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高齢者・家族の抱える諸問題
高齢者に限らず,我々の生活が幸福で安定したものであるためには,健康生活や経済生活,家族生活や地域社会での生活が適切に満たされたものでなければならない.しかし,高齢者の場合は,若い年代層に比べると,これらの条件の自力による維持,確保が困難となりやすい. この節では,各種の統計資料によりながら,生活の諸側面における高齢者の置かれた状況を明らかにする.また,アメリカ,ドイツ,タイ,韓国の高齢者と比較したわが国の高齢者の特徴を明らかにする. 第1節 高齢者の社会生活における諸問題 T 高齢者の健康状況 健康状態は年齢が高くなるにつれて悪くなり,高齢期には,いろいろな自覚症状を持ちながらの生活,あるいは病気を患った生活となる者が多い.通院が生活の一部に組込まれたり,入院生活を送る者も多くなる.厚生省大臣官房統計情報部の「平成7年・国民生活基礎調査」(平成9年8月発表)の結果からこのことをみてみよう. (1) 入院者率 平成7年に病院,診療所,高齢者保健施設に入院・入所している者は,人口千人当り全年齢平均10.3である.年齢階級別にみると,35歳程度までは千人当り2ないし3人程度の入院者率であるが,35歳を超えると徐々に高まり,「35〜44歳」4.8,「45〜54歳」8.1,「55〜64歳」15.2,「65〜74歳」28.1,「75〜84歳」43.5,「85歳以上」72.0となっている.「65歳以上」の高齢者をまとめてみると,入院者率は36.0であり,全年齢平均の3ないし4倍の水準である. (2) 在宅の有訴者と自覚症状 では,在宅者の健康状態はどうだろうか.病院や高齢者保健施設に入院・入所していない在宅者のうち,「病気やけが等で体の具合の悪いところ」を自覚している者を有訴者と呼び,人口千人に対する割合を有訴者率と呼んでいる.平成7年の全年齢平均の有訴者率は288.7であるが,65歳以上では509.2となっている.高齢者では,約半数の者が何等かの自覚症状を持っているわけである. 自覚症状には様々なものがあり,高齢者によくみられる症状として,有訴者率が全年齢平均の2倍以上となっているものを示すと次のとうりである.有訴者率の高い順から,「腰痛」(171.0),「手足の関節が痛む」(145.1),「目のかすみ」(118.8),「手足の動きが悪い」(86.5),「便秘」(71.7),「手足のしびれ」(71.3),「動悸」(61.7),「耳なりがする」(58.8),「頻尿」(56.2),「息切れ」(54.5),「たんが出る」(52.9,「眠れない」(47.4),「目やに・目の充血・目の痛み」(44.3),「めまい」(37.8)等である.なお,「肩こり」も高齢者では有訴者率が115.3と高いが,これは成人一般によくみられる症状であり,高齢者特有というものではない. 他方,「つわり」,「月経不順・生理痛」,「おりものが多い」といった婦人科的症状は高齢者には見られず,「切傷・やけどなどのけが」(5.0),「はきけ・嘔吐」(7.6),「熱がある」(7.9)などの症状では有訴者率が高齢者では全年齢平均よりも低い. (3) 通院状況と疾病構造 在宅者のうち通院している者の人口千人に対する割合を通院者率と呼ぶ.全年齢平均の通院者率は285.4であり,国民の4分の1を超える.年齢階級別に通院者率をみると15〜24歳が最も低く,以降年齢が高くなるとともに通院者率は高くなり,75〜84歳が664.1と最も高くなっている.65歳以上では611.8と6割以上が通院している.傷病別に通院者率をみると,65歳以上の通院者率が全年齢平均を下回っているのは「アレルギー性鼻炎」,「虫歯」,「婦人科の病気」ぐらいであり,これ以外の傷病ではすべて65歳以上の通院者率が高い. 高齢者によくみられる傷病は,通院者率が全年齢平均の3倍以上を示すものから上位10位まででは,「高血圧症」(221.4),「腰痛症・肩こり」(131.6),「目の病気」(101.6),「神経痛」(58.4),「慢性関節リウマチ・関節炎」(55.1),「狭心症・心筋梗塞」(43.2),「糖尿病」(39.9),(29.0),「脳卒中」(23.9),「低血圧症」(17.7)となっている.