講義ノート本体:立教大学法学部 租税法2025浅妻章如 www.rikkyo.ne.jp/web/asatsuma aa
導入2023youtube| 各年度税制改正| 税調答申| 日本の統計| 国税庁2024(英)| 財政統計 英| 財政関係資料R03 | もっと知 英 | 国民負担率 | 財政金融統計月報865 | パンフこの講義ノートで教科書『租税法概説』を補完していく。 「[浅妻]〜〜」という部分は私見であり定説とは限らない。(余談 情けは人のためならずと板書vs.グループ学習) 租税法はお金儲けに役立つ(というのは立教生にアピールしないようだ)。司法試験での不人気(選択科目8科目中6位)。 学部学生が学ぶ意義は?(全員が租税実務家になるわけではない / 頻繁に改定される) (1)全員が参政権者になる → 租税の公平を論ずる基礎(ひいては政治への意識も)。 (2)人的資本の向上 → 概念操作でなく数字の操作で知る租税回避テクニック(実際に使える訳ではない)。 本講義は判例・実定法詳解に拘らず広く浅くの方針。どちらかというと復習推奨。 一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十 教科書:中里実ら編著『租税法概説』(4版、有斐閣、2021) 中文(中国語訳) 金子宏『租税法』(24版、弘文堂、2021)(単著としては最後の改訂) 金子宏ら編著『ケースブック租税法』(6版、弘文堂、2023)(「§121.01」等はケースブックとの対応) 中里実・増井良啓『租税法判例六法』(6版、有斐閣、2023) 増井良啓『租税法入門』(3版、有斐閣、2023) 佐藤英明『スタンダード所得税法』(4版、弘文堂、2024) 渡辺徹也『スタンダード法人税法』(3版、弘文堂、2023) 佐藤英明・西山由美『スタンダード消費税法』(2版、弘文堂、2022) 中里実他編『租税判例百選』(7版、有斐閣、2021) 増井良啓・宮崎裕子『国際租税法』(4版、東京大学出版会、2019) 以上、司法試験で租税法を選択する者に勧める本。以下、入門書、副読本等。 金子宏他『税法入門』(7版、有斐閣、2016) 三木義一編著『よくわかる税法入門』(19版、有斐閣、2025) 佐藤英明『プレップ租税法』(4版、弘文堂、2021) 浅妻章如・酒井貴子『租税法』(日本評論社、2020)(link先に訂正あり) 浅妻章如『ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか』(中央経済社、2020) 浅妻章如『なぜ多国籍企業への課税はままならないのか』(中央経済社、2023) マンキュー(足立英之他訳)『マンキュー経済学 Tミクロ編・Uマクロ編』(東洋経済新報社) スティグリッツ(薮下史郎・訳)『公共経済学 上下』(東洋経済新報社) シャベル(田中亘・飯田高訳)『法と経済学』(日本経済新聞出版社、2010) 税大講本 (無料で勉強できる)|財務省 わが国の税制の概要 『実務税法六法 法令編』(新日本法規);『税務六法 法令編』(ぎょうせい) 所得税法 所得税法施行令 所得税法施行規則 法人税法 令 則 相続税法 令 則 消費税法 令 則 地方税法 令 則 租税特別措置法 令 則 国税通則法 令 則 国税徴収法 令 則 租税条約実施特例法 令 その他:条約検索 | 租税条約一覧 | 社会保障協定 | 投資協定一覧 | 通達(所得税法基本通達等の法令解釈通達の他、「事前紹介に対する文書回答」や「質疑応答事例」等もある) | 国税庁タックスアンサー | 和英翻訳 1. 租税法の位置付け1.1. 租税の概念とその歴史的背景1.2. 公法としての租税法と取引法としての租税法1.3. 法的分析と経済分析の統合――租税政策と租税法1.4. 理論と実務の融合と、関連法分野の統合的考察の必要性1.5. まとめ――課税問題の特色としての総合性民法や商法の講義と、現実とのズレがある。高校物理と空気抵抗の比喩ct例:相続において民法上はともかく実務上は限定承認をすると不利になることがある(4.2.3.5.)。 2. 租税をめぐる立法・行政2.1. 現代国家と租税制度2.1.1. 現代国家における租税2.1.1.1. 資本主義経済体制と租税2.1.1.2. 福祉国家と租税2.1.1.3. デモクラシー・「公益」・租税1 公共財提供のための資金調達公共財(public goods)cu……典型は国防。 トマトの消費などとの違いについて。 非競合性(nonrivalrous):消費が競合しないので利用する人が増えても追加的費用がかからない。 非排除性(nonexcludable):利用する人を締め出すことが困難である。 ↓ ただ乗り(free ride)問題の発生。市場の失敗 → 政府が提供しなければならない。 (しかし政府の失敗もあるかもしれない。 かといってNPO・非営利組織に任せられるか?) 2 (所得・富の)再分配 国家が弱者救済をしないとすれば、篤志家・宗教施設等に頼ることとなろう(或いは…略)。 しかし現在の憲法 25条は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障せよとする。国に頼るな、という哲学・価値判断は議論の対象たりうるが、少なくとも現在のところ日本人はそのような価値判断をしていない。 尤も、無い袖は触れない。憲法25条はプログラム規定。憲法29条:私有財産制との緊張もある。 再分配は租税でなく社会保障(social security生活保護や年金等)が担う機能である、という説明を時折見かける。[浅妻]そういう説明は無意味だろう。租税にせよ社会保障にせよ、政府が遂行している。cv 一般論として増税は弱者のため(再分配の原資とする)である。増税→弱者いじめは必然ではなく設計次第。 cf.貧困の罠(poverty trap)…貧困からの脱却の困難さ。最低限の生活費を給付するとすると受給者の労働意欲が阻害される(税率100%と等しいため。政府や、震災後の東電による被災者の生活保障設計でも共通する問題)。かといって給付を削るのも困難。cf.ベーシックインカム・負の所得税cw 3 景気調整…景気過熱期、賃金等が上昇し、累進所得税制の下で税額が増え、景気停滞期、賃金等が減少し、累進税制の下で税額が減る、という自動景気調整(built-in stabilizer)機能がある。cf.大野太郎=井口智博=小嶋大造「個人所得課税の自動安定化効果」2024年11月/24A-03(通巻375号)cx 4 政策実現の一手段…炭素税等のbads taxや、加速度償却等による租税優遇措置が典型。 租税を課すことの正当化根拠 利益説・対価説…国家契約説を背景とし、市民が国家から受ける利益の対価と見る考え方。国防等の公共財を考えればこの理念は否定し難いが、強調しすぎれば福祉国家の理念と衝突する恐れ。 義務説・犠牲説・能力説…国家は当然に課税権を持ち(権威的国家思想)、国民は当然に納税義務を負う、とする考え方。国家は国民の利便のために存在するという理念と衝突する恐れ。dh 2.1.2. 日本の租税制度の現状2.1.2.1. 国税と地方税(地方税総論) 図表2-1 国と地方の税収構造COLUMN2-1 地方譲与税・地方交付税は「税」か?2.1.2.2. 国の税収構造 図表2-2一般会計税収推移 図表2-3歳入歳出構造2.1.2.3. 歳入構造――「租税国家」の現状歳入の公債依存が慢性化→せめてプライマリーバランス(primary balance:基礎的財政収支)の均衡(できれば黒字化)を!… 現在の収入で、これまでの借金の元利払い以外の支出は賄えるようにしよう(今後の借金は過去の借金の返済だけにとどめる)ということ。2.1.3. 課税権の法的構成としての租税法2.1.3.1. 国家の課税権とその法的統制グラクソ事件・最判平成21年10月29日民集63巻8号1881頁百選7版74(⇒COLUMN8-4)2.1.3.2. 議会の課税承認と租税法律の位置付け2.1.3.3. 日本の租税法の体系と特徴2.2. 租税法の定立過程2.2.1. 憲法上の原則憲法14条:平等取扱原則 →租税公平主義憲法30条:納税義務 憲法83条:財政民主主義・財政国会中心主義 →財政法に多くを譲る。 憲法84条:租税法律主義 憲法94条:自主財政主義 2.2.1.1. 租税法律主義2.2.1.1.a 課税要件法定主義憲法84条「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」……憲法31条(罪刑法定主義)「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」と対比 そもそも議会は国王による恣意的課税を防ぐために現れた。 2つの思想的基礎:民主主義・自由主義。 (間接) 民主主義 →課税対象者の同意。代表なくして課税なし (cf. Boston Tea Party事件)dq [浅妻]現実には参政権のない者に課税することがある(未成年、外国人等)。【課税対象者の同意】【国費自己負担】は貫徹されてない。不公平な課税か否か、という別の考慮要素で補完せざるをえないと浅妻は思う。 応用問題:参政権のない法人に課税することは違憲か?(cf.地方団体) 固定資産税名義人課税主義事件・最大判昭和30年3月23日民集9巻3号336頁dr……XはAに昭和26年2月5日に土地の所有権を譲渡(10日、移転登記)した事例。地方税法343条及び359条が1月1日現在の土地所有者として登録されている者を納税義務者としていることは憲法に違反しない。 委任立法(立法府が行政府に委任することが許されるか)は具体的・個別的でなければならない。 一般的・白紙的委任は違憲・無効。cf.佐藤英明「租税法律による命令への委任の司法統制のあり方――現状と評価」『租税法律主義の総合的検討』11頁(フィナンシャル・レビュー129号)mz
2.2.1.1.b 課税要件明確主義自由主義からの要請 → 予測可能性(または法的安定性)の確保課税結果が予測できなければ、取引が萎縮する、という説明。 教科書的説明を一歩超えた考察 (1)租税法規が不明確だと本当に取引が萎縮するのか? (2)取引が萎縮することの何が悪いのか? (1)に関し想像しうる反論――合理的経済人は全てのリスクを織り込んで取引等の行動をする筈である。租税負担が不明確であっても、そのリスクを織り込んで合理的経済人は行動する筈である……か?(cf. Knightによるリスクriskと不確実性uncertaintyとの区別) 多くの人はリスク嫌い(risk averse) → 取引萎縮。 尤も実際のところ規定が未整備の領域は少なからずある。規定を作るコストも馬鹿にできない。dt (2)に関し、取引は多い方がよいのか?……自発的取引は社会の厚生(welfare)増大に資する(例:林檎20個を保有するA氏と肉5kgを保有するB氏との間の取引)。取引が萎縮すれば、社会に発生した筈の厚生がなくなる。 不確定概念の許容性bk (cf. rule vs. standard if) (cf.⇒COLUMN5-1同族会社) 不確定概念を2種類に区別……租税行政庁に自由裁量を与えるか否か。解釈によって明確化できるか否か。 1 当該規定の終局目的や価値概念を内容とする不確定概念(例:「公益上必要のあるとき」) 2 中間目的ないし経験概念を内容とする不確定概念(例:同族会社規定での税負担を「不当に減少させる」) 2.2.1.1.c 合法性の原則法律で定められた通り課税しなければならず、課税当局には課税を重くしたり減免したりする裁量が認められない。租税公平主義の延長で理解。和解(⇒3.2.4.5.)や協定は無効という建前(cf. 銀行税)に結びつく(が、事実認定に関する和解はありうるという議論もある)。cf.佐藤英明「租税法律主義と租税公平主義」金子宏編『租税法の基本問題』55頁(有斐閣、2007) 信義則(又は禁反言)(⇒3.1.4.)と衝突する可能性du 2.2.1.1.d 適正手続(due process)の保障納税者が法的に争う余地が確保されていなければならない。租税争訟制度(⇒3.2.)の充実。6版§232.01雑所得貸倒分不当利得返還請求事件・最判昭和49年3月8日民集28巻2号186頁(cf.4.4.2.)
2.2.1.1.e 遡及立法の禁止
2.2.1.1.f 租税法の解釈原則§141.01ホステス報酬計算期間事件・最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁百選7版13(⇒3.1.1.3.)最判平成27年7月17日判時2279号16頁gk……登記簿の表題部の所有者欄に「大字西」などと記載されている土地につき、地方税法343条2項後段の類推適用により、当該土地の所在する地区の住民により組織されている自治会又は町会が当該土地の固定資産税の納税義務者に当たるか(消極)(cf.⇒3.1.1.2.) 2.2.1.2. 租税公平主義2.2.1.2.a 公平負担原則水平的公平・垂直的公平の区別に留意(4.1.1.2.で詳述)COLUMN2-2 大嶋訴訟と所得税法改正
憲法(特に14条1項)違反の訴訟は殆ど斥けられている。 ゴルフ場娯楽施設利用税事件・最判昭和50年2月6日判時760号30頁……ゴルフだけに課税することは違憲ではない。 応用:ラーメン税、携帯音楽再生機税(iPod等)などを創設するとして、それは合憲か? 奈良県文化観光税条例事件(東大寺事件)・奈良地判昭和43年7月17日行集19巻7号1221頁……東大寺の入場料金に課税することは信教の自由(憲法20条)等に違反しない。 応用:宗教団体を免税とすることは違憲の問題を惹起するか?(そして誰が原告適格を有するか?……納税者に甘い制度について訴訟となることは極めて稀。日本の憲法訴訟のあり方の問題の一つ) どぶろく裁判・最判平成元年12月14日刑集43巻13号841頁 酒販免許制合憲判決・最判平成4年12月15日民集46巻9号2829頁、最判平成10年7月16日判時1652号52頁…酒税法9条1項、10条11号は憲法22条1項に違反しない。最も違憲判断に近づいたものの一つといえる。違憲とするならばその論理構成のポイントは? 応用:出国者に課税することは移住の自由(憲法22条)に違反するか? 小平市国民健康保険条例事件・東京地判平成24年5月23日平23(行ウ)625号判例地方自治379号10頁……国民健康保険税の資産割額の基礎が土地・家屋に限定されていることは租税公平主義に照らし憲法14条1項違反ではない。 性差別(寡婦控除)も合憲…東京地判令和3年5月27日令和元(行ウ)236号、最二小決平成7年12月15日税資214号765頁平成7(行ツ)163号。cf.加藤友佳「家族のあり方と租税」金子宏監『現代租税法講座2家族・社会』3頁(日本評論社、2017) 東京都銀行税条例事件・東京高判平成15年1月30日判時1814号44頁…結論は地方税法違反だが、大銀行のみに課税することは地方税法違反でない。その後和解(?)。憲法判断はない。dp 遡及適用→2.2.1.1.e §115.01 特定の政策目的のために、意図的に差別的な租税法が作られることも珍しくない。違憲判断は滅多にない上に、そもそも訴訟で争点とすることも難しい(例外:大牟田市⇒2.2.1.3.a)。それでも立法論として、公平の問題或いは差別的扱いの合理的理由の有無の問題を議論する余地はあろう。 2.2.1.2.b 平等取扱原則
§122.01スコッチライト事件(⇒2.2.4.1.) 2.2.1.2.c 解釈適用の指針としての公平負担原則?ドイツにそのような議論があるが日本では支持されていない。2.2.1.3. 自主財政主義神奈川県臨時特例企業税事件・最判平成25年3月21日民集67巻3号438頁百選7版7gw…神奈川県の臨時特例企業税条例(法人税法上の欠損金の繰越により課税所得がないとされた部分を課税対象とする地方税)が違法であるとして、いすゞ自動車が納付した全額19億円余りの返還を県に求め認容された事例。憲法92・94条参照。地方公共団体には憲法上課税自主権がある。 税制・財政を巡る地方分権につき、次のような長所短所が考えられる。 ●各地方の実情に即したきめ細かな税制が構築できる。 ●租税競争(足での投票)→税制・財政が効率化(賄賂要求や無駄な財政支出がしにくくなる等)。 ●勝手に税制が作られると、種々の税制ができて税制が複雑化する。 ●住む地域によって著しく税負担が異なることになる不公平拡大の恐れ。 ●他地域住民に租税負担を転嫁しようとする租税輸出の恐れ。 ●底への競争(税率引下競争)が弱者切捨てを導く恐れ。 (橋下徹大阪市長(当時)が消費税の地方税化を主張したことについて長所短所を踏まえつつ支持・不支持を考えてほしい。Cf.土居丈朗「「消費税の地方税化」私ならこう考える」2012.4.9) 2.2.1.3.a 地方税の課税根拠大牟田市電気税訴訟・福岡地判昭和55年6月5日訟月26巻9号1572頁百選7版8…地方税法により一定の用途に供される電気またはガスが非課税とされていたところ、大牟田市は市税条例により電気ガス税を課したいのに税収不足が生じてしまっており、国(被告)による課税権の侵害であるとして国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を請求した事例(請求棄却)。§111.01旭川市国民健康保険条例事件・最大判平成18年3月1日民集60巻2号587頁百選7版2 地方税法で枠がはめられている(枠法・準則法)。 地方税の賦課徴収は地方税条例に根拠付けられねばならない……地方税条例主義。 2.2.1.3.b 地方税法による自主課税権の制約2.2.1.3.c 関与の法定主義泉佐野市ふるさと納税事件・最三小判令和2年6月30日民集74巻4号800頁hx…総務大臣の不指定の違法・無効を認めた事例。2.2.2. 「租税」の法的定義「国家が、特別の給付に対する反対給付としてではなく、公共サービスを提供するための資金を調達する目的で、法律の定めに基づいて私人に課する金銭給付」cy(ア)租税の公益性(資金調達目的) 罰金・科料等と異なる。資金調達以外の目的(例えば関税)であっても、資金調達をも目的の一つとしていれば、租税である。cf.殺人抑止税は税か? (イ)租税の非対価性 各種使用料・手数料・特権料等と区別。受益者負担的性格の強い税との境界は曖昧。§111.01旭川市国民健康保険条例事件・最大判平成18年3月1日民集60巻2号587頁百選7版2(⇒2.2.1.1.a) (ウ)租税の一般性 分担金と、区別。しかし、受益者分担金的性格の強い税もある。道路特定財源や消費税の福祉目的税化等の使途限定より一般財源化が望ましいというのが財政学の定説。db また、特定の者のみに租税を課すこと(いわゆる狙い撃ち課税)は許されない。cf.横浜市の馬券税。dc (エ)租税の権力性(強制性) 国の事業収入などと異なる(cf.石油)。課税対象者の同意なくして課税できる。cf.銀行税⇒COLUMN2-2 cf.ガーンジー島事件・最判平成21年12月3日民集63巻10号2283頁(⇒COLUMN8-7) (オ)金銭給付 (物納ddは相続税などで例外的) 金納には、納税者の自由と効率的資源配分を害する程度が低い、というメリットがある。 COLUMN2-3 「租税」の本質的要素は「強制性」か?2.2.3. 租税政策上の原則COLUMN2-4 経済学的知見の有用性――黙示の税(implicit tax)を素材に2.2.4. 租税法の存在形式2.2.4.1. 租税法の法源(a)憲法(b)法律 (c)命令(政令:所得税法施行令、省令:所得税法施行規則) (d)告示…例:所税78条2項2号。固定資産評価基準については定説未形成。 西宮市六甲事件・最判平成21年6月5日集民231号57頁is(今本啓介・ジュリスト1427号169頁)……市街化区域農地の宅地並み評価(農地は低く評価されるが宅地に転用できる土地は高値で買われうるので宅地並みに評価すること)につき、市街化区域としての実態を有してないとして市長の主張を斥けた原審に対し、原審を破棄し、市街化区域農地の価格を適切に算定することのできない特別の事情の存否について差戻した事例。なお人見剛・重判H25、58-59頁は建替え予定マンション贈与事件・最判平成25年7月12日民集67巻6号1255頁(⇒2.2.1.2.b)について。 (e)条例・規則 (f)国際法源(租税条約等)……憲法98条2項:憲法>条例>法律>交換公文 (g)判例 (h)通達(法令解釈通達)…法源ではないが法的に「無」でもない。過少申告加算税「正当の理由」の論点等。瀧源(タキゲン)事件・最判令和2年3月24日判時2467号3頁は後述(⇒4.2.3.5.)
2.2.4.2. 課税要件(a)納税義務者……所得税法上の源泉徴収納付義務者、消費税法上の「事業者」等……納税義務者と担税者との区別 (第二次納税義務:共栄火災海上保険相互会社事件・最判平成元年7月14日判時1327号21頁百選7版24mv)(b)課税物件……「所得」等 (c)課税物件の帰属……所得税法12条等 (d)課税標準……「所得の金額」等 (e)税率……所得税法89条1項等 2.3. 租税法の実現過程2.3.1. 租税法律関係の特徴最判昭和35年3月31日民集14巻4号663頁行政判例百選T-7版11……滞納処分において民法177条の適用を肯定。税務署長が、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に該当しないとした事例。公売処分無効例。「私経済上の取引の安全を保障するために設けられた民法一七七条の規定は、自作法による農地買収処分には、その適用を見ない」とした最大判昭和28年2月18日民集7巻2号157頁と態度が異なる。 6版§232.01雑所得貸倒分不当利得返還請求事件・最判昭和49年3月8日民集28巻2号186頁は後述(⇒4.4.2.) コラム2-5 「ものの見方」としての債務関係説と権力関係説cf.佐藤英明「『租税債権』論素描」金子宏編著『租税法の発展』3頁2.3.2. 租税行政過程2.3.2.1. 概観2.3.2.2. 租税確定手続2.3.2.2.a. 原則的な租税確定手続申告納税方式(税通16条1項1号)と賦課課税方式(2号。地方税法1条1項7号では普通徴収)確定申告(所税120条)において青色申告制度等ihによる動機付けの設計
給与所得・利子所得等様々なところで徴収納付が用いられる。 最判昭和45年12月24日民集24巻13号2243頁百選7版114kr(⇒4.8.3.源泉徴収)……源泉徴収の「納税義務は右の所得の支払の時成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する」。「源泉徴収による所得税の税額は、前述のとおり、いわば自働的に確定するのであつて、右の納税の告知により確定されるものではない。すなわち、この納税の告知は、更正または決定のごとき課税処分たる性質を有しない」。「源泉徴収による所得税についての納税の告知は、課税処分ではなく徴収処分であつて、支払者の納税義務の存否・範囲は右処分の前提問題たるにすぎないから、支払者においてこれに対する不服申立てをせず、または不服申立てをしてそれが排斥されたとしても、受給者の源泉納税義務の存否・範囲にはいかなる影響も及ぼしうるものではない。」 日光貿易事件・最判平成4年2月18日民集46巻2号77頁百選7版115lb……「源泉所得税と申告所得税との各租税債務の間には同一性がなく、源泉所得税の納税に関しては、国と法律関係を有するのは支払者のみで、受給者との間には直接の法律関係を生じないものとされていることからすれば、前記源泉徴収税額の控除の規定は、申告により納付すべき税額の計算に当たり、算出所得税額から右源泉徴収の規定に基づき徴収すべきものとされている所得税の額を控除することとし、これにより源泉徴収制度との調整を図る趣旨のものと解されるのであり、右税額の計算に当たり、源泉所得税の徴収・納付における過不足の清算を行うことは、所得税法の予定するところではない。」(⇒COLUMN4-3年金払い生命保険金二重課税事件) 2.3.2.2.b. 例外的な租税確定手続(ア)過少申告の場合 修正申告(国税通則法(税通)19条)(イ)過大申告の場合 更正の請求(税通23条1項……5年以内に期間延長) 更正の請求・不当利得返還請求・国家賠償との関係について 寒川朝海事件・最判昭和39年10月22日民集18巻8号1762頁百選7版104nu…「確定申告書の記載内容の過誤の是正については、その錯誤が客観的に明白且つ重大であって、前記所得税法の定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、所論のように法定の方法によらないで記載内容の錯誤を主張することは、許されない」。更正の請求の原則的排他性。 冷凍倉庫事件・最判平成22年6月3日民集64巻4号1010頁百選7版121ig……「地方税法は,固定資産評価審査委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税等の納税者は,同委員会に対する審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えによってのみ争うことができる旨を規定するが,同規定は,固定資産課税台帳に登録された価格自体の修正を求める手続に関するものであって(435条1項参照),当該価格の決定が公務員の職務上の法的義務に違背してされた場合における国家賠償責任を否定する根拠となるものではない。……行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするについては,あらかじめ当該行政処分について取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではない」(⇒3.2.2.1.審査請求前置主義)my iv (ウ)事後的な事実関係の変動により申告税額が過大となった場合 2ヶ月以内に更正の請求(税通23条2項。cf.70条1項)kl (エ)税務署長の行政行為による税額確定 申告が(適正で)ない場合の更正・決定(税通24条・25条)。納税者が不服であれば不服申立てへ。 2.3.2.2.c. 質問検査権2.3.2.3. 徴収手続51頁図表2-4 税額確定・徴収手続の流れ(申告納税方式の場合)参照。法定納期限までに自発的納付がない場合→強制徴収へ。督促にも応じなければ滞納処分へ。mm 第二次納税義務
2.3.2.4. 附帯税2.3.2.4.a 延滞税(税通60条)mu最判平成26年12月12日集民248号165頁百選6版99(⇒2.2.1.1.d適正手続)東京地判平成28年1月15日平成26(行ウ)664号…国税通則法60条4項により相続税法34条1項の相続税には延滞税も含まれる。法定納期限後、本来の納税義務者が徴収猶予を受けていた期間と原告が連帯納付義務の納税告知を受けるまでの期間を含めて、延滞税が発生する。 2.3.2.4.b 利子税(税通64条)雑駁に言えば、民事の遅延損害金(→延滞税)と民事の法定利息(→利子税)。利子税の年7.3%=税通58条の還付加算金の年7.3%)。現在は特例基準割合(租特法93条、95条) 2.3.2.4.c 加算税(税通65〜68条)[1]過少申告加算税(税通65条)[2]無申告加算税(税通66条) [3]不納付加算税(税通67条) [4]重加算税(税通68条) 寿屋事件・最判昭和33年4月30日民集12巻6号938頁nv…逋脱犯に対する刑罰と追徴税は憲法39条(二重処罰禁止)に違反しない。 国税不服審判所令和5年12月4日裁決・裁決事例集133集_頁……工事代金を申告していなかった(担当取締役が現金で受け取り領収書の発行を忘れ帳簿に記載し忘れていた)ことについて隠蔽仮装に当たらず国税通則法68条1項(重加算税)の賦課要件を満たさないとした事例。cf.北村豊「隠すつもりはなかったのに…」 COLUMN2-6 加算税制度と租税法の実現過程佐藤英明「過少申告加算税を免除する『正当な理由』に関する一考察――IMPACTを手がかりとして」総合税制研究2号91頁ストック・オプション加算税事件・最判平成18年10月24日民集60巻8号3128頁(⇒4.2.6.2.フリンジ・ベネフィット) 航空機リース事業匿名組合事件・最判平成27年6月12日民集69巻4号1121頁百選7版22(⇒4.2.5.不動産所得) 2.3.3. 租税行政過程に係る主体2.3.3.1. 租税行政組織の構造2.3.3.1.a 国の租税行政組織2.3.3.1.b 地方公共団体の租税行政組織2.3.3.2. 税理士制度税理士法52条による業務独占:無償でも駄目 (cf.税理士法51条通知弁護士制度について⇒km)cf.弁護士法72条による業務独占(非弁行為の禁止)には「報酬を得る目的」「業とする」という限定がある。 3. 租税法の実現と法律家の役割3.1. 租税法の解釈3.1.1. 租税法令の解釈3.1.1.1. 法令解釈という作業3.1.1.2. 文理解釈の基本民主主義的側面と自由主義的側面。最判平成27年7月17日判時2279号16頁(⇒2.2.1.1.f)3.1.1.3. 最高裁の態度
逆ハーフタックスプラン事件(養老保険契約保険料控除事件)・最判平成24年1月13日民集66巻1号1頁(⇒4.2.9.一時所得)
3.1.1.4. 概念の拡張と縮小
最判平成17年3月10日民集59巻2号379頁百選7版110(⇒6.2.4.2.b)…帳簿不提示時の青色申告承認取消処分は適法。 3.1.1.5. 類推解釈
3.1.2. 租税法と私法3.1.2.1. 借用概念固有概念:他の法分野では用いられてなく租税法が独自に用いている概念(例:所得、資産)借用概念:他の法分野で用いられており意味内容が与えられている概念(例:株主、配偶者)hc 3.1.2.2. 借用概念の解釈統一説:借用概念を借用元の法分野におけるのと同じ意義に解釈すべき、とするのが通説。但し「利益配当」概念が商法上適法な配当に限定されなかった例に留意(6版§221.02鈴や金融事件・最判昭和35年10月7日民集14巻12号2420頁百選5版36⇒4.2.2.1.) 5版§162.02(6版80頁)勧業経済株式会社事件・最判昭和36年10月27日民集15巻9号2357頁百選5版16ar…出資者が隠れた事業者として事業に参加しその利益の分配を受ける意思を有せず、金銭を会社に利用させその対価として利息を享受する意思を持つていたに過ぎず、このことが、原判決認定の事情のもとに客観的にも認められる場合は、事業者と出資者との契約は、所得税法第1条第2項第3号にいう「匿名組合契約およびこれに準ずる契約」にあたらない。 事実婚「配偶者控除」訴訟・最判平成9年9月9日訟月44巻6号1009頁百選7版50av…法律婚に限る。 扶養控除にいう「親族」・最判平成3年10月17日訟月38巻5号911頁ax…民法上の親族に限る。 住所:6版§142.01武富士事件・最判平成23年2月18日判時2111号3頁百選7版14(⇒3.1.3.4.) 法人・デラウェア州LPS事件・最判平成27年7月17日民集69巻5号1253頁百選7版23(⇒4.2.5.不動産所得、8.2.1.2.c) 異説 独立説:租税の徴収確保又は公平負担の観点から、借用概念であっても租税法独自に解釈すべきである。 目的適合説:必ずしも租税の徴収確保に資する解釈が優先するわけではないが、借用概念であっても租税法の目的に適合的な解釈をすべきである。(ドイツで有力であり日本でも支持者がいるが深入りしない) 統一説が通説とはいえ、統一説の論者も別意に解すべきことが租税法規の明文又はその趣旨から明らかな場合は別論としており、統一説と独立説・目的適合説との違いを教条主義的に捉えるべきでない。 3.1.2.3. 借用概念の修正所税60条1項「贈与」概念の修正:6版§222.08浜名湖競艇場用地事件・最判昭和63年7月19日判時1290号56頁百選7版44(⇒4.2.3.6.租税属性の引継ぎ)。3.1.2.4. 私法取引と租税法
6版§225.01土地時効取得事件・静岡地判平成8年7月18日行集47巻7=8号632頁(⇒4.2.9.一時所得)
3.1.3. 租税回避の否認3.1.3.1. 節税・脱税・租税回避6版§143.01金子宏「租税法と私法――借用概念及び租税回避について」の用語法節税(tax saving, Steuerersparung):租税法規が予定しているところに従って税負担を減少させる。合法。 脱税(tax evasion, Steuerhinterziehung):課税要件の充足の事実を秘匿して税負担を減少させる。違法。 租税回避(tax avoidance, Steuerumgehung):「合理的または正当な理由がないのに、通常用いられない法形式を選択することによって、通常用いられる法形式に対応する税負担の軽減または排除を図る行為」(第1類型)、「租税減免規定の趣旨・目的に反するにもかかわらず、私法上の形成可能性を利用して、自己の取引をそれを充足するように仕組み、もって税負担の軽減または排除を図る行為」(第2類型)(金子宏租税法24版134頁)hg cf. タックス・シェルター(tax shelter租税回避商品):高度に複雑な一連の契約を組み合わせて租税負担の軽減を図る仕組み(scheme/structureとも呼ばれる)。 租税回避の例 (所得税法33条1項括弧書きがない場合の「譲渡」の回避) AB間の譲渡の例|CD間で譲渡を回避する例 A B | C D (相殺) ■ →土地譲渡 | ■ →地上権設定 (地代←) 金銭支払← 10 | 金銭融資← 10 (→利子) 3.1.3.2. 租税回避への対応租税回避(行為)の否認……租税回避があった場合に、当事者が用いた法形式を租税法上は無視し、通常用いられる法形式に対応する課税要件が充足されたものとして取り扱うこと個別的否認規定に基づいて否認することはできる。(所税33条1項括弧書、租税特別措置法41条の4の2特定組合員等の不動産所得に係る損益通算等の特例) やや一般的な否認規定、例えば同族会社の行為計算否認規定(法人税法132条(⇒COLUMN5-1)等…尤も課税庁が敗訴する事例は珍しくない)等hiについては不確定概念(⇒2.2.1.1.b)を参照 §1版330.01明治物産株式会社事件・最判昭和33年5月29日民集12巻8号1254頁 ヤフー事件・最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁百選7版64eboh、IDCF事件・最判平成28年2月29日民集70巻2号470頁……法人税法132条の2について「濫用」を許さない。 否認規定がない場合にも否認が認められるか否か。――否認規定なき否認を認めないとすると、租税回避を行なった者と通常の法形式を選択した別の納税者との間で不公平(後述)が生じてしまうことが懸念される。が、通説は認めない。最高裁の判断はなく、下級審の裁判例は分かれている、と説明される。が、近年の裁判例は(課税庁も)、否認規定なき否認は認められない、ということを前提としている。この前提の下、別の理由付けにより否認するのと同様の結果が導かれるか、に議論の焦点は移りつつある。 不公平について……租税回避を行なえる者は高所得者に限られ、租税負担の公平な配分という要請に一層反するという懸念。更に、弁護士等が租税回避に勤しむことは資源(頭脳)の無駄遣いだ、という批判もある。但し、租税法の不明瞭な領域に線引きをもたらしてくれるという意味で租税回避には積極的意義もある。cf.渡辺智之「租税回避の経済学:不完備契約としての租税法」フィナンシャル・レビュー69号153頁 佐藤英明『スタンダード所得税法』4版521頁以下(弘文堂、2024)の用語法 租税回避否認論1.0:否認規定なき否認は許されない。 租税回避否認論2.0:租税回避の否認に近い効果(即ち課税庁勝訴)をもたらす可能性。 (租税回避否認論3.0:BEPS対策、GAARの是非、法人132条の2に関する「制度の濫用」概念の是非等、最先端の議論は流動的なので学部生レベルでは理解できなくても構わない。) 租税回避否認論2.0:否認規定なき否認は認められないとの前提でも、納税者の租税負担軽減の試みが成功するとは限らない。 (1) 契約・法律構成の真正性が納税者の主張する通りであるとは限らない。 (2) 租税法規の解釈が納税者に都合の良いことばかりではない。 (1) 事実認定・私法上の法律構成による「否認」――納税者が主張する法律構成(主に契約)の真正性が否定され、租税回避が成功しない場合のこと。契約が裁判所によって認められていないので、租税回避が否認されるのではなく、そもそも租税回避が成立していない、という説明。結果的に租税回避を否認することに類似するが、通常言われるところの租税回避の否認とは異なるので、括弧つきの「否認」で表現される。(⇒6版§143.02相互売買事件・東京高判平成11年6月21日高裁民52巻1号26頁……但し事実認定・私法上の法律構成による「否認」を認めなかった事例) (2) 課税減免規定の限定解釈――Pという要件を満たせば課税を減免するという規定があるところ、或る納税者が確かにPという要件を満たしているが、租税法の適用に当たり、当該課税減免規定の趣旨・目的に照らし明示されてはいないがQという要件も満たしていないと課税減免の恩恵を与えることはできない、などの解釈をすることにより、納税者の租税負担軽減の試みを潰すこと。租税法規の解釈の一態様であり、否認規定なき否認ではない、と説明される。(⇒6版§143.03外国税額控除余裕枠りそな銀行事件・最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁) (2)の他の例 6版§143.04パラツィーナ事件(フィルムリース事件)・最判平成18年1月24日民集60巻1号252頁(原審は(1)事実認定・私法上の法律構成による「否認」の例と理解しうるところ、最高裁は理由を(2)課税減免規定の限定解釈に変えた) 5版§322.05(6版403頁)オウブンシャホールディング事件・最判平成18年1月24日訟月53巻10号2946頁 統一説とか事実認定とかを一般論として論ずることにあまり意味はない。問題となっている具体的な規定や事実関係や当事者の主張の巧拙に左右される。 仮装行為の説明と合わせて、下の表を作成(但し下の表は浅妻独自。定説ではない)。
**Cf.§164.03 Gregory, 293 US 465 (1935)…判例法国のアメリカでは、明示的否認規定がなくとも、規定の趣旨を勘案し、事業目的がない取引について租税回避を潰す例がある。([浅妻]英米で許されるなら日本でも許せば?、と尋ねられると、正直言って困る。) (1)の事実認定・私法上の法律構成による「否認」の可否に関して。
3.1.3.3. 法令解釈の限界
3.1.3.4. 納税者の租税回避目的と事実認定
3.1.3.5. 総合的対応の必要性5版§322.05(6版403頁)オウブンシャホールディング事件・最判平成18年1月24日訟月53巻10号2946頁3.1.4. 信義則(民法1条2項)3.1.4.1. 租税法令の解釈に関する納税者の信頼保護3.1.4.2. 信義則の適用要件
非課税の事実状態が積み上がる事により、信義則上、非課税を覆すことができなくなるか?(⇒2.2.4.1.h通達) 合法性の原則(⇒2.2.1.1.c)との緊張関係 [浅妻]形式的にいって、法の正しい解釈を知らなかった納税者について保護しなくてよい、と突き放すことも考えられないではない。しかし、他方で、課税当局の見解を信じた者がその見解に従って一定の作為・不作為をなしていたとすると(例えば所得控除・損金算入があると信じて寄附hkするなどした場合)、信義則・禁反言を認めなければ納税者の予測可能性が(形式的にはともかく事実上は)害される。 3.1.4.3. 加算税における「正当な理由」ストック・オプション加算税事件・最判平成18年10月24日民集60巻8号3128頁(⇒4.2.6.2.フリンジ・ベネフィット)6版§225.03航空機リース事業匿名組合事件・最判平成27年6月12日民集69巻4号1121頁(⇒4.2.5.不動産所得) 3.2. 租税争訟制度3.2.1. 意義3.2.2. 国税に関する不服申立手続3.2.2.1. 審査請求前置主義の原則75頁図表3-1 国税に関する不服申立手続の流れ 参照 行訴法8条1項本文の自由選択主義の例外として、いきなり訴訟を提起することはできない。 かつては税務署長等に対し異議申立をしてから、不服があれば国税不服審判所に審査請求をする、という二段階であったが、異議申立(今は原処分庁たる税務署長等に対する再調査の請求)を省略できるようになった。 いきなり訴訟を提起できないとはいえ、国家賠償請求をすることができる場合がある。冷凍倉庫事件・最判平成22年6月3日民集64巻4号1010頁(⇒2.3.2.2.b例外的な租税確定手続) 3.2.2.2. 訴訟提起前の不服申立手続3.2.2.3. 再調査の請求手続3.2.2.4. 審査請求手続裁判とは色々違う……同席主張説明、争点主義的運用、弁論主義不適用(税通97条1項)、判断の統一(税通98条4項)、課税庁側の出訴不可(税通102条1項)3.2.3. 地方税に関する不服申立手続最判令和元年7月16日民集73巻3号211頁百選7版99bb(田中啓之・ジュリスト1539号10頁)…固定資産評価審査委員会による審査の過程で主張しなかった事由を取消訴訟において主張することは許される。3.2.4. 租税訴訟3.2.4.1. 訴訟類型と手続原処分主義(行訴10条2項)……裁決の適否を争うのではなく課税庁の処分の適法違法を争う。納税者(代理人・弁護士+補佐人・税理士)vs.国(指定代理人は訟務検事が多い)(以前は税務署長が被告だった) 3.2.4.2. 訴訟物と処分理由の差替え学説では争点主義が根強いが、判例(最判昭和49年4月18日訟月20巻11号175頁bd…「本件審査裁決が右総所得金額を構成する所論給与所得の金額を新たに認定してこれを考慮のうえ審査請求を棄却したことには、所論の違法があるとはいえない」。「本件決定処分取消訴訟の訴訟物は、右総所得金額に対する課税の違法一般であり、所論給与所得の金額が、右総所得金額を構成するものである」。)は総額主義→処分理由の差替えは同税額内でかつ民訴一般の適時提出主義(時機に後れた攻撃防御方法でなければ)の範囲内で可能。cf.⇒6版§231.03高松市塩田宅地分譲事件・高松地判昭和48年6月28日行集24巻6=7号511頁(⇒4.3.3.違法な支出)
3.2.4.3.. 主張責任・証明(立証)責任の分配dv3.2.4.4. 訴えの利益
3.2.4.5. 和解⇒2.2.1.1.c 合法性の原則 との緊張関係(事実上の和解はある)3.2.4.6. 推計課税最判昭和39年11月13日訟月11巻2号312頁bi憲法84条違反ではない。東京高判平成6年3月30日行集45巻3号857頁百選7版111…所得税法156条(法人税法131条)推計課税について「所得の実額との関係で厳密な整合性を有する必要はなく、実額課税に代わる方式にふさわしいといい得る程度の推計の合理性で足りる」。実額反証の立証責任について「原告が直接資料によって収入及び経費の実額を主張・立証することは、被告の抗弁に対する単なる反証ではなく、自らが主張・証明責任を負うところの再抗弁であり、しかも、その再抗弁においては単に収入又は経費の実額の一部又は全部を主張証明するだけでは足りず、収入及び経費の実額をすべて主張・証明することを要する」。 lo 3.3. 租税法務と租税争訟の現状3.3.1. 租税法務と法律家の役割3.3.1.1. 租税法務と法律家3.3.1.2. 租税争訟における法律家COLUMN3-1 国際的租税争訟の動向3.3.2. 法律実務家に求められるものCOLUMN3-2 タックス・プラニング10年前の1000億円について600億円の儲け(税引き後) → 投資利回り5%ってどういう意味?年5%(税無視)で年複利運用→ 元本×1.05×1.05×…×1.05 → 1.05の10乗≒1.629 逆に、1.6の1/10乗を計算したい場合 「1.6^0.1=」でググる → 1.0481だから年利約5%。 ドラえもんがのび太に「定期預金なら100年で1024倍」と勧める → 1024^0.01≒1.0718 年利7%の時代の話 4. 個人の所得課税―所得税と住民税4.1. 所得概念と所得税法の構成4.1.1. 所得概念4.1.1.1. 制限的所得概念・包括的所得概念担税力(ability to pay, Leistungsfähigkeit)概念について……租税を負担する能力、といった程度の曖昧な意味であり、論証には使いにくいマジック・ワードである。ec例:「医療の消費には担税力がない。」「酒の消費には担税力がある。」だけでは説明にならない。担税力がある、担税力がない、という時点で結論を語っており、なぜそう考えるかの理由の方が大事。 担税力の基準として、所得・消費・資産(財産)がしばしば挙げられる。 タックス・ミックス……一種類に頼ると弊害が大きいので、所得税だけでなく財産税・消費税も組み合わせバランスのとれた税制を構築すべきであるという考え方。ed 取得型(発生型)所得概念(acquisition (accrual) type concept of income) 制限的所得概念(limited income)…所得源泉説・反復的利得説ともいう。欧州で支配的(欧州でキャピタル・ゲイン課税は例外的)。分類所得税(scheduler system)と親和的。 包括的所得概念(global income)…所得=消費+純資産増加と定義。純資産増加説ともいう。提唱者3名のシャンツ・ヘイグ・サイモンズ(Schanz, Haig, Simons)の所得概念ともいう。日米で支配的。総合所得税(global system)と親和的。 4.1.1.2. 取得型(発生型)所得概念に対する批判(消費型所得概念)一応の知識として……水平的公平(同等の経済力を持つ二者に同等の課税をすべし)と垂直的公平(異なる経済力を持つ二者にその異なりに応じた差異を設けた課税をすべし)この二つの公平概念を知っておくべきではあるが、それだけでは答えが導けないことが多い。何を以て「同様」「異なる」と評すか?つまり経済力を図る際に我々は何に着目すべきか?人頭税は頭の数に応じた課税だから公平か?ee ([浅妻]公平について「公平」(形式的)と「衡平」(実質的)を使い分ける人が多いが本講では衡平を使わない) 例:Aは1000の所得を得、100消費する。Bは100の所得を得、100消費する。AとBとは同様の状況か。 例:Cは1000の所得を得、1000消費する。Dは1000の所得を得、100消費する。CとDとは同様の状況か。 公平(equity)と中立性(neutrality)・効率性(efficiency) (a) 不公平とは限らない差別的・非中立的取扱 税のない世界において、ともに収益率10%のX・Yという二つの投資先があるとする(概説のリンゴ・ミカンをX・Yに一般化)。X債券の利子に税率50%で課税し、Y債券の利子に課税しないとする。Xの税引後収益率は5%、Yの税引後収益率は10%。 Xへ投資していた者の一部がYへの投資に振り替える。収益逓減(diminishing returns)efの法則を前提とすると、Xの収益率が上昇し、Yの収益率が減少する。最終的に、Xの税引後収益率とYの税引後収益率が同じになるまで、XからYへの振り替えが行なわれる。例えば、税引後収益率7%egなどまで調整される。 調整後の状態を均衡(equilibrium)という。 Yについて名目的には課税されていないにもかかわらず、調整過程を経てYの税引前収益率が10%から7%などに低下していることを、暗黙の税(implicit tax)が課せられているという。 差別的・非中立的な課税は、必ずしも結果的にも不公平とは限らない。 50%の課税を受けると知りながら敢えてXに投資した者を事後的に救う(非課税とする)と、却ってXを不当に優遇することとなる。Yに投資した者に事後的に課税すると、却ってYを不当に冷遇することとなる。 応用例:所謂クロヨン問題について……名目的な税率は50%であり、サラリーマンはその所得の100%が課税に服し、自営業者はその所得の60%が課税に服す、という世界を仮想する。サラリーマンの所得にかかる税率が50%であり、自営業者の所得にかかる税率が30%である、というのと同じことである。就業形態について差別的・非中立的な扱いである。しかし、サラリーマンか自営業者か自由に選べるのだから結果的には不公平でない……といえるか? ●就業形態の選択が、X債券・Y債券の選択と同じように、スムーズにできるとは限らない。就業形態選択の摩擦(friction)がある限り、不公平さは残る。 ●移行(transition)の問題……追加的な例として、或る日突然サラリーマンの税率が30%に下げられたとする。市場における調整を通じてサラリーマンが減少し税引前所得が上昇していたときに、突然制度が変わると、自営業者がサラリーマンになろうとする次の調整の間、既にサラリーマンであった者はたなぼた(windfall)を得る。(注意:制度変更が常にたなぼたをもたらすとは限らない。制度変更が予想されている場合など。) ●職業選択の自由(cf.憲22条)は、X・Yの投資と異なり、税のみによって決まらない。 市場で常に完璧に調整されるとは言い切れない。が、不公平は見かけほどではない、というのも一面の真実。 (b) 非中立、非効率 選択が自由にでき、移行の問題もクリアされるならば、不公平さはなくなるかもしれないが、それでも差別的・非中立的な取扱に何か不都合があるのか? ……非中立的な課税は死荷重(deadweight loss: 死重損失ともいう)をもたらす、つまり、非効率をもたらすのが悪い。 (『ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか』54頁より) 図は、A-B間の資源(例えば農地)の、リンゴとミカンとの配分を表している。Aに近い農地はリンゴに適し収益率が高くBに近付くほど収益率が低くなる。Bに近い農地はミカンに適し収益率が高くAに近付くほど収益率が低くなる。無税の世界では上の右下がり曲線と上の左下がり曲線の交点であるC点が均衡点であり、A-D間の農地でリンゴを、D-B間の農地でミカンを生産することが最適な資源配分である。突然、ミカンだけが課税されるとなると、ミカンの税引後収益率曲線は下の右下がり曲線になる。新たな均衡点はE店となる。D-F間の農地は、無税の世界ではミカンの方が収益率が高かったが、ミカンだけの非中立的な税が導入されると、ミカンの税引前収益よりリンゴの税引前収益率の方が高いので、D-F間の農地はミカンからリンゴに振り替えられ、A-F間の農地がリンゴに割り当てられ、F-B間の農地がミカンに割り当てられる。なお、この場合、G-Eの右上の部分(ミカンの税引前収益率曲線と税引後収益率曲線の間)は税収になり、公共財や弱者救済のために使われるので、無駄にはならない。無駄になるのは三角形CGEの部分であり、この部分が非中立的な課税により世の中から消えてしまう。この部分が非中立的な課税の社会的なコストであり、死荷重という。ミカンが課税されずリンゴだけ課税される場合の死荷重は三角形CJHの部分である。リンゴとミカンが同じように課税されるならば均衡点はK点であり、資源配分が歪まない。 差別的・非中立的な取扱が常に非効率をもたらすとは限らない。 例:独身男に課税し、独身女に課税しない、とする。性転換が不可能なら(今は可能だが)、資源配分に影響しない(夫婦等のカップルは別論)。非中立だが効率性には影響しない。 尤も大抵の非中立的取扱は非効率をもたらすので、非中立と非効率とはほぼ同義で使われる。 中立性は、何と何との選択に着目するかを明らかにした上で初めて意味を持つ。cf.限定的中立性という概念について増井良啓「法人税の課税単位―持株会社と連結納税制度をめぐる近年の議論を素材として―」租税法研究25号62頁(1997) 例:独身男の賃金に課税し、独身女に課税しない。 → 労働意欲減少という非効率(⇒COLUMN4-2人的資本)。 この非効率は、「男」に課税した結果ではなく、「賃金」に課税した結果である。(夫婦等は別論) 効率的な課税とは……一括税(lump-sum tax) ⊃人頭税(a poll tax, capitation) 例:くじ引きによる課税だと一人一人の税額が異なるが、人々の行動は変化しない。 納税者の行動と無関係に徴収される税が効率的な租税 (cf.身長税ej) 良い租税かは別論 (c) 公平と中立性(効率性)との関係 公平と効率性とのトレードオフ(trade off)の関係……分配を平等にしようとすると、課税される側の働く気が失せ、分配の対象である経済的パイの大きさそのものが小さくなる(つまり非効率になる)。 なお、平等というとき、結果の平等と機会の平等が区別されることが多いが、区別し通すのも困難。 本講で公平はあまり扱わず中立性を扱うことが多い。公平を論ずるのはまだ難しい。 (d)貯蓄(消費を遅らせる)と即時消費との比較 割引現在価値(discounted present value)や金銭の時間的価値(time value of money)に留意 A(すぐ消費する人)とB(貯蓄して翌年消費する人)との比較 →消費より貯蓄(後で消費する)という選択肢を包括的所得概念は不公平・非中立的に不利に扱っている →消費型(支出型)所得概念(consumption (expenditure) type concept of income)…消費のみに課税すべきとする考え方。支出税(expenditure tax)と親和的。 expensing(全額即時控除)方式:貯蓄時に課税せず、利子受領時(消費時)に課税する。(⇒COLUMN5-5即時損金算入と資産化) yield exemption(収益非課税)方式:貯蓄時に課税するが、利子受領時(消費時)に課税しない。 所得課税vs.消費課税…経済学者:利子課税vs.非課税 | 巷:直接税vs.間接税 (⇒COLUMN6-6包括的所得概念と消費課税の差異は意外と小さい?) 利子非課税の論拠…経済学者:消費・貯蓄の中立性 | 巷:足が速い利子所得などに課税すると資本逃避(capital flight)で一層日本経済が苦しくなる恐れ。 cf.北欧諸国の二元的所得税(dual income taxation)…投資所得及び法人の所得について軽めの比例税率(flat rate)、労働所得に累進税率(progressive rate)。 COLUMN4-1包括的所得概念は正しくない?消費課税論者(利子非課税論者)への反論第一:消費課税にも非中立性(余暇⇒COLUMN4-2人的資本)。非中立性の数の比較の意義の小ささ。 第二:効率性以外の考慮要素…包括的所得概念の定義式は一見当たり前の事のように見えるかもしれないが、実は富の再分配という政策的意図が混入したものである(例:ビル・ゲイツのような富豪とあなたの消費生活が同じであったら税負担も同じで良いですか?)。 所得概念論に正解はなく、価値判断の問題であるというのが教科書的説明(学界では更に突っ込んだ議論がされているeq)。) 近年は所得か消費かという哲学(価値判断)より最適課税論(optimal taxation theory)が隆盛……一定の税収が政府にとって必要であることを与件(論ずる対象としない前提)とし、どういう租税負担配分なら公平に配慮しつつ効率性をあまり害さないで済むか(勤労意欲を阻害しないで済むか)を考える。 4.1.2. 所得税法の構成
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個人単位主義 | 消費単位主義(夫婦単位・家族単位)le |
合算非分割主義/合算分割主義(均等・不均等) 単一税率表制度/複数税率表制度 |
6版§212.03二分二乗訴訟・最大判昭和36年9月6日民集15巻8号2047頁百選7版30bj (給与所得+事業所得=62万4800円の半額)+(配当所得43万2200円)…給与・事業所得は妻の内助の功有り、配当所得にはなし、という想定。典型的な二分二乗(夫婦合算分割)とは異なる。 (余談:離婚時の財産分与(狭義の財産分与)において夫の特有財産たる株式から生じた配当所得は財産分与の対象とならず、夫の給与所得等については妻の内助の功があるということで財産分与において給与所得等を原資とする蓄財について概ね折半される。従って、夫が親から株式等の資産を贈与してもらうなどしたら夫の離婚時に財産分与で持っていかれない一方で、夫が親から学費を出してもらって法学部・法科大学院に通わせてもらったなどの場合の夫の給与所得等は夫の離婚時に財産分与の対象となるという非中立性(夫の親が親にどのような形で贈与するかの選択肢について)が存在する。勿論夫婦逆の場合も同様。) 判旨 「所得税法が、生計を一にする夫婦の所得の計算について、民法七六二条一項によるいわゆる別産主義に依拠しているものであるとしても、同条項が憲法二四条に違反するものといえないことは、前記のとおりであるから、所得税法もまた違憲ということはできない。」 最高裁は個人単位主義が違憲ではないと述べただけなので、日本の憲法・民法の規律を前提として二分二乗やN分N乗を採用した場合に違憲となるかについては何も述べてない。しかし、二分二乗やN分N乗が違憲となる可能性は低いであろう。 仮に原告の主張を認めるとしたら、妻の所得分類は給与所得・事業所得でよいのか、という問題も生じる。 cf.夫婦財産契約事件・東京地判昭和63年5月16日判時1281号87頁百選6版29(⇒4.5.1.2.) |
6版§221.02 鈴や金融事件・最判昭和35年10月7日民集14巻12号2420頁百選5版36kg 事実・争点 株主相互金融会社(金融規制の脱法)の株主優待金が配当所得(当時「利益の配当」)に該当するか(そして支払者である会社が源泉徴収義務を負うか)? 例えばA・B・Cの3人が出資して株主相互金融会社を設立し、株主優待金を受ける例と、D・E・Fが銀行に預金し、預金利子を受け取る場面を比べてみよう。 出資 | | |株主優待金 A――→金株 | A 金株 | A 金株 | A←――金株 B――→融主 | B 融主 | B 融主 | B←――融主 C――→会相 | C←――会相 | C――→会相 | C←――会相 社互 | 借入 社互 | 返済 社互 | 社互 | | | 預金 | | |預金利子 D――→銀 | D 銀 | D 銀 | D←――銀 E――→行 | E 行 | E 行 | E←――行 F――→ | F←―― | F――→ | F←―― | 借入 | 返済 | 控訴審判決 「利益の配当とは商法…の規定する利益の配当」を指す。(借用概念⇒3.1.2.2.) 国側上告理由 「会社が、株主に対してその出資に対する対価」として支払った場合は「常に利益の配当」であり、「商法に違反してなされたか否かは」関係ない。「損益取引にもとづかないで会社が株主に対しその株主たる地位において」支払う場合は、(少数の例外を除き)「すべて利益の配当である」。 最高裁判旨(上告棄却) 上告理由に一部同意――「所得税法もまた、利益配当の概念として、商法の前提とする利益配当の観念と同一観念を採用している」。商法上不適法な蛸配当や株主平等原則違反の配当等も「所得税法上の利益配当のうちに含まれる」。 しかし「本件の株主優待金なるものは、損益計算上利益の有無にかかわらず支払われるものであり株金額の出資に対する利益金として支払われるものとのみは断定」できない。 考察 課税当局の上告理由と上告審判決との結論の差に注目。cf.所基通24-1(剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配に含まれるもの)及び24-2(配当等に含まれないもの) 「配当」は借用概念論でしばしば例に挙げられるが、【商法におけるのと同じ意味で解釈すべし】(統一説)が【商法上適法な配当に限定される】に直結する訳ではない、という少し厄介な論理構造がある。(なお、蛸配当に関する判示は損益計算上の利益に基づかないのであるから矛盾しているように思われる。矛盾していないという説明は不可能ではないが、[浅妻]筆が滑ったのであろう) 逆の結論のように見える6版§323.02東光商事事件・最大判昭和43年11月13日民集22巻12号2449頁(⇒5.3.3.1.)とセットで復習すべし。 [発展]平18改正後の「剰余金の配当」は、本判決(「利益の配当」)の射程外であろうという理解が実務上は優勢であるように見受けられる。学部生レベルではフォローしなくてよい。cf.外国法人スピンオフ事件(タイコTyco事件)・東京地判平成21年11月12日判タ1324号134頁、カナダ法人子会社株式現物配当事件・東京高判平成17年1月26日税資255号順号9911等kq。 |
空中権事件・(原審東京地判平成20年11月28日税資258号順号11089平成20(行ウ)281号)東京高判平成21年5月20日税資259号順号11203平成21(行コ)5号百選7版37 資産について……空中権の移転は「甲敷地の移転に準ずるものということはできず,当該余剰容積が甲敷地の利用権から独立,分離して乙敷地に移転することが定められたものではない」。「『余剰容積利用権』なるものは,土地所有権から淵源する敷地利用権能(経済的利益)であって,敷地利用権と離れて独立に処分可能な財産権ということは困難である。」 譲渡について……「『余剰容積利用権』の権利性は連担建築物設計制度に同意する場合の契約の契約内容によるのであり,また,この同意に係る対価は不動産を他人に使用させることの対価ということになるから,同意に係る対価が当然に譲渡所得に該当するものと解することはできない。この点は,不動産を他人に使用させることの対価としての賃借権に関する所得についてみても明らかである。すなわち,A所有土地をBが建物所有目的で賃借し,Bがこの地上に建築した建物を借地権付きでCに売却した場合,売却価格中の借地権相当分はBの有した借地権の譲渡による所得ということになるが,Aの行為はBへの借地権「設定」であって,当然に譲渡所得の対象となる借地権の「譲渡(移転)」となるものではないから,Aが取得する利用利益の対価たる地代は,法令に別段の定めがない限り,不動産所得に該当するものというほかない(この場合,Bが借地権を自己の資産に計上したとしても,Aにおいて資産譲渡による所得が生じているものではない。)。」 「本件各土地の資産の値上りにより長期間にわたって蓄積された利得の一部が一時的に実現したという側面があり,実質的には土地の元本価値の流出として譲渡所得と解すべきである旨の」納税者側の主張に対して「所得税法及び同施行令は,不動産所得と譲渡所得との実質論のみでは,両者の区分が困難であるところから,政令において具体的な判断基準を設けたものであり,そのような趣旨からすれば,建物の所有を目的として他人に土地を長期間使用させる行為であっても,政令で定める基準に該当しなければ,譲渡所得には該当しないというべきであって,当該基準により不動産所得に該当する場合に,更に実質論をもって譲渡所得の範囲を拡大することを予定するものではない。そして,本件地役権の設定は同施行令79条1項に列挙された一定の内容の地役権の設定には該当しないから,本件契約により取得される利益を譲渡所得と解することはできない。」 (譲渡について4.2.3.3.、6版§222.01榎本家事件・最判昭和43年10月31日訟月14巻12号1442頁、6版§222.02名古屋医師財産分与事件・最判昭和50年5月27日民集29巻5号641頁も) |
