立教大学社会学部 2005年度後期 情報行動論
最終レポート課題講評(提出者101名)
最終成績の発表に先立ち、今回のレポートに関して講評を行ないます。
レポートの成績は直接出席とは関係しませんが、結果としてこの授業は出席状況に個人差が大きかったのを反映してか、成績の方も個人差がついたようです。
 そのポイントのいくつかについて下記で説明します。

1.データの選択
 最大のポイントは、データの選択とその利用の仕方にあったように考えられます。特に携帯電話やインターネットについては単なる普及率のデータのみを呈示して議論を進める人が非常に多く、それだけでも「授業で使用したデータに類するもの」を使用したとして無効になる可能性がありました。特に無効とはしませんでしたが、単純な普及率の推移を示しただけで言えることは、「増加した」以外に少ないはずです。せめて、性別といった属性などで分けて比較するなどして、そこから傾向の違いを読み取るといったことがないと、非常に議論が乱暴になる可能性があります。たとえば、家出や非行といった年少者の逸脱行動が増加しているグラフと、メディア普及が増加しているグラフをただ並べて、「メディアによってそのような反社会的な行動が増えた」とするような、根拠に乏しい議論をする人が少なくありませんでした。
 言うまでもなく普及率というデータ以外にも、情報に関するさまざまなデータが存在するはずです。むしろ、そのような社会行動との関連を考えるのならば、利用者の社会意識などのほか、授業で示したような行動時間といったものとの関連を示さないと、なかなか両者を結びつけて考えることは難しいはずです。
 確かに、きちんとしたサンプリングをした調査は入手がしにくいのかも知れませんが、たとえば、家計調査や自由時間行動の調査を見ることで、間接的でもより細かいレベルでメディアの利用傾向を推測することはできるはずです。実際にそのような工夫をされた方も中にはいました。

2.事例の選択
 これは他でも書いたことですが、テーマに関連した出来事として、特に犯罪事例を扱った人が多かったのですが、これはそれ自体が困難を抱えています。まず、当事者以外には分からないことが多いし、むしろ当事者だって多くの場合犯罪に巻き込まれようとして巻き込まれたわけではないのですから、「なぜそうなったのか」というのはやはり長い時間をかけて検討しなければ分からないのではないでしょうか。すぐに分かれば犯罪などは起こらない、といっては言いすぎかも知れませんが、少なくともたかだか2千字程度のレポートで因果関係が分かろうはずがないと、私には思われるのですが。それをさらに、メディアの利用と結びつけて考えようとしても、暴力とメディアの関連一つをとっても科学的な根拠についてはまだ確定的なことは言われていませんし、そうである以上は、何を述べても推測の域を出ないことになります。
 実際、日々マスコミで流されているものも、ほとんどは推測の域を出ないものです。そのうえ、2千字どころか一分(文字にして大体四百字でしょうか)くらいで「原因」を突き止めようとする無謀な報道やコメントが後を絶ちません。その中で、携帯電話・ゲームやテレビといった特定のメディアが何かの「悪者」にされている傾向があります。
※私から見れば、同じマスメディアとして、テレビと同様の弊害は新聞も必ず持っているはずなのですが、「新聞を読むと〜〜になる」というメディア害悪説としてはほとんど語られることがありません。そこに新聞のメインユーザーである高齢者が若者に敵対して、若者が利用するメディアを一方的に叩くような構図が見えて来るのではないでしょうか。
 結局はそのように大々的に報道されているから、なんとなく「そのように思ってしまう」ということがあるわけで、多くの人は「マスコミの弊害」を口にはしますが、結局こうしたときに、同じような形の推測にレポートという公の場で関わってしまうのは、そのような無謀な思考に自分も加担しているわけで、ある意味で危険なことに思われます。

3.考察の浅さ
 今回は特に提出条件とはしませんでしたが、データ以外に参考文献を用いているレポートが少ないのも目立ちました。
 議論の直接の根拠となるようなデータを都合よく手に入れるのは難しいのは理解できますが、それだけに間接的な証拠や客観的な推論の過程を得ることが必要で、その際に、他の参考文献に頼ることは大きな手助けとなります。

 以上の点を参考に、手元にある方はレポートをもう一度見直してみてください。
 最終成績は、今回のレポート(80%)のほかに、授業での各課題の提出状況(合計20%)を加えて算出します。

以上
2006年3月
担当教員 是永 論