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Vol.5 [2005-08-31発行]  PDF版

●[Interview]21世紀社会における共助のしくみ(堀田力 財団法人さわやか福祉財団理事長)
●在校生紹介
●[座談会]この研究科で防災とまちづくりを考える(非営利部門マネージメント危機管理)
●フィールドワーク: 横浜市平安町福祉賛助会訪問/フェアトレード・コーヒー試飲会
●公開講演会
●日本ボランティア学会開催
●公開講演会 & 電通人権ポスター展
●修了生紹介
●[Schedule]行事予定

Vol.4 [2004-12-20発行]  PDF版
Vol.3 [2004-07-31発行]  PDF版
Vol.2 [2004-01-31発行]  PDF版
Vol.1 [2002-09-20発行]  PDF版

『Social Designer』Vol.1は、PDFファイルでご覧ください

顔の見える関係
中村陽一 教授

司会●中村陽一 教授

立教大学教授
(株)新評論、日本生協連等を経て、消費社会研究センター代表。東京大学社会情報研究所客員助教授、都留文科大学文学部助教授、同教授を経て現職。

中村 本日はお集まりいただきありがとうございます。最初は川村先生から今日のテーマ全般についてお話しいただけませんか。

川村 防災にも様々な局面がありますが、特に応急対応という局面が一番分かりやすいと思うのでお話します。阪神淡路大震災のような大災害が発生した直後は、そこにいる人で対応しなければどうしようもありません。火災はあちこちで発生するし、情報収集もままならない、消防車も入って来られない。こういった状況ですから隣近所の力というのが重要になってきます。
 震災時には自主防災組織の重要性が指摘されました。自主防災組織というものは大体、町内会をベースとして作られていて、普段から防災知識の普及などという活動をし、いざという時には情報を収集して伝達したり、初期の消火、住民の避難誘導、あるいは救出・救護、あるいは炊き出しなどをしたりすることを期待されているものです。この自主防災組織は現在、全国で十万組織以上設けられておりまして、全世帯の六割以上が何らかの形で関わっています。普及しているといえば普及しているといえるでしょう。ところが現実の話としては、運営が生き生きしていません。町内会についてよくいわれているように、リーダーが高齢化していたり、活動がマンネリ化していたり、どうも住民が盛り上がらないといった問題が指摘されています。この自主防災組織の活性化が一つの大きな課題といえるでしょう。
 さて、阪神淡路大震災を例にとれば、この自主防災組織は殆ど機能しませんでした。ところが、神戸市長田地区の中の真野地区は、自主防災組織的な運動はしていませんでしたが災害時に機能しました。この真野地区では、30 年前からまちづくり運動を持続し発展させてきました。震災時に住民がどんなことをしたかというと、例えば生き埋めになった人の救助する時に地域の中にいる専門家の助言を得て行ったり、火災に対しても地域内の企業の消防隊の協力を得て消し止めたりしました。また、災害対策本部を自分達で立ち上げ、その運営を効果的に行っていました。
 まとめますと、自主防災組織なるものがコミュニティの応急対応のための組織とされているけれども、どうも活力に欠ける面があるということが一つ。まちづくりというものを進めていくネットワークを通して防災が機能したということが一つ、こういったことを踏まえた上で本日は議論したいですね。

中村 それでは、実際に民間の立場で防災活動に携わってきた沢野さん、いかがでしょう。

沢野 これまでの経験から、防災とまちづくりは人づくりを入れて一体だと思っています。日本の防災の仕組みは小学校の学区単位で形成されています。一つの活動として、私は小学校に防災教育を根付かせること、学校の先生達と地域の人々を結びつけることをしています。いつ頃からは分かりませんが、地域コミュニティとPTAを含めて学校との結びつきが弱まってしまってきています。先ほどお話にありました自主防災組織を含めた地域コミュニティの活性化のためには、こういった学校からの人のつなぎ直しが必要だと思います。
 また、自主防災組織というのは世帯単位で行われてきました。しかし、それは個人の自発的なものではなく当番制や順番制で、専門的な知識や技能を持った人がなかなか育ちにくくなっている状況にあると思います。

中村ありがとうございます。では、茂木さん、市役所の職員という立場から川村先生のお話を伺っていかがでしょうか?

茂木 阪神淡路大震災以降、大抵の自治体では安心・安全のまちづくりは政策目標として掲げられてきましたが、実際には担当部署に十分なヒト、モノ、カネが割かれていない現状があると思っています。「いつ起こるか分からないから力が入らない」という意識は変えていかねばならないでしょう。
災害間期である今のうちに「出来る限り備えておこう」という意識へ転換をしておかなければ、いざ起こった時に何も出来ませんからね。そういう意味で、現在の行政のあり方はちょっと反省すべきだと思っています。

川村教授

川村仁弘 教授

立教大学教授
自治省事務官、国土庁課長補佐、自治省課長等の後、新潟県副知事、自治大学校長、水資源公団理事等を経て、現職。

川村 今のお二人の意見に関して言えば、昔は地域に小学校が自分達の拠点であるという意識があったし、世代単位の当番制、順番制という運営でも地域内では上手く収まっていました。しかし今では全体的な状況が変ってきています。その中でまちづくりをどう進めるか。茂木さんが挙げた「いつ起こるか分からないから力が入らない」ということは自治体だけに収まらない危機管理一般に通じる問題であると思います。