このうち,「前立腺肥大症」は全年齢平均の7.4倍,「脳卒中」は5.2倍もの通院者率であり高齢者特有の疾病といえる. (4) 健康問題による日常生活への影響 65歳以上の高齢者では,約半数強が何等かの自覚症状をもち,また通院しているという状況である.こうした健康上の問題による日常生活への影響をみておこう. 「あなたは現在,健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という質問で「影響がある」と答えたのは,全年齢平均で人口千人対82.6である.この比率は年齢とともに高くなり,65歳以上では217.1,70歳以上では253.4とかなり高い. 生活領域別にみると,「起床,衣服着脱,食事,入浴などの日常生活動作」を挙げたのが全年齢平均では21.2であるのに対して,65歳以上では69.8,70歳以上では86.9と高い比率になっている.「外出の時間や距離などが制限される」では,全年齢平均26.6に対して,65歳以上では109.7,70歳以上では140.7である.「仕事,家事,学業の時間や作業量が制限される」では,全年齢平均36.6に対して,65歳以上では91.9,70歳以上では102.3である.また,「運動,スポーツなど」では,全年齢平均30.3に対して,65歳以上では67.9,70歳以上では75.1となっている. 全年齢平均にくらべると,高齢者では健康問題が日常生活に影響を与える度合が2.5倍ないし4倍程度大きく,とりわけ「外出」や「日常生活動作」への影響が大きい. (5)健康状態の国際比較 総務庁老人対策室では,1980年から5年ごとに日本を含む5ヶ国の60歳以上の老人の生活について国際比較調査を行なっている.ここでは,1996年に実施された第4回調査の結果から,老人の健康状態を比較してみよう.この調査は,日本,アメリカ,ドイツ及び韓国の60歳以上の老人の中から各々約1000人から回答を得ている.(『老人の生活と意識 -第4回国際比較調査報告書-』中央法規出版1996年). 健康度自己評価による健康状態をみると,「健康である」とする者は日本50.7%,アメリカ64.9%と半数を越えるのに対して,ドイツでは34.0%,韓国では27.7%と低くなっている.「健康である」と「あまり健康とはいえないが,病気ではない」とする者を合わせた比率は,日本90.1%,アメリカ87.7%,ドイツ90.2%とほとんど同じになる.しかし,韓国の老人の場合,その2つの回答を合わせても57.7%と比較的低く,全般的に多くの人があまり良くない健康状態にあるようである. 健康度自己評価をみる限りでは,日本の老人は欧米諸国と比べて特に悪いとはいえない.しかし,健康に対する不安の点でみると,かなり違いがある.すなわち,自分の健康について「いつも不安に思っている」答えた者の割合は,日本16.3%,アメリカ9.8%,11.3%,ドイツ10.8%,韓国34.3%であり,韓国についで2番目に高い.「時々不安に思うことがある」と答えたものを合わせると,日本52.2%,アメリカ27.0%,ドイツ37.9%,韓国52.4%となり,日本では韓国と同じように半数の人が健康不安を感じている.
U 高齢者の経済状況 (1) 高齢者の収入源の国際比較 高齢期になると,職業からの引退により仕事による収入がとだえる者が多くなるため,高齢期には子どもの扶養を受けるか,さもなければ貧困の状態に陥る者が多かった.今日では,公的年金制度により,仕事による収入のとだえがすぐさま貧困に結びつくことは少なくなった.最初に,1997年の国際比較調査(60歳以上)から高齢者の収入源をみておくことにしよう. 複数回答でみた収入源としてタイと韓国を除く他の諸国では80%以上が公的年金からの収入を得ており,日本84.0%,アメリカ83.0%%,ドイツ84.4%である.これに対してタイでは9.5%,韓国では4.3%と少ない.