立教大学田中治彦研究室
田中治彦(DEAR代表)
2001年の秋頃、韓国の全定根(チョン・ジュンクン)さんから突然手紙をもらった。全さんは「地球村助けあい運動」というNGOで活動していて、博士論文では開発協力NGOの日韓比較研究をしたいとのこと。そして、私の本(南北問題と開発教育)をソウルの国会図書館で読んでいたく感動した、というのである。
その後、メールなどでやりとりをしお互い行き来する機会を伺っていた。そして、2002年夏に立教大学東アジア環境問題研究所の招待で全さんを1か月日本に招待することになったのである。全さんは、開発教育協会の京都の全国研究集会に参加したり、関西、関東のNGOを数多く訪問して調査し、8月末に帰国した。
開発教育協会のメンバーは、これを受けて韓国との交流を深めるべく、4人で訪韓団を組んだのである。以下、そのときの訪問記である。
2002年8月30日(金)
夜9時半、田中、山田、米井の3名ソウル仁川空港に到着。ロビーでしばらくぼーっとしていると、全(チョン)さんが迎えに来てくれる。全さんは7月末から1か月立教大学で研究していたので、わずか5日ぶりの再会。
約1時間のドライブで、ソウルのYMCAホテルに着く。あまりきれいなホテルではないが、ともかく便利なところ。新宿の靖国通りにホテルがあるようなもの。金曜とあって夜中まで若者でごったがえす街に出ていく。
8月31日(土)
台風の接近で大雨。
朝、ソウル博物館へ。5月にオープンしたばかりの体験型博物館。昔の生活用品などに触れることができる。日帝36年がわずか2パネル(2室ではありません)というのも驚いた。子どももたくさん見にきていて、歴史認識はこれでよいのだろうか、と人ごとながら気になる。
出てくるときの残暑で、上着とネクタイをすっかり忘れた田中は、皆をつきあわせてショッピング。東大門の市場でブレザーを見つける。やや袖が長いと言ったら「折り返せばいいさ」とおやじさん。「日本ではそれでは着れない」というと「じゃあ、切ればいい」。その場でばっさり切られても困るなと思っていたら、おじさんに隣のビルまで連れていかれて、隅の方の縫製屋さんで仕立ててくれる。この間わずか30分。値段は6000円。
夜は最近流行のタッカルビ。目の前の丸い大きな鉄板に、ぶつ切りにした鶏肉とさまざま野菜やうどんをコチジャンを混ぜて、グチャグチャに煮込む。これが実に美味。焼酎にもよく合う。
今日合流するはずの山西さんの飛行機が飛ばない。
9月1日(日)
山西さん、11時頃に現れる。昨日は成田で1泊。台風なので航空会社はホテル代を出してくれなかった。韓国での台風の被害が相当ひどいようで過去最悪とのニュースが流れる。ただここソウルはほとんど被害なし。
雨もやんだので、午後は仁寺洞(インサドン)へ。ここは焼物や伝統的な産物の商店が多い場所。焼物好きの山西さんは終始目を細めている。
夕方、国立国楽院にパンソリを聞きにいく。パンソリとは太鼓ひとつに合わせて語り歌う民衆芸術。もともとは一人が15時間くらい歌うそうであるが、舞台ではそのいくつかのコマを披露している。それぞれカラフルな民族衣装を着た7人の中年の女性の謡い手たちが出てくる。
一人づつ謡い出し、ワン・コーラスが終わる頃には私はコックリ、コックリ。終わりかと思うと、ツー・コーラスめが始まる。少しずつ動いたり、座りこんだりして表情を付けて謡う。会場からも「そうだ」とか「えー」といった合いの手が入る。お互いの掛合いで次第に盛り上がる。最後の合唱に入る頃は言葉がわからない私たちも思わずリズムをとっている。謡い上げたとたんに、大拍手。
圧巻であった。聞けば、登場したのは皆人間文化財級の皆さん、これだけが一堂に会するのは珍しいという。ラッキーであった。
9月2日(月)
今日からいよいよお仕事。それなのに連日の焼肉焼酎で田中が、旅の疲れで山田が体調不良。しかもひどく蒸暑く、上着とネクタイで歩くのがしんどい。 午後、成均館大学の文学部長のイ・ハング学部長をたずねる。李先生は学部の将来のために開発教育に関心を抱いている。途中で、教科書問題の話題になる。李先生には日韓で共同で教科書の研究をすることをさかんに勧められた。
滞在4日目でまだ訪問は1か所。ちょっとあせるが、全さんは「これでいいんです。韓国文化を知ることが大事です」。そろそろ胃が疲れてきたので、夜は日本料理店に。すしの盛り合わせをつまんだ。でも何となく物足りない。結局、うどんやもちなどを様々な具とともに真っ赤に煮込んだ不思議な「日本」料理を食べた。
9月3日(火)
午前、ソウル市内のブルカン(仏光)小学校訪問。ここは全さんたちの団体(地球村分かち合い運動)が協力して、国際理解教育を推進している学校である。1学年10クラス、全校生徒1000人を超える大規模校である。
