第6章  組織の規模を市場の規模に合わせる

                             2001/11/26 報告者 渡邉威志

 

6章の主張

1.破壊的イノベーションに直面した経営者は、だれよりも早く破壊的技術を商品化する必要がある。

2.そのような技術を開発するプロジェクトを、対象とする市場に見合った規模の組織に組み込む必要がある。

 

先駆者はほんとうに背中に矢を射られているのか

 イノベーションをマネジメントするうえで重要な戦略は、先頭に立つか、それとも追随者で行くかを決定することである。

実際ディスクドライブ業界を調べてみると、先頭に立つのが重要な場合と、待つのが賢明な場合があることを理解できる。

 

持続的技術におけるリーダーシップは重要とはかぎらない

 ディスクドライブメーカーによるドライブの記録密度向上のペースに影響を及ぼした重要な技術の一つは、薄膜ヘッドである。この技術はそれまでの技術の能力をくつがえす根本的に性質のことなるもので、開発に一億ドルの資金と515年の歳月を要したが、この技術をリードした企業は、ディスクドライブ業界の実績ある主力メーカーであった。

6.1大手メーカーが薄膜技術を採用した時期。切り替え時点におけるフェライト技術との能

力比較

 図6.2薄膜技術の採用順序と1989年の最高性能モデルの記録密度の関係

実際には、このイノベーションでリードするか、後れをとるかは、競争上の優位にはたいした影響を及ぼさなかった。

業界の歴史に見られるその他の持続的技術についても、同様である。率先して持続的技術を開発し、採用した企業が、出遅れた企業より競争上、明らかに優位に立ったという事実はない。

 

破壊的技術におけるリーダーシップは莫大な価値を生む

6.1 19761994年のうち1年以上に年間売上高一億ドルを達成したディスクドライブメ

ーカー

破壊的世代のディスクドライブが現れてから二年以内に、新しいバリューネットワークに参入した企業は、それ以降に参入した企業に比較して、成功する確率が六倍にのぼる。

企業が新企業か、多角化企業かは、成功の確率にほとんど関係ない。重要なのは組織の形態ではなく、破壊的製品の発売と、その販売対象となる市場の開拓をリードしたかどうかである。

 

企業の規模と破壊的技術のリーダーシップ

(顧客の問題)

実績ある企業の顧客は、組織を束縛し、合理的、機能的な資源配分プロセスによって、破壊的技術の商品化を妨げることがある。

(株価;持続的な成長率の問題)

成長率を維持しようとする実績ある企業を悩ませているもう一つの厳しい障害は、企業が大きくなり、成功するようになると、上記のように新しい市場に早い段階で参入することが重要なときに、参入の根拠を集めることが難しくなることだ。

→優秀な経営者は、さまざまな理由から、組織の成長を維持しようとする。

その理由の一つは、成長率が株価に強力な影響を与えることである。

株価水準が、上昇するか下落するかは利益の予想伸び率の変化に左右される。

年商40億ドル企業が20%の成長目標を達成するには、1年目に8億ドル、二年目に9億6000万ドルの拡大が必要である。破壊的技術は新しい市場の誕生を促すが、8億ドル規模の新市場などない。

→成功している大企業の経営者は、破壊的変化に直面したとき、このような規模と成長の現実にどのように対処したらよいだろうか。

1.新しい市場が、大企業の増収、増益の軌跡に有意義な影響を与えるほどの規模に短期間で拡大するように、市場の成長率を高めようとする。

2.市場が形成され、性格が明らかになるまで待ち、「十分にうまみのある規模」に達したところで参入する。

3.破壊的技術を商品化する業務を、初期の破壊的事業による売上げ、利益、わずかな注文を十分に業績に生かせる小規模な組織に任せる。

 

事例研究 新しい市場の成長率を押し上げる

 アップルコンピューターの例

アップルコンピューターが、ハンドヘルドコンピュータ、つまりパーソナルデジタルアシスタント(携帯情報端末、PDA)の市場に参入したことで、大企業が小規模な市場で直面する問題が明らかになった。

