講義ノート本体:立教大学法学部 租税法2025浅妻章如 www.rikkyo.ne.jp/web/asatsuma aa

導入

2023youtube各年度税制改正税調答申日本の統計国税庁2024()| 財政統計 英財政関係資料R03 | もっと知 | 国民負担率 | 財政金融統計月報865 | パンフ
この講義ノートで教科書『租税法概説』を補完していく。
「[浅妻]〜〜」という部分は私見であり定説とは限らない。(余談 情けは人のためならずと板書vs.グループ学習)
租税法はお金儲けに役立つ(というのは立教生にアピールしないようだ)。司法試験での不人気(選択科目8科目中6位)。
学部学生が学ぶ意義は?(全員が租税実務家になるわけではない / 頻繁に改定される)
(1)全員が参政権者になる → 租税の公平を論ずる基礎(ひいては政治への意識も)。
(2)人的資本の向上 → 概念操作でなく数字の操作で知る租税回避テクニック(実際に使える訳ではない)。
本講義は判例・実定法詳解に拘らず広く浅くの方針。どちらかというと復習推奨。
一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十
教科書:中里実ら編著『租税法概説』(4版、有斐閣、2021) 中文(中国語訳)
金子宏『租税法』(24版、弘文堂、2021)(単著としては最後の改訂)
金子宏ら編著『ケースブック租税法』(6版、弘文堂、2023)(「§121.01」等はケースブックとの対応)
中里実・増井良啓『租税法判例六法』(6版、有斐閣、2023)
増井良啓『租税法入門』(3版、有斐閣、2023)
佐藤英明『スタンダード所得税法』(4版、弘文堂、2024)
渡辺徹也『スタンダード法人税法』(3版、弘文堂、2023)
佐藤英明・西山由美『スタンダード消費税法』(2版、弘文堂、2022)
中里実他編『租税判例百選』(7版、有斐閣、2021)
増井良啓・宮崎裕子『国際租税法』(4版、東京大学出版会、2019)
以上、司法試験で租税法を選択する者に勧める本。以下、入門書、副読本等。
金子宏他『税法入門』(7版、有斐閣、2016)
三木義一編著『よくわかる税法入門』(19版、有斐閣、2025)
佐藤英明『プレップ租税法』(4版、弘文堂、2021)
浅妻章如・酒井貴子『租税法』(日本評論社、2020)(link先に訂正あり)
浅妻章如『ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか』(中央経済社、2020)
浅妻章如『なぜ多国籍企業への課税はままならないのか』(中央経済社、2023)
マンキュー(足立英之他訳)『マンキュー経済学 Tミクロ編・Uマクロ編』(東洋経済新報社)
スティグリッツ(薮下史郎・訳)『公共経済学 上下』(東洋経済新報社)
シャベル(田中亘・飯田高訳)『法と経済学』(日本経済新聞出版社、2010)
税大講本 (無料で勉強できる)|財務省 わが国の税制の概要

『実務税法六法 法令編』(新日本法規);『税務六法 法令編』(ぎょうせい)
所得税法 所得税法施行令 所得税法施行規則 法人税法 相続税法 消費税法 地方税法 租税特別措置法 国税通則法 国税徴収法 租税条約実施特例法
その他:条約検索 | 租税条約一覧 | 社会保障協定 | 投資協定一覧 | 通達(所得税法基本通達等の法令解釈通達の他、「事前紹介に対する文書回答」や「質疑応答事例」等もある) | 国税庁タックスアンサー | 和英翻訳

1. 租税法の位置付け

1.1. 租税の概念とその歴史的背景

1.2. 公法としての租税法と取引法としての租税法

1.3. 法的分析と経済分析の統合――租税政策と租税法

1.4. 理論と実務の融合と、関連法分野の統合的考察の必要性

1.5. まとめ――課税問題の特色としての総合性

民法や商法の講義と、現実とのズレがある。高校物理と空気抵抗の比喩ct
例:相続において民法上はともかく実務上は限定承認をすると不利になることがある(4.2.3.5.)。

2. 租税をめぐる立法・行政

2.1. 現代国家と租税制度

2.1.1. 現代国家における租税

2.1.1.1. 資本主義経済体制と租税

2.1.1.2. 福祉国家と租税

2.1.1.3. デモクラシー・「公益」・租税

1 公共財提供のための資金調達
公共財(public goods)cu……典型は国防。 トマトの消費などとの違いについて。
非競合性(nonrivalrous):消費が競合しないので利用する人が増えても追加的費用がかからない。
非排除性(nonexcludable):利用する人を締め出すことが困難である。
 ↓
ただ乗り(free ride)問題の発生。市場の失敗 → 政府が提供しなければならない。
(しかし政府の失敗もあるかもしれない。 かといってNPO・非営利組織に任せられるか?)

2 (所得・富の)再分配
 国家が弱者救済をしないとすれば、篤志家・宗教施設等に頼ることとなろう(或いは…略)。
 しかし現在の憲法 25条は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障せよとする。国に頼るな、という哲学・価値判断は議論の対象たりうるが、少なくとも現在のところ日本人はそのような価値判断をしていない。
 尤も、無い袖は触れない。憲法25条はプログラム規定。憲法29条:私有財産制との緊張もある。
 再分配は租税でなく社会保障(social security生活保護や年金等)が担う機能である、という説明を時折見かける。[浅妻]そういう説明は無意味だろう。租税にせよ社会保障にせよ、政府が遂行している。cv
 一般論として増税は弱者のため(再分配の原資とする)である。増税→弱者いじめは必然ではなく設計次第。
 cf.貧困の罠(poverty trap)…貧困からの脱却の困難さ。最低限の生活費を給付するとすると受給者の労働意欲が阻害される(税率100%と等しいため。政府や、震災後の東電による被災者の生活保障設計でも共通する問題)。かといって給付を削るのも困難。cf.ベーシックインカム・負の所得税cw

3 景気調整…景気過熱期、賃金等が上昇し、累進所得税制の下で税額が増え、景気停滞期、賃金等が減少し、累進税制の下で税額が減る、という自動景気調整(built-in stabilizer)機能がある。cf.大野太郎=井口智博=小嶋大造「個人所得課税の自動安定化効果」2024年11月/24A-03(通巻375号)cx
4 政策実現の一手段…炭素税等のbads taxや、加速度償却等による租税優遇措置が典型。

租税を課すことの正当化根拠
利益説・対価説…国家契約説を背景とし、市民が国家から受ける利益の対価と見る考え方。国防等の公共財を考えればこの理念は否定し難いが、強調しすぎれば福祉国家の理念と衝突する恐れ。

義務説・犠牲説・能力説…国家は当然に課税権を持ち(権威的国家思想)、国民は当然に納税義務を負う、とする考え方。国家は国民の利便のために存在するという理念と衝突する恐れ。dh

2.1.2. 日本の租税制度の現状

2.1.2.1. 国税と地方税(地方税総論) 図表2-1 国と地方の税収構造

COLUMN2-1 地方譲与税・地方交付税は「税」か?

2.1.2.2. 国の税収構造 図表2-2一般会計税収推移 図表2-3歳入歳出構造

2.1.2.3. 歳入構造――「租税国家」の現状

歳入の公債依存が慢性化→せめてプライマリーバランス(primary balance:基礎的財政収支)の均衡(できれば黒字化)を!… 現在の収入で、これまでの借金の元利払い以外の支出は賄えるようにしよう(今後の借金は過去の借金の返済だけにとどめる)ということ。

2.1.3. 課税権の法的構成としての租税法

2.1.3.1. 国家の課税権とその法的統制

グラクソ事件・最判平成21年10月29日民集63巻8号1881頁百選7版74(⇒COLUMN8-4)

2.1.3.2. 議会の課税承認と租税法律の位置付け

2.1.3.3. 日本の租税法の体系と特徴

2.2. 租税法の定立過程

2.2.1. 憲法上の原則

憲法14条:平等取扱原則 →租税公平主義
憲法30条:納税義務
憲法83条:財政民主主義・財政国会中心主義 →財政法に多くを譲る。
憲法84条:租税法律主義
憲法94条:自主財政主義

2.2.1.1. 租税法律主義

2.2.1.1.a 課税要件法定主義
憲法84条「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」
……憲法31条(罪刑法定主義)「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」と対比

そもそも議会は国王による恣意的課税を防ぐために現れた。 2つの思想的基礎:民主主義・自由主義。
(間接) 民主主義 →課税対象者の同意。代表なくして課税なし (cf. Boston Tea Party事件)dq
[浅妻]現実には参政権のない者に課税することがある(未成年、外国人等)。【課税対象者の同意】【国費自己負担】は貫徹されてない。不公平な課税か否か、という別の考慮要素で補完せざるをえないと浅妻は思う。
応用問題:参政権のない法人に課税することは違憲か?(cf.地方団体)

固定資産税名義人課税主義事件最大判昭和30年3月23日民集9巻3号336頁dr……XはAに昭和26年2月5日に土地の所有権を譲渡(10日、移転登記)した事例。地方税法343条及び359条が1月1日現在の土地所有者として登録されている者を納税義務者としていることは憲法に違反しない。

委任立法(立法府が行政府に委任することが許されるか)は具体的・個別的でなければならない。
一般的・白紙的委任は違憲・無効。cf.佐藤英明「租税法律による命令への委任の司法統制のあり方――現状と評価」『租税法律主義の総合的検討』11頁(フィナンシャル・レビュー129号)mz

5版§123.02秋田市国民健康保険税事件仙台高秋田支判昭和57年7月23日行集33巻7号1616頁(6版18頁)
憲法84条の地方版・地方税条例主義に関し、課税総額の定め方について条例で基準が規定されていないため、課税要件条例主義違反と判断。

6版§111.01旭川市国民健康保険条例事件最大判平成18年3月1日民集60巻2号587頁7版2df
国民健康保険料の保険料率が事前に明らかにされていないことは憲法84条違反かについて、国民健康保険料には対価性がある(「反対給付として徴収される」)ので「憲法84条の規定が直接に適用されることはない」(但し国民健康保険税の場合には「適用される」とも述べており、形式的)。
しかし「租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合いなどの点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶ」。

6版§112.02手続要件規定の委任の可否 協同組合員登録免許税軽減事件(木更津木材事件)・東京高判平成7年11月28日行集46巻10=11号1046頁
 登録免許税の軽減が租税特別措置法に定められており、そのための手続要件(知事の証明書)が租特法施行規則29条に定められていた。税金を誤って過大に納付してしまったとして、納税者・Xは不当利得を理由に差額の返還を請求。
 一審:知事の証明書の添付を手続要件とすることが法の政令への委任の定めからは、読み取ることができない、としてXの請求を認容。(課税庁の通知の適法性に関しては認めている)
 二審:国の控訴を棄却。「政令以下の法令に委任することが許されるのは…租税法律主義の本質を損なわないものに限られるものといわねばならない。」「もし仮に手続的な課税要件を定めるのであれば、手続的な事項を課税要件とすること自体は法律で規定し、その上で課税要件となる手続の細目を政令以下に委任すれば足りる」「ある事項を課税要件として追加するのかどうかについて法律に明文の規定がない場合、通常はその事項は課税要件ではないと解釈すべきものである。」「手続的事項は手続的効果を有するにとどめ、これを課税要件としない立法政策がある…」

cf.登録免許税震災特例事件・大阪高判平成12年10月24日判タ1068号171頁
 地震の特例による登録免許税免除について。特例法による証明書の添付という手続を懈怠し、通常通り納めてしまった税金につき、納税者は不当利得返還請求等を請求。
 一審:不当利得返還請求部分については認容。(課税庁の通知の適法性に関しては認めている)
 二審:原判決取消、請求棄却。 …政令以下への委任は「具体的・個別的委任に限られるのであり、一般的・白紙的委任は許されない」 / 登記手続では一定の書面の添付を予定しており、そして、省令は手続的事項の定めしか置かないのが通常。「特例法37条1項の大蔵省令への委任は、一般的・白紙的に委任をしたものでは」ない。

cf.ドイツ証券事件東京地判平成27年5月28日税務訴訟資料265号順号12671・東京高判平成27年12月2日税務訴訟資料265号順号12763…ストックアワードは一時所得・譲渡所得ではなく給与所得であり付与主体はドイツ法人であり日本法人ではなく源泉徴収義務はないとされた事例。租税条約実施特例法12条の委任を受けた施行規則9条の2による届出書の提出は租税条約の恩恵を受けるための手続要件ではない。
2.2.1.1.b 課税要件明確主義
自由主義からの要請 → 予測可能性(または法的安定性)の確保
課税結果が予測できなければ、取引が萎縮する、という説明。

教科書的説明を一歩超えた考察
(1)租税法規が不明確だと本当に取引が萎縮するのか?
(2)取引が萎縮することの何が悪いのか?

(1)に関し想像しうる反論――合理的経済人は全てのリスクを織り込んで取引等の行動をする筈である。租税負担が不明確であっても、そのリスクを織り込んで合理的経済人は行動する筈である……か?(cf. Knightによるリスクriskと不確実性uncertaintyとの区別)
多くの人はリスク嫌い(risk averse) → 取引萎縮。
尤も実際のところ規定が未整備の領域は少なからずある。規定を作るコストも馬鹿にできない。dt

(2)に関し、取引は多い方がよいのか?……自発的取引は社会の厚生(welfare)増大に資する(例:林檎20個を保有するA氏と肉5kgを保有するB氏との間の取引)。取引が萎縮すれば、社会に発生した筈の厚生がなくなる。

不確定概念の許容性bk (cf. rule vs. standard if) (cf.⇒COLUMN5-1同族会社)
不確定概念を2種類に区別……租税行政庁に自由裁量を与えるか否か。解釈によって明確化できるか否か。
1 当該規定の終局目的や価値概念を内容とする不確定概念(例:「公益上必要のあるとき」)
2 中間目的ないし経験概念を内容とする不確定概念(例:同族会社規定での税負担を「不当に減少させる」)
2.2.1.1.c 合法性の原則
法律で定められた通り課税しなければならず、課税当局には課税を重くしたり減免したりする裁量が認められない。租税公平主義の延長で理解。
和解(⇒3.2.4.5.)や協定は無効という建前(cf. 銀行税)に結びつく(が、事実認定に関する和解はありうるという議論もある)。cf.佐藤英明「租税法律主義と租税公平主義」金子宏編『租税法の基本問題』55頁(有斐閣、2007)
信義則(又は禁反言)(⇒3.1.4.)と衝突する可能性du
2.2.1.1.d 適正手続(due process)の保障
納税者が法的に争う余地が確保されていなければならない。租税争訟制度(⇒3.2.)の充実。

6版§232.01雑所得貸倒分不当利得返還請求事件・最判昭和49年3月8日民集28巻2号186頁(cf.4.4.2.)

福岡地判令和3(行ウ)29号(棄却)・福岡高判令和5年6月30日令和5(行コ)3号(棄却)・最判令和6年5月7日令和5(行ツ)334号(棄却)(金谷比呂史(納税者代理人)・税法学590号125-142頁、野一色直人「青色申告承認取消処分(法人税法127条1項)において事前の意見陳述手続は必要とされないとされた事例」新・判例解説Watch租税法No.185 (2024.7.5)、山田哲史「青色申告の承認の取消処分に対する事前の防御の機会の付与と憲法31条」新・判例解説Watch憲法No.234 (2024.8.2))

最判平成26年12月12日集民248号165頁百選6版99de……減額更正後の増額更正の場合、延滞税(⇒2.3.2.4.a)なし(最高裁の租税判例で「衡平」を用いた恐らく唯一の例)(平28改正→税通61条2項で対処)。
同様に衡平を考慮したと目される(但し衡平とは言ってない)例として充当に関する最判令和3年6月22日民集75巻7号3124頁fr(浅妻章如「滞納処分における配当金のうち、後の減額賦課決定により配当時に存在しなかったこととなる年度分の住民税に充当されていた部分は、他の年度分の住民税に法定充当される」判例秘書ジャーナル文献番号HJ100129)(難しいので後回しでよい)。
2.2.1.1.e 遡及立法の禁止
6版§115.01土地譲渡損失損益通算否定事件最一小判平成23年9月22日民集65巻6号2756頁百選7版3dx(最二小判平成23年9月30日集民237号519頁も同旨だが補足意見が充実している)dz
平成16年3月26日立法、4月1日施行。同年1月1日以後の土地譲渡について損失の損益通算(所税69条)不可。
随時税(相続税等)と違い期間税(所得税等)について期間終了前(所得税なら12月31日以前)なら遡及課税の問題は生じない、という理屈が考えられないではないが、そこまでのことはどの裁判所も言っていない。憲法39条(遡及処罰禁止)のような明示の規定はないが、憲法84条は予測可能性・法的安定性も保障していると考えられている。しかし結論としては平成16年改正による遡及課税を容認(合憲判断)。
(1)憲法29条1項(財産権保障)に関する最大判昭和53年7月12日民集32巻5号946頁百選憲法7版I-99gj(農地売払対価変更は農地売払請求権自体の侵害ではなく合憲)に依拠している(財産権の内容に対する事後的な制約の許される/許されない範囲の問題として論じる)こと、及び
(2)大嶋訴訟(⇒§121.01)に言及していないこと(下級審は大嶋訴訟に言及していたが、大嶋訴訟の憲法14条1項の問題と本件の憲法29条1項の問題は違うと最高裁は考えたのであろう)がポイント。
渕圭吾「租税法律主義と『遡及立法』」『租税法律主義の総合的検討』61頁は名作。遡及立法で租税回避を潰すことと、裁判所が解釈論で租税回避を潰すことと、どちらが租税法律主義に適合的か?→概説26頁(藤谷武史)「遡及立法の問題を租税法律主義と関連付けて論じるべきではない」。

大阪高判昭和52年8月30日判時878号57頁(原審神戸地判昭和52年2月24日訟月23巻3号572頁)……土地保有税に関する規定の施行日は昭和48年7月1日であるのに昭和44年1月1日以後に取得して保有する土地にこれを適用するとしたことは違憲ではない。

遡及を禁じた例として沖縄生鮮魚介類事件・福岡高那覇支判昭和48年10月31日訟月19巻13号220頁…物品税の課税対象に掲げられていなかった魚介類について納付された税額の還付を防ごうとする法改正を認めない。dw
2.2.1.1.f 租税法の解釈原則
§141.01ホステス報酬計算期間事件・最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁百選7版13(⇒3.1.1.3.)

最判平成27年7月17日判時2279号16頁gk……登記簿の表題部の所有者欄に「大字西」などと記載されている土地につき、地方税法343条2項後段の類推適用により、当該土地の所在する地区の住民により組織されている自治会又は町会が当該土地の固定資産税の納税義務者に当たるか(消極)(cf.⇒3.1.1.2.)

2.2.1.2. 租税公平主義

2.2.1.2.a 公平負担原則
水平的公平・垂直的公平の区別に留意(4.1.1.2.で詳述)
COLUMN2-2 大嶋訴訟と所得税法改正
☆6版§121.01租税立法の違憲審査基準 大嶋訴訟(サラリーマン税金訴訟)・最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁百選7版1di
争点:原告(大学教授)の源泉徴収djされる給与所得について実額経費控除dkを認めない等の規定の違憲性?
補足:訴訟が起きにくいようにするため、現在給与所得控除(概算的経費控除と位置づけられる)はかなり納税者に甘く設計されている。つまり、実際の経費が給与所得控除額を上回ることは殆どない(が、本件では実額経費の方が大きいと原告は主張dl)。(cf.民間給与実態)

判示 ●租税の定義・機能(2.2.2.参照)
●「財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とする」「極めて専門技術的な判断を必要とする」
●「著しく不合理」であることが「明らか」でない限り、立法府の判断に口出ししない。dn
●給与所得者の実額控除(選択制も含め)の執行上の困難 → 区別の「目的は正当性を有する」dm
●目的との関連において合理性を有するか ……給与所得者の「必要経費の額が一般に…給与所得控除の額を上回るものと認めることは困難」
(但し伊藤正己補足意見に留意……実額経費給与所得控除が著しい場合、違憲とする)。

納税者敗訴であるものの昭和62改正への政策的意義→所税57条の2特定支出控除の創設。(平24改正)⇒4.2.6.3.

憲法(特に14条1項)違反の訴訟は殆ど斥けられている。
ゴルフ場娯楽施設利用税事件・最判昭和50年2月6日判時760号30頁……ゴルフだけに課税することは違憲ではない。
 応用:ラーメン税、携帯音楽再生機税(iPod等)などを創設するとして、それは合憲か?
奈良県文化観光税条例事件(東大寺事件)・奈良地判昭和43年7月17日行集19巻7号1221頁……東大寺の入場料金に課税することは信教の自由(憲法20条)等に違反しない。
 応用:宗教団体を免税とすることは違憲の問題を惹起するか?(そして誰が原告適格を有するか?……納税者に甘い制度について訴訟となることは極めて稀。日本の憲法訴訟のあり方の問題の一つ)
どぶろく裁判最判平成元年12月14日刑集43巻13号841頁
酒販免許制合憲判決最判平成4年12月15日民集46巻9号2829頁、最判平成10年7月16日判時1652号52頁…酒税法9条1項、10条11号は憲法22条1項に違反しない。最も違憲判断に近づいたものの一つといえる。違憲とするならばその論理構成のポイントは?
 応用:出国者に課税することは移住の自由(憲法22条)に違反するか?
小平市国民健康保険条例事件・東京地判平成24年5月23日平23(行ウ)625号判例地方自治379号10頁……国民健康保険税の資産割額の基礎が土地・家屋に限定されていることは租税公平主義に照らし憲法14条1項違反ではない。

性差別(寡婦控除)も合憲…東京地判令和3年5月27日令和元(行ウ)236号、最二小決平成7年12月15日税資214号765頁平成7(行ツ)163号。cf.加藤友佳「家族のあり方と租税」金子宏監『現代租税法講座2家族・社会』3頁(日本評論社、2017)

東京都銀行税条例事件・東京高判平成15年1月30日判時1814号44頁…結論は地方税法違反だが、大銀行のみに課税することは地方税法違反でない。その後和解(?)。憲法判断はない。dp

遡及適用→2.2.1.1.e §115.01

特定の政策目的のために、意図的に差別的な租税法が作られることも珍しくない。違憲判断は滅多にない上に、そもそも訴訟で争点とすることも難しい(例外:大牟田市⇒2.2.1.3.a)。それでも立法論として、公平の問題或いは差別的扱いの合理的理由の有無の問題を議論する余地はあろう。
2.2.1.2.b 平等取扱原則
東京地判令和2年10月9日平成30(行ウ)338号認容…市街地農地の相続税法上の評価について「評価通達により難い特別の事情」ありとして納税者の請求を認容した事例。「評価通達により難い特別の事情の存しない限り,相続開始時における当該不動産の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認する」。「しかし,本件土地を宅地に転用するのに,評価通達40−2や24−4の定めが想定する程度を著しく超える宅地造成費等(建築基準法上の道路まで通路を開設するのに必要な費用を含む。)を要するような場合には,評価通達により難い特別の事情がある」。

6版§441.01時価の評価方法 マンション評価事件(タワマン事件と呼ばれることもあるが係争物はタワマンではない)最判令和4年4月19日民集76巻4号411頁ds(原審東京高判令和2年6月24日令和元(行コ)239号、原々審東京地判令和元年8月27日金判1583号40頁平成29(行ウ)539号)(廣木準一・ジュリスト1555号139頁、浅妻章如・民商法雑誌159巻2号230頁)(⇒COLUMN7-1土地の評価)
 当時、マンションの通達評価額は売買実例価額の1/4程であった。被相続人が約6億円の財産を持って死にそうであったところ、被相続人が約10億円を借金して約14億円(通達評価額は約4億円)のマンションを購入し、死亡した。相続税納税に際し、マンションが4億円、借金が10億円、差引マイナス6億円で、元々有していた積極財産(6億円)を打ち消し、相続税の負担を回避しようとした。
判旨:「租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される。そして、評価通達は相続財産の価額の評価の一般的な方法を定めたものであり、課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実であるから、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達[財産評価基本通達⇒7.1.11]の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。もっとも、上記に述べたところに照らせば、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。」

類例:マンション駆け込み取得事件・東京地判平成4年3月11日判時1416号73頁。

類例:東京高判平成5年3月15日行集44巻3号213頁百選4版78(原審東京地判平成4年7月29日行集43巻6=7号999頁)……相続財産の評価が時価以下でも他の相続人と異なる評価方法による場合は違法となりうるが、この事案は被相続人が借金をして土地を購入した事例であり、相続税負担軽減目的であるので、財産評価基本通達によらず取得価額を以て評価することは許されるとした事例(概説4版29頁に「固定資産税」とあるが、相続税法に関する事案であることに留意)。

類例:東京地判平成5年2月16日判タ845号240頁平成28(行ウ)92号・東京高判平成5年12月21日平成5(行コ)35号

いわゆる3年しばり立法……昭和63年12月改正による旧租特69条の4は、相続開始前3年以内に取得した土地建物等の評価額は取得価額を以てするとしていた。この規定は「憲法違反(財産権の侵害)の疑いが極めて強い」(大阪地判平成7年10月17日行集46巻10=11号942頁)と評され、平成8年に廃止された(ので大阪高判平成10年4月14日訟月45巻6号1112頁で地裁判決は取消された)。

平等取扱原則と固定資産税との関係では次の判例が重要(だが、判旨は必ずしも平等取扱原則に重点をおいてはいない。)……車返団地事件最判平成25年7月12日民集67巻6号1255頁百選7版98go(徳地淳・ジュリスト1465号91頁、同・法曹時報67巻12号221頁、仲野武志・自治研究90巻5号132頁)……(ア)登録価格が時価を上回れば違法。(イ)登録価格が固定資産評価基準(通達ではない。地方税法388条1項を根拠に法源に近い効力が認められる)による評価を上回れば時価を上回ってなくても違法。(ウ)特別な事情なき限り評価基準による評価は時価を上回ってないと推認される。(エ)登録価格が@評価基準による評価を上回る時は(イ)として違法、A(ウ)の推認が及ばず時価を上回る時は(ア)として違法。

茅野事件最判平成15年6月26日民集57巻6号723頁平成10(行コ)41号百選7版97ht……「土地課税台帳等に登録された価格が賦課期日における当該土地の客観的な交換価値を上回れば,当該価格の決定は違法」。これは前記(ア)に相当する。この判例からは、時価を下回りさえすれば、登録価格が固定資産評価基準による評価を上回っていても違法とならないか、不分明であった。前記(イ)により違法となることが明らかになった。

cf.建替え予定マンション贈与事件・東京高判平成27年12月17日訟月62巻8号1404頁百選7版86……建替え前のマンションの部屋の売買実例価額が通達評価額より低く建替え後のマンションの部屋の売買実例価額が通達評価額より高かった事例。マンション建替え検討中に贈与がなされた場合の贈与時の時価よりも課税庁主張額(通達評価額)が上回っているかが問題となった。(結論は請求棄却)……相続税贈与税と財産評価基本通達との関係については最判平成22年7月16日集民234号263頁do(社団たる医療法人が社員退社時の出資の払戻し等の対象を当該法人の一部の財産に限定する旨を定款で定めている場合において、贈与税の課税に当たり当該法人の財産全体を基礎として当該出資を評価することに合理性があると判断した事例)が引用されることが多い。この時、古田佑紀・須藤正彦補足意見は課税の公平性の確保という観点を重視していた。その流れに沿って、マンションの贈与税に関する評価に関する東京地判平成25年12月13日税資263号順号12354も平等取扱原則を重視していたが、その控訴審・東京高判平成27年12月17日判時2282号22頁は敢えて平等取扱原則に関する一審の判示を削っていた(財産評価基本通達に推認効を認める傾向に対し私は反対…浅妻章如・ジュリスト1506号119-122頁)。相続税贈与税に関する財産評価基本通達と平等取扱原則との関係について判例・裁判例との関係は未だ確立していないというべきであるかもしれない。

オオノ事件・東京地判令和6年1月18日令和3(行ウ)22号(認容)(首藤重幸・税研235号93-98頁、山下清兵衛・租税訴訟17号73-96頁{納税者側代理人}、長島弘・租税訴訟17号173-210頁、坂巻綾望「相続税についてなされた更正処分が平等原則違反であると判断された事例」新・判例解説Watch租税法No.193 2025.3.28)・東京高判令和6年8月28日令和6(行コ)36号棄却(吉沢健太郎2025年4月4日租税判例研究会報告)
 事実 本件被相続人Eの本件相続により原告ら(原告A・原告B。どちらもEの子。Eの妻Gも本件相続の相続人であるが原告ではない)が取得した財産(大会社{評価通達178}たるオオノ社{Eが代表取締役。妻Gが監査役}の株式{会社法2条17号譲渡制限株式。評価通達168:取引相場のない株式})の評価について。
 平成26年1月16日 本件被相続人Eがオオノ株売却・資本提携を前提とする秘密保持契約をバイタルネット社と締結した。
 平成26年5月29日 Eとバイタルネット社がオオノ株譲渡に向けた本件基本合意を締結した。63億0408万円(10万5068円/株)。
 平成26年6月11日 E死亡。
 平成26年7月8日 本件相続人らの遺産分割協議。
  相続前 合計6万株。Eが2万1400株。Gが1万3000株。Aが3600株。Bが3600株。Aの夫が200株。Aの子が600株。非同族関係者が合計1万7600株。
  相続後 Gが1万0700株取得。Aが5350株取得。Bが5350株取得。[恐らく法定相続分通り]
  Gがバイタルネット社にオオノ株6万株を譲渡する前提で、A・Bが各々8950株をGに9億4035万8600円(10万5068円/株)で譲渡する。
 平成26年7月14日 本件基本合意に沿ってGがバイタルネット社に6万株を63億0408万円(10万5068円/株…「本件売却価格」)で譲渡した。
 平成27年2月27日 本件相続人らがオオノ株1株当たり8186円(評価通達180:類似業種比準価額)(8186円×2万1400株=1億7518万0400円)の前提で相続税の申告をした。
 平成30年8月7日 処分行政庁たる仙台北税務署長は評価通達6に基づき原告らに1株当たり8万0373円(「本件算定報告額」)(←株式会社KPMGFASが作成した算定報告書の平均値17億2000万円に基づく)の前提で更正処分等をした。[土地の評価誤りは省略]

争点1:本件相続株式を評価通達6により評価することの適否
争点2:処分行政庁が評価通達6に基づき評価した本件相続株式の価額の適否
争点3:過少申告加算税の賦課について国税通則法65条4項[現:5項1号]に規定する「正当な理由」の存否

 一審判旨 「当裁判所は、処分行政庁が本件相続株式につき、評価通達180の定める方法による評価額(類似業種比準価額)と異なる価額を算出して原告らに対して本件各更正処分等を行ったことは違法であり(争点(1))、原告らの主位的請求は認容すべきものと判断する。」
 「ア 相続税法22条は、相続等により取得した財産の価額を当該財産の取得の時における時価によるとするが、ここにいう時価とは当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。そして、評価通達は、上記の意味における時価の評価方法を定めたものであるが、上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎず、これが国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない。そうすると、相続税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的な交換価値としての時価を上回らない限り、同条に違反するものではなく、このことは、当該価額が評価通達の定める方法(評価通達のうち評価通達6以外の定めに基づく相続財産評価に関する通常の方法をいう。以下同じ。)により評価した価額を上回るか否かによっては左右されないというべきである。」
 「イ 他方、租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される。そして、評価通達は相続財産の価額の評価の一般的な方法を定めたものであり、課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実であるから、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。もっとも、上記に述べたところに照らせば、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることも上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。ただし、本件通達評価額と本件算定報告額との間に大きなかい離があるということのみをもって直ちに上記事情があるということはできない。」[ 部分は恐らく二審で取り消された部分]
 「相続税を軽減するために被相続人の生前に多額の借金をした上であらかじめ不動産などを購入して評価通達の定める方法における現金と不動産など他の財産に係る評価額の差異を利用する相続税回避行為をしているような場合でない限り、当該相続対象財産を評価通達の定める方法による評価額を超える価格で評価して課税しなければ相続開始後に相続財産の売却をしなかった又はすることができなかった他の納税者と比較してその租税負担に看過し難い不均衡があるとまでいうことは困難である。」
 「相続開始直後に相続財産の一部を高額で売却することができたとしても、その事実に着目して相続課税をしなければ他の納税者との間で租税負担に看過し難い不均衡があるとは必ずしも断じ得ない。」
 「本件相続開始によって本件相続株式の買取りを取りやめる可能性もあったことがうかがわれる(乙20)のであって、本件基本合意が本件相続の後も本件相続人らとの間でそのまま存続するか否か自体、本件相続開始日においては不透明な状況であったといわざるを得ない。なお、上記の点に加え、本件基本合意が譲渡予定価格等について本件被相続人及びバイタルネット社を法的に拘束するものではないとしていた点や本件被相続人においてオオノ社株式の全部を取りまとめ又は買い集めることが前提条件とされていた点(前提事実(3)ウ)などに鑑みれば、譲渡予定価格による本件相続株式の売買代金債権を相続財産と同視することも困難である。」
 「本件において特段の事情はないものというほかはないから、本件相続株式の価額については本件通達評価額によって評価すべきであり、評価通達6を適用して本件算定報告額を用いて本件相続株式を評価した本件各更正処分等は、最高裁令和4年判決の示した判断枠組みに照らし、平等原則という観点から違法である。」

 二審判旨 「結果的に、専門的評価により交換価値と評価通達180に定める類似業種比準価額とのかい離の程度が著しいと判定された場合においても変わらないのであって、本件相続株式について、譲渡予定価格(10万5068円)と本件算定報告額(8万0373円)が比較的近く、これらが本件通達評価額(8186円)と大きくかい離しているからといって、更正処分の時点にさかのぼって、譲渡予定価格が交換価値を反映したものであるとして、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情(特段の事情)が存在していたということにはならない。」
 「評価通達6の適用に当たり、上記かい離の有無を公平に判断するためには、他の相続案件も含め、取引相場のない株式その他市場性のない相続財産の全てについて、専門的評価を行うべきであって、合理的な理由がないのに、特定の相続財産のみについて専門的評価を行い、これを基にして課税処分を行うことは、平等原則に反する」。
 「上記最高裁判決[農地売主相続事件・最判昭和61年12月5日訟月33巻8号2149頁]は、……売買契約が未だ成立していない場合とは明らかに状況を異にする」。
 「最高裁令和4年判決は、評価通達6の適用の有無に当たり、被相続人が、相続税の負担を減じ又は免れさせる行為をしたことを考慮しているところ、……本件被相続人又は被控訴人らが、相続税の負担を減じ、又は免れさせる行為をしたと認めることができない以上、本件被相続人又は被控訴人らの行為に着目した場合に、他の納税者との関係で不公平であると判断する余地はない。」

§122.01スコッチライト事件(⇒2.2.4.1.)
2.2.1.2.c 解釈適用の指針としての公平負担原則?
ドイツにそのような議論があるが日本では支持されていない。

2.2.1.3. 自主財政主義

神奈川県臨時特例企業税事件最判平成25年3月21日民集67巻3号438頁百選7版7gw…神奈川県の臨時特例企業税条例(法人税法上の欠損金の繰越により課税所得がないとされた部分を課税対象とする地方税)が違法であるとして、いすゞ自動車が納付した全額19億円余りの返還を県に求め認容された事例。
憲法92・94条参照。地方公共団体には憲法上課税自主権がある。

税制・財政を巡る地方分権につき、次のような長所短所が考えられる。
●各地方の実情に即したきめ細かな税制が構築できる。
●租税競争(足での投票)→税制・財政が効率化(賄賂要求や無駄な財政支出がしにくくなる等)。

●勝手に税制が作られると、種々の税制ができて税制が複雑化する。
●住む地域によって著しく税負担が異なることになる不公平拡大の恐れ。
●他地域住民に租税負担を転嫁しようとする租税輸出の恐れ。
底への競争(税率引下競争)が弱者切捨てを導く恐れ。

(橋下徹大阪市長(当時)が消費税の地方税化を主張したことについて長所短所を踏まえつつ支持・不支持を考えてほしい。Cf.土居丈朗「「消費税の地方税化」私ならこう考える」2012.4.9)
2.2.1.3.a 地方税の課税根拠
大牟田市電気税訴訟・福岡地判昭和55年6月5日訟月26巻9号1572頁百選7版8…地方税法により一定の用途に供される電気またはガスが非課税とされていたところ、大牟田市は市税条例により電気ガス税を課したいのに税収不足が生じてしまっており、国(被告)による課税権の侵害であるとして国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を請求した事例(請求棄却)。

§111.01旭川市国民健康保険条例事件・最大判平成18年3月1日民集60巻2号587頁百選7版2

地方税法で枠がはめられている(枠法・準則法)。
地方税の賦課徴収は地方税条例に根拠付けられねばならない……地方税条例主義
2.2.1.3.b 地方税法による自主課税権の制約
2.2.1.3.c 関与の法定主義
泉佐野市ふるさと納税事件最三小判令和2年6月30日民集74巻4号800頁hx…総務大臣の不指定の違法・無効を認めた事例。

2.2.2. 「租税」の法的定義

「国家が、特別の給付に対する反対給付としてではなく、公共サービスを提供するための資金を調達する目的で、法律の定めに基づいて私人に課する金銭給付」cy

(ア)租税の公益性(資金調達目的)
 罰金・科料等と異なる。資金調達以外の目的(例えば関税)であっても、資金調達をも目的の一つとしていれば、租税である。cf.殺人抑止税は税か?
(イ)租税の非対価性
 各種使用料・手数料・特権料等と区別。受益者負担的性格の強い税との境界は曖昧。§111.01旭川市国民健康保険条例事件・最大判平成18年3月1日民集60巻2号587頁百選7版2(⇒2.2.1.1.a)
(ウ)租税の一般性
 分担金と、区別。しかし、受益者分担金的性格の強い税もある。道路特定財源や消費税の福祉目的税化等の使途限定より一般財源化が望ましいというのが財政学の定説。db
 また、特定の者のみに租税を課すこと(いわゆる狙い撃ち課税)は許されない。cf.横浜市の馬券税。dc
(エ)租税の権力性(強制性)
 国の事業収入などと異なる(cf.石油)。課税対象者の同意なくして課税できる。cf.銀行税⇒COLUMN2-2 cf.ガーンジー島事件・最判平成21年12月3日民集63巻10号2283頁(⇒COLUMN8-7)
(オ)金銭給付 (物納ddは相続税などで例外的)
 金納には、納税者の自由効率的資源配分を害する程度が低い、というメリットがある。
COLUMN2-3 「租税」の本質的要素は「強制性」か?

2.2.3. 租税政策上の原則

COLUMN2-4 経済学的知見の有用性――黙示の税(implicit tax)を素材に

2.2.4. 租税法の存在形式

2.2.4.1. 租税法の法源

(a)憲法

(b)法律

(c)命令(政令:所得税法施行令、省令:所得税法施行規則)

(d)告示…例:所税78条2項2号。固定資産評価基準については定説未形成。
西宮市六甲事件最判平成21年6月5日集民231号57頁is(今本啓介・ジュリスト1427号169頁)……市街化区域農地の宅地並み評価(農地は低く評価されるが宅地に転用できる土地は高値で買われうるので宅地並みに評価すること)につき、市街化区域としての実態を有してないとして市長の主張を斥けた原審に対し、原審を破棄し、市街化区域農地の価格を適切に算定することのできない特別の事情の存否について差戻した事例。なお人見剛・重判H25、58-59頁は建替え予定マンション贈与事件・最判平成25年7月12日民集67巻6号1255頁(⇒2.2.1.2.b)について。

(e)条例・規則

(f)国際法源(租税条約等)……憲法98条2項:憲法>条例>法律>交換公文

(g)判例

(h)通達(法令解釈通達)…法源ではないが法的に「無」でもない。過少申告加算税「正当の理由」の論点等。瀧源(タキゲン)事件・最判令和2年3月24日判時2467号3頁は後述(⇒4.2.3.5.)

6版§130.01行政先例法 パチンコ球遊器事件最判昭和33年3月28日民集12巻4号624頁百選7版6ek
昭和26年通達改正によりパチンコ球遊器が物品税の課税対象の一つである遊戯具に含まれるとして課税が始まったことにつき、課税処分は適法とされた。
所謂通達課税(通達を課税の根拠とすること)の是非は非である。
建前論…法規範の創造(立法)と発見(解釈)との違い。
パチンコ非課税という慣習法(行政先例法…緩和通達との関係や信義則(⇒3.1.4.)との関係)(§140.01租税法の法源 金子宏論文)が成立していたか?
仮に過去の年度についても課税処分を打とうとしたら?遡及適用が許されない、となるか?el|em|en|eo

6版§122.01スコッチライト事件大阪高判昭和44年9月30日高裁民集22巻5号682頁百選7版9ea
他税関で20%、神戸税関だけ30%で課税していたところ、「30%の関税を課するのが正当であるけれども」、「税関鑑査部長会議の決議により、全国統一的に本件物品と同種の物品に対しては20%の税率による関税を課することとなり、みぎ状態が可なりの期間継続していたのであるから」、「超過した10%の限度において法律に基づかない違法な課・徴税処分に当る」。

2.2.4.2. 課税要件

(a)納税義務者……所得税法上の源泉徴収納付義務者、消費税法上の「事業者」等……納税義務者と担税者との区別 (第二次納税義務:共栄火災海上保険相互会社事件・最判平成元年7月14日判時1327号21頁百選7版24mv

(b)課税物件……「所得」等

(c)課税物件の帰属……所得税法12条等

(d)課税標準……「所得の金額」等

(e)税率……所得税法89条1項等

2.3. 租税法の実現過程

2.3.1. 租税法律関係の特徴

最判昭和35年3月31日民集14巻4号663頁行政判例百選T-7版11……滞納処分において民法177条の適用を肯定。税務署長が、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に該当しないとした事例。公売処分無効例。
「私経済上の取引の安全を保障するために設けられた民法一七七条の規定は、自作法による農地買収処分には、その適用を見ない」とした最大判昭和28年2月18日民集7巻2号157頁と態度が異なる。

6版§232.01雑所得貸倒分不当利得返還請求事件・最判昭和49年3月8日民集28巻2号186頁は後述(⇒4.4.2.)
コラム2-5 「ものの見方」としての債務関係説と権力関係説
cf.佐藤英明「『租税債権』論素描」金子宏編著『租税法の発展』3頁

2.3.2. 租税行政過程

2.3.2.1. 概観

2.3.2.2. 租税確定手続

2.3.2.2.a. 原則的な租税確定手続
申告納税方式(税通16条1項1号)と賦課課税方式(2号。地方税法1条1項7号では普通徴収)

確定申告(所税120条)において青色申告制度ihによる動機付けの設計

理由附記小牧定織物事件最判昭和60年4月23日民集39巻3号850頁百選7版109it…「法人税法一三〇条二項が青色申告にかかる法人税について更正をする場合には更正通知書に更正の理由を附記すべきものとしているのは、法が、青色申告制度を採用し、青色申告にかかる所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨にかんがみ、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものというべきであり、したがつて、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合において更正通知書に附記すべき理由としては、単に更正にかかる勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによつて具体的に明示することを要する」(←鵜殿事件最判昭和38年5月31日民集17巻4号617頁kh)。
「帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においては、右の更正は納税者による帳簿の記載を覆すものではないから、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を前記の更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の附記として欠けるところはない」(理由附記は平25以降は青白問わず実施されていることに留意。白色申告の記帳・帳簿保存義務拡大(税通74条の14所税232条))。

国税不服審判所令和5年12月15日裁決・裁決事例集133集_頁……消費税仕入税額控除否認の理由附記に不備があるとされた事例(北村豊「理由が分かんないよ!」)



給与所得・利子所得等様々なところで徴収納付が用いられる。

最判昭和45年12月24日民集24巻13号2243頁百選7版114kr(⇒4.8.3.源泉徴収)……源泉徴収の「納税義務は右の所得の支払の時成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する」。「源泉徴収による所得税の税額は、前述のとおり、いわば自働的に確定するのであつて、右の納税の告知により確定されるものではない。すなわち、この納税の告知は、更正または決定のごとき課税処分たる性質を有しない」。「源泉徴収による所得税についての納税の告知は、課税処分ではなく徴収処分であつて、支払者の納税義務の存否・範囲は右処分の前提問題たるにすぎないから、支払者においてこれに対する不服申立てをせず、または不服申立てをしてそれが排斥されたとしても、受給者の源泉納税義務の存否・範囲にはいかなる影響も及ぼしうるものではない。」

日光貿易事件最判平成4年2月18日民集46巻2号77頁百選7版115lb……「源泉所得税と申告所得税との各租税債務の間には同一性がなく、源泉所得税の納税に関しては、国と法律関係を有するのは支払者のみで、受給者との間には直接の法律関係を生じないものとされていることからすれば、前記源泉徴収税額の控除の規定は、申告により納付すべき税額の計算に当たり、算出所得税額から右源泉徴収の規定に基づき徴収すべきものとされている所得税の額を控除することとし、これにより源泉徴収制度との調整を図る趣旨のものと解されるのであり、右税額の計算に当たり、源泉所得税の徴収・納付における過不足の清算を行うことは、所得税法の予定するところではない。」(⇒COLUMN4-3年金払い生命保険金二重課税事件)
2.3.2.2.b. 例外的な租税確定手続
(ア)過少申告の場合 修正申告(国税通則法(税通)19条)

(イ)過大申告の場合 更正の請求(税通23条1項……5年以内に期間延長)

更正の請求・不当利得返還請求・国家賠償との関係について
寒川朝海事件・最判昭和39年10月22日民集18巻8号1762頁百選7版104nu…「確定申告書の記載内容の過誤の是正については、その錯誤が客観的に明白且つ重大であって、前記所得税法の定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、所論のように法定の方法によらないで記載内容の錯誤を主張することは、許されない」。更正の請求の原則的排他性。

冷凍倉庫事件最判平成22年6月3日民集64巻4号1010頁百選7版121ig……「地方税法は,固定資産評価審査委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税等の納税者は,同委員会に対する審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えによってのみ争うことができる旨を規定するが,同規定は,固定資産課税台帳に登録された価格自体の修正を求める手続に関するものであって(435条1項参照),当該価格の決定が公務員の職務上の法的義務に違背してされた場合における国家賠償責任を否定する根拠となるものではない。……行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするについては,あらかじめ当該行政処分について取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではない」(⇒3.2.2.1.審査請求前置主義)my iv

(ウ)事後的な事実関係の変動により申告税額が過大となった場合 2ヶ月以内に更正の請求(税通23条2項。cf.70条1項)kl

(エ)税務署長の行政行為による税額確定 申告が(適正で)ない場合の更正・決定(税通24条・25条)。納税者が不服であれば不服申立てへ。
2.3.2.2.c. 質問検査権

2.3.2.3. 徴収手続

51頁図表2-4 税額確定・徴収手続の流れ(申告納税方式の場合)参照。
法定納期限までに自発的納付がない場合→強制徴収へ。督促にも応じなければ滞納処分へ。mm

第二次納税義務
CFJ合同会社事件・東京地判令和4年5月17日令和2(行ウ)370号(棄却)……国税徴収法39条「債務の免除」の意義

判旨 「徴収法の定める第二次納税義務制度は、主たる納税義務が申告又は決定若しくは更正等により具体的に確定したことを前提として、その確定した税額につき本来の納税義務者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合において、形式的には第三者に財産が帰属していても、実質的には滞納者にその財産が帰属していると認めても公平を失しないようなときは、形式的な権利の帰属自体を否認することなく、その形式的に権利が帰属している者に対して補充的に納税義務を負担させることにより、租税徴収と課税の公平の確保を図ることをその趣旨とするものである(最高裁昭和48年(行ツ)第112号同50年8月27日第二小法廷判決・民集29巻7号1226頁参照)。
イ そして、徴収法39条は、滞納者が行った無償譲渡等の処分の相手方を第二次納税義務者としているところ、これは、滞納者が行う無償譲渡等の処分が、租税債務の引当てとなる滞納者の積極財産を減少させるものであるとともに、その相手方に一方的に経済的利益を生じさせるものであることに鑑み、このような無償譲渡等の相手方については、それだけで、通常であれば本来の納税義務者である滞納者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別な関係にあるといえることから、これらの者に第二次納税義務を課すこととしたものと解される(最高裁平成16年(行ヒ)第275号同18年1月19日第一小法廷判決・民集60巻1号65頁[百選7版25]参照)。このような同条の趣旨からすれば、同条にいう「債務の免除」は、民法519条所定の債務の免除に限られるものではなく、契約による債務の免除等、滞納者がその意思によりその有する債権を対価なく消滅させる行為を広く含むものと解すべきである。」

2.3.2.4. 附帯税

2.3.2.4.a 延滞税(税通60条)mu
最判平成26年12月12日集民248号165頁百選6版99(⇒2.2.1.1.d適正手続)

東京地判平成28年1月15日平成26(行ウ)664号…国税通則法60条4項により相続税法34条1項の相続税には延滞税も含まれる。法定納期限後、本来の納税義務者が徴収猶予を受けていた期間と原告が連帯納付義務の納税告知を受けるまでの期間を含めて、延滞税が発生する。
2.3.2.4.b 利子税(税通64条)
雑駁に言えば、民事の遅延損害金(→延滞税)と民事の法定利息(→利子税)。
利子税の年7.3%=税通58条還付加算金の年7.3%)。現在は特例基準割合(租特法93条、95条)
2.3.2.4.c 加算税(税通65〜68条)
[1]過少申告加算税(税通65条)
[2]無申告加算税(税通66条)
[3]不納付加算税(税通67条)
[4]重加算税(税通68条)
寿屋事件・最判昭和33年4月30日民集12巻6号938頁nv…逋脱犯に対する刑罰と追徴税は憲法39条(二重処罰禁止)に違反しない。
国税不服審判所令和5年12月4日裁決・裁決事例集133集_頁……工事代金を申告していなかった(担当取締役が現金で受け取り領収書の発行を忘れ帳簿に記載し忘れていた)ことについて隠蔽仮装に当たらず国税通則法68条1項(重加算税)の賦課要件を満たさないとした事例。cf.北村豊「隠すつもりはなかったのに…
COLUMN2-6 加算税制度と租税法の実現過程
佐藤英明「過少申告加算税を免除する『正当な理由』に関する一考察――IMPACTを手がかりとして」総合税制研究2号91頁
ストック・オプション加算税事件・最判平成18年10月24日民集60巻8号3128頁(⇒4.2.6.2.フリンジ・ベネフィット)
航空機リース事業匿名組合事件・最判平成27年6月12日民集69巻4号1121頁百選7版22(⇒4.2.5.不動産所得)

2.3.3. 租税行政過程に係る主体

2.3.3.1. 租税行政組織の構造

2.3.3.1.a 国の租税行政組織
2.3.3.1.b 地方公共団体の租税行政組織

2.3.3.2. 税理士制度

税理士法52条による業務独占:無償でも駄目 (cf.税理士法51条通知弁護士制度について⇒km)
cf.弁護士法72条による業務独占(非弁行為の禁止)には「報酬を得る目的」「業とする」という限定がある。

3. 租税法の実現と法律家の役割

3.1. 租税法の解釈

3.1.1. 租税法令の解釈

3.1.1.1. 法令解釈という作業

3.1.1.2. 文理解釈の基本

民主主義的側面と自由主義的側面。最判平成27年7月17日判時2279号16頁(⇒2.2.1.1.f

3.1.1.3. 最高裁の態度

6版§141.01ホステス報酬計算期間事件最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁百選7版13ns(⇒2.2.1.1.f.)
所税令322条「5000円に当該支払金額の計算期間の日数を乗じて計算した金額」は各ホスト・ホステス(給与所得ではなく事業所得を稼得)の実際の出勤日数(必要経費概算控除の観点から)を意味せず単純な日数である。
規定の趣旨と文理を考慮した。

ガイアックス事件最判平成18年6月19日集民220号439頁ad…「軽油引取税は,本来,軽油を燃料とする自動車の利用者が道路整備の受益者であることから,道路に関する費用に充てることを目的として軽油の引取りを課税の対象とするものであったところ,本件各規定[地方税法700条の3第3項等]は,軽油以外の『炭化水素とその他の物との混合物』であっても自動車の内燃機関の燃料とされるものについては,その販売等を軽油引取税の課税の対象とすることによって税負担の公平を図ろうとしたものである。このような本件各規定の趣旨やその文理に照らせば,本件各規定にいう『炭化水素とその他の物との混合物』とは,炭化水素を主成分とする混合物に限らず,広く炭化水素とその他の物質とを混合した物質をいうものと解するのが相当である。」

逆ハーフタックスプラン事件(養老保険契約保険料控除事件)・最判平成24年1月13日民集66巻1号1頁(⇒4.2.9.一時所得)

フージャースコーポレーション事件・最判平成28年12月19日民集70巻8号2177頁…「地方税法施行令附則6条の17第2項の共同住宅等に関して定められた戸数要件[100以上]を充足するか否かの判断においても,別段の定めがない限り,1棟の共同住宅等を単位とすべきである」。

3.1.1.4. 概念の拡張と縮小

レーシングカー物品税事件最判平成9年11月11日集民186号15頁ae……公道を走れない競争用自動車(FJ1600)が物品税法の「小型普通乗用四輪自動車」に該当するとして物品税を課した事案。最高裁曰く「人の移動という乗用目的のために使用されるものであることに変わりはな」い。(尾崎行信・元原利文反対意見あり)。

最判平成16年12月16日民集58巻9号2458頁百選7版94cz(⇒6.2.4.2.b)
消費税(付加価値税)の仕入税額控除の要件の「帳簿又は請求書等……を保存しない場合」(消税30条7項・当時)につき、適時に提示しないことは「保存しない」に当たる。
類例の最判平成16年12月20日判時1889号42頁daで滝井繁男反対意見あり。

最判平成17年3月10日民集59巻2号379頁百選7版110(⇒6.2.4.2.b)…帳簿不提示時の青色申告承認取消処分は適法。

3.1.1.5. 類推解釈

サンヨウメリヤス土地賃借事件最判昭和45年10月23日民集24巻11号1617頁百選5版37af
借地権設定(これは「資産の譲渡」とは言いがたい)に伴う「権利金」でも、「所有者が当該土地の使用収益権を半永久的に手離す結果となる場合に、その対価として更地価格のきわめて高い割合に当たる金額が支払われるというようなもの」については「譲渡所得に当たるものと類推解釈する」。なお事案の結論としては不動産所得扱いなので類推解釈していない。
補足:租税法を類推解釈することは許されないと言われることが多いが、最判昭和45年10月23日では「類推解釈」と明記している。他方、「類推解釈」と明記していないが類推解釈をした恐らく唯一の最高裁租税判例として都民税還付加算金起算日事件・最判平成20年10月24日民集62巻9号2424頁giがある。

4版§161.02(6版73頁)東京産業信用金庫事件最判昭和48年11月16日民集27巻10号1333頁百選6版92hd
譲渡担保としての不動産取得が不動産取得税(「流通税に属し、不動産の移転の事実自体に着目して課せられる」)の課税対象となるとし、非課税規定の類推適用も否定した。

3.1.2. 租税法と私法

3.1.2.1. 借用概念

固有概念:他の法分野では用いられてなく租税法が独自に用いている概念(例:所得、資産)
借用概念:他の法分野で用いられており意味内容が与えられている概念(例:株主、配偶者)hc

3.1.2.2. 借用概念の解釈

統一説:借用概念を借用元の法分野におけるのと同じ意義に解釈すべき、とするのが通説。
但し「利益配当」概念が商法上適法な配当に限定されなかった例に留意(6版§221.02鈴や金融事件・最判昭和35年10月7日民集14巻12号2420頁百選5版36⇒4.2.2.1.)

5版§162.02(6版80頁)勧業経済株式会社事件最判昭和36年10月27日民集15巻9号2357頁百選5版16ar…出資者が隠れた事業者として事業に参加しその利益の分配を受ける意思を有せず、金銭を会社に利用させその対価として利息を享受する意思を持つていたに過ぎず、このことが、原判決認定の事情のもとに客観的にも認められる場合は、事業者と出資者との契約は、所得税法第1条第2項第3号にいう「匿名組合契約およびこれに準ずる契約」にあたらない。

事実婚「配偶者控除」訴訟・最判平成9年9月9日訟月44巻6号1009頁百選7版50av…法律婚に限る。

扶養控除にいう「親族」・最判平成3年10月17日訟月38巻5号911頁ax…民法上の親族に限る。

住所:6版§142.01武富士事件・最判平成23年2月18日判時2111号3頁百選7版14(⇒3.1.3.4.)

法人・デラウェア州LPS事件・最判平成27年7月17日民集69巻5号1253頁百選7版23(⇒4.2.5.不動産所得、8.2.1.2.c)

異説
独立説:租税の徴収確保又は公平負担の観点から、借用概念であっても租税法独自に解釈すべきである。
目的適合説:必ずしも租税の徴収確保に資する解釈が優先するわけではないが、借用概念であっても租税法の目的に適合的な解釈をすべきである。(ドイツで有力であり日本でも支持者がいるが深入りしない)
統一説が通説とはいえ、統一説の論者も別意に解すべきことが租税法規の明文又はその趣旨から明らかな場合は別論としており、統一説と独立説・目的適合説との違いを教条主義的に捉えるべきでない。

3.1.2.3. 借用概念の修正

所税60条1項「贈与」概念の修正:6版§222.08浜名湖競艇場用地事件・最判昭和63年7月19日判時1290号56頁百選7版44(⇒4.2.3.6.租税属性の引継ぎ)。

3.1.2.4. 私法取引と租税法

税負担に関する錯誤5版§163.01(6版なし)裸一貫事件最判平成元年9月14日判時集民157号555頁百選5版18he
離婚に際しての財産分与に譲渡所得課税が課せられること(cf.4.2.3.3. §222.02名古屋医師財産分与事件)を知らなかったので錯誤無効(今は錯誤取消であるが)であると主張した事例。
 判旨「動機が黙示的に表示されているときであっても、これが法律行為の内容となることを妨げるものではない」。黙示的表示( ゚д゚)ポカーン
 本件では「自己に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的には表示していた」。
(尤も裁判例を多数見渡すと錯誤無効が認められる事例と認められていない事例があることに留意。)

cf.法定納期限後の錯誤主張:6版§250.02クラカグループ事件第二次上告審判決・最判平成30年9月25日民集72巻4号317頁百選7版116(⇒4.8.3.源泉徴収)

6版§225.01土地時効取得事件・静岡地判平成8年7月18日行集47巻7=8号632頁(⇒4.2.9.一時所得)

尼崎市相続土地喪失事件・大阪高判平成14年7月25日判タ1106号97頁百選6版106
AからXが遺産土地を取得したつもりで相続税の申告をしたがBが取得時効を主張し別件判決でB勝訴(時効完成も援用も相続後)。民法144条「時効の効力は、その起算日にさかのぼる。」により別件判決が税通23条2項1号「判決」に当たるとしてXは更正の請求をしたが、斥けられた。
相続前に援用があり相続開始後に判決が確定した場合は税通23条2項1号「判決」に当たるであろう。
相続前に時効が完成し相続後に援用があった場合について本判決の射程外か?(国税不服審判所平成14年10月2日裁決・裁決事例集64集1頁(国税不服審判所平成19年11月1日裁決・裁決事例集74集1頁も同旨)は更正の請求を認めている。但し停止条件説を否定してはいない。理由は評価の減額。渋谷雅弘・税務事例研究120号54頁は評価額を零とする処理に疑問を呈す。
cf.長戸貴之「租税法と遡及効―裁判例・裁決例の分析から―」東京大学法科大学院ローレビュー7号28-54頁2012.9も参照)

大阪高判平成14年12月26日判タ1134号216頁百選5版17
(旧商法110条、現行会社法839条)…「課税関係においても、合併無効判決の効力は遡及しない」「本件合併によって清算所得及びみなし配当所得が生じたことは否定できない」

3.1.3. 租税回避の否認

3.1.3.1. 節税・脱税・租税回避

6版§143.01金子宏「租税法と私法――借用概念及び租税回避について」の用語法
節税(tax saving, Steuerersparung):租税法規が予定しているところに従って税負担を減少させる。合法。
脱税(tax evasion, Steuerhinterziehung):課税要件の充足の事実を秘匿して税負担を減少させる。違法。
租税回避(tax avoidance, Steuerumgehung):「合理的または正当な理由がないのに、通常用いられない法形式を選択することによって、通常用いられる法形式に対応する税負担の軽減または排除を図る行為」(第1類型)、「租税減免規定の趣旨・目的に反するにもかかわらず、私法上の形成可能性を利用して、自己の取引をそれを充足するように仕組み、もって税負担の軽減または排除を図る行為」(第2類型)(金子宏租税法24版134頁)hg
cf. タックス・シェルター(tax shelter租税回避商品):高度に複雑な一連の契約を組み合わせて租税負担の軽減を図る仕組み(scheme/structureとも呼ばれる)。

租税回避の例  (所得税法33条1項括弧書きがない場合の「譲渡」の回避)
AB間の譲渡の例|CD間で譲渡を回避する例
A     B | C     D  (相殺)
■ →土地譲渡 | ■ →地上権設定 (地代←)
金銭支払← 10 | 金銭融資← 10  (→利子)

3.1.3.2. 租税回避への対応

租税回避(行為)の否認……租税回避があった場合に、当事者が用いた法形式を租税法上は無視し、通常用いられる法形式に対応する課税要件が充足されたものとして取り扱うこと

個別的否認規定に基づいて否認することはできる。(所税33条1項括弧書、租税特別措置法41条の4の2特定組合員等の不動産所得に係る損益通算等の特例)

やや一般的な否認規定、例えば同族会社の行為計算否認規定(法人税法132条(⇒COLUMN5-1)等…尤も課税庁が敗訴する事例は珍しくない)等hiについては不確定概念(⇒2.2.1.1.b)を参照
§1版330.01明治物産株式会社事件・最判昭和33年5月29日民集12巻8号1254頁
ヤフー事件最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁百選7版64ebohIDCF事件最判平成28年2月29日民集70巻2号470頁……法人税法132条の2について「濫用」を許さない。

否認規定がない場合にも否認が認められるか否か。――否認規定なき否認を認めないとすると、租税回避を行なった者と通常の法形式を選択した別の納税者との間で不公平(後述)が生じてしまうことが懸念される。が、通説は認めない。最高裁の判断はなく、下級審の裁判例は分かれている、と説明される。が、近年の裁判例は(課税庁も)、否認規定なき否認は認められない、ということを前提としている。この前提の下、別の理由付けにより否認するのと同様の結果が導かれるか、に議論の焦点は移りつつある。

不公平について……租税回避を行なえる者は高所得者に限られ、租税負担の公平な配分という要請に一層反するという懸念。更に、弁護士等が租税回避に勤しむことは資源(頭脳)の無駄遣いだ、という批判もある。但し、租税法の不明瞭な領域に線引きをもたらしてくれるという意味で租税回避には積極的意義もある。cf.渡辺智之「租税回避の経済学:不完備契約としての租税法」フィナンシャル・レビュー69号153頁

佐藤英明『スタンダード所得税法』4版521頁以下(弘文堂、2024)の用語法
租税回避否認論1.0:否認規定なき否認は許されない。
租税回避否認論2.0:租税回避の否認に近い効果(即ち課税庁勝訴)をもたらす可能性。
(租税回避否認論3.0:BEPS対策、GAARの是非、法人132条の2に関する「制度の濫用」概念の是非等、最先端の議論は流動的なので学部生レベルでは理解できなくても構わない。)

租税回避否認論2.0:否認規定なき否認は認められないとの前提でも、納税者の租税負担軽減の試みが成功するとは限らない。
(1) 契約・法律構成の真正性が納税者の主張する通りであるとは限らない。
(2) 租税法規の解釈が納税者に都合の良いことばかりではない。

(1) 事実認定・私法上の法律構成による「否認」――納税者が主張する法律構成(主に契約)の真正性が否定され、租税回避が成功しない場合のこと。契約が裁判所によって認められていないので、租税回避が否認されるのではなく、そもそも租税回避が成立していない、という説明。結果的に租税回避を否認することに類似するが、通常言われるところの租税回避の否認とは異なるので、括弧つきの「否認」で表現される。(⇒6版§143.02相互売買事件・東京高判平成11年6月21日高裁民52巻1号26頁……但し事実認定・私法上の法律構成による「否認」を認めなかった事例)

(2) 課税減免規定の限定解釈――Pという要件を満たせば課税を減免するという規定があるところ、或る納税者が確かにPという要件を満たしているが、租税法の適用に当たり、当該課税減免規定の趣旨・目的に照らし明示されてはいないがQという要件も満たしていないと課税減免の恩恵を与えることはできない、などの解釈をすることにより、納税者の租税負担軽減の試みを潰すこと。租税法規の解釈の一態様であり、否認規定なき否認ではない、と説明される。(⇒6版§143.03外国税額控除余裕枠りそな銀行事件・最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁)
(2)の他の例
6版§143.04パラツィーナ事件(フィルムリース事件)・最判平成18年1月24日民集60巻1号252頁(原審は(1)事実認定・私法上の法律構成による「否認」の例と理解しうるところ、最高裁は理由を(2)課税減免規定の限定解釈に変えた)
5版§322.05(6版403頁)オウブンシャホールディング事件・最判平成18年1月24日訟月53巻10号2946頁

統一説とか事実認定とかを一般論として論ずることにあまり意味はない。問題となっている具体的な規定や事実関係や当事者の主張の巧拙に左右される。

仮装行為の説明と合わせて、下の表を作成(但し下の表は浅妻独自。定説ではない)。
裁判過程 状況 法的効果
狭義の事実認定 金塊を隠す、偽の印鑑を押した契約書を証拠として提出する、など。 脱税(『マルサの女』『チェイス』)
真意の認定(≒契約解釈) 契約書に書いてある通りの真意を有していると認められるか否か。例えば、所有権を甲から乙に移すという真意があったか否か。租税負担軽減を狙った契約の真意を否定することは一般論としては困難。 真意がなければ仮装行為。租税回避不成立。脱税かは限界線。金子は脱税と解す。
真意と異なる契約解釈 Aという契約(例:売買)を真に意図していることが認められても、ごく例外的ながら裁判所がその真意に即した法律上の効果を認めず、Bという法律構成(例:貸借)を認定することが労働法・消費者保護法絡みでありうるので、租税法絡みでもありうるのでは(異論あり)。blog これを脱税と呼ぶ者は恐らくいない。私法上の法律構成により租税回避が成立しないだけ。
租税法規の解釈 私法上の法律構成としてはAという契約であることが否定できない場合、租税法上独自に法律構成を再構成することは日本*では許されない。 否認規定なき否認は認められない。限定解釈**or否認規定で対処。
*英国では租税法規の解釈適用の段階で契約を読み替えた例がある(Ramsay, [1981] STC 174)。日本では駄目。
**Cf.§164.03 Gregory, 293 US 465 (1935)…判例法国のアメリカでは、明示的否認規定がなくとも、規定の趣旨を勘案し、事業目的がない取引について租税回避を潰す例がある。([浅妻]英米で許されるなら日本でも許せば?、と尋ねられると、正直言って困る。)

(1)の事実認定・私法上の法律構成による「否認」の可否に関して。
仮装行為とされた例6版§422.01公正証書贈与事件・名古屋高判平成10年12月25日訟月46巻6号3041頁百選7版81kp
昭和60年、父から子への不動産贈与の公正証書を作成。平成5年、所有権移転登記。所有権移転登記をすると税務署に情報が伝わるので、課税の時効(当時7年)を待って脱税を図ろうとした。
判決は、不動産の譲渡が昭和60年ではなく平成5年になされたと認定した。
【脱税目的だから所有権移転の真意が認定されなかった例】と理解してはならない。脱税の意図があるからこそ、私法上の真意として、昭和60年に譲渡するという意思があるという方向に傾くこともありうる(cf.6版§143.04パラツィーナ事件(フィルムリース事件)・最判平成18年1月24日民集60巻1号252頁)。本件では様々な証拠に照らして昭和60年当時の所有権移転の真意がないと認定することが可能であった、ということであろう。
余談:公認会計士のセミナーで示唆を得たとあるが、これは教唆犯か?

契約解釈が決め手となった例5版§165.01(6版なし)丸紅飯田事件・東京高判昭和55年5月29日行集31巻5号1278頁
土地建物等の移転が譲渡担保であって譲渡所得が発生しないか、債務の代物弁済であって譲渡所得が発生するか、が争われた例。
「事実認定」による課税の違い、といわれることがあるが、狭義の事実認定ではなく、上の表では「真意の認定(≒契約解釈)」の問題。「事実認定」の広狭に注意。
一審は譲渡担保であると認めつつ代物弁済を前提とした課税処分が無効ではないとしたが、二審は代物弁済であると認めた。

仮装行為でないとされた例6版§143.02相互売買事件東京高判平成11年6月21日判時1685号33頁百選7版18lk (類例:岸事件・東京高判平成14年3月30日訟月49巻6号1808頁)
Xは本件土地(A・B・C)を所有していたところ、地上げが盛んであったバブル期、D企画から売却交渉を受けた。Xはほぼ等価の土地を受け取り、かつ諸経費・損失を賄うことができればよい、とした。そこで、XがD企画に本件土地を7億円(国土法の不勧告価額であった)で売却し、ほぼ等価の近隣土地(E土地とする)を4億円で購入し、相殺残金として3億円の交付を受けた。即ちX・D企画が契約書面上で採用した法形式は、各別の相互売買+差金決済であった(本件土地に関する譲渡収入金額は7億円)。
Y税務署長は、本件土地に関する譲渡所得の計算に当たり、7億円の価値のある取得土地(E土地)及び3億円の差金を取得したのであるから、本件土地の譲渡に係る収入金額は10億円であるとして、更正処分等を行なった。即ちYの採用した法形式は、不可分一体の補足金付交換である、というものであった。

X         D  | X         D  
□→7億円(売却)    | □→(交換)
 (売却)土地4億円←□ |  (交換)土地7億円←□
    (差金3億円)  |    (補足金3億円)




一審 請求棄却 補足金付交換と認定。
控訴審 控訴認容、原判決取消、請求認容(確定)
 相互売買の法形式は「譲渡所得に対する税負担の軽減を図るためであったことが、優に推認できる」。
 確かに交換という契約類型の方が「実体により適合しており直截である」が、「譲渡所得に対する税負担の軽減を図るという考慮から、より迂遠な面のある方式である」相互売買の「法形式を採用することが許されないとすべき根拠はない」。
 「当事者間の真の合意が…補足金付交換契約の合意であるのに、これを隠ぺいして」相互売買として「仮装したという場合であれば…隠ぺいされた真の合意」である交換「を前提とした課税が行われるべき」。しかし、本件では隠ぺいする動機に乏しく、「本件取引において採用された右売買契約の法形式が仮装のものであるとすることは困難」。
 「租税法律主義の下においては、法律の根拠なしに、当事者の選択した法形式を通常用いられる法形式に引き直し、それに対応する課税要件が充足されたものとして取扱う権限が課税庁に認められて」ない。
 所得税法59条(みなし譲渡)(課税繰延対策⇒4.2.3.5.)があるが、本件では「著しく低い対価による譲渡に当たらない以上、その軽減された部分に対応する課税負担は後に繰り延べられることを法律自体が予定している」。hj

[注意!]租税法学者は相互売買事件を重要視するが、課税庁敗訴例ばかりではない。司法試験等において相互売買事件を無視してはならないが、実務に就いてからは【相互売買事件があるから契約の真正性は裁判所に認めてもらえる筈】と楽観視できない。
東京高判平成19年10月30日訟月54巻9月2120頁……任意組合を通じて得た株式譲渡益(と納税者側が主張するもの)が、匿名組合契約にかかる利益の分配(雑所得)とされた例。田島秀則・ジュリスト1394号122頁は判旨に反対。

3.1.3.3. 法令解釈の限界

6版§143.03外税控除余裕枠りそな銀行事件最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁百選7版19js(吉村政穂・判例時報1937号184頁)
事実・争点……クック諸島法人C社→同島法人B社の融資契約という事業に、原告X社が名義貸しをする。C社がX社(のシンガポール支店)に預金し、及びX社(のシンガポール支店)がB社に融資する、という法形式。
 X社はB社から受け取るより多くC社に支払うので損である。が、法人税法69条外国税額控除で、X社には余裕枠があるとすると、外国で徴税されただけその税額は日本で納めるべき税額から控除される。結局、外国税額控除に余裕枠がある場合、X社が外国で納めた税額の分だけ日本での税額が減るので、X社にとって15の外国税額は実質的に負担とならない。X社はこの余裕枠をB社・C社に売ったということである。
 しかしこれでは結局日本の税収が15減ることとなってしまう。そこで、このようにわざと外国で納税したという形式を整えた場合にまで、外国税額控除制度で救済するべきではないのではないか、という争いとなった。例えば、Xが本件取引とは別に1000の国外源泉所得を得ており、外国で200の課税を受け、日本の税率が30%であるとすると、総税額見込みは300であり、300−200=100の余裕枠があることとなる。本件取引の結果、国外源泉所得は1000から1004にしか増えない(本件取引では100の利子収入、96の利子支出であるため)、総税額は300から301.2にしか増えないが、外国税額控除額は200から215となり、日本への納税額は100から301.2−215=86.2に減少する…つまりクック諸島の源泉徴収税額15の殆ど(13.8)が日本での外税控除に使われる。
 事件後、平成13年改正・法人税法69条及び法人税法施行令141条4項により、このような異常な取引は外国税額控除の適用対象から除外されることが明文化された(創設的規定?確認的規定?)。

X無介在  |  Xが介在する場合
      |
15B社  | 15B社――――→X星支店……X社
 源|   |  源  利子85  |   15↑
 泉|   |  泉        |利子  外|
 徴|利子 |  徴        |96  税日本
 収↓85 |  収        ↓    控
 C社   |          C社    除




原審 次のようにして原告を勝たせていた。(原審ではなく最高裁判旨からの抜粋。下線・浅妻)
「(1) 本件取引の経済的目的は,C社及びB社にとっては,C社からB社へより低いコストで資金を移動させるため,Xを介することにより,その外国税額控除の余裕枠を利用してクック諸島における源泉税の負担を軽減することにあり,被上告人にとっては,外国税額控除の余裕枠を提供し,利得を得ることにあるのである。このような経済的目的に基づいて当事者の選択した法律関係が真実の法律関係ではないとして,本件取引を仮装行為であるということはできない
 (2) Xは,金融機関の業務の一環として,B社への投資の総合的コストを低下させたいというC社の意図を認識した上で,自らの外国税額控除の余裕枠を利用して,よりコストの低い金融を提供し,その対価を得る取引を行ったものと解することができ,これが事業目的のない不自然な取引であると断ずることはできない。したがって,本件取引が外国税額控除の制度を濫用したものであるということはできない。」

判旨  最高裁は次のように判示して原告の請求を棄却した。
「本件取引は,全体としてみれば,本来は外国法人が負担すべき外国法人税について我が国の銀行である被上告人が対価を得て引き受け,その負担を自己の外国税額控除の余裕枠を利用して国内で納付すべき法人税額を減らすことによって免れ,最終的に利益を得ようとするものであるということができる。これは,我が国の外国税額控除制度をその本来の趣旨目的から著しく逸脱する態様で利用して納税を免れ,我が国において納付されるべき法人税額を減少させた上,この免れた税額を原資とする利益を取引関係者が享受するために,取引自体によっては外国法人税を負担すれば損失が生ずるだけであるという本件取引をあえて行うというものであって,我が国ひいては我が国の納税者の負担の下に取引関係者の利益を図るものというほかない。そうすると,本件取引に基づいて生じた所得に対する外国法人税を法人税法69条の定める外国税額控除の対象とすることは,外国税額控除制度を濫用するものであり,さらには,税負担の公平を著しく害するものとして許されないというべきである。」

検討 (⇒3.1.3.3.)原審の(1)は、事実認定・私法上の法律構成による「否認」(或いは、仮装行為であるという理由による「否認」)に対応し、 (2)は、課税減免規定の限定解釈の根拠として、本件の迂回的な取引が事業目的のない取引であるから法人税法69条は適用されない、と課税当局が主張していたことに対応する。他方、最高裁判示は、決定的な理由で何であったのか分かりにくい(調査官解説が書いていることは判例ではない。)。事案限りでとにかく結論だけ出した、とも見えてしまう。本判決の射程については不分明(最高裁は、分からせないようにする作文を敢えてしている(?)[浅妻]手掛かりが幾つか述べられている一方、逆にいうと手掛かりとなりそうなものをずらずら並べて決定的な理由付けをわざと曖昧にしているようにも見えてしまう。)。
 なお、事業目的云々という部分は、アメリカの5版§164.03グレゴリー事件(Gregory v. Helvering, 293 U.S. 465 (1935))の研究jtを下地にしたものであるが、[浅妻]日本で正当な事業目的の原理が妥当するのかは、まだよく分からない。原審は「事業目的」という語を明示的に用いたが、本判決でも正当な事業目的の原理を意識したかのような記述があるにはある(どの部分かは各自で探して)。アメリカにおける租税回避の否認は制定法(租税法など)の背後にあるコモン・ローによるとされているが(但し私法上の性質決定ではなく、租税法の解釈)、日本にコモン・ローの概念はない。日本に置き換えると、租税法の背後に法の一般原則があって、これが租税負担軽減の試みを潰すことにも作用する、という立論となろうか? 法の一般原則の一つである権利濫用論を本判決は持ち込んでいるのか否か?ju
 本判決が「濫用」という語を用いたので、その後、ヤフー事件・最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁(⇒3.1.3.2.)でも法人税法132条の2(組織再編に関する否認規定)の適用に関し「濫用」という語を用いるようになった(が「濫用」の意味については学説上理解が分かれている。大学院レベルなので今は分からなくてよい)。

事実認定・私法上の法律構成と限定解釈の複合(外税控除の事例ではない)
6版§143.04パラツィーナ事件(フィルムリース事件)・最判平成18年1月24日民集60巻1号252頁百選7版20kf(浅妻章如・法協125巻10号2363頁)

                 配給契約代金 $6000万
──→金銭の流れ     D社 ←───────── F社
━━→映画の権利の流れ  │↑ ━━━━━━━━→(制作/配給)
‥‥→期待       保│┃ 映画第二次配給権   ┃↑
           100証│┃            ┃│映
      G銀行  億支│┃映          映┃│画
       保証  円払│┃画          画┃│代
            額│┃配          所┃│金
            等│┃給          有┃│
   100億円 借入金返済 │┃権          権┃│
   ←──────── ↓┃     映画所有権  ↓│
E銀行 64億円 本件借入金 B組合 ←━━━━━━━━━C社
   ────────→ │↑: ─────────→
      手数料←───┘│: 86億円 映画代金
   H証券 4億円  出資│:
           26億円│↓減価償却損失
            Xら組合員






事実・争点 原告XはB組合に参加。B組合(本件組合)はC社(ジェネシス)からF社(CPII)制作の映画を購入し、D社(IFD)に映画配給権を売る(更にD社がF社に配給権を売る)。B組合はE銀行(オランダ銀行)から借金し、100億円を返済しなければならないが、D社がB組合に支払うべき映画配給権の対価としての100億円支払いについてG銀行が保証しているので、B組合は殆ど無リスクである。B組合は、映画がヒットすれば配給契約に基づき利益を受けられるが、映画フィルムの所有者として減価償却費も負担する。減価償却費の負担こそがB組合の組合員にとっての税務上のメリットとなる。映画は耐用年数が短いため減価償却費が大きくなる。(今は立法で対処)jw

原審 「私法上の真の意思は、F社においては本件映画に関する権利の根幹部分を保有したままで資金調達を図ることにあ」る。「Xの出資金は…本件映画の興行に対する融資を行ったものであって、本件組合ないしその組合員であるXは、本件取引により本件映画に関する所有権その他の権利を真実取得したものではな」い。(最高裁判決文からの引用)

判旨 「本件組合は、本件売買契約により本件映画に関する所有権その他の権利を取得したとしても」「本件映画は…本件組合の事業の用に供しているものということはできないから、法人税法…31条1項にいう減価償却資産にあたるとは認められない。」

検討 原審の「真の意思は」→ 3.1.3.2.の中の「真意の認定(≒契約解釈)」の部分で処理。
疑問:租税回避を意図しているからこそ、真意としては映画の所有権を取得する意思があった筈では?
別解釈:真意として所有権取得の意思があっても、裁判所が介入的に【真意と異なる契約解釈】をした。(3.1.3.2.の整理はまだ定説化してない。裁判所がそのような介入的な認定をする筈がないという論者からすれば、あくまで「真意の認定(≒契約解釈)」での処理ということになる。)
 いずれにせよ原審は、租税法の適用の問題として処理したのではない。あくまで私法上の問題として処理。
 原審の考え方による場合に、納税者の試みは脱税として刑事責任を負うのか、という論点もある。
 最高裁は、「取得したとしても」という表現をしているので、その判断から逃げているma。私法上の認定がどうであれ、「租税法規の解釈」の領域で納税者の企みは潰れるとしている。
 航空機や船舶を利用した事案では納税者側勝訴で確定している。
 NBB航空機リース事件名古屋高判平成17年10月27日税資255号順号10180(上告しないまま確定)
 船舶リース事件名古屋高判平成19年3月8日平成18(行コ)1号税資257号順号10647・最決平成20年3月27日平成19(行ヒ)185号税資258号順号10933不受理(仲谷栄一郎=藤田耕司「海外事業体の課税上の扱い」金子宏編『租税法の発展』639頁、有斐閣、2010)……ケイマンのLPS(limited partnership)が日本の税法上組合に当たるので(匿名組合に当たらないので)、課税庁のいう雑所得ではなく、不動産所得である。

3.1.3.4. 納税者の租税回避目的と事実認定

6版§142.01武富士事件最判平成23年2月18日集民236号71頁百選7版14jf
武富士創業者夫婦が長男Xにオランダ法人(武富士を支配)の持分(1653億円余の国外財産)を贈与。Xは香港在住であり日本の贈与税課税の要件の一つである「住所」(民法22条:生活の本拠)が日本にないと主張した。Xは、贈与を受けた年において、香港に滞在していた時間の方が長い(香港:65.8%、日本26.2%)。

一審 「客観的事実」に基づいて住所を判定する。「居住意思」は「補充的な考慮要素」。
二審 「客観的事実」及び「居住意思を総合して判断する」…客観的事実と居住意思が並列の関係。
最高裁 「客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かによって決すべきものであり、主観的に贈与税回避の目的があったとしても、客観的な生活の実体が消滅するものではない」。…「居住意思」の位置付けについて言及してないものの、民法学説のうち主観説ではなく客観説を採ったものと受け止められている。

 星嶺寮事件・最大判昭和29年10月20日民集8巻10号1907頁と最判昭和35年3月22日民集14巻4号551頁を拠り所としている。どちらも選挙に関する住所の判定についての判例である。住所の判定基準は何のための住所判定かによって変わる、という考え方が民法学説で有力のようである(即ち、借用概念の問題として考えても、租税法の適用において従来の判例の基準に従わなければならないとは言い切れない)が、本件一審・二審・最高裁とも、相続税・贈与税独自の住所判定基準を考えようとはしていないようである。
 cf.住所に関してGuglielmo Maisto ed., Residence of Individuals under Tax Treaties and EC Law (EC and International Tax Law Series, Vol. 6, IBFD 2010);川島武宜「民法体系における『住所』規定の地位」法協58巻8号1121頁参照。
 なお、2000年前後に幾つかの国で相続税・贈与税の課税対象者の範囲を拡充する法改正がなされている。日本では平成11年改正により、平成12年4月1日以降の相続・贈与について、5年超国外に住所を有して居住していなければならない、等の規定が設けられた。現相続税法1条3、1条の4。
 これは相続税法の贈与税に関する事例であるが、所得税法に関して株式譲渡所得課税回避事例としてユニマット事件・東京高判平成20年2月28日判タ1278号163頁等がある。jg

3.1.3.5. 総合的対応の必要性

5版§322.05(6版403頁)オウブンシャホールディング事件・最判平成18年1月24日訟月53巻10号2946頁

3.1.4. 信義則(民法1条2項)

3.1.4.1. 租税法令の解釈に関する納税者の信頼保護

3.1.4.2. 信義則の適用要件

6版§144.01酒類販売業者青色申告事件最判昭和62年10月30日判時1262号91頁百選7版17hm
XはA(実兄かつ義父)から酒類販売業を事実上引き継いで運営し、青色申告(Aは承認されていたがXは未手続き)で申告した。後で青色申告の効力を税務署長は否認できるか?
信義則の四要件……(1)公的見解の表示、(2)信頼して行動、(3)表示に反する行為、(4)納税者側に帰責事由がない。 一般論として税務でも信義則(禁反言の法理ともいう)の適用可能性が認められている。が事案の解決として信義則を認めた事案は(恐らく)ない。hn

5版§166.02(6版106頁)文化学院事件・東京高判昭和41年6月6日行集17巻6号607頁
税務事務所長がXに対し誤解に基づき固定資産税を非課税とする旨の通知をした。しかし後にXが学校法人等でないため非課税要件に該当しないことが判明した。遡及して課税することの適否やいかに。
一審 信義則または禁反言の法理の適用を認め、X勝訴。
控訴審 控訴認容・原判決取消(X敗訴) 「禁反言の法理とは…自己の言動(表示)により他人をしてある事実を誤信せしめた者は、その誤信に基づき、その事実を前提として行動(地位、利害関係を変更)した他人に対し、それと矛盾した事実を主張することを禁ぜられる、とする」ものである。「一般に、禁反言の適用される表示とは、事実の表示であることを要し、単なる意見もしくは意向の表示では足りず、また、禁反言の適用を認めると違法な結果を生ずる場合には、その適用を阻却されると解されている」。
 「右通知による誤解、誤信のゆえにXが特段の行動をしたというのでもない」。「組織変更もしなかったのであって、ただ、Xはその誤解を深め、安心して従来どおりの学校経営を続けたというにすぎない」。

[浅妻]最判昭和62年10月30日は信義則の4要件を示したが、東京高判昭和41年6月6日は5つ目の要件(違法な結果を招来しない)を書いている。租税を課すべきなのに課さないとすれば全て「違法な結果」になるから実は禁反言は適用されえない、ということになるか、学説上も煮詰められていない。
 なお、1つ目の要件に関し「事実の表示」でなければいけないと書かれているが、最判昭和62年10月30日には「事実の表示」でなければならないとは書かれてない。「事実の表示」ではない表示(意見にとどまる場合など)で信義則・禁反言が適用されないのかについて、学説上も煮詰められていなかった。タキゲン事件・最判令和2年3月24日判時2467号3頁(⇒4.2.3.5.みなし譲渡)宇賀克也補足意見が、通達も信義則の起因たる「表示」に当たると述べた。

非課税の事実状態が積み上がる事により、信義則上、非課税を覆すことができなくなるか?(⇒2.2.4.1.h通達)

合法性の原則(⇒2.2.1.1.c)との緊張関係
[浅妻]形式的にいって、法の正しい解釈を知らなかった納税者について保護しなくてよい、と突き放すことも考えられないではない。しかし、他方で、課税当局の見解を信じた者がその見解に従って一定の作為・不作為をなしていたとすると(例えば所得控除・損金算入があると信じて寄附hkするなどした場合)、信義則・禁反言を認めなければ納税者の予測可能性が(形式的にはともかく事実上は)害される。

3.1.4.3. 加算税における「正当な理由

ストック・オプション加算税事件・最判平成18年10月24日民集60巻8号3128頁(⇒4.2.6.2.フリンジ・ベネフィット)
6版§225.03航空機リース事業匿名組合事件・最判平成27年6月12日民集69巻4号1121頁(⇒4.2.5.不動産所得)

3.2. 租税争訟制度

3.2.1. 意義

3.2.2. 国税に関する不服申立手続

3.2.2.1. 審査請求前置主義の原則

75頁
図表3-1 国税に関する不服申立手続の流れ
 参照
行訴法8条1項本文の自由選択主義の例外として、いきなり訴訟を提起することはできない。
かつては税務署長等に対し異議申立をしてから、不服があれば国税不服審判所審査請求をする、という二段階であったが、異議申立(今は原処分庁たる税務署長等に対する再調査の請求)を省略できるようになった。
いきなり訴訟を提起できないとはいえ、国家賠償請求をすることができる場合がある。冷凍倉庫事件・最判平成22年6月3日民集64巻4号1010頁(⇒2.3.2.2.b例外的な租税確定手続)

3.2.2.2. 訴訟提起前の不服申立手続

3.2.2.3. 再調査の請求手続

3.2.2.4. 審査請求手続

裁判とは色々違う……同席主張説明、争点主義運用、弁論主義不適用(税通97条1項)、判断の統一(税通98条4項)、課税庁側の出訴不可(税通102条1項)

3.2.3. 地方税に関する不服申立手続

最判令和元年7月16日民集73巻3号211頁百選7版99bb(田中啓之・ジュリスト1539号10頁)…固定資産評価審査委員会による審査の過程で主張しなかった事由を取消訴訟において主張することは許される。

3.2.4. 租税訴訟

3.2.4.1. 訴訟類型と手続

原処分主義(行訴10条2項)……裁決の適否を争うのではなく課税庁の処分の適法違法を争う。
納税者(代理人・弁護士+補佐人・税理士)vs.国(指定代理人は訟務検事が多い)(以前は税務署長が被告だった)

3.2.4.2. 訴訟物と処分理由の差替え

学説では争点主義が根強いが、判例(最判昭和49年4月18日訟月20巻11号175頁bd…「本件審査裁決が右総所得金額を構成する所論給与所得の金額を新たに認定してこれを考慮のうえ審査請求を棄却したことには、所論の違法があるとはいえない」。「本件決定処分取消訴訟の訴訟物は、右総所得金額に対する課税の違法一般であり、所論給与所得の金額が、右総所得金額を構成するものである」。)は総額主義
 →処分理由の差替えは同税額内でかつ民訴一般の適時提出主義(時機に後れた攻撃防御方法でなければ)の範囲内で可能。cf.⇒6版§231.03高松市塩田宅地分譲事件・高松地判昭和48年6月28日行集24巻6=7号511頁(⇒4.3.3.違法な支出)

最判昭和56年7月14日民集35巻5号901頁百選7版120bf
不動産取得価額6000万円、販売価額7000万円の前提でYが更正処分。第一審の追加抗弁として販売価額9450万円とし、取得価額がX主張通りの7600万円であるとしても譲渡益1000万円の課税処分に違法性はないと主張。
最高裁「Yに本件追加主張の提出を許しても、右更正処分を争うにつき被処分者たるXに格別の不利益を与えるものではない」。
(理由附記との関係で歯切れの悪い判示…「一般的に青色申告書による申告についてした更正処分の取消訴訟において更正の理由とは異なるいかなる事実をも主張することができると解すべきかどうかはともかく」)
理由附記に関して…最判平成23年6月7日民集65巻4号2081頁百選行政T-8版117(一級建築士免許取消処分等取消請求事件)札幌市の建築士が免許を取り消された行政処分の際に十分な理由を示されなかったことを不服として起こし、「理由が十分示されていなかった」として処分を取り消した事例(那須弘平、岡部喜代子反対意見あり)
タイ有利発行事件・東京地判平成22年3月5日税資260号順号11392平成19年(行コ)754号(⇒5.2.2.1.a)(タイ関連会社の額面発行株式の引き受けに伴う時価との差額の受贈益が益金を構成するとした事例)は争点主義を採用しているように読める。

3.2.4.3.. 主張責任・証明(立証)責任の分配dv

3.2.4.4. 訴えの利益

まからずや事件最判昭和42年9月19日民集21巻7号1828頁百選7版119ew
「第1次更正処分は第2次更正処分によって取り消され,第3次更正処分は,第1次更正処分とは別個になされた新たな行政処分である」
…理由附記に不備のある第1次更正処分を第2次更正処分で取り消した上で第3次更正処分の実質的内容は第1次更正処分と同じという事情があり、典型例とも言いがたいが、増額再更正処分に関し、学説で支持の根強い分離説(併存説・独立説・追加説とも)に対し判例は吸収説(消滅説・一体説とも)で一貫。

減額再更正処分に関し一部取消説(再更正は争えない。当初更正を争え)をとった6版§223.01弁護士顧問料事件・最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁百選7版38(⇒4.2.6.1.給与所得)

3.2.4.5. 和解

2.2.1.1.c 合法性の原則 との緊張関係(事実上の和解はある)

3.2.4.6. 推計課税

最判昭和39年11月13日訟月11巻2号312頁bi憲法84条違反ではない。

東京高判平成6年3月30日行集45巻3号857頁百選7版111…所得税法156条(法人税法131条)推計課税について「所得の実額との関係で厳密な整合性を有する必要はなく、実額課税に代わる方式にふさわしいといい得る程度の推計の合理性で足りる」。実額反証の立証責任について「原告が直接資料によって収入及び経費の実額を主張・立証することは、被告の抗弁に対する単なる反証ではなく、自らが主張・証明責任を負うところの再抗弁であり、しかも、その再抗弁においては単に収入又は経費の実額の一部又は全部を主張証明するだけでは足りず、収入及び経費の実額をすべて主張・証明することを要する」。 lo

3.3. 租税法務と租税争訟の現状

3.3.1. 租税法務と法律家の役割

3.3.1.1. 租税法務と法律家

3.3.1.2. 租税争訟における法律家

COLUMN3-1 国際的租税争訟の動向

3.3.2. 法律実務家に求められるもの

COLUMN3-2 タックス・プラニング
10年前の1000億円について600億円の儲け(税引き後) → 投資利回り5%ってどういう意味?
年5%(税無視)で年複利運用→ 元本×1.05×1.05×…×1.05 → 1.05の10乗≒1.629
逆に、1.6の1/10乗を計算したい場合 「1.6^0.1=」でググる → 1.0481だから年利約5%。
ドラえもんがのび太に「定期預金なら100年で1024倍」と勧める → 1024^0.01≒1.0718 年利7%の時代の話

4. 個人の所得課税―所得税と住民税

4.1. 所得概念と所得税法の構成

4.1.1. 所得概念

4.1.1.1. 制限的所得概念・包括的所得概念

担税力(ability to pay, Leistungsfähigkeit)概念について……租税を負担する能力、といった程度の曖昧な意味であり、論証には使いにくいマジック・ワードである。ec
例:「医療の消費には担税力がない。」「酒の消費には担税力がある。」だけでは説明にならない。担税力がある、担税力がない、という時点で結論を語っており、なぜそう考えるかの理由の方が大事。

担税力の基準として、所得・消費・資産(財産)がしばしば挙げられる。
タックス・ミックス……一種類に頼ると弊害が大きいので、所得税だけでなく財産税・消費税も組み合わせバランスのとれた税制を構築すべきであるという考え方。ed

取得型(発生型)所得概念(acquisition (accrual) type concept of income)
制限的所得概念(limited income)…所得源泉説・反復的利得説ともいう。欧州で支配的(欧州でキャピタル・ゲイン課税は例外的)。分類所得税(scheduler system)と親和的。
包括的所得概念(global income)…所得=消費+純資産増加と定義。純資産増加説ともいう。提唱者3名のシャンツ・ヘイグ・サイモンズ(Schanz, Haig, Simons)の所得概念ともいう。日米で支配的。総合所得税(global system)と親和的。

4.1.1.2. 取得型(発生型)所得概念に対する批判(消費型所得概念)

一応の知識として……水平的公平(同等の経済力を持つ二者に同等の課税をすべし)と垂直的公平(異なる経済力を持つ二者にその異なりに応じた差異を設けた課税をすべし)
この二つの公平概念を知っておくべきではあるが、それだけでは答えが導けないことが多い。何を以て「同様」「異なる」と評すか?つまり経済力を図る際に我々は何に着目すべきか?人頭税は頭の数に応じた課税だから公平か?ee
([浅妻]公平について「公平」(形式的)と「衡平」(実質的)を使い分ける人が多いが本講では衡平を使わない)

例:Aは1000の所得を得、100消費する。Bは100の所得を得、100消費する。AとBとは同様の状況か。
例:Cは1000の所得を得、1000消費する。Dは1000の所得を得、100消費する。CとDとは同様の状況か。

公平(equity)と中立性(neutrality)・効率性(efficiency)
(a) 不公平とは限らない差別的・非中立的取扱
 税のない世界において、ともに収益率10%のX・Yという二つの投資先があるとする(概説のリンゴ・ミカンをX・Yに一般化)。X債券の利子に税率50%で課税し、Y債券の利子に課税しないとする。Xの税引後収益率は5%、Yの税引後収益率は10%
 Xへ投資していた者の一部がYへの投資に振り替える。収益逓減(diminishing returns)efの法則を前提とすると、Xの収益率が上昇し、Yの収益率が減少する。最終的に、Xの税引後収益率とYの税引後収益率が同じになるまで、XからYへの振り替えが行なわれる。例えば、税引後収益率7%egなどまで調整される。
 調整後の状態を均衡(equilibrium)という。
 Yについて名目的には課税されていないにもかかわらず、調整過程を経てYの税引前収益率が10%から7%などに低下していることを、暗黙の税(implicit tax)が課せられているという。

 差別的・非中立的な課税は、必ずしも結果的にも不公平とは限らない
 50%の課税を受けると知りながら敢えてXに投資した者を事後的に救う(非課税とする)と、却ってXを不当に優遇することとなる。Yに投資した者に事後的に課税すると、却ってYを不当に冷遇することとなる。

 応用例:所謂クロヨン問題について……名目的な税率は50%であり、サラリーマンはその所得の100%が課税に服し、自営業者はその所得の60%が課税に服す、という世界を仮想する。サラリーマンの所得にかかる税率が50%であり、自営業者の所得にかかる税率が30%である、というのと同じことである。就業形態について差別的・非中立的な扱いである。しかし、サラリーマンか自営業者か自由に選べるのだから結果的には不公平でない……といえるか?

