コンメンタール『経済体制論のフロンティア』
第9章 ロシア・マクロ統計分析−貯蓄・投資バランスからみたロシア金融危機−
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関連箇所 |
コンメンタール commentary |
For further study |
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9−1 SNAからみた貯蓄・投資バランス |
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9−A 制度部門別I−Sバランス
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マクロ経済学の基本公式の一つは,Y=C+I+G+(E−M)です。ここで本書のように,(E−M)貿易収支でなく,カヴァレッジを広くとり経常収支CABで置き換えられるものと仮定します。するとS(貯蓄)=Y−C−Gとして,先の式に代入しますと,S=I+CABとなります。 この式は1国経済全体をとらえたもので,制度部門別に分けますと,S>or<Iであって,比較的安定的に貯蓄投資インバランスがみられ,全体と対外部門を合わせて均等であるとみます。ロシアの場合,図9−1に見られますように,家計でS>I,一般政府と企業でS<Iであり,他の世界からの資金流出入も加えることによりバランス化が図られているといえます。問題は家計の貯蓄が国内金融市場を経て投資に回る部分が少ないことにあります。一般に途上国のように投資資金不足から海外資金に依存するようになってしまう前にロシアでの国内金融市場の未発達のために資金がスムーズに循環していない,さらには後述の資本逃避といった問題があります。 |
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Key Word 「デノミネーション」 (通貨単位の切下げ) denomination |
旧ソ連時代にルーブル通貨の公定レートは1990年末に1ルーブル=260円のときもありましたが,ソ連崩壊後のハイパーインフレと資本自由化などにより,実勢レートは1ルーブル=1円にまで急落しました。さらに90年代前半のみでロシアのルーブル通貨の価値は数百分の一に下がってしまいます。そのためエリツイン政権末期の1998年1月1日付けでデノミネーションが断行され,それまでの10億ルーブル=百万新ルーブルに単位が切下げられます。つまり千分の1に切下げられ,出発時点で1ルーブル=$1ドルに近似させる意図があったとみられました。 本章では95年半ばで実勢レートが$1=5千ルーブル程度と換算していますので,デノミで切下げてもまだ実勢レートより高めであったといえます。 それから周知のように,97年アジア通貨・金融危機,翌年のロシア通貨危機をへてデノミ後の新ルーブルも下落する一方で,2002年9月初旬の銀行間交換レートは,$1=31〜32ルーブルです。 |
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Key Word 「資本逃避」 a flight of capital |
国内金融市場が不安定で,しかも国内通貨が急速に目減りしていくインフレ下では,海外とアクセスできる特権的地位をもつ主体が所得や金融資産を外貨で保有し,税金逃れのために海外口座にその資金を移しかえます。そのことを通常「資本逃避」といっているのですが,ロシアの場合,特に石油・天然ガス,金属などの資源独占者が税金逃れから海外口座に輸出代金の外貨収入を隠蔽したのです。 本書でも指摘していますように,例えば図9−1では,「誤差・脱漏」の項目にある96年43862*10億r.,97年43966*10億r.のほとんどがその資本逃避部分だとみられます。それは政府への滞納額の25〜30%に相当するもの計算されます(本書143頁)。 エリツイン政権自体が大統領府に巣くうマフィアと化していたと評されるくらいオリガルヒ(寡占支配者)と経済的に繋がっていたので,およそこの資本逃避を防ぐことには消極的でありました。しかし2000年からのプーチン大統領のもとでは,「強いロシア国家」の再生を目指して,税金逃れを許さないよう断固たる措置をとり始めています。ですから21世紀に入ってロシアの経済環境も90年代とはかなり変貌遂げてくるものと思われます。 |
例として,当時の税金滞納の一番手はロシア最大の天然ガス会社ガスプロムであり,その社長はチェルノムイルジンであった。 |