借家権は「資産」に当たるとした例として、建物明渡につき高安安寿事件・東京地判昭和51年2月17日訟月22巻3号791頁(東京高判昭和52年6月27日訟月23巻6号1202頁で維持)、混同により消滅した借家権の対価につき京都地判昭和56年7月17日訟月27巻11号2150頁(確定)。金子宏租税法24版270頁は借家権を資産に含めることに消極的。 |
旧法9条1項5号についてであるが譲渡所得の定義につき現行法33条1項但書に類似する規定が作られた昭和34年法律第79号・政令第85号による改正後の事案として大阪地判昭和44年1月28日判時570号40頁(大阪高判昭和45年4月6日税資59号586頁で維持)がある。 |
東京地判令和5年3月9日令和2(行ウ)323号一部訟月70巻11号1255頁判タ1528号159頁棄却、一部却下(武田涼子・ジュリスト1593号10頁、藤岡祐治・ジュリスト1597号重判令05年180頁)…フェラーリが所得税法38条2項柱書き「家屋その他使用又は期間の経過により減価する資産」に当たるとした事例。当たらない例としてストラディ・バリウスのバイオリンが挙げられることが多い。減価償却について所法49条、減価償却資産について所法2条1項19号、所令6条各号。為替差損益は雑所得に当たると判断した。国税庁は外国通貨が譲渡所得の基因となる「資産」に当たらないという立場を採っている(課個2-21課資3-10課審5-13令和4年10月7日「雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説」)。疑問として泉絢也「仮想通貨(暗号通貨、暗号資産)の譲渡による所得の譲渡所得該当性」税法学581号3-32頁(2019)。 |
有価証券が資産に当たらなくなる例 (原審東京地判平成27年3月12日訟月62巻7号1307頁)東京高判平成27年10月14日訟月62巻7号1296頁百選7版43(佐藤英明=樫野竜・TKC税研情報25巻4号122頁) 所税33条1「項の規定する譲渡所得の基因となる「資産」には,一般にその経済的価値が認められて取引の対象とされ,増加益が生じるような全ての資産が含まれるが,その一方で,上記の増加益を生じ得ないもの,すなわち,社会生活上もはや取引される可能性が全くないような無価値なものについては,同項の規定する譲渡所得の基因となる『資産』には当たらない」。「株式の経済的価値が自益権及び共益権を基礎とするものである以上,その譲渡の時点において,これらの権利が法的には消滅していなかったとしても,一般的に自益権及び共益権を現実に行使し得る余地を失っていた場合には,後にこれらの権利を現実に行使し得るようになる蓋然性があるなどの特段の事情が認められない限り,自益権や共益権を基礎とする株式としての経済的価値を喪失し,もはや,増加益を生ずるような性質を有する譲渡所得の基因となる「資産」には該当しない」。 無価値化株式の類例として紙くず損失控除否認事件・千葉地判平成18年9月19日訟月54巻3号771頁(東京高判平成18年12月27日訟月54巻3号760頁で維持)(柴由花・ジュリスト1350号110頁)…「所得の処分」論(上述の東京高判平成27年10月14日では使えない論理)。 名古屋地判平成17年7月27日判タ1204号136頁(名古屋高判平成17年12月21日税資255号順号10249で維持)…預託金会員制ゴルフ会員権につき譲渡損失を否定 |
静岡地判平成25年5月10日税資263号順号12213棄却・東京高判平成25年10月10日不明税資263号順号12305棄却確定(細川健・租税訴訟17号149-172頁)……税理士業務の営業権譲渡の対価が譲渡所得でなく雑所得であるとされた事例。 |
二重利得法:6版§222.04川之江市井地山造成地事件・松山地判平成3年4月18日訟月37巻12号2205頁百選7版42(高松高判平成6年3月15日税資200号1067頁で維持) 判旨 宅地造成によって生じた利益の部分は事業所得(又は事業に当たらなければ雑所得)、その他の部分は譲渡所得。しかし、販売目的以外で長期間保有してから、宅地造成に取り掛かった場合、「その土地等の譲渡による所得には、右加工を加える前に潜在的に生じていた資産の価値の増加益に相当するものが相当部分含まれている。そこで、そのような場合には、右加工に着手するまでの資産の価値の部分に相当する所得を譲渡所得とし、その他の部分を事業所得または雑所得とするのが相当である。」 「譲渡所得と事業所得とに区分すべき理由は、……臨時的、偶発的に発生する所得であるため、事業所得に比較して担税力の劣る譲渡所得とすべき部分が相当程度含まれており、これを事業所得として課税するのは税負担の公平を欠くからである」 考察 本件で二重利得法の採否自体は争点となってない。まず事業所得該当部分(原告主張によれば宅地造成による増価部分)を算出して残額を譲渡所得とするか、本件のようにまず譲渡所得該当部分(長期譲渡所得は軽課される)を算出して残額を事業所得とするか、という、譲渡所得と事業所得との区分方法について、議論の余地が残る。判旨の通りであると、宅地造成後の地価高騰(土地バブルなど)部分も事業所得であるとされてしまう。 |
6版§222.02 名古屋医師財産分与事件・最判昭和50年5月27日民集29巻5号641頁百選7版45nf 事実・争点 離婚→不動産がX(夫)からW(妻)に移転。この時譲渡所得課税があるか? 一審判決 慰謝料支払の趣旨だから課税。(慰藉料が正字。一審の慰籍料は誤字) 控訴理由 慰謝料といったのは誤解(錯誤)。財産分与であり譲渡所得は発生しない。(慰籍料の支払を受けても税金はかからないが財産分与として受ければ贈与税が課税されるかもしれないから本件土地、建物の譲渡も慰籍料としてくれ、とWの代理人が誤った理解に基づいて余計な事を言ったらしい。原則として財産分与に贈与税は課せられない。⇒相基通9-8)(余談:扶養と贈与税に関して相基通21の3-3〜21の3-6) 控訴審判決 慰謝料でも財産分与でも債務の履行であり、Xは債務からの解放という経済的利益を享受するので、譲渡所得は発生する。 上告理由 代物弁済にあたる部分につき譲渡所得が発生するのはともかく、財産分与に当たる部分につき譲渡所得は発生しない。「分与者がそのこと[財産分与]により何ら経済的利益を享受するものではない」 財産分与は「贈与契約の成立による無償での権利移転…と全く同一である」(後述の所税59条(みなし譲渡)は個人に対する贈与を適用範囲に含めていないことに留意) 最高裁判旨 「譲渡」概念について「所得税法33条1項にいう『資産の譲渡』とは、有償無償を問わず資産を移転させるいつさいの行為をいう」。 「分与者は……分与義務の消滅という経済的利益を享受した」 考察 代物弁済の場合は譲渡所得が発生することについてX自ら容認している。 最高裁が、資産「移転」の「有償無償を問わ」ないと言っているのに、なぜ「経済的利益」という有償性に言及しているのか、論理の運びが判然としない憾みが残る。最高裁判決といえども人間が書く文章であるから仕方ない。で、結局「経済的利益」という有償性は必須か否か?必須ではないと解すべき。 学説(金子宏):「民法768条の財産分与」を区分…「夫婦共通財産の清算」「離婚による損害の賠償」「離婚後の扶養」 「夫婦共通財産の清算の意味で財産が分与された場合は、その実質は共有財産の分割であって、資産の譲渡には当たらないと解される。」 (慰謝料なら譲渡にあたる←一審・控訴審。なお本件の不動産はXW婚姻後に購入されたものであるが「Xの特有財産であった」とYは主張している。) 例えばA・Bの共有であるがA単独名義の資産について、分割され、半分について名義がAからBに変わっても、法的実質においてAからBへの譲渡はない(移転はない)、と考えられる。所基通33-1の7(後掲) 再反論(金子説批判):窪田充見・佐藤英明「財産分与と租税をめぐる問題」法学教室357号64頁……離婚実務では「夫婦共通財産の清算」「離婚による損害の賠償」「離婚後の扶養」それぞれの額をきちんと区別しない。(浅妻も離婚を経験したが率直に言って財産分与でごたごた争いたくないので早く終わらせたいという気持ちが勝る)ks 再々反論:3つの趣旨をきちんと区別した離婚事例が存在すれば、「夫婦共通財産の清算」部分につき譲渡所得未実現として扱ってよいのではないか? 再々々反論:最判平成7年1月24日税資208号3頁の原審東京高判平成6年6月15日税資201号519頁が「夫名義の資産形成に対する妻の貢献が顕在化するまでの間、妻が夫名義の財産に対しなんらかの潜在的な持分を有するとしても、それは未だ持分割合も定まっていない抽象的な権利というべきものであり(右資産形成の態様には種々様々なものがありうるし、夫婦の財産は通常複数のものから成るものであるから、それらのすべてについて一律に妻が二分の一の共有持分を有するとみることはできない。)、現実の財産分与手続がされて初めて具体的な権利として確定するものである。したがって、財産分与が単に右潜在的持分を顕在化させ、それを正式に帰属させるだけの手続とはいえないのであって、財産分与によって初めて夫名義の財産に対する妻の所有権又は共有持分が発生するといわざるを得ないから、そこに資産の譲渡と目される実質がある」(共有地の分割とは違うという論理)と判示しているので判例が金子説を採用する可能性はない。kt Wにとっての資産の取得費と所基通38-6 (cf.金子説だと通達の通りになるか?) cf.札幌高判平成24年1月19日訟月59巻4号1091頁(原審札幌地判平成23年5月16日訟月59巻4号1070頁)…離婚に伴う財産分与が民法768条3項の趣旨に反して不相当に過大であるとして、詐害行為取消(民法424条、税通42条)の対象となるとした事例(西野敞雄・ジュリスト1464号132-135頁2014.3)([浅妻]国勝訴なれど、判決文の書きぶりは妻側に甘すぎるように感じる)。 |
分与土地一体譲渡事件・東京地判平成3年2月28日行集42巻2号341頁確定百選4版44 事実 H(元夫)→X(元妻) 本件土地を財産分与として譲渡。Hの譲渡収入金額は約2.3億円(単独取引価格。別訴で確定)。ほどなくXは本件土地を甲土地と一体で約3.5億円で譲渡。Y税務署長は、Xの取得価額が約2.3億円であるとの前提で、差額約1.2億円の所得を増額する更正処分。隣接地と一体で取引された方が単独取引価格よりも高値がつく。 判決 請求認容(X勝訴)。「取得者は、財産分与請求権という経済的利益を消滅される代償として当該資産を取得したこととなる」。 「X側でこれを甲土地と一体として利用あるいは処分することがその前提とされていたものと推認する」。 「そもそも、ある時点における土地等の資産の客観的な価額というものは、鑑定等によって常に一義的に特定されるという性質を持つものではなく、ある程度の幅をもった範囲内の価額として観念されるべきものである」 考察 財産分与時の分与者(例えば夫)にとっての譲渡収入金額と受領者(例えば妻)にとっての取得費とが一致することが制度上想定されているとはいえ、課税処分は別々になされ訴訟手続きも別々になるため課税漏れも生じうる。本件では結果として約1.2億円の課税漏れが生じている。HとXで不整合的な課税がなされているが、整合性を保つ制度的裏付けはない。下手をすれば、二重課税も発生しうるが、現状では致し方ない(?)。 ところで「X側でこれを甲土地と一体として利用あるいは処分することがその前提」という判示から本判決はHとXにとって本件土地の時価は一致する(幅を観念するにすぎない)という前提を採っているように読解できる一方で、最判令和2年3月24日集民263号63頁(⇒4.2.3.5.)は譲渡人と譲受人とで同一の資産の時価が異なりうることを前提としているように読解できる。 |
6版§222.05 支払利子付随費用判決・最判平成4年7月14日民集46巻5号492頁百選7版46mt 事実・争点 3000万円借金して昭和46年4月16日に不動産購入。同年6月6日居住開始。昭和53・54年に譲渡。居住用不動産取得のための借入金利子が取得費に含まれるか、含まれるとしてどの範囲か? 一審判旨(東京地判昭和60年5月30日) 「使用価値を現に支配する目的のための借入金利子の支払は、資産の値上りとは何ら関連性を有しないから、譲渡所得の計算において費用として控除しえない」。 「この分は、仮に資産の自らによる使用の利益(いわゆる帰属所得)に課税される制度がとられるとすれば、その所得についての費用として控除されることとなる」 二審判旨(東京高判昭和61年3月31日)gl 借入金利子も取得費に原則として含まれる。しかし、居住の用に供された時点以後、もしくは使用し得た時点以後、「資産の維持・管理という目的のための費用」へと性質が変化する、または使用「期間の帰属利益と等価と見なされる」。取得費に算入しない扱いは、帰属所得(⇒4.3.4.)が課税されないことと整合的である。 最高裁判旨 家事のための借入金利子と同視し「生活費ないし家事費にすぎない」ので取得費に含めないのが原則。 しかし、居住の用に供する以前の期間であっても利子支払が余儀なくされるところ、「借入金の利子のうち、居住のため当該不動産の使用を開始するまでの期間に対応するものは、当該不動産をその取得に係る用途に供する上で必要な準備費用ということができ」、「当該不動産を取得するための付随費用に当たる」。 考察 結論としては、本件最高裁判旨も二審判旨も、居住前の期間に対応する利子は取得費に含まれ、居住後の期間に対応する利子は取得費に含まれないとする点において共通している(現実の使用に着目するか、使用可能性に着目するか、という差異はある)。しかし論理構成は異なり、原則と例外も逆転している。百選解説は最高裁判旨を批判し、二審判旨を高く評価している。 なお、借入金利子は、家事のためであれ事業のためであれ、利子負担者の純資産減少をもたらす筈であると論ぜられる(増井良啓・法学教室365号123頁以下。なお、だからといって全て所得税法上控除を認めるべきということにはならない。非課税所得に対応する借入金利子の控除を認めると租税裁定取引(tax arbitrage)が可能となってしまうからである。やはり二審判旨の論理に近い)。 使用開始前の期間に対応する利子が「付随費用」に当たるとする論拠が最高裁判旨で充分には論じられていないように見受けられるが、その点はそもそも争点となっていなかったとも考えられる。 |
時効取得の一時所得計上時期と取得費 東京地判平成4年3月10日訟月39巻1号139頁確定百選5版50 事実 Xが亡父Aから亡兄B名義の土地を1960年迄に贈与された。Xは1970年に取得時効を援用しBの相続人Cに所有権移転登記を求めて提訴した。X勝訴で1983年に確定した。Aの他の相続人DがXに遺留分減殺請求をし、XはDに1983年に代物弁済として本件土地を譲渡した。Xは1983年の譲渡所得の計算にあたり時効取得判決確定時の時価を取得費に算入しようとした。 判旨 「土地の時効取得による利得は、所得税法上、一時所得として所得税の課税の対象となり、その場合の収入金額は、当該土地の所有権取得時期である時効援用時の当該土地の価額であると解すべきである(同法36条1項、2項)。そうすると、当該土地の時効援用時までの値上り益は、右一時所得に係る収入金額として所得税の課税の対象とされることになるから、時効取得した土地を譲渡した場合のその譲渡所得に対する課税は右時効援用時以降の当該土地の値上り益に対して行われることになり、したがって、右譲渡所得の計算上、その取得費の額は、右一時所得に係る収入金額すなわち時効援用時の当該土地の価額によるべきこととなる。」 考察 民法144条の遡及効(尼崎市相続土地喪失事件・大阪高判平成14年7月25日訟月49巻5号1617頁(⇒3.1.2.4.))に照らすと時効援用時ではなく時効の起算日に一時所得が発生すると言えなくもないが、あまりに実態(not実体)からかけ離れているためか実務・裁判例で起算日説が採用されることはない。時効完成時という考え方はありえないではない(次段落)が、民法上、時効完成時に効力が発生するとは言い難いという難点がある。本判決の時効援用時説は、6版§225.01土地時効取得事件・静岡地判平成8年7月18日行集47巻7=8号632頁百選7版15(⇒4.2.9.一時所得)でも採用されているが、時効援用時説が妥当するのは時効取得について争いがない場合に限られるべきではないかとも考えられ、時効取得の成否について争いがある場合はXの主張の通り判決確定時を基準とすべきであろう。判決確定時説の方が6版§232.03仙台賃料増額請求事件・最判昭和53年2月24日民集32巻1号43頁(⇒4.4.3.管理支配基準)の原則論(判決の結論ではなく)とも整合的である。 時効完成時説と相性が良い事例(?):国税不服審判所平成19年11月1日裁決・裁決事例集74集1頁(⇒3.1.2.4.)……取得時効完成後→相続開始→取得時効援用という時系列で、土地を相続した者が時効取得援用者に敗訴し土地を奪われたため、土地ありの前提の相続税の計算が誤りであると主張した。審判所は、停止条件説を維持し相続開始時点で土地が相続財産から除かれる事にはならないとしつつ、評価額を零とし、結果として納税者を救った。渋谷雅弘・税務事例研究120号54頁は評価額を零とする処理に疑問であるとし、納税者を救うなら相続財産から除くべきであると述べる。納税者を救う論理構成としては、[1]評価を減額する、[2]相続財産から除外する、[3]債務控除、といったものがあるが、何れも難点を抱える(だから納税者を救わないという結論を出してもよいかもしれないが酷であるし、状況次第では憲法29条1項の財産権保障に違反するかもしれない)。 取得費について所税38条1項の文理に照らし無理はある上、譲渡益について課税漏れが生ずる恐れがあるが、そういった懸念よりも個人個人に着目した上での二重課税防止を重視したものと理解できる。この姿勢は、6版§222.06ゴルフ会員権贈与事件(右山事件)・最判平成17年2月1日集民216号279頁(⇒4.2.3.6.)、6版§211.04年金払い生命保険金二重課税事件・最判平成22年7月6日民集64巻5号1277頁(⇒4.2.10.)とも共通している。 余談:拙著『ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか』は東京地判平成4年3月10日の取得費の考え方に対する疑問から出発している。 |
土地改良区決済金事件・最判平成18年4月20日集民220号141頁nc 土地改良法に基づく決済金および施設の協力金等額の合計が、農地譲渡における譲渡費用に含まれるかに当たり「一般的、抽象的に当該資産を譲渡するために当該費用が必要であるかどうかによって判断するのではなく」「現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべき」とした事例。 前者・後者とも「必要」という語を用いているが、控除可能性を、前者の「一般的・抽象的…必要」な費用だけ限定せず、後者のように「現実…の譲渡」にとっての必要性に着目した方が、事業所得に関する必要経費(37条1項)に関し通常の費用に限定されていないこととの均衡がとれる、と理解できようか。 |
清算課税説:6版§222.01 榎本家事件・最判昭和43年10月31日訟月14巻12号1442頁百選3版60ng 事案は省略。無償贈与の場合にも譲渡所得課税あり。(売買差額課税という趣旨ではない) 判旨 「このような課税は、所有資産を時価で売却してその代金を贈与した場合などとの釣合いから」妥当。また無償・低額譲渡「にかこつけて資産の譲渡所得課税を回避」することを防止することからも妥当。 cf.タキゲン株式低額譲渡事件・最判令和2年3月24日集民263号63頁br(⇒2.2.4.1.h通達の法源性、3.1.4.2.信義則の適用要件)(藤谷武史・ジュリスト1548号10-11頁、加藤友佳・重版令2年158-159頁、浅妻章如・ジュリスト1564号135-138頁) 所得税法59条1項(みなし譲渡課税)の適用における非上場株式の評価に関し、所得税基本通達59−6に明記されていない財産評価基本通達の読替えを許容した事例。当時の通達を文言通り本件に当てはめると、譲受人側の持株比率が15%未満であるため株式が一株75円(配当還元方式による評価額。配当がない場合は75円)と評価されることになるが、最高裁は、所税59条1項が譲渡人の含み益に清算的に課税するための規定であることを重視して、譲渡人側の持株比率に着目せよとした。その後、差戻控訴審で一株2505円(類似業種比準方式による評価額)が認められた。 宇賀克也・宮崎裕子補足意見は、通達を文字通り適用する姿勢を批判し、法源はあくまで法令であることを強調する。 コスモ建設株式会社事件・東京地判令和4年2月14日平成30(行ウ)359号364号(類例:小林通商株式会社事件・平成389号400号401号)……原告父が原告会社の株式を原告会社に1株1500円で譲渡したことは所得税法59条1項2号(所得税法施行令169条)の低額譲渡であり時価譲渡が擬制される、また、原告会社が原告会社の株式を原告長男(原告会社の代表取締役)に1株1500円で譲渡したことは、時価との差額分の所得税法28条1項「給与等」の支払に当たる、とされた事例。 |
6版§222.06ゴルフ会員権贈与事件(右山事件)・最判平成17年2月1日集民216号279頁百選7版47gp ゴルフ会員権の父から子への贈与に関し、名義書換手数料の取得費算入を認めた事例。所税38条、60条の文言の解釈としては取得費算入を認めなかった原審の判断にも一理あるが、最高裁は60条の趣旨を「増加益に対する課税の繰延べ」と述べた。取得費算入を認めなかったら、増加益に対する課税の繰り延べという趣旨から導かれるよりも多額の譲渡益が生じてしまいかねない。 |
6版§222.08浜名湖競艇場用地事件・最判昭和63年7月19日集民154号443頁百選7版44・原審東京高判昭和62年9月9日行集38巻8=9号987頁百選5版41・原々審静岡地判昭和60年3月14日行集36巻3号307頁(⇒3.1.2.3.借用概念の修正)nh 事実・争点 A→Xに土地共有持分を贈与。XはAの対第三者債務(AのCに対する債務)を弁済することを約す。Xは土地共有持分をBに譲渡し、Bから得た代金(合計約2.6億円)で、Aの対第三者債務(合計2600万円)を弁済。所税60条1項1号により、XはAの取得価額及び所有期間(長期譲渡所得となるかが問題となる)を引き継ぐか? 判旨 控訴棄却(請求棄却) 「課税時期の繰り延べが認められるためには、資産の譲渡があっても、その時期に譲渡所得課税がされない場合でなければならない」。 本件は負担付贈与の事案であるが、59条2項・60条1項2号を除き「それ以外は、一般原則に従いその経済的利益に対して譲渡所得課税がされることになるのであるから、右の課税時期の繰り延べが認められない」。60条1項「1号の『贈与』とは、単純贈与と贈与者に経済的利益を生じない負担付贈与をいう」。 考察 「贈与」は民法からの借用概念であり対価関係がないものと位置付けられているが、本件では所得税法の趣旨・構造に即して修正された(「贈与」概念の縮小解釈)。統一説が通説であるが、統一説であっても、所得税法の規定の趣旨に照らして別意に解釈すべき場合は別論と説かれているので、本判決について学界であまり異論は見受けられない。 Aが所有権を保持したまま、Bに売却して自ら債務を弁済し、残額をXに渡せば、Aが確実に長期譲渡所得の恩恵を受けることができるのに、なぜそうしなかったかは、考えてほしい。 |
・東京地判令和3年10月12日令和元(行ウ)648号税資271号順号13617棄却・東京高判令和4年3月24日令和3(行コ)256号税資272号順号13692棄却確定(浅妻章如・ジュリスト1589号150-153頁)……租税判例研究会報告資料の方が図があって分かりやすいと思います。 |
買換特例(租特37条)について……東京地判令和3年9月17日令和元(行ウ)486号訟月70巻3号344頁棄却(玉國文敏2022年7月1日租税判例研究会報告)・東京高判令和4年5月18日令和3(行コ)240号訟月70巻3号390頁棄却・最一小決令和4年10月27日税資272号順号13766不受理、確定 事実 祖父Bが父Aに本件土地1等を昭和59年12月に贈与した。父は祖父の債務を引き受けた。父はCに本件土地1等を昭和62年7月に3億円(うち本件土地1は2億3400万円)で譲渡し、その買換資産として本件資産(建物。2憶3400万円)を取得し、租税特別措置法37条1項(「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」)の適用を前提に申告した。父は平成26年7月に本件資産を会社に譲渡した。 税務署の主張 本件資産に租特37条1項の適用があり、租特37条の3第1項柱書にいう「[37条]の適用を受けた者……の買換資産」に該当し、37条の3第1項柱書及び同項3号により取得価額は引継価額である。[他の論点は省略] 判旨 「租税特別措置法37条の3第1項柱書きは,『第37条第1項(括弧内略)の規定の適用を受けた者(括弧内略)』と定めているところ,一般に,『適用』との文言は,法令の規定を対象となる者,事項,事件等に対してあてはめ,これを働かせることを意味するものである。そして,同法37条の3第1項柱書きは,当該文言に続けて,それ『を受けた者』と定めており,それ『を受けることができる者で,その適用を受けたもの』などとは定めていない。このような文理等に照らすと,自ら同法37条1項の規定を当てはめて同項に規定する要件を満たすとする確定申告書を提出し,これを働かせて同項の規定の適用による課税の繰延べという効果を享受した者は,これに係る修正申告書の提出又は更正処分がされない限り,客観的にみて当該要件を満たしていたか否かにかかわらず,『第37条第1項(括弧内略)の規定の適用を受けた者(括弧内略)』に該当することになる」。 課税庁が納税者の信義則違反(又は禁反言)を主張するという筋もあったかもしれない。 |
6版§224.01不動産所得の意義 モーターショップ建物無償譲渡事件・名古屋地判平成17年3月3日判タ1238号204頁平成16(行ウ)9号(青柳達朗・ジュリスト1341号192頁)……X氏所有土地の賃貸借契約の合意解約に際して賃借人からXに無償で土地上の建物が移転したことがXにとって不動産所得に当たるとの前提で課税処分がなされたが一時所得に当たるとされた事例。 航空機リース組合債務免除事件・東京高判平成28年2月17日税資266号順号12800平成27(行コ)215号nw(原審東京地判平成27年5月21日平成24(行ウ)459号。小塚真啓・ジュリスト1452号8頁2013.4、小塚真啓「債務免除益の法的・経済的性質と所得分類」租税研究795号74頁、小柳誠「所得発生原因の法的性質と所得区分―東京高裁平成28年2月17日判決を素材として―」税大ジャーナル27号75頁、藤間大順「ノンリコース債務免除益の所得分類」青山社会科学紀要45巻1号59-85頁、吉村政穂・重判平28、212頁) Xらは民法上の組合を結成して航空機を購入し、これを航空会社に賃貸する事業を営んでいた。航空機を売却して事業を終了する際、[1]航空機の購入原資の一部となった借入金の一部に係る債務の免除を受けたことによる利益、及び[2]当該組合の業務執行者に対して支払うべき手数料に係る債務の免除を受けたことによる利益が発生した。航空機賃貸事業収入は不動産所得に係る収入金額であるから、債務免除益も不動産所得であると国(課税庁側)は主張した。他方、Xは、債務免除益は偶発性があるから一時所得であると主張した。一審、二審とも、一時所得であると判断した。 注 東京地判平成30年4月19日判時2405号3頁確定では、不動産所得には不動産賃貸に付随する収入も含まれるとし、賃貸用不動産を購入するための借入に係る債務免除益は不動産所得に該当すると判断された。未だ、裁判所の判断は安定してないようである。 |
東京地判令和4年5月31日令和2(行ウ)224号税資272号順号13722(棄却)・東京高判令和5年1月25日令和4(行コ)180号(棄却、確定)……不動産所得の計算に際し消費税等の税抜経理方式を採用している場合、不動産の譲渡に係る消費税額は、必要経費に該当しない。 |
6版§225.03航空機リース事業匿名組合事件・最判平成27年6月12日民集69巻4号1121頁百選7版22kj(漆さき・ジュリスト1473号111頁) 拠出金 航空機購入代金 X―――――→A―――――――→D(航空機を運用) 匿名組合員 営業者 航空会社(航空機譲渡人兼賃借人) 航空機所有者………………→航空機賃貸 ←――――――航空機賃料支払 損益通算←……………赤字 事実・争点 匿名組合契約(商法535条1項「匿名組合契約は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。」)を締結する。A社はD航空会社から航空機を購入し、AがDに航空機を賃貸(リース(Lease))し、DはAに航空機賃料を支払う。Aは航空機所有者として多額の減価償却費を計上するため、航空機賃料を受け取っても赤字である。Aが赤字であるので、Xがその赤字を損益通算に利用しようとする。 Xが匿名組合契約を通じてAから受ける利益分配の性質はAの事業の内容に依存し、本件ではAが航空機賃料を得るという事業をしているので、航空機賃料を得るという所得分類がXへと伝達される(パス・スルー(pass through)という)、とXは主張した。平成17年改正前通達も、原則として匿名組合契約を通じて受ける利益分配についてはパス・スルー扱いである(例外的に匿名組合員にとって雑所得となる)と規定していた。 しかし平成17年通達改正後、原則として匿名組合員は出資して利益分配を得るにすぎない(匿名組合員が事業をしているわけではない)ので雑所得となる(例外的に、匿名組合員が営業者の事業に深く関与している場合はパス・スルー扱いとする)と通達は規定することとなった。つまり平成17年改正前後で、原則と例外が逆転した。国(課税庁側)は、新通達に依拠し、Xは雑所得を得ていたので、雑所得に係る赤字を損益通算に利用することはできない、と主張した。 判旨 「匿名組合契約に基づき匿名組合員が営業者から受ける利益の分配に係る所得区分は……匿名組合員が実質的に営業者と共同して事業を営む者としての地位を有するものと認められる場合には,営業者の営む事業の内容に従って判断されるべきものと解され,他方,匿名組合員がこのような地位を有するものと認められない場合には,営業者の営む事業の内容にかかわらず,匿名組合員にとってその所得が有する性質に従って判断されるべきものと解される。そして,後者の場合における所得は……営業者の営む事業への投資に対する一種の配当としての性質に鑑みると,その出資が匿名組合員自身の事業として行われているため事業所得となる場合を除き,所得税法23条から34条までに定める各所得のいずれにも該当しないものとして,同法35条1項に定める雑所得に該当する」。 なお、旧通達を信じてしたXの申告について過少申告加算税を免れるべき「正当な理由」(通則65条4項)があるとしている。(⇒2.2.4.1.h通達と法源、COLUMN2-6加算税制度と租税法の実現過程、3.1.4.3.加算税における正当な理由、4.2.6.2.フリンジベネフィット) 東京地判平成30年1月23日税資268号順号13115(田中啓之・ジュリスト1558号131-134頁2021.5)…「原告が,本件宅地等分譲において果たした役割あるいは関与の程度に加え,原告が本件宅地等分譲の意思決定に関わり得る地位にあったことに鑑みれば,原告は,本件宅地等分譲に関して,実質的にイリタニと共同してその事業を営む者としての地位を有するものと認めるのが相当である。」「原告がイリタニから本件宅地等分譲により生じた利益の分配を受けることに係る所得区分は,イリタニの営む事業の内容に従って判断されるべきことになるところ,イリタニは不動産売買に関する事業等を目的とする株式会社であり,本件宅地等分譲はイリタニが目的とする事業そのものであることに照らせば,原告が本件宅地等分譲により生じた利益の分配を受けることに係る所得区分は事業所得に当たり,本件損失負担金は,原告の事業所得の必要経費になるというべきである。」……事業所得か否か(共同事業なのか、雑所得なのか)は、任意組合か匿名組合かという私法上の性質決定によって決まるのではなく、共同事業者組織性で決まるという点で、最判平成27年6月12日と親和的。 cf.田中啓之「パススルー課税の現状と未来」租税法研究51号『オープンイノベーション時代の企業課税』42-58頁 |
デラウェア州LPS事件(コメルツ証券事件)・最判平成27年7月17日民集69巻5号1253頁百選7版23 ly(⇒8.2.1.2.c) 出資 不動産購入代金 Xら―――――→A―――――――→中古集合住宅 Limited Partner General Partner 不動産所有者………………→不動産賃貸 ←――――――不動産賃料支払 損益通算←……………赤字 事実・争点 XらとA社(デラウェア州法準拠)がデラウェア州法リミテッド・パートナーシップ法に基づきA社をGeneral Partner(無限責任組合員。業務執行組合員であることが多い)としXら(正確にはXらと信託契約を締結している受託者たるB銀行であるが説明の便宜のためB銀行を省略する)をLimited Partner(有限責任組合員)とするパートナーシップ契約を締結しLPS(Delaware State, Limited Partnership)を組成した。LPSはアメリカで不動産(中古集合住宅)を購入し不動産賃貸業を営んだ。LPSが赤字であったので、XらはLPSが日本でいう組合に近いものであるとの理解に基づき、赤字の属性がLPSからXにパス・スルーされると主張した。 他方、国(課税庁側)は、デラウェア州法に基づくLPSは日本から見て法人格を有するものとして扱われるから、LPSが赤字であってもLPSが解散する等しない限りXらは赤字を利用できない(あたかも、株式会社が赤字であっても株主が赤字を利用できないのと同様に)、と主張した。Xらは複数おり、東京地裁、名古屋地裁、大阪地裁で裁判となった。地裁・高裁で、当該LPSが法人であるという判断と法人ではないという判断とに分かれ、最高裁の結論が待たれた。 判旨 「外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かを判断するに当たっては、まず、より客観的かつ一義的な判定が可能である後者の観点として、[1]当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討することとなり、これができない場合には、次に、当該組織体の属性に係る前者の観点として、[2]当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり、具体的には、当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討する」。 デラウェア「州LPS法の定め等に鑑みると、本件各LPSは、自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が本件各LPSに帰属するものということができるから、権利義務の帰属主体であると認められる。……そうすると、本件各LPSは、上記のとおり権利義務の帰属主体であると認められるのであるから、所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するものというべきであり、……本件各不動産賃貸事業は本件各LPSが行うものであり、……本件各不動産賃貸事業により生じた所得は、本件各LPSに帰属するものと認められ、本件出資者らの課税所得の範囲には含まれない」。 注 LPSという名前がついていれば法人扱いされるというわけではない(上の結論や論理構成に対しても学説上は批判が多い)。英国領バミューダ(Bermuda)諸島法に基づくLPSについて東京スターホールディングス社事件・東京高判平成26年2月5日金判1450号10頁は法人ではないと判断し、最決平成27年7月17日税資265号順号12703上告不受理(理由は述べてない)で確定した。 また、別件でデラウェア州LPSにつき法人でない扱いを認めるという文書を国税庁は後日(平成29年2月)ホームページで公開した。 ニューヨーク州法に基づくLLC(Limited Liability Conmpany)については法人扱いするという先例が存在する。東京高判平成19年10月10日訟月54巻10号2516頁百選5版23lx |
6版§223.01&224.02弁護士顧問料事件・最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁百選7版38ni(⇒3.2.4.4.訴えの利益) 争点 弁護士が会社から得た顧問料は給与所得か事業所得か。 判旨 「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」 「給与所得とは、雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうか」を重視。 注 事業所得・給与所得の基準として引用される判例であり、暗記すべき判旨である。が、杓子定規にこの判断基準を当てはめてもうまくいかないこともある(後掲:京都弁護士会無料法律相談事件・大阪高判平成21年4月22日税資259号順号11185、6版§223.03通勤定期券課税事件・最判昭和37年8月10日民集16巻8号1749頁)。gq kx |
§223.02大嶋別訴第一審・京都地判昭和56年3月6日行集32巻3号342頁 大学教授の非常勤講師料は雑所得ではなく給与所得とした事例。 [浅妻]率直に言って私が立教以外に出向くときに「他人の指揮監督…に服して」いるつもりはない。「自己の危険と計算によ」ってない点は事業所得性を否定するにとどまる。何が給与所得性を積極的に基礎づけるのか? 余談:大学教授の講演料や論文の原稿料は雑所得である。学術振興会特別研究員は給与所得課税。 |
日フィル事件・最判昭和53年8月29日訟月24巻11号2430頁 楽団所属ヴァイオリニストの例。給与所得に当たるとされた(実額経費控除の可否。但し本件で実額経費控除をしようとするならば経費はヴァイオリン購入費ではなく減価償却費部分に限られることに留意)。 |
九州電力検針員事件・福岡高判昭和63年11月22日税資166号505頁 検針作業の委託を受けていた原告が受け取る報酬は事業所得か給与所得か? 判旨は「特に、(7)の委託手数料は……純粋な形の出来高制であって、労務提供の対価よりも委任ないし請負事務の報酬としての性格を持つ」等々の認定をし、結論としては事業所得とした。 |
りんご生産組合事件・最判平成13年7月13日判時1763号195頁百選7版21gr 事実・争点 労務出資をした組合員が組合から得た所得が給与所得に該当するか? 組合が事業を行う場合の組合員の所得は原則として事業所得。透明(transparent)(反対語はopaque)、パス・スルー(pass through)という。 一審は給与所得扱いとしたが、 二審は事業所得扱いとした。組合員と組合が雇傭契約を締結できるはずがないからである。法律論として二審の考え方にも一理ある。 判旨 破棄自判 本件原告は組合員であるものの他の従業員と同様の雇傭類似の関係にあるという実態を重視し、給与所得に該当すると認定した。 考察 組合員が組合と契約を締結することはありうるか?……控訴審判決はありえないと考えている。最高裁はありうると考えているかのように一見思われるが、雇用類似の事実状況があることを根拠としており、「組合と組合員との間に矛盾した法律関係の成立を認めることになるものでもない」という言い回しはするが、何らかの契約という法律関係の成立を積極的に認める言い方は慎重に避けている。 類題 組合員が組合と土地の売買【契約】を締結したとの前提で組合員の土地譲渡益につき譲渡所得が生じたとして課税してよいか? [浅妻]最高裁判旨から読み取るのは難しいが、所得の性質決定においては売買契約類似の事実状況を根拠として判断していくというのが最高裁の考え方であろうか。尤も、本件判旨は給与所得のみについてのものであり、給与所得に関してのみ労務の対価という性質を重視するという立論も考えられるので、事業所得・譲渡所得等の性質決定についても同様に判断するとは言い切れない。ky |
京都弁護士会無料法律相談事件・大阪高判平成21年4月22日税資259号順号11185 弁護士会法律相談センターの行なう無料法律相談業務(京都市が依頼)に弁護士が従事して得た対価について、空間的、時間的な拘束の下で労務を提供したことの対価であるから給与所得に該当する、との主張が斥けられ、事業所得であると判断された。判決の結論についてあまり批判は多くないように見受けられるものの、判決が出る前にこの事案が試験に出されたら、弁護士顧問料事件・最判昭和56年4月24日の判断基準を勉強した学生の少なからずが給与所得であるという答案を書いたであろう。 なぜ事業所得という結論であるのか。弁護士は弁護士会を通じて法律相談を引き受けているという弁護士会自治が主要因となっており(ただし例外としてりんご生産組合事件・最判平成13年7月13日参照)、個々の弁護士が法律相談業務に従事する瞬間を見ても分からないのである。 |
ワイズ事件・東京地判令和2年9月1日平成30(行ウ)268号(木村弘之亮・ジュリスト1568号134-137頁2022.3) 6版§141.01ホステス報酬計算期間事件・最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁(⇒3.1.1.3.)ではホステス報酬が事業所得であることが暗黙の前提であったが、本件ではキャバクラのキャスト報酬が給与所得に該当すると判断した事例。所得税法だけでなく、消費税法上の仕入税額控除の可否と絡んで、給与所得か否かの裁判がここのところ増えている。もっとも、令和4年10月からインボイス制度が施行されると、仕入税額控除の可否と給与所得か否かの認定とは連動しないので、この種の裁判は減るであろう。 cf.社会福祉法人ゆたか福祉会事件・名古屋地判令和6年7月18日令和4(行ウ)67号棄却……生産活動従事者に支払った工賃の消費税法上の課税仕入れ該当性(消極)(田中啓之租税判例研究会2025年2月7日報告)(倉見智亮・新・判例解説Watch租税法No.191) |
医師洋画事件・横浜地判令和3年3月24日税資271号順号13545・東京高判令和3年11月17日税資271号順号13631・最一小決令和4年4月21日税資272号順号13708……医師の洋画等制作販売業所得が事業所得ではなく雑所得であるとされた事例。 |
§223.03 通勤定期券課税事件・最判昭和37年8月10日民集16巻8号1749頁nj 争点 通勤費用が支給された場合の所得税法上の扱いについて。 判旨 勤労者が使用者から通勤費用の支給を受けたとき、給与所得を構成する。通勤費用手当てを受けていない勤労者との公平を図る。
→ 通勤費用は原則消費であるという判断(家賃との比較)が前提。(cf. William Klein, Income Taxation and Commuting Expenses: Tax Policy and the Need for Nonsimplistic Analysis of “Simple” Problems. 54 Cornell Law Rev. 871-896 (1968)) 非課税規定・所税9条1項5号(通勤手当)は創設規定という位置付けになる(具体的には所税令20条の2(非課税とされる通勤手当)、所基通9-6の3。また単身赴任に関し所税57条の2第2項5号の特定支出控除も参照)。尤も、通勤費等の必要経費算入の可否は国によって異なる。弁護士等の事業所得稼得者が自宅と事務所を往復するための通勤費用は控除できる(創設規定であるはずの所税9条1項5号に引っ張られている)というのが日本での扱いであるらしいが、アメリカでは控除できないとされている。 |
ストック・オプション・最判平成17年1月25日民集59巻1号64頁百選7版39bs(所税令84条参照gs) 日本子会社(B社)勤務の役員Xがアメリカ親会社(A社)からA社のストックオプションを付与された。ストックオプションの権利行使益は一時所得か給与所得か?(勤務先からの便益でないので学説では雑所得説も有力であったが、争われていない)。 最高裁は、一時所得ではなく給与所得であるとした。 信義則の問題……旧通達では一時所得として扱っていたのに平成10年通達改正以降給与所得扱いに切り替えた……通達改正前の年度についても一時所得として申告された分について遡及して給与所得であるとして更正処分をしている。最高裁はその点について何も触れてない(信義則の問題があるとも述べていない)。6版§130.01パチンコ球遊器事件・最判昭和33年3月28日民集12巻4号624頁では通達改正前の年度に遡及して課税することは控えていたことと対照的。([浅妻]しかし通達は立法ではなく解釈にすぎないのであるから、信義則やその他特段の事情なき限り、遡及して構わないどころか遡及すべきであろう。) 加算税についてストック・オプション加算税事件・最判平成18年10月24日民集60巻8号3128頁(⇒COLUMN2-6、3.1.4.3.信義則)は税通65条4項(現5項1号)の「正当な理由」を肯認(⇒2.2.4.1.)(6版§225.03航空機リース事業匿名組合事件・最判平成27年6月12日民集69巻4号1121頁) 余力がある人は、加算税の「正当な理由」の存否の限界事例として、最判平成18年4月20日民集60巻4号1611頁百選7版101(納税者に内緒で税理士が勝手に脱税を試みた例。「正当な理由」なし)、最判平成18年4月25日民集60巻4号1728頁百選7版100(納税者に内緒で税理士が税務職員と共謀して脱税を試みた例。「正当な理由」あり)を読み比べてほしい。「正当な理由」が認められる場面はかなり限られていることが分かる。 |
6版§223.05 5年退職事件・最判昭和58年9月9日民集37巻7号962頁bu、10年退職事件・最判昭和58年12月6日判時1106号61頁百選7版40bx 最高裁のいう退職所得の要件「(1)退職すなわち勤務関係の終了という事実によつて初めて給付されること、 (2)従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること、 (3)一時金として支払われること」 勤務継続が予定されている両事件において要件(1)が欠けるとした。多数意見は退職後の生活保障を重視したので、勤務継続が予定されているなら対処説く所得として軽課ですませるべきいわれはないことになる。 なお、10年退職事件における横井大三反対意見は累進税率緩和(平準化)を重視したので、勤務継続が予定されており生活保障の心配が小さくとも、10年分の給与の後払いが一気に実現することを慮った。il |
6版§224.03会社取締役商品先物取引事件・名古屋地判昭和60年4月26日行集36巻4号589頁 事実・争点 会社の取締役が商品先物取引によって生じた損失は事業所得計算上の損失(所税69条1項:損益通算可)に当たるか、雑所得計算上の損失(損益通算不可)に当たるか。 予備知識 金融先物取引の損失が雑所得に係る損失とされた場合の損益通算否定が憲法違反に当たるかについて、福岡高判昭和54年7月17日訟月25巻11号2888頁百選4版47――商品先物取引による所得が「事業所得ではなく雑所得と認定されるとすれば、それは雑所得と他の所得との間に損益通算の規定が設けられていないことからして憲法上財産権及び職業選択の自由の侵害になると」の主張につき、「雑所得と他の所得の間には所得の発生する状況に差異があり、雑所得においては、多くは余剰資産の運用によつて得られるところのものであり、その担税力の差に着目すれば、雑所得に他の所得との損益通算の規定がないことにはそれ相当の合理性を認めることができるから、それをもつて憲法第二九条、第二二条に違反するとの見解は採用できない。」 判旨 結論としては雑所得に係る損失。 区別の基準(本件で○事業所得っぽい要素 ×事業所得っぽくない要素)
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6版§225.01土地時効取得事件・静岡地判平成8年7月18日行集47巻7=8号632頁百選7版15ku 消滅時効に関する停止条件説・最判昭和61年3月17日民集40巻2号420頁baに基づき、時効援用時に土地の時価相当額の一時所得に係る収入金額が生じる。 東京地判平成4年3月10日訟月39巻1号139頁百選5版50も同旨(⇒4.2.3.4.取得費等の範囲) 実務上は批判があり、時効援用の有効性について争いがある場合は時効援用時ではなく裁判確定時に収入金額が生じるとすべきであると言われている(百選7版15解説)。裁判確定時の原則論について⇒4.4.3.管理支配基準、6版§232.03仙台賃料増額請求事件・最判昭和53年2月24日民集32巻1号43頁 |
6版§225.02外れ馬券民事事件・最判平成29年12月15日民集71巻10号2235頁百選7版48ca(東京地判平成27年5月14日平成24(行ウ)849号・東京高判平成28年4月21日平成27(行コ)236号)(綱森史泰・租税訴訟17号131-148頁{納税者側代理人}) 刑事事件(外れ馬券購入費用控除認容)…(大阪地判平成25年5月23日平成23(わ)625号・大阪高判平成26年5月9日平成25(う)858号)最判平成27年3月10日刑集69巻2号434頁百選6版45cd 外れ馬券購入費用控除否定例…(原審東京地判平成28年3月4日訟月63巻7号1875頁)東京高判平成28年9月29日訟月63巻7号1860頁(最決平成29年12月20日平成29(行ツ)17号)、(原審横浜地判平成28年11月9日訟月63巻5号1470頁)東京高判平成29年9月28日税資267号順号13068(最決平成30年8月29日平成30(行ヒ)46号)、(原審東京地判令和元年10月30日判タ1482号174頁は一部雑所得。控訴審で逆転した。本田光宏・ジュリスト1556号123-126頁2021.4)東京高判令和2年11月4日訟月67巻8号1276頁 オンラインスポーツ賭博(外れ賭け金控除否定)…東京地判令和2年10月15日平成30(行ウ)68号税資270号順号13464棄却・東京高判令和3年8月25日令和2(行コ)226号税資271号順号13597棄却(駒宮史博・ジュリスト1596号144-147頁) 中谷一馬「競馬の払戻金に対する課税等に関する質問主意書」(2024.4.17) 岸田文雄「衆議院議員中谷一馬君提出競馬の払戻金に対する課税等に関する質問に対する答弁書」(2024.4.26) |
(ケ6版281頁)逆ハーフタックスプラン事件・最判平成24年1月13日民集66巻1号1頁(渡辺裕泰・ジュリスト1446号118-121頁2012.10)im 30保険料 |X氏生存の場合 |X氏死亡の場合 A社―――→B | A社 B | A社←―――B 30保険料 生 | 満期保険金80生 | 満期保険金80生 X氏―――→保 | X氏←―――保 | X氏 保 養老保険の内容……A社とその代表者X氏がB生命保険会社と養老保険契約を締結し、保険料をA社とX氏が折半して例えば30ずつ(合計60の保険料)Bに支払う。満期迄にA社の代表者X氏が死ねばA社が保険金を受け取る(からA社が保険料の半分を負担し損金経理することには正当性があるという主張)、X氏が生きていればX氏が満期保険金を受け取る(保険料の半分はX氏の負担という建前になっている)。 結果としてX氏が満期保険金80を受け取った場合、X氏の一時所得の金額の計算上、所税34条2項「その収入を得るために支出した金額」は30か(一時所得は80−30=50か))、60か(一時所得は80−60=20か)(A社段階で損金算入、X氏段階で所税34条2項算入という、二重控除の帰結となってしまう。 最高裁は、保険料60のうちA社において保険料として損金経理がされた部分30が所税34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に当たらないとした。 当時の所基通34-4は保険料の支出者が誰か限定してなかったので、A社負担保険料も所税34条2項の控除対象内と実務家は考えていたが、最高裁は、通達が支出者を限定していなくとも、所税34条2項の文言から、X氏が自ら支出した保険金(又は自ら負担した保険金)に限られる、と判断した。最高裁の本税に関する判断はともかく、加算税に関する税通65条4項「正当な理由」の判断のため差し戻した。差戻控訴審福岡高判平成25年5月20日平成24(行コ)7号は「正当な理由」は認められないと判断した。 控訴審福岡高判平成21年7月29日平成21(行コ)11号で国が負けた後、最高裁が国を勝たせる前、平成23年6月30日に所税令183条4項3号を追加し、A社が負担した保険料は、X氏の一時所得の計算において控除できないことを明記した。 しかし、所税34条2項についてX氏自ら支出した保険金に限るという解釈を採用しなくても、A氏が払った30の保険料はX氏の死亡確率に照らして不当に高すぎる(例えばX氏の死亡確率が5%なら、総保険料60のうちA社が3を、X氏が57を負担すべきである)ので、適正保険料額(例えば3)とA社の実際の支出額30との差額27が、A社からX氏に対しての給与であるとして、X氏に給与所得課税をすべきであった。(岩崎政明・ジュリスト1407号173-175頁参照) 類例 最判平成24年1月16日判時2149号58頁(一審福岡地判平成22年3月15日平成20(行ウ)58号は納税者を勝たせたが控訴審福岡高判平成22年12月21日平成22(行コ)12号は、上記ほど露骨な租税回避狙いの事案ではなかったが、国を勝たせた)も国を勝たせ、更に税通65条4項にいう「正当な理由」があるとした原審の判断につき差し戻した(差戻控訴審福岡高判平成25年5月20日平成24(行コ)8号)。 [浅妻]一個人の収入・支出に着目して所得を把握すべきという態度がCOLUMN4-3年金払い生命保険年金二重課税事件の最高裁と共通しているとも考えられる。 [浅妻]本判決は会社負担保険料まで控除するという二重控除を封じたものの、本件のような養老保険の満期保険金を一時所得扱いして半額課税に服さしめるのは、給与所得課税と比べてあまりに軽すぎるのではないか?との問題が潜在している。元々生命保険等は所税76条の生命保険料控除により優遇されているので、今更という感もあるかもしれないけれども。 |
東京地判平成30年9月25日税資268号順号13192平成29(行ウ)128号認容確定…原告X氏がB社から5億円弱の借金をしていた。X氏の親であるA氏が2億円をB社に支払い、A氏がX氏に対し求償権を有することとなった。A氏が死亡しX氏の異母弟のD氏がA氏から当該求償権を相続したと推測されるが、A氏の遺言の中で、A氏のX氏に対する2億円の貸金債権をD氏に相続させることとされていた(但しD氏が相続税を納めたかどうか不分明。恐らく納めてないであろうという前提で研究会の議論は進んだ)。D氏がX氏に対し2億円の貸金債権を有していると主張し200万円の一部請求をした。別訴でA氏が時効消滅を主張し、A氏勝訴で確定した(横浜地判平成25年5月24日)。税務署長は、X氏の貸金債権の時効消滅の援用を理由としてX氏に2億円の一時所得が発生しているとして(尤も、200万円の一部請求に対する時効消滅の援用は当該200万円の部分にしか及ばなないというのが民法における理解であり、額の点でも課税庁側の主張に無理がある)、増額更正処分等をうった。後に、求償権の時効消滅を理由とし、処分理由の差替えが許されるかも争点となっている。結論として一時所得不発生。 |
(原審東京地判平成22年10月8日訟月57巻2号524頁平成21(行ウ)209号)東京高判平成23年6月29日税資261号順号11705平成22年(行コ)356号(岸田貞夫・ジュリスト1460号123-126頁2013.11)…民法上の組合に付与された新株予約権の行使に係る経済的利益が、組合による役務提供の対価としての性質を有するとして一時所得ではなく雑所得に該当する(新株予約権の行使の対価であるから一時所得であるということにはならない)とされた事例。 |
東京地判令和4年12月21日令和3(行ウ)140号棄却(田島秀則・ジュリスト1603号154-157頁)・東京高判令和5年8月2日事件番号不明棄却判例集未登載……上場株式有利発行による経済的利益が個人株主に生じたと認められた例。所基通23〜35共-7(株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合)、共-9(所令84条(譲渡制限付株式の価額等)3項3号「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合における当該株式を取得する権利」)参照。原告のマーケット・インパクト論(多量の株式を一気に売ろうとすると値下げしなければならない)を裁判所は採用しなかった。田島は(マーケット・インパクト論不採用に賛同しつつ)希薄化損失が生じている筈(なのに判決で価格に反映されていない憾みがあるのではないか)と分析している。 |
東京地判令和3年1月29日令和元(行ウ)449号税資271号順号13518棄却(横井里保・ジュリスト1579号146-149頁)……代表取締役が会社から譲受けた債権の取得価額と回収額との差額が、対価性(代表取締役が会社に提供した役務の対価)がなくても偶発性がないので一時所得ではなく雑所得であるとされた事例。 |
