2012年度 全学共通カリキュラム講義(前期) 
社会学への招待3 レポート講評(提出者83名

 成績評価に際して、今回のレポートに関しての講評を示します。

 今回の課題は、全カリ科目ということを考慮して、採点基準もそれほど厳しくとらなかったのですが、残念ながら相当数の不合格者が出ました。

 その大きな理由は、他の科目に提出した内容をそのまま使っているように思われるレポートが提出されていたことによります。

 事前の条件として、二重提出を明確に禁じなかったことに加え、他の科目レポートと照合しているわけでもないので、その疑いをもって不正・不合格とすることはしませんでした。
 ただし、今回はその傾向を憂慮して、提出条件に対して、「事例とする「日常経験」が何かを明示」しておらず、考察対象がメディアや情報に関わる「日常経験」として解釈できないもの、かつ、「メディアや情報の社会的な利用動向」に関連した調査データが引用されていないものについては、その疑いが強いものとして、特に論理とデータの評価基準において大きく減点を課しました。

 二重提出は明確に定義しにくいものですが、試験である以上は、全く違う科目の問題に同じ答案を書いて済ませることは、勉学をする趣旨に大きく反するものと考えます。今後は、提出条件としても明確に禁じたいと思いますが、二重提出は、その行為が規定になくとも不正に等しいものとして、自省を促したいと思います。

 そのほかに気づいた点をいくつか挙げておきます。

1)因果関係の明示:データの利用について
 今回の課題では、日常経験とメディア・情報との関係を、調査データによって根拠づけることが要点となっていました。このとき、その関係について、何が原因で何がその結果なのかという、因果関係が示されていないために、参照されているデータが何を意味するのかが分からない例がいくつかありました。
 たとえば、スポーツや生活習慣などのある現象が、人々の間で広く行われているということに対して、ただ「メディアがその現象を扱っているから、その現象が広まった」と書くだけで済ませている答案がありました。そこで扱われているデータも、その習慣がある人の増加を示すだけで、メディアが原因となって現象が広まったという結果を根拠づけるような形でデータが用いられていないケースがいくつか目立ちました。このとき、ただ新聞記事などでそういった関係が言われている、としたものは、調査データではないので、有効なデータとは判断しませんでした。

2)「日常経験」というテーマ設定
 課題で要求していたのは、たとえばテレビの視聴形態(個人視聴など)が、あるメディアや情報の利用の仕方や、それまで行われていたやり方から変化して、新たな日常経験として行われるようになったということを、その利用動向から根拠づけることでした。
 しかし、多くの答案例では、単に「携帯やネットを使う人が増えた」あるいは「韓国ドラマを見る人が増えた」などの現象を、データの数字に表してなぞるだけで、その変化や定着の理由を証拠立てるような考察が見られませんでした。
 携帯電話を利用する人が増えたことを、ただ携帯の普及率の増加で示しても、それは同じことを言っているだけに過ぎません。ここで要求されているのは、たとえば、その増加の理由を「特に若者が使うようになったので」、「携帯が特に〜〜の目的で使われるようになったので」といった形で示しながら、その「特に」の部分が他の部分よりも際立っていたり、注目されることをデータで裏付けることでした。
 こうなってしまうのは、そもそもテーマとなる現象(日常経験)が何であり、その現象の特にどういった部分について考えたいのかが、書いている本人もよく分からないままになっていることが原因のようにおもわれました。

3)社会にもたらされた変化について
 この科目は、メディアと人間の関係を通じて、社会について考えることを目的としているので、レポート課題としても、人間が行っている行動がどう社会の変化に関連するのか、ということが示される必要がありました。
 これに対して、たとえば、「電子マネーが普及したので硬貨を使う機会が減った」ということを、電子マネーの発行数の増加データで示すような答案がありました。このとき、確かにマネーを使うのは人間なのかもしれませんが、硬貨が電子マネーになるという現象に対して、人々による日常的な行動が関わる部分はほとんど少ないように思われます。
 その一方で、メディアと人間の行動にこうした関係が見られたから、今後においても、この関係についてこのような変化が見られるだろう、という形で論じた答案はあまり見られませんでした。「自由に議論する」という部分では、データによってはっきり示されていなくても、こうした推論から社会について考えることができるということを考えてもらいたかったのですが、一般的なメディアの影響論や問題点などを示して終わるだけで、議論を展開させようとする姿勢があまり見られませんでした。
 せっかくレポートでこうした考察を自由にする機会があるのに、それを活かしていただけないことは残念に思いました。別科目の答案を持ってくることは論外ですが、そうでなくても、授業を聞いてきた経験を活かして何かを考えようとしている姿勢に乏しく、授業を聞かなくても書ける内容が出されるだけでは、そもそも何のために授業を受けているのかも分からないように思います。
 その点で、今回は授業で聞いた内容を活かそうとしている姿勢や、データから結果を示すだけで終わらず、その結果から新たにものを考えようとしている姿勢が見られるレポートには、論理の部分を高く評価するようにしました。

 最終的な成績については、今回のレポートに加え、6回の提出課題への評価にもとづいて総合的に算定しています。

以上

2012年 8月
是永 論