●就業形態の選択が、X債券・Y債券の選択と同じように、スムーズにできるとは限らない。就業形態選択の摩擦(friction)がある限り、不公平さは残る。
●移行(transition)の問題……追加的な例として、或る日突然サラリーマンの税率が30%に下げられたとする。市場における調整を通じてサラリーマンが減少し税引前所得が上昇していたときに、突然制度が変わると、自営業者がサラリーマンになろうとする次の調整の間、既にサラリーマンであった者はたなぼた(windfall)を得る。(注意:制度変更が常にたなぼたをもたらすとは限らない。制度変更が予想されている場合など。)
●職業選択の自由(cf.憲22条)は、X・Yの投資と異なり、税のみによって決まらない。

市場で常に完璧に調整されるとは言い切れない。が、不公平は見かけほどではない、というのも一面の真実。

(b) 非中立、非効率
選択が自由にでき、移行の問題もクリアされるならば、不公平さはなくなるかもしれないが、それでも差別的・非中立的な取扱に何か不都合があるのか?
……非中立的な課税は死荷重(deadweight loss: 死重損失ともいう)をもたらす、つまり、非効率をもたらすのが悪い。

死荷重

(『ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか』54頁より)
 図は、A-B間の資源(例えば農地)の、リンゴとミカンとの配分を表している。Aに近い農地はリンゴに適し収益率が高くBに近付くほど収益率が低くなる。Bに近い農地はミカンに適し収益率が高くAに近付くほど収益率が低くなる。無税の世界では上の右下がり曲線と上の左下がり曲線の交点であるC点が均衡点であり、A-D間の農地でリンゴを、D-B間の農地でミカンを生産することが最適な資源配分である。突然、ミカンだけが課税されるとなると、ミカンの税引後収益率曲線は下の右下がり曲線になる。新たな均衡点はE店となる。D-F間の農地は、無税の世界ではミカンの方が収益率が高かったが、ミカンだけの非中立的な税が導入されると、ミカンの税引前収益よりリンゴの税引前収益率の方が高いので、D-F間の農地はミカンからリンゴに振り替えられ、A-F間の農地がリンゴに割り当てられ、F-B間の農地がミカンに割り当てられる。なお、この場合、G-Eの右上の部分(ミカンの税引前収益率曲線と税引後収益率曲線の間)は税収になり、公共財や弱者救済のために使われるので、無駄にはならない。無駄になるのは三角形CGEの部分であり、この部分が非中立的な課税により世の中から消えてしまう。この部分が非中立的な課税の社会的なコストであり、死荷重という。ミカンが課税されずリンゴだけ課税される場合の死荷重は三角形CJHの部分である。リンゴとミカンが同じように課税されるならば均衡点はK点であり、資源配分が歪まない。

差別的・非中立的な取扱が常に非効率をもたらすとは限らない。
例:独身男に課税し、独身女に課税しない、とする。性転換が不可能なら(今は可能だが)、資源配分に影響しない(夫婦等のカップルは別論)。非中立だが効率性には影響しない。
尤も大抵の非中立的取扱は非効率をもたらすので、非中立と非効率とはほぼ同義で使われる。

中立性は、何と何との選択に着目するかを明らかにした上で初めて意味を持つ。cf.限定的中立性という概念について増井良啓「法人税の課税単位―持株会社と連結納税制度をめぐる近年の議論を素材として―」租税法研究25号62頁(1997)
例:独身男の賃金に課税し、独身女に課税しない。 → 労働意欲減少という非効率(⇒COLUMN4-2人的資本)。
この非効率は、「男」に課税した結果ではなく、「賃金」に課税した結果である。(夫婦等は別論)

効率的な課税とは……一括税(lump-sum tax) ⊃人頭税(a poll tax, capitation)
例:くじ引きによる課税だと一人一人の税額が異なるが、人々の行動は変化しない。
納税者の行動と無関係に徴収される税が効率的な租税 (cf.身長税ej) 良い租税かは別論

(c) 公平と中立性(効率性)との関係
公平と効率性とのトレードオフ(trade off)の関係……分配を平等にしようとすると、課税される側の働く気が失せ、分配の対象である経済的パイの大きさそのものが小さくなる(つまり非効率になる)
なお、平等というとき、結果の平等と機会の平等が区別されることが多いが、区別し通すのも困難。
本講で公平はあまり扱わず中立性を扱うことが多い。公平を論ずるのはまだ難しい。

(d)貯蓄(消費を遅らせる)と即時消費との比較
割引現在価値(discounted present value)や金銭の時間的価値(time value of money)に留意
A(すぐ消費する人)とB(貯蓄して翌年消費する人)との比較
消費より貯蓄(後で消費する)という選択肢を包括的所得概念は不公平・非中立的に不利に扱っている
消費型(支出型)所得概念(consumption (expenditure) type concept of income)…消費のみに課税すべきとする考え方。支出税(expenditure tax)と親和的。

expensing(全額即時控除)方式:貯蓄時に課税せず、利子受領時(消費時)に課税する。(⇒COLUMN5-5即時損金算入と資産化)
yield exemption(収益非課税)方式:貯蓄時に課税するが、利子受領時(消費時)に課税しない。

所得課税vs.消費課税…経済学者:利子課税vs.非課税 | 巷:直接税vs.間接税 (⇒COLUMN6-6包括的所得概念と消費課税の差異は意外と小さい?)
利子非課税の論拠…経済学者:消費・貯蓄の中立性 | 巷:足が速い利子所得などに課税すると資本逃避(capital flight)で一層日本経済が苦しくなる恐れ。
cf.北欧諸国の二元的所得税(dual income taxation)…投資所得及び法人の所得について軽めの比例税率(flat rate)、労働所得に累進税率(progressive rate)。
COLUMN4-1包括的所得概念は正しくない?
消費課税論者(利子非課税論者)への反論
第一:消費課税にも非中立性(余暇⇒COLUMN4-2人的資本)。非中立性の数の比較の意義の小ささ。
第二:効率性以外の考慮要素…包括的所得概念の定義式は一見当たり前の事のように見えるかもしれないが、実は富の再分配という政策的意図が混入したものである(例:ビル・ゲイツのような富豪とあなたの消費生活が同じであったら税負担も同じで良いですか?)。
所得概念論に正解はなく、価値判断の問題であるというのが教科書的説明(学界では更に突っ込んだ議論がされているeq)。)

近年は所得か消費かという哲学(価値判断)より最適課税論(optimal taxation theory)が隆盛……一定の税収が政府にとって必要であることを与件(論ずる対象としない前提)とし、どういう租税負担配分なら公平に配慮しつつ効率性をあまり害さないで済むか(勤労意欲を阻害しないで済むか)を考える。

4.1.2. 所得税法の構成

4.1.2.1. わが国所得税の特徴

4.1.2.2. 所得税額の計算の順序(所税21条)

図表4-1 所得税法における税額算定の流れ 参照

(a)収入金額−必要経費=所得金額 (所得分類に留意)

(b)所得金額−所得控除=課税所得金額 (損益通算、純損失の繰戻し・繰越しに留意)

(c)課税所得金額×税率−税額控除=納税額

今すぐは図表4-1が理解できなくてもいいので度々振り返って!

4.1.2.3. 課税標準(所税22条)

所税22条2項2号で33条3項2号(長期譲渡所得)、34条(一時所得)が半額課税になる。

4.1.2.4. 各種所得金額の計算:所得分類(所税23〜35条)、収入金額(36条)、必要経費(37条)

4.1.2.5. 課税所得金額の計算:損益通算(所税69条)、純損失の繰越し等(70条)、所得控除(72〜87条)

4.1.2.6. 税額の計算:超過累進税率(所税89条)

課税段階・所得段階 税率 速算控除額
195万円以下 5% 0円
195〜330万円以下 10% 9万7500円
330〜695万円以下 20% 42万7500円
695〜900万円以下 23% 63万6000円
900〜1800万円以下 33% 153万6000円
1800〜4000万円以下 40% 279万6000円
4000万円超 45% 479万6000円
例:税引前所得195万円と200万円との比較。
単純累進税率による逆転現象は不合理
超過累進税率を採用。(+住民税10%)
例:税引前所得2000万円の場合の速算。税引前所得αの場合。
例:給与収入500、給与所得控除144、基礎控除48(万円)の場合
限界税率(marginal rate)(段階税率):追加的税額/追加的所得=10%
実効税率(effective rate):21.05/500=4.21%
平均税率(average rate):21.05/308=6.83%
逆進(regressive⇔progressive):所得が多いほど税率が下がる。
震災復興増税…2013年から25年間、所得税額×2.1%。2014年6月から10年間、住民税年千円増。
89条の税額計算後、所税92・95条に合致すれば税額控除(⇒4.2.2.2.配当控除、⇒8.3.1.外税控除)。

4.1.3. 課税単位:超過累進税率下での所得分割の誘因

4.1.3.1. 課税単位の型

個人単位主義 消費単位主義(夫婦単位・家族単位)le
 合算非分割主義/合算分割主義(均等・不均等)
 単一税率表制度/複数税率表制度
超過累進税率&個人単位主義下 → 所得分割の誘因。

4.1.3.2. オルドマン・テンプルの法則(Oldman & Temple)

A独身1人>B片稼ぎ>C共稼ぎ>D独身2人
A>B……生活費
B>C……専業主婦/夫の家事役務等による帰属所得(imputed income⇒4.3.4.)
C>D……規模の利益(economy of size)(Dの2人が同居してない場合)

4.1.3.3. 二分二乗の評価

6版§212.03二分二乗訴訟最大判昭和36年9月6日民集15巻8号2047頁百選7版30bj
 (給与所得+事業所得=62万4800円の半額)+(配当所得43万2200円)…給与・事業所得は妻の内助の功有り、配当所得にはなし、という想定。典型的な二分二乗(夫婦合算分割)とは異なる。
 (余談:離婚時の財産分与(狭義の財産分与)において夫の特有財産たる株式から生じた配当所得は財産分与の対象とならず、夫の給与所得等については妻の内助の功があるということで財産分与において給与所得等を原資とする蓄財について概ね折半される。従って、夫が親から株式等の資産を贈与してもらうなどしたら夫の離婚時に財産分与で持っていかれない一方で、夫が親から学費を出してもらって法学部・法科大学院に通わせてもらったなどの場合の夫の給与所得等は夫の離婚時に財産分与の対象となるという非中立性(夫の親が親にどのような形で贈与するかの選択肢について)が存在する。勿論夫婦逆の場合も同様。)
 判旨 「所得税法が、生計を一にする夫婦の所得の計算について、民法七六二条一項によるいわゆる別産主義に依拠しているものであるとしても、同条項が憲法二四条に違反するものといえないことは、前記のとおりであるから、所得税法もまた違憲ということはできない。」
 最高裁は個人単位主義が違憲ではないと述べただけなので、日本の憲法・民法の規律を前提として二分二乗やN分N乗を採用した場合に違憲となるかについては何も述べてない。しかし、二分二乗やN分N乗が違憲となる可能性は低いであろう。
 仮に原告の主張を認めるとしたら、妻の所得分類は給与所得・事業所得でよいのか、という問題も生じる。
 cf.夫婦財産契約事件・東京地判昭和63年5月16日判時1281号87頁百選6版29(⇒4.5.1.2.)

4.1.3.4. 課税単位をめぐる正解の不存在

二分二乗制度の問題点……C=D→規模の利益無視|B=C→内助の功(帰属所得)無視
合算非分割→「婚姻に対する罰金(or課税)」(marriage penalty)→税制の婚姻中立性を阻害するfs
[浅妻]家事役務等の帰属所得を課税対象に取り込まないかぎり課税単位の問題に正解はない

4.2. 所得分類(所税23条〜35条)

4.2.1. 利子所得(23条)

所税23条「利子所得とは、公社債及び預貯金の利子……並びに合同運用信託、公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託の収益の分配……に係る所得をいう。
2 利子所得の金額は、その年中の利子等の収入金額とする。」

所税181条(源泉徴収義務)「居住者に対し国内において第二十三条第一項(利子所得)に規定する利子等…又は第二十四条第一項(配当所得)に規定する配当等…の支払をする者は、その支払の際、その利子等又は配当等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
2 配当等…については、支払の確定した日から一年を経過した日までにその支払がされない場合には、その一年を経過した日においてその支払があつたものとみなして、前項の規定を適用する。」
所税182条(徴収税額)「前条の規定により徴収すべき所得税の額は、次の各号の区分に応じ当該各号に掲げる金額とする。
一 利子等 その金額に百分の十五の税率を乗じて計算した金額
二 配当等 その金額に百分の二十の税率を乗じて計算した金額」

租税特別措置法3条(利子所得の分離課税等)「居住者又は恒久的施設を有する非居住者が…国内において支払を受けるべき所得税法第二十三条第一項に規定する利子等[1-4号の「不適用利子」を除く。「一般利子等」という。]…については、同法第二十二条及び第八十九条並びに第百六十五条の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その支払を受けるべき金額に対し百分の十五の税率を適用して所得税を課する。」[1-4号略、2-4項略]

消費貸借契約:民法587条「消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。」
消費寄託契約:民法666条「受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合には、受寄者は、寄託された物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還しなければならない。
2 第五百九十条及び第五百九十二条の規定は、前項に規定する場合について準用する。
3 第五百九十一条第二項及び第三項の規定は、預金又は貯金に係る契約により金銭を寄託した場合について準用する。」

「利子」という言葉で想起されるもの一般ではなく預貯金の利子が中心。
金銭消費寄託契約(民法666条)……5版§221.01(6版163頁)協和興業事件・東京高判昭和39年12月9日行集15巻12号2307頁百選5版35gf
6版§221.01「預金」の意義 新生銀行デットアサンプション契約事件東京地判平成17年7月1日平成16(行ウ)13号(控訴審東京高判平成17年12月21日平成17(行コ)198号
デットアサンプション事件東京高判平成18年8月17日訟月54巻2号523頁百選7版36(原審東京地判平成18年1月24日訟月54巻2号531頁)
大洋セメント興業事件・東京高判昭和41年4月28日判タ194号147頁(必ずしも金銭消費寄託契約であるかに拘泥せず、預金の経済的実質に着目せよという)(cf.佐藤英明「利子所得における「預金利子」の意義と範囲」神戸法学雑誌41巻1号61-88頁1991年)

金銭消費貸借契約(民法587条)の場合、雑所得(又は事業所得)であることに留意。
必要経費の控除が制度上予定されていない。(所税23条2項)
補足:定期預金のように「返還の時期を定め」た消費寄託契約と消費貸借契約との違いは?

税制調査会「税制の抜本的見直しについての答申」昭和61年10月55-56頁(税制調査会の答申(税調答申)については日本租税研究協会のHPが便利)
徴税方法――金融機関が利子所得に該当する金員を支払う際に源泉徴収し、そして源泉徴収によって完了する一律源泉分離課税(⇒4.8.3.)という。執行面で便利である反面、個々の納税者の経済状態を反映できない(小額所得者・高額所得者について考察せよ)という欠点もある。(法科大学院生は5版§221.02税制調査会金融小委員会「金融所得課税の一体化についての基本的考え方」(平成16年6月15日)も参照)
cf.出版社から受け取る原稿料も源泉徴収される(所税204条以下)が課税関係は完了しない。

4.2.2. 配当所得(所税24条)

4.2.2.1. 定義

所税24条(配当所得)「配当所得とは、法人……から受ける[1]剰余金の配当(……資本剰余金の額の減少に伴うもの……を除く。)、[2]利益の配当……、[3]剰余金の分配……、[4]投資信託及び投資法人……の金銭の分配……、[5]基金利息……並びに投資信託……及び特定受益証券発行信託の収益の分配……に係る所得をいう。
2 配当所得の金額は、その年中の配当等の収入金額とする。ただし、株式その他配当所得を生ずべき元本を取得するために要した負債の利子……でその年中に支払うもの……を控除した金額とする。」
25条(配当等とみなす金額[講学上みなし配当と呼ぶ])「法人……の株主等が当該法人の次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額……が当該法人の[法人税法2条]十六号に規定する資本金等の額……のうちその交付の基因となつた当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、この法律の規定の適用については、その超える部分の金額に係る金銭その他の資産は、前条第一項に規定する[1]剰余金の配当、[2]利益の配当、[3]剰余金の分配又は[4]金銭の分配とみなす。
一 当該法人の合併……
二 当該法人の分割型分割……
三 当該法人の株式分配……
四 当該法人の資本の払戻し……又は当該法人の解散による残余財産の分配
五 当該法人の自己の株式又は出資の取得……
六 当該法人の出資の消却……、当該法人の出資の払戻し、当該法人からの社員その他の出資者の退社若しくは脱退による持分の払戻し又は当該法人の株式若しくは出資を当該法人が取得することなく消滅させること。
七 当該法人の組織変更……」[2・3項略]

みなし配当は難しいので(例えば)学部生レベルでは分からなくてもよいが、例えば25条1項4号後段「当該法人の解散による残余財産の分配」の例……X氏とY氏がそれぞれ200円ずつ出資し、Z会社を設立し、資産900円、負債が500円、資本金400円でスタート。Z会社の営業がうまくいき、資産が1100円まで増えたとする(負債500円、資本金400円のまま)。ここでZ会社が解散すると、負債返済後600円が残るので、X氏とY氏がそれぞれ300円を受け取り、100円(=300−200)について配当所得と見なされる。gg

大阪高判平成24年2月16日訟月58巻11号3876頁(長戸貴之・ジュリスト1461号127頁)…従業員持株会の債務の代物弁済として会社が自己株式を取得することがみなし配当に当たるとした事例。債務消滅が「資産の交付」に当たる。従業員持株会は所謂社団の4要件を満たしても組合である。
6版§322.05国際興業管理株式会社事件・最判令和3年3月11日民集75巻3号418頁

6版§221.02 鈴や金融事件最判昭和35年10月7日民集14巻12号2420頁百選5版36kg
事実・争点 株主相互金融会社(金融規制の脱法)の株主優待金が配当所得(当時「利益の配当」)に該当するか(そして支払者である会社源泉徴収義務を負うか)?
 例えばA・B・Cの3人が出資して株主相互金融会社を設立し、株主優待金を受ける例と、D・E・Fが銀行に預金し、預金利子を受け取る場面を比べてみよう。

 出資    |        |        |株主優待金
A――→金株 | A   金株 | A   金株 | A←――金株
B――→融主 | B   融主 | B   融主 | B←――融主
C――→会相 | C←――会相 | C――→会相 | C←――会相
    社互 |  借入 社互 |  返済 社互 |     社互
       |        |        |
 預金    |        |        |預金利子
D――→銀  | D   銀  | D   銀  | D←――銀
E――→行  | E   行  | E   行  | E←――行
F――→   | F←――   | F――→   | F←――
       |  借入    |  返済    |     

控訴審判決 「利益の配当とは商法…の規定する利益の配当」を指す。(借用概念3.1.2.2.)
国側上告理由 「会社が、株主に対してその出資に対する対価」として支払った場合は「常に利益の配当」であり、「商法に違反してなされたか否かは」関係ない。「損益取引にもとづかないで会社が株主に対しその株主たる地位において」支払う場合は、(少数の例外を除き)「すべて利益の配当である」。
最高裁判旨(上告棄却) 上告理由に一部同意――「所得税法もまた、利益配当の概念として、商法の前提とする利益配当の観念と同一観念を採用している」。商法上不適法な蛸配当や株主平等原則違反の配当等も「所得税法上の利益配当のうちに含まれる」。
 しかし「本件の株主優待金なるものは、損益計算上利益の有無にかかわらず支払われるものであり株金額の出資に対する利益金として支払われるものとのみは断定」できない。

考察 課税当局の上告理由と上告審判決との結論の差に注目。cf.所基通24-1(剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配に含まれるもの)及び24-2(配当等に含まれないもの)
 「配当」は借用概念論でしばしば例に挙げられるが、【商法におけるのと同じ意味で解釈すべし】(統一説)が【商法上適法な配当に限定される】に直結する訳ではない、という少し厄介な論理構造がある。(なお、蛸配当に関する判示は損益計算上の利益に基づかないのであるから矛盾しているように思われる。矛盾していないという説明は不可能ではないが、[浅妻]筆が滑ったのであろう)
 逆の結論のように見える6版§323.02東光商事事件・最大判昭和43年11月13日民集22巻12号2449頁(⇒5.3.3.1.)とセットで復習すべし。
 [発展]平18改正後の「剰余金の配当」は、本判決(「利益の配当」)の射程外であろうという理解が実務上は優勢であるように見受けられる。学部生レベルではフォローしなくてよい。cf.外国法人スピンオフ事件(タイコTyco事件)・東京地判平成21年11月12日判タ1324号134頁、カナダ法人子会社株式現物配当事件・東京高判平成17年1月26日税資255号順号9911等kq

4.2.2.2. 課税方法と配当控除

所税92条(配当控除)「居住者が剰余金の配当……、利益の配当……、剰余金の分配……、金銭の分配……又は証券投資信託の収益の分配……に係る配当所得……を有する場合には、その居住者のその年分の所得税額……から、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。
一 その年分の課税総所得金額が千万円以下である場合 次に掲げる配当所得の区分に応じそれぞれ次に定める金額の合計額
 イ 剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配及び金銭の分配……に係る配当所得 当該配当所得の金額に百分の十を乗じて計算した金額
 ロ 証券投資信託の収益の分配に係る配当所得 当該配当所得の金額に百分の五を乗じて計算した金額
二 その年分の課税総所得金額が千万円を超え、かつ、当該課税総所得金額から証券投資信託の収益の分配に係る配当所得の金額を控除した金額が千万円以下である場合 次に掲げる配当所得の区分に応じそれぞれ次に定める金額の合計額
 イ 剰余金の配当等に係る配当所得 当該配当所得の金額に百分の十を乗じて計算した金額
 ロ 証券投資信託の収益の分配に係る配当所得 当該配当所得の金額のうち、当該課税総所得金額から千万円を控除した金額に相当する金額については百分の二・五を、その他の金額については百分の五をそれぞれ乗じて計算した金額の合計額
三 前二号に掲げる場合以外の場合 次に掲げる配当所得の区分に応じそれぞれ次に定める金額の合計額
 イ 剰余金の配当等に係る配当所得 当該配当所得の金額のうち、当該課税総所得金額から千万円とロに掲げる配当所得の金額との合計額を控除した金額に達するまでの金額については百分の五を、その他の金額については百分の十をそれぞれ乗じて計算した金額の合計額
 ロ 証券投資信託の収益の分配に係る配当所得 当該配当所得の金額に百分の二・五を乗じて計算した金額」[2・3項略]
(タックスアンサーNo.1250配当所得があるとき(配当控除)の図が分かりやすい)

株式取得のための負債に係る利子を控除できる(所税24条2項)(例えば株式取得のため1000万円を借金し配当収入180万円を受け取り利子100万円を支払った場合の配当所得は180−100=80(万円))が、損益通算不可(所税69条1項)。原則として総合課税の対象であり申告納税しなければならない。なお皆さんが株式を買う場合、申告不要の場合が多い(⇒4.2.2.3.)。
所税92条1項の税額控除が、法人税との二重課税の調整のために認められる。
(仮に配当額の10%の所得控除だったら?……(1100−14)×33%−153.6=204.78(万円))
所税92条は配当控除とあるだけで所得控除か税額控除か分かりにくいが、所得控除か税額控除かで効果が全然違うので、控除が所得控除の意味か税額控除の意味か常に確認する癖をつけてほしい。

4.2.2.3. 上場株式等の特例

金融所得一元化の部分的実現。事実上、源泉分離課税に近い。
配当について租特8条の4、8条の5:申告分離課税制度・申告不要制度。
東京地判平成29年12月6日税資267号順号13096平成28(行ウ)10号・控訴審東京高判平成30年5月17日税資268号順号13153平成29(行コ)386号……上場株式等の配当等に係る申告分離課税の特例(租特8条の4)を受ける際の選択を誤った際、同条1項「確定申告書を提出したとき」の解釈として、更正の請求等によって事後的に選択し直すことはできないとした事例。田島秀則・ジュリスト1543号130頁は判旨反対。

株式譲渡益に関する申告分離課税・特定口座制度について租特37条の10・37条の11の3。
軽課措置(平成20年改正附則32、33、43、45条)の平成25年末廃止後に日本版ISA(NISA:ニーサと発音する)iwを平成26年に導入した(租特法9条の8、37条の14、平成22年改正附則52条、64条)。現在、一般NISA、つみたてNISAがある(ジュニアNISAは2023年12月末に終了)。
平成25年度税制改正→軽課措置が廃止されるので国・地方税合わせ10%から20%へ。公社債譲渡所得課税。特定公社債・上場株式等につき、利子・配当・譲渡損益を一元化して課税し、一律源泉分離課税の対象から外し20%の申告分離課税の対象とし損益通算を可能にする(金融所得一元化に近付く)。一般公社債(利子は一律源泉分離課税のまま)・非上場株式の譲渡所得課税の一元化。cf.令5譲渡益税制改正のあらまし

4.2.3. 譲渡所得(33条)

4.2.3.1. 定義

所税33条(譲渡所得)「譲渡所得とは、資産の譲渡建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。
2 次に掲げる所得は、譲渡所得に含まれないものとする。
 一 たな卸資産……の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得
 二 前号に該当するもののほか、山林の伐採又は譲渡による所得
3 譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(……「譲渡益」という。)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。
 一 資産の譲渡……でその資産の取得の日以後五年以内にされたものによる所得……[短期譲渡所得]
 二 資産の譲渡による所得で前号に掲げる所得以外のもの[長期譲渡所得]
4 前項に規定する譲渡所得の特別控除額は、五十万円(譲渡益が五十万円に満たない場合には、当該譲渡益)とする。」[5項略]

所税38条(譲渡所得の金額の計算上控除する取得費)「譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする。
2 譲渡所得の基因となる資産が家屋その他使用又は期間の経過により減価する資産である場合には、前項に規定する資産の取得費は、同項に規定する合計額に相当する金額から、その取得の日から譲渡の日までの期間のうち次の各号に掲げる期間の区分に応じ当該各号に掲げる金額の合計額を控除した金額とする。
 一 その資産が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の用に供されていた期間 第四十九条第一項(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)の規定により当該期間内の日の属する各年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入されるその資産の償却費の額の累積額」[二号略][減価償却⇒5.2.3.3.b.

所基通33-1「譲渡所得の基因となる資産とは、法第33条第2項各号に規定する資産及び金銭債権以外の一切の資産をいい、当該資産には、借家権又は行政官庁の許可、認可、割当て等により発生した事実上の権利も含まれる。」

資産は固有概念の典型例。cf.6版§222.03サラリーマン・マイカー訴訟・最判平成2年3月23日判時1354号59頁⇒4.6.3.損益通算
金銭が資産に含まれないことに異論はないが、金銭債権を除外する通達には異論の余地あり。

空中権事件・(原審東京地判平成20年11月28日税資258号順号11089平成20(行ウ)281号)東京高判平成21年5月20日税資259号順号11203平成21(行コ)5号百選7版37
資産について……空中権の移転は「甲敷地の移転に準ずるものということはできず,当該余剰容積が甲敷地の利用権から独立,分離して乙敷地に移転することが定められたものではない」。「『余剰容積利用権』なるものは,土地所有権から淵源する敷地利用権能(経済的利益)であって,敷地利用権と離れて独立に処分可能な財産権ということは困難である。」
譲渡について……「『余剰容積利用権』の権利性は連担建築物設計制度に同意する場合の契約の契約内容によるのであり,また,この同意に係る対価は不動産を他人に使用させることの対価ということになるから,同意に係る対価が当然に譲渡所得に該当するものと解することはできない。この点は,不動産を他人に使用させることの対価としての賃借権に関する所得についてみても明らかである。すなわち,A所有土地をBが建物所有目的で賃借し,Bがこの地上に建築した建物を借地権付きでCに売却した場合,売却価格中の借地権相当分はBの有した借地権の譲渡による所得ということになるが,Aの行為はBへの借地権「設定」であって,当然に譲渡所得の対象となる借地権の「譲渡(移転)」となるものではないから,Aが取得する利用利益の対価たる地代は,法令に別段の定めがない限り,不動産所得に該当するものというほかない(この場合,Bが借地権を自己の資産に計上したとしても,Aにおいて資産譲渡による所得が生じているものではない。)。」
「本件各土地の資産の値上りにより長期間にわたって蓄積された利得の一部が一時的に実現したという側面があり,実質的には土地の元本価値の流出として譲渡所得と解すべきである旨の」納税者側の主張に対して「所得税法及び同施行令は,不動産所得と譲渡所得との実質論のみでは,両者の区分が困難であるところから,政令において具体的な判断基準を設けたものであり,そのような趣旨からすれば,建物の所有を目的として他人に土地を長期間使用させる行為であっても,政令で定める基準に該当しなければ,譲渡所得には該当しないというべきであって,当該基準により不動産所得に該当する場合に,更に実質論をもって譲渡所得の範囲を拡大することを予定するものではない。そして,本件地役権の設定は同施行令79条1項に列挙された一定の内容の地役権の設定には該当しないから,本件契約により取得される利益を譲渡所得と解することはできない。」
(譲渡について4.2.3.3.6版§222.01榎本家事件・最判昭和43年10月31日訟月14巻12号1442頁、6版§222.02名古屋医師財産分与事件・最判昭和50年5月27日民集29巻5号641頁も)

借家権は「資産」に当たるとした例として、建物明渡につき高安安寿事件・東京地判昭和51年2月17日訟月22巻3号791頁(東京高判昭和52年6月27日訟月23巻6号1202頁で維持)、混同により消滅した借家権の対価につき京都地判昭和56年7月17日訟月27巻11号2150頁(確定)。金子宏租税法24版270頁は借家権を資産に含めることに消極的。

旧法9条1項5号についてであるが譲渡所得の定義につき現行法33条1項但書に類似する規定が作られた昭和34年法律第79号・政令第85号による改正後の事案として大阪地判昭和44年1月28日判時570号40頁(大阪高判昭和45年4月6日税資59号586頁で維持)がある。

東京地判令和5年3月9日令和2(行ウ)323号一部訟月70巻11号1255頁判タ1528号159頁棄却、一部却下(武田涼子・ジュリスト1593号10頁、藤岡祐治・ジュリスト1597号重判令05年180頁)…フェラーリが所得税法38条2項柱書き「家屋その他使用又は期間の経過により減価する資産」に当たるとした事例。当たらない例としてストラディ・バリウスのバイオリンが挙げられることが多い。減価償却について所法49条、減価償却資産について所法2条1項19号、所令6条各号。為替差損益は雑所得に当たると判断した。国税庁は外国通貨が譲渡所得の基因となる「資産」に当たらないという立場を採っている(課個2-21課資3-10課審5-13令和4年10月7日「雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説」)。疑問として泉絢也「仮想通貨(暗号通貨、暗号資産)の譲渡による所得の譲渡所得該当性」税法学581号3-32頁(2019)。

有価証券が資産に当たらなくなる例 (原審東京地判平成27年3月12日訟月62巻7号1307頁)東京高判平成27年10月14日訟月62巻7号1296頁百選7版43(佐藤英明=樫野竜・TKC税研情報25巻4号122頁)
所税33条1「項の規定する譲渡所得の基因となる「資産」には,一般にその経済的価値が認められて取引の対象とされ,増加益が生じるような全ての資産が含まれるが,その一方で,上記の増加益を生じ得ないもの,すなわち,社会生活上もはや取引される可能性が全くないような無価値なものについては,同項の規定する譲渡所得の基因となる『資産』には当たらない」。「株式の経済的価値が自益権及び共益権を基礎とするものである以上,その譲渡の時点において,これらの権利が法的には消滅していなかったとしても,一般的に自益権及び共益権を現実に行使し得る余地を失っていた場合には,後にこれらの権利を現実に行使し得るようになる蓋然性があるなどの特段の事情が認められない限り,自益権や共益権を基礎とする株式としての経済的価値を喪失し,もはや,増加益を生ずるような性質を有する譲渡所得の基因となる「資産」には該当しない」。

無価値化株式の類例として紙くず損失控除否認事件千葉地判平成18年9月19日訟月54巻3号771頁(東京高判平成18年12月27日訟月54巻3号760頁で維持)(柴由花・ジュリスト1350号110頁)…「所得の処分」論(上述の東京高判平成27年10月14日では使えない論理)。

名古屋地判平成17年7月27日判タ1204号136頁(名古屋高判平成17年12月21日税資255号順号10249で維持)…預託金会員制ゴルフ会員権につき譲渡損失を否定

静岡地判平成25年5月10日税資263号順号12213棄却・東京高判平成25年10月10日不明税資263号順号12305棄却確定(細川健・租税訴訟17号149-172頁)……税理士業務の営業権譲渡の対価が譲渡所得でなく雑所得であるとされた事例。

二重利得法6版§222.04川之江市井地山造成地事件・松山地判平成3年4月18日訟月37巻12号2205頁百選7版42(高松高判平成6年3月15日税資200号1067頁で維持)
 判旨 宅地造成によって生じた利益の部分は事業所得(又は事業に当たらなければ雑所得)、その他の部分は譲渡所得。しかし、販売目的以外で長期間保有してから、宅地造成に取り掛かった場合、「その土地等の譲渡による所得には、右加工を加える前に潜在的に生じていた資産の価値の増加益に相当するものが相当部分含まれている。そこで、そのような場合には、右加工に着手するまでの資産の価値の部分に相当する所得を譲渡所得とし、その他の部分を事業所得または雑所得とするのが相当である。」
 「譲渡所得と事業所得とに区分すべき理由は、……臨時的、偶発的に発生する所得であるため、事業所得に比較して担税力の劣る譲渡所得とすべき部分が相当程度含まれており、これを事業所得として課税するのは税負担の公平を欠くからである」
 考察 本件で二重利得法の採否自体は争点となってない。まず事業所得該当部分(原告主張によれば宅地造成による増価部分)を算出して残額を譲渡所得とするか、本件のようにまず譲渡所得該当部分(長期譲渡所得は軽課される)を算出して残額を事業所得とするか、という、譲渡所得と事業所得との区分方法について、議論の余地が残る。判旨の通りであると、宅地造成後の地価高騰(土地バブルなど)部分も事業所得であるとされてしまう。

4.2.3.2. 課税方法

譲渡所得=総収入金額−取得費等−特別控除額(50万円)(所税33条3・4項)
総収入金額⇒6版§143.02相互売買事件・東京高判平成11年6月21日判時1685号33頁(⇒3.1.3.2.)。原則として売買価格。例外として、みなし譲渡(所税59条1項)適用時は譲渡資産の時価。
短期譲渡所得・所税33条3項1号、長期譲渡所得・同2号の区別……平準化措置(averaging system)の一種。
長期間だと束ね効果(bunching effect)もあるしインフレによる名目的利得(実質的な豊かさを伴わない数値上だけの利得)も多くなってしまうので救済する。[浅妻]尤も平準化措置としては粗すぎるので五分五乗方式等に改めるべきであろう。
最判昭和47年12月26日民集26巻10号2083頁百選7版41bqによれば長期割賦弁済の場合でも譲渡所得は一時に実現したものとして課税することが原則である。現在は所税132条延納を許可している。

4.2.3.3. 譲渡の意義

サンヨウメリヤス土地賃借事件・最判昭和45年10月23日民集24巻11号1617頁(⇒3.1.1.5.類推解釈)

札幌地判平成31年3月27日税資269号順号13259平成28(行ウ)31号(平川英子・ジュリスト1545号111頁2020.5、藤谷武史・重版令1年188頁)…被相続人Pの法定相続人はX(原告)及びQらであった。平成5年11月18日、PはXに遺産の全てを相続させる旨の公正証書遺言を作成した(Pの死亡年月日は不明)。Xは農地1〜農地8(「旧本件各農地」という)を相続した。Xは租税特別措置法(平成7年改正前)70条の6第1項に基づき「納税猶予の適用を受ける特例農地等の明細書」を添付し納税猶予額を4778万円と記載した申告書を平成6年12月9日に提出した。平成6年にXはQらから遺留分減殺請求(現在は遺留分侵害額の請求)を受けた。O税務署長は、Xの相続税額を4237万440円、猶予税額を4134万4800円とする更正処分をした。平成10年、農地3及び農地4に、牛舎等を建築する目的で転用許可(農地法4条)をし、T(Xの長男)所有名義の本件施設が建築された(「本件転用」という)(Xの持分は4636.875平米。4636.875÷6224.375=7.45%)。平成13年、XはQらと訴訟上の和解をした(「本件和解」という)。旧本件各土地のQらの共有持分と、農地9のXの共有持分とを交換した(「本件交換」という)。XはQらに本件交換の清算金を支払った。本件和解によりXからQらに8848.75平米(8848.75÷62224.375=14.22%)の農地が移転した(7.45%+14.22%>20%)。以上の事実の下、本件転用及び本件交換は租特70条の6第1項1号「譲渡等」に該当する。

金地金スワップ取引について、名古屋地判平成29年6月29日税資267号順号13028平成28(行ウ)78号は譲渡該当性を認め譲渡所得の発生を認めたが、控訴審名古屋高判平成29年12月14日税資267号順号13099平成29(行コ)74号は寄託(混蔵寄託)契約であると認め譲渡該当性を否定し原告の請求を認容した。

所基通33-2(譲渡担保に係る資産の移転) 債務者が、債務の弁済の担保としてその有する資産を譲渡した場合において、その契約書に次のすべての事項を明らかにしており、かつ、当該譲渡が債権担保のみを目的として形式的にされたものである旨の債務者及び債権者の連署に係る申立書を提出したときは、当該譲渡はなかったものとする。この場合において、その後その要件のいずれかを欠くに至ったとき又は債務不履行のためその弁済に充てられたときは、これらの事実の生じた時において譲渡があったものとする。
(1)当該担保に係る資産を債務者が従来どおり使用収益すること。
(2)通常支払うと認められる当該債務に係る利子又はこれに相当する使用料の支払に関する定めがあること。
(注)形式上、買戻条件付譲渡又は再売買の予約とされているものであっても、上記のような要件を具備しているものは、譲渡担保に該当する。


6版§222.02 名古屋医師財産分与事件最判昭和50年5月27日民集29巻5号641頁百選7版45nf
事実・争点 離婚→不動産がX(夫)からW(妻)に移転。この時譲渡所得課税があるか?
一審判決 慰謝料支払の趣旨だから課税。(慰藉料が正字。一審の慰籍料は誤字)
控訴理由 慰謝料といったのは誤解(錯誤)。財産分与であり譲渡所得は発生しない。(慰籍料の支払を受けても税金はかからないが財産分与として受ければ贈与税が課税されるかもしれないから本件土地、建物の譲渡も慰籍料としてくれ、とWの代理人が誤った理解に基づいて余計な事を言ったらしい。原則として財産分与に贈与税は課せられない。⇒相基通9-8)(余談:扶養と贈与税に関して相基通21の3-3〜21の3-6)
控訴審判決 慰謝料でも財産分与でも債務の履行であり、Xは債務からの解放という経済的利益を享受するので、譲渡所得は発生する。
上告理由 代物弁済にあたる部分につき譲渡所得が発生するのはともかく、財産分与に当たる部分につき譲渡所得は発生しない。「分与者がそのこと[財産分与]により何ら経済的利益を享受するものではない」 財産分与は「贈与契約の成立による無償での権利移転…と全く同一である」(後述の所税59条(みなし譲渡)は個人に対する贈与を適用範囲に含めていないことに留意)
最高裁判旨 「譲渡」概念について「所得税法33条1項にいう『資産の譲渡』とは、有償無償を問わず資産を移転させるいつさいの行為をいう」。
 「分与者は……分与義務の消滅という経済的利益を享受した」

考察 代物弁済の場合は譲渡所得が発生することについてX自ら容認している。
最高裁が、資産「移転」の「有償無償を問わ」ないと言っているのに、なぜ「経済的利益」という有償性に言及しているのか、論理の運びが判然としない憾みが残る。最高裁判決といえども人間が書く文章であるから仕方ない。で、結局「経済的利益」という有償性は必須か否か?必須ではないと解すべき。

学説(金子宏):「民法768条の財産分与」を区分…「夫婦共通財産の清算」「離婚による損害の賠償」「離婚後の扶養」
「夫婦共通財産の清算の意味で財産が分与された場合は、その実質は共有財産の分割であって、資産の譲渡には当たらないと解される。」 (慰謝料なら譲渡にあたる←一審・控訴審。なお本件の不動産はXW婚姻後に購入されたものであるが「Xの特有財産であった」とYは主張している。)
 例えばA・Bの共有であるがA単独名義の資産について、分割され、半分について名義がAからBに変わっても、法的実質においてAからBへの譲渡はない(移転はない)、と考えられる。所基通33-1の7(後掲)

 再反論(金子説批判):窪田充見・佐藤英明「財産分与と租税をめぐる問題」法学教室357号64頁……離婚実務では「夫婦共通財産の清算」「離婚による損害の賠償」「離婚後の扶養」それぞれの額をきちんと区別しない。(浅妻も離婚を経験したが率直に言って財産分与でごたごた争いたくないので早く終わらせたいという気持ちが勝る)ks
 再々反論:3つの趣旨をきちんと区別した離婚事例が存在すれば、「夫婦共通財産の清算」部分につき譲渡所得未実現として扱ってよいのではないか?
 再々々反論:最判平成7年1月24日税資208号3頁の原審東京高判平成6年6月15日税資201号519頁が「夫名義の資産形成に対する妻の貢献が顕在化するまでの間、妻が夫名義の財産に対しなんらかの潜在的な持分を有するとしても、それは未だ持分割合も定まっていない抽象的な権利というべきものであり(右資産形成の態様には種々様々なものがありうるし、夫婦の財産は通常複数のものから成るものであるから、それらのすべてについて一律に妻が二分の一の共有持分を有するとみることはできない。)、現実の財産分与手続がされて初めて具体的な権利として確定するものである。したがって、財産分与が単に右潜在的持分を顕在化させ、それを正式に帰属させるだけの手続とはいえないのであって、財産分与によって初めて夫名義の財産に対する妻の所有権又は共有持分が発生するといわざるを得ないから、そこに資産の譲渡と目される実質がある」(共有地の分割とは違うという論理)と判示しているので判例が金子説を採用する可能性はない。kt

Wにとっての資産の取得費と所基通38-6 (cf.金子説だと通達の通りになるか?)

cf.札幌高判平成24年1月19日訟月59巻4号1091頁(原審札幌地判平成23年5月16日訟月59巻4号1070頁)…離婚に伴う財産分与が民法768条3項の趣旨に反して不相当に過大であるとして、詐害行為取消(民法424条税通42条)の対象となるとした事例(西野敞雄・ジュリスト1464号132-135頁2014.3)([浅妻]国勝訴なれど、判決文の書きぶりは妻側に甘すぎるように感じる)。

所基通33-1の4(財産分与による資産の移転) 民法第768条《財産分与》……の規定による財産の分与として資産の移転があった場合には、その分与をした者は、その分与をした時においてその時の価額により当該資産を譲渡したこととなる。
(注) 1 財産分与による資産の移転は、財産分与義務の消滅という経済的利益を対価とする譲渡であり、贈与ではないから、法第59条第1項《みなし譲渡課税》の規定は適用されない。
2 財産分与により取得した資産の取得費については、38−6参照 [cf.分与土地一体譲渡事件]

所基通33-1の7(共有地の分割) 個人が他の者と土地を共有している場合において、その共有に係る一の土地についてその持分に応ずる現物分割があったときには、その分割による土地の譲渡はなかったものとして取り扱う。[(注)略]

所基通38-6(分与財産の取得費) 民法第768条《財産分与》……の規定による財産の分与により取得した財産は、その取得した者がその分与を受けた時においてその時の価額により取得したこととなることに留意する。

分与土地一体譲渡事件・東京地判平成3年2月28日行集42巻2号341頁確定百選4版44
事実 H(元夫)→X(元妻) 本件土地を財産分与として譲渡。Hの譲渡収入金額は約2.3億円(単独取引価格。別訴で確定)。ほどなくXは本件土地を甲土地と一体で約3.5億円で譲渡。Y税務署長は、Xの取得価額が約2.3億円であるとの前提で、差額約1.2億円の所得を増額する更正処分。隣接地と一体で取引された方が単独取引価格よりも高値がつく。
判決 請求認容(X勝訴)。「取得者は、財産分与請求権という経済的利益を消滅される代償として当該資産を取得したこととなる」。
 「X側でこれを甲土地と一体として利用あるいは処分することがその前提とされていたものと推認する」。
 「そもそも、ある時点における土地等の資産の客観的な価額というものは、鑑定等によって常に一義的に特定されるという性質を持つものではなく、ある程度の幅をもった範囲内の価額として観念されるべきものである」
考察 財産分与時の分与者(例えば夫)にとっての譲渡収入金額と受領者(例えば妻)にとっての取得費とが一致することが制度上想定されているとはいえ、課税処分は別々になされ訴訟手続きも別々になるため課税漏れも生じうる。本件では結果として約1.2億円の課税漏れが生じている。HとXで不整合的な課税がなされているが、整合性を保つ制度的裏付けはない。下手をすれば、二重課税も発生しうるが、現状では致し方ない(?)。
 ところで「X側でこれを甲土地と一体として利用あるいは処分することがその前提」という判示から本判決はHとXにとって本件土地の時価は一致する(幅を観念するにすぎない)という前提を採っているように読解できる一方で、最判令和2年3月24日集民263号63頁(⇒4.2.3.5.)は譲渡人と譲受人とで同一の資産の時価が異なりうることを前提としているように読解できる。

所基通33-6(借家人が受ける立退料) 借家人が賃貸借の目的とされている家屋の立退きに際し受けるいわゆる立退料のうち、借家権の消滅の対価の額に相当する部分の金額は、令第95条《譲渡所得の収入金額とされる補償金等》に規定する譲渡所得に係る収入金額に該当する。
(注) 上記に該当しない立退料については、34−1の(7)参照

所基通34-1(一時所得の例示) (7) 借家人が賃貸借の目的とされている家屋の立退きに際し受けるいわゆる立退料(その立退きに伴う業務の休止等により減少することとなる借家人の収入金額又は業務の休止期間中に使用人に支払う給与等借家人の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補填するための金額及び令第95条《譲渡所得の収入金額とされる補償金等》に規定する譲渡所得に係る収入金額に該当する部分の金額を除く。)
(注) 1 収入金額又は必要経費に算入される金額を補填するための金額は、その業務に係る各種所得の金額の計算上総収入金額に算入される。
 2 令第95条に規定する譲渡所得に係る収入金額に該当する立退料については、33−6参照

所税令95条(譲渡所得の収入金額とされる補償金等)「契約……に基づき、又は資産の消滅(価値の減少を含む。…)を伴う事業でその消滅に対する補償を約して行なうものの遂行により譲渡所得の基因となるべき資産が消滅をしたこと(借地権の設定その他当該資産について物権を設定し又は債権が成立することにより価値が減少したことを除く。)に伴い、その消滅につき一時に受ける補償金その他これに類するものの額は、譲渡所得に係る収入金額とする。」

4.2.3.4. 取得費等の範囲(所税33条3項・38条)

6版§222.05 支払利子付随費用判決最判平成4年7月14日民集46巻5号492頁百選7版46mt
事実・争点 3000万円借金して昭和46年4月16日に不動産購入。同年6月6日居住開始。昭和53・54年に譲渡。居住用不動産取得のための借入金利子が取得費に含まれるか、含まれるとしてどの範囲か?
一審判旨(東京地判昭和60年5月30日) 「使用価値を現に支配する目的のための借入金利子の支払は、資産の値上りとは何ら関連性を有しないから、譲渡所得の計算において費用として控除しえない」。
 「この分は、仮に資産の自らによる使用の利益(いわゆる帰属所得)に課税される制度がとられるとすれば、その所得についての費用として控除されることとなる」
二審判旨(東京高判昭和61年3月31日)gl 借入金利子も取得費に原則として含まれる。しかし、居住の用に供された時点以後、もしくは使用し得た時点以後、「資産の維持・管理という目的のための費用」へと性質が変化する、または使用「期間の帰属利益と等価と見なされる」。取得費に算入しない扱いは、帰属所得(⇒4.3.4.)が課税されないことと整合的である。
最高裁判旨 家事のための借入金利子と同視し「生活費ないし家事費にすぎない」ので取得費に含めないのが原則。
 しかし、居住の用に供する以前の期間であっても利子支払が余儀なくされるところ、「借入金の利子のうち、居住のため当該不動産の使用を開始するまでの期間に対応するものは、当該不動産をその取得に係る用途に供する上で必要な準備費用ということができ」、「当該不動産を取得するための付随費用に当たる」。

考察 結論としては、本件最高裁判旨も二審判旨も、居住前の期間に対応する利子は取得費に含まれ、居住後の期間に対応する利子は取得費に含まれないとする点において共通している(現実の使用に着目するか、使用可能性に着目するか、という差異はある)。しかし論理構成は異なり、原則と例外も逆転している。百選解説は最高裁判旨を批判し、二審判旨を高く評価している。
 なお、借入金利子は、家事のためであれ事業のためであれ、利子負担者の純資産減少をもたらす筈であると論ぜられる(増井良啓・法学教室365号123頁以下。なお、だからといって全て所得税法上控除を認めるべきということにはならない。非課税所得に対応する借入金利子の控除を認めると租税裁定取引(tax arbitrage)が可能となってしまうからである。やはり二審判旨の論理に近い)。
 使用開始前の期間に対応する利子が「付随費用」に当たるとする論拠が最高裁判旨で充分には論じられていないように見受けられるが、その点はそもそも争点となっていなかったとも考えられる。

所基通38-8(取得費等に算入する借入金の利子等)「固定資産の取得のために借り入れた資金の利子……のうち、その資金の借入れの日から当該固定資産の使用開始の日(当該固定資産の取得後、当該固定資産を使用しないで譲渡した場合においては、当該譲渡の日。……)までの期間に対応する部分の金額は、業務の用に供される資産に係るもので、37−27又は37−28により当該業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されたものを除き、当該固定資産の取得費又は取得価額に算入する。」[第2文及び(注)略]

時効取得の一時所得計上時期と取得費 東京地判平成4年3月10日訟月39巻1号139頁確定百選5版50
事実 Xが亡父Aから亡兄B名義の土地を1960年迄に贈与された。Xは1970年に取得時効を援用しBの相続人Cに所有権移転登記を求めて提訴した。X勝訴で1983年に確定した。Aの他の相続人DがXに遺留分減殺請求をし、XはDに1983年に代物弁済として本件土地を譲渡した。Xは1983年の譲渡所得の計算にあたり時効取得判決確定時の時価を取得費に算入しようとした。
判旨 「土地の時効取得による利得は、所得税法上、一時所得として所得税の課税の対象となり、その場合の収入金額は、当該土地の所有権取得時期である時効援用時の当該土地の価額であると解すべきである(同法36条1項、2項)。そうすると、当該土地の時効援用時までの値上り益は、右一時所得に係る収入金額として所得税の課税の対象とされることになるから、時効取得した土地を譲渡した場合のその譲渡所得に対する課税は右時効援用時以降の当該土地の値上り益に対して行われることになり、したがって、右譲渡所得の計算上、その取得費の額は、右一時所得に係る収入金額すなわち時効援用時の当該土地の価額によるべきこととなる。」

考察 民法144条の遡及効(尼崎市相続土地喪失事件・大阪高判平成14年7月25日訟月49巻5号1617頁(⇒3.1.2.4.))に照らすと時効援用時ではなく時効の起算日に一時所得が発生すると言えなくもないが、あまりに実態(not実体)からかけ離れているためか実務・裁判例で起算日説が採用されることはない。時効完成時という考え方はありえないではない(次段落)が、民法上、時効完成時に効力が発生するとは言い難いという難点がある。本判決の時効援用時説は、6版§225.01土地時効取得事件・静岡地判平成8年7月18日行集47巻7=8号632頁百選7版15(⇒4.2.9.一時所得)でも採用されているが、時効援用時説が妥当するのは時効取得について争いがない場合に限られるべきではないかとも考えられ、時効取得の成否について争いがある場合はXの主張の通り判決確定時を基準とすべきであろう。判決確定時説の方が6版§232.03仙台賃料増額請求事件・最判昭和53年2月24日民集32巻1号43頁(⇒4.4.3.管理支配基準)の原則論(判決の結論ではなく)とも整合的である。
 時効完成時説と相性が良い事例(?):国税不服審判所平成19年11月1日裁決・裁決事例集74集1頁(⇒3.1.2.4.)……取得時効完成後→相続開始→取得時効援用という時系列で、土地を相続した者が時効取得援用者に敗訴し土地を奪われたため、土地ありの前提の相続税の計算が誤りであると主張した。審判所は、停止条件説を維持し相続開始時点で土地が相続財産から除かれる事にはならないとしつつ、評価額を零とし、結果として納税者を救った。渋谷雅弘・税務事例研究120号54頁は評価額を零とする処理に疑問であるとし、納税者を救うなら相続財産から除くべきであると述べる。納税者を救う論理構成としては、[1]評価を減額する、[2]相続財産から除外する、[3]債務控除、といったものがあるが、何れも難点を抱える(だから納税者を救わないという結論を出してもよいかもしれないが酷であるし、状況次第では憲法29条1項の財産権保障に違反するかもしれない)。
 取得費について所税38条1項の文理に照らし無理はある上、譲渡益について課税漏れが生ずる恐れがあるが、そういった懸念よりも個人個人に着目した上での二重課税防止を重視したものと理解できる。この姿勢は、6版§222.06ゴルフ会員権贈与事件(右山事件)・最判平成17年2月1日集民216号279頁(⇒4.2.3.6.)、6版§211.04年金払い生命保険金二重課税事件・最判平成22年7月6日民集64巻5号1277頁(⇒4.2.10.)とも共通している。
 余談:拙著『ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか』は東京地判平成4年3月10日の取得費の考え方に対する疑問から出発している。

土地改良区決済金事件最判平成18年4月20日集民220号141頁nc
土地改良法に基づく決済金および施設の協力金等額の合計が、農地譲渡における譲渡費用に含まれるかに当たり「一般的、抽象的に当該資産を譲渡するために当該費用が必要であるかどうかによって判断するのではなく」「現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべき」とした事例。
 前者・後者とも「必要」という語を用いているが、控除可能性を、前者の「一般的・抽象的…必要」な費用だけ限定せず、後者のように「現実…の譲渡」にとっての必要性に着目した方が、事業所得に関する必要経費(37条1項)に関し通常の費用に限定されていないこととの均衡がとれる、と理解できようか。

4.2.3.5. 売買差額課税・清算課税・みなし譲渡(所59条)

所税59条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例[講学上みなし譲渡]という)「次に掲げる事由により居住者の有する山林……又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす
 一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
 二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)所税令169条:時価の半分未満]
2  居住者が前項に規定する資産を個人に対し同項第2号に規定する対価の額により譲渡した場合において、当該対価の額が当該資産の譲渡に係る山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上控除する必要経費又は取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額に満たないときは、その不足額は、その山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。」

所税60条(贈与等により取得した資産の取得費等)「居住者が次に掲げる事由により取得した前条第一項に規定する資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす
 一 贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)
 二 前条第二項の規定に該当する譲渡
[2・3項略…配偶者居住権関係]
4 居住者が前条第1項第1号に掲げる相続又は遺贈により取得した資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が当該資産をその取得の時における価額に相当する金額により取得したものとみなす。」

租特法39条(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)「相続又は遺贈……による財産の取得……をした個人で当該相続又は遺贈につき同法の規定による相続税額があるものが、……申告書……の提出期限……の翌日以後三年を経過する日までの間に当該相続税額に係る課税価格……の計算の基礎に算入された資産の譲渡……をした場合における譲渡所得に係る所得税法第三十三条第三項の規定の適用については、同項に規定する取得費は、当該取得費に相当する金額に当該相続税額のうち当該譲渡をした資産に対応する部分として政令で定めるところにより計算した金額を加算した金額とする。」[2項以下略]

清算課税説:6版§222.01 榎本家事件最判昭和43年10月31日訟月14巻12号1442頁百選3版60ng
事案は省略。無償贈与の場合にも譲渡所得課税あり。(売買差額課税という趣旨ではない)
判旨 「このような課税は、所有資産を時価で売却してその代金を贈与した場合などとの釣合いから」妥当。また無償・低額譲渡「にかこつけて資産の譲渡所得課税を回避」することを防止することからも妥当。

cf.タキゲン株式低額譲渡事件最判令和2年3月24日集民263号63頁br(⇒2.2.4.1.h通達の法源性、3.1.4.2.信義則の適用要件)(藤谷武史・ジュリスト1548号10-11頁、加藤友佳・重版令2年158-159頁、浅妻章如・ジュリスト1564号135-138頁)
 所得税法59条1項(みなし譲渡課税)の適用における非上場株式の評価に関し、所得税基本通達59−6に明記されていない財産評価基本通達の読替えを許容した事例。当時の通達を文言通り本件に当てはめると、譲受人側の持株比率が15%未満であるため株式が一株75円(配当還元方式による評価額。配当がない場合は75円)と評価されることになるが、最高裁は、所税59条1項が譲渡人の含み益に清算的に課税するための規定であることを重視して、譲渡人側の持株比率に着目せよとした。その後、差戻控訴審で一株2505円(類似業種比準方式による評価額)が認められた。
 宇賀克也・宮崎裕子補足意見は、通達を文字通り適用する姿勢を批判し、法源はあくまで法令であることを強調する。

コスモ建設株式会社事件・東京地判令和4年2月14日平成30(行ウ)359号364号(類例:小林通商株式会社事件・平成389号400号401号)……原告父が原告会社の株式を原告会社に1株1500円で譲渡したことは所得税法59条1項2号(所得税法施行令169条)の低額譲渡であり時価譲渡が擬制される、また、原告会社が原告会社の株式を原告長男(原告会社の代表取締役)に1株1500円で譲渡したことは、時価との差額分の所得税法28条1項「給与等」の支払に当たる、とされた事例。

無限の課税繰延を防止するため(←榎本家事件判旨)。
適用範囲縮減の傾向・経緯について6版§222.08浜名湖競艇場用地事件一審・静岡地判昭和60年3月14日行集36巻3号307頁(⇒4.2.3.6.)が詳しい。

限定承認時の法定納期限につき東京高判平成15年3月10日判時1861号1頁百選5版44(原審東京地判平成14年9月6日平13(行ウ)414号)……限定承認・みなし譲渡に関する被相続人の所得税の法定納期限は、限定承認の申述受理審判告知を家裁より受けてからではなく、相続人が被相続人の死亡を知った日から4ヶ月以内。

国等への贈与・遺贈と租特40条⇒COLUMN4-6・ロック・イン効果対策。
所税60条の2⇒8.2.1.2.f:国外転出時課税制度(諸外国ではexit tax(出国税)と呼ばれる)……資産含み益課税の機会がなくなる際に清算的に課税する。

4.2.3.6. 租税属性の引継ぎの有無(60条)

数値例について概説117-119頁(気合入れて書いたのでぜひ理解して!)([浅妻]厳密に考えると例5〜例7のBにとっての課税上の扱いの違いがA・B間の価格交渉に影響する可能性がある。二重課税という批判がある。しかし、父が賃金に課税された後の蓄財部分にも相続税は課されるので、二重課税は元々予定されている。課税後の蓄財について相続税を課すべきでない、という政策論は正当である可能性もあるが、包括的所得概念を考え直す必要があるkw。)

6版§222.06ゴルフ会員権贈与事件(右山事件)・最判平成17年2月1日集民216号279頁百選7版47gp
ゴルフ会員権の父から子への贈与に関し、名義書換手数料取得費算入を認めた事例。所税38条、60条の文言の解釈としては取得費算入を認めなかった原審の判断にも一理あるが、最高裁は60条の趣旨を「増加益に対する課税の繰延べ」と述べた。取得費算入を認めなかったら、増加益に対する課税の繰り延べという趣旨から導かれるよりも多額の譲渡益が生じてしまいかねない。

6版§222.08浜名湖競艇場用地事件最判昭和63年7月19日集民154号443頁百選7版44・原審東京高判昭和62年9月9日行集38巻8=9号987頁百選5版41・原々審静岡地判昭和60年3月14日行集36巻3号307頁(⇒3.1.2.3.借用概念の修正)nh
事実・争点 A→Xに土地共有持分を贈与。XはAの対第三者債務(AのCに対する債務)を弁済することを約す。Xは土地共有持分をBに譲渡し、Bから得た代金(合計約2.6億円)で、Aの対第三者債務(合計2600万円)を弁済。所税60条1項1号により、XはAの取得価額及び所有期間(長期譲渡所得となるかが問題となる)を引き継ぐか?
判旨 控訴棄却(請求棄却) 「課税時期の繰り延べが認められるためには、資産の譲渡があっても、その時期に譲渡所得課税がされない場合でなければならない」。
 本件は負担付贈与の事案であるが、59条2項・60条1項2号を除き「それ以外は、一般原則に従いその経済的利益に対して譲渡所得課税がされることになるのであるから、右の課税時期の繰り延べが認められない」。60条1項「1号の『贈与』とは、単純贈与と贈与者に経済的利益を生じない負担付贈与をいう」。

考察 「贈与」は民法からの借用概念であり対価関係がないものと位置付けられているが、本件では所得税法の趣旨・構造に即して修正された(「贈与」概念の縮小解釈)。統一説が通説であるが、統一説であっても、所得税法の規定の趣旨に照らして別意に解釈すべき場合は別論と説かれているので、本判決について学界であまり異論は見受けられない。
 Aが所有権を保持したまま、Bに売却して自ら債務を弁済し、残額をXに渡せば、Aが確実に長期譲渡所得の恩恵を受けることができるのに、なぜそうしなかったかは、考えてほしい。

東京地判令和3年10月12日令和元(行ウ)648号税資271号順号13617棄却・東京高判令和4年3月24日令和3(行コ)256号税資272号順号13692棄却確定(浅妻章如・ジュリスト1589号150-153頁)……租税判例研究会報告資料の方が図があって分かりやすいと思います。

4.2.3.7. 交換特例(58条)

所税58条(法税50条も同旨)(固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例)「居住者が、各年において、一年以上有していた固定資産で次の各号に掲げるものをそれぞれ他の者が一年以上有していた固定資産で当該各号に掲げるもの……と交換し、その交換により取得した当該各号に掲げる資産(……「取得資産」……)をその交換により譲渡した当該各号に掲げる資産(……「譲渡資産」……)の譲渡の直前の用途と同一の用途に供した場合には、第三十三条(譲渡所得)の規定の適用については、当該譲渡資産……の譲渡がなかつたものとみなす。」[一〜五号略、2項以下略]

交換は譲渡に含まれるが所定の同種固定資産同一用途交換時には譲渡がなかったものとみなす。gm
値上り益が実現(realize)したが非認識(non-recognition)とする⇒COLUMN4-6ロックイン効果対策
概120頁図表4-3 60条と58条の比較を理解して!

買換特例(租特37条)について……東京地判令和3年9月17日令和元(行ウ)486号訟月70巻3号344頁棄却(玉國文敏2022年7月1日租税判例研究会報告)・東京高判令和4年5月18日令和3(行コ)240号訟月70巻3号390頁棄却・最一小決令和4年10月27日税資272号順号13766不受理、確定
 事実 祖父Bが父Aに本件土地1等を昭和59年12月に贈与した。父は祖父の債務を引き受けた。父はCに本件土地1等を昭和62年7月に3億円(うち本件土地1は2億3400万円)で譲渡し、その買換資産として本件資産(建物。2憶3400万円)を取得し、租税特別措置法37条1項(「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」)の適用を前提に申告した。父は平成26年7月に本件資産を会社に譲渡した。
 税務署の主張 本件資産に租特37条1項の適用があり、租特37条の3第1項柱書にいう「[37条]の適用を受けた者……の買換資産」に該当し、37条の3第1項柱書及び同項3号により取得価額は引継価額である。[他の論点は省略]
 判旨 「租税特別措置法37条の3第1項柱書きは,『第37条第1項(括弧内略)の規定の適用を受けた者(括弧内略)』と定めているところ,一般に,『適用』との文言は,法令の規定を対象となる者,事項,事件等に対してあてはめ,これを働かせることを意味するものである。そして,同法37条の3第1項柱書きは,当該文言に続けて,それ『を受けた者』と定めており,それ『を受けることができる者で,その適用を受けたもの』などとは定めていない。このような文理等に照らすと,自ら同法37条1項の規定を当てはめて同項に規定する要件を満たすとする確定申告書を提出し,これを働かせて同項の規定の適用による課税の繰延べという効果を享受した者は,これに係る修正申告書の提出又は更正処分がされない限り,客観的にみて当該要件を満たしていたか否かにかかわらず,『第37条第1項(括弧内略)の規定の適用を受けた者(括弧内略)』に該当することになる」。
 課税庁が納税者の信義則違反(又は禁反言)を主張するという筋もあったかもしれない。

4.2.4. 山林所得(所税32条)

所税32条「山林所得とは、山林の伐採又は譲渡による所得をいう。
2 山林をその取得の日以後五年以内に伐採し又は譲渡することによる所得は、山林所得に含まれないものとする。」[3・4項略]

所税89条(税率)「居住者に対して課する所得税の額は、その年分の課税総所得金額又は課税退職所得金額をそれぞれ次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額を合計した金額と、その年分の課税山林所得金額の五分の一に相当する金額を同表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額を合計した金額に五を乗じて計算した金額との合計額とする。」[税率表・2項略]

所税90条(変動所得及び臨時所得の平均課税)「居住者のその年分の変動所得の金額及び臨時所得の金額の合計額……がその年分の総所得金額の百分の二十以上である場合には、その者のその年分の課税総所得金額に係る所得税の額は、次に掲げる金額の合計額とする。
 一 その年分の課税総所得金額に相当する金額から平均課税対象金額の五分の四に相当する金額を控除した金額……をその年分の課税総所得金額とみなして前条第一項の規定を適用して計算した税額
 二 その年分の課税総所得金額に相当する金額から調整所得金額を控除した金額に前号に掲げる金額の調整所得金額に対する割合を乗じて計算した金額」[2-4項略]

所税2条(1項二十三 変動所得 漁獲から生ずる所得、著作権の使用料に係る所得その他の所得で年年の変動の著しいもののうち政令で定めるものをいう。
 同二十四 臨時所得 役務の提供を約することにより一時に取得する契約金に係る所得その他の所得で臨時に発生するもののうち政令で定めるものをいう。

平準化措置としての山林所得の扱い――山林所得は総所得金額と別に計算され(22条)、五分五乗方式(所税89条1項)による。(後述の退職所得も平準化措置の一例)

変動所得・臨時所得の平均課税についてはケースブック6版§243.01と332頁の計算式を参照(学部生は分からなくてもよい)。
一定期間だけ高収入のスポーツ選手・芸能人等は所税89条、90条でうまく救済できない。救済しようと思うなら【生涯所得/生きている年数】に対し累進税率を適用するよう制度設計すべき。ところが、一見理想的に思えるこの提案について租税法学者の間ではあまり賛成が強くない。 cf. William Vickrey, Averaging of Income for Income-Tax Purposes, 47 Journal of Political Economy 379-397 (1939)

4.2.5. 不動産所得(所税26条)

6版§224.01不動産所得の意義 モーターショップ建物無償譲渡事件名古屋地判平成17年3月3日判タ1238号204頁平成16(行ウ)9号(青柳達朗・ジュリスト1341号192頁)……X氏所有土地の賃貸借契約の合意解約に際して賃借人からXに無償で土地上の建物が移転したことがXにとって不動産所得に当たるとの前提で課税処分がなされたが一時所得に当たるとされた事例。

航空機リース組合債務免除事件東京高判平成28年2月17日税資266号順号12800平成27(行コ)215号nw(原審東京地判平成27年5月21日平成24(行ウ)459号。小塚真啓・ジュリスト1452号8頁2013.4、小塚真啓「債務免除益の法的・経済的性質と所得分類」租税研究795号74頁、小柳誠「所得発生原因の法的性質と所得区分―東京高裁平成28年2月17日判決を素材として―」税大ジャーナル27号75頁、藤間大順「ノンリコース債務免除益の所得分類」青山社会科学紀要45巻1号59-85頁、吉村政穂・重判平28、212頁)
 Xらは民法上の組合を結成して航空機を購入し、これを航空会社に賃貸する事業を営んでいた。航空機を売却して事業を終了する際、[1]航空機の購入原資の一部となった借入金の一部に係る債務の免除を受けたことによる利益、及び[2]当該組合の業務執行者に対して支払うべき手数料に係る債務の免除を受けたことによる利益が発生した。航空機賃貸事業収入は不動産所得に係る収入金額であるから、債務免除益も不動産所得であると国(課税庁側)は主張した。他方、Xは、債務免除益は偶発性があるから一時所得であると主張した。一審、二審とも、一時所得であると判断した。

 東京地判平成30年4月19日判時2405号3頁確定では、不動産所得には不動産賃貸に付随する収入も含まれるとし、賃貸用不動産を購入するための借入に係る債務免除益は不動産所得に該当すると判断された。未だ、裁判所の判断は安定してないようである。

東京地判令和4年5月31日令和2(行ウ)224号税資272号順号13722(棄却)・東京高判令和5年1月25日令和4(行コ)180号(棄却、確定)……不動産所得の計算に際し消費税等の税抜経理方式を採用している場合、不動産の譲渡に係る消費税額は、必要経費に該当しない。

損益通算(所税69条1項)可能lj……6版§241.01岩手リゾートホテル事件・東京地判平成10年2月24日判タ1004号142頁確定(⇒4.6.3.損益通算)。
不動産所得の必要経費……5版§231.02(6版なし)賃貸用土地譲渡事件・大阪高判平成10年1月30日税資230号337頁
船舶リース・航空機リース等と呼ばれる積極的な租税回避の個別的否認規定として租特41条の4の2。(⇒6版§143.04パラツィーナ事件・最判平成18年1月24日民集60巻1号252頁はフィルムのリース)

6版§225.03航空機リース事業匿名組合事件最判平成27年6月12日民集69巻4号1121頁百選7版22kj(漆さき・ジュリスト1473号111頁)

    拠出金   航空機購入代金
   X―――――→A―――――――→D(航空機を運用)
匿名組合員    営業者   航空会社(航空機譲渡人兼賃借人)
      航空機所有者………………→航空機賃貸
            ←――――――航空機賃料支払
損益通算←……………赤字



事実・争点 匿名組合契約(商法535条1項「匿名組合契約は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。」)を締結する。A社はD航空会社から航空機を購入し、AがDに航空機を賃貸(リース(Lease))し、DはAに航空機賃料を支払う。Aは航空機所有者として多額の減価償却費を計上するため、航空機賃料を受け取っても赤字である。Aが赤字であるので、Xがその赤字を損益通算に利用しようとする。
 Xが匿名組合契約を通じてAから受ける利益分配の性質はAの事業の内容に依存し、本件ではAが航空機賃料を得るという事業をしているので、航空機賃料を得るという所得分類がXへと伝達される(パス・スルー(pass through)という)、とXは主張した。平成17年改正前通達も、原則として匿名組合契約を通じて受ける利益分配についてはパス・スルー扱いである(例外的に匿名組合員にとって雑所得となる)と規定していた。
 しかし平成17年通達改正後、原則として匿名組合員は出資して利益分配を得るにすぎない(匿名組合員が事業をしているわけではない)ので雑所得となる(例外的に、匿名組合員が営業者の事業に深く関与している場合はパス・スルー扱いとする)と通達は規定することとなった。つまり平成17年改正前後で、原則と例外が逆転した。国(課税庁側)は、新通達に依拠し、Xは雑所得を得ていたので、雑所得に係る赤字を損益通算に利用することはできない、と主張した。

判旨 「匿名組合契約に基づき匿名組合員が営業者から受ける利益の分配に係る所得区分は……匿名組合員が実質的に営業者と共同して事業を営む者としての地位を有するものと認められる場合には,営業者の営む事業の内容に従って判断されるべきものと解され,他方,匿名組合員がこのような地位を有するものと認められない場合には,営業者の営む事業の内容にかかわらず,匿名組合員にとってその所得が有する性質に従って判断されるべきものと解される。そして,後者の場合における所得は……営業者の営む事業への投資に対する一種の配当としての性質に鑑みると,その出資が匿名組合員自身の事業として行われているため事業所得となる場合を除き,所得税法23条から34条までに定める各所得のいずれにも該当しないものとして,同法35条1項に定める雑所得に該当する」。
 なお、旧通達を信じてしたXの申告について過少申告加算税を免れるべき「正当な理由」(通則65条4項)があるとしている。(⇒2.2.4.1.h通達と法源、COLUMN2-6加算税制度と租税法の実現過程、3.1.4.3.加算税における正当な理由、4.2.6.2.フリンジベネフィット)

東京地判平成30年1月23日税資268号順号13115(田中啓之・ジュリスト1558号131-134頁2021.5)…「原告が,本件宅地等分譲において果たした役割あるいは関与の程度に加え,原告が本件宅地等分譲の意思決定に関わり得る地位にあったことに鑑みれば,原告は,本件宅地等分譲に関して,実質的にイリタニと共同してその事業を営む者としての地位を有するものと認めるのが相当である。」「原告がイリタニから本件宅地等分譲により生じた利益の分配を受けることに係る所得区分は,イリタニの営む事業の内容に従って判断されるべきことになるところ,イリタニは不動産売買に関する事業等を目的とする株式会社であり,本件宅地等分譲はイリタニが目的とする事業そのものであることに照らせば,原告が本件宅地等分譲により生じた利益の分配を受けることに係る所得区分は事業所得に当たり,本件損失負担金は,原告の事業所得の必要経費になるというべきである。」……事業所得か否か(共同事業なのか、雑所得なのか)は、任意組合か匿名組合かという私法上の性質決定によって決まるのではなく、共同事業者組織性で決まるという点で、最判平成27年6月12日と親和的。
cf.田中啓之「パススルー課税の現状と未来」租税法研究51号『オープンイノベーション時代の企業課税』42-58頁

デラウェア州LPS事件(コメルツ証券事件)・最判平成27年7月17日民集69巻5号1253頁百選7版23 ly(⇒8.2.1.2.c)

    出資    不動産購入代金
  Xら―――――→A―――――――→中古集合住宅
Limited Partner General Partner
      不動産所有者………………→不動産賃貸
            ←――――――不動産賃料支払
損益通算←……………赤字



事実・争点 XらとA社(デラウェア州法準拠)がデラウェア州法リミテッド・パートナーシップ法に基づきA社をGeneral Partner(無限責任組合員。業務執行組合員であることが多い)としXら(正確にはXらと信託契約を締結している受託者たるB銀行であるが説明の便宜のためB銀行を省略する)をLimited Partner(有限責任組合員)とするパートナーシップ契約を締結しLPS(Delaware State, Limited Partnership)を組成した。LPSはアメリカで不動産(中古集合住宅)を購入し不動産賃貸業を営んだ。LPSが赤字であったので、XらはLPSが日本でいう組合に近いものであるとの理解に基づき、赤字の属性がLPSからXにパス・スルーされると主張した。
 他方、国(課税庁側)は、デラウェア州法に基づくLPSは日本から見て法人格を有するものとして扱われるから、LPSが赤字であってもLPSが解散する等しない限りXらは赤字を利用できない(あたかも、株式会社が赤字であっても株主が赤字を利用できないのと同様に)、と主張した。Xらは複数おり、東京地裁、名古屋地裁、大阪地裁で裁判となった。地裁・高裁で、当該LPSが法人であるという判断と法人ではないという判断とに分かれ、最高裁の結論が待たれた。

判旨 「外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かを判断するに当たっては、まず、より客観的かつ一義的な判定が可能である後者の観点として、[1]当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討することとなり、これができない場合には、次に、当該組織体の属性に係る前者の観点として、[2]当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり、具体的には、当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討する」。
 デラウェア「州LPS法の定め等に鑑みると、本件各LPSは、自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が本件各LPSに帰属するものということができるから、権利義務の帰属主体であると認められる。……そうすると、本件各LPSは、上記のとおり権利義務の帰属主体であると認められるのであるから、所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するものというべきであり、……本件各不動産賃貸事業は本件各LPSが行うものであり、……本件各不動産賃貸事業により生じた所得は、本件各LPSに帰属するものと認められ、本件出資者らの課税所得の範囲には含まれない」。

 LPSという名前がついていれば法人扱いされるというわけではない(上の結論や論理構成に対しても学説上は批判が多い)。英国領バミューダ(Bermuda)諸島法に基づくLPSについて東京スターホールディングス社事件・東京高判平成26年2月5日金判1450号10頁は法人ではないと判断し、最決平成27年7月17日税資265号順号12703上告不受理(理由は述べてない)で確定した。
 また、別件でデラウェア州LPSにつき法人でない扱いを認めるという文書を国税庁は後日(平成29年2月)ホームページで公開した。
 ニューヨーク州法に基づくLLC(Limited Liability Conmpany)については法人扱いするという先例が存在する。東京高判平成19年10月10日訟月54巻10号2516頁百選5版23lx

4.2.6. 給与所得(所税28条)

4.2.6.1. 定義

6版§223.01&224.02弁護士顧問料事件最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁百選7版38ni(⇒3.2.4.4.訴えの利益)
争点 弁護士が会社から得た顧問料は給与所得か事業所得か。
判旨 「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」
 「給与所得とは、雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうか」を重視。
 事業所得・給与所得の基準として引用される判例であり、暗記すべき判旨である。が、杓子定規にこの判断基準を当てはめてもうまくいかないこともある(後掲:京都弁護士会無料法律相談事件・大阪高判平成21年4月22日税資259号順号11185、6版§223.03通勤定期券課税事件・最判昭和37年8月10日民集16巻8号1749頁)。gq kx

§223.02大嶋別訴第一審京都地判昭和56年3月6日行集32巻3号342頁
大学教授の非常勤講師料は雑所得ではなく給与所得とした事例。
 [浅妻]率直に言って私が立教以外に出向くときに「他人の指揮監督…に服して」いるつもりはない。「自己の危険と計算によ」ってない点は事業所得性を否定するにとどまる。何が給与所得性を積極的に基礎づけるのか?
 余談:大学教授の講演料や論文の原稿料は雑所得である。学術振興会特別研究員は給与所得課税。

日フィル事件・最判昭和53年8月29日訟月24巻11号2430頁
楽団所属ヴァイオリニストの例。給与所得に当たるとされた(実額経費控除の可否。但し本件で実額経費控除をしようとするならば経費はヴァイオリン購入費ではなく減価償却費部分に限られることに留意)。

九州電力検針員事件・福岡高判昭和63年11月22日税資166号505頁
 検針作業の委託を受けていた原告が受け取る報酬は事業所得か給与所得か?
 判旨は「特に、(7)の委託手数料は……純粋な形の出来高制であって、労務提供の対価よりも委任ないし請負事務の報酬としての性格を持つ」等々の認定をし、結論としては事業所得とした。

りんご生産組合事件最判平成13年7月13日判時1763号195頁百選7版21gr
事実・争点 労務出資をした組合員が組合から得た所得が給与所得に該当するか?
 組合が事業を行う場合の組合員の所得は原則として事業所得。透明(transparent)(反対語はopaque)、パス・スルー(pass through)という。
 一審は給与所得扱いとしたが、 二審は事業所得扱いとした。組合員と組合が雇傭契約を締結できるはずがないからである。法律論として二審の考え方にも一理ある。
判旨 破棄自判 本件原告は組合員であるものの他の従業員と同様の雇傭類似の関係にあるという実態を重視し、給与所得に該当すると認定した。

考察 組合員が組合と契約を締結することはありうるか?……控訴審判決はありえないと考えている。最高裁はありうると考えているかのように一見思われるが、雇用類似の事実状況があることを根拠としており、「組合と組合員との間に矛盾した法律関係の成立を認めることになるものでもない」という言い回しはするが、何らかの契約という法律関係の成立を積極的に認める言い方は慎重に避けている。
 類題 組合員が組合と土地の売買【契約】を締結したとの前提で組合員の土地譲渡益につき譲渡所得が生じたとして課税してよいか?
[浅妻]最高裁判旨から読み取るのは難しいが、所得の性質決定においては売買契約類似の事実状況を根拠として判断していくというのが最高裁の考え方であろうか。尤も、本件判旨は給与所得のみについてのものであり、給与所得に関してのみ労務の対価という性質を重視するという立論も考えられるので、事業所得・譲渡所得等の性質決定についても同様に判断するとは言い切れない。ky

京都弁護士会無料法律相談事件大阪高判平成21年4月22日税資259号順号11185
 弁護士会法律相談センターの行なう無料法律相談業務(京都市が依頼)に弁護士が従事して得た対価について、空間的、時間的な拘束の下で労務を提供したことの対価であるから給与所得に該当する、との主張が斥けられ、事業所得であると判断された。判決の結論についてあまり批判は多くないように見受けられるものの、判決が出る前にこの事案が試験に出されたら、弁護士顧問料事件・最判昭和56年4月24日の判断基準を勉強した学生の少なからずが給与所得であるという答案を書いたであろう。
 なぜ事業所得という結論であるのか。弁護士は弁護士会を通じて法律相談を引き受けているという弁護士会自治が主要因となっており(ただし例外としてりんご生産組合事件・最判平成13年7月13日参照)、個々の弁護士が法律相談業務に従事する瞬間を見ても分からないのである。

ワイズ事件・東京地判令和2年9月1日平成30(行ウ)268号(木村弘之亮・ジュリスト1568号134-137頁2022.3)
 6版§141.01ホステス報酬計算期間事件・最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁(⇒3.1.1.3.)ではホステス報酬が事業所得であることが暗黙の前提であったが、本件ではキャバクラのキャスト報酬が給与所得に該当すると判断した事例。所得税法だけでなく、消費税法上の仕入税額控除の可否と絡んで、給与所得か否かの裁判がここのところ増えている。もっとも、令和4年10月からインボイス制度が施行されると、仕入税額控除の可否と給与所得か否かの認定とは連動しないので、この種の裁判は減るであろう。
 cf.社会福祉法人ゆたか福祉会事件・名古屋地判令和6年7月18日令和4(行ウ)67号棄却……生産活動従事者に支払った工賃の消費税法上の課税仕入れ該当性(消極)(田中啓之租税判例研究会2025年2月7日報告)(倉見智亮・新・判例解説Watch租税法No.191)

医師洋画事件・横浜地判令和3年3月24日税資271号順号13545・東京高判令和3年11月17日税資271号順号13631・最一小決令和4年4月21日税資272号順号13708……医師の洋画等制作販売業所得が事業所得ではなく雑所得であるとされた事例。

力士については通達がある(昭34.3.11直所5-4)。プロ野球選手等について規定を見たことはない。

課税時期……会社が従業員のために年金掛金等に拠出した場合、特則(確定給付企業年金規約等に関する所税令64条:所定の要件の下、拠出時非課税)の要件を満たさなければ、原則として拠出時に従業員の給与所得に含まれて課税される。従業員がそのお金を自由に使えるわけでもないのに従業員の課税所得に含まれることについて釈然としない者もいるかもしれない。しかし貯蓄と同様であり、拠出時に課税せず年金等受給時に課税するということは課税繰延を認めるということであるから、包括的所得概念の見地からすれば原則として課税繰延を認める訳にはいかない(所税令64条によって課税繰延を認めることは恩恵的措置という位置付け)。

4.2.6.2. フリンジ・ベネフィット(fringe benefit)

§223.03 通勤定期券課税事件最判昭和37年8月10日民集16巻8号1749頁nj
争点 通勤費用が支給された場合の所得税法上の扱いについて。
判旨 勤労者が使用者から通勤費用の支給を受けたとき、給与所得を構成する。通勤費用手当てを受けていない勤労者との公平を図る。
Cf.通勤手当は§223.01弁護士顧問料でいう「労務の対価」に当たるか?
 疑問:公平だけが理由であるとすると【通勤手当を受けていない勤労者の通勤費用の所得控除を認めよ。通勤手当を受けている場合は非課税とせよ】という主張に対抗できないのでは?
 → 通勤費用は原則消費であるという判断(家賃との比較)が前提。(cf. William Klein, Income Taxation and Commuting Expenses: Tax Policy and the Need for Nonsimplistic Analysis of “Simple” Problems. 54 Cornell Law Rev. 871-896 (1968))
 非課税規定・所税9条1項5号(通勤手当)は創設規定という位置付けになる(具体的には所税令20条の2(非課税とされる通勤手当)、所基通9-6の3。また単身赴任に関し所税57条の2第2項5号の特定支出控除も参照)。尤も、通勤費等の必要経費算入の可否は国によって異なる。弁護士等の事業所得稼得者が自宅と事務所を往復するための通勤費用は控除できる(創設規定であるはずの所税9条1項5号に引っ張られている)というのが日本での扱いであるらしいが、アメリカでは控除できないとされている。

使用者の便宜」理論(「事業主都合給付」)
所税9条1項6号「給与所得を有する者がその使用者から受ける金銭以外の物(経済的な利益を含む。)でその職務の性質上欠くことのできないものとして政令で定めるもの」
所税令21条(非課税とされる職務上必要な給付)「法第9条第1項第6号(非課税所得)に規定する政令で定めるものは、次に掲げるものとする。
一 船員法第八十条第一項(食料の支給)の規定により支給される食料その他法令の規定により無料で支給される食料
二 給与所得を有する者でその職務の性質上制服を着用すべき者がその使用者から支給される制服その他の身回品
三 前号に規定する者がその使用者から同号に規定する制服その他の身回品の貸与を受けることによる利益
四 国家公務員宿舎法……第十二条(無料宿舎)の規定により無料で宿舎の貸与を受けることによる利益その他給与所得を有する者でその職務の遂行上やむを得ない必要に基づき使用者から指定された場所に居住すべきものがその指定する場所に居住するために家屋の貸与を受けることによる利益」

 事業主都合給付理論に対する反論……課税の公平を図るにあたり受け手個々の効用は基準ではなく市場価格が基準となる筈である(⇒4.3.4.帰属所得)。
 再反論……帰属所得の場面は納税者自身に選択の自由があることが多い。他方、事業主都合給付の場合、いわば強制された消費であって、市場価格に相当する便益を受けてない場面が類型的に多いと想定できる。([浅妻]そうはいってもGoogleとかFacebookkvとかのフリンジ・ベネフィットはめちゃめちゃ充実しているらしい)

レクリエーションとしての社員旅行等……社会通念で線引き(所基通36-30)。
ハワイ5泊6日旅行を課税対象とした例…岡山地判昭和54年7月18日行集30巻7号1315頁確定
香港2泊3日旅行を課税対象としなかった例…大阪高判昭和63年3月31日判タ675号147頁(原審京都地判昭和61年8月8日行集37巻7・8号1020頁)
その後個別通達昭63.5.25直所3-13。([発展]この通達によって得するのは誰か?…税制優遇便益の帰着)

社宅――家賃が不相当に低ければ課税対象となる(所基通36-40以下)。
公務員にも課税すべき、という意見や、自分の住みたい所に住めない状況では市場価格と実際に支払う家賃との差額が従業員の便益となっていない、という意見について、上記事業主都合給付の議論を参照。

オフィス環境(快適な空調等)――自宅で空調等を利用している者との対比。(cf.寄宿舎の電気料等:所基通36-26)
フリンジ・ベネフィットは課税の公平の問題を惹起するものの、社会通念・些少・執行の困難等が理由とされて課税されないものも多い。所税57条の2の特定支出も参照。

ストック・オプション最判平成17年1月25日民集59巻1号64頁百選7版39bs(所税令84条参照gs)
日本子会社(B社)勤務の役員Xがアメリカ親会社(A社)からA社のストックオプションを付与された。ストックオプションの権利行使益は一時所得給与所得か?(勤務先からの便益でないので学説では雑所得説も有力であったが、争われていない)。
最高裁は、一時所得ではなく給与所得であるとした。

信義則の問題……旧通達では一時所得として扱っていたのに平成10年通達改正以降給与所得扱いに切り替えた……通達改正前の年度についても一時所得として申告された分について遡及して給与所得であるとして更正処分をしている。最高裁はその点について何も触れてない(信義則の問題があるとも述べていない)。6版§130.01パチンコ球遊器事件・最判昭和33年3月28日民集12巻4号624頁では通達改正前の年度に遡及して課税することは控えていたことと対照的。([浅妻]しかし通達は立法ではなく解釈にすぎないのであるから、信義則やその他特段の事情なき限り、遡及して構わないどころか遡及すべきであろう。)

加算税についてストック・オプション加算税事件最判平成18年10月24日民集60巻8号3128頁(⇒COLUMN2-63.1.4.3.信義則)は税通65条4項(現5項1号)の「正当な理由」を肯認(⇒2.2.4.1.)(6版§225.03航空機リース事業匿名組合事件・最判平成27年6月12日民集69巻4号1121頁)
余力がある人は、加算税の「正当な理由」の存否の限界事例として、最判平成18年4月20日民集60巻4号1611頁百選7版101(納税者に内緒で税理士が勝手に脱税を試みた例。「正当な理由」なし)、最判平成18年4月25日民集60巻4号1728頁百選7版100(納税者に内緒で税理士が税務職員と共謀して脱税を試みた例。「正当な理由」あり)を読み比べてほしい。「正当な理由」が認められる場面はかなり限られていることが分かる。

フリンジ・ベネフィットというと金銭以外の給付が念頭に置かれがちであったが、佐藤英明「使用者から与えられる報奨金等が給与所得とされる範囲」税務事例研究61号21頁kzが金銭給付の給与所得該当性についても問題提起した。
[1]B社陸上部員のAが金メダル獲得。100万円の報奨金……これは給与所得か他の所得か?陸上部員の労務の対価なのか別の経済的利得なのか?

