新春対談

子ども・若者の居場所づくり

〔対談者〕

山根誠之 横浜YMCA総主事

田中治彦 立教大学教授


 YMCA NEWS(横浜青年)の2002年新年号の企画で、「子ども、若者の居場所づくりに向けて〜YMCAの使命を考える」と題して横浜YMCA総主事の山根さんと対談いたしました。

 昨年10月以来、「YMCAに未来はあるか」と題して現代の子ども・若者を捉えきれないYMCAの現状に対してホームページ上で警鐘を鳴らしてきました。この記事については、YMCAに関わるさまざまな方々から賛否両論のご意見をいただきました。

 今回の山根さんとの対談では、氏の温かく常に前向きなお人柄もあって、私の言いたかったことを気持ちよく語らせていただきました。「YMCAに未来はあるか」キャンペーンを締めくくるのにふさわしい記事にしあがりました。

 また、昨年4月に出版した『子ども・若者の居場所の構想』のダイジェストであり、かつ応用にもなっています。以下の文章の「YMCAの役割」の部分を「児童館」「青年の家」「子ども会」「総合学習」などに置き換えても十分通用いたします。

 ここに、横浜YMCAのご好意で対談の全文を掲載させていただきます。

2002年元日

田中治彦


■集団離れと目的意識の喪失

山根誠之(横浜YMCA) ここ数年、青少年による犯罪が顕在化する一方、不登校の児童が増加するなど、青少年をとりまく状況が深刻になってきています。はじめにこうした社会的な背景についてお伺いしたいのですが…。

田中治彦(立教大学) 私は、日本の社会において20年くらい前からそれまでとは異なる変化が起こってきたと考えています。ファミコンが発売されたのが1983年なのですが、これはある意味では象徴的なことで、このあたりがどうも若い人たちが変わってきた時代の変わり目なのではないかと思います。そのころに生まれた子どもたちが、一時期話題になった「17歳事件」の世代であり、今は18歳になっています。ここに明治維新にも匹敵する時代の境目があり、日本社会が大きく変わってきたと思います。

山根 具体的にはどのようなことでしょうか。

田中 80年代後半以降、学校ではいじめや不登校、学級崩壊といったことが顕著になり、社会問題になりました。一方で多くの青少年施設や団体、行政では、80年代前半をピークにグループワーク的な活動に参加する青少年が減少し、「集団離れ」の状況が顕著になってきました。

山根 それは、はじめからグループがあるような所には参加したくなくなったということでしょうか。

田中 集団に参加するのは結構しんどいですよね。人と付き合い、時には我慢をしなくてはいけないし、そこまでして集団に入る意味が薄れてしまった。それまでの社会というのは、集団にいることの方が有利だったし、一定の目標のために忍耐して団結をさせる必要がありました。80年代前半の日本社会は、西洋に追いつけという目標が一応達成されて豊かになったし、かつ次の目標が定まるわけでもなく、そこで集団で我慢してまでやる必要がないということになってきたわけです。

山根 確かに80年代、いわば我々の生活レベルや価値観が、複合的に豊かさというものに結び付いて達成されてしまい、90年代に入ってからはとくにバブル経済の崩壊も加わって、次の目標というものを皆が持ち得なくなってきました。あわせて、ある意味ではモデルを大人が示せていませんし、モデルがどこにあるのかがわからなくなっています。

田中 モデルのなさというのが、若い人の居場所のなさとか、「自分探し」に駆り立てる原因です。モデルがしっかりしていれば、それに反発しながらもぶつかっていけばいいのですが、若い人は何に向かって立ち向かっていけばいいのかわからないのです。

 

■居場所と人の繋がりを探す若者

 

山根 こうした社会全体が目的意識の喪失やモデルがないことと併せて、先程おっしゃられたファミコンや携帯電話やインターネットなどITの登場は、子どもたちをとりまく状況に大きく影響していると思います。でもこれはあくまでも補助で、人と人とのダイレクトな関係が大切じゃないかと思っているのですが。

