目次へ戻る

江戸開府400年

@はじめに
 今年は江戸開府400年という事で、東京各地でこれに関連したイベントが行われている。折しも、卒論において江戸時代の文化を取り上げているので、参考にさせて貰ったが、そんな中で皆が唱える「江戸」とは一体何か、という原点に対しての疑惑が浮かび、この点を予め、はっきりと認識しておくべきではないかと考えた。そこで今回の発表では、「江戸
開府400年記念」イベントを通した上で見えてくる「江戸」像を分析することにした。
 ちなみに、江戸開幕は1603(慶長8)年、東京開市は1868(明治元)年。
 17世紀末には人口80万人。同じ頃のロンドンは50人前後で、パリで50万弱。

A方法  「江戸」イメージを探るに当たって、採用したやり方は次の3通り。
T.江戸開府400年事業推進協議会の理念
シンボルマーク 「5本の曲線はエネルギーであり、江戸から明治・大正・昭和・平成と
5つの時代の歴史と発展を表しています。」
  マスコット 江戸の茶運び人形(江戸の科学)と
        現代のロボット、HONDAのASIMO(現代の科学)
               ↓
 江戸時代の、世界に劣らぬ先進性(科学や文化)を説き、その血を我々も受け継いでいると主張。

U.最後の一覧で掲載されている開催展覧会、全17点の宣伝文句の中から、頻出した言葉を分類したのが下の表。
東京への連続性 11
国際性 9
華・美 6
繁栄・賑わい 5
大江戸 4
先進性 4
               ↓
 プラスイメージが多く、負的な方向を思わせる言葉は少ない。
 開府という政治的な用語のわりには、その内容は文化を紹介する行事が多い。


V.実際に訪れた展覧会から
 ・「江戸大博覧会 モノづくり日本」(国立科学博物館、8/26)
展示の量が多すぎて、やみくもに「宝物」を並べてあるだけと言う印象。解説文も事実的説明ばかりで、頭を素通りする。江戸人の精神や生活が見えてこない。現代とどんな点をつなげているのかも、いまいち伝わらない。
 ・「浮世絵アヴァンギャルドと現代」(東京ステーションギャラリー、10/30)
  浮世絵は、現代に通じる先進性を持つと言い、確かに要所要所で現代との連続性を強調していた。浮世絵が、海外に与えた影響を示しておくことも忘れていない。しかし、かつての日本では、浮世絵の評価が低かったことは述べられていない。
 ・「大見世物 江戸・明治の庶民娯楽」(たばこと塩の博物館、11/7)
   展示の分類・解説は要領を得ていて、江戸見世物の概観が掴めるし、江戸人の奇抜な思考も伝わってくる。江戸の見世物を、明治のパノラマ館・サーカス・博物館や美術館につなげて展示してはいるが、江戸時代にあった祭礼・造物感覚は希薄になったと述べていた。

B考察  まず参考として、他の時代の「江戸」観を見てみる。
 ・「夜明け前」観
  徳川政権時代を暗黒の封建社会として否定し、日本近代化の遅れは江戸に原因ありと考える[芳賀1996:10、小木1987:10]。これは明治維新を文明開化と捉えた明治初期から戦前前後、戦後へとわたる歴史観。
・「アーリーモダン」観
江戸を近代的権力成立以前の時期として救出[櫻井2000:19]。大正期の歴史家や、1960年代のアメリカの学者らによる。明治以降の「成功」につながる面のみを評価する。
・「明るい江戸」観
江戸は近代の病理に明かされない純粋無垢な空間[櫻井2000:17]とした、江戸文化完熟論。小木新造はその背景に、バブル期を経た工業化社会への行き詰まりをみる[小木1987:10]。そしてこれが、江戸と東京を結びつける現代にもつながる考え方である。
               


