司会●川村仁弘 教授
東京大学法学部卒業後,自治省入省。自治省事務官,国土庁課長補佐,自治省課長等の後,新潟県副知事。この間、北海道、群馬県、滋賀県に出向し地方自治行政に携わる。自治大学校長,水資源公団理事等を経て,現職。著書論文多数。
「今の21世紀社会デザイン研究科の院生には社会人が多く、色々な分野で色々な経験をされた人が集まっています。そういう意味では私たちが教わる部分もあります。院生同士の交流からも得るところが多いと思います。大学院ですから、人に教えてもらってただ受け取るのではなく、自分が研究し自分で勉強していくんだ、という積極的姿勢を大切にして欲しいと考えています。」 |
川村 今回は、国際関係における豊かな実務経験もお持ちでいらっしゃる秋山先生と、本学の授業で、国際NGOと平和学をご担当の伊勢崎先生に来ていただきました。国際関係、安全保障、国際NGO等で、最近の印象に残った出来事などお話下さい。
秋山 冷戦後、日本や日本国民は肌で危機管理の重要さを感じてきたと思います。湾岸戦争から北朝鮮の問題といった国家安全保障レベルだけではなく、より身近な生活に関係した危機管理の重要さも意識しました。地下鉄サリン事件や阪神淡路大震災などの経験、また銀行の倒産や企業の不祥事など社会現象の中から、あらゆるレベルに危機管理の考え方が求められており、研究科の目指す“21世紀社会デザイン研究”における“危機管理”というキーワードはとても興味深いものになっていると思います。ここには、これまで私の携わった国防と国際関係の分野での教育や行政とは異なる、新たな研究やネットワークの可能性が存在していると思います。
安全な場所を追求することは
一つの危機管理である
川村 確かに様々な現象が生まれてきており、世の中が動きつつある時代ですね
伊勢崎 海外活動をNGOや、国連、政府の立場から経験してきて、危機管理の体制を多面的に見ることができたと思います。紛争地における緊急援助、人道援助などの活動は国際外交と深くつながっており、その国のもつ意志や力がある程度表れます。人の派遣は当然危機管理と大きく結びついているもので、命を守ること、情報を収集することは基本です。今回のアフガニスタンでの経験を通して、より建設的な提言ができればと考えております。
川村 国際関係の中では国家というものが伝統的に大きな役割を果たしてきたわけですが、今、NGOや国際機関というものがどのような意義をもちつつあるでしょうか。
秋山昌廣 教授
シップアンドオーシャン財団会長。東京大学法学部卒業後大蔵省入省,主計局主計官、奈良県警察本部長、東京税関長,防衛庁防衛局長、同事務次官を歴任。退官後,ハーバード大学客員研究員。2001年より現職。他に学習院大学特別客員教授、政策研究大学院大学客員教授を勤める。著書論文提言多数。
「週2回の講義とゼミを持っていますが、学生の内訳として3分の1が学部卒、3分の1の社会人、残りの3分の1が社会人を辞めて学生というところで、とにかく熱心であることに強い印象をもっています。もちろん安全保障という分野については、過去に学ぶ機会もあまりないことのほうが多いので学問的レベルの点では決して高いわけではありませんが、研究科の追求するものとしては、学問に対する優れた探求より、社会に対する発想力や、企画力なのだと感じています。」 |
秋山 議論を進めていくとNGOの危機管理、あるいは国連や国際機関の危機管理に果たす役割といった話になっていくと思いますが、紛争地の活動における危機管理として、カンボジアの例と今回のイラクの例を具体的に紹介します。自衛隊は国防組織として多くの武器を持って派遣されましたが、カンボジアでもイラクでも一番重要なのは、いかに危険なところを避けるかということでした。何だそれはと言われるかも知れませんが、それが政府、自衛隊にとっての最大の課題、選択だったのです。要請されるままに危険な場所へ出向くことや、理想的な貢献をめざすことだけではなく、安全な場所を追求することは一つの危機管理です。出かけることが国際貢献という面があります。NGOにも同じようにこうした危機管理が必要であり、結果として実際の活動においても効果的な貢献が生まれるといえないでしょうか?
伊勢崎 今回、アフガニスタンの選挙の監視に関しても、一番安全なところをという要請は政府からきています。日本の世論は邦人の事故に過剰に反応しがちで、せっかく進んできていた貢献の意識を後退させてしまいがちですから。
川村 危機管理の要は情報の収集分析です。自衛隊という組織は系統的な情報管理を行っていると思いますが、伊勢崎先生、現場において自衛隊、他国の軍隊の情報収集についてのご経験をお聞かせいただけますか。
伊勢崎 そうですね、プロとして関わる場合、全てのセキュリティ情報は軍事情報です。紛争地では国連平和維持軍、多国籍軍と様々な形の組織が駐留するわけですが、軍隊が最も情報を持っています。
情報の収集の仕方としては、受動的なものとしてニュースの収集、能動的なものとして情報の発信源、中枢への参加があります。そのためには訓練と経験が重要となり、人材の育成と確保が急務だと強く感じています。
情報は力があるが故に囲われる
川村 そのような情報発信源への参加は、戦闘を前提とした情報収集と異なる点があるのでしょうか?
