北の靴ものがたり

2005.3.10.

田中治彦


 

 2月の連休に札幌で開かれた開発教育セミナーに呼ばれました。雪祭りの最中でもあり、嬉しいはずなのですが、2年前に見たこともあり、今回は「なぜこんな寒いときに・・」という気持ちが先立っていました。

 なにしろ寒波です。空港に着いたときにはマイナス8度。そして札幌に入ると吹雪。駅からホテルまでは500メートルもありません。勇気を出して歩き出しましたが、10メートルも行かないのに頭に雪が1センチも積もりました。あわてて引き返しました。

 タクシー乗場もどこにあるのか銀世界でよく見えません。たどり着くまでに雪だるまになりそうです。前方にタクシーが客を降ろしているのが見えたので、すべらないようにダッシュしてタクシーに乗り込みました。

 先が思いやられます。ホテルにたどり着くだけでもこんな苦労。たった3日間の札幌なので、それほど装備もありません。帽子、手袋もないし、靴も普通だし、せいぜいズボン下を新調したくらいです。

 

 

 夕食は北海道開発教育Dネットのお二人とホテルの近くの炉端焼きで北海の珍味に舌づつみ。よろよろとホテルに戻ってみると、何だか足元がひどく冷たい。

 雪がしみたのかな、と靴をよく見てみると、何と先の方に小さな亀裂。わずか2センチくらいの小さなものだが、水は確実に浸透してくる。

 困った、困った。セミナーの講師だというのに。靴を買っているヒマもないし。それより真新しい靴で雪道を歩くのはもったいない。できればこの靴を履きつくして、東京で新調したい、などというケチな根性が・・

 タクシーと地下鉄とバスを乗りついで、できるだけ雪道を歩かないようにしよう。穴は小さいから誰もきづかないだろう。

 とはいうものの、セミナーで話しをしている最中はけっこう足元が気になりました。

 

 

開発教育のセミナーは盛況でした。40名くらいの先生や学生やNGOの方々が集まって、とても熱心に議論しました。

 夜の懇親会も楽しかったです。和室に集まって、けっこう雰囲気を出して、ビールやらワインやらお酒やら。バースデーケーキまで出てきました。私の好きなイチゴショートでうれしかったです。去年はタイでバースデーケーキでのたうちまわっていたな、という記憶が脳裏をかすめました。 

 そんな楽しく実りあるセミナーだったのですが、帰る朝になりました。今日も寒そうです。飛行機は10時半なので早めにおきて、身仕度。さて、最後に靴をはいて、と。

 な、ない! 靴がない。代わりにスリッパが3足。

 そうか、昨晩の和室に忘れてきたのだな。急いで和室に行きました。でも、何もありません。

 どうしたのだろう? ちょうど掃除しているおばさんに聞いてみました。

 「靴ですか? ありませんでしたね」

 掃除したおばさんが知らないということはここにはないということです。

 バスの時間まであと20分。もしこのまま靴が見つからなかったら・・・

 一瞬、スリッパで雪道を歩き、バスと地下鉄に乗り、札幌駅のアーケードで靴屋を探している自分が脳裏に浮かびました。

 「フロントできかれたらいかがですか?」とおばさんに言われて、恥をしのんでフロントへ。

 「靴ですか。お届けはありませんねぇ」

  ・・・・

 

(落ち着け、はるひこ。よく考えるんだ。昨晩はどこへ行った?穴の空いた靴なんか盗むやつはいないんだから、きっとどこかにあるはずだ)

 懇親会の最後の方はビールやらワインやらで記憶がとだえています。それでも何かを思いだそうとしました。

 「えー、これで懇親会は終わりますが・・」

 と誰かが行った・・そこで自分は部屋に帰った・・

 「このあと2階の和室に場所を替えて・・」

 そうだ、2次会があったはずだ。

 急いで2階の和室に。

  あった、あった、靴が3足も。

 ひとつでいいのに、みっつもある。自分だけじゃなかったんだ。

 

 

これだけでもけっこうなドラマなのですが・・

 とにもかくにもバスと地下鉄とJRを乗りついで新千歳空港にたどりつきました。急いでおみやげを買い、チェックインして、ゲートに向かいました。

 雪祭りの連休とあってたいへんな人ごみです。荷物チェックは長蛇の列。やっと自分の番になり、ベルトの上にバッグと土産物袋とコートをおきました。

 四角い金属ゲートを通りすぎると・・

 「ブー」 とブザーが鳴りました。

 あっ、ポケットの中の財布のせいだ、と思い、財布を取り出して係員にわたしました。

すると係の若い女性は、

 

 「お客様、たいへん申し訳ございません。お靴を拝見させていただけますか」

 


 

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