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Vol.2 [2004-01-31発行]  PDF版

●書を捨てよ、いざフィールドへ(福原義春 株式会社資生堂名誉会長)
●新任教授紹介
●院生情報 ゼミ紹介(2004年度開講予定)
●院生研究あれやこれや座談会 この研究科に期待すること
●印象に残った授業&出来事
●モントリオールだより 北山晴一教授
●院生グループの活動
●これからの研究科 知の体系化と学会設立
●今後の研究科予定

Vol.1 [2002-09-20発行]  PDF版

『Social Designer』Vol.1は、PDFファイルでご覧ください

私たちはそれぞれが、この時代・社会を、人間として、市民として、また、企業等で働く者として、どう生きていこうかと模索をしています。先生は、21世紀という時代は、どのような時代になるのか、そして、そこにおける企業の社会的役割はどのように変化していくとお考えでしょうか。

福原義春氏…株式会社資生堂名誉会長、企業メセナ協議会会長、東京都写真美術館館長
『企業は文化のパトロンとなり得るか』『会社人間、社会に生きる』『文化経済学』など著書・共著・論文多数。本研究科でコミュニティデザイン学演習(フィランソロピー論)を担当。

 21世紀がどんな時代になるか、一概には言えませんが、工業社会を超えた社会、あるいは、脱工業化社会、情報化社会、高度知識社会であると言われて来ました。そこで何が起きるのか。20世紀は専門化に向かった時代でしたが、21世紀は統合化の時代です。ですから、そこで行われる判断は、これまでの、効率を重視する機械的な組織構造で行われるものから、一個の人間が行う主体的な判断へと変わらざるを得ません。「市民」、あるいは「市民社会」ということばが意味しているのも、そういう、知識と判断力を備え、自分で自分の生き方を考えていくことができる人間と、そのような人間が作り出す社会なのではないでしょうか。
 21世紀は、工業社会から、「人間の社会」へとパラダイム転換の世紀なのですから、前の時代に成功したことが、そのまま通用するわけがありません。私は、21世紀社会デザイン研究科のような社会人大学院の役割もそこにあると思っています。
 企業についても、変化についていけない、進化に適応できない企業は、伸びることも残ることもできなくなるでしょうね。しかし一方で、企業の役割は、相対的には減っていくと考えています。20世紀は企業が中心で、営利企業は、組織の成員や家族の福祉までも面倒を見て来ましたが、これからは労働機会の提供という面そのもので、非営利セクターの役割が著しく拡大すると思います。そこで、NPO法人を統率する基本原則の確立と、限られた人間、資金、知識、時間等をどこにどう配分するかというNPOマネージメント技術の獲得が、重要な課題になってきているのです。


先生は、企業のトップとしてこの国のフィランソロピーをリードして来られました。欧米諸国との比較において、日本の企業が社会貢献活動を行うことについて、先生のお考えをお聞かせください。

 様々な背景をもった人々が助け合って一つの国を作るという、フィランソロピーの思想そのものから出発したアメリカとは、社会の成り立ちが異なるのですから、わが国にはわが国のフィランソロピーが必要です。しかもそれは、江戸時代から、二宮尊徳の実践、懐徳堂の活動などいろいろな形でこの国に存在してきたのに、私たちは忘れてしまって、今、アメリカの真似ばかりしているのです。二宮尊徳は、地方政治に人々がどのように関わっていくかについての先駆的な業績を残し、懐徳堂の、商人の知恵をもって商人の生き方を考え、ひいては学問に勤しんだ姿は、「儲かりまっか」ばかりではない大阪商人の実像を伝えています。
 実は、企業というのは決して金銭的な価値観だけで動いているのではないのですよ。経営者の信念もあれば、従業員の想いもあります。人間の経済行動の動機を利潤に限定したフリードマンやハイエクら新古典派の経済学に対して、「企業は収益だけを考えているのではない」という実業界からの反論がありましたが、私もその通りだと思います。人々は、お金の力には限界があることに気づき、別の価値を見出すようになっているのです。CSR(企業の社会的責任)、SRI(社会的責任投資)などのことばが聞かれるようになりましたが、社会に対してリスポンシビリティを常に考えている企業の方が、成長が速いということが現実に出て来ているのです。自社の利益だけを考えて行動する企業は、生活者に見放され、信頼が低下します。そして、学問の世界でも、「非経済学の経済学」、「利他の経済学」などと呼ばれるものが世界で一斉に出て来、経済学が、哲学や倫理学にぐっと近寄ってきていますね。


立教大学の21世紀社会デザイン研究科は日本で初めてのNGO,NPO研究の社会人対応の大学院です。そこで、授業を担当された際の印象と、院生に一番伝えたいことは何でしょうか。

 今世の中で、起きていることは何で、問題がここにあるということを教えるところまでが、授業での私の仕事と思っています。問題解決の機会をたくさんちりばめてありますから、後は学生自身が考えて欲しい。自分はどの問題にどう取り組むかをそれぞれが考えることが、問題解決の本当の意味ですからね。院生からの反応で私のそのような意図は伝わっていると感じています。
 皆さんに一番望むのは、座って本を読んだり、考えたりしているばかりではなく、そのあと現場を歩き、現場の人の顔を見、話を聞くフィールドワークをやって欲しいということです。自分が関心を持ったフィールドへ出て行き、直接、自分の目で見、耳で聞く。フィールド調査による原始データを出発点に、そこから問題に関わり、自分の世界を広げて行く。
 われわれは、初めて経験するモデルのない時代と社会にいるのですから、自分で体得しなければ分かるはずがないではありませんか。自分のフィールド体験から、時代が要請しているものが何であるかを掴み取り、それを提供していく、そんな生き方をしていって欲しいですね。

(聞き手 榊なほみ)