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〔9−B〕 ロシア政府の国債発行と引受主体 図9−1の解説 |
エリツイン政権下でキリエンコ内閣は96年頃から銀行からの借金に代わって,短期(1年で償還)の高利回り(年利100%)の国債を発行しだしました。おりしもロシアの資本自由化の波にのって,この国債市場にも外国の投資家,とりわけ米系のヘッジファンドが入ってきます。ハイパーインフレ下で高利回りというハイリスク・ハイリターンの新興金融市場は先物取引で利ざやを稼げるチャンスがあるときは外国資金が大量に流入してきますが,ひとたびそのチャンスが危なっかしいとみられるや,民間外国資本は逃げ足が速く,さっさとロシア国債を叩き売って,ハードカレンシーに代えてしまいます。つまり資金が流出していくのです。 98年夏にキリエンコ内閣は一方的に国債償還を一時停止すると発表し,事実上の金融モラトリアムとなり,ロシア政府ばかりかロシアの金融機関の信用は総崩れとなり,この98−99年は海外から見てロシアは最低の格付けに落とされます。 プーチン政権になってロシアの石油輸出などが順調で,国が外貨準備をある程度潤沢に保有できるように変化してきますと,旧来の対外債務の返済をこれ以上引延ばすことも出来なくなっているというのが現状です。 |
今日世界の国別原油生産量で世界第1位のサウジに迫らんとするロシアの対米接近を描いた興味深い報道番組がありました。 NHKスペシャル「米ロ接近」2002年9月放送 |
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9−2 家計の金融資産と貯蓄プロセスからみた構造的変化 |
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Key Word 「経済のドル化」
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その意味するところは,ある国が意図するにせよ,しないにせよ,自国の通貨主権を事実上放棄して米ドルにその地位を明渡すことであります。 南米のエクアドルが2000年3月から自ら自国通貨を廃棄して,米ドルの流通に一本化したとのことですが,この例は極端としても,開発途上国や市場経済移行国でとりわけ高インフレ下では自国通貨が見捨てられ,ハードカレンシー,中でも米ドルの外貨預金・保有に偏ってきます。 米ドルの発行国自身が世界最大の債務国でありながら,何故途上国で米ドルがそれほどまでに強いのか,一見奇妙に見えますが,それらの国では想像以上に米国への信頼・依存が強いからだといえます。 米ドルを外貨準備として大量に保有している少数の国(日本や中国,EU)が仮に米ドルを見捨てたら,ドルの大暴落が起こることは必至なのですが,レスター・サロー教授がいみじくも言っていますように,その米ドルの大暴落がいずれ来ることは間違いないがそれがいつのことか誰にも分からないのです。 |
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〔9‐C〕 住民の貯蓄性向と 金融市場の未成熟
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本書(頁)では,Kashin論文からのデータを主に参照しつつ論じています。住民貯蓄は本来1国経済の投資源泉であり,それが金融機関に担保されて,いわゆる「間接金融」のルートで,あるいは証券市場で「直接金融」の形で資金不足の主体に流入することで大きな資金循環ができ,経済全体での資金バランスが図られるのです。 ところが当時のロシアでは証券市場が未熟なため,そこに個人資金が流入することは限られています。金融機関は,旧国有スベルカッサ(貯金局)が民営化されたスベルバンクに住民預金が集中するのみで,他の民間銀行は主にオリガルヒに奉仕する産業向け銀行であったのです。しかもハイパーインフレ下では,いくら貯金をしても目減りしていきますから,国内通貨ルーブルでの預金は魅力がなく,住民は米ドルに換えてタンス預金にしてしまう傾向が顕著に出てきます。 それにしてもKashinが提起した「最終消費月数」(住民の平均金融資産を月平均最終消費額で割った数値)により国際比較をして,ロシアが確実に90年代に先進諸国の住民のそれより低下したことを示しており,「旧ソ連時代よりも生活が苦しくなった」という住民の感想を一面的ではあれ立証しています。 |
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