タイや韓国では子どもなどからの援助と答えた人が最も多くそれぞれ75.4%と70.8%であった.15年前のデータをみると公的年金を収入源としてあげたのは日本では64.6%でしかなかったから,日本の高齢者は,この15年の間に急速に欧米並に公的年金を受給するようになったといえる. さまざまな収入うちどれが主なものであるかみておこう.公的年金を指摘するものは,日本57.1%とアメリカ55.5%では半数を超える程度であるが,ドイツでは77.0%とさらに高い比率である.しかし,韓国では2.5%,タイでは0.8%と非常に少ない.日本で2番目に多くの人があげたのは就業による収入で21.6%.日本では公的年金かさもなくば就業による収入が主なものである.ところが,アメリカでは就業収入をあげたのは15.5%で,その他に私的年金13.3%,財産収入8.5%が比較的多い.ドイツも私的年金をあげたものが10.1%いる.日本では,私的年金を挙げたものは1.7%と少ない.タイや韓国では子どもなどからの援助が主な収入源とする者がそれぞれ52.9%,56.3%と最も多く,次いで就業による収入となっている. 収入源に関しては日本は欧米諸国の高齢者のパターンに近づきつつあり,タイや韓国はかつての日本の高齢者のパターンに似ているといってよかろう. (2) 所得額 それでは,わが国の高齢者の所得額はどのようになっているだろうか.「国民生活基礎調査」では,世帯単位の所得が調べられており,高齢者の所得状況をみるためには,3つの方法がある.1つは世帯主の年齢で区分した統計をみる方法,第2は「65歳以上の者のいる世帯」の統計をみる方法,第3は「高齢者世帯」の統計をみる方法である. 1) 世帯主の年齢によってみた所得額 平成8年中の1世帯当たりの平均所得金額は659.6千円であるが,世帯主の年齢階級別にみると,「29歳以下」364万9千円,「30〜39歳」598万円,「40〜49歳」748万1千円,「50〜59歳」850万3千円,「60〜69歳」642万2千円,「70歳以上」473万5千円となっている.世帯主の年齢が「65歳以上」をまとめてみると平均年間所得は546万4千円である.つまり,世帯主年齢でみて50歳代までは年間所得は上昇しているが,60歳を超えると減少しはじめている. 2) 65歳以上の者のいる世帯の所得額 65歳以上の者のいる世帯の平均所得額は653万5千円である.これを世帯構造別にみると,単独世帯が199万円,核家族世帯が468万6千,三世代世帯が1,048万円となっている. 3) 高齢者世帯の所得額 「高齢者世帯」とは,「男65歳以上,女60歳以上の者のみで構成するか,又はこれらに18歳未満の者が加わった世帯」であるが,平成7年の高齢者世帯の平均所得は333万8千円である.世帯を所得の低い方から並べてみて丁度中央に位置する世帯の所得を中央値というが,高齢者世帯の中央値は252万円であり,平均所得をかなり下回っている. 平均所得額は多くの高齢者世帯の所得の実態よりも高く出ているといえるが,これは相当高額な所得の世帯がわずかにあるためである.なお,高齢者世帯の平均所得の内訳を種類別にみると,「公的年金・恩給」が195万8千円(総所得の58.7%)で最も多く,次いで「稼動所得」が29.1%,「家賃・地代の所得」が5.9%の順であった. 4)所得の分布 上記各種の平均所得のうち世帯主の年齢階級別にみた所得の分布を四分位の統計でみてみよう.つまり,全世帯を所得の低い順に並べて4等分してみると,世帯主65歳以上の世帯では最も低い分類である第T四分位に属するものが41.2%に及んでいる.第U四分位に属する世帯の26.4%を合わせると,世帯主65歳以上の世帯では中央値以下の所得の世帯が約3分に2に及ぶ実態がある.つまり,これらの世帯の所得は相対的には低いグループに入ると言わなければならない. (3) 主観的な経済状態の国際比較 日本の高齢者の所得は以上の通りであるが,彼らがその状態を主観的にどのように評価しているか,国際比較調査の結果をみておくことにしよう.経済的に「困っていない」と答えた割合はドイツの高齢者が最も高く63.0%に及んでいる.