[2]職務発明(特許法35条)の対価としての報償金1000万円(特許を受ける権利の原始帰属は発明者個人であった)は給与所得か、譲渡所得か、別の所得か?職務著作(著作権法15条)(例えば、新聞社に雇用されている新聞記者の記事)の著作権は相当の対価なくして法人(例えば新聞社)に帰属し、従業員(例えば新聞記者)の受ける金員は原則として給与所得とされることと、均衡を図るべきか?なお、職務発明と職務著作とで権利の帰属が異なることが必然であるとは言えないし、比較法的にも職務発明と職務著作との違いは当然視されていないし、日本でも平成27年特許法改正後は特許を受ける権利が使用者に原始帰属するような勤務規則が認められることとなった。

所基通23〜35共-1(使用人等の発明等に係る報償金等)「(1)業務上有益な発明、考案又は創作をした者が当該発明、考案又は創作に係る特許を受ける権利、実用新案登録を受ける権利若しくは意匠登録を受ける権利又は特許権、実用新案権若しくは意匠権を使用者に承継させたことにより支払を受けるもの……これらの権利の承継に際し一時に支払を受けるものは譲渡所得、これらの権利を承継させた後において支払を受けるものは雑所得」[(2)以下略]

4.2.6.3. 捕捉率と給与所得控除(所税28条3項)

所税28条(給与所得)「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与……に係る所得をいう。
2 給与所得の金額は、その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とする。
3 前項に規定する給与所得控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
 一 前項に規定する収入金額が180万円以下である場合 当該収入金額の百分の四十に相当する金額から十万円を控除した残額(当該残額が55万円に満たない場合には、55万円)
 二 前項に規定する収入金額が180万円を超え360万円以下である場合 62万円と当該収入金額から180万円を控除した金額の百分の三十に相当する金額との合計額
 三 前項に規定する収入金額が360万円を超え660万円以下である場合 116万円と当該収入金額から360万円を控除した金額の百分の二十に相当する金額との合計額
 四 前項に規定する収入金額が660万円を超え850万円以下である場合 176万円と当該収入金額から660万円を控除した金額の百分の十に相当する金額との合計額
 五 前項に規定する収入金額が850万円を超える場合 195万円
4 その年中の給与等の収入金額が660万円未満である場合には、当該給与等に係る給与所得の金額は、前二項の規定にかかわらず、当該収入金額を別表第五の給与等の金額として、同表により当該金額に応じて求めた同表の給与所得控除後の給与等の金額に相当する金額とする。」

(以下の例の計算において別表第五は無視する。別表第五に拠っても計算結果は同じであるが)
例:給与収入130万→給与所得控除額(130×40%=52)<55(万)|給与所得130−55=75(万)
例:給与収入500万→給与所得控除額116+140×20%=144(万)|給与所得:500−144=356(万)
令和2年1月から給与所得控除が10万円減り、基礎控除が10万円増えた。但し子育て世帯については給与所得控除の上限は210万円(給与収入1000万円に対応)になる。また、基礎控除が10万円増えると述べたが、子育て世帯以外の場合、給与収入850万円超の者は基礎控除が逓減していく。)

クロヨン(所得の捕捉率)については6版§121.01大嶋訴訟も参照。
クロヨン……サラリーマン9割、自営業者6割、農家4割 または
トーゴーサンピン……サラリーマン10割、自営業者5割、農家3割、政治家1割
(統計的に正確であるか定かでないし正確に申告している自営業者等からは反発がある)

所税57条の2(給与所得者の特定支出の控除の特例[限定列挙]) 居住者が、各年において特定支出をした場合において、その年中の特定支出の額の合計額が第二十八条第二項(給与所得)に規定する給与所得控除額の二分の一に相当する金額を超えるときは、その年分の同項に規定する給与所得の金額は、同項及び同条第四項の規定にかかわらず、同条第二項の残額からその超える部分の金額を控除した金額とする。
2 前項に規定する特定支出とは、居住者の次に掲げる支出(その支出につきその者に係る第二十八条第一項に規定する給与等の支払をする者(以下この項において「給与等の支払者」という。)により補填される部分があり、かつ、その補填される部分につき所得税が課されない場合における当該補填される部分及びその支出につき雇用保険法(昭和四十九年法律第百十六号)第十条第五項(失業等給付)に規定する教育訓練給付金、母子及び父子並びに寡婦福祉法(昭和三十九年法律第百二十九号)第三十一条第一号(母子家庭自立支援給付金)に規定する母子家庭自立支援教育訓練給付金又は同法第三十一条の十(父子家庭自立支援給付金)において準用する同号に規定する父子家庭自立支援教育訓練給付金が支給される部分がある場合における当該支給される部分を除く。)をいう。
 一 その者の通勤のために必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のための支出で、その通勤の経路及び方法がその者の通勤に係る運賃、時間、距離その他の事情に照らして最も経済的かつ合理的であることにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもののうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定める支出
 二 勤務する場所を離れて職務を遂行するために直接必要な旅行であることにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたものに通常要する支出で政令で定めるもの
 三 転任に伴うものであることにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされた転居のために通常必要であると認められる支出として政令で定めるもの
 四 職務の遂行に直接必要な技術又は知識を習得することを目的として受講する研修(人の資格を取得するためのものを除く。)であることにつき、財務省令で定めるところにより、給与等の支払者により証明がされたもののための支出又はキャリアコンサルタント(職業能力開発促進法第三十条の三(業務)に規定するキャリアコンサルタントをいう。次号において同じ。)により証明がされたもののための支出(教育訓練(雇用保険法第六十条の二第一項(教育訓練給付金)に規定する教育訓練をいう。同号において同じ。)に係る部分に限る。)
 五 人の資格を取得するための支出で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして、財務省令で定めるところにより、給与等の支払者により証明がされたもの又はキャリアコンサルタントにより証明がされたもの(教育訓練に係る部分に限る。)
 六 転任に伴い生計を一にする配偶者との別居を常況とすることとなつた場合その他これに類する場合として政令で定める場合に該当することにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされた場合におけるその者の勤務する場所又は居所とその配偶者その他の親族が居住する場所との間のその者の旅行に通常要する支出で政令で定めるもの
 七 次に掲げる支出(当該支出の額の合計額が六十五万円を超える場合には、六十五万円までの支出に限る。)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもの
  イ 書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものとして政令で定めるもの及び制服、事務服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服で政令で定めるものを購入するための支出
  ロ 交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出[3項以下略]
特定支出に含められないものであっても仮に実額経費が給与所得控除を上回る事例があったとしたら違憲か?(6版§121.01大嶋訴訟でも日フィル事件でも上回ることの主張が成功していないことに留意)

麻酔科医事件・東京地判平成24年9月21日税資262号順号12043平成23(行ウ)127号で事業所得から280万円の人件費を控除してほしいと納税者が主張していたが結論は給与所得であるので控除は認められなかった。また、280万円を妻に支払った事例であるので、給与所得に関し違憲の問題が生じ得るとはいえ、別途、所税56条(家族費用控除否認)、57条(専従者控除)との関係をも考えなければならない(⇒4.5.2.)。

§223.04 税制調査会わが国税制の現状と課題―21世紀に向けた国民の参加と選択―98-101頁(2000.7)
§111.01大嶋訴訟の一審京都地判昭和49年5月30日行集25巻5号548頁は給与所得控除の趣旨として次の4つの趣旨を掲げる。
[1]必要経費の概算控除……もっとも税制調査会答申なども述べる通り、必要経費の観点のみからならば、給与所得控除が甘すぎることは統計的に議論の余地なし。
[2]担税力の調整……同額の給与とその他の所得(配当等)との比較
[3]捕捉率の格差の調整……前述のクロヨン等
[4]金利調整……源泉徴収により自営業者より早く徴税されてしまう

他方6版§121.01大嶋訴訟の最高裁は、必要経費の概算控除のみしか挙げてない。

訴訟での争われ方……給与所得と主張する場合は給与所得控除の方が実額経費控除より有利な場面であることが多く、事業所得と主張する場合は逆。
COLUMN4-2 人的資本(human capital):労働と余暇との選択に対する非中立性
導入 所得税が労働の意欲を削ぐと言われるが本当か?
   課税されれば貧しくなって一層働かなければならなくなるのではないか?

代替効果(substitution effect):価格の相対的変化により、同じ効用を得るための財の選択が変化する。
 (例:メロンがりんごと比較して相対的に高くなれば、人はりんごを以前より多く買うようになる)
所得効果(income effect):資源が増加又は減少することにより、財の選択が変化すること。
 (例:贈与を受けた人が、りんごよりも奢侈品であるメロンを以前よりも多く買うようになる)
 (余談:奢侈品とは、所得が1%増えた時に消費量が1%超増えるもの(需要の所得弾力性が1より大きいもの)をいう。所得が1%増えた時に消費量が1%未満しか増えないもの(需要の所得弾力性が1より小さいもの)を必需品という。)

前提:人は時間を労働か余暇に充てる。(フルタイム労働者にそんな選択はできないと思われるであろうが、家計内第二労働者(兼業主婦/夫)の労働時間は弾力的に変化する)(学者の労働と余暇の区別は?)
労働によって得た賃金には課税がなされる一方、余暇によって得た効用には課税されない
○課税により余暇と対比して労働(による金銭)の相対的な魅力が減ずる。→労働時間減少(代替効果)
○課税により貧しくなり、生きていくためには金銭が必要。→労働時間増加(所得効果)

代替効果と所得効果とが相殺しあって労働時間が変化しない場合でも、現実の労働時間が変化していないからといって、人々の行動に歪みが生じてない(市場に非効率が生じていない)、ということにはならない
効率性の観点からは、代替効果による行動の歪みのみが意味を持つ。経済学者が効率性の議論をするときは、所得効果が補償された状態を仮想して代替効果についての議論をすることが多い。

お金(を使う消費)が好きなA…日給1万円の仕事を週6日する。所得6万円に課税。
遊ぶのが好きなB…日給1万円の仕事を週2日する。所得2万円に課税。…所得税は怠け者優遇(お金好きを冷遇)。
 注意:ここでは一週間の間で働く日と余暇の日とを選択する、という枠組みで説明しているが、一日の中で何時間働くかという枠組みでも、一年の中で何日働くかという枠組みでも、説明可能。

中立性(効率性)の観点からAとBとを中立的に扱うには、実際に幾ら稼いだかではなく、幾ら稼ぐ可能性があるかに着目して課税するべきである、ということになる。ABとも週の収入7万円と擬制する(税率は少し下げる)など。
 発展:消費税は遊び人・怠け者を優遇する効果を持つか。お金のかかる消費(例えば食事)とかからない消費(例えば妄想に耽るなど)とを区別してみた上で、考察せよ。

Cは週休2日で年間1000万円稼ぐ。
Dは週休4日で年間1000万円稼ぐ。
現実には、CとDは同じ税負担を負うことになる。余暇を優遇する意図がなければ、Dに対してCよりも重い税負担を課すべきである。以上の説明は労働と余暇との間の中立性(効率性)についてのものであるが、公平の観点からも、CよりDに重く課税すべきとされよう(執行の困難という観点を除けば)。

但し幾ら稼ぐ可能性があるかを基準にすることには、自由主義の観点から疑義が呈される。gu
――有名大学卒業のEは、一流企業(年収2000万円)の内定を断り、劇団に入った。アルバイトで食いつなぐ日々であり年収は200万円。課税標準は2000万円であるべきか200万円であるべきか?cf. 憲法22条:職業選択の自由([浅妻]仮にそういう税制があったとしても日本の裁判所は違憲と言わないだろうと推測するが、人によって意見が異なりうる)

人的資本……労働者の生産性に資する労働者自身の知識・技術等の人的属性のこと。(cf.中里実「human capitalと租税法〜研究ノート〜(上下)」ジュリスト956号104頁、961号215頁)
人を機械に準えると、機械への投資と人の教育・訓練という投資は、ともに生産性に寄与する。
人々が大学に行く際、学費等だけでなく、4年間働いていれば得られたであろう賃金も犠牲にしていると言われる(機会費用の考え方)。それだけのコストをかけてでも人的資本を高める(将来の高賃金)狙いがある。(シグナリング(signaling)の意味しかないという人もいる。[浅妻]大学入試終了直後に青田買いする企業が多ければシグナリング重視といえる。青田買いが少なければ人的資本育成への期待もあろう。)

才能も人的資本の一つといえる。スポーツ選手やモデルなどが挙げられる(練習・化粧等の投資もあるが)。
 投資(教育・練習・化粧・整形等)の結果得られる所得に課税すれば、投資に負の誘因が働く。
 才能(運動能力・美貌等)の結果得られる所得に課税しても、人々の行動が歪められない(効率的)。
envy(妬み・僻み)――投資の結果に対しても才能の結果に対しても、貧者は同様に妬み・僻みを持つかもしれない。前者への妬みによる課税は人々の行動を歪める一方、後者への妬みによる課税は人々の行動を歪めない。スーパースターgtの所得に妬みを抱いて課税するのはおかしい、とは言い切れない。

運動能力や美貌は、通常の収益を超える超過利潤(rentという)をもたらすものと考えられる。
rent taxの考え方……年収1億円のモデルに9400万円の税を課したとしても、そのモデルが別の仕事をして得られる税引後所得が500万円ならば、そのモデルはモデルを辞めない。即ち死荷重(deadweight loss)がなく効率性を害さない。

cf.総評サラリーマン税金訴訟最判平成元年2月7日訟月35巻6号1029頁百選5版9における、「給与所得者の生計費は労働力の再生産のための必要経費として控除されるべき」・「最低生活費は非課税とすべき」といった原告の主張(但し敗訴)について、[浅妻]医療や食費に担税力がないという通念は、人的資本概念で或る程度説明可能であろう。

人的資本概念を考慮に入れて投資・消費の区別を考えるとどうなるか。
〇教育:人的資本への投資であり、教育費(勉学のための書籍費も同様)を経費として控除するか、資産計上した後減価償却すべし。
 〔現行法:基本的に教育費も消費であり控除不可。但し、学資金で給与の性質を有さないものが課税対象から外されている。所税9条1項15号「学資に充てるため給付される金品(給与その他対価の性質を有するもの(給与所得を有する者がその使用者から受けるものにあつては、通常の給与に加算して受けるものであつて、次に掲げる場合に該当するもの以外のものを除く。)を除く。)及び扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品」[イロハニ略]、所基通9-14〜9-16参照〕

〇医療:人的資本の補修であり、機械の修繕費と同様に、所得から控除すべし。
 〔現行法:基本的に消費。ただし恩恵的に所税73条:医療費控除が認められる(⇒COLUMN4-4保険金・損害賠償金の非課税)〕

〇食事:生命維持部分は投資であり、所得から控除すべし。悦楽部分は消費であり、所得から控除しない。
 〔現行法:基本的にどちらも消費であり控除不可。但し所税9条1項6号、所税令21条1号は船員の食料を非課税としている。〕

[浅妻]人的資本概念は人々(人的資本という概念を知らなくても)の租税公平感に影響していると思われる。しかし人的資本概念を税制にまともに組み込もうとすると、課税ベースが今よりも格段に狭くなる恐れがある。人的資本概念は理論としては大変重要な概念かもしれないが、制度に組み込むには実際上の障害が大きい。

4.2.7. 退職所得(所税30条)

所税30条(退職所得)「退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与……に係る所得をいう。
2 退職所得の金額は、その年中の退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額の二分の一に相当する金額(当該退職手当等が、短期退職手当等である場合には次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とし、特定役員退職手当等である場合には当該退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額に相当する金額とする。)とする。
 一 当該退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額が三百万円以下である場合 当該残額の二分の一に相当する金額
 二 前号に掲げる場合以外の場合 百五十万円と当該退職手当等の収入金額から三百万円に退職所得控除額を加算した金額を控除した残額との合計額
3 前項に規定する退職所得控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
 一 政令で定める勤続年数……が二十年以下である場合 四十万円に当該勤続年数を乗じて計算した金額
 二 勤続年数が二十年を超える場合 八百万円と七十万円に当該勤続年数から二十年を控除した年数を乗じて計算した金額との合計額
4 第二項に規定する短期退職手当等とは、退職手当等のうち、退職手当等の支払をする者から短期勤続年数(前項第一号に規定する勤続年数のうち、次項に規定する役員等以外の者としての政令で定める勤続年数が五年以下であるものをいう。第七項において同じ。)に対応する退職手当等として支払を受けるものであつて、次項に規定する特定役員退職手当等に該当しないものをいう。
5 第二項に規定する特定役員退職手当等とは、退職手当等のうち、役員等……としての政令で定める勤続年数……が五年以下である者が、退職手当等の支払をする者から当該役員等勤続年数に対応する退職手当等として支払を受けるものをいう。
 一 法人税法第二条第十五号(定義)に規定する役員
 二 国会議員及び地方公共団体の議会の議員
 三 国家公務員及び地方公務員」[6・7項略]

例:勤続24年で2000万円の退職手当を受けた→{2000−800−70×(24−20)}÷2=460(万円)
退職手当等の性質:「給与の一部後払」「長年の勤務に対する一種の贈与」「社会保障的な機能」
――老齢者の生活保障、累進税率の適用の緩和 (平準化)が優遇の理由。更に分離課税
特定役員退職手当(勤続5年以下)につき半額課税廃止(いわゆる渡り鳥の退職所得軽課はおかしいとの批判)。
長期雇用・終身雇用を前提とし且つ優遇する税制は、現状に即してない、等の立法政策論上の批判も激しい。
退職所得軽課のため、給与所得を減らして退職所得を増やす、という課税逃れを誘発する。

6版§223.05 5年退職事件最判昭和58年9月9日民集37巻7号962頁bu10年退職事件最判昭和58年12月6日判時1106号61頁百選7版40bx
最高裁のいう退職所得の要件「(1)退職すなわち勤務関係の終了という事実によつて初めて給付されること、
(2)従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること、
(3)一時金として支払われること」

勤務継続が予定されている両事件において要件(1)が欠けるとした。多数意見は退職後の生活保障を重視したので、勤務継続が予定されているなら対処説く所得として軽課ですませるべきいわれはないことになる。
なお、10年退職事件における横井大三反対意見は累進税率緩和(平準化)を重視したので、勤務継続が予定されており生活保障の心配が小さくとも、10年分の給与の後払いが一気に実現することを慮った。il

京都地判平成23年4月14日税資261号順号11669平成20年(行ウ)23・37号確定(今村隆・ジュリスト1429号100-101頁(2011.9.15)……専修学校の理事長の分掌変更(校長と学院長という地位を退職)により支給した金員が退職所得に該当するとした事例。類例として、学校法人の理事が中学校長及び高等学校長を退職し大学長に就任した際の打切り支給退職金の退職所得該当性を認めた大阪地判平成20年2月29日判タ1268号164頁確定、使用人から執行役に就任する際の子宮金員の退職所得該当性を認めたシャディ事件・大阪地判平成20年2月29日判タ1267号196頁(岩武ュ明・ジュリスト1369号130頁)(控訴審大阪高判平成20年9月10日税資258号順号11020確定)。

東京地判平成24年7月24日税資262号順号12010確定(望月爾・ジュリスト1457号8-9頁2013.8)……アメリカ親会社(Merrill Lynch)の日本子会社の従業員が親会社の株式にかかる権利を受けていて退職後に権利が確定した場合でも退職所得ではなく(問題となっているrestricted share{リストリクテッド・シェアまたはリストリクテッド・ストック}の条件として退職が要件とされていなかった)給与所得であるとした事例。

4.2.8. 事業所得(所税27条)

事業所得の定義について6版§223.01弁護士顧問料事件・最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁。

6版§224.03会社取締役商品先物取引事件名古屋地判昭和60年4月26日行集36巻4号589頁
事実・争点 会社の取締役が商品先物取引によって生じた損失は事業所得計算上の損失(所税69条1項:損益通算可)に当たるか、雑所得計算上の損失(損益通算不可)に当たるか。

予備知識 金融先物取引の損失が雑所得に係る損失とされた場合の損益通算否定が憲法違反に当たるかについて、福岡高判昭和54年7月17日訟月25巻11号2888頁百選4版47――商品先物取引による所得が「事業所得ではなく雑所得と認定されるとすれば、それは雑所得と他の所得との間に損益通算の規定が設けられていないことからして憲法上財産権及び職業選択の自由の侵害になると」の主張につき、「雑所得と他の所得の間には所得の発生する状況に差異があり、雑所得においては、多くは余剰資産の運用によつて得られるところのものであり、その担税力の差に着目すれば、雑所得に他の所得との損益通算の規定がないことにはそれ相当の合理性を認めることができるから、それをもつて憲法第二九条、第二二条に違反するとの見解は採用できない。」

判旨 結論としては雑所得に係る損失。
区別の基準(本件で○事業所得っぽい要素 ×事業所得っぽくない要素)
基準 ○× 区別の対象 備考
営利性・継続性 一時所得・雑所得
自己の危険と計算 給与所得
企画遂行性 × 雑所得 必須か?
精神的、肉体的労力の程度 × 雑所得・譲渡所得 教条的では?
人的、物的設備の有無 × 雑所得・譲渡所得 必須か?
資金調達方法 × 必須か?
職業・社会的地位・生活状況 × 網羅的すぎでは?
商品先物取引の博打性 × 一時所得 ハイリスクは消極要件?

Cf.FX取引事件・(原審横浜地判平成25年7月3日税資263号順号12246)東京高判平成25年11月14日税資263号順号12335確定。類例…東京地判平成22年6月24日税資260号順号11458平成21年(行ウ)449号

Cf.事業所得の範囲……5版§224.03嶋モータース事件・名古屋高金沢支判昭和49年9月6日行集25巻8=9号1096頁gv

Cf.必要経費の意義……5版§231.02賃貸用土地贈与事件・大阪高判平成10年1月30日税資230号337頁gx…父Aから子Xに土地を贈与。Xは贈与の前後を通じて不動産賃貸業に従事。不動産取得税・登録免許税を、不動産所得計算上の必要経費に算入しようとした事例。「ある支出が必要経費として控除されうるためには、それが客観的にみて事業活動と直接の関連をもち、事業の遂行上直接必要な費用でなければならない」。「贈与によって資産を取得する行為そのものは、所得を得るための収益活動とみることはできない」。不動産賃貸業のためであっても贈与という「性格に変化はな」い。土地移転の「主たる目的はAからXに対する相続財産の前渡である」。「Xが本件土地に関して負担した登録免許税、不動産取得税は、所税45条1項1号所定の家事上の経費に該当し、同法施行例96条1、2号所定の業務の遂行上必要であった経費には該当しない」。
類例:大阪地判平成29年3月15日訟月64巻2号260頁請求棄却、大阪高判平成29年9月28日訟月64巻2号244頁控訴棄却、最三小決平成30年4月17日平成30(行ツ)20号上告棄却・上告不受理(阿部雪子・ジュリスト1527号140頁)…所税37条1項「必要経費」に関し「直接」関連性を要しないとした東京高判平成24年9月19日判タ1387号190頁(弁護士の交際費の一部の必要経費算入を認めた)(山田麻未「弁護士会等の役員等として行う活動と事業所得における『事業』との関係」税法学571号233-240頁)の流れと異なり、贈与税の業務との関連性の有無に焦点を当てず、贈与税の性質論から必要経費非該当の結論を導く。

広島地判平成23年7月20日訟月58巻8号3058頁・広島高判平成24年3月1日訟月58巻8号3045頁・最決平成24年12月20日税資262号順号12121…課税処分の訴訟費用は還付加算金(雑所得)の必要経費に当たらない。鹿児島地判平成23年9月7日平成22(行ウ)13号・福岡高宮崎支判平成24年2月15日訟月58巻8号3073頁・最決平成24年10月25日税資262号順号12083も同旨

Cf.違法な支出⇒4.3.3. 6版§231.03高松市塩田宅地分譲事件・高松地判昭和48年6月28日行集24巻6=7号511頁

Cf.費用収益対応の原則⇒4.3.2.1.必要経費の意義

Cf.売上原価……5版§234.01(6版427頁)鉄骨材取得価額事件最判昭和30年7月26日民集9巻9号1151頁gy

Cf.所税63条〜67条の2…事業に関して(事業所得に限らない)収入・費用の特則。

4.2.9. 一時所得(所税34条)

所税34条(一時所得)「一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
2 一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。
3 前項に規定する一時所得の特別控除額は、五十万円(同項に規定する残額が五十万円に満たない場合には、当該残額)とする。」

(1)23〜33条の所得分類に当てはまらず、(2)「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外」で、(3)労務等の「対価としての性質を有しないもの」(34条1項)
例えば懸賞金、当たり馬券等(なお当たり馬券の直接費用(2項)の範囲(所基通34-1(2)(注))に注意)(公営競技の払戻金の支払を受けた方へ2019.1.19)
Cf.事業所得等に該当しないが対価の性質を有するもの、例えば大学教授の原稿料は、雑所得
50万円特別控除(3項)、更に半額課税(所税22条2項2号)。累進緩和。(担税力は低い?高い?)
[余談]行動経済学の観点(宵越しの金は持たない)から、一時所得の担税力は低いということを説明できるか?

個人からの贈与 → 9条1項16号により所得税非課税⇒COLUMN4-3(相続税法により贈与税が課される)
法人からの贈与 → 一時所得 (法人段階での課税の有無は寄附金課税等の問題⇒5.2.3.5.c)

6版§225.01土地時効取得事件静岡地判平成8年7月18日行集47巻7=8号632頁百選7版15ku
消滅時効に関する停止条件説・最判昭和61年3月17日民集40巻2号420頁baに基づき、時効援用時に土地の時価相当額の一時所得に係る収入金額が生じる。
東京地判平成4年3月10日訟月39巻1号139頁百選5版50も同旨(⇒4.2.3.4.取得費等の範囲)
実務上は批判があり、時効援用の有効性について争いがある場合は時効援用時ではなく裁判確定時に収入金額が生じるとすべきであると言われている(百選7版15解説)。裁判確定時の原則論について⇒4.4.3.管理支配基準、6版§232.03仙台賃料増額請求事件・最判昭和53年2月24日民集32巻1号43頁

6版§225.02外れ馬券民事事件最判平成29年12月15日民集71巻10号2235頁百選7版48ca(東京地判平成27年5月14日平成24(行ウ)849号・東京高判平成28年4月21日平成27(行コ)236号)(綱森史泰・租税訴訟17号131-148頁{納税者側代理人})

刑事事件(外れ馬券購入費用控除認容)…(大阪地判平成25年5月23日平成23(わ)625号・大阪高判平成26年5月9日平成25(う)858号)最判平成27年3月10日刑集69巻2号434頁百選6版45cd

外れ馬券購入費用控除否定例…(原審東京地判平成28年3月4日訟月63巻7号1875頁)東京高判平成28年9月29日訟月63巻7号1860頁(最決平成29年12月20日平成29(行ツ)17号)、(原審横浜地判平成28年11月9日訟月63巻5号1470頁)東京高判平成29年9月28日税資267号順号13068(最決平成30年8月29日平成30(行ヒ)46号)、(原審東京地判令和元年10月30日判タ1482号174頁は一部雑所得。控訴審で逆転した。本田光宏・ジュリスト1556号123-126頁2021.4)東京高判令和2年11月4日訟月67巻8号1276頁

オンラインスポーツ賭博(外れ賭け金控除否定)…東京地判令和2年10月15日平成30(行ウ)68号税資270号順号13464棄却・東京高判令和3年8月25日令和2(行コ)226号税資271号順号13597棄却(駒宮史博・ジュリスト1596号144-147頁)

中谷一馬「競馬の払戻金に対する課税等に関する質問主意書」(2024.4.17)
岸田文雄「衆議院議員中谷一馬君提出競馬の払戻金に対する課税等に関する質問に対する答弁書」(2024.4.26)

(ケ6版281頁)逆ハーフタックスプラン事件最判平成24年1月13日民集66巻1号1頁(渡辺裕泰・ジュリスト1446号118-121頁2012.10)im

 30保険料   |X氏生存の場合  |X氏死亡の場合
A社―――→B | A社    B | A社←―――B
 30保険料 生 | 満期保険金80生 | 満期保険金80生
X氏―――→保 | X氏←―――保 | X氏    保



養老保険の内容……A社とその代表者X氏がB生命保険会社と養老保険契約を締結し、保険料をA社とX氏が折半して例えば30ずつ(合計60の保険料)Bに支払う。満期迄にA社の代表者X氏が死ねばA社が保険金を受け取る(からA社が保険料の半分を負担し損金経理することには正当性があるという主張)、X氏が生きていればX氏が満期保険金を受け取る(保険料の半分はX氏の負担という建前になっている)。
 結果としてX氏が満期保険金80を受け取った場合、X氏の一時所得の金額の計算上、所税34条2項「その収入を得るために支出した金額」は30か(一時所得は80−30=50か))、60か(一時所得は80−60=20か)(A社段階で損金算入、X氏段階で所税34条2項算入という、二重控除の帰結となってしまう。
 最高裁は、保険料60のうちA社において保険料として損金経理がされた部分30が所税34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に当たらないとした。

 当時の所基通34-4は保険料の支出者が誰か限定してなかったので、A社負担保険料も所税34条2項の控除対象内と実務家は考えていたが、最高裁は、通達が支出者を限定していなくとも、所税34条2項の文言から、X氏が自ら支出した保険金(又は自ら負担した保険金)に限られる、と判断した。最高裁の本税に関する判断はともかく、加算税に関する税通65条4項「正当な理由」の判断のため差し戻した。差戻控訴審福岡高判平成25年5月20日平成24(行コ)7号は「正当な理由」は認められないと判断した。
 控訴審福岡高判平成21年7月29日平成21(行コ)11号で国が負けた後、最高裁が国を勝たせる前、平成23年6月30日に所税令183条4項3号を追加し、A社が負担した保険料は、X氏の一時所得の計算において控除できないことを明記した。
 しかし、所税34条2項についてX氏自ら支出した保険金に限るという解釈を採用しなくても、A氏が払った30の保険料はX氏の死亡確率に照らして不当に高すぎる(例えばX氏の死亡確率が5%なら、総保険料60のうちA社が3を、X氏が57を負担すべきである)ので、適正保険料額(例えば3)とA社の実際の支出額30との差額27が、A社からX氏に対しての給与であるとして、X氏に給与所得課税をすべきであった。(岩崎政明・ジュリスト1407号173-175頁参照)

 類例 最判平成24年1月16日判時2149号58頁(一審福岡地判平成22年3月15日平成20(行ウ)58号は納税者を勝たせたが控訴審福岡高判平成22年12月21日平成22(行コ)12号は、上記ほど露骨な租税回避狙いの事案ではなかったが、国を勝たせた)も国を勝たせ、更に税通65条4項にいう「正当な理由」があるとした原審の判断につき差し戻した(差戻控訴審福岡高判平成25年5月20日平成24(行コ)8号)。
 [浅妻]一個人の収入・支出に着目して所得を把握すべきという態度がCOLUMN4-3年金払い生命保険年金二重課税事件の最高裁と共通しているとも考えられる。
 [浅妻]本判決は会社負担保険料まで控除するという二重控除を封じたものの、本件のような養老保険の満期保険金を一時所得扱いして半額課税に服さしめるのは、給与所得課税と比べてあまりに軽すぎるのではないか?との問題が潜在している。元々生命保険等は所税76条の生命保険料控除により優遇されているので、今更という感もあるかもしれないけれども。

東京地判平成30年9月25日税資268号順号13192平成29(行ウ)128号認容確定…原告X氏がB社から5億円弱の借金をしていた。X氏の親であるA氏が2億円をB社に支払い、A氏がX氏に対し求償権を有することとなった。A氏が死亡しX氏の異母弟のD氏がA氏から当該求償権を相続したと推測されるが、A氏の遺言の中で、A氏のX氏に対する2億円の貸金債権をD氏に相続させることとされていた(但しD氏が相続税を納めたかどうか不分明。恐らく納めてないであろうという前提で研究会の議論は進んだ)。D氏がX氏に対し2億円の貸金債権を有していると主張し200万円の一部請求をした。別訴でA氏が時効消滅を主張し、A氏勝訴で確定した(横浜地判平成25年5月24日)。税務署長は、X氏の貸金債権の時効消滅の援用を理由としてX氏に2億円の一時所得が発生しているとして(尤も、200万円の一部請求に対する時効消滅の援用は当該200万円の部分にしか及ばなないというのが民法における理解であり、額の点でも課税庁側の主張に無理がある)、増額更正処分等をうった。後に、求償権の時効消滅を理由とし、処分理由の差替えが許されるかも争点となっている。結論として一時所得不発生。

(原審東京地判平成22年10月8日訟月57巻2号524頁平成21(行ウ)209号)東京高判平成23年6月29日税資261号順号11705平成22年(行コ)356号(岸田貞夫・ジュリスト1460号123-126頁2013.11)…民法上の組合に付与された新株予約権の行使に係る経済的利益が、組合による役務提供の対価としての性質を有するとして一時所得ではなく雑所得に該当する(新株予約権の行使の対価であるから一時所得であるということにはならない)とされた事例。

東京地判令和4年12月21日令和3(行ウ)140号棄却(田島秀則・ジュリスト1603号154-157頁)・東京高判令和5年8月2日事件番号不明棄却判例集未登載……上場株式有利発行による経済的利益が個人株主に生じたと認められた例。所基通23〜35共-7(株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合)、共-9(所令84条(譲渡制限付株式の価額等)3項3号「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合における当該株式を取得する権利」)参照。原告のマーケット・インパクト論(多量の株式を一気に売ろうとすると値下げしなければならない)を裁判所は採用しなかった。田島は(マーケット・インパクト論不採用に賛同しつつ)希薄化損失が生じている筈(なのに判決で価格に反映されていない憾みがあるのではないか)と分析している。

東京地判令和3年1月29日令和元(行ウ)449号税資271号順号13518棄却(横井里保・ジュリスト1579号146-149頁)……代表取締役が会社から譲受けた債権の取得価額と回収額との差額が、対価性(代表取締役が会社に提供した役務の対価)がなくても偶発性がないので一時所得ではなく雑所得であるとされた事例。

東京地判令和5年3月14日令和元(行ウ)615号判時2611号25頁一部認容、一部棄却・東京高判令和6年1月25日令和5(行コ)105号原判決変更(平川英子2025年3月21日租税判例研究会報告)(藤間大順「一時所得として得た債務免除益から控除できる『その収入を得るために支出した金額』:東京地判令和5年3月14日の検討」TAINSだより235号1-12頁(2023夏) (BLOG))(田中晶国「被相続人のした和解に基づく債務に関する相続人への債務免除益課税」新・判例解説Watch租税法No.181 2024.1.26)(倉見智亮「債務控除されなかった部分の相続財産への課税と債務免除益課税の二重課税該当性」新・判例解説Watch租税法No.189 2024.9.13)
 事実
 原告ら=原告A+原告B。原告Aは亡Eの子、原告Bは亡Eの妻。亡Eは亡Fの子であり、原告Aは亡Fの養子。
 1993年9月6日、本件銀行が亡Fを借主、亡Eを保証人として16億円を貸し付けた(本件貸付)。亡F名義でαマンション購入。
 2002年2月15日、本件銀行が亡F亡Eに対し返済を求めて提訴。
 2002年4月26日、亡Fの判断能力欠如につけこんで本件銀行と亡Eが通謀し亡F名義の署名をしたなどに基づき、亡F(訴訟代理人:神岡信行弁護士)が本件貸付の根抵当権設定登記の抹消登記請求を提訴(前訴)。
 2002年10月23日、亡F死亡。
 2003年8月25日、亡F相続人らが杉並税務署長に相続税の申告。
 2003年8月27日、前訴に関し東京地裁が「和解に向けての見解」書面を作成。@本件貸付金で購入したαマンションの価格相当額を本件銀行に返済する。A亡Eは亡Fの遺産の1/6(2.4億円)を本件銀行に返還する。
 2003年12月25日、亡Eがαマンションを4.11億円で売却。
 2004年3月31日、亡F相続人らが遺産分割協議。本件貸付金債務は亡Eが承継する。
 2004年4月15日、亡F相続人らは前訴について和解(本件和解)。亡Eは亡Fの債務を亡F相続人ら(亡Eを除く)から引き受ける。亡Eは本件銀行に下記a〜dの金員を支払う。亡Eが遅滞なくa〜cの金員支払をしたら、本件銀行はdの支払義務を免除する(本件債務免除)。
 【a 平成16年9月30日限り金3億7130万円】
 【b 平成18年12月31日限り金2億5000万円】
 【c 平成19年から平成28年まで毎年6月30日限り金50万円(10回、合計500万円)】
 【d 平成28年7月31日限り金9億7370万円】
 2014年10月27日、亡E死亡。a〜cについて亡Eは支払をしていた。
 2015年6月24日、亡E相続人らと本件銀行は、c100万円+dについて、原告Aが免責的に引き受け、原告Bが重畳的に引き受けるとの債務引受契約を締結。
 2015年8月12日、亡E相続人らが遺産分割協議。本件貸付残債務は原告A原告Bが半分ずつ承継。
 2015年8月21日、亡E相続人らが相続税の申告。
 2015年6月30日及び2016年6月30日、原告らは本件銀行にcの50万円ずつを支払った。
 2017年3月16日、原告らは2016年(平成28年)の所得税の申告。
 2017年5月12日、亡E相続人らが相続税について修正申告。本件貸付の残債務を0円と修正した。
 2018年4月25日、杉並税務署長曰く、原告らが本件債務免除により9億7370万円の利益(本件債務免除益)を得たとして、平成28年分の原告らの総所得に半分ずつ加算した(本件各処分)。

 争点3:二重課税の排除(所得税法9条1項17号)の適用の有無(争点1争点2争点4争点5は省略)

 一審判決 「所得税法9条1項16号は、「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」には所得税を課さないとしているところ、これは相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するものについては,別途相続税又は贈与税が課せられるため、二重課税を避けるために所得税法上は非課税とされたものである。そして、本件債務免除に係る債務免除益については、停止条件の成就が亡Eの相続発生の後であることから、前記のとおり亡Eを被相続人とする相続税では考慮されていない。したがって、本件債務免除益という所得の発生時にこれを亡Eの相続人である原告らに係る所得税の課税対象とすることは、所得税法9条1項16号の前記趣旨に反するものではない」。
 「原告らの主張するように、仮に本件債務免除に係る債務が亡Eの消極財産としてその相続財産の計算に当たって算入されていれば、原告らの納付すべき相続税が減少する可能性があったことは否定し得ないが、相続税法は、本件債務免除に係る債務のような不確定な債務については、相続税の算定に際して債務としての算入を認めていないのであり、仮に、本件と異なり、相続後の事情によって本件債務免除の停止条件が成就しないことが確定した場合(債務免除益が生ずることもない。)においても、遡及的に相続時において当該債務が「確実と認められる」ものであったということにはならない。そうである以上、本件債務免除の停止条件が成就し、現に債務免除益が生じた本件において、本件債務免除に係る債務が相続税において考慮されず、現に実現した債務免除益に対する所得税の課税がされることもやむを得ないものというべきである。また、所得税法9条1項16号は、相続により得た積極財産に対し、相続税に加えて所得税を課すことを禁止対象として想定しているものと解され、相続時に「確実と認められ」なかったために控除が認められなかった債務を対象として想定した規定とは解されず、殊に、相続税の課税基準時たる相続発生時の後に停止条件が成就した結果発生すべき債務免除益に適用されるものとは解されない。」

 二審判決 「2 争点3(二重課税の排除(所得税法9条1項16号)適用の有無)について
(1)[略]
(2)1審原告らは、亡Eの相続財産から本件債務を控除せずに課税価格を算定して相続税を課しておきながら、本件債務の免除がなされた時には本件債務の存在を前提にその免除益が発生したとしてこれに所得税を課すのは、所得税法9条1項16号に反する二重課税として許されない旨主張するので、この点について検討する。
 所得税法9条1項は、その柱書きにおいて「次に掲げる所得については、所得税を課さない。」と規定し、その16号において「相続,遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)」を掲げているところ、同号の趣旨は、相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課さないこととして、同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除したものであると解される(最高裁判所平成22年7月6日第三小法廷判決・民集64巻5号1277頁)。
 また、相続税は、相続財産を取得した利得に対して担税力を見出して課税されるものであるところ、相続財産の取得者が被相続人の債務を承継して負担する場合にはその負担分については担税力が減殺されることになることから、相続財産からの当該債務の控除を認めるとするのが所得税法[恐らく相続税法]13条1項1号の趣旨であり、被相続人から承継する債務が「確実と認められるもの」でない場合には担税力が減殺されることにはならないから、当該債務については相続財産からの控除を認めないとするのが同法14条1項の趣旨であると解される。
 このような規定の趣旨を踏まえれば、担税力を減殺させるものではないとして相続財産から控除されなかった相続債務が相続開始後に免除を受けたからといって、これにより債務者に新たな担税力が生じるものと解することは相当でない。
 そうすると、被相続人から承継した現に存する債務であって、相続税申告の際の課税価格の算定にあたって近い将来に免除を受ける可能性が極めて高いこと等を理由に相続税法14条1項の「確実と認められるもの」にあたらないとして相続財産から控除されなかった債務が、その後に債権者により免除された場合における当該債務免除に係る相続人の利益については、形式的には債務免除を受けた時点で発生したものといえるとしても、所得税課税との関係では、潜在的には相続により取得していたものとみることが可能であり、また、その具体的な内容をみても、上記申告に係る課税価格のうち相続財産から控除されなかった上記債務に相当する部分の経済的価値と実質的に同一のものということができるから、特段の事情のない限り、これに所得税の課税をすることは、所得税法9条1項16号に反するものとして許されないというべきである。
 これを本件についてみるに、本件債務免除益は、被相続人の亡Eから1審原告らが承継した本件銀行に対する債務であって、本件和解の約定により免除を受ける可能性が極めて高いことから相続税の修正申告の際の課税価格の算定にあたって相続税法14条1項の「確実と認められるもの」にあたらないとして相続財産から控除されなかった本件債務が、その後に本件和解の約定に基づき本件銀行により免除された場合における債務免除に係る1審原告らの利益であるといえる。そして、本件においては、本件債務を相続財産から控除した場合とこれをしない場合の相続税額の増加額(合計2億1972万4900円)と本件債務免除益を一時所得として所得税の課税をしない場合とこれをした場合の所得税等の本税額の増加額(合計2億2273万2100円)に結果的に著しい差がないこと(上記(1)ウ)などの状況に照らしても、上記特段の事情は見当たらない。したがって、本件債務免除益に所得税の課税をすることは、所得税法9条1項16号に反して許されない。」

4.2.10. 雑所得(所税35条)

所税35条(雑所得)「雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。
2 雑所得の金額は、次の各号に掲げる金額の合計額とする。
 一 その年中の公的年金等の収入金額から公的年金等控除額を控除した残額
 二 その年中の雑所得(公的年金等に係るものを除く。)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額
3 前項に規定する公的年金等とは、次に掲げる年金をいう。
 一 第三十一条第一号及び第二号(退職手当等とみなす一時金)に規定する法律の規定に基づく年金その他同条第一号及び第二号に規定する制度に基づく年金(これに類する給付を含む。第三号において同じ。)で政令で定めるもの
 二 恩給(一時恩給を除く。)及び過去の勤務に基づき使用者であつた者から支給される年金
 三 確定給付企業年金法の規定に基づいて支給を受ける年金(第三十一条第三号に規定する規約に基づいて拠出された掛金のうちにその年金が支給される同法第二十五条第一項(加入者)に規定する加入者(同項に規定する加入者であつた者を含む。)の負担した金額がある場合には、その年金の額からその負担した金額のうちその年金の額に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額を控除した金額に相当する部分に限る。)その他これに類する年金として政令で定めるもの
4 第二項に規定する公的年金等控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
 一 その年中の公的年金等の収入金額がないものとして計算した場合における第二条第一項第三十号(定義)に規定する合計所得金額(次号及び第三号において「公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額」という。)が千万円以下である場合 次に掲げる金額の合計額(当該合計額が六十万円に満たない場合には、六十万円)
  イ 四十万円
  ロ その年中の公的年金等の収入金額から五十万円を控除した残額の次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額
   (1) 当該残額が三百六十万円以下である場合 当該残額の百分の二十五に相当する金額
   (2) 当該残額が三百六十万円を超え七百二十万円以下である場合 九十万円と当該残額から三百六十万円を控除した金額の百分の十五に相当する金額との合計額
   (3) 当該残額が七百二十万円を超え九百五十万円以下である場合 百四十四万円と当該残額から七百二十万円を控除した金額の百分の五に相当する金額との合計額
   (4) 当該残額が九百五十万円を超える場合 百五十五万五千円
 二 その年中の公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が千万円を超え二千万円以下である場合 次に掲げる金額の合計額(当該合計額が五十万円に満たない場合には、五十万円)
  イ 三十万円
  ロ 前号ロに掲げる金額
 三 その年中の公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が二千万円を超える場合 次に掲げる金額の合計額(当該合計額が四十万円に満たない場合には、四十万円)
  イ 二十万円
  ロ 第一号ロに掲げる金額」

「いずれにも該当しない所得」(シャウプ勧告に基づく昭和25年改正による)>
全く別扱いの年金等とその他の雑所得を雑所得という一類型にまとめる意義があるのか、逆に一時所得と雑所得を区別する意義があるのか、等、立法論上の議論の余地はある。
雑所得の計算上損失が発生しても他の所得分類と損益通算できない⇒所税69条1項⇒4.6.3.
COLUMN4-3 年金払い生命保険金二重課税事件
6版§211.04年金払い生命保険金二重課税事件最判平成22年7月6日民集64巻5号1277頁百選7版34lc

 保険料    |年金払い選択   |一時払い選択
A夫―――→B | A夫(亡)  B | A夫(亡)  B
      生 | 230年金x10 生 | 2059一時払 生
X妻    命 | X妻←―――命 | X妻←―――命
      保 |   ←―――保 |   ←―――保
      険 | 4000一時金 険 | 4000一時金 険


 夫AがB生命保険会社に生命保険料を払って死亡し、妻Xが相続開始時から10年間毎年230万円の生命保険年金(合計2300万円)を受け取ることとなった(一時金として他に4000万円も受け取っているがそれは相続課税の話なので省略)。相続時に相続税法24条1項(当時「イ 当該契約に関する権利を取得した時において当該契約を解約するとしたならば支払われるべき解約返戻金の金額」に相当する規定がなかった)により現価1380万円として相続税の課税標準に含められる(尤もこのXの相続税額は0円であったらしい。相続税法上の基礎控除等の枠内だったのであろう)。
 課税庁は更に毎年230万円の年金について、Aの既払保険料額の1/10(約200万円の既払保険料額のうち年金に対応する部分の1/10である9.2万円)を控除した雑所得・約220万円(230−9.2=220.8)があるものとして課税した(所税令183条)(Aが若くして死んでしまい、既払保険料額が少なかった)。これは所税60条1項による取得費の引継ぎ(⇒4.2.3.6.)に類する計算である。
 Xはこの所得課税が所税9条1項16号(当時15号)に反すると主張した。仮にXが相続開始時に年金の一時払(前述の死亡一時金4000万円とは別物であることに留意)を選択していたならば、生命保険会社との契約により230万円の8.956倍(2059万8800円)を受け取ることができる、ということがAとB社との間の契約で定められていたところ、この一時払の金額には相続税が課せられるのみであり所得税は課されない(⇒4.2.3.5.・所税59条1項のみなし譲渡に類する所得課税はない)とされていた(所基通9-18年金の総額に代えて支払われる一時金)。
 [浅妻]元はといえば、死亡一時金4000万円・年金の一時払2059万8800円について、相続税を課すのみならず、所税59条1項に類する所得課税もする、としておけば、課税の整合性は保たれていたであろう。しかし所税59条1項の適用範囲が狭められていった経緯に照らし、死亡一時金4000万円・年金の一時払2059万8800円について所税59条1項類似の課税をすることには抵抗感があったのであろう。

評価について……一時払を選択すると2059万8800円を受け取ることができるのに、相続税法24条1項(当時)によりなぜ1380万円と評価されるのか?……当時の相続24条1項の計算は便法にすぎないが、納税者に甘すぎるので、本件のように一時払を選択すると2059万8800円を受け取ることができるという場合にはこちらの額が相続税法上も評価額となるように改正された(『改正税法のすべて平成22年版』427頁)。年複利計算で、名目額合計2300万円が相続開始時に2059万8800円と評価されるような割引率は約2.54%(年複利)、1380万円と評価されるような割引率は約13.72%(年複利)となる。前者は概ね市場の実勢に適っているものであろうが(独立当事者であるAとB社との契約によって決められているため)、後者は昨今の市場の実勢と比較して明らかに高すぎる割引率である(相続税法上の評価額が低くなってしまい、納税者に甘すぎる)。

一審長崎地判平成18年11月7日平成17(行ウ)6号(請求認容)……年金受給権と年金との実質的・経済的な同一性を論拠とし、「実質的・経済的には同一の資産に関して二重に課税するものである」として、年金に対する所得課税は所税9条1項15号の「趣旨」によって許されないとした。明示されていないが、翌年以降受け取る年金への所得課税をも排斥したものと解される。

国側の反論……「例えば、相続により取得した財産が果樹であったような場合…収益還元方式の考え方により…将来…収益(収穫した果実の売却による収入)を、現価…に引き直す…。…果樹には一定の寿命があり…果樹も減価償却資産とされていることに照らすと、当該果樹から得られる収益は、時の経過による当該財産の価値の減少と対応する関係にある…。…果樹が相続税の課税対象となった場合であっても、その後、当該果樹から得られる収益に対し、所得税が課税されることについては異論がない」

控訴審福岡高判19年10月25日平成18(行コ)38号(請求棄却)……「本件年金は、本件年金受給権とは法的に異なる」ので「所得税法9条1項15号所定の非課税所得に該当しない」。(仮にAが長生きしていたならばAが稼いだ所得に課税されることとのバランスから、Aが早死にした結果受け取る金員について所得として課税するという高裁判決にも一分の理がある)

最高裁判旨(破棄自判・請求認容) 所得税法9条1項15(現16)「号にいう『相続,遺贈又は個人からの贈与により取得するもの』とは,相続等により取得し又は取得したものとみなされる財産そのものを指すのではなく,当該財産の取得によりその者に帰属する所得を指すものと解される。そして,当該財産の取得によりその者に帰属する所得とは,当該財産の取得の時における価額に相当する経済的価値にほかならず,これは相続税又は贈与税の課税対象となるものであるから,同号の趣旨は,相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課さないこととして,同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除したものであると解される。」
 「年金の方法により支払を受ける上記保険金(年金受給権)のうち有期定期金債権に当たるものについては,[相続税法24条1]項1号の規定により,その残存期間に応じ,その残存期間に受けるべき年金の総額に同号所定の割合を乗じて計算した金額が当該年金受給権の価額として相続税の課税対象となるが,この価額は,当該年金受給権の取得の時における時価(同法22条),すなわち,将来にわたって受け取るべき年金の金額を被相続人死亡時の現在価値に引き直した金額の合計額に相当し,その価額と上記残存期間に受けるべき年金の総額との差額は,当該各年金の上記現在価値をそれぞれ元本とした場合の運用益の合計額に相当するものとして規定されているものと解される。したがって,これらの年金の各支給額のうち上記現在価値に相当する部分は,相続税の課税対象となる経済的価値と同一のものということができ,所得税法9条1項15号により所得税の課税対象とならないものというべきである。」
 「所得税法207条所定の生命保険契約等に基づく年金の支払をする者は,当該年金が同法の定める所得として所得税の課税対象となるか否かにかかわらず,その支払の際,その年金について同法208条所定の金額を徴収し,これを所得税として国に納付する義務を負うものと解するのが相当である。
 したがって,B生命が本件年金についてした同条所定の金額の徴収は適法であるから,上告人が所得税の申告等の手続において上記徴収金額を算出所得税額から控除し又はその全部若しくは一部の還付を受けることは許されるものである。」

最高裁は、相続等により取得した財産がもたらす「所得」(=「当該財産の取得の時における価額に相当する経済的価値」)の部分(つまり1380万円の部分)について、所税9条1項16号により所得課税は許されないと判示したが、間接的に、2300−1380=920(万円)の運用益部分についての所得課税は容認される(運用益の部分が一審の判断と異なる)と判断したものと理解される。当時、納税者の逆転勝訴と喧伝されたものの、実質的には納税者六割勝訴、四割敗訴の内容である。

本件では相続開始時に受け取る年金230万円についての雑所得課税の是非しか争点とならなかったので運用益部分がなかった事案であり、最高裁は運用益の計算方法について何ら述べなかった。翌年以降に受け取る年金230万円のうち、どのように運用益部分を計算するのか、という問題が残った。

主な問題点…(1)いつ幾らの運用益を認識するか?
(2)運用益部分から既払保険料額を控除できるか?

平成22年政令第214号による改正所税令183条〜186条、課個2−27(平成22年10月20日)の所基通35-4の2及び35-4の3(当時)により国税の扱いが明らかにされた。
(1)第0年に相続を開始し(この時点で230万円受け取るが第0年の運用益は0円)、第1年〜第9年にかけて毎年230万円ずつ受け取る際の運用益の計算

年度……………………………………_1_|_2_|_3_|_4_|_5_|_6_|_7_|_8_|_9_
通達による運用益の計算の発想……028|052|074|092|109|124|136|148|158
包括的所得概念に忠実な運用益……158|148|136|124|109|092|074|052|028

 通達は次のような発想で運用益を計算している。第1年度の230万円の年金は、第0年度において230/1.137=202(万円)(年複利13.7%の前提)として相続税の課税標準に算入されていたので、第1年度の運用益は、第0年度の202万円を利子率13.7%(年複利)で1年間運用したものと考えられるから、230−202=28(万円)である。第2年度の230万円の年金は、第0年度において230/1.1372=178(万円)として相続税の課税標準に算入されていたので、第2年度の運用益は、第0年度の178万円を利子率13.7%(年複利)で2年間運用したものと考えられるから、230−178=52(万円)である。以下同様に第3年度から第9年度まで計算する。(表では万円以下四捨五入の端数処理のズレのため合計が920ではなく921になっている。)
 しかし包括的所得概念に忠実に運用益を計算するならば、次のように考えられる。利子率13.7%(年複利)で運用される基金1380万円から第0年から第9年にかけて毎年230万円ずつ引き落とす、という例と同様に所得計算することになる。第0年に1380万円から230万円(運用益部分は0円である)を引き落としたので、残り1150万円を利子率13.7%で1年間運用した運用益158万円(≒1150万円×13.7%)が第1年の所得である。第1年に230万円を引き落とすので、1150+158−230=1078(万円)を第1年から第2年にかけて利子率13.7%で1年間運用する。すると第2年の運用益は148万円である。以下同様に第3年度から第9年度まで計算する。
 包括的所得概念に忠実に運用益を計算した場合は第1年から第9年にかけて運用益が小さくなっていく一方、通達の発想によると、運用益は第1年から第9年にかけて大きくなっていく。単純に合計すると920万円(表では端数処理のズレのため921になっているが)である。早い時期に多額の所得が計上されると納税者に不利であるから、通達の発想の方が納税者に有利である。なぜ通達の発想の方が納税者に有利なのか。通達の発想は、例えば第2年度について見てみると、第0年の178万円が利子率13.7%(年複利)で2年間運用されたという前提で計算されている。包括的所得概念に忠実に計算するならば、第0年の178万円が2年間運用される場合に第1年にも発生している筈の増加益(178×13.7%=24(万円))を課税所得に含めなければならないが、簡便法の基の考え方は、第0年の178万円に関し第1年には実現がないので非課税のまま2年間運用するという前提で計算している。このように実現主義を前提としている簡便法の基の考え方による計算は、包括的所得概念に忠実な計算と比べ、納税者に有利なものとなっている。
 通達は十本の年金受給権をばらばらに捉えている。包括的所得概念に忠実に考えるならば、相続開始時に1380万円と評価される年金受給権を一つの資産と観念して計算すべきである。しかし現行所得税法が包括的所得概念に忠実ではなく実現時に課税することを原則としていることとの均衡から考えれば、通達の発想にも一理ある。浅妻章如・法学教室2010年11月号45頁参照。

(2)Aの既払保険料額を控除することができないとすると、既払保険料が高いタイプの生命保険年金(例えば積立の性格が強いもの)に関しては最高裁判決による扱いが従来の扱い(所税60条1項の租税属性の引継に類する扱い)より納税者に不利に働く可能性もあった(最高裁調査官はそう考えていた。[浅妻]私も既払保険料額の控除不可の前提で評釈を書いてしまった)。
改正法令・通達によれば、既払い保険料相当額を、元本返還部分と運用益部分とに按分した上で、控除可としている。この計算方法ならば、最高裁判決が納税者に従来より不利に働く可能性はない。従って誰も訴訟を提起しないであろう。([浅妻]しかし、所税60条1項(租税属性の引継)に類する課税を斥けたこととの整合性を欠くのではないかとの疑問は残る。更に、逆ハーフタックスプラン事件最判平成24年1月13日民集66巻1号1頁が、他者負担の保険料の控除を否定したことと、整合的でない可能性も出てくる。)(調査官解説・古田孝夫・ジュリスト1423号100頁以下、104頁も疑問を呈す。)

相続税・贈与税が課された「所得」部分について、所得税を課すことは許されない、という論理の射程は?
……率直にいって超絶の難問。土地の含み益に関しても、相続税(恐らく贈与税も)が課された「所得」部分について、所得税が課されることがあるが、まさか所税60条1項が所税9条1項16号によって覆ることは考えられない(同じ所得税法の規定であり同格であるから。本件は所得税法と施行令との関係で所得税法が優先すると解釈したものと理解できる)。株式の時価が将来の配当等の利益の割引現在価値であるとすると、株式相続時にその時価について相続税を課し、配当等受領時に所得税を課すことが、本件最高裁判例の射程に含められる可能性が、皆無とは言えない。また、特許権・著作権等についても同様の問題が残る。
 現在までのところ判例・裁判例は射程を狭く解している(二重課税を許容している)。土地含み益について、(東京地判平成25年6月20日平成24(行ウ)243号・東京高判平成25年11月21日平成25(行コ)268号)最決平成27年1月16日税資265号順号12588(山田二郎・ジュリスト1476号112-115頁2015.2)等、配当について(大阪地判平成27年4月14日訟月62巻3号485頁・大阪高判平成28年1月12日平成27(行コ)85号)最決平成29年3月9日税資267号順号12990。
 被相続人Aが保有していたB株及び配当期待権に相続税を課し、A死亡後の配当について相続人Xが所得課税を受けることは、所得税法67条の4が課税繰延の趣旨であるから、最判平成22年7月6日の射程外であり、合法である……大阪地判令和3年11月26日令和2(行ウ)137号判タ1503号58頁棄却・大阪高判令和6年1月18日令和3(行コ)149号訟月70巻9号910号棄却(上告、上告受理申立)(租税判例研究会渋谷雅弘2023年1月20日報告)。
 債務免除益について二重課税不許容例として東京高判令和6年1月25日令和5(行コ)105号⇒4.2.9.一時所得
所得税法67条の4「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)」

源泉徴収の適否と還付請求の可否に関して……(ケ6版339頁)日光貿易事件・最判平成4年2月18日民集46巻2号77頁(2.3.2.2.a.)は、給与支払者(例えば浅妻を雇用している立教学院)による源泉徴収に誤りがある場合、所税120条1項5号・6号に関し、誤徴収税額を受給者(例えばサラリーマンたる浅妻)の申告税額から控除すること或いは還付を請求することはできない、と判示していた。これと関連して、本件(最判平成22年7月6日)において、仮に非課税所得であるならば、生命保険会社が源泉徴収したことも誤徴収であるところ、相続人であるXが自ら還付を請求することはできなくなるのではないか、という問題が潜在していた。
 最高裁は、支払者たるB生命保険会社の源泉徴収義務を肯定し、源泉徴収が適法であるためXが自ら還付請求をすることも許されるという論理を組み立てた。
 この論理は最判平成4年2月18日と矛盾していると感じる実務家も少なからずいるようであるが、形式的に言って判例変更をしていないので最判平成4年2月18日が覆った訳ではない……給与等の支払い(最判平成4年2月18日)と年金の支払い(最判平成22年7月6日)とは別であるという論理となる。藤谷武史・ジュリスト1410号28頁参照。会社が役員給与を支払ったが役員給与支給が無効であった場合の源泉徴収税額の還付請求について、参照、動画「税でモメたらどうする(第4回)〜税務と法務は車の両輪〜」cf. 北村豊動画

4.3. 収入金額・必要経費

4.3.1. 収入金額

4.3.1.1. 収入金額の定義(所税36条)

所税36条1項「その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)」…例:債務消滅益等: 大阪地判平成24年2月28日訟月58巻11号3913頁(請求認容・確定)…債務免除益の収入金額不算入を認めた(平26年所得税法44条の2立法前の所基通36-17参照)事例。渡辺徹也・ジュリスト1449号8頁er
所税39条4.3.4.、フリンジ・ベネフィット⇒4.2.6.2.、年度帰属(「収入すべき」の文言の解釈)⇒4.4.2.

所税64条2項 保証債務特例 2件の代表的下級審裁判例に留意。
(1)札幌地判平成4年3月26日税資188号941頁・札幌高判平成6年1月27日判タ861号229頁訟月41巻10号2637頁…「所得税法六四条二項は、保証債務を履行するための資産の譲渡があった場合において、その履行に伴なう求償権の全部又は一部を行使することができなくなったときは、その行使不能となった金額に対応する部分の金額は、当該所得の金額の計算上、なかったものとみなす旨規定しているところ、その趣旨は、通常、保証人は保証債務を履行することとなっても,主債務者に対して求償権を行使することにより最終的負担を免れ得るとの見通しのもとに保証契約を締結するものであるが、保証債務履行のため資産を譲渡しても、これに反して求償権を行使できなかったときには、その限度で資産譲渡に係る所得に対する課税を差し控えようとするものと解される。したがって、保証人が保証契約締結時に、既に主債務者に対して求償権を行使することが不可能であることを確実に認識していたときには、その実質は主債務者に対し一方的に利益を供与するものにほかならないから、右趣旨からして所得税法六四条二項を適用すべき場合に該当しない」。(縮小解釈)

(2)さいたま地判平成16年4月14日判タ1204号299頁確定…「所得税法64条2項に定める保証債務の特例の適用を受けるためには、実体的要件として、納税者が(ア)債権者に対して債務者の債務を保証したこと、(イ)上記(ア)の保証債務を履行するために資産を譲渡したこと、(ウ)上記(ア)の保証債務を履行したこと、(エ)上記(ウ)の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったことが必要であり、かつこれで足りる」。「保証債務の履行を『余儀なくされる』状況下でやむにやまれず資産を譲渡した場合でなければならないと」いう「被告の主張は採用できない。」A社の債務を保証していたXがA社代表取締役であっても、A社の事業廃止は「会社自身の判断であり、それをもって直ちに保証人の判断とみることはできない。」

福岡地判平成23年11月11日平成22(行ウ)23号(控訴審福岡高判平成24年9月20日税資262号順号12041同旨)…所得税法64条2項「求償権」を行使する相手方には、連帯保証人が含まれる。

4.3.1.2. 例外:非課税所得(所税9条)

所税9条の非課税所得については色々な趣旨があり色々な論点と絡む。
9条1項5号 通勤手当 及び 6号 事業主都合給付⇒4.2.6.2.フリンジ・ベネフィット
9条1項9号 生活の用に供する家具等、生活に必要な動産 及び 9条2項1号 譲渡損無視⇒4.6.3.損益通算
9条1項10号 債務を弁済することが著しく困難である場合iu
9条1項15号 扶養義務の履行⇒4.1.3.課税単位
9条1項17号 相続、個人からの贈与⇒COLUMN4-3年金払い生命保険年金二重課税
9条1項18号 ⇒COLUMN4-4保険金・損害賠償金の非課税
当せん金付証票法13条のような非課税規定もある。なお、競馬は課税される。(cf.渕圭吾「一時所得と雑所得」)

国税不服審判所令和3年3月24日裁決大裁(所)令2第46号(未公刊)(山中理司「修習給付金は必要経費のない雑所得であるとした国税不服審判所令和3年3月24日裁決」2021.4.11(更新2025.1.10)で入手可能)・大阪地判令和4年12月22日令和3(行ウ)48号税資272号順号13795棄却・大阪高判令和5年7月26日令和5(行コ)15号棄却・最二小決令和5年12月22日令和5(行ヒ)375号不受理 cf.吉沢健太郎「裁判所法67条の2第1項に基づく修習給付金の課税上の取扱いについて――国税不服審判所裁決令和3年3月24日の検討――」東京大学法科大学院ローレビュー17号80-102頁(2022)、藤間大順「司法修習生が得る基本給付金および修習専念資金の非課税所得該当性」新・判例解説Watch租税法No.186 (2024.7.19)、田中治「非課税所得該当性をめぐる近時の紛争例」税務事例研究202号11-32頁(2024)

争点1本件給付金が所得税法上の学資金に該当するか(消極)
争点2本件利息相当額が所得税法上の学資金に該当する(消極)
争点3本件費用を雑所得の金額の計算上必要経費に算入できるか(消極)
争点4本件給付金を非課税所得と認めないことや本件費用を必要経費と認めないことが憲法14条1項[平等条項]に反するか(消極)

一審判旨 争点1「「学資に充てるため給付される金品」とは、学校等の教育機関において学術等の教育・指導を受けるために必要な費用(学費)に充てるために給付される金員をいうものと解される」。
「基本給付金は、その規定の文言上、「司法修習生がその修習期間中の生活を維持するために必要な費用」に充てるために支給するものとされていること(上記ア)、司法修習生は、司法修習における教育・指導の対価(授業料等)を負担することがなく、その経済的事情にかかわらず一律に一定額の基本給付金の支給を受け、これをいかなる費用に充てるかは全く自由であること(同ア)、基本給付金の制度は、経済的な事情により学資(学費)を負担することが困難な司法修習生の支援を目的として導入されたものではなく、法曹人材確保の充実・強化を図るという政策的な目的に基づいて導入されたものであること(上記イ)、基本給付金の金額は、司法修習生の学資(学費)としてどの程度の費用が必要かという観点ではなく、司法修習生がその生活を維持するためにどの程度の費用が必要かという観点から、政策的な要請等も踏まえて決定されたものであること(上記ウ)などの事情を指摘することができる。
 これらの事情を総合すると、基本給付金は、法曹人材確保の充実・強化を図るという政策的な目的に基づき、修習専念義務を負い生活費を稼ぐことのできない司法修習生の生活費全般に充てるため、使途を限定せずに支給されるものであって、学資(司法修習における教育・指導を受けるために必要な費用)に充てるために支給されるものとはいえないから、所得税法上の学資金には当たらない」。
COLUMN4-4 保険金・損害賠償金の非課税(所税9条1項17号)
所税9条1項18号:保険金・損害賠償金等は非課税fb4.1.2.2.
所税51条、72条…「保険金、損害賠償金」等で補填される部分が必要経費・所得控除に含まれない。
所税令30条(非課税とされる保険金、損害賠償金等)「法第九条第一項第十八号……に規定する政令で定める保険金及び損害賠償金……は、次に掲げるものその他これらに類するもの(これらのものの額のうちに同号の損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補填するための金額が含まれている場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分)とする。
 一 損害保険契約……に基づく保険金、生命保険契約……に基づく給付金及び損害保険契約又は生命保険契約に類する共済に係る契約に基づく共済金で、身体の傷害に基因して支払を受けるもの並びに心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金(その損害に基因して勤務又は業務に従事することができなかつたことによる給与又は収益の補償として受けるものを含む。)
 二 損害保険契約に基づく保険金及び損害保険契約に類する共済に係る契約に基づく共済金……で資産の損害に基因して支払を受けるもの並びに不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金(これらのうち第九十四条(事業所得の収入金額とされる保険金等)の規定に該当するものを除く。)
 三 心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金(第九十四条の規定に該当するものその他役務の対価たる性質を有するものを除く。)」

所税令94条(事業所得の収入金額とされる保険金等)「不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行なう居住者が受ける次に掲げるもので、その業務の遂行により生ずべきこれらの所得に係る収入金額に代わる性質を有するもの[所謂収益補償]は、これらの所得に係る収入金額とする。
 一 当該業務に係るたな卸資産……、山林、工業所有権……又は著作権……につき損失を受けたことにより取得する保険金、損害賠償金、見舞金その他これらに類するもの……
 二 当該業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの」[2項略]

所税令206条3項 法第七十二条第一項の規定を適用する場合において、同項に規定する資産について受けた損失の金額は、当該損失を生じた時の直前におけるその資産の価額(その資産が次の各号に掲げる資産である場合には、当該価額又は当該各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める金額)を基礎として計算するものとする。
一 法第三十八条第二項(譲渡所得の金額の計算上控除する取得費)に規定する資産(次号及び第三号に掲げるものを除く。) 当該損失の生じた日にその資産の譲渡があつたものとみなして同項の規定(その資産が次に掲げる資産である場合には、次に掲げる資産の区分に応じそれぞれ次に定める規定)を適用した場合にその資産の取得費とされる金額に相当する金額[イロハ以下略]

6版§211.05 マンション建設承諾料事件大阪地判昭和54年5月31日行集30巻5号1077頁fe
事案 マンション建設に伴う隣地居住者の損害を補償するために支払われた310万円の扱いが争点。
判旨 「授受された310万円は訴外A社のマンション建設によりXの受ける損害を補償する目的と、マンション建設についてXの承諾を得ることの対価とする目的の双方の趣旨である」。Xの損害は30万円を超えないと認定し、310万円−30万円−40万円(当時の一時所得控除)=「240万円が少なくとも課税される一時所得金額になる。」

過納金の還付加算金について最判昭和53年7月17日訟月24巻11号2401頁、紛争解決金が損害賠償ではなく一時所得とされた(遅延損害金は雑所得)例として最判53年6月23日税資101号578頁、死亡保険金は損害の回復ではないので所得税の課税対象となるとした例として最判平成2年7月17日判時1357号46頁(佐藤英明・ジュリスト984号206頁)

先物取引損害和解金事件名古屋地判平成21年9月30日判時2100号28頁百選7版35(類例:福岡高判平成22年10月12日先物取引裁判例集61号59頁)
商品先物取引で損害を被ったX氏が商品取引員であるA商事株式会社から受けた和解金は非課税所得に当たる。

ライブドア資産損失事件・神戸地判平成25年12月13日判時2224号31頁fc
旧ライブドアの虚偽記載により株価下落の損害を被ったXが旧ライブドアとの和解により取得した賠償金は、所税令30条各号にストレートには当てはまらないので、納税者を救う論理を構築するのは大変難しい。
 例(1) 9の売上(収入金額)、8の仕入(必要経費)、1の所得を申告。その後、仕入元の不法行為により仕入額が不当に3釣り上げられていたことが発覚し、3の損害賠償金を受け取った場合……損害賠償金を非課税所得とする(9−8+0=1)と、不法行為なかりし場合(9−(8−3)=4)と均衡を欠く。この二重控除を防止するため、必要経費補填型の損害賠償金は非課税所得から除外される(9−8+3=4)(所税令30条柱書括弧書)。
 例(2) 雑所得に係る5の収入金額、8の必要経費で、雑所得に係る所得が-3(つまり損失)であった場合、損益通算できない。その後、仕入元の不法行為により仕入額が不当に3釣り上げられていたことが発覚し、3の損害賠償金を受け取った場合……不法行為なかりせば雑所得は0であった(5−(8−3)=0)のに、この3の損害賠償金が必要経費補填型であるから非課税所得から除外されるとなると、雑所得については5−8=-3だが損益通算できないから課税所得に与える影響は0である一方で3だけ課税所得に算入されてしまい、不法行為なかりし場合との均衡がとれない。これは納税者に酷な結果となる。酷だけど仕方ない、という考え方がありえないではない。加害者が無資力だったら3の損害賠償金すら受け取れないのだから、それと比べれば3を受け取ることができただけマシであるという考え方が、ありえないではない。
 しかし裁判所は、着眼点を変えて納税者を救済した。
 例(1)及び例(2)は3の損害賠償金を受け取った年度に着目しているが、雑所得に係る資産を購入した年度における所税51条4項括弧書「……損害賠償金……により補てんされる部分の金額……を除く」の解釈に裁判所は着目した。【8の必要経費(不法行為なかりせば必要経費は5)、3の損害賠償金】という構成ではなく、【8の仕入のうち3の資産損失、3の損害賠償金】という構成とし、【5−8=0{損益通算不可}、+3】という構成ではなく、【5−(8−3)=0】という構成として、納税者を救済した(教科書の「株式の価値の下落という資産損失(所税51条4項参照)の補填であり非課税所得に当たる」という記述だけ読んでも理解できなかったと思うが、紙幅の制約に鑑みお許しいただきたい)。
 裁判所の、何としても納税者を救うという姿勢のcreativeな解釈はお見事。但し、今回は雑所得に関する仕入が株式という資産であったから所税51条4項で救うことができたが、雑所得に関する仕入が役務である場合は本判決のような解釈の技巧を凝らしても納税者を救えない、という限界もある。

弁護士事務所立退料事件・東京高判平成26年2月12日税資264号順号12405平成25(行コ)70号
立退料について当時のタックスアンサーNo.3155が一時所得扱いしている(参照:所基通33-634-1(7))ことを根拠に、原告たるX弁護士も賃借事務所の立ち退きに際し賃貸人から受けた金員(立退料)が一時所得であると主張した。
高裁は、必要経費補填部分(のうち賃料等差額補填分及び新事務所開設費用補填分)が事業所得とされた(一審東京地判平成25年1月25日平成23(行ウ)736号から少し変更された)。
この事件で国側の意見書を書いた佐藤英明は、費用収益対応の原則の逆バージョンとして、収益費用対応(佐藤の造語であり人口に膾炙している訳ではないが浅妻は良い表現だと思う)という考え方により、事業所得に係る必要経費を補填する金員は事業所得に当たる、という説明をしている。

タックスアンサーNo.3155 借家人が立退料をもらったとき
立退料は、その中身から次の3つの性格に区分され、それぞれその所得区分は次のとおりとなります。
1 資産の消滅の対価補償としての性格のもの
家屋の明渡しによって消滅する権利の対価の額に相当する金額は、譲渡所得の収入金額となります。
2 収入金額または必要経費の補填としての性格のもの
立ち退きに伴って、その家屋で行っていた事業の休業等による収入金額または必要経費を補填する金額は、事業所得等の収入金額となります。
3 その他の性格のもの
上記1および2に該当する部分を除いた金額は、一時所得の収入金額となります。

医療費控除メガネ訴訟東京高判平成2年6月28日行集41巻6=7号1248頁百選5版54……眼鏡及びコンタクトレンズの購入代金並びに視力検査費用等は所得税法73条2項及び所税令207条に規定する医療費に当たらない
所税73条(医療費控除)「居住者が、各年において、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払つた場合において、その年中に支払つた当該医療費の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)の合計額がその居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の五に相当する金額(当該金額が十万円を超える場合には、十万円)を超えるときは、その超える部分の金額(当該金額が二百万円を超える場合には、二百万円)を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。
2 前項に規定する医療費とは、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいう。」[3項略]

大阪地判令和4年12月22日令和3(行ウ)48号(棄却)・大阪高判令和5年7月26日令和5(行コ)15号(棄却)・最二小決令和5年12月22日令和5(行ヒ)375号(不受理)(藤間大順「司法修習生が得る基本給付金および修習専念資金の非課税所得該当性」新・判例解説Watch租税法No.186 (2024.7.19))……所得税法9条1項15号「学資に充てるため給付される金品」非該当

4.3.2. 必要経費

4.3.2.1. 必要経費の意義と定義(所税37条)

所税37条(必要経費)1項「その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額……の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、[1]これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及び[2]その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。」[2項略]

[1]直接費用……費用収益対応の原則……法人税法22条3項1号と対応
[2]間接費用……債務確定基準……法人税法22条3項2号と対応
[3]法人税法22条3項3号(損失)に対応する規定はない。所税51条、72条が部分的に規定する(⇒4.6.2.)

弁護士交際費事件東京高判平成24年9月19日判時2170号20頁……支出と業務との「直接」関連性を要しない。

ロータリークラブ年会費事件・東京高判令和元年5月22日訟月65巻11号1657頁……「直接」関連性がない費用の必要経費該当性を否認。

大阪地判平成30年4月19日税資268号順号13144平成27(行ウ)393号・控訴審大阪高判平成30年11月2日税資268号順号13206平成30(行コ)59号……外注費の必要経費該当性を否認。「必要」とはいえない。

訴訟費用・弁護士費用の必要経費算入可否について裁判例の傾向は定まっていない。
課税処分の訴訟費用は還付加算金(雑所得)の必要経費に当たるか……消極:福岡高宮崎支判平成24年2月15日訟月58巻8号3073頁、広島高判平成24年3月1日訟月58巻8号3045頁。

過納税の還付金(非課税所得)と還付加算金(雑所得)を取り戻すために要した弁護士費用の必要経費該当性が、還付加算金に対応する部分について按分的に認められるか……積極:福岡高判平成22年10月12日税資260号順号11530先物取引裁判例集61号59頁(一審大分地判平成21年7月6日税資259号順号11239平成19(行ウ)6号。名古屋地判平成21年9月30日判時2100号28頁百選7版35に類した事例……先物取引損害和解金)。
消極:クラウンファスナー事件・東京高判平成29年12月6日訟月64巻9号1366頁平成29(行コ)2号(一審東京地判平成28年11月29日税資266号順号12940平成27(行ウ)388号)。

4.3.2.2. 家事費・家事関連費(所税45条)

所税45条(家事関連費等の必要経費不算入等)「居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。
 一 家事上の経費[家事費]及びこれに関連する経費[家事関連費]で政令で定めるもの[所税令96条所基通45-2参照]
 二 所得税(不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を行う居住者が納付する第131条第3項(確定申告税額の延納に係る利子税)……の規定による利子税で、その事業についてのこれらの所得に係る所得税の額に対応するものとして政令で定めるものを除く。)
 三 所得税以外の国税に係る延滞税、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税並びに印紙税法…の規定による過怠税[三号の二略]
 四 地方税法……の規定による道府県民税及び市町村民税(都民税及び特別区民税を含む。)
 五 地方税法の規定による延滞金、過少申告加算金、不申告加算金及び重加算金[六号略]
 七 罰金及び科料……並びに過料[⇒4.3.3.
 八 損害賠償金……で政令で定めるもの[⇒COLUMN4-4][九〜十四号略]
2 居住者が供与をする刑法……第198条(贈賄)に規定する賄賂又は不正競争防止法……第18条第1項(外国公務員等に対する不正の利益の供与等の禁止)に規定する金銭その他の利益に当たるべき金銭の額及び金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額(その供与に要する費用の額がある場合には、その費用の額を加算した金額)は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。[⇒4.3.3.]」[3項略]


不動産受贈に係る贈与税は所得税法45条1項各号に掲げられていないが受贈人の不動産所得に係る必要経費に算入されないという結論は多くの裁判例で安定している。しかし理由付けが安定していない。……5版§231.02賃貸用土地贈与事件・大阪高判平成10年1月30日税資230号337頁平成9(行コ)6号と大阪高判平成29年9月28日訟月64巻2号244頁を比較。
なお、6版§222.06ゴルフ会員権贈与事件(右山事件)・最判平成17年2月1日判時1893号17頁の後、所基通37-5に注1が追加された。

所基通37-5(固定資産税等の必要経費算入) 業務の用に供される資産に係る固定資産税、登録免許税(登録に要する費用を含み、その資産の取得価額に算入されるものを除く。)、不動産取得税、地価税、特別土地保有税、事業所税、自動車取得税等は、当該業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入する。
(注)1 上記の業務の用に供される資産には、相続、遺贈又は贈与により取得した資産を含むものとする。
2 その資産の取得価額に算入される登録免許税については、49−3参照

4.3.3. 違法な利得・違法な支出(所税36、37、45条)

6版§211.02利息制限法違反利息事件(板橋事件)・最判昭和46年11月9日民集25巻8号1120頁百選7版33na
事実・争点 利息制限法の制限を超過していた場合の利息の課税について。
判旨 請求認容。[4]利息制限法の制限超過部分の利息のうち未収部分は課税対象とならない。
 (争点ではないが、[2]違法でない利息については未収であっても履行期到来時に所得として課税対象となる⇒4.4.1.発生主義)
争点ではなかったが後々引用される部分 [3]現実に収受された場合について「制限超過部分をも含めて、現実に収受された約定の利息・損害金の全部が貸主の所得として課税の対象となる」。「貸主は、いつたん制限超過の利息・損害金を収受しても、法律上これを自己に保有しえないことがあるが、そのことの故をもって、現実に収受された超過部分が課税の対象となり得ないものと解することはできない」。ev

以下の4パターン、気を付けて。([1]は気を付けなくてよいけど)
[1]適法な利息で収受した時
[2]適法な利息で未収受の時
[3]違法な利息で収受した時
[4]違法な利息で未収受の時

所基通36-1(収入金額)「法第36条第1項に規定する「収入金額とすべき金額」又は「総収入金額に算入すべき金額」は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない。」
昭和26年所基通148は「一応所有権が移転するもの」であるかどうかによる区別。現通達はその区別に拠ってない。(旧通達は窃盗等と詐欺等とを区別)eu

私法に依拠すれば、違法利得の返還債務を負っている筈であり、違法利得の額と返還債務の額とは等しいから、相殺すれば所得は零の筈では?⇒4.4.3.管理支配基準(6版§232.03仙台賃料増額請求事件・最判昭和53年2月24日民集32巻1号43頁)とも深く関連する。
現実に収受した制限超過利息が後に借主に返還された場合は?(⇒4.8.2.2.3.2.2.b.)

所税152条(各種所得の金額に異動を生じた場合の更正の請求の特例)「確定申告書を提出し、又は決定を受けた居住者……は、当該申告書又は決定に係る年分の各種所得の金額につき第六十三条(事業を廃止した場合の必要経費の特例)又は第六十四条(資産の譲渡代金が回収不能となつた場合等の所得計算の特例)に規定する事実その他これに準ずる政令で定める事実が生じたことにより、国税通則法第二十三条第一項各号(更正の請求)の事由が生じたときは、当該事実が生じた日の翌日から二月以内に限り、税務署長に対し、当該申告書又は決定に係る第百二十条第一項第一号若しくは第三号から第八号まで(確定所得申告書の記載事項)又は第百二十三条第二項第一号、第五号、第七号若しくは第八号(確定損失申告書の記載事項)に掲げる金額……について、同法第二十三条第一項の規定による更正の請求をすることができる。この場合においては、更正請求書には、同条第三項に規定する事項のほか、当該事実が生じた日を記載しなければならない。」

所税令274条(更正の請求の特例の対象となる事実)「法第百五十二条……に規定する政令で定める事実は、次に掲げる事実とする。
 一 確定申告書を提出し、又は決定を受けた居住者の当該申告書又は決定に係る年分の各種所得の金額……の計算の基礎となつた事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたこと。
 二 前号に掲げる者の当該年分の各種所得の金額の計算の基礎となつた事実のうちに含まれていた取り消すことのできる行為が取り消されたこと。」

税通23条(更正の請求)「納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から五年(第二号に掲げる場合のうち法人税に係る場合については、十年)以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等……につき更正をすべき旨の請求をすることができる。
 一 当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額……が過大であるとき。[二・三号略]
2 納税申告書を提出した者又は第二十五条(決定)の規定による決定……を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する場合(納税申告書を提出した者については、当該各号に定める期間の満了する日が前項に規定する期間の満了する日後に到来する場合に限る。)には、同項の規定にかかわらず、当該各号に定める期間において、その該当することを理由として同項の規定による更正の請求……をすることができる。
 一 その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき その確定した日の翌日から起算して二月以内」[二号以下略]


法人税法に関し利息制限法違反利息(及び遅延損害金)を益金算入していたことについて更正の請求を棄却した事例がある……(ケ6版380頁)TFK事件(旧武富士事件)・東京地判平成25年10月30日判時2223号3頁・控訴審東京高判平成26年4月23日金融法務事情2004号107頁。6版§321.03クラヴィス事件・最判令和2年7月2日民集74巻4号1030頁

cf.(ケ6版123頁)富士重工事件最判昭和38年10月29日判時352号30頁cs…「税法の見地においては、課税の原因となつた行為が、厳密な法令の解釈適用の見地から、客観的評価において不適法、無効とされるかどうかは問題でなく、税法の見地からは、課税の原因となつた行為が関係当事者の間で有効のものとして取り扱われ、これにより、現実に課税の要件事実がみたされていると認められる場合であるかぎり、右行為が有効であることを前提として租税を賦課徴収することは何等妨げられない。」との一般論の下、終戦直前、飛行機会社の国営への移管の下に資材が売買され、終戦後、軍需工廠廃止に伴い資材が民間会社たる原告に払い下げられ、先の買収代金一六億円余(これが戦時補償請求権となる)から払下代金四億円余の限度において相殺し、もって「この法律施行前に戦時補償請求権について決済を受けた」(戦時補償特別措置法二条)という事案において、資材の売買と相殺とが仮に民・商法の厳密な解釈適用上無効とされる等の場合でも、課税処分当時当事者間で有効として取り扱われ、現実に相殺による決済を生じていたと認められる限り、戦時補償特別税を課すことが許されるとした事例……金子宏を始め学界はこの最高裁判例を無視しようとしてきたが、帯広神経外科病院事件で引用された。

帯広神経外科病院事件東京高判平成23年10月6日訟月59巻1号173頁…個人病院が得た不正な診療報酬について健康保険法・国民健康保険法・介護保険法に基づき返還債務が発生し更に加算金が課された事案で、返還債務の成立時点(未払い時点)では、また加算金については、必要経費算入が認められない(所得税法37条1項、45条、51条、所税令98条、141条)。

6版§231.03 高松市塩田宅地分譲事件高松地判昭和48年6月28日行集24巻6=7号511頁nb
事実・争点 宅建業法違反の代理報酬を支払った場合に所税37条の必要経費として認定されるか。
土地の譲渡があったのか仲介が行なわれたにすぎないのか、課税処分取消訴訟の審理対象は何か(⇒訴訟物3.2.4.2.)、事業所得の意義は何か、といった様々な論点が現れている、一粒で何度もおいしい事案といえる。
判旨 総額主義争点主義…「課税処分取消訴訟の審理の対象は、課税庁の決定した所得金額の存否そのものであり、原告の主張する具体的違法事由ではない」「課税庁は訴訟の過程において〔処分〕当時考慮されなかった新たな事実でも、右処分を正当とする理由として主張することは可能である」
本件結論部分 「右法律に違反する報酬契約の私法上の効力いかんは問題であるとしても、現実に右法律所定の報酬額以上のものが支払われた場合には、所得税法上は右現実に支払われた金額を経費(右報酬の支払を受けた不動産仲介業者については所得)として認定すべき」

所税45条(家事関連費等の必要経費不算入等⇒4.3.2.2.) 1項7号罰金等……所得課税の理論から言えば、罰金も、必要経費の性質(ex.駐車違反)を備えているならば、本来は所得から控除されるべきである(それは違法な支出に関する上掲裁判例の通りである)。しかし、罰金の控除を認めると、罰金の効果が税率分だけ弱まる。例えば、限界税率40%の納税者につき100の罰金の控除が認められると、100の罰金を科したつもりが経済的負担としては60にとどまってしまう
 所税45条1項各号が例示規定ならば、上記の趣旨を一般化するものとして「公序(public policy)の理論」(45条を類推解釈していく)に繋がる。しかし45条1項各号は限定列挙であり、解釈論としては無理がある。 (尤も、ここまで経費性ありを前提としてきたが、裁判では経費性の有無も当然に激しく争われえよう……特に暴力団関係ey)
 所税45条2項exの性質…賄賂は経費の性質を持つかもしれないが……公序違反?受け手の課税可能性?
 法人税については別論の余地あり。⇒5.2.3.5.b.6版§323.03エス・ブイ・シー事件・最決平成6年9月16日刑集48巻6号357頁

4.3.4. 帰属所得

帰属所得(imputed income)の典型例である帰属家賃imputed rentの例参照。家庭内(⇒4.1.3.課税単位)
Cは自宅、AがBに家を貸す、という例で、Bの賃料支払は控除されない→Bの賃金が500万円で賃料支出が120万円でも課税所得は380万円に減らず500万円のまま(トマトを買っても課税所得が減らないのと同じ)。
帰属家賃非課税(課税している例としてオランダfa)がもたらす非中立性の数値例参照ez
Bの支払家賃の控除を認めてB・C間の中立性を図ると、どのような非中立性が新たに生ずるか?要考察。

公平の観点で帰属所得(市場価格で算定)は算定されることに留意(中立性の観点と余暇⇒COLUMN4-2)。
自家労働の例として髪を切る等を想起せよ。(立法未対応)
自家消費については立法対応済み。

所税39条(たな卸資産等の自家消費の場合の総収入金額算入)「居住者がたな卸資産……を家事のために消費した場合又は山林を伐採して家事のために消費した場合には、その消費した時におけるこれらの資産の価額に相当する金額は、その者のその消費した日の属する年分の事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入する。」
消税4条5項1号「個人事業者が棚卸資産又は棚卸資産以外の資産で事業の用に供していたものを家事のために消費し、又は使用した場合における当該消費又は使用」「は、事業として対価を得て行われた資産の譲渡とみなす。」
消税28条3項1号「第四条第五項第一号に掲げる消費又は使用 当該消費又は使用の時における当該消費し、又は使用した資産の価額に相当する金額」「をその対価の額とみなす。」

4.4. 所得の年度帰属(タイミング)

4.4.1. 現金主義(cash method)と発生主義(accrual method)

所得税法36条1項:収入金額(収益) 37条1項:必要経費(費用) (例外の現金主義:所税67条1項)
法人税法22条2項:益金(収益) 22条3項:損金(費用)

(個人)所得税の計算期間は暦年(1月1日〜12月31日)であるが、法人税の計算期間は事業年度に依拠し、法人によって異なる。○○年3月期(4月1日〜3月31日)といった事業年度をとる法人が多い。いつ収入金額(法人なら益金)・必要経費(法人なら損金)をたてるべきか、が年度帰属の問題。

所得の年度帰属がなぜ問題となるのか。
第一:税務行政の安定・予見可能性という要請
第二:経済的実体としても有利不利がある……(1)課税繰延・(2)適用税率・(3)損益通算等の問題。

4.4.2. 権利確定主義(所税36条)

所税36条1項「その年において収入すべき金額」→権利確定主義を採用。
法税22条2項「益金の額に算入すべき金額は…取引…に係る当該事業年度の収益の額とする。」

争点は過誤納金の還付請求・不当利得返還請求についてであるが、6版§232.01雑所得貸倒分不当利得返還請求事件最判昭和49年3月8日民集28巻2号186頁百選7版102fi(cf.2.2.1.1.d.)……「その年において収入した金額」(現金主義的発想)と規定せず「収入すべき金額」という法的権利関係に着目した規定をしていることから、原則として「収入の原因たる権利が確定的に発生した」時点が「所得の実現」時期と解す。fg fh
(所税57条の3:外貨建取引の換算|66条:工事請負|67条の2:リース取引 略)

分限免職中学高教諭退職手当供託事件・東京地判平成29年1月13日税資267号順号12954平成27(行ウ)448号(棄却)・東京高判平成29年7月6日税資267号順号13032平成29(行コ)41号(棄却、確定)(藤岡祐治・ジュリスト1552号124頁、田中晶国・税法学581号249頁)……「現実の収入がなくても,収入となるべき権利が発生する原因となる事実関係が外観上存在し,かつ,当該権利を法律上行使することができ,権利実現の可能性を客観的に認識することができる状態に至ったときは、権利が確定した」とする。係争中でも供託されている場合、所得の実現があると判断した。§232.03仙台賃料増額請求事件・最判昭和53年2月24日の原則論(裁判確定時)と齟齬しているように見えるので理解が難しい判決。公定力という誤を判決は用いていない(ので民間企業でも同じ結論になりそう)。

東京地判令和4年8月31日令和2(行ウ)502号税資272号順号13749(棄却)(坂巻綾望・ジュリスト1589号10頁)・東京高判令和5年5月24日令和4(行コ)280号(控訴棄却。未確認)……平成26年、X氏(原告、居住者)がスイス法人たる銀行(Bank Julius Bear)と投資一任契約を締結した。銀行は本件取引(外国通貨で他の外国通貨や有価証券を取得する取引)を行った。本件取引に係る所得をX氏は平成26年、27年の確定申告に含めていなかった。税務署長は、本件取引によりX氏に所得(為替差損益)が生じたとの前提で更正処分等をした。
判旨「本件各取引に係る為替差損益が本件各取引によって新たに得られる経済的利益であるといえるかについて検討するに、外貨建取引を行った居住者の所得の金額を計算するに当たっては、当該外貨建取引を行った時における為替レートにより、当該外貨建取引の金額を円換算することとされている(所得税法57条の3第1項)ところ、本件各取引は、いずれも外国通貨で支払が行われる取引であり、外貨建取引に該当することからすると、本件各取引によって新たに経済的利益が得られるといえるか否かについても、その円換算額によって判断すべきことになる。そして、本件各取引前後の状況を円換算額に引き直してみると、@ある外国通貨(A)により他の種類の外国通貨(B)を取得する取引については、当該他の種類の外国通貨(B)の取得価額の円換算額から当該外国通貨(A)の取得価額の円換算額を控除した差額が、A外国通貨により有価証券を取得する取引については、当該有価証券の取得価額の円換算額から当該外国通貨の取得価額の円換算額を控除した差額がそれぞれ正の値であるときは、その取引によって、新たな経済的利益が得られたことになり、所得が生ずることになる。」

時価主義が理想であるが未実現利得(含み益・含み損)を認識しない理由(実現主義を採る理由)
(Cf.会社法における考慮、企業会計における考慮は変わってくる)
(1)評価・捕捉の困難 (2)納税資金調達の困難
評価の問題及び納税資金の問題が小さいときには、実現主義でなく時価主義を採ってよいのでは?
→法人税法で、売買目的有価証券等、一部の取引に関し、時価主義(⇒5.2.2.3.d.)

