2000年7月
田中治彦
国際理解(教育)と環境教育とがどのように関係しているかは次の三点で考えることができる。第一は、私たちの身の回りのモノ(すなわち環境)はことごとく世界とつながっていることである。第二は、環境問題は人口、貧困などの地球的課題と密接に関係していて、これらをトータルに理解することなしには環境問題の本質を理解できないことである。第三に、以上のことから必然的に、私たちが環境問題を解決しようとするときに、他の諸問題との関連のなかで行動する必要があることである。
まず第一点の「世界とのつながり」について考えてみよう。図1は「私と世界」と題するウェビング(クモの巣アプローチ)である。これは実際に学生たちと教室で行ったもので、「自分」ないし「教室の中にあるモノ」で世界とつながっているものを上げてもらってクモの巣状にしたものである。
着ているもの、食べたもの、教室のなかにある机、ノート、蛍光灯の類、さらにテレビを通じた情報、お金、空気に至るまで、わずか十分ほどの間に数十点のモノが上がってきた。自分自身が外国籍であるという留学生からの答えもあった。教室の中のモノや人で世界とつながっていないものを探すことの方が困難であろう。
このように私たちの身の回りのモノはことごとく世界と関係している。従来の環境教育は「身の回り」や「地域」を強調するあまり、世界とのつながりを見失うことはなかっただろうか。一例を上げると、全国の多くの学校で行われている「古新聞回収」や「空き缶回収」という行事である。この活動は古新聞や空き缶を回収して、リサイクルの精神を養うことを目的として行われる。しかしながら、古新聞紙やアルミ缶をリサイクルして有効利用することを学ぶことはできるが、それらの原料がどこから来ていてどのように流通してくるのかに学習が及ぶことは希である。
実際には新聞紙の原料となるパルプは北米などから大量に輸入されたものであるし、アルミはそのすべてを外国からの輸入に頼っている。アルミの場合、その精練には多量の電力を必要としていてアルミは「電気の缶詰」とすら言われている。リサイクル自体は環境保護につながるものの、その生産過程を学び、大量に消費している自分たちのライフスタイルを問わないことには、本当の意味で環境保護にはつながらない。
このように私たちの身の回りのものについて、その生産されている海外にまで学習を進めることで、ようやく環境問題の全体像が明らかになるのである。

環境教育と国際理解についての二番目の課題に移ろう。今日本で広く行われている環境教育を見ると、環境破壊の原因を先進国の過剰生産・過剰消費に求め、その解決策として自然保護とリサイクルへの参加を求めるというスタイルが「定番」になっているようである。しかしこれでは地球環境は永遠に守られない。なぜなら、地球環境悪化の原因は先進国の過剰消費と並んで、開発途上国の人口問題と貧困の問題にあるからである。
昨年(1999年)に世界の人口が60億人に達した。この半分の30億人であったのはわずか40年まえの1960年のことであった。いわば、人類はその発生以来約50万年かけて30億の人口に達し、その後わずか40年で倍の60億人になったということができる。ヒトの棲息域が拡大すればそれだけ野生生物の生活圏は狭められる。動物園で子どもたちにも人気があるトラが絶滅するかもしれない、ということが最近深刻に報じられている。これはインド亜大陸における急激な人口増のせいである。インドは現在約10億人の人口を有するが、急激な人口増加にためにインドの北側のタライ平原に人々が入植している。この地域はかつてうっそうたるジャングルであり、トラなどの猛獣が多くすんでいるのとマラリアなどの病気のために人々は近づかなかった地域である。
しかもさらに問題なのは、この60億の人口の5分の1以上は、日常の生活のニーズ(衣食住・教育・医療など)を充たせないほどの「貧困」の状態にあることである。「貧乏人の子だくさん」という言い方があるように、貧困から脱却しない限り人口は増えつづける。そして貧困問題を解決するには人間が生活する最低限のニーズを満たすための一定限度の「開発」が必要なのである(ただし従来型の工業優先の開発である必要はない)。
地球環境を守るために途上国は人口を減らしてください、といくら先進国側が主張しても説得力に欠ける。なぜなら一人当りに換算して、日本はインドの約13倍、アメリカは29倍ものエネルギーを使っているのである(1995年)。インドの人に言わせれば「インド人29人減らすよりアメリカ人1人を減らした方が地球環境によいでしょう」ということになる。
私たちは「人口」「貧困」「環境」という相互に密接に関連したトリレンマに陥っている。したがって地球環境を守るための環境教育としては、従来の環境教育に加えて人口・貧困・開発問題を扱う「開発教育」を同時並行して進めねばならない。あるいは人口・貧困問題を視野に入れた環境教育を実践していかねばならないのである。
ここで、環境と国際理解に関する学習プログラム「パーム油を通して考えよう」をご紹介しよう。まず最初に子どもたちに三つの製品(カップラーメン、チョコレート、ポテトチップス)を見せて、これらに共通する原料は何かを当ててもらう。当らなければ次に、アイスクリーム、石鹸、洗剤の順で見せていく。正解は「パーム油(やし油)」である。この他、ヤシの殻を使った亀の子たわしや冷蔵庫の脱臭剤も紹介する。
次にパーム油に関連する写真を見せながら説明を加える。パーム油は「オイル・パーム(油ヤシ)」の果肉からとれる。日本は9割以上をマレーシアから輸入している。日本での需要は食用8割、非食用2割である。マレーシアは生産量、輸出量ともに世界一である。マレーシアでは天然ゴムに代わる輸出品目としてプランテーションで生産している。
