2018年度租税法2(EX412)




秋学期期末試験2019年1月24日木曜日1限実施解説
 配点は時間配分の目安であり配点を超える加点の可能性がある。計算結果が間違いでも計算過程の加点の可能性がある。震災復興増税、地方税、同族会社の行為計算の否認規定(法人税法132条等)、消費税法の「電気通信利用役務の提供」関連規定は、講義で扱ってないので、無いものとする。租税特別措置法のうち租税特別措置法66条の4〜66条の6以外は無いものとする。日本の法人税率は25%であり付加価値税率は10%であり地方消費税は無いものとする。X国の法人税率は30%であり付加価値税率は20%であるとする。税率以外、日本とX国(通貨単位:円)の租税法令は同内容であるとする。日本とX国はOECDモデル租税条約と同内容(23条については23条B:税額控除方式)の租税条約を締結している。
 X国居住者たる中佐(固有名詞)氏は手紙配達業(民営)を営むX国法人CH社(12月決算)の取締役である。紫(固有名詞)氏は手紙の代筆をする。
 (1)(30点)紫が手紙代筆請負人としてCH社から代筆業務を請け負いCH社から対価を受け取る場合と、紫がCH社に雇用されCH社から代筆業務の対価を受け取る場合とで、X国の付加価値税における扱いがどう変わるか、紫及びCH社両方の付加価値税制上の扱いを説明せよ。なお、紫が受け取る対価の額はX国付加価値税制における課税最低限を超えているものとする。((2)(3)(4)において付加価値税について論じなくてよい)
 (2)(20点)紫がCH社の従業員であり、CH社日本支店で日本の顧客のために代筆業務をこなすことを命じられた。紫がX国居住者であるか日本居住者であるかにつき紛争が生じた。この紛争はどのように解決されるか、説明せよ。紛争の態様も紛争解決方法も複数の可能性がある。
 (3)(30点)或る年、(2)に関し紫(問題となった年度においてはX国居住者であるもののCH社日本支店でのみ勤務していたとする)の代筆業務の卓越さが日本で評判となり、CH社日本支店は10億円の収益を得た。しかし紫はCH社従業員の中では新参であるため、CH社のエース格先輩従業員の給与の額を超えた給与を受け取れないとして、紫はCH社の他の従業員と同様の給与の額である2000万円しか受け取らなかった。CH社日本支店では紫のみが勤務しており、紫への2000万円の給与支払いを含め、CH社日本支店の費用の合計額は3000万円であり、CH社日本支店の事業利得の額は9億7000万円であるとしてCH社は日本及びX国での法人税の納税申告をした。しかし、この申告に文句をつける主体がいた。CH社は、日本及びX国でどのような内容の法人税の納税申告をしたか、説明せよ。更に、この申告についてどの主体がどのような文句をつけてきたか、論じよ。なお、紫の給与の個人所得課税については、日本及びX国でどのように課税されるか講義で扱っていないため、説明する必要はないが、適切に説明したら加点する。
 (4)(20点)紫が高額給与を受け取らないので、中佐はCH社の金を流用し、紫とゆかりのある少佐(固有名詞)氏に便宜を図った。この資金流用の法人税制上の扱いについて複数の可能性を説明せよ。個人所得税制上の扱いは講義対象外なので説明する必要はないが、適切に説明したら加点する。

【解説】
 (1)紫がCH社から仕事を請け負う独立の事業者である場合。紫は自身が受け取った額の20/120の付加価値税額の納税義務を負う。例えば紫がCH社から1800(万円)の支払を受けていた場合、1800×20/120=300(万円)の付加価値税納税義務が発生する。紫がインク代等の費用を支出している場合は、その額の20/120について仕入税額控除を主張できる。例えば紫の費用としての支出額が360(万円)であった場合、360×20/120=60(万円)について仕入税額控除を主張することができるので、紫が納付すべき付加価値税額は300−60=240(万円)となる。CH社は紫に支払った1800(万円)について1800×20/120=300(万円)の仕入税額控除を主張できる。
 従業員として雇用されている場合。紫は付加価値税の納税義務が無く仕入税額控除権も無い。CH社は紫に支払った給与額について仕入税額控除を主張できない。
 (2)日本が紫に対し紫が日本居住者であるという前提で課税処分をしてきたが紫は自身がX国居住者であると考えている場合、日本の裁判所で紫は居住地認定について争うことができる。X国が紫に対し紫がX国居住者であるという前提で課税処分をしてきたが紫は自身が日本居住者であると考えている場合、X国の裁判所で紫は居住地認定について争うことができる。日本とX国がともに自国租税法令に基づくと紫が自国居住者であると考える場合、租税条約に従って紫が日本居住者として扱われるかX国として扱われるかが定まることになっているが、租税条約の解釈適用に関して両国間で食い違いが生じている場合、両国の権限ある当局の間での相互協議(租税条約25条1項)で決着をつけることとなる。2年以内に相互協議が妥結しない場合、仲裁(租税条約25条5項)で決着をつける。
 (3)CH社日本支店は、10億円の益金、3000万円の損金、課税所得9億7000万円で日本に申告している。日本で9億7000万円×25%=2億4250万円を納税し、X国で、9億7000万円×(30%−25%)=4850万円を納税する、という内容の申告をする。しかし、CH社日本支店が紫に払った給与額が過少であり、CH社日本支店の課税所得が過大に計上されている可能性が疑われる。このことについて文句を言う主体はX国課税庁であろう。なぜなら、CH社日本支店の所得が過大であるとすれば、CH社日本支店が日本に納税した額についてX国で外国税額控除として主張してくる額も過大である、従ってX国の税収が過少となる、という可能性があるからである。しかし、CH社日本支店が紫に払った給与の額については関連者間取引ではないため移転価格税制の対象とならないであろう。X国としては、租税条約7条1項・2項に関し、CH社日本支店の紫への給与支給額が過少であるためCH社日本支店の課税所得が過大に計上されている、という主張をすることとなろうか。
 (4)第一に思い浮かべてほしいのは法人税法37条の寄附金の損金算入制限である。第二に、取締役たる中佐がやらかしていることなので、CH社から中佐に役員給与が支払われ、中佐から少佐に便宜が図られたという法律構成が考えられ、この場合、法人税法34条により役員給与の損金算入が制限される。第三に、CH社から紫にゆかりのある少佐への資金の移動が紫への過大給与支払いに当たるとして、法人税法36条により過大使用人給与損金不算入となる可能性が考えられる。

【講評】
 (1)付加価値税という際の「付加価値」とは給与を控除しないで計算するものだよ、ということが分かっているかが鍵です。
 (2)武富士事件の「生活の本拠」についての言及はありましたが、相互協議という言葉は思いつかなかったようです。
 (3)これは正直難しかったと思います。が、できた人もいました。
 (4)寄附金とか損金算入限度額とかへの言及が思っていたよりもなされていて安心しました。
受験者数が少なかったので平均点等のデータは出しません。とりあえず不可は零です。安心して下さい。

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