2002年度 立教大学社会学部 専門演習2 是永ゼミ 報告書

『メディアと有名性』をめぐって

実例による検証


目次

 はじめに 担当教員より:本報告書について

  1. ノーベル賞と有名性
  2. 創られた象徴としての富士山
  3. ブランドの持つ力と有名性の創造
  4. 大学の有名性
  5. 着メロと有名性
  6. 心霊スポットと有名性



 

本報告書について

 この報告書は、是永が担当する2003年度専門演習2の実習報告書である。

 内容としては、前期に購読したテキスト石田佐恵子著『有名性という文化装置』(頸草書房)に直接の問題関心を共有しているが、後期の実習にあたっては、毎年サブテキスト(『他者といる技法』)として紹介している奥村隆氏の「他者理解」についての考え方を背景において指導した(つもりである)。

 思えば、2002年という年に日本社会においては、本テーマにある「有名性」を考えるにおいて、二つの象徴的な出来事があった。一つはまさに2002年を冠した「ワールドカップ韓国・日本大会」であり、スポーツ報道に限らず度重なるマスコミ報道によってイングランド代表MFデビット・ベッカム選手が「日本の有名人」になった。そしてもう一つは、その年の後半を画するものとして、ノーベル賞が二人の「日本人」に与えられたという出来事で、特にその一人である田中耕一氏にメディアが与えた「有名性」である。

 この二つは非常に対照的な有名性を持っている。前者の「ベッカム様」は、その呼び方がいかにも日本における有名人のそれとして特有であるが、すでに前回のW杯フランス大会において、アルゼンチン戦でシメオネを背後から一撃した自らの行為によってイングランドのベスト8進出を失わせた「悲劇のヒーロー」として、そうでなくてもマンチェスター・ユナイテッドという、ヨーロッパのみならず香港やタイなどのアジア諸国までにいたる世界的な人気を誇るチームのエースとして、あるいは同じく世界的な有名性を持ったヴィクトリア夫人とのロマンスでイギリス本国のメディアを賑わすセレブリティとして、すでに彼は日本国外の世界では十分に「有名」であったはずなのである。しかし、この年に日本の報道において現れたベッカム像は、まさに「ベッカム様」という、そのようなプロファイルとはあたかも関係のないような独特の存在として、その「有名性」についての理解なされたのであった(この点については本年度の本学部成田研究室発行の演習2報告書(『メディア・イベントとしての日韓共催W杯』に詳しい分析がある)。

 田中氏については、実際に本報告についてもレポートがあるので詳しくはそちらに譲るが、対照的なのは、彼自身が「ベッカム様」のようなにわかな「有名性」を持ったのと同時に、やはり「田中さん」という呼称に現れるような、「普通の人」としての、ある意味で、一般的な有名性に付随する特権性をいつまでも付与されない(自らも発揮しようとしない)存在として、一般の同賞受賞者とは異なった形でやはり独特の「有名性」の理解をされたことにある。

 このように、あの人は「有名である」という理解は、確かにメディアに登場するという事実で一定のものとして他者に付与されているようであるが、その内実は決して一様ではなく、また昨今のメディアの国際化とはうらはらに、その国内外での有名性の付置をいびつなものとしている。その結果、昨今の野球(あるいはサッカー)報道がチームの勝敗やリーグの順位とまったく関係のない、個人成績の報道に終始することになった(本当にいい加減にしてほしいが)ように、報道自体のあり方さえも変えてしまっているのが事実であろう。

 われわれはここに、メディアに登場するから単純に「有名である」と考える視点から、日常において「有名性」を何らかの形で構築している(日常的理解として与えられている)がゆえに、その形式にそった形であるものを「有名」にしていく(メディアに登場させる/「~~様/さん」といった呼称を与えるなど)という、逆転の構図を見ることができるし、その有名性を構築する形式をさらにメディアが担っているとするなら、一つの入れ子となった構図をみることもできるだろう。

 このような視点から、あらためて「有名性」をとらえてみるとき、そこには単にメディアにとらわれない、一つの「他者理解」の原形をみることができるように思える。

 

 実習にあたっては、なるべくデータベースを活用しながら、メディアの内容について分析を行なうように指示したが、各自がメディアの定義や有名性というものを独特に解釈していったためか、結果としては多様な形で「有名性」についての考察が展開することとなった。しかしながら、むしろこれらは各自の想像力の豊かさを示すとしてポジティブにとらえたい。

 最後に、ゼミの運営に尽力してくれたTAの酒井君に感謝を表したい。

以上



2003/4/25

担当指導 社会学部助教授 是永論

 ※本報告書は、特に印刷文書としては発行しておりません。