田中 ファミコンを含めて、80年代以降のメディア機器の普及は、「集団離れ」の現象に拍車をかける一方で、直接的な人間的な繋がりを疎外しているといえます。例えば、学生にレポートを課すと、だいたいは図書館に行かずにインターネットで調べてきます。そこで私は必ず一回はインタビューに行きなさいと指導しています。直接その人から聞いてくるようにと。でも学生は、直接聞かなくても資料も文献もあるからわかる、と言いますが、とにかく行かせることにしています。

山根 学生たちの反応は違ってきていますか。

田中 それは違いますね。最初はインターネットの情報でもいいですが、生身の人間が持っていた情報なわけですから、そこに返って文字では得られないことを感じてもらう。同じ事を聞くのでも直接聞くことがポイントです。パーソナルな関係の中での情報を得ることの大切さを知ってもらうつもりです。

山根 私も以前からそのことは強く思っていました。

田中 大学の話が出たところでもう一つ付け加えますと、「居場所の構想」という講義をしているのですが、講堂にあふれる位の学生が関心をもってくれます。その中で子供時代の遊び場のこと、現在の居場所のこと、自分がどんな文化で生きているかというサブカルチャーマップの3つのマップを書いてもらいました。

山根 それはどのようなマップなのですか。

田中 「居場所のマップ」では人間関係、大切にしているモノや空間、興味や関心の3つを書いてもらっています。お互いの居場所マップを授業の中で少しずつ紹介すると、居場所がないのは自分だけではないと知って安心するようです。自分と社会との位置どりを確認して安心するということも興味深いことです。

山根 やはりみんなどこかで受け入れられたいという気持ちをもっているけれども、居場所がないということでしょうか。

田中 そうですね。居場所を探しているということでは子どもたちだけではなく、大人もあるいは高齢者も同じですよね。居場所についての本を文献リストで調べていくと、高齢者の居場所とか、女性の居場所とかあります。それに校長の居場所(笑)。

山根 「居場所」というのは、人間一人ひとりの心の奥底からいくと、自分が安心して周囲から認めてもらえる場所ということでしょうか。

田中 物理的な場所というよりはもっと心理的な空間だと思います。他者との関わりの中で、自分の現在の位置を確認して、これからの自分の方向性を見出す場が居場所なのです。

 

■価値観を認め主役になる場を

 

山根 そういうことから考えると、いまの青年を含めて青少年の多くは、他者と関わる機会を持ちたい、その中で自分の可能性とかポジションを確認したいという気持ちをもっているけれども、どうしていいかわからないというのが現状でしょうか。

田中 例えばストリートミュージシャンをしている青年たちは、自分が主人公になることができている人たちです。いまはそうしたステージ、自分を表現できる場所が足りないのですよ。かつてYMCAにきていた若者というのは、一人ひとりが主役であった、少なくともそう感じられたのです。そういう場所が徹底的に少ないので、そういう場所を援助したり、つくっていったりすることが大切だと思います。大人がつくるのではなく、彼らの意見を聞きながらつくればよい。

山根 熊本YMCAでは、中高生のヒップホップをやってみようということになり、希望者を募って練習をはじめたら、大会に出る度に変わっていくという話を聞きました。それまで挨拶をしなかった中学生が挨拶をするようになったり、いろんな社会のルールを守るようになってきた。この背景には彼らが、大会で自分たちの存在を認めてもらえたからだと思います。

田中 たしかにYMCAからみれば彼らが普通の常識を持つようになったということかもしれないけれども、実は逆なのです。もともと彼らなりの常識は持っていて、それとYMCAの常識とすり合わせただけなのですよ。ストリート系のミュージッシャンたちは周囲の人とあいさつするし、演奏が終わるとちゃんと周りをきれいにして帰りますよ。彼らのルールとこれまでの社会のマナーと違うから、会話が成り立たないだけです。昼間からリーダー会室でキャンプソングを歌っているYMCAの方こそ今や社会の常識からはずれている(笑)。