東京地判令和5年3月14日令和元(行ウ)615号判時2611号25頁一部認容、一部棄却・東京高判令和6年1月25日令和5(行コ)105号原判決変更(平川英子2025年3月21日租税判例研究会報告)(藤間大順「一時所得として得た債務免除益から控除できる『その収入を得るために支出した金額』:東京地判令和5年3月14日の検討」TAINSだより235号1-12頁(2023夏) (BLOG))(田中晶国「被相続人のした和解に基づく債務に関する相続人への債務免除益課税」新・判例解説Watch租税法No.181 2024.1.26)(倉見智亮「債務控除されなかった部分の相続財産への課税と債務免除益課税の二重課税該当性」新・判例解説Watch租税法No.189 2024.9.13) 事実 原告ら=原告A+原告B。原告Aは亡Eの子、原告Bは亡Eの妻。亡Eは亡Fの子であり、原告Aは亡Fの養子。 1993年9月6日、本件銀行が亡Fを借主、亡Eを保証人として16億円を貸し付けた(本件貸付)。亡F名義でαマンション購入。 2002年2月15日、本件銀行が亡F亡Eに対し返済を求めて提訴。 2002年4月26日、亡Fの判断能力欠如につけこんで本件銀行と亡Eが通謀し亡F名義の署名をしたなどに基づき、亡F(訴訟代理人:神岡信行弁護士)が本件貸付の根抵当権設定登記の抹消登記請求を提訴(前訴)。 2002年10月23日、亡F死亡。 2003年8月25日、亡F相続人らが杉並税務署長に相続税の申告。 2003年8月27日、前訴に関し東京地裁が「和解に向けての見解」書面を作成。@本件貸付金で購入したαマンションの価格相当額を本件銀行に返済する。A亡Eは亡Fの遺産の1/6(2.4億円)を本件銀行に返還する。 2003年12月25日、亡Eがαマンションを4.11億円で売却。 2004年3月31日、亡F相続人らが遺産分割協議。本件貸付金債務は亡Eが承継する。 2004年4月15日、亡F相続人らは前訴について和解(本件和解)。亡Eは亡Fの債務を亡F相続人ら(亡Eを除く)から引き受ける。亡Eは本件銀行に下記a〜dの金員を支払う。亡Eが遅滞なくa〜cの金員支払をしたら、本件銀行はdの支払義務を免除する(本件債務免除)。 【a 平成16年9月30日限り金3億7130万円】 【b 平成18年12月31日限り金2億5000万円】 【c 平成19年から平成28年まで毎年6月30日限り金50万円(10回、合計500万円)】 【d 平成28年7月31日限り金9億7370万円】 2014年10月27日、亡E死亡。a〜cについて亡Eは支払をしていた。 2015年6月24日、亡E相続人らと本件銀行は、c100万円+dについて、原告Aが免責的に引き受け、原告Bが重畳的に引き受けるとの債務引受契約を締結。 2015年8月12日、亡E相続人らが遺産分割協議。本件貸付残債務は原告A原告Bが半分ずつ承継。 2015年8月21日、亡E相続人らが相続税の申告。 2015年6月30日及び2016年6月30日、原告らは本件銀行にcの50万円ずつを支払った。 2017年3月16日、原告らは2016年(平成28年)の所得税の申告。 2017年5月12日、亡E相続人らが相続税について修正申告。本件貸付の残債務を0円と修正した。 2018年4月25日、杉並税務署長曰く、原告らが本件債務免除により9億7370万円の利益(本件債務免除益)を得たとして、平成28年分の原告らの総所得に半分ずつ加算した(本件各処分)。 争点3:二重課税の排除(所得税法9条1項17号)の適用の有無(争点1争点2争点4争点5は省略) 一審判決 「所得税法9条1項16号は、「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」には所得税を課さないとしているところ、これは相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するものについては,別途相続税又は贈与税が課せられるため、二重課税を避けるために所得税法上は非課税とされたものである。そして、本件債務免除に係る債務免除益については、停止条件の成就が亡Eの相続発生の後であることから、前記のとおり亡Eを被相続人とする相続税では考慮されていない。したがって、本件債務免除益という所得の発生時にこれを亡Eの相続人である原告らに係る所得税の課税対象とすることは、所得税法9条1項16号の前記趣旨に反するものではない」。 「原告らの主張するように、仮に本件債務免除に係る債務が亡Eの消極財産としてその相続財産の計算に当たって算入されていれば、原告らの納付すべき相続税が減少する可能性があったことは否定し得ないが、相続税法は、本件債務免除に係る債務のような不確定な債務については、相続税の算定に際して債務としての算入を認めていないのであり、仮に、本件と異なり、相続後の事情によって本件債務免除の停止条件が成就しないことが確定した場合(債務免除益が生ずることもない。)においても、遡及的に相続時において当該債務が「確実と認められる」ものであったということにはならない。そうである以上、本件債務免除の停止条件が成就し、現に債務免除益が生じた本件において、本件債務免除に係る債務が相続税において考慮されず、現に実現した債務免除益に対する所得税の課税がされることもやむを得ないものというべきである。また、所得税法9条1項16号は、相続により得た積極財産に対し、相続税に加えて所得税を課すことを禁止対象として想定しているものと解され、相続時に「確実と認められ」なかったために控除が認められなかった債務を対象として想定した規定とは解されず、殊に、相続税の課税基準時たる相続発生時の後に停止条件が成就した結果発生すべき債務免除益に適用されるものとは解されない。」 二審判決 「2 争点3(二重課税の排除(所得税法9条1項16号)適用の有無)について (1)[略] (2)1審原告らは、亡Eの相続財産から本件債務を控除せずに課税価格を算定して相続税を課しておきながら、本件債務の免除がなされた時には本件債務の存在を前提にその免除益が発生したとしてこれに所得税を課すのは、所得税法9条1項16号に反する二重課税として許されない旨主張するので、この点について検討する。 所得税法9条1項は、その柱書きにおいて「次に掲げる所得については、所得税を課さない。」と規定し、その16号において「相続,遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)」を掲げているところ、同号の趣旨は、相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課さないこととして、同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除したものであると解される(最高裁判所平成22年7月6日第三小法廷判決・民集64巻5号1277頁)。 また、相続税は、相続財産を取得した利得に対して担税力を見出して課税されるものであるところ、相続財産の取得者が被相続人の債務を承継して負担する場合にはその負担分については担税力が減殺されることになることから、相続財産からの当該債務の控除を認めるとするのが所得税法[恐らく相続税法]13条1項1号の趣旨であり、被相続人から承継する債務が「確実と認められるもの」でない場合には担税力が減殺されることにはならないから、当該債務については相続財産からの控除を認めないとするのが同法14条1項の趣旨であると解される。 このような規定の趣旨を踏まえれば、担税力を減殺させるものではないとして相続財産から控除されなかった相続債務が相続開始後に免除を受けたからといって、これにより債務者に新たな担税力が生じるものと解することは相当でない。 そうすると、被相続人から承継した現に存する債務であって、相続税申告の際の課税価格の算定にあたって近い将来に免除を受ける可能性が極めて高いこと等を理由に相続税法14条1項の「確実と認められるもの」にあたらないとして相続財産から控除されなかった債務が、その後に債権者により免除された場合における当該債務免除に係る相続人の利益については、形式的には債務免除を受けた時点で発生したものといえるとしても、所得税課税との関係では、潜在的には相続により取得していたものとみることが可能であり、また、その具体的な内容をみても、上記申告に係る課税価格のうち相続財産から控除されなかった上記債務に相当する部分の経済的価値と実質的に同一のものということができるから、特段の事情のない限り、これに所得税の課税をすることは、所得税法9条1項16号に反するものとして許されないというべきである。 これを本件についてみるに、本件債務免除益は、被相続人の亡Eから1審原告らが承継した本件銀行に対する債務であって、本件和解の約定により免除を受ける可能性が極めて高いことから相続税の修正申告の際の課税価格の算定にあたって相続税法14条1項の「確実と認められるもの」にあたらないとして相続財産から控除されなかった本件債務が、その後に本件和解の約定に基づき本件銀行により免除された場合における債務免除に係る1審原告らの利益であるといえる。そして、本件においては、本件債務を相続財産から控除した場合とこれをしない場合の相続税額の増加額(合計2億1972万4900円)と本件債務免除益を一時所得として所得税の課税をしない場合とこれをした場合の所得税等の本税額の増加額(合計2億2273万2100円)に結果的に著しい差がないこと(上記(1)ウ)などの状況に照らしても、上記特段の事情は見当たらない。したがって、本件債務免除益に所得税の課税をすることは、所得税法9条1項16号に反して許されない。」 |
6版§211.04年金払い生命保険金二重課税事件・最判平成22年7月6日民集64巻5号1277頁百選7版34lc 保険料 |年金払い選択 |一時払い選択 A夫―――→B | A夫(亡) B | A夫(亡) B 生 | 230年金x10 生 | 2059一時払 生 X妻 命 | X妻←―――命 | X妻←―――命 保 | ←―――保 | ←―――保 険 | 4000一時金 険 | 4000一時金 険 夫AがB生命保険会社に生命保険料を払って死亡し、妻Xが相続開始時から10年間毎年230万円の生命保険年金(合計2300万円)を受け取ることとなった(一時金として他に4000万円も受け取っているがそれは相続課税の話なので省略)。相続時に相続税法24条1項(当時「イ 当該契約に関する権利を取得した時において当該契約を解約するとしたならば支払われるべき解約返戻金の金額」に相当する規定がなかった)により現価1380万円として相続税の課税標準に含められる(尤もこのXの相続税額は0円であったらしい。相続税法上の基礎控除等の枠内だったのであろう)。 課税庁は更に毎年230万円の年金について、Aの既払保険料額の1/10(約200万円の既払保険料額のうち年金に対応する部分の1/10である9.2万円)を控除した雑所得・約220万円(230−9.2=220.8)があるものとして課税した(所税令183条)(Aが若くして死んでしまい、既払保険料額が少なかった)。これは所税60条1項による取得費の引継ぎ(⇒4.2.3.6.)に類する計算である。 Xはこの所得課税が所税9条1項16号(当時15号)に反すると主張した。仮にXが相続開始時に年金の一時払(前述の死亡一時金4000万円とは別物であることに留意)を選択していたならば、生命保険会社との契約により230万円の8.956倍(2059万8800円)を受け取ることができる、ということがAとB社との間の契約で定められていたところ、この一時払の金額には相続税が課せられるのみであり所得税は課されない(⇒4.2.3.5.・所税59条1項のみなし譲渡に類する所得課税はない)とされていた(所基通9-18年金の総額に代えて支払われる一時金)。 [浅妻]元はといえば、死亡一時金4000万円・年金の一時払2059万8800円について、相続税を課すのみならず、所税59条1項に類する所得課税もする、としておけば、課税の整合性は保たれていたであろう。しかし所税59条1項の適用範囲が狭められていった経緯に照らし、死亡一時金4000万円・年金の一時払2059万8800円について所税59条1項類似の課税をすることには抵抗感があったのであろう。 評価について……一時払を選択すると2059万8800円を受け取ることができるのに、相続税法24条1項(当時)によりなぜ1380万円と評価されるのか?……当時の相続24条1項の計算は便法にすぎないが、納税者に甘すぎるので、本件のように一時払を選択すると2059万8800円を受け取ることができるという場合にはこちらの額が相続税法上も評価額となるように改正された(『改正税法のすべて平成22年版』427頁)。年複利計算で、名目額合計2300万円が相続開始時に2059万8800円と評価されるような割引率は約2.54%(年複利)、1380万円と評価されるような割引率は約13.72%(年複利)となる。前者は概ね市場の実勢に適っているものであろうが(独立当事者であるAとB社との契約によって決められているため)、後者は昨今の市場の実勢と比較して明らかに高すぎる割引率である(相続税法上の評価額が低くなってしまい、納税者に甘すぎる)。 一審長崎地判平成18年11月7日平成17(行ウ)6号(請求認容)……年金受給権と年金との実質的・経済的な同一性を論拠とし、「実質的・経済的には同一の資産に関して二重に課税するものである」として、年金に対する所得課税は所税9条1項15号の「趣旨」によって許されないとした。明示されていないが、翌年以降受け取る年金への所得課税をも排斥したものと解される。 国側の反論……「例えば、相続により取得した財産が果樹であったような場合…収益還元方式の考え方により…将来…収益(収穫した果実の売却による収入)を、現価…に引き直す…。…果樹には一定の寿命があり…果樹も減価償却資産とされていることに照らすと、当該果樹から得られる収益は、時の経過による当該財産の価値の減少と対応する関係にある…。…果樹が相続税の課税対象となった場合であっても、その後、当該果樹から得られる収益に対し、所得税が課税されることについては異論がない」 控訴審福岡高判19年10月25日平成18(行コ)38号(請求棄却)……「本件年金は、本件年金受給権とは法的に異なる」ので「所得税法9条1項15号所定の非課税所得に該当しない」。(仮にAが長生きしていたならばAが稼いだ所得に課税されることとのバランスから、Aが早死にした結果受け取る金員について所得として課税するという高裁判決にも一分の理がある) 最高裁判旨(破棄自判・請求認容) 所得税法9条1項15(現16)「号にいう『相続,遺贈又は個人からの贈与により取得するもの』とは,相続等により取得し又は取得したものとみなされる財産そのものを指すのではなく,当該財産の取得によりその者に帰属する所得を指すものと解される。そして,当該財産の取得によりその者に帰属する所得とは,当該財産の取得の時における価額に相当する経済的価値にほかならず,これは相続税又は贈与税の課税対象となるものであるから,同号の趣旨は,相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課さないこととして,同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除したものであると解される。」 「年金の方法により支払を受ける上記保険金(年金受給権)のうち有期定期金債権に当たるものについては,[相続税法24条1]項1号の規定により,その残存期間に応じ,その残存期間に受けるべき年金の総額に同号所定の割合を乗じて計算した金額が当該年金受給権の価額として相続税の課税対象となるが,この価額は,当該年金受給権の取得の時における時価(同法22条),すなわち,将来にわたって受け取るべき年金の金額を被相続人死亡時の現在価値に引き直した金額の合計額に相当し,その価額と上記残存期間に受けるべき年金の総額との差額は,当該各年金の上記現在価値をそれぞれ元本とした場合の運用益の合計額に相当するものとして規定されているものと解される。したがって,これらの年金の各支給額のうち上記現在価値に相当する部分は,相続税の課税対象となる経済的価値と同一のものということができ,所得税法9条1項15号により所得税の課税対象とならないものというべきである。」 「所得税法207条所定の生命保険契約等に基づく年金の支払をする者は,当該年金が同法の定める所得として所得税の課税対象となるか否かにかかわらず,その支払の際,その年金について同法208条所定の金額を徴収し,これを所得税として国に納付する義務を負うものと解するのが相当である。 したがって,B生命が本件年金についてした同条所定の金額の徴収は適法であるから,上告人が所得税の申告等の手続において上記徴収金額を算出所得税額から控除し又はその全部若しくは一部の還付を受けることは許されるものである。」 最高裁は、相続等により取得した財産がもたらす「所得」(=「当該財産の取得の時における価額に相当する経済的価値」)の部分(つまり1380万円の部分)について、所税9条1項16号により所得課税は許されないと判示したが、間接的に、2300−1380=920(万円)の運用益部分についての所得課税は容認される(運用益の部分が一審の判断と異なる)と判断したものと理解される。当時、納税者の逆転勝訴と喧伝されたものの、実質的には納税者六割勝訴、四割敗訴の内容である。 本件では相続開始時に受け取る年金230万円についての雑所得課税の是非しか争点とならなかったので運用益部分がなかった事案であり、最高裁は運用益の計算方法について何ら述べなかった。翌年以降に受け取る年金230万円のうち、どのように運用益部分を計算するのか、という問題が残った。 主な問題点…(1)いつ幾らの運用益を認識するか? (2)運用益部分から既払保険料額を控除できるか? 平成22年政令第214号による改正所税令183条〜186条、課個2−27(平成22年10月20日)の所基通35-4の2及び35-4の3(当時)により国税の扱いが明らかにされた。 (1)第0年に相続を開始し(この時点で230万円受け取るが第0年の運用益は0円)、第1年〜第9年にかけて毎年230万円ずつ受け取る際の運用益の計算 年度……………………………………_1_|_2_|_3_|_4_|_5_|_6_|_7_|_8_|_9_ 通達による運用益の計算の発想……028|052|074|092|109|124|136|148|158 包括的所得概念に忠実な運用益……158|148|136|124|109|092|074|052|028 通達は次のような発想で運用益を計算している。第1年度の230万円の年金は、第0年度において230/1.137=202(万円)(年複利13.7%の前提)として相続税の課税標準に算入されていたので、第1年度の運用益は、第0年度の202万円を利子率13.7%(年複利)で1年間運用したものと考えられるから、230−202=28(万円)である。第2年度の230万円の年金は、第0年度において230/1.1372=178(万円)として相続税の課税標準に算入されていたので、第2年度の運用益は、第0年度の178万円を利子率13.7%(年複利)で2年間運用したものと考えられるから、230−178=52(万円)である。以下同様に第3年度から第9年度まで計算する。(表では万円以下四捨五入の端数処理のズレのため合計が920ではなく921になっている。) しかし包括的所得概念に忠実に運用益を計算するならば、次のように考えられる。利子率13.7%(年複利)で運用される基金1380万円から第0年から第9年にかけて毎年230万円ずつ引き落とす、という例と同様に所得計算することになる。第0年に1380万円から230万円(運用益部分は0円である)を引き落としたので、残り1150万円を利子率13.7%で1年間運用した運用益158万円(≒1150万円×13.7%)が第1年の所得である。第1年に230万円を引き落とすので、1150+158−230=1078(万円)を第1年から第2年にかけて利子率13.7%で1年間運用する。すると第2年の運用益は148万円である。以下同様に第3年度から第9年度まで計算する。 包括的所得概念に忠実に運用益を計算した場合は第1年から第9年にかけて運用益が小さくなっていく一方、通達の発想によると、運用益は第1年から第9年にかけて大きくなっていく。単純に合計すると920万円(表では端数処理のズレのため921になっているが)である。早い時期に多額の所得が計上されると納税者に不利であるから、通達の発想の方が納税者に有利である。なぜ通達の発想の方が納税者に有利なのか。通達の発想は、例えば第2年度について見てみると、第0年の178万円が利子率13.7%(年複利)で2年間運用されたという前提で計算されている。包括的所得概念に忠実に計算するならば、第0年の178万円が2年間運用される場合に第1年にも発生している筈の増加益(178×13.7%=24(万円))を課税所得に含めなければならないが、簡便法の基の考え方は、第0年の178万円に関し第1年には実現がないので非課税のまま2年間運用するという前提で計算している。このように実現主義を前提としている簡便法の基の考え方による計算は、包括的所得概念に忠実な計算と比べ、納税者に有利なものとなっている。 通達は十本の年金受給権をばらばらに捉えている。包括的所得概念に忠実に考えるならば、相続開始時に1380万円と評価される年金受給権を一つの資産と観念して計算すべきである。しかし現行所得税法が包括的所得概念に忠実ではなく実現時に課税することを原則としていることとの均衡から考えれば、通達の発想にも一理ある。浅妻章如・法学教室2010年11月号45頁参照。 (2)Aの既払保険料額を控除することができないとすると、既払保険料が高いタイプの生命保険年金(例えば積立の性格が強いもの)に関しては最高裁判決による扱いが従来の扱い(所税60条1項の租税属性の引継に類する扱い)より納税者に不利に働く可能性もあった(最高裁調査官はそう考えていた。[浅妻]私も既払保険料額の控除不可の前提で評釈を書いてしまった)。 改正法令・通達によれば、既払い保険料相当額を、元本返還部分と運用益部分とに按分した上で、控除可としている。この計算方法ならば、最高裁判決が納税者に従来より不利に働く可能性はない。従って誰も訴訟を提起しないであろう。([浅妻]しかし、所税60条1項(租税属性の引継)に類する課税を斥けたこととの整合性を欠くのではないかとの疑問は残る。更に、逆ハーフタックスプラン事件・最判平成24年1月13日民集66巻1号1頁が、他者負担の保険料の控除を否定したことと、整合的でない可能性も出てくる。)(調査官解説・古田孝夫・ジュリスト1423号100頁以下、104頁も疑問を呈す。) 相続税・贈与税が課された「所得」部分について、所得税を課すことは許されない、という論理の射程は? ……率直にいって超絶の難問。土地の含み益に関しても、相続税(恐らく贈与税も)が課された「所得」部分について、所得税が課されることがあるが、まさか所税60条1項が所税9条1項16号によって覆ることは考えられない(同じ所得税法の規定であり同格であるから。本件は所得税法と施行令との関係で所得税法が優先すると解釈したものと理解できる)。株式の時価が将来の配当等の利益の割引現在価値であるとすると、株式相続時にその時価について相続税を課し、配当等受領時に所得税を課すことが、本件最高裁判例の射程に含められる可能性が、皆無とは言えない。また、特許権・著作権等についても同様の問題が残る。 現在までのところ判例・裁判例は射程を狭く解している(二重課税を許容している)。土地含み益について、(東京地判平成25年6月20日平成24(行ウ)243号・東京高判平成25年11月21日平成25(行コ)268号)最決平成27年1月16日税資265号順号12588(山田二郎・ジュリスト1476号112-115頁2015.2)等、配当について(大阪地判平成27年4月14日訟月62巻3号485頁・大阪高判平成28年1月12日平成27(行コ)85号)最決平成29年3月9日税資267号順号12990。 被相続人Aが保有していたB株及び配当期待権に相続税を課し、A死亡後の配当について相続人Xが所得課税を受けることは、所得税法67条の4が課税繰延の趣旨であるから、最判平成22年7月6日の射程外であり、合法である……大阪地判令和3年11月26日令和2(行ウ)137号判タ1503号58頁棄却・大阪高判令和6年1月18日令和3(行コ)149号訟月70巻9号910号棄却(上告、上告受理申立)(租税判例研究会渋谷雅弘2023年1月20日報告)。 債務免除益について二重課税不許容例として東京高判令和6年1月25日令和5(行コ)105号⇒4.2.9.一時所得 所得税法67条の4「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)」 源泉徴収の適否と還付請求の可否に関して……(ケ6版339頁)日光貿易事件・最判平成4年2月18日民集46巻2号77頁(2.3.2.2.a.)は、給与支払者(例えば浅妻を雇用している立教学院)による源泉徴収に誤りがある場合、所税120条1項5号・6号に関し、誤徴収税額を受給者(例えばサラリーマンたる浅妻)の申告税額から控除すること或いは還付を請求することはできない、と判示していた。これと関連して、本件(最判平成22年7月6日)において、仮に非課税所得であるならば、生命保険会社が源泉徴収したことも誤徴収であるところ、相続人であるXが自ら還付を請求することはできなくなるのではないか、という問題が潜在していた。 最高裁は、支払者たるB生命保険会社の源泉徴収義務を肯定し、源泉徴収が適法であるためXが自ら還付請求をすることも許されるという論理を組み立てた。 この論理は最判平成4年2月18日と矛盾していると感じる実務家も少なからずいるようであるが、形式的に言って判例変更をしていないので最判平成4年2月18日が覆った訳ではない……給与等の支払い(最判平成4年2月18日)と年金の支払い(最判平成22年7月6日)とは別であるという論理となる。藤谷武史・ジュリスト1410号28頁参照。会社が役員給与を支払ったが役員給与支給が無効であった場合の源泉徴収税額の還付請求について、参照、動画「税でモメたらどうする(第4回)〜税務と法務は車の両輪〜」cf. 北村豊動画 |
国税不服審判所令和3年3月24日裁決大裁(所)令2第46号(未公刊)(山中理司「修習給付金は必要経費のない雑所得であるとした国税不服審判所令和3年3月24日裁決」2021.4.11(更新2025.1.10)で入手可能)・大阪地判令和4年12月22日令和3(行ウ)48号税資272号順号13795棄却・大阪高判令和5年7月26日令和5(行コ)15号棄却・最二小決令和5年12月22日令和5(行ヒ)375号不受理 cf.吉沢健太郎「裁判所法67条の2第1項に基づく修習給付金の課税上の取扱いについて――国税不服審判所裁決令和3年3月24日の検討――」東京大学法科大学院ローレビュー17号80-102頁(2022)、藤間大順「司法修習生が得る基本給付金および修習専念資金の非課税所得該当性」新・判例解説Watch租税法No.186 (2024.7.19)、田中治「非課税所得該当性をめぐる近時の紛争例」税務事例研究202号11-32頁(2024) 争点1本件給付金が所得税法上の学資金に該当するか(消極) 争点2本件利息相当額が所得税法上の学資金に該当する(消極) 争点3本件費用を雑所得の金額の計算上必要経費に算入できるか(消極) 争点4本件給付金を非課税所得と認めないことや本件費用を必要経費と認めないことが憲法14条1項[平等条項]に反するか(消極) 一審判旨 争点1「「学資に充てるため給付される金品」とは、学校等の教育機関において学術等の教育・指導を受けるために必要な費用(学費)に充てるために給付される金員をいうものと解される」。 「基本給付金は、その規定の文言上、「司法修習生がその修習期間中の生活を維持するために必要な費用」に充てるために支給するものとされていること(上記ア)、司法修習生は、司法修習における教育・指導の対価(授業料等)を負担することがなく、その経済的事情にかかわらず一律に一定額の基本給付金の支給を受け、これをいかなる費用に充てるかは全く自由であること(同ア)、基本給付金の制度は、経済的な事情により学資(学費)を負担することが困難な司法修習生の支援を目的として導入されたものではなく、法曹人材確保の充実・強化を図るという政策的な目的に基づいて導入されたものであること(上記イ)、基本給付金の金額は、司法修習生の学資(学費)としてどの程度の費用が必要かという観点ではなく、司法修習生がその生活を維持するためにどの程度の費用が必要かという観点から、政策的な要請等も踏まえて決定されたものであること(上記ウ)などの事情を指摘することができる。 これらの事情を総合すると、基本給付金は、法曹人材確保の充実・強化を図るという政策的な目的に基づき、修習専念義務を負い生活費を稼ぐことのできない司法修習生の生活費全般に充てるため、使途を限定せずに支給されるものであって、学資(司法修習における教育・指導を受けるために必要な費用)に充てるために支給されるものとはいえないから、所得税法上の学資金には当たらない」。 |
6版§211.05 マンション建設承諾料事件・大阪地判昭和54年5月31日行集30巻5号1077頁fe 事案 マンション建設に伴う隣地居住者の損害を補償するために支払われた310万円の扱いが争点。 判旨 「授受された310万円は訴外A社のマンション建設によりXの受ける損害を補償する目的と、マンション建設についてXの承諾を得ることの対価とする目的の双方の趣旨である」。Xの損害は30万円を超えないと認定し、310万円−30万円−40万円(当時の一時所得控除)=「240万円が少なくとも課税される一時所得金額になる。」 過納金の還付加算金について最判昭和53年7月17日訟月24巻11号2401頁、紛争解決金が損害賠償ではなく一時所得とされた(遅延損害金は雑所得)例として最判53年6月23日税資101号578頁、死亡保険金は損害の回復ではないので所得税の課税対象となるとした例として最判平成2年7月17日判時1357号46頁(佐藤英明・ジュリスト984号206頁) |
先物取引損害和解金事件・名古屋地判平成21年9月30日判時2100号28頁百選7版35(類例:福岡高判平成22年10月12日先物取引裁判例集61号59頁) 商品先物取引で損害を被ったX氏が商品取引員であるA商事株式会社から受けた和解金は非課税所得に当たる。 |
ライブドア資産損失事件・神戸地判平成25年12月13日判時2224号31頁fc 旧ライブドアの虚偽記載により株価下落の損害を被ったXが旧ライブドアとの和解により取得した賠償金は、所税令30条各号にストレートには当てはまらないので、納税者を救う論理を構築するのは大変難しい。 例(1) 9の売上(収入金額)、8の仕入(必要経費)、1の所得を申告。その後、仕入元の不法行為により仕入額が不当に3釣り上げられていたことが発覚し、3の損害賠償金を受け取った場合……損害賠償金を非課税所得とする(9−8+0=1)と、不法行為なかりし場合(9−(8−3)=4)と均衡を欠く。この二重控除を防止するため、必要経費補填型の損害賠償金は非課税所得から除外される(9−8+3=4)(所税令30条柱書括弧書)。 例(2) 雑所得に係る5の収入金額、8の必要経費で、雑所得に係る所得が-3(つまり損失)であった場合、損益通算できない。その後、仕入元の不法行為により仕入額が不当に3釣り上げられていたことが発覚し、3の損害賠償金を受け取った場合……不法行為なかりせば雑所得は0であった(5−(8−3)=0)のに、この3の損害賠償金が必要経費補填型であるから非課税所得から除外されるとなると、雑所得については5−8=-3だが損益通算できないから課税所得に与える影響は0である一方で3だけ課税所得に算入されてしまい、不法行為なかりし場合との均衡がとれない。これは納税者に酷な結果となる。酷だけど仕方ない、という考え方がありえないではない。加害者が無資力だったら3の損害賠償金すら受け取れないのだから、それと比べれば3を受け取ることができただけマシであるという考え方が、ありえないではない。 しかし裁判所は、着眼点を変えて納税者を救済した。 例(1)及び例(2)は3の損害賠償金を受け取った年度に着目しているが、雑所得に係る資産を購入した年度における所税51条4項括弧書「……損害賠償金……により補てんされる部分の金額……を除く」の解釈に裁判所は着目した。【8の必要経費(不法行為なかりせば必要経費は5)、3の損害賠償金】という構成ではなく、【8の仕入のうち3の資産損失、3の損害賠償金】という構成とし、【5−8=0{損益通算不可}、+3】という構成ではなく、【5−(8−3)=0】という構成として、納税者を救済した(教科書の「株式の価値の下落という資産損失(所税51条4項参照)の補填であり非課税所得に当たる」という記述だけ読んでも理解できなかったと思うが、紙幅の制約に鑑みお許しいただきたい)。 裁判所の、何としても納税者を救うという姿勢のcreativeな解釈はお見事。但し、今回は雑所得に関する仕入が株式という資産であったから所税51条4項で救うことができたが、雑所得に関する仕入が役務である場合は本判決のような解釈の技巧を凝らしても納税者を救えない、という限界もある。 |
弁護士事務所立退料事件・東京高判平成26年2月12日税資264号順号12405平成25(行コ)70号 立退料について当時のタックスアンサーNo.3155が一時所得扱いしている(参照:所基通33-6、34-1(7))ことを根拠に、原告たるX弁護士も賃借事務所の立ち退きに際し賃貸人から受けた金員(立退料)が一時所得であると主張した。 高裁は、必要経費補填部分(のうち賃料等差額補填分及び新事務所開設費用補填分)が事業所得とされた(一審東京地判平成25年1月25日平成23(行ウ)736号から少し変更された)。 この事件で国側の意見書を書いた佐藤英明は、費用収益対応の原則の逆バージョンとして、収益費用対応(佐藤の造語であり人口に膾炙している訳ではないが浅妻は良い表現だと思う)という考え方により、事業所得に係る必要経費を補填する金員は事業所得に当たる、という説明をしている。 タックスアンサーNo.3155 借家人が立退料をもらったとき 立退料は、その中身から次の3つの性格に区分され、それぞれその所得区分は次のとおりとなります。 1 資産の消滅の対価補償としての性格のもの 家屋の明渡しによって消滅する権利の対価の額に相当する金額は、譲渡所得の収入金額となります。 2 収入金額または必要経費の補填としての性格のもの 立ち退きに伴って、その家屋で行っていた事業の休業等による収入金額または必要経費を補填する金額は、事業所得等の収入金額となります。 3 その他の性格のもの 上記1および2に該当する部分を除いた金額は、一時所得の収入金額となります。 |
医療費控除とメガネ訴訟・東京高判平成2年6月28日行集41巻6=7号1248頁百選5版54……眼鏡及びコンタクトレンズの購入代金並びに視力検査費用等は所得税法73条2項及び所税令207条に規定する医療費に当たらない 所税73条(医療費控除)「居住者が、各年において、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払つた場合において、その年中に支払つた当該医療費の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)の合計額がその居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の五に相当する金額(当該金額が十万円を超える場合には、十万円)を超えるときは、その超える部分の金額(当該金額が二百万円を超える場合には、二百万円)を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。 2 前項に規定する医療費とは、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいう。」[3項略] |
大阪地判令和4年12月22日令和3(行ウ)48号(棄却)・大阪高判令和5年7月26日令和5(行コ)15号(棄却)・最二小決令和5年12月22日令和5(行ヒ)375号(不受理)(藤間大順「司法修習生が得る基本給付金および修習専念資金の非課税所得該当性」新・判例解説Watch租税法No.186 (2024.7.19))……所得税法9条1項15号「学資に充てるため給付される金品」非該当 |
6版§211.02利息制限法違反利息事件(板橋事件)・最判昭和46年11月9日民集25巻8号1120頁百選7版33na 事実・争点 利息制限法の制限を超過していた場合の利息の課税について。 判旨 請求認容。[4]利息制限法の制限超過部分の利息のうち未収部分は課税対象とならない。 (争点ではないが、[2]違法でない利息については未収であっても履行期到来時に所得として課税対象となる⇒4.4.1.発生主義) 争点ではなかったが後々引用される部分 [3]現実に収受された場合について「制限超過部分をも含めて、現実に収受された約定の利息・損害金の全部が貸主の所得として課税の対象となる」。「貸主は、いつたん制限超過の利息・損害金を収受しても、法律上これを自己に保有しえないことがあるが、そのことの故をもって、現実に収受された超過部分が課税の対象となり得ないものと解することはできない」。ev 以下の4パターン、気を付けて。([1]は気を付けなくてよいけど) [1]適法な利息で収受した時 [2]適法な利息で未収受の時 [3]違法な利息で収受した時 [4]違法な利息で未収受の時 所基通36-1(収入金額)「法第36条第1項に規定する「収入金額とすべき金額」又は「総収入金額に算入すべき金額」は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない。」 昭和26年所基通148は「一応所有権が移転するもの」であるかどうかによる区別。現通達はその区別に拠ってない。(旧通達は窃盗等と詐欺等とを区別)eu 私法に依拠すれば、違法利得の返還債務を負っている筈であり、違法利得の額と返還債務の額とは等しいから、相殺すれば所得は零の筈では?⇒4.4.3.管理支配基準(6版§232.03仙台賃料増額請求事件・最判昭和53年2月24日民集32巻1号43頁)とも深く関連する。 現実に収受した制限超過利息が後に借主に返還された場合は?(⇒4.8.2.&2.3.2.2.b.) 所税152条(各種所得の金額に異動を生じた場合の更正の請求の特例)「確定申告書を提出し、又は決定を受けた居住者……は、当該申告書又は決定に係る年分の各種所得の金額につき第六十三条(事業を廃止した場合の必要経費の特例)又は第六十四条(資産の譲渡代金が回収不能となつた場合等の所得計算の特例)に規定する事実その他これに準ずる政令で定める事実が生じたことにより、国税通則法第二十三条第一項各号(更正の請求)の事由が生じたときは、当該事実が生じた日の翌日から二月以内に限り、税務署長に対し、当該申告書又は決定に係る第百二十条第一項第一号若しくは第三号から第八号まで(確定所得申告書の記載事項)又は第百二十三条第二項第一号、第五号、第七号若しくは第八号(確定損失申告書の記載事項)に掲げる金額……について、同法第二十三条第一項の規定による更正の請求をすることができる。この場合においては、更正請求書には、同条第三項に規定する事項のほか、当該事実が生じた日を記載しなければならない。」 所税令274条(更正の請求の特例の対象となる事実)「法第百五十二条……に規定する政令で定める事実は、次に掲げる事実とする。 一 確定申告書を提出し、又は決定を受けた居住者の当該申告書又は決定に係る年分の各種所得の金額……の計算の基礎となつた事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたこと。 二 前号に掲げる者の当該年分の各種所得の金額の計算の基礎となつた事実のうちに含まれていた取り消すことのできる行為が取り消されたこと。」 税通23条(更正の請求)「納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から五年(第二号に掲げる場合のうち法人税に係る場合については、十年)以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等……につき更正をすべき旨の請求をすることができる。 一 当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額……が過大であるとき。[二・三号略] 2 納税申告書を提出した者又は第二十五条(決定)の規定による決定……を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する場合(納税申告書を提出した者については、当該各号に定める期間の満了する日が前項に規定する期間の満了する日後に到来する場合に限る。)には、同項の規定にかかわらず、当該各号に定める期間において、その該当することを理由として同項の規定による更正の請求……をすることができる。 一 その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき その確定した日の翌日から起算して二月以内」[二号以下略] 法人税法に関し利息制限法違反利息(及び遅延損害金)を益金算入していたことについて更正の請求を棄却した事例がある……(ケ6版380頁)TFK事件(旧武富士事件)・東京地判平成25年10月30日判時2223号3頁・控訴審東京高判平成26年4月23日金融法務事情2004号107頁。6版§321.03クラヴィス事件・最判令和2年7月2日民集74巻4号1030頁 cf.(ケ6版123頁)富士重工事件・最判昭和38年10月29日判時352号30頁cs…「税法の見地においては、課税の原因となつた行為が、厳密な法令の解釈適用の見地から、客観的評価において不適法、無効とされるかどうかは問題でなく、税法の見地からは、課税の原因となつた行為が関係当事者の間で有効のものとして取り扱われ、これにより、現実に課税の要件事実がみたされていると認められる場合であるかぎり、右行為が有効であることを前提として租税を賦課徴収することは何等妨げられない。」との一般論の下、終戦直前、飛行機会社の国営への移管の下に資材が売買され、終戦後、軍需工廠廃止に伴い資材が民間会社たる原告に払い下げられ、先の買収代金一六億円余(これが戦時補償請求権となる)から払下代金四億円余の限度において相殺し、もって「この法律施行前に戦時補償請求権について決済を受けた」(戦時補償特別措置法二条)という事案において、資材の売買と相殺とが仮に民・商法の厳密な解釈適用上無効とされる等の場合でも、課税処分当時当事者間で有効として取り扱われ、現実に相殺による決済を生じていたと認められる限り、戦時補償特別税を課すことが許されるとした事例……金子宏を始め学界はこの最高裁判例を無視しようとしてきたが、帯広神経外科病院事件で引用された。 帯広神経外科病院事件・東京高判平成23年10月6日訟月59巻1号173頁…個人病院が得た不正な診療報酬について健康保険法・国民健康保険法・介護保険法に基づき返還債務が発生し更に加算金が課された事案で、返還債務の成立時点(未払い時点)では、また加算金については、必要経費算入が認められない(所得税法37条1項、45条、51条、所税令98条、141条)。 |
6版§231.03 高松市塩田宅地分譲事件・高松地判昭和48年6月28日行集24巻6=7号511頁nb 事実・争点 宅建業法違反の代理報酬を支払った場合に所税37条の必要経費として認定されるか。 土地の譲渡があったのか仲介が行なわれたにすぎないのか、課税処分取消訴訟の審理対象は何か(⇒訴訟物:3.2.4.2.)、事業所得の意義は何か、といった様々な論点が現れている、一粒で何度もおいしい事案といえる。 判旨 総額主義対争点主義…「課税処分取消訴訟の審理の対象は、課税庁の決定した所得金額の存否そのものであり、原告の主張する具体的違法事由ではない」「課税庁は訴訟の過程において〔処分〕当時考慮されなかった新たな事実でも、右処分を正当とする理由として主張することは可能である」 本件結論部分 「右法律に違反する報酬契約の私法上の効力いかんは問題であるとしても、現実に右法律所定の報酬額以上のものが支払われた場合には、所得税法上は右現実に支払われた金額を経費(右報酬の支払を受けた不動産仲介業者については所得)として認定すべき」 所税45条(家事関連費等の必要経費不算入等⇒4.3.2.2.) 1項7号罰金等……所得課税の理論から言えば、罰金も、必要経費の性質(ex.駐車違反)を備えているならば、本来は所得から控除されるべきである(それは違法な支出に関する上掲裁判例の通りである)。しかし、罰金の控除を認めると、罰金の効果が税率分だけ弱まる。例えば、限界税率40%の納税者につき100の罰金の控除が認められると、100の罰金を科したつもりが経済的負担としては60にとどまってしまう。 所税45条1項各号が例示規定ならば、上記の趣旨を一般化するものとして「公序(public policy)の理論」(45条を類推解釈していく)に繋がる。しかし45条1項各号は限定列挙であり、解釈論としては無理がある。 (尤も、ここまで経費性ありを前提としてきたが、裁判では経費性の有無も当然に激しく争われえよう……特に暴力団関係ey) 所税45条2項exの性質…賄賂は経費の性質を持つかもしれないが……公序違反?受け手の課税可能性? 法人税については別論の余地あり。⇒5.2.3.5.b.、6版§323.03エス・ブイ・シー事件・最決平成6年9月16日刑集48巻6号357頁 |
(所税57条の3:外貨建取引の換算|66条:工事請負|67条の2:リース取引 略) |
分限免職中学高教諭退職手当供託事件・東京地判平成29年1月13日税資267号順号12954平成27(行ウ)448号(棄却)・東京高判平成29年7月6日税資267号順号13032平成29(行コ)41号(棄却、確定)(藤岡祐治・ジュリスト1552号124頁、田中晶国・税法学581号249頁)……「現実の収入がなくても,収入となるべき権利が発生する原因となる事実関係が外観上存在し,かつ,当該権利を法律上行使することができ,権利実現の可能性を客観的に認識することができる状態に至ったときは、権利が確定した」とする。係争中でも供託されている場合、所得の実現があると判断した。§232.03仙台賃料増額請求事件・最判昭和53年2月24日の原則論(裁判確定時)と齟齬しているように見えるので理解が難しい判決。公定力という誤を判決は用いていない(ので民間企業でも同じ結論になりそう)。 |
東京地判令和4年8月31日令和2(行ウ)502号税資272号順号13749(棄却)(坂巻綾望・ジュリスト1589号10頁)・東京高判令和5年5月24日令和4(行コ)280号(控訴棄却。未確認)……平成26年、X氏(原告、居住者)がスイス法人たる銀行(Bank Julius Bear)と投資一任契約を締結した。銀行は本件取引(外国通貨で他の外国通貨や有価証券を取得する取引)を行った。本件取引に係る所得をX氏は平成26年、27年の確定申告に含めていなかった。税務署長は、本件取引によりX氏に所得(為替差損益)が生じたとの前提で更正処分等をした。 判旨「本件各取引に係る為替差損益が本件各取引によって新たに得られる経済的利益であるといえるかについて検討するに、外貨建取引を行った居住者の所得の金額を計算するに当たっては、当該外貨建取引を行った時における為替レートにより、当該外貨建取引の金額を円換算することとされている(所得税法57条の3第1項)ところ、本件各取引は、いずれも外国通貨で支払が行われる取引であり、外貨建取引に該当することからすると、本件各取引によって新たに経済的利益が得られるといえるか否かについても、その円換算額によって判断すべきことになる。そして、本件各取引前後の状況を円換算額に引き直してみると、@ある外国通貨(A)により他の種類の外国通貨(B)を取得する取引については、当該他の種類の外国通貨(B)の取得価額の円換算額から当該外国通貨(A)の取得価額の円換算額を控除した差額が、A外国通貨により有価証券を取得する取引については、当該有価証券の取得価額の円換算額から当該外国通貨の取得価額の円換算額を控除した差額がそれぞれ正の値であるときは、その取引によって、新たな経済的利益が得られたことになり、所得が生ずることになる。」 |
(Cf.会社法における考慮、企業会計における考慮は変わってくる) |
2版§411.01クロス取引損失計上事件・国税不服審判所平成2年4月19日裁決・裁決事例集39集106頁 クロス取引…売建て玉(うりたてぎょく)と買建て玉(かいたてぎょく)とが同限月(げんげつ)、同数量、同単価、同約定金額で設定された先物取引。ある商品(例えば石油)を50で売るという注文と50で買うという注文を出せば、必ずどちらかが得をしもう片方が損をする。例えば市場価格が35であったら50で売るというポジションは得であるし50で買うというポジションは損である。しかし、売り注文・買い注文を出すための手数料がかかるので、合計では必ず損をする。 事実・争点 Xが上場株式の同一銘柄の売り付け・買い付けを注文し、売り付けに係る株式について値下がりを顕在化させた。Xはこの売却損を雑所得の金額の計算上控除しようとしたが、認められるか。 裁決要旨 取引が不自然かつ不合理、という主張に対して……「確かに…不利益な取引であることは否めないが、…本件売却損の額は、保有している株式が取得価額以下に値下がりしたことによって生じたものを顕在化させただけであって、現実に存在したものであり、意図的に作り出したものではないから、本件取引によって結果として損失が生ずるとしても、これをもって本件取引が経済上不自然、不合理なものということはできない。」 租税の負担を軽減する目的があってもよい。 実質課税の主張に対して……「株式について評価損の計上を認めていないのは、個人の任意にゆだねられる評価損のような内部取引を認めると、所得金額がし意的に算定されるおそれがあるからである」一方で、「現実の取引によって売買損益を発生させこれを確定させることを否定すべきいわれはな」い。本件の場合を「評価損と同視することはできない。」 租税回避行為とも認定しがたい。 考察 本件の取引を通じてXの経済的ポジションは変化していないことに留意。 この裁決の射程が配偶者間取引にも及ぶか?納税者/課税庁それぞれの立場で主張を考えるべし。所税157条(同族会社の行為計算の否認)のような租税回避否認規定、又は所税56条(家族内費用否認⇒4.5.2.)のような個別的否認規定が、適用できるか、考えるべし。納税者の主張する私法上の法律構成等を課税庁・裁判所が否定できるか、考えるべし。(裁決のいう「不自然・不合理」の広狭とは?) 但し取引主体が法人の場合は「売却がなかったものとして取り扱う」(つまり損失の早期実現は駄目)とされている(法基通2-1-23の4:売却及び購入の同時の契約等のある有価証券の取引)。法人が通達に文句を言いたいのであれば、訴訟せよ、ということになろうか。 |
2版§411.02ストラドル課税繰延事件・国税不服審判所平成2年12月18日裁決・裁決事例集40集140頁ne 事実・争点 X(同族会社)が、債券や株式の先物取引においてクロス取引を行ない、昭和63年1月期に損金を計上する一方、反対取引をした建て玉について翌事業年度に計上しようとした。Yは、反対売買の属する事業年度に損金も計上すべきであるとした。 裁決要旨 「損失の発生している一方の建て玉について手仕舞いをしただけでは取引が完結したとはいえず、利益の発生している建て玉についても手仕舞いをして初めて全体の損益が確定するものというべきである。」 考察 売建て玉と買建て玉とを個別の資産と見るか一組と見るか? Yの主張:ストラドル取引は「一般的に経済人の取引としては不自然、不合理」。差金決済日基準の悪用は許さない。(売建て玉と買い建て玉とが個別の資産であることは前提としている) 裁決の構成:売建て玉と買建て玉は一体であり「損益の認識も両者を総合して行なうべき」。 一組のものと見た理由……補填を目的として設定されていること。尤も、一組のものと見ることのできない場合と本件とをどう区別するかについては裁決は論じていない。 [浅妻]無理やり読み取れば、「共々手仕舞いされるべき」か否か、が基準であろうか?fl |
§232.03仙台賃料増額請求事件・最判昭和53年2月24日民集32巻1号43頁百選7版67nd 判旨 所得として課税されるのは、原則として「裁判が確定した時」だが、例外として「係争中であっても…すでに金員を収受し、所得の実現があったと見ることができる状態が生じたとき」[判例は管理支配基準という表現を用いていない。] 上級審で覆った場合「更正の請求により救済を受けることができる」⇒2.3.2.2.b.税通23条2項1号…後発的事由に基づく更正の請求、⇒4.3.3. §211.02利息制限法違反利息事件 考察 賃料増額請求権は形成権と解されており、私法上、貸主の意思表示のみで効果が発生する(相手方に賃料増額の意思表示が到達した時点)。しかし借主が争った場合には、税務上は原則として「裁判が確定した時」まで待つと最高裁は述べた(形成権といえども抽象的な私権の成立だけでは所得の実現というには不充分である)。本件は更にその原則から外れる例外的な事例という位置付けとなる。 管理支配基準自体の基準としての曖昧さ、及び、或る事案において権利確定主義に依拠すべきか管理支配基準に依拠すべきかの振り分けの基準の曖昧さがあるが、それでも、管理支配基準に依拠すべき事態の存在は否定しがたい。ただし、管理支配基準の適用範囲をみだりに拡大してはならないと説かれる。fm なお、現金を受けたら何でもかんでも所得実現と考えてはいけない。前受金として処理すべき場合もある。例えば2020年4月〜2021年3月分の算盤塾の月謝を2020年に全て受領した場合でも2021年1月〜2021年3月分の月謝は2021年度の収入金額として扱わなければならない。金型製作請負代金前払い(令和2年:コロナ支援)を受けても収益確定時期(法人税法22条2項)は前払でなかった従前と同様に役務提供の月末であるとした事例(国税不服審判所令和5年12月21日裁決・裁決事例集133集113頁)の紹介……北村豊「いいとこ取りは許さない」 |
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時価主義(mark-to-market)と実現主義(realization) 課税繰延べにより課税の実質的負担は異なる。 所得・収入は遅く認識してもらい損失・費用は早く認識してもらうこと、が納税者にとって有利。 課税繰延の利益は、繰延期間だけ国から繰延税額分の無利息融資を受けるのと同じである。mo Cf.減価償却⇒5.2.3.3.b. |
- | cash flow |
機械 | 減価 償却 |
所得 | 税額 | 残額 | 加速 償却 |
所得 | 税額 | 残額 | 全額 償却 |
所得 | 税額 | 残額 |
第0年 | -1735 | 1735 | - | - | - | - | - | - | - | - | 1735 | -1735 | -694 | 694 |
第1年 | 1000 | 909 | 826 | 174 | 70 | 930 | 1735 | -735 | -294 | 1294 | 0 | 1000 | 400 | 600 |
第2年 | 1000 | 0 | 909 | 91 | 36 | 964 | 0 | 1000 | 400 | 600 | 0 | 1000 | 400 | 600 |
名目値 | - | - | - | 265 | 106 | 1894 | - | 265 | 106 | 1894 | - | 265 | 106 | 1894 |
第2年換算 | - | - | - | 282 | 113 | 1987 | - | 191 | 77 | 2023 | - | 0 | 0 | 2100 |
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初年度全額償却(支出時全額損金算入ともいう)は、加速度減価償却の究極ともいえる。 「初年度全額償却の場合、税引前の利益率と税引後の利益率はともに300%で等しくなる。租税があってもなくても利益率に変わりがない。すなわち実効税率がゼロである」(ケースブック租税法6版440頁)。 |
年度 | 第0年 | 第1年 | 第2年 | 第3年 |
必要経費算入 | 資産600 経費150 | 資産400 経費200 | 資産200 経費200 | 資産000 経費200 |
取得費算入 | 資産750 経費000 | 資産500 経費250 | 資産250 経費250 | 資産000 経費250 |
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「所得という言葉が所詮、その中にどんな内容を盛り込むのかを我々が決めねばならない道具概念であるなら、$(0, 100, 100, 100)という内容が内包されるように所得概念を定めればよいのではないか。この考え方は正しいが、しかし、そのような意味で定義された所得という言葉が意味しているのは、資産の価値が上昇することが所得なのではなく、上昇した価値が現金化されたときにはじめて所得になるということである。」「このような税はもはや所得税ではなく消費税である。結局、実現概念は消費税の属性を所得税の中に隠してしまうことで、2つの税制を曖昧に妥協させているのである。」(李昌煕「租税政策の分析枠組み(上下)」ジュリスト1220号119頁、1221号145頁(2002)の1220号124頁から抜粋) 或る考え方――実現主義は、執行上仕方なく採られているものではなく、人々の所得の認識の仕方に基づいている。(遅い所得実現が税務上有利なのに人々は遅らせようとしない、など) |
年度 | (1)保持、10%増価 | (2)買換、10%増価 | (3)保持、9%増価 | (4)時価主義、10%増価 |
第1年度 | 税0 | 税400 | 税0 | 税400借金400 |
第2年度 | 税440残660 | 税24残636 | 税436残654 | 返済440税24残636 |
6版§213.04 冒用登記事件・最判昭和48年4月26日民集27巻3号629頁百選7版108dy 事実・争点 X2の姉の夫であるCが、債権者からの追及を免れるため、C所有ではあるが第三者名義となっていた土地建物等をX1・X2名義とし、そしてX1・X2からA・Bに売却したことにしてしまった。X1・X2に譲渡所得が発生したとしてY税務署長は課税処分を行ない、またX2所有の甲土地を差し押さえた。 Yの課税処分は所得の帰属の誤りという瑕疵を帯びている。Xらが不服申立期間を徒過した後でも処分の無効を主張できるかが争われた。 判旨 原則として「課税処分が法定の処分要件を欠く場合には、まず行政上の不服申立てをし、これが容れなかったときにはじめて当該処分の取消しを請求すべきものとされている」「その不服申立てについては法定期間の遵守が要求され」ている。 「課税処分についても、行政上の不服申立手続の経由や出訴期間の遵守を要求しないで、当該処分の効力を争うことのできる例外的な場合」「課税処分についても、当然にこれを無効とすべき場合がありうる」 出訴期間の制限がなくなるような「例外の場合を肯定するについて慎重でなければならない」一方で「一般に、課税処分が課税庁と被課税者との間にのみ存するもので、処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要のないことなどを勘案」 「処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであって、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵は、当該処分を当然無効ならしめる」 検討 所税12条でいう「単なる名義人」ですらない事案といえる。 行政処分の無効主張が認められるためには、行政処分の瑕疵の重大性かつ明白性が要求される、といわれることがある(最三小判昭和36年3月7日民集15巻3号381頁)。本件では、「課税要件の根幹についてのそれ」(=過誤)を要求する部分が瑕疵の重大性を要求する趣旨であると読めるが、他には「不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的な事情」を要求するだけで、明白性への言及がない。昭和36年最判と本件昭和48年最判との関係については百選を参照(課税処分対象者の関与の度合いに着目か?)。なお、学説では明白性を要求することに対する懐疑もある。 cf.ねずみ講事件/天下一家の会事件・最三小判平成16年7月13日集民214号751頁…「例外的な事情」が認められなかった事例。(重大説か重大明白説か) |
東京高判平成28年2月26日判タ1427号133頁…法人名義の取引。 |
牛枝肉問屋貸倒仕入税額控除事件・大阪地判平成25年6月18日税資263号順号12235平成23(行ウ)13号fv(浅妻章如・ジュリスト1495号135頁) 事実・争点 A場(牛肉売買をする市場)に参加資格のないB(委託者・出荷者)は、牛枝肉を売るべく、問屋たるX(原告)に依頼した。Xは問屋として牛枝肉をC(買受人)に売却したが、Cの資金状態が悪く、売掛金の回収が滞ったので、貸倒損失を計上することとなった。そこで消費税法3条9号1項に基づき貸し倒れに係る消費税額の控除(仕入税額控除)を主張した。 国(課税庁側)は、Xは問屋であるにすぎず、牛枝肉売買取引の損益は委託者であるAに帰属するものとして消費税法上扱われるべきであるから、Xに仕入税額控除権はない、と主張した。 Xは、売買代金回収リスクを委託者・出荷者たるAではなくXが負担しているので、Xに仕入税額控除権があると主張した。 判旨 「A場において原告が問屋として行う牛枝肉取引による牛枝肉の譲渡に係る対価を享受するのは原告ではなく委託者(出荷者)であるといえそうであるが……資産の譲渡等を行った者の実質判定はその法的実質によるべきものであるところ,以下の諸点に鑑みれば,牛枝肉取引の法的実質として,法律上資産(牛枝肉)の譲渡等を行ったとみられる者すなわち問屋であるXが,単なる名義人にすぎず,当該資産(牛枝肉)の譲渡等を行ったものではないということはできないものと解するのが相当である。」 「牛枝肉取引に係る買受人に対する牛枝肉の売主はXであって委託者(出荷者)ではなく,買受人に対する売買代金請求権を有するのも委託者(出荷者)ではなくXである。[改行] そして,牛枝肉取引に係る買受人からの売買代金回収のリスクを負うのも委託者(出荷者)ではなく,Xである。すなわち,Xは,買受人から売買代金の回収ができたか否かに関わらず,その卸売がされた日の翌日までに委託者(出荷者)に対し売買仕切金を支払わなければならず……,買受人からの代金回収ができなかった場合(貸倒れとなった場合)に,Xが委託者(出荷者)に対する売買仕切金の支払を免れ,あるいは,委託者(出荷者)から既払の売買仕切金の返還を受けることができる旨の定めは存しない。」 「A場における牛枝肉取引において,制度上およそXが売買代金回収のリスクを負わない仕組みが構築されているものとは言い難い。そして,上記のとおり,Xと本件各買受人との間で締結された約定(本件各約定)においては,Xが負う売買代金回収のリスクを回避する方策として,買受限度額や買受限度相当額の担保の差入れ等の定めを設けていたものであるが,本件各約定においても,上記のとおり同買受限度額を超えてXが牛枝肉を販売することは禁じられていないのであって,Xが本件各買受人に対し,その買受限度額を大幅に超過した牛枝肉の販売を行い,また,買受限度額を超過した販売を行った後その超過額について直ちに精算することを求める等の措置を採らなかったことが本件各債権の回収を不能ならしめた大きな要因といえるとしても,このようにXが売買代金回収のリスクを回避する手段を採らなかったことによる損害は,X自身が現に負担しているものといえる。」 |
(Barclays)バークレイズ銀行事件・東京地判令和4年2月1日令和2(行ウ)271号税資272号順号13665(認容)(伊藤剛志・ジュリスト1577号10-11頁、阿部雪子・ジュリスト1592号147-150頁、望月爾「外国法人の東京支店が発行した社債利子の帰属と実質所得者課税の原則」新・判例解説Watch租税法No.187 (2024.8.9)) 事実 X社(原告。英国法人。バークレイズ・バンク・ピーエルシー)東京支店(T支店)がX社ロンドン本店(L本店)に対して本件社債を発行した。L本店はBCL社(X社の完全子会社。ルクセンブルク法人。BARCLAYS CAPITAL LUXEMBOURG S.A R.L.)に本件社債を譲渡した。BCL社はITS社(日本法人。ICAP東端証券株式会社。ICAP TOTAN SECURITIES CO.LTD)に本件社債を譲渡した。X社は、本件社債に係る本件利子の収益を実質的に享受している者は(ITS社又は←ITS社であるかは争点ではなくなった)L本店であるとして、本件利子の各支払に際し源泉徴収をしなかった。麻布税務署長は、享受者はBCL社であるとして、本件各処分(源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及び各不納付加算税賦課決定処分)をした。 争点 本件利子の実質所得者(所得税法12条)がL本店か(X側主張)、BCL社か(Y側主張)。 判旨 「所得税法12条……の趣旨は,課税物件の法律上(私法上)の帰属につき,その形式と実質が相違している場合には,実質に即して帰属を判断すべきとするものと解され,本件の課税物件である本件利子の実質所得者を判断するに当たっては,本件利子に係る経済的損益の帰属先のほか,本件資金調達取引全体の仕組み,本件資金調達取引に至る経緯あるいは関係者の認識,本件資金調達取引の実施状況など諸般の事情を総合的に考慮すべきものと解される。」 「本件資金調達取引においては、本件利子に係る収益を含む本件社債等に関する経済的な損益につき,法的な権利義務関係を通じて,最終的にロンドン本店に帰属するという仕組みを採用していることのほか,本件社債等に係る損益を全てロンドン本店に帰属させることが本件資金調達取引を実施する不可欠の要素であることは,本件資金調達取引を行う関係者間における一貫した共通認識であって,本件資金調達取引の実際の実施状況もこれに沿う形で行われているものである。かかる本件利子の経済的損益の帰属先も含めた本件資金調達取引の仕組み,本件資金調達取引に至る経緯あるいは関係者の認識,本件資金調達取引の実施状況に鑑みれば,本件利子に係る収益については,実質的にロンドン本店が支配するものであり,ITS社あるいはBCL社が当該収益を支配するものではないというのが,本件資金調達取引の関係者間の真実の法律関係であると認めるのが相当であり,ロンドン本店が本件利子の実質所得者であるというべきである。」 |
