「18歳成人」を考える

 

田中治彦(立教大学)

                     2007年1月      


 政府が成人年齢の18歳引き下げの検討を始めたという報道が年末にあり、2007年の成人式ではそのことが話題となりました。マスコミ2社から私のところにインタビューの申込みがありました。インタビュー自体は3〜40分に及んだのですが、実際の放送は数分であり、私の意とするところを十分伝えきれませんでした。そこでインタビューの全体を掲載して今後の議論に供したいと思います。


Q1.なぜ「18歳成人」が議論されるようになったのですか?

 

 それには二つの流れがあります。ひとつは一連の少年事件を受けて、少年に対する刑罰を強化しようという「厳罰化」の動きです。現行の少年法では20歳未満を「少年」としているので、これを18歳に引き下げることを主張しています。

 もう一つは、選挙権を18歳に引下げて、若者層の政治参加を促すという動きです。少年法改正は若者の義務を強調し、選挙権引き下げは若者の権利を強調しています。一見相反する主張のように見えますが、権利と義務とは裏腹の関係にあるので、結果的に同じ方向になったわけです。

 

Q2.諸外国では成人年齢はどうなっていますか?

 

 朝日新聞の報道によれば、調査可能な世界186か国の内、162か国が18歳を成人としています(国立国会図書館調べ)。サミットの参加国のなかで成人年齢を20歳としているのは日本だけです。また、1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」は、子どもを18歳未満と定義しています。

 

Q3.世界の国々は昔から成人年齢を18歳にしていたのですか?

 

 いいえ、欧米諸国が成人年齢を18歳に引き下げたのは1960年代後半から70年代にかけてです。この頃、学生運動など若者の社会への「意義申し立て」行動が盛んになり、それに応える形で成人年齢を引き下げました。イギリスではラティ委員会が成人年齢の引き下げを答申して、1968年に成人を18歳としています。

 

Q4.アジアやアフリカなどのいわゆる開発途上国も成人を18歳としているようですが。

 これらの地域では紛争が絶えず、若者を兵士として徴用せざるを得ないのです。18歳で徴用されれば国のために命をかけるのですから、当然自分たちに命令を出す為政者を選ぶ権利があるはずだ、という主張が通るわけです。このように成人年齢を引き下げることは、若者に大きな責任を負わせることになる、という側面も考えておかねばなりません。

 

Q5.日本ではなぜ20歳を成人としているのですか?

 

 明治29年に制定された民法に「満20年をもって成年とす」と定められているからです。なぜ民法が20歳を成年としたかというと、民法を制定する際に参考にしたフランスの民法の規定にならったという説があります。また、中国の「礼記」に「男子は20歳にして弱という冠をかぶり成人を宣言する」とあり、これを採用したという説もあります。

 

Q6.それ以前は成人は何歳だったのですか?

 

 江戸時代の武家社会には元服という儀式があり、これをもって成人としていました。数えで15歳です。また女子にも髪上げという儀式があり、早いところでは13歳で行なっていたようです。いずれも生理的な成熟とほぽ一致しており、子どもを作れることがひとつの基準であったと考えられます。

 また、農村社会には若者組という組織があり、数えで15歳から25歳ないしは結婚するまでの青年がこれに加入していました。若者組は子どもから大人への通過機関であり、村落社会の一定の役割、例えば祭礼、消防、治安などの機能を担っていました。

 

Q7.現行の法律では20歳で成人の権利がすべて得られるのですか?

 

 選挙権、財産の処分、飲酒・喫煙などほとんどの権利は20歳で得られます。しかし、被選挙権については衆議院と市町村長は25歳、参議院と都道府県知事は30歳です。この他にも、成人としてのすべての権利が整うのは30歳です。世間的には「一人前は30から」という認識も一部に根強く、法的にもこれをサポートしている形になっています。

 

Q8.田中先生は18歳成人を主張しておられますが、それはどうしてですか?

 

 成人年齢というのは「完成された大人」という意味ではありません。そんなことを言ったら私達だってどこまで「完成」されているかあやしいものです。あくまで「成人の入口」を何歳にするのか、という議論でなくてはなりません。

 今の若者はすでに音楽、スポーツ、アニメ、インターネットなどの分野で大人と同様に、あるいはそれ以上に社会参加しています。成人年齢を18歳に引き下げることによって、政治や地域社会などでの若者の参加を促すべきと考えます。そのことによって閉塞状況にある日本社会の活性化を期待したいのです。

 また、18歳の段階で就職して自活し、税金を収めている若者も3割程度いることを忘れてはなりません。これらの若者の権利を守る必要があります。

 

Q9.成人年齢を引き下げただけで、若者は社会に参加するでしょうか。

 

 それだけでは不十分です。社会参加するための「市民教育」が必要です。現在の社会科や公民は知識中心であり、社会に参加するための技能や態度を育成していません。現実の社会で参加体験しながら、社会の問題を発見し、課題解決に向けて実行していけるような教材・カリキュラムの開発が急務です。18歳が成人となれば、高校はその最終段階の教育機関にもなるわけで、受験中心の高校教育にも一石を投じることになるでしょう。

 

Q10.世論調査などによれば、18歳成人への賛否がほとんど半分に分かれています。

 

 それはもっともなことだと思います。成人式というのは、成人する若者を回りの大人が承認し祝福する、という意味があります。若者と大人の双方が認めあってこそ「成人」の意味があるのです。

 18歳成人に反対するのは、理論というよりもむしろ感覚的、感情的な部分が大きいように思います。18歳成人については、単に法律論や政党政治の駆け引きではなくて、世論に訴えてじっくり議論し、合意形成していくことが大切であると考えます。

 

                  (終わり)


「成人年齢18歳」で参加社会に(朝日新聞論壇)

 

18歳成人のゆくえ

 

もくじに戻る