「ノーベル平和賞」受賞 ムハマド・ユヌス 氏
一般の銀行からお金も借りることが出来ず、極貧状態から抜け出せない人々の救済に、「マイクロクレジット」(無担保の小口融資)という画期的な手法を作り上げ、母国のバングラデッシュで700万人もの貧困者を救ったとされる社会的起業家で「グラミン銀行」総裁のムハマド・ユヌス氏。その功績は、国内はもちろん、世界各国で高く評価され、2006年には「ノーベル平和賞」を受賞。そして昨年には立教大学で「名誉博士号」も授与されました。今号の巻頭では、この授与を祝して行われた記念講演で、ユヌス氏が学生らに語った「自身の歩みや思い」について、特集でお送りします。
学生たちと村を歩き、光明
私の事業は、若い人たちとの出会いから始まりました。 私たちが活動を始めようとした当初、私たちは「何をすればいいのか」という活動の青写真を、全く持っていなかったのです。しかし、「貧しい国で、貧しい人々の手助けになるようなことをする」。この目標だけは明確でした。 そこで私のゼミの学生たちと大学の近くに点在する村へ出掛け、村人たちの生活を自分たちの目と耳で確かめました。村人から色々な話を聞き、私たちも問いかけ、彼らの仕事を一緒にやってみるという試行錯誤の中から、私たちが目指す「活動の形」が少しずつ生まれてきたのです。 当時、村でお金を借りている人は40人もいたのですが、その総額はわずか40ドル。「このような小額のお金ならば、私のポケットから貸すことが出来るのではないか」と思いました。こうして融資の活動を始めた後、「もっと多くの人がお金を借りられる環境を作ることは出来ないだろうか」、「それには何らかの制度的な仕組みが必要だ」と考えました。
知らないからこそ、大きな可能性
しかし、銀行には「そのような貧しい人たちにお金を貸すことは出来ない」と言われ、それが「グラミン銀行」の活動につながりました。その活動は、「銀行が手を差し伸べないのならば、私が責任を負う」という形でスタートしました。「私が責任を負う」とは、銀行から私がお金を借り、そして「私から貧しい人々にお金を貸す」ということです。 「貧しい人は、貸したお金を返してくれないだろう」と言われましたが、実際は、彼らは私にお金を返したのです。その姿を見て、私は非常に勇気づけられ、この活動を制度として更に定着させていこうと考えました。ちなみに私たちの活動がある程度うまくいくようになっても、銀行からは「これは絶対に危ない」「絶対に破綻します」といったことを何度も忠告されました。彼らを毎回説得することだけで、
時間が無駄になってしまいます。そこで、そういったことを繰り返すのならば、「私自身が新しい銀行を設立したらどうか」と考え、1983年にようやく「グラミン銀行」をスタートさせたのです。
なぜ、このようなエピソードを皆さんにお話したかと言えば、「仕事とは、『知らないから出来ない』というものではない」ということをお伝えしたかったからです。皆さんにも是非考えて頂きたいのは、「知らないから出来ない」ということでは、「前進は何もない」ということです。むしろ、未知の世界に飛び込み、自分は何がしたいのかを前向きに考えて、行動を起こしていくということが必要ではないかと思います。 重要なことは、「物事を知らないから出来ない」のではなく、「知らないからこそ、逆に幸運である」ということも有り得るということです。仕事のやり方を知っている人は、その範囲でしかものを考えないということがよくあります。やり方を知らなければ、それがために新しい発想が生まれ、普通では考えられないことを試みるかもしれません。そのような「プラスの要因」を強調しておきたいと思います。
貧困は個人ではなく、社会制度に起因
「人間はなぜ貧困になってしまうのか」。貧困というのは、その人自身に由来するものでもなければ、その人の性格によるものでもありません。私たちが作り上げた社会の仕組みや、その基準、ルールによって外から押し付けられるものです。貧困である人と、裕福である人は、人間として違いはありません。同じ性質、同じ可能性を持っているのです。 皆さんもご存知のように、世界の半分の人々は貧困に晒されています。これだけの数の人々が貧困であるということは、我々がこれを真剣に取り上げず、解決策を見い出していないということでもあります。