6版§213.03株取引包括委任事件・熊本地判昭和57年12月15日訟月29巻6号1202頁 XがXの妻に証券を贈与した訳ではなく、配当金を受け取ったり投資信託を切り替えたり等を妻に任せたにすぎない場合、各証券会社との間の有価証券取引については、その個別的、具体的な取引行為自体は妻が担当していても、Xの包括的な委託に基づくものであって、その取引による株式譲渡益としての所得は全てXに帰属する。 |
東京地判昭和63年5月16日判時1281号87頁百選6版29 cf.6版§212.03二分二乗 民法756条(夫婦財産契約の対抗要件) 夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。 夫婦財産契約をした上で夫の所得の半分を妻の所得であるとして申告することの可否――ある収入が所得税法上誰の所得に属するかは、当該収入に係る権利が発生した段階において、その権利が相手方との関係で誰に帰属するかということによって決定され、夫婦財産契約の登記の有無に関わりなく、夫又は妻の一方が得る所得そのものを原始的に夫及び妻の共有とする夫婦間の合意はその意図した効果を生じない。fw |
大阪地判令和3年4月22日平成31(行ウ)51号税資271号順号13553一部認容、一部却下・大阪高判令和4年7月20日令和3(行コ)64号税資272号順号13735原判決取消、請求一部棄却(確定)(阿部雪子・新・判例解説Watch租税法No.174、首藤重幸・税研222号86-89頁・税研229号102-106頁、佐藤英明・税務事例研究191号27-49頁、住永佳奈・新・判例解説Watch租税法No.183) 父から子に駐車場を使用貸借し、駐車料金(不動産所得)の帰属が父ではなく子であると納税者側が主張した事例(狙いは所得分割というよりも父の死亡時の相続税納税資金確保目的であったらしい)。なお、この使用貸借に関し父から子へのみなし贈与(相税9条)課税がなされるか、定かでない。直資2-189昭和48年11月1日「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」参照。なお、相続税基本通達9-10で無利息貸付の贈与税課税がありうるとされていることと整合していない。 一審は納税者側の主張を認めたが控訴審で逆転した。 一審……「本件各使用貸借契約書の記載どおり,本件各使用貸借契約は成立したと認められる(なお,A又はBは,原告に対し,G等土地又はH土地の各年の固定資産税等の合計額相当額を支払うこととされているが……,それは使用収益に対する対価の意味を持つものとは認められないから,本件各使用貸借契約は,民法上の使用貸借契約の性質を有するものと解される……。)。」 「本件各土地の賃貸借に関する民法上の法律関係を,所得税法12条の規定に照らしてみると,A又はBは,「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者」に該当する」 控訴審……「アスファルト舗装は、路盤にアスファルト混合物を敷き均して、転圧機械により所定の密度が得られるまで締固め、所定の形状に平坦に仕上げるものであり、アスファルト舗装された地面のうち、アスファルト混合物が含まれる表層及び基層部は、土地の構成部分となり、独立の所有権が成立する余地はないというべきである。[改行] したがって、亡Dにおいて、本件各贈与契約のうち本件各舗装部分の所有権を被控訴人E及び同Gに移転させることは原始的に不能であることは明らかであるから、本件各贈与契約のうち前記舗装部分等を対象とする部分はいずれも無効といわなければならない。そうすると、本件各使用貸借契約書の作成により、当事者が当初意図したところの被控訴人E及び同Gが本件各舗装部分を所有することを目的とした本件各使用貸借契約が成立したと解釈する余地はないというべきである。」 「不動産所得である本件各土地の駐車場収入は、本件各土地の使用の対価として受けるべき金銭という法定果実であり(民法88条2項)、駐車場賃貸事業を営む者の役務提供の対価ではないから、所有権者がその果実収取権を第三者に付与しない限り、元来所有権者に帰属すべきものである。[改行] そして、本件で被控訴人E及び同Gが本件各土地の法定果実を収取できる根拠は使用借権(民法593条)であるが、使用借主は、その無償性から、本来使用貸主の承諾を得ない限り、法定果実収取権を有しないところ(同法594条2項)、本件においては、既に本件各土地の所有権に基づき駐車場賃貸事業を営んで賃料収入を取得していた亡Dが、子である被控訴人E及び同Gに本件各土地を使用貸借し、法定果実の収取を承諾して、その事業を前記被控訴人らに承継させたというのであるから、本件各取引は、亡Dが本件各土地の所有権の帰属を変えないまま、何らの対価も得ることなく、そこから生じる法定果実の帰属を子である前記被控訴人らに移転させたものと評価できる。しかも、使用貸借における転貸の承諾、すなわち法定果実収取権の付与は、その無償性から、その承諾を撤回し、将来に向かって付与しないことができると考えられることからすると、そもそも亡Dから使用貸借に基づく法定果実収取権を付与されたことで、当然に実質的にも本件各土地からの収益を享受する者と断ずることはできないというべきである。」 |
東京高判平成30年8月29日税資268号順号13178…夫が賃貸用マンションを妻に使用貸借し、妻が賃貸人となった事例で、夫の口座に賃料が振り込まれている、夫の口座から借入金の返済がなされているなどの事情から、夫が所得税法12条の実質的帰属者であるとされた事例。 |
6版§234.02弁護士夫婦事件・最判平成16年11月2日判時1883号43頁百選7版32fz 事実 弁護士Xが、配偶者であり別の事務所を開設している弁護士Aに対して、Xの事業に関連し1年当たり595万円の対価を支払い、Xの確定申告において必要経費に算入した(Aの側では所得に含められている)。Y税務署長は、所税56条に基づき、Xの必要経費算入を認めなかった。一審・二審ともX敗訴。 判旨 上告棄却。 事業所得稼得者が親族等に対価を支払って「必要経費にそのまま算入することを認めると、納税者間における税負担の不均衡をもたらすおそれがあるなどのため、」親族等が「事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には」「必要経費に算入しないものとした」。 親族等が「別に事業を営む場合であっても、そのことを理由に同条[所得税法56条]の適用を否定することはできず、同条の要件を満たす限りその適用がある」。 「同法56条の上記の立法目的は正当」 「適用の対象を明確にし、簡便な税務処理を可能にするため」 「立法目的との関連で不合理で」はない。 青色申告等所定の要件を満たす場合に限り必要経費算入を認める「57条の定める場合に限って56条の例外を認めていることについては、それが著しく不合理であることが明らかであるとはいえない」。(⇒§111.01大嶋訴訟) 考察 所税56条の合理性自体への疑問、及び所税56条の適用範囲についての疑問が、提起されやすい。所税56条は悪法であるという意識が学説で根強く、また、その適用範囲も狭く解釈されるべき、とする傾向がある。親族等が雇用及びそれに類する関係でXの事業に従属的に従事している場合に56条の適用範囲を限定し、親族等が独立の事業を営んでいる場合や対価支払が恣意的な価格設定になりにくい場合(例えば通常の地代を払うにすぎない場合。後掲特許事務所賃借事件参照)には56条を適用すべきでない、といった考え方である。具体的な解釈論としては56条の「事業に従事したことその他の事由」の広狭が問題となる。 |
6版§213.02歯科医院親子共同経営事件・東京高判平成3年6月6日訟月38巻5号878頁百選7版28gb 事実 父XがT歯科医院を営んでおり、子Sは歯科医師国家試験に合格した後、Xとともに同医院において診療に従事。SはS自身の名義の個人事業開業届けを税務署長に提出。XとSが総収入及び総費用を折半して確定申告。Y税務署長は、SはXの事業専従者であるとし、収入・費用がXに帰属するとした。 判旨 請求棄却。 一般論 「収入が何人の勤労によるものであるかではな」い。「ある事業による収入は、その経営主体であるものに帰したものと解すべき」 事実認定 「Xが昭和35年から20数年来医院を経営してきた」 係争年度における「医院の実態は…Xの長年の医師としての経験に付する信用力の元で経営されていたと見るのが相当であり、したがって、医院の経営に支配的影響力を有しているのはXである」 考察 「収入が何人の所得に属するかは……何人の収入に帰したかで判断される問題である」だけでは循環論法であり悪い答案。しかし「何人の勤労によるかではなく」が示唆を与える。(なお最判昭和37年3月16日税資36号220頁は所税11条の2〔現56条〕につき「長男が所論のように奴隷的存在になるというわけではな」いと論ずる。) 勤労による所得は給与所得であるにすぎない。事業所得を得たというためには、労務の提供ではなく経営者としての実態(責任の負担等)がなければならない、という判断枠組みが本件にも継承されている。 一人の事業の主宰者gaなる基準(或いは事業主基準)が判例上あると言われる。なお、4.5.1.2.実質所得者課税の稼得者課税(勤労してない者に所得は帰属しない)と場面が異なり、ここでは勤労していても所得が帰属しない者がでてくる。 通達でも共同事業を共同事業と認定せずなるべく一人の事業であると認定しようとする傾向が見受けられる。所基通12-2〜所基通12-5参照。尤も所得の分割的帰属を絶対に認めないという程ではなく、共同事業として収入金額・必要経費の分割を認める基準にも留意。一方の資産性所得については所基通12-1及び§213.03株取引包括委任事件参照。 金子宏は、どちらかが主宰者というのが実態に合わず、共同事業と認められる場合もあると論ずる。 明文の任意組合契約が締結されたら、所得分割を課税庁は否認できなかろう。 cf.ドランクドラゴン |
6版§234.01事業上の損失 事業所得貸倒分不当利得返還請求事件・最判昭和53年3月16日訟月24巻4号840頁cq……「事業所得として課税の対象とされた金銭債権が後日貸倒れ等により回収不能となつたときは、その回収不能による損失額を、当該回収不能の事実が発生した年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入すべきものとされ、これによつて納税者は実質的に先の課税について救済を受けることができたのであるから、それとは別に、納税者が徴税者たる国に対し、右回収不能による損失額に対応する徴収ずみの税額につき不当利得として返還を請求することは、法の認めないところであつたと解すべきである。」 6版§232.01雑所得貸倒分不当利得返還請求事件・最判昭和49年3月8日民集28巻2号186頁と比較。 cf.福岡地判平成23年1月20日訟月58巻6号2488頁請求棄却・福岡高判平成23年9月8日訟月58巻6号2471頁控訴棄却(ケ6版308頁)(佐藤英明・ジュリスト1471号124頁)……出資法5条違反の貸金業者が顧客に貸付金元本を返還を求めることができないことの損失が、所得税法51条2項にいう貸倒れ損失に当たらないとされた事例(所税令141条3号も非該当としている。所税152条・令274条とのバランスから一旦所得に計上されたものだけが「経済的成果」に当たるとして、所得計上されようがない元本部分は令141条3号に当たりえないとしている)。[浅妻]令141条3号非該当についてブログ2013.6.8 cf.マリファナ売人についてBenjamin M. Leff, Tax Planning for Marijuana Dealers 法人税法上の貸倒損失⇒5.2.3.4.b. 6版§324.04興銀事件・最判平成16年12月24日民集58巻9号2637頁。 |
東京地判令和4年7月14日令和2(行ウ)195号税資272号順号13732(棄却)(岩武ュ明・ジュリスト1595号148頁、山本直毅・税研234号86頁、住永佳奈・重判令5、172頁)・東京高判令和5年4月19日令和4(行コ)222号棄却・最決令和6年1月17日棄却不受理(未確認)……日本居住者X氏が英領バージン諸島法人G社の全株式を保有している。中古ヨット(本件船舶)購入及び船舶維持管理費用等に充てるため資金(4000万ユーロ弱)をX氏がG社に無担保無利子で貸し付けた(本件各貸付債権)。Xは家族と共に一度だけ本件船舶で航海をし、その後、Gは本件船舶を$2965万(購入価格3500万ユーロに対し2145万7460ユーロ、61.31%)で売却し、平成26年5月1日及び8日、Xに合計$2789万9950を弁済した。Xは為替差益7億1258万8352円を得た。平成26年12月2日、XはG社に対し本件貸付債権の残債権(1989万8924ユーロ。本件貸付残債権)を放棄する旨の通知をした。 本件貸付残債権が所法51条4項「雑所得を生ずべき業務の用に供され……る資産」(業務供用資産)にも同項「雑所得の基因となる資産」(雑所得基因資産)にも該当しないと判断された。 拙tweetによる簡易説明。 1ユーロ=¥100時にX氏がG社に50mユーロ(¥50億)を貸しGが50mユーロで船を購入。 1ユーロ=¥120時にGが船を30mユーロ(¥36億)で売却しGがXに30mユーロ(¥36億)弁済しXは対G残債権20mユーロ放棄($も絡むが省略)。 全体で¥14億の損だが為替益¥6億(30mユーロが¥30億→¥36億)だけ課税され20mユーロの貸倒損失は非控除。 |
6版§242.02「災難」事件・最判昭和36年10月13日民集15巻9号2332頁gz……土地譲渡にあたりなした根抵当権抹消のための300万円の支出が、譲渡収入金額から除かれるか、譲渡経費か、または雑損控除の対象となるか(消極)。 cf.豊田商事事件・名古屋地判昭和63年10月31日判タ705号160頁……詐欺・恐喝。 東日本大震災の特例(省略)ff |
東京地判令和6年1月23日令和4(行ウ)372号棄却(今本啓介2025年4月18日租税判例研究会報告) 事実 令和元年10月の台風19号により原告が住むマンションの一室に関し、り災場所を「地下発電設備」とし、住家等の被害を「非住家浸水」(住家以外の建築物に係る浸水)とする被害を受けた。共用部分の一部として地下1階又は地上1階に設置されていた電気、電話、通信及び給排水等の設備等(「本件被災設備等」)が修繕等の措置を要する状態になった。専有部分の被害記録なし。原告は「損害金額」984万4270円及び「保険金などで補填される金額」0円を基礎として、雑損控除の額を算出し、申告した。 争点2:所得税法72条1項の「損失」の意義 争点3:雑損控除対象損失金額の算定 判旨 争点2「(1)所得税法72条1項の雑損控除は、災害により損失を被った場合には、その原状回復のために相当の出費を要することに伴い、多分に担税力が減殺されることに着目して設けられた制度である。 そして、ある資産が災害により被害を受けた場合において、物理的損害(当該資産そのものに対する物理的な被害から直接生じた損害)については、通常、再取得又は修繕等を行うことにより原状回復が可能であり、これに雑損控除を認めるのは上記制度趣旨にかなうが、再取得又は修繕等による原状回復をおよそ想定することができないものについてまで雑損控除を認めることは、同制度趣旨に反するといわざるを得ない。 以上によれば、所得税法72条1項の「損失」とは、通常、再取得又は修繕等を行うことにより原状回復が可能である物理的損害をいい、物理的な被害から直接生じたものではない損害は「損失」に当たらないと解するのが相当である。」 争点3「(1)雑損控除対象損失金額は、「資産について受けた損失の金額」(所得税法施行令206条3項参照)(A)に、同条1項で定めるやむを得ない支出(災害関連支出。ただし、同項2号ロの住宅家財等の原状回復のための支出については、災害により生じた住宅家財等の同条3項に規定する資産について受けた損失の金額に相当する部分の支出を除く。以下同じ。)の金額(B)を加え、保険金等補填金額(C)を差し引くことにより算定される(所得税法72条、同法施行令206条)。 そして、前記2によれば、「資産について受けた損失の金額」(A)は、被災直前の時価から,災害による物理的損害のみを評価して算定された被災直後の時価を差し引いた金額となるが、通常、このように災害による物理的損害のみを評価して被災直後の時価を算定するのは困難であると思われるところ、「資産について受けた損失の金額」(A)は、資産を災害前の状態に戻すために必要な支出に相当する金額(A’)を超えるものではないと考えられる。そうすると、資産を災害前の状態に戻すために必要な支出に相当する金額(A’)と災害関連支出の金額(B)を明らかにすることができれば、これらの合計額(ただし、重複部分を除く。)は、通常、「資産について受けた損失の金額」(A)と災害関連支出の金額(B)との合計額を超えることはない。 (2)証拠(乙3)及び弁論の全趣旨によれば、本件マンションについて、資産を本件台風前の状態に戻すために必要な支出の金額(A’)又は災害関連支出の金額(B)に該当するものは、下記アないしオのとおりであり、その合計額は、3億2665万8244円となる。他方、本件における保険金等補填金額(C)は、下記カのとおり、3億3333万1868円と認められる。」 |
6版§241.01岩手リゾートホテル事件・東京地判平成10年2月24日判タ1004号142頁確定nk 事実・争点 給与所得稼得者Xが岩手観光からリゾートホテル(本件建物)の一室を購入(目的は節税と投機)し、岩手観光に貸し付け、賃料(不動産所得)を得る(所謂sale & lease back)。Xは、不動産所得に係る費用(主に減価償却費)のため損失が生じたとして、損益通算を主張。Y税務署長は、本件建物は所得税法69条2項・62条1項の「生活に通常必要でない資産」に当たるとし、損益通算を否認。 判旨 1 法69条2項の趣旨 …「消費」であるから。 Xは「保養」目的で本件建物を所有していたと認定。 (二)「保養」が「主」たる所有目的であったか? 賃料収入は「本件建物の利用による利益の享受と比較して副次的なものとみざるを得ず」 「主として保養の用に供する目的で所有していた」と認定。 (三) Xは「節税効果に着目していた」。しかし節税効果は「副次的経済効果にすぎない」。「生活に通常必要でない不動産に該当するかどうかは、客観的にみて当該不動産の本来の使用、収益の目的が何かによって判断すべき」 「節税効果…を主要な判断要素…とすることは本末転倒」 補足 所税令178条1項2号の生活に通常必要でない不動産に該当するかは、客観的に当該不動産の本来の使用、収益の目的が何かによって判断すべきであり、節税効果が得られるかどうかを主要な判断要素とすることは本末転倒であるとした別の裁判例として、本件と同じ物件につき同判断をした仙台高判平成13年4月24日税資250号順号8884がある(原審盛岡地判平成11年12月10日税資245号662頁は逆の結論であったが)。 cf.渕圭吾「法人格内部の『取引』に関する一考察」ジュリスト1423号106頁……本件は非課税所得に対応する費用の控除を認めないという筋でも説明できる。理想論としては、課税所得に対応する控除可能な部分と非課税所得に対応する控除不可能な部分との按分ということも考えられる。 |
6版§222.03サラリーマン・マイカー訴訟・最判平成2年3月23日判時1354号59頁百選5版49gn 一審神戸地判昭和61年9月24日判時1213号34頁が所税9条2項1号により原告の請求を棄却した。 控訴審以降は結論同じながら69・62条に依拠したので岩手リゾートホテル事件と同じ。 所税9条2項1号は損益通算の話ではないが、生活に通常必要な動産(9条1項9号)に関する譲渡益が非課税(些事不追求)であることとの対称で、生活に通常必要な動産に関する譲渡損(9条2項1号)も控除できない。 所税令25条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲) 法第9条第1項第9号(非課税所得)に規定する政令で定める資産は、生活に通常必要な動産のうち、次に掲げるもの(一個又は一組の価額が30万円を超えるものに限る。)以外のものとする。 一 貴石、半貴石、貴金属、真珠及びこれらの製品、べつこう製品、さんご製品、こはく製品、ぞうげ製品並びに七宝製品 二 書画、こつとう及び美術工芸品 |
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所税140条1項:青色申告者の純損失の繰戻還付。 (法税80条⇒5.2.4.) 所税70条1項:純損失の繰越控除(2項:白色申告者限定) (法税57条⇒6版§325.05) |
6版§242.01事実婚「配偶者控除」訴訟・最判平成9年9月9日訟月44巻6号1009頁百選7版50cr 判旨 「『配偶者』は、納税義務者と法律上の婚姻関係にある者に限られる」 最判平成3年10月17日訟月38巻5号911頁eh…扶養親族(所税84条、2条1項34号)に関して、対象となる親族は民法上の親族に限られる。 借用概念⇒3.1.2.2. 民法の講義で、内縁関係は概ね法律婚と同様に扱われるようになっている、と教わるが、相続と税制に関しては同様の扱いでない。 cf.税務行政だけ(社会保障法は内縁の夫婦を夫婦扱いすることが多い)ge、法的安定性が内縁の配偶者を排除させるほど重要か、一考の余地はある。 cf.夫婦別姓(最大決令和3年6月23日集民266号1頁mw(駒村圭吾・ジュリスト1565号91-96頁、窪田充見・ジュリスト1565号97-102頁)……民法750条、戸籍法74条1号は憲法24条に違反しない。補足意見、意見、反対意見あり)・同性愛者を救済しないことの立法論上の是非?リバタリアンなら寧ろ婚姻制度撤廃? |
6版§250.01愛知交通事件・最判昭和45年12月24日民集24巻13号2243頁百選7版114ei……自動確定。 「源泉徴収の対象となるべき所得の支払がなされるときは、支払者は、法令の定めるところに従つて所得税を徴収して国に納付する義務……を負うのであるが、この納税義務は右の所得の支払の時成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものとされている(国税通則法一五条……)。すなわち、源泉徴収による所得税については、申告納税方式による場合の納税者の税額の申告やこれを補正するための税務署長等の処分(更正、決定)、賦課課税方式による場合の税務署長等の処分(賦課決定)なくして、その税額が法令の定めるところに従つて当然に、いわば自働的に確定するものとされるのである。」 「源泉徴収による所得税についての納税の告知は、課税処分ではなく徴収処分であつて、支払者の納税義務の存否・範囲は右処分の前提問題たるにすぎないから、支払者においてこれに対する不服申立てをせず、または不服申立てをしてそれが排斥されたとしても、受給者の源泉納税義務の存否・範囲にはいかなる影響も及ぼしうるものではない。したがつて、受給者は、源泉徴収による所得税を徴収されまたは期限後に納付した支払者から、その税額に相当する金額の支払を請求されたときは、自己において源泉納税義務を負わないことまたはその義務の範囲を争つて、支払者の請求の全部または一部を拒むことができるものと解される(支払者が右の徴収または納付の時以後において受給者に支払うべき金額から右税額相当額を控除したときは、その全部または一部につき源泉納税義務のないことを主張する受給者は、支払者において法律上許容されえない控除をなし、その残額のみを支払つたのは債務の一部不履行であるとして、当該控除額に相当する債務の履行を請求することができる)。」 cf.株式会社月ヶ瀬事件・最大判昭和37年2月28日刑集16巻2号212頁百選7版113fy……源泉徴収制度は憲法29条(財産権保障)、14条(平等原則)、18条(奴隷的拘束禁止)に違反しない。 日光貿易事件・最判平成4年2月18日民集46巻2号77頁(給与支払者の源泉徴収の誤り)⇒2.3.2.2.a. |
6版§250.02支払いの無効と源泉徴収義務 クラカグループ事件第二次上告審判決・最判平成30年9月25日民集72巻4号317頁百選7版116hl(⇒3.1.2.4.私法取引と租税法)(橋本彩・重判平30年195頁、碓井光明・ジュリスト1533号128頁) 第一次上告審・最判平成27年10月8日判タ1419号72頁(占部裕典・重判平27年203頁)は、権利能力のない社団の理事長及び専務理事の地位にあった者が当該社団からの借入金債務の免除を受けることにより得た利益が、所税28条1項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与に当たる、とした。 差戻後、債務免除の錯誤無効(現民法下で錯誤は取消事由)主張により源泉徴収納付義務を免れるかが争点となった。 判旨 「給与所得に係る源泉所得税の納付義務を成立させる支払の原因となる行為が無効であり,その行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたときは,税務署長は,その後に当該支払の存在を前提として納税の告知をすることはできないものと解される。そして,当該行為が錯誤により無効であることについて,一定の期間内に限り錯誤無効の主張をすることができる旨を定める法令の規定はなく,また,法定納期限の経過により源泉所得税の納付義務が確定するものでもない。したがって,給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分について,法定納期限が経過したという一事をもって,当該行為の錯誤無効を主張してその適否を争うことが許されないとする理由はないというべきである。 5 以上と異なる見解の下に,上告人が法定納期限の経過後に本件債務免除の錯誤無効を主張することは許されないとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があるものといわざるを得ない。しかしながら,上告人は,本件債務免除が錯誤により無効である旨の主張をするものの,……納税告知処分が行われた時点までに,本件債務免除により生じた経済的成果がその無効であることに基因して失われた旨の主張をしておらず,したがって,上告人の主張をもってしては,本件各部分が違法であるということはできない。そうすると,本件各部分が適法であるとした原審の判断は,結論において是認することができる。」 なお、申告納税に関する大谷和子事件・最判平成2年5月11日訟月37巻6号1080頁は、譲渡契約による譲渡収入は、契約の合意解除後も消滅しない、としたが、申告納期限後の錯誤無効の主張の適否については明記してない。 名古屋地判平成29年9月21日税資267号順号13064平成27(行ウ)125号(佐藤英明・ジュリスト1540号107頁)……退職金返還時の源泉所得税還付請求の時効の起算点。 |
最判平成23年1月14日民集65巻1号1頁百選7版118in(古田孝夫・ジュリスト1432号100頁。菱田雄郷&吉村政穂・2012年6月8日判民公判合同判例研究会報告。渕圭吾・判例時報2136号170頁;渕圭吾「破産管財人の源泉徴収義務と源泉徴収税債権の優先順位――アメリカ法を素材とした一考察」法律時報84巻3号78-87頁) 破産会社の管財人が元労働者に退職金(前記(3)の類型)を支払う際に源泉徴収義務が管財人には無いと判断した。 ([浅妻]破産業界の慣例に最高裁が妥協したもので、租税法学の理屈からするとかなり奇異な判断に見えるが、最高裁が言ったのだから仕方ない) 注 管財人が管財人自身に支払う管財人報酬(前記(4)の類型)については源泉徴収義務がある。 |
最判平成23年3月22日民集65巻2号735頁百選7版117ld(鐘ヶ江洋祐・ジュリスト1424号88頁) 給与等の支払をする者は、その支払を命ずる判決に基づく強制執行によりその回収を受ける場合であっても、所税183条1項所定の源泉徴収義務を負う。 (破産の場合の平成23年1月14日判決、個別執行の場合の平成23年3月22日判決で、結論が違うことに留意。) |
東京地判平成28年5月19日税資266号順号12856平成26(行ウ)114号百選7版73(控訴審東京高判平成28年12月1日税資266号順号12942平成28(行コ)219号で確定)(類例・東京地判平成23年3月4日税資261号順号11635平成21(行ウ)121号百選6版68)……非居住者が国内不動産を譲渡する際の買主の源泉徴収義務。 |
ところが、法人課税を受けた方が有利になる場面もある。 |
(1)課税繰延cg (2)所得分割 (3)給与所得控除 |
(確認問題:この場合の法人・個人の二重課税の問題は?) |
6版§311.02 『マーリーズ・レビュー』(Mirrlees Review)or金子宏論文「法人税と所得税の統合」cjcm クラシカル・システム(classical system)(正統方式):法人・株主の二重課税を放置。 組合方式(partnership method):法人税をなくし全て株主段階に所得を税務上帰属させて課税。あくまで税務上であり実際に分配するか否かは無関係。現在でも、組合など法人税がかからない法形式がとられた場合は、正に組合員等の構成員に対して所得税が課されるのみ。執行が著しく困難。 未実現キャピタルゲイン課税方式:内部留保による株価上昇分につき株主段階で課税する。株価が内部留保のみを反映している訳ではないという欠点がある。 支払配当損金算入方式(dividend-paid deduction method):法人が配当を支払った時に、法人の所得計算において控除を認める。現在の利子の扱いと同じ。内部留保部分については統合がなされない。 二重税率方式(支払配当軽課方式):法人の所得のうち配当に充てた部分の法人税率を低くする。 配当所得控除方式(dividend-received deduction method):株主が配当を受け取っても、株主段階で(全部又は一部を)所得に含めない。個人所得課税の累進税制が配当には適用されなくなってしまう。 配当税額控除方式(dividend-received credit method):株主が受け取った配当額に一定の率を掛け合わせた額を、株主の所得税額から控除する。インピュテーション方式(法人税株主帰属方式)は更に精緻な方法で、法人税額を個人株主の所得税額から控除する。 6版§311.03 日本の制度 税制調査会「税制の抜本的見直しについての答申」(1986.10) 配当軽課(法人段階・上の(5))+配当税額控除(株主段階・上の(7)) ↓ 配当税額控除(株主段階・上の(7))へ。所税92条:配当控除。 (但し申告不要制度の場合、配当税額控除はない。租特8条の5) |
光楽園旅館事件・札幌高判昭和51年1月13日訟月22巻3号756頁 事実・争点 X社はKらの同族会社である。X社が有する本件建物とKが有する本件土地を一括してTに譲渡した際、代金はKが全て受領した。X社は翌事業年度に本件建物譲渡所得のみ計上したが、本件建物及び借地権等の譲渡によりXに443万円の所得が発生したはずであるとしてYが更正処分。そのうち、18万円余の雑収入の認定について、Yは、本件建物及び借地権の譲渡代金計544万円をX社がKに無償で貸し付けたのであるから通常取得すべき利息相当分を益金計上すべきである、と主張した。 判旨 Xの請求棄却 法人税法132条の合理性についての説明。 借地権の対価相当額を益金の額に加算した処分は適法。 「Xが受領すべきものである」544万円をXは「Kに無償で貸し付けたものというべき」。bn |
§1版330.01明治物産株式会社事件・最判昭和33年5月29日民集12巻8号1254頁百選6版60nn 特殊な合併(学部・法科大学院では組織再編成を扱わない)の是非が争点であるので事実関係や争点は省略。 裁判例において「不当に減少」要件の解釈方法は概ね2通りの傾向がある。 一審判旨 「非同族会社には通常なし得ないような行為計算たとえば株主が社員に会社の資産を廉価で売却」がこれに当たる。他方「吸収合併前に被合併会社の全株式を買収することは必ずしも同族会社にして始めてなしうるような行為すなわち、純経済上より見て不合理な行為ではな」いから当時の法人税法28条(現在の132条に相当)の対象たり得ない。課税庁の処分は違法である。 二審判旨 「純経済人の選ぶ行為形態として不合理なもの」が否認の対象となる(結論は一審と同じであり、最高裁は何も述べてない)。oh どちらで考えても結論に差が出ることは滅多にない(稀ではあるが差が出た例として§5版340.02(6版513頁)南日本高圧コンクリート株式会社事件・福岡高宮崎支判昭和55年9月29日行集31巻9号1982頁bp……一審は非同族会社でも採用するであろう最低販売価額を認定できないとして法税132条不適用、二審は純経済人の行為として不合理、不自然であるとして法税132条適用)が、学説は、二審の判示の方を支持する傾向が強い。 純経済人という表現は、複数の法人等をグループ一体と見て合理的か否かではなく、法人単体の利益追求の観点から合理的か否かを問うために用いられている。例えば赤字会社救済のため黒字会社が価格を安くして商品を提供することはグループ一体と見て合理的といえるかもしれないが、当該黒字会社単体の利益追求の観点からは不合理である。 また、arm's length transaction(独立当事者間取引)から逸脱する取引は「不当に減少」要件を満たすであろうとも言われている。(金子宏『租税法』24版542頁) |
6版§340.02ユニバーサルミュージック事件・最判令和4年4月21日民集76巻4号480頁百選7版63bm……日本法人からアメリカ法人に配当を支払う関係から、組織再編をして、日本法人からアメリカ法人へ利子を支払う関係に変更した事例(debt pushdown…利子負担を子会社に負担させる関係)。最高裁は以下のように述べてarm's length standardから逸脱していない利子支払による日本法人の課税所得減少が法人税法132条1項の「不当に減少」要件を満たさないと判断された。だからこそ8.4.5.租特66条の5の2の過大支払利子税制で立法的に対処せざるをえない。 判旨 「同族会社等による金銭の借入れが上記の経済的 合理性を欠くものか否かについては、当該借入れの目的や融資条件等の諸事情を総合的に考慮して判断すべきものであるところ、本件借入れのように、ある企業グループにおける組織再編成に係る一連の取引の一環として、当該企業グループに属する同族会社等が当該企業グループに属する他の会社等から金銭の借入れを行った場合において、当該一連の取引全体が経済的合理性を欠くときは、当該借入れは、上記諸事情のうち、その目的、すなわち当該借入れによって資金需要が満たされることで達せられる目的において不合理と評価されることとなる。そして、当該一連の取引全体が経済的合理性を欠くものか否かの検討に当たっては、@当該一連の取引が、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、A税負担の減少以外にそのような組織再編成を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮するのが相当である。」 「本件借入れは無担保で行われ、被上告人は本件借入れが一因となって最終的に貸借対照表上は債務超過となっていることがうかがわれるなど、本件借入れには独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なる点もある。[改行] しかしながら、本件借入れは、本件各内国法人の株式の購入代金及びその関連費用にのみ使用される約定の下に行われ、実際に、被上告人は、株式を取得して本件各内国法人を自社の支配下に置いたものであり、借入金額が使途との関係で不当に高額であるなどの事情もうかがわれない。また、本件借入れの約定のうち利息及び返済期間については、被上告人の予想される利益に基づいて決定されており、現に、本件借入れに係る利息の支払が困難になったなどの事情はうかがわれない。[改行] そうすると、上記の点があることをもって、本件借入れが不自然、不合理なものとまではいい難い。」 日本IBM事件・東京地判平成26年5月9日平23(行ウ)407(請求認容)・東京高判平成27年3月25日判時2267号24頁(請求認容)・最決平成28年2月18日(上告不受理)boも法人税法132条1項の適用を否定した事例。 図1 米国 図2 米国 ┏━┓ ┏━┓ ┃A┃←┐外税控除 ┃A┃本件融資の返済 本 本B株┗┳┛ |利用不可 ┗┳┛↑(利子のみ源泉税) 件 件| ┃ | 日本┏┻┓| 融+株|┏━┻━┓|配当 本 ┃X┃ 資 式↓┃ ┃| 件B株┗┳┛みなし配当 購┏┻┓ ┏┻┓日本 各 |┏┻┓↑(源泉税還付) 入┃X┃ ┃B┃源泉税 譲 ↓┃B┃| ┗━┛ ┗━┛ 渡 ┗━┛ 控訴審判旨 「法人税法132条1項は,否認の要件として,同族会社の「行為又は計算で,これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」ことを求めているにとどまり,その文理上,否認対象となる同族会社の行為又は計算が,租税回避目的でされたことを要求してはいない。しかも,法人税法における同族会社の行為計算の否認規定については,昭和25年法律第72号による改正前の法人税法34条1項では,「同族会社の行為又は計算で法人税を免れる目的があると認められるものがある場合においては,その行為又は計算にかかわらず,政府の認めるところにより,課税標準を計算することができる。」と規定されていたところ,同改正により,「同族会社の行為又は計算で,これを容認した場合においては法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは,その行為又は計算にかかわらず,政府の認めるところにより,当該法人の課税標準又は欠損金額を計算することができる。」(同改正後の法人税法31条の2)と改められ,これとほぼ同内容の規定が,昭和40年法律第34号による全部改正後の法人税法132条1項にも引き継がれたのであって,法人税を免れる目的があることを適用の要件として文言上明示的に掲げていた点が改められたという改正の経緯もある。そうすると,法人税法132条1項の「不当」か否かを判断する上で,同族会社の行為又は計算の目的ないし意図も考慮される場合があることを否定する理由はないものの,他方で,被控訴人が主張するように,当該行為又は計算が経済的合理性を欠くというためには,租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められること,すなわち,専ら租税回避目的と認められることを常に要求し,当該目的がなければ同項の適用対象とならないと解することは,同項の文理だけでなく上記の改正の経緯にも合致しない。」 |
6版§340.03株式会社塚本商店事件・最判昭和48年12月14日訟月20巻6号146頁bt 事実 X社が所有する建物、及び取締役のAが所有する土地を一括でBに売却。Aが5224万円、Xが2238万円受け取った(7対3。Bにとって建物は無価値)。 Y税務署長は、借地権割合が40%である(2949万円)とし、建物の対価(90万円)も含まれるとして、Xは3039万円受け取るべきであったとする第一次更正処分を行う。差額800万円がXからAに対する役員賞与(当時。今なら役員給与)にあたるとし、Xに源泉徴収の納税告知処分(以下本件徴収処分)を行う。 第一次更正処分が理由附記不備であるので第二次更正処分で第一次を取り消し、第一次と同内容の第三次更正処分を行う。 違法な第一次更正処分を前提とする本件徴収処分もまた違法であるとXが主張した。 判旨 上告棄却(請求棄却) 「法人税法132条に基づく同族会社等の行為計算の否認は、当該法人税の関係においてのみ、否認された行為計算に代えて課税庁の適正と認めるところに従い課税を行なうというものであつて、もとより現実になされた行為計算そのものに実体的変動を生ぜしめるものではない。したがつて、本件法人税に関する原判示第一次更正処分においてXの行為計算が否認され、その否認額がXからAに対する役員賞与としてXの益金に算入されたとしても、Aに対する所得税の関係にはなんら影響を及ぼすものではなく、同人の所得税に関して行なわれた原判示徴収処分は、右第一次更正処分とはかかわりなく、所得税法によつて法律上当然に確定した源泉徴収義務についてその履行を求めるものであると解すべきである。それゆえ、右更正処分の取消しによつて、所得税法上の源泉徴収義務の範囲が左右されるいわれはなく、右取消しは本件徴収処分の効力に影響しない。」 |
大阪地判令和6年3月13日令和4(行ウ)60号判タ1524号124頁金判1694号18頁一部認容、一部棄却(控訴)(柴由花「個人と同族会社との間の賃貸借契約について行為計算否認規定の適用が否定された事例」新・判例解説Watch租税法No.192 (2025.3.7))(袴田裕二2025年3月7日租税判例研究会報告) 争点 本件賃貸借契約に係る所得税法157条1項適用の可否及び効果 判旨 「所得税法157条1項は,同項各号に掲げる法人である同族会社等においては、これを支配する株主等の所得税の負担を不当に減少させるような行為又は計算が行われやすいことに鑑み、税負担の公平を維持するため、株主等の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、これを正常な行為又は計算に引き直して当該株主等に係る所得税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものである。このような規定の趣旨、内容からすれば、同項にいう「これを容認した場合にはその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同族会社等の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、当該株主等の所得税の負担を減少させる結果となるものをいうと解するのが相当である(以上につき、[所謂パチンコ平和事件]最高裁平成16年7月20日第三小法廷判決・裁判集民事214号1071頁、法人税法132条1項に関する[所謂ユニバーサルミュージック事件]最高裁令和4年4月21日第一小法廷判決・民集76巻4号480頁参照)。 本件のような株主等を賃貸人とし同族会社等を賃借人とする不動産の賃貸借契約が上記の経済的合理性を欠くものか否かについては、当該賃貸借契約の目的、賃貸料の金額や契約の諸条件を含む当該賃貸借契約の内容等の諸事情を総合的に考慮して判断するのが相当である。そして、当該賃貸借契約が経済的合理性を欠くものか否かの検討に当たっては、@当該賃貸借契約が、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したり、その賃貸料が適正な賃貸料に比して著しく低額なものにされたりしているなど、不自然なものであるかどうか、A税負担の減少以外に当該賃貸借契約を締結することの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮するのが相当である。」 「本件賃貸借契約は、一般的には同一のサブリース業者に一括して転貸方式で賃貸することが困難な種別の異なる多数の不動産を一括して転貸方式により賃貸するものであり、また、空室リスク等のみならず、契約期間中に高額の収益物件である複数の対象不動産の売却が想定される状況にあったにもかかわらず、対象不動産が売却により減少しても当該契約期間中の賃料の額が減額されないことによる負担(売却リスク)を、賃借人であるA社に負わせるものとなっている。 以上のような本件賃貸借契約の内容や特殊性に照らせば、本件賃貸借契約については、その適正な賃貸料を算定するに当たり、管理委託方式と実質的に同視することはできないのであって、本件賃貸借契約の適正な賃貸料を算定するに当たり、管理委託方式を基に算定する方法を採ることについては、その基礎的要件が欠けるというべきである。したがって、上記の被告の主張は、その前提を誤っており、採用することができない。 そうすると、本件適正賃貸料をもって本件賃貸借契約の適正な賃貸料と認めることはできず、本件においては、証拠上、本件賃貸借契約の適正な賃貸料の金額は不明であるというほかない。」 「本件賃貸料が適正な賃貸料に比して著しく低額なものにされているかを検討する。 本件賃貸料は、前記認定事実イのとおり、原告の計算によれば、平成24年分から平成29年分までの本件賃貸料の実際のA社転貸料収入に係る売上高に占める割合は、約53.8%から約65.7%までの間で推移しており、被告の計算による本件各年分(平成27年分から平成29年分まで)の本件賃貸料及びA社転貸料収入の金額を前提とすれば、平成27年分から平成29年分までの本件賃貸料のA社転貸料収入に占める割合は、約54.7%から約59.8%までの間で推移している。この割合のみからすれば、本件賃貸料は適正な賃貸料に比して低額なものにされている可能性があるとはいえる(乙60、61等参照)。 しかし、前記前提事実(2)並びに前記認定事実ア及びイによれば、本件賃貸借契約は、@転貸方式(マスターリース契約)であって空室リスク等を借主(A社)が負担するものであることのほか、A一般的には同一のサブリース業者に一括して転貸方式で賃貸することが困難な、種別(マンション(1棟又は区分)、店舗、駐車場、病院又は事務所)や所在地域の異なる多数の不動産(エンド・ユーザーが数百にも及ぶことがあった。)を一括してA社に賃貸するものであること、B契約期間中に高額の収益物件である複数の対象不動産の売却が想定される状況にあったにもかかわらず、対象不動産の一部が売却されて対象不動産が減少しても、当該契約期間中の賃料は減額されないことによる負担(売却リスク)を借主(A社)に負わせるものになっていることといった特殊性を有しており、これらの@からBまでの事情はいずれも本件賃貸借契約における賃貸料の減額要因となり得るものである。 また、前記アのとおり、本件賃貸借契約の適正な賃貸料の金額は不明であり、本件賃貸料と比較すべき適正な賃貸料が判然としないから、そもそも適正な賃貸料と比較して本件賃貸料が低額であるといえるかさえも判断することができない。 さらに、前記認定事実エの原告の不動産所得の金額をみると、前記認定事実ア(イ)のとおり本件賃貸借契約が締結されるようになったのは平成24年7月であるところ、それ以降の不動産所得の金額は減少しているが、同年以降本件賃貸借契約の対象不動産自体が順次売却されて減少していることから、単純に金額を比較することができない上、平成26年分には前年分の平成25年分の不動産所得の金額を上回るなど、一貫して金額が減少しているわけではなく、また、平成24年分から平成29年分までを通じて、不動産所得の金額が極めて低額になるとか、マイナスになるなどしておらず、本件賃貸借契約締結後も原告において数百万円ないし数千万円といった相応の賃貸料収入を得ていることが認められるのであって、原告の不動産所得の金額の推移からみても、本件賃貸料が適正な賃貸料と比較して著しく低額であるとはいえない。 以上の事情からすれば、本件賃貸料が適正な賃貸料に比して著しく低額なものにされていると断ずることはできない。」 「税負担の減少以外の本件賃貸借契約を締結することの合理的な理由となる事業目的その他の事由の有無(前記(1)A参照)について 前記認定事実ア(イ)及び(ウ)によれば、本件賃貸借契約の締結に至る経緯には、原告が、自己の所有する不動産を賃貸する不動産賃貸業が拡大してきたこと、そのために原告個人の不動産賃貸業に係る資金管理や収支管理、税務申告等の事務が煩雑になってきたこと、自らの年齢が高齢になってきたこと等から、原告個人で営んでいた不動産賃貸業を、法人であるA社に移転するという事業目的があったものと認められる。そして、実際にも、本件賃貸借契約の締結により、原告個人の不動産賃貸業については、賃貸料収入が安定するとともに、事務が簡素化されるなどしたことが認められ、また、原告は、原告個人が営んでいた不動産賃貸業を整理するとともに、A社に事業を移転するため、平成24年以降、順次自己の所有する不動産をA社又は第三者に売却したり、新たに賃貸用不動産を取得する場合には、基本的には、A社がこれを取得したりしていることが認められる。そうすると、本件賃貸借契約は、原告が、上記のような不動産賃貸業のA社への移転という事業目的を実現するために、平成24年以降、自己の所有する不動産をA社又は第三者に売却することと並行して、本件不動産を一括してA社に対して転貸方式により賃貸したものと認められ、このような本件賃貸借契約の目的は合理的なものといえる。 なお、原告は、前記認定事実ア(イ)のとおり、当時の顧問税理士が、原告(個人)とA社(法人)とを一体的に考えれば、不動産所得の総額は変わらず、個人又は法人のどちらかが税を負担するかということであって「行って来い」の関係であるから、税務署も理解してくれるだろうし、問題ないだろうという意見を述べたことを踏まえ、本件賃貸借契約を締結するに至っており、本件賃貸借契約の締結の目的として原告の所得税の負担の減少のためという目的があったとしても、それが主たる目的であるとは認められない。 以上によれば、税負担の減少以外に本件賃貸借契約を締結することの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するといえる。」 |
東京地判令和5年2月17日令和元(行ウ)539号判タ1514号144頁(一部認容)(藤間大順・ジュリスト1597号重判令5年176頁、中村信行・ジュリスト2025年1月号掲載見込)……原告(X法人)は、整備法42条2項の特例民法法人(収益事業だけ課税)から平成23年2月3日に一般財団法人(非営利型)(全所得課税)へ移行した。Xが移行前に取得した有価証券と減価償却資産について、取得時価額を取得価額として扱うべきか移行時価額を取得価額として扱うべきかが争われた。判決は取得時価額説を採用し概ね請求を認容した。損失の二重計上の可能性を指摘する被告(国)の主張にも一分の理はある(租税判例研究会では評者は自身の見解は述べなかったがフロアからは国を支持する意見も出た)し判決も一定の理解を示しているが、法人税法施行令119条の2第1項1号の「取得」の文理解釈が決め手となったと読解できようか。 |
6版§312.04 法人成り⇒4.5.2.・所税56条(家族内必要経費不算入)・57条(専従者控除)参照 |
6版§312.02ペット葬祭業事件・最判平成20年9月12日判時2022号11頁百選7版51no 令2宗教法人の税務 |
§5版312.03熊本ねずみ講税金訴訟事件・福岡高判平成2年7月18日訟月37巻6号1092頁百選5版22np(マルチの説明) 法人税法3条「人格のない社団等は、法人とみな」す。 同2条8号「人格のない社団等 法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものをいう。」 事実・争点 A(後に破産し、破産管財人Xが原告となる)が営んでいたネズミ講事業を天下一家の会に贈与したとして、Y税務署長がAに対し所税59条のみなし譲渡課税を試みる。会は社団に当たるか? 判旨 「人格なき社団」概念は租税法独自か?──「権利能力なき社団」民事実体法上の概念を借用。 なぜ独自に解釈しないのか?──「法的安定性」「民事実体法と一義的に解釈されるのが相当」 社団の成立要件は?──「個人の意思と離れた別個独立の団体意思の存在」「事業活動等に要する団体固有の資産が個人と峻別されて存在する」 本件への当てはめ──「実態は個人事業であるのにこれを仮装し、人格なき社団という形式に名を借りた同体異名のものであると断ずるのが相当」→人格のない社団に当たらない。 民事実体法上の社団の成立4要件 最判昭和39年10月15日民集18巻8号1671頁 [1]団体としての組織 [2]多数決の原則 [3]構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続 [4]その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定している。ah |
6版§312.03マンション管理組合事件・東京地判平成30年3月13日訟月65巻8号1228頁平成28(行ウ)411号・東京高判平成30年10月31日平成30(行コ)104号(岸田貞夫・ジュリスト1541号119頁)…「人格のない社団等」に該当するとした事例。 一審判旨 「法人税法上の人格のない社団等とは,法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものをいうところ(同法2条8号),このうち法人でない社団は,民事実体法における権利能力のない社団と同義と解されるから,ある団体が人格のない社団等に該当するというためには,@団体としての組織を備え(要件1),A多数決の原則が行われ(要件2),B構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し(要件3),Cその組織によって代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定している(要件4)ものでなければならないと解される([最判昭和39年10月15日民集18巻8号1671頁]参照)。」 「@前提事実及び証拠…によれば,原告は,本件マンション並びにその敷地及び附属施設の管理等を行うことを目的として,本件区分所有者全員によって構成される団体であり,本件マンション内に事務所が置かれているほか,本件規約所定の議決事項について議事を行うために総会が開催され(本件規約46条〜56条),役員として4名の理事及び1名の監事が総会により選任され(本件規約36条1項),理事の互選で選任される理事長は原告を代表し,原告の業務を執行するものとされ(本件規約36条2項,41条),また,理事をもって理事会が構成されて所定の業務を行うものとされている(本件規約57条〜61条)ことが認められ,これによれば,原告は団体としての組織を備えているものと認められる。」 「A組合員は住戸1戸につき1議決権を有し,総会の議事は出席組合員の議決権の過半数で決するなどとされており(本件規約50条,53条),原告においては多数決の原則が行われているものと認められる。」 「B本件マンションの区分所有権の譲渡等によって本件区分所有者につき変更があった場合でも,新たに区分所有者となった者は当然に組合員となるものとされており(本件規約31条),構成員の変更にもかかわらず原告という団体そのものが存続するものと認められる。」 「C上記のとおり,原告の理事長が原告を代表し,原告の業務を執行するものとされている上,本件規約において,総会の開催時期,招集手続や議決に関する事項が定められ(本件規約46条〜56条),共益費(本件マンションの敷地及び共用部分等の管理に要する費用)の負担や会計に関する定めも置かれている(本件規約25条〜30条,62条〜68条)ことなどから,代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものと認められる。」 |
6版§321.02企業会計との関係 大蔵省企業会計審議会中間報告書「税法と企業会計との調整に関する意見書」hq 税法、商法、企業会計原則は、それぞれ固有の目的と機能を持っている。 ◆企業会計…株主・債権者等の利害調整機能と情報提供機能 ◆商法会計…株主及び会社債権者の利益保護のための利害調整及び情報提供 (証取法会計…投資者保護のための情報提供…なるべく利益を大きく。粉飾決算の誘因) ◆税務会計…納税者間の公平(なるべく所得を小さく。逆粉飾決算の誘因)、税務執行の適正・確実性 |
5版§321.03(6版390頁)大竹貿易事件・最判平成5年11月25日民集47巻9号5278頁百選7版65hr 事実・争点 納税者は為替取組日基準を、課税庁は船積日基準を主張 判旨 「現に法人のした利益計算が法人税の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り」、課税所得の計算上もこれを許容する、との一般論の下で、本件では納税者の採用した会計処理が認められなかったことに留意。(しかも2人の反対意見付きの際どい判断) cf.⇒4.4.2.権利確定主義 |
6版§321.03公正処理基準――前期損益修正 クラヴィス事件(旧プロミス事件)・最判令和2年7月2日民集74巻4号1030頁百選7版66ag(阿部雪子・ジュリスト1559号131頁)……利息制限法違反利息を受けており、不当利得返還請求を受けて返還することとなった場合、どの年度の損失とすべきか。控訴審は、制限超過利息受領年度の益金の額を減額する計算が公正処理基準に合致するとしていたが、最高裁は覆した。 最高裁判旨 「法人税の課税においては,事業年度ごとに収益等の額を計算することが原則であるといえるから,貸金業を営む法人が受領し,申告時に収益計上された制限超過利息等につき,後にこれが利息制限法所定の制限利率を超えていることを理由に不当利得として返還すべきことが確定した場合においても,これに伴う事由に基づく会計処理としては,当該事由の生じた日の属する事業年度の損失とする処理,すなわち前期損益修正によることが公正処理基準に合致するというべきである。」 cf.名古屋地判平成13年7月16日判タ1094号125頁平成12(行ウ)14号確定(高橋靖・ジュリスト1232号201頁)……石油販売会社がプリペイドカードの発行に際して収受する対価につき、発行時に収益として計上することなく預り金として処理し、そのカードの所持者が現実に商品と引換えをした時点で収益計上する方式は、社会的に認知されていたやり方であったものの、法人税法22条4項の公正処理基準に違反する。プリペイドカードの未使用部分に係る発行対価をその発行した日の属する事業年度の収益として益金に算入すべし。 cf.TFK株式会社事件(旧武富士事件)・東京地判平成25年10月30日訟月60巻12号2668頁平成24(行ウ)212号請求棄却・東京高判平成26年4月23日訟月60巻12号2655頁平成25(行コ)399号控訴棄却(渡辺裕康・ジュリスト1477号111頁)……利息制限法違反利息&遅延損害金を受けていた法人が倒産し過払金返還請求権に係る債権が更生債権として確定した場合に、従前益金算入していた利息制限法違反利息&遅延損害金について更正をすべき旨の請求をしたところ、棄却され、前期損益修正をすべしとされた事例。 昭和40年頃の法人税法は会計準拠の色が強かったが、昭和60年頃から課税庁が納税者の会計処理に対してアタックを仕掛けるようになり、その集大成が平成5年大竹貿易事件最高裁判決であった。「法人税の企図する公平な所得計算という要請」が、平成5年頃はさほど強調されてなかったが、平成20年代以降、強調されるようになり、企業会計の世界では一般的に認められている処理でも法人税法上は認められないという裁判例が登場するに至った。今、企業会計と法人税法22条4項との関係はかなり緊張感のある関係になっている。 不動産信託流動化事件(ビックカメラ事件)・東京地判平成25年2月25日訟月60巻5号1103頁請求棄却・東京高判平成25年7月19日訟月60巻5号1089頁控訴棄却百選7版59……不動産流動化実務指針に基づく原告の会計処理(但し事案の特殊性として会計処理の事後的な訂正――それも証券取引等監視委員会の指導による訂正――として更正の請求をしたという事情があった)が法人税法22条4項の公正処理基準に合致しないとされた事例。。 債権信託流動化事件(オリックス銀行事件)・東京地判平成24年11月2日税資262号順号12088請求棄却・東京高判平成26年8月29日税資264号順号12523請求認容(吉村政穂・ジュリスト1451号8頁、浅妻章如・立教法学87号204頁、佐藤修二・ジュリスト1475号8頁、神山弘行・平27重版189頁)……一審は金融商品会計実務指針105項を文理解釈し、105項の要件を満たしていないとして105項に沿った会計処理をした原告の主張を斥けた。しかし控訴審で覆った。 平川雄士「近時の判例等にみる租税法の原理・原則」租税研究769号104頁(2013.11)参照。 国税不服審判所令和6年2月26日裁決・裁決事例集134集……死亡保険金が死亡時(令和3年12月期)に益金算入されるか保険会社の審査後(令和4年12月期)か。令和4年12月期。(北村豊「税でモメたらどうする(第10回)〜まだもらえるか分かんないよ!〜」2025.3.14) |
タイ有利発行事件・東京地判平成22年3月5日税資260号順号11392平成19(行コ)754号(辻富久・ジュリスト1431号168頁)・東京高判平成22年12月15日税資260号順号11571平成22(行コ)136号・最決平成24年5月8日税資262号順号11945…タイ関連会社の額面発行株式の引き受けに伴う時価との差額の受贈益が益金を構成するとした事例。([浅妻]既存株式の希薄化損失を考慮しなかったことの当否については、議論の余地がありそうである。東京地裁は希薄化損失は未実現損失であるから考慮しなくてよいとした。これはつまり、既存株式を実際に譲渡した際の譲渡損失の発生時まで待つ、ということであろう。) |
日産事件・東京地判平成24年11月28日訟月59巻11号2895頁平成22(行ウ)314号、東京高判平成26年6月12日訟月61巻2号394頁平成24(行コ)480号(吉村典久・ジュリスト1472号8頁、谷口勢津夫・重判平26年213頁、田島秀則・ジュリスト1489号130頁、中里実・法律時報86巻9号130頁)・最一小決平成27年9月24日平成26(行ツ)385号平成26(行ヒ)416号……子会社の株式を保有する親会社が、子会社の株式消却に伴い、適正譲渡対価より低い金額の払戻金しか受領しなかった場合、旧商法上の減資払戻限度超過部分であっても益金に計上せねばならず、更に法人税法37条1項の寄付金に該当するとされた事例。 |
