ヨハネスブルグ・サミット以後の課題

−持続可能な開発のための教育に向けて−

2003年1月  

田中治彦(開発教育協会代表理事)


 2002年8月にヨハネスブルグで「持続可能な開発に関する世界首脳会議」が開かれた。この会議は「環境・開発サミット」とも言われていて、環境と開発の問題を統合的に捉えている。また環境教育と開発教育とを同時に推進する必要性が訴えられている。しかしながら日本では、環境と開発との関係性について必ずしも十分な理解が得られていないのが実情である。そこで、これらについて簡潔に説明しておこう。

 いわゆる開発途上国が抱えている環境問題には次の3つのタイプがある。第一は、途上国固有の環境問題であり、貧困に起因する人口問題、その結果としての森林伐採や過放牧、そして砂漠化などの問題である。第二は、先進工業国が原因となる収奪型の環境破壊である。商業的な木材の大量伐採による森林破壊や廃棄物の国際移動などがこれに当たる。第三は、先進国後追い型の環境問題であり、急速な工業化、都市化の結果としての公害問題やスラムの問題などである。

 いずれも開発と環境とが密接にかかわる課題であるが、この内第一の問題は「貧困の悪循環」を招いている。すなわち貧困が人口増を招き、環境破壊が進み生活が脅かされる、その結果さらに貧困を促進するという構図である。1999年の10月には世界の人口は60億人に達し、2002年9月現在62.5億人である。この半分の30億人であったのは1960年のことであった。人類は約1万年かけて30億の人口に達し、その後わずか40年たらずで倍の60億人になった。ヒトの棲息域が拡大すればそれだけ野生生物の生活圏は狭められる。インド亜大陸の急激な人口増でトラが絶滅の危機に瀕しているのはよい例である。

 しかも問題なのはこの約60億の人口の5分の1以上は、日常の生活のニーズ(衣食住・教育・医療など)を充たせないほどの「貧困」の状態にあることである。「貧乏人の子だくさん」という言い方があるように、貧困から脱却しない限り人口は増えつづける。そして貧困問題を解決するには一定限度の「開発」が必要なのである。その際に求められる開発は、生態系を維持することができる「持続可能な開発」であり、人間の福利更生を促し、人々が開発の主人公である「参加型開発」「人間開発」でなければならない。

 地球環境を守るために途上国は人口を減らしてください、といくら先進国側が主張しても説得力に欠ける。なぜなら一人当りに換算して、日本はインドの約14倍、アメリカは30倍以上のエネルギーを使っているのである。インドから言えば「インド人30人減らすよりアメリカ人1人を減らした方が地球環境によいでしょう」ということになる。地球環境のためには南北問題の解決と、先進国の過剰開発、過剰消費についての真剣な反省と行動とが不可欠である。

 私たちは「人口」「貧困」「環境」という相互に密接に関連した「トリレンマ」に陥っていて、これらを同時に解決する必要に迫られている。したがって地球環境を守るための「持続可能な開発のための教育」には、人口・貧困・開発問題を扱う開発教育と、地球と地域の環境を守る環境教育の内容が同時に含まれてなければならないのである。

 持続可能な開発や教育に関する理論や実践の指針については本ホームページ内の論文や記事を参照されたい。


  ホームページ 立教大学・田中治彦研究室 内の記事
 
 
 持続可能な開発のための教育とは何か?−予備的考察
 持続可能な開発のための教育とは何か、その歴史的経緯を主要
な国際会議での議論をもとに検討。環境教育、開発教育がいかに
すれば持続可能な開発のための教育になるのかを考察。
  (2002年3月)
 
 ・学習におけるグローバリズムとローカリズム−「持続可能な開発のための教育」が提起しているもの(2003年)
 持続可能な開発のための教育について、特に成人教育の観点からその歴史的経緯と主要なポイントを解説。
 そして、これを実践する際の内容・方法やヒントに言及。(2003年1月)
地球的課題と生涯教育−1990年代の国際会議の行動計画にみる (『立教大学教育学科研究年報』第42号、1999年)
   人口、貧困、環境の問題状況を詳しく解説した基本論文。リオ・サミット以後
      の国連会議のテーマを追いながら、これらの問題解決のキーワードとして、
      ジェンダー、エンパワーメント、NPO、環境・開発教育などを提唱する。
 
 ・市民にとっての地球環境問題(『市民のための地球環境科学入門』,1995年) 
   地球環境問題という「遠い」問題に対して、一人一人の市民レベルで何ができ
   るかを解説した初期の論文。
 
 ・環境教育と開発教育−身の回りから世界につながるカリキュラム(『子どもと楽しむ環境教育ガイド2000〜2001』より、2000年7月) 
   地域の課題と地球レベルの課題を教育の実践レベルでいかにつなげるか、
   そのヒントをいくつか紹介した論文。
 
 ・アクション・リサーチのすすめ−地域学習から世界へ(『開発教育』第46号、2002年8月)
   地域と地球レベルの問題をつなげる具体的な学習方法としてアクション・
   リサーチを提唱。
   
 
 ・なぜ「もののけ姫」か(1999年1月)
   開発と環境、そして多文化共生という難しいテーマをよくぞ2時間13分にまとめた宮崎アニメ。

 

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