1976年 アップルTを発売、200台を販売

1977年 アップルUを発売、最初の二年間で43000台を販売

1980年 株式公開

→50億ドル企業に成長し、ほかの成功した大企業と同様、株価と組織の活力を保つために、毎年、大幅な増収をはかる必要があった。

1990年代初め、PDA市場が現れ、必要な成長率を達成するための手段となりうるように思われた。アップルはモバイルデータ通信や手書き文字認識技術を最先端のレベルからさらに押し上げるために、莫大な金額を投資した。さらに、消費者に製品を買う気を起こさせるために、積極的に投資した。

1993年 ニュートンを発売、最初の二年間で14万台を販売

→初年度の売上げはアップルの売上高全体の約1

→最終的な製品と市場を想定するプロセスをないがしろにした。

→小規模な市場では大企業の短期的な需要をみたすことはできない。

新しい市場は当然ながら小規模なため、そのなかで競争する組織は、小さい規模で利益をあげ

られる必要がある。利益をあげ、成功しているとみなされた組織やプロジェクトは、親会社や

資本市場からひきつづき資金と人材を引きつけられるため、この点は特に重要である。

 

事例研究 市場がうまみのある規模に拡大するまで待つ

 ディスクドライブ業界の二つの例

85.25

1978年 プライアム8インチドライブを発売(ミニコンメーカーのペース、2年間サイクル)

1980年 シーゲート5.25インチドライブを発売(デスクトップメーカーのペース、1年)

1982年 プライアム5.25インチドライブを発売(2年)

→デスクトップメーカーからは大きなOEM契約を一件も受注することができなかった。

1990年プライアム倒産

 

5.253.5

1984年 シーゲートテクノロジーは業界二番手で3.5インチドライブを開発

1987年 3.5インチ市場が16億ドルに達した段階で、販売。

1991年 ポータブルコンピューターメーカーには一台も売れていなかった。

→ポータブルコンピューター向けの3.5インチドライブ販売を開拓し、リードを守っていたコナ

ー・ペリフェラルズがドライブメーカーによるポータブル市場への対応方法を根本的に変えた

こと。コナーは、ポータブルコンピューター市場向けドライブを主要顧客向けに注文設計する

パターンをつくった。

 

事例研究 小規模な組織に小さなチャンスを与える

 アレンブラッドリーの例

ミルウォーキーのアレンブラッドリー(AB)は、数十年にわたってモーター制御装置業界で不動のリーダーの座にあり、大型電気モーターの作動と停止を切り替え、過負荷や電流のサージから保護する高耐久性の複雑なスイッチを製造している。(電気機械式、五大メーカーのひとつ)

1968年 モディコンとテキサスインストルメンツ(TI)はプログラム可能な電子式モーター 

    制御装置の販売を開始

1969年ABの経営陣は、ミシガン州アナーバにある新しいプログラム可能制御装置メーカー、

   インフォメーションインストルメンツ社の25%持分を取得。翌年、プログラム可能

   電子式制御装置とその新市場に狙いを定めていたバンカー・ラモの新部門を買収。

→従来の電気機械式製品での力も維持しながら、数年以内に新技術で市場リーダーの地位を築

 いた。ほかの四社はその後、制御装置事業から撤退したか、衰退した。

 

まとめ

 成長と競争上の優位を追求する経営者にとって、事業のあらゆる面で先駆者になることはさほど重要ではない。

破壊的イノベーションを商品化するプロジェクトは、企業の主流事業から外れたものではなく、成長と成功への重要な過程としてプロジェクトをとらえることができる小規模な組織に任せる方針をとるべきである。

 

講義後記:OEM(original equipment manufacturing)について

自社の生産能力を活用するために、相手先のブランドで製品を生産し、供給すること。委託する側の企業は、それによって品揃えを豊かにし、マーケティング戦略を充実できる。受託する企業は、開発費を節約し、規模の経済により、原価削減に寄与できる。しかし、OEMの突然の打切りによりダメージを受けることも多い。(有斐閣経済辞典)

なお、海外文献などでは、OEMという用語で委託側企業(IBM,HPなど)自身を示している場合もある。