次いでアメリカが44.3%,日本が41.5%である.韓国では「困っていない」と答えたのは7.1%と非常にわずかであるが,タイでは「困っていない」とする者が45.7%と意外に多かった.. 男女別に経済的困窮感をみると,日本では経済的な困窮感を持つものの比率は男子より女子で低いが,他の国々では反対に女子の比率が高い.その一つの理由として,家族類型の分布が日本と他の諸国で異なっている点を指摘できる.どの国でも,「単独世帯」に住む高齢者の経済的困窮感は高いのであるが,日本における単独世帯居住高齢者の割合そのものはかなり小さいので,経済的困窮感の全体的分布には対して影響を与えていない.日本の女性高齢者の多くは「3世代世帯」に住んでおり,このため経済的に困っているとするものに比率は女性で小さくなるのである.他の国々では,「単独世帯」に住む高齢者の割合が比較的高く,その多数は女性であるので,女性に経済的困窮感を持つ者の比率が高くなっているといえる. つまり,日本の場合は子供と共に住むことは高齢者,特に女性高齢者の経済的安定に寄与しているが,欧米諸国ではそのような機能はみられないのである.これらのことから,日本の高齢者の場合,一人暮しの女子高齢者の経済的ニーズがとりわけ高いといえる.
V 高齢者の家族環境 (1) 高齢者の家族類型の国際比較 「国際比較調査」によると、,「単独世帯」に住む高齢者の割合は日本では8.0%,タイ4.7%、韓国では13.7%であるが,アメリカは40.0%,ドイツは38.7%となっており,欧米諸国の高齢者の3分の1以上は一人暮らしである.「夫婦のみ世帯」に住む高齢者の割合は,日本31.0%,アメリカ35.2%,ドイツ44.0%と40%,韓国29.3%であるが、タイでは7.1%と低い.「夫婦と未婚の子からなる核家族世帯」に住む高齢者の割合は,日本14.0%と韓国11.52%とタイ15.6%が類似の水準にあるが,アメリカ9.3%,ドイツ7.2%は10%未満と低い.「三世代世帯」に住む高齢者の割合はアメリカが1.8%,ドイツが1.8%と皆無といってよいほど低い.日本は29.19%であるが,韓国は35.5%、タイは42.6%と日本よりも高い比率である.欧米諸国では,男女の別なく,また,年齢の別なく「三世代世帯」に住む高齢者の割合は極めて低いが,日本及び韓国では男子よりも女子,また60歳代よりも70歳代において高い. (2) 世帯構造の変化 国際比較でみたように,韓国の高齢者や日本の高齢者は,欧米諸国の高齢者とは全く反対に,「三世代世帯」に住む者が多い.病気がちの日常生活を送り,経済的にも十分な収入が得られなくなる高齢者にとって家族は最も基本的な助け合いの場であり,多くの高齢者が子や孫と同居して生活を支え合い,心の安らぎを得てきたのである. 「国民生活基礎調査」によって世帯の構造を調べてみると,平成9年における全世帯の世帯構造別割合は,「単独世帯」(いわゆる単身世帯)25.0%,「核家族世帯」58.0%,「三世代世帯」11.2%,「その他の世帯」5.8%であり,核家族世帯が最も多い.これに対して,65歳以上の者を含む世帯では,「単独世帯」17.6%,「核家族世帯」39.8%,「三世代世帯」30.2%,「その他の世帯」12.4%である.全世帯の状況とは異なり「三世代世帯」と「核家族世帯」が拮抗している. しかし,高齢者を含む世帯の構造は極めて急速に変化している.「国民生活基礎調査」の前身である「厚生行政基礎調査」によって昭和50年の世帯構造割合と比較すると,この22年間,全世帯では大きな変化がないのに対して,高齢者を含む世帯では「単独世帯」の割合が8.6%から17.6%へ,「核家族世帯」の割合が22.7%から39.8%へ上昇し,「三世代世帯」は54.4%から30.2%に低下した.家族の変動を,世帯の観点からではなく,高齢者個人の観点から子との同居率としてとらえると,65歳以上高齢者の同居率は昭和55年に69.0%であったものが,平成9年には52.2%まで低下した. このように,子や孫に囲まれて暮らすわが国の高齢者の伝統的な姿が大都市部を中心に急速に消えていく状況にあり,身近な家族からの援助に欠ける高齢者の増加と人口高齢化とにより,社会全体として高齢者福祉ニーズは加速度的に増大している. (3) 高齢者の家族関係の国際比較 世帯類型の違いと同じように,各国における高齢者の家族関係の意識や実態も違っている.