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製パン企業の特徴としてパンのみならず和洋菓子も手がけていることが挙げられるが、山崎製パンもパン

の他に和洋菓子、米菓、そしてグループではコンビニエンスストア事業などを手がけている。

【図表0-6】は

山崎製パンの売上高構成比の推移である。パン事業以外への参入といった点から考えれば多角化している企

業と言えるかもしれないが、創業当時からすぐに和洋菓子は手がけるようになっていたことや、その延長と

しての菓子事業の拡大、コンビニエンスストア事業への参入もパン小売店活性化のためと全て本業に回帰す

るものとなっている。また【図表0-6】からもわかるように食パンと菓子パンは合わせて全体の5割程の売

上高である。食パンが全体の売り上げに占める割合は2割程度と決して多くはない。しかしながら食パンは

生産の大半が自動化されている装置産業であり、山崎製パンにとっては収益源として食パンは重要である

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このようなことから山崎製パンは全社的にパン事業を軸にして拡大を図ってきた企業であると言えるだろ

う。

では日本パン産業において山崎製パン一社のみが著しく成長し、他産業の企業と比較しても巨大企業とな

るまでに拡大することができたのに対し、なぜその他の製パン企業はそれに追随することができなかったの

であろうか。山崎製パンは画期的な新事業へ参入を果たしたわけでもなく、他の製パン企業との差は如何な

る所にあるのだろうか。本論文では日本パン業界で飛躍することができた山崎製パンの成長要因について研

究を行う。

パン業界の先行研究としては、まずアメリカのパン業界における企業の成長に関するものとして山口

(1976)が挙げられる

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。山口はアメリカの製菓、製パン業における巨大企業の出現過程とその際に重要な流

通戦略について言及している。アメリカの製パン業でチャンドラーが言うような企業合同が他産業と比べて

なかなか起こらなかったのは、生産工程の機械化、標準化が難しく大量生産体制の確立が困難であった点、

製品自体のペリッシャビリティによる広範地域への大量輸送、大量販売が困難であった点、企業数が多く大

企業となるのが困難だった点、小規模企業の方がメリットがあった点を指摘している。しかし1920年代頃

になると企業合同の動きが製パン業界でも起こり始めたとしており、その要因としては都市人口の増加によ

る顧客の集中、ホーム・ベーキングの低下、機械の導入、原料及び販路確保のための垂直統合、電器製品の

普及や輸送手段の改善、資金を投資した投資家をあげている。またNational Biscuit Company の成立と流

通戦略についても具体例として取り上げている。日本のパン業界に関する研究としては、堀内(2008)があ

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。日本のパン産業の構造的な特徴、産業組織論の立場から見た時の実態を整理することを目的とし、結論

として寡占的な大企業と中小企業が一つの市場で共存する事実が確証できたとしているが、ここでは特にな

ぜそのようなことが起きたのかについて長期的な視点からの研究はなされていない。製パン企業に焦点を当

てて分析を行っているものとしては木村、岩坪(2008)がある

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。ここでは山崎製パン、敷島製パン、フジパ

ン、神戸屋、第一屋製パンを主要5社として取り上げ、各社事業の位置付けとアンケートによる消費者評価

から分析を行っている。その中で山崎製パンは戦略が製品開発等の具体的な活動として実施され、各活動が

消費者の評価を得て高い顧客満足につながり、最終的に優れた経営成績に結びついているとしているが、そ

の分析期間は短く不十分であると考えられる。またパンの中でも食パンに焦点を当てて研究を行っているも

のに大崎(2010a)がある

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。売れ行きの良い敷島製パンの超熟、フジパンの本仕込みの成功要因と山崎製パ

ンの超芳醇の問題点を分析している。本仕込みは中種法が主流の日本で添加物を使用せずもっちりした食感

を生み出すために直捏法を試行錯誤の末開発し、プロモーションでも価格とブランドを守る方法で、高価格

設定でありながらも本物志向の消費者に受け入れられたとしている。また超熟も湯種製法という大手メーカ

                                            

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石黒千賀子、1994.3.21、「山崎製パン一定地域を集中開拓 効率配送でシェア拡大」、

『日経ビジネス』、p.39

7

山口和臣、1976、「アメリカ製菓・製パン業における巨大企業の出現」、『流通經濟大學論集』、第10巻第3

号、p.37-49

8

堀内俊洋、前掲論文、p.39-54

9

木村雅敏・岩坪友義、2008、「消費者評価から見た製パン市場における主要メーカーの位置付けと山崎製パ

ン(株)経営に対する一考察」、『生産管理』、第15巻第1号、p.147-152

10

大崎孝徳、2010a、「プレミアム商品の開発と育成--食パンの事例を中心として」、

『生産管理』、第16巻第

2号、p.205-210