中村 まちづくりを進める上では、従来からある地縁的な団体と比較的新しく登場してきたNPOのような団体との協働が問題になると思います。そういう時に、NPO は単に外から来て意見を言うだけではなく実際の活動で汗を流す機会、場を作り出すことが重要になるでしょう。また、地縁組織のつながりはともすれば同質的なものになりがちです。一旦災害ということになった時に、外国人、障がい者、高齢者は健常者のように活動できません。その時にこそ日頃からつながりを持っているNPOと地縁組織の協働が重要になってくると思います。

沢野 NPOでも良く言いますが「顔の見える関係」。防災もこれが基本でして、これがあることで、先ほど出た真野地区のまちづくり運動もそうだと思いますが、普段は防災に結びついてなくても災害時には凄い力を発揮できるのだと思います。

地域とNPO

川村 私はNPO には地域の人々を結ぶ所謂コーディネート力があった方が良いと思いますが、残念ながら現状ではNPOにそこまでの力は無い気がします。最近、いろいろな所でまちづくりのセッションが開催されていますが、そこで出てくる意見は地域のものというよりもNPO有志のものが前に出てきていると考えざるを得なかったりします。そういう意味で、地域とNPOの間にすれ違いがあるのではないでしょうか。たくさんのNPOがあるとは思いますが、地域に根付いてそこで活動するNPOこそが地域の信頼を得て、課題を解決していくと思いますが、中村先生はいかがですか?

中村 まさにおっしゃるとおりだと思います。「NPO といえども」ではなく「NPO だからこそ」経験知の蓄積を活かした専門性を持たねばならないし、それに加えて地域にある様々な団体の中でNPO は潤滑油になるべくコーディネート力をつけて行かねばならないでしょう。それができるかどうかがこれからの課題であり、まちづくりが上手く進んでいくかどうかの分岐点になると思います。沢野さんはこの点に関してご自分の経験から、見通しや、芽のようなものを感じたことはありますか?

沢野次郎氏

沢野次郎 氏

災害救援ボランティア推進委員会事務局長、財団法人日本法制学会専務理事。
研究テーマ:自主防災と災害ボランティアの連携。

沢野 私の団体で防災を学んだ方が、自分の街に戻ってみたら自主防災組織が無い、そこでその方は自ら様々な団体に働きかけをしていって自主防災組織を作ったということがありました。その地域では防災訓練という場を通して知らない人々が顔を合わせることで、お祭りが復活するなどという方向に向かいました。そして、行政もつなぐし、町内会もつなぐし、NPO もつなぎました。更に、この地域での経験が今度は他の地域に波及していったということはあり ましたね。

茂木 政策波及ということは考えられますね。例えば沢野さんのおっしゃった成功例をどこかで聞いてきて、自分の住んでいる地域で「ウチでもできないか?」という市民の方が一人でも二人でも出てくれば、「このNPOに相談してみよう」というきっかけになるでしょう。そういう時に行政側が、資源の足りない厳しい状況の中ですがある程度の時間を掛けて、自分達ではどういうことができるか共に考える場作りをするということや、成功事例の調査をするということが出来れば、状況は好転するのではないかと個人的に思いますね。

社会デザイン

沢野 私は実感として、たくさん困難はありますが、NPO が地域の信頼を得た時には多くの人々をつなぐ役割を果たせると思います。こういうNPOとコミュニティの問題を追及する研究科という方向性としては、価値が高いといえるのではないでしょうか。

茂木勇氏

茂木勇 氏

信託銀行勤務を経て、1998年より前橋市役所勤務。
研究テーマ:基礎自治体におけるエンパワメント評価導入に関する一考察。

茂木 一年経ってやっと研究科名にある社会デザインの意味が分かった気がします。私は自治体におりますので、これまで言われてきた「お上」の行動や様式というものが、一市民として接する時にどうも異質なものである、と感じました。社会デザインという視点を持っていれば、そういう関係の中にもっとしなやかな発想が生まれるのではないでしょうか。

中村 この研究科が、他の研究者養成の大学院とか公共政策系の大学院とか、あるいはビジネス系の大学院にはない力点を発揮できるのはこういうテーマで、様々なところに分散している知を集めるということだと思います。やはり現場には住民本位、市民本位のノウハウが開発されているわけで、そういったものの集積が重要でしょう。まちづくりに個々人の経験を生かせるようなコーディネート力をもった人材を育成するということを研究科の方で意識的に追求していこうかと思っています。

川村 最後になりますが、今回のテーマである防災とまちづくりについてまとめますと、例えば沢野さんの団体のように防災に特化した活動をしているところが果たしている役割は大きいですが、防災の活動をメインテーマとしていないNPOのネットワークも必要です。先ほど中村先生からお話があったように、外国人、障がい者、高齢者の方と普段から普通の活動の中で顔と顔が見える関係を作っておく、これがあってはじめて、いざという時の活動につながっていくのです。こう考えてきますと、やはりいろいろな種類のNPOがあってほしいし、それが防災という問題について考えてほしいという思いがあります。
 社会をデザインするのは誰か。実際の市民というのは「一人一人が市民」という立場だけでなく、「企業やNPOなどの団体を作っている市民」でもあるわけです。そういう意味で市民と役所が一緒になって広い意味でのまちづくりを行う、これが今後の21世紀社会デザインの基本的なものであると思います。こういう意味でこの研究科でNPO,NGOを研究し、それと密接に連携していかなければなかなかうまくいかない危機管理、防災の研究をする、非常に面白い研究科だと思っています。この研究科には多種多様な人材がいて、それ ぞれの分野で経験を積んできています。こういうテーマについて話し出すと、教えているようで教えられてしまう。お互いに切磋琢磨できる研究科であることを嬉しく思います。