 福田秀人
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程(経営学・会計学専攻)修了後,コンサルタントとして,主に中堅・大企業の事業見直し,リスク管理の強化,管理職研修に従事。横浜国立大学・法政大学,慶應義塾大学・武蔵大学・放送大学の非常勤講師,外務省ロシア知的支援プロジェクト講師(モスクワ派遣,経営管理論)などを歴任。著書論文多数。
|
福田 本日は皆さん、お集まりいただきありがとうございます。今回は障害者雇用というテーマで皆さんからお話を聞かせていただき、また、意見の交換をしていきたいと思います。まず松下電器産業の広報担当として障害者雇用の工場を長年取材されてきた小野先生からお願いします。
小野 日本では、1982 年が国際障害者年です。当時は全従業員の1.5 %以上の障害者の方を雇用する制度となるということを見越して、私の所属する松下電器ではいち早く障害者の工場を作るという動きがありました。国際障害者年の一年前の1981 年に「吉備松下」という会社を作りました。それが第一号なのですが、第二号として1982 年に大阪府交野市に「交野松下」という会社を作りました。ここは国際障害者年の一つのモデルケースとして交野市と大阪府と松下電器産業の三者による第三セクター方式の重度障害者多数雇用事業所でして、障害者専用の工場ということで最初から企画していました。
そこでは、マイクロカセットテープを作っていて毎年黒字を計上していました。ところが1985 年のプラザ合意による急激な円高によって海外に工場を移転しようという話が持ち上がりました。
取材の中で私が感動したのは、マイクロカセットテープだけでは生き残れなくなった時に、障害者自身が自分たちの工場を守るために様々な方策を考え出し、それが成果に繋がったということです。今も尚、交野工場は続いています。
福田 次に、区議会議員という立場からこの問題について関心をお持ちの佐藤さん、いかがでしょうか?
佐藤 サービスを受給するだけではなく、提供する側に障害者の方が移行しようという動きが出てきたように思いますね。私の地域でも、障害者の方が障害者のホームヘルプサービスをするNPO を立ち上げて、自ら理事長になるということがありました。
次に、障害者の方の雇用促進についてですが、現在は全従業員の1.8%以上の障害者の方を雇うことが民間企業に法律で義務付けられています。しかし法律制定から40 年経っても法定雇用率未達成の企業が60 %近くになっていますし、障害者の方を雇う力のあるとされている1000 人以上の従業員がいる企業ではもっと高くて70 %を超えているのが現状です。
障害者の方の雇用を増やすには、とにかく法定雇用率未達成な企業が達成していくことが一つの目標になります。そこで私が提案したのは、行政が企業に委託をしたり、契約をしたりする際に、法定雇用率を達成しているかそうでないかを判断項目として取り入れていくということです。これは中野区で来年度から実施されることになりました。
 小野豊和
(社)日本在外企業協会業務部長。早稲田大学第一政治経済学部経済学科卒業後,松下電器産業(株)に入社。人事部、企画室を経て広報本部へ。ペルー日本大使公邸占拠事件現地広報担当。2002年より現職。関西学院大学非常勤講師。東京都教育委員会公立学校市民講師。『改訂版実践企業広報・企業価値のはかり方』(2004 関西学院大学出版会)ほか著書論文多数。
|
福田 では、鈴木さん、障害当事者の立場から、ここまでのお話を聞いていかがでしょうか?
鈴木 先ほど小野先生と佐藤さんからもお話がありましたが、民間企業の法定雇用率はわずか1.8 %、56 人に1 人に過ぎません。この達成・未達成ばかり議論しているのが今の日本の状況なのですよね。アメリカでは1990 年にADA(障害を持つアメリカ人法)という法律ができました。雇用・交通・通信・建築において障害者を差別してはならないというものです。特に雇用について重点が置かれていまして、障害があるという理由で企業が採用に関して差別をしてはならないことが定められています。そして障害のある方が入社した時は、倒産などの非常な危機がない限りは会社がその人に合わせてバリアを除去するための負担をするというものです。
それから15 年経っているというのに日本では、まだ法定雇用率の議論をしている。私は雇用促進法をどうこうするというよりも、障害者差別禁止法の制定こそが必要なのではないかと考えています。
小野 法定雇用率は今後も上がっていくと思いますが、障害者の雇用率が1.8 %に満たない企業があるからこそ、現在もこの数字が必要なのではないでしょうか。納付金と奨励金があるからこそ頑張る企業もあるわけですし。
鈴木 それは雇用促進法が前提になってしまっているからで、新しく差別禁止法ができれば実際の雇用率はもっと上がると思います。
小野 ただ、法定雇用率の重要な点は、全国の事業所の基準となるばかりでなく、会社内の内部基準となることで障害者雇用義務を全社に徹底する最低限の数値目標となる効果はあります。
鈴木 障害当事者としては、そういう最低限の数値目標というよりも、もっと積極的に能力を認めて欲しいのですよね。私の様にこうして話す分には何の障害となっていない人もいるわけで、つまり、雇う雇わない以前に企業に個人個人の能力を知って貰うチャンスが欲しいというわけです。障害者の方にこういうチャンスを与える制度がないというのも問題だと思いますね。