6版§322.02無償による資産の譲渡 南西通商株式会社事件・最判平成7年12月19日民集49巻10号3121頁百選7版52ak 事実・争点 X1社はX2が全額出資している会社であり、X2が代表取締役として経営を支配している。X1は昭和55年〜61年にかけて、取引先銀行の取引相場のない株式(本件株式)を平均1株225円で14万9025株取得した。昭和63年及び平成元年に合わせて14万9025株を1株225円でX2に譲渡した。これは低額譲渡に当たると考えたY税務署長は、X1については時価との差額を益金算入し、X2については時価との差額の給与所得(賞与)を得たものと認定して、それぞれ更正処分を打った。 判旨 上告棄却(請求棄却) 「資産の無償譲渡も収益の発生原因となる」。「反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益が認識すべき」。(←譲渡所得課税に関する清算課税説と類似の発想) 低額譲渡の場合に「適正な価額との差額部分の収益が認識され得ないものとすれば、前記のような取扱いを受ける無償譲渡の場合との間の公平を欠くことになる」。 「資産の低額譲渡が行われた場合には、譲渡時における当該資産の適正な価額をもって法人税法22条2項にいう資産の譲渡に係る収益の額に当たる」。 一審との比較…「正常な対価で取引を行った者との間の負担の公平を維持するために、無償取引からも収益が生ずることを擬制した創設的な規定」→「法人税法22条2項が適用され、本件株式の譲渡価格と時価との差額に相当する金額が益金に算入される」。 cf.相互タクシー事件・最判昭和41年6月24日民集20巻5号1146頁al……Xは事業を行なう株式会社であり、甲社等の株式を有していた。甲社等が増資決議・新株の株主割当を行うことになった。が、Xは独禁法上増資新株を取得できない関係にあった。Xは、新株を取得させる目的で株主名簿上の名義を書き換え、甲社等株式を自社の専務取締役Aらに名義変更した。Aらは払い込みをして新株主となった。Aらは、新株を取得後、旧株をX名義に復帰させた。 (新株プレミアムとは……増資前の株価が350円である時に旧株1株について新株1株を新株払込価額50円で発行したとする。(350+50)/2=200より増資後の株価は200円となるので、差額の150円が新株プレミアムとなる。なお旧株所有者は150円損する。) Y税務署長の処分・主張 {(新株の価額)−(払込金額)の残額}はXの益金に加算される。Xが新株引受権をAらに無償譲渡したものであり、新株引受権を賞与(参照:現法人税法34条:役員給与等損金不算入)として利益処分したものである。 Xの主張 独禁法の規制により元々Xは新株を取得できない。新株引受権を与えられるべき割当基準日における株主とは株主名簿上の株主である。従って、各割当基準日の株主名簿上の株主であるAらは割当基準日にその新株引受権を当然かつ原始的に取得した。 判旨 破棄差戻(実質的にX敗訴) (1)何に経済的価値があるか 「第三者に新株を割当させることのできたX会社の地位そのものは、金銭に見積もることもできる経済的価値ある利益」。 「独禁法10条」が新株取得を禁じていても「増資によりその株主一般が受けうべき利益を会社において事実上享受するために採る行為までを無効とする趣旨とは解しがたい」。 「Xは」Aらから「相当の対価を徴」することもできたはずなのに「前叙の行為をしたことは、増資会社の株式の所有に基づきXが享受する経済的利益を無償で重役等に授与したことを意味」する。 (2)経済的利益の移転は何について生じたか 「移転の対象となった経済的利益は、いわばX所有の増資会社株式について生じる新株プレミアムから構成されるものとみられ、その利益の移転は、同社所有の増資会社株式の値上り部分……の価値の社外流出を意味する」。 「株式の値上りがXの右株式の取得価額(記帳価額)を上回るものがあるならば、その部分は同社の未計上の資産」。 (3)経済的利益の移転があるとして何故それを計上する必要があるか 「未計上の資産の社外流出」にあたり「これに適正な価額を付して同社の資産に計上し、流出すべき資産価値の存在とその価額とを確定することは、Xの資産の増減を明確に把握するため当然必要な措置であり……その増加資産額に相当する益金を顕現するものといわなければならない」。 (4)益金・損金について 「重役等に移転した利益に同社の未計上の資産価値が含まれると認められるかぎり、当該事業年度においてそれに相当する益金の発生を肯定せざるをえない」「他面その重役等に対する利益授与によるXの資産の減少が事業上の損金となしがたいものとすれば…」 相互タクシー事件判決と同様の考え方を採用した例として、まからずや事件・大阪高判昭和43年6月27日訟月14巻8号948頁昭和38(ネ)353号。 |
6版§322.03無償による役務の提供 清水惣事件・大阪高判昭和53年3月30日判時925号51頁百選7版53am 事実 X社・T社は親子関係で法人税法上の同族会社(法人税法132条については後述)。XはTに2654万円を無利息で融資(「本件無利息融資」)した。Y税務署長は、本件無利息融資について、年10%の利息による利息相当額を寄附金と認定し(法人税法37条参照)、寄附金損金不算入額として、昭和39年に206万1013円、昭和40年に258万2134円を加算。一審では租税回避行為の否認が認められず、Y控訴。 Y控訴理由 本件無利息融資に係る利息相当額は、法人税法22条2項の「無償による役務の提供」に係る収益として認識され、Xの益金を構成する。寄附金(定義は37条7項)として社外流出しており、法37条2項(当時。現3項、及び施行令73条)の寄附金損金算入限度額を超える部分は益金として計上すべき。 判旨 原判決変更・確定。年6%の利息相当額の範囲でYの処分を維持。 (一) 22条2項は「資本等取引以外において資産の増加の原因となるべき一切の取引によって生じた収益の額を益金に算入すべきものとする趣旨と解される。そして、資産の無償譲渡、役務の無償提供は、実質的にみた場合、資産の有償譲渡、役務の有償提供によって得た代償を無償で給付したのと同じである」 (二) 金銭は企業内で利用されることにより果実をもたらす。自らが利用しない場合でも「少くとも銀行等の金融機関に預金することによりその果実相当額の利益をその利息の限度で確保するという手段が存在することを考えれば」営利法人の無利息融資は通常ありえない」。 無利息貸付をした場合「合理的な経済目的その他の事情が存する場合でないかぎり……通常ありうべき利率による金銭相当額の経済的利益が借主に移転したものとして顕在化した」のであり、無償提供として「収益として認識されることになる」。 (三) 法37条5項(当時。現7項)による「寄附金」(cf.⇒5.2.3.5.c.)の定義。 寄附金のうち「どれだけが費用の性質をもち、どれだけが利益処分の性質をもつかを客観的に判定することが至難であるところから、法は、行政的便宜及び公平の維持の観点から、一種のフィクションとして、統一的な損金算入限度額を設け」た。 「法37条5項かっこ内所定のものに該当しないかぎり、それが事業と関連を有し法人の収益を生み出すのに必要な費用といえる場合であっても、寄附金性を失うことはない」。 (五) 当てはめ…「何らかの合理的な経済目的等のためにT社にこれを無償で供した」か? 判旨(一)が講学上二段階説と呼ばれる。学説には異論もある(中川一郎説、金子宏説について概説参照)。 判旨は法人税法37条1項の寄附金課税を確認的規定と位置付けている。もし創設的規定ならば法改正前である昭和39年について寄附金課税をすることが根拠付けられなくなる。 ([浅妻]若干疑問。。特に損金算入限度額については「一種のフィクション」と述べているところ、旧法下において明文化されていないフィクションなどありえないだろう) 計算の手順……本来は、本件無利息融資に係る利息相当額全額を益金計上し、次に、37条(+施行令73条)による損金算入限度額の範囲内で損金計上すべき。しかし実務上はネット額のみ益金計上している。 合理的な経済目的……法基通9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等) 法人がその子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等(以下9−4−2において「無利息貸付け等」という。)をした場合において、その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。[(注)略] ([浅妻]親会社と子会社とは別個の法人格を有しているのであるから、親子一体と見るような上記通達はおかしいのではないか、との批判が考えられる。しかし、親会社が子会社に利益を無償で供与しても、その利益の分だけ親会社の資産が減る代わりに、親会社が保有する子会社の株式の価値が上がるので、(特に100%保有関係である場合には)結局のところ親会社は何も損をしていない、と経済的に考えることができる。尤も、保有子会社株の価格上昇、というこの論理は、常に認められるわけではないので、あくまで補強的な論理であるにすぎない。例えば、子会社が債務超過に陥っている場合、子会社株の価格は0未満にはならないから、親会社が利益を子会社に無償で供与しても、子会社株の価格は0のままであることもありうる。穴の空いたバケツのようなもの。それでもなお寄附金が認定されないことを合理的に説明するには、子会社の現時点での倒産防止が将来親会社に利益をもたらす可能性がある、といった説明になろう。) 株式会社池村商会事件・東京地判平成27年4月24日平成24(行ウ)847号棄却・東京高判平成27年11月26日平成27(行コ)197号棄却…100%子会社に対する債権放棄の貸倒損失の計上が認められず法人税法37条1項にいう寄附金に当たるとされた事例。消費税課税標準額からの控除もできないとされた事例。 独立企業間価格(講学上は独立当事者間価格ともいう。英語arm's length price) A国税率20% 卸売価格? B国税率40% 仕入200→P社→→自動車→→S社→消費者へ1000 製造費用400 販売費用100 ↓ ↓ 卸売価格800 →→→自動車→→第三者→消費者へ1000 PS間の卸売価格が独立当事者間価格800なら、P社の所得200、税40、S社の所得100、税40、二社の税の合計は80、PS間の卸売価格を900にすると(価格操作)、P社の所得300、税60、S社の所得0、税0、二社の税の合計は60。 本件ではX・Tが関連会社であるが、独立の当事者であったならば付されていたであろう利息の額こそが、適正な利息相当額といえる。租税回避の一手法に、移転価格(transfer pricing)というものがある。特に国際課税で問題となる。国際取引については、移転価格によって関連者間で所得の振替が行なわれても、独立当事者間価格により適正な利益の計上が強制される。(租特66条の4⇒8.4.2.) 検討:裁判所は、少なくとも銀行預金利子以上の果実をXは元本金銭から得られるはず、と述べる。([浅妻]もしXに銀行預金以上の有効な金銭利用策がなかったのであれば、銀行預金利子の額こそが適正な利息相当額であるとする考え方もありうる(しかもこの考え方によれば銀行預金を見ればよいのであるから認定が簡単になるという利点もある)。Xにとってそれ以上の利益を得る方策がなかったのであれば、Xが益金に計上しなければならない額もその限度にとどめられるべきであるとする考え方である。しかし恐らくこのような考え方は採られていない。第一に(本質的批判ではないが)Xに銀行預金以上の有効な金銭利用策がなかったことを確認するのが面倒である。第二に、Xが幾らの利益を得る可能性があったかに着目しているのではなく、XがTから幾らの代償を得るはずであったかに、規定及び裁判所は着目している。裁判所の銀行預金のくだりは、あくまで「少くとも」の話題であると理解されるであろう。) 会社間の所得振替について 国際取引と異なり、内国法人同士の間では普通同じ税率である。(尤も、関連者間取引に個人事業者が介在すれば累進税率の適用が問題となりうる) 仮に税率が同じならば、それでも不都合が生ずるか? 答:生じうる。損失を抱えている法人に所得を移せば課税所得を減らすことができる。 日本では移転価格対策(租特66条の4)は国際取引にしか適用されないが、国内取引であっても法人税法22条2項及び37条の合わせ技により法人に強制的に収益を計上させることができることがある。 しかし寄附金の損金算入限度額の範囲で、所得振替は成功する、ともいえる(このことへの学説の非難は強い)。この点で租特66条の4と比べて課税結果が完全に一致するとは限らない。 cf.アメリカの規定(Internal Revenue Code§482)は国内取引にも適用される。 |
5版§322.05(6版403頁)オウブンシャホールディング事件・最判平成18年1月24日訟月53巻10号2946頁百選7版54an 事実 X社(原告・オウブンシャホールディング)が有している株(C株・D株:テレ朝株・文化放送株)を売却することを考えたが、その株には多額の含み益があり、直接的に売却してしまえば多額の課税を受けることとなってしまう。 X(E・センチュリーが49.6%保有)は平成3年にオランダに子会社としてA社・アトランティック(ペーパーカンパニー)を設立。この際、圧縮記帳(平成10年改正前法人税法51条)(今は不可)により課税繰延をしていた(原則として出資財産の含み益を認識しなければならないが例外的に含み益を認識しなくてよいという扱い)。発行株式数は200株で、額面金額は1株1000ギルダー、合計20万ギルダー(約1500万円)。超過額は資本準備金。 平成7年、EはオランダにB社・アスカファンドを設立。 A社がB社に著しく有利な価額で新株を割り当てる増資を株主総会で決議。1株当たり額面金額1000ギルダーで3000株、発行価額合計額は303万0303ギルダー(1010.1ギルダー/株、約5.9万円)。新株割当当時におけるA社株式の資産価値は約234万ギルダー/株(約1億3648万円)。 この新株割当により、XがA社株式について含み益の形で有していた利益が消え(200/200株→200/3200株、100%→6.25%、約273億円→約17億円、差額約256億)、A社の利益はB社が支配(0/200→3000/3200株、0%→93.75%)することになった。 日本 国境 オランダ 筆頭株主49.6% : 100%出資200株圧縮記帳 センチュリーE ―― 原告X――:――→アトランティックA | テレ朝・文化放送株 : |新株割当(3000株) 100%| : ↓ |時価譲渡 出資└―――――――――――:―アスカファンドB |含み益実現 : ↓(蘭で非課税) 買収者←―OM社←――――――:―――――――JI社蘭法人 企業買収 : 株式売却 法形式的に見れば、XとAとの関係、及びAとBとの関係は別々である。 しかし、平成10年、Y税務署長は、XからBに利益を移転させた(含み益の実現を含む)ものと観察し、寄付金と認定した。(更正処分時には法人税法132条:同族会社規定を根拠としていたが、訴訟時、主位的に法22条2項:益金の規定、予備的に法132条の適用を主張。時機に後れた攻撃防御方法という論点については省略) 判決文に表れてはないが、Aはグループ内の別のオランダ法人(図のJI社)に株を時価で譲渡して含み益を実現させ、JI社がグループ内の日本法人(図のOM社)へ株式を譲渡し、当該OM社がグループ外の買収者に買収された。 これが上手くいけば、グループが有するテレビ朝日株・文化放送株について譲渡益課税を免れつつ、当初の予定通りの買収者に株を譲渡できることとなる。オランダで含み益を実現させているので、含み益についての課税繰延ではなく課税の回避である。 争点 判決で問題となっている部分は、X(=旧株主)とA(=子会社)とB(=新株主)という三角関係において、旧株主から新株主への利益移転が認められるか、である。 一審 請求認容 「被告の主張は」「旧株主がその有する株式の含み益を喪失し、それに相当する利益を新株発行を受けた新株主が取得した場合に、これを株主間の無償取引による利益の移転ととらえるに等しい」。 結論として、「実質的にみてXの保有するA社株式の資産価値がB社に移転したとしても、それがXの行為によるものとは認められないから、同資産価値の移転がXの行為によることを前提としてこれに法22条2項を適用すべきである旨の被告の主位的主張には理由がない。」(なお、法人税法132条・同族会社の行為計算否認の適用も斥けた。) 二審 原判決取消・請求棄却 「Xが上記資産に係る株主として有する持分をA社からなんらの対価を得ることもなく喪失し,B社がこれを取得した事実は,それが両社の合意に基づくと認められる以上,両社間において無償による上記持分の譲渡がされたと認定することができる。」 「両社間における無償による上記持分の譲渡は,法22条2項に規定する『無償による資産の譲渡』に当たると認定判断することができる。尤も,上記『持分の譲渡』は,同項に規定する『資産の譲渡』に当たるとすることに疑義を生じ得ないではないが,『無償による・・その他の取引』には当たると認定判断することができるというべきである。すなわち,上記規定にいう『取引』は,その文言及び規定における位置づけから,関係者間の意思の合致に基づいて生じた法的及び経済的な結果を把握する概念として用いられていると解せられ,上記のとおり,XとB社の合意に基づいて実現された上記持分の譲渡をも包含すると認められる。」 最高裁 破棄差戻し(しかし実質的には国税の勝ち) 「Xの保有するA社株式に表章された同社の資産価値については,Xが支配し,処分することができる利益として明確に認めることができるところ,Xは,このような利益を,B社との合意に基づいて同社に移転したというべきである。したがって,この資産価値の移転は,Xの支配の及ばない外的要因によって生じたものではなく,Xにおいて意図し,かつ,B社において了解したところが実現したものということができるから,法人税法22条2項にいう取引に当たるというべきである。」 ただし株式の評価の点で原判決は破棄を免れないとして差戻した(だけ)。 考察 最も極端に言えば、法人税法22条2項の「取引」をXとB社との間の「合意」によって認定した、という事例。 しかし、そのように言ってしまうと、【意図する経済的効果とそれを達成するための法律構成とは異なる】という従来の説明が崩れかねない。ある経済的効果を「意図」することとその「了解」を、或いは「合意」を、「取引」と呼んでよいか。実務は最高裁判例に従わざるをえないが、(学説上・試験上においてのみだが)議論の余地が残る。 なお、判旨が「外的要因によって生じたものではな」いということに言及している点も重要。外的要因によって富の状態が変動する典型例としては株価の変動などが挙げられる。 |
6版§322.04無償による資産の譲受け 有限会社柿木荘事件・東京高判平成3年2月5日行集42巻2号199頁 事実・争点 会社Xの取締役Aが死亡。AからXに土地の遺贈。Aの相続人B〜Eの遺留分減殺請求に対し価額弁償。土地の遺贈があったのが昭和58年、価額弁償が昭和59年(D・E部分)である場合に、昭和58年において価額弁償の分だけ受贈益が減ったこととされるか? (背景として、遺留分減殺請求権(現在は遺留分侵害額請求権)は形成権でありその効力は相続時にまで遡る) 判旨 控訴棄却(Xの請求棄却) 「遺贈による土地の取得は、法人税法22条2項所定の『無償による資産の譲受』に当たるものとして当該事業年度の収益となる。」 「遺留分減殺請求がされ、これに伴う具体的な受贈益の変動、すなわち具体的に価額弁償の額が決定され、受贈益の減少があった場合に、その時点の事業年度において損金として処理することとしても、受贈益の利益を著しく害するものではない。」 cf. 遺贈についてAに所得税法59条1項(みなし譲渡)が適用されていたら、Xの土地の取得価額は幾らであると考えるべきか、に留意。 cf. 相続財産の評価は低くされがちである。100%を狙って課税処分を打つと訴訟が頻発するのでいわゆる八割評価という形で固めの評価をするのが通例。時価の80%を狙って結果としてそれを上回ってしまい95%などになってしまっても100%を超えてなければ課税処分は違法といえない。なお、本件のY税務署長が公示価格を基に1億0631万円と評価したということについても、従来公示価格自体が時価よりも控えめの評価であると理解されているので、高すぎとは言いにくい。 |
ファーストペンギン事件・東京地判令和3年10月29日令和2(行ウ)334号(藤岡祐治・ジュリスト1572号10頁、渡辺徹也・ジュリスト_号_頁)(東京高判令和4年4月14日令和3(行コ)281号・最決令和4年11月11日令和4(行ツ)233号令和4(行ヒ)254号)……資産の低額譲受け時に適正な価額との差額を益金に計上しなければならない。 |
不当利得返還請求権:相栄産業事件・最判平成4年10月29日判時1489号90頁百選7版68(ケ6版392頁)iq……過大に徴収された電気料金の返金を受けた場合の収益の計上時期 「上告人は、昭和四七年四月から同五九年一〇月までの一二年間余もの期間、東北電力による電気料金等の請求が正当なものであるとの認識の下でその支払を完了しており、その間、上告人はもとより東北電力でさえ、東北電力が上告人から過大に電気料金等を徴収している事実を発見することはできなかったのであるから、上告人が過収電気料金等の返還を受けることは事実上不可能であったというべきである。そうであれば、電気料金等の過大支払の日が属する各事業年度に過収電気料金等の返還請求権が確定したものとして、右各事業年度の所得金額の計算をすべきであるとするのは相当ではない。上告人の東北電力に対する本件過収電気料金等の返還請求権は、昭和五九年一二月ころ、東北電力によって、計量装置の計器用変成器の設定誤りが発見されたという新たな事実の発生を受けて、右両者間において、本件確認書により返還すべき金額について合意が成立したことによって確定したものとみるのが相当である。したがって、本件過収電気料金等の返戻による収益が帰属すべき事業年度は、右合意が成立した昭和六〇年三月二九日が属する本件事業年度であ」る。 (味村治反対意見がある……同時両建説) |
6版§324.05損失と損害賠償請求権の関係 日本美装事件・東京高判平成21年2月18日訟月56巻5号1644頁百選7版69……X社(10月1日〜9月30日が事業年度)の経理部長(A氏)が詐欺行為により架空外注費を損金計上していた。Xは平成16年9月期の内にAを懲戒解雇し、Aに損害賠償請求訴訟を提起した。翌期にAがXに1億8815万円を支払うべしとする判決が確定した。Xの平成9年9月期〜平成15年9月期(平成11年9月期を除く6事業年度)の架空外注費の計上に関し税務署長はX社に更正処分及び重加算税賦課決定処分をした。審査請求を経て、平成13年9月期及び平成15年9月期(「本件各事業年度」)の各処分が維持されたので、これら各処分の取消しをXは求めて提訴した。 一審判旨 平成16年9月期に損害賠償請求権の額を益金計上。 「一般に,詐欺等の犯罪行為によって法人の被った損害の賠償請求権についても,その法人の有する通常の金銭債権と同様に,その権利が確定した時の属する事業年度の益金に計上すべきものと考えられるが,不法行為による損害賠償請求権の場合には,その不法行為時に客観的には権利が発生するとしても,不法行為が秘密裏に行われた場合などには被害者側が損害発生や加害者を知らないことが多く,被害者側が損害発生や加害者を知らなければ,権利が発生していてもこれを直ちに行使することは事実上不可能である。……権利が法律上発生していても,その行使が事実上不可能であれば,これによって現実的な処分可能性のある経済的利益を客観的かつ確実に取得したとはいえないから,不法行為による損害賠償請求権は,その行使が事実上可能となった時,すなわち,被害者である法人(具体的には当該法人の代表機関)が損害及び加害者を知った時に,権利が確定したものとして,その時期の属する事業年度の益金に計上すべきものと解するのが相当である([相栄産業事件判決]参照)。」 控訴審判旨 逆転:本件各事業年度(平成13年9月期、平成15年9月期)に損害賠償請求権の額を益金計上。 「損害賠償請求権については、通常、損失が発生した時には損害賠償請求権も発生、確定しているから、これらを同時に損金と益金とに計上するのが原則であると考えられる(不法行為による損失の発生と損害賠償請求権の発生、確定はいわば表裏の関係にあるといえるのである。)。」 「例えば加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を把握することが困難なため、直ちには権利行使(権利の実現)を期待することができないような場合があり得るところである。このような場合には、権利(損害賠償請求権)が法的には発生しているといえるが、未だ権利実現の可能性を客観的に認識することができるとはいえないといえるから、当該事業年度の益金に計上すべきであるとはいえないというべきである(……[相栄産業事件判決]参照)。このような場合には、当該事業年度に、損失については損金計上するが、損害賠償請求権は益金に計上しない取扱いをすることが許されるのである(法人税基本通達2−1−43…)」 「この判断は、税負担の公平や法的安定性の観点からして客観的にされるべきものであるから、通常人を基準にして、権利(損害賠償請求権)の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえるような客観的状況にあったかどうかという観点から判断していくべきである。不法行為が行われた時点が属する事業年度当時ないし納税申告時に納税者がどういう認識でいたか(納税者の主観)は問題とすべきでない。」 「権利確定主義にいう収入すべき権利の確定の時期については、基本的には法的基準によって判断していくものである(法的基準により判断することで、法的安定性、徴税の公平性が担保される。)から、債務者の資力、資産状況等といった経済的観点により債権の実現(債務の履行)可能性を判断し、それが乏しい場合には益金計上をしなくてよいとする処理は妥当でないというべきで、このような経済的観点からの実現(履行)可能性の問題は、下記の貸倒損失の問題として捉えていくのが相当である。」 「損害賠償請求権がその取得当初から全額回収不能であることが客観的に明らかであるとすると、これを貸倒損失として扱い、法人税法22条3項3号にいう当該事業年度の損失の額として損金に算入することが許されるというべきである([相栄産業事件判決]。なお[6版§324.04興銀事件判決]参照)。また、取得当初はそういえなかったとしても、その後そうなったという場合は、その時点の属する事業年度の損金に算入することが許されるというべきである。」 「Xの経理担当取締役らに秘して本件詐取行為をしたものであり、Xの取締役らは当時本件詐取行為を認識していなかったものではあるが、本件詐取行為は、経理担当取締役が本件預金口座からの払戻し及び外注先への振込み依頼について決裁する際に乙が持参した正規の振込依頼書をチェックしさえすれば容易に発覚するものであった」から「通常人を基準とすると、本件各事業年度当時において、本件損害賠償請求権につき、その存在、内容等を把握できず、権利行使を期待できないような客観的状況にあったということは到底できない」。 cf.法基通2-1-43(損害賠償金等の帰属の時期) 他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含む。以下2−1−43において同じ。)の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認める。 (注) 当該損害賠償金の請求の基因となった損害に係る損失の額は、保険金又は共済金により補填される部分の金額を除き、その損害の発生した日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。 cf.3版§324.05(ケ6版458頁)日本綜合物産事件・東京高判昭和54年10月30日判タ407号114頁 事実 詐欺被害にあったXが損金計上したのに対し、Y税務署長は増額更正。 争点 詐欺被害による損金計上のために、どのような事実が要求されるか? また、損金計上とともに、損害賠償請求権も益金計上されることから結局は相殺されるのか? Yの主張――損金算入のためには刑事ないし民事の判決の確定を待つ。(損害賠償請求権を益金に計上すべきかについては、Y自ら益金としての確定がないとしている……「Yにおいてさえ自陳」) 判旨 実質的にX勝訴 一般論……権利確定主義の確認 損金計上の可否について……確定判決を待たない 益金・損金の一体性の有無について……「益金、損金のそれぞれの項目につき金額を明らかにして計上すべきものとしている制度本来の趣旨からすれば、収益及び損失はそれが同一原因によって生ずるものであっても、各個独立に確定すべきことを原則と」する。 あてはめ……本件では「損害賠償請求権は本件係争事業年度中に益金として確定を見なかった」ので、損失に計上したのは相当。 cf.大栄プラスチックス事件・横浜地判昭和40年4月8日行集16巻4号589頁・東京高判昭和40年10月13日行集16巻10号1632頁・最判昭和43年10月17日訟月14巻12号1437頁昭和40(行ツ)107号(ケ6版456頁)ck……横領被害に関して、「損害に相当する金額の損害賠償請求権を取得する」ので、横領被害による損害を損金計上するのと「同じ事業年度に益金を構成する」とし、「債務者の無資力その他の事由によってその実現不能が明白となった時において損金となすべき」との原判示は首肯しうるとする。この一般論のもと本件では「損害賠償権の全部または一部の実現不能が明らかになったと認め」られない、とした。 日本綜合物産事件…損失を損金計上する。損害賠償請求権を益金計上するためには確定を要する。 大栄プラスチックス事件…損失を損金計上する。損害賠償請求権を益金計上し(いわゆる同時両建説)、実現不能が明白となってから損金に計上する。 一見、両判決は違うことを言っているように読めてしまうかもしれない。損害賠償請求権があるというだけで直ちに益金計上を強いるか(大栄プラスチックス)、その確定を要求するか(日本綜合物産)、態度が違うかのように読めてしまうかもしれない。 しかし、日本綜合物産事件判決は、或る年度内に損害賠償請求権の充足が凡そ期待できない場合は、相栄産業事件判決と同様に抽象的な権利の成立だけで益金計上を要請するのではない(他方、相栄産業事件判決における味村治反対意見は同時両建説である)、というものとして理解することができる。日本綜合物産事件判決は、或る年度内に損害賠償請求権の充足が凡そ期待できない場面であり、大栄プラスチックス事件判決は、或る年度内に損害賠償請求権の充足が期待できないではないので一旦は益金計上し回収不能が明らかでなければ回収不能損失を損金に計上しない(cf.貸倒損失:6版§324.04興銀事件・最判平成16年12月24日民集58巻9号2637頁)という場面である、として整合的に理解する余地がある。 cf.佐藤英明「事業上受けた不法行為による損害の処理〜年度帰属の問題」税務事例研究115号53頁以下、80頁より抜粋(2010)……「『損害賠償請求権という権利』の確定……と『損害賠償請求権を行使して収入すべき権利』の確定とが混同することに由来するものではないかと想像される。」 cf.明和興産事件・大阪地判平成10年10月28日平成8(行ウ)86号〜90号訟月48巻10号2587頁・大阪高判平成13年7月26日平成10(行コ)67号判タ1072号136頁……法人税等の申告時に課税要件事実の隠蔽仮装があるとして重加算税賦課決定処分がされた。横領行為をした従業員が発覚を妨げるため隠蔽仮装をしたものであり、法人が隠蔽仮装をしたのではないから処分は違法であるとして法人は取消請求をしたが棄却された。 余談……損害賠償請求権が法人税法22条2項2号「取引…に係る…収益」に含まれるのか、疑問が残らないではないが、恐らく「取引」という語が損害賠償のような場面で益金概念を限定する趣旨ではないのであろう(注意:「取引」という語が常に無意味という訳ではない)。 |
大阪地判昭和42年7月18日行集18巻7号921頁・大阪高判昭和45年1月26日行集21巻1号80頁……課税の原因となった行為が無効と認められるような場合であっても(要素の錯誤―当時は無効原因―のある交換契約)、その行為の結果、有効な場合と同様の経済的効果が発生し存続している場合には、それを対象に課税をすることは違法ではなく、後日その行為の無効に基因してその行為によって生じた経済的効果が失われ、またはこれと同視すべき状態になったときに、減額更正の手続を経て過納金の還付を受ければ足りる。交換によって取得した資産が旧法人税法施行規則13条の6第1項にいう「交換のために取得したもの」に当たるとして圧縮記帳による損金算入が認められなかった事例。 |
最判昭和46年11月16日刑集25巻8号938頁cl……利息制限法超過利息の未収部分が益金に含まれない(履行期が到来していても)。(cf.6版§211.02利息制限法違反利息事件・最判昭和46年11月9日民集25巻8号1120号) |
ベルコ事件・神戸地判平成14年9月12日判タ1139号98頁平成12年(行ウ)45号請求棄却(吉村政穂・ジュリスト1258号199頁)……冠婚葬祭業者の互助会的な預り金について管理支配基準。 なお、所得税法59条1項2号の低額譲渡に当たるかの判定に際し同様の法人の株式の時価を算定する際に掛金返還債務が「確実と認められる」債務(評価通達186)に当たらないので賭け金返済債務を控除しないで純資産価額方式による株式の価値を算定すべきとした事例として、東京地判令和5年4月21日令和2(行ウ)215号(棄却)がある。 |
6版§322.05受取配当の益金不算入 cf.国際興業管理株式会社事件・東京地判平成29年12月6日平成27(行ウ)514号請求認容(佐藤修二・ジュリスト1521号10頁)・東京高判令和元年5月29日平成29(行コ)388号控訴棄却・最判令和3年3月11日民集75巻3号418頁gh(池原桃子・ジュリスト1580号89頁、渡辺徹也・ジュリスト1567号131頁、酒井貴子・新・判例解説Watch租税法No.165)(学部生には難しいのでとばしてよい) 「法人税法24条1項3号は、利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当の場合には,そのうち利益剰余金を原資とする部分については,その全額を利益部分の分配として扱う一方で,資本剰余金を原資とする部分については,利益部分の分配と資本部分の払戻しとに分けることを想定した規定であり,利益剰余金を原資とする部分を資本部分の払戻しとして扱うことは予定していないものと解される。」 「法人税法24条3項の委任を受けて株式対応部分金額の計算方法について規定する法人税法施行令23条1項3号は,会社財産の払戻しについて,資本部分と利益部分の双方から純資産に占めるそれぞれの比率に従って比例的にされたものと捉えて株式対応部分金額を計算しようとするものであるところ,直前払戻等対応資本金額等の計算に用いる施行令規定割合を算出する際に分子となる金額……を当該資本の払戻しにより交付した金銭の額ではなく減少資本剰余金額とし,資本剰余金を原資とする部分のみについて上記の比例的な計算を行うこととするものであるから,この計算方法の枠組みは,前記の同法の趣旨に適合するものであるということができる。しかしながら,簿価純資産価額が直前資本金額より少額である場合に限ってみれば,上記の計算方法では減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出されることとなり,利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当において上記のような直前払戻等対応資本金額等が算出されると,利益剰余金を原資とする部分が資本部分の払戻しとして扱われることとなる。 そうすると,株式対応部分金額の計算方法について定める法人税法施行令23条1項3号の規定のうち,資本の払戻しがされた場合の直前払戻等対応資本金額等の計算方法を定める部分は,利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当につき,減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出される結果となる限度において,法人税法の趣旨に適合するものではなく,同法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。」 |
6版§324.01売上原価 牛久市売上原価見積事件・最判平成16年10月29日刑集58巻7号697頁百選7版56as 事実・争点 Xが宅地造成の許可を得る際、水路工事費(1億4668万円と見積もられた)を負担することを牛久市より要求されていたが、排水路工事が昭和62年の時点で行われてなく、Xはまだその負担金を支出していないという状況の下で、昭和62年9月期の土地販売収益に係る売上原価として1億4668万円を損金に算入することができるか。一審・二審では損金算入不可。 判旨 破棄差戻 昭和62「年9月末日において、Xが近い将来に上記費用を支出することが相当程度の確実性をもって見込まれており、かつ、同日の現況によりその金額を適正に見積もることが可能であった」。 注 法人税法22条3項2号では「債務の確定」が明示的に要求されているのに対し、1号の売上原価等について「確定」の文言はない。1号を律するのは費用収益対応の原則←「収益に係る」。 法基通2-2-1(売上原価等が確定していない場合の見積り) 法第22条第3項第1号《損金の額に算入される売上原価等》に規定する「当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価」……となるべき費用の額の全部又は一部が当該事業年度終了の日までに確定していない場合には、同日の現況によりその金額を適正に見積るものとする。この場合において、その確定していない費用が売上原価等となるべき費用かどうかは、当該売上原価等に係る資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供に関する契約の内容、当該費用の性質等を勘案して合理的に判断するのであるが、たとえその販売、譲渡又は提供に関連して発生する費用であっても、単なる事後的費用の性格を有するものはこれに含まれないことに留意する。 cf.1版§323.04大分瓦斯株式会社事件・福岡高判平成11年2月17日平成8(行コ)7号訟月46巻10号3878頁控訴棄却(原審大分地判平成8年2月27日判タ960号117頁請求棄却) 事実・争点 売上原価(仕入価格)を高く設定し、次の事業年度に交渉によって仕入割戻しを受けた、という法律構成が容認されるか。仕入価格は未確定であって見積もりによるとすべきか。 判旨 「少なくとも本件各事業年度の取引価格について、ガス事業法上の認可価格をもって、法22条3項1号の『売上原価』と評価するのは相当でない。」 「『当該事業年度の収益にかかる売上原価』等の額が当該事業年度終了の日までに確定していない場合には、同日の現況によりその金額を適正に見積もらなくてはなら」ない。 原告の方法はなぜ斥けられたか?……後の精算において「AはXに対し……高率の精算金を支払い、A自身も、右認可価格が仮価格であることを前提とした会計処理をしていた」。 仮価格を精算するという構成と、原価がいったん確定した後に事業年度終了後の割戻し交渉によって新たに仕入割戻金が実現するという構成とを区別する基準……返戻というためには「仕入価額に対する割合には、その性質上、一定の限度がある」。「事業年度終了後の新たな合意に基づく仕入割戻しであるとは解されない。」 cf.東京高判平成8年4月17日税資218号1498頁……別荘地に係る未施工水道工事に係る見積原価について認容。(刑事事件・有罪、執行猶予) cf.大阪地判昭和57年11月17日行集33巻11号2285頁確定……採石場跡地の盛土、植林等の自然環境回復費に係る見積原価について認容。 |
5版§324.02株式会社ケーエム事件・山口地判昭和56年11月5日行集32巻11号1916頁昭和53(行ウ)2号請求棄却確定 事実・争点 債務の確定について。販売した商品について取付費用の半額を負担するという約定であったので、既販売分について取付費用を預り負担金として損金計上しようとした。債務の確定がないとして(法人税法22条3項2号参照。1号ならば見積もり計上が可能)、損金計上が否定されるか。希薄化損失に関して、岡村忠生・高橋祐介・田中昌国「有利発行課税の構造と問題」岡村忠生編『新しい法人税法』(有斐閣、2007) 判旨 法人税法22条3項1号か2号かはともかく「取付費用は当該事業年度終了の日までに債務として確定していなければならない」。「債務の確定ありといいうるためには、当該事業年度の終了の日までに、(1)債務が成立していること、(2)当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること、(3)金額を合理的に算定できること、という3つの要件をすべて満たしていなければならない」。 今は法人税法22条3項1号について債務の確定は要求されてない。 |
6版§324.02債務の確定 ポイントシステム事件・東京地判令和元年10月24日税資269号順号13329平成29(行ウ)403号棄却確定(西山由美・ジュリスト1586号139頁)……顧客が原告の各店舗で商品等を購入する際に付与したポイント(本件ポイントシステム。平成23年6月1日前:1円1ポイント。1万ポイントごとに500円。システム改定後:1円当たり1ポイント。1ポイント単位で充当可能)の各事業年度末(10月決算)における未使用分に相当する金額(以下「本件ポイント未払計上額」)の損金算入を前提に法人税、復興特別法人税の確定申告をした。豊島税務署長は債務が確定しているとは認められないとして損金不算入を前提に更正処分等をした。なお、ポイント付与時の売上金額に対する値引きではないため,益金の額から減算することができないことは明らか。 原告の主張 「カード会員が上記権利を行使するに当たり,同時履行の抗弁権その他何ら実質的な障害は存在しないから,具体的原因事実が発生している」。「本件ポイントシステムにおけるポイントは,金品引換券と経済的性質が類似しており,金品引換券通達(基本通達9−7−3)の考え方を本件でも参照すべき」。 判旨 「企業会計上,費用の認識は,いわゆる発生主義を原則としつつも,当該費用が生み出した収益と同一の会計年度内にこれを計上させなければならないとの考え方(以下「費用収益対応の原則」という。)から,将来発生することが予想される未発生の費用であっても,その発生が当期以前の事象に起因し,かつ,発生の可能性が高いものについては,引当金として計上すべきものとされている。一方,法人税法においては,当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することができる引当金は貸倒引当金等に限定されており……,これらに当たらない企業会計上の引当金については,同法22条3項各号のいずれかに該当しない限り損金の額に算入することができない。そして,同項2号に定める販管費等については,1号に定める原価とは異なり,償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものは損金の額に算入することができないものとされており(債務確定要件。2号括弧書き),その趣旨は,未発生の販管費等に係る引当金については,発生の見込みや金額の算定について法人の恣意が入りやすいため,当該事業年度終了の日までに債務が確定したものに限り損金算入を認めることとして,課税計算の適正を図ろうとするものと解される。」 原価と異なり「販管費等については,特定の収益と個別的かつ客観的に対応させることが困難であり,将来発生する費用の発生の可能性の評価や費用となる金額の算定に当たって,法人の恣意性が入り込みやすいことから,企業会計上は引当金を計上するとともに費用処理する処理が一般に公正妥当なものといえる場合であっても,法人の所得の金額の計算上は,当該事業年度終了の日までに債務が確定したものに限り損金算入を認めることとして,損金の額に算入される販管費等の額につき法人の恣意が入り込む余地を排除し,もって課税計算の適正を確保しようとするのが,債務確定要件の趣旨である」。 「債務確定通達(基本通達2−2−12)は,債務確定要件の判定基準として,当該事業年度終了の日までに,当該費用に係る債務が成立していること(債務確定基準@),当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実(具体的原因事実)が発生していること(債務確定基準A)及びその金額を合理的に算定することができること(債務確定基準B)を定める……ところ,その内容は,企業会計上,すべての費用及び収益はその発生した期間に割り当てるように処理しなければならないものとする発生主義の考え方に整合するとともに,その発生の可能性の評価等に関する法人の恣意を排除するという債務確定要件の上記趣旨にも沿うものといえる。そして,上記のとおり法人税法が引当金の損金算入を限定していることや,上記の債務確定要件の趣旨に照らせば,債務確定基準Aの具体的原因事実が発生したというためには,企業会計上引当金として計上できる程度に将来費用が発生する可能性が高いとされるだけでは足りず,当期において費用の発生を基礎付ける具体的原因事実の発生が認められなければならないものと解するのが相当である。」 「カード会員の初回購入時に付与されたポイントは,上記2年の期間内に失効して使用されなくなる可能性もある上,期間内に使用されるとしても,いつ,どのような内容(代金充当か,景品交換か。後者の場合,どの景品と交換するか。)を選択するかによって,費用の発生する時期や金額が異なってくるものといえる。そうすると,カード会員の初回購入時にポイントが付与された時点では,仮にその時点で原告の主張する債務(次回購入時における代金充当又は景品交換をすべき債務)が成立しているとしても,次回購入時における代金充当の選択又は景品交換の選択がされない限り,その債務に基づいて給付をすべき具体的内容が明らかにならないため,これに伴う費用が発生したとはいえず,その費用の金額を合理的に算定することができるともいえない。したがって,債務確定要件のうち当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実(具体的原因事実)が発生していること(債務確定要件A),同日までにその金額を合理的に算定することができるものであること(債務確定基準B)のいずれについても充足していると認めることができず,本件ポイント未払計上額については本件各事業年度の終了の日までに債務が確定していないものというほかないから,これを法人税法22条3項2号に基づき損金の額に算入することはできない」。 cf.大阪地判平成21年1月30日判タ1298号140頁平成18(行ウ)42号(山田二郎・ジュリスト1404号145頁)・大阪高判平成21年10月16日判タ1319号79頁平成21(行コ)24号……平成18年政令第125号による改正前の法人税法施行令134条の2(現72条の3)は、法人税法22条3項1号、2号の規定内容の技術的、細目的事項を定めたものであり(「別段の定め」には当たらず)、法人税法65条による委任(⇒6版112.02)の範囲を逸脱するものではないとされた事例……使用人賞与について一種の現金主義に近い規定である施行令が、債務確定基準の「技術的、細目的な定め」であると言い募るのは、無理があるのではないか、と山田二郎は言う。(cf.判タ156頁右側「〜課税の公平及び徴税の適性等の確保の見地から、これと異なる規律を設け、もって、課税の明確性、統一性を図ることも、当該基本的事項についての技術的、細目的な定めとして、租税法律主義の要請に抵触せず、許容される場合がある〜」) |
1版§323.09ケンウッド事件・東京地判平成元年9月25日行集40巻9号1205頁昭和59(行ウ)145号(百選4版108頁)・東京高判平成3年6月26日行集42巻6=7号1033頁平成元(行コ)99号……アメリカ法人で黒字のTKCと赤字のKEが合併しA社となる。原告X社(日本法人)はA社の株式を有していた。XはA株の帳簿価額を0円に減額し、損金算入し、更に欠損金繰戻による還付請求をした。損金算入及び還付請求は可能か。 判旨 Xの請求を棄却。 規定の趣旨――「法人税法33条は資産の評価損の取扱を定めた規定である。」 1項は「原則として、内国法人がその有する資産につき評価減をして評価損の損金経理をした場合でも、その金額は所得金額の計算上損金に算入しないこととし」ている。 2項が「金銭債権を除く資産につき、災害による著しい損傷」等の場合に、幾つかの要件の下、「例外的に」「損金の額に算入することを認める。」 商法規定について――ところで、商法は一定の場合に「評価損の計上を必要的なものとしており、法人税法33条と必ずしも軌を一にしてはいない。」 商法や企業会計原則と法人税法との関係――「法人税法が特に商法や企業会計原則とは異なった規定を置くことはあり得ることであって、その場合には課税の関係では法人税法の規定によるべきことは当然のことであり、同法22条4項はもとよりこのような同法の明文の規定を排除する意味を持つものではない」。 法人税法33条2項が当てはまる場合とは――「有価証券の価額が著しく低下した状態というのは、帳簿価額……で評価されている有価証券の資産価値が、その帳簿価額に比べ異常に減少しただけでは足りず、その減少が固定的で回復の見込がない状態にあることを要する」。 注 問題の背後には、株式の減価を損失に計上すると損失の二重計上(会社段階の所得計算におけるマイナスと、株主段階の譲渡損益計算におけるマイナス)となる、という問題がある。 国際的M&Aに関しケ1版506頁コラム参照。 |
6版§324.04興銀事件・最判平成16年12月24日民集58巻9号2637頁百選7版58fj 事実・争点 住専に関する貸倒損失の認定が争われた。一審納税者勝訴、二審課税庁勝訴。 判旨 法人税法22条3項3号「当該事業年度の損失の額」…「当該金銭債権の全額が回収不能であることを要する」「全額が回収不能であることは客観的に明らかでなければならない」 「社会通念に従って総合的に判断される」 ◆「債務者側の事情」 ◇「債務者の資産状況」 ◇「支払能力」等 ◆「債権者側の事情」 ◇「債権回収に必要な労力」 ◇「債権額と取立費用との比較衡量」 ◇「債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれき経営的損失」等 ◆「経済的環境」等 貸倒損失の損金計上の可能性についての先例として挙げられる事例……1版§323.07大昭興業株式会社事件・大阪地判昭和33年7月31日行集9巻7号1403頁(納税者Xは、債権放棄額を損失として計上したが、Y税務署長は、債権放棄を贈与であるとして、損失計上を否認しようとした事案) 判旨は、請求棄却。債権放棄の全てにつき損金計上を許すわけにはいかない。「債権が回収不能である場合即ち債権が無価値に帰した場合にのみ」損金算入可。「回収不能であるかどうかは、単に債務高が債務超過の状態にあるかどうかによって決すべきものではなく、たとえ債務超過の状態にあるとしてもなお支払能力があるかどうかによって決定すべき」 回収不能に限定する理由――実質的には「国庫の損失において自由に自己の利益を処分」するような恣意性は認められないということ、形式的には「金銭債権については、評価減を認めないことが原則とされている」(参照:法税33条2項・3項)こと、が挙げられる。 ([発展]: debt/equity swap)fk 債権放棄(民法519条)が贈与に当たる場合 → 寄附金課税(6版§325.02 6版§325.03)の問題として、損金算入に制限がかかる。但し経済的利益の無償供与のうちの全てが寄附金に該当するわけではなく、経済取引として合理性があれば寄附金に当たらないこともある。 債権放棄を受けた側の課税関係……債務免除益として益金計上。但しその他に損失が積み上がっている例が多いので、通算(相殺)可能なことが多い(⇒4.6.4.純損失・欠損金の繰越し・繰戻し)。 法税22条3項(損金) 法税33条(資産の評価損の損金不算入等) 費用概念と損失概念の違い及び22条における扱いの違いの有無……収益との対応関係の有無 なぜ「全額が回収不能であること」が「客観的に明らかでなければならない」という二重の要件か?「全額」でなく「一部」では駄目なのか?「客観的」ではなく債権者の判断では駄目なのか? 法税33条とのバランス論はどこまで重要か? 損失認定をめぐる企業会計と税務との対立がある。 企業会計…会社に対する債権者や投資家への情報開示という観点からは、損失が未確定であっても損失をできる限り正確に推計し、「この会社の資産状況は危なくなる可能性がある」と知らせねばならない。 税務…恣意的に損失を推計して計上し他の所得と相殺する等は認められない。 cf.法基通9-6-3(一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ)、法基通9-4-1(子会社等を整理する場合の損失負担等) 全部貸倒れと部分貸倒れ 金子宏・中里実らが部分貸倒れ(全額回収不能ということまでは要求されない)の考え方を提唱するなどしている。例えば3億円貸し付けたうち1億円の回収可能性がなくなった時点で1億円の部分についてだけ貸倒れ損失の計上を認めようとするものである。……最高裁は不採用。 課税実務の今後への影響……課税当局はこの事案限りでは負けたものの、全額回収不能という従来の判例通りのお墨付きは得ており、また一部学説が主張する部分貸倒れの考え方は受け容れられていない。今後も納税者の債権放棄に対し厳しい態度を継続することが見込まれる。それでは本判決の意義は弱いのかというと、弱くもない。本判決は「債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等といった債権者側の事情,経済的環境等も踏まえ,社会通念に従って総合的に判断される」と述べて回収不能該当性を広げたことに意義がある。 ([浅妻]余談:住専処理を巡り政府が介入してくるならば、そして銀行がその介入を受け入れるならば、銀行としては{政府の指示に従う代わりに、損金計上は認めるよう課税当局に指導してくれ}という要望も予め示してその覚書も取り付けておくべきだったのであろうか。法学部で論ずるような内容なのかという疑問はさておき。) cf.6版§234.01事業所得貸倒分不当利得返還請求事件・最判昭和53年3月16日訟月24巻4号840頁 cf.藤崎事件・仙台地判昭和51年9月13日訟月22巻9号2330頁……親会社が赤字子会社に増資払込をした場合に増資後の子会社の純資産価値がマイナスである時、株式の評価減の計上は認められない。昭和54年法基通9-10-10の2→現法基通9-1-12(増資払込み後における株式の評価損) 東京高判平成8年10月23日判時1612号141頁……バブル経済崩壊に伴う棚卸資産としての絵画の価値暴落は法税令68条1項1号ロにいう「著しい陳腐化」又はこれ「に準ずる特別な事実」(ニ)に当たらない。 |
株式会社システムコンサルタント事件・東京地判令和5年1月27日令和3(行ウ)591号(棄却)(手塚貴大租税判例研究会2024年7月19日報告)……預託金制ゴルフ会員権の預託金債権の貸倒損失計上時期はゴルフクラブ退会時ではなくゴルフクラブ再生計画により支払免除の効力が生じた時である。cf.法基通9-6-1:金銭債権の貸倒れ、法基通9-7-12ゴルフ会員権の預託金の一部が切り捨てられた場合の取扱い |
6版§323.03株式会社エス・ブイ・シー事件・最決平成6年9月16日刑集48巻6号357頁百選7版55ls 事実・争点 脱税のため架空造成費を計上した事例。その謝礼としてAに200万円・1700万円を支払った(「本件手数料」)。本件手数料は会社の損金となるか?(違法支出の例として本件が挙げられるが、謝礼自体は違法でないので、6版§231.03高松市塩田宅地分譲事件・高松地判昭和48年6月28日行集24巻6=7号511頁とパラレルという訳でもない) 判旨 本件手数料「は、架空の経費を計上するという会計処理に協力したことに対する対価として支出されたものであって……このような支出を費用又は損失として損金の額に算入する会計処理もまた、公正処理基準に従ったものであるということはできない」 現在は立法的に解決(確認規定?創設規定?)。 根拠規定について、違法支出の損金算入を禁止する明文の規定が当時なかった。……原審「損金計上を禁止した明文の規定が無いという一事から、その算入を肯認することは法人税法の自己否定であって、同法がこれを容認しているものとは到底解されない」。これに対し最高裁は一応の根拠として公正処理基準(⇒5版§321.03大竹貿易事件・最判平成5年11月25日民集47巻9号5278頁)を挙げた。 法税22条3項の損金にそもそも該当しない、という筋を採用しなかったのは何故か? また、違法支出は常に法税22条3項損金非該当となるか? 本件手数料を受け取ったAの課税について……違法な所得も課税対象(6版§211.02利息制限法違反利息事件・最判昭和46年11月9日民集25巻8号1120頁)だから、違法なことに加担したことの対価も課税されよう。法人からの贈与と考えれば一時所得。贈与ではなく役務の対価と考えると雑所得(さすがに事業所得には該当しないであろう)。どちらの方が税負担が重くなるか後で復習せよ。 |
6版§325.02太洋物産売上値引事件・東京高判平成4年9月24日行集43巻8=9号1181頁平成3(行コ)134号(原審東京地判平成3年11月7日行集42巻11=12号1751頁昭和63(行ウ)213号) 事実・争点 Aの赤字を救済するため、XがAに販売している棒鋼原料について売上値引き(移転価格と同様)。この額を全額損金計上できるか、寄附金(法人税法37条1項)に該当し損金不算入額の分だけ課税所得に加算しなければならないか? (「本件売買損失」については省略) 一審 概ね棄却 「 2 本件売上値引き及び本件売買損失の寄付金該当性 (一) 寄付金の損金不算入に関する法人税法三七条の規定の趣旨 法人税法三七条は、どのような名義をもってするものであっても、法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合には、広告宣伝及び見本品の費用その他これに類する費用等とされるものを除いて、これを寄付金として扱い、その価額については、一定の損金算入限度額をこえる部分を、その法人の所得の金額の計算上損金の額に算入しないものとしている(同条二項及び六項)。すなわち、広告宣伝費や見本品の費用といったいわゆる営業経費として支出されるものを除いて、法人のする第三者のための債権の放棄、免除や経済的利益の無償の供与については、その価額を寄付金として扱うべきものとしているのである。 もっとも、例えば、法人が第三者に対して債権の放棄等を行う場合であっても、その債権の回収が可能であるのにこれを放棄するというのではなく、その回収が不能であるためにこれを放棄する場合や、また、法人が第三者のために損失の負担を行う場合であっても、その負担をしなければ逆により大きな損失を被ることが明らかであるため、やむを得ずその負担を行うといった場合は、実質的にみると、これによって相手方に経済的利益を無償で供与したものとはいえないこととなるから、これを寄付金として扱うことは相当でないものと考えられる。法人税基本通達九−四−一が、「法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失の負担をし、又は当該子会社等に対する債権の放棄をした場合においても、その負担又は放棄をしなければ今後より大きな損失を被ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその負担又は放棄をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときには、その負担又は放棄をしたことにより生ずる損失の額は、寄付金の額に該当しないものとする。」と定めている〈書証番号略〉のも、右のような趣旨から、実質的にみて経済的利益の無償の供与とはいえないものが寄付金に該当しないことを明らかにしたものと解される。 (二) 本件売上値引きの経緯とその寄付金該当性 (1) G製鋼に対する原告の本件売上値引きは、前記のとおり、G製鋼に多額の赤字の発生が見込まれるようになったことからこれに対する救済策として行われることとなったものであり(証人菅野文治の証言)、これに伴い、まず昭和六一年七月三一日付けで原告がG製鋼宛てに発行した請求書(〈書証番号略〉)に、「ウリアゲネビキ(チュウゴクセイコウ 六ガツドアカジニタイスルエンジョ)」との記載がなされ、前記ビレットの売上代金のうち一億二九〇〇万円(これは、前記のG製鋼の昭和六一年六月三〇日現在の残高試算表における欠損金一億二九七六万三〇〇〇円の一〇〇万円未満の部分を除いた金額に丁度相当する金額である。)について値引きが行われ、次いで同年八月三一日付けで原告がG製鋼宛てに発行した請求書(〈書証番号略〉)に、「ウリアゲネビキ(チュウゴクセイコウ 七ガツドアカジニタイスルエンジョ)」との記載がなされ、前記ビレットの売上代金のうち九三〇〇万円(これは、前記のG製鋼の同年七月三一日現在の残高試算表における欠損金九三二〇万円の一〇〇万円未満の部分を除いた金額に丁度相当する金額である。)について値引きが行われている。 (2) 右のような事実関係からすれば、本件売上値引きは、前記のとおり業績が悪化していたG製鋼に対する援助措置として行われた原告による利益の無償供与の性質を有するものというべきであり、したがって法人税法三七条所定の寄付金に該当するものといわなければならない。 これに対し、原告は、本件売上値引きは、原告が経済的、合理的に判断してG製鋼の棒鋼の生産が採算のとれるようにするためビレットの売買価額について見直しを行い、その減額改訂を行ったに過ぎないものであるから、寄付金には該当しないと主張する。しかし、前記のような請求書の記載等からすれば、本件売上値引きは、G製鋼の赤字に対する援助として行われたものであることが明らかであり、一般に売上品について量目不足、品質不良等があった場合に一定の具体的な算出根拠に基づいて行われる通常の取引における売上値引きとはおよそその性質を異にするものであって、いずれにしてもG製鋼に対する「経済的な利益の無償の供与」として法人税法三七条所定の寄付金に該当するものといわなければならない。したがって、原告の右主張は失当である。 また、原告は、事業上の必要に基づく真にやむを得ない損失の負担等は、法人税法三七条にいう寄付金に該当しないものと解すべきであり、本件売上値引きも、原告の事業上の必要に基づくやむを得ない支出であることが明らかであるから、寄付金に該当しないと主張する。しかし、右法人税法三七条の規定は、その六項において「広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費」とされるべきものを右寄付金から除外することとしているに過ぎず、右の規定にいう「広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用」とは、いわゆる営業経費の性質を有するものを指すものと解すべきことは前記のとおりである。そうすると、本件売上値引きは、そのようないわゆる営業経費の性質を有するものとは到底解し得ないから、原告の右主張は採用できない。 更に、原告は、前記法人税基本通達九−四−一の定め等からして、本件売上値引きが寄付金に該当しないものであると主張する。そして、確かに、債権の回収が不能であるためにこれを放棄する場合や、その負担をしなければ逆により大きな損失を被ることが明らかであるため、やむを得ずその負担を行うといった場合は、これを実質的にみると経済的利益の無償の供与とはいえないものと考えられることは、前記のとおりである。しかし、証人菅野文治及び同後藤一男の各証言によれば、本件売上値引きが行われた時点において、G製鋼の業績は悪化していたものの、解散、経営権の譲渡といった右通達に掲げられたような事態が生じ、あるいは銀行取引停止処分等のため倒産状態に陥るというような事態にまで至ってはおらず、したがって原告が本件売上値引きを行わなければ今後原告においてより大きな損失を被ることとなることが社会通念上明らかであると認められるような状況があったものとまでは到底認められない。また、右の事実からすれば、本件売上値引分に相当する原告のG製鋼に対する売掛債権の回収が不能な状況にまでなっていたものでないことも明らかである。したがって、原告の右主張も採用できない。」 控訴審 請求棄却・控訴棄却 「法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合には……寄附金として扱い、その価額については、一定の損金算入限度額をこえる部分を……損金の額に算入しない」 「本件売上値引きは…Aに対する援助措置として行なわれたXによる利益の無償供与の性質を有する」 cf.熊本地判平成14年4月26日平成13(行ウ)1号税資252号順号9117棄却・福岡高判平成14年12月20日平成14(行コ)12号税資252号順号9251棄却……日本親会社から外国子会社に対する業務委託費名目の支出が法人税法37条1項の寄附金に当たり租税特別措置法66条の4第3項により損金算入ができないとされた事例。 cf.東京地判平成21年7月29日平成20(行ウ)116号平成21(行ウ)84号判時2055号47頁棄却・東京高判平成22年3月25日平成21(行コ)275号税資260号順号11405棄却確定……原告の元代表者が全額出資する国外関連法人に対する債権放棄が寄附金とされた事例。 cf.大和レース有限会社事件(商号変更後:麻畠レ−ス有限会社)・大阪地判昭和33年9月25日昭和28(行)77号行集9巻9号1970頁認容21010640・大阪高判昭和35年12月6日昭和33(ネ)1328号行集11巻12号3298頁棄却確定……指定寄附金について同族会社行為計算否認規定(当時の法人税法31条の3第1項)を用いて損金算入を否定した処分が取り消された事例。 cf.広告宣伝費と寄附金との関係について:医療法人新光会事件・東京地判平成24年1月31日訟月58巻8号2970頁平成21(行ウ)492号請求棄却・東京高判平成24年11月29日平成24(行コ)68号控訴棄却(平石雄一郎・ジュリスト1468号118頁)……医療法人が関連コンタクトレンズ販売業者の宣伝費を負担したことについて、寄附金とした事例。 |
