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21世紀社会デザイン研究
TOP > Vol.16 > 巻頭 Interview

    「21世紀型の、新たな循環型社会を作りたい」
   日本エコツーリズムセンター代表理事 広瀬敏通さん

 エコツーリズムの普及促進のため全国を飛び回る毎日の日本エコツーリズムセンター代表理事・広瀬敏通さん。エコツーリズムの活動を通して、現在の多くの日本人が失ってしまった大切な価値観を取り戻すことが可能だと考えている。

エコツーリズムと従来の観光との違いは何ですか。

広瀬敏通(ひろせ・としみち)さん

広瀬敏通(ひろせ・としみち)さん●NPO法人日本エコツーリズムセンター代表理事。1950年東京都生まれ。21歳の時、単身インドにわたり約10年間アジア各地で暮す。帰国後、富士山ろくで自給自足の生活を始め、82年日本初の自然学校「ホールアース自然学校」を設立。

広瀬 従来の観光は純粋な経済活動として行われていました。でもそれでは地球環境に負荷がかかり持続可能でないという議論が80年代前半から国際会議の場で始まり、新たな観光のあり方としてエコツーリズムという発想が生まれました。ただ、その定義は欧米と日本で少々異なります。欧米でのエコツアーとは、野生動物を観察したり雄大な自然を鑑賞したり、単純に自然の中で楽しむ観光のことです。

 それに対して日本では私と仲間とで92年にエコツーリズム研究会を立ち上げましたが、当初は定義について頭を悩ましました。理由はエコツーリズムが社会運動であるために国、地域、団体ごとに定義が違うからです。そこで大雑把に「ガイドが案内する環境負荷をかけない体験的なプログラム」という仮の定義で動いてきました。その後、日本では屋久島や西表島、知床などでエコツアーが盛んに行われるようになりましたが、やがてガイドと地元住民の間でトラブルが発生し始めました。ガイドの殆どが地域の外から来た人間で、地元の人が大事にしている神聖な場所やこれまで人が足を踏み入れていない自然地域についてよく理解していなかったからです。

 このままではまずいと、問題点を検証して、ツアーを実施する枠組みの中に地域住民が参加していないことが最大の問題だと分かりました。そこで、エコツーリズムとはまず何よりも、そこに暮す人びとが幸せに過ごせる良い地域づくりのことである、と定義し直しました。

エコツーリズムとは良い地域づくり? それが観光とどうつながるのですか。

自然学校のスタッフたちと

自然学校のスタッフたちと

広瀬 良い地域とは良い人間関係がある地域であり、良い人間関係が存在する地域には人を惹きつける力があるということです。近年、国内の観光産業の市場規模は頭打ちになり、旅行業界は苦しんでいます。昨年6月に公表された観光白書も、若者が全然旅行にいかなくなったと深刻に論じており、業界も行政も効果的な打開策が見つからず悩んでいます。ところが一方で、名所旧跡の類が無い普通の田舎でも、そこに暮す人びとが元気な地域では、都会から訪れる人が増えているんです。若者がその地域のおじさんやおばさんたちの底抜けの笑顔に癒されて、繰り返し通うようになっています。私は人々の観光に求める価値観が変わった結果だと理解しています。自分の食べるものを自分で賄う農業的な生活に大きな魅力を感じて、体験したいと考える若者は確実に増えています。それが新たな観光のかたちであり、そのような魅力ある地域をつくることがエコツーリズムなのです。

全国にそのような「良い地域」をつくるために現在、全国を飛び回っているそうですね。

広瀬 エコツーリズムの地域における担い手として、私は自然学校を位置づけています。日本中に自然学校を2万団体作りたいと考えていますが、現在は約3000団体しかありません。その実現のために私は昨年、設立以来長年関わってきた日本初の自然学校「ホールアース自然学校」から完全に離れ、全国各地を手弁当で訪ね歩いているところです。当面の目標は全国の小学校区ごとに1万2000団体の設立です。

  エコツーリズムの実践にあたっては、地元学という手法を提唱しています。まず地域住民が自分達の土地の歴史や文化を学び、その土地に誇りを持てるようにする。そうすれば彼らは自分達の地域を良くしようと自ら行動を起こすようになります。その結果、寂れていた観光地に賑わいが戻るなど、全国各地で成功例もたくさん出てきています。過疎、高齢化、失業、自然破壊など多くの地域が共通して抱えている問題に対処するうえで、エコツーリズムの活動は非常に有効なのです。自然学校での活動を通して、お金が無くても幸せという新たな価値観、新たな生き方を提案し、エコツーリズムを活用した地域活性化につなげていきたいと考えています。

お金が無くても幸せという生き方。その発想の原点は20代の頃インドなどで暮した経験があるそうですね。

広瀬 ただただ未知のものに憧れて、21歳の時にインドに渡りました。世界最初のエコビレッジやしょうがいを持っている子供たちが自立するための村の建設に関わるなど、日本に帰国するまでの約10年間、世界の最貧層といえる人たちと一緒に暮しました。そこでお金がなくても十分に充実した暮らしが出来ることを体験しました。帰国する直前にはJICAの現地事務所の責任者となり、月給が70万円でしたが、勤務地がタイとカンボジアの国 境の何も無いところでしたし、そもそもこの地で起きた戦乱の結果で得たお金ですから、溜まったお金は結局カンボジア難民の子供たちの奨学金として大半おいてきました。

 本来は交換する道具でしかなかったお金そのものに過剰な価値が置かれた現代の資本主義の行き着いた結果が、08年のリーマン・ショックだと思います。米国型の金融に軸足を置いた経済のあり方は持続可能ではないことが露わになった象徴的な出来事でした。世の中の価値観は現在、大きく変わりつつあると感じています。そもそもお金に最大の価値があると考えているのは20世紀以降の人たちだけです。それ以前の時代を生きた人はもっと色々なものに価値を見出していました。

  日本について考えれば、貨幣経済にどっぷり漬かるようになったのは、戦後以降じゃないでしょうか。昭和の後半の40年で、それまでの戦前の価値観や伝統がすっかり壊されライフスタイルは様変わりしました。もちろん、変化することで社会に活力が生まれ、日本は物質的に豊かになった。そのこと自体は良かったけれど、持続可能な仕組みという視点が抜けていたために、現在様々な問題が起きているわけです。

21世紀の日本社会はどのように変わるべきだと考えますか

広瀬 まず何よりも経済の仕組みを持続可能なかたちに切り替える必要があります。そのためには、日本人が昔から持ってきたお互い様という感覚を取り戻し、助け合い、信頼の経済に戻ることが求められます。ただ、私は単純に、昔は良かった、昔に帰ろうと言っているわけではありません。例えば江戸時代の循環的な社会の仕組みは、人口が現在に比べて圧倒的に少なく、一人ひとりのエネルギー消費量も僅かだったために可能でした。その 仕組みを今の社会にそのまま当てはめることは現実的でありません。だから、私たちは伝統的な考え方を取り入れながらも、それと最先端の環境共生技術を融合し、21世紀型の新たな循環型社会を作っていかなければいけません。そして、それがまさしく自然学校やエコツーリズムの取り組みを通して私が実現したいことなのです。

NPO法人日本エコツーリズムセンター

エコツーリズム推進のために専門家による効果的なアクションを実践することを目的に2007年設立。東京発信型の情報や活動だけでなく、地方のエコツアーサイトを中心とした受け地型の活動に力を入れ、個性ある地域の魅力を活かしたエコツーリズムの推進に各地で取り組んでいる。
http://www.ecotourism-center.jp/