福田 これは障害者雇用以前に、日本の労働基準法第3 条は雇用差別を禁止しているのですが、対象となっているのは人種、思想、社会的地位のみなのです。つまりそこには性別も年齢も書かれていません。これが強行法規であるのに対して、別に男女雇用均等法を作るみたいなことをしている。これでは雇用差別が起きるのも仕方がないことなのかもしれませんね。
 鈴木 隆雄
慶應義塾大学経済学部卒業。社会福祉法人安心会障害者生活支援センター「所沢しあわせの里」ピア・カウンセラー。所沢市障害者施策推進協議会委員。自立生活センター所沢ファントム理事。「障害当事者の視点からボランティア活動や障害者施策の推進を通して、障害者の自立と社会参加に取り組んでいます」(北山ゼミ)
|
鈴木 私は28 歳の時に病気をして障害を持つことになりました。休職していた会社に復帰するつもりだったのですが結局は退社することになりました。何故かというと、自宅から会社まで通えなかったからです。当時は交通機関にたくさんのバリアがありましたから。その後、仕事を探そうとしてハローワークも訪ねてみたのですが、「鈴木さん、ここまで来るのは大変でしょう。あなたに合う仕事が見つかったらご連絡します」と言われて、今に至るまで一度も連絡はありません。日本ではソフト面もハード面もバリアフリーな社会ではないということに初めて気付かされて、それから自分で勉強を始めました。障害者雇用とバリアフリーは密接な関係にあると思います。
佐藤 職場に障害者の方が入ることによってバリアフリーが進むということはありますよね。例えば豊中市議会は障害当事者の議員が入ることによって議場が一気に整備されました。
福田 私自身は思うのですが、例えばデスクワークは知的障害者の方でない限り、何のハンディもないわけですよね。ただ、そういう職場におけるハード面に問題があるというだけで。小野先生、交野工場ではどうでしたか?
小野 交野工場ではトイレの鏡一つとっても工夫がなされています。また、工場内だけにとどまらず駅前のコンビニまでバリアフリーになったり、交野の祭りの中で障害者の方と盆踊りを一緒にするようになったり、街ぐるみで障害者を受け入れていくということが起こりました。
佐藤 一つの事業所・特例子会社ができて、そこで障害者の方の雇用が進むことによって、その方たちが通勤しやすくなるようなまちづくりがなされていく。つまり、先にまちづくりをしましたから「どうぞいらっしゃい」ではなくて、先に障害者の方が「ここに就職しましたよ」ということからまちづくりが始まる気がします。
福田 立教大学や21 世紀社会デザイン研究科の障害者問題の取り組みについて鈴木さんはどう思われていますか?
鈴木 まず、ハード面のバリアフリー、11 号館はかなりされていましたね。私が入ってから更に変えて貰った箇所もありました。あと、ソフト面のバリアフリーがとても上手くいっている気がします。障害に配慮しつつも対等に話をして頂けているとでもいいますか…。研究科についてですが、私は障害者福祉の研究をしたくて、複数の福祉系の大学院を訪ねた時に、多くで「障害のある人に何ができるのですか。」と言われたことがあります。日本の福祉系の大学や大学院は当事者の援助者を養成する機関であって当事者が入る機関では全くないのですよね。私は、21 世紀社会デザイン研究科でなら障害当事者という立場から21 世紀の社会を考えていくことができるのではないか、ということを期待して入学しました。
福田 では、最後になりますが、皆さんの方から感想やコメントをお願いします。
 佐藤浩子
東京女子大学卒業。在学中障がい者介助で奔走。「どの子も地域の学校へ」運動に携わる。1991年中野区議会議員に無所属で当選(現在4期目)。議会では主に福祉政策を中心に取り組む。「研究テーマは『NPOや民間事業者が行う在宅介護サービスに関する、自治体のこれからの障害者施策について』です」(中村ゼミ)
|
小野 ノーマライゼーションという言葉はお互いが人間を人間として認め合うことです。その関係の中でたまたま障害を持っている方がいたとしても平等でなければならない。憲法で保障されている基本的人権で働くこともそうです。そういう社会を作らねばならないのですよね。
佐藤 法改正の悪い部分もありますけれど、理念的には良い方向に動いていると思います。今度の自立支援法も雇用に視点があてられましたし、当事者の方の声を受けて法律は少しずつ変わってきていると思います。ただ、財源が伴わないといったような色々な問題も存在しています。実際問題としてはどうなのか、ということを汲み取って、地域の条例を変えていくことや、上の法律の改正に繋げていくことが私の仕事だと思っています。
鈴木 小野先生がおっしゃられたように、ノーマライゼーションは人が人として尊重しあえる社会づくりだと思いますね。そのためには何より心のバリアフリーが大切だと思います。「障害者の方に物を頼むのは悪いな」または「障害者に何ができるの?」ということではなく、仮に車椅子に乗っていたとしても人間として付き合えば別に障害があってもなくても何も変わらないでしょう。そういう心にあるバリアを取り払うことが第一なのではないでしょうか?
これまでの障害者雇用はあまりに未達成なものでしたから、21 世紀の社会はもっとクリエイティブなものにしていかなければならない。そしてそれは私達が進めていかなければならないことだと思っています。
福田 障害者雇用の議論では法定雇用率、つまり企業にとっての義務であるという面ばかりが目立ってしまっていますが、もっと法的に差別禁止ということをしっかりして障害者の方にチャンスを広げ、さらには障害者が健常者とが同じように暮らせる社会を作るにはどうしたらいいのか、ということを議論することが重要だということですね。
本日はお忙しい所ありがとうございました。
|