山根 大人もそういう社会的な価値観を本質的に否定するのではなくて、その世代の価値観を認めて、どう参画していくことができるのかを考えることが大切なのでしょうね。

田中 中高生を対象とした児童館を作るときに、初めから中高生の委員会をつくって建設案をまとめるといった試みが東京の杉並区でなされています。「ゆう杉並」と言いますが、出来上がってからも彼らの意見をどんどん取り入れて毎年変わっていく。カラオケルームやコンピュータールームが出来たりして、中高生委員会が運営していますから、そうした利用者の声は毎日入ってくるんですよ。

 ゆう杉並のスタッフにYMCAリーダーのOBがいるのですが、「ここでつくりたいのはYMCAでやっていたことだけなんですよ」と言っていました。そういう意味でYMCAはそうした場所であったし、今でもそうなのです。

 

■参画の場を積み重ねていく

 

田中 参画という意味では、昔からYMCAは若い人たちがよく参画していたと思います。YMCAは何も新しい手法とか発想ではなく、今まで持っていたものを見直して生かしていけばいいのです。グループワークにしろワークショップにしろ、居場所づくりにしろ若者の参画にしろ、いずれもYMCAが時代に先駆けてやってきたことです。

山根 藤沢にあるYMCA高等学院では、昨年の夏に生徒たちが中心になって修学旅行を企画し、沖縄で平和について学んできました。このことをきっかけにして秋のYMCAピースウィークの時には、生徒たちが率先してこの運動を呼び掛けてくれました。これも参画という意味では具体的な一つの例だと思います。

 田中さんは18歳に選挙権をなどとおっしゃっていますが、子供たちを含めて若い人たちが意思決定の主体者としてそういう存在として認知しあえるような関係をお互いもっとつくっていかなければいけないことなのでしょうね。

田中 先日おもしろいことを聞きましたが、インターネットで中高生が人生相談コーナーを開いているのですよ。インターネットを使って高校生や中学生が相談し合うというのは結構行われていますが、おもしろいのはそこに30歳の人が相談にきて、16歳の子が答える。こんな関係も面白いなと思います。

山根 なるほどね。いまぼくたちが考えているプログラムの一つとして、高齢者の人たちがパソコンを必要になってきますが、そこで中高校生がボランティアで…

田中 「お助け部隊」として教えていく。それは嬉々としてやってくれますよ。インターネットの世界というのは、お互いに教え合って助け合って本人も自分の好きなことをやるわけで、教えることによって自分のプライドも高まります。

山根 とするとそれは「ボランティア」という言葉で表現する必要がなくなりますね。

田中 好きなことをやることが、たまたま助けることになっているだけです。助けるというのは人間関係の一つの形態にすぎません。常に「助け−助けられる」という固定的な関係の方が不健全ではないでしょうか。

山根 やはりそういう場面をどんどんとつくりだしていくことが大切なのでしょうか。

田中 若い人たちの能力や資質、発想というのはもっと信用していいと思いますが、それを世の中はなかなか認めないわけです。そこで今のような「お助け部隊」とか、いろんなことを通して実績を作っていけば、若い者もなかなかやるじゃないかといって普通の関係になってくるだろうと思います。

 今は世代に関係なく情報も共有していますし、大人社会のことが子どもにもばれているわけですから、世の中がどういう方向にいったらいい社会かというのは年齢が高いからわかるというものではないですよね。だから大人と子供の関係も変わらざるをえない状況があります。後はどう変えるか、どう積み重ねていくのかが重要となってくるでしょう。

 

■家庭から地域へ

山根 さて、次に家庭の問題についてお聞きしたいのですが、親と子の関係でいえば、親が子どもの模範となりえない状況、いま虐待の問題もたくさんでてきていますが、こうした状況に対してYMCAはどのように関わっていけばいいのでしょうか。