国際比較調査では「子供や孫とのつきあい方」の意識を調べている.「子供や孫とは,いつも一緒に生活できるのがよい」と答えたのは,日本53.6%や韓国61.4%では半数以上であるのに対して,ドイツは15.4%,アメリカでは3.4%と非常に低い.むしろ,欧米では「子供や孫とは,ときどき会って食事や会話をするのがよい」と考えている人が多く,アメリカ72.7%,ドイツ55.3%である.日本の高齢者もそのような別居交流ともいえる考えの人が37.8%おり,10年前の30.1%に比べて上昇してきている.家族の構造ばかりでなく,心理面においても欧米化の兆しが感じとられる. しかし,別居している子供との交流の実態をみると,欧米においては「別居交流」が事実として頻繁に実行されているのに対して,日本の高齢者の現実はそれとはまだ遠い.別居している子供との面会頻度は,「ほとんど毎日」と「週1回以上」を合わせると,アメリカが62%ドイツが60.8%のように相当高い割合であるが,日本は31.5%,韓国は22.9%と小数派である.こうした差は,必ずしも別居している子との距離によるものとは言い難い.というのは,一番近くに住んでいる子供との時間距離のうち,日帰りが十分できる「10分以内」,「30分以内」,「1時間以内」の合計でみると,日本67.5%,アメリカ81.4%,韓国59.5%,ドイツ79.2%となっており,韓国がやや低いものの,日本と欧米の間で極端に違うというものでもないからである. 日本において「別居交流」の考えをもつ高齢者が増加していても,交流の実態は意識と離れており,子や孫と別れて暮らすことに適応していくにはまだまだ時間がかかるであろう.
W 高齢者の活動状況 我々は家庭生活を基礎としながら多くの社会集団に参加,所属して社会生活のニーズを満たしている.子供時代は家庭と学校と近隣集団に主に参加し,成人となって後は家庭と職場を中心として活動し,仕事や育児に負われながらも目標のある生活を送ることになる.高齢者となってからは,職業からの引退により家庭中心の生活となる.しかし,子供は既に独立しており子供の成長に生きがいを求めた,かつての家庭とは違っている.こうして,高齢期には目標ないし生きがいの喪失に直面することが多くなる. 職業を引退したり,主婦としての役割を子世代に譲り渡した高齢者にとって,地域社会はいわば新しい活躍の場である.孤立や孤独を避けるための地域社会における参加活動とともに,それまで培った知識や経験を生かして役割を持つことにより,自己の有用感を高め,新しい生活意欲を高めることになる. (1) 高齢者の生活時間の特徴 国民の生活時間を明らかにする調査には,総務庁の「社会生活基本調査」やNHKの「国民生活時間調査」などがある.ここでは,平成年の「社会生活基本調査」結果から高齢者の生活時間の実態をみてみよう.この調査では,生活時間を一次活動(睡眠,食事など),二次活動(仕事,学業),三次活動(余暇)に区分して時間配分を示している. 15歳以上の国民全体の平均では,一次活動の時間が9.85時間であるのに対して,「65〜69歳」では10.77時間,「70歳以上」では11.66時間となっており,睡眠等の一次活動に当てられる時間は高齢者では平均より1ないし2時間程度長い.二次活動についてみると,一次活動とは反対に,高齢者ではこうした活動に当てる時間がかなり少ない.すなわち,国民全体の平均では6.69時間であるが,「65〜69歳」では4.47時間,「70歳以上」では2.63時間である.特に70歳以上では国民全体の平均の半分以下の時間しか当てられていない.なお,二次活動に含まれる活動は通勤・通学,仕事,学業,家事,育児,買物であるが,高齢者では通勤・通学,仕事及び学業の時間が減少するのである.余暇に相当する三次活動の時間をみると,国民全体の平均が4.65時間であるのに対して「65〜69歳」では6.08時間,「70歳以上」では7.31時間となっており,高齢者では1時間半ないし2時間半程度平均よりも長い.