通常、【評価の問題、及び納税資金の問題】から【時価主義が理想だが実際は実現主義】が導かれる。
従来の教科書的説明:課税ベースは包括的所得概念。課税時期については執行の考慮から実現主義。
[浅妻]執行上の理由だけでは説明不充分であろう。課税繰延の利益(後述)を打ち消すための課税技術は学説上色々提案されているが一部でしか(アメリカにおけるOIDルール等……学部生は分からなくてよい)採用されていない。時価主義が採用されないのは、(1)(2)の理由に加えて、(3)人々の所得(の認識時期)についての感覚も影響しているのでは?(⇒4.4.5.所得概念と年度帰属との関係)

課税繰延べ(4.3.4.で後述)、損益通算(4.6.3.:所税69条)、税率変更がある場合の低い税率の年度を狙った実現など、操作可能性は納税者に課税上の利益をもたらしうる。
COLUMN4-5 クロス取引損失計上事件
2版§411.01クロス取引損失計上事件・国税不服審判所平成2年4月19日裁決・裁決事例集39集106頁
クロス取引…売建て玉(うりたてぎょく)と買建て玉(かいたてぎょく)とが同限月(げんげつ)、同数量、同単価、同約定金額で設定された先物取引。ある商品(例えば石油)を50で売るという注文と50で買うという注文を出せば、必ずどちらかが得をしもう片方が損をする。例えば市場価格が35であったら50で売るというポジションは得であるし50で買うというポジションは損である。しかし、売り注文・買い注文を出すための手数料がかかるので、合計では必ず損をする。
事実・争点 Xが上場株式の同一銘柄の売り付け・買い付けを注文し、売り付けに係る株式について値下がりを顕在化させた。Xはこの売却損を雑所得の金額の計算上控除しようとしたが、認められるか。
裁決要旨 取引が不自然かつ不合理、という主張に対して……「確かに…不利益な取引であることは否めないが、…本件売却損の額は、保有している株式が取得価額以下に値下がりしたことによって生じたものを顕在化させただけであって、現実に存在したものであり、意図的に作り出したものではないから、本件取引によって結果として損失が生ずるとしても、これをもって本件取引が経済上不自然、不合理なものということはできない。」
租税の負担を軽減する目的があってもよい。
実質課税の主張に対して……「株式について評価損の計上を認めていないのは、個人の任意にゆだねられる評価損のような内部取引を認めると、所得金額がし意的に算定されるおそれがあるからである」一方で、「現実の取引によって売買損益を発生させこれを確定させることを否定すべきいわれはな」い。本件の場合を「評価損と同視することはできない。」
租税回避行為とも認定しがたい。

考察 本件の取引を通じてXの経済的ポジションは変化していないことに留意。
 この裁決の射程が配偶者間取引にも及ぶか?納税者/課税庁それぞれの立場で主張を考えるべし。所税157条(同族会社の行為計算の否認)のような租税回避否認規定、又は所税56条(家族内費用否認⇒4.5.2.)のような個別的否認規定が、適用できるか、考えるべし。納税者の主張する私法上の法律構成等を課税庁・裁判所が否定できるか、考えるべし。(裁決のいう「不自然・不合理」の広狭とは?)
 但し取引主体が法人の場合は「売却がなかったものとして取り扱う」(つまり損失の早期実現は駄目)とされている(法基通2-1-23の4:売却及び購入の同時の契約等のある有価証券の取引)。法人が通達に文句を言いたいのであれば、訴訟せよ、ということになろうか。

2版§411.02ストラドル課税繰延事件・国税不服審判所平成2年12月18日裁決・裁決事例集40集140頁ne
事実・争点 X(同族会社)が、債券や株式の先物取引においてクロス取引を行ない、昭和63年1月期に損金を計上する一方、反対取引をした建て玉について翌事業年度に計上しようとした。Yは、反対売買の属する事業年度に損金も計上すべきであるとした。
裁決要旨 「損失の発生している一方の建て玉について手仕舞いをしただけでは取引が完結したとはいえず、利益の発生している建て玉についても手仕舞いをして初めて全体の損益が確定するものというべきである。」

考察 売建て玉と買建て玉とを個別の資産と見るか一組と見るか?
 Yの主張:ストラドル取引は「一般的に経済人の取引としては不自然、不合理」。差金決済日基準の悪用は許さない。(売建て玉と買い建て玉とが個別の資産であることは前提としている)
 裁決の構成:売建て玉と買建て玉は一体であり「損益の認識も両者を総合して行なうべき」。
 一組のものと見た理由……補填を目的として設定されていること。尤も、一組のものと見ることのできない場合と本件とをどう区別するかについては裁決は論じていない。
 [浅妻]無理やり読み取れば、「共々手仕舞いされるべき」か否か、が基準であろうか?fl

4.4.3. 管理支配基準

§232.03仙台賃料増額請求事件最判昭和53年2月24日民集32巻1号43頁百選7版67nd
判旨 所得として課税されるのは、原則として「裁判が確定した時」だが、例外として「係争中であっても…すでに金員を収受し、所得の実現があったと見ることができる状態が生じたとき」[判例は管理支配基準という表現を用いていない。]
上級審で覆った場合「更正の請求により救済を受けることができる」⇒2.3.2.2.b.税通23条2項1号…後発的事由に基づく更正の請求、⇒4.3.3. §211.02利息制限法違反利息事件

考察 賃料増額請求権は形成権と解されており、私法上、貸主の意思表示のみで効果が発生する(相手方に賃料増額の意思表示が到達した時点)。しかし借主が争った場合には、税務上は原則として「裁判が確定した時」まで待つと最高裁は述べた(形成権といえども抽象的な私権の成立だけでは所得の実現というには不充分である)。本件は更にその原則から外れる例外的な事例という位置付けとなる。
 管理支配基準自体の基準としての曖昧さ、及び、或る事案において権利確定主義に依拠すべきか管理支配基準に依拠すべきかの振り分けの基準の曖昧さがあるが、それでも、管理支配基準に依拠すべき事態の存在は否定しがたい。ただし、管理支配基準の適用範囲をみだりに拡大してはならないと説かれる。fm
 なお、現金を受けたら何でもかんでも所得実現と考えてはいけない。前受金として処理すべき場合もある。例えば2020年4月〜2021年3月分の算盤塾の月謝を2020年に全て受領した場合でも2021年1月〜2021年3月分の月謝は2021年度の収入金額として扱わなければならない。金型製作請負代金前払い(令和2年:コロナ支援)を受けても収益確定時期(法人税法22条2項)は前払でなかった従前と同様に役務提供の月末であるとした事例(国税不服審判所令和5年12月21日裁決・裁決事例集133集113頁)の紹介……北村豊「いいとこ取りは許さない

4.4.4. 課税繰延べ

年度 時価主義
所得・税
実現主義
所得・税
第1年度 100・40 0・0
第2年度 0・0 100・40
名目値合計 100・40 100・40
第2年度換算 110・44 100・40
時価主義(mark-to-market)と実現主義(realization)
課税繰延べにより課税の実質的負担は異なる。
所得・収入は遅く認識してもらい損失・費用は早く認識してもらうこと、が納税者にとって有利。
課税繰延の利益は、繰延期間だけ国から繰延税額分の無利息融資を受けるのと同じであるmo Cf.減価償却⇒5.2.3.3.b.
5.2.3.3.b. 減価償却費(depreciation cost)(所税49条法税31条)(いきなり跳躍するが許して)fn
例:計算の便宜のため利子率・割引率が10%(年複利)、税率が一律40%の世界を想定する。第0年度に1735支出して事業用の機械(時価1735)を購入した。第0年度に幾らの損失が実現したか(月日による調整は無視)。……金銭が1735減少し資産が1735増加しているので純資産増加(又は純資産減少)は0

費用収益対応の原則 → 減価償却資産の取得費は、取得の年度に一括して費用に計上するのではなく、使用または時間の経過によってそれが減価するのに応じて徐々に費用化すべき。なお、減価償却費の必要経費・損金への算入について債務の確定は要さない。

定額法(所税令120条の2第1項1号イ(1)等fo):毎年同じ額を費用に計上する。
定率法(所税令120条の2第1項1号イ(2)等):定額法より早い。(旧定率法・250%定率法は省略)

例:第0年度末に1735で購入した機械(耐用年数5年、残存価額0とする。1735/5=347)が、第1年度末に2000で売却された。減価償却を定額法で行なっているとして、第1年度の譲渡益は幾らか(月日による調整は無視)。
譲渡総収入金額−取得費等=譲渡益(所税33条3項以下)
2000−1735=265  ではなく、
2000−(1735−347)=612 である。
譲渡益を計算する際の取得費を調整……取得費=原価−減価償却費累計
課税所得の計算においては減価償却費(必要経費の一種)を控除するので、他に収入がなければ(所税33条4項無視)
612[譲渡益]−347[事業所得の必要経費]=265[損益通算後の所得] が課税所得となる。
 (譲渡所得の計算における譲渡益−50万円の過程は計算の便宜のため無視し、譲渡益=譲渡所得としている)
第1年度の間に機械を操業して事業所得を得ていればそれも当然課税所得に含まれる。
例えば、第1年度の事業所得に係る収入が500であれば、合計の課税所得は
612[譲渡益]+(500−347)[事業所得]=765 となる。

【譲渡益の計算で取得費から減価償却費を引き】、【所得計算において減価償却費を引く】は、一見、二度手間に見えてしまうかもしれないが、第2年度以降は、二度手間ではないことが以下のように分かる。
もしも第2年度末に2000で機械が売却された場合。
譲渡益=譲渡総収入金額−取得費等であり、取得費=原価−(累計の)減価償却費であるから、
2000−(1735−347×2)=959 であり、
課税所得の計算において、他に収入がなければ、
959[譲渡益]−347[事業所得の必要経費]=612[損益通算後の所得] である。
第2年度の事業所得に係る収入が500であれば、合計の課税所得は
959+(500−347)=1112 となる。

例:第1年度に1000の事業収益をもたらし、第2年度にも1000の事業収益をもたらし、第2年度末に無価値となる機械を、第0年度末に購入する場合、その機械の第0年度末における割引現在価値は1000/1.1+1000/1.12=1735である。第2列(cash flow)は第1年度、第2年度の1000ずつの事業収益の流入を示している。第3列(機械)は第0年度末、第1年度末、第2年度末の機械の割引現在価値を示している。
定額法や定率法によらず、包括的所得概念に忠実に毎年度時価評価して差額を減価償却費に計上するという真の経済的減価償却(true economic depreciation。Samuelson depreciationともいう)による計算をすると、第4列(減価償却)〜第7列(残額)のような計算になる。
加速度償却(accelerated depreciation)として第1年度に全額を減価償却費として計上できるとすると、第8列(加速償却)〜第11列(残額)のような計算になる。耐用年数が短い資産(減価償却費が早期に大きく出る)が租税回避に用いられる。(⇒6版§143.04パラツィーナ事件(フィルムリース事件)・最判平成18年1月24日民集60巻1号252頁)
初年度全額償却(expensing)(全額即時必要経費算入、全額即時損金算入など呼び方は幾つかある。4.1.1.2.(消費型所得概念)で勉強したexpensing方式と同じ)として、第0年度に購入してすぐに全額を必要経費又は損金として控除できるとすると、第12列(全額償却)〜第15列(残額)のような計算になる。
- cash
flow
機械 減価
償却
所得 税額 残額 加速
償却
所得 税額 残額 全額
償却
所得 税額 残額
第0年 -1735 1735 - - - - - - - - 1735 -1735 -694 694
第1年 1000 909 826 174 70 930 1735 -735 -294 1294 0 1000 400 600
第2年 1000 0 909 91 36 964 0 1000 400 600 0 1000 400 600
名目値 - - - 265 106 1894 - 265 106 1894 - 265 106 1894
第2年換算 - - - 282 113 1987 - 191 77 2023 - 0 0 2100
        左:真の経済的減価償却 中:加速度減価償却 右:初年度全額償却

第0年〜第2年の数値を単純に足した名目値の行を見ると、真の経済的減価償却、加速度減価償却、初年度全額償却で、同じ結果となっている。控除のタイミングを変えているだけなので当たり前である。しかし、収益は早く認識してもらい費用は遅く認識してもらう方が有利である。金銭の時間的価値を考慮に入れると、左の方が納税者に不利、右の方が納税者に有利である。その比較をするためには、現在価値に換算して計算しなければならない。
そこで第2年換算の行で、第0年〜第2年の数値を第2年度の現在価値に換算して足し合わせた数値を示している。初年度全額償却の場合、所得が0、税額も0となるのが驚愕である(少なくとも浅妻が初めて租税法を学んだ時は驚いた)。しかしexpensing方式なのだから投資の利子に相当する収益部分に課税が及ばないのは当たり前である。

初年度全額償却(expensing)の別の計算例
- 投資コスト リターン 利益 利益率
税引前 100 400 300 300%
-40 160 120 -
税引後 60 240 180 300%
初年度全額償却(支出時全額損金算入ともいう)は、加速度減価償却の究極ともいえる。
「初年度全額償却の場合、税引前の利益率と税引後の利益率はともに300%で等しくなる。租税があってもなくても利益率に変わりがない。すなわち実効税率がゼロである」(ケースブック租税法6版440頁)。
初年度全額償却は、実質的に資本所得に対する課税を消すことを意味する。これは、経済的実質としては所得課税ではなく消費課税(消費型所得概念にのっとった課税)である。
投資コスト100、リターン400のプロジェクトについて、国が40%、納税者が60%分かち合うことになる(国が40を納税者に貸し付けて300%のリターンを得ている)、ともいえる。また、最初の投資額を100から167(=100÷(1−40%))に増やせば、課税がないのと同じ状態を作り出すことができる。
支出時に全額を損金算入する課税方法はキャッシュ・フロー法人税(cash flow tax)とも呼ばれ、政策論としては少なからずの支持者がいる。fp fq

5版§231.02賃貸用土地贈与事件・大阪高判平成10年1月30日税資230号337頁に関連して。
必要経費算入】と【資本的支出・取得費算入・減価償却】との違い(cf.⇒COLUMN5-5)mn
例:第0年年末600の機械購入&関連費用150。耐用期間3年、残存価額0、定額法。月日無視。
年度 第0年 第1年 第2年 第3年
必要経費算入 資産600 経費150  資産400 経費200  資産200 経費200  資産000 経費200 
取得費算入 資産750 経費000  資産500 経費250  資産250 経費250  資産000 経費250 

4.4.5. 所得概念と年度帰属との関係(租税法概説にはない項目です)

例:第0年度末に「将来3年間、毎年度末に100を受け取ることができる有価証券」を貰ったとする。
- cash
flow
現在
価値
減価
償却
所得
第0年 0 249 - 249
第1年 100 174 75 25
第2年 100 91 83 17
第3年 100 0 91 9
「所得という言葉が所詮、その中にどんな内容を盛り込むのかを我々が決めねばならない道具概念であるなら、$(0, 100, 100, 100)という内容が内包されるように所得概念を定めればよいのではないか。この考え方は正しいが、しかし、そのような意味で定義された所得という言葉が意味しているのは、資産の価値が上昇することが所得なのではなく、上昇した価値が現金化されたときにはじめて所得になるということである。」「このような税はもはや所得税ではなく消費税である。結局、実現概念は消費税の属性を所得税の中に隠してしまうことで、2つの税制を曖昧に妥協させているのである。」(李昌煕「租税政策の分析枠組み(上下)」ジュリスト1220号119頁、1221号145頁(2002)の1220号124頁から抜粋)
或る考え方――実現主義は、執行上仕方なく採られているものではなく、人々の所得の認識の仕方に基づいている。(遅い所得実現が税務上有利なのに人々は遅らせようとしない、など)
[浅妻]時価主義を徹底すると、課税が取引・イベントから遊離する。例:第1年に天体観測をした結果、このままでは第3年に隕石が地球に衝突すると判明する。隕石を破壊するため、第3年にミサイル専門家が活躍する。第3年にミサイル専門家が活躍することは第1年の時点で予測できるから、価値が上がる。だからといって第1年のの所得として課税するのは感覚に合わない。課税の適否は理論のみによって決まるものではない。課税の正義は我々の感覚に依存するところも大きい。
COLUMN4-6 ロック・イン効果(凍結効果)(Lock-in effect, Freezing effect)
年度 (1)保持、10%増価 (2)買換、10%増価 (3)保持、9%増価 (4)時価主義、10%増価
第1年度 税0 税400 税0 税400借金400
第2年度 税440残660 税24残636 税436残654 返済440税24残636
ロック・イン効果の真の原因は、譲渡益に課税する(包括的所得概念)としつつ時価主義を採用しないという、噛み合わせの悪さにある([発展]制限的所得概念や消費型所得概念に基づく課税ならば実現主義であっても歪みは生じない)。しかしそんな理屈は実務家に響かない。
出資等による保有形態変更(例:A社が事業資産甲を保有するという形態から、A社が甲を現物出資してB社を設立し、A社がB社株式を保有しB社が甲を保有するという形態への変更)を妨げないようにするために、実現(realization)はあっても所得を非認識(non-recognition)とするロック・イン効果対策が立法される(⇒5.4.1.3.組織再編税制)。所税58条もロック・イン効果対策の一種といえる。

4.5. 所得の人的帰属

4.5.1. 実質所得者課税(所税12条)

4.5.1.1. 法律的帰属説経済的帰属説fu

所税12条(法税11条消税13条も同様)「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。」ft

信託は所税13条で別途規定。
他、例えば問屋(商法551条)についても、法律上の権利義務の帰属と実質的帰属との乖離がある。原則として問屋ではなく委託者に損益が帰属する。
商法551条「この章において「問屋」とは、自己の名をもって他人のために物品の販売又は買入れをすることを業とする者をいう。」
商法552条1項「問屋は、他人のためにした販売又は買入れにより、相手方に対して、自ら権利を取得し、義務を負う。」[2項略]


6版§213.04 冒用登記事件最判昭和48年4月26日民集27巻3号629頁百選7版108dy
事実・争点 X2の姉の夫であるCが、債権者からの追及を免れるため、C所有ではあるが第三者名義となっていた土地建物等をX1・X2名義とし、そしてX1・X2からA・Bに売却したことにしてしまった。X1・X2に譲渡所得が発生したとしてY税務署長は課税処分を行ない、またX2所有の甲土地を差し押さえた。
 Yの課税処分は所得の帰属の誤りという瑕疵を帯びている。Xらが不服申立期間を徒過した後でも処分の無効を主張できるかが争われた。

判旨 原則として「課税処分が法定の処分要件を欠く場合には、まず行政上の不服申立てをし、これが容れなかったときにはじめて当該処分の取消しを請求すべきものとされている」「その不服申立てについては法定期間の遵守が要求され」ている。
 「課税処分についても、行政上の不服申立手続の経由や出訴期間の遵守を要求しないで、当該処分の効力を争うことのできる例外的な場合」「課税処分についても、当然にこれを無効とすべき場合がありうる」
 出訴期間の制限がなくなるような「例外の場合を肯定するについて慎重でなければならない」一方で「一般に、課税処分が課税庁と被課税者との間にのみ存するもので、処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要のないことなどを勘案」
 「処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであって、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵は、当該処分を当然無効ならしめる」

検討 所税12条でいう「単なる名義人」ですらない事案といえる。
 行政処分の無効主張が認められるためには、行政処分の瑕疵の重大性かつ明白性が要求される、といわれることがある(最三小判昭和36年3月7日民集15巻3号381頁)。本件では、「課税要件の根幹についてのそれ」(=過誤)を要求する部分が瑕疵の重大性を要求する趣旨であると読めるが、他には「不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的な事情」を要求するだけで、明白性への言及がない。昭和36年最判と本件昭和48年最判との関係については百選を参照(課税処分対象者の関与の度合いに着目か?)。なお、学説では明白性を要求することに対する懐疑もある。
 cf.ねずみ講事件/天下一家の会事件・最三小判平成16年7月13日集民214号751頁…「例外的な事情」が認められなかった事例。(重大説か重大明白説か)

東京高判平成28年2月26日判タ1427号133頁…法人名義の取引。

牛枝肉問屋貸倒仕入税額控除事件大阪地判平成25年6月18日税資263号順号12235平成23(行ウ)13号fv(浅妻章如・ジュリスト1495号135頁)
事実・争点 A場(牛肉売買をする市場)に参加資格のないB(委託者・出荷者)は、牛枝肉を売るべく、問屋たるX(原告)に依頼した。Xは問屋として牛枝肉をC(買受人)に売却したが、Cの資金状態が悪く、売掛金の回収が滞ったので、貸倒損失を計上することとなった。そこで消費税法3条9号1項に基づき貸し倒れに係る消費税額の控除(仕入税額控除)を主張した。
 国(課税庁側)は、Xは問屋であるにすぎず、牛枝肉売買取引の損益は委託者であるAに帰属するものとして消費税法上扱われるべきであるから、Xに仕入税額控除権はない、と主張した。
 Xは、売買代金回収リスクを委託者・出荷者たるAではなくXが負担しているので、Xに仕入税額控除権があると主張した。

判旨 「A場において原告が問屋として行う牛枝肉取引による牛枝肉の譲渡に係る対価を享受するのは原告ではなく委託者(出荷者)であるといえそうであるが……資産の譲渡等を行った者の実質判定はその法的実質によるべきものであるところ,以下の諸点に鑑みれば,牛枝肉取引の法的実質として,法律上資産(牛枝肉)の譲渡等を行ったとみられる者すなわち問屋であるXが,単なる名義人にすぎず,当該資産(牛枝肉)の譲渡等を行ったものではないということはできないものと解するのが相当である。」
 「牛枝肉取引に係る買受人に対する牛枝肉の売主はXであって委託者(出荷者)ではなく,買受人に対する売買代金請求権を有するのも委託者(出荷者)ではなくXである。[改行] そして,牛枝肉取引に係る買受人からの売買代金回収のリスクを負うのも委託者(出荷者)ではなく,Xである。すなわち,Xは,買受人から売買代金の回収ができたか否かに関わらず,その卸売がされた日の翌日までに委託者(出荷者)に対し売買仕切金を支払わなければならず……,買受人からの代金回収ができなかった場合(貸倒れとなった場合)に,Xが委託者(出荷者)に対する売買仕切金の支払を免れ,あるいは,委託者(出荷者)から既払の売買仕切金の返還を受けることができる旨の定めは存しない。」
 「A場における牛枝肉取引において,制度上およそXが売買代金回収のリスクを負わない仕組みが構築されているものとは言い難い。そして,上記のとおり,Xと本件各買受人との間で締結された約定(本件各約定)においては,Xが負う売買代金回収のリスクを回避する方策として,買受限度額や買受限度相当額の担保の差入れ等の定めを設けていたものであるが,本件各約定においても,上記のとおり同買受限度額を超えてXが牛枝肉を販売することは禁じられていないのであって,Xが本件各買受人に対し,その買受限度額を大幅に超過した牛枝肉の販売を行い,また,買受限度額を超過した販売を行った後その超過額について直ちに精算することを求める等の措置を採らなかったことが本件各債権の回収を不能ならしめた大きな要因といえるとしても,このようにXが売買代金回収のリスクを回避する手段を採らなかったことによる損害は,X自身が現に負担しているものといえる。」

(Barclays)バークレイズ銀行事件東京地判令和4年2月1日令和2(行ウ)271号税資272号順号13665(認容)(伊藤剛志・ジュリスト1577号10-11頁、阿部雪子・ジュリスト1592号147-150頁、望月爾「外国法人の東京支店が発行した社債利子の帰属と実質所得者課税の原則」新・判例解説Watch租税法No.187 (2024.8.9))
 事実 X社(原告。英国法人。バークレイズ・バンク・ピーエルシー)東京支店(T支店)がX社ロンドン本店(L本店)に対して本件社債を発行した。L本店はBCL社(X社の完全子会社。ルクセンブルク法人。BARCLAYS CAPITAL LUXEMBOURG S.A R.L.)に本件社債を譲渡した。BCL社はITS社(日本法人。ICAP東端証券株式会社。ICAP TOTAN SECURITIES CO.LTD)に本件社債を譲渡した。X社は、本件社債に係る本件利子の収益を実質的に享受している者は(ITS社又は←ITS社であるかは争点ではなくなった)L本店であるとして、本件利子の各支払に際し源泉徴収をしなかった。麻布税務署長は、享受者はBCL社であるとして、本件各処分(源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及び各不納付加算税賦課決定処分)をした。
 争点 本件利子の実質所得者(所得税法12条)がL本店か(X側主張)、BCL社か(Y側主張)。
 判旨 「所得税法12条……の趣旨は,課税物件の法律上(私法上)の帰属につき,その形式と実質が相違している場合には,実質に即して帰属を判断すべきとするものと解され,本件の課税物件である本件利子の実質所得者を判断するに当たっては,本件利子に係る経済的損益の帰属先のほか,本件資金調達取引全体の仕組み,本件資金調達取引に至る経緯あるいは関係者の認識,本件資金調達取引の実施状況など諸般の事情を総合的に考慮すべきものと解される。」
 「本件資金調達取引においては、本件利子に係る収益を含む本件社債等に関する経済的な損益につき,法的な権利義務関係を通じて,最終的にロンドン本店に帰属するという仕組みを採用していることのほか,本件社債等に係る損益を全てロンドン本店に帰属させることが本件資金調達取引を実施する不可欠の要素であることは,本件資金調達取引を行う関係者間における一貫した共通認識であって,本件資金調達取引の実際の実施状況もこれに沿う形で行われているものである。かかる本件利子の経済的損益の帰属先も含めた本件資金調達取引の仕組み,本件資金調達取引に至る経緯あるいは関係者の認識,本件資金調達取引の実施状況に鑑みれば,本件利子に係る収益については,実質的にロンドン本店が支配するものであり,ITS社あるいはBCL社が当該収益を支配するものではないというのが,本件資金調達取引の関係者間の真実の法律関係であると認めるのが相当であり,ロンドン本店が本件利子の実質所得者であるというべきである。」

4.5.1.2. 家族内での所得の帰属と稼得者課税

勤労性所得の帰属変更否認→稼得者課税 (但し6版§213.02歯科医院親子共同経営事件・東京高判平成3年6月6日訟月38巻5号878頁に留意)
資産性所得は、原則としてその資産の所有者に帰属する。(但し資産移転時の贈与税に留意)
所得分割を駆使した租税回避(高税率適用回避)の難易は所得の種類により異なる。fx

6版§213.03株取引包括委任事件・熊本地判昭和57年12月15日訟月29巻6号1202頁
XがXの妻に証券を贈与した訳ではなく、配当金を受け取ったり投資信託を切り替えたり等を妻に任せたにすぎない場合、各証券会社との間の有価証券取引については、その個別的、具体的な取引行為自体は妻が担当していても、Xの包括的な委託に基づくものであって、その取引による株式譲渡益としての所得は全てXに帰属する

東京地判昭和63年5月16日判時1281号87頁百選6版29 cf.6版§212.03二分二乗
民法756条夫婦財産契約の対抗要件) 夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。
夫婦財産契約をした上で夫の所得の半分を妻の所得であるとして申告することの可否――ある収入が所得税法上誰の所得に属するかは、当該収入に係る権利が発生した段階において、その権利が相手方との関係で誰に帰属するかということによって決定され、夫婦財産契約の登記の有無に関わりなく、夫又は妻の一方が得る所得そのものを原始的に夫及び妻の共有とする夫婦間の合意はその意図した効果を生じないfw

大阪地判令和3年4月22日平成31(行ウ)51号税資271号順号13553一部認容、一部却下・大阪高判令和4年7月20日令和3(行コ)64号税資272号順号13735原判決取消、請求一部棄却(確定)(阿部雪子・新・判例解説Watch租税法No.174、首藤重幸・税研222号86-89頁・税研229号102-106頁、佐藤英明・税務事例研究191号27-49頁、住永佳奈・新・判例解説Watch租税法No.183)
父から子に駐車場を使用貸借し、駐車料金(不動産所得)の帰属が父ではなく子であると納税者側が主張した事例(狙いは所得分割というよりも父の死亡時の相続税納税資金確保目的であったらしい)。なお、この使用貸借に関し父から子へのみなし贈与(相税9条)課税がなされるか、定かでない。直資2-189昭和48年11月1日「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」参照。なお、相続税基本通達9-10で無利息貸付の贈与税課税がありうるとされていることと整合していない。
一審は納税者側の主張を認めたが控訴審で逆転した。
一審……「本件各使用貸借契約書の記載どおり,本件各使用貸借契約は成立したと認められる(なお,A又はBは,原告に対し,G等土地又はH土地の各年の固定資産税等の合計額相当額を支払うこととされているが……,それは使用収益に対する対価の意味を持つものとは認められないから,本件各使用貸借契約は,民法上の使用貸借契約の性質を有するものと解される……。)。」
 「本件各土地の賃貸借に関する民法上の法律関係を,所得税法12条の規定に照らしてみると,A又はBは,「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者」に該当する」

控訴審……「アスファルト舗装は、路盤にアスファルト混合物を敷き均して、転圧機械により所定の密度が得られるまで締固め、所定の形状に平坦に仕上げるものであり、アスファルト舗装された地面のうち、アスファルト混合物が含まれる表層及び基層部は、土地の構成部分となり、独立の所有権が成立する余地はないというべきである。[改行] したがって、亡Dにおいて、本件各贈与契約のうち本件各舗装部分の所有権を被控訴人E及び同Gに移転させることは原始的に不能であることは明らかであるから、本件各贈与契約のうち前記舗装部分等を対象とする部分はいずれも無効といわなければならない。そうすると、本件各使用貸借契約書の作成により、当事者が当初意図したところの被控訴人E及び同Gが本件各舗装部分を所有することを目的とした本件各使用貸借契約が成立したと解釈する余地はないというべきである。」
 「不動産所得である本件各土地の駐車場収入は、本件各土地の使用の対価として受けるべき金銭という法定果実であり(民法88条2項)、駐車場賃貸事業を営む者の役務提供の対価ではないから、所有権者がその果実収取権を第三者に付与しない限り、元来所有権者に帰属すべきものである。[改行] そして、本件で被控訴人E及び同Gが本件各土地の法定果実を収取できる根拠は使用借権(民法593条)であるが、使用借主は、その無償性から、本来使用貸主の承諾を得ない限り、法定果実収取権を有しないところ(同法594条2項)、本件においては、既に本件各土地の所有権に基づき駐車場賃貸事業を営んで賃料収入を取得していた亡Dが、子である被控訴人E及び同Gに本件各土地を使用貸借し、法定果実の収取を承諾して、その事業を前記被控訴人らに承継させたというのであるから、本件各取引は、亡Dが本件各土地の所有権の帰属を変えないまま、何らの対価も得ることなく、そこから生じる法定果実の帰属を子である前記被控訴人らに移転させたものと評価できる。しかも、使用貸借における転貸の承諾、すなわち法定果実収取権の付与は、その無償性から、その承諾を撤回し、将来に向かって付与しないことができると考えられることからすると、そもそも亡Dから使用貸借に基づく法定果実収取権を付与されたことで、当然に実質的にも本件各土地からの収益を享受する者と断ずることはできないというべきである。」

東京高判平成30年8月29日税資268号順号13178…夫が賃貸用マンションを妻に使用貸借し、妻が賃貸人となった事例で、夫の口座に賃料が振り込まれている、夫の口座から借入金の返済がなされているなどの事情から、夫が所得税法12条の実質的帰属者であるとされた事例。

4.5.2. 家族事業:家族内での給与等の必要経費算入の可否(所税56・57条)

所税56条(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、[1]その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、[2]その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、[3]その親族が支払を受けた対価の額及び[4]その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。」

所税57条(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)「青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族……で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「青色事業専従者」という。)が当該事業から次項の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、前条の規定にかかわらず、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする。[2項略]
3 居住者(第一項に規定する居住者を除く。)と生計を一にする配偶者その他の親族……で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「事業専従者」という。[講学上「白色事業専従者」という])がある場合には、その居住者のその年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、各事業専従者につき、次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を必要経費とみなす。
 一 次に掲げる事業専従者の区分に応じそれぞれ次に定める金額
  イ その居住者の配偶者である事業専従者 八十六万円
  ロ イに掲げる者以外の事業専従者 五十万円
 二 その年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額……を当該事業に係る事業専従者の数に一を加えた数で除して計算した金額」[4項以下略]ci


所税56条の所得分割禁止規定はみなし規定である(反証の余地もない)。
効果は以下の4つ(A「居住者」がB「親族」に対価を支払った場合)。
[1]Aの当該事業に係る事業所得等の必要経費不算入
[2]Bが当該対価に関し払った経費はAの必要経費に算入する
[3]Bが受けた対価はBの所得の計算上ないものとみなす
[4]Bが払った経費はBの所得の計算上ないものとみなす

所税57条1項を使わなくても法人成りして法人から家族従業員に賃金を支払うという法形式にしてしまえば、合法的に所得分割できる。というより、法人成りした例と個人事業の例とで中立性を確保するために所税57条1項が立法されたともいえる。4.2.6.3.給与所得控除も租税負担減のために重要。

6版§234.02弁護士夫婦事件・最判平成16年11月2日判時1883号43頁百選7版32fz
事実 弁護士Xが、配偶者であり別の事務所を開設している弁護士Aに対して、Xの事業に関連し1年当たり595万円の対価を支払い、Xの確定申告において必要経費に算入した(Aの側では所得に含められている)。Y税務署長は、所税56条に基づき、Xの必要経費算入を認めなかった。一審・二審ともX敗訴。

判旨 上告棄却。
 事業所得稼得者が親族等に対価を支払って「必要経費にそのまま算入することを認めると、納税者間における税負担の不均衡をもたらすおそれがあるなどのため、」親族等が「事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には」「必要経費に算入しないものとした」。
 親族等が「別に事業を営む場合であっても、そのことを理由に同条[所得税法56条]の適用を否定することはできず、同条の要件を満たす限りその適用がある」。
 「同法56条の上記の立法目的は正当」 「適用の対象を明確にし、簡便な税務処理を可能にするため」 「立法目的との関連で不合理で」はない。
 青色申告等所定の要件を満たす場合に限り必要経費算入を認める「57条の定める場合に限って56条の例外を認めていることについては、それが著しく不合理であることが明らかであるとはいえない」。(⇒§111.01大嶋訴訟)

考察 所税56条の合理性自体への疑問、及び所税56条の適用範囲についての疑問が、提起されやすい。所税56条は悪法であるという意識が学説で根強く、また、その適用範囲も狭く解釈されるべき、とする傾向がある。親族等が雇用及びそれに類する関係でXの事業に従属的に従事している場合に56条の適用範囲を限定し、親族等が独立の事業を営んでいる場合や対価支払が恣意的な価格設定になりにくい場合(例えば通常の地代を払うにすぎない場合。後掲特許事務所賃借事件参照)には56条を適用すべきでない、といった考え方である。具体的な解釈論としては56条の「事業に従事したことその他の事由」の広狭が問題となる。

弁護士税理士事件・最判平成17年7月5日税資255号順号10070平成16(行ツ)248号:弁護士夫→税理士妻支払。東京地判平成15年7月6日判時1891号44頁で56条不適用。→控訴審以降56条適用。

特許事務所賃借事件・東京高判平成3年5月22日税資183号799頁:夫→妻:建物賃料支払。56条適用。

最判昭和51年3月18日判時812号50頁百選7版31cn……既婚の長男・次男が所税56条「生計を一にする…親族」に当たるか。

東京高判平成29年4月13日税資267号順号13010確定……所税57条1項青色専従者控除に関する「他に職業を有する者」該当性。

4.5.3. 共同事業と事業の主宰者

6版§213.02歯科医院親子共同経営事件・東京高判平成3年6月6日訟月38巻5号878頁百選7版28gb
事実 父XがT歯科医院を営んでおり、子Sは歯科医師国家試験に合格した後、Xとともに同医院において診療に従事。SはS自身の名義の個人事業開業届けを税務署長に提出。XとSが総収入及び総費用を折半して確定申告。Y税務署長は、SはXの事業専従者であるとし、収入・費用がXに帰属するとした。

判旨 請求棄却。
 一般論 「収入が何人の勤労によるものであるかではな」い。「ある事業による収入は、その経営主体であるものに帰したものと解すべき」
 事実認定 「Xが昭和35年から20数年来医院を経営してきた」 係争年度における「医院の実態は…Xの長年の医師としての経験に付する信用力の元で経営されていたと見るのが相当であり、したがって、医院の経営に支配的影響力を有しているのはXである」

考察 「収入が何人の所得に属するかは……何人の収入に帰したかで判断される問題である」だけでは循環論法であり悪い答案。しかし「何人の勤労によるかではなく」が示唆を与える。(なお最判昭和37年3月16日税資36号220頁は所税11条の2〔現56条〕につき「長男が所論のように奴隷的存在になるというわけではな」いと論ずる。)
 勤労による所得は給与所得であるにすぎない。事業所得を得たというためには、労務の提供ではなく経営者としての実態(責任の負担等)がなければならない、という判断枠組みが本件にも継承されている。
 一人の事業の主宰者gaなる基準(或いは事業主基準)が判例上あると言われる。なお、4.5.1.2.実質所得者課税の稼得者課税(勤労してない者に所得は帰属しない)と場面が異なり、ここでは勤労していても所得が帰属しない者がでてくる。
 通達でも共同事業を共同事業と認定せずなるべく一人の事業であると認定しようとする傾向が見受けられる。所基通12-2〜所基通12-5参照。尤も所得の分割的帰属を絶対に認めないという程ではなく、共同事業として収入金額・必要経費の分割を認める基準にも留意。一方の資産性所得については所基通12-1及び§213.03株取引包括委任事件参照。
 金子宏は、どちらかが主宰者というのが実態に合わず、共同事業と認められる場合もあると論ずる。
 明文の任意組合契約が締結されたら、所得分割を課税庁は否認できなかろう。 cf.ドランクドラゴン

4.6. マイナス項目

4.6.1. 必要経費(所税37条)

4.6.2. 損失(資産価値の減少)(所税51条・72条)

4.6.2.1. 事業・業務用の資産(51条)

所税51条(資産損失の必要経費算入) 居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業の用に供される固定資産その他これに準ずる資産で政令で定めるものについて、取りこわし、除却、滅失(当該資産の損壊による価値の減少を含む。)その他の事由により生じた損失の金額保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額及び資産の譲渡により又はこれに関連して生じたものを除く。)は、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する
2 居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業について、その事業の遂行上生じた売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる債権の貸倒れその他政令で定める事由により生じた損失の金額は、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。[3項略]
4 居住者の不動産所得若しくは雑所得を生ずべき業務の用に供され又はこれらの所得の基因となる資産(山林及び第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する資産を除く。)の損失の金額保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額[⇒COLUMN4-4保険金・損害賠償金の非課税。ライブドア資産損失事件・・神戸地判平成25年12月13日判時2224号31頁]、資産の譲渡により又はこれに関連して生じたもの及び第一項若しくは第二項又は第七十二条第一項(雑損控除)に規定するものを除く。)は、それぞれ、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額又は雑所得の金額……を限度として、当該年分の不動産所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入する。[5項略]

51条の「損失」と4.6.3.損益通算・所税69条の「損失」との違いに留意。

6版§234.01事業上の損失 事業所得貸倒分不当利得返還請求事件最判昭和53年3月16日訟月24巻4号840頁cq……「事業所得として課税の対象とされた金銭債権が後日貸倒れ等により回収不能となつたときは、その回収不能による損失額を、当該回収不能の事実が発生した年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入すべきものとされ、これによつて納税者は実質的に先の課税について救済を受けることができたのであるから、それとは別に、納税者が徴税者たる国に対し、右回収不能による損失額に対応する徴収ずみの税額につき不当利得として返還を請求することは、法の認めないところであつたと解すべきである。」
6版§232.01雑所得貸倒分不当利得返還請求事件・最判昭和49年3月8日民集28巻2号186頁と比較。

cf.福岡地判平成23年1月20日訟月58巻6号2488頁請求棄却・福岡高判平成23年9月8日訟月58巻6号2471頁控訴棄却(ケ6版308頁)(佐藤英明・ジュリスト1471号124頁)……出資法5条違反の貸金業者が顧客に貸付金元本を返還を求めることができないことの損失が、所得税法51条2項にいう貸倒れ損失に当たらないとされた事例(所税令141条3号も非該当としている。所税152条・令274条とのバランスから一旦所得に計上されたものだけが「経済的成果」に当たるとして、所得計上されようがない元本部分は令141条3号に当たりえないとしている)。[浅妻]令141条3号非該当についてブログ2013.6.8

cf.マリファナ売人についてBenjamin M. Leff, Tax Planning for Marijuana Dealers

法人税法上の貸倒損失⇒5.2.3.4.b. 6版§324.04興銀事件・最判平成16年12月24日民集58巻9号2637頁。

藤崎事件・仙台地判昭和51年9月13日訟月22巻9号2330頁(親会社が赤字子会社に増資払込をした場合)と法基通9-1-12(増資払込み後における株式の評価損)

東京高判平成8年10月23日判時1612号141頁(バブル経済崩壊に伴う棚卸資産としての絵画の価値暴落)

東京地判令和4年7月14日令和2(行ウ)195号税資272号順号13732(棄却)(岩武ュ明・ジュリスト1595号148頁、山本直毅・税研234号86頁、住永佳奈・重判令5、172頁)・東京高判令和5年4月19日令和4(行コ)222号棄却・最決令和6年1月17日棄却不受理(未確認)……日本居住者X氏が英領バージン諸島法人G社の全株式を保有している。中古ヨット(本件船舶)購入及び船舶維持管理費用等に充てるため資金(4000万ユーロ弱)をX氏がG社に無担保無利子で貸し付けた(本件各貸付債権)。Xは家族と共に一度だけ本件船舶で航海をし、その後、Gは本件船舶を$2965万(購入価格3500万ユーロに対し2145万7460ユーロ、61.31%)で売却し、平成26年5月1日及び8日、Xに合計$2789万9950を弁済した。Xは為替差益7億1258万8352円を得た。平成26年12月2日、XはG社に対し本件貸付債権の残債権(1989万8924ユーロ。本件貸付残債権)を放棄する旨の通知をした。
本件貸付残債権が所法51条4項「雑所得を生ずべき業務の用に供され……る資産」(業務供用資産)にも同項「雑所得の基因となる資産」(雑所得基因資産)にも該当しないと判断された。
tweetによる簡易説明。
1ユーロ=¥100時にX氏がG社に50mユーロ(¥50億)を貸しGが50mユーロで船を購入。
1ユーロ=¥120時にGが船を30mユーロ(¥36億)で売却しGがXに30mユーロ(¥36億)弁済しXは対G残債権20mユーロ放棄($も絡むが省略)。
全体で¥14億の損だが為替益¥6億(30mユーロが¥30億→¥36億)だけ課税され20mユーロの貸倒損失は非控除。

4.6.2.2. 生活用の資産(72条)

所税72条(雑損控除) 居住者又はその者と生計を一にする配偶者その他の親族で政令で定めるものの有する資産(第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)……を除く。)について災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合(その災害又は盗難若しくは横領に関連してその居住者が政令で定めるやむを得ない支出をした場合を含む。)において、その年における当該損失の金額(当該支出をした金額を含むものとし、保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。以下この項において「損失の金額」という。)の合計額が次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に掲げる金額を超えるときは、その超える部分の金額を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する
 一 その年における損失の金額に含まれる災害関連支出の金額……が五万円以下である場合…… その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の十分の一に相当する金額
 二 その年における損失の金額に含まれる災害関連支出の金額が五万円を超える場合 その年における損失の金額の合計額から災害関連支出の金額のうち五万円を超える部分の金額を控除した金額と前号に掲げる金額とのいずれか低い金額
 三 その年における損失の金額がすべて災害関連支出の金額である場合 五万円と第一号に掲げる金額とのいずれか低い金額[2・3項略]

所税71条(雑損失の繰越控除[⇒4.6.4.純損失の繰越]) 確定申告書を提出する居住者のその年の前年以前三年内の各年において生じた雑損失の金額(この項又は次条第一項の規定により前年以前において控除されたものを除く。)は、政令で定めるところにより、当該申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算上控除する。[2・3項略]

所税62条生活に通常必要でない資産の災害による損失) 居住者が、災害又は盗難若しくは横領により、生活に通常必要でない資産として政令で定めるものについて受けた損失の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)は、政令で定めるところにより、その者のその損失を受けた日の属する年分又はその翌年分の譲渡所得の金額の計算上控除すべき金額とみなす。[2項略]

所税令178条(生活に通常必要でない資産の災害による損失額の計算等) 法第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する政令で定めるものは、次に掲げる資産とする。
 一 競走馬(その規模、収益の状況その他の事情に照らし事業と認められるものの用に供されるものを除く。)その他射こう的行為の手段となる動産
 二 通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養[⇒§241.01岩手リゾートホテル事件・東京地判平成10年2月24日判タ1004号142頁]の用に供する目的で所有するものその他主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産……
 三 生活の用に供する動産で第二十五条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)の規定に該当しないもの
2 法第六十二条第一項の規定により、同項に規定する生活に通常必要でない資産について受けた同項に規定する損失の金額をその生じた日の属する年分及びその翌年分の譲渡所得の金額の計算上控除すべき金額とみなす場合には、次に定めるところによる。
 一 まず、当該損失の金額をその生じた日の属する年分の法第三十三条第三項第一号(譲渡所得)に掲げる所得の金額の計算上控除すべき金額とし、当該所得の金額の計算上控除しきれない損失の金額があるときは、これを当該年分の同項第二号に掲げる所得の金額の計算上控除すべき金額とする。
 二 前号の規定によりなお控除しきれない損失の金額があるときは、これをその生じた日の属する年の翌年分の法第三十三条第三項第一号に掲げる所得の金額の計算上控除すべき金額とし、なお控除しきれない損失の金額があるときは、これを当該翌年分の同項第二号に掲げる所得の金額の計算上控除すべき金額とする。[3項略]

所税令206条(雑損控除の対象となる雑損失の範囲等)3項 法第七十二条第一項の規定を適用する場合において、同項に規定する資産について受けた損失の金額は、当該損失を生じた時の直前におけるその資産の価額(その資産が次の各号に掲げる資産である場合には、当該価額又は当該各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める金額)を基礎として計算するものとする。
 一 法第三十八条第二項……に規定する資産(次号及び第三号に掲げるものを除く。) 当該損失の生じた日にその資産の譲渡があつたものとみなして同項の規定(その資産が次に掲げる資産である場合には、次に掲げる資産の区分に応じそれぞれ次に定める規定)を適用した場合にその資産の取得費とされる金額に相当する金額[イロハ、2号以下、略][⇒COLUMN4-4保険金・損害賠償金の非課税 に関する平26改正]

6版§242.02「災難」事件最判昭和36年10月13日民集15巻9号2332頁gz……土地譲渡にあたりなした根抵当権抹消のための300万円の支出が、譲渡収入金額から除かれるか、譲渡経費か、または雑損控除の対象となるか(消極)。

cf.豊田商事事件・名古屋地判昭和63年10月31日判タ705号160頁……詐欺・恐喝。

東日本大震災の特例(省略)ff

東京地判令和6年1月23日令和4(行ウ)372号棄却(今本啓介2025年4月18日租税判例研究会報告)
 事実 令和元年10月の台風19号により原告が住むマンションの一室に関し、り災場所を「地下発電設備」とし、住家等の被害を「非住家浸水」(住家以外の建築物に係る浸水)とする被害を受けた。共用部分の一部として地下1階又は地上1階に設置されていた電気、電話、通信及び給排水等の設備等(「本件被災設備等」)が修繕等の措置を要する状態になった。専有部分の被害記録なし。原告は「損害金額」984万4270円及び「保険金などで補填される金額」0円を基礎として、雑損控除の額を算出し、申告した。
 争点2:所得税法72条1項の「損失」の意義
 争点3:雑損控除対象損失金額の算定

 判旨
 争点2「(1)所得税法72条1項の雑損控除は、災害により損失を被った場合には、その原状回復のために相当の出費を要することに伴い、多分に担税力が減殺されることに着目して設けられた制度である。
 そして、ある資産が災害により被害を受けた場合において、物理的損害(当該資産そのものに対する物理的な被害から直接生じた損害)については、通常、再取得又は修繕等を行うことにより原状回復が可能であり、これに雑損控除を認めるのは上記制度趣旨にかなうが、再取得又は修繕等による原状回復をおよそ想定することができないものについてまで雑損控除を認めることは、同制度趣旨に反するといわざるを得ない。
 以上によれば、所得税法72条1項の「損失」とは、通常、再取得又は修繕等を行うことにより原状回復が可能である物理的損害をいい、物理的な被害から直接生じたものではない損害は「損失」に当たらないと解するのが相当である。」
 争点3「(1)雑損控除対象損失金額は、「資産について受けた損失の金額」(所得税法施行令206条3項参照)(A)に、同条1項で定めるやむを得ない支出(災害関連支出。ただし、同項2号ロの住宅家財等の原状回復のための支出については、災害により生じた住宅家財等の同条3項に規定する資産について受けた損失の金額に相当する部分の支出を除く。以下同じ。)の金額(B)を加え、保険金等補填金額(C)を差し引くことにより算定される(所得税法72条、同法施行令206条)。
 そして、前記2によれば、「資産について受けた損失の金額」(A)は、被災直前の時価から,災害による物理的損害のみを評価して算定された被災直後の時価を差し引いた金額となるが、通常、このように災害による物理的損害のみを評価して被災直後の時価を算定するのは困難であると思われるところ、「資産について受けた損失の金額」(A)は、資産を災害前の状態に戻すために必要な支出に相当する金額(A’)を超えるものではないと考えられる。そうすると、資産を災害前の状態に戻すために必要な支出に相当する金額(A’)と災害関連支出の金額(B)を明らかにすることができれば、これらの合計額(ただし、重複部分を除く。)は、通常、「資産について受けた損失の金額」(A)と災害関連支出の金額(B)との合計額を超えることはない。
(2)証拠(乙3)及び弁論の全趣旨によれば、本件マンションについて、資産を本件台風前の状態に戻すために必要な支出の金額(A’)又は災害関連支出の金額(B)に該当するものは、下記アないしオのとおりであり、その合計額は、3億2665万8244円となる。他方、本件における保険金等補填金額(C)は、下記カのとおり、3億3333万1868円と認められる。」

4.6.3. 損益通算(69条)

所税69条(損益通算) 総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する。
2 前項の場合において、同項に規定する損失の金額のうちに第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する資産に係る所得の金額……の計算上生じた損失の金額があるときは、当該損失の金額のうち政令で定めるものは政令で定めるところにより他の生活に通常必要でない資産に係る所得の金額から控除するものとし、当該政令で定めるもの以外のもの及び当該控除をしてもなお控除しきれないものは生じなかつたものとみなす。

所税69条1項は不動産、事業、山林、譲渡所得に係る損失のみ限定列挙。
損失が発生しえない…利子、給与、退職/損失が発生しうるが損益通算不可…配当、一時、雑

金融先物取引に係る損失が雑所得に係る損失であるとして損益通算を否定することが、憲法29・22条に違反しないとした事例として、福岡高判昭和54年7月17日訟月25巻11号2888頁百選7版49es

6版§241.01岩手リゾートホテル事件東京地判平成10年2月24日判タ1004号142頁確定nk
事実・争点 給与所得稼得者Xが岩手観光からリゾートホテル(本件建物)の一室を購入(目的は節税と投機)し、岩手観光に貸し付け、賃料(不動産所得)を得る(所謂sale & lease back)。Xは、不動産所得に係る費用(主に減価償却費)のため損失が生じたとして、損益通算を主張。Y税務署長は、本件建物は所得税法69条2項・62条1項の「生活に通常必要でない資産」に当たるとし、損益通算を否認。

判旨 1 法69条2項の趣旨 …「消費」であるから。
 Xは「保養」目的で本件建物を所有していたと認定。
 (二)「保養」が「主」たる所有目的であったか? 賃料収入は「本件建物の利用による利益の享受と比較して副次的なものとみざるを得ず」 「主として保養の用に供する目的で所有していた」と認定。
 (三) Xは「節税効果に着目していた」。しかし節税効果は「副次的経済効果にすぎない」。「生活に通常必要でない不動産に該当するかどうかは、客観的にみて当該不動産の本来の使用、収益の目的が何かによって判断すべき」 「節税効果…を主要な判断要素…とすることは本末転倒」

補足 所税令178条1項2号の生活に通常必要でない不動産に該当するかは、客観的に当該不動産の本来の使用、収益の目的が何かによって判断すべきであり、節税効果が得られるかどうかを主要な判断要素とすることは本末転倒であるとした別の裁判例として、本件と同じ物件につき同判断をした仙台高判平成13年4月24日税資250号順号8884がある(原審盛岡地判平成11年12月10日税資245号662頁は逆の結論であったが)。

cf.渕圭吾「法人格内部の『取引』に関する一考察」ジュリスト1423号106頁……本件は非課税所得に対応する費用の控除を認めないという筋でも説明できる。理想論としては、課税所得に対応する控除可能な部分と非課税所得に対応する控除不可能な部分との按分ということも考えられる。

6版§222.03サラリーマン・マイカー訴訟最判平成2年3月23日判時1354号59頁百選5版49gn
一審神戸地判昭和61年9月24日判時1213号34頁が所税9条2項1号により原告の請求を棄却した。
控訴審以降は結論同じながら69・62条に依拠したので岩手リゾートホテル事件と同じ。
所税9条2項1号は損益通算の話ではないが、生活に通常必要な動産(9条1項9号)に関する譲渡益が非課税(些事不追求)であることとの対称で、生活に通常必要な動産に関する譲渡損(9条2項1号)も控除できない。

所税令25条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲) 法第9条第1項第9号(非課税所得)に規定する政令で定める資産は、生活に通常必要な動産のうち、次に掲げるもの(一個又は一組の価額が30万円を超えるものに限る。)以外のものとする。
 一 貴石、半貴石、貴金属、真珠及びこれらの製品、べつこう製品、さんご製品、こはく製品、ぞうげ製品並びに七宝製品
 二 書画、こつとう及び美術工芸品

 損益通算に関し、減価償却費が多額の資産(例えば建物、船舶、航空機、映画等)(⇒6版§143.04パラツィーナ事件(フィルムリース事件)・最判平成18年1月24日民集60巻1号252頁)の所有権等を購入するというタイプの事案が問題となる。
 加速度減価償却が適用される時価200(5年間使えるが2年間で償却できるとする)の機械をAが第1年度に購入したが第1年度の収益(減価償却考慮前)は70であったとする。事業所得は70−100=−30となってしまうので、Aは減価償却費のマイナスを利用しきれない。Aに他の所得分類に係る収入があるならば、例えばAが他に給与所得も得ているならば、Aの事業所得に係る30の損失を、給与所得の金額から控除する損益通算をすればよい。しかし、Aには損益通算に使える益がないということもある。純損失の繰戻し・繰越し(⇒4.6.4.)でもAがマイナスを利用しきれないという事態も多い。
 Aが同様の機械を時価200で第1年度に購入した直後に、事業を営まないBに当該機械を譲渡し、当該機械をBからAが賃借してAが事業を営むとする。Aが第1年から第5年にかけて毎年70の事業所得に係る収入を得て、毎年40の賃借料をBに支払う(Aに他に必要経費はない)とすると、Aの毎年の事業所得の計算は70−40=30となる(加速度減価償却ではなく5年かけて定額法で償却していくとした場合の減価償却費も毎年40ずつであるから、Aが自ら所有して5年間定額法で計算した場合と同様になる)。第1年度の減価償却費100は機械の所有者であるBが計上する。BにはAから受ける賃料収入40以外に事業所得(船舶等であれば不動産所得)に係る収入がないかもしれないが、Bに他に充分な所得(例えば給与所得)があれば、損益通算を通じてBは減価償却費100という租税属性を利用し他の所得にかかる租税負担を減らすことができる。

所税72条雑損控除4.6.2.2.

4.6.4. 純損失の繰戻し・繰越し(140・70条)

年度
所得 +200 +100 −600 +200 +400
税額 +80 +40 −40 0 +40
所税140条1項:青色申告者の純損失の繰戻還付
 (法税80条5.2.4.)
所税70条1項:純損失の繰越控除(2項:白色申告者限定)
 (法税57条6版§325.05)

東京高判平成30年3月8日訟月64巻12号1794頁……連年提出要件
東京高判平成30年8月1日訟月65巻4号696頁……徴収権時効消滅後の期限後申告。

4.6.5. 所得控除(所税72〜86条)

4.6.5.1. 所得控除の大まかな分類

所税72条〜78条:支出・損失に着目。雑損控除(⇒4.6.2.2.)、医療費控除(⇒COLUMN4-4)、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除、寄附金控除(寄附は包括的所得概念の下で原則として消費と同じ扱い。政策的に控除という優遇を与える。優遇か否かをめぐり論戦がある。)
所税79〜86条:人的事情に着目。障害者控除、寡婦(寡夫)控除、勤労学生控除、配偶者(特別)控除gd、扶養控除、基礎控除
寡婦控除寡夫控除差別合憲判断として東京地判令和3年5月27日令和元(行ウ)236号税資271号順号13570・東京高判令和4年1月12日令和3(行コ)166号税資272号順号13653確定。類例として遺族補償年金性差別合憲判断:最判平成29年3月21日集民255号55頁平成27(行ツ)375号。

4.6.5.2. 家族に関する所得控除(所税83条〜84条)

所税83条、83条の2の配偶者控除・配偶者特別控除は、かつて2倍控除として批判を浴びたこともあったが、段階的控除消失措置に変化した。その後も、共働き夫婦にとって配偶者控除等は何らメリットでないから廃止すべきという意見が根強かったが、他方、夫婦の扶養義務(民法752条)に鑑みて配偶者控除等をなくすことはおかしいという反論もあった。平成29年改正で、兼業主婦/夫の賃労働就労阻害効果を弱めるべく(日本の個人単位主義は二分二乗等と比べて賃労働就労阻害効果が元々弱いけれども)、配偶者特別控除を拡充した。併せて、大黒柱の所得が900万円を超える場合に配偶者控除等を段階的に消失させることとして再分配強化を図った。
cf是枝俊悟=平石隆太「課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算:基礎控除を75万円引上げると約7.3兆円の減税」(大和総研、2024.11.5).

6版§242.01事実婚「配偶者控除」訴訟・最判平成9年9月9日訟月44巻6号1009頁百選7版50cr
判旨 「『配偶者』は、納税義務者と法律上の婚姻関係にある者に限られる」

最判平成3年10月17日訟月38巻5号911頁eh扶養親族(所税84条、2条1項34号)に関して、対象となる親族は民法上の親族に限られる。
借用概念3.1.2.2. 民法の講義で、内縁関係は概ね法律婚と同様に扱われるようになっている、と教わるが、相続と税制に関しては同様の扱いでない。
cf.税務行政だけ(社会保障法は内縁の夫婦を夫婦扱いすることが多い)ge、法的安定性が内縁の配偶者を排除させるほど重要か、一考の余地はある。
cf.夫婦別姓(最大決令和3年6月23日集民266号1頁mw(駒村圭吾・ジュリスト1565号91-96頁、窪田充見・ジュリスト1565号97-102頁)……民法750条戸籍法74条1号は憲法24条に違反しない。補足意見、意見、反対意見あり)・同性愛者を救済しないことの立法論上の是非?リバタリアンなら寧ろ婚姻制度撤廃?

4.6.5.3. 所得控除、税額控除、手当

所得控除方式は低税率者に低メリット。→税額控除方式にすべきか?gc
平成二十二年度等における子ども手当の支給に関する法律→子ども手当→平成24年4月1日から児童手当

4.7. 個人住民税

4.7.1. 地方公共団体の個人に関する税源ha

4.7.2. 納税義務者

4.7.3. 利子割・配当割・株式等譲渡所得割

4.7.4. 事業税

4.8. 徴収等

4.8.1. 青色申告(所税143条、166条)hb

4.8.2. 更正の請求(所税152条税通23条)

4.8.3. 源泉徴収(所税181条以下)

徴収納付:納税義務者以外の者に租税を徴収させ納付させる。源泉徴収(地方税では特別徴収)が典型。

6版§250.01愛知交通事件最判昭和45年12月24日民集24巻13号2243頁百選7版114ei……自動確定。
「源泉徴収の対象となるべき所得の支払がなされるときは、支払者は、法令の定めるところに従つて所得税を徴収して国に納付する義務……を負うのであるが、この納税義務は右の所得の支払の時成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものとされている(国税通則法一五条……)。すなわち、源泉徴収による所得税については、申告納税方式による場合の納税者の税額の申告やこれを補正するための税務署長等の処分(更正、決定)、賦課課税方式による場合の税務署長等の処分(賦課決定)なくして、その税額が法令の定めるところに従つて当然に、いわば自働的に確定するものとされるのである。」
「源泉徴収による所得税についての納税の告知は、課税処分ではなく徴収処分であつて、支払者の納税義務の存否・範囲は右処分の前提問題たるにすぎないから、支払者においてこれに対する不服申立てをせず、または不服申立てをしてそれが排斥されたとしても、受給者の源泉納税義務の存否・範囲にはいかなる影響も及ぼしうるものではない。したがつて、受給者は、源泉徴収による所得税を徴収されまたは期限後に納付した支払者から、その税額に相当する金額の支払を請求されたときは、自己において源泉納税義務を負わないことまたはその義務の範囲を争つて、支払者の請求の全部または一部を拒むことができるものと解される(支払者が右の徴収または納付の時以後において受給者に支払うべき金額から右税額相当額を控除したときは、その全部または一部につき源泉納税義務のないことを主張する受給者は、支払者において法律上許容されえない控除をなし、その残額のみを支払つたのは債務の一部不履行であるとして、当該控除額に相当する債務の履行を請求することができる)。」

cf.株式会社月ヶ瀬事件最大判昭和37年2月28日刑集16巻2号212頁百選7版113fy……源泉徴収制度は憲法29条(財産権保障)、14条(平等原則)、18条(奴隷的拘束禁止)に違反しない。
日光貿易事件・最判平成4年2月18日民集46巻2号77頁(給与支払者の源泉徴収の誤り)⇒2.3.2.2.a.

4種類の源泉徴収(令3源泉徴収のしかた)
(1)利子所得等の源泉分離課税……確定申告不要。
(2)給与所得の源泉徴収……年末調整で多くの場合確定申告不要。(ex.浅妻は非常勤の大学等からも給与を受け取るので確定申告しています)lp
(3)退職所得の源泉徴収……年末調整はないが多くの場合申告不要。
(4)報酬等の源泉徴収……確定申告で調整する。(ex.浅妻が出版社から受け取る原稿料等)

6版§141.01ホステス報酬計算期間事件・最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁⇒3.1.1.3.

6版§250.02支払いの無効と源泉徴収義務 クラカグループ事件第二次上告審判決最判平成30年9月25日民集72巻4号317頁百選7版116hl(⇒3.1.2.4.私法取引と租税法)(橋本彩・重判平30年195頁、碓井光明・ジュリスト1533号128頁)
 第一次上告審・最判平成27年10月8日判タ1419号72頁(占部裕典・重判平27年203頁)は、権利能力のない社団の理事長及び専務理事の地位にあった者が当該社団からの借入金債務の免除を受けることにより得た利益が、所税28条1項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与に当たる、とした。
 差戻後、債務免除の錯誤無効(現民法下で錯誤は取消事由)主張により源泉徴収納付義務を免れるかが争点となった。

判旨 「給与所得に係る源泉所得税の納付義務を成立させる支払の原因となる行為が無効であり,その行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたときは,税務署長は,その後に当該支払の存在を前提として納税の告知をすることはできないものと解される。そして,当該行為が錯誤により無効であることについて,一定の期間内に限り錯誤無効の主張をすることができる旨を定める法令の規定はなく,また,法定納期限の経過により源泉所得税の納付義務が確定するものでもない。したがって,給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分について,法定納期限が経過したという一事をもって,当該行為の錯誤無効を主張してその適否を争うことが許されないとする理由はないというべきである。
5 以上と異なる見解の下に,上告人が法定納期限の経過後に本件債務免除の錯誤無効を主張することは許されないとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があるものといわざるを得ない。しかしながら,上告人は,本件債務免除が錯誤により無効である旨の主張をするものの,……納税告知処分が行われた時点までに,本件債務免除により生じた経済的成果がその無効であることに基因して失われた旨の主張をしておらず,したがって,上告人の主張をもってしては,本件各部分が違法であるということはできない。そうすると,本件各部分が適法であるとした原審の判断は,結論において是認することができる。」

なお、申告納税に関する大谷和子事件・最判平成2年5月11日訟月37巻6号1080頁は、譲渡契約による譲渡収入は、契約の合意解除後も消滅しない、としたが、申告納期限後の錯誤無効の主張の適否については明記してない。

名古屋地判平成29年9月21日税資267号順号13064平成27(行ウ)125号(佐藤英明・ジュリスト1540号107頁)……退職金返還時の源泉所得税還付請求の時効の起算点。

最判平成23年1月14日民集65巻1号1頁百選7版118in(古田孝夫・ジュリスト1432号100頁。菱田雄郷&吉村政穂・2012年6月8日判民公判合同判例研究会報告。渕圭吾・判例時報2136号170頁;渕圭吾「破産管財人の源泉徴収義務と源泉徴収税債権の優先順位――アメリカ法を素材とした一考察」法律時報84巻3号78-87頁)
破産会社の管財人が元労働者に退職金(前記(3)の類型)を支払う際に源泉徴収義務が管財人には無いと判断した。
 ([浅妻]破産業界の慣例に最高裁が妥協したもので、租税法学の理屈からするとかなり奇異な判断に見えるが、最高裁が言ったのだから仕方ない)
  管財人が管財人自身に支払う管財人報酬(前記(4)の類型)については源泉徴収義務がある。

最判平成23年3月22日民集65巻2号735頁百選7版117ld(鐘ヶ江洋祐・ジュリスト1424号88頁)
給与等の支払をする者は、その支払を命ずる判決に基づく強制執行によりその回収を受ける場合であっても、所税183条1項所定の源泉徴収義務を負う。
(破産の場合の平成23年1月14日判決、個別執行の場合の平成23年3月22日判決で、結論が違うことに留意。)

東京地判平成28年5月19日税資266号順号12856平成26(行ウ)114号百選7版73(控訴審東京高判平成28年12月1日税資266号順号12942平成28(行コ)219号で確定)(類例・東京地判平成23年3月4日税資261号順号11635平成21(行ウ)121号百選6版68)……非居住者が国内不動産を譲渡する際の買主の源泉徴収義務。
COLUMN4-7 シェアリング・エコノミー(Sharing Economy。Gig Economyともいう)

5. 法人の所得課税――法人税と地方税

5.1. 分配主体としての法人

5.1.1. 法人税の意義

法人実在説→社会的実体としての法人自体の担税力に対する独自の税として法人税を位置付ける。
法人擬制説→法人は人の集合にすぎず、法人税は個人所得税の前取りであると位置付ける。cc

法人とは……人の集まりにすぎず、権利義務の帰属主体として人工的に作られたものであるにすぎない。cb
→法人自体が効用を感じるわけではないので、法人税を課しても法人自体の租税負担とはなりえない。
→法人に課税するのではなく個人だけに課税するのが租税政策の本道。
→が、法人に課税しない(内部留保非課税→その経済的内実は課税繰延)ならば法人事業と個人事業とで非中立的である。
→法人に課税しないと新たな非中立性が生まれてしまうので課税するが、法人自体の担税力をもって課税しているのではなく、個人所得税の前取りとして法人税が課されている。(取り易いところから取る)
→国際的投資の文脈における源泉地課税としての法人税。co

[発展]法人税の転嫁帰着について
 単純に考えれば、法人税は株主に対する課税であるように思われる。しかし経済的な実体として、商品の価格上昇という形で転嫁(前転という)したり、従業員の給与減少や借入金利子の減少という形で転嫁(後転という)したり、ということもありうる。株主の全負担とも無負担とも断じ難い。誰の負担かを経済的に厳密に観察することは困難。しかし、従来の法人税の議論では法人税の負担が専ら株主に転嫁するという前提が採られている。

統合されていない課税方式による非中立性
 B/S貸借対照表       ↓課税    ↓課税
 ┏━━┳━━┓      ┏━━┓ 
 ┃  ┃  ┃利子    ┃法人┃==⇒ 株主
 ┃  ┃負債┃⇒銀行   ┗━━┛配当
 ┃資産┃  ┃⇒社債権者
 ┃  ┣━━┫      ↓非課税   ↓課税
 ┃  ┃  ┃配当    ┏━━┓ 
 ┃  ┃資本┃⇒株主   ┃組合┃==⇒ 組合員
 ┗━━┻━━┛      ┗━━┛利益分配




会社の資金調達――debt/equityの選択及び組織形態の選択にかかる非中立性(二重課税≠可哀相)cf
debt負債:銀行や社債権者からの借り入れ。利子は法人の所得計算上控除される。→法人段階で課税されない。
equity自己資本:株主からの出資。配当は法人の所得計算上控除されない。→法人・株主二重課税

●企業の事業形態の選択を歪める。…組合有利。
配当性向を歪める。…内部留保が有利。
●法人の自己資本比率を引き下げさせてしまい、倒産確率を不相当に高めてしまう。
ところが、法人課税を受けた方が有利になる場面もある。 (1)課税繰延cg
(2)所得分割
(3)給与所得控除
(1) 課税繰延の例として、個人所得税率を70%、法人税率を20%、収益率を年10%とする。
 第一の戦略:個人が税引後の10000を投資。1年目の税引前収益は1000、税額は700、税引後収益は300。手元に残った10300を再投資。2年目の税引前収益は1030、税額は721、税引後収益は309。手元に残った10609を再投資……という手順を繰り返す。結局のところ課税なしの世界で収益率3%〔=10%×(1−0.7)〕で年複利で2年間運用した場合の結果と同じ。つまり10000×1.03^2=10609。20年目は10000×1.03^20=18061。余談ac
 第二の戦略:個人が税引後の10000を出資して法人を設立。法人が10000を投資。1年目の税引前収益は1000、税額は200、配当可能利益は800。配当してしまうと、株主段階で更に560の課税。個人の手元に残るのは240(これが法人・個人の二重課税)。配当せずに内部留保し翌年再投資に回す。10800を投資すれば、2年目の税引前収益は1080、税額は216、税引後収益は864、法人の手元に11664残る。結局のところ課税なしの世界で収益率8%〔=10%×(1−0.2)〕で2年間運用した場合の結果と同じである。つまり10000×1.08^2=11664。20年目は10000×1.08^20=46610。配当可能利益は36610、これを全て配当すると、株主段階で70%の課税を受けるので、税引後所得は10983
 第一の戦略と対比すると、第二の戦略では二重課税を受けるという不利益があるが、法人段階で低い税率を受けて課税繰延をすることの利益が二重課税による不利益を上回ったのである。
 第三の戦略:長期譲渡益に係る個人所得税率が半分(35%)であるとする。第二の戦略の20年目に株主が株式を譲渡。10000を出資して得た株式が46610で売られるので、譲渡所得36610である。35%の税率が適用されると、税引後所得は23797である。ch

(2) 法人成りによる所得分割 → 高い累進税率の回避
 所税56条:家族従業員等への支払いについて経費の算入を否定し、所得分割を防ぐ。
 (所税57条:青色専従者控除…一定の要件の下で家族従業員への給与支払を経費に算入。ci)
 所税56条潜脱のため法人を設立し、法人から従業員に給与を支払う、という法形式で、所得分割可能。
(確認問題:この場合の法人・個人の二重課税の問題は?)

(3) 給与所得控除の利用
法人段階の所得計算:従業員への給与支払を損金算入
個人段階の所得計算:給与所得控除により実際の経費より多めに費用が認められる。
個人事業の場合、自分自身への給与支払は必要経費にならず、事業所得として実際の費用だけ控除。

6版§311.02 『マーリーズ・レビュー』(Mirrlees Review)or金子宏論文「法人税と所得税の統合」cjcm
クラシカル・システム(classical system)(正統方式):法人・株主の二重課税を放置。
組合方式(partnership method):法人税をなくし全て株主段階に所得を税務上帰属させて課税。あくまで税務上であり実際に分配するか否かは無関係。現在でも、組合など法人税がかからない法形式がとられた場合は、正に組合員等の構成員に対して所得税が課されるのみ。執行が著しく困難。
未実現キャピタルゲイン課税方式:内部留保による株価上昇分につき株主段階で課税する。株価が内部留保のみを反映している訳ではないという欠点がある。
支払配当損金算入方式(dividend-paid deduction method):法人が配当を支払った時に、法人の所得計算において控除を認める。現在の利子の扱いと同じ。内部留保部分については統合がなされない。
二重税率方式(支払配当軽課方式):法人の所得のうち配当に充てた部分の法人税率を低くする。
配当所得控除方式(dividend-received deduction method):株主が配当を受け取っても、株主段階で(全部又は一部を)所得に含めない。個人所得課税の累進税制が配当には適用されなくなってしまう。
配当税額控除方式(dividend-received credit method):株主が受け取った配当額に一定の率を掛け合わせた額を、株主の所得税額から控除する。インピュテーション方式(法人税株主帰属方式)は更に精緻な方法で、法人税額を個人株主の所得税額から控除する。

6版§311.03 日本の制度 税制調査会「税制の抜本的見直しについての答申」(1986.10)
 配当軽課(法人段階・上の(5))+配当税額控除(株主段階・上の(7))

 配当税額控除(株主段階・上の(7))へ。所税92条:配当控除
 (但し申告不要制度の場合、配当税額控除はない。租特8条の5)

[発展]法人税の納税義務者の範囲は課税繰延防止の観点から技術的に定められるものであり、法人概念とリンクさせる日本の法人税制の在り方は比較法的には珍しい。独仏では人的会社について組合同様の課税をするし、アメリカでは法人形態と組合形態との課税上の扱いの違いがあることを前提に納税者の選択に任せている。cplg

民法上の任意組合(民法667条)
法人税の課税はない。組合員に対して課税される。事実上通達課税。hp
組合を通じて得た所得が組合員にどのように配賦されるかが極めて厄介な問題。りんご生産組合事件・最判平成13年7月13日訟月48巻7号1831頁⇒4.2.6.1.

(任意組合等の組合員の組合事業に係る利益等の帰属)所基通36・37共−19 任意組合等の組合員の当該任意組合等において営まれる事業…に係る利益の額又は損失の額は、当該任意組合等の利益の額又は損失の額のうち分配割合に応じて利益の分配を受けるべき金額又は損失を負担すべき金額とする。
 ただし、当該分配割合が各組合員の出資の状況、組合事業への寄与の状況などからみて経済的合理性を有していないと認められる場合には、この限りではない。[(注)略]

(任意組合等の組合員の組合事業に係る利益等の帰属の時期)36・37共−19の2 任意組合等の組合員の組合事業に係る利益の額又は損失の額は、その年分の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する。
 ただし、組合事業に係る損益を毎年1回以上一定の時期において計算し、かつ、当該組合員への個々の損益の帰属が当該損益発生後1年以内である場合には、当該任意組合等の計算期間を基として計算し、当該計算期間の終了する日の属する年分の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入するものとする。

(任意組合等の組合員の組合事業に係る利益等の額の計算等)36・37共−20 36・37共−19及び36・37共−19の2により任意組合等の組合員の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する利益の額又は損失の額は、次の(1)の方法により計算する。ただし、その者が継続して次の(2)又は(3)の方法により計算している場合には、その計算を認めるものとする。
 (1) 当該組合事業に係る収入金額、支出金額、資産、負債等を、その分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法 〔総額法
 (2) 当該組合事業に係る収入金額、その収入金額に係る原価の額及び費用の額並びに損失の額をその分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法 〔折衷法
   この方法による場合には、各組合員は、当該組合事業に係る取引等について非課税所得、配当控除、確定申告による源泉徴収税額の控除等に関する規定の適用はあるが、引当金、準備金等に関する規定の適用はない。
 (3) 当該組合事業について計算される利益の額又は損失の額をその分配割合に応じて各組合員にあん分する方法 〔純額法
   この方法による場合には、各組合員は、当該組合事業に係る取引等について、非課税所得、引当金、準備金、配当控除、確定申告による源泉徴収税額の控除等に関する規定の適用はなく、各組合員にあん分される利益の額又は損失の額は、当該組合事業の主たる事業の内容に従い、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得のいずれか一の所得に係る収入金額又は必要経費とする。[(注)略]io

商法535条(匿名組合契約) 匿名組合契約は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。
商法536条(匿名組合員の出資及び権利義務) 匿名組合員の出資は、営業者の財産に属する。
2  匿名組合員は、金銭その他の財産のみをその出資の目的とすることができる。
3  匿名組合員は、営業者の業務を執行し、又は営業者を代表することができない。
4  匿名組合員は、営業者の行為について、第三者に対して権利及び義務を有しない。

(匿名組合契約による組合員の所得)所基通36・37共−21 匿名組合契約……を締結する者で当該匿名組合契約に基づいて出資をする者(……「匿名組合員」という。)が当該匿名組合契約に基づく営業者から受ける利益の分配は雑所得とする。[平17改正⇒4.2.5. 6版§225.02航空機リース事業匿名組合事件・最判平成27年6月12日民集69巻4号1121頁]
 ただし、匿名組合員が当該匿名組合契約に基づいて営業者の営む事業……に係る重要な業務執行の決定を行っているなど組合事業を営業者と共に経営していると認められる場合には、当該匿名組合員が当該営業者から受ける利益の分配は、当該営業者の営業の内容に従い、事業所得又はその他の各種所得とする。
(注)1 匿名組合契約に基づく営業者から受ける利益の分配とは、匿名組合員が当該営業者から支払を受けるものをいう(出資の払戻しとして支払を受けるものを除く。 ) 。以下36・37共−21の2において同じ。
 2 営業者から受ける利益の分配が、当該営業の利益の有無にかかわらず一定額又は出資額に対する一定割合によるものである場合には、その分配は金銭の貸付けから生じる所得となる。
 なお、当該所得が事業所得であるかどうかの判定については、27−6参照。

(匿名組合契約による営業者の所得)36・37共−21の2 36・37共−21により営業者が匿名組合員に分配する利益の額は、当該営業者の当該組合事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入する。[二重課税はしないという意味]


匿名組合は商法の講義でもあまり深く扱われないであろうが租税法では(就中、国際課税では)頻出である(cf.8.2.2.1.b日本ガイダント事件・東京高判平成19年6月28日判時1985号23頁)。匿名組合に「組合」という言葉が含まれるものの、任意組合の亜種として(組織の一形態として)理解するよりも貸付の一形態としての契約として理解する方が商法学の理解に近い。by(その他の組織形態(省略)bz)
COLUMN5-1 同族会社
法税2条10号 同族会社 会社……の株主等……の三人以下並びにこれらと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式又は出資……の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合その他政令で定める場合におけるその会社をいう。

法税132条(同族会社等の行為又は計算の否認)[所得税法157条相続税法64条も同旨be] 税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。[一・二号、2項略]
3 第一項の規定は、同項に規定する更正又は決定をする場合において、同項各号に掲げる法人の行為又は計算につき、所得税法第百五十七条第一項……若しくは相続税法第六十四条第一項……又は地価税法……第三十二条第一項……の規定の適用があつたときについて準用する。[対応的調整という]

法税67条(特定同族会社の特別税率) 内国法人である特定同族会社被支配会社で、被支配会社であることについての判定の基礎となつた株主等のうちに被支配会社でない法人がある場合には、当該法人をその判定の基礎となる株主等から除外して判定するものとした場合においても被支配会社となるもの……をいい、清算中のものを除く。以下この条において同じ。)の各事業年度の留保金額が留保控除額を超える場合には、その特定同族会社に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、前条第一項[23.2%]又は第二項[資本金1億円以下、所得800万円以下の部分について19%]の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、その超える部分の留保金額を次の各号に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に当該各号に定める割合を乗じて計算した金額の合計額を加算した金額とする。
 一 年三千万円以下の金額 百分の十
 二 年三千万円を超え、年一億円以下の金額 百分の十五
 三 年一億円を超える金額 百分の二十
2 前項に規定する被支配会社とは、会社……の株主等……の一人並びにこれと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式又は出資……の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合その他政令で定める場合におけるその会社をいう。[3項以下略]

概要:税負担軽減を図ることは経済的合理人として当然であり、租税回避を根拠規定なしに否認することは租税法律主義違反と考えられる。しかし、同族会社の場合、同族会社であるがゆえに(利益を共有しているがゆえに)異常な行為・計算をなしえ、そうした行為・計算による税負担軽減まで許容することは非同族会社の関係者と比べて不公平であるため、一般的否認規定として法132条1項が規定されている(同条3項は対応的調整)。
 また、内部留保に対する特別の課税として法税67条が規定されている。
 法税132条「同族会社」と67条「特定同族会社」の定義が違う。(35条「特殊支配同族会社」廃止)

同族会社の行為・計算の否認規定だけでは対処できない領域について立法が整備され、段々同族会社規定の適用範囲が狭められていくが、一般的否認規定自体の重要性・必要性がなくなるものではない。⇒6版§112.01大阪銘板事件・大阪高判昭和43年6月28日行集19巻6号1130頁…課税要件法定主義と政令への委任の可否との関係、そして役員賞与(現在の役員給与:法税34条)規定創設へ。

応用問題:租税回避を包括的に否認する規定(GAAR(General Anti Avoidance Rule)ガーと発音される)は違憲か。また租税回避抑制にとってどれほど有効か。長戸貴之「「分野を限定しない一般的否認規定(GAAR)」と租税法律主義」フィナンシャル・レビュー129号169頁(2017)<特集>租税法律主義の総合的検討(後に中里実=藤谷武史編著『租税法律主義の総合的検討』有斐閣、2021に収録)
参考:ドイツには租税回避を一般的に否認する規定がある(AO 42条bl)。

光楽園旅館事件・札幌高判昭和51年1月13日訟月22巻3号756頁
事実・争点 X社はKらの同族会社である。X社が有する本件建物とKが有する本件土地を一括してTに譲渡した際、代金はKが全て受領した。X社は翌事業年度に本件建物譲渡所得のみ計上したが、本件建物及び借地権等の譲渡によりXに443万円の所得が発生したはずであるとしてYが更正処分。そのうち、18万円余の雑収入の認定について、Yは、本件建物及び借地権の譲渡代金計544万円をX社がKに無償で貸し付けたのであるから通常取得すべき利息相当分を益金計上すべきである、と主張した。

判旨 Xの請求棄却 法人税法132条の合理性についての説明。
 借地権の対価相当額を益金の額に加算した処分は適法。
 「Xが受領すべきものである」544万円をXは「Kに無償で貸し付けたものというべき」。bn

§1版330.01明治物産株式会社事件最判昭和33年5月29日民集12巻8号1254頁百選6版60nn
 特殊な合併(学部・法科大学院では組織再編成を扱わない)の是非が争点であるので事実関係や争点は省略。
 裁判例において「不当に減少」要件の解釈方法は概ね2通りの傾向がある。
 一審判旨 「非同族会社には通常なし得ないような行為計算たとえば株主が社員に会社の資産を廉価で売却」がこれに当たる。他方「吸収合併前に被合併会社の全株式を買収することは必ずしも同族会社にして始めてなしうるような行為すなわち、純経済上より見て不合理な行為ではな」いから当時の法人税法28条(現在の132条に相当)の対象たり得ない。課税庁の処分は違法である。
 二審判旨 「純経済人の選ぶ行為形態として不合理なもの」が否認の対象となる(結論は一審と同じであり、最高裁は何も述べてない)。oh

 どちらで考えても結論に差が出ることは滅多にない(稀ではあるが差が出た例として§5版340.02(6版513頁)南日本高圧コンクリート株式会社事件・福岡高宮崎支判昭和55年9月29日行集31巻9号1982頁bp……一審は非同族会社でも採用するであろう最低販売価額を認定できないとして法税132条不適用、二審は純経済人の行為として不合理、不自然であるとして法税132条適用)が、学説は、二審の判示の方を支持する傾向が強い。
 純経済人という表現は、複数の法人等をグループ一体と見て合理的か否かではなく、法人単体の利益追求の観点から合理的か否かを問うために用いられている。例えば赤字会社救済のため黒字会社が価格を安くして商品を提供することはグループ一体と見て合理的といえるかもしれないが、当該黒字会社単体の利益追求の観点からは不合理である。
 また、arm's length transaction(独立当事者間取引)から逸脱する取引は「不当に減少」要件を満たすであろうとも言われている。(金子宏『租税法』24版542頁)

6版§340.02ユニバーサルミュージック事件最判令和4年4月21日民集76巻4号480頁百選7版63bm……日本法人からアメリカ法人に配当を支払う関係から、組織再編をして、日本法人からアメリカ法人へ利子を支払う関係に変更した事例(debt pushdown…利子負担を子会社に負担させる関係)。最高裁は以下のように述べてarm's length standardから逸脱していない利子支払による日本法人の課税所得減少が法人税法132条1項の「不当に減少」要件を満たさないと判断された。だからこそ8.4.5.租特66条の5の2の過大支払利子税制で立法的に対処せざるをえない。

判旨 「同族会社等による金銭の借入れが上記の経済的 合理性を欠くものか否かについては、当該借入れの目的や融資条件等の諸事情を総合的に考慮して判断すべきものであるところ、本件借入れのように、ある企業グループにおける組織再編成に係る一連の取引の一環として、当該企業グループに属する同族会社等が当該企業グループに属する他の会社等から金銭の借入れを行った場合において、当該一連の取引全体が経済的合理性を欠くときは、当該借入れは、上記諸事情のうち、その目的、すなわち当該借入れによって資金需要が満たされることで達せられる目的において不合理と評価されることとなる。そして、当該一連の取引全体が経済的合理性を欠くものか否かの検討に当たっては、@当該一連の取引が、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、A税負担の減少以外にそのような組織再編成を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮するのが相当である。」
 「本件借入れは無担保で行われ、被上告人は本件借入れが一因となって最終的に貸借対照表上は債務超過となっていることがうかがわれるなど、本件借入れには独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なる点もある。[改行] しかしながら、本件借入れは、本件各内国法人の株式の購入代金及びその関連費用にのみ使用される約定の下に行われ、実際に、被上告人は、株式を取得して本件各内国法人を自社の支配下に置いたものであり、借入金額が使途との関係で不当に高額であるなどの事情もうかがわれない。また、本件借入れの約定のうち利息及び返済期間については、被上告人の予想される利益に基づいて決定されており、現に、本件借入れに係る利息の支払が困難になったなどの事情はうかがわれない。[改行] そうすると、上記の点があることをもって、本件借入れが不自然、不合理なものとまではいい難い。」

日本IBM事件・東京地判平成26年5月9日平23(行ウ)407(請求認容)・東京高判平成27年3月25日判時2267号24頁(請求認容)・最決平成28年2月18日(上告不受理)boも法人税法132条1項の適用を否定した事例。

 図1      米国        図2    米国
      ┏━┓             ┏━┓
      ┃A┃←┐外税控除       ┃A┃本件融資の返済
 本 本B株┗┳┛ |利用不可       ┗┳┛↑(利子のみ源泉税)
 件 件|  ┃  |         日本┏┻┓|
 融+株|┏━┻━┓|配当      本  ┃X┃
 資 式↓┃   ┃|        件B株┗┳┛みなし配当
   購┏┻┓ ┏┻┓日本      各 |┏┻┓↑(源泉税還付)
   入┃X┃ ┃B┃源泉税     譲 ↓┃B┃|
    ┗━┛ ┗━┛        渡  ┗━┛

控訴審判旨 「法人税法132条1項は,否認の要件として,同族会社の「行為又は計算で,これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」ことを求めているにとどまり,その文理上,否認対象となる同族会社の行為又は計算が,租税回避目的でされたことを要求してはいない。しかも,法人税法における同族会社の行為計算の否認規定については,昭和25年法律第72号による改正前の法人税法34条1項では,「同族会社の行為又は計算で法人税を免れる目的があると認められるものがある場合においては,その行為又は計算にかかわらず,政府の認めるところにより,課税標準を計算することができる。」と規定されていたところ,同改正により,「同族会社の行為又は計算で,これを容認した場合においては法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは,その行為又は計算にかかわらず,政府の認めるところにより,当該法人の課税標準又は欠損金額を計算することができる。」(同改正後の法人税法31条の2)と改められ,これとほぼ同内容の規定が,昭和40年法律第34号による全部改正後の法人税法132条1項にも引き継がれたのであって,法人税を免れる目的があることを適用の要件として文言上明示的に掲げていた点が改められたという改正の経緯もある。そうすると,法人税法132条1項の「不当」か否かを判断する上で,同族会社の行為又は計算の目的ないし意図も考慮される場合があることを否定する理由はないものの,他方で,被控訴人が主張するように,当該行為又は計算が経済的合理性を欠くというためには,租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められること,すなわち,専ら租税回避目的と認められることを常に要求し,当該目的がなければ同項の適用対象とならないと解することは,同項の文理だけでなく上記の改正の経緯にも合致しない。」

6版§340.03株式会社塚本商店事件・最判昭和48年12月14日訟月20巻6号146頁bt
事実 X社が所有する建物、及び取締役のAが所有する土地を一括でBに売却。Aが5224万円、Xが2238万円受け取った(7対3。Bにとって建物は無価値)。
 Y税務署長は、借地権割合が40%である(2949万円)とし、建物の対価(90万円)も含まれるとして、Xは3039万円受け取るべきであったとする第一次更正処分を行う。差額800万円がXからAに対する役員賞与(当時。今なら役員給与)にあたるとし、Xに源泉徴収の納税告知処分(以下本件徴収処分)を行う。
 第一次更正処分が理由附記不備であるので第二次更正処分で第一次を取り消し、第一次と同内容の第三次更正処分を行う。
 違法な第一次更正処分を前提とする本件徴収処分もまた違法であるとXが主張した。

判旨 上告棄却(請求棄却) 「法人税法132条に基づく同族会社等の行為計算の否認は、当該法人税の関係においてのみ、否認された行為計算に代えて課税庁の適正と認めるところに従い課税を行なうというものであつて、もとより現実になされた行為計算そのものに実体的変動を生ぜしめるものではない。したがつて、本件法人税に関する原判示第一次更正処分においてXの行為計算が否認され、その否認額がXからAに対する役員賞与としてXの益金に算入されたとしても、Aに対する所得税の関係にはなんら影響を及ぼすものではなく、同人の所得税に関して行なわれた原判示徴収処分は、右第一次更正処分とはかかわりなく、所得税法によつて法律上当然に確定した源泉徴収義務についてその履行を求めるものであると解すべきである。それゆえ、右更正処分の取消しによつて、所得税法上の源泉徴収義務の範囲が左右されるいわれはなく、右取消しは本件徴収処分の効力に影響しない。」

大阪地判令和6年3月13日令和4(行ウ)60号判タ1524号124頁金判1694号18頁一部認容、一部棄却(控訴)(柴由花「個人と同族会社との間の賃貸借契約について行為計算否認規定の適用が否定された事例」新・判例解説Watch租税法No.192 (2025.3.7))(袴田裕二2025年3月7日租税判例研究会報告)
 
 争点 本件賃貸借契約に係る所得税法157条1項適用の可否及び効果

 判旨 「所得税法157条1項は,同項各号に掲げる法人である同族会社等においては、これを支配する株主等の所得税の負担を不当に減少させるような行為又は計算が行われやすいことに鑑み、税負担の公平を維持するため、株主等の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、これを正常な行為又は計算に引き直して当該株主等に係る所得税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものである。このような規定の趣旨、内容からすれば、同項にいう「これを容認した場合にはその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同族会社等の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、当該株主等の所得税の負担を減少させる結果となるものをいうと解するのが相当である(以上につき、[所謂パチンコ平和事件]最高裁平成16年7月20日第三小法廷判決・裁判集民事214号1071頁、法人税法132条1項に関する[所謂ユニバーサルミュージック事件]最高裁令和4年4月21日第一小法廷判決・民集76巻4号480頁参照)。
 本件のような株主等を賃貸人とし同族会社等を賃借人とする不動産の賃貸借契約が上記の経済的合理性を欠くものか否かについては、当該賃貸借契約の目的、賃貸料の金額や契約の諸条件を含む当該賃貸借契約の内容等の諸事情を総合的に考慮して判断するのが相当である。そして、当該賃貸借契約が経済的合理性を欠くものか否かの検討に当たっては、@当該賃貸借契約が、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したり、その賃貸料が適正な賃貸料に比して著しく低額なものにされたりしているなど、不自然なものであるかどうか、A税負担の減少以外に当該賃貸借契約を締結することの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮するのが相当である。」

 「本件賃貸借契約は、一般的には同一のサブリース業者に一括して転貸方式で賃貸することが困難な種別の異なる多数の不動産を一括して転貸方式により賃貸するものであり、また、空室リスク等のみならず、契約期間中に高額の収益物件である複数の対象不動産の売却が想定される状況にあったにもかかわらず、対象不動産が売却により減少しても当該契約期間中の賃料の額が減額されないことによる負担(売却リスク)を、賃借人であるA社に負わせるものとなっている。
 以上のような本件賃貸借契約の内容や特殊性に照らせば、本件賃貸借契約については、その適正な賃貸料を算定するに当たり、管理委託方式と実質的に同視することはできないのであって、本件賃貸借契約の適正な賃貸料を算定するに当たり、管理委託方式を基に算定する方法を採ることについては、その基礎的要件が欠けるというべきである。したがって、上記の被告の主張は、その前提を誤っており、採用することができない。
 そうすると、本件適正賃貸料をもって本件賃貸借契約の適正な賃貸料と認めることはできず、本件においては、証拠上、本件賃貸借契約の適正な賃貸料の金額は不明であるというほかない。」

 「本件賃貸料が適正な賃貸料に比して著しく低額なものにされているかを検討する。
 本件賃貸料は、前記認定事実イのとおり、原告の計算によれば、平成24年分から平成29年分までの本件賃貸料の実際のA社転貸料収入に係る売上高に占める割合は、約53.8%から約65.7%までの間で推移しており、被告の計算による本件各年分(平成27年分から平成29年分まで)の本件賃貸料及びA社転貸料収入の金額を前提とすれば、平成27年分から平成29年分までの本件賃貸料のA社転貸料収入に占める割合は、約54.7%から約59.8%までの間で推移している。この割合のみからすれば、本件賃貸料は適正な賃貸料に比して低額なものにされている可能性があるとはいえる(乙60、61等参照)。
 しかし、前記前提事実(2)並びに前記認定事実ア及びイによれば、本件賃貸借契約は、@転貸方式(マスターリース契約)であって空室リスク等を借主(A社)が負担するものであることのほか、A一般的には同一のサブリース業者に一括して転貸方式で賃貸することが困難な、種別(マンション(1棟又は区分)、店舗、駐車場、病院又は事務所)や所在地域の異なる多数の不動産(エンド・ユーザーが数百にも及ぶことがあった。)を一括してA社に賃貸するものであること、B契約期間中に高額の収益物件である複数の対象不動産の売却が想定される状況にあったにもかかわらず、対象不動産の一部が売却されて対象不動産が減少しても、当該契約期間中の賃料は減額されないことによる負担(売却リスク)を借主(A社)に負わせるものになっていることといった特殊性を有しており、これらの@からBまでの事情はいずれも本件賃貸借契約における賃貸料の減額要因となり得るものである。
 また、前記アのとおり、本件賃貸借契約の適正な賃貸料の金額は不明であり、本件賃貸料と比較すべき適正な賃貸料が判然としないから、そもそも適正な賃貸料と比較して本件賃貸料が低額であるといえるかさえも判断することができない。
 さらに、前記認定事実エの原告の不動産所得の金額をみると、前記認定事実ア(イ)のとおり本件賃貸借契約が締結されるようになったのは平成24年7月であるところ、それ以降の不動産所得の金額は減少しているが、同年以降本件賃貸借契約の対象不動産自体が順次売却されて減少していることから、単純に金額を比較することができない上、平成26年分には前年分の平成25年分の不動産所得の金額を上回るなど、一貫して金額が減少しているわけではなく、また、平成24年分から平成29年分までを通じて、不動産所得の金額が極めて低額になるとか、マイナスになるなどしておらず、本件賃貸借契約締結後も原告において数百万円ないし数千万円といった相応の賃貸料収入を得ていることが認められるのであって、原告の不動産所得の金額の推移からみても、本件賃貸料が適正な賃貸料と比較して著しく低額であるとはいえない。
 以上の事情からすれば、本件賃貸料が適正な賃貸料に比して著しく低額なものにされていると断ずることはできない。」

 「税負担の減少以外の本件賃貸借契約を締結することの合理的な理由となる事業目的その他の事由の有無(前記(1)A参照)について
 前記認定事実ア(イ)及び(ウ)によれば、本件賃貸借契約の締結に至る経緯には、原告が、自己の所有する不動産を賃貸する不動産賃貸業が拡大してきたこと、そのために原告個人の不動産賃貸業に係る資金管理や収支管理、税務申告等の事務が煩雑になってきたこと、自らの年齢が高齢になってきたこと等から、原告個人で営んでいた不動産賃貸業を、法人であるA社に移転するという事業目的があったものと認められる。そして、実際にも、本件賃貸借契約の締結により、原告個人の不動産賃貸業については、賃貸料収入が安定するとともに、事務が簡素化されるなどしたことが認められ、また、原告は、原告個人が営んでいた不動産賃貸業を整理するとともに、A社に事業を移転するため、平成24年以降、順次自己の所有する不動産をA社又は第三者に売却したり、新たに賃貸用不動産を取得する場合には、基本的には、A社がこれを取得したりしていることが認められる。そうすると、本件賃貸借契約は、原告が、上記のような不動産賃貸業のA社への移転という事業目的を実現するために、平成24年以降、自己の所有する不動産をA社又は第三者に売却することと並行して、本件不動産を一括してA社に対して転貸方式により賃貸したものと認められ、このような本件賃貸借契約の目的は合理的なものといえる。
 なお、原告は、前記認定事実ア(イ)のとおり、当時の顧問税理士が、原告(個人)とA社(法人)とを一体的に考えれば、不動産所得の総額は変わらず、個人又は法人のどちらかが税を負担するかということであって「行って来い」の関係であるから、税務署も理解してくれるだろうし、問題ないだろうという意見を述べたことを踏まえ、本件賃貸借契約を締結するに至っており、本件賃貸借契約の締結の目的として原告の所得税の負担の減少のためという目的があったとしても、それが主たる目的であるとは認められない。
 以上によれば、税負担の減少以外に本件賃貸借契約を締結することの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するといえる。」

1版§330.02山菱不動産事件・最判昭和52年7月12日訟月23巻8号1523頁
3版§340.04S&T事件・東京地判平成元年4月17日訟月35巻10号2004頁
5版§340.04パチンコ平和事件・最判平成16年7月20日訟月51巻8号2126頁百選4版94
転貸方式・最判平成6年6月21日訟月41巻6号1539頁百選6版52
病院管理会社・福岡地判平成4年2月20日行集43巻2号157頁(佐藤英明ら『租税法演習ノート』4版165頁「消える不動産所得?」)

5.1.2. 納税義務者

5.1.2.1. さまざまな法人

5.1.2.1.a. 法人の分類
東京地判令和5年2月17日令和元(行ウ)539号判タ1514号144頁(一部認容)(藤間大順・ジュリスト1597号重判令5年176頁、中村信行・ジュリスト2025年1月号掲載見込)……原告(X法人)は、整備法42条2項の特例民法法人(収益事業だけ課税)から平成23年2月3日に一般財団法人(非営利型)(全所得課税)へ移行した。Xが移行前に取得した有価証券と減価償却資産について、取得時価額を取得価額として扱うべきか移行時価額を取得価額として扱うべきかが争われた。判決は取得時価額説を採用し概ね請求を認容した。損失の二重計上の可能性を指摘する被告(国)の主張にも一分の理はある(租税判例研究会では評者は自身の見解は述べなかったがフロアからは国を支持する意見も出た)し判決も一定の理解を示しているが、法人税法施行令119条の2第1項1号の「取得」の文理解釈が決め手となったと読解できようか。

6版§312.04 法人成り⇒4.5.2.・所税56条(家族内必要経費不算入)・57条(専従者控除)参照
COLUMN5-2 非営利型法人
6版§312.02ペット葬祭業事件・最判平成20年9月12日判時2022号11頁百選7版51no 令2宗教法人の税務
5.1.2.1.b. 人格のない社団等
§5版312.03熊本ねずみ講税金訴訟事件・福岡高判平成2年7月18日訟月37巻6号1092頁百選5版22np(マルチの説明)
法人税法3条「人格のない社団等は、法人とみな」す。
同2条8号「人格のない社団等 法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものをいう。」

事実・争点 A(後に破産し、破産管財人Xが原告となる)が営んでいたネズミ講事業を天下一家の会に贈与したとして、Y税務署長がAに対し所税59条のみなし譲渡課税を試みる。会は社団に当たるか?

