学 校 外 教 育 論 田中治彦著 学陽書房,1988年初版,1991年補訂版
序章 「学校外教育」とは何か
第T部 少年期の学校外教育
第1章 少年期教育の課題
第3章 子どもの冒険と安全−津市子ども会裁判をめぐって
第U部 青年期の学校外教育
第5章 社会参加と青年−青年期教育の課題
第6章 青年期教育と国際理解−「開発教育」をめぐって
第V部 イギリスのユースサービス
第7章 1960年代のユースサービス施策の成立
第8章 ユースリーダー養成制度の発展
第9章 英国における青年の社会参加論−70年以降のユースサービス
「学校外教育」略年表
は じ め に
「ハーメルンの笛吹き」という童話がある。町長から褒美をやるから、といわれてネズミを退治したらところ、その約束が無視されてしまった。怒った笛吹きは町のまん中で笛を吹き、子どもたちをどこかへ連れ去ってしまうという話である。昨今の日本の子どもたちも町々から姿を消してしまって、群れをなして遊び回る姿をあまり見かけない。いったいどこへ消えてしまったのだろうか。
ハーメルンの笛吹きは、わずか雑誌ほどの大きさの「ファミコン」という名のゲーム機械であった。ファミコンのある家には子どもたちが三々五々集まってくる。一人が華麗な技を披露すると、他の子どもたちが喝采をおくる。別の子どもは自分の番がくるまで「攻略本」を見て研究している。1986年来こんな光景が、全国津々浦々で見られるようになった。
こうした風景は日本だけではないらしい。マリー・ウィンの『子ども時代を失った子どもたち』(サイマル出版会)には、今の子どもと昔の子どもを比較してこんな風刺記事が紹介されている。「一世代前の子どもならば、たいてい土曜日の午後には、建築現場であちこち探検したり、ガレージの屋根から古いソファめがけて飛びおりたり、野生のりんごで戦争ごっこをしたり、芝刈機を押したりして遊んでいる。」ところが、今の子どもの日程表を見ると、「朝寝坊−テレビをみる−テニスのレッスン−商店街へレコードや新着のビデオゲームを買いにいく−第2次世界大戦のビデオゲームをやる−テレビをみる−マリファナや酒をやる」と書いてある。
子どもが変われば、当然青年も変わる。最近青年心理学者の間では、青年が青年らしくなくなったと囁かれているそうである。私は85年の国際青年年の経験から、もはや「青年」という言葉は死語になりつつあると感じている。なぜなら、当の青年が「青年」という言葉を自分のことと思わなくなったからである。ちょうど、若い女性に「婦人」といってもピンとこないように。歴史をひもとけば、確かに「青年期」は産業革命の産物であるし、日本でも青年という用語が広まるようになったのは明治13年からである。「青年」に始まりがあるならば、終わりがあって然るべきである。
子どもや青年をめぐる環境は1960年代に急速に変化し、そして現在のようになった。大人たちは手をこまねいて見ていたわけではない。スポーツ、文化活動を通じて地域の少年少女活動は以前より盛んになっているし、子どもたちが冒険できる遊び場をつくろうという運動も広がっている。あるいは、子どもたちに優れた本や演劇を与えようという運動も活発だ。こうした活動を含めて「学校外教育」という理念が、70年代から提唱されている。本書は、ささやかながらもこれらの活動の動向を歴史的にまとめ、国際的な比較をし、学校外教育の現状と課題を整理し深めようとしたものである。
当然のことながら、小論で学校外教育をめぐるすべての課題を扱うことはできない。そこで、第T部 少年期の学校外教育、第U部 青年期の学校外教育、と分けて、それぞれの発達段階における学校外教育の主要課題を追うこととしたい。1章では、現代の少年少女の生活や文化をめぐる問題状況を明らかにし、少年期教育の課題をいくつか提示する。続く2章で、少年期の学校外教育を歴史的に追うことにする。学校外教育の通史はこれまでに書かれたことがなく、4章「青年期教育の歴史」とともに不十分ながら学校外教育の通史への試みである。3章は、76年に起きた三重県津市の子ども会裁判をめぐるケーススタディである。この裁判の過程で、指導者の法的責任のみならず、子ども会等民間少年団体の組織、指導者、安全教育、親の委託の論理、被害者救済など、今日の少年少女活動をめぐる主要な課題が問われていった。
第U部、4章は青年期教育の歴史的な展開を扱う。青年期教育を社会教育だけでなく、中等教育全体の中で位置づけるようにした。5章と6章とで、今日の青年期教育の主要課題である社会参加と国際理解の問題を扱う。5章では、ボランティア青年、モラトリアム青年など様々なタイプの青年を登場させながら青年と参加の問題を考えてゆきたい。6章では、80年代になって急速に関心を呼んでいる開発途上国や南北問題の理解という観点から、青年と「開発教育」について論ずる。
第V部ではイギリスのユースサービスを紹介する。現行のユースサービスの基本となる1960年のアルブマール報告が出されるに至る経過を7章で、その報告書に基づいて発展した60年代のことを8章で、青年と参加がメインテーマとなる70年代以降のユースサービスを9章で扱う。8章では、特に青少年指導者(ユースリーダー)の問題を中心に述べてみたい。
(1988年正月)
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