2016年度 卒業論文
          ※ePUBボタンを押すと全文閲覧ができます。PPTボタンを押すとパワーポイント版の要約が閲覧できます。     
 
Title:
インド自動車産業における地場企業の持続的競争要因分析−タタ・モーターズを事例にして−
   
Auther:本田 翼
  HONDA, Tsubasa

Abstract:

 本論文は、インド自動車産業の動向に注目しながら、国内市場において淘汰されずに市場シェアを拡大させていく地場企業であるタタ・モーターズを事例として分析を行なった。本論の目的は、タタ・モーターズが持続的な成長を実現することができた要因について考察することである。
4章構成で執筆を行い、第1章は前半と後半に特徴で時代区分をした上で、インド自動車産業の歴史を分析した。インド経済が本格的に自由化する1990年代から国内自動車産業も競争が激化し、それ以降の時代を主な分析対象としている。第2章では、タタ・モーターズに焦点を当てて、設立から戦略を時系列で追っていくことで企業の特徴を明らかにした。第3章では、2008年度以降の同社の戦略の着目をした。そこにはイギリスのJLR買収という大きな転換点があり、JLRはタタ・モーターズにとって大きな収入源となる主力事業にまでなった。
最後の第4章では第2章と第3章を踏まえたまとめとして、なぜタタ・モーターズは持続的な成長を実現できたのかについて考察を行なった。1つには同社が競合他社に比べて早期に製品多角化を行うことができた点を挙げている。特に乗用車のみならず、多目的車や商用車においても多くの製品を生産・販売していたことを強みとして総合自動車メーカーにまで成長した。また製品多角化と共に、国内の販売面も強化したことによる流通面への投資が、成長の大きな要因として考えられる。また2008年度以降の成長は、買収活動によるものであると指摘した。その成功の要因としては、2004年の海外証券取引所への上場による資金調達と知名度の向上をもとに、友好的な買収を行なったことが一つ挙げられる。買収先の従業員のノウハウや経験を生かすことや経営陣をそのまま据え置いてマネジメントを行なったことが買収のメリットを発揮することにつながったと考えた。さらに、この買収は地理的な多角化を実現することによって販売網の拡大につながり、成長の要因となった。

Keywords: タタ・モーターズ、インド、自動車産業、M&A、多角化
 
 
Title:
映画産業の構造変化と戦略モデル遷に関する研究 − なぜ東宝は一強体制を築けたのか−
   
Auther:大平 維吹
  OHIRA, Ibuki

Abstract:

 本論文では日本の映画産業の構造変化とその主要プレイヤーである東宝を中心に、東映と戦略を比較しながら、東宝の築いた一強体制の要因を明らかにした。
 序章の問題提起では東宝の1990年代後半からの配給収入・興行収入の急激な伸びに注目した。さらにそれ以前を見ると、1960年代は東映が業界トップであり、1980年代に東宝が東映を上回ったこと、そして1990年代後半から東映や他社を大きく引き離したことがわかった。東宝が業界トップにいた東映を上回ることができたのは何か戦略的な要因があったからだと考え、同様に東宝が一強体制を築けたことにも戦略的な要因があったと考えた。そのためこの2点の要因を本論文で明らかにした。
 第1章では映画産業に関するものとラングロワによる企業の境界に関する理論を先行研究としてまとめた。第2章では国内の映画産業について主要な統計を用いて大まかな流れをつかみ、映画産業特有の構造を説明した。また映画会社3社の特徴を売上高の事業構成から明らかにした。第3章では映画産業で起きた構造変化を把握するために映画産業の歴史をまとめた。第4章では東宝と東映の戦略を把握するために製作・配給・興行の3つの観点から分析し戦略の類型化を行った。第5章では第3章で提示された「製作分業の開始」と「ビデオ市場の登場と成長」、「シネコンの登場と普及」の重要な変化3点と、第4章でわかった東宝と東映の「製作とシネコン展開における戦略の差」を踏まえて、「製作の分業化と製作戦略の差」と「興行戦略の差」という2つの論点を出した。この論点に対して、製作の分業化ではラングロワの「消えゆく手」仮説を用いて分業の進展を理論的に説明し、製作戦略の差では両社が配給する作品の製作主体の傾向が対照的である点を説明した。興行戦略の差では両社の対照的なシネコン展開戦略から説明を試みた。また両社の配給能力という観点からも説明を行った。  結論として、1980年代に東宝が東映を上回れた要因は東宝の他社製作を中心とした製作戦略であり、1990年代後半からの東宝の一強体制を築けた要因は東宝の積極的なシネコン拡大戦略と実績を積み上げて築いた配給力にあると結論づけた。

Keywords:

東宝 東映 製作分業 異業種参入 シネコン

 
 