伊勢崎賢治 教授
インド国立ボンベイ大学大学院留学を経て,早稲田大大学院理工学研究科都市計画専攻修士課程修了。国連平和維持活動(PKO)に従事。国連東チモール暫定統治機構で県知事,国連シエラレオーネ派遣団で武装解除統括部長を歴任。更に日本政府特別顧問としてアフガニスタンにおける武装解除に従事した。著書論文多数。
「僕は、講義をする面白さを感じています、毎回の授業が発見であり、緊張感を持ちながら相互に高めあうことができていると感じています。また、カスタマーサービスという観点から学生が期待することと、教える立場のわれわれが期待することのギャップは存在しています。もちろん当然のことであり、その点をどのように、どの程度の距離感ですりあわせていくかは課題であると思います。今後の授業を進めていく上で、この研究科ならではの形が見えてくるものだと考えています。」 |
伊勢崎 平和維持や基本的な平常時の場合と違い、何かが起きた場合は力の関係も影響してきます。つまり、派兵数の少ない国の情報将校がすみに追いやられてしまうような、発言力の差はあると思います。だからこそ、その中へ入っていくことが求められることもあるのです。非常時において、情報はより囲われる傾向があります。情報は力ですし。
川村 そうですね、組織が情報の出し惜しみをする傾向は否めないですね。情報の共有については、防災関係組織間で使用する用語の統一を進めることが必要だとされています。ところで、いわゆるコネクションは情報を収集する上で役にたつものですか?
伊勢崎 紛争に関わる人々は、次の紛争地でも出会うことも多く、ネットワークが生まれます。だからこそ途切れないような人材の派遣の方法が求められているのです。集まった組織の中での地位も、参加を重ねるごとに重要なポジションが獲得できるのだと思います。
一番難しいのは
ヒューマンインテリジェンス
秋山 今回の自衛隊イラク派遣の責任者は、カンボジアの経験者ですし、人材は育ってきています。情報は危機管理の中できわめて重要な要素です。一般的に言って、情報の収集、分析は日本の大変弱い部分です。軍事の分野で言うとヒューマン・インテリジェンス、シグナル・インテリジェンス、エレクトリック・インテリジェンスの3つの分野があり、このうちヒューマン・インテリジェンスは大変難しい、間違いも起こりやすい、しかしとても重要なものです。
川村 紛争地においては命の問題にも関わるので、シビアでしょうが、そうした状況ではなくても情報をつかむためには、人と人の関係を作ることが求められていますね。
秋山 紛争地における国連の力は、情報という面でも不十分であり、有効的に機能していないといえます。他方NGOは多様な機能を持っているわけですから、より情報をもつ軍隊などからの支援を得る方法があればNGOの情報収集はレベルが上がります。
伊勢崎 国連の場合にはPKO型であれば民政部門とのつながりも生まれますが、多国籍軍の場合、運営自体もインテリジェンスの部分では難しいですね。そこで国連が力を入れているのが政務官の活動です。政治ミッション型の活動の中で、いろいろな政務官を登用しています。言葉や専門性に配慮した政務官の活動は情報の収集とネットワーク作りであり有効的です。アフガニスタンのミッションに代表される方法ですが、今後イラクにおいても、同様の手法は検討されています。
川村 政務官と軍事の部分の関係はどのように位置づけられますか?