 つまり、「江戸」はその時代の社会背景によって、違う文脈で語られていることに気付く。
 ならば、今回の「江戸開府400年」にとっての「江戸」とは?
               ↓
・江戸を活々と華やかに描き、その心意気や生活ぶりを憧れ・理想として表象している。そこには、不景気という現在の社会情勢のなかでの満たされない気持ちや停滞感から抜け出したいという想いが、滲み出ている。
 すなわち、「江戸開府400年」における「江戸」とは、現状打破のための活性剤。

 ・そして、もう一つが商業的イベントという特色。
「明るい面を出さなくては、お客を集められない。」(千代田区江戸開府400年記念
事業実行委員会事務局・事業課の加藤伸昭さん)
 
ただ気になるのは、どこかしら”何でも良いから”明るい話題を、という雰囲気が漂っていたこと。気分だけでも盛り上るためならば、別に江戸でなくても良かったのか。
見直しと宣言したものの、果たして「江戸とは何か」という問題を、じっくりと考えた人はいたのか。イメージが一人歩きしていないか。

参考文献  小木新造 1987「江戸東京学序説」『江戸東京学事典』三省堂:1−10
      櫻井進  2000『江戸のノイズ−監獄都市の光と闇』日本放送出版
      芳賀徹  1996「世界史のなかの徳川日本」
              朝日ジャーナル編『大江戸曼陀羅』朝日新聞社:10−17

C今後の課題
・自分が実際に見たイベントは、ほんの一部に過ぎないと言う事。
 展覧会以外にも、体験イベント、芸能鑑賞、シンポジウムや講演会、祭り、ツアーなど、たくさん開催されていた。これらも踏まえたうえで、総括をとると、また違ってくるかもしれなかった。
 ・イベントの主催者側・観客側の江戸像の分析 イベント前と後のイメージの変化など
 

 ・2004年以後の「江戸」の扱われ方
 きっかけのあった今回だけの歴史・伝統再考に終わるのか。
・江戸表象の明暗の分かれ道は、政治と文化のどちらに焦点を当てるか、の違いによるものか。


江戸開府400年記念の、主な展覧会一覧
 「大江戸八百八町展」            江戸東京博物館、1/5−2/23
 「歌麿と北斎展」              出光美術館、H14.11/30−2/2
 「江戸東京展望パノラマ展」         都庁第一本庁舎45階南展望室、3/19−31
「江戸の動物たち」            上野動物園、3/25−12/28
 「大江戸の色彩展 江戸の色はアヴァンギャルド」ディックカラースクエアー、6/16−7/9
 「江戸大博覧会 モノづくり日本」       国立科学博物館、6/24―8/31
 「「江戸の音楽・百花繚乱」浮世絵展」 東京都オペラシティアートギャラリー、7/1−21
「江戸への憧憬 肉筆浮世絵から岸田劉生まで」 ニューオータニー美術館、7/26−9/7
 「徳川将軍家展」               江戸東京博物館、7/19−2/23
「江戸名所図屏風―最古の江戸風景を歩く」  出光美術館、9/6−10/19
 「江戸の繁栄 「江戸名所百景」と広重の名所絵」 大田記念美術館、9/2−10/26
 「江戸の写し絵 幻影のメディア・テクノロジー」 東京都写真美術館、9/21−10/19
 「士 日本のダンディズム」          東京都写真美術館、10/12−11/24
 「浮世絵アヴァンギャルドと現代」      東京ステーションギャラリー、9/27−11/9
 「変貌 江戸から帝都そして首都へ」      国立公文書館、10/4−19
 「東京流行生活展」              江戸東京博物館、9/13−11/16
 「大見世物 江戸・明治の庶民娯楽」       たばこと塩の博物館、11/1−12/14
 「平賀源内展」                江戸東京博物館、11/29−1/18
 「江戸vs今 価値観の違い」 青山地球環境パートナーシッププラザ、11/20−12/3
 「東京ミレナリオ」              丸の内仲通り周辺、12/24−1/1
 「江戸開府400年のフィナーレを飾る王子狐の行列」 王子稲荷、12/31−1/1