし統計的検証は難しいですが)。敢えて違う感触を挙げるとすれば標準偏差が例年より小さい(13.8点という点でしょうか。なお、紙媒体持込可としたことで、楽勝科目だと勘違いして試験会場に来た学生もいたであろうことも、平均点を押し下げることに貢献していると思われます。法学部では原則として持込不可で筆記試験を実施することになっており、今回、執行部に特別にお願いして紙媒体持込可の筆記試験を実施してみて、予想できたとはいえ、あまり答案が改善されないという知見が得られたことは、今後の教育において一つの材料となると思います。
教科書が手許にある状態で筆記試験に臨んでも、取引関係図を頭の中でイメージできていないから、的外れになる、というのが失点の大きな原因であるということも、紙媒体持込可とすることではっきりとしてきました。不貞の慰謝料相場が300万円なのに離婚を早く承諾してもらうために2000万円の価値のある資産を移転する、というストーリーなのですが、2000万円+300万円をI氏が元配偶者に提供したというストーリーで理解している答案が散見されました。恐らく、民法とかが出来ないのであろう、と推測されます。2年次開講科目を増やすという運動を何年か前にしたことに呼応して、租税法も2年次に受講することができるようになりましたが、2年次生の受講はあまりお勧めできない、ということを、シラバスに(今でも匂わせていますが)もっとはっきりした形で書いた方がいいかな、と考えました。
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