判旨 「人格なき社団」概念は租税法独自か?──「権利能力なき社団」民事実体法上の概念を借用。
なぜ独自に解釈しないのか?──「法的安定性」「民事実体法と一義的に解釈されるのが相当」
社団の成立要件は?──「個人の意思と離れた別個独立の団体意思の存在」「事業活動等に要する団体固有の資産が個人と峻別されて存在する」
本件への当てはめ──「実態は個人事業であるのにこれを仮装し、人格なき社団という形式に名を借りた同体異名のものであると断ずるのが相当」→人格のない社団に当たらない。

民事実体法上の社団の成立4要件 最判昭和39年10月15日民集18巻8号1671頁
[1]団体としての組織
[2]多数決の原則
[3]構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続
[4]その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定している。ah


6版§312.03マンション管理組合事件・東京地判平成30年3月13日訟月65巻8号1228頁平成28(行ウ)411号・東京高判平成30年10月31日平成30(行コ)104号(岸田貞夫・ジュリスト1541号119頁)…「人格のない社団等」に該当するとした事例。

一審判旨 「法人税法上の人格のない社団等とは,法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものをいうところ(同法2条8号),このうち法人でない社団は,民事実体法における権利能力のない社団と同義と解されるから,ある団体が人格のない社団等に該当するというためには,@団体としての組織を備え(要件1),A多数決の原則が行われ(要件2),B構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し(要件3),Cその組織によって代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定している(要件4)ものでなければならないと解される([最判昭和39年10月15日民集18巻8号1671頁]参照)。」
「@前提事実及び証拠…によれば,原告は,本件マンション並びにその敷地及び附属施設の管理等を行うことを目的として,本件区分所有者全員によって構成される団体であり,本件マンション内に事務所が置かれているほか,本件規約所定の議決事項について議事を行うために総会が開催され(本件規約46条〜56条),役員として4名の理事及び1名の監事が総会により選任され(本件規約36条1項),理事の互選で選任される理事長は原告を代表し,原告の業務を執行するものとされ(本件規約36条2項,41条),また,理事をもって理事会が構成されて所定の業務を行うものとされている(本件規約57条〜61条)ことが認められ,これによれば,原告は団体としての組織を備えているものと認められる。」
「A組合員は住戸1戸につき1議決権を有し,総会の議事は出席組合員の議決権の過半数で決するなどとされており(本件規約50条,53条),原告においては多数決の原則が行われているものと認められる。」
「B本件マンションの区分所有権の譲渡等によって本件区分所有者につき変更があった場合でも,新たに区分所有者となった者は当然に組合員となるものとされており(本件規約31条),構成員の変更にもかかわらず原告という団体そのものが存続するものと認められる。」
「C上記のとおり,原告の理事長が原告を代表し,原告の業務を執行するものとされている上,本件規約において,総会の開催時期,招集手続や議決に関する事項が定められ(本件規約46条〜56条),共益費(本件マンションの敷地及び共用部分等の管理に要する費用)の負担や会計に関する定めも置かれている(本件規約25条〜30条,62条〜68条)ことなどから,代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものと認められる。」
COLUMN5-3 法人課税信託

5.1.2.2. 課税標準

5.1.2.2.a. 各事業年度の所得
5.1.2.2.b. 収益事業課税 (公益法人等および人格のない社団等)ag

5.1.2.3. 税率(法税66条租特42条の3の2)

5.1.3. 会社法・企業会計との関係

5.1.3.1. 確定決算主義(法税74条1項)

法税22条4項:公正処理基準(会社法431条) → 会計の三重構造  法税74条1項柱書「内国法人は、各事業年度終了の日の翌日から二月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。」[各号・2項以下略]

5.1.3.2. 損金経理等

損金経理(2条25号)の要請……逆基準性の問題が指摘される。ip

5.1.3.3. 公正処理基準(企業会計準拠主義)

6版§321.02企業会計との関係 大蔵省企業会計審議会中間報告書「税法と企業会計との調整に関する意見書」hq
税法、商法、企業会計原則は、それぞれ固有の目的と機能を持っている。
企業会計…株主・債権者等の利害調整機能と情報提供機能
商法会計…株主及び会社債権者の利益保護のための利害調整及び情報提供
(証取法会計…投資者保護のための情報提供…なるべく利益を大きく。粉飾決算の誘因)
税務会計…納税者間の公平(なるべく所得を小さく。逆粉飾決算の誘因)、税務執行の適正・確実性

5版§321.03(6版390頁)大竹貿易事件・最判平成5年11月25日民集47巻9号5278頁百選7版65hr
事実・争点 納税者は為替取組日基準を、課税庁は船積日基準を主張
判旨 「現に法人のした利益計算が法人税の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り」、課税所得の計算上もこれを許容する、との一般論の下で、本件では納税者の採用した会計処理が認められなかったことに留意。(しかも2人の反対意見付きの際どい判断) cf.⇒4.4.2.権利確定主義

6版§321.03公正処理基準――前期損益修正 クラヴィス事件(旧プロミス事件)最判令和2年7月2日民集74巻4号1030頁百選7版66ag(阿部雪子・ジュリスト1559号131頁)……利息制限法違反利息を受けており、不当利得返還請求を受けて返還することとなった場合、どの年度の損失とすべきか。控訴審は、制限超過利息受領年度の益金の額を減額する計算が公正処理基準に合致するとしていたが、最高裁は覆した。

最高裁判旨 「法人税の課税においては,事業年度ごとに収益等の額を計算することが原則であるといえるから,貸金業を営む法人が受領し,申告時に収益計上された制限超過利息等につき,後にこれが利息制限法所定の制限利率を超えていることを理由に不当利得として返還すべきことが確定した場合においても,これに伴う事由に基づく会計処理としては,当該事由の生じた日の属する事業年度の損失とする処理,すなわち前期損益修正によることが公正処理基準に合致するというべきである。」

cf.名古屋地判平成13年7月16日判タ1094号125頁平成12(行ウ)14号確定(高橋靖・ジュリスト1232号201頁)……石油販売会社がプリペイドカードの発行に際して収受する対価につき、発行時に収益として計上することなく預り金として処理し、そのカードの所持者が現実に商品と引換えをした時点で収益計上する方式は、社会的に認知されていたやり方であったものの、法人税法22条4項の公正処理基準に違反する。プリペイドカードの未使用部分に係る発行対価をその発行した日の属する事業年度の収益として益金に算入すべし。

cf.TFK株式会社事件(旧武富士事件)東京地判平成25年10月30日訟月60巻12号2668頁平成24(行ウ)212号請求棄却・東京高判平成26年4月23日訟月60巻12号2655頁平成25(行コ)399号控訴棄却(渡辺裕康・ジュリスト1477号111頁)……利息制限法違反利息&遅延損害金を受けていた法人が倒産し過払金返還請求権に係る債権が更生債権として確定した場合に、従前益金算入していた利息制限法違反利息&遅延損害金について更正をすべき旨の請求をしたところ、棄却され、前期損益修正をすべしとされた事例。

昭和40年頃の法人税法は会計準拠の色が強かったが、昭和60年頃から課税庁が納税者の会計処理に対してアタックを仕掛けるようになり、その集大成が平成5年大竹貿易事件最高裁判決であった。「法人税の企図する公平な所得計算という要請」が、平成5年頃はさほど強調されてなかったが、平成20年代以降、強調されるようになり、企業会計の世界では一般的に認められている処理でも法人税法上は認められないという裁判例が登場するに至った。今、企業会計と法人税法22条4項との関係はかなり緊張感のある関係になっている。

不動産信託流動化事件(ビックカメラ事件)東京地判平成25年2月25日訟月60巻5号1103頁請求棄却・東京高判平成25年7月19日訟月60巻5号1089頁控訴棄却百選7版59……不動産流動化実務指針に基づく原告の会計処理(但し事案の特殊性として会計処理の事後的な訂正――それも証券取引等監視委員会の指導による訂正――として更正の請求をしたという事情があった)が法人税法22条4項の公正処理基準に合致しないとされた事例。。
債権信託流動化事件(オリックス銀行事件)東京地判平成24年11月2日税資262号順号12088請求棄却・東京高判平成26年8月29日税資264号順号12523請求認容(吉村政穂・ジュリスト1451号8頁、浅妻章如・立教法学87号204頁、佐藤修二・ジュリスト1475号8頁、神山弘行・平27重版189頁)……一審は金融商品会計実務指針105項を文理解釈し、105項の要件を満たしていないとして105項に沿った会計処理をした原告の主張を斥けた。しかし控訴審で覆った。
平川雄士「近時の判例等にみる租税法の原理・原則」租税研究769号104頁(2013.11)参照。

国税不服審判所令和6年2月26日裁決・裁決事例集134集……死亡保険金が死亡時(令和3年12月期)に益金算入されるか保険会社の審査後(令和4年12月期)か。令和4年12月期。(北村豊「税でモメたらどうする(第10回)〜まだもらえるか分かんないよ!〜」2025.3.14)

5.2. 法人の所得計算

5.2.1. 収益費用アプローチ (⇒4.4.1.)

5.2.2. 益金の額の計算

5.2.2.1. 収益の範囲

5.2.2.1.a. 収益の意義
6版§321.05資本等取引(法税22条5項):「法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配……及び残余財産の分配又は引渡しをいう。」
資本金等の額(2条16号(以前は「資本等の金額」)):「法人……が株主等から出資を受けた金額……」
cf.利益積立金額(2条18号):「法人……の所得の金額……で留保している金額……」ai

損益取引(法令用語ではなく講学上の用語):資本等取引以外の取引であり、損益の増減をもたらす。なお、法人税法は「取引…に係る…収益」と規定しているので、実現主義の考え方を基本としていると理解される。

資本等取引によっても法人の資産は増減する(cf.所得=消費+純資産増加)が、資本等取引のうちの前半は法人・株主間の自己取引と考えられるので、法人の利益の計算では排除する。後半は、法人の課税所得を法人の利益と基本的に同じものと考えることの表れといえる。 cf. 混合取引aj

6版§322.01益金概説 法人税法22条2項「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。 」
◆「別段の定め」例:法人税法23条 法人の受取配当益金不算入
法人の受取配当等に対しては支払法人の段階で既に法人税が課されているから、法人所得に対し何回も課税することを避けるためには、受取法人の段階でそれを法人税の対象から除外する必要がある。
◆「資本等取引」「取引(実現主義)」……既述
◆「有償又は無償」「資産の譲渡又は役務の提供」…無償でも益金計上が要求される(6版§322.02, 6版§322.03)。
   「有償」+「資産の譲渡」
   「有償」+「役務の提供」
   「無償」+「資産の譲渡」の四通りがある。
   「無償」+「役務の提供」
◆「無償による資産の譲受け」……要するに受贈益(6版§322.04)(注:無償で役務を受けることは益金計上しない。支出すべき費用が減少し、その分だけ課税所得が増加するから)
損害賠償金の取得も益金算入(所税9条1項17号とは違う)
◆法人税法22条の2で収益の額の明確化を図る。

タイ有利発行事件東京地判平成22年3月5日税資260号順号11392平成19(行コ)754号(辻富久・ジュリスト1431号168頁)・東京高判平成22年12月15日税資260号順号11571平成22(行コ)136号・最決平成24年5月8日税資262号順号11945…タイ関連会社の額面発行株式の引き受けに伴う時価との差額の受贈益が益金を構成するとした事例。([浅妻]既存株式の希薄化損失を考慮しなかったことの当否については、議論の余地がありそうである。東京地裁は希薄化損失は未実現損失であるから考慮しなくてよいとした。これはつまり、既存株式を実際に譲渡した際の譲渡損失の発生時まで待つ、ということであろう。)

日産事件・東京地判平成24年11月28日訟月59巻11号2895頁平成22(行ウ)314号、東京高判平成26年6月12日訟月61巻2号394頁平成24(行コ)480号(吉村典久・ジュリスト1472号8頁、谷口勢津夫・重判平26年213頁、田島秀則・ジュリスト1489号130頁、中里実・法律時報86巻9号130頁)・最一小決平成27年9月24日平成26(行ツ)385号平成26(行ヒ)416号……子会社の株式を保有する親会社が、子会社の株式消却に伴い、適正譲渡対価より低い金額の払戻金しか受領しなかった場合、旧商法上の減資払戻限度超過部分であっても益金に計上せねばならず、更に法人税法37条1項の寄付金に該当するとされた事例。

最判昭和46年11月16日刑集25巻8号938頁(⇒5.2.2.2.b)

損害賠償請求権:大栄プラスチックス事件・最判昭和43年10月17日訟月14巻12号1437頁(⇒5.2.2.2.a)
5.2.2.1.b. 無償取引
6版§322.02無償による資産の譲渡 南西通商株式会社事件最判平成7年12月19日民集49巻10号3121頁百選7版52ak
事実・争点 X1社はX2が全額出資している会社であり、X2が代表取締役として経営を支配している。X1は昭和55年〜61年にかけて、取引先銀行の取引相場のない株式(本件株式)を平均1株225円で14万9025株取得した。昭和63年及び平成元年に合わせて14万9025株を1株225円でX2に譲渡した。これは低額譲渡に当たると考えたY税務署長は、X1については時価との差額を益金算入し、X2については時価との差額の給与所得(賞与)を得たものと認定して、それぞれ更正処分を打った。

判旨 上告棄却(請求棄却)
 「資産の無償譲渡も収益の発生原因となる」。「反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益が認識すべき」。(←譲渡所得課税に関する清算課税説と類似の発想)  低額譲渡の場合に「適正な価額との差額部分の収益が認識され得ないものとすれば、前記のような取扱いを受ける無償譲渡の場合との間の公平を欠くことになる」。
 「資産の低額譲渡が行われた場合には、譲渡時における当該資産の適正な価額をもって法人税法22条2項にいう資産の譲渡に係る収益の額に当たる」。

一審との比較…「正常な対価で取引を行った者との間の負担の公平を維持するために、無償取引からも収益が生ずることを擬制した創設的な規定」→「法人税法22条2項が適用され、本件株式の譲渡価格と時価との差額に相当する金額が益金に算入される」。

cf.相互タクシー事件最判昭和41年6月24日民集20巻5号1146頁al……Xは事業を行なう株式会社であり、甲社等の株式を有していた。甲社等が増資決議・新株の株主割当を行うことになった。が、Xは独禁法上増資新株を取得できない関係にあった。Xは、新株を取得させる目的で株主名簿上の名義を書き換え、甲社等株式を自社の専務取締役Aらに名義変更した。Aらは払い込みをして新株主となった。Aらは、新株を取得後、旧株をX名義に復帰させた。
(新株プレミアムとは……増資前の株価が350円である時に旧株1株について新株1株を新株払込価額50円で発行したとする。(350+50)/2=200より増資後の株価は200円となるので、差額の150円が新株プレミアムとなる。なお旧株所有者は150円損する。)
Y税務署長の処分・主張 {(新株の価額)−(払込金額)の残額}はXの益金に加算される。Xが新株引受権をAらに無償譲渡したものであり、新株引受権を賞与(参照:現法人税法34条:役員給与等損金不算入)として利益処分したものである。
Xの主張 独禁法の規制により元々Xは新株を取得できない。新株引受権を与えられるべき割当基準日における株主とは株主名簿上の株主である。従って、各割当基準日の株主名簿上の株主であるAらは割当基準日にその新株引受権を当然かつ原始的に取得した。
判旨 破棄差戻(実質的にX敗訴)
(1)何に経済的価値があるか 「第三者に新株を割当させることのできたX会社の地位そのものは、金銭に見積もることもできる経済的価値ある利益」。 「独禁法10条」が新株取得を禁じていても「増資によりその株主一般が受けうべき利益を会社において事実上享受するために採る行為までを無効とする趣旨とは解しがたい」。 「Xは」Aらから「相当の対価を徴」することもできたはずなのに「前叙の行為をしたことは、増資会社の株式の所有に基づきXが享受する経済的利益を無償で重役等に授与したことを意味」する。
(2)経済的利益の移転は何について生じたか 「移転の対象となった経済的利益は、いわばX所有の増資会社株式について生じる新株プレミアムから構成されるものとみられ、その利益の移転は、同社所有の増資会社株式の値上り部分……の価値の社外流出を意味する」。 「株式の値上りがXの右株式の取得価額(記帳価額)を上回るものがあるならば、その部分は同社の未計上の資産」。
(3)経済的利益の移転があるとして何故それを計上する必要があるか 「未計上の資産の社外流出」にあたり「これに適正な価額を付して同社の資産に計上し、流出すべき資産価値の存在とその価額とを確定することは、Xの資産の増減を明確に把握するため当然必要な措置であり……その増加資産額に相当する益金を顕現するものといわなければならない」。
(4)益金・損金について 「重役等に移転した利益に同社の未計上の資産価値が含まれると認められるかぎり、当該事業年度においてそれに相当する益金の発生を肯定せざるをえない」「他面その重役等に対する利益授与によるXの資産の減少が事業上の損金となしがたいものとすれば…」

相互タクシー事件判決と同様の考え方を採用した例として、まからずや事件・大阪高判昭和43年6月27日訟月14巻8号948頁昭和38(ネ)353号。

6版§322.03無償による役務の提供 清水惣事件・大阪高判昭和53年3月30日判時925号51頁百選7版53am
事実 X社・T社は親子関係で法人税法上の同族会社(法人税法132条については後述)。XはTに2654万円を無利息で融資(「本件無利息融資」)した。Y税務署長は、本件無利息融資について、年10%の利息による利息相当額を寄附金と認定し(法人税法37条参照)、寄附金損金不算入額として、昭和39年に206万1013円、昭和40年に258万2134円を加算。一審では租税回避行為の否認が認められず、Y控訴。

Y控訴理由 本件無利息融資に係る利息相当額は、法人税法22条2項の「無償による役務の提供」に係る収益として認識され、Xの益金を構成する。寄附金(定義は37条7項)として社外流出しており、法37条2項(当時。現3項、及び施行令73条)の寄附金損金算入限度額を超える部分は益金として計上すべき。

判旨 原判決変更・確定。年6%の利息相当額の範囲でYの処分を維持。
 (一) 22条2項は「資本等取引以外において資産の増加の原因となるべき一切の取引によって生じた収益の額を益金に算入すべきものとする趣旨と解される。そして、資産の無償譲渡、役務の無償提供は、実質的にみた場合、資産の有償譲渡、役務の有償提供によって得た代償を無償で給付したのと同じである」
 (二) 金銭は企業内で利用されることにより果実をもたらす。自らが利用しない場合でも「少くとも銀行等の金融機関に預金することによりその果実相当額の利益をその利息の限度で確保するという手段が存在することを考えれば」営利法人の無利息融資は通常ありえない」。 無利息貸付をした場合「合理的な経済目的その他の事情が存する場合でないかぎり……通常ありうべき利率による金銭相当額の経済的利益が借主に移転したものとして顕在化した」のであり、無償提供として「収益として認識されることになる」。
 (三) 法37条5項(当時。現7項)による「寄附金」(cf.⇒5.2.3.5.c.)の定義。 寄附金のうち「どれだけが費用の性質をもち、どれだけが利益処分の性質をもつかを客観的に判定することが至難であるところから、法は、行政的便宜及び公平の維持の観点から、一種のフィクションとして、統一的な損金算入限度額を設け」た。 「法37条5項かっこ内所定のものに該当しないかぎり、それが事業と関連を有し法人の収益を生み出すのに必要な費用といえる場合であっても、寄附金性を失うことはない」。
 (五) 当てはめ…「何らかの合理的な経済目的等のためにT社にこれを無償で供した」か?

判旨(一)が講学上二段階説と呼ばれる。学説には異論もある(中川一郎説、金子宏説について概説参照)。
判旨は法人税法37条1項の寄附金課税を確認的規定と位置付けている。もし創設的規定ならば法改正前である昭和39年について寄附金課税をすることが根拠付けられなくなる。 ([浅妻]若干疑問。。特に損金算入限度額については「一種のフィクション」と述べているところ、旧法下において明文化されていないフィクションなどありえないだろう)
 計算の手順……本来は、本件無利息融資に係る利息相当額全額を益金計上し、次に、37条(+施行令73条)による損金算入限度額の範囲内で損金計上すべき。しかし実務上はネット額のみ益金計上している。

合理的な経済目的……法基通9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等) 法人がその子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等(以下9−4−2において「無利息貸付け等」という。)をした場合において、その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。[(注)略]
([浅妻]親会社と子会社とは別個の法人格を有しているのであるから、親子一体と見るような上記通達はおかしいのではないか、との批判が考えられる。しかし、親会社が子会社に利益を無償で供与しても、その利益の分だけ親会社の資産が減る代わりに、親会社が保有する子会社の株式の価値が上がるので、(特に100%保有関係である場合には)結局のところ親会社は何も損をしていない、と経済的に考えることができる。尤も、保有子会社株の価格上昇、というこの論理は、常に認められるわけではないので、あくまで補強的な論理であるにすぎない。例えば、子会社が債務超過に陥っている場合、子会社株の価格は0未満にはならないから、親会社が利益を子会社に無償で供与しても、子会社株の価格は0のままであることもありうる。穴の空いたバケツのようなもの。それでもなお寄附金が認定されないことを合理的に説明するには、子会社の現時点での倒産防止が将来親会社に利益をもたらす可能性がある、といった説明になろう。)
株式会社池村商会事件・東京地判平成27年4月24日平成24(行ウ)847号棄却・東京高判平成27年11月26日平成27(行コ)197号棄却…100%子会社に対する債権放棄の貸倒損失の計上が認められず法人税法37条1項にいう寄附金に当たるとされた事例。消費税課税標準額からの控除もできないとされた事例。

独立企業間価格(講学上は独立当事者間価格ともいう。英語arm's length price)

 A国税率20% 卸売価格? B国税率40%
仕入200→P社→→自動車→→S社→消費者へ1000
製造費用400      販売費用100
     ↓
     ↓  卸売価格800
     →→→自動車→→第三者→消費者へ1000






PS間の卸売価格が独立当事者間価格800なら、P社の所得200、税40、S社の所得100、税40、二社の税の合計は80、PS間の卸売価格を900にすると(価格操作)、P社の所得300、税60、S社の所得0、税0、二社の税の合計は60
 本件ではX・Tが関連会社であるが、独立の当事者であったならば付されていたであろう利息の額こそが、適正な利息相当額といえる。租税回避の一手法に、移転価格(transfer pricing)というものがある。特に国際課税で問題となる。国際取引については、移転価格によって関連者間で所得の振替が行なわれても、独立当事者間価格により適正な利益の計上が強制される。(租特66条の48.4.2.)
 検討:裁判所は、少なくとも銀行預金利子以上の果実をXは元本金銭から得られるはず、と述べる。([浅妻]もしXに銀行預金以上の有効な金銭利用策がなかったのであれば、銀行預金利子の額こそが適正な利息相当額であるとする考え方もありうる(しかもこの考え方によれば銀行預金を見ればよいのであるから認定が簡単になるという利点もある)。Xにとってそれ以上の利益を得る方策がなかったのであれば、Xが益金に計上しなければならない額もその限度にとどめられるべきであるとする考え方である。しかし恐らくこのような考え方は採られていない。第一に(本質的批判ではないが)Xに銀行預金以上の有効な金銭利用策がなかったことを確認するのが面倒である。第二に、Xが幾らの利益を得る可能性があったかに着目しているのではなく、XがTから幾らの代償を得るはずであったかに、規定及び裁判所は着目している。裁判所の銀行預金のくだりは、あくまで「少くとも」の話題であると理解されるであろう。)

会社間の所得振替について
国際取引と異なり、内国法人同士の間では普通同じ税率である。(尤も、関連者間取引に個人事業者が介在すれば累進税率の適用が問題となりうる)
 仮に税率が同じならば、それでも不都合が生ずるか?
 答:生じうる。損失を抱えている法人に所得を移せば課税所得を減らすことができる。
 日本では移転価格対策(租特66条の4)は国際取引にしか適用されないが、国内取引であっても法人税法22条2項及び37条の合わせ技により法人に強制的に収益を計上させることができることがある。
 しかし寄附金の損金算入限度額の範囲で、所得振替は成功する、ともいえる(このことへの学説の非難は強い)。この点で租特66条の4と比べて課税結果が完全に一致するとは限らない。
 cf.アメリカの規定(Internal Revenue Code§482)は国内取引にも適用される。

5版§322.05(6版403頁)オウブンシャホールディング事件最判平成18年1月24日訟月53巻10号2946頁百選7版54an
事実 X社(原告・オウブンシャホールディング)が有している株(C株・D株:テレ朝株・文化放送株)を売却することを考えたが、その株には多額の含み益があり、直接的に売却してしまえば多額の課税を受けることとなってしまう。
 X(E・センチュリーが49.6%保有)は平成3年にオランダに子会社としてA社・アトランティック(ペーパーカンパニー)を設立。この際、圧縮記帳(平成10年改正前法人税法51条)(今は不可)により課税繰延をしていた(原則として出資財産の含み益を認識しなければならないが例外的に含み益を認識しなくてよいという扱い)。発行株式数は200株で、額面金額は1株1000ギルダー、合計20万ギルダー(約1500万円)。超過額は資本準備金。
 平成7年、EはオランダにB社・アスカファンドを設立。
 A社がB社に著しく有利な価額で新株を割り当てる増資を株主総会で決議。1株当たり額面金額1000ギルダーで3000株、発行価額合計額は303万0303ギルダー(1010.1ギルダー/株、約5.9万円)。新株割当当時におけるA社株式の資産価値は約234万ギルダー/株(約1億3648万円)。
 この新株割当により、XがA社株式について含み益の形で有していた利益が消え(200/200株→200/3200株、100%→6.25%、約273億円→約17億円、差額約256億)、A社の利益はB社が支配(0/200→3000/3200株、0%→93.75%)することになった。

         日本    国境    オランダ
   筆頭株主49.6%      : 100%出資200株圧縮記帳
センチュリーE ―― 原告X――:――→アトランティックA
   | テレ朝・文化放送株 :    |新株割当(3000株)
 100%|           :    ↓     |時価譲渡
 出資└―――――――――――:―アスカファンドB |含み益実現
               :          ↓(蘭で非課税)
買収者←―OM社←――――――:―――――――JI社蘭法人
   企業買収        :  株式売却







 法形式的に見れば、XとAとの関係、及びAとBとの関係は別々である。
 しかし、平成10年、Y税務署長は、XからBに利益を移転させた(含み益の実現を含む)ものと観察し、寄付金と認定した。(更正処分時には法人税法132条:同族会社規定を根拠としていたが、訴訟時、主位的に法22条2項:益金の規定、予備的に法132条の適用を主張。時機に後れた攻撃防御方法という論点については省略)

 判決文に表れてはないが、Aはグループ内の別のオランダ法人(図のJI社)に株を時価で譲渡して含み益を実現させ、JI社がグループ内の日本法人(図のOM社)へ株式を譲渡し、当該OM社がグループ外の買収者に買収された。
 これが上手くいけば、グループが有するテレビ朝日株・文化放送株について譲渡益課税を免れつつ、当初の予定通りの買収者に株を譲渡できることとなる。オランダで含み益を実現させているので、含み益についての課税繰延ではなく課税の回避である。

争点 判決で問題となっている部分は、X(=旧株主)とA(=子会社)とB(=新株主)という三角関係において、旧株主から新株主への利益移転が認められるか、である。

一審 請求認容 「被告の主張は」「旧株主がその有する株式の含み益を喪失し、それに相当する利益を新株発行を受けた新株主が取得した場合に、これを株主間の無償取引による利益の移転ととらえるに等しい」。 
 結論として、「実質的にみてXの保有するA社株式の資産価値がB社に移転したとしても、それがXの行為によるものとは認められないから、同資産価値の移転がXの行為によることを前提としてこれに法22条2項を適用すべきである旨の被告の主位的主張には理由がない。」(なお、法人税法132条・同族会社の行為計算否認の適用も斥けた。)

二審 原判決取消・請求棄却 「Xが上記資産に係る株主として有する持分をA社からなんらの対価を得ることもなく喪失し,B社がこれを取得した事実は,それが両社の合意に基づくと認められる以上,両社間において無償による上記持分の譲渡がされたと認定することができる。」
 「両社間における無償による上記持分の譲渡は,法22条2項に規定する『無償による資産の譲渡』に当たると認定判断することができる。尤も,上記『持分の譲渡』は,同項に規定する『資産の譲渡』に当たるとすることに疑義を生じ得ないではないが,『無償による・・その他の取引』には当たると認定判断することができるというべきである。すなわち,上記規定にいう『取引』は,その文言及び規定における位置づけから,関係者間の意思の合致に基づいて生じた法的及び経済的な結果を把握する概念として用いられていると解せられ,上記のとおり,XとB社の合意に基づいて実現された上記持分の譲渡をも包含すると認められる。」

最高裁 破棄差戻し(しかし実質的には国税の勝ち) 「Xの保有するA社株式に表章された同社の資産価値については,Xが支配し,処分することができる利益として明確に認めることができるところ,Xは,このような利益を,B社との合意に基づいて同社に移転したというべきである。したがって,この資産価値の移転は,Xの支配の及ばない外的要因によって生じたものではなく,Xにおいて意図し,かつ,B社において了解したところが実現したものということができるから,法人税法22条2項にいう取引に当たるというべきである。」
 ただし株式の評価の点で原判決は破棄を免れないとして差戻した(だけ)。

考察 最も極端に言えば、法人税法22条2項の「取引」をXとB社との間の「合意」によって認定した、という事例。
 しかし、そのように言ってしまうと、【意図する経済的効果とそれを達成するための法律構成とは異なる】という従来の説明が崩れかねない。ある経済的効果を「意図」することとその「了解」を、或いは「合意」を、「取引」と呼んでよいか。実務は最高裁判例に従わざるをえないが、(学説上・試験上においてのみだが)議論の余地が残る。
 なお、判旨が「外的要因によって生じたものではな」いということに言及している点も重要。外的要因によって富の状態が変動する典型例としては株価の変動などが挙げられる。

6版§322.04無償による資産の譲受け 有限会社柿木荘事件・東京高判平成3年2月5日行集42巻2号199頁
事実・争点 会社Xの取締役Aが死亡。AからXに土地の遺贈。Aの相続人B〜Eの遺留分減殺請求に対し価額弁償。土地の遺贈があったのが昭和58年、価額弁償が昭和59年(D・E部分)である場合に、昭和58年において価額弁償の分だけ受贈益が減ったこととされるか?
(背景として、遺留分減殺請求権(現在は遺留分侵害額請求権)は形成権でありその効力は相続時にまで遡る

判旨 控訴棄却(Xの請求棄却)
 「遺贈による土地の取得は、法人税法22条2項所定の『無償による資産の譲受』に当たるものとして当該事業年度の収益となる。」
 「遺留分減殺請求がされ、これに伴う具体的な受贈益の変動、すなわち具体的に価額弁償の額が決定され、受贈益の減少があった場合に、その時点の事業年度において損金として処理することとしても、受贈益の利益を著しく害するものではない。」

cf. 遺贈についてAに所得税法59条1項(みなし譲渡)が適用されていたら、Xの土地の取得価額は幾らであると考えるべきか、に留意。

cf. 相続財産の評価は低くされがちである。100%を狙って課税処分を打つと訴訟が頻発するのでいわゆる八割評価という形で固めの評価をするのが通例。時価の80%を狙って結果としてそれを上回ってしまい95%などになってしまっても100%を超えてなければ課税処分は違法といえない。なお、本件のY税務署長が公示価格を基に1億0631万円と評価したということについても、従来公示価格自体が時価よりも控えめの評価であると理解されているので、高すぎとは言いにくい。

ファーストペンギン事件・東京地判令和3年10月29日令和2(行ウ)334号(藤岡祐治・ジュリスト1572号10頁、渡辺徹也・ジュリスト_号_頁)(東京高判令和4年4月14日令和3(行コ)281号・最決令和4年11月11日令和4(行ツ)233号令和4(行ヒ)254号)……資産の低額譲受け時に適正な価額との差額を益金に計上しなければならない。
COLUMN5-4 所得の振替
5.2.2.1.c. 別段の定め

5.2.2.2. 収益の帰属事業年度(収益の認識基準)

5.2.2.2.a. 権利確定主義(cf.⇒4.4.2.)
5版§321.03大竹貿易事件・最判平成5年11月25日民集47巻9号5278頁


不当利得返還請求権:相栄産業事件・最判平成4年10月29日判時1489号90頁百選7版68(ケ6版392頁)iq……過大に徴収された電気料金の返金を受けた場合の収益の計上時期
「上告人は、昭和四七年四月から同五九年一〇月までの一二年間余もの期間、東北電力による電気料金等の請求が正当なものであるとの認識の下でその支払を完了しており、その間、上告人はもとより東北電力でさえ、東北電力が上告人から過大に電気料金等を徴収している事実を発見することはできなかったのであるから、上告人が過収電気料金等の返還を受けることは事実上不可能であったというべきである。そうであれば、電気料金等の過大支払の日が属する各事業年度に過収電気料金等の返還請求権が確定したものとして、右各事業年度の所得金額の計算をすべきであるとするのは相当ではない。上告人の東北電力に対する本件過収電気料金等の返還請求権は、昭和五九年一二月ころ、東北電力によって、計量装置の計器用変成器の設定誤りが発見されたという新たな事実の発生を受けて、右両者間において、本件確認書により返還すべき金額について合意が成立したことによって確定したものとみるのが相当である。したがって、本件過収電気料金等の返戻による収益が帰属すべき事業年度は、右合意が成立した昭和六〇年三月二九日が属する本件事業年度であ」る。
(味村治反対意見がある……同時両建説)

6版§324.05損失と損害賠償請求権の関係 日本美装事件・東京高判平成21年2月18日訟月56巻5号1644頁百選7版69……X社(10月1日〜9月30日が事業年度)の経理部長(A氏)が詐欺行為により架空外注費を損金計上していた。Xは平成16年9月期の内にAを懲戒解雇し、Aに損害賠償請求訴訟を提起した。翌期にAがXに1億8815万円を支払うべしとする判決が確定した。Xの平成9年9月期〜平成15年9月期(平成11年9月期を除く6事業年度)の架空外注費の計上に関し税務署長はX社に更正処分及び重加算税賦課決定処分をした。審査請求を経て、平成13年9月期及び平成15年9月期(「本件各事業年度」)の各処分が維持されたので、これら各処分の取消しをXは求めて提訴した。
一審判旨 平成16年9月期に損害賠償請求権の額を益金計上。
 「一般に,詐欺等の犯罪行為によって法人の被った損害の賠償請求権についても,その法人の有する通常の金銭債権と同様に,その権利が確定した時の属する事業年度の益金に計上すべきものと考えられるが,不法行為による損害賠償請求権の場合には,その不法行為時に客観的には権利が発生するとしても,不法行為が秘密裏に行われた場合などには被害者側が損害発生や加害者を知らないことが多く,被害者側が損害発生や加害者を知らなければ,権利が発生していてもこれを直ちに行使することは事実上不可能である。……権利が法律上発生していても,その行使が事実上不可能であれば,これによって現実的な処分可能性のある経済的利益を客観的かつ確実に取得したとはいえないから,不法行為による損害賠償請求権は,その行使が事実上可能となった時,すなわち,被害者である法人(具体的には当該法人の代表機関)が損害及び加害者を知った時に,権利が確定したものとして,その時期の属する事業年度の益金に計上すべきものと解するのが相当である([相栄産業事件判決]参照)。」

控訴審判旨 逆転:本件各事業年度(平成13年9月期、平成15年9月期)に損害賠償請求権の額を益金計上。
 「損害賠償請求権については、通常、損失が発生した時には損害賠償請求権も発生、確定しているから、これらを同時に損金と益金とに計上するのが原則であると考えられる(不法行為による損失の発生と損害賠償請求権の発生、確定はいわば表裏の関係にあるといえるのである。)。」
 「例えば加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を把握することが困難なため、直ちには権利行使(権利の実現)を期待することができないような場合があり得るところである。このような場合には、権利(損害賠償請求権)が法的には発生しているといえるが、未だ権利実現の可能性を客観的に認識することができるとはいえないといえるから、当該事業年度の益金に計上すべきであるとはいえないというべきである(……[相栄産業事件判決]参照)。このような場合には、当該事業年度に、損失については損金計上するが、損害賠償請求権は益金に計上しない取扱いをすることが許されるのである(法人税基本通達2−1−43…)」
 「この判断は、税負担の公平や法的安定性の観点からして客観的にされるべきものであるから、通常人を基準にして、権利(損害賠償請求権)の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえるような客観的状況にあったかどうかという観点から判断していくべきである。不法行為が行われた時点が属する事業年度当時ないし納税申告時に納税者がどういう認識でいたか(納税者の主観)は問題とすべきでない。」
 「権利確定主義にいう収入すべき権利の確定の時期については、基本的には法的基準によって判断していくものである(法的基準により判断することで、法的安定性、徴税の公平性が担保される。)から、債務者の資力、資産状況等といった経済的観点により債権の実現(債務の履行)可能性を判断し、それが乏しい場合には益金計上をしなくてよいとする処理は妥当でないというべきで、このような経済的観点からの実現(履行)可能性の問題は、下記の貸倒損失の問題として捉えていくのが相当である。」
 「損害賠償請求権がその取得当初から全額回収不能であることが客観的に明らかであるとすると、これを貸倒損失として扱い、法人税法22条3項3号にいう当該事業年度の損失の額として損金に算入することが許されるというべきである([相栄産業事件判決]。なお[6版§324.04興銀事件判決]参照)。また、取得当初はそういえなかったとしても、その後そうなったという場合は、その時点の属する事業年度の損金に算入することが許されるというべきである。」
 「Xの経理担当取締役らに秘して本件詐取行為をしたものであり、Xの取締役らは当時本件詐取行為を認識していなかったものではあるが、本件詐取行為は、経理担当取締役が本件預金口座からの払戻し及び外注先への振込み依頼について決裁する際に乙が持参した正規の振込依頼書をチェックしさえすれば容易に発覚するものであった」から「通常人を基準とすると、本件各事業年度当時において、本件損害賠償請求権につき、その存在、内容等を把握できず、権利行使を期待できないような客観的状況にあったということは到底できない」。

cf.法基通2-1-43(損害賠償金等の帰属の時期) 他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含む。以下2−1−43において同じ。)の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認める。
(注) 当該損害賠償金の請求の基因となった損害に係る損失の額は、保険金又は共済金により補填される部分の金額を除き、その損害の発生した日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。

cf.3版§324.05(ケ6版458頁)日本綜合物産事件・東京高判昭和54年10月30日判タ407号114頁
事実 詐欺被害にあったXが損金計上したのに対し、Y税務署長は増額更正。
争点 詐欺被害による損金計上のために、どのような事実が要求されるか? また、損金計上とともに、損害賠償請求権も益金計上されることから結局は相殺されるのか?
 Yの主張――損金算入のためには刑事ないし民事の判決の確定を待つ。(損害賠償請求権を益金に計上すべきかについては、Y自ら益金としての確定がないとしている……「Yにおいてさえ自陳」)

判旨 実質的にX勝訴
 一般論……権利確定主義の確認
 損金計上の可否について……確定判決を待たない
 益金・損金の一体性の有無について……「益金、損金のそれぞれの項目につき金額を明らかにして計上すべきものとしている制度本来の趣旨からすれば、収益及び損失はそれが同一原因によって生ずるものであっても、各個独立に確定すべきことを原則と」する。
 あてはめ……本件では「損害賠償請求権は本件係争事業年度中に益金として確定を見なかった」ので、損失に計上したのは相当。

cf.大栄プラスチックス事件・横浜地判昭和40年4月8日行集16巻4号589頁・東京高判昭和40年10月13日行集16巻10号1632頁・最判昭和43年10月17日訟月14巻12号1437頁昭和40(行ツ)107号(ケ6版456頁)ck……横領被害に関して、「損害に相当する金額の損害賠償請求権を取得する」ので、横領被害による損害を損金計上するのと「同じ事業年度に益金を構成する」とし、「債務者の無資力その他の事由によってその実現不能が明白となった時において損金となすべき」との原判示は首肯しうるとする。この一般論のもと本件では「損害賠償権の全部または一部の実現不能が明らかになったと認め」られない、とした。

 日本綜合物産事件…損失を損金計上する。損害賠償請求権を益金計上するためには確定を要する。
 大栄プラスチックス事件…損失を損金計上する。損害賠償請求権を益金計上し(いわゆる同時両建説)、実現不能が明白となってから損金に計上する。
 一見、両判決は違うことを言っているように読めてしまうかもしれない。損害賠償請求権があるというだけで直ちに益金計上を強いるか(大栄プラスチックス)、その確定を要求するか(日本綜合物産)、態度が違うかのように読めてしまうかもしれない。  しかし、日本綜合物産事件判決は、或る年度内に損害賠償請求権の充足が凡そ期待できない場合は、相栄産業事件判決と同様に抽象的な権利の成立だけで益金計上を要請するのではない(他方、相栄産業事件判決における味村治反対意見は同時両建説である)、というものとして理解することができる。日本綜合物産事件判決は、或る年度内に損害賠償請求権の充足が凡そ期待できない場面であり、大栄プラスチックス事件判決は、或る年度内に損害賠償請求権の充足が期待できないではないので一旦は益金計上し回収不能が明らかでなければ回収不能損失を損金に計上しない(cf.貸倒損失:6版§324.04興銀事件・最判平成16年12月24日民集58巻9号2637頁)という場面である、として整合的に理解する余地がある。

cf.佐藤英明「事業上受けた不法行為による損害の処理〜年度帰属の問題」税務事例研究115号53頁以下、80頁より抜粋(2010)……「『損害賠償請求権という権利』の確定……と『損害賠償請求権を行使して収入すべき権利』の確定とが混同することに由来するものではないかと想像される。」

cf.明和興産事件・大阪地判平成10年10月28日平成8(行ウ)86号〜90号訟月48巻10号2587頁・大阪高判平成13年7月26日平成10(行コ)67号判タ1072号136頁……法人税等の申告時に課税要件事実の隠蔽仮装があるとして重加算税賦課決定処分がされた。横領行為をした従業員が発覚を妨げるため隠蔽仮装をしたものであり、法人が隠蔽仮装をしたのではないから処分は違法であるとして法人は取消請求をしたが棄却された。

余談……損害賠償請求権が法人税法22条2項2号「取引…に係る…収益」に含まれるのか、疑問が残らないではないが、恐らく「取引」という語が損害賠償のような場面で益金概念を限定する趣旨ではないのであろう(注意:「取引」という語が常に無意味という訳ではない)。
5.2.2.2.b. 管理支配基準(cf.⇒4.4.3.)
大阪地判昭和42年7月18日行集18巻7号921頁・大阪高判昭和45年1月26日行集21巻1号80頁……課税の原因となった行為が無効と認められるような場合であっても(要素の錯誤―当時は無効原因―のある交換契約)、その行為の結果、有効な場合と同様の経済的効果が発生し存続している場合には、それを対象に課税をすることは違法ではなく、後日その行為の無効に基因してその行為によって生じた経済的効果が失われ、またはこれと同視すべき状態になったときに、減額更正の手続を経て過納金の還付を受ければ足りる。交換によって取得した資産が旧法人税法施行規則13条の6第1項にいう「交換のために取得したもの」に当たるとして圧縮記帳による損金算入が認められなかった事例。

最判昭和46年11月16日刑集25巻8号938頁cl……利息制限法超過利息の未収部分が益金に含まれない(履行期が到来していても)。(cf.6版§211.02利息制限法違反利息事件・最判昭和46年11月9日民集25巻8号1120号)

名古屋地判平成13年7月16日判タ1094号125頁(⇒6版§321.03)

ベルコ事件・神戸地判平成14年9月12日判タ1139号98頁平成12年(行ウ)45号請求棄却(吉村政穂・ジュリスト1258号199頁)……冠婚葬祭業者の互助会的な預り金について管理支配基準。
 なお、所得税法59条1項2号の低額譲渡に当たるかの判定に際し同様の法人の株式の時価を算定する際に掛金返還債務が「確実と認められる」債務(評価通達186)に当たらないので賭け金返済債務を控除しないで純資産価額方式による株式の価値を算定すべきとした事例として、東京地判令和5年4月21日令和2(行ウ)215号(棄却)がある。

6版§321.03クラヴィス事件・最判令和2年7月2日民集74巻4号1030頁

5.2.2.3. 別段の定め

5.2.2.3.a. リース譲渡――延払基準(法税旧63条、法税令124条、cf.⇒4.2.3.2.)
5.2.2.3.b. 一事業年度を超える工事(法税64条)――工事進行基準(法税令129条、法基通2-1-21の7)
5.2.2.3.c. リース取引(法税64条の2)
5.2.2.3.d. 短期売買商品・売買目的有価証券(法税61条の3、61条、61条の4、61条の5、61条の9、6版§321.04)
5.2.2.3.e. 受取配当等(法税23条)
法税23条1項受取配当益金不算入 (cf.外国子会社配当益金不算入⇒8.3.5.
「内国法人が次に掲げる金額(……「配当等の額」という。)を受けるときは、その配当等の額[2]関連法人株式等[4項:1/3超100%未満の支配割合]に係る配当等の額にあつては当該配当等の額から当該配当等の額に係る利子の額に相当するものとして政令で定めるところにより計算した金額を控除した負債利子控除法税令19条1項:配当等の額の4%]金額とし、[3]完全子法人株式等[5項:配当計算期間を通じて完全支配関係がある内国法人株式]、関連法人株式等及び非支配目的株式等のいずれにも該当しない株式等……に係る配当等の額にあつては当該配当等の額の百分の五十に相当する金額とし、[4]非支配目的株式等[6項:持株比率5%以下]に係る配当等の額にあつては当該配当等の額の百分の二十に相当する金額とする。)は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない。」[1〜3号・2項以下略]

[1]完全子法人株式等(100%保有)……100%益金不算入
[2]関連法人株式等(1/3超100%未満保有)……負債利子控除後100%益金不算入
[3]その他(5%超1/3以下保有)……50%益金不算入
[4]非支配目的株式等(5%以下保有)……20%益金不算入
[5]証券投資信託(特定株式投資信託[[4]と同様]を除く:租特67条の6第1項)……100%益金算入

法人所有株式の譲渡損益は軽課措置の対象外であることに留意(対策:法人税法23条2項……短期所有株式等の除外)

6版§322.05受取配当の益金不算入
cf.国際興業管理株式会社事件東京地判平成29年12月6日平成27(行ウ)514号請求認容(佐藤修二・ジュリスト1521号10頁)・東京高判令和元年5月29日平成29(行コ)388号控訴棄却・最判令和3年3月11日民集75巻3号418頁gh(池原桃子・ジュリスト1580号89頁、渡辺徹也・ジュリスト1567号131頁、酒井貴子・新・判例解説Watch租税法No.165)(学部生には難しいのでとばしてよい)
 「法人税法24条1項3号は、利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当の場合には,そのうち利益剰余金を原資とする部分については,その全額を利益部分の分配として扱う一方で,資本剰余金を原資とする部分については,利益部分の分配と資本部分の払戻しとに分けることを想定した規定であり,利益剰余金を原資とする部分を資本部分の払戻しとして扱うことは予定していないものと解される。」
 「法人税法24条3項の委任を受けて株式対応部分金額の計算方法について規定する法人税法施行令23条1項3号は,会社財産の払戻しについて,資本部分と利益部分の双方から純資産に占めるそれぞれの比率に従って比例的にされたものと捉えて株式対応部分金額を計算しようとするものであるところ,直前払戻等対応資本金額等の計算に用いる施行令規定割合を算出する際に分子となる金額……を当該資本の払戻しにより交付した金銭の額ではなく減少資本剰余金額とし,資本剰余金を原資とする部分のみについて上記の比例的な計算を行うこととするものであるから,この計算方法の枠組みは,前記の同法の趣旨に適合するものであるということができる。しかしながら,簿価純資産価額が直前資本金額より少額である場合に限ってみれば,上記の計算方法では減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出されることとなり,利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当において上記のような直前払戻等対応資本金額等が算出されると,利益剰余金を原資とする部分が資本部分の払戻しとして扱われることとなる。
 そうすると,株式対応部分金額の計算方法について定める法人税法施行令23条1項3号の規定のうち,資本の払戻しがされた場合の直前払戻等対応資本金額等の計算方法を定める部分は,利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当につき,減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出される結果となる限度において,法人税法の趣旨に適合するものではなく,同法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。」

5.2.3. 損金の額の計算

5.2.3.1. 損金の額の帰属年度

5.2.3.1.a. 費用の扱い――費用収益対応の原則(cf.⇒4.3.2.1.)
6版§323.01損金の意義 概説 法人税法22条3項 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
 一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額[個別対応の原則]
 二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額[期間対応の原則]
 三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの


●「別段の定め」……例:法人税法34条:役員給与(6版§325.01三和クリエーション)、37条:寄附金(6版§322.03清水惣 6版§325.02太洋物産 6版§325.03PL農場)、57条:繰越欠損金(6版§325.05行田電線)、租特61条の4:交際費(6版§325.04萬有製薬)、法基通9-7-20:使途不明金、租特62条:使途秘匿金
●「資本等取引」……とりわけ支払配当の損金不算入(6版§323.02東光商事 cf.6版§221.02鈴や金融)
●1号……費用収益対応の原則(6版§324.01牛久市売上原価)
●2号……費用収益対応の原則が適用されないもの (債務の確定:6版§324.02ポイントシステム)
●3号「損失の額」「取引に係るもの」……実現主義(6版§324.05損害賠償:日本美装)。貸倒損失(6版§324.04興銀と資産の評価損)。
●22条4項……益金・損金の「額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。」 (6版§323.03違法支出:エスブイシー、6版§324.03減価償却:NTTドコモ)
COLUMN5-5 即時損金算入と資産化(⇒5.2.3.3.b.)
5.2.3.1.b. 損失の扱い(cf.⇒4.6.2.)
日新化成事件・大阪地判平成7年10月3日税資214号1頁平成6(行ウ)61号……「法二二条三項の『損金』とは、資本等取引以外の取引で純資産の減少の原因となる支出その他経済的価値の減少をいうものであり、このうち同項一号の『売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額』とは、収益獲得のために費消された財貨及び役務の対価のうち、収益に直接かつ個別的に対応するものをいい、同項二号の『販売費、一般管理費その他の費用』とは、収益に個別的には対応はしないが当該事業年度の収益獲得のために費消された財貨及び役務の対価をいうものであって、いずれも事業の遂行上必要とされるものであることは明らかであり、同項三号の『損失』とは災害、盗難等通常の事業活動とは無関係な偶発的要因により発生する資産の減少をいう」。「原告は本件土地を所有するものではなく、同土地を何ら原告の事業に利用しているものともいえないから、本件固定資産税は原告の事業の遂行上必要な支出ということはできない。また、右の事実関係及び原告と大阪観光との間においては大阪観光が同土地にかかる固定資産税を負担する旨の合意があったことからすると、右固定資産税は最終的には大阪観光が負担すべきもので、原告は、大阪観光に対し、本件固定資産税相当額についての不当利得返還請求権を有するものというべきであるから、原告が本件固定資産税をその納付義務に基づいて納付したからといって、原告の所得計算において、純資産の減少の原因となる支出その他経済的価値の減少を来したものともいえない。したがって、原告の法人税の所得計算上、本件固定資産税を損金と認めることはできない」。

5.2.3.2. 売上原価等(法税22条3項1号)

5.2.3.2.a. 売上原価
5.2.3.2.b. 完成工事原価(法基通2-2-5)
5.2.3.2.c. 「これらに準ずる原価」
山京商事株式会社事件・東京地判昭和48年1月30日昭和43(行ウ)48号・東京高判昭48年8月31日昭和48(行コ)5号判時717号40頁……「宅地建物取引業者の外務員に支払われる具体的な取引ごとに定まる歩合給債務は、販売商品や製品の原価とは異なるが、具体的な不動産売買に際し仲介人である宅地建物取引業者が役務を提供し仲介料請求権を取得するのに伴つて負担することになるし、また実質的には当該取引仲介のための外務員の労務が仲介という役務の一部を構成しているので、右の原価に準ずるものとして扱うのを相当とする。」「控訴人の外務員に支払うべき歩合給債務は、それが現実に支払われたときではなく、仲介手数料の金額の約定が成立した際に同時に具体的に確定したということができ、それは控訴人の取得する収益である仲介手数料と対応するものであるので、仲介手数料が収益として計上される事業年度に対応して損金に計上される」。
5.2.3.2.d. 売上原価等の見積計上
6版§324.01売上原価 牛久市売上原価見積事件最判平成16年10月29日刑集58巻7号697頁百選7版56as
事実・争点 Xが宅地造成の許可を得る際、水路工事費(1億4668万円と見積もられた)を負担することを牛久市より要求されていたが、排水路工事が昭和62年の時点で行われてなく、Xはまだその負担金を支出していないという状況の下で、昭和62年9月期の土地販売収益に係る売上原価として1億4668万円を損金に算入することができるか。一審・二審では損金算入不可。

判旨 破棄差戻 昭和62「年9月末日において、Xが近い将来に上記費用を支出することが相当程度の確実性をもって見込まれており、かつ、同日の現況によりその金額を適正に見積もることが可能であった」。

法人税法22条3項2号では「債務の確定」が明示的に要求されているのに対し、1号の売上原価等について「確定」の文言はない。1号を律するのは費用収益対応の原則←「収益に係る」。


法基通2-2-1(売上原価等が確定していない場合の見積り) 法第22条第3項第1号《損金の額に算入される売上原価等》に規定する「当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価」……となるべき費用の額の全部又は一部が当該事業年度終了の日までに確定していない場合には、同日の現況によりその金額を適正に見積るものとする。この場合において、その確定していない費用が売上原価等となるべき費用かどうかは、当該売上原価等に係る資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供に関する契約の内容、当該費用の性質等を勘案して合理的に判断するのであるが、たとえその販売、譲渡又は提供に関連して発生する費用であっても、単なる事後的費用の性格を有するものはこれに含まれないことに留意する。


cf.1版§323.04大分瓦斯株式会社事件福岡高判平成11年2月17日平成8(行コ)7号訟月46巻10号3878頁控訴棄却(原審大分地判平成8年2月27日判タ960号117頁請求棄却)
事実・争点 売上原価(仕入価格)を高く設定し、次の事業年度に交渉によって仕入割戻しを受けた、という法律構成が容認されるか。仕入価格は未確定であって見積もりによるとすべきか。

判旨 「少なくとも本件各事業年度の取引価格について、ガス事業法上の認可価格をもって、法22条3項1号の『売上原価』と評価するのは相当でない。」
「『当該事業年度の収益にかかる売上原価』等の額が当該事業年度終了の日までに確定していない場合には、同日の現況によりその金額を適正に見積もらなくてはなら」ない。

原告の方法はなぜ斥けられたか?……後の精算において「AはXに対し……高率の精算金を支払い、A自身も、右認可価格が仮価格であることを前提とした会計処理をしていた」。
仮価格を精算するという構成と、原価がいったん確定した後に事業年度終了後の割戻し交渉によって新たに仕入割戻金が実現するという構成とを区別する基準……返戻というためには「仕入価額に対する割合には、その性質上、一定の限度がある」。「事業年度終了後の新たな合意に基づく仕入割戻しであるとは解されない。」

cf.東京高判平成8年4月17日税資218号1498頁……別荘地に係る未施工水道工事に係る見積原価について認容。(刑事事件・有罪、執行猶予)
cf.大阪地判昭和57年11月17日行集33巻11号2285頁確定……採石場跡地の盛土、植林等の自然環境回復費に係る見積原価について認容。

5.2.3.3. 販売費および一般管理費等

5.2.3.3.a. 費用の意義(cf.⇒5.2.3.5.b.)
5版§324.02株式会社ケーエム事件山口地判昭和56年11月5日行集32巻11号1916頁昭和53(行ウ)2号請求棄却確定
事実・争点 債務の確定について。販売した商品について取付費用の半額を負担するという約定であったので、既販売分について取付費用を預り負担金として損金計上しようとした。債務の確定がないとして(法人税法22条3項2号参照。1号ならば見積もり計上が可能)、損金計上が否定されるか。希薄化損失に関して、岡村忠生・高橋祐介・田中昌国「有利発行課税の構造と問題」岡村忠生編『新しい法人税法』(有斐閣、2007)

判旨 法人税法22条3項1号か2号かはともかく「取付費用は当該事業年度終了の日までに債務として確定していなければならない」。「債務の確定ありといいうるためには、当該事業年度の終了の日までに、(1)債務が成立していること、(2)当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること、(3)金額を合理的に算定できること、という3つの要件をすべて満たしていなければならない」。

今は法人税法22条3項1号について債務の確定は要求されてない。

6版§324.02債務の確定 ポイントシステム事件東京地判令和元年10月24日税資269号順号13329平成29(行ウ)403号棄却確定(西山由美・ジュリスト1586号139頁)……顧客が原告の各店舗で商品等を購入する際に付与したポイント(本件ポイントシステム。平成23年6月1日前:1円1ポイント。1万ポイントごとに500円。システム改定後:1円当たり1ポイント。1ポイント単位で充当可能)の各事業年度末(10月決算)における未使用分に相当する金額(以下「本件ポイント未払計上額」)の損金算入を前提に法人税、復興特別法人税の確定申告をした。豊島税務署長は債務が確定しているとは認められないとして損金不算入を前提に更正処分等をした。なお、ポイント付与時の売上金額に対する値引きではないため,益金の額から減算することができないことは明らか。
 原告の主張 「カード会員が上記権利を行使するに当たり,同時履行の抗弁権その他何ら実質的な障害は存在しないから,具体的原因事実が発生している」。「本件ポイントシステムにおけるポイントは,金品引換券と経済的性質が類似しており,金品引換券通達(基本通達9−7−3)の考え方を本件でも参照すべき」。

判旨  「企業会計上,費用の認識は,いわゆる発生主義を原則としつつも,当該費用が生み出した収益と同一の会計年度内にこれを計上させなければならないとの考え方(以下「費用収益対応の原則」という。)から,将来発生することが予想される未発生の費用であっても,その発生が当期以前の事象に起因し,かつ,発生の可能性が高いものについては,引当金として計上すべきものとされている。一方,法人税法においては,当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することができる引当金は貸倒引当金等に限定されており……,これらに当たらない企業会計上の引当金については,同法22条3項各号のいずれかに該当しない限り損金の額に算入することができない。そして,同項2号に定める販管費等については,1号に定める原価とは異なり,償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものは損金の額に算入することができないものとされており(債務確定要件。2号括弧書き),その趣旨は,未発生の販管費等に係る引当金については,発生の見込みや金額の算定について法人の恣意が入りやすいため,当該事業年度終了の日までに債務が確定したものに限り損金算入を認めることとして,課税計算の適正を図ろうとするものと解される。」
 原価と異なり「販管費等については,特定の収益と個別的かつ客観的に対応させることが困難であり,将来発生する費用の発生の可能性の評価や費用となる金額の算定に当たって,法人の恣意性が入り込みやすいことから,企業会計上は引当金を計上するとともに費用処理する処理が一般に公正妥当なものといえる場合であっても,法人の所得の金額の計算上は,当該事業年度終了の日までに債務が確定したものに限り損金算入を認めることとして,損金の額に算入される販管費等の額につき法人の恣意が入り込む余地を排除し,もって課税計算の適正を確保しようとするのが,債務確定要件の趣旨である」。
 「債務確定通達(基本通達2−2−12)は,債務確定要件の判定基準として,当該事業年度終了の日までに,当該費用に係る債務が成立していること(債務確定基準@),当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実(具体的原因事実)が発生していること(債務確定基準A)及びその金額を合理的に算定することができること(債務確定基準B)を定める……ところ,その内容は,企業会計上,すべての費用及び収益はその発生した期間に割り当てるように処理しなければならないものとする発生主義の考え方に整合するとともに,その発生の可能性の評価等に関する法人の恣意を排除するという債務確定要件の上記趣旨にも沿うものといえる。そして,上記のとおり法人税法が引当金の損金算入を限定していることや,上記の債務確定要件の趣旨に照らせば,債務確定基準Aの具体的原因事実が発生したというためには,企業会計上引当金として計上できる程度に将来費用が発生する可能性が高いとされるだけでは足りず,当期において費用の発生を基礎付ける具体的原因事実の発生が認められなければならないものと解するのが相当である。」
 「カード会員の初回購入時に付与されたポイントは,上記2年の期間内に失効して使用されなくなる可能性もある上,期間内に使用されるとしても,いつ,どのような内容(代金充当か,景品交換か。後者の場合,どの景品と交換するか。)を選択するかによって,費用の発生する時期や金額が異なってくるものといえる。そうすると,カード会員の初回購入時にポイントが付与された時点では,仮にその時点で原告の主張する債務(次回購入時における代金充当又は景品交換をすべき債務)が成立しているとしても,次回購入時における代金充当の選択又は景品交換の選択がされない限り,その債務に基づいて給付をすべき具体的内容が明らかにならないため,これに伴う費用が発生したとはいえず,その費用の金額を合理的に算定することができるともいえない。したがって,債務確定要件のうち当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実(具体的原因事実)が発生していること(債務確定要件A),同日までにその金額を合理的に算定することができるものであること(債務確定基準B)のいずれについても充足していると認めることができず,本件ポイント未払計上額については本件各事業年度の終了の日までに債務が確定していないものというほかないから,これを法人税法22条3項2号に基づき損金の額に算入することはできない」。

cf.大阪地判平成21年1月30日判タ1298号140頁平成18(行ウ)42号(山田二郎・ジュリスト1404号145頁)・大阪高判平成21年10月16日判タ1319号79頁平成21(行コ)24号……平成18年政令第125号による改正前の法人税法施行令134条の2(現72条の3)は、法人税法22条3項1号、2号の規定内容の技術的、細目的事項を定めたものであり(「別段の定め」には当たらず)、法人税法65条による委任(⇒6版112.02)の範囲を逸脱するものではないとされた事例……使用人賞与について一種の現金主義に近い規定である施行令が、債務確定基準の「技術的、細目的な定め」であると言い募るのは、無理があるのではないか、と山田二郎は言う。(cf.判タ156頁右側「〜課税の公平及び徴税の適性等の確保の見地から、これと異なる規律を設け、もって、課税の明確性、統一性を図ることも、当該基本的事項についての技術的、細目的な定めとして、租税法律主義の要請に抵触せず、許容される場合がある〜」)

6版§323.03株式会社エス・ブイ・シー事件・最決平成6年9月16日刑集48巻6号357頁(⇒5.2.3.5.b)
5.2.3.3.b. 減価償却費
(ア)概要(6版§143.04パラツィーナ事件・最判平成18年1月24日民集60巻1号252頁)
(イ)減価償却の計算要素
(ウ)減価償却の方法

東京地判令和5年3月9日令和2(行ウ)349号(棄却)……法人税法上の減価償却資産の取得日と消費税法上の課税仕入れの日が争われた。原告とP5社との契約締結日は平成27年9月17日であるが、P5社が機械を完成させたのは平成29年7月ないし9月であり、原告が平成28年5月期以前に「取得」「課税仕入れ」をしていないと判断された。
COLUMN5-6 少額減価償却資産(法税令133条)
6版§324.03NTTドコモ・エントランス回線事件最判平成20年9月16日民集62巻8号2089頁百選7版57ir
5.2.3.3.c. 繰延資産(法税令14条1項、法税32条1項、法税令64条1項)

5.2.3.4. 損失

5.2.3.4.a. 評価損(法税33条1項、法税令68条1項)
1版§323.09ケンウッド事件東京地判平成元年9月25日行集40巻9号1205頁昭和59(行ウ)145号(百選4版108頁)・東京高判平成3年6月26日行集42巻6=7号1033頁平成元(行コ)99号……アメリカ法人で黒字のTKCと赤字のKEが合併しA社となる。原告X社(日本法人)はA社の株式を有していた。XはA株の帳簿価額を0円に減額し、損金算入し、更に欠損金繰戻による還付請求をした。損金算入及び還付請求は可能か。
判旨 Xの請求を棄却。
 規定の趣旨――「法人税法33条は資産の評価損の取扱を定めた規定である。」 1項は「原則として、内国法人がその有する資産につき評価減をして評価損の損金経理をした場合でも、その金額は所得金額の計算上損金に算入しないこととし」ている。 2項が「金銭債権を除く資産につき、災害による著しい損傷」等の場合に、幾つかの要件の下、「例外的に」「損金の額に算入することを認める。」
 商法規定について――ところで、商法は一定の場合に「評価損の計上を必要的なものとしており、法人税法33条と必ずしも軌を一にしてはいない。」
 商法や企業会計原則と法人税法との関係――「法人税法が特に商法や企業会計原則とは異なった規定を置くことはあり得ることであって、その場合には課税の関係では法人税法の規定によるべきことは当然のことであり、同法22条4項はもとよりこのような同法の明文の規定を排除する意味を持つものではない」。
 法人税法33条2項が当てはまる場合とは――「有価証券の価額が著しく低下した状態というのは、帳簿価額……で評価されている有価証券の資産価値が、その帳簿価額に比べ異常に減少しただけでは足りず、その減少が固定的で回復の見込がない状態にあることを要する」。
 問題の背後には、株式の減価を損失に計上すると損失の二重計上(会社段階の所得計算におけるマイナスと、株主段階の譲渡損益計算におけるマイナス)となる、という問題がある。
国際的M&Aに関しケ1版506頁コラム参照。
5.2.3.4.b. 貸倒損失
6版§324.04興銀事件最判平成16年12月24日民集58巻9号2637頁百選7版58fj
事実・争点 住専に関する貸倒損失の認定が争われた。一審納税者勝訴、二審課税庁勝訴。
判旨 法人税法22条3項3号「当該事業年度の損失の額」…「当該金銭債権の全額が回収不能であることを要する」「全額が回収不能であることは客観的に明らかでなければならない」
「社会通念に従って総合的に判断される」
 ◆「債務者側の事情」
  ◇「債務者の資産状況」
  ◇「支払能力」等
 ◆「債権者側の事情」
  ◇「債権回収に必要な労力」
  ◇「債権額と取立費用との比較衡量」
  ◇「債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれき経営的損失」等
 ◆「経済的環境」等

貸倒損失の損金計上の可能性についての先例として挙げられる事例……1版§323.07大昭興業株式会社事件・大阪地判昭和33年7月31日行集9巻7号1403頁(納税者Xは、債権放棄額を損失として計上したが、Y税務署長は、債権放棄を贈与であるとして、損失計上を否認しようとした事案)
 判旨は、請求棄却。債権放棄の全てにつき損金計上を許すわけにはいかない。「債権が回収不能である場合即ち債権が無価値に帰した場合にのみ」損金算入可。「回収不能であるかどうかは、単に債務高が債務超過の状態にあるかどうかによって決すべきものではなく、たとえ債務超過の状態にあるとしてもなお支払能力があるかどうかによって決定すべき」
 回収不能に限定する理由――実質的には「国庫の損失において自由に自己の利益を処分」するような恣意性は認められないということ、形式的には「金銭債権については、評価減を認めないことが原則とされている」(参照:法税33条2項・3項)こと、が挙げられる。 ([発展]: debt/equity swap)fk

 債権放棄(民法519条)が贈与に当たる場合 → 寄附金課税(6版§325.02 6版§325.03)の問題として、損金算入に制限がかかる。但し経済的利益の無償供与のうちの全てが寄附金に該当するわけではなく、経済取引として合理性があれば寄附金に当たらないこともある。
 債権放棄を受けた側の課税関係……債務免除益として益金計上。但しその他に損失が積み上がっている例が多いので、通算(相殺)可能なことが多い(⇒4.6.4.純損失・欠損金の繰越し・繰戻し)。

法税22条3項(損金) 法税33条(資産の評価損の損金不算入等)
 費用概念と損失概念の違い及び22条における扱いの違いの有無……収益との対応関係の有無
 なぜ「全額が回収不能であること」が「客観的に明らかでなければならない」という二重の要件か?「全額」でなく「一部」では駄目なのか?「客観的」ではなく債権者の判断では駄目なのか? 法税33条とのバランス論はどこまで重要か?

損失認定をめぐる企業会計と税務との対立がある。
 企業会計…会社に対する債権者や投資家への情報開示という観点からは、損失が未確定であっても損失をできる限り正確に推計し、「この会社の資産状況は危なくなる可能性がある」と知らせねばならない。
 税務…恣意的に損失を推計して計上し他の所得と相殺する等は認められない。
 cf.法基通9-6-3(一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ)、法基通9-4-1(子会社等を整理する場合の損失負担等)

全部貸倒れと部分貸倒れ
 金子宏・中里実らが部分貸倒れ(全額回収不能ということまでは要求されない)の考え方を提唱するなどしている。例えば3億円貸し付けたうち1億円の回収可能性がなくなった時点で1億円の部分についてだけ貸倒れ損失の計上を認めようとするものである。……最高裁は不採用。

課税実務の今後への影響……課税当局はこの事案限りでは負けたものの、全額回収不能という従来の判例通りのお墨付きは得ており、また一部学説が主張する部分貸倒れの考え方は受け容れられていない。今後も納税者の債権放棄に対し厳しい態度を継続することが見込まれる。それでは本判決の意義は弱いのかというと、弱くもない。本判決は「債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等といった債権者側の事情,経済的環境等も踏まえ,社会通念に従って総合的に判断される」と述べて回収不能該当性を広げたことに意義がある。
 ([浅妻]余談:住専処理を巡り政府が介入してくるならば、そして銀行がその介入を受け入れるならば、銀行としては{政府の指示に従う代わりに、損金計上は認めるよう課税当局に指導してくれ}という要望も予め示してその覚書も取り付けておくべきだったのであろうか。法学部で論ずるような内容なのかという疑問はさておき。)

cf.6版§234.01事業所得貸倒分不当利得返還請求事件・最判昭和53年3月16日訟月24巻4号840頁

cf.藤崎事件・仙台地判昭和51年9月13日訟月22巻9号2330頁……親会社が赤字子会社に増資払込をした場合に増資後の子会社の純資産価値がマイナスである時、株式の評価減の計上は認められない。昭和54年法基通9-10-10の2→現法基通9-1-12(増資払込み後における株式の評価損)

東京高判平成8年10月23日判時1612号141頁……バブル経済崩壊に伴う棚卸資産としての絵画の価値暴落は法税令68条1項1号ロにいう「著しい陳腐化」又はこれ「に準ずる特別な事実」(ニ)に当たらない。

株式会社システムコンサルタント事件・東京地判令和5年1月27日令和3(行ウ)591号(棄却)(手塚貴大租税判例研究会2024年7月19日報告)……預託金制ゴルフ会員権の預託金債権の貸倒損失計上時期はゴルフクラブ退会時ではなくゴルフクラブ再生計画により支払免除の効力が生じた時である。cf.法基通9-6-1:金銭債権の貸倒れ、法基通9-7-12ゴルフ会員権の預託金の一部が切り捨てられた場合の取扱い
5.2.3.4.c. 貸倒引当金(法税52条1項、法税令96条1項、租特57条の9第1項)(法税53条返品調整引当金は廃止)
例えば甲という金融機関が1000人にそれぞれ10を37.5%の利息で貸し付けたとする。過去の実績から二割は回収不能となると予想されるとする。1000人から予定通り回収できれば13750が回収されることになるが、予想通り二割だけ回収できなかったとすると2750が回収できず、結局甲は11000を回収するにとどまる。このような場合に、貸し倒れ予想に基づいて予め損金に計上してしまおうというのが貸倒引当金である。企業会計の観点から、予想される貸倒れを予めマイナスとして扱うことは合理的であるし、税務の観点からも恣意性の排除が固められていれば損金計上を認めて構わない。
 法税22条3項3号及び33条との関係で、判例が「全額が回収不能」「客観的に明らか」を頑なに要求し続けていることは、法税52条が明示的に貸倒引当金(これは結局経済的効果として部分貸倒れを肯認することに近い)を許容していることと比較して、アンバランスであるとも評価しうる。

5.2.3.5. 損金算入を制限する別段の定め

5.2.3.5.a. 租税公課(法税38条、39条、55条3項(現4項))
5.2.3.5.b. 不正経費(法税55条1項・2項・5項(現6項))・罰課金等(55条3項・4項(現4項・5項))(⇒4.3.2.2.家事費)
法税55条(不正行為等に係る費用等) 内国法人が、その所得の金額若しくは欠損金額又は法人税の額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装すること……によりその法人税の負担を減少させ、又は減少させようとする場合には、当該隠蔽仮装行為に要する費用の額又は当該隠蔽仮装行為により生ずる損失の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
2 前項の規定は、内国法人が隠蔽仮装行為によりその納付すべき法人税以外の租税の負担を減少させ、又は減少させようとする場合について準用する。
3 内国法人が、隠蔽仮装行為に基づき確定申告書……を提出しており、又は確定申告書を提出していなかつた場合には、これらの確定申告書に係る事業年度の第二十二条第三項第一号……に掲げる原価の額(資産の販売又は譲渡における当該資産の取得に直接に要した額及び資産の引渡しを要する役務の提供における当該資産の取得に直接に要した額として政令で定める額を除く。)、同項第二号に掲げる費用の額及び同項第三号に掲げる損失の額(その内国法人が当該事業年度の確定申告書を提出していた場合には、これらの額のうち、その提出した当該確定申告書に記載した第七十四条第一項第一号(確定申告)に掲げる金額又は当該確定申告書に係る修正申告書……に記載した同法第十九条第四項第一号(修正申告)に掲げる課税標準等の計算の基礎とされていた金額を除く。)は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。ただし、次に掲げる場合に該当する当該原価の額、費用の額又は損失の額については、この限りでない。
 一 次に掲げるものにより当該原価の額、費用の額又は損失の額の基因となる取引が行われたこと及びこれらの額が明らかである場合……
  イ その内国法人が第百二十六条第一項(青色申告法人の帳簿書類)又は第百五十条の二第一項(帳簿書類の備付け等)に規定する財務省令で定めるところにより保存する帳簿書類
  ロ イに掲げるもののほか、その内国法人がその納税地その他の財務省令で定める場所に保存する帳簿書類その他の物件
 二 前号イ又はロに掲げるものにより、当該原価の額、費用の額又は損失の額の基因となる取引の相手方が明らかである場合その他当該取引が行われたことが明らかであり、又は推測される場合(同号に掲げる場合を除く。)であつて、当該相手方に対する調査その他の方法により税務署長が、当該取引が行われ、これらの額が生じたと認める場合
4 内国法人が納付する次に掲げるものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
 一 国税に係る延滞税、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税並びに印紙税法……の規定による過怠税
 二 地方税法の規定による延滞金……、過少申告加算金、不申告加算金及び重加算金
 三 前二号に掲げるものに準ずるものとして政令で定めるもの
5 内国法人が納付する次に掲げるものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
 一 罰金及び科料……並びに過料
 二 国民生活安定緊急措置法……の規定による課徴金及び延滞金
 三 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律……の規定による課徴金及び延滞金……
 四 金融商品取引法第六章の二(課徴金)の規定による課徴金及び延滞金
 五 公認会計士法……の規定による課徴金及び延滞金
 六 不当景品類及び不当表示防止法……の規定による課徴金及び延滞金
 七 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律……の規定による課徴金及び延滞金
6 内国法人が供与をする刑法……第百九十八条(贈賄)に規定する賄賂又は不正競争防止法……第十八条第一項(外国公務員等に対する不正の利益の供与等の禁止)に規定する金銭その他の利益に当たるべき金銭の額及び金銭以外の資産の価額並びに経済的な利益の額の合計額に相当する費用又は損失の額……は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

6版§323.03株式会社エス・ブイ・シー事件最決平成6年9月16日刑集48巻6号357頁百選7版55ls
事実・争点 脱税のため架空造成費を計上した事例。その謝礼としてAに200万円・1700万円を支払った(「本件手数料」)。本件手数料は会社の損金となるか?(違法支出の例として本件が挙げられるが、謝礼自体は違法でないので、6版§231.03高松市塩田宅地分譲事件・高松地判昭和48年6月28日行集24巻6=7号511頁とパラレルという訳でもない)
判旨 本件手数料「は、架空の経費を計上するという会計処理に協力したことに対する対価として支出されたものであって……このような支出を費用又は損失として損金の額に算入する会計処理もまた、公正処理基準に従ったものであるということはできない」

 現在は立法的に解決(確認規定?創設規定?)。
 根拠規定について、違法支出の損金算入を禁止する明文の規定が当時なかった。……原審「損金計上を禁止した明文の規定が無いという一事から、その算入を肯認することは法人税法の自己否定であって、同法がこれを容認しているものとは到底解されない」。これに対し最高裁は一応の根拠として公正処理基準(⇒5版§321.03大竹貿易事件・最判平成5年11月25日民集47巻9号5278頁)を挙げた。
 法税22条3項の損金にそもそも該当しない、という筋を採用しなかったのは何故か?
 また、違法支出は常に法税22条3項損金非該当となるか?
 本件手数料を受け取ったAの課税について……違法な所得も課税対象(6版§211.02利息制限法違反利息事件・最判昭和46年11月9日民集25巻8号1120頁)だから、違法なことに加担したことの対価も課税されよう。法人からの贈与と考えれば一時所得。贈与ではなく役務の対価と考えると雑所得(さすがに事業所得には該当しないであろう)。どちらの方が税負担が重くなるか後で復習せよ。

租特62条(使途秘匿金の支出がある場合の課税の特例) 法人……は、その使途秘匿金の支出について法人税を納める義務があるものとし、法人が平成六年四月一日以後に使途秘匿金の支出をした場合には、当該法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、同法第六十六条第一項……[等]の規定により計算した法人税の額に、当該使途秘匿金の支出の額に百分の四十の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。
2 前項に規定する使途秘匿金の支出とは、法人がした金銭の支出……のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名又は名称及び住所又は所在地並びにその事由……を当該法人の帳簿書類に記載していないもの……をいう。[3項以下略]
5.2.3.5.c. 無償での利益供与――寄附金、交際費(法税37条、租特61条の4)
法税37条(寄附金の損金不算入)lm 内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額……の合計額のうち、その内国法人の当該事業年度終了の時の資本金等の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。[2項略]
3 第一項の場合において、同項に規定する寄附金の額のうちに次の各号に掲げる寄附金の額があるときは、当該各号に掲げる寄附金の額の合計額は、同項に規定する寄附金の額の合計額に算入しない。
 一 国又は地方公共団体……に対する寄附金……の額
 二 公益社団法人、公益財団法人その他公益を目的とする事業を行う法人又は団体に対する寄附金……のうち、次に掲げる要件を満たすと認められるものとして政令で定めるところにより財務大臣が指定したものの額
  イ 広く一般に募集されること。
  ロ 教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に寄与するための支出で緊急を要するものに充てられることが確実であること。
4 第一項の場合において、同項に規定する寄附金の額のうちに、公共法人、公益法人等……その他特別の法律により設立された法人のうち、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定めるものに対する当該法人の主たる目的である業務に関連する寄附金……の額があるときは、当該寄附金の額の合計額……は、第一項に規定する寄附金の額の合計額に算入しない。ただし、公益法人等が支出した寄附金の額については、この限りでない。[5・6項略]
7 前各項に規定する寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。[寄附金の定義
8 内国法人が資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。[所税59条1項みなし譲渡の所税令169条のような時価の半分という基準ではないことに留意][9項以下略]

法税令73条(一般寄附金の損金算入限度額) 法第三十七条第一項……に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、次の各号に掲げる内国法人の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
 一 普通法人、協同組合等及び人格のない社団等…… 次に掲げる金額の合計額の四分の一に相当する金額
  イ 当該事業年度終了の時における資本金等の額……を十二で除し、これに当該事業年度の月数を乗じて計算した金額の千分の二・五に相当する金額
  ロ 当該事業年度の所得の金額の百分の二・五に相当する金額[二号以下略]


6版§325.02太洋物産売上値引事件東京高判平成4年9月24日行集43巻8=9号1181頁平成3(行コ)134号(原審東京地判平成3年11月7日行集42巻11=12号1751頁昭和63(行ウ)213号)
事実・争点 Aの赤字を救済するため、XがAに販売している棒鋼原料について売上値引き(移転価格と同様)。この額を全額損金計上できるか、寄附金(法人税法37条1項)に該当し損金不算入額の分だけ課税所得に加算しなければならないか? (「本件売買損失」については省略)

一審 概ね棄却
「  2 本件売上値引き及び本件売買損失の寄付金該当性
   (一) 寄付金の損金不算入に関する法人税法三七条の規定の趣旨
 法人税法三七条は、どのような名義をもってするものであっても、法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合には、広告宣伝及び見本品の費用その他これに類する費用等とされるものを除いて、これを寄付金として扱い、その価額については、一定の損金算入限度額をこえる部分を、その法人の所得の金額の計算上損金の額に算入しないものとしている(同条二項及び六項)。すなわち、広告宣伝費や見本品の費用といったいわゆる営業経費として支出されるものを除いて、法人のする第三者のための債権の放棄、免除や経済的利益の無償の供与については、その価額を寄付金として扱うべきものとしているのである。
 もっとも、例えば、法人が第三者に対して債権の放棄等を行う場合であっても、その債権の回収が可能であるのにこれを放棄するというのではなく、その回収が不能であるためにこれを放棄する場合や、また、法人が第三者のために損失の負担を行う場合であっても、その負担をしなければ逆により大きな損失を被ることが明らかであるため、やむを得ずその負担を行うといった場合は、実質的にみると、これによって相手方に経済的利益を無償で供与したものとはいえないこととなるから、これを寄付金として扱うことは相当でないものと考えられる。法人税基本通達九−四−一が、「法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失の負担をし、又は当該子会社等に対する債権の放棄をした場合においても、その負担又は放棄をしなければ今後より大きな損失を被ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその負担又は放棄をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときには、その負担又は放棄をしたことにより生ずる損失の額は、寄付金の額に該当しないものとする。」と定めている〈書証番号略〉のも、右のような趣旨から、実質的にみて経済的利益の無償の供与とはいえないものが寄付金に該当しないことを明らかにしたものと解される。
   (二) 本件売上値引きの経緯とその寄付金該当性
 (1) G製鋼に対する原告の本件売上値引きは、前記のとおり、G製鋼に多額の赤字の発生が見込まれるようになったことからこれに対する救済策として行われることとなったものであり(証人菅野文治の証言)、これに伴い、まず昭和六一年七月三一日付けで原告がG製鋼宛てに発行した請求書(〈書証番号略〉)に、「ウリアゲネビキ(チュウゴクセイコウ 六ガツドアカジニタイスルエンジョ)」との記載がなされ、前記ビレットの売上代金のうち一億二九〇〇万円(これは、前記のG製鋼の昭和六一年六月三〇日現在の残高試算表における欠損金一億二九七六万三〇〇〇円の一〇〇万円未満の部分を除いた金額に丁度相当する金額である。)について値引きが行われ、次いで同年八月三一日付けで原告がG製鋼宛てに発行した請求書(〈書証番号略〉)に、「ウリアゲネビキ(チュウゴクセイコウ 七ガツドアカジニタイスルエンジョ)」との記載がなされ、前記ビレットの売上代金のうち九三〇〇万円(これは、前記のG製鋼の同年七月三一日現在の残高試算表における欠損金九三二〇万円の一〇〇万円未満の部分を除いた金額に丁度相当する金額である。)について値引きが行われている。
 (2) 右のような事実関係からすれば、本件売上値引きは、前記のとおり業績が悪化していたG製鋼に対する援助措置として行われた原告による利益の無償供与の性質を有するものというべきであり、したがって法人税法三七条所定の寄付金に該当するものといわなければならない。
 これに対し、原告は、本件売上値引きは、原告が経済的、合理的に判断してG製鋼の棒鋼の生産が採算のとれるようにするためビレットの売買価額について見直しを行い、その減額改訂を行ったに過ぎないものであるから、寄付金には該当しないと主張する。しかし、前記のような請求書の記載等からすれば、本件売上値引きは、G製鋼の赤字に対する援助として行われたものであることが明らかであり、一般に売上品について量目不足、品質不良等があった場合に一定の具体的な算出根拠に基づいて行われる通常の取引における売上値引きとはおよそその性質を異にするものであって、いずれにしてもG製鋼に対する「経済的な利益の無償の供与」として法人税法三七条所定の寄付金に該当するものといわなければならない。したがって、原告の右主張は失当である。
 また、原告は、事業上の必要に基づく真にやむを得ない損失の負担等は、法人税法三七条にいう寄付金に該当しないものと解すべきであり、本件売上値引きも、原告の事業上の必要に基づくやむを得ない支出であることが明らかであるから、寄付金に該当しないと主張する。しかし、右法人税法三七条の規定は、その六項において「広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費」とされるべきものを右寄付金から除外することとしているに過ぎず、右の規定にいう「広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用」とは、いわゆる営業経費の性質を有するものを指すものと解すべきことは前記のとおりである。そうすると、本件売上値引きは、そのようないわゆる営業経費の性質を有するものとは到底解し得ないから、原告の右主張は採用できない。
 更に、原告は、前記法人税基本通達九−四−一の定め等からして、本件売上値引きが寄付金に該当しないものであると主張する。そして、確かに、債権の回収が不能であるためにこれを放棄する場合や、その負担をしなければ逆により大きな損失を被ることが明らかであるため、やむを得ずその負担を行うといった場合は、これを実質的にみると経済的利益の無償の供与とはいえないものと考えられることは、前記のとおりである。しかし、証人菅野文治及び同後藤一男の各証言によれば、本件売上値引きが行われた時点において、G製鋼の業績は悪化していたものの、解散、経営権の譲渡といった右通達に掲げられたような事態が生じ、あるいは銀行取引停止処分等のため倒産状態に陥るというような事態にまで至ってはおらず、したがって原告が本件売上値引きを行わなければ今後原告においてより大きな損失を被ることとなることが社会通念上明らかであると認められるような状況があったものとまでは到底認められない。また、右の事実からすれば、本件売上値引分に相当する原告のG製鋼に対する売掛債権の回収が不能な状況にまでなっていたものでないことも明らかである。したがって、原告の右主張も採用できない。」

控訴審 請求棄却・控訴棄却
 「法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合には……寄附金として扱い、その価額については、一定の損金算入限度額をこえる部分を……損金の額に算入しない」
 「本件売上値引きは…Aに対する援助措置として行なわれたXによる利益の無償供与の性質を有する」

cf.熊本地判平成14年4月26日平成13(行ウ)1号税資252号順号9117棄却・福岡高判平成14年12月20日平成14(行コ)12号税資252号順号9251棄却……日本親会社から外国子会社に対する業務委託費名目の支出が法人税法37条1項の寄附金に当たり租税特別措置法66条の4第3項により損金算入ができないとされた事例。

cf.東京地判平成21年7月29日平成20(行ウ)116号平成21(行ウ)84号判時2055号47頁棄却・東京高判平成22年3月25日平成21(行コ)275号税資260号順号11405棄却確定……原告の元代表者が全額出資する国外関連法人に対する債権放棄が寄附金とされた事例。

cf.大和レース有限会社事件(商号変更後:麻畠レ−ス有限会社)・大阪地判昭和33年9月25日昭和28(行)77号行集9巻9号1970頁認容21010640・大阪高判昭和35年12月6日昭和33(ネ)1328号行集11巻12号3298頁棄却確定……指定寄附金について同族会社行為計算否認規定(当時の法人税法31条の3第1項)を用いて損金算入を否定した処分が取り消された事例。

cf.広告宣伝費と寄附金との関係について:医療法人新光会事件東京地判平成24年1月31日訟月58巻8号2970頁平成21(行ウ)492号請求棄却・東京高判平成24年11月29日平成24(行コ)68号控訴棄却(平石雄一郎・ジュリスト1468号118頁)……医療法人が関連コンタクトレンズ販売業者の宣伝費を負担したことについて、寄附金とした事例。

6版§325.03 PL農場事件大阪高判昭和59年6月29日行集35巻6号822頁昭和58(行コ)9号ay
事実・争点 X農場・F社の繰越欠損金を打ち消すため、土地をミキ観光→1億7348万(坪869円)→X農場→2億2622万(坪1118円)→F社→(土地の一部。坪3000円)→K社(第三者)と転々譲渡。Y税務署長は、(1)ミキ観光から時価との差額の受贈益、(2)受贈益を原価に加算、(3)時価との差額がF社に対する寄附金、として更正処分。なお、別訴にてミキ観光に対する寄附金課税の処分が肯認されていた。

判旨 (1)について……「Xは本件土地の買受によって、転売を拘束された価額2億2622万4395円相当の収益を得、同時に買受価額1億7348万8535円相当額の原価を要したが、収益の額は右を上回るものではない」。
 Xはミキ観光から買い受けた後Fに所定の価額で売却することが「売買契約の一内容となっていた」。 「Yは、時価6億0188万0890円と右買受価額との差額4億2389万2355円が、Xがミキ観光株式会社より実質的に贈与を受けた額であると主張する。しかし、右にいう時価は何の特約もない場合の時価であるところ、右主張は右売買契約に前記のような転売特約があることを無視しているから、採用することはできない」(なお、法人税法37条1項ではなく22条2項の問題である)。
 「租税回避行為であるだけの理由でその効果を全て否定できるものではない」。なお、ミキ観光とXとの取引で租税回避を図っているのはミキ観光であり(しかもそれは法人税法37条1項の規定を適用した別訴により失敗した)Xの法人税額が回避されるものではなく、「Xにとっては……右転売特約を承諾して5000万円余の転売利益を選ぶことの方が経済人としては合理的」。
 (2)(3)について……「Xの本件土地の売却にともなう収益、原価はいずれも2億2622万4395円であって、売却差益は存しない」。「Xが本件土地について有していた利益、価値は前記のとおり2億2622万4395円にすぎなかったから、Xはこれを超える額の利益を他に贈与により与えることができる筈はない」。Fの利益は「Xから与えられたと評価することはできず、ミキ観光株式会社からその転売特約により与えられた」。

