ボランティア活動とNPO 


 生涯学習と市民社会・NPO

立教大学 田中治彦    

 

原題は「ボランティア・ネットワーキング−生涯学習と市民社会」

第44回日本社会教育学会研究大会での報告,1997年10月,立正大学  


1.ボランティアとNPOの定義 

 

 ボランティア(活動)の定義は数々あるが、それらの共通項は次の3点にまとめられる。@主体性、A無償性、B公益性(利他性)である。一方、NPOの定義については次の要素が不可欠であると考える。@民間性、A非営利性、B公益性(不特定多数の利益)。これらの定義についてはそれぞれ解説が必要であるが紙面の関係で省略する。1)ボランティア活動と生涯学習の関係についてはこれまで数多くの議論があるので、本報告はNPOと生涯学習について論じたい。

 

2.市民社会にとってのNPO

 

         図 家庭を取り巻く4領域

 

                | 

         政府    |    企業

                | 

    −−−−−−− 家庭 −−−−−−−

                | 

        地域社会  |   NPO

                | 

 

  図は家庭を核としたときそれを取り巻く社会の4つの領域を示したものである。2)明治以来の近代化の過程で、NPOをのぞく3領域によって多くの人々は生活し、かつ国家もこれらによって成り立ってきた。しかし、1970年代からこれら3領域が十分機能しなくなる一方、NPOの役割が飛躍的に向上しつつある。

 その原因は、第一に明治以来、公的部門を一元的に管理していた「政府」が、国民生活の質の変化とニーズの多様化に対応しきれなくなったことである。第二に、都市化が急速に進み、農村を基盤としていた「地域社会」が崩壊しつつあることである。例として、1970年代後半に伝統的地域社会が担ってきた「相互扶助」機能が低下したときに、それに代わるものとしてボランティア活動が期待されることとなった。第三に、これと裏腹に、都市住民を中心として政府では目配りがきかない社会の新しいニーズを見つけ出し、これに対して自発的積極的に対応し市民運動やボランティア活動を組織したことである。これは、福祉のみならず環境、国際協力、ジェンダーなど多領域にわたっている。

 

3.NPOと生涯学習

 

 それでは生涯学習の分野においてNPOはどのような意味と価値をもっているのだろうか。まず、生涯学習団体としてのNPOについてである。社会教育・生涯学習団体(機関)を上記の4領域に当てはめてみよう。公共図書館、公民館は「政府」部門である。「企業」部門に相当するのはカルチャー・センターなどの民間文化産業である。伝統的に社会教育を担ってきた青年団、婦人会、子ども会などはどのセクターに入るのであろうか。これらは、網羅的参加など伝統的農村社会の組織原理を有しておりNPOというよりは「地域社会」である。NPOに相当するものはYMCA、ガールスカウトなど少数であり、しかも多くは欧米に起源をもつ国際的団体である。これまでの生涯学習が「政府」と「地域社会」セクターに頼っていて、NPOセクターをほとんどもたないことが生涯学習の発展を阻害するひとつの原因であるように思われる。

 次にNPOの力量形成と広報教育活動において生涯学習の役割がある。現代的課題に敏速に対応している各NPOは必然的に教育学習活動を行っている。例えば国際協力を市民の手で行おうとすれば、海外の現場にあっては、現地の住民のニーズの把握、プロジェクトの運営を行わねばならないし、国内にあっては、それを資金的に支えるための募金活動、そして広報教育活動が必須である。これらに付随して、南北問題・開発問題の理解、組織運営や会計能力の向上、募金広報に関っての開発教育、などさまざまな学習課題が出てくる。ところが教育学習活動においてこれらのNGOは専門としているわけではなく、またそれを展開する施設もない。そこで従来の生涯学習団体(機関)との連携という課題が出てくる。これで成功している例が、東京YMCAの「地球市民アカデミア」であり、大阪の「関西NGO大学」である。

 最後にNPO活動を通しての「癒し」と自己形成について述べたい。昨年の本紀要で報告されている辻論文は自身がシャプラニールという国際協力NGOを通して自己形成した記録である。なぜボランティアをするのかとの問いに対して「楽しいからやる」「人との出会の場」「する−されるの固定的関係の見直し」などを上げている。同紀要で「若者の居場所」を論じた萩原論文にも通じる内容である。3)「上下関係」や「肩書」がないNPOは、若者の自己形成の場であるのみならず、「肩書」や「ノルマ」に疲れた公務員や会社員の「癒し」の場でもある。NPOはかつて青年団や婦人会が地域社会で担っていた役割を、居場所が見つけにくい孤独な都会において新たに担おうとしているのである。


1)ボランティアについては論じることができなかったので以下を参照していただきたい。 拙著「ボランティア活動とネットワークづくり」『現代のエスプリ321 ボランティア』、至文堂、1994年、30-41頁。「仕事としてのボランティア」『「こころ」の仕事」』(別冊アクロス・時代を読むシリーズ10)、PARCO出版、1996年、94-105頁。

2)本図において中央に「家庭」を置いたことについては、討論のなかで「自立した個人」とすべきではないかとの指摘があった。この点については賛否両論が交わされた。

3)辻智子「NGO活動の実際」および萩原健次郎「若者にとっての『居場所』の意味」『日本社会教育学会紀要』33号、1997年、3-4・37-44頁。


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