6版§325.03 PL農場事件・大阪高判昭和59年6月29日行集35巻6号822頁昭和58(行コ)9号ay 事実・争点 X農場・F社の繰越欠損金を打ち消すため、土地をミキ観光→1億7348万(坪869円)→X農場→2億2622万(坪1118円)→F社→(土地の一部。坪3000円)→K社(第三者)と転々譲渡。Y税務署長は、(1)ミキ観光から時価との差額の受贈益、(2)受贈益を原価に加算、(3)時価との差額がF社に対する寄附金、として更正処分。なお、別訴にてミキ観光に対する寄附金課税の処分が肯認されていた。 判旨 (1)について……「Xは本件土地の買受によって、転売を拘束された価額2億2622万4395円相当の収益を得、同時に買受価額1億7348万8535円相当額の原価を要したが、収益の額は右を上回るものではない」。 Xはミキ観光から買い受けた後Fに所定の価額で売却することが「売買契約の一内容となっていた」。 「Yは、時価6億0188万0890円と右買受価額との差額4億2389万2355円が、Xがミキ観光株式会社より実質的に贈与を受けた額であると主張する。しかし、右にいう時価は何の特約もない場合の時価であるところ、右主張は右売買契約に前記のような転売特約があることを無視しているから、採用することはできない」(なお、法人税法37条1項ではなく22条2項の問題である)。 「租税回避行為であるだけの理由でその効果を全て否定できるものではない」。なお、ミキ観光とXとの取引で租税回避を図っているのはミキ観光であり(しかもそれは法人税法37条1項の規定を適用した別訴により失敗した)Xの法人税額が回避されるものではなく、「Xにとっては……右転売特約を承諾して5000万円余の転売利益を選ぶことの方が経済人としては合理的」。 (2)(3)について……「Xの本件土地の売却にともなう収益、原価はいずれも2億2622万4395円であって、売却差益は存しない」。「Xが本件土地について有していた利益、価値は前記のとおり2億2622万4395円にすぎなかったから、Xはこれを超える額の利益を他に贈与により与えることができる筈はない」。Fの利益は「Xから与えられたと評価することはできず、ミキ観光株式会社からその転売特約により与えられた」。 考察 S社が親会社P社に現金3億円を贈与した場合。 S社:寄附金扱い → 損金算入限度額内でのみ損金算入する。(渡した3億円の現金が22条2項「無償による資産の譲渡」にあたり益金計上しなければならない、ということにはならない。損金算入限度外の部分だけ損金算入できない、というだけ) P社:22条2項「無償による資産の譲受け」→受贈益3億円を益金計上(現金はここの「資産」に含まれる) S社がP社に時価3億円の土地を贈与。S社にとっての当該土地の原価が1億円の場合と5億円の場合とで場合分け。 S社:原価1億円の場合 ……22条2項「無償による資産の譲渡」→時価譲渡を擬制。譲渡益2億円を益金計上(原価1億円、売価0円→譲渡損1億円ではない)。 3億円分寄附金扱い(損金算入限度額内でのみ損金算入) S社:原価5億円の場合 ……22条2項「無償による資産の譲渡」→時価譲渡を擬制。譲渡損2億円を損金計上(原価5億円、売価0円→譲渡損5億円ではない)。 3億円分寄附金扱い(損金算入限度額内でのみ損金算入) P社:受贈益3億円分を益金計上。P社にとっての土地の帳簿価額は3億円(現実には0円で受け取ったが、税務上は3億円で購入し金銭3億円の贈与を受けたものと擬制されているともいえる)。後にP社が第三者に土地を3億円で売却するとP社の譲渡益は0円。 S社と専属契約を結んでいる著名バスケットボールプレーヤーを、P社の広告宣伝のために無償で派遣。 S社:22条2項「無償による…役務の提供」→本来PがSに支払うべき適正な対価(例えば3億円とする)を収入したと擬制し、同額を益金計上。 37条7項括弧書「広告宣伝費…を除く」の適用の有無について考える必要がある。広告宣伝費であれば損金算入可(3億円の益金、3億円の損金、よって所得0円)。広告宣伝費でなければ寄附金として損金算入限度額(例えば1億円とする)超過部分の損金算入が制限される(3億円の益金、1億円の損金、よって所得2億円)。 P社:無償の役務提供を受ける場合は22条2項に規定なし。益金計上なし。広告宣伝費として何も払っていないから損金計上は0円。(損金計上がない分だけ課税所得が増える、と説明される) 譲渡人・譲受人が個人か法人かで4パターン覚えよ。 ◆法人→法人の土地贈与または低額譲渡……上掲 ◆個人→法人の土地贈与または低額譲渡……個人について所税59条1項みなし譲渡課税の問題、法人は法税22条2項の受贈益の計上の問題。 ◆法人→個人の土地贈与または低額譲渡……法人について法税37条1項寄附金等の問題(損金算入可能性の問題)、個人について受贈益が一時所得になる問題。 ◆個人→個人の土地贈与または低額譲渡……譲渡人に所税59条1項みなし譲渡課税なし。譲受人に贈与税の課税。 |
6版§325.04萬有製薬・東京地判平成14年9月13日平成11(行ウ)20号税資252号順号9189棄却・東京高判平成15年9月9日平成14(行コ)242号判時1834号28頁百選7版62原判決取消、請求認容(確定)(辻富久・ジュリスト1270号210頁) 事実・争点・判旨 大学病院の院生らの英文添削費を補助することが交際費に当たるという一審判決を取り消し交際費に当たらない(から損金算入が許される)とした事例。 考察 交際費規定は創設規定か?……特別規定がなければ事業との関連性がある部分につき損金算入が認められるべき。元々は交際費は取引円滑化のための企業会計上の費用であると考えられている。 ではなぜ損金算入を否定するのか? (1)冗費節約 (2)資本蓄積促進([浅妻]corporate governanceの問題であって法人税が口を出すべき問題であろうか?) (3)交際費等の相手方への課税の困難さ。[浅妻]事業との関連性が少ない部分については、そもそも事業費用ではなく(そもそも本来の意味の交際費にも当たらない)、利益処分に近いから、損金算入否定は確かに実体的に正当化される。金子・後半部分(冗費・乱費)について、会社統治(corporate governance)問題で捉えるのが筋であろうが、岡村の説明は分かりやすい。交際費の便益を受けている相手側にとっては消費であるから相手側の課税所得を本来は増大させるものであるところ、執行の困難から、課税漏れが多くの場面で生じていよう。そこで支払者側の段階で予め便宜的に課税してしまう、という(やや粗いが経済的実体に照らして筋の通った)理屈である。 cf.3版§325.04荒井商事オートオークション事件・横浜地判平成4年9月30日平成3(行ウ)25号行集43巻8=9号1221頁棄却・東京高判平成5年6月28日平成4(行コ)110号行集44巻6=7号506頁百選5版64棄却……オートオークションにおける景品の購入費用を支払奨励金として損金算入しようとしたところ、交際費に当たるとして損金算入が否定された事例。 Cf.オリエンタルランド清掃委託料事件・東京地判平成21年7月31日判時2066号16頁請求棄却・東京高判平成22年3月24日訟月58巻2号346頁控訴棄却……オリエンタルランドが、右翼団体幹部の関連事業者に支払った清掃委託料の一部などを課税対象となる交際費とした国の処分の取消しを求めた訴訟で、処分は適法であるとされた事例。 |
MOSH社・STAND社事件・東京地判令和5年5月12日令和元(行ウ)607号614号(一部認容、一部棄却) 判旨 「通則法23条1項に基づく更正の請求は、納税者の提出した納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大である場合等に、納税者が、税務署長に対し、当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内に限ってすることができるものである。同条3項は、更正の請求をしようとする者は、その請求に係る更正前の課税標準等又は税額等、当該更正後の課税標準等又は税額等、その更正の請求をする理由、当該更正の請求をするに至った事情の詳細その他参考となるべき事項を記載した更正の請求書を税務署長に提出しなければならない旨規定し、その更正の請求をする理由が、課税標準たる所得が過大であるなどのときは、その理由の基礎となる事実を証明する書類を更正の請求書に添付しなければならないとしているものである(通則法施行令6条2項)。 そして、申告納税方式による国税に係る税額は、その後に更正がされない限り、納税者の納税申告のとおり確定するものであること、納税申告の前提となった事実関係及びそれを誤りであるとする事実関係は更正の請求をする納税者が熟知していることが一般的であることなどの事情に照らせば、更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消訴訟においては、更正の請求に係る事実関係は納税者たる原告において主張、立証すべきものと解するのが相当である。」 「租税特別措置法61条の4第4項は、交際費等の意義について、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいうとし、同条1項は、このような交際費等については、原則として所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定している(損金不算入制度)。 もっとも、法人が支出した交際費等の額のうち「接待飲食費」の額の100分の50に相当する金額を超えない部分の金額(50%損金算入)、及び中小法人においては、50%損金算入に代えて、支出した交際費等の額が定額控除限度額である年800万円を超えない部分の金額については、損金不算入制度の特例として、損金の額に算入することができるとされているものである(中小法人損金算入特例)。 ウ そこで、本件各支出について、損金不算入制度に対する上記特例に基づき損金の額に算入することができるか検討するに、50%損金算入の対象となる「接待飲食費」とは、交際費等のうち飲食その他これに類する行為のために要する費用であって、「接待飲食費」であることについて、総勘定元帳等の帳簿書類に、@当該飲食費に係る飲食等のあった年月日、A当該飲食費に係る飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名又は名称及びその関係、B当該飲食費に係る飲食等に参加した者の数、C当該飲食費の額並びにその飲食店、料理店等の名称及びその所在地、Dその他飲食費であることを明らかにするために必要な事項(以下「本件記載事項」という。)が記載されていることが要件とされているものである。 しかしながら、原告らの総勘定元帳において、本件各支出に関し上記AからDまでの本件記載事項が記載されていることを認めるに足りる証拠はなく、これらが「接待飲食費」に該当すると認めることはできない。 エ そうすると、本件各支出については、原告らがいずれも資本金の額が1億円以下の中小法人であることからすると、50%損金算入に代えて、本件各支出が中小法人損金算入特例の対象となる交際費等に該当するか否かについて、検討することを要することになる。」 |
6版§112.01政令への委任 大阪銘板事件・大阪高判昭和43年6月28日行集19巻6号1130頁bg 事実・争点 同族会社であるX社が使用人兼務役員であるABCDの4名に使用人分賞与として多額の金員を支給した。Y税務署長は、当該金員は役員賞与であって損金とは認められないとした。当時、役員賞与の税務上の扱いについては施行規則(政令)で規定されていたが、Xは、憲法84条違反であり、法人税法の委任の範囲を超えている(⇒課税要件法定主義違反)、と主張した。 判旨 Yは、問題の政令が法人税法9条1項(当時)の「解釈規定であると主張している」が、同項「にはその解釈規定を設けることを命令に委任するとの文言はない。したがって、Yの主張は到底採用できない。」 「租税法律主義の原則から、法律が命令に委任する場合には、法律自体から委任の目的、内容、程度などが明らかにされていることが必要であり、損金益金への算入不算入といった課税要件について、法律で概括的、白地的に命令に委任することは許されない」。 「使用人役員…に支給される賞与のうち、使用人として職務の対価として支給される分は、損金の性質を有し、従来から理論上も実務上も損金として経理すべきものとされ、同族会社においても同断であった」、また、「同族会社については、別に旧法31条の3(現法132条)に同族否認の規定があり、抽象的一般的でなく、具体的個別的に同族会社であるために起り勝ちな不当な行為計算が否認された」。 「なるほど、同族会社では…多くの経理上の不正が行なわれる」が、だからといって「同族関係者のすべてが…会社支配に大きな影響力があるわけではない」。 ◆法人税法9条1項・8項(当時)と規則(政令)の規定の内容の整理 ◆行政命令への委任についての一審と控訴審の比較 一審「要するに新たな租税を設けると同一の効果」 控訴理由「解釈規定であって…創設的に定められた規定ではな」い。 控訴審「法律自体から委任の目的、内容、程度などが明らかにされていることが必要」。「課税要件について、法律で概括的、白地的に命令に委任することは許されない」 ◆性質上費用とされているものの損金算入を否定することが細目的といえるか? ◆一般的・白紙的委任でも政令の内容が妥当ならば良いか?――租税法律主義(の中の課税要件法定主義)の意義、すなわち民主主義の意義をどう捉えるか、の問題。(cf.登録免許税震災特例事件・神戸地判平成12年3月28日訟月48巻6号1519頁ケ6版29頁{その後大阪高判平成12年10月24日訟月48巻6号1534頁・最判平成17年4月14日民集59巻3号491頁百選7版122行政百選II8版155ao……過大に登録免許税を納付して登記等を受けた者が登録免許税法31条2項(平成14年改正前)所定の請求の手続によらないで過誤納金の還付を請求することの可否})[浅妻]中身が妥当な租税の規定をアメリカ人が定めたとして、規定があれば課税要件明確主義の問題(自由主義からくる予測可能性の問題)は生じないし、内容に関しても、もしかしたら日本の国会よりアメリカ人の方が合理的な租税の規定を作ってくれるかもしれない。しかし、租税法は政治的闘争の果てにできるものである、という点は恐らく看過できない。政令の場合は、官僚に授権するかどうかという問題。 ◆「委任命令の体系のみから論理的に導き出すことができるか」「何らかの基礎的な考え方に照らして事案が判断されていると考えるべきか」――論理体系のみならず、会計における扱いなど、背景事情も考慮されるか?例えば、会計において役員賞与が性質上費用とされていなかったとしたら、その損金算入を否定する政令が租税法律主義違反とされたかどうか? ◆同族会社の行為・計算の否認規定だけでは対処しがたい部分……税「負担を不当に減少させる」場合に本件が当たるか? 費用性が認められる役員給与の損金算入が法132条で否認されうるか?[浅妻]税「負担を不当に減少させる」場合……費用でないものを費用であるとして損金にすることなどであろうが、役員に支給される金員のどの部分が税の「負担を不当に減少させる」部分であるのか、つまりどこからどこまでが費用でどこからが費用でなくなるのか、みなし規定なしに対処するのは難しかろう。また、本件のように費用性が認められるとされた部分については、なおさら否認しがたかろう。 |
6版§113.01丸中縫工株式会社事件・名古屋地判平成6年6月15日平成2(行ウ)5号訟月41巻9号2460頁棄却・名古屋高判平成7年3月30日平成6(行コ)21号税資208号1081頁棄却・最判平成9年3月25日平成7(行ツ)110号税資222号1226頁棄却確定ap……課税要件明確主義(⇒2.2.1.1.b)と不確定概念との関係について 「法人税法三四条一項の規定の趣旨、目的及び法人税法施行令六九条一号の規定内容に照らせば、法人税法三四条一項所定の『不相当に高額な部分の金額』の概念が、不明確で漠然としているということはできないから、所論違憲の主張及び同項を限定して解釈すべきであるとする主張は、その前提を欠く、原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。」 |
6版§325.01三和クリエーション株式会社事件・東京地判平成24年10月9日訟月59巻12号3182頁百選7版60・東京高判平成25年3月14日訟月59巻12号3217頁(浅妻章如・速報税理2014年7月11日44-49頁) 事前確定届出給与該当性は厳しく判断される。(類例……東京地判平成26年7月18日平成24(行ウ)536号棄却) cf. 株式会社ホクリク事件・東京地判令和6年2月21日令和4(行ウ)566号棄却・東京高判令和6年10月2日令和6(行コ)93号棄却……届出と異なる額を支給した場合は事前確定届出給与に当たらない。 |
2版§325.01東京山手青果株式会社事件・(東京地判平成6年11月29日平成4(行ウ)83号・東京高判平成8年3月26日平成6(行コ)217号・)最判平成10年6月12日平成8(行ツ)138号判時1648号53頁百選4版110頁aq 事実・争点 旧売買として昭和51年、X会社がその取締役・Aから土地・建物を購入。本件譲渡として昭和62年、Aの退職慰労金の一部として本件土地建物を帳簿価額(約2500万)で現物支給。これにつき、更正処分等として、Y税務署長は、本件土地の時価は約1.6億円以上とし、譲渡益をXの益金に計上。 判旨 「上告人は、退職した役員に対する退職給与の支給として、上告人の固定資産である土地をその帳簿価額である二五〇〇万円で譲渡し、右譲渡に係る事業年度の確定した決算においてその旨の経理をしたが、右土地の右譲渡時における適正な価額は少なくとも一億六〇五三万四三六〇円を下るものではなかったというのであるから、右事実関係の下においては、右土地の譲渡時における右適正な価額と右帳簿価額との差額は法人税法三六条にいう損金経理をしなかった金額に該当するとした原審の判断は、正当」。 損金経理を要求する理由――費用であるという意思表示(内部的にも外部的にも)。また、所得の適正な把握のため。それは22条4項が公正妥当な会計処理の基準に従うことを要求する趣旨にも添う。(但し現在損金経理は要求されていない) Aの課税――少なくとも1.6億円の退職所得を受け取ったものとして課税される。 解除した場合――私法に忠実に考えれば、遡ってXからAへの土地の移転がなかったことになるので、Xに譲渡益は発生せずXへの更正処分は不発となり、Aの退職所得からは本件土地建物の額の分は引かれて課税所得が再計算され、更正の請求をすることになる。但し経済的成果喪失要件非充足だと認められない。 22条2項益金:時価1.6億円で譲渡したと擬制。譲渡益1.35億円発生。 22条3項損金・34条:1.6億円相当の役員給与のうち「不相当に高額な部分」の損金算入不可。本件では損金経理していない部分(1.35億円)の損金算入が認められない。 Aにも所得課税がなされるので、法人・個人の二重課税が発生することにも留意。 |
東京地判令和5年3月23日令和2(行ウ)456号金判1675号24頁(棄却)(西本靖宏・ジュリスト1590号10頁、山田麻未・租判2024年6月21日報告、金子友裕・租税訴訟17号101頁)・東京高判令和6年1月18日令和5(行コ)112号金判1693号36頁(棄却)(未確定)……X社(原告)は味噌等の製造、卸、販売等を目的とする内国法人である。X社が本件各役員(太郎、次郎、花子の3人。3人は兄弟)に支払った役員給与のうち不相当に高額(法人税法34条2項)な部分は損金に算入できないという前提で東山税務署長が更正処分等をした。 判旨 「東山税務署長は、平成25年9月期法人税更正処分ないし平成28年9月期更正処分において、太郎及び次郎の適正給与額を算定するに当たり、本件類似法人の役員給与最高額の平均額に、売上高、改定営業利益及び個人換算所得を勘案すべき要素として等分の重みづけをして乗じて算出する方法(本件算式)により適正な役員給与額を算定したものである。本件算式において本件類似法人の役員給与最高額の平均額が基準値とされたことについては、太郎及び次郎が原告の代表権を有する取締役であったこと、原告の事業内容(認定事実ア(イ))及び原告の収益状況(認定事実イ)に鑑みると、合理的といえる。そして、太郎が原告の売上げを得るために果たした職責や達成した業績(認定事実ア及びイ)に鑑みると、東山税務署長が、本件類似法人の役員給与最高額の平均額に一定の加重をすることが相当であると判断して、原告と本件類似法人との間に存する偏差を調整するために、法人税法施行令70条1号イにおいて適正給与額の判断要素として規定している「事業規模」の指標に当たるものとして売上高、「収益」に当たるものとして改定営業利益及び個人換算所得(同族会社における実質的な所得金額と解される。)を勘案要素として考慮した本件算式を用いて算出したことは合理的であり、花子が原告の売上げを得るために果たした職責や業績に鑑みると、花子についても、同様に、本件算式を用いるのが相当である。したがって、太郎及び花子については、本件算式により算出される金額が適正給与額に該当し、それを超える金額が「不相当に高額な部分の金額」に該当すると認めるのが相当である。 これに対し、次郎については、平成27年11月までは原告の業務を担っておらず、原告から給与の支給がされていた平成27年12月から平成28年3月までの4か月間に果たした職務の内容等に鑑みても、本件類似法人の役員給与最高額の平均額に一定の加重をすることが相当とは認められない。したがって、本件類似法人の役員給与最高額の平均額の4か月分(3分の1を乗じた金額)が適正給与額に該当し、それを超える金額が、「不相当に高額な部分の金額」に該当すると認めるのが相当である。」 |
§325.05行田電線株式会社・最判昭和43年5月2日民集22巻5号1067頁百選3版44et……法人税法57条(旧法人税法9条5項)所定の欠損金繰越控除権が、商法103条(平成17年改正前)所定の合併法人に承継されるべき被合併法人の「権利」に含まれる、という学説(いわゆる人格承継説:中川一郎、北野弘久)もあったものの、判例は消極説を採用した。 赤字会社が黒字会社を吸収する吸収合併(いわゆる逆さ合併について株式会社サンエス事件・広島地判平成2年1月25日行集41巻1号42頁は法人税法132条1項(同族会社行為計算否認規定)により欠損金繰越控除を否認した。 平成13年改正後の法人税法57条2項は適格合併時の欠損金繰越控除権の引継を認めることとなった。合併について長戸貴之『事業再生と課税 コーポレート・ファイナンスと法政策論の日米比較』(東京大学出版会、2017)参照。 |
6版§323.02東光商事株式会社事件・最大判昭和43年11月13日民集22巻12号2449頁nr 事実・争点 株主相互金融を営む株式会社Xが株主に支払う株主優待金(奨励金または謝礼金)は、利益配当に当たる(損金算入は認められない)か?費用として認められるか? 判旨 上告棄却(X敗訴)「いわゆる『利益の処分』のごときも、年度ごとの所得額が算定され、課税された後にはじめて可能となるものであるから、所得額算定の要素としての損金に含まれない」 「仮りに、経済的実質的には事業経費であるとしても…そのような事業経費の支出自体が法律上禁止されているような場合には、少なくとも法人税法上の取扱のうえでは、損金に算入することは許されない」 本件のように「会社の決算期における利益の有無に関係なく」支払うような資金調達方法は「商法が堅持する資本維持の原則に照らして許されない」 「会社から株主たる地位にある者に対し株主たる地位に基づいてなされる金銭的給付は、たとえ、Xに利益がなく、かつ、株主総会の決議を経ていない違法があるとしても、法人税法上、その性質は配当以外のものではあり得ず、これをXの損金に算入することは許されない。」 本件の支払が「配当とはその性質を異にすることXの主張のとおりとしても、このような金員の支払は、前示のとおり、法律上許されないのであるから…」 考察 判決理由(1)違法な支出の損金不算入(2)株主たる地位に基づき支払われるものは全て配当……どっち? 松田意見 株主たる地位に基づく金銭給付は全て配当であり、違法性は無関係。 奥野反対意見 銀行預金利子と同様であり、事業経費である。違法性は無関係。 ところで本件の直接の争いは【損金算入の可否】か【配当該当性】か?配当と利息費用という二元的構成は採れないのか?[浅妻]本判決のratio decidendiが損金算入不可だけだとすれば、実は「配当以外のものではあり得ず」は傍論ということになるのかもしれない。 違法支出の損金算入を一般に否定するという筋を採りたくとも、それが判例法理として固まっているかについては疑問の余地あり(cf. 6版§323.03エスブイシー事件・最決平成6年9月16日刑集48巻6号357頁)。支出の違法性が損金不算入に直結する訳ではないとすれば、損金不算入を補強するために配当に該当しないといいたくなるが、すると今度は6版§221.02鈴や金融事件・最判昭和35年10月7日民集14巻12号2420頁(⇒4.2.2.1.配当所得の定義)(会社の損益計算上の利益に基づかなければ配当でない)と本件(株主たる地位に基づく支払は全て配当)とが矛盾する? 矛盾はないと無理やり説明するならば……支払者と受取人とで同じ種類である必然性はない(?) |
国分グループ本社株式会社事件・東京地判令和5年7月20日令和3(行ウ)588号(認容、確定)(藤原健太郎・租判2024年7月5日報告、中村繁隆・ジュリスト1600号10頁) デリー社の平成25年12月31日時点の貸借対照表上の純資産合計額は−4億8824万1430円だった。ロジテム社の平成24年2月29日時点(当時は協同組合だった)の貸借対照表上の純資産合計額は−2億9581万4159円だった。ロジテム社の筆頭出資者はMNリテール社であり次点がデリー社だった。ロジテム社は組織変更により平成26年2月1日に株式会社になった。 デリー社、MNリテール社及び春雪さぶーる社の3社は、平成26年2月3日、ロジテム社に対してそれぞれが有していた各建設協力金に係る債権の額を現物出資し、ロジテム社が3社に対して第三者割当増資により普通株式を発行した(debt equity swap。「本件DES」)。 デリー社は、平成26年2月10日、事業関連権利義務(「本件承継資産負債」)をロジテム社に承継させるという吸収分割をする旨の契約を締結した。ロジテム社はデリー社に普通株式9083株を発行した。デリー社は平成26年12月31日に解散した。平成26年12月期のデリー社の申告において、本件分割が法人税法62条の3第1項の適格分社型分割に該当することを前提とし、譲渡損益を計上していなかった(しかし原告は訴訟において組織再編の適格性を主張しなかった)。デリー社は平成27年12月1日に原告(X社。国分グループ本社株式会社)(デリー社の完全親会社)に吸収合併された。 税務署長は、デリー社の平成26年12月期の所得計算に関し、分割時の本件承継資産負債の価額が6億0132万円(帳簿価額2598万6096円)であると算定し、適格分社型分割に該当せず譲渡損益を計上する必要がある、とした。 判旨 「法人税法62条1項の「分割承継法人に当該移転をした資産及び負債の当該(中略)分割の時の価額」とは、分割時における時価をいうものと解すべきところ、時価とは、財産の客観的な交換価値をいうものであり、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解され、課税の明確性や公平を確保する観点からは、一定の客観的な基準によって算定された価額であることが要請されるというべきである。」 「本件事業計画の内容に合理性・客観性があるとはいい難く、本件価値算定の過程が論理性・客観性が担保された公正なものであったということはできず、その他、本件承継資産負債の時価を6億0132万円と算定したことが合理的であると認めるに足りる証拠はない。また、本件においては鑑定が実施されておらず、本件全証拠によっても、DCF法により、本件分割時の本件承継資産負債の価額の算定を行うのに必要な数値を確定することができない。」 「本件においては、本件で提出されている証拠に鑑み、本件承継資産負債の時価を、プルータスの上記意見書の評価額の上限である1729万5000円と認めるのが相当である。」 |
税制 | 無税 | 取引高税 | 売上税 | 付加価値税 | 簡易B80% | invoiceB5% | 帳簿方式B5% |
農家 A |
2000 | 2000×1.1 =2200税200 |
2000 税0 |
2000×1.1 =2200税200 |
2200 税200 |
2200 税200 |
2200 税200 |
煎餅 B |
6000 | (2200+4000)×1.1 =6820税620 |
6000 税0 |
6000×1.1=6600 税600-200=400 |
6600 税600-480=120 |
6300 税300-200=100 |
6300 税300-200=100 |
小売 C |
7000 | (6820+1000)×1.1 =8602税782 |
7700 税700 |
7000×1.1=7700 税700-600=100) |
7700 税700-600=100 |
7700** 税700-300=400 |
7700*** 税700-573*=127 |
第6列(簡易B80%)(⇒6.2.4.2.c)、第7列(invoiceB5%)(⇒6.3.3.2.)、第8列(帳簿方式B5%)(⇒6.4.4.2.a) |
労働者 不動産等所有者 |↑ 地↑|土地 労||賃 代||建物 務||金 等||機械設備 ↓| |↓ 仕入 ┏━━━━━┓ 販売 ―――→┃ 事業者 ┃――――→ 購入者 ←―――┗━━━━━┛←―――― 仕入 ↑|配 |↑ 売上 出||当 利||貸 資|↓等 子↓|付 株主 債権者 |
6.1.2.2.a 控除法と加算法控除法:事業の総売上金額から、他から購入した土地・建物・機械設備・原材料・動力等に対する支出を控除した金額。加算法:賃金・地代・利子および企業利潤を合計した金額。 (控除法と加算法は計算方法が違うだけで、内容は同じである) 6.1.2.2.b 付加価値税の三類型消費型付加価値:機械等についても即時控除⇒C=GDP-I(消費=国内総生産-投資)所得型付加価値:機械等については減価償却⇒NDP=GDP-減価償却(net domestic product国内純生産) 売上型付加価値:機械等については控除不可⇒GDP(gross domestic product国内総生産) |
国 | 日本(10%) | X国(20%) | Y国(0%) |
農家 | A2200税200 | E2400税400 | I 2000税0 |
煎餅 | B6600税400 | F7200税800 | J 6000税0 |
小売 | C7700税100 | G8400税200 | K 7000税0 |
国際 取引 |
CがFから7200で輸入し1100上乗せし8300で売り100納税 CがJから6000で輸入し1100上乗せし7100で売り100納税 |
GがBから6600で輸入し1200上乗せし7800で売り200納税 | KがBから6600で輸入し1000上乗せし7600で売り0納税 |
アマゾン手数料事件・東京地判令和4年4月15日平成31(行ウ)201号棄却(野一色直人・ジュリスト1584号10頁)(東京高判令和4年12月8日棄却公刊物未登載未確認) 判旨 「消費税法施行令6条2項7号にいう『事務所等』とは,当該役務の提供に直接関連する事業活動を行う施設をいうものと解され,その所在地をもって,役務の提供場所に代わる課税対象となるか否かの管轄の基準としている趣旨からすれば,当該役務の提供の管理・支配を行うことを前提とした事務所等がこれに当たる」。 「出品サービスは,サービスの利用者がアマゾンにおいて直接販売するために商品を掲載するためのサービスであり,サービスの利用者の商品を特定のアマゾンサイトに掲載し,販売促進及びプロモーションを行うことを内容とするものであるところ,掲載された商品はインターネット上に開設されたアマゾンのサイトを通じて,全世界の人々が閲覧できるのであるから,出品サービスは,全世界の人々が原告の商品に関する情報を閲覧することを可能にするものといえ,また,本件全証拠によっても,その役務提供の対価である出品手数料が国内の役務に対応する部分と国内以外の地域の役務に対応する部分とに合理的に区分されているとはいえない。[改行] そうすると,出品サービスは,『国内及び国内以外の地域にわたって行われる役務の提供その他の役務の提供が行われた場所が明らかでないもの』(消費税法施行令6条2項7号)に該当する」。 「出品サービスに係る『役務の提供を行う者』(消費税法施行令6条2項7号)は,米国アマゾン社であるといえ,米国アマゾン社の事務所等の所在地が米国にあること……からすれば,出品サービスの役務の提供に直接関連する事業活動を行う施設であって,当該役務の提供の管理・支配を行うことを前提とした事務所等は,米国国内に所在している」。 「出品サービスに係る役務の提供が国内において行われたとは認められないから,出品手数料は,消費税法30条1項に規定する仕入税額控除の対象となる課税仕入れに該当しない」。 |
富山地判平成15年5月21日平成14(行ウ)5号税資253号順号9349棄却・名古屋高金沢支判平成15年11月26日平成15(行コ)5号税資253号順号9473棄却(佐藤英明・税研148号最新租税判例60・169頁)……原告(個人)がA有限会社(原告が代表者)に対し建物を賃貸借していることが消費税法2条8号の「資産の譲渡等」に当たり原告が消費税法2条3号の「事業者」に当たる。 |
東京地判令和5年3月8日平成31(行ウ)102号(棄却)……ホステス報酬が給与に当たり仕入税額控除が認められなかった事例 |
株式会社伊場仙・東京地判平成9年8月8日平成8(行ウ)34号行集48巻7・8号539頁判タ977号104頁棄却確定百選6版85……建物の賃貸借契約の合意解除に際し賃借人に支払った立退料に係る消費税相当額を賃貸人に係る消費税法30条1項の「課税仕入れに係る消費税額」とすることはできない。 |
京都地判平成23年4月28日訟月58巻12号4182頁平成19(行ウ)48号棄却・大阪高判平成24年3月16日訟月58巻12号4163頁平成23(行コ)86号棄却(三木義一・ジュリスト1448号123頁)……弁護士会の依頼で弁護士が法務相談業務をし依頼者を得た場合に弁護士会が弁護士から受領する負担金は弁護士会の課税取引の対価である。 |
神戸地判平成24年11月27日平成22(行ウ)61号税資262号順号12097棄却確定……医療が消費税法で非課税なので、付加価値税分を医療法人が負担することになっている(又は診療報酬の改定での値上げが不十分である)ことが違憲であるとの主張を斥ける。 |
カロート事件・東京地判平成24年1月24日平成22(行ウ)171号判時2147号44頁税資262号順号11859棄却・東京高判平成25年4月25日税資263号順号12209平成24(行コ)84号棄却確定……宗教法人の墓石等販売は法人税法施行令5条1項1号の物品販売業(カロートについては不動産貸付業)に当たる(法人税非課税の「墳墓地の貸付け」{法令5条1項5号ニ;法基通15-1-18}に当たらない)。墓地等管理料は役務の対価であるから消費税(消費税法には公益法人・宗教法人等の優遇規定はない)の課税標準に含まれる(墳墓地の貸付は土地の貸付だから元々非課税)。cf.6版§312.02ペット葬祭業事件・最判平成20年9月12日判時2022号11頁 |
福岡地判令和3年3月10日税資271号順号13540棄却・福岡高判令和3年12月7日税資271号順号13639棄却・最三小決令和4年6月21日税資272号順号13729棄却、不受理……有料老人ホームにおける食事提供は非課税取引に当たらない。 |
東京地判令和5年5月25日令和3(行ウ)123号(棄却)(酒井克彦・租税判例研究会報告予定)……中古住宅を仕入れて販売する事業。消費税法施行令45条3項「課税資産の譲渡の対価の額と非課税資産の譲渡の対価の額とに合理的に区分されていないとき」該当性。 |
インディーレーシングリーグ事件・東京地判平成22年10月13日平成20(行ウ)730号訟月57巻2号549頁棄却確定百選7版88(日隈将人&真鍋亮平2023.3.30前編後編)……消費税法4条3項2号、消費税法施行令6条2項7号「国内及び国内以外の地域にわたって行われる役務の提供」に関して。アメリカで年間15または16レース、日本で年間1レースのカーレース(Indy Racing League)に参戦する日本法人の役務の対価が国内役務に係るものと国外役務に係るものとに合理的に区別できない(区別できる場合については消費税法28条1項参照)ことから、レースのスポンサー契約により受ける対価が、すべて日本の消費税の課せられるものであるとした例。尤も本件ではスポンサー企業群が日本法人だったので、スポンサー側が仕入れ税額控除をとるために、各レースごとの個別の契約とするのではなく、わざと一年間ごとの契約として課税取引扱いを意図した、という事情もあったようである。 |
Hanatour Japan事件・東京地判平成27年3月26日訟月62巻3号441頁平成23(行ウ)718号棄却(廣木準一・ジュリスト1500号160頁)・東京高判平成28年2月9日平成27(行コ)156号棄却百選7版89……来日観光客への役務提供が輸出免税取引(消費税法7条1項、消費税法施行令17条2項7号ハ)に該当しないとされた事例。 |
株式会社いい旅事件・東京地判平成28年2月24日平成26(行ウ)250号判時2308号43頁棄却確定……訪日ツアー輸出免税非該当。 |
輸出物品販売場制度について、宝田無線電機株式会社事件・東京地判令和2年6月19日平成30(行ウ)321号税資270号順号13415棄却(藤原健太郎・ジュリスト1575号155頁)・東京高判令和3年9月2日令和2(行コ)146号税資271号順号13599棄却……原告・宝田無線電機株式会社(以下X社)は平成元年以前から本件販売場について物品税法条の輸出物品販売場の許可を受けていた。輸出物品販売場継続経営届出書(消費税法附則4条)を提出し平成元年4月1日より消費税法8条6項の輸出物品販売場の許可を受けたものと見なされる。香港及び韓国の旅行会社(専業国際旅運有限公司(香港社)、株式会社LOTTE(ロッテ社)、DONG−A TRAVEL AGENCY(ドンア社))の従業員が関与しつつ本件販売場で金工芸品の本件譲渡が本件各課税期間(平成28年4月1日から29年2月28日)になされた。本件各譲渡で外国人旅行者(本件各名義人。7000人以上)が複数の金工芸品(1kg。約450万円)を購入し一名義人あたり1000万円超の代金支払いがなされたとされている。神田税務署長は、本件各譲渡が消費税法8条1項にいう非居住者に該当しないとして更正処分をした。裁判所も処分を維持した。本件は循環取引(所謂carousel fraud、回転木馬詐欺)(明成社⇒X社⇒ドンア社⇒明成社)(明成社とX社は日本法人。ドンア社は韓国法人。明成社が金工芸品を製造)(出版社の明成社とは別)であるが、循環取引であるか否かは判旨と深く関わらないように読める。 cf.東京地判平成18年11月9日税資256号順号10569平成16(行コ)392等棄却確定(佐藤明弘・税理51巻11号129頁)……ロシア人船員等への中古自動車の販売が輸出免税対象取引ではないとされた事例。 cf.宮川博行「消費税の免税制度に関する一考察―輸出物品販売場制度の在り方を中心として―」税務大学校論叢64号89頁(2010.6.29)参照。[浅妻]消費者の購入についてまで輸出免税を適用することが公平・効率性に適うか疑問。 |
東京地判令和4年7月15日令和2(行ウ)339号(棄却)……台湾への輸出に関し商品を仕入れたのが原告(日本法人)ではなく台湾法人であるとされた事例。 |
株式会社アペックス事件・東京地判令和4年1月21日令和2(行ウ)198号(棄却)・東京高判令和5年1月25日令和4(行コ)41号(棄却)……旅券のコピーの提出がなく消費税法8条1項の消費税の免除が認められなかった事例 |
社会福祉法人ゆたか福祉会事件・名古屋地判令和6年7月18日令和4(行ウ)67号棄却(倉見智亮「社会福祉法人が生産活動従事者に支払う工賃の「課税仕入れに係る支払対価」該当性」新・判例解説Watch租税法No.191、田中啓之租税判例研究会2025年2月7日報告) 事実 原告は、平成25年4月1日から平成29年3月31日までの間、いずれも名古屋市内又は愛知県内(名古屋市以外)に所在し、障害者総合支援法29条1項の指定を受けた13の事業所(本件各事業所)において、同指定に係る生活介護、就労移行支援及び就労継続支援B型(就労継続支援B型等)の各障害福祉サービス(本件各福祉サービス)に係る事業を行っていた。原告は、本件各事業所において、利用者に対して本件各福祉サービスを提供する一方、希望する利用者に生産活動の場を提供し、当該利用者が提供する役務によって生産した商品を市場で売却するなどし、その売却益等のうちの一定部分を本件工賃として利用者に支払っている。 争点 本件工賃が消費税法30条1項に規定する課税仕入れに係る支払対価に該当するか 判旨 請求棄却 「消費税法は、「課税仕入れ」について、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けること(他の者が事業として役務の提供等をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当するもの)と定める(2条1項12号)から、ある支払が課税仕入れに係る支払対価に該当するためには、当該支払を受ける者が事業として役務の提供等をしたとした場合に、当該支払が当該役務提供等の「対価」(同項8号)と認められる必要がある。 そして、上記説示した消費税の性格及び課税の仕組みからすれば、消費税法は、ある支払が転嫁が可能な程度に個別具体的な役務の提供等と結びついている場合に課税対象とする趣旨であり、同号の「対価を得て行われる・・・役務の提供」とは、具体的役務提供によって支払が生じたという対応関係が認められるような役務の提供を意味するものと解される。 したがって、ある支払が課税仕入れに係る支払対価として仕入額控除の対象となるのは、当該支払が個別具体的な役務の提供を受けたことによって生じたという対応関係が認められることが必要となるというべきである。」 「本件各作業所の利用者は、原告により提供される本件各福祉サービス利用の一環として、自らの知識及び能力の向上等のための訓練として生産活動に従事している」。 「本件各事業所の利用者は、原告との間で、請負、委任等の契約を締結して生産活動に従事し、原告に役務を提供した反対給付として本件工賃を受領しているのではなく、原告による本件各福祉サービスの一環として,生産活動に係る事業の収入から生産活動に係る事業に必要な経費を控除した残額(剰余金)の分配として本件工賃を受領している」。 「原告は、本件各福祉サービスの一環として、本件各事業所の利用者に対し、工賃支払を含む生産活動の機会を提供しているものであって、本件工賃は生産活動による成果物の販売代金に転嫁可能な程度に生産活動への従事と結びついているとはいえないから、本件工賃の支払が利用者による役務の提供に対する反対給付であるとは認められず、本件工賃の支払は、生産活動への従事に伴う役務の提供を受けたことに対応しているとはいえない。したがって、本件工賃が消費税法30条1項に規定する課税仕入れに係る支払対価に該当すると認めることはできない。」 |
舛田住宅株式会社事件・福岡地判平成9年5月27日平成8(行ウ)4号判時1648号60頁棄却確定百選4版83……建築した建物を土地と一括譲渡した場合の課税仕入れに係る消費税額の控除税額を一括比例配分方式により計算して確定申告をした後,計算方法の誤りを理由として個別対応方式による計算に基づいてした更正の請求に対し,一括比例配分方式を適用してした消費税の更正の一部取消請求が,棄却された事例。 |
徳島県青少年センターPFI株式会社事件・東京地判平成24年9月7日平成23(行ウ)184号税資262号順号12032棄却確定(廣木準一・ジュリスト1474号139頁)……原告・X社は徳島県との間で本件施設整備運営事業契約を締結した。契約金額は約17.8億、うち本件施設の整備に関する対課は約10.5億としていた。徳島県は32回払いで支払うとしていた。割賦元本額約9.5億、割賦金利約1億。Xは、平成20年1月28日〜同年3月31日の課税期間において幾つか手数料等の支払をし、これが消費税法30条2項1号イ「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」に当たるとの前提で申告をした。税務署長は同号ロ「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ」に当たるとの前提で更正処分をし、裁判所も処分を維持した。 |
エー・ディー・ワークス事件・東京地判令和2年9月3日平成30(行ウ)559号認容・東京高判令和3年7月29日令和2(行コ)190号原判決取消・最判令和5年3月6日民集77巻3号440頁令和4(行ヒ)10号棄却ix(田中治・ジュリスト1555号10頁、今村隆・ジュリスト1563号134頁、西山由美・ジュリスト1557号164頁重判令02年、酒井貴子・ジュリスト1586号10頁、片山直子・新・判例解説Watch租税法No.179、渡辺周・税研230号78頁、山本拓・ジュリスト1592号110頁、藤原健太郎・法学セミナー830号114頁、漆さき・ジュリスト1597号178頁重判令05年)……原告(X社)は転売目的で集合住宅建物(マンション)84棟を購入し、個別対応方式によりこの購入に係る課税仕入れ(本件各課税仕入れ)が課税対応課税仕入れに区分される前提で、購入に係る消費税額の全額を購入時の属する課税期間の仕入税額控除の額として申告していた。Xは、マンションを購入してから転売までの間、棚卸資産として計上して賃料(非課税取引)を受領していたことから、税務署長は、本件各課税仕入れは共通対応課税仕入れに区分される前提で、購入に係る消費税額全額ではなく、課税売上割合を乗じた額だけが仕入税額控除の額となるとする更正処分をした。 95%ルールの見直しについて『平成23年度 税制改正の解説』648頁以下参照。 一審(請求認容)……本件各課税仕入れは課税対応課税仕入れに当たる。 控訴審(原判決取消。請求棄却)……本件各課税仕入れは共通対応課税仕入れに当たる。過少申告加算税に関し国税通則法65条4項1号にいう「正当な理由」は認められない。 最高裁判旨……「1 消費税法は、生産、流通等の各段階で二重、三重に税が課されて税負担が累積することを防止し、経済に対する中立性を確保するため(税制改革法10条2項)、課税期間中に行った課税仕入れに係る消費税額を当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除するものとしている(消費税法30条1項1号)。もっとも、同法は、所定の場合において当該課税期間中に行った課税仕入れにつき用途区分が明らかにされていないときは、課税仕入れに係る消費税額に、課税売上割合、すなわち、課税期間中の所定の売上げの総額に占める課税資産の譲渡等に係る売上げの割合を乗じて計算する方法により控除対象仕入税額を計算するものとし(同条2項2号)、また、帳簿及び請求書等の保存がない場合には原則として当該課税仕入れに係る消費税額の控除を認めないものとする(同条7項)など、課税の明確性の確保や適正な徴税の実現といった他の目的との調和を図るため、税負担の累積が生じても課税仕入れに係る消費税額の全部又は一部が控除されない場合があることを予定しているものということができる。 そして、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、税負担の累積が生ずる課税資産の譲渡等と累積が生じないその他の資産の譲渡等の双方に対応する課税仕入れにつき一律に課税売上割合を用いることは、課税の明確性の確保の観点から一般に合理的といえるのであり、課税売上割合を用いることが当該事業者の事業の状況に照らして合理的といえない場合には、課税売上割合に準ずる割合を適切に用いることにより個別に是正を図ることが予定されていると解されることにも鑑みれば、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等の双方に対応する課税仕入れは、当該事業に関する事情等を問うことなく、共通対応課税仕入れに該当すると解するのが消費税法の趣旨に沿うものというべきである。このように解することは、課税仕入れを課税資産の譲渡等「にのみ」要するもの(課税対応課税仕入れ)、その他の資産の譲渡等「にのみ」要するもの(非課税対応課税仕入れ)及び両者「に共通して」要するもの(共通対応課税仕入れ)に区分する同条2項1号の文理に照らしても自然であるということができる。 そうすると、課税対応課税仕入れとは、当該事業者の事業において課税資産の譲渡等にのみ対応する課税仕入れをいい、課税資産の譲渡等のみならずその他の資産の譲渡等にも対応する課税仕入れは、全て共通対応課税仕入れに該当すると解するのが相当である。」 「2 前記事実関係等によれば、本件各課税仕入れは上告人が転売目的で本件各建物を購入したものであるが、本件各建物はその購入時から全部又は一部が住宅として賃貸されており、上告人は、転売までの間、その賃料を収受したというのである。そうすると、上告人の事業において、本件各課税仕入れは、課税資産の譲渡等である本件各建物の転売のみならず、その他の資産の譲渡等である本件各建物の住宅としての賃貸にも対応するものであるということができる。 よって、本件各課税仕入れは、その上告人の事業における位置付けや上告人の意図等にかかわらず、共通対応課税仕入れに該当するというべきである。」 補足:令和2年度税制改正後、居住用賃貸建物に係る課税仕入れは通常の仕入税額控除の対象外。 類例:ムゲンエステート事件・東京地判令和元年10月11日平成29(行ウ)590号棄却・東京地判令和元年10月16日平成29(行ウ)590号却下・東京高判令和3年4月21日令和元(行コ)281号一部棄却、一部変更(過少申告加算税賦課決定処分だけ取消)・最判令和5年3月6日令和3(行ヒ)260号破棄自判(過少申告加算税復活) |
§400.01税制調査会「わが国税制の現状と課題―21世紀に向けた国民の参加と選択―」290-291頁(2000.7) (1) 相続による資産増加は包括的所得概念によれば所得であるので、所得課税の補完ともいわれる。が、所得税法を適用するとなると低所得階層にとって税負担が重過ぎることとなりがちなので、所得税を免じ(所税9条1項16号)相続税法を適用することによって実際の税負担が軽くなる。 (2) 富の再分配という政策もあるので、高所得階層にとっては税負担が軽くなるとは限らない。 (3) 「被相続人の生前所得について清算課税」[浅妻]言ってはならないことであると考える。真っ当に納税してきた被相続人との関係で説明がつかない。また、被相続人段階で譲渡所得課税がなされなかった部分について、相続税課税により相続人段階での譲渡所得課税がなくなる仕組みでもない。 (4) 「資産の引継ぎの社会化」……要するに老人社会保障の見返りとしての相続課税。本来は被相続人への社会保障給付の分(のうち、保険の論理では給付が正当化されない部分)、相続を否定するべき。そしてこの趣旨からすれば現在の基礎控除は高すぎる。 遺産税:遺産に着目。財産税。主に英米。 遺産取得税:相続人の富の増加に着目。所得税の補完。主に独仏。 ただしどちらも理念型にすぎない。 日本は遺産取得税の体系に属すとされているが、後述するように遺産税の考え方も取り入れられている。 |
(3)利他:子の喜びが親の喜びでもある (4)贈与の喜び:贈与すること自体に喜びを見出す |
経済学的モデルでは(3)と(4)は違う意味を持つが、現実世界での区別は容易でない |
6版§413.01相続財産の種類・範囲(1) 農地売主/買主相続事件・最判昭和61年12月5日訟月33巻8号2149頁百選7版80&最判昭和61年12月5日訟月33巻8号2154頁id 農地の買主(所有権まだ)が死亡した場合、土地(評価額299万円)が相続財産に算入され残代金債務等1965万円が相続債務であるとなるか(納税者の主張)、土地は相続財産でなく残代金債務等は確実と認められない相続債務であるとなるか(税務署の主張)。 農地の売主(所有権あり)が死亡した場合、相続税の課税財産は農地(評価額2018万円、かつ既収手付金等1600万円は預り金であり相続債務:納税者の主張)か、残代金債権2939万円(手付金等は相続債務でない:税務署の主張)か。 買主―――――――――――――――売主 代金の金銭所有権(1965万円) 土地所有権(2018万円?) 土地所有権移転請求権(299万円?) 売買残代金債権(4539万円) 売買残代金支払義務(-1965万円) 土地引渡義務(-4539万円?) 判旨 農地の買主が死亡した場合、「相続税の課税財産は…所有権移転請求権等の債権的権利」であり、その「価額は右売買契約による当該農地の取得価額に相当する1965万1470円」。「通達の定める評価方法により評価するものとされている農地自体と同様に取扱うことはできない」。 農地の売主が死亡した場合、「土地の所有権は…相続税の課税財産を構成しない」。「課税財産となるのは、売買代金債権2939万7000円」。 考察 所有権移転時……民法の原則に従えば意思の合致(即ち契約)があった時。しかし土地については、契約の解釈として所有権移転時は売買残代金が支払われた時とする旨の特約が存在したという推認もありうる。また、農地の場合は、知事の許可のおりた時、とする特約もありうる。 所有権移転前の売主相続……土地所有権、売買残代金債権、土地引渡義務を相続。 所有権移転前の買主相続……代金の金銭所有権、土地所有権移転請求権、売買残代金支払義務を相続。 買主相続事案の「本件相続税の課税財産は…債権的権利であって…農地自体と同様に取扱うことはできない」について……通達に従った土地の評価は299万円、債権的権利を売買契約に従って評価すると1965万円。 裁判所はこのギャップによって納税者が得をすることを認めなかった。 買主相続事案において、1965+299−1965としてしまうと、納税者に不当に有利になってしまう。だから最高裁は「課税財産」である「所有権移転請求権等の債権的権利」の「価額は…1965万1470円」であって「農地自体と同様に取扱うことはできない」とし、1965+1965−1965とした。(もしも所有権移転後に相続が発生した事案であれば、課税財産は土地所有権であるといわざるをえず、通達による低い評価を認めざるをえなかったであろう。) 民法だけでは本件の結論は導き出されない。通達に基づく評価が実勢価格より下回りがち、という背景がある。法律論としての焦点は、土地(低評価)なのか、土地に係る債権的権利(時価)なのか。 売主相続事案において、土地所有権を課税財産に含めると、その評価は低くならざるをえない(2018万円)。他方、債権的義務である土地引渡義務を買主相続事案と同様に評価すると、売買契約で定められた代金額(4539万円)で評価することとなる。しかし2018+4539−4539では納税者に不当に有利になってしまう。 この点、土地引渡義務も2018万円であると評価するならば、2018+4539−2018となり、納税者に不当に有利とならない。しかし、土地引渡義務という債務を土地の評価額と同じとしてしまうと、買主相続時案において「所有権移転請求権等の債権的権利」の評価は「農地自体と同様に取扱うことはできない」と述べたことと、整合しない。 そこで、売主相続事案において、最高裁は、土地所有権自体を課税財産から外し、土地引渡義務の評価の問題も合わせて外すことで、売買残代金債権のみを課税対象とする(比喩的には0+4539−0。本件では手付があるので0+2939−0)とした。 学説は判決に批判的。土地所有権が売主に残っていながら課税財産に含めないなどという理屈は奇矯にすぎる。土地そのものが相続される場合には、土地の実勢価格と通達による評価とのギャップによって納税者が得してしまうことは避けられないところ、売買途上の場合だけ買主相続でも売主相続でも評価ギャップによる納税者の得を認めたくないというのは都合よすぎ。 cf.東京地判平成26年1月24日平成24(行ウ)89号……被相続人がその所有する土地(農地を含む。)の売買契約を締結し,手付金を除く残代金の受領及び農地法所定の届出の前に死亡した場合において,同土地の所有権は残代金の支払と同時に移転する旨の同売買の特約はその実質が残代金請求権の確保にあったこと,農地法所定の届出を行うにつき法律上の障害がなかったことなど判示の事情の下では,相続税の課税財産は,同土地ではなく,同売買に係る残代金請求権である。 |
6版§431.02相続財産の種類・範囲(2) 上野事件・国税不服審判所平成17年6月20日裁決・裁決事例集69集217頁・大分地判平成20年2月4日平成17(行ウ)13号・福岡高判平成20年11月27日平成20(行コ)9号・最判平成22年10月15日民集64巻7号1764頁百選7版103at 被相続人が誤納した所得税の還付請求訴訟を提起し、相続人が訴訟を引き継ぎ、勝った。 誤納所得税の還付金は被相続人が受けたと遡及的に考えるべきか? 遡及する→相続人は相続税の課税を受ける。 遡及しない→相続人は一時所得として課税される。 最高裁は、還付請求権が相続財産に当たると判断した。(どちらが有利かは人によって異なる) |
6版§414.01債務控除 保証債務相続事件・名古屋地判平成10年11月11日平成9(行ウ)3号判タ1061号149頁棄却・名古屋高判平成11年4月16日平成10(行コ)38号税資242号138頁棄却ia……保証債務の債務控除(相続税法13条、14条1項)が認められなかった事例。 |
4版§414.01 殖産堂出資事件・東京地判昭和53年9月28日昭和51(行ウ)123号棄却・東京高判昭和55年9月18日昭和53(行コ)76号棄却確定 事実・争点 Aの相続財産に属する有限会社Sの出資の価額を、純資産価額方式により評価するに際して、将来の退職金相当額が、純資産価額から控除すべき負債に含まれるか否か。(退職金引当勘定を設定していれば問題なく控除できる) 判旨 控訴棄却(請求棄却・確定)確実と認められる債務に当たらないとした。 (1)個人事業(2)上場会社の株価(3)取引相場のない株式の評価の比較。 (3)で債務控除を認めなかった本件の結論は(2)と比べると酷だが(1)に近いともいいうる。 補足……停止条件付債務は明らかに確実な債務ではない。解除条件付債務は、現在債務として存在しているものの将来解除されるかもしれないものであり、相続時においては確実な債務であるとも思われるが、現在はこれも確実な債務ではないと考えられている([浅妻]やや疑問)。期限の定めのない債務は確実と認められる。 補足……社債を出している会社の純資産を評価する場合、社債分債務を負っているのでその分低く評価される。転換社債でもこの理が当てはまるか要考察。 |
