2001年度田中ゼミ p11


 

アクション・リサーチを終えて

 

田中治彦 


 今年の田中ゼミは、池袋西口をテーマに「アクション・リサーチ」を行い、ロジャー・ハートの『子どもの参画』の内容を理解することを目的とした。アクション・リサーチは、現在学校教育で取り組まれつつある総合学習のひとつの重要な手法となりうる。そこで、ゼミで取り組んでみて、実際にアクション・リサーチを学校などで実施する際のヒントや課題を探りたかった。

 学生たちが池袋を歩いて発見し取り組んだ4つのテーマ−タイ料理店、バリアフリー、風俗店、ホームレス−はどれも魅力的であった。参加者の声にあるように、最初は興味をあまり持てなくても、調べていく内に次第にのめりこんでいく様子がわかる。そして調査を終えた後も、ニュースなどでそのテーマに関連する事件が報道されると気になるようになったと答えている。

 

アクション・リサーチとして

 

 いくつかの観点から今回のリサーチを評価してみたい。第一にハートが提起したアクション・リサーチの手法に照らして評価するとどうなるであろうか。問題の特定から調査に至るプロセスは非常にうまくいっている。ハートは問題の特定から出発しているが、実際は最初は特定というより「仮のテーマ」というのに近い。調べていく内に次第に課題が明らかになり、問題を文字どおり「特定」できるようになる。

 例えば、バリアフリーのグループが良い例である。このグループは、最初はどのように進めてよいか戸惑っていた。というのはバリアフリーといっても障害の種類や程度によって全く異なるからである。彼らは車椅子通学している学生と出会うことで、ようやくテーマを絞ることができ、しかもその後のリサーチの成果は非常に具体的でインパクトのあるものであった。

 バリアフリーに限らず、他のグループもタイ料理店長と話したり、ホームレスの人々と交流するなかで、より問題点を明確にしている。アクション・リサーチにおいても、おそらく総合学習を進める上でも「人との出会い」が大きなキーワードになるであろう。

 ハートは問題の分析の次に、「計画」「行動」を置いている。問題解決のための計画という点では、バリアフリー班がいくつか提言を行い、またホームレス班も「自分たちにできること」を考察している。しかし、タイ料理班ではインタビューした店長さんが日本での生活を満足していることもあって具体的な問題点を発見するに至っていない。また、風俗店については「そもその風俗店の存在自体はなぜ問題なのか?」という点を深めきれていないように思われる。この報告書にはないが風俗班は後期の発表で「自分の娘がキャバクラでバイトすると言ったらどうするか?」というディベートを行った。そこでも賛否両論あり、試合自体は引き分けに終わった。後期には主としてハートの本を読み込むことを目的としたため、概してアクション・リサーチの「計画」「行動」というプロセスについては十分深めることができなかったと言わざるをえない。

 

それぞれの調査内容

 

 第2にそれぞれのグループのリサーチ内容についてみてみよう。タイ班では、タイ料理店、タイ大使館などをめぐり、日本に住むタイ人について調べている。そしてメンバーの内2人はタイとラオスのスタディツアーに参加した。そして「私がタイ人だったら、やはり日本で働きたいと思う」という感想を記している。この点では移民労働者についての認識を深めたと言える。タイ・グループの調査についてさらに深めようとするならば、班のメンバーも言っているように、より多くのタイ人に聞き取り調査をする必要があろう。

 池袋の3つのタイ料理店の店長が、いずれもかつて台湾に留学していた中国系ラオス人である、という点に私は興味をもった。彼らは台湾の大学の同期生で、学生のときに本国で社会主義革命が起きた。彼らは本国に帰っても迫害される、あるいは将来が見出せないと考えて日本にわたってきたのであった。すなわち、彼らのこれまでの人生をもっと知っていけば、そのままベトナム戦争後のインドシナ現代史となるのである。このような学習の発展も可能であろう。

