タイの首都バンコクは都市域に870万人を擁する大都会で、国外からも多様な人びとが流入している。

私はアフリカからの人が多くいるとされる地域に住んで、彼らとの接触に努めていた。アジアに来ているアフリカの人びとは、外見から大体判断することができる。


インターネットカフェでスワヒリ語の会話が聞こえたので、話し手にどこから来たか尋ねた。彼(以下アルマシさん、仮名)はシエラレオーネ出身で、政治的理由で国を逃げ、ウガンダ、タンザニアなどを経てタイに来たらしい。スワヒリ語はタンザニア滞在中に学習した。タンザニア時代の友人がロンドンにいて、その友人と電話で話していたのが私の耳にとまったのである。


アルマシさんとはスワヒリ語で話すためか、そしてあとから判明するように彼の方にも私に近づく理由があって、話し込むことができた。アルマシさんの語ることは以下のようなものだ。「私はシエラレオーネの政府高官の息子で、父親は反政府軍に殺された。」「UNHCRの援助でタイまで逃げてきた。」「父親の金の一部はUNHCRの倉庫宛に送られており、それをうけ出すための金が必要である。」父親の金は500万ドル程度であることもほのめかされた。

シエラレオーネでは政府軍と反政府軍の内戦が続いている。反政府軍は、同国の東部、リベリアの近くで採れるダイヤモンドを売却して資金を得て、それで武器を購入しているといわれる。このように紛争地帯で採掘され、武器の購入や強権政治を支える基礎になっているようなダイヤを「紛争ダイヤモンド」と称している。これは、シエラレオーネ、リベリアだけでなく、アンゴラ、コンゴ民主共和国などでも問題になっている。

これらの地域で産出したダイヤは売買させず、市場から閉め出そうという、いわゆる「キンバリープロセス」が発効している。しかし、これが十分に成果をあげているとは限らない。







アラブからの人びとが多い地域では、水パイプを備えた喫茶店が営業している。バンコクにて。2005年。




こんな背景もあるのでシエラレオーネ周辺で大金が動いている事はたしかである。アルマシさんは私に接近して何をしようとしたのか。本当の政治難民であり、父親が(多くの民衆の貧困にもかかわらず)巨額の富を蓄えたのか。あるいは紛争ダイヤモンド関係の金を浄化しようとしたのか。あるいは、たんに荷物うけ出しのための数百ドルを寸借詐欺しようとしたのであろうか。アルマシさんとは適当に分かれたので、今となっては分からない。

(紛争ダイヤモンドについては「ブラッド ダイヤモンド」(デカプリオ主演)に描かれたのでひろく知られるようになった)2007年追記


その後、同様な物語にマレーシアのクアラルンプールでも出会った。今度話をした青年はリベリア出身であり、500万ドルと明言した。どうもこの金額は100ドル札でトランク一つに入れ込むのに丁度よい体積だと考えられているのかもしれない。







アロー通り: 華人系の人びとが経営するレストラン街。ここでもアフリカからの人びとを見かける。クアラルンプールにて。2005年



このように紛争と詐欺に関係する人びとでなく、アフリカからの多数の交易人が、合法的に衣料品や電化製品を取り扱っている。しかし、限られた3週間という滞在期間中、異なる国で同じような物語に出会ったことに興味を覚えた。

紛争ダイヤモンドやシエラレオーネ内戦の関係者、あるいは関係者を語る者に、東南アジアで複数出会ったことの意味は何だろうか。


紛争ダイヤモンドは、詐欺に使用して無知な観光客を大々的に巻き込むには、あまり知られていない話題だろう。たんなる詐欺が目的であれば、にせ賭博、にせのブランド品など、もっと一般的で、アフリカでの紛争などに知識がなくても引っかかる話題を用意するであろう。紛争ダイヤモンドの話をしても、それが通用するほど、アフリカ出身者やその関係者が東南アジアに多数いるということであろうか。






『平和コミュニティ研究機構 ニューズレター』4号に寄稿したものを改稿しました。




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東南アジアのアフリカ人
――紛争ダイヤモンドをめぐって――