考察
S社が親会社P社に現金3億円を贈与した場合。
S社:寄附金扱い → 損金算入限度額内でのみ損金算入する。(渡した3億円の現金が22条2項「無償による資産の譲渡」にあたり益金計上しなければならない、ということにはならない。損金算入限度外の部分だけ損金算入できない、というだけ)
P社:22条2項「無償による資産の譲受け」→受贈益3億円を益金計上(現金はここの「資産」に含まれる)

S社がP社に時価3億円の土地を贈与。S社にとっての当該土地の原価が1億円の場合と5億円の場合とで場合分け。
S社:原価1億円の場合 ……22条2項「無償による資産の譲渡」→時価譲渡を擬制。譲渡益2億円を益金計上(原価1億円、売価0円→譲渡損1億円ではない)。
3億円分寄附金扱い(損金算入限度額内でのみ損金算入)
S社:原価5億円の場合 ……22条2項「無償による資産の譲渡」→時価譲渡を擬制。譲渡損2億円を損金計上(原価5億円、売価0円→譲渡損5億円ではない)。
3億円分寄附金扱い(損金算入限度額内でのみ損金算入)
P社:受贈益3億円分を益金計上。P社にとっての土地の帳簿価額は3億円(現実には0円で受け取ったが、税務上は3億円で購入し金銭3億円の贈与を受けたものと擬制されているともいえる)。後にP社が第三者に土地を3億円で売却するとP社の譲渡益は0円。

S社と専属契約を結んでいる著名バスケットボールプレーヤーを、P社の広告宣伝のために無償で派遣。
S社:22条2項「無償による…役務の提供」→本来PがSに支払うべき適正な対価(例えば3億円とする)を収入したと擬制し、同額を益金計上。
37条7項括弧書「広告宣伝費…を除く」の適用の有無について考える必要がある。広告宣伝費であれば損金算入可(3億円の益金、3億円の損金、よって所得0円)。広告宣伝費でなければ寄附金として損金算入限度額(例えば1億円とする)超過部分の損金算入が制限される(3億円の益金、1億円の損金、よって所得2億円)。
P社:無償の役務提供を受ける場合は22条2項に規定なし。益金計上なし。広告宣伝費として何も払っていないから損金計上は0円。(損金計上がない分だけ課税所得が増える、と説明される)

譲渡人・譲受人が個人か法人かで4パターン覚えよ。
◆法人→法人の土地贈与または低額譲渡……上掲
◆個人→法人の土地贈与または低額譲渡……個人について所税59条1項みなし譲渡課税の問題、法人は法税22条2項の受贈益の計上の問題。
◆法人→個人の土地贈与または低額譲渡……法人について法税37条1項寄附金等の問題(損金算入可能性の問題)、個人について受贈益が一時所得になる問題。
◆個人→個人の土地贈与または低額譲渡……譲渡人に所税59条1項みなし譲渡課税なし。譲受人に贈与税の課税。

租特61条の4(交際費等の損金不算入) 法人が……支出する交際費等の額……については、当該交際費等の額のうち接待飲食費の額の百分の五十に相当する金額を超える部分の金額)は、当該適用年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
2 前項の場合において、法人……のうち当該適用年度終了の日における資本金の額又は出資金の額が一億円以下であるもの(次に掲げる法人を除く。)については、前項の交際費等の額のうち定額控除限度額(八百万円に当該適用年度の月数を乗じてこれを十二で除して計算した金額をいう。)を超える部分の金額をもつて、同項に規定する超える部分の金額とすることができる。
 一 普通法人のうち当該適用年度終了の日において法人税法第六十六条第五項第二号又は第三号に掲げる法人に該当するもの[二号以下略]
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6版§325.04萬有製薬・東京地判平成14年9月13日平成11(行ウ)20号税資252号順号9189棄却・東京高判平成15年9月9日平成14(行コ)242号判時1834号28頁百選7版62原判決取消、請求認容(確定)(辻富久・ジュリスト1270号210頁)
事実・争点・判旨 大学病院の院生らの英文添削費を補助することが交際費に当たるという一審判決を取り消し交際費に当たらない(から損金算入が許される)とした事例。

考察 交際費規定は創設規定か?……特別規定がなければ事業との関連性がある部分につき損金算入が認められるべき。元々は交際費は取引円滑化のための企業会計上の費用であると考えられている。
 ではなぜ損金算入を否定するのか?
(1)冗費節約
(2)資本蓄積促進([浅妻]corporate governanceの問題であって法人税が口を出すべき問題であろうか?)
(3)交際費等の相手方への課税の困難さ。[浅妻]事業との関連性が少ない部分については、そもそも事業費用ではなく(そもそも本来の意味の交際費にも当たらない)、利益処分に近いから、損金算入否定は確かに実体的に正当化される。金子・後半部分(冗費・乱費)について、会社統治(corporate governance)問題で捉えるのが筋であろうが、岡村の説明は分かりやすい。交際費の便益を受けている相手側にとっては消費であるから相手側の課税所得を本来は増大させるものであるところ、執行の困難から、課税漏れが多くの場面で生じていよう。そこで支払者側の段階で予め便宜的に課税してしまう、という(やや粗いが経済的実体に照らして筋の通った)理屈である。

cf.3版§325.04荒井商事オートオークション事件横浜地判平成4年9月30日平成3(行ウ)25号行集43巻8=9号1221頁棄却・東京高判平成5年6月28日平成4(行コ)110号行集44巻6=7号506頁百選5版64棄却……オートオークションにおける景品の購入費用を支払奨励金として損金算入しようとしたところ、交際費に当たるとして損金算入が否定された事例。

Cf.オリエンタルランド清掃委託料事件・東京地判平成21年7月31日判時2066号16頁請求棄却・東京高判平成22年3月24日訟月58巻2号346頁控訴棄却……オリエンタルランドが、右翼団体幹部の関連事業者に支払った清掃委託料の一部などを課税対象となる交際費とした国の処分の取消しを求めた訴訟で、処分は適法であるとされた事例。

MOSH社・STAND社事件・東京地判令和5年5月12日令和元(行ウ)607号614号(一部認容、一部棄却)
判旨 「通則法23条1項に基づく更正の請求は、納税者の提出した納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大である場合等に、納税者が、税務署長に対し、当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内に限ってすることができるものである。同条3項は、更正の請求をしようとする者は、その請求に係る更正前の課税標準等又は税額等、当該更正後の課税標準等又は税額等、その更正の請求をする理由、当該更正の請求をするに至った事情の詳細その他参考となるべき事項を記載した更正の請求書を税務署長に提出しなければならない旨規定し、その更正の請求をする理由が、課税標準たる所得が過大であるなどのときは、その理由の基礎となる事実を証明する書類を更正の請求書に添付しなければならないとしているものである(通則法施行令6条2項)。
 そして、申告納税方式による国税に係る税額は、その後に更正がされない限り、納税者の納税申告のとおり確定するものであること、納税申告の前提となった事実関係及びそれを誤りであるとする事実関係は更正の請求をする納税者が熟知していることが一般的であることなどの事情に照らせば、更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消訴訟においては、更正の請求に係る事実関係は納税者たる原告において主張、立証すべきものと解するのが相当である。」
「租税特別措置法61条の4第4項は、交際費等の意義について、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいうとし、同条1項は、このような交際費等については、原則として所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定している(損金不算入制度)。
 もっとも、法人が支出した交際費等の額のうち「接待飲食費」の額の100分の50に相当する金額を超えない部分の金額(50%損金算入)、及び中小法人においては、50%損金算入に代えて、支出した交際費等の額が定額控除限度額である年800万円を超えない部分の金額については、損金不算入制度の特例として、損金の額に算入することができるとされているものである(中小法人損金算入特例)。
ウ そこで、本件各支出について、損金不算入制度に対する上記特例に基づき損金の額に算入することができるか検討するに、50%損金算入の対象となる「接待飲食費」とは、交際費等のうち飲食その他これに類する行為のために要する費用であって、「接待飲食費」であることについて、総勘定元帳等の帳簿書類に、@当該飲食費に係る飲食等のあった年月日、A当該飲食費に係る飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名又は名称及びその関係、B当該飲食費に係る飲食等に参加した者の数、C当該飲食費の額並びにその飲食店、料理店等の名称及びその所在地、Dその他飲食費であることを明らかにするために必要な事項(以下「本件記載事項」という。)が記載されていることが要件とされているものである。
 しかしながら、原告らの総勘定元帳において、本件各支出に関し上記AからDまでの本件記載事項が記載されていることを認めるに足りる証拠はなく、これらが「接待飲食費」に該当すると認めることはできない。
エ そうすると、本件各支出については、原告らがいずれも資本金の額が1億円以下の中小法人であることからすると、50%損金算入に代えて、本件各支出が中小法人損金算入特例の対象となる交際費等に該当するか否かについて、検討することを要することになる。」

法基通9-7-20(費途不明の交際費等) 法人が交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭でその費途が明らかでないものは、損金の額に算入しない。
通達は法規範性を有さないから解釈の根拠とはならないことを再確認。
ところで、裁判で費途を明らかにする反証は許されるか?bc
5.2.3.5.d. 役員給与
6版§112.01政令への委任 大阪銘板事件・大阪高判昭和43年6月28日行集19巻6号1130頁bg
事実・争点 同族会社であるX社が使用人兼務役員であるABCDの4名に使用人分賞与として多額の金員を支給した。Y税務署長は、当該金員は役員賞与であって損金とは認められないとした。当時、役員賞与の税務上の扱いについては施行規則(政令)で規定されていたが、Xは、憲法84条違反であり、法人税法の委任の範囲を超えている(⇒課税要件法定主義違反)、と主張した。

判旨 Yは、問題の政令が法人税法9条1項(当時)の「解釈規定であると主張している」が、同項「にはその解釈規定を設けることを命令に委任するとの文言はない。したがって、Yの主張は到底採用できない。」
 「租税法律主義の原則から、法律が命令に委任する場合には、法律自体から委任の目的、内容、程度などが明らかにされていることが必要であり、損金益金への算入不算入といった課税要件について、法律で概括的、白地的に命令に委任することは許されない」。
 「使用人役員…に支給される賞与のうち、使用人として職務の対価として支給される分は、損金の性質を有し、従来から理論上も実務上も損金として経理すべきものとされ、同族会社においても同断であった」、また、「同族会社については、別に旧法31条の3(現法132条)に同族否認の規定があり、抽象的一般的でなく、具体的個別的に同族会社であるために起り勝ちな不当な行為計算が否認された」。
 「なるほど、同族会社では…多くの経理上の不正が行なわれる」が、だからといって「同族関係者のすべてが…会社支配に大きな影響力があるわけではない」。

◆法人税法9条1項・8項(当時)と規則(政令)の規定の内容の整理
◆行政命令への委任についての一審と控訴審の比較
 一審「要するに新たな租税を設けると同一の効果」
 控訴理由「解釈規定であって…創設的に定められた規定ではな」い。
 控訴審「法律自体から委任の目的、内容、程度などが明らかにされていることが必要」。「課税要件について、法律で概括的、白地的に命令に委任することは許されない」
◆性質上費用とされているものの損金算入を否定することが細目的といえるか?
◆一般的・白紙的委任でも政令の内容が妥当ならば良いか?――租税法律主義(の中の課税要件法定主義)の意義、すなわち民主主義の意義をどう捉えるか、の問題。(cf.登録免許税震災特例事件神戸地判平成12年3月28日訟月48巻6号1519頁ケ6版29頁{その後大阪高判平成12年10月24日訟月48巻6号1534頁・最判平成17年4月14日民集59巻3号491頁百選7版122行政百選II8版155ao……過大に登録免許税を納付して登記等を受けた者が登録免許税法31条2項(平成14年改正前)所定の請求の手続によらないで過誤納金の還付を請求することの可否})[浅妻]中身が妥当な租税の規定をアメリカ人が定めたとして、規定があれば課税要件明確主義の問題(自由主義からくる予測可能性の問題)は生じないし、内容に関しても、もしかしたら日本の国会よりアメリカ人の方が合理的な租税の規定を作ってくれるかもしれない。しかし、租税法は政治的闘争の果てにできるものである、という点は恐らく看過できない。政令の場合は、官僚に授権するかどうかという問題。
◆「委任命令の体系のみから論理的に導き出すことができるか」「何らかの基礎的な考え方に照らして事案が判断されていると考えるべきか」――論理体系のみならず、会計における扱いなど、背景事情も考慮されるか?例えば、会計において役員賞与が性質上費用とされていなかったとしたら、その損金算入を否定する政令が租税法律主義違反とされたかどうか?
◆同族会社の行為・計算の否認規定だけでは対処しがたい部分……税「負担を不当に減少させる」場合に本件が当たるか? 費用性が認められる役員給与の損金算入が法132条で否認されうるか?[浅妻]税「負担を不当に減少させる」場合……費用でないものを費用であるとして損金にすることなどであろうが、役員に支給される金員のどの部分が税の「負担を不当に減少させる」部分であるのか、つまりどこからどこまでが費用でどこからが費用でなくなるのか、みなし規定なしに対処するのは難しかろう。また、本件のように費用性が認められるとされた部分については、なおさら否認しがたかろう。

6版§113.01丸中縫工株式会社事件・名古屋地判平成6年6月15日平成2(行ウ)5号訟月41巻9号2460頁棄却・名古屋高判平成7年3月30日平成6(行コ)21号税資208号1081頁棄却・最判平成9年3月25日平成7(行ツ)110号税資222号1226頁棄却確定ap……課税要件明確主義(⇒2.2.1.1.b)と不確定概念との関係について
「法人税法三四条一項の規定の趣旨、目的及び法人税法施行令六九条一号の規定内容に照らせば、法人税法三四条一項所定の『不相当に高額な部分の金額』の概念が、不明確で漠然としているということはできないから、所論違憲の主張及び同項を限定して解釈すべきであるとする主張は、その前提を欠く、原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。」

会社の利益を株主に配当という形で配れば二重課税が起きる。役員に対する役務報酬という形式ならば、法人段階での課税が回避できる。しかし役員は法人に対し一般従業員とは異なる特殊な関係にある。(かつて役員賞与は利益の処分と考えられてきたが、今はお手盛り防止の意味合い)
立法で根拠付け&明確化。

法税34条(役員給与の損金不算入) 内国法人がその役員に対して支給する給与……のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない
 一 その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(次号イにおいて「定期給与」という。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(同号において「定期同額給与」という。)
 二 その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭又は確定した数の株式……若しくは新株予約権若しくは確定した額の金銭債権に係る第五十四条第一項……に規定する特定譲渡制限付株式若しくは第五十四条の二第一項……に規定する特定新株予約権を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの……
  イ その給与が定期給与を支給しない役員に対して支給する給与……以外の給与……である場合 政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長にその定めの内容に関する届出をしていること。[事前確定届出給与]
  ロ 株式を交付する場合 当該株式が市場価格のある株式又は市場価格のある株式と交換される株式(……「適格株式」という。)であること。
  ハ 新株予約権を交付する場合 当該新株予約権がその行使により市場価格のある株式が交付される新株予約権(……「適格新株予約権」という。)であること。
 三 内国法人……がその業務執行役員……に対して支給する業績連動給与で、次に掲げる要件を満たすもの……[イ〜ロ略]
2 内国法人がその役員に対して支給する給与……の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。[3項以下略]

「役員賞与」という言葉はなくなったが、大意としては損金算入できないことがあるということ。
役員(法税2条15号)や使用人(過大な場合)にかかる旧34条〜36条の3の規定が、新34条〜36条へと整理された。
かつては業績連動型報酬を役員に支払いづらいという批判があったが、利益連動給与のうち特定の要件を満たすものについては損金算入が認められるようになった。

6版§325.01三和クリエーション株式会社事件東京地判平成24年10月9日訟月59巻12号3182頁百選7版60・東京高判平成25年3月14日訟月59巻12号3217頁(浅妻章如・速報税理2014年7月11日44-49頁)
事前確定届出給与該当性は厳しく判断される。(類例……東京地判平成26年7月18日平成24(行ウ)536号棄却)
cf. 株式会社ホクリク事件・東京地判令和6年2月21日令和4(行ウ)566号棄却・東京高判令和6年10月2日令和6(行コ)93号棄却……届出と異なる額を支給した場合は事前確定届出給与に当たらない。

2版§325.01東京山手青果株式会社事件・(東京地判平成6年11月29日平成4(行ウ)83号・東京高判平成8年3月26日平成6(行コ)217号・)最判平成10年6月12日平成8(行ツ)138号判時1648号53頁百選4版110頁aq
事実・争点 旧売買として昭和51年、X会社がその取締役・Aから土地・建物を購入。本件譲渡として昭和62年、Aの退職慰労金の一部として本件土地建物を帳簿価額(約2500万)で現物支給。これにつき、更正処分等として、Y税務署長は、本件土地の時価は約1.6億円以上とし、譲渡益をXの益金に計上。
判旨 「上告人は、退職した役員に対する退職給与の支給として、上告人の固定資産である土地をその帳簿価額である二五〇〇万円で譲渡し、右譲渡に係る事業年度の確定した決算においてその旨の経理をしたが、右土地の右譲渡時における適正な価額は少なくとも一億六〇五三万四三六〇円を下るものではなかったというのであるから、右事実関係の下においては、右土地の譲渡時における右適正な価額と右帳簿価額との差額は法人税法三六条にいう損金経理をしなかった金額に該当するとした原審の判断は、正当」。

損金経理を要求する理由――費用であるという意思表示(内部的にも外部的にも)。また、所得の適正な把握のため。それは22条4項が公正妥当な会計処理の基準に従うことを要求する趣旨にも添う。(但し現在損金経理は要求されていない) Aの課税――少なくとも1.6億円の退職所得を受け取ったものとして課税される。 解除した場合――私法に忠実に考えれば、遡ってXからAへの土地の移転がなかったことになるので、Xに譲渡益は発生せずXへの更正処分は不発となり、Aの退職所得からは本件土地建物の額の分は引かれて課税所得が再計算され、更正の請求をすることになる。但し経済的成果喪失要件非充足だと認められない。
22条2項益金:時価1.6億円で譲渡したと擬制。譲渡益1.35億円発生。
22条3項損金・34条:1.6億円相当の役員給与のうち「不相当に高額な部分」の損金算入不可。本件では損金経理していない部分(1.35億円)の損金算入が認められない。
Aにも所得課税がなされるので、法人・個人の二重課税が発生することにも留意。

東京地判令和5年3月23日令和2(行ウ)456号金判1675号24頁(棄却)(西本靖宏・ジュリスト1590号10頁、山田麻未・租判2024年6月21日報告、金子友裕・租税訴訟17号101頁)・東京高判令和6年1月18日令和5(行コ)112号金判1693号36頁(棄却)(未確定)……X社(原告)は味噌等の製造、卸、販売等を目的とする内国法人である。X社が本件各役員(太郎、次郎、花子の3人。3人は兄弟)に支払った役員給与のうち不相当に高額(法人税法34条2項)な部分は損金に算入できないという前提で東山税務署長が更正処分等をした。
 判旨 「東山税務署長は、平成25年9月期法人税更正処分ないし平成28年9月期更正処分において、太郎及び次郎の適正給与額を算定するに当たり、本件類似法人の役員給与最高額の平均額に、売上高、改定営業利益及び個人換算所得を勘案すべき要素として等分の重みづけをして乗じて算出する方法(本件算式)により適正な役員給与額を算定したものである。本件算式において本件類似法人の役員給与最高額の平均額が基準値とされたことについては、太郎及び次郎が原告の代表権を有する取締役であったこと、原告の事業内容(認定事実ア(イ))及び原告の収益状況(認定事実イ)に鑑みると、合理的といえる。そして、太郎が原告の売上げを得るために果たした職責や達成した業績(認定事実ア及びイ)に鑑みると、東山税務署長が、本件類似法人の役員給与最高額の平均額に一定の加重をすることが相当であると判断して、原告と本件類似法人との間に存する偏差を調整するために、法人税法施行令70条1号イにおいて適正給与額の判断要素として規定している「事業規模」の指標に当たるものとして売上高、「収益」に当たるものとして改定営業利益及び個人換算所得(同族会社における実質的な所得金額と解される。)を勘案要素として考慮した本件算式を用いて算出したことは合理的であり、花子が原告の売上げを得るために果たした職責や業績に鑑みると、花子についても、同様に、本件算式を用いるのが相当である。したがって、太郎及び花子については、本件算式により算出される金額が適正給与額に該当し、それを超える金額が「不相当に高額な部分の金額」に該当すると認めるのが相当である。
 これに対し、次郎については、平成27年11月までは原告の業務を担っておらず、原告から給与の支給がされていた平成27年12月から平成28年3月までの4か月間に果たした職務の内容等に鑑みても、本件類似法人の役員給与最高額の平均額に一定の加重をすることが相当とは認められない。したがって、本件類似法人の役員給与最高額の平均額の4か月分(3分の1を乗じた金額)が適正給与額に該当し、それを超える金額が、「不相当に高額な部分の金額」に該当すると認めるのが相当である。」

5.2.4. 欠損金の繰越控除・繰戻し還付(法税57条、58条)(⇒4.6.4.純損失)

§325.05行田電線株式会社最判昭和43年5月2日民集22巻5号1067頁百選3版44et……法人税法57条(旧法人税法9条5項)所定の欠損金繰越控除権が、商法103条(平成17年改正前)所定の合併法人に承継されるべき被合併法人の「権利」に含まれる、という学説(いわゆる人格承継説:中川一郎、北野弘久)もあったものの、判例は消極説を採用した。
 赤字会社が黒字会社を吸収する吸収合併(いわゆる逆さ合併について株式会社サンエス事件・広島地判平成2年1月25日行集41巻1号42頁は法人税法132条1項(同族会社行為計算否認規定)により欠損金繰越控除を否認した。
 平成13年改正後の法人税法57条2項は適格合併時の欠損金繰越控除権の引継を認めることとなった。合併について長戸貴之『事業再生と課税 コーポレート・ファイナンスと法政策論の日米比較』(東京大学出版会、2017)参照。

5.3. 出資者との関係――資本等取引

5.3.1. 資本等取引の意義(法税22条5項)

5.3.2. 狭義の資本等取引

5.3.3. 利益・剰余金の分配等

5.3.3.1. 利益または剰余金の分配

6版§323.02東光商事株式会社事件最大判昭和43年11月13日民集22巻12号2449頁nr
事実・争点 株主相互金融を営む株式会社Xが株主に支払う株主優待金(奨励金または謝礼金)は、利益配当に当たる(損金算入は認められない)か?費用として認められるか?

判旨 上告棄却(X敗訴)「いわゆる『利益の処分』のごときも、年度ごとの所得額が算定され、課税された後にはじめて可能となるものであるから、所得額算定の要素としての損金に含まれない」
「仮りに、経済的実質的には事業経費であるとしても…そのような事業経費の支出自体が法律上禁止されているような場合には、少なくとも法人税法上の取扱のうえでは、損金に算入することは許されない」
本件のように「会社の決算期における利益の有無に関係なく」支払うような資金調達方法は「商法が堅持する資本維持の原則に照らして許されない」
「会社から株主たる地位にある者に対し株主たる地位に基づいてなされる金銭的給付は、たとえ、Xに利益がなく、かつ、株主総会の決議を経ていない違法があるとしても、法人税法上、その性質は配当以外のものではあり得ず、これをXの損金に算入することは許されない。」
本件の支払が「配当とはその性質を異にすることXの主張のとおりとしても、このような金員の支払は、前示のとおり、法律上許されないのであるから…」

考察 判決理由(1)違法な支出の損金不算入(2)株主たる地位に基づき支払われるものは全て配当……どっち?
 松田意見 株主たる地位に基づく金銭給付は全て配当であり、違法性は無関係。
 奥野反対意見 銀行預金利子と同様であり、事業経費である。違法性は無関係。
 ところで本件の直接の争いは【損金算入の可否】か【配当該当性】か?配当と利息費用という二元的構成は採れないのか?[浅妻]本判決のratio decidendiが損金算入不可だけだとすれば、実は「配当以外のものではあり得ず」は傍論ということになるのかもしれない。
 違法支出の損金算入を一般に否定するという筋を採りたくとも、それが判例法理として固まっているかについては疑問の余地あり(cf. 6版§323.03エスブイシー事件・最決平成6年9月16日刑集48巻6号357頁)。支出の違法性が損金不算入に直結する訳ではないとすれば、損金不算入を補強するために配当に該当しないといいたくなるが、すると今度は6版§221.02鈴や金融事件・最判昭和35年10月7日民集14巻12号2420頁(⇒4.2.2.1.配当所得の定義)(会社の損益計算上の利益に基づかなければ配当でない)と本件(株主たる地位に基づく支払は全て配当)とが矛盾する?
 矛盾はないと無理やり説明するならば……支払者と受取人とで同じ種類である必然性はない(?)

5.3.3.2. 残余財産の分配

5.4. 組織再編・企業結合bv

5.4.1. 基本的考え方

5.4.1.1. 単体課税原則と企業グループ

5.4.1.2. 完全支配関係・支配関係

5.4.1.3. グループ法人税制・連結納税制度と組織再編税制

5.4.2. グループ法人税制・連結納税制度

5.4.2.1. 総説

5.4.2.2. グループ法人税制

5.4.2.1.a グループ法人間の資産譲渡
5.4.2.1.b グループ法人間の配当
5.4.2.1.c グループ法人間の寄附金

5.4.2.3. 連結納税制度

5.4.2.3.a 連結の開始・終了
5.4.2.3.b 連結所得金額および連結法人税額の計算
5.4.2.3.c 連結加入による損失持込みの制限
5.4.2.3.d 投資簿価修正

5.4.3. 組織再編税制

5.4.3.1. 基本的要素

5.4.3.1.a 支配関係継続要件
COLUMN5-7 スピンオフ税制
5.4.3.1.b 事業継続要件・従業者引継要件
5.4.3.1.c 株式以外不交付要件
COLUMN5-8 対価要件の緩和
5.4.3.1.d 共同事業を営むための合併において追加される要件
国分グループ本社株式会社事件・東京地判令和5年7月20日令和3(行ウ)588号(認容、確定)(藤原健太郎・租判2024年7月5日報告、中村繁隆・ジュリスト1600号10頁)
 デリー社の平成25年12月31日時点の貸借対照表上の純資産合計額は−4億8824万1430円だった。ロジテム社の平成24年2月29日時点(当時は協同組合だった)の貸借対照表上の純資産合計額は−2億9581万4159円だった。ロジテム社の筆頭出資者はMNリテール社であり次点がデリー社だった。ロジテム社は組織変更により平成26年2月1日に株式会社になった。
 デリー社、MNリテール社及び春雪さぶーる社の3社は、平成26年2月3日、ロジテム社に対してそれぞれが有していた各建設協力金に係る債権の額を現物出資し、ロジテム社が3社に対して第三者割当増資により普通株式を発行した(debt equity swap。「本件DES」)。
 デリー社は、平成26年2月10日、事業関連権利義務(「本件承継資産負債」)をロジテム社に承継させるという吸収分割をする旨の契約を締結した。ロジテム社はデリー社に普通株式9083株を発行した。デリー社は平成26年12月31日に解散した。平成26年12月期のデリー社の申告において、本件分割が法人税法62条の3第1項の適格分社型分割に該当することを前提とし、譲渡損益を計上していなかった(しかし原告は訴訟において組織再編の適格性を主張しなかった)。デリー社は平成27年12月1日に原告(X社。国分グループ本社株式会社)(デリー社の完全親会社)に吸収合併された。
 税務署長は、デリー社の平成26年12月期の所得計算に関し、分割時の本件承継資産負債の価額が6億0132万円(帳簿価額2598万6096円)であると算定し、適格分社型分割に該当せず譲渡損益を計上する必要がある、とした。

 判旨 「法人税法62条1項の「分割承継法人に当該移転をした資産及び負債の当該(中略)分割の時の価額」とは、分割時における時価をいうものと解すべきところ、時価とは、財産の客観的な交換価値をいうものであり、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解され、課税の明確性や公平を確保する観点からは、一定の客観的な基準によって算定された価額であることが要請されるというべきである。」
 「本件事業計画の内容に合理性・客観性があるとはいい難く、本件価値算定の過程が論理性・客観性が担保された公正なものであったということはできず、その他、本件承継資産負債の時価を6億0132万円と算定したことが合理的であると認めるに足りる証拠はない。また、本件においては鑑定が実施されておらず、本件全証拠によっても、DCF法により、本件分割時の本件承継資産負債の価額の算定を行うのに必要な数値を確定することができない。」
 「本件においては、本件で提出されている証拠に鑑み、本件承継資産負債の時価を、プルータスの上記意見書の評価額の上限である1729万5000円と認めるのが相当である。」

5.4.3.2. 欠損金の引継ぎ

5.4.3.3. 株主段階の課税

5.4.4. 包括的否認規定

5.5. 法人住民税、法人事業税および地方法人特別税

5.5.1. 法人住民税

5.5.2. 法人事業税

5.5.3. 地方法人特別税(地方法人特別譲与税)

6. 消費税

6.1. 消費課税の特徴と分類

6.1.1. 様々な消費課税

6.1.1.1. 直接消費税と間接消費税

直接消費税:消費を行った者に直接課税。ゴルフ場利用税、入湯税等。
間接消費税:納税義務者が消費者と異なるが消費者に租税負担が転嫁(⇒2.2.4.2.)されることが予定される。日本の消費税(後述の付加価値税)。

6.1.1.2. 個別消費税と一般消費税

個別消費税:課税の対象とされた商品・サービスに対してのみ課税。酒税・煙草税・ガソリン税等。
一般消費税:原則として全て(非課税とされない限り)の商品・サービスに対し課税。日本の消費税法等。

6.1.1.3. 単段階消費税と多段階消費税

単段階消費税:製造から小売に至る段階のうちの一つでのみ課税する。アメリカの小売売上税等。
多段階消費税:製造から小売に至る複数の段階で課税する。日欧の付加価値税等。

6.1.2. 付加価値税の基本的構造

6.1.2.1. 取引高税と付加価値税の比較

税制 無税 取引高税 売上税 付加価値税 簡易B80% invoiceB5% 帳簿方式B5%
農家
2000 2000×1.1
=2200税200
2000
税0
2000×1.1
=2200税200
2200
税200
2200
税200
2200
税200
煎餅
6000 (2200+4000)×1.1
=6820税620
6000
税0
6000×1.1=6600
税600-200=400
6600
税600-480=120
6300
税300-200=100
6300
税300-200=100
小売
7000 (6820+1000)×1.1
=8602税782
7700
税700
7000×1.1=7700
税700-600=100)
7700
税700-600=100
7700**
税700-300=400
7700***
税700-573*=127

*Bからの仕入額6300なので6300×10/110=573。
**B→C取引で300値下がりしているので、Cの売上は7700-300=7400となるとも考えることができる。この場合、7400×10/110=673なのでC納税額は673-300=373とも考えられる。
***は**と同様にCの売上が7400となることも考えられる。この場合のC納税額は673-573=100。

無税の世界で農家Aが仕入無し(大地と太陽の恵みだけ)で米を作り、Aが米を煎餅屋Bに2000で売り、Bが煎餅を作り、小売業者たるCに煎餅を6000で売り、Cは消費者Dに7000で煎餅を売る、という状況を考える。次に、第3列、第4列、第5列のような消費税(何れも税率は10%とする。)が導入されたとし、計算の便宜のため消費税は全て転嫁され消費者に帰着すると想定する(この想定は現実の市場に即してない⇒6.4.6.。あくまで説明の便宜のため)。
第6列(簡易B80%)(⇒6.2.4.2.c)、第7列(invoiceB5%)(⇒6.3.3.2.)、第8列(帳簿方式B5%)(⇒6.4.4.2.a)

第3列取引高税:各取引段階の売主に対しその売上金額を課税標準として課す。turnover tax
第4列小売売上税:小売業者に対しその売上金額を課税標準として課す。retail sales tax
第5列付加価値税:各取引段階の事業者に対しその付加価値を課税標準として課す。value added taxhs

取引高税の非中立性:税負担の累積(カスケード効果)(cascade effect)→企業の垂直的統合が非中立的に有利になる。企業の垂直的統合に中立的な付加価値税の肝は仕入税額控除である。
 小売売上税も付加価値税も(理想的に執行されるならば)企業の垂直的統合に対し中立的。
 (発展:しかし小売売上税の下で実際には対消費者取引と対事業者取引との区別が問題となり、税の累積が現実には生じてしまっている。アメリカで小売売上税が採用されているものの、アメリカの研究者もアメリカの仕組みはマズいので付加価値税を導入すべきであると主張しているのが大勢である。取引高税だけでなく小売売上税も世界的には遅れた税制であるという理解が確立している。ではなぜアメリカは付加価値税を導入できないのか?[浅妻]馬鹿だから、おっと筆が滑った、連邦憲法を改正しなければならないが連邦憲法改正の見込みが立たないから。でもそれってやっぱり、馬鹿だから、と評していいよね。)

6.1.2.2. 付加価値とは何か?

   労働者  不動産等所有者
    |↑  地↑|土地
   労||賃 代||建物
   務||金 等||機械設備
    ↓|   |↓
仕入  ┏━━━━━┓  販売
―――→┃ 事業者 ┃――――→ 購入者
←―――┗━━━━━┛←―――― 
仕入  ↑|配  |↑   売上
   出||当 利||貸
   資|↓等 子↓|付
    株主   債権者
6.1.2.2.a 控除法と加算法
控除法:事業の総売上金額から、他から購入した土地・建物・機械設備・原材料・動力等に対する支出を控除した金額。
加算法:賃金・地代・利子および企業利潤を合計した金額。
(控除法と加算法は計算方法が違うだけで、内容は同じである)
6.1.2.2.b 付加価値税の三類型
消費型付加価値:機械等についても即時控除⇒C=GDP-I(消費=国内総生産-投資)
所得型付加価値:機械等については減価償却⇒NDP=GDP-減価償却(net domestic product国内純生産)
売上型付加価値:機械等については控除不可⇒GDP(gross domestic product国内総生産)

6.1.2.3. 付加価値税の執行面mq

6.1.2.4. 国際二重課税排除の方式

原産地主義では次のように税率の違いにより競争条件が歪められてしまうli
日本(10%) X国(20%) Y国(0%)
農家 2200税200 2400税400 I 2000税0
煎餅 6600税400 7200税800 J 6000税0
小売 7700税100 8400税200 K 7000税0
国際
取引
CがFから7200で輸入し1100上乗せし8300で売り100納税
CがJから6000で輸入し1100上乗せし7100で売り100納税
GがBから6600で輸入し1200上乗せし7800で売り200納税 KがBから6600で輸入し1000上乗せし7600で売り0納税

仕向地主義が原則として適用される。税率の違う国の企業でも同じ市場にて同条件で競争できる。
輸出免税:輸出取引以前の税額を還付。0%で課税する(0税率)ともいう。(輸出物品販売場)ht
輸入課税:税関で引き取る者が納税 (サービス取引については適用しにくい)

発展:原産地主義が駄目な理由は従来上記のように説明されてきたが、為替調整等の経路により原産地主義でも競争条件は歪められない、という説明がある。P国もQ国も付加価値税率が0%のとき、P国の¥100=Q国の$1だったとし、R社はP国にて¥200で、S社はQ国にて$2で商品を提供していたとする。R社がQ国消費者に提供するときの価格は$2である。次に、P国だけ税率20%の付加価値税を導入し原産地主義で課税される場合、Q国の者がP国から輸入するのに今までの1.2倍かかるので、為替は¥120=$1となる。この場合R社がQ国消費者に売る時の価格はやはり¥240=$2でP国の付加価値税導入前と変わらない。
COLUMN6-1 通商法と法人税・付加価値税――米仏貿易摩擦

6.2. 消費税法の構造

6.2.1. 課税物件(課税の対象)

6.2.1.1. 基本構造

課税物件:消税4条1項「国内において事業者が行った資産の譲渡等」(ただし非課税取引を除く)
輸入課税:消法4条2項「保税地域から引き取られる外国貨物」……消費者が引き取る時も課税される。
 参照:輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律(輸徴法)13条(免税等)1項1号と関税定率法14条(無条件免税)18号(小額貨物)、カスタムアンサー1703

事業者→消税2条1項4号「個人事業者および法人」……個人・法人の区別がない。
資産の譲渡等:消税2条1項8号「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供
自家消費:消税4条5項1号「個人事業者が棚卸資産[等]を家事のために消費し、又は使用した場合」、「事業として対価を得て行われた資産の譲渡とみなす」。
6.2.1.1.a 国内取引
6.2.1.1.a.1 国内において行われる取引
アマゾン手数料事件・東京地判令和4年4月15日平成31(行ウ)201号棄却(野一色直人・ジュリスト1584号10頁)(東京高判令和4年12月8日棄却公刊物未登載未確認)
判旨 「消費税法施行令6条2項7号にいう『事務所等』とは,当該役務の提供に直接関連する事業活動を行う施設をいうものと解され,その所在地をもって,役務の提供場所に代わる課税対象となるか否かの管轄の基準としている趣旨からすれば,当該役務の提供の管理・支配を行うことを前提とした事務所等がこれに当たる」。
 「出品サービスは,サービスの利用者がアマゾンにおいて直接販売するために商品を掲載するためのサービスであり,サービスの利用者の商品を特定のアマゾンサイトに掲載し,販売促進及びプロモーションを行うことを内容とするものであるところ,掲載された商品はインターネット上に開設されたアマゾンのサイトを通じて,全世界の人々が閲覧できるのであるから,出品サービスは,全世界の人々が原告の商品に関する情報を閲覧することを可能にするものといえ,また,本件全証拠によっても,その役務提供の対価である出品手数料が国内の役務に対応する部分と国内以外の地域の役務に対応する部分とに合理的に区分されているとはいえない。[改行] そうすると,出品サービスは,『国内及び国内以外の地域にわたって行われる役務の提供その他の役務の提供が行われた場所が明らかでないもの』(消費税法施行令6条2項7号)に該当する」。
 「出品サービスに係る『役務の提供を行う者』(消費税法施行令6条2項7号)は,米国アマゾン社であるといえ,米国アマゾン社の事務所等の所在地が米国にあること……からすれば,出品サービスの役務の提供に直接関連する事業活動を行う施設であって,当該役務の提供の管理・支配を行うことを前提とした事務所等は,米国国内に所在している」。
 「出品サービスに係る役務の提供が国内において行われたとは認められないから,出品手数料は,消費税法30条1項に規定する仕入税額控除の対象となる課税仕入れに該当しない」。
COLUMN6-2 電子書籍・音楽・広告等の電子配信と消費税
6.2.1.1.a.2 事業者が事業として行う取引
富山地判平成15年5月21日平成14(行ウ)5号税資253号順号9349棄却・名古屋高金沢支判平成15年11月26日平成15(行コ)5号税資253号順号9473棄却(佐藤英明・税研148号最新租税判例60・169頁)……原告(個人)がA有限会社(原告が代表者)に対し建物を賃貸借していることが消費税法2条8号の「資産の譲渡等」に当たり原告が消費税法2条3号の「事業者」に当たる。

東京地判令和5年3月8日平成31(行ウ)102号(棄却)……ホステス報酬が給与に当たり仕入税額控除が認められなかった事例
6.2.1.1.a.3 対価を得て行われる取引hu
6.2.1.1.a.4 資産の譲渡および貸付けならびに役務の提供
株式会社伊場仙・東京地判平成9年8月8日平成8(行ウ)34号行集48巻7・8号539頁判タ977号104頁棄却確定百選6版85……建物の賃貸借契約の合意解除に際し賃借人に支払った立退料に係る消費税相当額を賃貸人に係る消費税法30条1項の「課税仕入れに係る消費税額」とすることはできない。

京都地判平成23年4月28日訟月58巻12号4182頁平成19(行ウ)48号棄却・大阪高判平成24年3月16日訟月58巻12号4163頁平成23(行コ)86号棄却(三木義一・ジュリスト1448号123頁)……弁護士会の依頼で弁護士が法務相談業務をし依頼者を得た場合に弁護士会が弁護士から受領する負担金は弁護士会の課税取引の対価である。
6.2.1.1.b 輸入取引

6.2.1.2. 非課税取引(消税6条、別表第1)

神戸地判平成24年11月27日平成22(行ウ)61号税資262号順号12097棄却確定……医療が消費税法で非課税なので、付加価値税分を医療法人が負担することになっている(又は診療報酬の改定での値上げが不十分である)ことが違憲であるとの主張を斥ける。

カロート事件・東京地判平成24年1月24日平成22(行ウ)171号判時2147号44頁税資262号順号11859棄却・東京高判平成25年4月25日税資263号順号12209平成24(行コ)84号棄却確定……宗教法人の墓石等販売は法人税法施行令5条1項1号の物品販売業(カロートについては不動産貸付業)に当たる(法人税非課税の「墳墓地の貸付け」{法令5条1項5号ニ;法基通15-1-18}に当たらない)。墓地等管理料は役務の対価であるから消費税(消費税法には公益法人・宗教法人等の優遇規定はない)の課税標準に含まれる(墳墓地の貸付は土地の貸付だから元々非課税)。cf.6版§312.02ペット葬祭業事件・最判平成20年9月12日判時2022号11頁

福岡地判令和3年3月10日税資271号順号13540棄却・福岡高判令和3年12月7日税資271号順号13639棄却・最三小決令和4年6月21日税資272号順号13729棄却、不受理……有料老人ホームにおける食事提供は非課税取引に当たらない。

東京地判令和5年5月25日令和3(行ウ)123号(棄却)(酒井克彦・租税判例研究会報告予定)……中古住宅を仕入れて販売する事業。消費税法施行令45条3項「課税資産の譲渡の対価の額と非課税資産の譲渡の対価の額とに合理的に区分されていないとき」該当性。
COLUMN6-3金融取引と付加価値税(消費税)ob

6.2.1.3. 免税取引(輸出免税)(消税7条・8条)

インディーレーシングリーグ事件東京地判平成22年10月13日平成20(行ウ)730号訟月57巻2号549頁棄却確定百選7版88(日隈将人&真鍋亮平2023.3.30前編後編)……消費税法4条3項2号、消費税法施行令6条2項7号「国内及び国内以外の地域にわたって行われる役務の提供」に関して。アメリカで年間15または16レース、日本で年間1レースのカーレース(Indy Racing League)に参戦する日本法人の役務の対価が国内役務に係るものと国外役務に係るものとに合理的に区別できない(区別できる場合については消費税法28条1項参照)ことから、レースのスポンサー契約により受ける対価が、すべて日本の消費税の課せられるものであるとした例。尤も本件ではスポンサー企業群が日本法人だったので、スポンサー側が仕入れ税額控除をとるために、各レースごとの個別の契約とするのではなく、わざと一年間ごとの契約として課税取引扱いを意図した、という事情もあったようである。

Hanatour Japan事件東京地判平成27年3月26日訟月62巻3号441頁平成23(行ウ)718号棄却(廣木準一・ジュリスト1500号160頁)・東京高判平成28年2月9日平成27(行コ)156号棄却百選7版89……来日観光客への役務提供が輸出免税取引(消費税法7条1項、消費税法施行令17条2項7号ハ)に該当しないとされた事例。

株式会社いい旅事件・東京地判平成28年2月24日平成26(行ウ)250号判時2308号43頁棄却確定……訪日ツアー輸出免税非該当。

輸出物品販売場制度について、宝田無線電機株式会社事件・東京地判令和2年6月19日平成30(行ウ)321号税資270号順号13415棄却(藤原健太郎・ジュリスト1575号155頁)・東京高判令和3年9月2日令和2(行コ)146号税資271号順号13599棄却……原告・宝田無線電機株式会社(以下X社)は平成元年以前から本件販売場について物品税法条の輸出物品販売場の許可を受けていた。輸出物品販売場継続経営届出書(消費税法附則4条)を提出し平成元年4月1日より消費税法8条6項の輸出物品販売場の許可を受けたものと見なされる。香港及び韓国の旅行会社(専業国際旅運有限公司(香港社)、株式会社LOTTE(ロッテ社)、DONG−A TRAVEL AGENCY(ドンア社))の従業員が関与しつつ本件販売場で金工芸品の本件譲渡が本件各課税期間(平成28年4月1日から29年2月28日)になされた。本件各譲渡で外国人旅行者(本件各名義人。7000人以上)が複数の金工芸品(1kg。約450万円)を購入し一名義人あたり1000万円超の代金支払いがなされたとされている。神田税務署長は、本件各譲渡が消費税法8条1項にいう非居住者に該当しないとして更正処分をした。裁判所も処分を維持した。本件は循環取引(所謂carousel fraud、回転木馬詐欺)(明成社⇒X社⇒ドンア社⇒明成社)(明成社とX社は日本法人。ドンア社は韓国法人。明成社が金工芸品を製造)(出版社の明成社とは別)であるが、循環取引であるか否かは判旨と深く関わらないように読める。
cf.東京地判平成18年11月9日税資256号順号10569平成16(行コ)392等棄却確定(佐藤明弘・税理51巻11号129頁)……ロシア人船員等への中古自動車の販売が輸出免税対象取引ではないとされた事例。
cf.宮川博行「消費税の免税制度に関する一考察―輸出物品販売場制度の在り方を中心として―」税務大学校論叢64号89頁(2010.6.29)参照。[浅妻]消費者の購入についてまで輸出免税を適用することが公平・効率性に適うか疑問。

東京地判令和4年7月15日令和2(行ウ)339号(棄却)……台湾への輸出に関し商品を仕入れたのが原告(日本法人)ではなく台湾法人であるとされた事例。

株式会社アペックス事件・東京地判令和4年1月21日令和2(行ウ)198号(棄却)・東京高判令和5年1月25日令和4(行コ)41号(棄却)……旅券のコピーの提出がなく消費税法8条1項の消費税の免除が認められなかった事例

6.2.2. 納税義務者

6.2.2.1. 誰が納税義務を負うのか(省略)

6.2.2.2. 納税義務の免除(免税事業者制度)

消税9条:年間課税売上高1000万円以下……免除と書いてあるが講学上の免税・ゼロ税率と違い人的非課税。
問:6.1.2.1.のCと同種の事業を行なっている別の小売業者Eが、付加価値税制の下、Cと同じ値段(7700)で消費者Dに対し販売しているが、Eは消税9条により非課税であった。EはCと比べて幾ら得をするか?……700円ではない。

株式会社シャホトーサービス事件東京地判平成11年1月29日平成9(行ウ)121号棄却・東京高判平成12年1月13日平成11(行コ)52号棄却・最判平成17年2月1日民集59巻2号245頁百選7版90oc……基準期間の売上総額が3052万円であった。法9条の課税売上高の算出に当たり、100/103を乗ずべきか否かが争われ、裁判所は、免税事業者については乗じないとした。
COLUMN6-4 非課税とゼロ税率の差異

6.2.3. 課税標準・課税期間・税率

6.2.3.1. 課税標準(消税28条)(消基通10-1-11)

6.2.3.2. 課税期間と中間申告・中間納税(消税19条・42条・48条)

6.2.3.3. 税率(消税29条、地方税法72条の83)

6.2.4. 税額の計算と仕入税額控除(消税30条、45条1項1号)

6.2.4.1. 課税標準額と売上税額

6.2.4.2. 仕入税額控除oi

6.2.4.2.a. 実額による控除
社会福祉法人ゆたか福祉会事件名古屋地判令和6年7月18日令和4(行ウ)67号棄却(倉見智亮「社会福祉法人が生産活動従事者に支払う工賃の「課税仕入れに係る支払対価」該当性」新・判例解説Watch租税法No.191、田中啓之租税判例研究会2025年2月7日報告)
 事実 原告は、平成25年4月1日から平成29年3月31日までの間、いずれも名古屋市内又は愛知県内(名古屋市以外)に所在し、障害者総合支援法29条1項の指定を受けた13の事業所(本件各事業所)において、同指定に係る生活介護、就労移行支援及び就労継続支援B型(就労継続支援B型等)の各障害福祉サービス(本件各福祉サービス)に係る事業を行っていた。原告は、本件各事業所において、利用者に対して本件各福祉サービスを提供する一方、希望する利用者に生産活動の場を提供し、当該利用者が提供する役務によって生産した商品を市場で売却するなどし、その売却益等のうちの一定部分を本件工賃として利用者に支払っている。
 争点 本件工賃が消費税法30条1項に規定する課税仕入れに係る支払対価に該当するか

 判旨 請求棄却 「消費税法は、「課税仕入れ」について、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けること(他の者が事業として役務の提供等をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当するもの)と定める(2条1項12号)から、ある支払が課税仕入れに係る支払対価に該当するためには、当該支払を受ける者が事業として役務の提供等をしたとした場合に、当該支払が当該役務提供等の「対価」(同項8号)と認められる必要がある。
 そして、上記説示した消費税の性格及び課税の仕組みからすれば、消費税法は、ある支払が転嫁が可能な程度に個別具体的な役務の提供等と結びついている場合に課税対象とする趣旨であり、同号の「対価を得て行われる・・・役務の提供」とは、具体的役務提供によって支払が生じたという対応関係が認められるような役務の提供を意味するものと解される。
 したがって、ある支払が課税仕入れに係る支払対価として仕入額控除の対象となるのは、当該支払が個別具体的な役務の提供を受けたことによって生じたという対応関係が認められることが必要となるというべきである。」
 「本件各作業所の利用者は、原告により提供される本件各福祉サービス利用の一環として、自らの知識及び能力の向上等のための訓練として生産活動に従事している」。
 「本件各事業所の利用者は、原告との間で、請負、委任等の契約を締結して生産活動に従事し、原告に役務を提供した反対給付として本件工賃を受領しているのではなく、原告による本件各福祉サービスの一環として,生産活動に係る事業の収入から生産活動に係る事業に必要な経費を控除した残額(剰余金)の分配として本件工賃を受領している」。
 「原告は、本件各福祉サービスの一環として、本件各事業所の利用者に対し、工賃支払を含む生産活動の機会を提供しているものであって、本件工賃は生産活動による成果物の販売代金に転嫁可能な程度に生産活動への従事と結びついているとはいえないから、本件工賃の支払が利用者による役務の提供に対する反対給付であるとは認められず、本件工賃の支払は、生産活動への従事に伴う役務の提供を受けたことに対応しているとはいえない。したがって、本件工賃が消費税法30条1項に規定する課税仕入れに係る支払対価に該当すると認めることはできない。」
6.2.4.2.a.ア 総売上高に対する課税売上の割合が95%以上の場合
6.2.4.2.a.イ 総売上高に対する課税売上の割合が95%未満の場合または課税売上高が5億円超の場合
舛田住宅株式会社事件福岡地判平成9年5月27日平成8(行ウ)4号判時1648号60頁棄却確定百選4版83……建築した建物を土地と一括譲渡した場合の課税仕入れに係る消費税額の控除税額を一括比例配分方式により計算して確定申告をした後,計算方法の誤りを理由として個別対応方式による計算に基づいてした更正の請求に対し,一括比例配分方式を適用してした消費税の更正の一部取消請求が,棄却された事例。

徳島県青少年センターPFI株式会社事件東京地判平成24年9月7日平成23(行ウ)184号税資262号順号12032棄却確定(廣木準一・ジュリスト1474号139頁)……原告・X社は徳島県との間で本件施設整備運営事業契約を締結した。契約金額は約17.8億、うち本件施設の整備に関する対課は約10.5億としていた。徳島県は32回払いで支払うとしていた。割賦元本額約9.5億、割賦金利約1億。Xは、平成20年1月28日〜同年3月31日の課税期間において幾つか手数料等の支払をし、これが消費税法30条2項1号イ「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」に当たるとの前提で申告をした。税務署長は同号ロ「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ」に当たるとの前提で更正処分をし、裁判所も処分を維持した。

エー・ディー・ワークス事件東京地判令和2年9月3日平成30(行ウ)559号認容・東京高判令和3年7月29日令和2(行コ)190号原判決取消・最判令和5年3月6日民集77巻3号440頁令和4(行ヒ)10号棄却ix(田中治・ジュリスト1555号10頁、今村隆・ジュリスト1563号134頁、西山由美・ジュリスト1557号164頁重判令02年、酒井貴子・ジュリスト1586号10頁、片山直子・新・判例解説Watch租税法No.179、渡辺周・税研230号78頁、山本拓・ジュリスト1592号110頁、藤原健太郎・法学セミナー830号114頁、漆さき・ジュリスト1597号178頁重判令05年)……原告(X社)は転売目的で集合住宅建物(マンション)84棟を購入し、個別対応方式によりこの購入に係る課税仕入れ(本件各課税仕入れ)が課税対応課税仕入れに区分される前提で、購入に係る消費税額の全額を購入時の属する課税期間の仕入税額控除の額として申告していた。Xは、マンションを購入してから転売までの間、棚卸資産として計上して賃料(非課税取引)を受領していたことから、税務署長は、本件各課税仕入れは共通対応課税仕入れに区分される前提で、購入に係る消費税額全額ではなく、課税売上割合を乗じた額だけが仕入税額控除の額となるとする更正処分をした。

95%ルールの見直しについて『平成23年度 税制改正の解説648頁以下参照。

一審(請求認容)……本件各課税仕入れは課税対応課税仕入れに当たる。
控訴審(原判決取消。請求棄却)……本件各課税仕入れは共通対応課税仕入れに当たる。過少申告加算税に関し国税通則法65条4項1号にいう「正当な理由」は認められない。

最高裁判旨……「1 消費税法は、生産、流通等の各段階で二重、三重に税が課されて税負担が累積することを防止し、経済に対する中立性を確保するため(税制改革法10条2項)、課税期間中に行った課税仕入れに係る消費税額を当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除するものとしている(消費税法30条1項1号)。もっとも、同法は、所定の場合において当該課税期間中に行った課税仕入れにつき用途区分が明らかにされていないときは、課税仕入れに係る消費税額に、課税売上割合、すなわち、課税期間中の所定の売上げの総額に占める課税資産の譲渡等に係る売上げの割合を乗じて計算する方法により控除対象仕入税額を計算するものとし(同条2項2号)、また、帳簿及び請求書等の保存がない場合には原則として当該課税仕入れに係る消費税額の控除を認めないものとする(同条7項)など、課税の明確性の確保や適正な徴税の実現といった他の目的との調和を図るため、税負担の累積が生じても課税仕入れに係る消費税額の全部又は一部が控除されない場合があることを予定しているものということができる。
 そして、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、税負担の累積が生ずる課税資産の譲渡等と累積が生じないその他の資産の譲渡等の双方に対応する課税仕入れにつき一律に課税売上割合を用いることは、課税の明確性の確保の観点から一般に合理的といえるのであり、課税売上割合を用いることが当該事業者の事業の状況に照らして合理的といえない場合には、課税売上割合に準ずる割合を適切に用いることにより個別に是正を図ることが予定されていると解されることにも鑑みれば、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等の双方に対応する課税仕入れは、当該事業に関する事情等を問うことなく、共通対応課税仕入れに該当すると解するのが消費税法の趣旨に沿うものというべきである。このように解することは、課税仕入れを課税資産の譲渡等「にのみ」要するもの(課税対応課税仕入れ)、その他の資産の譲渡等「にのみ」要するもの(非課税対応課税仕入れ)及び両者「に共通して」要するもの(共通対応課税仕入れ)に区分する同条2項1号の文理に照らしても自然であるということができる。
 そうすると、課税対応課税仕入れとは、当該事業者の事業において課税資産の譲渡等にのみ対応する課税仕入れをいい、課税資産の譲渡等のみならずその他の資産の譲渡等にも対応する課税仕入れは、全て共通対応課税仕入れに該当すると解するのが相当である。」
 「2 前記事実関係等によれば、本件各課税仕入れは上告人が転売目的で本件各建物を購入したものであるが、本件各建物はその購入時から全部又は一部が住宅として賃貸されており、上告人は、転売までの間、その賃料を収受したというのである。そうすると、上告人の事業において、本件各課税仕入れは、課税資産の譲渡等である本件各建物の転売のみならず、その他の資産の譲渡等である本件各建物の住宅としての賃貸にも対応するものであるということができる。
 よって、本件各課税仕入れは、その上告人の事業における位置付けや上告人の意図等にかかわらず、共通対応課税仕入れに該当するというべきである。」

補足:令和2年度税制改正後、居住用賃貸建物に係る課税仕入れは通常の仕入税額控除の対象外。

類例:ムゲンエステート事件東京地判令和元年10月11日平成29(行ウ)590号棄却・東京地判令和元年10月16日平成29(行ウ)590号却下・東京高判令和3年4月21日令和元(行コ)281号一部棄却、一部変更(過少申告加算税賦課決定処分だけ取消)・最判令和5年3月6日令和3(行ヒ)260号破棄自判(過少申告加算税復活)

税務執行上のメリットとしてのマッチング(matching)・相互牽制作用……例えば6.1.2.1.のBが脱税しようと思うとき、売上を小さくするか仕入を大きく見せかけることが考えられる。しかし、Bが売上を小さく見せかけようとしても、CはBからの仕入を小さく見せかけたくないので、BとCの両方を調査すれば、Bが売上を小さく見せかけても税務署に嘘がばれる(A・B間も同様)。とはいえ、税務署があらゆる取引を調査することはできないから、やはりばれなければ脱税はある。マッチングは、所得課税の文脈でもある程度は意味を持つ。しかし、贈与のように、支払者の側で控除されず受取人の方で所得に加算される(つまり二重課税がある)場合、マッチングがない。
6.2.4.2.b. 帳簿・請求書の保存義務(消税30条7項)
最判平成16年12月16日民集58巻9号2458頁百選7版94(⇒3.1.1.4.縮小解釈)

最判平成17年3月10日民集59巻2号379頁百選7版110……帳簿不提示時の青色申告承認取消処分は適法。

平成9年3月31日まで帳簿または請求書等の保存義務であったが、今は帳簿及び請求書等の保存義務になっている。インボイス方式導入への地ならし。(国税庁パンフ2020.6)
6.2.4.2.c. 簡易課税制度益税問題(消税37条)
消費税法成立後暫くの間益税批判が強かったが、議論の中心は課税最低限(消税9条:当時3000万円、現在1000万円)以下の小規模事業者の益税よりも寧ろ、簡易課税制度(消税37条)にあった。

導入当初の簡易課税制度:課税売上高が5億円以下の事業者に、売上げにかかる税額の80%(卸売業の場合は90%)相当額を仕入税額とみなして、控除することを認めていた。
……実際の仕入率が80%未満の事業者には益税が生ずる6.1.2.1.のBが80%の仕入率を適用した場合

その後の法改正 適用上限の課税売上高:5億円→4億円→2億円→5000万円
みなし控除率:一律80% →業種に応じて90%、80%、70%、60%、50%、40%の6段階
政治:消費税法導入の際の抵抗…(1)消費者の抵抗 (2)中小企業の抵抗…簡易課税制度等。

6.3. 消費税法における複数税率とインボイス方式

6.3.1. 平成28年度税制改正による軽減税率と適格請求書等保存方式の導入

6.3.2. 軽減税率の導入

COLUMN6-5 軽減税率の対象の線引き

6.3.3. インボイス方式の導入

6.3.3.1. 適格請求書等保存方式導入までの経過措置

6.3.3.2. 適格請求書等保存方式(⇒6.1.2.1.第7列、第8列比較)

6.4. 消費課税と税制改革

6.4.1. 本節の構成

6.4.2. 勤労所得税(wage tax)と消費課税の類似性

COLUMN6-6 包括的所得税と消費課税の差異は意外と小さい?(⇒4.1.1.2.)

6.4.3. 直接税の消費課税化

6.4.3.1 フラット税とX税(Flat Tax, X Tax)

6.4.3.2. 支出税

6.4.4. 累進的な消費課税は可能か?

6.4.4.1. 累進性のメルクマール:限界税率と平均税率

Aは1000稼ぎ、990消費した。Bは2000稼ぎ、990消費した。Cは2000稼ぎ、1980消費した。(付加価値税率10%)
○付加価値税は消費額に比例するので、(生活必需品に特別に重い課税をしているなどの事情がない限り)消費額を基準にすれば逆進的になりえない。A・B・Cの何れも、消費額を基準とすれば10/110の負担。消費型所得概念によれば、付加価値税は逆進的ではなく比例的
○付加価値税が逆進的であるという主張は、所得を基準とした考え方。しかし、AとCを比較すれば、90/1000=180/2000の負担。逆進的であるという主張は更に、高所得者の方が貯蓄率が高いということを前提としている(消費性向が低いと表現することもある)。AとBを比較すれば、90/1000>90/2000の負担である。

包括的所得概念が比較の際の基準となるべきであって消費型所得概念よりも優れている、ということの理論的根拠・哲学的根拠は、まだ充分には詰められていない。

 ライフ・サイクルで見れば所得を基準としてもなお逆進性は大きくないという主張→大竹文雄
 或る時期に貯蓄しても、翌年以降に消費すれば、やはり付加価値税が課せられる。最終的に財産を遺さない(死ぬまでに使い切る)のであれば、所得額を基準としても消費額を基準としても付加価値税は比例的であって逆進的ではない。消費型所得概念論者は正に生涯的な見地から公平を論じ、貯蓄もいずれ消費に回されるのであるから貯蓄部分は課税対象とすべきでないと考える。
 高所得者の方が多くの割合の財産を遺す、と言えて初めて、付加価値税は逆進的であるといえることになる。【(遺産額−相続額)÷生涯所得額】の計算式で、本当に高所得者の方がこの割合が高いのかの実証の問題。
 ([浅妻]一生涯税制が同じままであるということはあまりない。ころころ税制が変化する中、本当にライフ・サイクルで租税負担の配分に関する公平を考えることが適切なのかについて、疑問も若干ある。)

6.4.4.2. 複数税率とその問題点hv

6.4.4.2.a 帳簿方式の問題(⇒6.1.2.1.第8列)
6.4.4.2.b 低税率と高税率が適用される対象の区別
6.4.4.2.c 消費活動に対する非中立性?
6.4.4.2.d 簡易課税のみなし仕入れ率(⇒6.1.2.1.第6列)
6.4.4.2.e 誰が恩恵を享受するのか?

6.4.4.3. 定額給付金による消費税の累進化

複数税率以外の低所得者への配慮方法
○所得税減税(旧大蔵省の説明)……元々所得が少ない人にとっては減税されても無意味。
○生活必需品にかかる付加価値税額について消費者に還付。手続きとしては、現在の医療費控除と同様に、生活必需品の消費額が記されたレシート等を消費者が確定申告で申告し、還付を受ける、など。
○実額計算が面倒→一定額の金銭給付。【生活必需品消費額概算×付加価値税率】の式による額を配れば、付加価値税が低所得者の生活を圧迫するという批判が成立しなくなる。hw
○実額還付が面倒→所得税納税の際に一定額の税額控除を導入(所得控除ではないことに注意)。所得税額がこの税額控除額より小さい人について金銭給付と組み合わせる、など。

6.4.5. 補足:個別消費税との二重課税(教科書にはない)

例:税抜で1000円の商品に50%の個別消費税(例えば肥満対策税として砂糖に課税)が課されているとする。
1000×1.5+1000×1.1=1600ではなく、
(1000×1.5)×1.1=1650で売られることになる。税に税がかかる(tax on taxである)。
tax on tax、即、悪とは言い切れない。税負担の重さが不都合ならば、個別消費税の税率を下げればよい。
個別消費税の税率を45.45%にすれば、最終的な価格は1600になる。(1454.5×1.1≒1600
実際上も、帳簿方式の下で個別消費税の負担を排除するのは困難。
一時期ガソリン税についての政治アピールがあったが、問題の根は財務省ではなく省庁間および政治家間の縄張り争い。

6.4.6. 補足:消費税の負担は消費者と生産者とで分担される(教科書にはない)

消費税の帰着

需要曲線:消費者が支払ってもよいと考える一単位あたりの価格で、量が増えると低くなっていく。
供給曲線:生産者が生産する時に要する一単位あたりの費用で、量が増えると高くなっていく。
(価格から説明しても構わない。或る価格のときに購入できる量を需要曲線が示しており、或る価格のときに供給できる量を供給曲線が示している)
消費者余剰:均衡価格より上で需要曲線より下の面積
生産者余剰:均衡価格より下で供給曲線より上の面積

 租税の経済的な負担は需要曲線・供給曲線の価格弾力性(傾き)によって決まる。
 標準的な財政学の教科書では、誰に課税するかは、経済的に無意味であると論ぜられる。これは付加価値税についてのみ当てはまる説明ではなく、様々な租税・公課に当てはまる。例えば、厚生年金を納める主体が労働者のみであるか労働者と事業者の折半とするかで、経済的な結果は変わらない。
 付加価値税の仕組みとして、租税負担が消費者に転嫁されることが法律上予定されている。しかしこれは法律上予定されているというだけにすぎず、経済的な負担の帰着は、政府がどうこうできるものではない。
 付加価値税率が5%から10%に上昇したとき、税込価格が1050円から1100円に上昇したのであれば、法律上予定されているのと同様に税負担が消費者に転嫁されていると(短期的には)いえる。しかし、値段が1050円に据え置かれたのであれば、税負担は法律上の予定とは異なり供給者が負っていることになる。なぜなら、税込価格を上昇させなくとも供給者は1050×10/110の税を納めねばならず、税抜価格は1000円から955円(=1050×100/110)になっている。
 「短期的には」の意味――長期的には、値上げ控え等の形で経済的に付加価値税の負担を負うことがある。
 供給者が税を負担するの意味――供給者側の誰が税負担を負うのかは更に闇の中(法人税の議論を想起)。

7. 資産税

7.1. 相続税・贈与税

7.1.1. 総説

7.1.1.1. 相続税の意義

§400.01税制調査会「わが国税制の現状と課題―21世紀に向けた国民の参加と選択―290-291頁(2000.7)
(1) 相続による資産増加は包括的所得概念によれば所得であるので、所得課税の補完ともいわれる。が、所得税法を適用するとなると低所得階層にとって税負担が重過ぎることとなりがちなので、所得税を免じ(所税9条1項16号)相続税法を適用することによって実際の税負担が軽くなる。
(2) 富の再分配という政策もあるので、高所得階層にとっては税負担が軽くなるとは限らない。
(3) 「被相続人の生前所得について清算課税」[浅妻]言ってはならないことであると考える。真っ当に納税してきた被相続人との関係で説明がつかない。また、被相続人段階で譲渡所得課税がなされなかった部分について、相続税課税により相続人段階での譲渡所得課税がなくなる仕組みでもない。
(4) 「資産の引継ぎの社会化」……要するに老人社会保障の見返りとしての相続課税。本来は被相続人への社会保障給付の分(のうち、保険の論理では給付が正当化されない部分)、相続を否定するべき。そしてこの趣旨からすれば現在の基礎控除は高すぎる。

遺産税:遺産に着目。財産税。主に英米。
遺産取得税:相続人の富の増加に着目。所得税の補完。主に独仏。
ただしどちらも理念型にすぎない。
日本は遺産取得税の体系に属すとされているが、後述するように遺産税の考え方も取り入れられている。

 令4事績によると、1年間の死亡者数は約157万人、相続税の課税対象となった被相続人数は約15万人。課税割合(150858÷1569050)は約9.6%。殆どの家計で相続税は課せられないのが実態である。基礎控除縮減により、課税割合が平成25年以前の4%代から上がったとはいえ、相続税額は2兆7989億円、付加価値税の1%に相当する税額(2兆円)を少し上回る程度。それでも日本は諸外国と比べ相続税の課税割合や税収は大きい方である。
 少なからずの国で相続税を廃止したり、或いは配偶者・子の相続について相続税を廃止したりする動きが加速している。相続税廃止といっても、所得税(日本で言えば一時所得・譲渡所得)との関係で必ずしも租税負担が軽くなるばかりであるとは限らないことに留意。

遺産動機との関係ie
(1)予防貯蓄:いつ死ぬか正確に予見できないので、大抵は貯蓄を使い果たす前に死ぬ (cf.→年金)
(2)交換:子に老後の面倒を見てもらうための戦略 (←生前贈与はできない)
(3)利他:子の喜びが親の喜びでもある
(4)贈与の喜び:贈与すること自体に喜びを見出す
経済学的モデルでは(3)と(4)は違う意味を持つが、現実世界での区別は容易でない

7.1.1.2. 日本の相続税・贈与税の特徴

7.1.2. 相続税・贈与税の納税義務者

相税1条の3:相続又は遺贈により財産を取得した個人
相税1条の4:贈与により財産を取得した個人(cf.暦年贈与サポートサービス相基通24-1(「定期金給付契約に関する権利」の意義))

国内に住所を有さない→在外財産の受贈について贈与税が課されないとした事例⇒3.1.3.4. 6版§142.01武富士事件・最判平成23年2月18日判時2111号3頁
現在は住所が国外にある場合でも日本国籍保有者である場合に5年ルール…相税1条の3、1条の4、2条、2条の2。

カリフォルニア州不動産贈与事件東京高判平成19年10月10日税資257号順号10797平成19(行コ)142号(ジョイント・テナンシー贈与事件ともいう)hy
日本在住の夫婦がアメリカ在住の息子夫婦に不動産を贈与した事案。平成12年4月1日以降の5年ルールにつき、裁判所は、贈与による所有権移転時期は4月1日以後であると判断した。[浅妻]書面付贈与の判例(最判昭和60年11月29日民集39巻7号1719頁)に照らし、贈与による債権債務成立時期は3月29日頃とみる余地があり結論に疑問(例えば2015年に99円をあげるという書面付贈与契約を2014年に締結したら、2014年に90円(割引率年10%の仮定)を贈与をしたとして扱われる)。

中央出版外国信託事件名古屋高判平成25年4月3日訟月60巻3号618頁
日本在住の祖父からアメリカ国籍でアメリカ在住の孫(X)に信託を通じて国外財産(アメリカ国債約500万ドル)を贈与しようとした事例。(アメリカでは日本と異なり受贈者ではなく贈与者に着目して贈与税の課税関係を考えるため、アメリカでも贈与税の課税を受けない、という狙い。)
一審 当該孫が「受益者」(相続税法4条1項)に当たらないとして、贈与税課税なし。
二審 祖父が信託を設定した時にXが信託受益権を有すると認定し「受益者」(相続税法4条1項)に当たるとした上で、「両親に監護養育されていたXについても…生活の本拠は長久手の自宅であると認める」、「Xは、出生から本件信託行為時までの期間のうち米国に183日滞在していたのに対し、日本には72日しか滞在していない旨主張する。確かに、通常であれば、滞在日数は住所を判断するに当たっての重要な要素の一つであるが、上記のとおり、本件においては、Xは出生後間もない乳児であるという特殊な事情があったから、むしろ両親の生活の本拠を重要な要素として考慮すべきである上、滞在日数についても、本件信託行為後は、むしろ日本にいる期間の方が長くなっていることに照らすと、Xの出生から本件信託行為時までの米国における滞在日数が日本における滞在日数より長いことは、上記認定を左右するに足りない」。

7.1.3. 相続税の課税物件

相税2条:相続又は遺贈により取得した財産……住所・国籍により在外財産を含むか違いが生じうる。
相税20条の2:在外財産について外国税額控除。

みなし相続財産:相税3条〜9条の6(5条・6条はみなし贈与財産)……被相続人から相続したと法律的にはいえないが、経済的にそれに近い関係のもの。生命保険金(3条1項1号)(⇒§211.04年金払い生命保険金二重課税事件・最判平成22年7月6日民集64巻5号1277頁百選7版34)とか退職手当金(3条1項2号)とか。9条が「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合」という落ち穂拾い的規定を設けている。ms

6版§413.01相続財産の種類・範囲(1) 農地売主/買主相続事件・最判昭和61年12月5日訟月33巻8号2149頁百選7版80&最判昭和61年12月5日訟月33巻8号2154頁id
 農地の買主(所有権まだ)が死亡した場合、土地(評価額299万円)が相続財産に算入され残代金債務等1965万円が相続債務であるとなるか(納税者の主張)、土地は相続財産でなく残代金債務等は確実と認められない相続債務であるとなるか(税務署の主張)。
 農地の売主(所有権あり)が死亡した場合、相続税の課税財産は農地(評価額2018万円、かつ既収手付金等1600万円は預り金であり相続債務:納税者の主張)か、残代金債権2939万円(手付金等は相続債務でない:税務署の主張)か。

買主―――――――――――――――売主
代金の金銭所有権(1965万円)    土地所有権(2018万円?)
土地所有権移転請求権(299万円?)  売買残代金債権(4539万円)
売買残代金支払義務(-1965万円)   土地引渡義務(-4539万円?)



判旨
 農地の買主が死亡した場合、「相続税の課税財産は…所有権移転請求権等の債権的権利」であり、その「価額は右売買契約による当該農地の取得価額に相当する1965万1470円」。「通達の定める評価方法により評価するものとされている農地自体と同様に取扱うことはできない」。
 農地の売主が死亡した場合、「土地の所有権は…相続税の課税財産を構成しない」。「課税財産となるのは、売買代金債権2939万7000円」。

考察
 所有権移転時……民法の原則に従えば意思の合致(即ち契約)があった時。しかし土地については、契約の解釈として所有権移転時は売買残代金が支払われた時とする旨の特約が存在したという推認もありうる。また、農地の場合は、知事の許可のおりた時、とする特約もありうる。
 所有権移転前の売主相続……土地所有権、売買残代金債権、土地引渡義務を相続。
 所有権移転前の買主相続……代金の金銭所有権、土地所有権移転請求権、売買残代金支払義務を相続。
 買主相続事案の「本件相続税の課税財産は…債権的権利であって…農地自体と同様に取扱うことはできない」について……通達に従った土地の評価は299万円、債権的権利を売買契約に従って評価すると1965万円。
 裁判所はこのギャップによって納税者が得をすることを認めなかった。
 買主相続事案において、1965+299−1965としてしまうと、納税者に不当に有利になってしまう。だから最高裁は「課税財産」である「所有権移転請求権等の債権的権利」の「価額は…1965万1470円」であって「農地自体と同様に取扱うことはできない」とし、1965+1965−1965とした。(もしも所有権移転後に相続が発生した事案であれば、課税財産は土地所有権であるといわざるをえず、通達による低い評価を認めざるをえなかったであろう。)
 民法だけでは本件の結論は導き出されない。通達に基づく評価が実勢価格より下回りがち、という背景がある。法律論としての焦点は、土地(低評価)なのか、土地に係る債権的権利(時価)なのか。
 売主相続事案において、土地所有権を課税財産に含めると、その評価は低くならざるをえない(2018万円)。他方、債権的義務である土地引渡義務を買主相続事案と同様に評価すると、売買契約で定められた代金額(4539万円)で評価することとなる。しかし2018+4539−4539では納税者に不当に有利になってしまう。
 この点、土地引渡義務も2018万円であると評価するならば、2018+4539−2018となり、納税者に不当に有利とならない。しかし、土地引渡義務という債務を土地の評価額と同じとしてしまうと、買主相続時案において「所有権移転請求権等の債権的権利」の評価は「農地自体と同様に取扱うことはできない」と述べたことと、整合しない。
 そこで、売主相続事案において、最高裁は、土地所有権自体を課税財産から外し、土地引渡義務の評価の問題も合わせて外すことで、売買残代金債権のみを課税対象とする(比喩的には0+4539−0。本件では手付があるので0+2939−0)とした。
 学説は判決に批判的。土地所有権が売主に残っていながら課税財産に含めないなどという理屈は奇矯にすぎる。土地そのものが相続される場合には、土地の実勢価格と通達による評価とのギャップによって納税者が得してしまうことは避けられないところ、売買途上の場合だけ買主相続でも売主相続でも評価ギャップによる納税者の得を認めたくないというのは都合よすぎ。

cf.東京地判平成26年1月24日平成24(行ウ)89号……被相続人がその所有する土地(農地を含む。)の売買契約を締結し,手付金を除く残代金の受領及び農地法所定の届出の前に死亡した場合において,同土地の所有権は残代金の支払と同時に移転する旨の同売買の特約はその実質が残代金請求権の確保にあったこと,農地法所定の届出を行うにつき法律上の障害がなかったことなど判示の事情の下では,相続税の課税財産は,同土地ではなく,同売買に係る残代金請求権である。

6版§431.02相続財産の種類・範囲(2) 上野事件・国税不服審判所平成17年6月20日裁決・裁決事例集69集217頁大分地判平成20年2月4日平成17(行ウ)13号・福岡高判平成20年11月27日平成20(行コ)9号・最判平成22年10月15日民集64巻7号1764頁百選7版103at
被相続人が誤納した所得税の還付請求訴訟を提起し、相続人が訴訟を引き継ぎ、勝った。
誤納所得税の還付金は被相続人が受けたと遡及的に考えるべきか?
 遡及する→相続人は相続税の課税を受ける。
 遡及しない→相続人は一時所得として課税される。
最高裁は、還付請求権が相続財産に当たると判断した。(どちらが有利かは人によって異なる)

7.1.4. 相続税の課税標準と税額の計算

7.1.4.1. 相続税額の計算方法

7.1.4.1.a 課税価格の計算方法
図表7-1 相続税額の計算の流れ参照
相税11条の2:相続又は遺贈により取得した財産の価額の合計額(12条が非課税財産)
相税13条の債務控除は「相続開始の際現に存するもの」に限る。また「確実と認められるものに限る」(14条)。……相続当時、或る債務が確実と認められなかったために課税財産に含まれなかった(課税価格が減少しなかった)が、当該債務について後に相続人が弁済した、という場合であっても、相続税額が事後的に調整されることは制度上予定されていない。立法論としては疑問が残る。

6版§414.01債務控除 保証債務相続事件・名古屋地判平成10年11月11日平成9(行ウ)3号判タ1061号149頁棄却・名古屋高判平成11年4月16日平成10(行コ)38号税資242号138頁棄却ia……保証債務の債務控除(相続税法13条、14条1項)が認められなかった事例。

4版§414.01 殖産堂出資事件東京地判昭和53年9月28日昭和51(行ウ)123号棄却・東京高判昭和55年9月18日昭和53(行コ)76号棄却確定
事実・争点 Aの相続財産に属する有限会社Sの出資の価額を、純資産価額方式により評価するに際して、将来の退職金相当額が、純資産価額から控除すべき負債に含まれるか否か。(退職金引当勘定を設定していれば問題なく控除できる)
判旨 控訴棄却(請求棄却・確定)確実と認められる債務に当たらないとした。

(1)個人事業(2)上場会社の株価(3)取引相場のない株式の評価の比較。
(3)で債務控除を認めなかった本件の結論は(2)と比べると酷だが(1)に近いともいいうる。
補足……停止条件付債務は明らかに確実な債務ではない。解除条件付債務は、現在債務として存在しているものの将来解除されるかもしれないものであり、相続時においては確実な債務であるとも思われるが、現在はこれも確実な債務ではないと考えられている([浅妻]やや疑問)。期限の定めのない債務は確実と認められる。
補足……社債を出している会社の純資産を評価する場合、社債分債務を負っているのでその分低く評価される。転換社債でもこの理が当てはまるか要考察

東京地判平成22年7月2日平成20(行ウ)721号訟月57巻4号879頁棄却・東京高判平成22年12月16日平成22(行コ)266号訟月57巻4号864頁棄却(浅妻章如・ジュリスト1445号124頁)……制限納税義務者たる被相続人が,商法(平17改正前)266条1項4号及び5号の規定に基づいて負っていた損害賠償債務及び同債務につき会社更生法に基づく査定申立事件の処理に要した弁護士報酬支払債務は相続税法13条2項2号及び3号の「債務」に該当しないとされた事例。
7.1.4.1.b 相続税の総額の計算
相税15条:基礎控除lq3000万円+600万円×相続人数 養子の数に注意。最判平成29年1月31日民集71巻1号48頁nl……相続税軽減目的の養子縁組の縁組意思は有効。
相税16条:遺産取得税→各相続人の相続によって取得した財産のみが課税対象となるべきだが、遺産税的に修正。民法所定の各相続人が民法所定の相続分に応じて被相続人の財産を相続したと仮定した場合の総税額を計算する。
7.1.4.1.c 各相続人および受遺者の税額の計算
相税17条:相続税の総額×各相続人の課税価格/各相続人等の課税価格の合計額

但し個別の財産取得者の属性に着目した加算・減免がある。
相税18条:配偶者・子・親以外が相続する場合は20%加算。
相税19条の2:配偶者は法定相続分または1億6000万円のいずれか大きい額まで非課税。
総勢19条3:未成年者控除、総勢19条の4:障害者控除
相税20条:相次相続控除…相続の間隔が短い(10年以内)場合にその短さに応じて税負担を軽減する。

7.1.4.2. 法定相続分課税方式の趣旨

16条・17条を合わせて考えると、相続税の総額は、遺産がどのように分割されてもほぼ等しいことになるし、一回の相続の中で、多く相続した者と少なく相続した者が直面する税率は同じである。ここには二つの意味がある。
[1]相続税の負担を減少させるために実際の遺産の分割を隠蔽して均分相続を行なったように仮装する傾向があり、それを阻止する。
[2]一人の子供が遺産の大部分を相続する場合に税負担が過重になることを防ぐ。
他方で、遺産取得税・累進課税の理念に即していないという批判も根強くある。

Aが死亡し、実子B・Cが相続した。遺産分割協議で、Bは1億円、Cは5000万円を相続した。
 1.5億−4200万=1.08億。 一人5400万相続したと仮定。
 1000×0.1+2000×0.15+2000×0.2+400×0.3=920
 総額1840万。→B1840×2/3=1227万円


Dが死亡し、実子E・Fが相続した。遺産分割協議で、Eは1億円、Fは2億円を相続した。
 3億−4200万=2.58億。一人1.29億相続したと仮定。
 1000×0.1+2000×0.15+2000×0.2+5000×0.3+2900×0.4=3460
 総額6920万。→E6920×1/3=2307万円

7.1.5. 贈与税の意義

相続税の補完:生前贈与等により相続税を回避することを防ぐ。
 (cf.法哲学hzでは贈与の自由を重視するかで論争の的)
日本では1年ごとに課税する(相税21条の2)が、諸外国では累積的に課税する例もある。

7.1.6. 贈与税の課税物件(⇒3.1.3.2. 6版§422.01公正証書贈与)

7.1.7. 贈与税の課税標準と税額の計算(相税21条の7)(租特70条の2の5:直系尊属)

[1]一度に1億円贈与 [2]1000万円の贈与を10年間繰り返す場合 の比較(time value of moneyを無視)
[1] 200×10%+(300−200)×15%+(400−300)×20%+(600−400)×30%+(1000−600)×40%+(1500−1000)×45%+(3000−1500)×50%+(9890−3000)×55%=5039.5
[2] 200×10%+(300−200)×15%+(400−300)×20%+(600−400)×30%+(890−600)×40%=20+15+20+60+116=231

7.1.8. 相続時精算課税制度(相税21条の9以下)

相税16条相税21条の7を比較すると、贈与の場合に税負担が重くなりがちであることが分かる。
平成15年改正→相税21条の9以下:生前贈与についてこの制度を選択すると、贈与時の贈与税課税が低く抑えられ、その後に相続した際に贈与財産と相続財産を合計して相続税が課される。(贈与額−2500万円の非課税枠…21条の12)×20%〔21条の13〕。
財産の世代間移転を促進する狙い。(平27改正で孫含む)

7.1.9. 申告・納付

7.1.9.1. 申告(総勢27条1項)

7.1.9.2. 納付

相税38条1項:5年を限度として年賦延納を許可することができる。但し利子(52条)がつく。
相税41条:物納を許可することができる。( §452.02土地物納od)

7.1.9.3. 連帯納付義務(相税34条1項)

6版§452.01共同相続人連帯納付事件最判昭和55年7月1日民集34巻4号535頁百選7版79aw(中里実・法協99巻9号1435頁)……「連帯納付義務は、同法が相続税徴収の確保を図るため、相互に各相続人等に課した特別の責任であつて、その義務履行の前提条件をなす連帯納付義務の確定は、各相続人等の固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して、法律上当然に生ずるものであるから、連帯納付義務につき格別の確定手続を要するものではない」。
伊藤正巳補足意見「所論は、要するに、相続税法三四条一項の規定により他の相続人等の固有の相続税納税義務について連帯納付義務を負う相続人等は、税務当局による賦課課税方式に則つた手続がされない限り、納付すべき金額、納付期限、納付場所、納付額の限度、更正・決定の有無等その具体的内容を実際上容易かつ確実に知ることができない筈であることを理由として原審の判断を非難するものと解される。たしかに、相続人等の事情は一様ではないから、個々の具体的事案に即して考えてみると、場合によつては、連帯納付義務者に対し通常の申告納税方式による課税の一場合としての徴税手続をそのまま行うことが、その者に不意打ちの感を与えることを免れなかつたり、納付すべき額その他の具体的な納付義務の内容の不明確によりその者を困惑させるような事態になることがないわけではないと考えられる。しかしながら、そのこと自体は、確定した租税の徴収手続に関して生ずる問題であって、税額の確定手続に関する問題ではないと解すべきである。したがつて、右のような不意打ちの感を与えたり困惑させる事態を生ずるおそれがあることを理由として、連帯納付義務について、国税の確定手続に関する規定である国税通則法一五条、一六条の適用があると主張する所論は採用することができない。」

7.1.10. 税負担の不当な減少の防止(相税63条〜66条の2)

7.1.11. 財産の評価(相税22条)

6版§444.01弁済期未到来の債務の評価 低利息債務評価事件(三越事件)東京地判昭和46年3月31日昭和42(行ウ)224号棄却・東京高判昭和47年4月25日昭和46(行コ)25号棄却・最判昭和49年9月20日民集28巻6号1178頁破棄差戻au・差戻控訴審東京高判昭和50年3月20日昭和49(行コ)68号控訴棄却確定
判旨 「上告人らの被相続人である加藤伊助は、昭和二九年一月二八日株式会社三越から一億二九〇〇万円を利息年一分の約定で借入れ、同三七年一一月七日その弁済期までなお五一年を残して死亡し、本件相続が開始したが、当時の通常の利率は、金融市場の趨勢からみて年八分とするのが相当であった、というのである。そうすると、上告人らは、右相続債務につき年一分の約定利息を支払ってもなお、弁済期までの五一年間毎年借入額の七分(通常の利率と約定利率との差)である九〇三万円相当の経済的利益を留保しうることとなるので、これについて年八分の複利計算により五一年間の中間利息を控除した現価を元本金額から差し引くと、一八三五万三三六五円となることが計算上明らかであるから、これをもって相続開始の時における本件債務の評価額とすべきである。
 しかるに、原審は、右利率差によって生ずる経済的利益の額を元本金額から差し引いたものが本件債務の評価額となることを認めながら、右差し引くべき経済的利益の額の算定については、通常の利率と約定利率との差である年七分の割合により中間利息を控除すべきものとし、結局、本件債務の額を四〇九万二六五〇円と評価している。しかし、右経済的利益について中間利息を控除するのは、それが弁済期までの間通常の利率で運用されることを前提とするものであるから、本件においては年八分の割合によって計算するのが当然であって、これと約定利率との差によるべき理由はなく、原審の計算方法は、誤りといわざるをえない。」

異論として、金子宏「相続税の課税価格の算出上控除すべき弁済期未到来の金銭債務の評価方法」法学協会雑誌95巻8号1412頁(相続人にとっての運用益を見るべき)

6版§443.01上場株式等の評価 永大産業事件大阪地判昭和59年4月25日行集35巻4号532頁百選7版85(控訴審大阪高判昭和62年9月29日行集38巻8・9号1038頁、上告審最判平成元年6月6日税資173号1頁昭和62年(行ツ)145号)……上場株式を相続した後で株価が暴落した事例でも、相続後の価格の高騰・下落は考慮しない。岩崎政明「相続株式の価格の暴落に対する災害減免法の類推適用の可否」税務事例22巻4号9-13頁。

5版§441.01ニチアス株式負担付贈与事件東京高判平成7年12月13日行集46巻12号1143頁(一審東京地判平成7年7月20日行集46巻6・7号701頁

財産評価基本通達169(上場株式の評価)上場株式の評価は、次に掲げる区分に従い、それぞれ次に掲げるところによる。
(1) (2)に該当しない上場株式の価額は、その株式が上場されている金融商品取引所(国内の2以上の金融商品取引所に上場されている株式については、納税義務者が選択した金融商品取引所とする。(2)において同じ。)の公表する課税時期の最終価格によって評価する。ただし、その最終価格が課税時期の属する月以前3か月間の毎日の最終価格の各月ごとの平均額(以下「最終価格の月平均額」という。)のうち最も低い価額を超える場合には、その最も低い価額によって評価する。
(2) 負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得した上場株式の価額は、その株式が上場されている金融商品取引所の公表する課税時期の最終価格によって評価する。[(2)は平成2年改正で追加された]

事実 昭和63年11月29日、A氏はN株式23.8万株の現物買いの注文を出した。X1(Aの孫)とX2(Aの子)はそれぞれN株式11.9万株ずつの信用売りの注文を出した。1950円/株。AはK銀行から2億4990万円を借り入れた。昭和63年12月15日、AはX1及びX2に1億2495万円ずつの債務引受を条件としてN株式11.9万株ずつを贈与した。同日の株価は1980円/株だった。1株当たりの負担は1050円/株(=1億2495万円/11.9万株)であった。Xらは、受贈したN株は通達(平成2年改正前)に従って評価すると1株当たり1033円/株であり、負担が上回るので、受贈財産の価額が0円であるという前提で贈与税の確定申告をした。税務署長は、贈与時点の証券取引所における最終価格を前提に一人あたり1億1067万円(=(1980−1050)×11.9万)の受贈があるとして更正処分等をした。

判旨 「時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立する価額をいう」

釧路地判平成13年12月18日訟月49巻4号1334頁(浅妻章如・ジュリスト1230号129頁)は、金曜日の夜(市場が閉まった後)に相続した先物取引の建玉の評価について、月曜日の相場によることを認めた(先物取引は委任によるものであるところ、死亡によって民法上原則として消滅する委任契約上の地位について相続税の対象となるのかという問題もあった)。[浅妻]私は、それが相続人にとって合理的な努力によって実現しうる価値であるからという理由で、妥当な判断であったと思う。しかし、相続時の時価によるという法律のせいで場合によっては相続人に酷なこともある。例えば、相続時に時価5億円だった株が相続人が売ろうとしたときには紙屑同然になっていた場合とか、相続時の時価1億円の家が相続の翌日に火事で消失してしまった場合とか。アメリカでは、相続後の相続財産の価値の急落について若干の救済規定がある。日本法の立法論としては、【相続時の時価】ではなく、【相続人が合理的な努力によって実現しうる価値】を相続税の課税標準にするべきであると私は思う。

東京地判平成24年3月2日判時2180号18頁請求認容(東京高判平成25年2月28日平成24(行コ)124号控訴棄却確定)(浅妻章如・判例時報2208号140頁は判旨反対)……株式保有割合が25%を超える大会社が財産評価基本通達189の(2)にいう株式保有特定会社に該当しないとされた事例。

6版§441.01マンション評価事件・最判令和4年4月19日民集76巻4号411頁⇒2.2.1.2.b平等取扱原則
COLUMN7-1 土地の評価(⇒6版§413.01農地売主/買主)

7.1.12. 特別措置

7.1.12.1. 小規模宅地の負担軽減措置(租特69条の4)ic

租特69条の4(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例) 個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(第三項において「被相続人等」という。)の事業(……)の用又は居住の用(……)に供されていた宅地等(……)……がある場合には、当該相続又は遺贈により財産を取得した者に係る全ての特例対象宅地等のうち、当該個人が取得をした特例対象宅地等又はその一部でこの項の規定の適用を受けるものとして政令で定めるところにより選択をしたもの(……)については、限度面積要件を満たす場合……に限り、相続税法第十一条の二に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に次の各号に掲げる小規模宅地等の区分に応じ当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とする。
 一 特定事業用宅地等である小規模宅地等、特定居住用宅地等である小規模宅地等及び特定同族会社事業用宅地等である小規模宅地等 百分の二十
 二 貸付事業用宅地等である小規模宅地等 百分の五十
2 前項に規定する限度面積要件は、当該相続又は遺贈により特例対象宅地等を取得した者に係る次の各号に掲げる選択特例対象宅地等の区分に応じ、当該各号に定める要件とする。
 一 特定事業用宅地等又は特定同族会社事業用宅地等(第三号イにおいて「特定事業用等宅地等」という。)である選択特例対象宅地等 当該選択特例対象宅地等の面積の合計が四百平方メートル以下であること。
 二 特定居住用宅地等である選択特例対象宅地等 当該選択特例対象宅地等の面積の合計が三百三十平方メートル以下であること。
 三 貸付事業用宅地等である選択特例対象宅地等 次のイ、ロ及びハの規定により計算した面積の合計が二百平方メートル以下であること。
  イ 特定事業用等宅地等である選択特例対象宅地等がある場合の当該選択特例対象宅地等の面積を合計した面積に四百分の二百を乗じて得た面積
  ロ 特定居住用宅地等である選択特例対象宅地等がある場合の当該選択特例対象宅地等の面積を合計した面積に三百三十分の二百を乗じて得た面積
  ハ 貸付事業用宅地等である選択特例対象宅地等の面積を合計した面積[3項以下略]

6版§414.02筥崎土地区画整理事業事件・福岡地判平成16年1月20日平成14(行ウ)26号一部棄却、一部却下・福岡高判平成16年11月26日平成16(行コ)7号棄却・最判平成19年1月23日平成17(行ヒ)91号訟月54巻8号1628頁百選7版83一部破棄差戻、一部棄却ib福岡高判平成19年7月19日平成19(行コ)6号訟月54巻8号1642頁一部変更、一部認容、一部棄却、確定
土地区画整理事業における仮換地の指定に伴い相続時において更地となっていたが、租特69条の3(当時。現69条の4)の小規模宅地特例は適用される。とした事例。通達も書き換えられた。措置法通達69の4-3。若干文理解釈から外れている嫌いはある。