田中 一つは母親の育児ストレスをどのように解消するかということが大切です。育児の知識や技法は二の次でよいです。母親に育児から学校、将来までの教育責任が集中していて、おばあちゃんは近くにいないし父親はあてにならず、地域も学校も助けにならない中で、母親は本当に悩みストレスが溜まっています。

山根 横浜北YMCAで「公園テビュー」いわく「YMCAデビュー」という母親たちが自由に集まって話しをする場を設定したらとても好評でした。最近ではお弁当を持って来られるお母さんもいらっしゃいます。

田中 それが地域ですよね。育児の知識はいくらでも得られる中で、それよりも親のストレスを解消してくれるような母親の居場所がないのが現状です。

山根 YMCAには、それこそ育児の経験のあるお年寄りがいたり、あらゆる人が集まっているコミュニティですから、バーチャルでなくて、実際に人と人が出会って話ができるわけです。

田中 日本には農村イメージの伝統的な地域そのものはすでにほとんどないですよね。だからYMCAが地域を作っていく、YMCAを通した人間関係が地域だということですね。先日、東京YMCAのスタッフの人からメールが来て、そこに同時に送った人のアドレスがたくさん記されていました。とても懐かしく思い、久しぶりにメールをやりとりしました。そのネットワーク自体がコミュニティなのです。そういうものをどんどんつくっていけばいい。

山根 いまのお話からわかったのですが、米国のYMCAはコミュニティという時に、ぼくらが意識するコミュニティではないんですね。例えばプールに子供を連れてきている親同志が、観覧席でたまたま紹介されて話しをして、会話のやりとりが始まる。これが「スモールコミュニティ」だといっています。これから一つひとつのつながりが生まれます。私たちがコミュニティという場合、私たちの外を取り囲むものと考えがちですが、なるほどいまおっしゃったようにスモールコミュニティをYMCAの中でもたくさん芽生えさせるような働きをしていけば、さらに大きなコミュニティになっていくのでしょうね。

 

■YMCAの中にコミュニティをつくっていく

山根 つい最近、横浜YMCAでは、「ピースウィーク」といって、会員が平和を一緒に考える運動をしました。はとの形をした紙に平和のメッセージを書いてくださいと呼びかけたところ、子どもから大人までまた国籍を超えて多くの人が書いてくれました。

 私はこれをやってよかったと思っています。つまり抽象的な平和ということはよく言うけれども、自分の言葉で「仲良くしてほしい」とか「人が死なないでほしい」といったことでも自分の言葉でアクションすることをやったことは意味があると思います。

親子がこれを見ながら会話をしたり、知らない人同志が話をしたりすることがあります。これもYMCAの中のコミュニティかと思います。

田中 たった一言であっても「参加」して「表現」し、「共有」したからですよ。同じ主題でメッセージを書ことによってみんなつながっているわけです。これがまさにコミュニティです。若い人は、絵とか音楽とかいろいろな形で表現するのがすきですから、そういう意味ではハトの形とか色とかもそれぞれで考えてもらい、もっとさまざまな形で参加してもらったらいいと思います。

山根 そうですね。私たちはもう少し自由になって、青少年に対して居場所をつくっていく、お母さんたちに対してもいろんな人とつながっていく場を作っていく、そこから独自の動きをつくっていくようになるかもしれないし、コミュニティというのは、もう一度、我々のところで構築していくというような考えでいいのでしょうね。

田中 YMCAはそういう意味ではファシリテーターですよ。主役はYMCAにやってくる人であり、YMCAは彼らがつながり、活動するステージをつくる。YMCAには施設もあり人材も豊富ですから、今までもっていたリソースを再評価して動員すれば何もつけ加えることはないと思います。これからのYMCAの働きに期待しています。

山根 横浜YMCAでは2002年度から3年間をかけて「子ども、家庭、地域」のテーマで新地域活動3カ年計画を進めていきますが、多くの方の協力を得ながら、この課題に全力で取り組んでいきたいと思います。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

(文責・編集部)


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