6版§452.01共同相続人連帯納付事件・最判昭和55年7月1日民集34巻4号535頁百選7版79aw(中里実・法協99巻9号1435頁)……「連帯納付義務は、同法が相続税徴収の確保を図るため、相互に各相続人等に課した特別の責任であつて、その義務履行の前提条件をなす連帯納付義務の確定は、各相続人等の固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して、法律上当然に生ずるものであるから、連帯納付義務につき格別の確定手続を要するものではない」。 伊藤正巳補足意見「所論は、要するに、相続税法三四条一項の規定により他の相続人等の固有の相続税納税義務について連帯納付義務を負う相続人等は、税務当局による賦課課税方式に則つた手続がされない限り、納付すべき金額、納付期限、納付場所、納付額の限度、更正・決定の有無等その具体的内容を実際上容易かつ確実に知ることができない筈であることを理由として原審の判断を非難するものと解される。たしかに、相続人等の事情は一様ではないから、個々の具体的事案に即して考えてみると、場合によつては、連帯納付義務者に対し通常の申告納税方式による課税の一場合としての徴税手続をそのまま行うことが、その者に不意打ちの感を与えることを免れなかつたり、納付すべき額その他の具体的な納付義務の内容の不明確によりその者を困惑させるような事態になることがないわけではないと考えられる。しかしながら、そのこと自体は、確定した租税の徴収手続に関して生ずる問題であって、税額の確定手続に関する問題ではないと解すべきである。したがつて、右のような不意打ちの感を与えたり困惑させる事態を生ずるおそれがあることを理由として、連帯納付義務について、国税の確定手続に関する規定である国税通則法一五条、一六条の適用があると主張する所論は採用することができない。」 |
6版§444.01弁済期未到来の債務の評価 低利息債務評価事件(三越事件)・東京地判昭和46年3月31日昭和42(行ウ)224号棄却・東京高判昭和47年4月25日昭和46(行コ)25号棄却・最判昭和49年9月20日民集28巻6号1178頁破棄差戻au・差戻控訴審東京高判昭和50年3月20日昭和49(行コ)68号控訴棄却確定 判旨 「上告人らの被相続人である加藤伊助は、昭和二九年一月二八日株式会社三越から一億二九〇〇万円を利息年一分の約定で借入れ、同三七年一一月七日その弁済期までなお五一年を残して死亡し、本件相続が開始したが、当時の通常の利率は、金融市場の趨勢からみて年八分とするのが相当であった、というのである。そうすると、上告人らは、右相続債務につき年一分の約定利息を支払ってもなお、弁済期までの五一年間毎年借入額の七分(通常の利率と約定利率との差)である九〇三万円相当の経済的利益を留保しうることとなるので、これについて年八分の複利計算により五一年間の中間利息を控除した現価を元本金額から差し引くと、一八三五万三三六五円となることが計算上明らかであるから、これをもって相続開始の時における本件債務の評価額とすべきである。 しかるに、原審は、右利率差によって生ずる経済的利益の額を元本金額から差し引いたものが本件債務の評価額となることを認めながら、右差し引くべき経済的利益の額の算定については、通常の利率と約定利率との差である年七分の割合により中間利息を控除すべきものとし、結局、本件債務の額を四〇九万二六五〇円と評価している。しかし、右経済的利益について中間利息を控除するのは、それが弁済期までの間通常の利率で運用されることを前提とするものであるから、本件においては年八分の割合によって計算するのが当然であって、これと約定利率との差によるべき理由はなく、原審の計算方法は、誤りといわざるをえない。」 異論として、金子宏「相続税の課税価格の算出上控除すべき弁済期未到来の金銭債務の評価方法」法学協会雑誌95巻8号1412頁(相続人にとっての運用益を見るべき) |
6版§443.01上場株式等の評価 永大産業事件・大阪地判昭和59年4月25日行集35巻4号532頁百選7版85(控訴審大阪高判昭和62年9月29日行集38巻8・9号1038頁、上告審最判平成元年6月6日税資173号1頁昭和62年(行ツ)145号)……上場株式を相続した後で株価が暴落した事例でも、相続後の価格の高騰・下落は考慮しない。岩崎政明「相続株式の価格の暴落に対する災害減免法の類推適用の可否」税務事例22巻4号9-13頁。 |
5版§441.01ニチアス株式負担付贈与事件・東京高判平成7年12月13日行集46巻12号1143頁(一審東京地判平成7年7月20日行集46巻6・7号701頁 財産評価基本通達169(上場株式の評価)上場株式の評価は、次に掲げる区分に従い、それぞれ次に掲げるところによる。 (1) (2)に該当しない上場株式の価額は、その株式が上場されている金融商品取引所(国内の2以上の金融商品取引所に上場されている株式については、納税義務者が選択した金融商品取引所とする。(2)において同じ。)の公表する課税時期の最終価格によって評価する。ただし、その最終価格が課税時期の属する月以前3か月間の毎日の最終価格の各月ごとの平均額(以下「最終価格の月平均額」という。)のうち最も低い価額を超える場合には、その最も低い価額によって評価する。 (2) 負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得した上場株式の価額は、その株式が上場されている金融商品取引所の公表する課税時期の最終価格によって評価する。[(2)は平成2年改正で追加された] 事実 昭和63年11月29日、A氏はN株式23.8万株の現物買いの注文を出した。X1(Aの孫)とX2(Aの子)はそれぞれN株式11.9万株ずつの信用売りの注文を出した。1950円/株。AはK銀行から2億4990万円を借り入れた。昭和63年12月15日、AはX1及びX2に1億2495万円ずつの債務引受を条件としてN株式11.9万株ずつを贈与した。同日の株価は1980円/株だった。1株当たりの負担は1050円/株(=1億2495万円/11.9万株)であった。Xらは、受贈したN株は通達(平成2年改正前)に従って評価すると1株当たり1033円/株であり、負担が上回るので、受贈財産の価額が0円であるという前提で贈与税の確定申告をした。税務署長は、贈与時点の証券取引所における最終価格を前提に一人あたり1億1067万円(=(1980−1050)×11.9万)の受贈があるとして更正処分等をした。 判旨 「時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立する価額をいう」 |
6版§414.02筥崎土地区画整理事業事件・福岡地判平成16年1月20日平成14(行ウ)26号一部棄却、一部却下・福岡高判平成16年11月26日平成16(行コ)7号棄却・最判平成19年1月23日平成17(行ヒ)91号訟月54巻8号1628頁百選7版83一部破棄差戻、一部棄却ib・福岡高判平成19年7月19日平成19(行コ)6号訟月54巻8号1642頁一部変更、一部認容、一部棄却、確定 土地区画整理事業における仮換地の指定に伴い相続時において更地となっていたが、租特69条の3(当時。現69条の4)の小規模宅地特例は適用される。とした事例。通達も書き換えられた。措置法通達69の4-3。若干文理解釈から外れている嫌いはある。 2版§514.02立体駐車場事件・東京高判平成9年5月22日平成8(行コ)80号行集48巻5=6号410頁棄却(原審東京地判平成8年6月21日平成7(行ウ)208号行集48巻5=6号424頁棄却) 事実・争点 XらがAから相続した本件宅地等に租特69条の4の特例の適用があるか。本件宅地が相続開始前から事業の用に供されていたか。 判旨 規定の趣旨 「相続人等の生活基盤の維持のために不可欠」「特に事業用宅地については、雇人、取引先等事業者以外の多くの者の社会的基盤にもなり、事業を継続させる必要性が高い…」 判断基準 「当該宅地等が現実に事業の用に供されていたか否かという観点から判断されるべき」 cf.東京地判平成28年7月22日平成27(行ウ)57号棄却(国税不服審判所平成26年8月8日裁決、東京高判平成29年1月26日棄却確定)(柴由花・ジュリスト1516号118頁)……全ての相続人による小規模宅地等特例の選択同意書が提出されてないことを理由に当該特例(租税特別措置法69条の4)の適用が認められないとした事例。 cf.横浜地判令和2年12月2日平成31(行ウ)10号棄却・東京高判令和3年9月8日令和3(行コ)1号棄却……小規模宅地特例「生計を一にしていた」要件非充足例。 |
大阪地判平成25年4月26日平成21(行ウ)25号一部却下、一部棄却、一部認容・大阪高判平成26年2月6日平成25(行コ)99号一部取消、最判平成27年7月17日平成26(行ヒ)190号判時2279号16頁破棄差戻az……登記簿の表題部の所有者欄に「大字西」などと記載されている土地につき、地方税法343条2項後段の類推適用により、当該土地の所在する地区の住民により組織されている自治会又は町会が当該土地の固定資産税の納税義務者に当たるとした原審の判断に違法があるとされた事例。 (1)「租税法律主義の原則に照らすと,租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではない」。「このことは,地方税法343条の規定の下における固定資産税の納税義務者の確定においても同様であり,一部の土地についてその納税義務者を特定し得ない特殊な事情があるためにその賦課徴収をすることができない場合が生じ得るとしても変わるものではない。」 (29「ある土地につき地方税法343条2項後段により固定資産税の納税義務者に該当するというためには,少なくとも,固定資産税の賦課期日において当該者が同項後段にいう「当該土地…を現に所有している者」であること,すなわち,上記賦課期日において当該土地の所有権が当該者に現に帰属していたことが必要である。そして,上記(1)において説示したところに照らせば,ある土地につき,固定資産税の賦課期日においてその所有権が当該者に現に帰属していたことを確定することなく,同項後段に基づいて当該者を固定資産税の納税義務者とすることはできない」。 |
最判昭和47年1月25日民集26巻1号1頁百選7版95……「固定資産税は、土地、家屋および償却資産の資産価値に着目して課せられる物税であり、その負担者は、当該固定資産の所有者であることを原則とする。ただ、地方税法は、課税上の技術的考慮から、土地については土地登記簿(昭和三五年法律第一四号附則一六条による改正前は土地台帳)または土地補充課税台帳に、家屋については建物登記簿(右改正前は家屋台帳)または家屋補充課税台帳に、一定の時点に、所有者として登記または登録されている者を所有者として、その者に課税する方式を採用しているのである。したがつて、真実は土地、家屋の所有者でない者が、右登記簿または台帳に所有者として登記または登録されているために、同税の納税義務者として課税され、これを納付した場合においては、右土地、家屋の真の所有者は、これにより同税の課税を免れたことになり、所有者として登記または登録されている者に対する関係においては、不当に、右納付税額に相当する利得をえたものというべきである。そして、この理は、同種の性格を有する都市計画税についても同様である。それゆえ、これと同旨の見解のもとに、原判示(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の限度において、不当利得を原因とする被上告人の本訴請求を認容した原審の判断は相当であつて、原判決に所論の違法はない。被上告人が、確定判決に基づく抹消登記義務を履行せず、実質上の所有権を行使していた等の事情が、右請求権の存否に影響を及ぼさないことも、また、原判決の判示するとおりである。」 |
最判平成26年9月25日民集68巻7号722頁ev……「土地又は家屋につき,賦課期日の時点において登記簿又は補充課税台帳に登記又は登録がされていない場合において,賦課決定処分時までに賦課期日現在の所有者として登記又は登録されている者は,当該賦課期日に係る年度における固定資産税の納税義務を負う」。 |
最判平成6年12月20日民集48巻8号1676頁百選7版96ho……東村山市が本件土地を50円/坪で所有者から借り受けてテニスコート等を設けた。通常の賃料額は500〜1373円/坪であり固定資産税額は100〜200円/坪だった。市税条例では市が「有料で」固定資産を借り受けている場合に所有者に固定資産税を課すとしていた。市長Y(被告、控訴人、上告人)は地方税法348条2項1号の固定資産に当たる前提で本件非課税措置をした。住民Xら(原告、被控訴人、被上告人)はYの固定資産税不賦課という怠りについて地方自治法242条の2第1項4号(平14改正前)に基づき住民訴訟を提起した。 判旨 地方税「法三四八条二項は、そのただし書において、固定資産を有料で借り受けた者がこれを同項各号所定の固定資産として使用する場合には、本文の規定にかかわらず、固定資産税を右固定資産の所有者に課することができるとしているところ、ここでいう『固定資産を有料で借り受けた』とは、通常の取引上固定資産の貸借の対価に相当する額に至らないとしても、その固定資産の使用に対する代償として金員が支払われているときには、これに当たるものというべきである。 また、市税条例四〇条の六にいう『固定資産を有料で借り受けた』も、これと同趣旨であると解すべきである。 ところで、同市が本件各土地の所有者らに対し、土地の借入れの見返りとして支払っている報償費の金額は、一律に三・三平方メートル当たり月額五〇円であり、これは、本件各土地を賃借した場合の賃料の一〇分の一以下であるけれども、面積に応じて報償費が支払われていること、前記の使用目的からみて本件各土地の所在場所等によってその利用価値に大きな差があるとは考えられないことからすると、報償費は土地使用の代償であって、同市が本件各土地を報償費を支払って借り受けたことは『固定資産を有料で借り受けた』場合に当たる」。 「上告人が本件非課税措置を採ったことによる同市の損害と、右措置を採らなかった場合に必要とされる本件各土地の使用の対価の支払をすることを免れたという同市が得た前記の差引利益とは,対価関係があり、また、相当因果関係があるというべきであるから、両者は損益相殺の対象となるものというべきである。そうであれば、後者の額は前者の額を下回るものではないから、同市においては、結局、上告人が本件非課税措置を採ったことによる損害はなかったということになる。」 |
如水会事件・最判令和2年3月24日民集74巻3号292頁平成30(受)388号kk(財賀理行・ジュリスト1554号84頁、神山弘行・ジュリスト1557号160頁)……本件家屋の建築当初に算出された新築部分の再建築費評点数には誤りがあり,これを基礎として順次算出されたその後の各基準年度の再建築費評点数にも誤りが生ずるなどしたため,本件家屋につき過大な固定資産税等の賦課決定がされ,これを納付したことにより損害が生じたと主張して,一般社団法人如水会は東京都に対し,国家賠償法1条1項に基づき,平成4〜20年度の固定資産税等の過納金及び弁護士費用相当額の損害賠償を請求した。 判旨 「家屋の評価に関して誤りが生ずると,……当該誤りがその年度における価格決定や賦課決定だけでなく翌基準年度における評価等にも影響を及ぼし,将来における過大な固定資産税等の賦課という結果を招くおそれが生ずるということはできるものの,その後の手続において課税庁の判断等により当該誤りが修正されるなどすれば,過大な固定資産税等が課されることはなく,所有者に損害は発生しないこととなる。また,当該誤りが生じた後に所有者に変更があれば,過大な固定資産税等を課されて損害を受ける者も変わることとなる。このように,当該誤りが生じた時点では,これを原因として実際に過大な固定資産税等が課されることとなるか否か,過大な固定資産税等を課されて損害を受ける者が誰であるかなどは,なお不確定であるといわざるを得ない。そして,当該誤りが修正されるなどすることなく手続が進められ,これに基づいてある年度の固定資産税等につき賦課決定及び納税通知書の交付がされて初めて,これを受けた者が当該賦課決定の定める税額につき納税義務を負うことが確定することとなる。 そうすると,固定資産税等の賦課に関し,その税額が過大であることによる国家賠償責任が問われる場合において,これに係る違法行為及び損害は,所有者に具体的な納税義務を生じさせる賦課決定等を単位として,すなわち年度ごとにみるべきであり,家屋の評価に関する同一の誤りを原因として複数年度の固定資産税等が過大に課された場合であっても,これに係る損害賠償請求権は,年度ごとに発生するというべきである。そして,ある年度の固定資産税等の過納金に係る損害賠償請求権との関係では,被害者である所有者に対して当該年度の具体的な納税義務を生じさせる賦課決定の効力が及んだ時点,具体的には納税通知書の交付がされた時点をもって,除斥期間の起算点である『不法行為の時』とみることが相当である。以上のことは,所有者が,当該年度以前の基準年度等の価格決定やこれに基づいて課された固定資産税等に関し,評価の誤り等を理由に審査の申出及び取消訴訟又は国家賠償請求訴訟をもって争い得たとしても,左右されるものではない。 したがって,家屋の評価の誤りに基づきある年度の固定資産税等の税額が過大に決定されたことによる損害賠償請求権の除斥期間は,当該年度の固定資産税等に係る賦課決定がされ所有者に納税通知書が交付された時から進行するものと解するのが相当である。」 |
(自然人・法人ひっくるめて、居住者・非居住者と呼ぶことがある) |
主権免除の相対免除主義(制限免除主義):東京三洋貿易株式会社ら対パキスタン・イスラム共和国事件・最判平成18年7月21日民集60巻6号2542頁iz……「今日においては,外国国家は主権的行為について法廷地国の民事裁判権に服することを免除される旨の国際慣習法の存在については,これを引き続き肯認することができるものの(最高裁平成11年(オ)第887号,同年(受)第741号同14年4月12日第二小法廷判決・民集56巻4号729頁参照),外国国家は私法的ないし業務管理的な行為についても法廷地国の民事裁判権から免除される旨の国際慣習法はもはや存在しない」。 |
東京地判平成16年11月30日訟月51巻9号2512頁……アメリカ大使館職員の所得税についてアメリカは源泉徴収義務を負わない。 |
東京地判令和5年3月16日令和2(行ウ)508号(棄却)(黒神直純・ジュリスト1597号重判令05年267頁)……国際司法裁判所の裁判官であった者が国際司法裁判所退職後に受けていた恩給は非課税所得ではなく雑所得である。 |
国 | 麦50:米50 鎖国 | A麦70:米30 B麦25:米75 | 麦150米400交換 |
A国 | 麦500米1000 | 麦700米600 | 麦550米1000 |
B国 | 麦300米900 | 麦150米1350 | 麦300米950 |
cf.国家間のみならず人と人との比較においても必ず比較優位はある。 |
R国 S国 X社←―――――源泉 ↑ ↓ 源泉 Y社 |
例:R国(税率40%)とS国(30%)。 X社のS国源泉所得100について二重課税完全放置100-30-40=30 X社がR国源泉所得100を稼ぐ100-40=60 Y社がS国源泉所得100を稼ぐ100-30=70 |
朝日新聞2006年7月26日「ハリ・ポタ翻訳の松岡さん、35億円申告漏れの指摘」 読売新聞2007年6月12日「36億申告漏れ指摘のハリポタ翻訳者、日本課税で当局合意」 ハリー・ポッターの翻訳者・松岡佑子氏について、日本居住かスイス居住か、の争い。翻訳についての著作権使用料に対し、日本は源泉徴収課税を行なうことができるが、日本居住であると最終的に通常の所得税率が適用される(所得税率と源泉徴収税率の差の税金を申告納付する必要がある)一方、スイス居住であるとすると日本の課税は源泉徴収課税だけですまされ後はスイスでの所得税の適用となる。 後者の記事によれば、日本・スイス課税当局の相互協議で居住について合意に達したと報道されている。日本は松岡氏に対し約7億円の追徴税額(本来の所得税率を適用した場合の税額と源泉徴収税額との差額、及び無申告加算税)を課す。 余談:松岡氏が最初にスイス居住だと主張して日本に申告しないのではなく、事前確認制度などを利用していれば、無申告加算税(9000万円程度?と推測)は課されなくても済んだかもしれない。松岡氏が税理士・弁護士の助言で日本への申告をしなかったのだとすると、税理士・弁護士に損害賠償を請求できるか? |
東京地判昭和56年3月23日昭和49(行ウ)101号判時1004号41頁・東京高判昭和59年9月25日昭和56(行コ)24号訟月31巻4号901頁……(原告は61名)アメリカ軍(MSTS:Military Sea Transportation Service)に雇用された日本人が居住者に当たるとされた事例。米軍のLST乗組員としてベトナム海域等で軍需物資の輸送に従事し危険に遭遇した日本人船員に対する日本国政府の安全保護義務違反の主張が排斥された事例。米軍から受けた危険て圧倒は非課税損害賠償金に当たらないとされた事例。 |
大竹貿易株式会社代表取締役居住地判定事件・神戸地判昭和60年12月2日昭和59(行ウ)6号判タ614号58頁・大阪高判昭和61年9月25日昭和60(行コ)59号訟月33巻号1297頁……原告の国内(国外)滞在日数が、昭和52年246(119)日、53年207(158)日、54年209(156)日、55年206(160)日、56年189(176)日であった事例。一審判旨……「所得税法2条1項3号は,『居住者』とは,国内に住所を有し,又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいうと規定している。ところで,同法が,民法におけるのと同一の用語を使用している場合に,所得税法が特に明文をもってその趣旨から民法と異なる意義をもって使用していると解すべき特段の事由がある場合を除き,民法上使用されているのと同一の意義を有する概念として使用するものと解するのが相当である。したがって,右の所得税法の規定における『住所』の意義についても,右と同様であって,所得税法の明文またはその解釈上,民法21条の定める住所の意義,即ち各人の生活の本拠と異る意義に解すべき根拠をみいだし難いから,所得税法の解釈においても,住所とは各人の生活の本拠をいうものといわなければならない。原告は,二重課税を回避し非居住者の申告の困難を救うためには,当該個人が継続して1年以上居住することを所得税法上の住所の要件として不可欠のものとしなければならないと主張するが,たやすく首肯することができない。」 同じ原告……神戸地判平成2年5月15日税資176号785頁昭和62(行ウ)11号(棄却)・大阪高判平成3年9月25日税資186号635頁平成2(行コ)33号(一部認容、一部棄却・控訴人上告)・最判平成5年2月18日税資194号416頁(棄却) |
大阪地判平成11年12月30日税資249号848頁(棄却)・大阪高判平成13年7月31日税資251号(棄却・確定)……「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約」3条3項により居住者とされる旨の納税者の主張が、同項は、双方居住者に関する調整規定であり、国内法(所得税法)上非居住者となる者が同条約の規定により居住者となることはないとして排斥された事例。 |
神戸地判平成14年10月7日平成13(行ウ)9号税資252号順号9208棄却・確定)……日本の一戸建て住宅に家財道具一切を残したまま渡米し、米国滞在中も日本への航空券を常に所持していたこと、米国の永住権も取得していないことなどから、所得税法2条1項3号に規定する「居住者」に該当するとの納税者の主張が、米国内での居住状況、日本での滞在日数などから客観的にみて、納税者の日本における滞在は里帰り目的等の一時的なものにすぎず、生活の本拠は米国内の住所であったと認められることから「非居住者」に該当するとされた事例。 |
東京地判平成17年1月28日判タ1204号171頁平成15(行ウ)518号(一部認容、一部棄却)・東京高判平成平成17年9月21日税資255号順号10139平成17(行コ)102号(棄却)……相続税法1条の2の「住所」について。納税者が香港に赴いた主目的が、税務対策上香港での居住者という外形を作出することにあり、本件贈与契約が締結された平成9年12月18日当時は、ホテルに10泊して、短期契約のアパートに移ろうとしていた期間であって、居住の安定性にも乏しいこと、納税者は、翌月及び翌々月にも日本に帰国したうえ、平成10年3月27日以降同年7月16日までは、大部分の期間日本に滞在していたこと、納税者の香港での当初の勤務形態は語学研修の色彩が強いこと等を総合勘案すると、納税者は、香港に赴任すれば、その住所が国外にあり、相続税法上の非居住者に該当するという外形を作出することができるものと企図して、平成9年12月9日に日本を出国して香港に入国したにすぎず、株式の贈与を受けた同月18日当時、納税者の生活の本拠が香港に移転しているとまではいえず、依然として日本国内のマンションに存在していたものと認められるとされた事例。 |
東京地判平成21年1月27日平成20(行ウ)419号等税資259号順号11126……遠洋まぐろ漁船の乗組員の住民登録地での課税は適法。類例:仙台地判平成21年4月16日平成20(行ウ)5号税資259号順号11180・仙台地判平成22年7月6日税資260号順号11471 |
ユニマット事件・東京地判平成19年9月14日平成18(行ウ)205号判タ1277号173頁認容・東京高判平成20年2月28日平成19(行コ)342号判タ1278号163頁控訴棄却確定……株式譲渡所得に関し、シンガポールに住所ありと認定。 |
東京地判平成25年5月30日判時2208号6頁平成21(行ウ)310号一部認容、一部棄却、一部却下(川田剛・ジュリスト1482号112頁)……アメリカに昭和57年から20年住みアメリカで永住権を取得した者で、川口市に住所を有する居住者が、所得税法2条1項4号の「非永住者」に当たるとされ、永住者であることを前提とした課税処分は違法とされた事例。(地方税に関して1月1日の住民登録を避けるために日本から出て行っていたという実態があり、地方税の回避がけしからんということで控訴していたらしいが、取り下げられて確定した旨、租税判例研究会にて川田剛が補足した。) |
東京地判令和元年5月30日平成28(行ウ)434号金判1574号16頁(認容)・東京高判令和元年11月27日令和元(行コ)186号金判1587号14頁棄却。確定(西山由美・ジュリスト1554号118-121頁)……米星日3国滞在日数均衡事例。結論として日本に住所なし。jg |
東京地判令和5年4月12日令和元(行ウ)400号一部認容、一部棄却(玉國文敏2024年11月15日租税判例研究会報告)……原告会社(日本法人)の元代表者が平成25年5月30日にシンガポールへ転出する住民登録に関する届出を同月24日にした。税務署長は、原告元代表者が平成25年〜平成27年の間も日本居住者であるという前提で課税処分をした。 判旨 「所得税法2条1項3号は、「居住者」とは、「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人」をいう旨を規定しているところ、ここにいう「住所」とは、反対の解釈をすべき特段の事由がない以上、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の「住所」であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当である([所謂茨城大学星嶺寮事件・]最高裁昭和29年(オ)第412号同年10月20日大法廷判決・民集8巻10号1907頁、最高裁昭和32年(オ)第552号同年9月13日第二小法廷判決・裁判集民事27号801頁、最高裁昭和35年(オ)第84号同年3月22日第三小法廷判決・民集14巻4号551頁、[所謂武富士事件・]最高裁平成20年(行ヒ)第139号同23年2月18日第二小法廷判決・裁判集民事236号71頁等参照)。そして、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かは、@その者の所在(滞在日数及び住居)、A職業、B生計を一にする配偶者その他の親族の居所、C資産の所在等を総合的に考慮して判断すべきものといえる。」 「平成25年及び平成26年においては、原告元代表者の生活の本拠たる実体が国内のγ物件▲△△△△号室にあったと認められるが、平成27年においては、その生活の本拠たる実体が同室にあったとまでは認められない」。 [平成25年〜26年について] 「原告元代表者が「住所」をシンガポールに移転する意思を有していたことは明らかといえる。[改行] もっとも、一定の場所がある者の「住所」であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものであるから、そのような意思のみをもって、直ちにこれを判断することはできない」。 「滞在日数は、別紙6の表のとおりであり(平成25年においては、国内が141日、シンガポールが56日、平成26年においては、国内が253日、シンガポールが89日)[略]」 「原告元代表者は、平成25年及び平成26年において、シンガポールに滞在中、専らK社のワイン事業に従事しており、その業務の内容等に鑑みても、自らシンガポールに滞在する必要性があったものと考えられるが、他方で、平成25年及び平成26年における国別滞在日数等をみると、別紙6の表のとおり、1か月以上も連続してシンガポールへ渡航していない期間も間々あったことなどが認められるから、その頻度等からして、原告元代表者の生活の本拠たる実体を判断する上で決定的な事情にはならない」。 「原告元代表者には、生計を一にする配偶者その他の親族がおらず、本件前妻については、長年、別居状態であったし、本件長女についても、交流等はなかったことが認められる」。 [平成27年について] 「原告元代表者は、K社のワイン事業が軌道に乗り始め、シンガポールに滞在する必要性が高まったこともあり、平成27年においては、別紙6の表のとおり、シンガポールへ渡航する頻度が増加し、毎月シンガポールに滞在するようになったし、それまでシンガポールで使用してきたオーチャード物件では、手狭になったことから、3階建てでワイン倉庫を併設したコーヴウェイ物件を賃借し、そこで生活していたことなども認められる。また、原告元代表者の平成27年における滞在日数についてみると、別紙6の表のとおりであり(国内が177日、シンガポールが163日)、国内での滞在日数は、平成25年及び平成26年における滞在日数とは異なり、年間の半分に満たないし、シンガポールでの滞在日数と比較しても、有意な差があるということはできない。そして、原告元代表者は、平成27年においても、γ物件▲△△△△号室を拠点としつつ他の場所を転々としており、国内に滞在中、同室に滞在しないことが多かった一方で、シンガポールに滞在中は、シンガポール物件以外の場所を転々としていたとする事情は認められないところ、前記ア(キ)で述べたように、ある特定の場所でのみ滞在する事案と、当該特定の場所を拠点としつつも他の場所を転々として当該特定の場所で滞在しないことが多い事案とを比較した場合、その者の生活との関係やつながりの程度等の点で、おのずから差異があるものと考えられるし、その他にも、本件では、同室には、継続的な生活を送るための住居といえるだけの実体が最低限あったにとどまり、オーダーメイドのものも含め家具や衣服等が十分に備えられていたシンガポール物件と比較すると、それらが充実していたとはいえないことなども指摘することができる。」 「職業についてみても、原告元代表者は、シンガポールに滞在中、専らK社のワイン事業に従事しており、その業務の内容等に鑑みても、自らシンガポールに滞在する必要性があったところ、以上で述べたように、平成27年においては、K社のワイン事業が軌道に乗って、その必要性が高まったこともあり、シンガポールへ渡航する頻度が増加し、毎月シンガポールに滞在するようになった」。 「平成27年においては、原告元代表者の生活の本拠たる実体が国内のγ物件▲△△△△号室にあったことを積極的に基礎付けることはできないし、本件の事実関係の下では、むしろ、その生活の本拠たる実体はシンガポール物件にあった」。 |
KPT General Trading LLC事件・東京地判令和5年5月30日令和3(行ウ)334号令和4(行ウ)378号(田中良・ジュリスト1602号10-11頁) 事実 原告は、ドバイ内の住所を本店所在地とし(以下、同本店を「ドバイ本店」という。)、輸出入に関する貿易業務及びこれに付帯関連する一切の事業を目的とするLLCである。連邦国家であるUAEにおいては、法人(LLCを含む。以下同じ。)に対する連邦レベルの課税制度が設けられておらず、各首長国が独自の課税制度を有している。また、ドバイにおいては、ドバイ所得税命令が、全ての課税対象者の課税所得に対して所定の税率による所得税を課す旨規定しているが、現時点において、実際に租税を課されるのは、石油会社、ガス会社、石油化学会社又は外国銀行の支店等に限られている。そのため、原告は、UAE及びドバイにおいて租税を課されていない。 豊島税務署長は、令和元年7月29日付けで、東京国税局の職員の調査に基づき、原告の平成27年12月事業年度から平成29年12月事業年度までの法人税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分、並びに、平成27年12月課税事業年度から平成29年12月課税事業年度までの地方法人税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分をし、原告に対しその旨通知した。 争点1:原告に本件条約(所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアラブ首長国連邦との間の条約)の適用があるか(原告が本件条約4条1に規定する「一方の締約国の居住者」に当たるか) 争点2:原告が本件各事業年度において納付すべき法人税の課税標準となる国内源泉所得の有無及びその範囲 争点3:本件各処分に理由付記の不備の違法があるか 判旨 争点1「本件条約4条1は、「一方の締約国の居住者」について、居住者基準により当該一方の締約国において課税を受けるべきものとされる者をいう旨規定している。 しかし、前記(2)アのとおり、連邦国家としてのUAEは、法人に対する課税制度を設けていない。 また、前記(2)イのとおり、ドバイ所得税命令の規定によれば、ドバイに所在する恒久的施設を通じてドバイにおいて事業を行う法人は、その設立地、本店又は主たる事務所の所在地等を問わず、等しく「課税対象者」に該当し、かつ、ドバイにおける取引又は事業に由来する所得に限って課税対象とする旨規定されているのであるから、ドバイ所得税命令に基づき、「住所、居所、本店又は主たる事務所の所在地、事業の管理の場所その他これらに類する基準」(居住者基準)により課税を受けるべきものとされる者はない。 そうすると、以上のようなUAE及びドバイの税制の下においては、ドバイ法人は、ドバイの「居住者」、すなわち本件条約4条1の規定する「一方の締約国の居住者」には当たらない(なお、本件議定書2項は、UAE側6機関が「一方の締約国の居住者」に含まれる旨規定しているところ、これは、上記のとおり、UAE及びドバイの税制の下において、UAE又はドバイの「居住者」とされる者はない中で、日本とUAEが、UAEの法人等で本件条約の特典を享受できる者を特に合意により定めたものと解される。)。」 |
日本ガイダント事件・東京高判平成19年6月28日判時1985号23頁jl(⇒5.1.1. 8.2.3.2.k.) 日本 オランダ アメリカ ┏━━━━━━━┓利益分配┏━━┓ ?? ┏━━━━━┓ ┃日本ガイダント┃―――→┃原告┃………→┃ガイダント┃ ┗━━━━━━━┛ ┗━━┛ ┗━━━━━┛ 営業者? 匿名組合員? 争点 (1)日本ガイダント→(米)ガイダントの利益分配であり、日蘭でなく日米関係ではないか?(条約漁り⇒8.2.3.3.2.) (2)日本ガイダントと原告は匿名組合契約と称するが実態は任意組合契約ではないか? (3)匿名組合契約に基づく利益分配の所得区分は何か?(租税条約のどの条文か) (4)原告は日本にPEを有すると認定されるか?幾らの利益がPEに帰属するのか? 背景事情 匿名組合契約に基づく営業者から匿名組合員への利益分配は、OECDモデル21条(日蘭租税条約23条)にいうその他所得(⇒8.2.3.3.)に当たるので、源泉地国としての日本は課税することができない、という実務があったようである。TKスキームとして有名となったとも言われる。 他方、旧日米租税条約(2003年改訂前)にはその他所得条項がなかった。 → 源泉地国として日本は匿名組合員が受け取る利益分配に対し課税権を有する。(新日米租税条約でも日本の課税権を肯認)(後に新日蘭租税条約も) 他方、諸外国では匿名組合契約を含む利益共有関係において非居住者が源泉地国内にPEを有すると認定される(日本でも任意組合ならPE認定)のが通例とされている。本件に関しても、原告はオランダ課税当局から「日本でPE課税を受けるのでオランダでは課税しない」という取扱いを受けていたとされる。 裁判所の判断 (1)原告はアメリカ法人のダミーではなく、オランダ居住者なので、日蘭租税条約の便益を享受する。 (2)匿名組合契約と称していることに偽りはない。任意組合契約でもないし、課税当局が主張するような非典型匿名組合なるものでもない。(東京高裁で最も激しく争われたようである) (3)所得区分はその他所得である。(東京地裁の判断を東京高裁がそのまま是認) ((4)PEの存否について、その他所得なので、争う意味がない) 検討 (1)(2)について……租税条約の問題の前にまず契約解釈の問題がある。 契約書の記載が出発点だが、それが全てではない。しかし課税当局が契約書の記載と異なる契約解釈を認定してもらうことは容易ではない。仮装行為ではないと認定された(⇒3.1.3.2. 6版§143.02相互売買etc)。 (3)(4)について……匿名組合契約の場合、【その他所得とされる】【PEが認定されない】という世界的に見てかなり異例な判断が日本ではなされることが裁判によって明らかとなった。 その他所得とされているので、PE認定の基準は不明のままである。 その他、日本もオランダも課税しないという二重非課税の帰結となることにつき、租税条約の目的は二重課税防止だけでなく二重非課税防止でもあるのではないか、という異論が考えられる。が、裁判所は、諸外国の税務取扱や二重非課税の問題については極めて素っ気なく切り捨てている。 ([浅妻]オランダ含め欧州の常識としては匿名組合契約に係る利益の分配は、源泉地国でPEありとして課税される(か又は利子所得として課税される)ということになっているが、日本の課税庁は、匿名組合契約の場合にPEが認定できるという主張をしなかった。私の個人的見解だが条約の文言に即した解釈としては欧州の常識の方が無理があり(←はっきり言って結論ありきで欧州人は考えているにすぎない)、東京高裁は条約解釈の節度を守ったといえると思われる) |
自動車部品輸入業者事件・東京地判平成27年5月28日訟月63巻4号1252頁平成24(行ウ)152号・東京高判平成28年1月28日訟月63巻4号1211頁平成27(行コ)222号百選7版72(藤谷武史・ジュリスト1494号119頁) 原告X氏(日本国籍と思われる)は2004年4月15日にアメリカ人女性と結婚し2004年10月23日に渡米しアメリカ居住者(日本から見て非居住者)になった。Xは2002年から自動車部品等輸入業を営んでいた。Xは渡米後も兵庫県高砂市のアパートの部屋で自動車部品輸入業を続けた。2006年11月29日は倉庫も賃借し始めた。 日本の課税庁は、Xの輸入業のためのアパートの部屋及び倉庫がPEに当たると主張した。 Xは、アパートの部屋及び倉庫が準備的又は補助的な性格の活動のための場所であると主張した。 裁判所は、日米租税条約5条4項(a)のstorage, display and deliveryは準備的又は補助的な活動の例示にすぎず、たといstorageとdelivery(とりわけ引渡し)のための場所であっても準備的又は補助的な性格の活動でなければPEに当たると判断した。 (補助知識:UNモデル租税条約ではdelivery(引渡し)を準備的又は補助的な活動の例として挙げてない。) Xの不満は理解できないではない。Amazonの日本所在倉庫は準備的又は補助的な性格の活動しかしてないという理由でPEと認定できない(日本の課税庁がPEと認定しようとしたが日米相互協議(⇒8.5.4.)の結果、PEではないという結論になったと報道されている。朝日新聞2009年7月4日等)のだから。 |
東京地判令和4年9月14日令和3(行ウ)268号(棄却)・東京高判令和5年4月26日(未確認)(棄却・確定)(吉村浩一郎・ジュリスト1588号10頁、高橋里枝・ジュリスト1597号174頁重判令05年、鈴木悠哉・ジュリスト1598号151頁) 国外居住外国音楽家の日本公演に際し、原告X社は当該外国音楽家を管理している外国芸能法人に、出演料とは別に、渡航費等の立替金を支払った(本件各支払)。本件各支払についてX社は源泉徴収をしていなかった。川崎南税務署長は、本件各支払が所得税法161条1項6号(平成28年3月31日以前の支払は平成26年改正前の所得税法161条2号)にいう人的役務の提供に係る対価に当たるとの前提で、源泉所得税等の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分をした。 判旨 「所得税法161条1項は、恒久的施設帰属所得のような純所得概念(純額ベース)で捉えられるものと、利子、配当のような収入金概念(総額ベース)で捉えられるものを、ともに「国内源泉所得」として総称しているところ、これらを一括して「所得」として表現することは混乱を招くことから、所得税法は、「国内源泉所得」と「所得」とを区別しており、例えば、国内源泉所得を純所得概念として用いる場合には、「国内源泉所得」ではなく、「国内源泉所得に係る所得」(同法102条、168条の2)といった文言を用いて表現している。 このような観点から、「人的役務の提供に係る対価」をみると、「対価」という文言は、「所得」という文言(同項1号、2号等)とは異なり、通常の用語法としては、収入金概念に属するものといえるから、人的役務の提供をした者にとって、同人的役務の提供に対して支払を受けた収入金額の総額を意味するものであるといえる。そのため、支払額の中に、同支払に係る収入を得るための犠牲として支出され、当該収入の一部をもって充当されるべき対応関係にある費用相当額が含まれていたとしても、同費用相当額は収入金額の一部として「対価」に含まれるものというべきである。」 「「人的役務の提供に係る対価」の支払を受けた外国事業者は、同「対価」について、最終的に純所得課税を受けることができるものの、そのためには、外国事業者において、非居住者の総合課税の対象となる所得税又は法人税の確定申告をしなければならないというべきであり、所得税法及び法人税法が、同「対価」の支払を受ける者に対し、同「対価」に係る純所得の確定申告をする義務を負わせる一方で、同「対価」の支払者に対し、同「対価」に係る純所得について源泉徴収をする義務を負わせているとは解されないから、同源泉徴収については、同「対価」に係る収入金額の総額を対象とするものであるというべきである。そのため、「対価」について、上記アのように、これを「人的役務の提供」(所得税法161条1項6号)に対して支払われた収入金額の総額を意味し、「対価」を得るために要した費用相当の支払額を含むものと解することは、「対価」の支払を受けた外国事業者に対する同「対価」についての所得税の課税の構造とも整合する。」 cf.国税不服審判所平成15年2月26日裁決・裁決事例集65集283頁 |
東京地判平成23年3月4日平成21(行ウ)121号税資261号順号11635百選6版68(控訴審東京高判平成23年8月3日税資261号順号11727、上告審最決平成24年9月18日で維持) XがAから土地を購入する際、「Aは日本居住者である」とAがXに告げていたので、Xはこれを信用し、Xは土地譲渡に係る源泉徴収税(所税212条1項、213条1項2号)を納付していなかった。しかしAは非居住者であった。Aが非居住者であることをXが確認する注意義務を怠ったので源泉徴収納付義務が課せられることはやむをえないか。 東京地裁判旨……「法令上に記載のない「期待可能性」ないし「予見可能性」といった要件を設けて源泉徴収制度を限定解釈(限定適用)する必要はない」。 学説では、Xから見てAが居住者であるか否かについて一定の確認手続きをしたら、源泉徴収納付義務は免れるとすべきである、という意見がある。しかし、裁判所は、Xから見てAが居住者であるか確認がとれるまでは源泉徴収税分の代金を支払わないでおくといった対応策がある、と指摘する。 類例:住友不動産事件・東京地判平成28年5月19日平成26(行ウ)114号税資266号順号12856・東京高判平成28年12月1日平成28(行コ)219号税資266号順号12942百選7版73(南繁樹・ジュリスト1498号10頁、平川英子「非居住者に不動産の譲渡対価を支払う者(源泉徴収義務者)の注意義務」新・判例解説Watch租税法No.137 (2017.3.10)、西山由美・ジュリスト1522号140頁) |
アジレント・テクノロジーズ・ルクスコ・エス・アー・エール・エル事件・東京地判令和4年2月17日令和元(行ウ)453号(認容)・東京高判令和5年2月16日令和4(行コ)72号(控訴棄却)(確定)(木村浩之・ジュリスト1578号10頁、坂巻綾望・ジュリスト1581号126頁、濱田洋・ジュリスト1583号170頁重版令04年、秋元秀仁・国際税務43巻6号40頁、7号54頁、西本宏治・ジュリスト1597号265頁重判令05年)(国税庁「租税条約における「利得の分配に係る事業年度の終了の日」の取扱いについて」令和5年3月) ルクセンブルク法人たる原告X社は日本に恒久的施設を有してない。2014年4月29日、X社は日本法人A社(アジレント・テクノロジー株式会社)(事業年度は11月1日〜10月31日)とB社(アジレント・テクノロジー・インターナショナル株式会社)(事業年度は11月1日〜10月31日)の株式を関連法人(オランダ法人、ルクセンブルク法人)から100%取得し、100%保有し続けている。2014年8月1日、A社は非適格分割型分割を行い、事業を分割承継法人たるJ社(キーサイト・テクノロジー合同会社)に承継させ、A社はJ社の出資持分の譲渡を受けた。同日、A社は、J社の出資持分を剰余金の配当としてX社に分配した(みなし配当金額112億1962万2367円)。同日、B社は非適格分割型分割を行い、事業を分割承継法人あTるC社(キーサイト・テクノロジー・インターナショナル合同会社)に承継させ、B社はC社の出資持分の譲渡を受けた。同日、B社はC社の出資持分を剰余金の配当としてX社に分配した(みなし配当金額27億2522万0652円)。A社・B社は、日本の源泉徴収率20.42%を乗じた額(22億9104億6889円、5億5649万0057円)を納付した(所得税法24条1項、25条1項2号、212条1項1号、161条5号イ[現9号イ])。 日本ルクセンブルク租税条約10条2項(a)25%保有ならば配当源泉地国税率5%、(b)さもなければ15%。(正文は英文) 2015年4月7日、X社は(a)の5%を前提に、差額の還付を請求した。2016年3月7日、税務署長は、(b)の15%を前提に、差額を還付した。 (a)の6カ月以上保有要件を満たすかが争点となった。 3条2項「As regards the application of this Convention by a Contracting State, any term not defined therein shall, unless the context otherwise requires, have the meaning which it has under the laws of that Contracting State concerning the taxes to which this Convention applies.」(この条約は、1に掲げる租税に加えて又はこれに代わってこの条約の署名の日の後に課される租税であって1に掲げる租税と同一であるもの又は実質的に類似するもの(国税であるか地方税であるかを問わない。)についても、適用する。両締約国の権限のある当局は、それぞれの国の税法について行われた実質的な改正を、その改正後の妥当な期間内に、相互に通知する。) 10条2項(a)「5 per cent of the gross amount of the dividends if the beneficial owner is a company which owns at least 25 per cent of the voting shares of the company paying the dividends during the period of six months immediately before the end of the accounting period for which the distribution of profits takes place;」(当該配当の受益者が、利得の分配に係る事業年度の終了の日に先立つ六箇月の期間を通じ、当該配当を支払う法人の議決権のある株式の少なくとも二十五パーセントを所有する法人である場合には、当該配当の額の五パーセント) X社の主張:「the end of the accounting period for which the distribution of profits takes place(利得の分配に係る事業年度の終了の日)」とは、「配当を支払う法人がその配当の原資である所得を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算する会計期間の末日」をいう。それは2014年10月31日であり、4月29日から6カ月以上経過している。 被告(Y:国)の主張:「配当の受領者が特定される時点」をいう。分割型分割の日の前日(2014年7月31日)は4月29日から6カ月以上経過していない。 判旨 (2)「本件文言は,日本の法令における用語の意義としては,「利得の分配に係る会計期間の終了の日」を意味するものというべきである。」 (3)「本件文言は,その趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味としては,「利得の分配(配当)が行われる会計期間の終期」を意味する」。 (4)「本件文言は,日本の法令における当該用語の意義(ウィーン条約31条1項にいう「文脈」)としては,「利得の分配に係る会計期間の終了の日」を意味するものであり,その趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味としては,「利得の分配(配当)が行われる会計期間の終期」を意味するものであるところ,前者と後者とは実質的に同義であるということができる。そうすると,本件文言の解釈については,正文に基づき検討した後者の表現に従い,「利得の分配(配当)が行われる会計期間の終期」と解するのが相当である。」 |
レポ取引事件・東京高判平成20年3月12日平成19(行コ)171号金判1290号32頁ko(原審東京地判平成19年4月17日判時1986号23頁)(⇒3.1.2.2.) 日本 国債売却 米国 | 日本 国債担保提供 米国 J社―――――――→U社 | J社―――――――→U社 ←――――――― | ←――――――― 売買代金2000 | 貸付金2000 | | 国債再売買 | 担保物返還 J社←―――――――U社 | J社←―――――――U社 ―――――――→ | ―――――――→ 売買代金2200 | 元利返済2200 レポ差額200 | 利子200 レポ取引とは、国債等の再売買予約付売買である。例えば、日本法人J社がアメリカ法人U社に国債を2000で売り、1年後、J社がU社から国債を2200で買い戻す(repurchaseを縮めてレポ)、という取引である(実際はもっと短期の取引である)。この差額200(レポ差額、再売買差金)は、J社がU社に売る時点とJ社がU社から買い戻す時点の間の金銭の時間的価値(time value of money)に相当するものである。 課税庁は、200のレポ差額が、J社からU社への利子支払いに相当するものであり、U社の利子所得についてJ社が源泉徴収納付義務を負う、と主張した。前述のレポ取引は、JがUから2000を借入て担保として国債を拠出し、1年後、JがUに元利合計2200を返済して担保を返してもらうことと、経済実質的に近いからである。しかも所得税法161条6号(当時)は「国内において業務を行なう者に対する貸付金(これに準ずるものを含む。)で当該業務に係るものの利子」と規定しており、レポ差額が貸付金の利子に該当しないとしても「これに準ずるもの」には含まれる、と主張した。 しかし裁判所は、売買という法形式を重視し、貸付金(民法587条の金銭消費貸借契約が典型)とはいえないし準ずるともいえない、とした。 cf.宮崎裕子「いわゆるレポ取引の進化と課税」ジュリスト1253号122頁 cf.その後、源泉徴収しないことを明確化する立法。所税令283条3項・4項の「債券現先取引」。 |
大阪地判平成20年7月24日平成18(行ウ)195号判タ1295号216頁請求認容・大阪高判平成21年4月24日平成20(行コ)127号税資259号順号11188……造船契約解除金(船製造者は日本法人。買手は外国法人)は所税161条6号(当時)の「貸付金(これに準ずるものを含む。)」の「利子」非該当。 |
シルバー精工事件・東京地判平成4年10月27日昭和63(行ウ)191号行集43巻10号1336頁一部認容、一部却下・東京高判平成10年12月15日平成4(行コ)133号訟月45巻8号1553頁棄却・最判平成16年6月24日平成11(行ヒ)44号判時1872号46頁棄却確定百選7版71jq(浅妻章如・ジュリスト1291号274頁) 日本企業のアメリカ市場への進出に手を焼いていたアメリカ企業A社が、日本法人たる原告X社に対し、Xの日本からアメリカへの輸出はA社の特許権を侵害しているとして、差止訴訟を提起した。X社は、A社の特許は無効であろうとの予測を立てたが、米日貿易摩擦の激しい当時、アメリカで仮に特許無効を勝ち得たとしても通商関係で様々な妨害を受けるであろうことを予測し、結局、X社はA社の脅しに屈して和解契約を締結し、X社がA社に和解金を支払った。 米日特許紛争の和解契約における支払が米国特許使用料である(ジョン・イー・ミッチェル事件の製造根源説を打破した意義がある)と判断され、アメリカ源泉であると判断された。 cf.件の特許は後に無効とされていること、米国特許権を侵害するのは日本法人ではなく米国子会社の筈であり、米国子会社が支払うべき和解金を日本親会社たるX社が代わりに支払うことはX社の米国子会社に対する寄附金の問題を生ぜしめるのではないか、等、幾つか興味深い論点(ありていに言えば当時の法律論のレベルの低さ)を示している。 cf.ジョン・イー・ミッチェル事件・東京地判昭和60年5月13日昭和57(ワ)3128号判タ577号79頁棄却確定百選3版47……製造段階に着目して特許使用料の源泉は日本にあると判断。 cf.中里実「日米租税条約における特許権使用料の源泉地」ジュリスト845号102頁 |
テレプランニング事件(全米女子オープン事件)・東京地判平成6年3月30日昭和62(行ウ)111号行集45巻3号931頁一部却下、一部棄却・東京高判平成9年9月25日平成6(行コ)69号判時1631号118頁棄却(著作権判例百選3版23)・最判平成15年2月27日平成10(行ツ)32号税資253号順号9294棄却確定……スポーツ競技について日本法人が外国法人に支払ったテレビ放映権料が日本源泉の著作権使用料であると判断された。 |
ゲーム開発委託事件・国税不服審判所平成21年12月11日裁決・裁決事例集78集208頁確定……ゲームソフト開発費として日本法人が外国法人に支払った金員が著作権の譲渡の対価であるとして源泉徴収税に服するとした。 cf. 国税不服審判所平成22年5月13日裁決・裁決事例集79集289頁棄却(広重隆司・国際税務32巻4号84頁)……製造技術導入契約の対価支払いが特許権使用料として源泉徴収に服する。 |
東京地判平成22年2月12日平成18(行ウ)651号税資260号順号11378棄却確定(佐藤直人・ジュリスト1424号134頁は結論に反対)……日本法人所有の船で働く外国人漁船員に関して支払った金員が日本源泉給与所得と判断された。 |
Cf.バスケット方式(所得項目別限度額方式)は省略 |
名古屋地判令和3年12月8日税資271号順号13641(最決令和4年10月6日で確定) X(原告。日本居住者。年金受給者)が平成28及び30年にブラジル国債を保有し、国内における支払の取扱者(A証券)を通じて利子の支払を受けた。国内源泉所得に係る所得税率は5%であった。 平成28年:利子75万6065円、所得税11万5790円、住民税3万7802円、交付額60万2473円。確定申告:外国税額控除額11万3410円(=75万6065円×15%)。増額更正処分:外国税額控除額5万4524円(所得税法95条1項5万3403円。復興財源確保法14条1項1121円)。 平成30年:利子80万2958円、所得税12万2972円、住民税4万0147円、交付額63万9839円。確定申告:外国税額控除額16万0591円(=80万2958円×20%)。増額更正処分:外国税額控除額5万3759円(所得税法95条1項5万2654円。復興財源確保法14条1項1105円)。 規定 所得税法施行令222条1項…は、外国税額控除限度額は、同項の居住者のその年分の所得税の額…に、その年分の所得総額…のうちにその年分の調整国外所得金額…の占める割合を乗じて計算した金額とする旨を規定する。 争点 Xが所得税法95条1項、所得税法施行令222条1項を適用して外国税額控除限度額を計算したことが日伯租税条約に反せず適法であるか。 判旨 日伯「条約22条1項(a)(i)ただし書は、外国税額控除限度額について、『日本国の租税の額のうち、その所得に対応する部分を超えないものとする。』と規定するにとどまり、同条約中に『その所得に対応する部分』の定義やその具体的な計算方法を定める規定はなく、その適用方法に関する規定もないから、同条項から具体的な控除限度額を計算することはできず、同条項の規定を直接適用することはできない。かえって、同条約2条2項においては、一方の締約国がこの条約を適用する場合には、特に定義されていない用語は、文脈により別に解釈すべき場合を除くほか、この条約が適用される租税に関するその締約国の法令上有する意義を有するものとするとされていることや、そもそも国際的二重課税の問題は低い税率の国の実効税率の範囲内で生じ、通常の税額控除方式における外国税額控除限度額は国外所得金額に国内の実効税率を乗じて計算されるものであること(略)に照らしても、日伯租税条約は、ブラジルで納付した租税の外国税額控除限度額の計算については日本の法令に従うことを予定しているものと解される。」 「ブラジル国債の利子を取得した日本の居住者に対する所得税の外国税額控除限度額の計算に当たっては、日本の所得税等の関係法令が適用されるべきものであり、我が国においては所得税法95条1項及びその委任を受けた同法施行令222条1項の規定を適用して外国税額控除限度額の計算がされることになるから、原告の本件各年分の所得税における本件ブラジル国債の利子に係る外国税額控除の計算にこれらの規定を適用することが日伯租税条約に違反するものとはいえない。」 「原告は、みなし外国税額である外国所得税額につき、本件ブラジル国債に係る利子の額はブラジルで20%の割合で納税がされたものとみなされた後のものとすべきであり、日本で支払われた利子の金額の25%(=現に支払われた利子の金額÷80%×100%)×20%)と計算されるべきであると主張するが、日伯租税条約22条2項(b)(i)は、外国税額控除の適用上、ブラジルの租税として20%の税率で納付したものとみなして控除する旨を定めた規定であるから、外国所得税額を日本で支払われた利子の金額の20%として計算することに誤りはなく(略)、原告の上記主張は採用することができない。」 |
今治造船事件・松山地判平成16年4月14日平成11(行ウ)7号訟月51巻9号2395頁棄却(今村隆・ジュリスト1289号236頁)・高松高判平成18年10月13日平成16(行コ)17号訟月54巻4号875頁棄却・最決平成19年4月10日平成19(行ツ)34号棄却、不受理……独立価格批准法(CUP法:comparable uncontrolled price method)を適用した事例。 立証責任に関する一審判旨……「棚卸資産の売買取引に関して独立企業間価格を算定する方法には、「独立価格比準法」の他に、@国外関連取引に係る棚卸資産の買手が、その棚卸資産を特殊関係にない者に対して販売した価格(再販売価格)から通常の利潤の額を控除した金額をもって独立企業間価格とする「再販売価格基準法」(本件規定第2項1号ロ)、A国外関連取引に係る棚卸資産の売手が、その棚卸資産の購入、製造等による取得の原価の額に通常の利潤の額を加算して計算した金額をもって独立企業間価格とする「原価基準法」(本件規定第2項1号ハ)、3「その他の方法」(本件規定第2項1号ニ)が認められているところ、課税庁が、独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法のいずれの方法を採るべきかについては、何らの規定がなく、課税庁の判断に委ねられているところである。[改行] しかも、本件では、原告から、独立企業間価格を算定するにつき、独立価格比準法を用いるよりも、上記の@ないしBの方法によることが、より適切であり、優れているとの主張、立証もされていないから、被告が、本件各取引に係る独立企業間価格を算定について、独立価格比準法を採用したこと自体には、特に、問題もない。」 |