2版§514.02立体駐車場事件東京高判平成9年5月22日平成8(行コ)80号行集48巻5=6号410頁棄却(原審東京地判平成8年6月21日平成7(行ウ)208号行集48巻5=6号424頁棄却)
事実・争点 XらがAから相続した本件宅地等に租特69条の4の特例の適用があるか。本件宅地が相続開始前から事業の用に供されていたか。
判旨
規定の趣旨 「相続人等の生活基盤の維持のために不可欠」「特に事業用宅地については、雇人、取引先等事業者以外の多くの者の社会的基盤にもなり、事業を継続させる必要性が高い…」
判断基準 「当該宅地等が現実に事業の用に供されていたか否かという観点から判断されるべき」

cf.東京地判平成28年7月22日平成27(行ウ)57号棄却(国税不服審判所平成26年8月8日裁決、東京高判平成29年1月26日棄却確定)(柴由花・ジュリスト1516号118頁)……全ての相続人による小規模宅地等特例の選択同意書が提出されてないことを理由に当該特例(租税特別措置法69条の4)の適用が認められないとした事例。

cf.横浜地判令和2年12月2日平成31(行ウ)10号棄却・東京高判令和3年9月8日令和3(行コ)1号棄却……小規模宅地特例「生計を一にしていた」要件非充足例。

7.1.12.2. 非上場株式等に係る納税猶予制度(租特70条の7以下)

遺産(生前贈与も)に課税することで事業承継の障害となるという懸念がある。cf.浅妻章如「CON(capital ownership neutrality:資本所有中立性)の応用:事業承継における信託等の活用に向けて」立教法学86号216-196頁は、推定相続人等が事業を継ぐ場合と新規参入者とを比較する。

平成21年改正で事業承継税制(一定の要件の下で課税を緩和)導入。→租特70条の7〜70条の7の4lr
7.1.12.2.a 贈与税の納税猶予制度
7.1.12.2.b 相続税の納税猶予制度
7.1.12.2.c 事業承継税制の特例制度(平30改正→租特70条の7の5〜70条の7の8)

7.2. 固定資産税mx

碓井光明『固定資産税評価精義』(信山社、2023)

7.2.1. 固定資産税の意義

最判平成15年6月26日民集57巻6号723頁⇒6版§441.01

7.2.2. 台帳課税主義

7.2.3. 課税物件(課税客体)

COLUMN7-2 償却資産に対する固定資産税

7.2.4. 納税義務者

7.2.4.1. 土地・家屋

大阪地判平成25年4月26日平成21(行ウ)25号一部却下、一部棄却、一部認容・大阪高判平成26年2月6日平成25(行コ)99号一部取消、最判平成27年7月17日平成26(行ヒ)190号判時2279号16頁破棄差戻az……登記簿の表題部の所有者欄に「大字西」などと記載されている土地につき、地方税法343条2項後段の類推適用により、当該土地の所在する地区の住民により組織されている自治会又は町会が当該土地の固定資産税の納税義務者に当たるとした原審の判断に違法があるとされた事例。
(1)「租税法律主義の原則に照らすと,租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではない」。「このことは,地方税法343条の規定の下における固定資産税の納税義務者の確定においても同様であり,一部の土地についてその納税義務者を特定し得ない特殊な事情があるためにその賦課徴収をすることができない場合が生じ得るとしても変わるものではない。」
(29「ある土地につき地方税法343条2項後段により固定資産税の納税義務者に該当するというためには,少なくとも,固定資産税の賦課期日において当該者が同項後段にいう「当該土地…を現に所有している者」であること,すなわち,上記賦課期日において当該土地の所有権が当該者に現に帰属していたことが必要である。そして,上記(1)において説示したところに照らせば,ある土地につき,固定資産税の賦課期日においてその所有権が当該者に現に帰属していたことを確定することなく,同項後段に基づいて当該者を固定資産税の納税義務者とすることはできない」。

最判昭和47年1月25日民集26巻1号1頁百選7版95……「固定資産税は、土地、家屋および償却資産の資産価値に着目して課せられる物税であり、その負担者は、当該固定資産の所有者であることを原則とする。ただ、地方税法は、課税上の技術的考慮から、土地については土地登記簿(昭和三五年法律第一四号附則一六条による改正前は土地台帳)または土地補充課税台帳に、家屋については建物登記簿(右改正前は家屋台帳)または家屋補充課税台帳に、一定の時点に、所有者として登記または登録されている者を所有者として、その者に課税する方式を採用しているのである。したがつて、真実は土地、家屋の所有者でない者が、右登記簿または台帳に所有者として登記または登録されているために、同税の納税義務者として課税され、これを納付した場合においては、右土地、家屋の真の所有者は、これにより同税の課税を免れたことになり、所有者として登記または登録されている者に対する関係においては、不当に、右納付税額に相当する利得をえたものというべきである。そして、この理は、同種の性格を有する都市計画税についても同様である。それゆえ、これと同旨の見解のもとに、原判示(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の限度において、不当利得を原因とする被上告人の本訴請求を認容した原審の判断は相当であつて、原判決に所論の違法はない。被上告人が、確定判決に基づく抹消登記義務を履行せず、実質上の所有権を行使していた等の事情が、右請求権の存否に影響を及ぼさないことも、また、原判決の判示するとおりである。」

最判平成26年9月25日民集68巻7号722頁ev……「土地又は家屋につき,賦課期日の時点において登記簿又は補充課税台帳に登記又は登録がされていない場合において,賦課決定処分時までに賦課期日現在の所有者として登記又は登録されている者は,当該賦課期日に係る年度における固定資産税の納税義務を負う」。

7.2.4.2. 償却資産

7.2.5. 非課税

7.2.5.1. 人的非課税

7.2.5.2. 物的非課税

地方税法348条(固定資産税の非課税の範囲) 市町村は、国並びに都道府県、市町村、特別区、これらの組合、財産区及び合併特例区に対しては、固定資産税を課することができない。
2 固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。ただし、固定資産を有料で借り受けた者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合には、当該固定資産の所有者に課することができる。
 一 国並びに都道府県、市町村、特別区、これらの組合及び財産区が公用又は公共の用に供する固定資産[後略]

地方自治法242条の2(住民訴訟) 普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第五項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第五項の規定による監査若しくは勧告を同条第六項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
 [一〜三 略]
 四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合には、当該賠償の命令をすることを求める請求

最判平成6年12月20日民集48巻8号1676頁百選7版96ho……東村山市が本件土地を50円/坪で所有者から借り受けてテニスコート等を設けた。通常の賃料額は500〜1373円/坪であり固定資産税額は100〜200円/坪だった。市税条例では市が「有料で」固定資産を借り受けている場合に所有者に固定資産税を課すとしていた。市長Y(被告、控訴人、上告人)は地方税法348条2項1号の固定資産に当たる前提で本件非課税措置をした。住民Xら(原告、被控訴人、被上告人)はYの固定資産税不賦課という怠りについて地方自治法242条の2第1項4号(平14改正前)に基づき住民訴訟を提起した。
判旨 地方税「法三四八条二項は、そのただし書において、固定資産を有料で借り受けた者がこれを同項各号所定の固定資産として使用する場合には、本文の規定にかかわらず、固定資産税を右固定資産の所有者に課することができるとしているところ、ここでいう『固定資産を有料で借り受けた』とは、通常の取引上固定資産の貸借の対価に相当する額に至らないとしても、その固定資産の使用に対する代償として金員が支払われているときには、これに当たるものというべきである。
 また、市税条例四〇条の六にいう『固定資産を有料で借り受けた』も、これと同趣旨であると解すべきである。
 ところで、同市が本件各土地の所有者らに対し、土地の借入れの見返りとして支払っている報償費の金額は、一律に三・三平方メートル当たり月額五〇円であり、これは、本件各土地を賃借した場合の賃料の一〇分の一以下であるけれども、面積に応じて報償費が支払われていること、前記の使用目的からみて本件各土地の所在場所等によってその利用価値に大きな差があるとは考えられないことからすると、報償費は土地使用の代償であって、同市が本件各土地を報償費を支払って借り受けたことは『固定資産を有料で借り受けた』場合に当たる」。
 「上告人が本件非課税措置を採ったことによる同市の損害と、右措置を採らなかった場合に必要とされる本件各土地の使用の対価の支払をすることを免れたという同市が得た前記の差引利益とは,対価関係があり、また、相当因果関係があるというべきであるから、両者は損益相殺の対象となるものというべきである。そうであれば、後者の額は前者の額を下回るものではないから、同市においては、結局、上告人が本件非課税措置を採ったことによる損害はなかったということになる。」

7.2.6. 課税標準

7.2.6.1. 土地・家屋

COLUMN7-3 土地の評価と固定資産税負担

7.2.6.2. 償却資産

7.2.6.3. 固定資産の評価および価格等の決定

最判平成25年7月12日民集67巻6号1255頁⇒6版§441.01

7.2.6.4. 情報開示制度

7.2.6.5. 審査の申出および不服申立て

最判令和元年7月16日民集73巻3号211頁⇒3.2.3.地方税に関する不服申立手続
最判平成22年6月3日民集64巻4号1010頁⇒2.3.2.2.b.例外的な租税確定手続

如水会事件最判令和2年3月24日民集74巻3号292頁平成30(受)388号kk(財賀理行・ジュリスト1554号84頁、神山弘行・ジュリスト1557号160頁)……本件家屋の建築当初に算出された新築部分の再建築費評点数には誤りがあり,これを基礎として順次算出されたその後の各基準年度の再建築費評点数にも誤りが生ずるなどしたため,本件家屋につき過大な固定資産税等の賦課決定がされ,これを納付したことにより損害が生じたと主張して,一般社団法人如水会は東京都に対し,国家賠償法1条1項に基づき,平成4〜20年度の固定資産税等の過納金及び弁護士費用相当額の損害賠償を請求した。
判旨 「家屋の評価に関して誤りが生ずると,……当該誤りがその年度における価格決定や賦課決定だけでなく翌基準年度における評価等にも影響を及ぼし,将来における過大な固定資産税等の賦課という結果を招くおそれが生ずるということはできるものの,その後の手続において課税庁の判断等により当該誤りが修正されるなどすれば,過大な固定資産税等が課されることはなく,所有者に損害は発生しないこととなる。また,当該誤りが生じた後に所有者に変更があれば,過大な固定資産税等を課されて損害を受ける者も変わることとなる。このように,当該誤りが生じた時点では,これを原因として実際に過大な固定資産税等が課されることとなるか否か,過大な固定資産税等を課されて損害を受ける者が誰であるかなどは,なお不確定であるといわざるを得ない。そして,当該誤りが修正されるなどすることなく手続が進められ,これに基づいてある年度の固定資産税等につき賦課決定及び納税通知書の交付がされて初めて,これを受けた者が当該賦課決定の定める税額につき納税義務を負うことが確定することとなる。
 そうすると,固定資産税等の賦課に関し,その税額が過大であることによる国家賠償責任が問われる場合において,これに係る違法行為及び損害は,所有者に具体的な納税義務を生じさせる賦課決定等を単位として,すなわち年度ごとにみるべきであり,家屋の評価に関する同一の誤りを原因として複数年度の固定資産税等が過大に課された場合であっても,これに係る損害賠償請求権は,年度ごとに発生するというべきである。そして,ある年度の固定資産税等の過納金に係る損害賠償請求権との関係では,被害者である所有者に対して当該年度の具体的な納税義務を生じさせる賦課決定の効力が及んだ時点,具体的には納税通知書の交付がされた時点をもって,除斥期間の起算点である『不法行為の時』とみることが相当である。以上のことは,所有者が,当該年度以前の基準年度等の価格決定やこれに基づいて課された固定資産税等に関し,評価の誤り等を理由に審査の申出及び取消訴訟又は国家賠償請求訴訟をもって争い得たとしても,左右されるものではない。
 したがって,家屋の評価の誤りに基づきある年度の固定資産税等の税額が過大に決定されたことによる損害賠償請求権の除斥期間は,当該年度の固定資産税等に係る賦課決定がされ所有者に納税通知書が交付された時から進行するものと解するのが相当である。」

7.2.7. 税率および免税点

8. 国際課税iy lt

8.1. 国際的二重課税はなぜ生じるか

8.1.1. 国家管轄権と課税管轄権

8.1.2. 国家管轄権と課税管轄権

8.1.2.1. 管轄権の及ぶ範囲

租税法律関係では国籍(ex.日本人か否か)よりどこに住んでいるかが重要。
居住者・非居住者(resident/non-resident)…自然人(個人)がどこに居住しているか。
内国法人・外国法人(domestic/foreign corporation)…法人の居住地がどこか。
(自然人・法人ひっくるめて、居住者・非居住者と呼ぶことがある)

居住課税管轄(residence tax jurisdiction):居住者に対し全世界所得課税(無制限納税義務
源泉課税管轄(source tax jurisdiction):非居住者に対し国内源泉所得課税(制限納税義務

国は自国に居住している者に対し所得源泉(source)がどこかを問わず課税してよい。jb
自国源泉(source)の所得ならそれを得ている者の居住がどこかを問わず課税してよい。
非居住者の国外源泉所得について、国と所得との間に課税を正当化する結びつき(nexus(国際私法では連結点と呼んだりするが租税法では定訳がない。ネクサスと呼んでいる), connection)がない。
国籍や参政権は課税根拠とされてない。「代表なくして課税なし」は貫徹されてない。
(cf.居住課税管轄=対人管轄、源泉課税管轄=対物管轄と説明する書も巷にはあるが、国際法からすればどちらも対物管轄であるはずである。対人管轄は国籍を基準とする。)

8.1.2.2. 例外としての主権免除

主権免除の相対免除主義(制限免除主義):東京三洋貿易株式会社ら対パキスタン・イスラム共和国事件・最判平成18年7月21日民集60巻6号2542頁iz……「今日においては,外国国家は主権的行為について法廷地国の民事裁判権に服することを免除される旨の国際慣習法の存在については,これを引き続き肯認することができるものの(最高裁平成11年(オ)第887号,同年(受)第741号同14年4月12日第二小法廷判決・民集56巻4号729頁参照),外国国家は私法的ないし業務管理的な行為についても法廷地国の民事裁判権から免除される旨の国際慣習法はもはや存在しない」。

東京地判平成16年11月30日訟月51巻9号2512頁……アメリカ大使館職員の所得税についてアメリカは源泉徴収義務を負わない。

東京地判令和5年3月16日令和2(行ウ)508号(棄却)(黒神直純・ジュリスト1597号重判令05年267頁)……国際司法裁判所の裁判官であった者が国際司法裁判所退職後に受けていた恩給は非課税所得ではなく雑所得である。

8.1.3. 国際的二重課税とその排除

8.1.3.1. 国際的二重課税とは何か

8.1.3.2. 国際的二重課税を排除するための方法――国内法・租税条約

国際取引阻害要因を除外することの意義――比較優位(comparative advantage)
アインシュタインは天才的発想のみならずタイピングも早かったらしい。自分でタイプすべきか?そんな馬鹿な。秘書がアインシュタインよりタイピングが下手でもアインシュタインがタイピングに時間を使うのはもったいない。 → もったいないの意味は? → 機会費用の方が高い。

例:A国農地1haで麦を10、米を20生産できる。B国農地1haで麦を6、米を18生産できる。
A国・B国それぞれに農地は100haずつある。A国民は米1000を、B国民は麦300を確保したい。
麦50:米50 鎖国 A麦70:米30 B麦25:米75 麦150米400交換
A国 麦500米1000 麦700米600 麦550米1000
B国 麦300米900 麦150米1350 麦300米950
米の生産能力だけに着目するとAの方が生産能力が高い(絶対優位)。Aで米を生産すべき?
 A国で米は麦の倍生産できる。B国で米は麦の倍生産できる。
 A国で米は麦の1/2の農地を要する。B国で米は麦の1/3の農地を要する。
 A国は麦生産について、B国は米生産について、比較優位にある。
比較優位にある財の生産に特化し両国間で貿易した方が両国の経済厚生が高まる。
cf.国家間のみならず人と人との比較においても必ず比較優位はある。
R国      S国
X社←―――――源泉
 ↑      ↓
源泉      Y社
 例:R国(税率40%)とS国(30%)。
 X社のS国源泉所得100について二重課税完全放置100-30-40=30
 X社がR国源泉所得100を稼ぐ100-40=60
 Y社がS国源泉所得100を稼ぐ100-30=70

二重課税は可哀相だから悪いのではない。経済活動を歪めることが悪い。
 X社がS国源泉所得を得ることは、R国源泉所得を得ることより、不利である。
 X社がS国源泉所得を得ることは、Y社がS国源泉所得を得ることより、不利である。
→国際的二重課税を放置すると国際取引が萎縮する。

二つの中立性概念と二通りの二重課税救済方法
外国税額控除(credit method)……………100−30−(40−30)=60
国際的二重課税は資本輸出中立性(CEN: capital export neutrality: R国のX社から見て自国に投資するか外国に投資するかについての課税の中立性)を阻害する。外国税額控除ならば資本輸出中立性を害さない。(主に伝統的に日米で採用)
外国税額控除下でX社がS国源泉所得を得ることと、R国源泉所得を得ることとが、中立的に扱われる。
 
国外所得免税(exemption method)………100−30−0=70
国際的二重課税は資本輸入中立性(CIN: capital import neutrality: S国源泉の事業の場所から見て自国から投資してもらうか外国から投資してもらうかについての課税の中立性)を阻害する。国外所得免税ならば資本輸出中立性を害さない。(主に欧州で採用)
国外所得免税下でX社がS国源泉所得を得ることと、Y社がS国源泉所得を得ることとが、中立的に扱われる。

8.1.3.3. 源泉地国課税の考え方と内国民待遇

PE(permanent establishment:恒久的施設)……支店・工場・代理人等
PEなければ事業所得課税なし
 ex.アメリカ法人が日本に支店等(例えば販売拠点)を設けて事業所得を得たら日本は課税できるが、アメリカ法人と日本の顧客との間の直接取引(例えばネットでの音楽ダウンロード販売など)による事業所得に対して日本は課税できない。 (芸能人や運動選手等については例外規定がある)
源泉地国はPEに帰属する利得のみ課税できる。(販売拠点のみか製造工場・販売拠点両方を設けて進出してきたかでPEに帰属する利得は変わってくるだろう)←内国民待遇(national treatment)…非居住者・外国法人だからといってめちゃくちゃに課税してよいわけではなく、居住者・内国法人と比べて差別的に重く課税することは許されない。
代理人もPEに該当することがある(代理人PE)。独立代理人は代理人PEに当たらないことが多い。

8.1.3.4. 国際的な投資・通商を促進するための道具としての税法・条約

利子・配当などの資本所得(投資所得)についてはPEなしでも源泉地国課税が認められる。
特許権・著作権等、無形資産の使用料については源泉地国課税が租税条約ごとによって認められる場合と認められない場合がある。(日米租税条約と日独租税条約との比較)
ex.日本の銀行がアメリカにPEを設けずアメリカ法人に貸付をして利子を稼得する場合。
源泉徴収課税…所得稼得者は日本の銀行であるが、金銭債務者たるアメリカ法人が代わりにアメリカの国庫に納税する。税率が10%なら、利息100でも実際の支払は90。

 日本       アメリカ   |  日本       アメリカ
     100         |      90    ↑10
四菱銀行 ←――― シティパンク | 四菱銀行 ←――― シティパンク

8.1.3.5. 国際課税における条約の役割

「国際租税法」という法はない。課税を律するのは、各国の国内法令と(締結されていれば)租税条約。
国際公法(一般国際法)による課税の限界という問題はありうるが、一般には各国が抑制的に課税権を行使しているので、国際公法によって課税が禁じられる場面が問題となることは滅多にないとされる。lu
或る国が課税権を暴走させても、食い止める術は事実上ない。(その弊害は今迄のところ顕著でない?)
日本では租税条約が国内法に優先する(憲法98条2項)。しかし後法優先の国も珍しくない。

租税条約は殆どが二国間(bilateral)で締結されている(多国間協定は少なかった……北欧と南米)。
租税条約の意義は国際的二重課税防止 → 経済交流活発化。源泉地国の課税権抑制し、それでもなお生じてしまう二重課税を救済する義務を居住地国に課す。lv
近年は租税条約の意義として国際的脱税・租税回避の防止も強調される。租税条約に国家が違反した場合の国際的な制裁は極めて弱い(国内では裁判所の態度次第…日本は比較的真っ当?所謂途上国では?)。
条約違反国の相手国は条約を破棄できるが、経済交流活性化のために条約を結んだのに破棄するのでは意味がない。同一の租税条約の解釈が二国の裁判所の間で食い違う可能性もある。
結局国家の課税権を縛るものは、法的に考えると(国内の法治主義はともかく)国際的にはあまりない。

OECDモデル租税条約2017年12月18日版)(OECD, Model Tax Convention on Income and on Capital: Condensed Version 2017)が国際標準。
(cf.UNモデル租税条約(2017年版)(United Nations Model Double Taxation Convention between Developed and Developing Countries)は国際標準ではなかった。近年存在感を増しつつある。lw)
現実に締結される二国間租税条約のモデル・雛型にすぎない、というのが法的位置づけ。
実際にはOECDモデル租税条約が国際標準の地位を獲得しているので、実務上極めて重要。殆どの租税条約は、OECDモデル租税条約を下敷きとして、個別の事情に合わせた微調整を行なう。jc

通商分野におけるWTO(World Trade Organization)のような多国間協定(multilateral)は長らくなかった。
しかし2012年頃からBEPS対策の議論が始まり、2016年に多国間条約の条文が完成し、日本は2017年6月に「税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間条約」(BEPS防止措置実施条約)に署名した。(BEPS(ベップスと発音する): Base Erosion & Profit Shifting)(国際的にはMLI (Multilateral Instrument)と呼ばれる)
但し、既存の二国間租税条約を多国間条約で上書きするという構成であり、既存の二国間租税条約の両締約国が多国間条約を批准しなければ、多国間条約ではなく既存の二国間租税条約の効力が活き続ける。多国間条約について各国は「ここは賛成、あそこは反対」というように項目毎に賛否を選択できる。BEPS防止のための多国間条約であるとはいえ、アメリカはあまり賛成してない(元々、BEPS対策は、アメリカ系多国籍企業の租税負担軽減が目に余るということで始まったので、アメリカが国策としてBEPS防止に消極的であるのは当たり前ではある)ので、日米租税条約など、アメリカが締結している既存の二国間租税条約に関しては、劇的に変化したわけではない。

社会保障賦課金(年金保険料、健康保険料、社会保障税等)が租税条約の適用対象とならないが、実務上重要な問題となっている。二重賦課の問題だけでなく、賦課金と給付との非対応も重大問題(ドイツで働いた時に年金掛金が賦課されても日本で老後を過ごすときに日本の年金が受給できないのでは困る)。
社会保障協定(厚労省の目的……「二重加入」の防止。「保険期間の通算」

8.2. 非居住者・外国法人に対する課税

8.2.1. 非居住者・外国法人の定義

8.2.1.1. 二つの課税方式

8.2.1.1.a なぜ二つの課税方式が存在するのか
8.2.1.1.b 以下の叙述の順序

8.2.1.2. 居住者・内国法人と非居住者・外国法人

8.2.1.2.a. 「国内」の意義
オデコ大陸棚事件東京地判昭和57年4月22日行集33巻4号838頁・東京高判昭和59年3月14日行集35巻3号231頁百選7版70ja……大陸棚が日本の法人税法2条1号の「国内」(「この法律の施行地」)に含まれるとする慣習国際法が成立しているとした。なお以前は日本は中国を警戒して大陸棚は国内ではないという立場を採っていた。
8.2.1.2.b. 「住所」の意義(所税2条1項3号〜5号、5条、7条)(⇒3.1.3.4. 6版§142.01武富士)
所得税法2条(定義)
 三 居住者 国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいう。
 四 非永住者jd 居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去十年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が五年以下である個人をいう。
 五 非居住者 居住者以外の個人をいう。
所税7条(課税所得の範囲) 所得税は、次の各号に掲げる者の区分に応じ当該各号に定める所得について課する。
 一 非永住者以外の居住者 全ての所得
 二 非永住者 第九十五条第一項(外国税額控除)に規定する国外源泉所得……以外の所得及び国外源泉所得で国内において支払われ、又は国外から送金されたもの
 三 非居住者 第百六十四条第一項各号(非居住者に対する課税の方法)に掲げる非居住者の区分に応じそれぞれ同項各号及び同条第二項各号に定める国内源泉所得
 四 内国法人 国内において支払われる第百七十四条各号(内国法人に係る所得税の課税標準)に掲げる利子等、配当等、給付補填金、利息、利益、差益、利益の分配及び賞金
 五 外国法人 第百六十一条第一項(国内源泉所得)に規定する国内源泉所得のうち同項第四号から第十一号まで及び第十三号から第十六号までに掲げるもの[後略]

朝日新聞2006年7月26日「ハリ・ポタ翻訳の松岡さん、35億円申告漏れの指摘」
読売新聞2007年6月12日「36億申告漏れ指摘のハリポタ翻訳者、日本課税で当局合意」

 ハリー・ポッターの翻訳者・松岡佑子氏について、日本居住かスイス居住か、の争い。翻訳についての著作権使用料に対し、日本は源泉徴収課税を行なうことができるが、日本居住であると最終的に通常の所得税率が適用される(所得税率と源泉徴収税率の差の税金を申告納付する必要がある)一方、スイス居住であるとすると日本の課税は源泉徴収課税だけですまされ後はスイスでの所得税の適用となる。
 後者の記事によれば、日本・スイス課税当局の相互協議で居住について合意に達したと報道されている。日本は松岡氏に対し約7億円の追徴税額(本来の所得税率を適用した場合の税額と源泉徴収税額との差額、及び無申告加算税)を課す。
 余談:松岡氏が最初にスイス居住だと主張して日本に申告しないのではなく、事前確認制度などを利用していれば、無申告加算税(9000万円程度?と推測)は課されなくても済んだかもしれない。松岡氏が税理士・弁護士の助言で日本への申告をしなかったのだとすると、税理士・弁護士に損害賠償を請求できるか?

東京地判昭和56年3月23日昭和49(行ウ)101号判時1004号41頁・東京高判昭和59年9月25日昭和56(行コ)24号訟月31巻4号901頁……(原告は61名)アメリカ軍(MSTS:Military Sea Transportation Service)に雇用された日本人が居住者に当たるとされた事例。米軍のLST乗組員としてベトナム海域等で軍需物資の輸送に従事し危険に遭遇した日本人船員に対する日本国政府の安全保護義務違反の主張が排斥された事例。米軍から受けた危険て圧倒は非課税損害賠償金に当たらないとされた事例。

大竹貿易株式会社代表取締役居住地判定事件・神戸地判昭和60年12月2日昭和59(行ウ)6号判タ614号58頁・大阪高判昭和61年9月25日昭和60(行コ)59号訟月33巻号1297頁……原告の国内(国外)滞在日数が、昭和52年246(119)日、53年207(158)日、54年209(156)日、55年206(160)日、56年189(176)日であった事例。一審判旨……「所得税法2条1項3号は,『居住者』とは,国内に住所を有し,又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいうと規定している。ところで,同法が,民法におけるのと同一の用語を使用している場合に,所得税法が特に明文をもってその趣旨から民法と異なる意義をもって使用していると解すべき特段の事由がある場合を除き,民法上使用されているのと同一の意義を有する概念として使用するものと解するのが相当である。したがって,右の所得税法の規定における『住所』の意義についても,右と同様であって,所得税法の明文またはその解釈上,民法21条の定める住所の意義,即ち各人の生活の本拠と異る意義に解すべき根拠をみいだし難いから,所得税法の解釈においても,住所とは各人の生活の本拠をいうものといわなければならない。原告は,二重課税を回避し非居住者の申告の困難を救うためには,当該個人が継続して1年以上居住することを所得税法上の住所の要件として不可欠のものとしなければならないと主張するが,たやすく首肯することができない。」
同じ原告……神戸地判平成2年5月15日税資176号785頁昭和62(行ウ)11号(棄却)・大阪高判平成3年9月25日税資186号635頁平成2(行コ)33号(一部認容、一部棄却・控訴人上告)・最判平成5年2月18日税資194号416頁(棄却)

大阪地判平成11年12月30日税資249号848頁(棄却)・大阪高判平成13年7月31日税資251号(棄却・確定)……「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約」3条3項により居住者とされる旨の納税者の主張が、同項は、双方居住者に関する調整規定であり、国内法(所得税法)上非居住者となる者が同条約の規定により居住者となることはないとして排斥された事例。

神戸地判平成14年10月7日平成13(行ウ)9号税資252号順号9208棄却・確定)……日本の一戸建て住宅に家財道具一切を残したまま渡米し、米国滞在中も日本への航空券を常に所持していたこと、米国の永住権も取得していないことなどから、所得税法2条1項3号に規定する「居住者」に該当するとの納税者の主張が、米国内での居住状況、日本での滞在日数などから客観的にみて、納税者の日本における滞在は里帰り目的等の一時的なものにすぎず、生活の本拠は米国内の住所であったと認められることから「非居住者」に該当するとされた事例。

東京地判平成17年1月28日判タ1204号171頁平成15(行ウ)518号(一部認容、一部棄却)・東京高判平成平成17年9月21日税資255号順号10139平成17(行コ)102号(棄却)……相続税法1条の2の「住所」について。納税者が香港に赴いた主目的が、税務対策上香港での居住者という外形を作出することにあり、本件贈与契約が締結された平成9年12月18日当時は、ホテルに10泊して、短期契約のアパートに移ろうとしていた期間であって、居住の安定性にも乏しいこと、納税者は、翌月及び翌々月にも日本に帰国したうえ、平成10年3月27日以降同年7月16日までは、大部分の期間日本に滞在していたこと、納税者の香港での当初の勤務形態は語学研修の色彩が強いこと等を総合勘案すると、納税者は、香港に赴任すれば、その住所が国外にあり、相続税法上の非居住者に該当するという外形を作出することができるものと企図して、平成9年12月9日に日本を出国して香港に入国したにすぎず、株式の贈与を受けた同月18日当時、納税者の生活の本拠が香港に移転しているとまではいえず、依然として日本国内のマンションに存在していたものと認められるとされた事例。

東京地判平成21年1月27日平成20(行ウ)419号等税資259号順号11126……遠洋まぐろ漁船の乗組員の住民登録地での課税は適法。類例:仙台地判平成21年4月16日平成20(行ウ)5号税資259号順号11180・仙台地判平成22年7月6日税資260号順号11471

ユニマット事件・東京地判平成19年9月14日平成18(行ウ)205号判タ1277号173頁認容・東京高判平成20年2月28日平成19(行コ)342号判タ1278号163頁控訴棄却確定……株式譲渡所得に関し、シンガポールに住所ありと認定。

東京地判平成25年5月30日判時2208号6頁平成21(行ウ)310号一部認容、一部棄却、一部却下(川田剛・ジュリスト1482号112頁)……アメリカに昭和57年から20年住みアメリカで永住権を取得した者で、川口市に住所を有する居住者が、所得税法2条1項4号の「非永住者」に当たるとされ、永住者であることを前提とした課税処分は違法とされた事例。(地方税に関して1月1日の住民登録を避けるために日本から出て行っていたという実態があり、地方税の回避がけしからんということで控訴していたらしいが、取り下げられて確定した旨、租税判例研究会にて川田剛が補足した。)

東京地判令和元年5月30日平成28(行ウ)434号金判1574号16頁(認容)・東京高判令和元年11月27日令和元(行コ)186号金判1587号14頁棄却。確定(西山由美・ジュリスト1554号118-121頁)……米星日3国滞在日数均衡事例。結論として日本に住所なし。jg

東京地判令和5年4月12日令和元(行ウ)400号一部認容、一部棄却(玉國文敏2024年11月15日租税判例研究会報告)……原告会社(日本法人)の元代表者が平成25年5月30日にシンガポールへ転出する住民登録に関する届出を同月24日にした。税務署長は、原告元代表者が平成25年〜平成27年の間も日本居住者であるという前提で課税処分をした。

 判旨 「所得税法2条1項3号は、「居住者」とは、「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人」をいう旨を規定しているところ、ここにいう「住所」とは、反対の解釈をすべき特段の事由がない以上、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の「住所」であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当である([所謂茨城大学星嶺寮事件・]最高裁昭和29年(オ)第412号同年10月20日大法廷判決・民集8巻10号1907頁、最高裁昭和32年(オ)第552号同年9月13日第二小法廷判決・裁判集民事27号801頁、最高裁昭和35年(オ)第84号同年3月22日第三小法廷判決・民集14巻4号551頁、[所謂武富士事件・]最高裁平成20年(行ヒ)第139号同23年2月18日第二小法廷判決・裁判集民事236号71頁等参照)。そして、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かは、@その者の所在(滞在日数及び住居)、A職業、B生計を一にする配偶者その他の親族の居所、C資産の所在等を総合的に考慮して判断すべきものといえる。」
 「平成25年及び平成26年においては、原告元代表者の生活の本拠たる実体が国内のγ物件▲△△△△号室にあったと認められるが、平成27年においては、その生活の本拠たる実体が同室にあったとまでは認められない」。
 [平成25年〜26年について]
 「原告元代表者が「住所」をシンガポールに移転する意思を有していたことは明らかといえる。[改行] もっとも、一定の場所がある者の「住所」であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものであるから、そのような意思のみをもって、直ちにこれを判断することはできない」。
 「滞在日数は、別紙6の表のとおりであり(平成25年においては、国内が141日、シンガポールが56日、平成26年においては、国内が253日、シンガポールが89日)[略]」
 「原告元代表者は、平成25年及び平成26年において、シンガポールに滞在中、専らK社のワイン事業に従事しており、その業務の内容等に鑑みても、自らシンガポールに滞在する必要性があったものと考えられるが、他方で、平成25年及び平成26年における国別滞在日数等をみると、別紙6の表のとおり、1か月以上も連続してシンガポールへ渡航していない期間も間々あったことなどが認められるから、その頻度等からして、原告元代表者の生活の本拠たる実体を判断する上で決定的な事情にはならない」。
 「原告元代表者には、生計を一にする配偶者その他の親族がおらず、本件前妻については、長年、別居状態であったし、本件長女についても、交流等はなかったことが認められる」。
 [平成27年について]
 「原告元代表者は、K社のワイン事業が軌道に乗り始め、シンガポールに滞在する必要性が高まったこともあり、平成27年においては、別紙6の表のとおり、シンガポールへ渡航する頻度が増加し、毎月シンガポールに滞在するようになったし、それまでシンガポールで使用してきたオーチャード物件では、手狭になったことから、3階建てでワイン倉庫を併設したコーヴウェイ物件を賃借し、そこで生活していたことなども認められる。また、原告元代表者の平成27年における滞在日数についてみると、別紙6の表のとおりであり(国内が177日、シンガポールが163日)、国内での滞在日数は、平成25年及び平成26年における滞在日数とは異なり、年間の半分に満たないし、シンガポールでの滞在日数と比較しても、有意な差があるということはできない。そして、原告元代表者は、平成27年においても、γ物件▲△△△△号室を拠点としつつ他の場所を転々としており、国内に滞在中、同室に滞在しないことが多かった一方で、シンガポールに滞在中は、シンガポール物件以外の場所を転々としていたとする事情は認められないところ、前記ア(キ)で述べたように、ある特定の場所でのみ滞在する事案と、当該特定の場所を拠点としつつも他の場所を転々として当該特定の場所で滞在しないことが多い事案とを比較した場合、その者の生活との関係やつながりの程度等の点で、おのずから差異があるものと考えられるし、その他にも、本件では、同室には、継続的な生活を送るための住居といえるだけの実体が最低限あったにとどまり、オーダーメイドのものも含め家具や衣服等が十分に備えられていたシンガポール物件と比較すると、それらが充実していたとはいえないことなども指摘することができる。」
 「職業についてみても、原告元代表者は、シンガポールに滞在中、専らK社のワイン事業に従事しており、その業務の内容等に鑑みても、自らシンガポールに滞在する必要性があったところ、以上で述べたように、平成27年においては、K社のワイン事業が軌道に乗って、その必要性が高まったこともあり、シンガポールへ渡航する頻度が増加し、毎月シンガポールに滞在するようになった」。
 「平成27年においては、原告元代表者の生活の本拠たる実体が国内のγ物件▲△△△△号室にあったことを積極的に基礎付けることはできないし、本件の事実関係の下では、むしろ、その生活の本拠たる実体はシンガポール物件にあった」。

KPT General Trading LLC事件・東京地判令和5年5月30日令和3(行ウ)334号令和4(行ウ)378号(田中良・ジュリスト1602号10-11頁)
 事実 原告は、ドバイ内の住所を本店所在地とし(以下、同本店を「ドバイ本店」という。)、輸出入に関する貿易業務及びこれに付帯関連する一切の事業を目的とするLLCである。連邦国家であるUAEにおいては、法人(LLCを含む。以下同じ。)に対する連邦レベルの課税制度が設けられておらず、各首長国が独自の課税制度を有している。また、ドバイにおいては、ドバイ所得税命令が、全ての課税対象者の課税所得に対して所定の税率による所得税を課す旨規定しているが、現時点において、実際に租税を課されるのは、石油会社、ガス会社、石油化学会社又は外国銀行の支店等に限られている。そのため、原告は、UAE及びドバイにおいて租税を課されていない。
 豊島税務署長は、令和元年7月29日付けで、東京国税局の職員の調査に基づき、原告の平成27年12月事業年度から平成29年12月事業年度までの法人税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分、並びに、平成27年12月課税事業年度から平成29年12月課税事業年度までの地方法人税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分をし、原告に対しその旨通知した。

 争点1:原告に本件条約(所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアラブ首長国連邦との間の条約)の適用があるか(原告が本件条約4条1に規定する「一方の締約国の居住者」に当たるか)
 争点2:原告が本件各事業年度において納付すべき法人税の課税標準となる国内源泉所得の有無及びその範囲
 争点3:本件各処分に理由付記の不備の違法があるか

 判旨 争点1「本件条約4条1は、「一方の締約国の居住者」について、居住者基準により当該一方の締約国において課税を受けるべきものとされる者をいう旨規定している。
 しかし、前記(2)アのとおり、連邦国家としてのUAEは、法人に対する課税制度を設けていない。
 また、前記(2)イのとおり、ドバイ所得税命令の規定によれば、ドバイに所在する恒久的施設を通じてドバイにおいて事業を行う法人は、その設立地、本店又は主たる事務所の所在地等を問わず、等しく「課税対象者」に該当し、かつ、ドバイにおける取引又は事業に由来する所得に限って課税対象とする旨規定されているのであるから、ドバイ所得税命令に基づき、「住所、居所、本店又は主たる事務所の所在地、事業の管理の場所その他これらに類する基準」(居住者基準)により課税を受けるべきものとされる者はない。
 そうすると、以上のようなUAE及びドバイの税制の下においては、ドバイ法人は、ドバイの「居住者」、すなわち本件条約4条1の規定する「一方の締約国の居住者」には当たらない(なお、本件議定書2項は、UAE側6機関が「一方の締約国の居住者」に含まれる旨規定しているところ、これは、上記のとおり、UAE及びドバイの税制の下において、UAE又はドバイの「居住者」とされる者はない中で、日本とUAEが、UAEの法人等で本件条約の特典を享受できる者を特に合意により定めたものと解される。)。」
8.2.1.2.c. そもそも「法人」といえるか(⇒4.2.5. Delaware LPS)
8.2.1.2.d. 内国法人と外国法人の区別(法税2条3号・4号、5条、9条
法人税法2条(定義)
 三 内国法人 国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう。
 四 外国法人 内国法人以外の法人をいう。
法税5条(内国法人の課税所得の範囲)  内国法人に対しては、各事業年度……の所得について各事業年度の所得に対する法人税を、清算所得について清算所得に対する法人税を課する。
法税9条(外国法人の課税所得の範囲) 外国法人に対しては、各事業年度の所得のうち第141条各号(外国法人に係る法人税の課税標準)に掲げる外国法人の区分に応じ当該各号に掲げる国内源泉所得に係る所得について、各事業年度の所得に対する法人税を課する。 [2項略]

注意! A国法人がB国に子会社を設けると、それはB国居住者である。
    A国法人がB国に支店を設けると、それはA国居住者の一部である。

日米欧で法人の居住地判定基準が異なる。
本店所在地基準……日本から見て或る法人の本店が日本にあるか否かで区別。
設立準拠法基準……アメリカから見て或る法人がアメリカの法律(なお、アメリカの会社法は州法)に準拠して設立されたのか否かで区別。
管理支配地基準……イギリスから見て或る法人の中心的な管理支配がイギリスで行われているか(ex. De Beers v. Howe [1906] A.C. 455, 5 TC 198)。主に欧州で採用されている基準。
8.2.1.2.e. 複数の国で居住者・内国法人と扱われる問題
8.2.1.2.f. 納税義務者の地位の変更
国外転出時課税制度(所得税法60条の2以下)創設(⇒4.2.3.5.)

8.2.1.3. 租税条約における納税義務者の分類

8.2.1.3.a. 租税条約上の「居住者」(OECDモデル4条1項が国内法を参照。二重居住の場合、2項及び3項tie breaker rule)
8.2.1.3.b. 多様なエンティティの扱い(Hybrid Mismatch Arrangement)(BEPS Action 2)

8.2.2. 申告・納付の対象となる所得の範囲とその計算

8.2.2.1. 「恒久的施設」とは何か

8.2.2.1.a. 「恒久的施設」概念の起源(OECDモデル5条、所税2条1項8号の4、所税令1条の2法税2条12号の19、法税令4条の4)
法税2条十二の十九 恒久的施設 次に掲げるものをいう。ただし、我が国が締結した所得に対する租税に関する二重課税の回避又は脱税の防止のための条約において次に掲げるものと異なる定めがある場合には、その条約の適用を受ける外国法人については、その条約において恒久的施設と定められたもの(国内にあるものに限る。)とする。
 イ 外国法人の国内にある支店、工場その他事業を行う一定の場所で政令で定めるもの
 ロ 外国法人の国内にある建設若しくは据付けの工事又はこれらの指揮監督の役務の提供を行う場所その他これに準ずるものとして政令で定めるもの
 ハ 外国法人が国内に置く自己のために契約を締結する権限のある者その他これに準ずる者で政令で定めるもの

法税令4条の4(恒久的施設の範囲) 法第二条第十二号の十九イ(定義)に規定する政令で定める場所は、国内にある次に掲げる場所とする。
 一 事業の管理を行う場所、支店、事務所、工場又は作業場
 二 鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場その他の天然資源を採取する場所
 三 その他事業を行う一定の場所[fixed place of business]
2 法第二条第十二号の十九ロに規定する政令で定めるものは、外国法人の国内にある長期建設工事現場等(……(……一年を超えて行われるもの……)……)とする。[3項略:分割対策]
4 外国法人の国内における次の各号に掲げる活動の区分に応じ当該各号に定める場所……は、第一項に規定する政令で定める場所及び第二項に規定する政令で定めるものに含まれないものとする。ただし、当該各号に掲げる活動……が、当該外国法人の事業の遂行にとつて準備的又は補助的[preparatory or auxiliaryjn]な性格のものである場合に限るものとする。
 一 当該外国法人に属する物品又は商品の保管、展示又は引渡し[storage, display and delivery]のためにのみ施設を使用すること 当該施設
 二 当該外国法人に属する物品又は商品の在庫を保管、展示又は引渡しのためにのみ保有すること 当該保有することのみを行う場所
 三 当該外国法人に属する物品又は商品の在庫を事業を行う他の者による加工のためにのみ保有すること 当該保有することのみを行う場所
 四 その事業のために物品若しくは商品を購入し、又は情報を収集することのみを目的として、第一項各号に掲げる場所を保有すること 当該場所
 五 その事業のために前各号に掲げる活動以外の活動を行うことのみを目的として、第一項各号に掲げる場所を保有すること 当該場所
 六 第一号から第四号までに掲げる活動及び当該活動以外の活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的として、第一項各号に掲げる場所を保有すること 当該場所[5項略:細分化対策][6項略]
7 法第二条第十二号の十九ハに規定する政令で定める者は、国内において外国法人に代わつて[on behalf of]、その事業に関し、反復して次に掲げる契約を締結し、又は当該外国法人によつて重要な修正が行われることなく日常的に締結される次に掲げる契約の締結のために反復して主要な役割を果たす者(当該者の国内における当該外国法人に代わつて行う活動……が、当該外国法人の事業の遂行にとつて準備的又は補助的な性格のもの……のみである場合における当該者を除く。次項において「契約締結代理人等」という。)とする。
 一 当該外国法人の名において締結される契約
 二 当該外国法人が所有し、又は使用の権利を有する財産について、所有権を移転し、又は使用の権利を与えるための契約
 三 当該外国法人による役務の提供のための契約
8 国内において外国法人に代わつて行動する者が、その事業に係る業務を、当該外国法人に対し独立[independent。反対語は従属dependent jm]して行い、かつ、通常の方法[in the ordinary course of their business]により行う場合には、当該者は、契約締結代理人等に含まれないものとする。ただし、当該者が、専ら又は主として一又は二以上の自己と特殊の関係にある者に代わつて行動する場合は、この限りでない。[9項略]
8.2.2.1.b. 支店PE(所税2条1項8号の4イ、法税2条12号の19イ
日本ガイダント事件・東京高判平成19年6月28日判時1985号23頁jl(5.1.1. 8.2.3.2.k.)

  日本         オランダ     アメリカ
┏━━━━━━━┓利益分配┏━━┓ ?? ┏━━━━━┓
┃日本ガイダント┃―――→┃原告┃………→┃ガイダント┃
┗━━━━━━━┛    ┗━━┛    ┗━━━━━┛
  営業者?      匿名組合員?



争点 (1)日本ガイダント→(米)ガイダントの利益分配であり、日蘭でなく日米関係ではないか?(条約漁り8.2.3.3.2.)
(2)日本ガイダントと原告は匿名組合契約と称するが実態は任意組合契約ではないか?
(3)匿名組合契約に基づく利益分配の所得区分は何か?(租税条約のどの条文か)
(4)原告は日本にPEを有すると認定されるか?幾らの利益がPEに帰属するのか?

背景事情 匿名組合契約に基づく営業者から匿名組合員への利益分配は、OECDモデル21条(日蘭租税条約23条)にいうその他所得(⇒8.2.3.3.)に当たるので、源泉地国としての日本は課税することができない、という実務があったようである。TKスキームとして有名となったとも言われる。
 他方、旧日米租税条約(2003年改訂前)にはその他所得条項がなかった。 → 源泉地国として日本は匿名組合員が受け取る利益分配に対し課税権を有する。(新日米租税条約でも日本の課税権を肯認)(後に新日蘭租税条約も)

 他方、諸外国では匿名組合契約を含む利益共有関係において非居住者が源泉地国内にPEを有すると認定される(日本でも任意組合ならPE認定)のが通例とされている。本件に関しても、原告はオランダ課税当局から「日本でPE課税を受けるのでオランダでは課税しない」という取扱いを受けていたとされる。

裁判所の判断
(1)原告はアメリカ法人のダミーではなく、オランダ居住者なので、日蘭租税条約の便益を享受する。
(2)匿名組合契約と称していることに偽りはない。任意組合契約でもないし、課税当局が主張するような非典型匿名組合なるものでもない。(東京高裁で最も激しく争われたようである)
(3)所得区分はその他所得である。(東京地裁の判断を東京高裁がそのまま是認)
((4)PEの存否について、その他所得なので、争う意味がない)

検討 (1)(2)について……租税条約の問題の前にまず契約解釈の問題がある。
 契約書の記載が出発点だが、それが全てではない。しかし課税当局が契約書の記載と異なる契約解釈を認定してもらうことは容易ではない。仮装行為ではないと認定された(⇒3.1.3.2. 6版§143.02相互売買etc)。
 (3)(4)について……匿名組合契約の場合、【その他所得とされる】【PEが認定されない】という世界的に見てかなり異例な判断が日本ではなされることが裁判によって明らかとなった。
 その他所得とされているので、PE認定の基準は不明のままである。

 その他、日本もオランダも課税しないという二重非課税の帰結となることにつき、租税条約の目的は二重課税防止だけでなく二重非課税防止でもあるのではないか、という異論が考えられる。が、裁判所は、諸外国の税務取扱や二重非課税の問題については極めて素っ気なく切り捨てている。
 ([浅妻]オランダ含め欧州の常識としては匿名組合契約に係る利益の分配は、源泉地国でPEありとして課税される(か又は利子所得として課税される)ということになっているが、日本の課税庁は、匿名組合契約の場合にPEが認定できるという主張をしなかった。私の個人的見解だが条約の文言に即した解釈としては欧州の常識の方が無理があり(←はっきり言って結論ありきで欧州人は考えているにすぎない)、東京高裁は条約解釈の節度を守ったといえると思われる)

自動車部品輸入業者事件東京地判平成27年5月28日訟月63巻4号1252頁平成24(行ウ)152号・東京高判平成28年1月28日訟月63巻4号1211頁平成27(行コ)222号百選7版72(藤谷武史・ジュリスト1494号119頁)
 原告X氏(日本国籍と思われる)は2004年4月15日にアメリカ人女性と結婚し2004年10月23日に渡米しアメリカ居住者(日本から見て非居住者)になった。Xは2002年から自動車部品等輸入業を営んでいた。Xは渡米後も兵庫県高砂市のアパートの部屋で自動車部品輸入業を続けた。2006年11月29日は倉庫も賃借し始めた。
 日本の課税庁は、Xの輸入業のためのアパートの部屋及び倉庫がPEに当たると主張した。
 Xは、アパートの部屋及び倉庫が準備的又は補助的な性格の活動のための場所であると主張した。
 裁判所は、日米租税条約5条4項(a)のstorage, display and deliveryは準備的又は補助的な活動の例示にすぎず、たといstorageとdelivery(とりわけ引渡し)のための場所であっても準備的又は補助的な性格の活動でなければPEに当たると判断した。
 (補助知識:UNモデル租税条約ではdelivery(引渡し)を準備的又は補助的な活動の例として挙げてない。)
 Xの不満は理解できないではない。Amazonの日本所在倉庫は準備的又は補助的な性格の活動しかしてないという理由でPEと認定できない(日本の課税庁がPEと認定しようとしたが日米相互協議(⇒8.5.4.)の結果、PEではないという結論になったと報道されている。朝日新聞2009年7月4日等)のだから。
8.2.2.1.c. 建設作業PE(所税2条1項8号の4ロ、法税2条12号19ロ)
8.2.2.1.d. 代理人PE(所税2条1項8号の4ハ、法税2条12号の19ハ)
8.2.2.1.e. 租税条約における恒久的施設の定義(OECDモデル5条)

8.2.2.2. ソース・ルールの意義と機能(所税161条、法税138条)

所税161条(国内源泉所得) この編において「国内源泉所得」とは、次に掲げるものをいう。
 一 非居住者が恒久的施設を通じて事業を行う場合において、当該恒久的施設が当該非居住者から独立して事業を行う事業者であるとしたならば、当該恒久的施設が果たす機能、当該恒久的施設において使用する資産、当該恒久的施設と当該非居住者の事業場等……との間の内部取引その他の状況を勘案して、当該恒久的施設に帰せられるべき所得(当該恒久的施設の譲渡により生ずる所得を含む。)
 二 国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得(第八号から第十六号までに該当するものを除く。)
 三 国内にある資産の譲渡により生ずる所得として政令で定めるもの
 四 民法第六百六十七条第一項(組合契約)に規定する組合契約……に基づいて恒久的施設を通じて行う事業から生ずる利益で当該組合契約に基づいて配分を受けるもののうち政令で定めるもの
 五 国内にある土地若しくは土地の上に存する権利又は建物及びその附属設備若しくは構築物の譲渡による対価……
 六 国内において人的役務の提供を主たる内容とする事業で政令で定めるものを行う者が受ける当該人的役務の提供に係る対価
 七 国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利若しくは採石法……の規定による採石権の貸付け……、鉱業法……の規定による租鉱権の設定又は居住者若しくは内国法人に対する船舶若しくは航空機の貸付けによる対価
 八 第二十三条第一項(利子所得)に規定する利子等のうち次に掲げるもの[イロハニ略]
 九 第二十四条第一項(配当所得)に規定する配当等のうち次に掲げるもの[イロ略]
 十 国内において業務を行う者に対する貸付金(これに準ずるものを含む。)で当該業務に係るものの利子(政令で定める利子を除き、債券の買戻又は売戻条件付売買取引[⇒§3.1.2.2. §8.2.3.2.e.レポ取引。債券現先取引:所税令283条3項、4項]として政令で定めるものから生ずる差益として政令で定めるものを含む。)
 十一 国内において業務を行う者から受ける次に掲げる[知的財産等の]使用料又は対価で当該業務に係るもの[イロハ略]
 十二 次に掲げる給与、報酬又は年金[イロハ略]
 十三 国内において行う事業の広告宣伝のための賞金として政令で定めるもの
 十四 国内にある営業所又は国内において契約の締結の代理をする者を通じて締結した保険業法第二条第三項(定義)に規定する生命保険会社又は同条第四項に規定する損害保険会社の締結する保険契約その他の年金に係る契約で政令で定めるものに基づいて受ける年金……で第十二号ロに該当するもの以外のもの……
 十五 次に掲げる給付補填金、利息、利益又は差益[イロハニホヘ略]
 十六 国内において事業を行う者に対する出資につき、匿名組合契約……に基づいて受ける利益の分配
 十七 前各号に掲げるもののほかその源泉が国内にある所得として政令で定めるもの
2 前項第一号に規定する内部取引とは、非居住者の恒久的施設と事業場等との間で行われた資産の移転、役務の提供その他の事実で、独立の事業者の間で同様の事実があつたとしたならば、これらの事業者の間で、資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引(資金の借入れに係る債務の保証、保険契約に係る保険責任についての再保険の引受けその他これらに類する取引として政令で定めるものを除く。)が行われたと認められるものをいう。
3 恒久的施設を有する非居住者が国内及び国外にわたつて船舶又は航空機による運送の事業を行う場合には、当該事業から生ずる所得のうち国内において行う業務につき生ずべき所得として政令で定めるものをもつて、第一項第一号に掲げる所得とする。[cf.OECDモデル8条は国際運輸]

所税162条(租税条約に異なる定めがある場合の国内源泉所得) 租税条約……において国内源泉所得につき前条の規定と異なる定めがある場合には、その租税条約の適用を受ける者については、同条の規定にかかわらず、国内源泉所得は、その異なる定めがある限りにおいて、その租税条約に定めるところによる。この場合において、その租税条約が同条第一項第六号から第十六号までの規定に代わつて国内源泉所得を定めているときは、この法律中これらの号に規定する事項に関する部分の適用については、その租税条約により国内源泉所得とされたものをもつてこれに対応するこれらの号に掲げる国内源泉所得とみなす。
2 恒久的施設を有する非居住者の前条第一項第一号に掲げる所得を算定する場合において、租税条約……の適用があるときは、同号に規定する内部取引には、当該非居住者の恒久的施設と事業場等との間の利子……の支払に相当する事実その他政令で定める事実は、含まれないものとする。

所税164条(非居住者に対する課税の方法) 非居住者に対して課する所得税の額は、次の各号に掲げる非居住者の区分に応じ当該各号に定める国内源泉所得について、次節第一款(非居住者に対する所得税の総合課税の規定を適用して計算したところによる。
 一 恒久的施設を有する非居住者 次に掲げる国内源泉所得
  イ 第百六十一条第一項第一号及び第四号(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得
  ロ 第百六十一条第一項第二号、第三号、第五号から第七号まで及び第十七号に掲げる国内源泉所得(同項第一号に掲げる国内源泉所得に該当するものを除く。)
 二 恒久的施設を有しない非居住者 第百六十一条第一項第二号、第三号、第五号から第七号まで及び第十七号に掲げる国内源泉所得
2 次の各号に掲げる非居住者が当該各号に定める国内源泉所得を有する場合には、当該非居住者に対して課する所得税の額は、前項の規定によるもののほか、当該各号に定める国内源泉所得について第三節(非居住者に対する所得税の分離課税の規定を適用して計算したところによる。
 一 恒久的施設を有する非居住者 第百六十一条第一項第八号から第十六号までに掲げる国内源泉所得(同項第一号に掲げる国内源泉所得に該当するものを除く。)
 二 恒久的施設を有しない非居住者 第百六十一条第一項第八号から第十六号までに掲げる国内源泉所得
8.2.2.2.a. ソース・ルール(source rules)をめぐる日本法の変遷
8.2.2.2.b. ソース・ルールの三つのカテゴリー
[1]恒久的施設帰属利得……純額(net basis income = profit)(収入金額−必要経費=純所得(利得)が課税標準となる)で申告・納付義務(総合課税)(所税161条1項1号、165条、166条、法税138条1項1号、142条、144条の6)

[2]恒久的施設に帰属しないで純額で申告・納付義務のある所得(総合課税)(所税161条2〜3号、5〜7号、17号、164条1項1号ロ、同項2号、法税138条1項2〜6号、141条1号ロ、同条2号)

[3]恒久的施設に帰属しないで総額(gross basis income)(収入金額が課税標準となる)で源泉徴収の対象となる所得(分離課税)(個人非居住者については所税161条1項8〜16号、164条2項1号、2号、169条以下、212条1項。外国法人については所税161条1項4〜11号、13〜16号、178条、212条3項)

8.2.2.3. 「恒久的施設帰属所得」

8.2.2.3.a. 「恒久的施設帰属所得」の意義
8.2.2.3.b. 恒久的施設帰属外部取引からの損益の額
8.2.2.3.c. 本店等との「内部取引」を通じて実現したとみなされる損益の額(←AOA: Authorised OECD Approach 2010)
8.2.2.3.d. 恒久的施設内部の「計算」

8.2.2.4. 申告・納付の対象となるその他の国内源泉所得

8.2.2.4.a. 国内にある資産の運用または保有により生ずる所得fd
8.2.2.4.b. 国内にある資産の譲渡により生ずる所得
8.2.2.4.c. 人的役務の提供に係る所得(源泉徴収後の申告・納付)jk
東京地判令和4年9月14日令和3(行ウ)268号(棄却)・東京高判令和5年4月26日(未確認)(棄却・確定)(吉村浩一郎・ジュリスト1588号10頁、高橋里枝・ジュリスト1597号174頁重判令05年、鈴木悠哉・ジュリスト1598号151頁)
 国外居住外国音楽家の日本公演に際し、原告X社は当該外国音楽家を管理している外国芸能法人に、出演料とは別に、渡航費等の立替金を支払った(本件各支払)。本件各支払についてX社は源泉徴収をしていなかった。川崎南税務署長は、本件各支払が所得税法161条1項6号(平成28年3月31日以前の支払は平成26年改正前の所得税法161条2号)にいう人的役務の提供に係る対価に当たるとの前提で、源泉所得税等の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分をした。

 判旨 「所得税法161条1項は、恒久的施設帰属所得のような純所得概念(純額ベース)で捉えられるものと、利子、配当のような収入金概念(総額ベース)で捉えられるものを、ともに「国内源泉所得」として総称しているところ、これらを一括して「所得」として表現することは混乱を招くことから、所得税法は、「国内源泉所得」と「所得」とを区別しており、例えば、国内源泉所得を純所得概念として用いる場合には、「国内源泉所得」ではなく、「国内源泉所得に係る所得」(同法102条、168条の2)といった文言を用いて表現している。
 このような観点から、「人的役務の提供に係る対価」をみると、「対価」という文言は、「所得」という文言(同項1号、2号等)とは異なり、通常の用語法としては、収入金概念に属するものといえるから、人的役務の提供をした者にとって、同人的役務の提供に対して支払を受けた収入金額の総額を意味するものであるといえる。そのため、支払額の中に、同支払に係る収入を得るための犠牲として支出され、当該収入の一部をもって充当されるべき対応関係にある費用相当額が含まれていたとしても、同費用相当額は収入金額の一部として「対価」に含まれるものというべきである。」
 「「人的役務の提供に係る対価」の支払を受けた外国事業者は、同「対価」について、最終的に純所得課税を受けることができるものの、そのためには、外国事業者において、非居住者の総合課税の対象となる所得税又は法人税の確定申告をしなければならないというべきであり、所得税法及び法人税法が、同「対価」の支払を受ける者に対し、同「対価」に係る純所得の確定申告をする義務を負わせる一方で、同「対価」の支払者に対し、同「対価」に係る純所得について源泉徴収をする義務を負わせているとは解されないから、同源泉徴収については、同「対価」に係る収入金額の総額を対象とするものであるというべきである。そのため、「対価」について、上記アのように、これを「人的役務の提供」(所得税法161条1項6号)に対して支払われた収入金額の総額を意味し、「対価」を得るために要した費用相当の支払額を含むものと解することは、「対価」の支払を受けた外国事業者に対する同「対価」についての所得税の課税の構造とも整合する。」

cf.国税不服審判所平成15年2月26日裁決・裁決事例集65集283頁
8.2.2.4.d. 国内不動産等の貸付けによる対価
8.2.2.4.e. その他の国内源泉所得(所税令289条、法税令180条)

8.2.3. 源泉徴収の対象となる所得の範囲とその計算

8.2.3.1. 所得税法による源泉徴収

所税178条(外国法人に係る所得税の課税標準) 外国法人に対して課する所得税の課税標準は、その外国法人が支払を受けるべき第百六十一条第一項第四号から第十一号まで及び第十三号から第十六号まで……に掲げる国内源泉所得……の金額(第百六十九条第一号、第二号、第四号及び第五号(分離課税に係る所得税の課税標準)に掲げる国内源泉所得については、これらの規定に定める金額)とする。

所税179条(外国法人に係る所得税の税率) 外国法人に対して課する所得税の額は、次の各号の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
一 前条に規定する国内源泉所得(次号及び第三号に掲げるものを除く。) その金額(第百六十九条第二号、第四号及び第五号(分離課税に係る所得税の課税標準)に掲げる国内源泉所得については、これらの規定に定める金額)に百分の二十の税率を乗じて計算した金額
二 第百六十一条第一項第五号……に掲げる国内源泉所得 その金額に百分の十の税率を乗じて計算した金額
三 第百六十一条第一項第八号及び第十五号に掲げる国内源泉所得 その金額(第百六十九条第一号に掲げる国内源泉所得については、同号に定める金額)に百分の十五の税率を乗じて計算した金額

所税180条(恒久的施設を有する外国法人の受ける国内源泉所得に係る課税の特例) 第七条第一項第五号(外国法人の課税所得の範囲)及び前二条の規定は、恒久的施設を有する外国法人で政令で定める要件を備えているもののうち第百六十一条第一項第四号から第七号まで、第十号、第十一号、第十三号又は第十四号……に掲げる国内源泉所得……でその外国法人の恒久的施設に帰せられるもの(第百六十一条第一項第四号に掲げる国内源泉所得にあつては、同号に規定する事業に係る恒久的施設以外の恒久的施設に帰せられるものに限る。以下この項において「対象国内源泉所得」という。)の支払を受けるものが、政令で定めるところにより、当該支払を受けるものが当該要件を備えていること及びその支払を受けることとなる国内源泉所得が対象国内源泉所得に該当することにつきその法人税の納税地の所轄税務署長……の証明書の交付を受け、その証明書を当該国内源泉所得の支払をする者に提示した場合には、その証明書が効力を有している間に支払を受ける当該国内源泉所得については、適用しない。[2項以下略]

所税212条(源泉徴収義務) 非居住者に対し国内において第百六十一条第一項第四号から第十六号まで……に掲げる国内源泉所得……の支払をする者又は外国法人に対し国内において同項第四号から第十一号まで若しくは第十三号から第十六号までに掲げる国内源泉所得(第百八十条第一項(恒久的施設を有する外国法人の受ける国内源泉所得に係る課税の特例)……及び政令で定めるものを除く。)の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。[2項略]
3 内国法人に対し国内において第百七十四条各号(内国法人に係る所得税の課税標準)に掲げる利子等、配当等、給付補填金、利息、利益、差益、利益の分配又は賞金……の支払をする者は、その支払の際、当該利子等、配当等、給付補填金、利息、利益、差益、利益の分配又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。[4項略]
5 第百六十一条第一項第四号に規定する配分を受ける同号に掲げる国内源泉所得については、同号に規定する組合契約を締結している組合員……である非居住者又は外国法人が当該組合契約に定める計算期間……において生じた当該国内源泉所得につき金銭その他の資産……の交付を受ける場合には、当該配分をする者を当該国内源泉所得の支払をする者とみなし、当該金銭等の交付をした日……においてその支払があつたものとみなして、この法律の規定を適用する。

8.2.3.2. 源泉徴収の対象となる国内源泉所得

8.2.3.2.a. 組合契約等に基づいて行う事業から生ずる利益で配分を受けるもの(所税161条1項4号)
8.2.3.2.b. 国内にある土地等の譲渡の対価(所税161条1項5号)
東京地判平成23年3月4日平成21(行ウ)121号税資261号順号11635百選6版68(控訴審東京高判平成23年8月3日税資261号順号11727、上告審最決平成24年9月18日で維持)
 XがAから土地を購入する際、「Aは日本居住者である」とAがXに告げていたので、Xはこれを信用し、Xは土地譲渡に係る源泉徴収税(所税212条1項、213条1項2号)を納付していなかった。しかしAは非居住者であった。Aが非居住者であることをXが確認する注意義務を怠ったので源泉徴収納付義務が課せられることはやむをえないか。
 東京地裁判旨……「法令上に記載のない「期待可能性」ないし「予見可能性」といった要件を設けて源泉徴収制度を限定解釈(限定適用)する必要はない」。
 学説では、Xから見てAが居住者であるか否かについて一定の確認手続きをしたら、源泉徴収納付義務は免れるとすべきである、という意見がある。しかし、裁判所は、Xから見てAが居住者であるか確認がとれるまでは源泉徴収税分の代金を支払わないでおくといった対応策がある、と指摘する。
 類例:住友不動産事件東京地判平成28年5月19日平成26(行ウ)114号税資266号順号12856・東京高判平成28年12月1日平成28(行コ)219号税資266号順号12942百選7版73(南繁樹・ジュリスト1498号10頁、平川英子「非居住者に不動産の譲渡対価を支払う者(源泉徴収義務者)の注意義務」新・判例解説Watch租税法No.137 (2017.3.10)、西山由美・ジュリスト1522号140頁)
8.2.3.2.c. 債券・預貯金の利子等(所税161条1項8号)
8.2.3.2.d. 配当等(所税161条1項9号)
アジレント・テクノロジーズ・ルクスコ・エス・アー・エール・エル事件・東京地判令和4年2月17日令和元(行ウ)453号(認容)・東京高判令和5年2月16日令和4(行コ)72号(控訴棄却)(確定)(木村浩之・ジュリスト1578号10頁、坂巻綾望・ジュリスト1581号126頁、濱田洋・ジュリスト1583号170頁重版令04年、秋元秀仁・国際税務43巻6号40頁、7号54頁、西本宏治・ジュリスト1597号265頁重判令05年)(国税庁「租税条約における「利得の分配に係る事業年度の終了の日」の取扱いについて」令和5年3月)
 ルクセンブルク法人たる原告X社は日本に恒久的施設を有してない。2014年4月29日、X社は日本法人A社(アジレント・テクノロジー株式会社)(事業年度は11月1日〜10月31日)とB社(アジレント・テクノロジー・インターナショナル株式会社)(事業年度は11月1日〜10月31日)の株式を関連法人(オランダ法人、ルクセンブルク法人)から100%取得し、100%保有し続けている。2014年8月1日、A社は非適格分割型分割を行い、事業を分割承継法人たるJ社(キーサイト・テクノロジー合同会社)に承継させ、A社はJ社の出資持分の譲渡を受けた。同日、A社は、J社の出資持分を剰余金の配当としてX社に分配した(みなし配当金額112億1962万2367円)。同日、B社は非適格分割型分割を行い、事業を分割承継法人あTるC社(キーサイト・テクノロジー・インターナショナル合同会社)に承継させ、B社はC社の出資持分の譲渡を受けた。同日、B社はC社の出資持分を剰余金の配当としてX社に分配した(みなし配当金額27億2522万0652円)。A社・B社は、日本の源泉徴収率20.42%を乗じた額(22億9104億6889円、5億5649万0057円)を納付した(所得税法24条1項、25条1項2号、212条1項1号、161条5号イ[現9号イ])。
 日本ルクセンブルク租税条約10条2項(a)25%保有ならば配当源泉地国税率5%、(b)さもなければ15%。(正文は英文)
 2015年4月7日、X社は(a)の5%を前提に、差額の還付を請求した。2016年3月7日、税務署長は、(b)の15%を前提に、差額を還付した。
 (a)の6カ月以上保有要件を満たすかが争点となった。
 3条2項「As regards the application of this Convention by a Contracting State, any term not defined therein shall, unless the context otherwise requires, have the meaning which it has under the laws of that Contracting State concerning the taxes to which this Convention applies.」(この条約は、1に掲げる租税に加えて又はこれに代わってこの条約の署名の日の後に課される租税であって1に掲げる租税と同一であるもの又は実質的に類似するもの(国税であるか地方税であるかを問わない。)についても、適用する。両締約国の権限のある当局は、それぞれの国の税法について行われた実質的な改正を、その改正後の妥当な期間内に、相互に通知する。)
 10条2項(a)「5 per cent of the gross amount of the dividends if the beneficial owner is a company which owns at least 25 per cent of the voting shares of the company paying the dividends during the period of six months immediately before the end of the accounting period for which the distribution of profits takes place;」(当該配当の受益者が、利得の分配に係る事業年度の終了の日に先立つ六箇月の期間を通じ、当該配当を支払う法人の議決権のある株式の少なくとも二十五パーセントを所有する法人である場合には、当該配当の額の五パーセント)
 X社の主張:「the end of the accounting period for which the distribution of profits takes place(利得の分配に係る事業年度の終了の日)」とは、「配当を支払う法人がその配当の原資である所得を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算する会計期間の末日」をいう。それは2014年10月31日であり、4月29日から6カ月以上経過している。
 被告(Y:国)の主張:「配当の受領者が特定される時点」をいう。分割型分割の日の前日(2014年7月31日)は4月29日から6カ月以上経過していない。

 判旨 (2)「本件文言は,日本の法令における用語の意義としては,「利得の分配に係る会計期間の終了の日」を意味するものというべきである。」
 (3)「本件文言は,その趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味としては,「利得の分配(配当)が行われる会計期間の終期」を意味する」。
 (4)「本件文言は,日本の法令における当該用語の意義(ウィーン条約31条1項にいう「文脈」)としては,「利得の分配に係る会計期間の終了の日」を意味するものであり,その趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味としては,「利得の分配(配当)が行われる会計期間の終期」を意味するものであるところ,前者と後者とは実質的に同義であるということができる。そうすると,本件文言の解釈については,正文に基づき検討した後者の表現に従い,「利得の分配(配当)が行われる会計期間の終期」と解するのが相当である。」
8.2.3.2.e. 貸付金の利子(所税161条1項10号)
レポ取引事件・東京高判平成20年3月12日平成19(行コ)171号金判1290号32頁ko(原審東京地判平成19年4月17日判時1986号23頁)(⇒3.1.2.2.)

日本 国債売却   米国 | 日本 国債担保提供 米国
J社―――――――→U社 | J社―――――――→U社
  ←―――――――   |   ←―――――――  
     売買代金2000  |       貸付金2000
             | 
             | 
     国債再売買   |      担保物返還
J社←―――――――U社 | J社←―――――――U社
  ―――――――→   |   ―――――――→
  売買代金2200     |   元利返済2200
  レポ差額200     |   利子200



 レポ取引とは、国債等の再売買予約付売買である。例えば、日本法人J社がアメリカ法人U社に国債を2000で売り、1年後、J社がU社から国債を2200で買い戻す(repurchaseを縮めてレポ)、という取引である(実際はもっと短期の取引である)。この差額200(レポ差額、再売買差金)は、J社がU社に売る時点とJ社がU社から買い戻す時点の間の金銭の時間的価値(time value of money)に相当するものである。
 課税庁は、200のレポ差額が、J社からU社への利子支払いに相当するものであり、U社の利子所得についてJ社が源泉徴収納付義務を負う、と主張した。前述のレポ取引は、JがUから2000を借入て担保として国債を拠出し、1年後、JがUに元利合計2200を返済して担保を返してもらうことと、経済実質的に近いからである。しかも所得税法161条6号(当時)は「国内において業務を行なう者に対する貸付金(これに準ずるものを含む。)で当該業務に係るものの利子」と規定しており、レポ差額が貸付金の利子に該当しないとしても「これに準ずるもの」には含まれる、と主張した。
 しかし裁判所は、売買という法形式を重視し、貸付金(民法587条の金銭消費貸借契約が典型)とはいえないし準ずるともいえない、とした。
 cf.宮崎裕子「いわゆるレポ取引の進化と課税」ジュリスト1253号122頁
 cf.その後、源泉徴収しないことを明確化する立法。所税令283条3項・4項の「債券現先取引」。

大阪地判平成20年7月24日平成18(行ウ)195号判タ1295号216頁請求認容・大阪高判平成21年4月24日平成20(行コ)127号税資259号順号11188……造船契約解除金(船製造者は日本法人。買手は外国法人)は所税161条6号(当時)の「貸付金(これに準ずるものを含む。)」の「利子」非該当。

バークレイズ銀行事件・東京地判令和4年2月1日令和2(行ウ)271号⇒4.5.1.1.(法律的帰属説と経済的帰属説)
8.2.3.2.f. 工業所有権等・著作権の使用料またはその譲渡による対価(所税161条1項11号)
例1:ライセンス

   S国        R国
8000  1500使用料
――→S―――――→R
2000↓↓4000     ↓1000
販売  製造      研究

例1:R社はR国で研究開発し、S国特許権を取得する。S国のS社に特許権をライセンス(実施許諾)する。S社は4000の製造費用で商品を作り、更に2000の販売費用をかけて8000の販売収入を得る。S社はR社に1500の特許権使用料を支払う。
1500の支払の所得区分:12条の使用料
所得源泉:S国源泉
(源泉徴収課税を認める条約と認めない条約がある)

例2:自らR国で製造

   S国        R国
8000   5500販売代価
――→S―――――→R
2000↓     4000↓↓1000
販売       製造  研究

例2:R社はR国で研究開発し、S国特許権を取得する。R社はR国で4000の製造費用を投じて商品を製造する。S国のS社に5500で販売する(輸送費用は無視)。S社は2000の販売費用を投じて8000の販売収入を得る。
5500の支払の所得区分:7条の事業利得
所得源泉:R国源泉
(S国ではPEなければ課税なし
例2においても、R社がS国特許権を保有しているという事実は変わらない。S国源泉の使用料の要素はどこかへ消えてしまったのか?――租税条約が所得を幾つかに区分してその所得区分ごとに国家間で課税権を配分するというアプローチは、上2例のような比較において不整合さを露呈する(が、仕方ない)。
参照:浅妻章如「所得源泉の基準、及びnetとgrossとの関係(1〜3・完)」法協121巻8〜10号(2004)、浅妻章如・山下貴「特別対談 知的財産の法務&税務・最前線」国際税務28巻12号14-37頁(2008.12)

シルバー精工事件東京地判平成4年10月27日昭和63(行ウ)191号行集43巻10号1336頁一部認容、一部却下・東京高判平成10年12月15日平成4(行コ)133号訟月45巻8号1553頁棄却・最判平成16年6月24日平成11(行ヒ)44号判時1872号46頁棄却確定百選7版71jq(浅妻章如・ジュリスト1291号274頁)
 日本企業のアメリカ市場への進出に手を焼いていたアメリカ企業A社が、日本法人たる原告X社に対し、Xの日本からアメリカへの輸出はA社の特許権を侵害しているとして、差止訴訟を提起した。X社は、A社の特許は無効であろうとの予測を立てたが、米日貿易摩擦の激しい当時、アメリカで仮に特許無効を勝ち得たとしても通商関係で様々な妨害を受けるであろうことを予測し、結局、X社はA社の脅しに屈して和解契約を締結し、X社がA社に和解金を支払った。
 米日特許紛争の和解契約における支払が米国特許使用料である(ジョン・イー・ミッチェル事件の製造根源説を打破した意義がある)と判断され、アメリカ源泉であると判断された。
 cf.件の特許は後に無効とされていること、米国特許権を侵害するのは日本法人ではなく米国子会社の筈であり、米国子会社が支払うべき和解金を日本親会社たるX社が代わりに支払うことはX社の米国子会社に対する寄附金の問題を生ぜしめるのではないか、等、幾つか興味深い論点(ありていに言えば当時の法律論のレベルの低さ)を示している。

cf.ジョン・イー・ミッチェル事件・東京地判昭和60年5月13日昭和57(ワ)3128号判タ577号79頁棄却確定百選3版47……製造段階に着目して特許使用料の源泉は日本にあると判断。
cf.中里実「日米租税条約における特許権使用料の源泉地」ジュリスト845号102頁

テレプランニング事件(全米女子オープン事件)・東京地判平成6年3月30日昭和62(行ウ)111号行集45巻3号931頁一部却下、一部棄却・東京高判平成9年9月25日平成6(行コ)69号判時1631号118頁棄却(著作権判例百選3版23)・最判平成15年2月27日平成10(行ツ)32号税資253号順号9294棄却確定……スポーツ競技について日本法人が外国法人に支払ったテレビ放映権料が日本源泉の著作権使用料であると判断された。

ゲーム開発委託事件・国税不服審判所平成21年12月11日裁決・裁決事例集78集208頁確定……ゲームソフト開発費として日本法人が外国法人に支払った金員が著作権の譲渡の対価であるとして源泉徴収税に服するとした。
cf. 国税不服審判所平成22年5月13日裁決・裁決事例集79集289頁棄却(広重隆司・国際税務32巻4号84頁)……製造技術導入契約の対価支払いが特許権使用料として源泉徴収に服する。
8.2.3.2.g. 給与・報酬または年金(所税161条1項12号、所税令285条)
東京地判平成22年2月12日平成18(行ウ)651号税資260号順号11378棄却確定(佐藤直人・ジュリスト1424号134頁は結論に反対)……日本法人所有の船で働く外国人漁船員に関して支払った金員が日本源泉給与所得と判断された。
8.2.3.2.h. 広告宣伝のための賞金(所税161条1項13号、所税令286条)
8.2.3.2.i. 生命保険契約に基づく年金等(所税161条1項14号、所税令287条)
8.2.3.2.j. 金融類似商品の差益(所税161条1項15号)
8.2.3.2.k. 匿名組合契約に基づいて受ける利益の分配(所税161条1項16号、所税令288条)(⇒8.2.2.1.b.日本ガイダント)

8.2.3.3. 租税条約とソース・ルール(所税162条、法税139条)

8.2.3.3.1. OECDモデル租税条約6条〜21条(教科書にはない)
OECDモデル租税条約における所得区分
不動産(6条)
原則として不動産所在地国の課税権を認める。居住地国の課税権を否定する訳ではない。

国際運輸業所得(8条)
国際運輸業の所得源泉を考えるのは面倒→企業の実質的管理の場所が存在する国においてのみ課税。

配当(10条)
10条1項:配当受領者の居住地国での課税。([浅妻]1項の存在意義はない筈)
  2項:配当支払法人(債務者)居住地国での課税。受益(保有)者(beneficial owner)概念使用。jp
   a):25%以上所有 →5%で課税。(親子会社間多重課税に配慮⇒5.2.2.3.e.)
   b):それ以外   →15%で課税。
  3項:定義
  4項:PE課税。(→8.2.4.3.c.)
  5項:追いかけ課税の禁止。

10条2項:親子会社間等における特別な扱い
   …子会社・親会社における二重課税に配慮。
   cf. 国内課税においては受取配当益金不算入(法人税法23条)で二重課税を排除。

10条5項:所得源泉があるといっても外国法人から流出する所得に対して課税するのはやりすぎ、という趣旨。
cf.支店利益税
国内子会社→国外親会社の配当:子会社居住地国で課税。
国内支店→国外本店の送金:法的には取引が存在せず、特別な規定なしには課税関係が生じない。
国によっては、子会社と支店とを等しく扱うために、支店に対して配当課税類似の支店利益税を課している。

利子(11条)(⇒8.4.4.過少資本税制)
11条1項:利子受領者の居住地国での課税。
  2項:受益(保有)者につき支払者(債務者)の居住地国(源泉地国)課税を制限…10%まで。
  3項:定義
  4項:PE課税。
  6項:過少資本対策

使用料(12条)
12条1項:受益(保有)者の居住地国においてのみ課税。 (受領者ではない)
  2項:定義
  3項:PE課税。
  4項:移転価格問題への対策。

 少なからずの実際の租税条約(例:日印租税条約)では、源泉地国にも10%程度の課税権を認めている。(OECDモデルはあくまで二国間の租税条約交渉の出発点にすぎず、二国間でそれと異なる合意をして構わない。UNモデル12条も源泉地国の課税権を認めている)

10条2項、11条2項、12条1項は受益者(beneficial owner)概念を用いている。
→S国源泉の使用料をR国居住者が受領するが受領者(recipient)が受益者でない場合、12条1項は適用されない。
→S国の課税権を租税条約が制限しないので、S国国内法が許せばS国は課税(源泉徴収)してよい。

[浅妻]諸外国で受益者概念をめぐる裁判例は多数あるが、2010年以前は、受益者概念で課税庁が勝訴することは難しい傾向があった。条約漁り(後述)対策として、beneficial owner概念は割と非力だった。受益者でないから租税条約の恩恵(源泉徴収税の減免等)を認めないという課税庁側の主張は、裁判所からすると、法人格否認のように聞こえて、簡単には認められない、と考えがちなのかもしれない。尤も2010年代以降、受益者概念で課税庁側勝訴事例も目立ち始めている。jp

cf.国税不服審判所令和5年8月15日裁決……日印租税条約12条1項・4項「技術上の役務に対する料金」(FTS: Fees for Technical Services」に該当する支払を日本法人がインド法人にする際、源泉徴収税の対象となる支払額は、源泉徴収税がかからない前提(役務の対価でなくソフトウェアの譲渡対価という前提であった)で合意された額か、当該額に10/9を乗じた額か……北村豊「税でモメたらどうする(第6回)人間は間違える生き物である」。

譲渡益(13条)
13条1項:不動産所在地国での課税。 4項(不動産保有会社)はその亜種。
  2項:PEの事業用動産……PE所在地国での課税。
  3項:運輸業に関する特則。
  5項:譲渡者の居住地国でのみ課税。
つまり、1〜4項の特則に該当しない場合、一般論として5項により源泉地国に課税権なし。

例:R国居住者であるA氏がS国法人であるB社から配当を受け取ればS国の源泉徴収課税を受ける。
B社株を譲渡して譲渡益を得るという形式ならば、S国での課税を免れることができる。
配当と譲渡益という形式が違えども、その元が類似することを考えれば、こうした扱いの違いは是認しがたい。
→ 多くの国が株式譲渡益について課税権を留保している(13条5項の例外を規定する)。OECD加盟国がOECDモデル租税条約の条文に賛成しない場合はOECDコメンタリー(OECDモデル租税条約の解釈適用に関しOECD租税委員会が作成する注釈書。Commentary。ドイツ語でいうところのコンメンタール)に留保(reservation)を付す。条文に反対ではないがOECDコメンタリーの解釈に賛成しない場合は意見(observation)を付す。

自由職業所得(14条)…削除

給与所得(15条)
 給与所得の源泉は通常労務提供地にあると考えられており、基本的には労務提供地国での課税が認められる(給与所得者の居住地国における課税が禁じられるとは限らない)。しかし、労務提供が短期間であって、給与が労務提供地国以外から支払われる等の場合、煩を避けるため労務提供地国での課税を制限している。

役員報酬(16条)
役員報酬を支払う法人の居住地国(所得の源泉地国)の課税権を認める。(役員の居住地国課税は別論)

芸能人及び運動家(17条)
 特別な規定がなければ、芸能人やスポーツ選手が得る所得は事業所得であり、事業所得であればPEなければ課税なしのルール(7条)により居住地国でのみ課税がなされることになりうる。
 しかし、外国人歌手のコンサート(ex.マイケル・ジャクソン)等を想起すれば、PEがなくとも莫大な所得を得る可能性が考えられる。そこで、芸能人等についてはPEを問わずに源泉地国での課税権を許容する。(最近は、PEがなくとも、ではなく、新たなPE概念を17条が規定しているのである、という説明をすることもある)

17条2項:17条の適用対象を芸能人が得る所得に限定すると、芸能人本人ではなく芸能法人がコンサートを開催し、芸能人は芸能法人から支払を受ける、という形での租税回避が横行するので、それを防ぐ。

退職年金(18条)
労務提供地国が所得源泉であるが、課税の煩を避けるため、居住地国での課税に一本化している。

政府職員(19条)
基本的には、給与等を支払う政府の国でのみ課税する。

学生(20条)
居住地国と滞在地国とが異なる場合に、居住地国における課税に一本化する。

その他所得(21条)(⇒8.2.2.1.b.日本ガイダント)
6〜20条に掲げられてない所得について、居住地国課税に一本化する。
実際の租税条約に21条に相当する規定がなければ、6〜20条に掲げられてない種類の所得については租税条約の規律がないということであるから、源泉地国が課税するか否かは源泉地国の法によって決せられる。
8.2.3.3.2. 条約漁り(教科書にはない)
 A国==租税条約==B国 | A国==租税条約==B国 
 ┏━━┓非課税等 ┏━━┓| ┏━━┓非課税等 ┏━━┓
 ┃A社┃――――→┃B社┃| ┃A社┃――――→┃B社┃
課┗━━┛     ┗━━┛| ┗━━┛     ┗━━┛
税⇒|           |           : 
  ↓           |           :
 ┏━━┓         | ┏━━┓      :
C┃C社┃         |C┃C社┃←‥‥‥‥‥・
国┗━━┛         |国┗━━┛



例)A国からC国に支払をなすとA国国内法が適用され高い税率が適用される。C国居住者であるC社はA国居住者であるA社と直接取引を行うのではなく、間にB国居住者であるB社を介在させることを考える。
 A社→B社の支払について、A-B租税条約が適用され、A国での課税が低く抑えられる又は非課税となる。
 本来A-B租税条約の便益を受ける資格のないC社が、ダミー会社的なB社(ペーパー・カンパニーであることもある)を介在させることによって条約の便益を受けることを条約漁り(treaty shopping)という。
 条約の便益を利用するしか役割のない実体のない会社を導管会社(conduit company)とも呼ぶ。ke

8.2.4. 課税される所得の範囲・課税方式についてのまとめ

8.2.4.1. はじめに

8.2.4.2. 居住者・内国法人の場合

8.2.4.2.a. 居住者
8.2.4.2.b. 内国法人

8.2.4.3. 非居住者・外国法人の場合

8.2.4.3.a. 国内に恒久的施設を有する非居住者(所基通164-1)
8.2.4.3.b. 国内に恒久的施設を有しない非居住者
8.2.4.3.c. 国内に恒久的施設を有する外国法人 jo
OECDモデル7条1項第1文:PEなければ課税なし(no taxation without PE)
        第2文:PEに帰属する事業利得のみに課税
OECDモデル7条2項:独立当事者間原則(arm’s length principle)

源泉地国が非居住者企業に対して課税する際の3つの関門 [1]閾値、[2]所得源泉、[3]課税所得の範囲

OECDモデル7条1項は、帰属所得主義(attributed income principle)に則っている。
[1]閾値:PEがなければ源泉地国は課税してはいけない。(7条1項第1文)
[2]所得源泉:PEが得る所得がPE所在地国(源泉地国)に源泉を有する所得である。(規定無し)
[3]範囲:PEに帰属する所得のみに源泉地国は課税することができる。(7条1項第2文)

(平26改正前の日本法は1966年以前のアメリカ法に近い全所得主義(entire income principle)を採用しており吸引力(force of attraction)が批判されていたが、平26改正後は日本法も帰属所得主義になったし、平26改正以前においても租税条約締結国との関係では帰属所得主義が適用されることが殆どであるので、全所得主義の説明は省略するlz

OECDモデル7条2項…PEに帰属する利得:独立当事者間原則
 PEに帰属する利得を算定する際、当該PEが本店等とは分離した独立の企業(a separate and independent enterprise)ならば得たであろう利得、を求める。 (独立当事者間原則は、元々親子会社間等の関連者間取引について課税の適正さを保つために発展した考え方である。Cf.分離観察法Die isolierende Betrachtungsweise…S国はS国で観察できる事象のみに基づいて課税する)
 親子会社間の取引(transaction)と本支店間の内部取引(dealing)について、同じ独立当事者間原則を当てはめて良いのか、という疑念はずっと以前から呈せられている。
 しかし本支店間内部取引についても独立当事者間での取引を擬制(fiction)するという考え方が支配的。
 但し親子会社間取引と本支店間内部取引とが完全に同じであるとは考えられていない。法人格の有無が取引・内部取引に与える影響はありうる、と考えられている。(尤も、経済理論上も法理論上も極めて難解な問題)

費用・損失の配賦……東京地判昭和57年6月11日判時1066号40頁…外国法人の国内PEが利子費用を控除できると判断。外国法人の総利子費用のうち国内PEの所得(保有債券利子収入)に対応するものとして配分した額について。

OECDモデル24条…無差別取扱原則
各国は課税に際して居住者と非居住者との間で差別してはならない。とりわけ、S国がR国のS国支店(PE)に課税する際に、S国居住者である会社と比べて、差別的に扱ってはならない。
ただし、支店に法人格がなく、S国居住者に法人格があるという違いから、完全に同じ取扱ができるとも言い切れない。どの程度異なる扱いが許され(必要とされ)、どのような扱いが無差別原則に反することとなるのか?cf.増井良啓「OECDモデル租税条約24条(無差別取扱い)に関する2007年5月3日公開討議草案について ―研究ノート―」トラスト60研究叢書『国際商取引に伴う法的諸問題(15)』67頁(2008.2)

OECDモデル10条4項(配当)、11条4項(利子)、12条3項(使用料)
……PEに配当・利子・使用料が帰属する時、一般の事業利得と同様にPEに帰属する所得(費用控除後の所得)に対して通常の所得課税をする。(「利得profit」→純所得を意味する)
事業所得:PEに帰属する純所得に対し課税
資本所得:総所得(費用控除のない所得)に対し源泉徴収課税(但し資本所得であってもPEに帰属する所得については上のルールに倣う。)

例:R国のR社がS国のS社と取引をして利子所得などを得るとする。
R社本店が取引をしていたのであれば、源泉徴収課税。
R社のS国支店が取引をしていたのであれば、PEの純所得に対する課税。

源泉徴収課税による税負担は時として重すぎることがある。
R国のR社本店がS国のS社に1000を利子率10%で貸付け、R社は第三者・T社から1000を利子率9%で借受けていた場合、100の利子所得を得て、90の利子支払をなす。税引前純所得は10。しかし、10%の税率で源泉徴収される場合、総所得100に対して課されるので、R社の税引後所得は0
R社のS国支店が100の利子所得を得、T社に対する90の利子支払をする場合、S国支店の税引前純所得10に対してS国の通常の所得税率(例えば40%)が適用されると、R社S国支店の税引後所得は6
実務家としては、いかにして源泉徴収課税を回避するかが勝負となる。
8.2.4.3.d. 国内に恒久的施設を有しない外国法人

8.3. 居住者・内国法人に対する国際的二重課税の排除

8.3.1. 外国税額控除方式と国外所得免除方式

8.3.1.1. 二つの理念型jr

国家中立性
R国の投資家R氏が投資して所得を得るとする。R国の税率40%、S国の税率30%とする。
  (R国、S国を、home国、host国と呼ぶこともある)
R氏は自分の税引後利益が最大になる投資先を選ぶ。
R国の視点から見ると、R国が課税してもR氏の手元に残っても、どちらもR国の国民所得(national income)である。R国政府は国民所得最大化を目指すべきである。税収最大化を目指すわけではない。

S国に投資した場合の利益率をrS、R国に投資した場合の利益率をrRとする。
rS=10%、rR=6% →S国に投資することが国民所得最大化の観点からR国にとって望ましい。
rS=10%、rR=8% →R国に投資することが国民所得最大化の観点からR国にとって望ましい。

国際的二重課税が放置されているとして、rS=10%、rR=6%の場合、
 S国に投資すればR国国民所得は7%、R氏の税引後利益率はrS(1−0.3−0.4)=3%
 R国に投資すればR国国民所得は6%、R氏の税引後利益率はrR(1−0.4)=3.6%
 R氏はR国に投資してしまい、R国の国民所得が最大化されない。

cf. rS=10%、rR=8%の場合、
 S国に投資すればR国国民所得は7%、R氏の税引後利益率はrS(1−0.3−0.4)=3%。
 R国に投資すればR国国民所得は8%、R氏の税引後利益率はrR(1−0.4)=4.8%。
 R氏はR国に投資するので、R国国民所得最大化の観点からはそのままでよい。
 (全世界的な観点からはそのままであるとまずい。後述)

rS=10%、rR=6%の場合、R国国民所得最大化の観点からはS国投資が望ましいのに、税制がR氏の投資先選択をまずい方向に誘導してしまう。
R国国民所得の観点からは、S国投資の利益率はrS(1−0.3)であり、R国投資の利益率はrRである。
R氏がR国の課税を受ける前にこれと同じ状況に直面するように仕向ければよい。
そこで、R氏がS国で支払った税を所得から控除(deduction)するとする。
rS=10%、rR=6%の場合、
 S国に投資すればR氏の税引後利益率はrS(1−0.3)(1−0.4)=4.2%。
 R国に投資すればR氏の税引後利益率はrR(1−0.4)=3.6%。
 R氏はS国に投資するようになり、R国国民所得最大化の観点からも望ましい。

cf. rS=10%、rR=8%の場合、
 S国に投資すればR氏の税引後利益率はrS(1−0.3)(1−0.4)=4.2%。
 R国に投資すればR氏の税引後利益率はrR(1−0.4)=4.8%。
 R氏はR国に投資するようになり、R国国民所得最大化の観点からも望ましい。

R国国民所得最大化の観点からS国投資とR国投資との選択に中立的になることを国家中立性(NN: National Neutrality)という。

資本輸出国が自国の経済厚生のみを考えるならば国家中立性の観点から国外源泉所得につき当該外国における税額を自国の課税の前に所得控除(損金算入)させるべきである。
外国税額損金算入(deduction method)(又は外国税額所得控除)

資本輸出中立性
国家中立性による外国税額損金算入制度は、資本輸出国の立場からは最適(optimal)な税制であるが、全世界的な視点からは最適ではない
rS=10%、rR=8%の場合 外国税額損金算入だとR氏はR国に投資するようになる。しかし全世界的な視点からはS国投資が望ましい。