Title:
日本パン業界における近代企業としての山崎製パンに関する研究
   
Auther:須藤 理紗子
  SUDO, Risako

Abstrat:

 本論文では山崎製パンがなぜ巨大企業に成長することができたのかという問題提起を行い、それに対してチャンドラーの近代企業の議論を用いて研究を行う。チャンドラーは生産、販売、管理組織への投資を最も早く大規模に行った企業がその産業内で寡占的な一番手企業つまり近代企業になるとしている。そのため本論文でも、その3点に焦点を当てパン業界と山崎製パンについて言及する。第1章では第二次世界大戦中までのパン業界について述べる。この時点ではまだパン市場は小さく、製パン業者も非常に小規模であった。第2章では戦後の食糧難による需要拡大から1980年までのパン市場の成長期について見ている。この時期に道路網が発達し、大手製パン業者は各地域へ市場拡大を図った。それと同時に生産設備の機械化を進め、大量生産を可能にした。また大量生産した製品を販売する流通網も獲得していった。大手が飛躍する一方で、中小製パン企業は淘汰が進んだ。第3章では第2章の時期における山崎製パン成長の過程を見ていった。機械の導入と他社には見られないほどの多様な地域への進出により、生産能力を高めていった。そしてそれらを販売する販売店も自社業態店を活用しながら全国へ増加させていった。このように市場の成長期は山崎製パンの成長期でもあった。そして規模拡大に伴って組織の整備を進めていた。これらのことから山崎製パンは近代企業であると考えられる。第4章では市場の拡大が停滞する時期における業界の動向について述べている。さらに機械化が進むことでより一層大手が有利な状況となり、寡占化が進んだ。また流通チャネルも大規模化が進んだ。第5章では市場低迷期における山崎製パンの成長について見ていった。それまでとは異なる多角化や国際化といった対応を取ることで、市場が伸び悩む中でも拡大を続けた。またその拡大した組織を階層化させるとともに企業集団として管理を強めていった。以上のことから山崎製パンはパン業界における近代企業であり、それこそが企業規模拡大の要因であったと考えられる。

Keywords: 山崎製パン、チャンドラー、近代企業、規模拡大、寡占化
 
 
Title:

東京急行電鉄を中心とした沿線開発型モデルと首都圏大手私鉄会社の成長戦略―外部経済効果の内部化の視点から―

   
Auther:杉原 優里
  SUGIHARA, Yuki

Abstract:

 日本の大手私鉄会社は、世界でも稀に見る自立採算で鉄道業を経営する民営企業である。日本国内ではモータリゼーションが進み、国内の旅客輸送を主として担うのは自動車であるが、東京を中心とする首都圏においては鉄道が交通手段として最も多く利用されている。言い換えれば、東京は鉄道依存型都市である。鉄道業は一般的に、公益事業としての性格を持ち、@サービスの必需性、Aサービスの在庫不可能性と即時性、B自然独占性、Cネットワーク産業等の特徴がある。特に第3の特徴である自然独占性は、鉄道産業に規制がかけられる最大の要因となっており、具体的には産業への参入・退出規制や運賃及び料金設定に規制がかけられている。その結果、鉄道産業は制約されがちな経営環境となっており、大手私鉄会社は不動産事業や流通事業等の兼営部門への多角化によって安定的な収益を確保できるような経営をするようになった。兼営部門での多角化によって外部経済効果を内部化しているのだ。本研究では、このような私鉄の経営とその成長を見るために東京急行電鉄をケースとして取り上げ、その成長のモデルを分析している。東京急行電鉄における事業展開の歴史や、東京への人口流入の歴史など、鉄道会社の動向と都市形成の動向を照らし合わせて進めた分析によって導き出されたのは、「沿線開発型モデル」と名付けるにふさわしい、人口増加を前提条件として、沿線を開発することで顧客創造や輸送需要の喚起、そして鉄道業から派生的に生じた外部経済効果を内部化して成長していく円環型のビジネスモデルであった。「沿線開発型モデル」と同じ、若しくはほぼ同等の手法を用いて日本の大手私鉄会社は成長を遂げた。しかし、近年わが国が直面している人口減少問題は、人口増加を前提条件とした「沿線開発型モデル」の変質を招いた。大手私鉄会社は、選ばれる沿線としての沿線価値向上や沿線地域における質的な人口集積を図っているものの、対策としては不十分である。

Keywords: 沿線開発型モデル、外部経済効果の内部化、公益事業、鉄道会社、成長戦略
 
 
Title:
放送産業におけるビジネスモデルの展開と 経営戦略に関する研究
   
Auther:田村 美佳
  TAMURA, Mika

Abstract:

 本論文では在京キー局の放送外事業に焦点を当て、戦略の違い、また違いが生まれた理由を明らかにすることを目的としている。テレビは新聞やラジオにはない「映像で情報を伝達する」という特徴があり、1950年代に発売されてから人々の人気を博していった。しかし2000年代以降、インターネットの普及やデジタル化などにより映像媒体としての希少価値が低下した。これはテレビ広告価値の低下ともいえる。このような競争環境の変化を受け、在京キー局は放送事業以外の収入・収益源を確保しようと放送外事業を本格化させた。しかし各社の連結売上高に占める放送外収入の割合に差があることから、「自社でやるか」「グループ企業でやるか」という戦略の違いがあるのではないかと考えた。そのため先行研究は「垂直統合」や「水平分業」を扱っているものを取り上げたが、それらでは放送外事業について分析されていない。また今後も放送外事業の重要性は高いと予想されることから、本論文は放送産業における研究の一助となる可能性があるとした。
 分析には「放送関連度」と「外部活用度」という独自の指標を用いている。まず各社の放送外事業を「放送関連度」で分類。次に各事業の2000年代以降の出資や提携といった動きを「外部活用度」で数値化。最後に外部活用度の平均点と総合点で比較。その結果、放送関連度の高い事業は統合、低い事業は分業する傾向にあった。またフジテレビ・TBS・日本テレビは積極的、テレビ東京・テレビ朝日は消極的な事業展開をしていた。そして「経路依存性」と「先行者優位」が自社に働く場合は統合、他社に働く場合は分業し、視聴率の低下が大きい企業ほど放送外事業を積極的に展開することが明らかとなった。これらの分析結果から、テレビ東京・テレビ朝日も放送外事業への取り組みが積極的になり、分業型も採用していくと考えられる。なぜなら視聴率の低下は小さいが視聴率自体が低く、放送外事業の重要性はフジテレビ・TBS・日本テレビと同様に高いからだ。さらに在京キー局は放送事業を専業してきたため、事業拡大には他社との協力が必要となる。このように在京キー局における放送外事業の戦略の違いとその要因だけでなく、今後の動向についても示唆された。

Keywords: 垂直統合、水平分業、放送関連度、外部活用度、経路依存性、先行者優位
 
 
Title:


日本鉄鋼業における中間財貿易の進展に関する一考察 ―雁行形態型発展からフラグメンテーション型発展へ―

  A study of intermediate goods trade in Japanese steel industry:From flying-geese to fragmentation
Auther:山田 侑輝
  YAMADA, Yuki

Abstract:

 Many countries have been trading intermediate goods in the fields of manufacturing and assembly these days. However, the similar phenomenon is observed in the Japanese steel industry. The purpose of this study is to clarify the reason why intermediate steel products have been exported from Japan since 1990s more than final ones. The study treats hot-rolled steel plates as intermediate goods, and cold-rolled or surface-treated as final ones, analyzing the steel statistics of Japan and the world after 1960s based on the fragmentation theory and new-new trade theory. These frameworks help to explain the international fragmentation and its difference between steel companies; NIPPON STEEL & SUMITOMO METAL CORPORATION (NSSMC) and POSCO. First, the study reveals that thediversification of production occurred in the steel industry after 1960s and therefore more cold-rolled steel plates and surface-treated steel plates with high added value came to be produced in Japan and exported. Second, the author also shows that the production process for final products was fragmented mainly in the East Asia in the form of investment and joint venture, to which intermediate goods began to be delivered from Japan after 1980s. Third, the factors of the fragmentation are analyzed as the increasing demand in emerging countries, the automotive industry to expand overseas, and the decreasing of service-link costs. Finally, the fragmentation similar to Japan can be seen in the Korean steel industry in the form of subsidiaries after the mid-2000s. Therefore, it can be argued that the development of steel trade is divided into two phases; “Flying-geese development phase” when the main exported items shift from low-value added products to high-value added ones, and “Fragmentation development phase” when the production process of final goods is fragmented and low-value added ones start to be exported again as intermediate goods. Thus, setting time for the horizontal axis and the amount of export for the vertical, the transition of final and intermediate goods can be drawn as crossing S-curve and inverted S-curve respectively, which the author proposes as “Crossing curves hypothesis.” The author also concludes that POSCO of higher productivity fragmented its production process, with transactions organized within the firm, while NSSMC of lower productivity is oriented to transactions in a market according to the fragmentation and new-new trade theory. The significance of this study has two points. Scholarly, it is to bring new perspectives to trade theory of intermediate goods by “Crossing curves hypothesis” and the reinterpretation of fragmentation theory based on new-new trade theory. Practically, it is to demonstrate the necessity for improving productivity when companies fragment its production within them.

Keywords:

鉄鋼業、中間財貿易、雁行形態論、フラグメンテーション、新々貿易理論 Steel industry, Intermediate goods, Flying-geese model, Fragmentation, New-new trade theory