日本圧着端子事件・大阪地判平成20年7月11日平成16(行ウ)152号判タ1289号155頁一部棄却、一部却下(平石雄一郎・ジュリスト1399号171頁)・大阪高判平成22年1月27日平成20(行コ)126号税資260号順号11370棄却確定……租税特別措置法66条の4第2項1号ハの原価基準法の適用事例。 課税庁が移転価格税制を適用するに際し国外所得移転の蓋然性を認定するなどの事前手続履践は必要か(消極)。 取引規模の拡大に伴って値引き圧力が加わる関係は取引社会における経験則に照らして一般的に首肯し売るものであるところ、納税者の国外関連者に対する売上金額の全体に占める割合が約50%に達するなどの事情の下においては、取引規模に着目して比較対象取引との際を調整すべきであるとされた事例。 |
ワールド・ファミリー事件・東京地判平成29年4月11日平成21(行ウ)472号百選7版76(錦織康高・ジュリスト1516号10頁、佐藤修二・ジュリスト1516号44頁、大野雅人・ジュリスト1536号118頁)……ディズニー・キャラクターを用いた英語教材を外国関連会社から仕入れて日本で訪問販売していた。ディズニー・キャラクターのロイヤリティに関する差異調整が不十分であり課税処分が取消された事例。 |
エクアドルバナナ事件・東京地判平成24年4月27日平成21(行ウ)581号訟月59巻7号1937頁請求棄却(神山弘行・ジュリスト1445号8頁、袴田裕二・ジュリスト1475号124頁)・東京高判平成25年3月28日平成24(行コ)229号税資263号順号12187控訴棄却・最決平成27年1月16日税資265号順号12587不受理確定……税務署長Yは、フィリピン産バナナを輸入している会社の取引を比較対象取引として基本三法の何れかを適用することを検討した(当時は基本三法優先の原則であった)。しかしエクアドル政府の規制(最低輸出価格)により適切な差異調整ができないと判断し、寄与度利益分割法を用いた。裁判所も、基本三法を適用できない場面であることを認め、寄与度利益分割法の適用を認めた。(⇒8.4.2.3.d.立証責任) |
本田技研工業マナウス自由貿易地域事件・東京地判平成26年8月28日平成23(行ウ)164号税資264号順号12520請求一部認容・東京高判平成27年5月13日平成26(行コ)347号税資265号順号12659控訴棄却確定百選7版77(渡辺充・ジュリスト1476号8頁、高久隆太・ジュリスト1485号10頁、水野忠恒・国際税務35巻3号43頁、駒宮史博・ジュリスト1488号136頁、岡村忠生・税研186号81頁)……原告日本法人のブラジル関連会社がブラジルの自動二輪車市場において利益を上げているのは日本法人の無形資産の貢献が大きいからではなくブラジルのマナウス自由貿易地域における税制上の恩典利益によるものである、とする原告の主張が概ね認められた事例。 |
上村工業事件・(第1事件)東京地判平成29年11月24日平成25(行ウ)263号訟月65巻12号1665頁棄却[リンク先の「相続税更正処分等取消請求控訴事件」は誤記であろう](今村隆・ジュリスト1530号131頁)・東京高判令和元年7月9日平成29(行コ)382号訟月65巻12号1745頁棄却・(第2事件)東京地判令和2年2月28日平成27(行ウ)535号税資270号順号13386棄却確定 原告(X社)はめっき薬品の製造・販売を営む日本法人である。台湾子会社たるA社とX社はめっき薬品のライセンス契約を締結し、A社は自社が保有する台湾工場でめっき薬品を製造し、直接またはシンガポール法人C社(X社の子会社)を介して非関連者に販売し、A社はX社に5%のライセンス料を支払った(マレーシア子会社たるB社ともどうようの取引をしているが省略)。X社は、子会社ではない韓国法人K社ともめっき薬品のライセンス契約を締結していた。日本の税務署長は租税特別措置法施行令39条の12第8項「残余利益分割法と同等の方法」によって算定した価格が独立企業間価格であるという前提で法人税の更正処分等をした。 第1事件一審判旨 X-A取引とX-K取引「とでは,その取引の対象たる無形資産等が『同種』のものということはできない。」X-A取引とX-K取引「に係る状況を比較すると,……その取引の対象たる無形資産等の対価の額に影響を及ぼす差異が存在する。そして,その影響を具体的に把握することは極めて困難であって,生じる対価の額の差を調整できるとはいえないから,両取引が『同様の状況』の下でされたものということはできない。」 「件国外関連取引については,原告及びその国外関連者が有する重要な無形資産が利益獲得に寄与していることからすれば,その独立企業間価格の算定には,基本的利益を配分した上で残余利益を重要な無形資産の価値に応じて配分する残余利益分割法と同等の方法を用いるのが合理的であるということができる。」 (控訴審判決も一審判決を引用した) 第2事件判旨 「本件ライセンス取引及び本件棚卸資産販売取引のいずれについても,基本三法又は基本三法と同等の方法を用いてその独立企業間価格を算定することはできない」。 「本件国外関連取引自体を1つの単位とした上で,残余利益分割法及び残余利益分割法と同等の方法を用いてその独立企業間価格を算定することは,本件国外関連取引の独立企業間価格を算定するための合理的な方法であると認められる。[改行] そして,本件においては,残余利益分割法及び残余利益分割法と同等の方法以外の本件国外関連取引の独立企業間価格を算定するために用いるべき適切な方法が存する具体的な蓋然性があることをうかがわせる事情等は見当たらないから,被告が,残余利益分割法及び残余利益分割法と同等の方法を用いて本件国外関連取引の独立企業間価格を算定したことは,適法である。」 |
日本ガイシ事件・東京地判令和2年11月26日平成28(行ウ)586号一部認容、一部棄却・東京高判令和4年3月10日令和3(行コ)25号控訴棄却(林幸一「残余利益計算法の利益分割要因」新・判例解説Watch租税法No.171、南繁樹・国際税務42巻8号74頁・10号98頁、片平享介・ジュリスト1582号10頁) 日本法人たる原告(X社)はセラミックス製ディーゼル車用微粒子除去フィルターに関する特許権等の無形資産を有していた。欧州におけるディーゼル車排ガス規制を遵守するに当たり当該特許の実施は不可欠であったため、X社の間接子会社たるポーランド法人B社の売上は莫大になった。B社の超過利益が主にX社保有の無形資産に由来すると考えればB社はX社に多額の使用料を支払うべきであり(日本の国税庁の立場)、超過利益が主に欧州の規制によると考えればB社からX社に利益を移転する必要はない(X社の立場)。裁判所は大筋でX社の主張を認めた。 控訴審判旨 「残余利益分割法は,措置法施行令39条の12第8項1号に定める利益分割法の一種であるところ,同号の規定によれば,利益分割法は,分割対象利益が,国外関連取引に係る棚卸資産の購入,製造,販売その他の行為のために法人又は国外関連者が支出した費用の額,使用した固定資産の価額その他これらの者が分割対象利益の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因(分割要因)に応じて,当該法人及び当該国外関連者に帰属するものとする方法であり……,また,同号の規定を具体化するものとして定められた措置法通達66の4(4)−2は,利益分割法の適用に当たり用いる分割要因につき,法人又は国外関連者が支出した人件費等の費用の額,投下資本の額など,これらの者が当該分割対象利益の発生に寄与した程度を推測するにふさわしいものを用いるものとし,分割要因が複数ある場合には,それぞれの要因が分割対象利益の発生に寄与した程度に応じて合理的に計算するものとしている……。」 |
アドビシステムズ事件・東京地判平成19年12月7日平成17(行ウ)213号訟月54巻8号1652頁(教科書341頁は恐らく誤記)請求棄却・東京高判平成20年10月30日平成20(行コ)20号原判決取消、請求認容、確定、百選6版71 事業再編前 | 事業再編後 | 顧客―――日本法人――アメリカ法人 | 顧客―┬―アイルランド法人――アメリカ法人 | 日本法人 高裁判旨 「控訴人[日本法人]は、本件各業務委託契約に基づき、@既存のP3製品の販売促進及び新規のP3製品の紹介及び説明のために、卸売業者を訪問して顧客等を誘導し、AP3製品のマーケティングの費用を負担し、マーケティング資料を作成して、マーケティングを行い、B本件国外関連者による日本でのP3製品の販売促進及び宣伝広告を支援し、C卸売業者、ディーラー及びエンドユーザーに対しP3製品のトレーニングコースを提供し、D顧客に対しサポートサービスを提供するなどの役務提供行為を行っていたこと、本件各業務委託契約上、控訴人の報酬は、日本における純売上高の1.5パーセント並びに控訴人のサービスを提供する際に生じた直接費、間接費及び一般管理費配賦額の一切に等しい金額と定められていたことが認められる。[改行] また、控訴人は在庫リスクを負担せず、顧客からの債権回収リスクも負担していないことは前示のとおりである。」 「本件国外関連取引において控訴人が果たす機能と、本件比較対象取引において本件比較対象法人が果たす機能とを比較するに、上記認定事実のとおり、本件国外関連取引は、本件各業務委託契約に基づき、本件国外関連者に対する債務の履行として、卸売業者等に対して販売促進等のサービスを行うことを内容とするものであって、法的にも経済的実質においても役務提供取引と解することができるのに対し、本件比較対象取引は、本件比較対象法人が対象製品であるグラフィックソフトを仕入れてこれを販売するという再販売取引を中核とし、その販売促進のために顧客サポート等を行うものであって、控訴人と本件比較対象法人とがその果たす機能において看過し難い差異があることは明らかである。」 「被控訴人[国]は、本件国外関連取引が仕入販売取引でなく役務提供取引であることを前提に、P3製品の販売において控訴人の果たしている機能及び負担しているリスクが、受注販売方式を採る再販売取引における再販売者の機能及びリスクと類似しているので、本件算定方法は、再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法に当たると主張し、控訴人と異なる再販売者固有の機能は、上記販売促進の機能から純粋な商品の受発注及び配送手配、仕入金額の支払及び販売代金の受領等の事務処理作業にすぎず、このような事務処理作業を通じて商品の取引価格や売上総利益率に影響するような多大な利益が生じ得ることは想定し難いとし、したがって、控訴人の利益率を算定するには、モノとサービスを販売する本件比較対象取引の利益率からモノを販売する取引の利益率を控除する必要はないとしている。 しかしながら、再販売業者が行う販売促進等の役務の内容が控訴人の提供する役務の内容と類似しているとしても、およそ一般的に価格設定にかかわるそれ以外の被控訴人主張の上記要因等が単なる事務処理作業としてほとんど考慮する必要がないものとはいい難いのであって(本件において、考慮する必要性がないことを裏付けるに足りる具体的な証拠はない。)、本件役務提供取引において控訴人の果たす機能と本件比較対象法人の果たす機能との間には捨象できない差異があるものといわざるを得ない。 また、上記のとおり控訴人はグラフィックソフトの販売を行っていないから、収受すべき手数料にはグラフィックソフトの販売利益が含まれないことになるのに対し、本件比較対象法人の総売上利益率にはグラフィックソフトの販売利益も含まれることになる。すなわち、控訴人は上記の役務提供に見合った利益を取得すべきことになるのに対し、本件比較対象法人は再販売取引及び販売促進等の役務提供に見合った利益(その売上総利益率が、本件算定方法において用いられる「通常の利益率」(租税特別措置法66条の4第2項第1号ロ、同項第2号ロ、租税特別措置法施行令39条の12第6項)である。)を取得することになるものと解されるのであり、本件比較対象法人の行う役務提供の内容が本件国外関連取引において控訴人が行う役務提供内容と類似しているとしても、本件比較対象法人は、製品の再販売(卸売・小売)も行っているのであり、その総利益には製品の再販売の利益も含まれることになる。これに対して、本件国外関連者と特殊の関係のない卸売業者がP3製品を仕入れて、販売利益を得て再販売し、これと平行して控訴人がリセラー(小売業者)に対して販売促進等を行うことにより本件国外関連者に役務を提供していることになる場合においても、卸売業者は再販売利益を得ているのであり、一方、控訴人には製品を再販売することによる利益はないことになるのであるから、本件算定方法のように、我が国におけるP3製品の売上高に本件比較対象法人の売上総利益率を乗じて得られる利益額の中には、卸売業者が本件国外関連者からP3製品を仕入れて小売店等に再販売して取得する販売利益も含まれている蓋然性が高いというべきである。」 「本件国外関連取引において控訴人が負担するリスクと、本件比較対象取引において本件比較対象法人が負担するリスクとを比較するに、控訴人は、本件各業務委託契約上、本件国外関連者から、日本における純売上高の1.5パーセント並びに控訴人のサービスを提供する際に生じた直接費、間接費及び一般管理費配賦額の一切に等しい金額の報酬を受けるものとされ、報酬額が必要経費の額を割り込むリスクを負担していないのに対し、本件比較対象法人は、その売上高が損益分岐点を上回れば利益を取得するが、下回れば損失を被るのであって、本件比較対象取引はこのリスクを想定(包含)した上で行われているのであり、控訴人と本件比較対象法人とはその負担するリスクの有無においても基本的な差異があり、これは受注販売形式を採っていたとしても変わりがない。本件比較対象取引において、この負担リスクが捨象できる程軽微であったことについては、これを認めるに足りる的確な証拠はない。」 かつてはアドビ(アメリカ系多国籍企業グループ)の日本法人が日本の顧客相手に販売機能を担っていたが、事業再編(business reorganization)後、販売機能をアイルランド法人に移転し、日本法人は補佐的な役割を担うだけとなった。事業再編後、日本法人の担う機能が小さいため、日本法人に帰属する所得も小さい、とする納税者側の主張を高裁は認めた。 これは日本だけでなくOECD加盟国共通の課題であり、事業再編にどう対処していくか、という形で議論されている。 アメリカで課税庁側敗訴例としてXilinx v. Commissioner, 125 T.C. 37 (2005); reversed by 567 F.3d 482 (9th Cir., May 27, 2009), withdrawn by 592 F.3d 1017 (9th Cir., January 13, 2010); affirmed by 598 F.3d 1191 (9th Cir., March 22, 2010)及びVeritas Software Corp. v. Commissioner, 133 T.C. No. 14 (Dec. 10, 2009)が知られている。居波邦泰「米国のコスト・シェアリング契約に係る移転価格訴訟への考察──ザイリンクス事案及びベリタス事案」租税研究2010年12月266-329頁;神山弘行「ザイリンクス事件米国連邦第9巡回控訴裁判所判決」中里実他『移転価格税制のフロンティア』308頁;渕圭吾「ヴェリタス事件米国租税裁判所判決」中里実他『移転価格税制のフロンティア』341頁等参照。類似論点(規則改正後)で課税庁側勝訴事例としてAltera Corporation and Subsidiaries v. Commissioner, 145 T.C. 91 (2015.7.27); reversed by 926 F.3d 1061 (9th Cir., 2019.6.7); rehearing denied by 941 F.3d 1200 (9th Cir., 2019.11.12); certiorari denied on (Supreme Court, 2020.6.22)がある。 また、移転価格ではないが、適法な所得移転の例として保険料を国外関連企業に支払うという手法がある。ファイナイト事件・東京地判平成20年11月27日判時2037号22頁(渕圭吾・ジュリスト1400号173頁、水野忠恒・国際税務2010年11月号37頁)・東京高判平成22年5月27日判時2115号35頁(確定)(浅妻章如・判例時報2133号162頁)。 |
東京高判平成8年3月28日判時1574号57頁百選4版71……国内法に対応的調整の規定が欠けていた時であっても、日米租税条約に基づく対応的調整のための(トヨタの)法人税額減額更正処分(地方税の還付も含む)は適法であり、(神奈川県座間市について)地方税条例主義に違反することもない。 |
移転価格税制の適用にあたり推定課税(租特法66条の4第7項)が認められた事例としてエスコ事件・東京地判平成23年12月1日平成19(行ウ)149号訟月60巻1号94頁請求棄却百選6版73(宮塚久・ジュリスト1442号8頁、駒宮史博・ジュリスト1462号124頁、水谷年宏「移転価格税制に関連する推定課税規定についての一考察」税大ジャーナル24号93-144頁)・東京高判平成25年3月14日平成24(行コ)19号訟月60巻1号149頁控訴棄却。 |
ケイマン、バーミューダなどが有名。(税金天国tax heavenではないので注意) |
株式会社ボディワークホールディングス事件・東京地判令和5年1月27日令和2(行ウ)211号棄却(堀治彦2024年9月5日租税判例研究会報告) 事実 日本法人X社(原告)は針、灸、あんま、マッサージ、指圧及び柔道整復の治療等を営む。X社は平成29年3月期(本件事業年度)終了時に原告グループ7社の全株式を保有している。マレーシア連邦令ラブアンのBODY WORK INSURANCE CO.,LTD(A社)は保険業を営む。A社の全株式をX社は平成28年3月期に保有していた。F氏はX社代表者、X社取締役、A社取締役である。 X社と原告グループ5社は平成25年3月28日又は29日付で現代海上火災保険株式会社(V社)との間で、被保険者をX社及び原告グループ5社の従業員とする傷害保険契約を締結した。V社は、同傷害保険契約をCAISSE CENTRALE DE REASSURANCE(S社)に出再(再保険に出すこと)し、S社は、これを受再(再保険を引受けること)した上でA社に出再し(再々保険契約)、A社は、当該再々保険契約を受再した。 X社と原告グループ6社は平成26年3月31日付でV社との間で被保険者をX社及び原告グループ6社の従業員とする傷害保険契約を締結した。V社は、同傷害保険契約をS社に出再し、S社は、これを受再した上でA社に出再し(再々保険契約)、A社は、当該再々保険契約を受再した。 X社と原告グループ7社は平成27年3月31日付でV社との間で、被保険者をX社及び原告グループ7社の従業員とする傷害保険契約(以下「本件傷害保険契約」という。)を締結した。原告グループ7社のうち原告グループ3社は、同日付けで、V社との間で、被保険者を原告グループ3社のセラピストとする賠償責任保険契約(被保険者のセラピストの業務遂行に起因して第三者の身体に損害を与えて第三者が死亡した場合に被保険者が負うべき法律上の損害賠償責任を補償するもの。以下「本件賠償責任保険契約」という。)を締結した。V社は、本件傷害保険契約及び本件賠償責任保険契約をS社にそれぞれ出再し、S社は、これらを受再した上でA社にそれぞれ出再し(再々保険契約)、A社は、同日付けで、当該再々保険契約をS社からそれぞれ受再した(以下、A社がS社から受再したこれらの再々保険契約のうち、本件賠償責任保険契約に係るものを「本件賠償責任保険再々保険契約」という。)。 A社は、平成30年2月2日、本件収入計算書(A社平成28年3月期)で費用の額として経理した本件賠償責任保険準備金積立額を約38万米ドル→0米ドルとし、傷害保険に係る保険準備金の積立額を本件収入計算書で費用として経理した額と本件賠償責任保険準備金積立額との合計額である約83万米ドル→120万米ドルとする訂正(本件訂正)をした。本件訂正後収入計算書について、(支払備金の増加)との記載を(未到来リスク準備金の増加)と再訂正(本件再訂正)した上で、平成31年4月23日、本件再訂正後収入計算書についてA社の取締役会及び株主総会による承認決議を行い、本件再訂正後収入計算書をラブアン金融庁に提出した。 X社が平成29年6月29日に豊島税務署長に提出した本件事業年度の法人税の確定申告書において、A社はCFC税制適用除外要件を満たす旨を記載した租税特別措置法66条の6第7項の書面(適用除外記載書面)が添付されていなかった。豊島税務署長は、A社平成28年3月期における租税特別措置法施行令39条の14第1項2号の税率が20%未満であるからA社は特定外国子会社等に該当するとし、A社の租税特別措置法66条の6第1項の課税対象金額1億3603万3131円をX社N益金に算入する更正処分をした。 争点 A社の税率は20%未満であり特定外国子会社等に該当するか否か。 A社が費用として経理した本件賠償責任保険準備金積立額が「異常危険準備金に類する準備金の額」(租税特別措置法施行令39条の14第2項1号ニ)に該当するか否か。 判旨 「キャプティブ[captive]とは、特定の企業又は企業グループのリスクを専門的に引受けるために設立される保険業務専門の子会社をいう。キャプティブの設立は、海外のキャプティブ法制度が整っている国や地域で行われるのが一般的である。日本を含む多くの国では、法令により企業は自国の保険会社で保険を付保しなければならないとされているため、通常、現地の元受保険会社を通じてキャプティブへの再保険が行われる。キャプティブは、保険における最終的な損失負担の主体を、保険会社ではなく自社自身とすることを実現する仕組みである。 キャプティブの種類には、自社キャプティプ(自社の完全子会社として設立するスキーム)、レンタキャプティブ(第三者が設立したキャプティブを借用するスキーム)等がある。このうち自社キャプティブは、自社の完全子会社であることから、経営の自由度が高く、日本法人への資金還流も比較的容易であること、日本法人への配当を行っても日本の税法上は海外子会社からの配当として95%が非課税となるというメリットがある一方で、軽課税国に自社キャプティブを設立した場合、日本の外国子会社合算税制に抵触し、自社キャプティブの所得が日本法人の益金とみなされる合算税制の対象とされてしまうリスクがある等のデメリットがある。」 「A社は、A社27年3月期までは、傷害保険契約に係る再々保険契約のみを受再していたところ、A社28年3月期からは、傷害保険契約に係る再々保険契約に加えて、本件賠償責任保険再々保険契約の受再を開始したことから、賠償責任保険に係る保険事故が発生した場合にも保険金を支払うリスクを負うことになった。そして、保険事故が発生した場合の保険金の支払に備えるという保険準備金の性質等に照らすと、A社としては、本件賠償責任保険再々保険契約の受再を開始したことで、賠償責任保険を対象として保険準備金の積立てをするかを検討する必要が生じるのであり、実際、証人_も、A社が本件賠償責任保険再々保険契約を受再することになった際、保険事故の発生リスクについてA社にヒアリングをする等して、賠償責任保険に保険準備金を積み立てるかどうかを検討した旨述べている(証人_ 7、8頁)。 そして、……、本件賠償責任保険再々保険契約の受再を開始したことに伴い、保険事故が発生する可能性等を勘案の上で、賠償責任保険に保険準備金を積み立てることとしたとしても合理性を欠くものではないところ、……、賠償責任保険にも保険準備金を積み立てる旨の本件収入計算書を含む本件財務諸表が作成され,これが原告の取締役会等において承認されたというのである。 かかる状況の下では、A社における保険準備金の積立てについては、A社が引受けをしている再々保険契約の対象となる傷害保険及び賠償責任保険の双方について保険準備金が積み立てられることとなったとみるのが自然であり、A社28年3月期において、A社27年3月期以前と同様に傷害保険のみについて保険準備金が積み立てられていたということはできない。」 「本件収入計算書は、A社における保険準備金の積立状況を正確に反映したものであり、原告の主張するように「誤記」であるとはいえないから、これを基礎として措置法施行令39条の14第2項により租税負担割合を算定するのが相当である。 他方、本件訂正後収入計算書及び本件再訂正後収入計算書は、決算として確定したものを合理的理由に基づかず事後的に修正したものであるから、……、本件再訂正後収入計算書がA社の取締役会及び株主総会による承認決議を経た上、ラブアン金融庁に提出されたことを考慮しても、租税負担割合の算定の基礎とすることはできない(本件訂正及び本件再訂正がMFRS[Malaysian Financial Reporting Standards]に沿ってされたとしても、この判断を左右するものではない。)。 そして、本件収入計算書を基礎とすると、本件賠償責任保険準備金積立額は、措置法施行令39条の14第2項1号ニに規定する「異常危険準備金に類する準備金の額」に当たり、これを踏まえて租税負担割合を計算すると、租税負担割合は0%となり、100分の20未満となるから、A社は措置法66条の6第1項に規定する特定外国子会社等に該当する。」 |
グラクソ事件事件・最判平成21年10月29日民集63巻8号1881頁百選7版74jy 原告主張 シンガポール子会社の所得について日本がタックスヘイヴン対策税制を適用して日本で課税することは、日本・シンガポール租税条約のPEなければ課税なしのルールに違反する。 国主張 シンガポール法人に対する課税ではなく日本法人に対する課税であるから条約違反ではない。 地裁判旨(高裁でも維持) 「誰に対して課税をするのかという観点を形式的に適用する論理は、日星租税条約の潜脱を容易に許してしまうおそれがあるものであって…、そのまま採用することは困難である。 他方、シンガポールの海外子会社が、親会社である内国法人に対し、配当その他の方法によって任意に利益移転を行った場合、内国法人に移転された利益に対しては、我が国において課税がされることになるが、これが日星租税条約に違反するものではないことは明らかである。そうだとすると、親会社である内国法人とシンガポールの海外子会社との関係、シンガポールにおいて海外子会社が置かれた地位や実際の活動状況その他の事情に照らし、海外子会社から内国法人に対して利益移転が行われるのが当然であるにもかかわらず、そのような利益移転が行われていないとみられる場合に、内国法人に対し、本来あるべき利益移転が実際にあったものとみなし、その移転利益相当額に対して課税をすることは、経済的合理性のない不自然な状態を、本来あるべき自然な状態に戻し、あるべき状態に基づく課税をしているのにとどまるのであるから、このような事態は、日星租税条約に違反することはないものと解される。」 最高裁判旨 「日星租税条約7条1項は、一方の締約国(A国)の企業の利得に対して他方の締約国(B国)が課税するためには、当該企業がB国において恒久的施設を通じて事業を行っていることが必要であるとし(同項前段)、かつ、B国による当該企業に対する課税が可能な場合であっても、その対象を当該恒久的施設に帰属する利得に限定することとしている(同項後段)。同項は、いわゆる「恒久的施設なくして課税なし」という国際租税法上確立している原則を改めて確認する趣旨の規定とみるべきであるところ、企業の利得という課税物件に着目する規定の仕方となっていて、課税対象者については直接触れるところがない。しかし、同項後段が、B国に恒久的施設を有するA国の企業に対する課税について規定したものであることは文理上明らかであり、これは同項前段を受けた規定であるから、同項前段も、また、A国の企業に対する課税について規定したものと解するのが自然である。すなわち、同項は、A国の企業に対するいわゆる法的二重課税を禁止するにとどまるものであって、同項がB国に対して禁止又は制限している行為は、B国のA国企業に対する課税権の行使に限られるものと解するのが相当である。」 「措置法66条の6第1項は、外国子会社の留保所得のうちの一定額を内国法人である親会社の収益の額とみなして所得金額の計算上益金の額に算入するものであるが、この規定による課税が、あくまで我が国の内国法人に対する課税権の行使として行われるものである以上、日星租税条約7条1項による禁止又は制限の対象に含まれないことは、上述したところから明らかである。」 「日星租税条約は、経済協力開発機構(OECD)のモデル租税条約に倣ったものであるから、同条約に関してOECDの租税委員会が作成したコメンタリーは、条約法に関するウィーン条約(昭和56年条約第16号)32条にいう「解釈の補足的な手段」として、日星租税条約の解釈に際しても参照されるべき資料ということができる」 検討 最高裁は地裁と同じ結論ながら地裁の「本来あるべき利益移転」という表現を避けているように見受けられる。避けたことにより、平成21年改正・法人税法23条の2(外国子会社配当益金不算入)導入後も本判決は意味を持つと考えられる(が、形式的にいえば平成21年後の租税条約違反の可能性についてはブランク)。 なお涌井紀夫裁判官補足意見は「日星租税条約7条1項の規定は、各種の所得のうち「企業の利得」(我が国の税制に照らしていえば、おおむね「事業所得」に相当する所得をいうものといえよう。)に対する課税に際しての締約国間での課税権の調整に関する規定であり、所得の種類がこれと異なる場合の課税権の調整については、その所得の種別に応じて日星租税条約中の他の条項の規定が優先的に適用されるべきことが同条6項に明定されている。これを受けて、例えば、配当所得に対する課税については日星租税条約10条の規定、譲渡所得に対する課税については同じく13条の規定等が、それぞれ別に置かれているところである。このような日星租税条約の規定振りからすれば、措置法の規定が日星租税条約に違反するか否かの問題を検討するに際しては、そこで問題とされている所得の種別に対応する日星租税条約の各条文ごとに、措置法の規定が日星租税条約の定めに違反するか否かが個別に検討されるべきこととなろう」と述べている。 個人所得税の租特40条の4について同旨:最判平成21年12月4日判時2068号34頁 |
内国法人(またはその支店)が10000を投資 | 外国子会社を通じて10000を投資 |
1年後の税引後の元利合計10600 | 1年後の税引後の元利合計11000 |
2年後の税引後の元利合計11236 | 2年後の税引後の元利合計12100 |
10年後:10000×1.0610=17908 税引後利益は7908 |
10年後:10000×1.110=25937 税引後利益は9562(=15937×0.6) |
みずほ銀行事件・東京地判令和3年3月16日平成31(行ウ)42号(棄却)・東京高判令和4年3月10日金判1649号34頁令和3(行コ)96号(原判決取消)・最判令和5年11月6日令和4(行ヒ)228号民集77巻8号1933頁(その他)ce(一高龍司「タックス・ヘイブン対策税制における課税対象金額に関する委任命令の適用が否定された事例」新・判例解説Watch租税法No. 177 (2023.5.19)、宮本十至子「タックス・ヘイブン対策税制における請求権勘案保有株式等保有割合の判定」新・判例解説Watch租税法No.184 (2024.2.26)、宮本十至子・ジュリスト1597号重判令05年183頁、鈴木悠哉・判例秘書ジャーナルHJ100197 (2024.5.31)ほか多数) 租税特別措置法施行令39条の16第1項&第2項1号が外国子会社の事業年度終了時の請求権勘案保有株式等の割合に着目しているところ、原告は、SPC(special purpose company)から原告に配当しうる利益が無いので0%であると主張し、被告(国)は100%であると主張した。 判旨 「(1)本件では、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否かが問題となるところ、この点を判断するに当たり、まず、本件規定の内容が、一般に、本件委任規定の趣旨に適合するか否かにつき検討する。 本件委任規定は、私法上は特定外国子会社等に帰属する所得を当該特定外国子会社等に係る内国法人の益金の額に合算して課税する内容の規定である。これは、内国法人が、法人の所得に対する租税の負担がないか又は著しく低い国又は地域に設立した子会社を利用して経済活動を行い、当該子会社に所得を発生させることによって我が国における租税の負担を回避するような事態を防止し、課税要件の明確性や課税執行面における安定性を確保しつつ、税負担の実質的な公平を図ることを目的とするものと解される。 また、本件委任規定は、課税対象金額について、内国法人の有する特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとしてその株式等の請求権の内容を勘案して計算すべきものと規定するところ、これは、請求権に基づき受けることができる剰余金の配当等の割合を持株割合よりも大きくしてかい離を生じさせる方法による租税回避に対処することを目的とするものと解される。 そして、本件委任規定が課税対象金額の具体的な計算方法につき政令に委任したのは、上記のような目的を実現するに当たり、どの時点を基準として株式等の請求権の内容を勘案した計算をするかなどといった点が、優れて技術的かつ細目的な事項であるためであると解される。したがって、上記の点は、内閣の専門技術的な裁量に委ねられていると解するのが相当である。 このような趣旨に基づく委任を受けて設けられた本件規定は、適用対象金額に乗ずべき請求権勘案保有株式等割合に係る基準時を特定外国子会社等の事業年度終了の時とするものであるところ、本件委任規定において課税要件の明確性や課税執行面における安定性の確保が重視されており、事業年度終了の時という定め方は一義的に明確であること等を考慮すれば、個別具体的な事情にかかわらず上記のように基準時を設けることには合理性があり、そのような内容を定める本件規定が本件委任規定の目的を害するものともいえない。 そうすると、本件規定の内容は、一般に、本件委任規定の趣旨に適合するものということができる。 (2)以上を前提として、次に、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否かにつき検討する。 前記事実関係等の下において本件規定を適用した場合には、本件各子会社事業年度における本件各子会社の利益は本件優先出資証券にのみ配当されたにもかかわらず、本件優先出資証券が同事業年度の途中で償還されたために本件保有株式等割合が100%となり、被上告人に対して合算課税がされることとなる。 もっとも、前述のとおり、個別具体的な事情にかかわらず基準時を設ける本件規定の内容が合理的である以上、上記のような帰結をもって直ちに、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱することとはならないところ、特定外国子会社等の事業年度の途中にその株主構成が変動するのに伴い、剰余金の配当等がされる時と事業年度終了の時とで持株割合等に違いが生ずるような事態は当然に想定されるというべきである。また、内国法人が外国子会社から受ける剰余金の配当等は、原則として、内国法人の所得金額の計算上、益金の額には算入されない以上(平成27年法律第9号による改正前の法人税法23条の2第1項等)、本件委任規定につき、特定外国子会社等において剰余金の配当等が留保されることにより内国法人が受ける剰余金の配当等への課税が繰り延べられることに対処しようとするものと解することはできないから、前記事実関係等の下において剰余金の配当等に係る個別具体的な状況を問題とすることなく本件規定を適用することによって、本件委任規定において予定されていないような事態が生ずるとはいえない。加えて、前記事実関係等の下においては、本件各子会社の事業年度を本件優先出資証券の償還日の前日までとするなどの方法を採り、本件各子会社の適用対象金額が0円となるようにする余地もあったと考えられるから、本件規定を適用することによって被上告人に回避し得ない不利益が生ずるなどともいえない。 そうすると、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するものではないというべきである。」 訴えの利益について 「増額更正処分後に国税通則法23条1項の規定によりされた更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分は、上記増額更正処分により一旦確定した税額について、更正の請求の理由を踏まえて改めて調査がされた上で、上記増額更正処分後の税額を減額すべき理由はないとしてされる処分である(同項、同条4項)。そうすると、上記通知処分は、上記増額更正処分とは別個にされた新たな処分であることが明らかであり、上記増額更正処分に吸収され、又はその内容が実質的に包摂されるということもできないのであって、上記更正の請求をした者は、上記通知処分が取り消された場合には、減額更正処分を受ける可能性を回復することができる以上、上記通知処分の取消しを求める訴えの利益を有するというべきである。 本件のように上記増額更正処分後に上記更正の請求がされた場合、これに係る税額が申告税額を下回るときであっても、上記増額更正処分に係る取消訴訟において、上記増額更正処分のうち上記更正の請求に係る税額を超える部分の取消しを求めることができるものの、このことから直ちに上記通知処分の取消しを求める訴えの利益を否定することはできない。 したがって、増額更正処分後に国税通則法23条1項の規定による更正の請求をし、更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けた者は、当該通知処分の取消しを求める訴えの利益を有すると解するのが相当である。」 cf.最判令和3年6月24日民集75巻7号3214頁 「相続税法55条に基づく申告の後に遺産分割が行われた場合における特定の相続人による同法32条1号の規定による更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分と当該相続人に対する同法35条3項1号の規定による増額更正は……いずれも当該遺産分割による各相続人の取得財産の変動という相続税特有の後発的事由を基礎としてされた同一相続人に対する処分であり,上記増額更正は,一旦確定していた税額を当該遺産分割が行われたことを理由に増額させて確定する処分であるから,当該遺産分割に伴い税額を減額すべき理由はないという上記通知処分の内容を実質的に包摂するものということができる。加えて,上記更正の請求がされているため,当該相続人は,上記増額更正の取消訴訟において,上記更正の請求に係る税額を超える部分の取消しを求めることが可能であると解される。そうすると,本件通知処分については,その取消しを求める利益はなく,本件訴えのうち本件通知処分の取消しを求める部分は不適法であるから,却下すべきである。」 |
辰巳マリン株式会社事件・東京地判令和5年3月16日令和2(行ウ)34号(棄却)(堀内健司・ジュリスト1598号10頁)……租税特別措置法66条の6第2項1号「外国関係会社」「特殊関係非居住者」の意義 |
ホンコンヤオハン事件・静岡地判平成7年11月9日訟月42巻12号3042頁・東京高判平成8年6月19日税資216号619頁・最判平成9年9月12日税資228号565頁 争点 「株式(出資を含む。)若しくは債券の保有」を「主たる事業」としていたかの争い。 判旨 一般論としては…「特定外国子会社等が複数の事業を営む場合、そのいずれの事業が主たる事業であるかの判定は、その事業年度における具体的・客観的な事業活動の内容から判定するほかはないのであるから、その事業活動の客観的結果として得る収入金額又は所得金額の状況、使用人の数、固定施設の状況等を総合的に勘案して判定するべき」 「1989年3月期の収入は……保有株式に係る収入がその殆ど(受取配当金及び投資有価証券売却益で全体の約96パーセント)を占めている」 |
デンソー事件・最判平成29年10月24日民集71巻8号1522頁百選7版75kb(長戸貴之・民商法雑誌154巻3号557頁)(デンソー事件についてではないが浅妻章如「CFC税制(タックス・ヘイヴン対策税制)の適用除外要件についての一考察」税務弘報56巻2号121-130頁(2008.2)も参照されたい) 日本法人D社―――シンガポール子会社S社―――豪亜地域孫会社M1社M2社M3社… S社の所得金額の8〜9割は孫会社からの受取配当が占めていたので、日本の課税庁はS社の「主たる事業」が株式保有業であると主張した(先例としてホンコンヤオハン事件)。納税者側は、S社の従業員等の生産要素の多くが孫会社の地域統括業務に従事しているので「主たる事業」は株式保有業ではないと主張した。当時は統括会社の特例(8.4.3.5.c.ア.)立法前であった。 一審は納税者側の主張を認めたが、控訴審で逆転し国側が勝っていた。最高裁で逆転した。 判旨 「地域統括業務の中の物流改善業務に関する売上高は収入金額の約85%に上っており,所得金額では保有株式の受取配当の占める割合が8,9割であったものの,その配当収入の中には地域統括業務によって域内グループ会社全体に原価率が低減した結果生じた利益が相当程度反映されていたものであり,本件現地事務所で勤務する従業員の多くが地域統括業務に従事し,Aの保有する有形固定資産の大半が地域統括業務に供されていた」。「S社の行っていた地域統括業務は,相当の規模と実体を有するものであり,受取配当の所得金額に占める割合が高いことを踏まえても,事業活動として大きな比重を占めていたということができ,[S社の]各事業年度においては,地域統括業務が措置法66条の6第3項及び4項にいうS社の主たる事業であった」。 |
安宅木材事件・東京地判平成2年9月19日行集41巻9号1497頁・東京高判平成3年5月27日行集42巻5号727頁百選4版70……外国子会社が自らその事業を管理支配していないとして、その親会社である内国法人について、タックス・ヘイブン課税規定の適用が除外される場合に当らないとされた事例。 |
日産事件・東京地判令和4年1月20日令和2(行ウ)86号(棄却)・東京高判令和4年9月14日令和4(行コ)36号(原判決取消)・最判令和6年7月18日令和4(行ヒ)373号(破棄自判)(事案の概要リンク先のファイルが消えてしまった)(辻美枝・ジュリスト1579号10-11頁、袴田裕二・ジュリスト1582号121-124頁、栗原宏幸・ジュリスト1585号10-11頁、高橋祐介・税研231号82-86頁) 適用除外要件 租税特別措置法(平成28年法律第15号による改正前)68条の90第3項:当該特定外国子会社等の行う主たる事業が卸売業,銀行業,信託業,金融商品取引業,保険業,水運業又は航空運送業のいずれかに該当する場合には,その事業を主として当該特定外国子会社等に係る所定の関連者以外の者との間で行っている場合に該当すること(非関連者基準) 租税特別措置法施行令(平成28年政令第159号による改正前)39条の117第8項5号:「保険業 当該各事業年度の収入保険料の合計額のうちに当該収入保険料で関連者以外の者から収入するもの(当該収入保険料が再保険に係るものである場合には、関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料に限る。)の合計額の占める割合が百分の五十を超える場合」 原告:日産(日本法人) A社:Nissan Global Reinsurance, Ltd略してNGRE。バミューダ法人。株式総数を原告が間接保有。主たる事業は保険業。本店所在地国における所得税負担割合0%。 B社:NR Finance Mexico, S.A. de C.V. SOFOM ER略してNRFM。メキシコ法人。株式総数を原告が間接保有。主たる事業は金融業。 C社:Assurant Vida Mexico, S.A.略してAVM。メキシコ法人。原告との資本関係なし。主たる事業は保険業。 B社は「本件各顧客」(日産の車を割賦購入)と「本件クレジット契約」(購入資金の貸付)を締結していた。B社はC社との間で「本件元受保険契約」(債務者の死亡と失業に関する保険契約。保険料は本件クレジット債権の期首残高の0.096%)を締結した。 C社とA社は「本件再保険契約」(C社が本件元受保険契約において引受ける全保険リスクの70%をA社に対して再保険に付)を締結した。 A社の収入保険料総額は米$5億2521万4976(@)。非関連者(C社を除く)から受領した収入保険料は$2億5318万3120(A)。C社から受領した収入保険料は$1149万3075(B)。A/@<50%。(A+B)/@>50%。 ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ ┃ 被上告人 ┃ ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ : : : :100%間接保有 : ↓ : ┏━━━━━━━━━━━━━┓ : ┃(特定外国子会社等) ┃ : ┃ NGRE(A社) ┃ : ┃ バーミューダ法人 ┃ : ┃本件再保険契約の保険会社 ┃ :100%間接保有 ┗━━━━━━━━━━━━━┛ : ↑ ↑ : 本件再保険契約| |再保険料 ↓ ↓ | ┏━━━━━━━━━━┓ ┏━━━━━━━━━━━━━┓ ┃(関連者) ┃ 本件元受保険契約 ┃ (非関連者) ┃ ┃ NRFM(B社) ┃←――――――――→┃ AVM(C社) ┃ ┃ メキシコ法人 ┃―――――――――→┃ メキシコ法人 ┃ ┃顧客に購入資金を融資┃ 再保険料 ┃本件元受保険契約の保険会社┃ ┗━━━━━━━━━━┛ ┗━━━━━━━━━━━━━┛ ↑ ↑ 本件クレジ| |保険料相当額 ット契約| | ↓ | ┏━━━━━━━━━━┓ ┃ 自動車購入者 ┃ ┃ (顧客) ┃ ┗━━━━━━━━━━┛ 争点 本件再保険契約に係る収入保険料が、本件括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」に該当するか否か。 控訴審判旨 「本件括弧書きは、主たる事業が保険業である特定外国子会社等の収入保険料が再保険に係るものである場合には、当該収入保険料が、関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料である場合に限り、非関連者基準を満たすものとしている。これは、保険業に係る非関連者基準については、特定外国子会社等とその関連者との取引が再保険の形で非関連者が介在する場合の取扱いが不明確であるとの指摘があったことから、特定外国子会社等の総保険料収入に占める非関連者からの保険料収入が過半か否かを判定する際に、保険契約によって担保される保険危険の過半が非関連者の財産等に係るものか否かという判断基準を明示することにより、その所在する国又は地域で行うことにつき経済合理性が認められない事業活動について外国子会社合算税制の潜脱を防止するという趣旨によるものと解される。そして、このような趣旨は、損害保険に限らず広く保険一般に妥当するというべきであるから、本件括弧書きにいう「資産」や「損害賠償責任」は、単なる例示にすぎないと解される。 そうすると、本件括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産…を保険の目的とする保険」とは、非関連者の資産等に対する保険危険を担保する保険をいうものと解するのが相当である。」 「本件元受保険契約においては、本件各顧客の死亡等を保険事故事由とする旨定められている上、NRFMが本件各顧客から保険料相当額の金銭を徴収してAVMに支払うこととされているから、保険料の実質的負担者は本件各顧客である。そうすると、本件元受保険契約は、本件各顧客がその生命、身体等に係る保険危険を担保することの対価として保険料を支払い、本件各顧客の死亡等の事由が発生した場合に保険金が支払われる仕組みとなっているのであるから、本件元受保険契約は、本件各顧客の生命、身体等に対する保険危険を担保する保険であるというべきである。」 上告審判旨 「(1) 施行令39条の117第8項5号は、措置法68条の90第1項の規定の適用が除外される場合の要件の一つである非関連者基準を、主として保険業を行う特定外国子会社等について具体化するものである。そして、本件括弧書きは、特定外国子会社等が関連者との間の保険取引に関連者以外の者を介在させた場合の収入保険料の取扱いを明確にし、上記の者を形式的に介在させることによって非関連者基準を充足させ、同項の適用が除外されることとなるのを防ぐ趣旨に出たものと解される。 このような本件括弧書きの趣旨に加えて、通常、保険に加入する者は、保険金の支払を受けることによって経済的不利益の保障、填補を受けることを目的として、保険料を負担して保険契約を締結するものと考えられることを踏まえると、本件括弧書きは、特定外国子会社等が保険者として再保険取引を行うに際し、当該再保険取引が関連者以外の者の資産又は損害賠償責任に係る経済的不利益を担保しようとするものである場合に限り、当該特定外国子会社等が当該再保険取引から得る収入保険料は関連者以外の者から収入するものとして扱うこととしたものと解される。 したがって、本件括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険」とは、関連者以外の者の資産又は損害賠償責任に係る経済的不利益を担保する保険をいうものと解すべきである。 (2) これを本件についてみるに、前記事実関係等によれば、NRFMは、本件クレジット契約を締結した本件各顧客が所定の保険契約を締結しない場合には、本件元受保険契約に本件各顧客を加入させ、本件各顧客から、本件クレジット債権の残高に応じて定められる本件元受保険契約の保険料に相当する金額を徴収して保険料をAVMに支払っており、また、本件元受保険契約においては、NRFMが優先受益者に指定され、この指定は取り消すことができないこととされるとともに、本件各顧客の死亡等又は失業等の保険事故が生じた場合には、それぞれ、所定の限度額を上限として、本件クレジット債権の未償還残高又は月額賦払金6か月分に相当する保険給付を受けることとされていたというのである。 上記のような本件元受保険契約の実質に照らせば、本件再保険契約に係る保険は、本件NGRE事業年度におけるNGREに係る関連者に当たるNRFMが有する資産である本件クレジット債権に係る経済的不利益を担保するものであるということができる。したがって、上記保険は、本件括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険」には当たらないから、NGREは本件NGRE事業年度において非関連者基準を満たさず、措置法68条の90第1項の適用が除外されることとはならない。」 |
来料加工事件(日本電産ニッシン事件)・東京地判平成21年5月28日平成18(行ウ)322号訟月59巻1号30頁請求棄却(今村隆ジュリスト1411号157頁)・東京高判平成23年8月30日平成21(行コ)236号訟月59巻1号1頁控訴棄却 日本法人の香港子会社が中国支店で製造等をしていた場合に、香港子会社の主たる事業は卸売業ではなく製造業であり(つまり非関連者基準で判定されず…非関連者基準ならば香港子会社は適用除外基準を満たすと考えられていた)、香港で製造してないので所在地国基準を満たさない。 Cf.日本香港投資協定3条(「いずれの一方の締約政府の投資家も、他方の締約政府の地域内において、投資財産、収益及び投資に関連する事業活動に関し、当該他方の締約政府又は両締約政府以外の政府の投資家に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。」)違反という主張は控訴審で斥けられた。グラクソ事件・最判平成21年10月29日民集63巻8号1881頁の判断枠組に依拠。 cf.類例:船井電機事件・大阪地判平成23年6月24日平成18(行ウ)191号訟月59巻1号100頁棄却・大阪高判平成24年7月20日平成23(行コ)107号税資262号順号12006控訴棄却 cf.類例:岡山地判平成26年7月16日平成24(行ウ)12号訟月61巻3号702頁棄却、確定(本田光宏・ジュリスト1501号128頁)。 cf.来料加工で納税者側主張を認めた事例として国税不服審判所平成26年8月26日裁決・裁決事例集75集415頁裁決東裁(法)平26第17号。 |
ガーンジー島事件(損保ジャパン)・最判平成21年12月3日民集63巻10号2283頁dg(渋谷雅弘・ジュリスト1402号110頁、渡辺裕泰・ジュリスト1409号203頁、田中俊久「デザイナー・レート・タックスに関する考察―スイス税制を中心に―」税大論叢75号1頁)(Bailiwick of Guernsey)(⇒2.2.2.、8.3.2.1.) 英王室領ガーンジー島では、一定の条件下で納税者が0-30%の範囲で税率を選ぶことができる。タックスヘイヴン対策税制の対象は税率25%以下(当時。トリガー税率という)の外国子会社であるので、日本の損害保険会社が支配するガーンジー島所在子会社が当地で26%の税率を選択し納税した。これが法人税に当たるかの問題。外国税額控除の適用の可否も合わせて問題となった。下級審は、強制性(前記「権力性」参照)を欠き租税回避サービスの対価であるとしたが、最高裁は租税性を肯定した(納税者勝訴)。 判旨 「 原審は、前記のとおり、本件外国税は、強行性、公平性ないし平等性と相いれないものであり、その実質はタックス・ヘイブン対策税制の適用を回避させるというサービスの提供に対する対価としての性格を有するものであって、そもそも租税に該当しないと判断した。 確かに、前記事実関係等によれば、本件外国税を課されるに当たって、本件子会社にはその税率等について広い選択の余地があったということができる。しかし、選択の結果課された本件外国税は、ガーンジーがその課税権に基づき法令の定める一定の要件に該当するすべての者に課した金銭給付であるとの性格を有することを否定することはできない。また、前記事実関係等によれば、本件外国税が、特別の給付に対する反対給付として課されたものでないことは明らかである。 したがって、本件外国税がそもそも租税に該当しないということは困難である。」 |
双輝汽船事件・最判平成19年9月28日民集61巻6号2486頁百選7版29 争点 合算対象となる「課税対象留保金額」を計算する過程において、タックスヘイヴン子会社の過去7年以内の欠損金を控除するという規定がある。 例えば、第1年度のタックスヘイヴン子会社が100の欠損であったが、第2年度において300の利益を出したという場合、第2年度において300−100=200のみが、合算対象となる。 逆にいうと、今年欠損が生じたら、将来7年間の利益と相殺することとなる。 しかし今年の欠損を今年の日本の親会社の損金に算入することを禁止する規定がないから、算入できるのではないかという主張がなされた。 一審 課税当局の処分に不備ありとして納税者勝訴。([浅妻]主たる争点とは違う箇所による結論) 二審・最高裁 逆転。タックスヘイヴン子会社の欠損を内国法人の損金の額に算入することはできない。 考察 規定ぶりからして子会社の欠損金をすぐに株主たる日本法人の損金に算入することができないのは仕方ない。寧ろ真の争点は、問題となっている欠損金が私法上子会社に帰属するか株主たる日本法人に帰属するか、であったのであろう。 |
日興コーディアル事件・東京地判平成26年6月27日平成23(行ウ)370号棄却・東京高判平成27年2月25日平成26(行コ)278訟月61巻8号1627頁棄却(吉村政穂・税研35巻4号通巻208号163頁)……ケイマン法人日本支店が日本で課税されていても租税特別措置法66条の6の特定外国子会社等に該当する。 |
シドホールディングカンパニー事件・東京地判令和4年11月30日令和4(行ウ)124号訟月70巻4号499頁棄却(高浜智輝・ジュリスト2024年12月号予定)(控訴審:東京高判令和5年7月19日令和4(行コ)341号訟月70巻4号481頁棄却確定)……韓国の国税庁が韓国の国税滞納者(A氏。原告の元代表者。韓国・日本・香港で海運業に携わる。2016年2月18日脱税有罪確定)に係る第二次納税義務者として指定した原告(CIDO Holding Company。ケイマン法人)について、税務行政執行共助条約に基づく徴収のための財産の保全の共助を日本の国税庁に要請した(「本件保全共助要請」)。東京国税局長は、本件保全共助対象外国租税について保全共助を実施する決定(「本件保全共助実施決定」)を行い、原告がみずほ銀行に対して有する外貨普通預金の払戻請求権を差し押さえ、そうして取り立てた金銭を東京法務局に供託した。 判旨 争点2:本件保全共助対象外国租税は、我が国において税務行政執行共助条約の適用のある課税期間に課される租税であるといえるか。 「本件保全共助対象外国租税は、要訴追故意事案に係る租税に該当するから、平成26年1月1日より前の課税期間に課される租税ではあるものの、我が国において税務行政執行共助条約の適用のある課税期間に課される租税である」。 「原告は、税務行政執行共助条約28条7項が遡及処罰の禁止(憲法39条前段)に反して違憲無効であるから、同項を根拠として、平成26年1月1日より前の課税期間に課される租税である本件保全共助対象外国租税を税務行政執行共助条約の適用のある課税期間に課される租税であるということはできない旨を主張する。」 税務行政執行共助条約28条7「項は、ある国について税務行政執行共助条約が効力を生じた年の翌年の1月1日より前に開始する課税期間(課税期間がない場合には同日より前)に課される租税についても、税務行政執行共助条約を適用する旨を定めた規定にとどまり、ある国において刑事上の責任を問われていなかった行為について、遡及的に同国において刑事上の責任を追及することができる旨を定めた規定ではないから、遡及処罰の禁止に触れるものではない。」 「原告は、要訴追故意事案には、過去に訴追されて既に確定判決を経ている租税事案は含まれないから、既に本件確定外国判決を経ている本件外国訴追事案に係る租税である本件保全共助対象外国租税は要訴追故意事案に係る租税には該当しないとして、税務行政執行共助条約28条7項を根拠として、平成26年1月1日より前の課税期間に課される租税である本件保全共助対象外国租税を税務行政執行共助条約の適用のある課税期間に課される租税であるということはできない旨を主張する。」 「要訴追故意事案の原文である『intentional conduct which is liable to prosecution under the criminal laws of the applicant Party』という文言からは、過去に刑事訴追を受けて既に確定判決を経た租税事案を要訴追故意事案から除外すべき根拠を見いだすことはできないし、過去に刑事訴追を受けて既に確定判決を経た租税事案を要訴追故意事案であると解したとしても、そのような租税事案について、再度、刑事上の責任を追及するために訴追することを許容することにはならないから、実質的にも、過去に刑事訴追を受けて既に確定判決を経た租税事案を要訴追故意事案から除外すべき根拠はない。かえって、原告の解釈によれば、有罪の確定判決を経ておらず、将来、無罪となる可能性がないとはいえない租税事案に係る租税債権を共助の対象とする一方で、有罪の確定判決を経た租税事案に係る租税債権を共助の対象とすることができないことになるところ、かかる帰結は不合理であるといわざるを得ない。」 争点3:本件保全共助対象外国租税の不存在を理由として、本件各処分は違法となるか。 「(1)実特法11条13項は、共助対象者は、実特法上の処分についての不服申立て及び訴えにおいて,当該共助対象者に係る共助対象外国租税の存否又は額が当該共助対象外国租税に関する法令に従っているかどうかを主張することができない旨を定めているところ、本件訴えは、実特法上の処分である本件各処分についての訴えに該当するから、原告は、本件訴えにおいて、本件保全共助対象外国租税の存否又は額が本件保全共助対象外国租税に関する法令に従っているかどうかを主張することができない。 (2)他方で、税務行政執行共助条約23条2項は、この条約に基づき要請国が採った措置、特に、徴収の分野に関連して、共助対象外国租税債権の存在若しくは額又はその執行許可文書に関して採られた措置(租税債権の存在及び税額を確定する効果を有する課税処分その他の措置(以下「課税処分等」という。)はこれに該当する……。)についての争訟の手続は、要請国の適当な機関にのみ提起することができる旨を定めているから、原告は、これらの措置について不服がある場合には、要請国である韓国の適当な機関に争訟の手続を提起すべきであって、我が国において、これらの措置についての争訟の手続を提起することはできない。 (3)こうした関係規定の構造に照らすと、要請国である韓国において、本件保全共助対象外国租税の存在及び税額を確定する課税処分等がされている場合には、我が国の裁判所において、本件保全共助対象外国租税の存否及び額につき、当該課税処分等と矛盾した判断をすることは想定されていないというべきであるから、本件訴えにおいて、本件保全共助対象外国租税の不存在は本件各処分の違法性を基礎付ける事情にはならないというべきである。 そして、本件共助要請書には、本件滞納外国租税及びこれについての原告に対する第二次納税義務について、韓国の国税庁による課税処分等がされている旨の記載があるところ……、同記載の内容が正しい旨の同国税庁の宣言……がある一方で、同記載が客観的事実に反することをうかがわせる的確な証拠はないから、韓国において、本件保全共助対象外国租税の存在及び税額を確定する課税処分等はされているものと認められる。 (4)したがって、本件保全共助対象外国租税の不存在を理由として、本件各処分が違法となることはない。 (5)なお、原告は、本件各処分時において、本件保全共助対象外国租税債権の課税要件事実が存在していない場合には、本件保全共助対象外国租税を保全共助の対象とすることはできないとの見解を前提として、本件保全共助対象外国租税を保全共助の対象とした本件各処分が違法な処分である旨を主張しているものと解されるが、かかる主張は、前記(1)から(3)までにおいて説示した関係規定の構造に反した独自の見解であるといわざるを得ず、採用することができない。原告としては、本件保全共助対象外国租税債権の存在及び税額に不服があるのであれば、要請国である韓国において、適当な機関に対し、これらの点を確定する効果を有する課税処分等についての争訟の手続を提起しなければならないというべきである。」 |