社会の思想(持続可能な開発のための教育)  「もののけ姫」はESD

田中治彦 後期第13回 2006年1月10日(火)


 1.宮崎監督『もののけ姫』について

 アニメ映画『もののけ姫』は宮崎駿監督の1997年の作品である。その内容は、タタリ神に負わされた不治の傷を直すため、西を目指して旅に出た主人公の少年アシタカは、そこで自然を破壊しながら生きるタタラ(製鉄)の村人と、自然を守ろうとする神々(もののけ)やヤマイヌとともに生きる少女サン(もののけ姫)との壮絶な戦いに巻き込まれていく、という筋書きである。

 

2.グローバル・イッシューを読み解く

 この物語の中から、いくつもの地球的課題(グローバル・イシュー)を読み解くことができる。

 たとえば、主人公アシタカは、大和王朝に滅ぼされた蝦夷の豪族の末裔という設定であり、アイヌ民族が1つのモチーフとなっている。タタラの村では、ハンセン病者の作業所をイメージするシーンがあるが、そこで彼らは最新兵器である「石火矢(鉄砲)」を制作するという重要な役割を担っている。また、村で製鉄という重労働をしているのは快活な女性たちである。

 このように、歴史上抑圧されてきたアイヌ、ハンセン病者、女性にスポットライトを当てて、民族・人権・女性といった問題を暗示的に投げかけている。

 より大きなテーマとしては、「開発」対「反開発」、「人間」対「自然」、「開発」と「環境」、「戦争」と「平和」、そして「文明」と「共生」というメッセージが描かれている。

 

3.コーディネーターとしての少年アシタカ

 主人公の少年アシタカは、最初、腕に負った傷を治すという個人的な動機で旅に出る。しかし、やがて人間と神々との戦いに巻き込まれていく内に、どちらの側にも与しない中立的な立場に立たされていく。それはちょうどNGOの現地スタッフや国連の紛争仲介のコーディネーターのような役回りである。

 

4.「持続可能な開発のための教育(ESD)」としての『もののけ姫』

 このように、『もののけ姫』には、開発・環境・人権・平和・文化・ジェンダーといった今日的な地球的課題が散りばめられ、「持続可能な社会(や未来)」をどう切り開くかという問題が設定されている。そのプロセスは、まさに「持続可能な開発のための教育」の理念と相通じるものである。

 物語の終盤で「神殺し」のシーンが続く。「反開発」の象徴である「シシ神」をタタラの村人たちが「殺し」に出かけ、「シシ神」は見事に首を刎ねられてしまう。最後のシーンでは、「人間」対「自然」あるいは「開発」対「環境」という二項対立が弁証法的に止揚されて、「新しい世界」が暗示される。

 アニメの面白さやわかりやすさという点では、ファンの賛否は分かれるが、ESDというテーマが見事に描かれた作品であるということができる。

 


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