三次活動の中で,高齢者が平均よりも多く時間をかけている活動には受診・受療があるが,テレビ・ラジオ・新聞・雑誌を視たり,聞いたり,読んだりする時間が圧倒的に長く3時間半程度がこれに当てられている. このように,高齢者の生活時間を平均してみると,仕事や学業等にかける時間が減少する分,睡眠時間や余暇時間が増加するが,増加した余暇時間の大半はテレビ・ラジオ・新聞・雑誌などに費やされる,ややもすれば無為ともとれる姿が浮かびあがる. (2) 高齢者の余暇活動 生活時間の配分から高齢者の生活行動の特徴をみたが,それは平均時間であるから平均値を求める計算の分母にはそうした行動を全くしない人も含まれている.そこで,高齢者の何%がそうした活動を行なっているか,「社会生活基本調査」(平成年)から主な余暇活動についてみてみよう. やはり最も多くの高齢者が平日実行しているのは「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」であり「65〜69歳」男89.5%,女87.5%,「70歳以上」男89.4%,女85.6%である.次ぎに多いのが「趣味・娯楽」であり「65〜69歳」男25.8%,女20.9%,「70歳以上」男25.6%,女17.6%である.3番目に多いのは男では「スポーツ」,女では「交際・付き合い」各々約15%程度である.「社会奉仕」活動を行なっている人は「65〜69歳」男3.3%,女1.8%,「70歳以上」男2.6%,女1.3%と非常に少ない. 高齢者では「趣味・娯楽」や「スポーツ」を行なっている人の割合は平日では中年世代よりも高い.しかし,日曜日になると中年世代の約3分の1程度がそうした活動を行なっており曜日によって生活の変化がみられるが,高齢者の場合は日曜日でも平日とほとんど変わりのない平板な生活を送る特徴をもっている. (3) 高齢者の地域社会活動の国際比較 家庭内でのめりはりのない活動中心になりがちな高齢者に対して,地域社会活動への活発な参加が求められている割には,現実の高齢者の活動はあまり活発でない.こうしたことは世界の高齢者に共通にみられる特徴なのだろうか.国際比較調査の結果をみてみよう. 地域でのグループ活動への5ヶ国高齢者の参加状況を,「いつも参加している」,「ときどき参加している」を合わせた割合で比較してみる.すると,「宗教活動」では日本18.4%,アメリカ74.4%,韓国40.4%,ドイツ38.8%となっており,日本は最も低い.「茶話会・ダンスパーティなどの社交的なつどい」では日本15.1%,アメリカ60.0%,韓国29.4%,ドイツ63.3%であり,やはり日本が最も低い.「地域でのボランティア活動(奉仕活動,町内会の役員など)」では日本27.3%,アメリカ39.1%,韓国28%,ドイツ%21.5である.「高齢者のグループ活動(高齢者クラブなど)」では,日本24.5%,アメリカ35.5%,韓国31.3%,ドイツ20.4%となっている.これも「地域でのボランティア活動」とよく似た参加率であり,日本は他の国に比べて参加率が低いとは言えない活動である. 以上の4つの活動を比較してみると,宗教活動や社交的な集いでは欧米高齢者に比べて日本の高齢者は低調であるが,地域でのボランティア活動や高齢者のグループ活動では欧米並かそれよりも活発といえる.しかし,15年前の日本の高齢者と比較すると社交的な集いに参加する高齢者の割合は増加しつつあり,こうした方面への高齢者のニーズが高まりつつあることを表しているといえる. (4) 高齢者の地域社会への参加のニーズ 高齢者のこうした参加希望とはうらはらに,生活時間調査に現れた高齢者の姿は消極的なものであったが,これは参加のニーズを持ちながらも機会に恵まれない多くの高齢者がいるということを意味している.このような参加や活動の場は高齢者自身で作り出されることが望ましいが,これを適切に援助することも大きな高齢者福祉の課題である.とくに,子と別居する高齢者が急激に増化しつつあるわが国で,こうした高齢者が生き生きとはりのある心身ともに自立した生活を送るための援助が極めて重要になってきている.
