研究の目的

<本研究の目的>

 アジアの沿岸には河口が発達している。河口の生態系は、人々に古くから多くの漁業資源をもたらしてきた。とくに、河口に形成される干潟・浅海域では、陸側から供給される土砂や栄養分が、生産性の高い生物群集を育む生態的な基盤を形成してきた。これよって多様な生物が生息し、それを利用するさまざまな小規模漁業とバラエティに富む食文化が形成されてきた。しかし日本では、河口域の豊かな生態系は上流部の森林伐採、中から下流部にかけての河川流域の開発、沿岸地域の工場誘致や宅地形成のための埋め立て、あるいは漁業資源の乱獲などによって大きな影響を受けてきた。これによって河口域の生態系は改変され、河口域の漁業が衰退する結果となった。その過程には、単に水質汚染のみならず、河川と沿岸の地形変化、地域社会や人々の価値観の変化など様々な要因が関わってきたが、これら自然・社会環境を統合した河口域漁業の変化の分析枠組みはほとんど検討されてこなかった。  ところで、この日本の河口域の生物相は東シナ海沿岸の生物相に多くの共通性をもっており、漁労文化や食文化にも共通点がみられる。また生物相の共通性ゆえに、この地域内では、日本を含めた共通の水産物市場が形成されており、流通を介した地域間関係は近年ますます密接になりつつある。一方、韓国・中国・ベトナムなど、この東シナ海沿岸各地では近年、急速な経済発展により、河口域を形づくるさまざまな自然条件や地域社会が大きく変化している。このなかで日本には過去の漁業変化のプロセスを、地域社会・産業・自然環境の相互関連を示す多角的な視点から明らかにし、これらの国々と協力してともに持続的な水産資源利用を可能とする地域形成を提示していくことが求められている。

 このような状況をふまえ、本研究は以下の2点を目的とする。

1)日本の河口域漁業のうち、戦後大きな変化をとげたいっぽうで河口域漁業が存続してきた木曾三川河口地域を対象として、水産資源利用(漁業)を変化させてきた要因を、生物の再生産とその地形環境といった自然環境、および河川・沿岸管理の制度や沿岸の産業立地など、社会経済的な諸要因から総合的かつ実証的に明らかにする。

2)そこで明らかにされた諸関係をアジア沿岸河口域に位置づけ、地域間の差異をふまえた河口域の水産資源利用とその変化の分析枠組みを構築することによって、円滑な国際環境協力の方策を探る。

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