ここでロールプレイを行う。子どもたちを七つのグループに分けて、パーム油の生産から消費までの過程に携わる7人の役割カードを配る。役割は、日本の専業主婦、日本の大学生、日本の合成洗剤メーカーの社員、マレーシアの役人、パーム油プランテーション経営者、パーム油プランテーション労働者、サラワク州の先住民、である。七つのグループから代表を出し、カードの人物になりきって、カードの内容を順に読み上げてもらう。彼らの間でしばし意見交換や議論をする。また、カードを読んで、聞いて感じたことなどを話し合う。ここで子どもたちは、環境にやさしいというイメージで売られているパーム油の洗剤が、実はマレーシアの熱帯雨林を伐採して作られていることや、大量の農薬が使用されていること、現地の労働者の賃金の低さなどに気づくであろう。
最後にランキング(順位付け)を行う。「これらの事実を知った上で、あなたはどうしますか」と問いかけながら、ある行動が書かれている9枚のランキング・カードを配る。カードは図2のとおりである。グループごとに大切だと思う順にカードをダイヤモンド型に置いていく。ランキングには正解はないことをあらかじめ伝えておく。各グループがどのように考えて結論を出したかを発表してもらう。出てきた回答よりも、どのような経過でその結論に達したのか話し合いのプロセスが大切である。
A 技術者となり、パーム油に代わる油脂を開発する。
B 友だちとお金を出し合って、農薬よけの手袋を送る。
C 毎朝、彼らの幸せを祈る。
D 明日から親戚、友人、知人にパーム油の問題を積極的に話していく。
E 自分の生活には影響はないので、特に何もしない。
F 商社に対して、今後労働者の健康管理を条件として、パーム油を買い付けるように働きかける。
G 図書館に行き、パーム油についてもっと勉強する。
H パーム油を使用した商品は、今後購入しない。
I マレーシア首相に、森林を伐採しないように要求する手紙を送る。
環境問題を地球的諸問題との関連のなかで考え行動する必要性について最後に述べておこう。パーム油の実践の最後のところで行ったランキングを実際にやってみると分かるが、この問題の解決に向けた具体的な行動となると実際には答えは一様ではない。問題が複雑であるし、各人の価値観によっても変わってくるし、また回答自体が現在ではなく未来にあるのかもしれないのである。
古新聞や空き缶のリサイクル活動においては「リサイクルが環境問題解決の答えである」というメッセージを子どもたちに与えている。しかし、その生産や流通過程を学習しなければ本当に有効な答えは出てこないはずである。先に述べたように、大量消費をしている私たち自身のライフスタイルにも問題があり、そのことに気づくことも大切である。
私たちの多くは一方である程度の豊かさを求め、かつ環境の良さも求めている。物的な豊かさも環境の良さもどちらも生活の質につながっているが、両者は場合によっては相反することもある。学校で教えられていることも、経済的成長を重視する価値と、環境を保護する価値が同時並行的に脈絡なく教えられている。これらを統一的に考え、答えを見出していくことこそが環境教育の目標でなければならないであろう。
その一例として「緑を求めて」という熱帯雨林をテーマとした教材を紹介しよう。これは一種のすごろくであるが、ゲームの最終目標は「富裕ポイント」を1000と、「環境ポイント」を10集めることである。さいころを振って「チョイス」というマスに止まった者は「チョイスカード」をめくる。あるチョイスカードには次のように記されている。
チョイス・カードあなたはタイの農林大臣です。自国の経済発展の停滞とも関連して、人口増加と食料不足の問題を抱えています。あなたは問題打開策を立てなければなりません。あなたの選択肢は以下の通りです。
○ 苦肉の策として、食料獲得のために熱帯雨林を伐採して穀物を生産する。(−1環境ポイント、+250富裕ポイント)
○ 物議をかもすような政治的行動であるが、工業国から援助を求める。従って債務はさらに累積する。(+100富裕ポイント)
○ 人口問題対策の必要性を強調する。(+3環境ポイント、−200富裕ポイント)
このように富裕ポイントを稼ごうとすれば環境ポイントが減ってしまい、逆に環境ポイントを獲得しようとすると富裕ポイントを失うことになる。このゲームを行うことで学習者は熱帯雨林問題の複雑さを理解し、また自分の行動がいかであったかを振り返ることが期待されている。「緑を求めて」が集録されている『地球のみかた』には、環境と開発をめぐるジレンマのなかで考えせたり、私たちが個人、学校、自治体、国家、世界のさまざまなレベルでとりうる行動を考えさせるような教材も紹介されている。
環境問題は人口、貧困、開発、ジェンダー(男女平等)、多文化共生などの他の地球的諸課題と密接に関係しており、それらとリンクしながら解決の糸口を見出していくべき課題である。従って環境教育も地球的課題を扱う開発教育、平和教育、人権教育、多文化教育との関係のなかで実践されることによって、最終的にこれらの課題解決への展望を切り開いていくことができるのである。
1) 開発教育については次を参照のこと。『開発教育ってなあに−開発教育Q&A集』『わくわく開発教育−参加型学習へのヒント』『いきいき開発教育−総合学習に向けての教材とカリキュラム』(いずれも開発教育協議会刊、〒169-0051 東京都新宿区西早稲田2-3-18-73、電話03-3207-8085)。田中治彦『南北問題と開発教育−地球市民として生きるために』亜紀書房。
2) パーム油の教材については開発教育協議会に直接問合せのこと。
3) パメラ・パッサマン(他著)『地球のみかた−地球について学ぶカリキュラム』ERIC国際理解教育センター(〒114-0013 東京都北区東田端1-14-1岩瀬ビル、電話30-3800-9416)。
|
|
|
|
|
|
|
|