2007年度 社会学部講義(後期) 
情報行動論 レポート講評(提出者193名)


 成績公表に先立ち、今回のレポートに関して講評を行ないます。

 まず全体としては、レポートとして求められている基本的な条件を概ね満たしているものが多く見受けられました。その意味ではレポートとしての評価はBに相当するものは非常に多かったのですが、一方でそれ以上の評価に値するものは限られていました。以下では、その評価を分けるポイントになった部分について述べます。

 1)広告の分析について  

 まず目立ったのは、広告をただ一つだけ挙げ、その内容や背景の説明に終始するケースでした。特に複数挙げるように指示してはいないので、もちろんそれだけで減点となるわけではないのですが、広告の社会背景を考えるに当たっては、同時代のものや、あるいは異なった時代のものを複数挙げて比べることで特徴をつかまないと、結果としてそれが特定の社会背景と結びついている根拠は得にくいと思われます。そのような工夫もなく、ただ一つの広告を取り上げるだけでは、レポートの要求に適ってはいるものの、どうしても主張できることは少なくなるのではないでしょうか。 
 また分析内容自体についても、かなり大まかに行なわれている印象が見受けられました。取り上げた広告がどういったメディアやサービスを扱っているのかについて、表面的に分かることしか書いていないのでは、わざわざ広告を課題としている意味も出てこないことになります。広告に使われている個々のことばであるとか、どういった人物がそこに登場して何をしているのか、といったことにまで目を配らないと、広告自体の特徴を見ていることにはならないように思われます。広告の内容について大まかな点しか挙げられないと、結局その背景について参照するデータもやはり大まかなものになり、積極的な評価を与えることはできませんでした。


  3)データの参照について

 もう一つ差がついたのが、オリジナルな調査データの参照の部分で、提出の条件としては、もっともふさわしいものを選択していることになるわけですが、講義資料の調査データと明らかに重複しているデータを出しているものが少なくありませんでした。この点については、講義資料が不備のままにレポートを書いていることになるので、減点要素としました。 また、オリジナルなデータであっても、結果的に講義資料と同じような意味しかもたらさないのが見られたのも問題でした。例えばパソコンが当時どれだけ普及していたのかを表すときに、パソコンの世帯普及率の経年変化を示すデータが講義資料にあるにも関わらず、パソコンの出荷台数の経年変化を示すデータを出して来るのは、あまり積極的な意味があるようには思われません。それに対して、どのような年齢層に普及していたのか、その年齢層はどのような社会的な特徴を持っているのか、といったことを属性別のデータから明らかにすることがなければ、一方でただそのメディアの全体的な普及を指摘しても、そこから講義ですでに取り上げている以上の意味は見いだせないように思われます。また、授業の内容からすれば、参照されるはずのデータは必ずしもメディアや情報だけに関わるものである必要はなく、生活行動や社会意識に関するデータなどがもっと用いられてもよかったように思われます。すでに示したように、これは結局、広告からどういった背景を読み取るかによるものであり、こちらが不十分であると、結果として引用されるデータもまた漠然とした傾向しか示さないことになります。
 また、文献参照についても、文献を参照していること自体の意味があまり理解されていないように思われました。文献を参照する目的の一つは、その文献にある一つの考え方を参照することで、考えようとしていることについて、新たな視点を取り入れたり、考え方を深めるためであって、ただ関係したものの名前を挙げればよい、というものでは決してないはずです。たとえば携帯電話が急激に普及していたという現象があったとして、その現象についてどういうことが考えられてきたのかが、参考文献で示されることがないと、それこそただ「普及していました」という話で終わってしまうのではないでしょうか。また、本科目が社会学部で展開している以上、当時の社会構造や社会情勢の特徴に基づく社会学的な考察が求められているのであり、単なる携帯電話業界やマーケティング関係などの本では、そのような方向に至ることが期待されないと思われるのですが、そのような表面的な現象の紹介で終わるものが少なくありませんでした。

 最終的な成績評価はレポートに授業での課題点などを付加して総合的に算出されます。


以上
2008年3月10日
是永論