X 高齢者介護の実態 (1) 要介護者数 健康問題による日常生活への影響がひどくなると,他人の介護を受けなければならなくなる.「国民生活基礎調査」では3年ごとに介護を要する人々の数などを調査しているが,最も新しい平成7年の調査によれば,6歳以上の在宅者で「洗面・歯磨き」「着替え」「食事」「排せつ」「入浴」「歩行」の6種の日常生活動作の1つ以上に介護が必要な者が111万2千人おり,そのうち65歳以上が86万人,要介護者全体の77.4%を占めることが明らかになっている.要介護者のうち寝たきり者が33万人いるが,そのうち65歳以上が28万4千人であり,寝たきり者の85.8%を占める.つまり,介護を必要とする者の大半は高齢者に集中している.65歳以上の在宅の要介護者の身体状況からみた分類では,「全くの寝たきり」が13万2千人,「ほとんど寝たきり」が15万1千人,「寝たり起きたり」が39万5千人,「その他」が18万5千人となっている. 要介護高齢者の高齢人口に占める割合は,在宅者が人口1000対49.3(全く寝たきり7.6,ほとんど寝たきり8.7,寝たり起きたり22.6,その他10.5)であるが,この他に特別養護高齢者ホームの入所者が12.1,高齢者保健施設入所者が6.0,病院・一般診療所の入院者が15.6という比率になっており,在宅,施設を合わせた人口1000人当たり要介護者数は83.0という水準である.なお,在宅の寝たきり高齢者率は平成4年の調査では人口1000対52.3であったから,わずかではあるが在宅者が減少しており,施設等で介護を受ける者の比率が上昇しているといえる. (2)介護の内容と期間 65歳以上の在宅の要介護者について介護の内容別にみると,「洗面・歯磨き」で一部介助を要する者が26.9%,全部介助を要する者が25.0%,「着替え」で一部介助を要する者が34.3%,全部介助を要する者が28.7%,「食事」で一部介助を要する者が33.1%,全部介助を要する者が23.0%,「排せつ」で一部介助を要する者が25.2%,全部介助を要する者が28.2%,「入浴」で一部介助を要する者が45.8%,全部介助を要する者が36.4%,「歩行」で一部介助を要する者が46.7%,全部介助を要する者が32.4%である.最も多くの者が受けている介護は入浴の介助,次いで歩行の介助である. なお,上記6種類のうちどれか1つの介護が必要である者は25.4%,2種類が10.5%,3種類が8.2%,4種類が6.7%,5種類が7.0%,6種類が42.1%となっている.単独の介助よりも複数の介助を同時に受ける者が多い点に介護の複雑さが現れている. 寝たきりの期間別に分類すると, 約半数に当たる48.9%が「3年以上」であり,次いで「1年以上3年未満」が23.6%,「6月以上1年未満」が12.6%,「1月以上6月未満」が12.0%,「1月未満」が2,9%の順であり,期間の長いものほど割合が大きくなっており,全体の70%以上が1年以上の寝たきりなっている. (3) 要介護高齢者のいる世帯の構造 在宅の要介護高齢者(60歳以上)の住む世帯は63万2千世帯であるが,これを世帯構造別に分類すると,「単独世帯」が8.1%,「核家族世帯」が42.6%(うち「夫婦のみ世帯27.1%),「3世代世帯」が27.4%,「その他の世帯」が21.8%となっている.寝たきり高齢者(60歳以上)について,同様の数値をみると,「単独世帯」が6.7%,「核家族世帯」が36.1%(うち「夫婦のみ世帯」24.7%),「3世代世帯」が30.9%,「その他の世帯」が25.8%となっている. 要介護高齢者のいる世帯では,介護の人手という面で十分とはいえない世帯である単独世帯と夫婦のみ世帯を合わせて35.2%と3分の1を超えていたり,寝たきり高齢者でもそのような世帯が31.4%あることには驚かれるが,世帯構造の急激な変化とともにこのような高齢者も急増するであろう.わが国の高齢者の家族生活は急速に多様性を帯びつつあり,家族以外からの手助けを要する高齢者が増え続けるであろう. |