校長は申(シン)先生、とても精力的な先生で、学校を改築するのにお金集めに奔走している。おかげで設備も充実しているようで、コンピュータ室にはたくさんのPCがそろっていた。国際理解にも熱心なのだが、教科書問題のときには先頭に立ってデモ行進をした。昨日もこの話題が出たのだが、教科書問題は私たちの想像以上に韓国の人々を傷つけ怒らせている。
シン先生が反日というわけではない。それならば私たちを受け入れてはくれなかっただろう。韓国の多くの人からしてみれば、日本政府の対応が実にもどかしいのである。自分たちは過去のわだかまりは置いておいて、前向きに日本とつきあっていこうとしているのに、一部の人びとが妨害をし日本政府もそれにひきずられている。いろいろ考えさせられる訪問であった。
9月4日(水)
今日は、NGOの「良き隣人」と環境運動連合を訪問。環境運動連合は「Friends of Earth=地球の友」の韓国支部でもある。応対したのは、教育担当の朱さん、すてきな女性なのだが、なぜか表情が固い。時間がないので30分だけ、とのこと。
ヨハネスの会議などをひきあいにだして開発教育のことを説明した。すると、「あなたたちの開発とは何なのですか」とか、「環境教育と一体どういう関係があるのですか」との反応。「そうか、ここでもそこから説明しなくてはいけないのだ」と、改めて経済優先の開発ではなく、社会開発、人間開発をめざしていること、世界の人口問題、貧困問題の解決が地球環境問題に不可欠であること、を丁寧に話した。
30分がすぎたので写真をとらせてもらい、帰ろうとしたところ、朱さんが「この建物自体が環境教育になっているのでご案内しましょう。」 展示パネル室、庭の植生、屋上のソーラー施設、エコ商品の販売、など20分ほど案内してもらった。
いよいよ帰ろうとしたそのとき、事務局長の崔さんが帰ってきた。朱さんが私たちを紹介すると、「こんなところで立ち話じゃいけないので、私の部屋へ」と通してくれた。「私は1974年に投獄されたときに、環境問題の本を読んだ。宇井純、宮本憲一、都留重人の本だ。それから環境問題に取り組むようになった。」私はさきほどの経験があるので、開発と環境の関連から話をしだした。すると「開発教育も国際協力も当然のことだ、いろいろなことをやっていかなければいけない」。ヨハネスから帰ってきたばかりのチェさんには説明するまでもないことだった。
「最近日本に行っていないから、11月に行きましょう。」とか「ソウルにいるうちにお食事しましょう」と。翌日、韓定食(懐石料理に匹敵するごちそう)を一緒に楽しく食べたのである。全さんの話しでは、チェさんはNGO界の有名なリーダーの一人で、落選運動の共同代表でもある。自分もテレビでしか見たことがない、と言っていた。
9月5日(木)
明洞にあるユネスコを訪問の後、地下鉄で約1時間、仁川の近くの駅まで行く。ここから全さんの幼なじみが運転するタクシーで一路南へ南へ。ほとんどまっすぐで快適な高速道路を約2時間。忠清南道のムンダンリ(文堂里)という村に着いた。
ここはブルム農業高等技術学校といって、ちょうど日本のアジア学院みたいな雰囲気の農業学校であった。校長のホン先生が流暢な日本語で語る。「こんな田舎の学校によくいらっしゃいました。偉い先生方ばかりでお話しするようなこともないのですが・・」とぼそぼそと語り出すが、その内容には一同驚く。
この農業学校の学生の半数はムンダンリ村の若者たち。そしてあとの半数は全国から来るという。しかも倍率は3倍。今韓国では農業が見直されていて、一部の若者に人気があるとか。そして何より感心したのは、この学校が村に根付いていること。93年から合鴨農法を採用したが、今では村の半数の農家がこれを取り入れている。そして極めつけは「ムンダンリ発展100年計画」!
合鴨農法に始まり漢方薬局、牛舎、加工場を作り、村の経済的自立を図る。すでに作られている環境農業教育館(見てきました)を発展させて、文化活動を行う。太陽熱、バイオガスなどの自然エネルギーと徹底的なリサイクルで、文字どおり持続可能な村づくりをする、等など。開発教育協議会は3か年計画とかいってがんばっているけれど、ムンダンリは何と100年。しかも、生産から消費までの循環を村レベルで完成させようとしている。
しかも、しかも・・この村だけで閉塞するのではなく、ナヌムの村と講演・文化活動をしたり、日本のPHDやアジア学院とも交流をしたり、という実にオープンな計画なのである。
わずか2時間足らずの訪問で、ソウルまで帰らねばならなかったのが残念であった。働けばタダで泊めてくれるとのこと。次回は軍手と運動靴を持参して2泊くらい、ゆっくり村の人々と交流したい。
というような訪問と交流を続けて、9月7日に無事帰ってきました。韓国での開発教育がどのように発展するのか楽しみです。
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2003.2.16.