伊勢崎 現地の政治状況は、現地の軍との関係が深い場合もあり、武装した政治勢力に対しては、駐留軍とのかかわりも生まれます。軍事では図れない政務的な活動が必要であり、今後イラクの中で、地方における国連の政務官とセキュリティの専門家が組んだ形のミッションが展開されます。(国連地域事務所)そこがNGOとのコンタクトポイントとなるわけです。地方で活動することの多いNGOとのブリーフィングやネットワークをつくり、活動をサポートします。
川村 国、軍、NGOの話が出ていますが、紛争地域でNGOが果たしている役割や、NGOならではの機能についてはいかがでしょうか。
伊勢崎 国連や国の援助に比べて、NGOはフットワークが良く、国連や国のできない部分を担っています。医療や食料中心の開発人道援助は、緊急性から言ってもNGOが担わざるを得ません。
川村 資金面などはいかがでしょう。
伊勢崎 もちろん支援はありますが、国の職員と比べても、保証や安全性については課題が残ります。
川村 それはNGOに危険を押し付けているということでしょうか。
伊勢崎 そうですね。難民キャンプの運営などを例にとっても、実働がNGOで、実際にはUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は安全な場所から指示をしているだけです。
川村 そうした中でNGOは必要とされてきたわけですが、なぜ今NGOなのかという背景はどのようにお考えでしょう
伊勢崎 世界的に近代の紛争や復興への関心が高まっています。1970年代のアフリカ諸国の独立時にはどこの国も援助など行ってはいないのですから。今やどこの国でも復興や内戦に対して援助や軍事力を提供しています。
川村 介入という点では、国家の主権を考えると内政干渉といえますが、いかがでしょう。
秋山 冷戦後、大きな問題として、ボスニアヘルツェゴビナの内戦への国連の介入、あるいはコソボ紛争へのNATOの介入があげられます。まだ国際法としての認知はありませんが、国連憲章は、“世界の平和と安定に対する脅威・破壊に対し国連の決定のもとで武力介入すること”を認めています。現在起こっている新しいタイプの内政干渉ともいえるべき動きに対するルール作りや、国際関係論での考え方などは本格的な検討が求められているといえます。
川村 イラクへの介入については多くの議論がされておりますが、アフリカの内戦などを見ていると、殺し合いに対しては介入の必要性を感じますね。
伊勢崎 アフリカの場合、反政府勢力と現政府の戦いが周辺国を巻き込み、利権も絡んでいくことから泥沼化するわけです。近隣諸国の介入という点では、西アフリカ共同体や東チモールでのオーストラリアなどの例がありますが、武力介入による火消しに既得利権も絡むことが、はたしてその国にとって良いのかという問題は残ります。
川村 武力による制圧は、一時的なものではという考え方もあると思いますが。
伊勢崎 アフリカではその繰り返しのなかで国連のPKOが行われています。
秋山 近年の現象として、ボーダーレス化が進展し、国家の垣根が低くなってきましたが、安定した国家では主権は確立しています。
川村 安定のためには統治権の確立は重要であるということですか?
秋山 そうです。それはいろいろな形で存在しています。中国は一党独裁というシステム、インドは民主主義というシステムで大国を治めています。
伊勢崎 近代の戦争に国際社会が介入するということは、金銭が動くわけです。お金を出す以上、国際社会の思惑も存在するわけで、民主主義がその国に合うかどうかは考慮されていません。
川村 その国の歴史を踏まえれば民主主義の押し付けは難しい、秩序の維持が何よりも優先されるべきとの考え方もあります。国民の生活の安定にとって必要であると。
社会学的観点から危機管理を見る
秋山 最近のアメリカは、戦争が終わったあとの復興に関して政策的にも大変貧しいといえます。日本の戦後、天皇制を残したという決定については、かなりの議論がなされたはずです。このことと比較して、現在アメリカが行う決定は、現在のアメリカの国情、即ち「知」の結集のなさを象徴しています。
川村 国際的な危機管理が日常から離れた場所で行われていると感じられていることは否めませんが、国の安全保障といいますと、国の運命にかかわる危機管理上の大変重いテーマです。また伊勢崎先生の話を聞いておりますと、NGOへの参加にあたって安全の問題を避けて通ることはできません。さて、お二人の先生の専門分野を学ぶ意義、そして院生に何を学んで欲しいか、考えをお聞かせいただけますか。
秋山 21世紀社会デザイン研究科には、NPO、NGO、危機管理などいくつかのキーワードが存在します。しかし21世紀の社会をデザインするにあたっては様々な要素があり、個々のキーワードは独立したものと考えるべきではありません。その中で危機管理は、個人や家庭というレベルから、組織や会社、国や国際組織と多岐にわたるわけで、日本が今後どのような危機管理をめざすべきかを考えるためには、まず伝統的な国家の危機管理(国防や国際関係という分野)を基礎として学ぶ必要があります。他方で伝統的な危機管理が論理的にデットロックに乗り上げている現在、新たな試みとして社会学的な観点から危機管理を見ていくことは、とてもチャレンジングであり、私自身もこの研究科の活動に期待を寄せています。
人間の安全保障
伊勢崎 僕の専門は分野的にNGOと危機管理の両分野なわけですが、けっしてNGOの危機管理を教えているわけではなく、人間の安全保障が基本です。現実を知るということが大切であり、人道援助を必要としている場所は復興とセキュリティの現場であり、恒久的な政策として、国づくりの中でセキュリティの柱を作ることが求められています。それが人間の安全保障へつながります。日本人が発想する復興は学校を作るというような援助です。セキュリティ分野における復興、そこに関わる軍事と正面に向き合う考え方を学んでほしい。現場へ向かうNGOにも、このような考え方が必要だと、自らの命を守るためにもぜひ、軍事を避けることなく、危機管理を学んでもらいたいと考えています。
川村 NGO自身を守る危機管理以上に、NGOの危機管理との関わり方が重要です。基本を叩き込みながら大いに考え、議論をしていく、ということですね。本日は大変お忙しいところ、お付き合いいただき有難うございました。
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