 前期の最後に行われたバリアフリー班の報告は迫力のあるものであった。彼らはA君とともに立教から池袋駅までを一緒に歩いてビデオにおさめてきた。ゼミではそのビデオをそのまま映して、ポイントごとに解説を加えたのであった。百の言葉より一つの映像が、バリアフリーの実態を余すところ無く語ってくれた。立教大学当局とのインタビューでは、立教のバリアフリー対策はもちろん十分なものではないが、要望に応じてその都度改善しようとする姿勢には感銘を受けたようである。そして「助けること」の難しさも感じさせられた。A君は「自分で大抵のことはできるので一緒にいてもらってもすることがなくて申し訳ない。しかし時々助けてほしいときがあるが、その時ボランティアがいなくて回りの人にどう声をかけてよいか悩む」と語っていた。

 風俗班は、テーマの性質もあって調査が難航した。法律を調べたり、池袋警察で実態を調べるまではよかったのだが、その先が進まない。「私、体験入店してきます」という女子学生まで現れて教員を困らせたものである。結局、風俗店の前で張り込み調査をしたり、風俗嬢にインタビューしたりと、文字どおり体当たりの調査を行った。本レポートでは省略されているが、池袋はかつての宿場町ではないのになぜ風俗店が多いか、という点についても「豊島区史」や日本文学科の教授への聴き取りなどで調べている。それによれば、戦後の闇市と裏社会の存在、そしてターミナル池袋駅という背景があるようである。この班は、ぼったくりと性感染症についても貴重な報告をしてくれた。

 ホームレス班も体当り組である。私は学内サークルでホームレスに関っている「ふくろうの会」を紹介したのであるが、彼らはさっそく炊き出しに出かけていってホームレスの人々と交流してきた。レポートの中にその時の感想が記されていて、この部分が一番面白い。全体に文献等の調査とインタビューとがバランスよくまとめられている。後期の授業では池袋でホームレスしているお2人がゼミに登場して、他のメンバーにかなりのインパクトを与えた。お2人は毎週水曜日にボランティア・グループとともに夜回りをして他のホームレスの人々のケアをしているリーダー的な存在である。

 

参画の観点から

 

 さて、最後にゼミのテキストでもある「子どもの参画」という観点から評価してみよう。参画のはしごに照らすとどうなるであろうか。ゼミ自体は第4段の「役割参画」から出発している。第1回のゼミに集まったおよそ40名の学生にオリエンテーションして、ゼミの年間テーマとテキストを指定した。それで最終的に22名の学生が田中ゼミを選択した。池袋西口を歩いて4つのテーマに絞るまではほとんど私の指示によるものである。班に分れてから発表するまでは第7段の「自分たちで企画し運営する参画」にならざるを得なかったが、やっていることの意味が必ずしも分かっていなかったり、参画の意欲にまだ乏しい(与えられているからやっている)ので実質は4段か5段であろうか。夏のゼミ合宿の企画あたりからは、第6段の「一緒に決定する参画」である。第4段から始まって第6段目くらいまで行ったのが前期の状況である。

 後期になると、テキストにあるファシリテータに興味があるので、「ファシリテータ養成講座」を開いて欲しいという要望が出た。結局12月に冬合宿を行うことになった。また、この頃から飲み会、ボーリング大会などの企画が学生たちからあり、第7段から8段(子どもが企画し大人を巻き込む参画)で推移したと言えよう。今年度のゼミは当初から活動的な学生が多く、参画という観点からは良かったと思っている。

 私自身は年間を通してファシリテータ役を果たしていたわけだが、反省点は各班の調査の段階でもう少し関わるべきであったかもしれないということである。学生からも「もう少し先生が指導してほしかった」という声がある。各班からのレポートを見ると、まだ高められる部分があると感じる次第である。

 最後に気づいたことをひとつ上げるとするならば、学生たちの表現する力である。各班の報告の時間には、模造紙に書いてまとめるという伝統的な形式もあったが、ビデオによるレポートやワークショップ形式による報告などもあり、なかなか面白かった。若い人たちの表現力の豊かさには感銘を受けた。

 来年度はほとんどの学生が卒論製作に取りかかる。今回は地域からテーマを探し深めるアプローチをしたが、4月から彼らはどのようなテーマを選び、深めていくのであろうか。


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