全世界的な資源配分の効率性の観点からは、税引前利益率が高い方への投資を仕向けるべき。
R氏の視点からは、税引後利益率が高い方に投資する。
課税が、税引前利益率の高い方へのR氏の投資を妨げないようにするべき。
 →R氏がS国に投資してもR国に投資しても同じ税率に直面するようにするべき。
   これを資本輸出中立性(CEN: Capital Export Neutrality)という。
 →R氏がS国に投資してもR国に投資しても最終的にR国の税率に直面するようにするべき。
 →R氏がS国に投資した場合、S国の税額をR国の税額から控除(credit)するべき。
 →外国税額控除(credit method)

R氏がS国で100の所得を稼いだ場合、S国の税額は30、R国の税額は元々は40だがそこからS国税額30を控除するので、最終的なR国の税額は10になる。

rS=10%、rR=8%で外国税額控除制度が採用されている場合
 S国に投資すればR氏の税引後利益率はrS{1−0.3−(0.4−0.3)}=6%。
 R国に投資すればR氏の税引後利益率はrR(1−0.4)=4.8%。
 R氏はS国に投資するようになり、全世界的な視点からも望ましい。

もしS国の税率が50%だったら?
R氏がS国で100の所得を稼いだ場合、S国の税額は50、R国の税額は元々は40だがそこからS国税額50を控除するので、最終的なR国の税額は-10になるべき、つまりR国がR氏に10還付すべき。
しかし、資本輸出中立性の趣旨をそこまで貫徹する税制を採用する国は少ない。
通常、外国税額控除は自国の税率を上限とすることが多い。

資本輸入中立性
外国税額控除制度でも二重課税は排除される。
しかし、R国の企業であるR社がS国で事業を行なう場合、現地企業(S国の企業)であるS社と比べて、税制上異なる扱いを受けてしまう。
S国市場で競争する企業がどこの国の居住者であるかによって競争条件が異なってはならないということを競争中立性という。

R国がR社のS国源泉所得に課税しなければ、R社は現地企業のS社(或いは第三国である例えばT国のT社)と同じ条件でS国において競争することができるようになる。
 →国外所得免税(exemption method)

資本輸入中立性(CIN: Capital Import Neutrality)は、国外所得免税の制度の下では、R国からS国に投資することとS国からS国に投資することとが等しい扱いを受けるということである。

注意 競争中立性と資本輸入中立性とが同視されることがあるが、微妙に異なる。
競争中立性は事業を行なう場面を想定している。
資本輸入中立性は資本を輸入する場面(投資の場面)を想定している。

資本輸入中立性は投資家の貯蓄と消費との間の選択についての中立性である。
資本輸出中立性は投資家の資本投下先選択についての中立性である。
貯蓄率より資本投下先選択の方が税制の影響を強く受けると考えられており、伝統的に経済学者は資本輸入中立性より資本輸出中立性を重視する(国外所得免税より外国税額控除制度を勧める)。

OECDモデル23条 国外所得免税、外国税額控除
各国が自国の経済厚生の最大化のみを考えるならば、国家中立性の考えにより外国税額損金算入方式を採用することが予想される。だが外国税額損金算入方式では国際的二重課税が排除されない。
税引前のR国の利益率とS国の利益率が同じであったとしても 
 R国→S国投資は、R国→R国投資より不利である(資本輸出中立性の観点)。
 R国→S国投資は、S国→S国投資より不利である(資本輸入中立性の観点)。

租税条約は主に2つの役割を担う。
●S国における源泉課税管轄を抑制する。
  (事業所得についてPEなければ課税なし、資本所得について税率を低くする)
●それでも残る国際的二重課税からの救済を、居住課税管轄を有すR国に義務づける。
  (OECDモデル23条は2つの方式を併記している。実際の二国間条約はどちらかを採用する)

23A条 免除方式・国外所得免税
23B条 税額控除方式・外国税額控除

なお、23A条が国外所得免税を採用しているといっても、2項が、10条・11条の配当・利子について外国税額控除を定めている。完全な国外所得免税を採用することは殆どない。
また、3項は、国外所得免税はS国で課税されることを条件としている。
日本の法人税法69条・所得税法95条及び日本が締結する租税条約は外国税額控除を採用している。

8.3.1.2. 法人税法69条

8.3.2. 税額控除されるべき外国の租税

8.3.2.1. 「外国法人税」の意義(⇒COLUMN8-7ガーンジー)

8.3.2.2. 控除対象法人税の範囲

8.3.2.3. 「納付することとなる場合」

8.3.3. 控除限度額

8.3.3.1. 控除限度額の意義

法人税額×(国外所得金額÷所得金額)日本税率×国外所得金額

R国のR社がS国とT国からそれぞれ100ずつの所得を得た場合は?
税率は、R国=40%、S国=30%、T国=50%とする。

国別限度額方式 S国源泉所得について、S国で30納税、控除限度額は40、R国では10納税。
T国源泉所得について、T国で50納税、控除限度額は40、R国では還付なし。
Cf.バスケット方式(所得項目別限度額方式)は省略
一括限度額方式(日本はこちら。ただし無制限ではない)
S国源泉所得もT国源泉所得も国外源泉所得としてひとまとめにする。
S国で30納税、T国で50納税、控除限度額は80なので外国税額全て控除、R国では納税なし。

一括限度額方式の下では、低税率国からの所得を得ている企業に、外国税額控除の余裕枠が生ずる。
この余裕枠があれば、日本企業は安心して高税率国へも進出できる(彼此[ひし]流用という)。
一括限度額方式であると二重課税からの救済という趣旨以上の利益を納税者に与えてしまう(二重課税防止の観点からは、T国で50%の課税を受けてしまうことが仕方ない)が、国別限度額方式は実務上煩瑣。

名古屋地判令和3年12月8日税資271号順号13641(最決令和4年10月6日で確定)
 X(原告。日本居住者。年金受給者)が平成28及び30年にブラジル国債を保有し、国内における支払の取扱者(A証券)を通じて利子の支払を受けた。国内源泉所得に係る所得税率は5%であった。
 平成28年:利子75万6065円、所得税11万5790円、住民税3万7802円、交付額60万2473円。確定申告:外国税額控除額11万3410円(=75万6065円×15%)。増額更正処分:外国税額控除額5万4524円(所得税法95条1項5万3403円。復興財源確保法14条1項1121円)。
 平成30年:利子80万2958円、所得税12万2972円、住民税4万0147円、交付額63万9839円。確定申告:外国税額控除額16万0591円(=80万2958円×20%)。増額更正処分:外国税額控除額5万3759円(所得税法95条1項5万2654円。復興財源確保法14条1項1105円)。
 規定 所得税法施行令222条1項…は、外国税額控除限度額は、同項の居住者のその年分の所得税の額…に、その年分の所得総額…のうちにその年分の調整国外所得金額…の占める割合を乗じて計算した金額とする旨を規定する。
 争点 Xが所得税法95条1項、所得税法施行令222条1項を適用して外国税額控除限度額を計算したことが日伯租税条約に反せず適法であるか。
 判旨 日伯「条約22条1項(a)(i)ただし書は、外国税額控除限度額について、『日本国の租税の額のうち、その所得に対応する部分を超えないものとする。』と規定するにとどまり、同条約中に『その所得に対応する部分』の定義やその具体的な計算方法を定める規定はなく、その適用方法に関する規定もないから、同条項から具体的な控除限度額を計算することはできず、同条項の規定を直接適用することはできない。かえって、同条約2条2項においては、一方の締約国がこの条約を適用する場合には、特に定義されていない用語は、文脈により別に解釈すべき場合を除くほか、この条約が適用される租税に関するその締約国の法令上有する意義を有するものとするとされていることや、そもそも国際的二重課税の問題は低い税率の国の実効税率の範囲内で生じ、通常の税額控除方式における外国税額控除限度額は国外所得金額に国内の実効税率を乗じて計算されるものであること(略)に照らしても、日伯租税条約は、ブラジルで納付した租税の外国税額控除限度額の計算については日本の法令に従うことを予定しているものと解される。」
 「ブラジル国債の利子を取得した日本の居住者に対する所得税の外国税額控除限度額の計算に当たっては、日本の所得税等の関係法令が適用されるべきものであり、我が国においては所得税法95条1項及びその委任を受けた同法施行令222条1項の規定を適用して外国税額控除限度額の計算がされることになるから、原告の本件各年分の所得税における本件ブラジル国債の利子に係る外国税額控除の計算にこれらの規定を適用することが日伯租税条約に違反するものとはいえない。」
 「原告は、みなし外国税額である外国所得税額につき、本件ブラジル国債に係る利子の額はブラジルで20%の割合で納税がされたものとみなされた後のものとすべきであり、日本で支払われた利子の金額の25%(=現に支払われた利子の金額÷80%×100%)×20%)と計算されるべきであると主張するが、日伯租税条約22条2項(b)(i)は、外国税額控除の適用上、ブラジルの租税として20%の税率で納付したものとみなして控除する旨を定めた規定であるから、外国所得税額を日本で支払われた利子の金額の20%として計算することに誤りはなく(略)、原告の上記主張は採用することができない。」

8.3.3.2. 控除限度額を超えた外国法人税の扱い・余裕枠の扱い

6版§143.03外税控除余裕枠りそな銀行事件・最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁

8.3.4. 恒久的施設を有する外国法人に対する外国税額控除(法税144条の2)

8.3.5. 外国子会社への投資――間接外国税額控除から外国子会社配当益金不算入へ(法税23条の2)jv

R社がS国に支店を設置→S国課税についてR社はR国で外国税額控除による救済を受ける。
R社がS国に子会社を設置→子会社のS国課税について、S国で納税したのはR社ではなく子会社であるので、R社が直接R国で外国税額控除の救済を受けることはできない。(課税の中立性に反す)

間接外国税額控除…旧法人税法69条8項
 R社が外国子会社から配当を受け取るとき、子会社の外国税額も税額控除の対象とする。

2009年から外国子会社配当益金不算入……法税23条の2(cf.国内5.2.2.3.e.
 R社が外国子会社から配当を受け取るとき、R社の課税所得に(殆ど)含めない。日本は全世界所得課税+外国税額控除方式という体系を採用しているが、子会社形態での海外進出に関しては事実上の国外所得免除方式に近づいた。(間接外国税額控除が無くなった訳ではない)

R社がS国子会社の株式を譲渡した場合には一定の条件の下で日本の課税を受けることがあり、配当か株式譲渡益かという利益還流方法の違いによる非中立性が残ってしまっている。

8.4. 節税インセンティブへの対抗措置

8.4.1. 基本的視点

8.4.2. 移転価格税制(transfer pricing)jx

8.4.2.1. 移転価格税制とは何か(国内⇒§322.03清水惣、PE⇒8.2.4.3.c.、50%以上og)

租税特別措置法66条の4(国外関連者との取引に係る課税の特例) 法人が……当該法人に係る国外関連者(外国法人で、当該法人との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式又は出資……の総数又は総額の百分の五十以上の数又は金額の株式又は出資を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める特殊の関係……のあるものをいう……)との間で資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引を行つた場合に、当該取引……につき、当該法人が当該国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき、又は当該法人が当該国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、当該法人の当該事業年度の所得に係る同法その他法人税に関する法令の規定の適用については、当該国外関連取引は、独立企業間価格[arm's length price]で行われたものとみなす。
2 前項に規定する独立企業間価格とは、国外関連取引が次の各号に掲げる取引のいずれに該当するかに応じ当該各号に定める方法のうち、当該国外関連取引の内容及び当該国外関連取引の当事者が果たす機能その他の事情を勘案して、当該国外関連取引が独立の事業者の間で通常の取引の条件に従つて行われるとした場合に当該国外関連取引につき支払われるべき対価の額を算定するための最も適切な方法により算定した金額をいう。
 一 棚卸資産の販売又は購入 次に掲げる方法
  イ 独立価格比準法[CUP法comparable uncontrolled price method(米CUT法comparable uncontrolled transaction)](特殊の関係にない売手と買手が、国外関連取引に係る棚卸資産と同種の棚卸資産を当該国外関連取引と取引段階、取引数量その他が同様の状況の下で売買した取引の対価の額(当該同種の棚卸資産を当該国外関連取引と取引段階、取引数量その他に差異のある状況の下で売買した取引がある場合において、その差異により生じる対価の額の差を調整できるときは、その調整を行つた後の対価の額を含む。)に相当する金額をもつて当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう。)
  ロ 再販売価格基準法[RP法resale price method](国外関連取引に係る棚卸資産の買手が特殊の関係にない者に対して当該棚卸資産を販売した対価の額(以下この項において「再販売価格」という。)から通常の利潤の額(当該再販売価格に政令で定める通常の利益率を乗じて計算した金額をいう。)を控除して計算した金額をもつて当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう。)
  ハ 原価基準法[CP法cost plus method](国外関連取引に係る棚卸資産の売手の購入、製造その他の行為による取得の原価の額に通常の利潤の額(当該原価の額に政令で定める通常の利益率を乗じて計算した金額をいう。)を加算して計算した金額をもつて当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう。)
  ニ イからハまでに掲げる方法に準ずる方法その他政令で定める方法
 二 前号に掲げる取引以外の取引 同号イからニまでに掲げる方法と同等の方法  [3項以下略]


定式分配法(formulary apportionment)とは
関連会社の関係にあるP社とS社の合計で600の利益が上がっているとする。P社の資産が6000、労働者の賃金が3000、S社の資産が4000、労働者の賃金が7000であるとする。
資産のみに比例させて利益を本支店間で配分する場合、S社の利得は次のようになる。
600×4000÷(6000+4000)=240
資産と賃金の両方を加味して本支店間で配分する場合、S社の利得は次のようになる。
600×(4000÷(6000+4000)+7000÷(3000+7000))÷2=330
 (資産と賃金とをどのようにウエイト付けするか、という問題もあるがここでは省略する)

8.4.2.2. わが国の移転価格税制の概要

8.4.2.2.a. わが国の移転価格税制の構造
8.4.2.2.b. わが国の移転価格税制の概要

8.4.2.3. 移転価格税制の適用要件

8.4.2.3.a. 国外関連者
8.4.2.3.b. 独立企業間価格の算定方法@――基本三法
かつて2項1号柱書は「棚卸資産の販売又は購入 次に掲げる方法(ニに掲げる方法は、イからハまでに掲げる方法を用いることができない場合に限り、用いることができる。)」となっていたが、平成23年改正後は( )内が削除されており、「基本三法優先の原則」がなくなり「『最も適切な方法』を用いるべき旨の原則」に変わった。
↑ OECD移転価格ガイドライン(OECD Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations)2010年7月22日版(最新版は2017年7月10日版)の「最も適当な方法most appropriate method」勧告(米国のbest method ruleに相当)を受け入れた。

今治造船事件松山地判平成16年4月14日平成11(行ウ)7号訟月51巻9号2395頁棄却(今村隆・ジュリスト1289号236頁)・高松高判平成18年10月13日平成16(行コ)17号訟月54巻4号875頁棄却・最決平成19年4月10日平成19(行ツ)34号棄却、不受理……独立価格批准法(CUP法:comparable uncontrolled price method)を適用した事例。
立証責任に関する一審判旨……「棚卸資産の売買取引に関して独立企業間価格を算定する方法には、「独立価格比準法」の他に、@国外関連取引に係る棚卸資産の買手が、その棚卸資産を特殊関係にない者に対して販売した価格(再販売価格)から通常の利潤の額を控除した金額をもって独立企業間価格とする「再販売価格基準法」(本件規定第2項1号ロ)、A国外関連取引に係る棚卸資産の売手が、その棚卸資産の購入、製造等による取得の原価の額に通常の利潤の額を加算して計算した金額をもって独立企業間価格とする「原価基準法」(本件規定第2項1号ハ)、3「その他の方法」(本件規定第2項1号ニ)が認められているところ、課税庁が、独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法のいずれの方法を採るべきかについては、何らの規定がなく、課税庁の判断に委ねられているところである。[改行]   しかも、本件では、原告から、独立企業間価格を算定するにつき、独立価格比準法を用いるよりも、上記の@ないしBの方法によることが、より適切であり、優れているとの主張、立証もされていないから、被告が、本件各取引に係る独立企業間価格を算定について、独立価格比準法を採用したこと自体には、特に、問題もない。」

日本圧着端子事件・大阪地判平成20年7月11日平成16(行ウ)152号判タ1289号155頁一部棄却、一部却下(平石雄一郎・ジュリスト1399号171頁)・大阪高判平成22年1月27日平成20(行コ)126号税資260号順号11370棄却確定……租税特別措置法66条の4第2項1号ハの原価基準法の適用事例。
課税庁が移転価格税制を適用するに際し国外所得移転の蓋然性を認定するなどの事前手続履践は必要か(消極)。
取引規模の拡大に伴って値引き圧力が加わる関係は取引社会における経験則に照らして一般的に首肯し売るものであるところ、納税者の国外関連者に対する売上金額の全体に占める割合が約50%に達するなどの事情の下においては、取引規模に着目して比較対象取引との際を調整すべきであるとされた事例。

ワールド・ファミリー事件東京地判平成29年4月11日平成21(行ウ)472号百選7版76(錦織康高・ジュリスト1516号10頁、佐藤修二・ジュリスト1516号44頁、大野雅人・ジュリスト1536号118頁)……ディズニー・キャラクターを用いた英語教材を外国関連会社から仕入れて日本で訪問販売していた。ディズニー・キャラクターのロイヤリティに関する差異調整が不十分であり課税処分が取消された事例。
8.4.2.3.c. 独立企業間価格の算定方法A――その他の方法
8.4.2.3.c.ア. PS法(利益分割法: profit split method)
8.4.2.3.c.ア.1. 比較利益分割法(comparable profit split method)(租特令39条の12第8項1号イ)
8.4.2.3.c.ア.2. 寄与度利益分割法(contribution profit split method)(租特令39条の12第8項1号ロ)
エクアドルバナナ事件・東京地判平成24年4月27日平成21(行ウ)581号訟月59巻7号1937頁請求棄却(神山弘行・ジュリスト1445号8頁、袴田裕二・ジュリスト1475号124頁)・東京高判平成25年3月28日平成24(行コ)229号税資263号順号12187控訴棄却・最決平成27年1月16日税資265号順号12587不受理確定……税務署長Yは、フィリピン産バナナを輸入している会社の取引を比較対象取引として基本三法の何れかを適用することを検討した(当時は基本三法優先の原則であった)。しかしエクアドル政府の規制(最低輸出価格)により適切な差異調整ができないと判断し、寄与度利益分割法を用いた。裁判所も、基本三法を適用できない場面であることを認め、寄与度利益分割法の適用を認めた。(⇒8.4.2.3.d.立証責任)
8.4.2.3.c.ア.3. 残余利益分割法(residual profit split method)(租特令39条の12第8項1号ハ)
本田技研工業マナウス自由貿易地域事件東京地判平成26年8月28日平成23(行ウ)164号税資264号順号12520請求一部認容・東京高判平成27年5月13日平成26(行コ)347号税資265号順号12659控訴棄却確定百選7版77(渡辺充・ジュリスト1476号8頁、高久隆太・ジュリスト1485号10頁、水野忠恒・国際税務35巻3号43頁、駒宮史博・ジュリスト1488号136頁、岡村忠生・税研186号81頁)……原告日本法人のブラジル関連会社がブラジルの自動二輪車市場において利益を上げているのは日本法人の無形資産の貢献が大きいからではなくブラジルのマナウス自由貿易地域における税制上の恩典利益によるものである、とする原告の主張が概ね認められた事例。

上村工業事件・(第1事件)東京地判平成29年11月24日平成25(行ウ)263号訟月65巻12号1665頁棄却[リンク先の「相続税更正処分等取消請求控訴事件」は誤記であろう](今村隆・ジュリスト1530号131頁)・東京高判令和元年7月9日平成29(行コ)382号訟月65巻12号1745頁棄却・(第2事件)東京地判令和2年2月28日平成27(行ウ)535号税資270号順号13386棄却確定
 原告(X社)はめっき薬品の製造・販売を営む日本法人である。台湾子会社たるA社とX社はめっき薬品のライセンス契約を締結し、A社は自社が保有する台湾工場でめっき薬品を製造し、直接またはシンガポール法人C社(X社の子会社)を介して非関連者に販売し、A社はX社に5%のライセンス料を支払った(マレーシア子会社たるB社ともどうようの取引をしているが省略)。X社は、子会社ではない韓国法人K社ともめっき薬品のライセンス契約を締結していた。日本の税務署長は租税特別措置法施行令39条の12第8項「残余利益分割法と同等の方法」によって算定した価格が独立企業間価格であるという前提で法人税の更正処分等をした。
 第1事件一審判旨 X-A取引とX-K取引「とでは,その取引の対象たる無形資産等が『同種』のものということはできない。」X-A取引とX-K取引「に係る状況を比較すると,……その取引の対象たる無形資産等の対価の額に影響を及ぼす差異が存在する。そして,その影響を具体的に把握することは極めて困難であって,生じる対価の額の差を調整できるとはいえないから,両取引が『同様の状況』の下でされたものということはできない。」
 「件国外関連取引については,原告及びその国外関連者が有する重要な無形資産が利益獲得に寄与していることからすれば,その独立企業間価格の算定には,基本的利益を配分した上で残余利益を重要な無形資産の価値に応じて配分する残余利益分割法と同等の方法を用いるのが合理的であるということができる。」
 (控訴審判決も一審判決を引用した)
 第2事件判旨 「本件ライセンス取引及び本件棚卸資産販売取引のいずれについても,基本三法又は基本三法と同等の方法を用いてその独立企業間価格を算定することはできない」。
 「本件国外関連取引自体を1つの単位とした上で,残余利益分割法及び残余利益分割法と同等の方法を用いてその独立企業間価格を算定することは,本件国外関連取引の独立企業間価格を算定するための合理的な方法であると認められる。[改行] そして,本件においては,残余利益分割法及び残余利益分割法と同等の方法以外の本件国外関連取引の独立企業間価格を算定するために用いるべき適切な方法が存する具体的な蓋然性があることをうかがわせる事情等は見当たらないから,被告が,残余利益分割法及び残余利益分割法と同等の方法を用いて本件国外関連取引の独立企業間価格を算定したことは,適法である。」

日本ガイシ事件東京地判令和2年11月26日平成28(行ウ)586号一部認容、一部棄却・東京高判令和4年3月10日令和3(行コ)25号控訴棄却(林幸一「残余利益計算法の利益分割要因」新・判例解説Watch租税法No.171、南繁樹・国際税務42巻8号74頁・10号98頁、片平享介・ジュリスト1582号10頁)
 日本法人たる原告(X社)はセラミックス製ディーゼル車用微粒子除去フィルターに関する特許権等の無形資産を有していた。欧州におけるディーゼル車排ガス規制を遵守するに当たり当該特許の実施は不可欠であったため、X社の間接子会社たるポーランド法人B社の売上は莫大になった。B社の超過利益が主にX社保有の無形資産に由来すると考えればB社はX社に多額の使用料を支払うべきであり(日本の国税庁の立場)、超過利益が主に欧州の規制によると考えればB社からX社に利益を移転する必要はない(X社の立場)。裁判所は大筋でX社の主張を認めた。
 控訴審判旨 「残余利益分割法は,措置法施行令39条の12第8項1号に定める利益分割法の一種であるところ,同号の規定によれば,利益分割法は,分割対象利益が,国外関連取引に係る棚卸資産の購入,製造,販売その他の行為のために法人又は国外関連者が支出した費用の額,使用した固定資産の価額その他これらの者が分割対象利益の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因(分割要因)に応じて,当該法人及び当該国外関連者に帰属するものとする方法であり……,また,同号の規定を具体化するものとして定められた措置法通達66の4(4)−2は,利益分割法の適用に当たり用いる分割要因につき,法人又は国外関連者が支出した人件費等の費用の額,投下資本の額など,これらの者が当該分割対象利益の発生に寄与した程度を推測するにふさわしいものを用いるものとし,分割要因が複数ある場合には,それぞれの要因が分割対象利益の発生に寄与した程度に応じて合理的に計算するものとしている……。」
8.4.2.3.c.イ. TNMM(取引単位営業利益法:transactional net margin method)(租特令39条の12第8項2号)
8.4.2.3.c.ウ. DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法:Discount Cash Flow method)
COLUMN8-1 移転価格税制と独立当事者間基準[Arm's Length Standard]@――個別取引の価格から企業全体の利益水準へ
藤枝純「残余利益分割法をめぐる実務上の諸問題」金子宏編『租税法の発展』679頁(有斐閣、2010);渡辺裕泰「無形資産が絡んだ取引の移転価格課税―TNMM(取引単位営業利益法)導入の必要性」ジュリスト1248号72頁参照。
8.4.2.3.d. 独立企業間価格の算定方法の選択に関する立証責任
今村隆「移転価格税制における独立企業間価格の立証――最近の裁判例を素材にして――」租税研究2009年5月号245頁、弘中聡浩「租税証拠法の発展――証明責任に関する問題を中心として」金子宏編『租税法の発展』463頁(有斐閣、2010)等参照。

アドビシステムズ事件・東京地判平成19年12月7日平成17(行ウ)213号訟月54巻8号1652頁(教科書341頁は恐らく誤記)請求棄却・東京高判平成20年10月30日平成20(行コ)20号原判決取消、請求認容、確定、百選6版71
事業再編前             | 事業再編後
                  |
顧客―――日本法人――アメリカ法人 | 顧客―┬―アイルランド法人――アメリカ法人
                  |   日本法人


 高裁判旨 「控訴人[日本法人]は、本件各業務委託契約に基づき、@既存のP3製品の販売促進及び新規のP3製品の紹介及び説明のために、卸売業者を訪問して顧客等を誘導し、AP3製品のマーケティングの費用を負担し、マーケティング資料を作成して、マーケティングを行い、B本件国外関連者による日本でのP3製品の販売促進及び宣伝広告を支援し、C卸売業者、ディーラー及びエンドユーザーに対しP3製品のトレーニングコースを提供し、D顧客に対しサポートサービスを提供するなどの役務提供行為を行っていたこと、本件各業務委託契約上、控訴人の報酬は、日本における純売上高の1.5パーセント並びに控訴人のサービスを提供する際に生じた直接費、間接費及び一般管理費配賦額の一切に等しい金額と定められていたことが認められる。[改行]  また、控訴人は在庫リスクを負担せず、顧客からの債権回収リスクも負担していないことは前示のとおりである。」
 「本件国外関連取引において控訴人が果たす機能と、本件比較対象取引において本件比較対象法人が果たす機能とを比較するに、上記認定事実のとおり、本件国外関連取引は、本件各業務委託契約に基づき、本件国外関連者に対する債務の履行として、卸売業者等に対して販売促進等のサービスを行うことを内容とするものであって、法的にも経済的実質においても役務提供取引と解することができるのに対し、本件比較対象取引は、本件比較対象法人が対象製品であるグラフィックソフトを仕入れてこれを販売するという再販売取引を中核とし、その販売促進のために顧客サポート等を行うものであって、控訴人と本件比較対象法人とがその果たす機能において看過し難い差異があることは明らかである。」
 「被控訴人[国]は、本件国外関連取引が仕入販売取引でなく役務提供取引であることを前提に、P3製品の販売において控訴人の果たしている機能及び負担しているリスクが、受注販売方式を採る再販売取引における再販売者の機能及びリスクと類似しているので、本件算定方法は、再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法に当たると主張し、控訴人と異なる再販売者固有の機能は、上記販売促進の機能から純粋な商品の受発注及び配送手配、仕入金額の支払及び販売代金の受領等の事務処理作業にすぎず、このような事務処理作業を通じて商品の取引価格や売上総利益率に影響するような多大な利益が生じ得ることは想定し難いとし、したがって、控訴人の利益率を算定するには、モノとサービスを販売する本件比較対象取引の利益率からモノを販売する取引の利益率を控除する必要はないとしている。
  しかしながら、再販売業者が行う販売促進等の役務の内容が控訴人の提供する役務の内容と類似しているとしても、およそ一般的に価格設定にかかわるそれ以外の被控訴人主張の上記要因等が単なる事務処理作業としてほとんど考慮する必要がないものとはいい難いのであって(本件において、考慮する必要性がないことを裏付けるに足りる具体的な証拠はない。)、本件役務提供取引において控訴人の果たす機能と本件比較対象法人の果たす機能との間には捨象できない差異があるものといわざるを得ない。
  また、上記のとおり控訴人はグラフィックソフトの販売を行っていないから、収受すべき手数料にはグラフィックソフトの販売利益が含まれないことになるのに対し、本件比較対象法人の総売上利益率にはグラフィックソフトの販売利益も含まれることになる。すなわち、控訴人は上記の役務提供に見合った利益を取得すべきことになるのに対し、本件比較対象法人は再販売取引及び販売促進等の役務提供に見合った利益(その売上総利益率が、本件算定方法において用いられる「通常の利益率」(租税特別措置法66条の4第2項第1号ロ、同項第2号ロ、租税特別措置法施行令39条の12第6項)である。)を取得することになるものと解されるのであり、本件比較対象法人の行う役務提供の内容が本件国外関連取引において控訴人が行う役務提供内容と類似しているとしても、本件比較対象法人は、製品の再販売(卸売・小売)も行っているのであり、その総利益には製品の再販売の利益も含まれることになる。これに対して、本件国外関連者と特殊の関係のない卸売業者がP3製品を仕入れて、販売利益を得て再販売し、これと平行して控訴人がリセラー(小売業者)に対して販売促進等を行うことにより本件国外関連者に役務を提供していることになる場合においても、卸売業者は再販売利益を得ているのであり、一方、控訴人には製品を再販売することによる利益はないことになるのであるから、本件算定方法のように、我が国におけるP3製品の売上高に本件比較対象法人の売上総利益率を乗じて得られる利益額の中には、卸売業者が本件国外関連者からP3製品を仕入れて小売店等に再販売して取得する販売利益も含まれている蓋然性が高いというべきである。」
 「本件国外関連取引において控訴人が負担するリスクと、本件比較対象取引において本件比較対象法人が負担するリスクとを比較するに、控訴人は、本件各業務委託契約上、本件国外関連者から、日本における純売上高の1.5パーセント並びに控訴人のサービスを提供する際に生じた直接費、間接費及び一般管理費配賦額の一切に等しい金額の報酬を受けるものとされ、報酬額が必要経費の額を割り込むリスクを負担していないのに対し、本件比較対象法人は、その売上高が損益分岐点を上回れば利益を取得するが、下回れば損失を被るのであって、本件比較対象取引はこのリスクを想定(包含)した上で行われているのであり、控訴人と本件比較対象法人とはその負担するリスクの有無においても基本的な差異があり、これは受注販売形式を採っていたとしても変わりがない。本件比較対象取引において、この負担リスクが捨象できる程軽微であったことについては、これを認めるに足りる的確な証拠はない。」

 かつてはアドビ(アメリカ系多国籍企業グループ)の日本法人が日本の顧客相手に販売機能を担っていたが、事業再編(business reorganization)後、販売機能をアイルランド法人に移転し、日本法人は補佐的な役割を担うだけとなった。事業再編後、日本法人の担う機能が小さいため、日本法人に帰属する所得も小さい、とする納税者側の主張を高裁は認めた。
 これは日本だけでなくOECD加盟国共通の課題であり、事業再編にどう対処していくか、という形で議論されている。
 アメリカで課税庁側敗訴例としてXilinx v. Commissioner, 125 T.C. 37 (2005); reversed by 567 F.3d 482 (9th Cir., May 27, 2009), withdrawn by 592 F.3d 1017 (9th Cir., January 13, 2010); affirmed by 598 F.3d 1191 (9th Cir., March 22, 2010)及びVeritas Software Corp. v. Commissioner, 133 T.C. No. 14 (Dec. 10, 2009)が知られている。居波邦泰「米国のコスト・シェアリング契約に係る移転価格訴訟への考察──ザイリンクス事案及びベリタス事案」租税研究2010年12月266-329頁;神山弘行「ザイリンクス事件米国連邦第9巡回控訴裁判所判決」中里実他『移転価格税制のフロンティア』308頁;渕圭吾「ヴェリタス事件米国租税裁判所判決」中里実他『移転価格税制のフロンティア』341頁等参照。類似論点(規則改正後)で課税庁側勝訴事例としてAltera Corporation and Subsidiaries v. Commissioner, 145 T.C. 91 (2015.7.27); reversed by 926 F.3d 1061 (9th Cir., 2019.6.7); rehearing denied by 941 F.3d 1200 (9th Cir., 2019.11.12); certiorari denied on (Supreme Court, 2020.6.22)がある。
 また、移転価格ではないが、適法な所得移転の例として保険料を国外関連企業に支払うという手法がある。ファイナイト事件・東京地判平成20年11月27日判時2037号22頁(渕圭吾・ジュリスト1400号173頁、水野忠恒・国際税務2010年11月号37頁)・東京高判平成22年5月27日判時2115号35頁(確定)(浅妻章如・判例時報2133号162頁)。

エクアドルバナナ事件・東京高判平成25年3月28日(⇒8.4.2.3.c.ア.2.)
8.4.2.3.e. 評価困難な無形資産取引に係る価格調整措置(HTVI: Hard-To-Value Intangibles)
COLUMN8-2 移転価格税制と独立当事者間基準A――基礎概念の再考の必要性
渕圭吾「移転価格税制の法理上の基礎について」金子宏=中里実編『租税法と民法』311頁(有斐閣、2018)、浅妻章如「BEPS: value creationとarm's lengthとの異同、次にvalue creation基準の難点」税大ジャーナル27号35頁(2017)

8.4.2.4. 移転価格税制適用の効果

8.4.2.4.a. 損金面における処理
8.4.2.4.b. 対応的調整
 A国税率20% 卸売価格? B国税率40%
仕入200→P社→→自動車→→S社→消費者へ1000
製造費用400      販売費用100
     ↓
     ↓  卸売価格800
     →→→自動車→→第三者→消費者へ1000


 P・S社間で、自動車の卸売価格が750であるとして取引がなされたとする。そのままならば、P社の所得は150、S社の所得は150であることになる。
 ここで、B国は卸売価格が不当に吊り上げられているとし、移転価格税制を適用して独立当事者間価格は710であるべきであるとする。そして、S社の所得は150ではなく190であるべきである、として更正処分をする。
 B国でS社に190の所得が帰属するという処分がなされたので、A国においてもP社への課税に際して卸売価格が710であったとし、P社の所得は150ではなく110であるに過ぎない、と調整してもらわなければ、差額の40の所得に対して二重課税が発生してしまう。
 A国とB国とで、算定される独立当事者間価格が異なることはありうる。B国の課税当局が勝手に独立当事者間価格は710であると考えたからといって、A国の課税当局も独立当事者間価格が710であると考え直さねばならない、というものではない。A国の課税当局が真摯に算定した結果独立当事者間価格は750のままであると考えるならば、P社の所得は110ではなく150のままである、とする認定に基づいた課税がA国における正しい課税である。また、A国で独立当事者間価格が750のままであると考えられたからといって、B国において独立当事者間価格は710であるとしてなした更正処分が直ちに違法となるものでもない。国際社会では正しい答えが2つ以上存在する、ということがしばしばある。
 しかし二重課税を放置するのは納税者にとって酷である。納税者はいかがわしいことをして課税を免れようとしているとは限らない。A国・B国の所得税率が同じで、どちらにも赤字がない場合、納税者としてはどちらに納税しても同じである。二重課税が発生することが困るだけである。日米租税条約9条2項等、対応的調整を行うべき旨を規定することもある。(Cf.租税条約実施特例法7条1項)
 そこで、必要があれば両国の権限ある当局(competitive authority)が協議して、独立当事者間価格を両国で一致させるようにすることがある。→25条相互協議(MAP: mutual agreement procedure⇒8.5.4.) →更に25条5項仲裁(arbitration)も。(cf.日米仲裁手続実施取決め)

東京高判平成8年3月28日判時1574号57頁百選4版71……国内法に対応的調整の規定が欠けていた時であっても、日米租税条約に基づく対応的調整のための(トヨタの)法人税額減額更正処分(地方税の還付も含む)は適法であり、(神奈川県座間市について)地方税条例主義に違反することもない。

8.4.2.5. 事前確認手続(APA)(advance pricing arrangement)(MAP: mutual agreement procedure:相互協議)

8.4.2.6. 移転価格文書化と推定課税等

8.4.2.6.a. 総論
8.4.2.6.b. 事業概況報告事項(マスターファイル)
8.4.2.6.c. ローカルファイル(独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類)と推定課税および同業者調査
移転価格税制の適用にあたり推定課税(租特法66条の4第7項)が認められた事例としてエスコ事件・東京地判平成23年12月1日平成19(行ウ)149号訟月60巻1号94頁請求棄却百選6版73(宮塚久・ジュリスト1442号8頁、駒宮史博・ジュリスト1462号124頁、水谷年宏「移転価格税制に関連する推定課税規定についての一考察」税大ジャーナル24号93-144頁)・東京高判平成25年3月14日平成24(行コ)19号訟月60巻1号149頁控訴棄却。
8.4.2.6.d. 国別報告書(CbCレポート)(Country-by-Country Report)
COLUMN8-3 国別報告書(CbCレポート)導入のインパクト――税務ガバナンスのパラダイムシフトの可能性

8.4.2.7. 国外関連者に対する寄附金課税

8.4.2.8. 外国法人の内部取引に係る移転価格課税

8.4.3. タックス・ヘイブン対策税制(外国子会社合算税制・CFC税制: controlled foreign corporation/company)

8.4.3.1. タックス・ヘイブン対策税制(外国子会社合算税制・CFC税制)とは

タックスヘイヴン(tax haven):所得に対する租税負担が0或いは極端に低い国・地域。
ケイマン、バーミューダなどが有名。(税金天国tax heavenではないので注意)
租特66条の6[個人株主は40条の4](内国法人の外国関係会社に係る所得の課税の特例) 次に掲げる内国法人に係る外国関係会社のうち、特定外国関係会社又は対象外国関係会社に該当するものが、昭和五十三年四月一日以後に開始する各事業年度において適用対象金額を有する場合には、その適用対象金額のうちその内国法人が直接及び間接に有する当該特定外国関係会社又は対象外国関係会社の株式等……の数又は金額につきその請求権……の内容を勘案した数又は金額並びにその内国法人と当該特定外国関係会社又は対象外国関係会社との間の実質支配関係の状況を勘案して政令で定めるところにより計算した金額(……「課税対象金額」という。)に相当する金額は、その内国法人の収益の額とみなして当該各事業年度終了の日の翌日から二月を経過する日を含むその内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。
 一 内国法人の外国関係会社に係る次に掲げる割合のいずれかが百分の十以上である場合における当該内国法人[イロハ略]
 二 外国関係会社との間に実質支配関係がある内国法人[三〜四号略]
2 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 一 外国関係会社 次に掲げる外国法人をいう。
  イ 居住者及び内国法人……の外国法人に係る次に掲げる割合のいずれかが百分の五十を超える場合における当該外国法人[(1)(2)(3)略]
  ロ 居住者又は内国法人との間に実質支配関係がある外国法人[ハ略]
 二 特定外国関係会社[要するにペーパー・カンパニー。cash box corporation] 次に掲げる外国関係会社をいう。
  イ 次のいずれにも該当しない外国関係会社
   (1) その主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有している外国関係会社……
   (2) その本店又は主たる事務所の所在する国又は地域(……「本店所在地国」という。)においてその事業の管理、支配及び運営を自ら行つている外国関係会社……
   (3) 外国子会社……の株式等の保有を主たる事業とする外国関係会社で、その収入金額のうちに占める当該株式等に係る剰余金の配当等の額の割合が著しく高いことその他の政令で定める要件に該当するもの
   (4) 特定子会社(前項各号に掲げる内国法人に係る他の外国関係会社で、部分対象外国関係会社に該当するものその他の政令で定めるものをいう。)の株式等の保有を主たる事業とする外国関係会社で、その本店所在地国を同じくする管理支配会社……によつてその事業の管理、支配及び運営が行われていること、当該管理支配会社がその本店所在地国で行う事業の遂行上欠くことのできない機能を果たしていること、その収入金額のうちに占める当該株式等に係る剰余金の配当等の額及び当該株式等の譲渡に係る対価の額の割合が著しく高いことその他の政令で定める要件に該当するもの
   (5) その本店所在地国にある不動産の保有、その本店所在地国における石油その他の天然資源の探鉱、開発若しくは採取又はその本店所在地国の社会資本の整備に関する事業の遂行上欠くことのできない機能を果たしている外国関係会社で、その本店所在地国を同じくする管理支配会社によつてその事業の管理、支配及び運営が行われていることその他の政令で定める要件に該当するもの[ロハ略]
  ニ 租税に関する情報の交換に関する国際的な取組への協力が著しく不十分な国又は地域として財務大臣が指定する国又は地域に本店又は主たる事務所を有する外国関係会社
 三 対象外国関係会社 次に掲げる要件のいずれかに該当しない外国関係会社……をいう。
  イ 株式等若しくは債券の保有、工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの……若しくは著作権……の提供又は船舶若しくは航空機の貸付けを主たる事業とするもの(次に掲げるものを除く。)でないこと。[事業基準⇒ホンコンヤオハン8.4.3.5.b.1.
   (1) 株式等の保有を主たる事業とする外国関係会社のうち当該外国関係会社が他の法人の事業活動の総合的な管理及び調整を通じてその収益性の向上に資する業務として政令で定めるもの(……「統括業務」[⇒デンソー8.4.3.5.b.1.]という。)を行う場合における当該他の法人として政令で定めるものの株式等の保有を行うものとして政令で定めるもの[(2)(3)略]
  ロ その本店所在地国においてその主たる事業(イ(1)に掲げる外国関係会社にあつては統括業務と……する。ハにおいて同じ。)を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有していること……並びにその本店所在地国においてその事業の管理、支配及び運営を自ら行つていること……のいずれにも該当すること。[実体基準⇒レンタル・オフィス・スペースln、管理支配基準⇒安宅木材8.4.3.5.b.3.
  ハ 各事業年度においてその行う主たる事業が次に掲げる事業のいずれに該当するかに応じそれぞれ次に定める場合に該当すること。
   (1) 卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業又は物品賃貸業(航空機の貸付けを主たる事業とするものに限る。) その事業を主として当該外国関係会社に係る[関連者]以外の者との間で行つている場合として政令で定める場合[非関連者基準]
   (2) (1)に掲げる事業以外の事業 その事業を主としてその本店所在地国……において行つている場合として政令で定める場合[所在地国基準]
 四 適用対象金額 特定外国関係会社又は対象外国関係会社の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき法人税法及びこの法律による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとして政令で定める基準により計算した金額(……「基準所得金額」という。)を基礎として、政令で定めるところにより、当該各事業年度開始の日前七年以内に開始した各事業年度において生じた欠損の金額[⇒双輝汽船ka]及び当該基準所得金額に係る税額に関する調整を加えた金額をいう。
 五 実質支配関係 居住者又は内国法人が外国法人の残余財産のおおむね全部を請求する権利を有している場合における当該居住者又は内国法人と当該外国法人との間の関係その他の政令で定める関係をいう。
 六 部分対象外国関係会社 第三号イからハまでに掲げる要件の全てに該当する外国関係会社(特定外国関係会社に該当するものを除く。)をいう。[七号、3項以下略]

1992年改正前:指定制度(ブラック・リスト方式)…外交儀礼上失礼に当たるとの指摘も。
1992年改正後:25%以下⇒20%以下→20%未満(トリガー税率という)(ペーパー・カンパニーについては30%)md

外国関係会社:株式等の50%超を日本の居住者・内国法人全体で直接・間接に有しているもの
内国法人が外国関係会社の10%以上を直接・間接に有している場合、持分割合に応じて合算課税が発動しうる。

100%子会社について問題となることが多いが、100%未満の場合、法人税法11条(実質所得者課税)(所税12条と同様⇒4.5.1.1.)と適用結果が異なる。
法人税法11条の場合……外国子会社たるS社が取引の名義人の用であるが内国親会社たるP社が実質的に享受している場合、P社に帰属する所得とされる。当然、当該取引の全額が持分割合に関係なくP社に帰属する。
租特66条の6の場合……S社に真に私法上帰属する所得であってもP社の持分割合に応じてP社の益金に算入される。(租特66条の6はS社に帰属するとする私法上の法律関係を否認しようとするものではない)

自国企業の真っ当な海外進出を本国課税が妨害することになるのは控えようとする規定。諸外国では一般に、passive income(受動的所得)のみに課税し、active income(能動的所得)は適用除外とすると説明される。米独等では取引単位(income approachまたはtransaction approach)でpassive/active判定を行うのに対し、日本法は原則として外国法人単位(entity approach)でpassive/activeの判定を行なってきた(⇒8.4.3.6.)。しかし平22改正でincome approachも導入した(⇒8.4.3.7.)。

20%未満基準について。
株式会社ボディワークホールディングス事件・東京地判令和5年1月27日令和2(行ウ)211号棄却(堀治彦2024年9月5日租税判例研究会報告)
 事実 日本法人X社(原告)は針、灸、あんま、マッサージ、指圧及び柔道整復の治療等を営む。X社は平成29年3月期(本件事業年度)終了時に原告グループ7社の全株式を保有している。マレーシア連邦令ラブアンのBODY WORK INSURANCE CO.,LTD(A社)は保険業を営む。A社の全株式をX社は平成28年3月期に保有していた。F氏はX社代表者、X社取締役、A社取締役である。
 X社と原告グループ5社は平成25年3月28日又は29日付で現代海上火災保険株式会社(V社)との間で、被保険者をX社及び原告グループ5社の従業員とする傷害保険契約を締結した。V社は、同傷害保険契約をCAISSE CENTRALE DE REASSURANCE(S社)に出再(再保険に出すこと)し、S社は、これを受再(再保険を引受けること)した上でA社に出再し(再々保険契約)、A社は、当該再々保険契約を受再した。
 X社と原告グループ6社は平成26年3月31日付でV社との間で被保険者をX社及び原告グループ6社の従業員とする傷害保険契約を締結した。V社は、同傷害保険契約をS社に出再し、S社は、これを受再した上でA社に出再し(再々保険契約)、A社は、当該再々保険契約を受再した。
 X社と原告グループ7社は平成27年3月31日付でV社との間で、被保険者をX社及び原告グループ7社の従業員とする傷害保険契約(以下「本件傷害保険契約」という。)を締結した。原告グループ7社のうち原告グループ3社は、同日付けで、V社との間で、被保険者を原告グループ3社のセラピストとする賠償責任保険契約(被保険者のセラピストの業務遂行に起因して第三者の身体に損害を与えて第三者が死亡した場合に被保険者が負うべき法律上の損害賠償責任を補償するもの。以下「本件賠償責任保険契約」という。)を締結した。V社は、本件傷害保険契約及び本件賠償責任保険契約をS社にそれぞれ出再し、S社は、これらを受再した上でA社にそれぞれ出再し(再々保険契約)、A社は、同日付けで、当該再々保険契約をS社からそれぞれ受再した(以下、A社がS社から受再したこれらの再々保険契約のうち、本件賠償責任保険契約に係るものを「本件賠償責任保険再々保険契約」という。)。
 A社は、平成30年2月2日、本件収入計算書(A社平成28年3月期)で費用の額として経理した本件賠償責任保険準備金積立額を約38万米ドル→0米ドルとし、傷害保険に係る保険準備金の積立額を本件収入計算書で費用として経理した額と本件賠償責任保険準備金積立額との合計額である約83万米ドル→120万米ドルとする訂正(本件訂正)をした。本件訂正後収入計算書について、(支払備金の増加)との記載を(未到来リスク準備金の増加)と再訂正(本件再訂正)した上で、平成31年4月23日、本件再訂正後収入計算書についてA社の取締役会及び株主総会による承認決議を行い、本件再訂正後収入計算書をラブアン金融庁に提出した。
 X社が平成29年6月29日に豊島税務署長に提出した本件事業年度の法人税の確定申告書において、A社はCFC税制適用除外要件を満たす旨を記載した租税特別措置法66条の6第7項の書面(適用除外記載書面)が添付されていなかった。豊島税務署長は、A社平成28年3月期における租税特別措置法施行令39条の14第1項2号の税率が20%未満であるからA社は特定外国子会社等に該当するとし、A社の租税特別措置法66条の6第1項の課税対象金額1億3603万3131円をX社N益金に算入する更正処分をした。

 争点 A社の税率は20%未満であり特定外国子会社等に該当するか否か。
 A社が費用として経理した本件賠償責任保険準備金積立額が「異常危険準備金に類する準備金の額」(租税特別措置法施行令39条の14第2項1号ニ)に該当するか否か。

 判旨 「キャプティブ[captive]とは、特定の企業又は企業グループのリスクを専門的に引受けるために設立される保険業務専門の子会社をいう。キャプティブの設立は、海外のキャプティブ法制度が整っている国や地域で行われるのが一般的である。日本を含む多くの国では、法令により企業は自国の保険会社で保険を付保しなければならないとされているため、通常、現地の元受保険会社を通じてキャプティブへの再保険が行われる。キャプティブは、保険における最終的な損失負担の主体を、保険会社ではなく自社自身とすることを実現する仕組みである。
 キャプティブの種類には、自社キャプティプ(自社の完全子会社として設立するスキーム)、レンタキャプティブ(第三者が設立したキャプティブを借用するスキーム)等がある。このうち自社キャプティブは、自社の完全子会社であることから、経営の自由度が高く、日本法人への資金還流も比較的容易であること、日本法人への配当を行っても日本の税法上は海外子会社からの配当として95%が非課税となるというメリットがある一方で、軽課税国に自社キャプティブを設立した場合、日本の外国子会社合算税制に抵触し、自社キャプティブの所得が日本法人の益金とみなされる合算税制の対象とされてしまうリスクがある等のデメリットがある。」
 「A社は、A社27年3月期までは、傷害保険契約に係る再々保険契約のみを受再していたところ、A社28年3月期からは、傷害保険契約に係る再々保険契約に加えて、本件賠償責任保険再々保険契約の受再を開始したことから、賠償責任保険に係る保険事故が発生した場合にも保険金を支払うリスクを負うことになった。そして、保険事故が発生した場合の保険金の支払に備えるという保険準備金の性質等に照らすと、A社としては、本件賠償責任保険再々保険契約の受再を開始したことで、賠償責任保険を対象として保険準備金の積立てをするかを検討する必要が生じるのであり、実際、証人_も、A社が本件賠償責任保険再々保険契約を受再することになった際、保険事故の発生リスクについてA社にヒアリングをする等して、賠償責任保険に保険準備金を積み立てるかどうかを検討した旨述べている(証人_ 7、8頁)。
 そして、……、本件賠償責任保険再々保険契約の受再を開始したことに伴い、保険事故が発生する可能性等を勘案の上で、賠償責任保険に保険準備金を積み立てることとしたとしても合理性を欠くものではないところ、……、賠償責任保険にも保険準備金を積み立てる旨の本件収入計算書を含む本件財務諸表が作成され,これが原告の取締役会等において承認されたというのである。
 かかる状況の下では、A社における保険準備金の積立てについては、A社が引受けをしている再々保険契約の対象となる傷害保険及び賠償責任保険の双方について保険準備金が積み立てられることとなったとみるのが自然であり、A社28年3月期において、A社27年3月期以前と同様に傷害保険のみについて保険準備金が積み立てられていたということはできない。」
 「本件収入計算書は、A社における保険準備金の積立状況を正確に反映したものであり、原告の主張するように「誤記」であるとはいえないから、これを基礎として措置法施行令39条の14第2項により租税負担割合を算定するのが相当である。
 他方、本件訂正後収入計算書及び本件再訂正後収入計算書は、決算として確定したものを合理的理由に基づかず事後的に修正したものであるから、……、本件再訂正後収入計算書がA社の取締役会及び株主総会による承認決議を経た上、ラブアン金融庁に提出されたことを考慮しても、租税負担割合の算定の基礎とすることはできない(本件訂正及び本件再訂正がMFRS[Malaysian Financial Reporting Standards]に沿ってされたとしても、この判断を左右するものではない。)。
 そして、本件収入計算書を基礎とすると、本件賠償責任保険準備金積立額は、措置法施行令39条の14第2項1号ニに規定する「異常危険準備金に類する準備金の額」に当たり、これを踏まえて租税負担割合を計算すると、租税負担割合は0%となり、100分の20未満となるから、A社は措置法66条の6第1項に規定する特定外国子会社等に該当する。」
COLUMN8-4 租税条約とタックス・ヘイヴン対策税制
グラクソ事件事件最判平成21年10月29日民集63巻8号1881頁百選7版74jy
原告主張 シンガポール子会社の所得について日本がタックスヘイヴン対策税制を適用して日本で課税することは、日本・シンガポール租税条約のPEなければ課税なしのルールに違反する。
国主張 シンガポール法人に対する課税ではなく日本法人に対する課税であるから条約違反ではない。

地裁判旨(高裁でも維持) 「誰に対して課税をするのかという観点を形式的に適用する論理は、日星租税条約の潜脱を容易に許してしまうおそれがあるものであって…、そのまま採用することは困難である。
 他方、シンガポールの海外子会社が、親会社である内国法人に対し、配当その他の方法によって任意に利益移転を行った場合、内国法人に移転された利益に対しては、我が国において課税がされることになるが、これが日星租税条約に違反するものではないことは明らかである。そうだとすると、親会社である内国法人とシンガポールの海外子会社との関係、シンガポールにおいて海外子会社が置かれた地位や実際の活動状況その他の事情に照らし、海外子会社から内国法人に対して利益移転が行われるのが当然であるにもかかわらず、そのような利益移転が行われていないとみられる場合に、内国法人に対し、本来あるべき利益移転が実際にあったものとみなし、その移転利益相当額に対して課税をすることは、経済的合理性のない不自然な状態を、本来あるべき自然な状態に戻し、あるべき状態に基づく課税をしているのにとどまるのであるから、このような事態は、日星租税条約に違反することはないものと解される。」

最高裁判旨 「日星租税条約7条1項は、一方の締約国(A国)の企業の利得に対して他方の締約国(B国)が課税するためには、当該企業がB国において恒久的施設を通じて事業を行っていることが必要であるとし(同項前段)、かつ、B国による当該企業に対する課税が可能な場合であっても、その対象を当該恒久的施設に帰属する利得に限定することとしている(同項後段)。同項は、いわゆる「恒久的施設なくして課税なし」という国際租税法上確立している原則を改めて確認する趣旨の規定とみるべきであるところ、企業の利得という課税物件に着目する規定の仕方となっていて、課税対象者については直接触れるところがない。しかし、同項後段が、B国に恒久的施設を有するA国の企業に対する課税について規定したものであることは文理上明らかであり、これは同項前段を受けた規定であるから、同項前段も、また、A国の企業に対する課税について規定したものと解するのが自然である。すなわち、同項は、A国の企業に対するいわゆる法的二重課税を禁止するにとどまるものであって、同項がB国に対して禁止又は制限している行為は、B国のA国企業に対する課税権の行使に限られるものと解するのが相当である。」
「措置法66条の6第1項は、外国子会社の留保所得のうちの一定額を内国法人である親会社の収益の額とみなして所得金額の計算上益金の額に算入するものであるが、この規定による課税が、あくまで我が国の内国法人に対する課税権の行使として行われるものである以上、日星租税条約7条1項による禁止又は制限の対象に含まれないことは、上述したところから明らかである。」
「日星租税条約は、経済協力開発機構(OECD)のモデル租税条約に倣ったものであるから、同条約に関してOECDの租税委員会が作成したコメンタリーは、条約法に関するウィーン条約(昭和56年条約第16号)32条にいう「解釈の補足的な手段」として、日星租税条約の解釈に際しても参照されるべき資料ということができる」

検討 最高裁は地裁と同じ結論ながら地裁の「本来あるべき利益移転」という表現を避けているように見受けられる。避けたことにより、平成21年改正・法人税法23条の2(外国子会社配当益金不算入)導入後も本判決は意味を持つと考えられる(が、形式的にいえば平成21年後の租税条約違反の可能性についてはブランク)。
 なお涌井紀夫裁判官補足意見は「日星租税条約7条1項の規定は、各種の所得のうち「企業の利得」(我が国の税制に照らしていえば、おおむね「事業所得」に相当する所得をいうものといえよう。)に対する課税に際しての締約国間での課税権の調整に関する規定であり、所得の種類がこれと異なる場合の課税権の調整については、その所得の種別に応じて日星租税条約中の他の条項の規定が優先的に適用されるべきことが同条6項に明定されている。これを受けて、例えば、配当所得に対する課税については日星租税条約10条の規定、譲渡所得に対する課税については同じく13条の規定等が、それぞれ別に置かれているところである。このような日星租税条約の規定振りからすれば、措置法の規定が日星租税条約に違反するか否かの問題を検討するに際しては、そこで問題とされている所得の種別に対応する日星租税条約の各条文ごとに、措置法の規定が日星租税条約の定めに違反するか否かが個別に検討されるべきこととなろう」と述べている。

 個人所得税の租特40条の4について同旨:最判平成21年12月4日判時2068号34頁

8.4.3.2. タックス・ヘイヴン対策税制の制度趣旨

COLUMN8-5 課税繰延べの防止のための制度か?
日本法人が外国に子会社を設立した場合、当該子会社はその居住地国で課税を受ける。子会社の税引後所得から親会社に配当をだすことができるが、配当する義務はなく、配当されない限り日本の課税対象とはならない。子会社がタックスヘイヴンに設立され、日本に配当されないままであると、所得が殆ど課税されないまま外国に溜め込まれることとなる。これを放置すると、日本法人が外国と取引する際に間にタックスヘイヴン子会社を介在させ、当該子会社に所得を溜め込むことが可能となる。
(日本法人→外国顧客の売却でなく、日本法人→タックスヘイヴン子会社→外国顧客の販売とする等。)
他方、日本法人が外国に支店を設立した場合、全世界所得課税なので送金等なくても日本の課税が及ぶ。

例 収益率が年10%。内国法人が40%の税率で課税される一方、外国法人は無税。
内国法人(またはその支店)が10000を投資 外国子会社を通じて10000を投資
1年後の税引後の元利合計10600 1年後の税引後の元利合計11000
2年後の税引後の元利合計11236 2年後の税引後の元利合計12100
…くりかえし…
…くりかえし…
10年後:10000×1.0610=17908
税引後利益は7908
10年後:10000×1.110=25937
税引後利益は9562(=15937×0.6
いずれ日本の親会社に配当した際に課税されるのだから、課税を免れることはできないのでは?とはいえない。軽課税国子会社の利用が、上の表の示すように不当に有利であり、この有利さを打ち消すというのが母法国アメリカでの教科書的な説明。
日本の立法担当者は明白に課税繰延防止説を否定。租税回避防止と説明。mc

8.4.3.3. 対象となる外国法人(外国関係会社)

8.4.3.3.a. 株式等保有基準
みずほ銀行事件・東京地判令和3年3月16日平成31(行ウ)42号(棄却)・東京高判令和4年3月10日金判1649号34頁令和3(行コ)96号(原判決取消)・最判令和5年11月6日令和4(行ヒ)228号民集77巻8号1933頁(その他)ce(一高龍司「タックス・ヘイブン対策税制における課税対象金額に関する委任命令の適用が否定された事例」新・判例解説Watch租税法No. 177 (2023.5.19)、宮本十至子「タックス・ヘイブン対策税制における請求権勘案保有株式等保有割合の判定」新・判例解説Watch租税法No.184 (2024.2.26)、宮本十至子・ジュリスト1597号重判令05年183頁、鈴木悠哉・判例秘書ジャーナルHJ100197 (2024.5.31)ほか多数)
 租税特別措置法施行令39条の16第1項&第2項1号が外国子会社の事業年度終了時の請求権勘案保有株式等の割合に着目しているところ、原告は、SPC(special purpose company)から原告に配当しうる利益が無いので0%であると主張し、被告(国)は100%であると主張した。

 判旨 「(1)本件では、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否かが問題となるところ、この点を判断するに当たり、まず、本件規定の内容が、一般に、本件委任規定の趣旨に適合するか否かにつき検討する。
 本件委任規定は、私法上は特定外国子会社等に帰属する所得を当該特定外国子会社等に係る内国法人の益金の額に合算して課税する内容の規定である。これは、内国法人が、法人の所得に対する租税の負担がないか又は著しく低い国又は地域に設立した子会社を利用して経済活動を行い、当該子会社に所得を発生させることによって我が国における租税の負担を回避するような事態を防止し、課税要件の明確性や課税執行面における安定性を確保しつつ、税負担の実質的な公平を図ることを目的とするものと解される。
 また、本件委任規定は、課税対象金額について、内国法人の有する特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとしてその株式等の請求権の内容を勘案して計算すべきものと規定するところ、これは、請求権に基づき受けることができる剰余金の配当等の割合を持株割合よりも大きくしてかい離を生じさせる方法による租税回避に対処することを目的とするものと解される。
 そして、本件委任規定が課税対象金額の具体的な計算方法につき政令に委任したのは、上記のような目的を実現するに当たり、どの時点を基準として株式等の請求権の内容を勘案した計算をするかなどといった点が、優れて技術的かつ細目的な事項であるためであると解される。したがって、上記の点は、内閣の専門技術的な裁量に委ねられていると解するのが相当である。
 このような趣旨に基づく委任を受けて設けられた本件規定は、適用対象金額に乗ずべき請求権勘案保有株式等割合に係る基準時を特定外国子会社等の事業年度終了の時とするものであるところ、本件委任規定において課税要件の明確性や課税執行面における安定性の確保が重視されており、事業年度終了の時という定め方は一義的に明確であること等を考慮すれば、個別具体的な事情にかかわらず上記のように基準時を設けることには合理性があり、そのような内容を定める本件規定が本件委任規定の目的を害するものともいえない。
 そうすると、本件規定の内容は、一般に、本件委任規定の趣旨に適合するものということができる。
(2)以上を前提として、次に、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否かにつき検討する。
 前記事実関係等の下において本件規定を適用した場合には、本件各子会社事業年度における本件各子会社の利益は本件優先出資証券にのみ配当されたにもかかわらず、本件優先出資証券が同事業年度の途中で償還されたために本件保有株式等割合が100%となり、被上告人に対して合算課税がされることとなる。
 もっとも、前述のとおり、個別具体的な事情にかかわらず基準時を設ける本件規定の内容が合理的である以上、上記のような帰結をもって直ちに、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱することとはならないところ、特定外国子会社等の事業年度の途中にその株主構成が変動するのに伴い、剰余金の配当等がされる時と事業年度終了の時とで持株割合等に違いが生ずるような事態は当然に想定されるというべきである。また、内国法人が外国子会社から受ける剰余金の配当等は、原則として、内国法人の所得金額の計算上、益金の額には算入されない以上(平成27年法律第9号による改正前の法人税法23条の2第1項等)、本件委任規定につき、特定外国子会社等において剰余金の配当等が留保されることにより内国法人が受ける剰余金の配当等への課税が繰り延べられることに対処しようとするものと解することはできないから、前記事実関係等の下において剰余金の配当等に係る個別具体的な状況を問題とすることなく本件規定を適用することによって、本件委任規定において予定されていないような事態が生ずるとはいえない。加えて、前記事実関係等の下においては、本件各子会社の事業年度を本件優先出資証券の償還日の前日までとするなどの方法を採り、本件各子会社の適用対象金額が0円となるようにする余地もあったと考えられるから、本件規定を適用することによって被上告人に回避し得ない不利益が生ずるなどともいえない。
 そうすると、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するものではないというべきである。」

 訴えの利益について
 「増額更正処分後に国税通則法23条1項の規定によりされた更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分は、上記増額更正処分により一旦確定した税額について、更正の請求の理由を踏まえて改めて調査がされた上で、上記増額更正処分後の税額を減額すべき理由はないとしてされる処分である(同項、同条4項)。そうすると、上記通知処分は、上記増額更正処分とは別個にされた新たな処分であることが明らかであり、上記増額更正処分に吸収され、又はその内容が実質的に包摂されるということもできないのであって、上記更正の請求をした者は、上記通知処分が取り消された場合には、減額更正処分を受ける可能性を回復することができる以上、上記通知処分の取消しを求める訴えの利益を有するというべきである。
 本件のように上記増額更正処分後に上記更正の請求がされた場合、これに係る税額が申告税額を下回るときであっても、上記増額更正処分に係る取消訴訟において、上記増額更正処分のうち上記更正の請求に係る税額を超える部分の取消しを求めることができるものの、このことから直ちに上記通知処分の取消しを求める訴えの利益を否定することはできない。
 したがって、増額更正処分後に国税通則法23条1項の規定による更正の請求をし、更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けた者は、当該通知処分の取消しを求める訴えの利益を有すると解するのが相当である。」
 cf.最判令和3年6月24日民集75巻7号3214頁
 「相続税法55条に基づく申告の後に遺産分割が行われた場合における特定の相続人による同法32条1号の規定による更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分と当該相続人に対する同法35条3項1号の規定による増額更正は……いずれも当該遺産分割による各相続人の取得財産の変動という相続税特有の後発的事由を基礎としてされた同一相続人に対する処分であり,上記増額更正は,一旦確定していた税額を当該遺産分割が行われたことを理由に増額させて確定する処分であるから,当該遺産分割に伴い税額を減額すべき理由はないという上記通知処分の内容を実質的に包摂するものということができる。加えて,上記更正の請求がされているため,当該相続人は,上記増額更正の取消訴訟において,上記更正の請求に係る税額を超える部分の取消しを求めることが可能であると解される。そうすると,本件通知処分については,その取消しを求める利益はなく,本件訴えのうち本件通知処分の取消しを求める部分は不適法であるから,却下すべきである。」

辰巳マリン株式会社事件・東京地判令和5年3月16日令和2(行ウ)34号(棄却)(堀内健司・ジュリスト1598号10頁)……租税特別措置法66条の6第2項1号「外国関係会社」「特殊関係非居住者」の意義
8.4.3.3.b. 実質支配基準

8.4.3.4. 外国関係会社の所得を合算する居住者・内国法人

8.4.3.5. 会社単位の合算課税の対象となる外国関係会社

8.4.3.5.a. 特定外国関係会社
8.4.3.5.b. 対象外国関係会社
8.4.3.5.b.1. 事業基準
ホンコンヤオハン事件・静岡地判平成7年11月9日訟月42巻12号3042頁・東京高判平成8年6月19日税資216号619頁・最判平成9年9月12日税資228号565頁
争点 「株式(出資を含む。)若しくは債券の保有」を「主たる事業」としていたかの争い。

判旨 一般論としては…「特定外国子会社等が複数の事業を営む場合、そのいずれの事業が主たる事業であるかの判定は、その事業年度における具体的・客観的な事業活動の内容から判定するほかはないのであるから、その事業活動の客観的結果として得る収入金額又は所得金額の状況、使用人の数、固定施設の状況等を総合的に勘案して判定するべき」
「1989年3月期の収入は……保有株式に係る収入がその殆ど(受取配当金及び投資有価証券売却益で全体の約96パーセント)を占めている」

デンソー事件最判平成29年10月24日民集71巻8号1522頁百選7版75kb(長戸貴之・民商法雑誌154巻3号557頁)(デンソー事件についてではないが浅妻章如「CFC税制(タックス・ヘイヴン対策税制)の適用除外要件についての一考察」税務弘報56巻2号121-130頁(2008.2)も参照されたい)
日本法人D社―――シンガポール子会社S社―――豪亜地域孫会社M1社M2社M3社…

 S社の所得金額の8〜9割は孫会社からの受取配当が占めていたので、日本の課税庁はS社の「主たる事業」が株式保有業であると主張した(先例としてホンコンヤオハン事件)。納税者側は、S社の従業員等の生産要素の多くが孫会社の地域統括業務に従事しているので「主たる事業」は株式保有業ではないと主張した。当時は統括会社の特例(8.4.3.5.c.ア.)立法前であった。
 一審は納税者側の主張を認めたが、控訴審で逆転し国側が勝っていた。最高裁で逆転した。

 判旨 「地域統括業務の中の物流改善業務に関する売上高は収入金額の約85%に上っており,所得金額では保有株式の受取配当の占める割合が8,9割であったものの,その配当収入の中には地域統括業務によって域内グループ会社全体に原価率が低減した結果生じた利益が相当程度反映されていたものであり,本件現地事務所で勤務する従業員の多くが地域統括業務に従事し,Aの保有する有形固定資産の大半が地域統括業務に供されていた」。「S社の行っていた地域統括業務は,相当の規模と実体を有するものであり,受取配当の所得金額に占める割合が高いことを踏まえても,事業活動として大きな比重を占めていたということができ,[S社の]各事業年度においては,地域統括業務が措置法66条の6第3項及び4項にいうS社の主たる事業であった」。
8.4.3.5.b.2. 実体基準
8.4.3.5.b.3. 管理支配基準
安宅木材事件東京地判平成2年9月19日行集41巻9号1497頁・東京高判平成3年5月27日行集42巻5号727頁百選4版70……外国子会社が自らその事業を管理支配していないとして、その親会社である内国法人について、タックス・ヘイブン課税規定の適用が除外される場合に当らないとされた事例。
8.4.3.5.b.4. 非関連者基準・所在地国基準
日産事件・東京地判令和4年1月20日令和2(行ウ)86号(棄却)・東京高判令和4年9月14日令和4(行コ)36号(原判決取消)・最判令和6年7月18日令和4(行ヒ)373号(破棄自判)(事案の概要リンク先のファイルが消えてしまった)(辻美枝・ジュリスト1579号10-11頁、袴田裕二・ジュリスト1582号121-124頁、栗原宏幸・ジュリスト1585号10-11頁、高橋祐介・税研231号82-86頁)
 適用除外要件 租税特別措置法(平成28年法律第15号による改正前)68条の90第3項:当該特定外国子会社等の行う主たる事業が卸売業,銀行業,信託業,金融商品取引業,保険業,水運業又は航空運送業のいずれかに該当する場合には,その事業を主として当該特定外国子会社等に係る所定の関連者以外の者との間で行っている場合に該当すること(非関連者基準)
 租税特別措置法施行令(平成28年政令第159号による改正前)39条の117第8項5号:「保険業 当該各事業年度の収入保険料の合計額のうちに当該収入保険料で関連者以外の者から収入するもの(当該収入保険料が再保険に係るものである場合には、関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料に限る。)の合計額の占める割合が百分の五十を超える場合」

 原告:日産(日本法人)
 A社:Nissan Global Reinsurance, Ltd略してNGRE。バミューダ法人。株式総数を原告が間接保有。主たる事業は保険業。本店所在地国における所得税負担割合0%。
 B社:NR Finance Mexico, S.A. de C.V. SOFOM ER略してNRFM。メキシコ法人。株式総数を原告が間接保有。主たる事業は金融業。
 C社:Assurant Vida Mexico, S.A.略してAVM。メキシコ法人。原告との資本関係なし。主たる事業は保険業。
 B社は「本件各顧客」(日産の車を割賦購入)と「本件クレジット契約」(購入資金の貸付)を締結していた。B社はC社との間で「本件元受保険契約」(債務者の死亡と失業に関する保険契約。保険料は本件クレジット債権の期首残高の0.096%)を締結した。
 C社とA社は「本件再保険契約」(C社が本件元受保険契約において引受ける全保険リスクの70%をA社に対して再保険に付)を締結した。
 A社の収入保険料総額は米$5億2521万4976(@)。非関連者(C社を除く)から受領した収入保険料は$2億5318万3120(A)。C社から受領した収入保険料は$1149万3075(B)。A/@<50%。(A+B)/@>50%。


 ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
 ┃                被上告人            ┃
 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
  :                      :
  :                      :100%間接保有
  :                      ↓
  :                   ┏━━━━━━━━━━━━━┓
  :                   ┃(特定外国子会社等)   ┃
  :                   ┃  NGRE(A社)   ┃
  :                   ┃  バーミューダ法人   ┃
  :                   ┃本件再保険契約の保険会社 ┃
  :100%間接保有           ┗━━━━━━━━━━━━━┛
  :                     ↑  ↑
  :              本件再保険契約|  |再保険料
  ↓                     ↓  |
 ┏━━━━━━━━━━┓          ┏━━━━━━━━━━━━━┓
 ┃(関連者)     ┃ 本件元受保険契約 ┃  (非関連者)     ┃
 ┃ NRFM(B社) ┃←――――――――→┃   AVM(C社)   ┃
 ┃ メキシコ法人   ┃―――――――――→┃  メキシコ法人     ┃
 ┃顧客に購入資金を融資┃  再保険料    ┃本件元受保険契約の保険会社┃
 ┗━━━━━━━━━━┛          ┗━━━━━━━━━━━━━┛
      ↑ ↑
 本件クレジ| |保険料相当額
  ット契約| |
      ↓ |
 ┏━━━━━━━━━━┓
 ┃ 自動車購入者   ┃
 ┃  (顧客)    ┃
 ┗━━━━━━━━━━┛

 争点 本件再保険契約に係る収入保険料が、本件括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」に該当するか否か。

 控訴審判旨 「本件括弧書きは、主たる事業が保険業である特定外国子会社等の収入保険料が再保険に係るものである場合には、当該収入保険料が、関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料である場合に限り、非関連者基準を満たすものとしている。これは、保険業に係る非関連者基準については、特定外国子会社等とその関連者との取引が再保険の形で非関連者が介在する場合の取扱いが不明確であるとの指摘があったことから、特定外国子会社等の総保険料収入に占める非関連者からの保険料収入が過半か否かを判定する際に、保険契約によって担保される保険危険の過半が非関連者の財産等に係るものか否かという判断基準を明示することにより、その所在する国又は地域で行うことにつき経済合理性が認められない事業活動について外国子会社合算税制の潜脱を防止するという趣旨によるものと解される。そして、このような趣旨は、損害保険に限らず広く保険一般に妥当するというべきであるから、本件括弧書きにいう「資産」や「損害賠償責任」は、単なる例示にすぎないと解される。
 そうすると、本件括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産…を保険の目的とする保険」とは、非関連者の資産等に対する保険危険を担保する保険をいうものと解するのが相当である。」
 「本件元受保険契約においては、本件各顧客の死亡等を保険事故事由とする旨定められている上、NRFMが本件各顧客から保険料相当額の金銭を徴収してAVMに支払うこととされているから、保険料の実質的負担者は本件各顧客である。そうすると、本件元受保険契約は、本件各顧客がその生命、身体等に係る保険危険を担保することの対価として保険料を支払い、本件各顧客の死亡等の事由が発生した場合に保険金が支払われる仕組みとなっているのであるから、本件元受保険契約は、本件各顧客の生命、身体等に対する保険危険を担保する保険であるというべきである。」

 上告審判旨 「(1) 施行令39条の117第8項5号は、措置法68条の90第1項の規定の適用が除外される場合の要件の一つである非関連者基準を、主として保険業を行う特定外国子会社等について具体化するものである。そして、本件括弧書きは、特定外国子会社等が関連者との間の保険取引に関連者以外の者を介在させた場合の収入保険料の取扱いを明確にし、上記の者を形式的に介在させることによって非関連者基準を充足させ、同項の適用が除外されることとなるのを防ぐ趣旨に出たものと解される。
 このような本件括弧書きの趣旨に加えて、通常、保険に加入する者は、保険金の支払を受けることによって経済的不利益の保障、填補を受けることを目的として、保険料を負担して保険契約を締結するものと考えられることを踏まえると、本件括弧書きは、特定外国子会社等が保険者として再保険取引を行うに際し、当該再保険取引が関連者以外の者の資産又は損害賠償責任に係る経済的不利益を担保しようとするものである場合に限り、当該特定外国子会社等が当該再保険取引から得る収入保険料は関連者以外の者から収入するものとして扱うこととしたものと解される。
 したがって、本件括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険」とは、関連者以外の者の資産又は損害賠償責任に係る経済的不利益を担保する保険をいうものと解すべきである。
 (2) これを本件についてみるに、前記事実関係等によれば、NRFMは、本件クレジット契約を締結した本件各顧客が所定の保険契約を締結しない場合には、本件元受保険契約に本件各顧客を加入させ、本件各顧客から、本件クレジット債権の残高に応じて定められる本件元受保険契約の保険料に相当する金額を徴収して保険料をAVMに支払っており、また、本件元受保険契約においては、NRFMが優先受益者に指定され、この指定は取り消すことができないこととされるとともに、本件各顧客の死亡等又は失業等の保険事故が生じた場合には、それぞれ、所定の限度額を上限として、本件クレジット債権の未償還残高又は月額賦払金6か月分に相当する保険給付を受けることとされていたというのである。
 上記のような本件元受保険契約の実質に照らせば、本件再保険契約に係る保険は、本件NGRE事業年度におけるNGREに係る関連者に当たるNRFMが有する資産である本件クレジット債権に係る経済的不利益を担保するものであるということができる。したがって、上記保険は、本件括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険」には当たらないから、NGREは本件NGRE事業年度において非関連者基準を満たさず、措置法68条の90第1項の適用が除外されることとはならない。」
8.4.3.5.c. 経済活動基準に係る特別な取扱い
8.4.3.5.c.ア. 統括会社の特例
8.4.3.5.c.イ. 航空機の貸付けを主たる事業とする外国関係会社
8.4.3.5.c.ウ. 保険会社の特例
COLUMN8-3 来料加工取引とタックス・ヘイブン対策税制
来料加工事件(日本電産ニッシン事件)・東京地判平成21年5月28日平成18(行ウ)322号訟月59巻1号30頁請求棄却(今村隆ジュリスト1411号157頁)・東京高判平成23年8月30日平成21(行コ)236号訟月59巻1号1頁控訴棄却
 日本法人の香港子会社が中国支店で製造等をしていた場合に、香港子会社の主たる事業は卸売業ではなく製造業であり(つまり非関連者基準で判定されず…非関連者基準ならば香港子会社は適用除外基準を満たすと考えられていた)、香港で製造してないので所在地国基準を満たさない。
 Cf.日本香港投資協定3条(「いずれの一方の締約政府の投資家も、他方の締約政府の地域内において、投資財産、収益及び投資に関連する事業活動に関し、当該他方の締約政府又は両締約政府以外の政府の投資家に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。」)違反という主張は控訴審で斥けられた。グラクソ事件・最判平成21年10月29日民集63巻8号1881頁の判断枠組に依拠。

cf.類例:船井電機事件大阪地判平成23年6月24日平成18(行ウ)191号訟月59巻1号100頁棄却・大阪高判平成24年7月20日平成23(行コ)107号税資262号順号12006控訴棄却
cf.類例:岡山地判平成26年7月16日平成24(行ウ)12号訟月61巻3号702頁棄却、確定(本田光宏・ジュリスト1501号128頁)。 cf.来料加工で納税者側主張を認めた事例として国税不服審判所平成26年8月26日裁決・裁決事例集75集415頁裁決東裁(法)平26第17号。
8.4.3.5.d. 会社単位の合算課税の適用免除
COLUMN8-7 税率を選択できる外国法人税
ガーンジー島事件(損保ジャパン)・最判平成21年12月3日民集63巻10号2283頁dg(渋谷雅弘・ジュリスト1402号110頁、渡辺裕泰・ジュリスト1409号203頁、田中俊久「デザイナー・レート・タックスに関する考察―スイス税制を中心に―」税大論叢75号1頁)(Bailiwick of Guernsey)(⇒2.2.2.8.3.2.1.)
英王室領ガーンジー島では、一定の条件下で納税者が0-30%の範囲で税率を選ぶことができる。タックスヘイヴン対策税制の対象は税率25%以下(当時。トリガー税率という)の外国子会社であるので、日本の損害保険会社が支配するガーンジー島所在子会社が当地で26%の税率を選択し納税した。これが法人税に当たるかの問題。外国税額控除の適用の可否も合わせて問題となった。下級審は、強制性(前記「権力性」参照)を欠き租税回避サービスの対価であるとしたが、最高裁は租税性を肯定した(納税者勝訴)。

判旨 「 原審は、前記のとおり、本件外国税は、強行性、公平性ないし平等性と相いれないものであり、その実質はタックス・ヘイブン対策税制の適用を回避させるというサービスの提供に対する対価としての性格を有するものであって、そもそも租税に該当しないと判断した。
 確かに、前記事実関係等によれば、本件外国税を課されるに当たって、本件子会社にはその税率等について広い選択の余地があったということができる。しかし、選択の結果課された本件外国税は、ガーンジーがその課税権に基づき法令の定める一定の要件に該当するすべての者に課した金銭給付であるとの性格を有することを否定することはできない。また、前記事実関係等によれば、本件外国税が、特別の給付に対する反対給付として課されたものでないことは明らかである。
 したがって、本件外国税がそもそも租税に該当しないということは困難である。」

8.4.3.6. 外国法人単位の合算課税において合算する金額

8.4.3.6.a. 基準所得金額
8.4.3.6.b. 適用対象金額
8.4.3.6.c. 課税対象金額
双輝汽船事件最判平成19年9月28日民集61巻6号2486頁百選7版29
争点 合算対象となる「課税対象留保金額」を計算する過程において、タックスヘイヴン子会社の過去7年以内の欠損金を控除するという規定がある。
 例えば、第1年度のタックスヘイヴン子会社が100の欠損であったが、第2年度において300の利益を出したという場合、第2年度において300−100=200のみが、合算対象となる。
 逆にいうと、今年欠損が生じたら、将来7年間の利益と相殺することとなる。
 しかし今年の欠損を今年の日本の親会社の損金に算入することを禁止する規定がないから、算入できるのではないかという主張がなされた。
一審 課税当局の処分に不備ありとして納税者勝訴。([浅妻]主たる争点とは違う箇所による結論)
二審・最高裁 逆転。タックスヘイヴン子会社の欠損を内国法人の損金の額に算入することはできない。
考察 規定ぶりからして子会社の欠損金をすぐに株主たる日本法人の損金に算入することができないのは仕方ない。寧ろ真の争点は、問題となっている欠損金が私法上子会社に帰属するか株主たる日本法人に帰属するか、であったのであろう。

8.4.3.7. 部分合算課税

8.4.3.7.a. 部分合算する所得
8.4.3.7.b. 外国金融子会社等の特例
8.4.3.7.c. 部分合算課税の適用免除

8.4.3.8. 二重課税の調整kd

日興コーディアル事件東京地判平成26年6月27日平成23(行ウ)370号棄却・東京高判平成27年2月25日平成26(行コ)278訟月61巻8号1627頁棄却(吉村政穂・税研35巻4号通巻208号163頁)……ケイマン法人日本支店が日本で課税されていても租税特別措置法66条の6の特定外国子会社等に該当する。
国税不服審判所令和6年3月14日裁決・裁決事例集134集収録見込み……外国子会社が外国孫会社から信託経由で配当を受け取ったか否かが争われた事例。北村豊「外国モノには弱い?」、中村真由子・ジュリスト1606号10-11頁参照。

8.4.4. 過少資本税制(thin capitalization)

8.4.4.1. 過少資本税制とは

国際的な親子会社関係の通常の場合
X国           Y国
P社(親会社)     S社(子会社)
     →→→→出資1000
    配当100←←←(配当前利益150)



S社の利益はY国で課税される。
S社がP社に配当を支払ってもその配当はS社の費用ではないので、Y国での課税は免れられない(S社の課税所得は150-100=50にならない)。

過少資本(Thin Capitalization)の場合
X国           Y国
P社(親会社)     S社(子会社)
     →→→→出資100
     配当10←←←(配当前利益150)
     →→→→貸付900
     利子90←←←



親会社P社から子会社S社への出資を少なくし代わりに貸付を増やす。
S社からP社への支払いは、少しの配当と、多めの利子、という法律構成になる。
S社の課税所得が減少する(例:150-90=60)。

対策立法:S社の資本:負債比率が不当に低い場合、Y国は利子費用控除を制限する。
日本法では1:3よりも負債の比率が高い場合、そうした負債に係る利子支払について費用控除を認めない。(上の例だと、利子支払の費用控除は30までしか認めないのでSの課税所得は120)

8.4.4.2. 過少資本税制の構造

租特66条の5(国外支配株主等に係る負債の利子等の課税の特例) 内国法人が、平成4年4月1日以後に開始する各事業年度において、当該内国法人に係る国外支配株主等又は資金供与者等に負債の利子等を支払う場合において、当該事業年度の当該内国法人に係る国外支配株主等及び資金供与者等に対する負債に係る平均負債残高が当該事業年度の当該内国法人に係る国外支配株主等の資本持分の三倍に相当する金額を超えるときは、当該内国法人が当該事業年度において当該国外支配株主等及び資金供与者等に支払う負債の利子等の額のうち、その超える部分に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額は、当該内国法人の当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。ただし、当該内国法人の当該事業年度の総負債[略]に係る平均負債残高が当該内国法人の自己資本の額の三倍に相当する金額以下となる場合は、この限りでない。 [2項以下略]

8.4.4.3. 過少資本税制の適用における関係当事者の定義

8.4.4.3.a. 国外支配株主等
8.4.4.3.b. 資金供与者等

8.4.4.4. 過少資本税制の適用における金額要件の定義

8.4.4.4.a. 平均負債残高
8.4.4.4.b. 国外支配株主等の資本持分
8.4.4.4.c. 自己資本の額

8.4.4.5. 過少資本税制の適用の外縁

8.4.5. 過大支払利子税制

8.4.5.1. 過大支払利子税制とは

8.4.5.2. 過大支払利子税制の構造

租特66条の5の2(対象純支払利子等に係る課税の特例) 法人の平成二十五年四月一日以後に開始する各事業年度において、当該法人の当該事業年度の対象支払利子等の額の合計額(以下この項、次項第六号及び第三項第一号において「対象支払利子等合計額」という。)から当該事業年度の控除対象受取利子等合計額を控除した残額(以下この項及び第三項において「対象純支払利子等の額」という。)が当該法人の当該事業年度の調整所得金額(当該対象純支払利子等の額と比較するための基準とすべき所得の金額として政令で定める金額をいう。)の百分の二十に相当する金額を超える場合には、当該法人の当該事業年度の対象支払利子等合計額のうちその超える部分の金額に相当する金額は、当該法人の当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。[2項以下略]

8.4.5.3. 過大支払利子税制の適用における金額要件の定義

8.4.5.3.a. 対象支払利子等の額
8.4.5.3.b. 対象外支払利子等の額
8.4.5.3.c. 控除対象受取利子等合計額
8.4.5.3.d. 調整所得金額

8.4.5.4. 過大支払利子税制の適用の外延

8.4.6. 租税競争(tax competition)(教科書にはない)

企業に重い税負担を課せば、企業はその国から逃げていく。産業誘致のために、企業に対する課税を軽くする動きがある。税負担引き下げ競争を租税競争と呼ぶ。底への競争(race to the bottom)の恐れ。me
租税競争善悪論争
●一般に競争は善である。競争により効率性が改善する。
 租税に関しても、競争により、国家は無駄な課税ができなくなり、無駄な財政支出ができなくなる。(税の問題だけでなく、賄賂の要求なども難しくなる) とりわけ、発展途上国が税制優遇で産業誘致しようとすることを、先進国(及び先進国の集まりであるOECD)がとやかく言う資格はない。各国の税制は各国の判断で決める。
●租税競争が激化すれば、可動的(mobile)な生産要素(資本・熟練労働者等)に課税できなくなる。
 財政需要がなくなる訳ではないから、必要な税収を、不動産、未熟練労働者、生活必需品消費といった可動性の低いものに求める。 → 公平な税負担の配分という政策目的が達成不可。福祉国家も崩壊する。

8.5. 租税手続法の国際的側面

8.5.1. 基本的視点

8.5.2. 国外における税務調査――租税条約を通じた情報交換

8.5.3. 外国における租税債権の執行・保全、外国租税債権の執行・保全

シドホールディングカンパニー事件・東京地判令和4年11月30日令和4(行ウ)124号訟月70巻4号499頁棄却(高浜智輝・ジュリスト2024年12月号予定)(控訴審:東京高判令和5年7月19日令和4(行コ)341号訟月70巻4号481頁棄却確定)……韓国の国税庁が韓国の国税滞納者(A氏。原告の元代表者。韓国・日本・香港で海運業に携わる。2016年2月18日脱税有罪確定)に係る第二次納税義務者として指定した原告(CIDO Holding Company。ケイマン法人)について、税務行政執行共助条約に基づく徴収のための財産の保全の共助を日本の国税庁に要請した(「本件保全共助要請」)。東京国税局長は、本件保全共助対象外国租税について保全共助を実施する決定(「本件保全共助実施決定」)を行い、原告がみずほ銀行に対して有する外貨普通預金の払戻請求権を差し押さえ、そうして取り立てた金銭を東京法務局に供託した。
 判旨
 争点2:本件保全共助対象外国租税は、我が国において税務行政執行共助条約の適用のある課税期間に課される租税であるといえるか。
 「本件保全共助対象外国租税は、要訴追故意事案に係る租税に該当するから、平成26年1月1日より前の課税期間に課される租税ではあるものの、我が国において税務行政執行共助条約の適用のある課税期間に課される租税である」。
 「原告は、税務行政執行共助条約28条7項が遡及処罰の禁止(憲法39条前段)に反して違憲無効であるから、同項を根拠として、平成26年1月1日より前の課税期間に課される租税である本件保全共助対象外国租税を税務行政執行共助条約の適用のある課税期間に課される租税であるということはできない旨を主張する。」
 税務行政執行共助条約28条7「項は、ある国について税務行政執行共助条約が効力を生じた年の翌年の1月1日より前に開始する課税期間(課税期間がない場合には同日より前)に課される租税についても、税務行政執行共助条約を適用する旨を定めた規定にとどまり、ある国において刑事上の責任を問われていなかった行為について、遡及的に同国において刑事上の責任を追及することができる旨を定めた規定ではないから、遡及処罰の禁止に触れるものではない。」
 「原告は、要訴追故意事案には、過去に訴追されて既に確定判決を経ている租税事案は含まれないから、既に本件確定外国判決を経ている本件外国訴追事案に係る租税である本件保全共助対象外国租税は要訴追故意事案に係る租税には該当しないとして、税務行政執行共助条約28条7項を根拠として、平成26年1月1日より前の課税期間に課される租税である本件保全共助対象外国租税を税務行政執行共助条約の適用のある課税期間に課される租税であるということはできない旨を主張する。」
 「要訴追故意事案の原文である『intentional conduct which is liable to prosecution under the criminal laws of the applicant Party』という文言からは、過去に刑事訴追を受けて既に確定判決を経た租税事案を要訴追故意事案から除外すべき根拠を見いだすことはできないし、過去に刑事訴追を受けて既に確定判決を経た租税事案を要訴追故意事案であると解したとしても、そのような租税事案について、再度、刑事上の責任を追及するために訴追することを許容することにはならないから、実質的にも、過去に刑事訴追を受けて既に確定判決を経た租税事案を要訴追故意事案から除外すべき根拠はない。かえって、原告の解釈によれば、有罪の確定判決を経ておらず、将来、無罪となる可能性がないとはいえない租税事案に係る租税債権を共助の対象とする一方で、有罪の確定判決を経た租税事案に係る租税債権を共助の対象とすることができないことになるところ、かかる帰結は不合理であるといわざるを得ない。」

 争点3:本件保全共助対象外国租税の不存在を理由として、本件各処分は違法となるか。
 「(1)実特法11条13項は、共助対象者は、実特法上の処分についての不服申立て及び訴えにおいて,当該共助対象者に係る共助対象外国租税の存否又は額が当該共助対象外国租税に関する法令に従っているかどうかを主張することができない旨を定めているところ、本件訴えは、実特法上の処分である本件各処分についての訴えに該当するから、原告は、本件訴えにおいて、本件保全共助対象外国租税の存否又は額が本件保全共助対象外国租税に関する法令に従っているかどうかを主張することができない。
(2)他方で、税務行政執行共助条約23条2項は、この条約に基づき要請国が採った措置、特に、徴収の分野に関連して、共助対象外国租税債権の存在若しくは額又はその執行許可文書に関して採られた措置(租税債権の存在及び税額を確定する効果を有する課税処分その他の措置(以下「課税処分等」という。)はこれに該当する……。)についての争訟の手続は、要請国の適当な機関にのみ提起することができる旨を定めているから、原告は、これらの措置について不服がある場合には、要請国である韓国の適当な機関に争訟の手続を提起すべきであって、我が国において、これらの措置についての争訟の手続を提起することはできない。
(3)こうした関係規定の構造に照らすと、要請国である韓国において、本件保全共助対象外国租税の存在及び税額を確定する課税処分等がされている場合には、我が国の裁判所において、本件保全共助対象外国租税の存否及び額につき、当該課税処分等と矛盾した判断をすることは想定されていないというべきであるから、本件訴えにおいて、本件保全共助対象外国租税の不存在は本件各処分の違法性を基礎付ける事情にはならないというべきである。
 そして、本件共助要請書には、本件滞納外国租税及びこれについての原告に対する第二次納税義務について、韓国の国税庁による課税処分等がされている旨の記載があるところ……、同記載の内容が正しい旨の同国税庁の宣言……がある一方で、同記載が客観的事実に反することをうかがわせる的確な証拠はないから、韓国において、本件保全共助対象外国租税の存在及び税額を確定する課税処分等はされているものと認められる。
(4)したがって、本件保全共助対象外国租税の不存在を理由として、本件各処分が違法となることはない。
(5)なお、原告は、本件各処分時において、本件保全共助対象外国租税債権の課税要件事実が存在していない場合には、本件保全共助対象外国租税を保全共助の対象とすることはできないとの見解を前提として、本件保全共助対象外国租税を保全共助の対象とした本件各処分が違法な処分である旨を主張しているものと解されるが、かかる主張は、前記(1)から(3)までにおいて説示した関係規定の構造に反した独自の見解であるといわざるを得ず、採用することができない。原告としては、本件保全共助対象外国租税債権の存在及び税額に不服があるのであれば、要請国である韓国において、適当な機関に対し、これらの点を確定する効果を有する課税処分等についての争訟の手続を提起しなければならないというべきである。」

8.5.4. 相互協議

8.5.4.1. 相互協議とは

8.5.4.2. 相互協議の三つのタイプ

8.5.4.3. 相互協議の特徴

8.5.4.4. 個別事案に関する相互協議の一般的な流れ

8.5.4.4.a. 相互協議の申立て
8.5.4.4.b. 相互協議の実施から合意、国内実施まで
8.5.4.4.c. 仲裁(arbitration)