私たちの心と想像力が世界を変える
我々の心の中には、「お金を儲けたい」という思いの一方で、「社会のために何かをしたい」という思いもあります。お金を稼ぐことに集中したい人は、それもいいでしょう。あるいは社会活動に集中したいは、そうすればいい。けれども、両方の側面を一人ひとりが持っているのであれば、どちらかの活動に集中せず、両方を合わせることも一つの手段としてあり得る訳です。 大学で私たちは何を教え、何を学んでいるでしょう。例えば経営学部で学んだ学生には、経営学の学士号を与えます。そこでは、いかに企業が利潤を高め、利益を上げるかという理論や方法について、集中して教育を行ってきました。しかし、経営学部があるのと同様に、社会利益経営といった学部、学科があってもおかしくはないでしょう。そこでは「社会の利潤や利益」を増やすための手法を学び、それを社会に生かすことを学びます。そういった学問的な側面を大学が持つことも一つの考え方です。 私たちはどのような世界、地球を求めているのか。それは私たち自身が考えなくてはならないことです。いまの世界のあり方で、私たちは満足なのでしょうか。世界の人々の半分が貧困に晒され、様々な場所で戦争が起こっています。そのような世界を我々は求めているのか、それとも何か別の世界はあるのか。それを考えるのは、私たち自身であり、私たちの心なのです。一人ひとりが世界の将来像を考え、「自分は何をするか」を考える小さな行動が、皆さんが心に描いている世界につながると思います。
グラミン銀行とマイクロクレジット
「グラミン」はベンガル語で「農村」という意味。グラ
ミン銀行の活動は全て農村を中心に行われており、対象
者は「土地を持っていないか、ほとんど持っていない」
村人たち。一般の銀行では「借り手に担保や保証人がな
ければお金を貸さない」が、グラミン銀行では「いかな
る貧しい人でも金融機関からお金を借りる権利がある」
と規定。貧しい人々の尊厳を尊重した上で、信頼して数
千円〜数万円を無担保の小口融資(「マイクロクレジッ
ト」)として提供している。
ただし、彼らは貸付金を受けるために、同じような教
育や経済的状況を持つメンバーで5人組を形成する必要
がある。そしてメンバーには皆、お金を借りる前にグラ
ミン銀行の考え方や規則(16原則)などを学ぶ1〜2週
間の研修が義務付けられ、更に貸付を受けるグループと
して認められるには、その誠実さや真剣さを訴え、グラ
ミン銀行のスタッフを納得させねばならない。
この地球は、あなたの地球
重要なことは、この地球はあなたの地球だということです。
あなたに責任がかかっています。
ムハマド・ユヌス氏
1940年、バングラデシュ・チッタゴン近郊に生まれる。
60年チッタゴン大学経済学部卒業、61年同大学大学院にて
経済修士号取得。65年奨学生として渡米し、ヴァンデビル
ド大学へ留学。69年同大学でPh.D.取得。その後、中部テ
ネシー州立大学助教授を経て、71年に帰国。母校のチッタ
ゴン大学経済学部教授に就任。83年、「グラミン銀行(農村
の銀行)」を創設し、総裁として今日に至る。2006年、「ノー
ベル平和賞」を受賞。
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あなた自身の地球を、あな
た自身はどうしたいのか。それを考えて頂きたいのです。誰
かがうまくやってくれればいいという、利己的な考え方では
いけません。あなた自身が考え、行動する主役なのです。こ
れはそう簡単なことではありません。それでも『この地球は
私が住む、私の地球だ』ということを考えた上で、何をした
いかを考えることはできます。答えは分からないけれど、リ
ストアップしてみましょう。それを自分の部屋に貼って、毎
日見つめてみることです。それはつまり、自分の想像を発展
させていくということが、非常に重要なのです。いかに色々
なことを想像できるか。未来につなげていくか。想像力こそ
が、多分これからの私たちの求めたい、あるいはやりたいこ
とに一番必要なものではないでしょうか。想像力を是非とも
皆さんに育てて頂きたい。そのことを願って、私の話を終わ
らせていただきます。
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