居場所の構想


2001年4月刊行−学校外教育論から10年

 

子ども・若者の

居場所の構想

「教育」から

「関わりの場」へ

田中治彦編著

2001.4.5.


 

 2000年には17歳の少年が短絡的で狂暴な事件を起こして世間を震撼させた。この少年たちが14歳のときに映画化されて大ヒットした「エヴァンゲリオン」(庵野秀明監督)というアニメがある。主人公のシンジ少年(14歳)は、人類を滅ぼそうとする「使徒」と呼ばれる敵と戦うためにエヴァンゲリオンというロボットを操縦するパイロットである。この物語の面白い、あるいは不思議なところはシンジ少年は最後までエヴァンゲリオンに乗りたくない、と「ダダをコネル」ことである。敵の攻撃で人類が今まさに滅亡の危機に立っていてもである。物語自体はマルチ・エンディングであり、そのひとつの結末はシンジ少年の「ああ、僕はここにいていいんだ。」で終わる。

 

 この物語からは、大人社会からの期待に応えられずに悩み、彷徨し、居場所をみつけられずに自分探しを続ける現代の少年の姿が見えてくる。日本社会は1980年代には明治以来の国家目標であった物的に「豊かな社会」を実現し、西洋社会に追い付け追い越せというスローガンを達成した。その後の社会目標が不明確であるにもかかわらず、大人たちは依然として子どもたちに「教育的まなざし」を送りつづける。子どもたちは大人の期待そのものを疑っており、未来を見つめることを止めて「今ここ」に生きようとしている。

 

 しかし、「今ここ」に生きようとしても確固たる足場はなかなか見出せない。多くの若者が「居場所」がないと感じているのは、社会が激しく動き自分も揺れ動くのでその位置どりがなかなか見出せないからである。居場所は、未来への展望という時間軸と現在の自分の位置どりという空間軸とが交差するところに形成される。そして居場所を確保していくためには、他者との関わりという第三の要素が欠かせない。現代社会においては、この他者との関わりという要素が決定的に欠乏している。

 

 本書は、現代の子どもや若者がこの20年間でいかに変わってきたかを明かにすることを目的としている。そして大人社会は、今後彼らとどのような関わりをもてばよいのかを考察し提言する。大人がゴールを設定しそこに到達させようとする「教育」「育成」「指導」という発想は目標なき社会においては無力化しつつある。それではそれに代わる新たな手法は何なのか。筆者らは社会教育や児童福祉の実践や研究においてこのことを追及してきてた。ようやくここに一つの方向性を見出しつつある。それは、「関わりの場としての居場所」を豊富に用意することと、そこにおける「子ども・若者の参画」を徹底的に促すことである。

 

 1997年に大ヒットしたもう一つのアニメに「もののけ姫」(宮崎駿監督)がある。中世の日本を舞台としているが、そこに描かれているのは環境、開発、多文化共生といった現代地球社会が抱える最先端の課題である。異なった利害をもつ者どおしを仲裁し、紛争を解決しようとする主人公アシタカの姿は、難民救援や貧困撲滅にために活躍するNGOの若者の生き方とオーバーラップする。全体の若者からすれば少数派ではあろうが、ここには現代の若者のひとつの生き方がある。国際協力でなくても、自分のテーマが明らかになり自分が主人公として活躍できる場があれば、すなわち自分の居場所と参画が保障されれば、若者はその力をいかんなく発揮するのである。

 

 本書は足掛け3年かけて構想されようやく完成をみた。当初は筆者の前著『学校外教育論』(1988年、学陽書房)を改訂するつもりであったが、いざ取り掛かってみると若者論を書くにはいささかしんどさを感ずる年となっていることに気づいた。日本社会教育学会の若手研究者らの応援を得てようやく完成の運びとなった次第である。第3〜8章という本書の中心部分を30代の研究者に思う存分書いてもらい、その前後を40代50代のライターがフォローするという構成をとっている。青少年研究や青少年組織のひとつのあり方を示したものと自負している。

 

 本書の企画執筆にはインターネットの「電子掲示板」が絶大な役割を果たしたことも付記しておきたい。時間と空間とを隔てられた筆者らは電子掲示板を利用して議論し、叱咤激励し、ぐちを言い合った。今後は読者との交流の場として電子掲示板を利用しようと考えている。掲示板を訪問して感想などを書き込んでいただければ幸いである。


もくじ

 

序章 関わりの場としての「居場所」の構想    田中治彦

1章 子ども・若者の変容と社会教育の課題   田中治彦

2章 心理学から見た「居」場所   高塚雄介

3章 子どもの・若者の居場所の条件    萩原健次郎

4章 人間の発達観と子どもの現場     萩原健次郎

5章 ケータイ・インターネット時代の自己実現   佐々木英和

6章 子ども・若者の遊び空間      筒井愛知

7章 子ども・若者とメディア       筒井愛知

8章 若者の自己表現空間としての消費社会   中島純

9章 ジェンダーの視点から見た若者の居場所   矢口悦子

10章 居場所づくりの方法論      田中治彦

11章 居場所づくりの指導者論    水野篤夫

12章 学校・地域・家庭の新しい関係    上平泰博


序章 関わりの場としての「居場所」の構想 へ

若者のサブ・カルチャー・マップ(本書第7章より)

『居場所の構想』掲示板へ 

著者と読者の交流の場です。ご意見、ご感想、ご批判、ご質問など歓迎します。本著の訂正・加筆もここで行います。

〔2002年新春対談〕子ども・若者の居場所づくり

山根誠之さん(横浜YMCA総主事)との対談。本書のいわばエッセンスを語っています。

19歳になったシンジ君−2002年にエヴァンゲリオンを語る

本書を書くうえでとても参考になったアニメ・エヴァンゲリオン。ミイラ鳥がミイラになってついに語らずにいられなくなりました。

 


もくじ

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